以下、図面を参照して、本発明に係る擁壁の安全性評価方法、擁壁の安全性評価プログラム及び擁壁の安全性評価システムの実施の形態を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施の形態では、本発明を、擁壁の安全性評価のアプリケーションプログラムを搭載したパーソナルコンピュータ等のコンピュータに構成される擁壁の安全性評価システム(擁壁の安全性評価装置)に適用する。本実施の形態に係る擁壁の安全性評価システムは、既存の擁壁を有する敷地に建物を建てる場合に擁壁と建物との配置に応じて擁壁の転倒、滑動及び沈下についての安全性を評価する。
本実施の形態に係る擁壁の安全性評価システムについて具体的に説明する前に、図1を参照して、擁壁の転倒、滑動及び沈下の安全性の評価方法について説明しておく。図1は、擁壁の安全性評価の説明図であり、(a)が擁壁と基礎との配置の一例であり、(b)が偏心量と接地圧分布の一例であり、(c)が偏心量と接地圧分布の他の例であり、(d)が安息角と荷重分散線の一例である。図1では、符号GL1で敷地の地表面を示しており、符号GL2で敷地より低い隣地の地表面を示しており、符号RWで擁壁を示しており、符号BFで基礎梁及びフーチングからなる建物の基礎を示している。また、符号Pで擁壁RWにかかる水平力(水平荷重)を示しており、符号Vで擁壁RWにかかる鉛直力(鉛直荷重)を示している。水平力Pは、擁壁RWの背面土の土圧による力、建物等の荷重による力があり、土圧係数(Ka)によって左右される。鉛直力Vは、擁壁RWの自重による力、背面土の自重による力、建物等の荷重による力がある。建物荷重は、基礎BFのフーチング底面から下方に作用し、荷重分散角θに応じて分散する。土圧係数Kaは、擁壁RWの背面土の土質によって変わってくる。
転倒について説明する。水平力Pにより、擁壁RWの基点CPを中心にして回転しようとする。この回転しようとする力に対しては、鉛直力Vが抵抗する。したがって、擁壁RWの転倒は、この水平力Pによる転倒モーメントと鉛直力Vによる安定モーメント(抵抗モーメント)との関係によって決まる。式(1)では、擁壁RWにかかる全ての水平力Pによる転倒モーメントΣMoの計算式を示しており、Pが土圧等の各水平力(各水平荷重)であり、lpが各水平力の作用点と擁壁RWの基点CPとの各距離である。式(2)では、擁壁RWにかかる全ての鉛直力Vによる安定モーメントΣMrの計算式を示しており、Vが擁壁の自重等の各鉛直力(各鉛直荷重)であり、lvが各鉛直力の作用点と擁壁RWの基点CPとの各距離である。擁壁の転倒の安全性の評価では、鉛直力Vによる抵抗モーメントが水平力Pによる転倒モーメントを上回ることで確保される。すなわち、宅地造成等規制法により転倒モーメントΣMoと安定モーメントΣMrとの関係が式(3)の関係を満たす場合、安全性が確保されていると判定される。
滑動について説明する。水平力Pにより、擁壁RWが滑り出すそうとする。この滑り出そうとする力に対しては、擁壁RWの接地面との摩擦力が抵抗する。この摩擦力の抵抗は、擁壁RWの底面と土との摩擦係数μが影響する。摩擦係数μは、土質による。擁壁の滑動の安全性の評価では、擁壁RWの底盤部の接地面での摩擦力が水平力Pを上回ることで確保される。すなわち、宅地造成等規制法により擁壁RWにかかる全ての水平力(水平荷重)の合力ΣPと擁壁RWにかかる全ての鉛直力(鉛直荷重)の合力ΣV及び摩擦係数μとの関係が式(4)の関係を満たす場合、安全性が確保されていると判定される。
沈下について説明する。鉛直力Vだけの場合、擁壁RWの接地圧が均一となる。しかし、水平力Pもかかるので、接地圧の分布は、図1(b)に示すように、擁壁RWのたて壁RWa側が大きくなる台形状の分布PD1となる。これは、水平力Pによって、鉛直力Vの作用点が擁壁RWの底盤RWbの中心位置CLよりもたて壁RWa側に偏心するためである。図1(b)、(c)では、偏心量を符号eで示している。図1(b)に示す接地圧分布において、最も大きい接地圧がσmaxであり、最も小さい接地圧がσminである。接地圧が擁壁RWの地耐力以上になると、擁壁RWが沈下してしまう。そこで、擁壁の沈下の安全性の評価(接地圧評価)では、擁壁の沈下に対する安全性は、擁壁の底盤部下の地耐力が擁壁の接地圧を上回ることで確保される。すなわち、宅地造成等規制法により最大接地圧σmaxと地耐力との関係が式(5)の関係を満たす場合、安全性が確保されていると判定される。式(5)において、Bは擁壁RWの底盤RWbの長さである。地耐力は、スウェーデン式サウンディング試験法等の地盤調査により予め確認しておく。
水平力Pが大きくなり、偏心量eが大きくなると、最小接地圧σminが小さくなり、0になると接地圧分布が三角形状となる。更に最小接地圧σminが小さくなり、最小接地圧σminがマイナス値になると接地圧分布が図1(c)に示すような分布PD2になる。接地圧分布がこのような形状になると、擁壁RWの底盤RWbの先端側に上向きの力が作用することになるので、転倒の要因となる。そこで、接地圧分布が三角形状にならないようする必要がある。そこで、最小接地圧σminが式(6)の関係を満たすようにする。さらに、鉛直力Vの作用点が擁壁RWの底盤RWbの中心位置CLから1/3(ミドルサード)に入るようにする。ミドルサードに入っていると、接地圧分布が台形状となり、接地圧検討上良好な状態となる。そのために、偏心量eが式(7)の関係を満たすようにする。式(7)のdについては、式(8)によって計算される。
また、図1を参照して、安息角について説明しておく。安息角は、図1(d)において符号αで示す角度であり、土を盛り上げた場合に土が崩れない安定した傾斜角(水平面に対する角度)である。安息角としては、例えば、普通土(砂質等)の場合には30°であり、改良土(粘土質等)の場合には45°である。図1(d)には、この安息角αによる安息角ラインALも示している。この安息角ラインALより上側に位置する場合には、安息角を確保しておらず、建物荷重が擁壁RWのたて壁RWaにもかかる。この場合、擁壁の転倒や接地圧で不利になる。安息角ラインALより下側に位置する場合には、安息角を確保しており、建物荷重が擁壁RWの底盤RWbにのみかかる。この場合、接地圧が不利になるが、擁壁RWのたて壁RWaには影響しない。
次に、図2〜図7を参照して、本実施の形態に係る擁壁の安全性評価システム1について説明する。図2は、本実施の形態に係る擁壁の安全性評価プログラムを搭載した擁壁の安全性評価システム(擁壁の安全性評価装置)の構成図である。図3は、本実施の形態に係る擁壁の安全性評価プログラムの動作の流れを示すフローチャートである。図4は、本実施の形態に係る判定用荷重分散線が擁壁のたて壁を通過する場合(判定用荷重分散角θ=30°、計算処理用荷重分散角θ’=30°の場合)の擁壁と建物(基礎)との配置の例である。図5は、本実施の形態に係る判定用荷重分散線が擁壁のたて壁を通過する場合(判定用荷重分散角θ=30°、計算処理用荷重分散角θ’=0°の場合)の擁壁と建物との配置の例である。図6は、本実施の形態に係る判定用荷重分散線が擁壁の底盤を通過する場合(判定用荷重分散角θ=45°、計算処理用荷重分散角θ’=45°の場合)の擁壁と建物との配置の例である。図7は、本実施の形態に係る判定用荷重分散線が擁壁の底盤を通過する場合(判定用荷重分散角θ=30°、計算処理用荷重分散角θ’=60°の場合)の擁壁と建物との配置の例である。
安全性評価システム(安全性評価装置)1は、既存の擁壁を有する敷地に建物を建てる場合に擁壁と建物との配置に応じて擁壁の転倒、滑動及び沈下についての安全性を評価する。特に、安全性評価システム1は、建物荷重と敷地の建物荷重以外の地表面積載荷重とを区別し、その建物荷重については建物荷重の荷重分散線が擁壁の通過する部位(壁部又は底盤部)に応じて建物荷重が影響する範囲を変えて擁壁にかかる荷重を計算する。
安全性評価システム1は、コンピュータに構成され、入力部2、記憶部3、判定部4、評価部5及び表示部6を備えている。本実施の形態では、入力部2が特許請求の範囲に記載する取得手段に相当し、判定部4及び評価部5が特許請求の範囲に記載する計算手段及び評価手段に相当し、表示部6が特許請求の範囲に記載する表示手段に相当する。
入力部2は、評価を行う人が建物や擁壁に関する各種データを入力するために、入力手段としてコンピュータのキーボードやマウス等及び入力画面を表示するためのコンピュータのディスプレイによって構成される。入力されるデータとしては、設計条件、既存の擁壁の断面寸法、擁壁の鉄筋量及びコンクリート強度がある。
設計条件としては、建物本体の基礎仕様、建物の基礎のフーチングの幅F、地表面から基礎のフーチング底面までのいわゆる根入れ深さH8、建物本体の基礎形状(基礎断面形状)、既存擁壁の地耐力(擁壁の底盤の下部の地盤の地耐力)、背面土の土質、背面土単位体積重量γs、土圧係数Ka、擁壁の鉄筋コンクリートの単位体積重量γc、摩擦係数μ、敷地の建物荷重以外の地表面載荷重q’、建物荷重ωがある。なお、建物荷重ωの分散値ω’も、設計条件の1つである。
建物本体の基礎仕様は、例えば、50kN/m2基礎、40kN/m2基礎、30kN/m2基礎等のように基礎の最大接地圧の呼称を値としてプルダウンメニューから選択する形式とする。この選択された基礎仕様の値によって、建物の基礎の最大接地圧の値、建物の基礎のフーチングの幅Fや根入れ深さH8を取得することができる。
また、建物本体の基礎形状は、例えば、逆T型、L型等の呼称を値としてプルダウンメニューから選択する形式とする。この選択された基礎形状の値によって、建物の基準線からの基礎フーチングの形状に関する出寸法(例えば、逆T型の場合には基準線(通り芯)から水平方向にF/2(=450/225mm、L型の場合には、基礎梁がフーチングに対して偏芯しているので基準線から120mm)を取得することができる。
建物の基礎のフーチングの幅Fや根入深さH8、建物の基準線からの基礎フーチングの形状に関する出寸法については、プルダウンメニューから選択された建物の基礎仕様、建物の基礎形状の値に対応させた記憶部3に記憶させた基礎データテーブルが予め記憶されており、基礎データテーブルから抽出(選択)する構成であるが、当該値を入力部2からマウスキーボードを使って逐一入力する構成でもよい。
この建物の基礎仕様に基づく建物の基礎のフーチングの幅F及び根入れ深さH8、建物の基礎形状に基づく建物の基準線からの基礎フーチングの形状に関する出寸法から、建物の荷重分散線の起点となる基礎のフーチングの擁壁側端部の最下端部の位置(平面座標値)や建物荷重の最大接地圧の値を求めることができる。
背面土の土質は、例えば、普通土、改良土等の呼称を値としてプルダウンメニューから選択する形式とする。この背面土の土質の値から、記憶部3に記憶させた背面土データテーブルを利用して背面土の安息角の値を取得できる。背面土単位体積重量γs、土圧係数Ka、単位体積重量γc、摩擦係数μは、背面土の値に対応する基礎的データ値のデータテーブルが予め記憶され、コンピュータ内の処理でこのデータテーブルを参照して各値に変換して取得することができる。ただし、当該値を入力部2からマウスキーボードを使って逐一入力する構成でもよい。
また、安全性評価システム1の入力部2には、荷重分散角設定部21を有する。荷重分散角設定部21は、判定用荷重分散角、計算用荷重分散角を設定するものであり、背面土の土質の値を記憶部3に記憶させた背面土データテーブルまたは別途記憶させた荷重分散角データテーブル照合して、判定用荷重分散角の値、計算用荷重分散角の値を設定するように構成されている。ただし、当該値を入力部2からマウスキーボードを使って逐一入力する構成でもよい。
既存擁壁の断面寸法としては、図4に示すように、擁壁RWの地表面GL2からの高低差H1、擁壁RWのたて壁RWaの高さH及び厚さB1、擁壁RWの底盤RWbの長さB及び厚さH5、擁壁RWと建物の基礎BFとの水平方向の距離B6等がある。また、鉄筋量及びコンクリート強度としては、たて壁の鉄筋の太さ及び鉄筋のピッチ、底盤(かかと、部、つま先部)の鉄筋の太さ(鉄筋径)及び鉄筋のピッチ、コンクリートの設計基準強度がある。ここで、かかと部は、背面土側(GL1)の底盤の端部であり、つま先部は、隣地側(GL2)の底盤の端部をいう。
記憶部3は、評価に必要な建物や擁壁に関する各種データや入力部2から入力されたデータを記憶するために、コンピュータのメモリの一部の領域に構成される。記憶部3に予め記憶されるデータとしては、例えば、標準化された建物基礎の規格に関連付けられた基礎の各部の寸法のデータテーブル(基準地表面に対する基礎の深さ等、設計モジュールに基づく基準線(通り芯)からの出寸法等)、背面土の土質に関連付けられたテーブルデータ、背面土の土質(粘性土、砂質土等)、背面土単位体積重量γs、背面土の安息角α、土圧係数Ka、摩擦係数μの項目でのテーブルデータ、鉄筋コンクリートのテーブルデータ(単位体積重量γc等)がある。
判定部4は、擁壁の安全性評価のアプリケーションプログラムの指令によりコンピュータのCPUが演算処理を実行することによって構成される。判定部4では、基礎の擁壁側端部の最下端部から擁壁側に荷重分散角に沿って降ろした荷重分散線が擁壁のたて壁を通過するかあるいは擁壁の底盤部を通過するかを判定する。そのために、判定部4では、敷地より低い隣地の地表面の水平線と擁壁のたて壁の内側(建物側)の鉛直線との交点と基礎の擁壁側端部の最下端部とを結ぶ判定用線分を設定し、その判定用線分の基準線に対する角度と判定用荷重分散角との大小関係を比較する。
評価部5は、擁壁の安全性評価のアプリケーションプログラムの指令によりコンピュータのCPUが演算処理を実行することによって構成される。評価部5では、判定部4での判定結果(荷重分散線が擁壁のたて壁通過or底盤通過or不通過)に応じて、建物荷重の最大接地圧を用いて所定の計算式にて算出した単位荷重ωをさらに分散した分散圧ω’が載荷される範囲l’を計算し、その分散値ω’及びその分散範囲l’を用いて擁壁にかかる鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを計算する。さらに、評価部5では、その鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを所定の計算式に代入して、擁壁の転倒、滑動、沈下(接地圧)等を評価する。
表示部6は、判定部4での判定結果や評価部5での評価結果を表示するために、コンピュータのディスプレイによって構成される。
次に、図3のフローチャートに沿って、安全性評価装システム1での安全性評価のアプリケーションプログラムによる動作の流れについて説明する。評価を行う人は、ディスプレイに表示される設計条件の入力画面を見ながら(図9(a)参照)、キーボードやマウス等を用いて各設計条件を入力する(S1)。入力部2では、設計条件として入力された各設計条件を受け付け、受け付けた各設計条件を記憶部3に記憶させる(S1)。
また、評価を行う人は、ディスプレイに表示される既存の擁壁の断面寸法の入力画面を見ながら(図9(b)参照)、キーボードやマウス等を用いて各寸法を入力する(S2)。入力部2では、既存の擁壁の断面寸法として入力された各寸法を受け付け、受け付けた各寸法を記憶部3に記憶させる(S2)。また、入力部2において、安全性評価システム1の判定部4及び評価部5で用いる値、例えば、背面土の値等が入力され、この背面土の値に基づいて、荷重分散角設定部21が、建物荷重が分散する角度である荷重分散角の値を設定する(S2)。
また、評価を行う人は、ディスプレイに表示される擁壁の鉄筋量やコンクリート強度の入力画面を見ながら(図9(c)参照)、キーボードやマウス等を用いて各値を入力する(S3)。入力部2では、擁壁の鉄筋量やコンクリート強度として入力された各値を受け付け、受け付けた各値を記憶部3に記憶させる(S3)。
ここで、図4の例を参照して、安全性評価システム1の判定部4及び評価部5で用いる値(パラメータ)や用語について説明しておく。擁壁RWのたて壁RWaの高さがHであり、厚さがB1である。擁壁RWの底盤RWbの長さがBであり、厚さがH5である。底盤RWbにおけるたて壁RWaの厚さB1分を引いた長さがB4(=B−B1)である。また、たて壁RWaにおける底盤RWbの厚さH5分を引いた高さがH6(=H−H5)である。擁壁RWの地表面GL2からの高低差がH1であり、擁壁RWの地表面GL2からの深さがH2(=H−H1)である。建物の基礎BFのフーチング底面の幅がFであり、基礎梁の幅がbである。フーチングの地表面GL1からの深さH8である。擁壁RWのたて壁RWaの外側の鉛直線とフーチングBFの中心線との水平方向の距離がB6である。
建物の積載荷重である建物荷重(単位荷重の値)がωであり、基礎BFの底面BFaの水平面に荷重される。この建物荷重が分散する角度である荷重分散角(水平面に対する角度)として、判定に用いる判定用荷重分散角がθであり、計算に用いる計算用荷重分散角がθ’である。判定用荷重分散角θ及び計算用荷重分散角θ’は、設計値であり、設計者が決める。判定用荷重分散角θは、背面土の安息角αに設定される場合がある。基礎BFの擁壁RW側の端部の最下端点BFbから擁壁RW側に判定用荷重分散角θに沿って降ろした判定用荷重分散線がDLjである。また、基礎BFの両端部の最下端点BFb,BFcから計算用荷重分散角θ’に沿ってそれぞれ降ろした計算用荷重分散線がDLc,DLcである。また、敷地より低い隣地の地表面GL2の水平線と擁壁RWのたて壁RWaの内側(基礎BF側)の鉛直線との交点RWcと基礎BFの擁壁RW側の端部の最下端点BFbとを結ぶ判定用線分がJLである。この判定用線分JLの水平面に対する判定角がβである。敷地の建物荷重以外の積載荷重である地表面載荷重がq’であり、敷地の地表面GL1の水平面に等分布荷重が載荷される。地表面載荷重q’は、主に、人の歩行荷重が想定され、車庫が設けられる場合には車両荷重を加算するものであり、敷地に倉庫やガレージ等を設ける場合にはその荷重も加算される。なお、判定用荷重分散角θ、計算用荷重分散角θ’、判定角βは、水平面に対する角度としたが、鉛直面に対する角度でもよい。判定用荷重分散角θ、計算用荷重分散角θ’、判定角βは、0°〜90°の角度範囲の角度である。
安全性評価システム1の判定部4では、擁壁RWに関する上記した各寸法、基礎BFに関する上記した各寸法、擁壁RWと基礎BFとの水平方向距離B6を用いて、地表面GL2の水平線とたて壁RWaの内側の鉛直線との交点RWcと基礎BFの擁壁RW側の端部の最下端点BFbとを結ぶ判定用線分JLを求め、判定用線分JLの水平面に対する判定角βを計算する(S4)。そして、判定部4では、この判定角βと判定用荷重分散角θとを比較することにより、基礎BFの擁壁RW側の端部の最下端点BFbから擁壁側に判定用荷重分散角θに沿って降ろした判定用荷重分散線DLjが擁壁RWのたて壁RWaまたは底盤RWbを通過するか否かを判定する(S4)。
判定用荷重分散角θが判定角β以下の場合には判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過し、判定用荷重分散角θが判定角βより大きい場合には判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する。
判定用荷重分散線DLjがたて壁RWa及び底盤RWbの両方を通過しない場合には不通過である。ここで、建物と擁壁が、一定以上水平距離が離れている場合があるので、判定用荷重分散線DLjが、たて壁RWa、底盤RWbを通過しないことを判定するには、例えば、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaの外側面のラインを通る線と交わる点(通過点)の座標が、たて壁RWaの上端の座標から下端の座標の範囲内である場合は「通過する」と判定し、その範囲外である場合は「不通過」と判定する。同様に、底盤RWbの底面のラインを通る線と交わる点(通過点)の座標が、底盤RWbの底面の左端から右端まで座標の範囲内である場合は「通過する」と判定し、その範囲外である場合は「不通過」と判定する。
この判定角βと判定用荷重分散角θとの比較結果については、安全性評価システム1の表示部6のディスプレイに表示される。
安全性評価システム1の評価部5では、S4での判定結果(判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過または不通過、or底盤RWbを通過または不通過)に応じて、計算用荷重分散角θ’に基づいて建物荷重ωの分散値ω’とその分散値ω’が擁壁RWに載荷される範囲l’及び載荷Ω’を計算する(S5)。
(1)たて壁に建物荷重が載荷する場合
判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合、建物荷重が基礎BFから下方の範囲の擁壁RWのたて壁RWa及び底盤RWbに作用して水平荷重及び鉛直荷重されるものとして計算する。
(2)底盤に建物荷重が載荷する場合
判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合、建物荷重が擁壁RWの底盤RWbにのみ作用して鉛直荷重されるものとして計算する。
ここでは、(1)たて壁に建物荷重が載荷する場合として、(i)判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=30°と設定され、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合と(ii)判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=0°と設定され、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合を例に挙げて説明する。また、(2)底盤に建物荷重が載荷する場合として、(i)判定用荷重分散角θ=45°、計算用荷重分散角θ’=45°と設定され、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合と(ii)判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=60°と設定され、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合を例に挙げて説明する。
なお、不通過の場合、建物荷重ωは擁壁RWに載荷されないので、分散値ω’は0であり、範囲l’、載荷Ω’(建物荷重ωの分散値ω’により擁壁RWに載荷される荷重値。以下同じ。)も0である。
(1)たて壁に建物荷重が載荷する場合(i)
図4を参照して、判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=30°と設定され、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合について説明する。この場合、判定用荷重分散角θが判定角βより小さく、基礎BFの底面BFa(幅F)から荷重される建物荷重は計算用荷重分散角θ’=30°に沿った計算用荷重分散線DLc,DLcの内側(基礎BF側)の範囲内に分散し、計算用荷重分散線DLcがたて壁RWaの内側の鉛直線の交点RWdを通る水平面HPに建物荷重が作用する。この水平面HPに作用する建物荷重によって、擁壁RWのたて壁RWaに水平面HPより下部の土が流れ出すと想定した場合の水平荷重(土圧)が載荷され、底盤RWbに鉛直荷重が載荷される。したがって、建物荷重ωの分散値ω’は、底盤RWbにおける長さB4と基礎BFの幅F及び建物荷重ωを用いて、式(9)により計算される。水平面HPにおける計算用荷重分散線DLc,DLcで形成される荷重分散幅lは、擁壁RWと基礎BFとの水平方向距離B6及びたて壁RWaの厚さB1を用いて、式(10)により計算される。建物荷重ωの分散値ω’が載荷される範囲l’は、底盤RWbにおける長さB4と荷重分散幅lとの重複部分となり、図4の場合は、B4の全長が重複部分である。そして、載荷Ω’は、建物荷重ωの分散値ω’と分散の範囲l’を用いて、式(11)により計算される。また、基礎BFの底面BFaと水平面HPとの距離h1と計算用荷重分散角θ’との関係は、式(12)となる。したがって、距離h1は、式(13)により計算される。さらに、水平面HPと底盤RWbとの距離h2は、距離h1を用いて、式(14)により計算される。この距離h2は、モーメントを計算するときのアームに用いる。
(1)たて壁に建物荷重が載荷する場合(ii)
図5を参照して、判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=0°と設定され、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合について説明する。この場合、判定用荷重分散角θが判定角βより小さく、基礎BFの底面BFa(幅F)から荷重される建物荷重は、基礎BFの底面BFaの水平面HPに作用すると設定できる。この水平面HPに作用する建物荷重によって、擁壁のたて壁RWaに水平荷重(土圧)が載荷され、底盤RWbに鉛直荷重が載荷される。建物荷重ωの分散値ω’は、建物荷重ω自体となる。また、建物荷重ωの分散値ω’が載荷される範囲l’は、底盤RWbにおける長さB4となる。そして、載荷Ω’は、建物荷重ωの分散値ω’と分散の範囲l’を用いて、式(15)により計算される。
なお、計算用荷重分散角θ’については、例えば、入力部2の荷重分散角設定部21か入力することにより判定用荷重分散角θから0°までの任意の角度に設定される。したがって、建物荷重が作用する水平面HPは、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaの内側の鉛直線の交点RWdを通る水平面と基礎BFの底面BFaの水平面との間の任意の高さ位置の水平面に設定される。計算用荷重分散角θ’=0°に設定し、建物荷重を基礎BFの底面BFaに載荷されるようにして評価を行うことにより、最も安全側な条件での評価を行うことができる。一方、計算用荷重分散角θ’を大きくすると、評価としては厳しくなるが、より実際に即した評価を行うことができる。
(2)底盤の一部に建物荷重が載荷する場合(i)
図6を参照して、判定用荷重分散角θ=45°、計算用荷重分散角θ’=45°と設定され、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合について説明する。この場合、判定用荷重分散角θが判定角βより大きく、基礎BFの底面BFa(幅F)から荷重される建物荷重は計算用荷重分散角θ’=45°に沿った計算用荷重分散線DLc,DLcの内側(基礎BF側)の範囲内に分散し、底盤RWbにおける計算用荷重分散線DLc,DLcとの交点RWe,RWfの範囲内に建物荷重が作用する。この底盤RWb(水平面)に作用する建物荷重によって、擁壁の底盤RWbにのみ鉛直荷重が載荷される。この底盤RWbにおける交点RWe,RWfの範囲が荷重分散幅lであり、H6,H8、基礎BFの幅F、計算用荷重分散角θ’を用いて、式(16)により計算される。そして、建物荷重の分散値ω’が載荷される範囲l’は、荷重分散幅lとなる。また、建物荷重の分散値ω’は、その分散範囲l’と基礎BFの幅F及び建物荷重ωを用いて、式(17)により計算される。そして、載荷Ω’は、建物荷重の分散値ω’と分散範囲l’を用いて、式(11)により計算される。
(2)底盤の一部に建物荷重が載荷する場合(ii)
図7を参照して、判定用荷重分散角θ=30°、計算用荷重分散角θ’=60°と設定され、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合をついて説明する。この場合、判定用荷重分散角θが判定角βより大きく、基礎BFの底面BFa(幅F)から荷重される建物荷重は計算用荷重分散角θ’=60°に沿った計算用荷重分散線DLc,DLcの内側(基礎BF側)の範囲内に分散し、底盤RWbにおける計算用荷重分散線DLc,DLcとの交点RWeから底盤RWbの先端までの範囲内に建物荷重が作用する。この底盤RWb(水平面)に作用する建物荷重によって、擁壁の底盤RWbにのみ鉛直荷重が載荷される。計算用荷重分散線DLc,DLcで形成される荷重分散幅lは、上記と同様に、H6,H8、基礎BFの幅F、計算用荷重分散角θ’を用いて、式(16)により計算される。そして、建物荷重の分散値ω’が載荷される範囲l’は、底盤RWbにおける長さB4と荷重分散幅lとの重複部分(交点RWeから底盤RWbの先端まで)となる。また、建物荷重の分散値ω’は、上記と同様に、その分散範囲l’と基礎BFの幅F及び建物荷重ωを用いて、式(17)により計算される。そして、載荷Ω’は、上記と同様に、建物荷重の分散値ω’と分散の範囲l’を用いて、式(11)により計算される。なお、計算用荷重分散角θ’を大きくすることにより、基礎BF(ひいては、建物)を擁壁RW側により接近させた評価を行うことができる。
また、評価部5では、人の歩行荷重等の建物荷重以外の地表面載荷重q’が敷地の地表面GL1(水平面)に載荷される範囲m及び載荷Q’(建物荷重以外の地表面載荷重q’により擁壁RWに載荷される荷重値。以下同じ。)を計算する。ここでは、建物荷重以外の地表面載荷重q’が地表面GL1(水平面)に作用して水平荷重及び鉛直荷重されるものとして計算する。地表面載荷重q’が載荷される範囲mは、擁壁RWと基礎BFとの水平方向距離B6、基礎BFの基礎幅bおよび底盤RWbにおける長さB4を用いて、式(18)により計算される。そして、載荷Q’は、その範囲mと建物荷重以外の地表面載荷重q’を用いて、式(19)により計算される。
さらに、評価部5では、鉛直荷重ΣVと安定モーメントΣMrを計算する(S6)。鉛直荷重ΣVは、擁壁RWの自重による荷重、背面土による荷重、建物荷重ω’による荷重、建物以外の地表面載荷重q’による荷重を積算して計算される。擁壁RWの自重による荷重は、計算が容易になるように擁壁RWを分割し、その分割した各部分の体積をそれぞれ計算し、その各体積に鉄筋コンクリートの単位体積重量γcをそれぞれ乗算し、その各乗算値(各鉛直荷重)を積算した荷重である。背面土による荷重は、計算が容易になるように背面土を分割し、その分割した各部分の体積をそれぞれ計算し、その各体積に背面土単位体積重量γsをそれぞれ乗算し、その各乗算値(各鉛直荷重)を積算した荷重である。建物荷重ω’による荷重は、上記で計算した載荷Ω’を用いる。建物以外の地表面載荷重q’による荷重は、上記で計算した載荷Q’を用いる。安定モーメントΣMrは、各鉛直荷重とその鉛直荷重の作用点と擁壁RWの基点CPとの距離(アーム)をそれぞれ乗算し、その各乗算値(各モーメント)を積算したモーメントである。
さらに、評価部5では、水平荷重ΣPと転倒モーメントΣMoを計算する(S6)。水平荷重ΣPは、背面土の土圧による荷重、建物荷重ω’による荷重(判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する場合にのみであり、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過する場合にはこの荷重は積載されない)、建物以外の地表面載荷重q’による荷重を積算して計算される。背面土の土圧による水平荷重は、H6,H5及び土圧係数Ka、背面土単位体積重量γsを用いて、式(20)により計算される。建物荷重ω’による水平荷重は、建物荷重が荷重される水平面と底盤RWbの底面との間の距離H’、建物荷重の分散値ω’、土圧係数Kaを用いて、式(21)により計算される。建物以外の地表面載荷重q’による水平荷重は、H6,H5及び土圧係数Kaを用いて、式(22)により計算される。転倒モーメントΣMoは、各水平荷重とその水平荷重の作用点と擁壁RWの基点CPとの距離(アーム)をそれぞれ乗算し、その各乗算値(各モーメント)を積算したモーメントである。なお、転倒モーメントの計算では、通常の地表面載荷重法ではなく、ダウン水平力低減法を用いている。
そして、評価部5では、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMoを用いて、上記の式(3)により、擁壁RWの転倒の評価を行う(S7)。この転倒の評価結果については、安全性評価システム1の表示部6のディスプレイに表示される。
また、評価部5では、鉛直荷重ΣVと水平荷重ΣP及び摩擦係数μを用いて、上記の式(4)により、擁壁RWの滑動の評価を行う(S8)。この滑動の評価結果については、安全性評価システム1の表示部6のディスプレイに表示される。
また、評価部5では、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMo及び鉛直荷重ΣVを用いて、上記の式(8)により、dの値を計算する。そして、評価部5では、そのdの値と擁壁RWの底盤RWbの長さBを用いて、上記の(7)により、偏心量eを計算して偏心の評価を行う。この偏心の評価結果については、安全性評価システム1の表示部6のディスプレイに表示される。
また、評価部5では、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量e及び擁壁RWの地耐力を用いて、上記の式(5)により、最大接地圧σmaxを計算して擁壁RWの沈下(接地圧)の評価を行う(S9)。この沈下(接地圧)の判定結果については、安全性評価システム1の表示部6のディスプレイに表示される。また、評価部5では、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量eを用いて、上記の式(6)により、最小接地圧σminを計算し、最小接地圧σminの評価を行う。
なお、評価部5では従来と同様に擁壁RWの鉄筋についての評価も行うが、ここでは、説明を省略する。
上記のような評価の結果、評価結果のいずれかがNGの場合、擁壁RWに対する建物(基礎BF)の配置を変えて(例えば、擁壁RWから建物(基礎BF)を離す配置とする(具体的には、B6の値を変更する入力を行う。)、基礎BFをダウン基礎(地表面GL1からより根入れの深い基礎に変更する。具体的には、H8の値を変更する入力を行う。)、再度評価を行う。また、評価結果が全てOKの場合でも、擁壁RWに対する建物(基礎BF)の配置を変えて(例えば、擁壁RWに建物をより近づける配置とする)、再度評価を行う場合もある。
上記の安全性評価システム1を用いて擁壁の評価を行った実施例を以下に示す。ここでは、擁壁のたて壁に判定用荷重分散線が通過する場合の実施例1と擁壁の底盤に判定用荷重分散線が通過する場合の実施例2を示す。
まず、図8〜図11を参照して、判定用荷重分散線が擁壁のたて壁に通過する場合の実施例1について説明する。図8は、実施例1の判定用荷重分散線が擁壁のたて壁を通過する場合の擁壁と建物(基礎)との配置図である。図9は、実施例1の入力画面であり、(a)が設計条件の入力画面であり、(b)が既存擁壁の各部の断面寸法の入力画面であり、(c)が擁壁の鉄筋量及びコンクリート強度の入力画面である。図10は、実施例1の計算結果であり、(a)が鉛直荷重と安定モーメントであり、(b)が水平荷重と転倒モーメントである。図11は、実施例1の安全性の評価結果画面である。
実施例1での入力画面について説明する。まず、図9(a)に示すように、設計条件の入力画面において、邸名、入力日、入力者が入力部2からマウスキーボードを使って入力される。建物本体の基礎仕様として、50kN/m2基礎、40kN/m2基礎、30kN/m2基礎の中から選択でき、50kN/m2基礎が選択される。建物本体のフーチング幅として、0.450(m)がマウス等を使ってコンピュータに入力される。建物本体の基礎形状として、逆T型、L型の中から選択でき、逆T字が選択される。既存擁壁の地耐力として、100(kN/m2)が入力部2からマウスキーボードを使って入力される。背面土の土質として、普通土と改良土のプルダウンメニューの候補の中から選択でき、普通土が選択される。土質が選択されることにより、コンピュータがデータテーブルを参照して、この背面土の安息角が決まる。背面土単位体積重量γsとして、16(kN/m3)が入力される。土圧係数Kaとして、0.5が入力される。鉄筋コンクリートの単位体積重量γcとして、24(kN/m3)が入力される。摩擦係数μとして、0.4が入力される。建物荷重ωとして、50.00(kN/m2)が入力される。建物本体の基礎仕様の値が建物荷重ωに相当するので、建物本体の基礎仕様が選択されことによって建物荷重ωが決まる。なお、背面土単位体積重量γs、土圧係数Ka、単位体積重量γc、摩擦係数μ、建物荷重ωは、デフォルト値が予め設定されており、そのまま用いてもよいし、入力部2からマウスキーボードを使って入力で変更も可能である。
次に、図9(b)に示すように、既存の擁壁の断面寸法の入力画面において、水平方向の各寸法(H,H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8)と鉛直方向の各寸法(B,B1,B2,B3,B4,B5,B6)が手入力される。ここでは、水平方向の寸法として、上記で説明したH,H1,H2,H5,H6,H8の他にH3,H4,H7も入力される。図8に示すように、H3は、擁壁RWのつま先部の厚さである。H4は、擁壁RWのかかと部の端部の厚さである(図8の例ではH5と同じ寸法)。H7は、たて壁RWaと底盤RWbとの交点部におけるハンチの高さである。鉛直方向の寸法として、上記で説明したB,B1,B4,B6の他にB2,B3,B5も入力される。図8に示すように、B2は、擁壁RWのつま先部の長さである(図8の例ではつま先部がないので、0)。B3は、たて壁RWaの端部の厚さである。B5は、たて壁RWaと底盤RWbとのハンチの厚さである。水平方向の各寸法(H,H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8)と鉛直方向の各寸法(B,B1,B2,B3,B4,B5,B6)を入力することにより、図8に示すように、擁壁RWとして考えられる全ての形状(破線の太線で示す形状等の対応可能)に対応することができる。この実施例1では、H1として1.60(m)が入力され、H2として0.40(m)が入力され、H3として0.30(m)が入力され、H4として0.30(m)が入力され、H5として0.30(m)が入力され、H6として1.60(m)が入力され、H7として0.25(m)が入力され、H8として0.69(m)が入力される。そして、コンピュータには、H1+H2の計算結果としてH=2.00(m)がディスプレイの画面に表示される。また、Bとして1.95(m)が入力され、B1として0.25(m)が入力され、B2として0.00(m)が入力され、B3として0.25(m)が入力され、B4として1.70(m)が入力され、B5として0.25(m)が入力され、B6として1.00(m)が入力される。そして、コンピュータには、B2+B3+B4の計算結果としてB=1.95(m)がディスプレイの画面に表示される。この場合、B2が0.00(m)なので、擁壁RWにはつま先部がなく、H4とH5が同じ値なのでかかと部(底盤RWb)全体が均一の厚さであり、B1とB3が同じ値なのでたて壁RWa全体が均一の厚さであり、H7が0.25(m)でありかつH5が0.25(m)であるのでたて壁RWaと底盤RWbとの交点部にハンチを有している。したがって、実施例1の擁壁RWの形状は、図8の実線で示す擁壁RWのL字形状となる。また、擁壁RWに対する基礎BFの配置は、図8に示すような配置となり、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過する。
図9(c)に示すように、擁壁の鉄筋量及びコンクリート強度の入力画面において、全ての値が選択入力される。たて壁の鉄筋は、太さとして16(mm)が選択され、ピッチとして250(mm)が選択される(これらの値はキーボードを使用して入力することにしてもよい)。底盤(かかと部)の鉄筋は、太さとして16(mm)が選択され、ピッチとして250(mm)が選択される。底盤(つま先部)の鉄筋は、太さとして16(mm)が選択され、ピッチとして250(mm)が選択される。コンクリート設計の基準強度として、24(N/m2)が選択される。
実施例1では、判定用荷重分散角θとして、普通土の安息角の30°が設定される。また、実施例1では、計算用荷重分散角θ’として、0°が設定される。まず、図8に示す判定用線分JLの水平面に対する判定角βを求めるために、式(23)により、たて壁RWaの基礎側の端部と基礎BFの擁壁側の端部との距離Xを計算する。また、式(24)により、基礎BFのフーチング底面BFaと地表面GL2との距離Yを計算する。そして、距離X、距離Yと判定角βの関係が式(25)となるので、判定角βを式(26)により計算する。判定角βは57.1°であり、判定用荷重分散角θの30°と比較すると、判定用荷重分散角θが判定角βより小さく、たて壁RWaの内側面のラインを通る線と交わる点(通過点)の座標が、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaの上端の座標から下端の座標の範囲内であることを演算処理により判定し、判定用荷重分散線DLjがたて壁RWaを通過すると判定される。仮に通過点が、その範囲外である場合は、「不通過」と判定される。
この場合、建物荷重は擁壁RWのたて壁RWa及び底盤RWbに作用する。建物荷重は、計算用荷重分散角θ’=0°なので、基礎BFのフーチングBFaの水平面HPに作用する。この水平面HPに作用する建物荷重によって、擁壁RWのたて壁RWaに水平荷重(土圧)が載荷され、底盤RWbに鉛直荷重が載荷される。建物荷重の分散値ω’は、建物荷重ω自体となる。また、建物荷重の分散値ω’が分散される範囲l’及び荷重分散幅lは、底盤RWbにおける長さB4となる。そして、載荷Ω’は、建物荷重の分散値ω’と分散の範囲l’を用いて、式(15)により計算される。
次に、鉛直荷重及び安定モーメントを計算する。上記したように、擁壁RWは水平方向の各寸法(H,H1,H2,H3,H4,H5,H6,H7,H8)と鉛直方向の各寸法(B,B1,B2,B3,B4,B5,B6)によりあらゆる形状に対応しており、複雑な形状もあるので、図8に示すように、擁壁RWによる自重による鉛直荷重については丸印で示す1〜7の7つの部分に分割して各計算を行う。この擁壁RWの各部分の体積(実際には、単位幅1m当りにて計算を行うので、面積)を計算し、その体積(面積)に鉄筋コンクリート単位体積重量γcをそれぞれ乗算し、各部分の鉛直荷重(鉛直力)を計算する。また、背面土についても、擁壁RWの形状に対応して少し複雑な形状となるので、図8に示すように、背面土の自重による鉛直荷重については丸印で示す8〜11の4つの部分に分割して各計算を行う。この背面土の各部分の体積(実際には、単位幅1m当りにて計算を行うので、面積)を計算し、その体積(面積)に背面土単位体積重量γsをそれぞれ乗算し、各部分の鉛直荷重(鉛直力)を計算する。
図10(a)に示すように、擁壁RWの自重による鉛直荷重については、丸印の1の部分は、擁壁RWのたて壁RWaの長方形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が10.20(kN)となる。丸印の2の部分は、擁壁RWのたて壁RWaの三角形状の部分であり、B1<B3の場合に鉛直荷重の値が算出される。実施例1ではB1とB3が同じ値なので、鉛直荷重が0.00(kN)となる。丸印の3の部分は、擁壁RWのつま先部の長方形状の部分であり、実施例1ではつま先部がないので、鉛直荷重が0.00(kN)となる。丸印の4の部分は、擁壁RWのたて壁RWaと底盤RWbが重なる長方形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が1.80(kN)となる。丸印の5の部分は、底盤RWbのつま先部の三角形状の部分であり、H4<H5の場合に鉛直荷重の値が算出される。実施例1ではH4とH5が同じ値なので、鉛直荷重が0.00(kN)となる。丸印の6の部分は、底盤RWbのかかと部の長方形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が12.24(kN)となる。丸印の7の部分は、擁壁RWのたて壁RWaと底盤RWbとの断面形状が三角形状のハンチの部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が0.75(kN)となる。
また、図10(a)に示すように、背面土の自重による鉛直荷重については、丸印の8の部分は、長方形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が5.40(kN)となる。丸印の9の部分は、擁壁RWの斜面に応じた三角形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が0.50(kN)となる。丸印の10の部分は、長方形状の部分であり、単位幅1m当りの鉛直荷重が37.12(kN)となる。丸印の11の部分は、底盤RWbのかかと部の斜面に応じた三角形状の部分であり、実施例1ではH4とH5が同じ値なので、鉛直荷重が0.00(kN)となる。
建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’は、上記で説明したように地表面載荷重q’が載荷される範囲mと地表面載荷重q’を用いて(19)により計算され、単位幅1m当りの鉛直荷重が2.35(kN)となる。また、建物荷重による載荷Ω’は、上記で説明したように建物荷重の分散値ω’(実施例1ではω)と分散値ω’が分散される範囲l’(実施例1ではB4)を用いて(15)により計算され、単位幅1m当りの鉛直荷重が85.00(kN)となる。
したがって、鉛直荷重ΣVは、上記の擁壁RWの7つの各部分の鉛直荷重と、背面土の4つの各部分の鉛直荷重と、建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’と、建物荷重による載荷Ω’を積算した値であり、単位幅1m当りの値が155.36(kN)となる。
図10(a)に示すように、擁壁RWの自重による鉛直荷重のモーメントについては、丸印の1の部分は、鉛直荷重が10.20(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.125(m)から、単位幅1m当りのモーメントが1.28(kN・m)となる。丸印の2の部分は、鉛直荷重が0.00なので、モーメントが0となる。丸印の3の部分は、鉛直荷重が0.00なので、モーメントが0となる。丸印の4の部分は、鉛直荷重が1.80(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.125(m)から、単位幅1m当りのモーメントが0.23(kN・m)となる。丸印の5の部分は、鉛直荷重が0.00なので、モーメントが0となる。丸印の6の部分は、鉛直荷重が12.24(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.100(m)から、単位幅1m当りのモーメントが13.46(kN・m)となる。丸印の7の部分は、鉛直荷重が0.75(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.333(m)から、単位幅1m当りのモーメントが0.25(kN・m)となる。
図10(a)に示すように、背面土の自重による鉛直荷重のモーメントについては、丸印の8の部分は、鉛直荷重が5.40(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.375(m)から、単位幅1m当りのモーメントが2.03(kN・m)となる。丸印の9の部分は、鉛直荷重が0.50(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.417(m)から、単位幅1m当りのモーメントが0.21(kN・m)となる。丸印の10の部分は、鉛直荷重が37.12(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.225(m)から、単位幅1m当りのモーメントが45.47(kN・m)となる。丸印の11の部分は、鉛直荷重が0.00なので、モーメントが0となる。
建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’のモーメントについては、鉛直荷重が2.35(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.585(m)から、単位幅1m当りのモーメントが1.37(kN・m)となる。となる。また、建物荷重による載荷Ω’のモーメントについては、鉛直荷重が85.00(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.100(m)から、単位幅1m当りのモーメントが93.50(kN・m)となる。
したがって、鉛直荷重ΣVによる安定モーメントΣMrは、上記の擁壁RWの7つの各部分のモーメントと、背面土の4つの各部分のモーメントと、建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’のモーメントと、建物荷重による載荷Ω’のモーメントを積算した値であり、単位幅1m当りの値が157.80(kN・m)となる。
次に、水平荷重及び転倒モーメントを計算する。図10(b)に示すように、建物以外の地表面載荷重q’の土圧による水平荷重は、上記で説明したようにH6,H5及び土圧係数Kaを用いて式(22)により計算され、単位幅1m当りの水平荷重が3.33(kN・m)となる。建物荷重の土圧による水平荷重は、上記で説明したように建物荷重が荷重される水平面(実施例1では基礎BFのフーチング底面BFa)と底盤RWbの底面との間の距離H’(=(H5+H6)−H8)、建物荷重の分散値ω’(実施例1では建物荷重ω)、土圧係数Kaを用いて式(21)により計算され、単位幅1m当りの水平荷重が30.25(kN・m)となる。背面土の土圧による水平荷重は、上記で説明したようにH6,H5及び土圧係数Ka、背面土単位体積重量γsを用いて式(20)により計算され、単位幅1m当りの水平荷重が14.44(kN・m)となる。
したがって、水平荷重ΣPは、上記の建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重と、建物荷重の土圧による水平荷重と、背面土の土圧による水平荷重を積算した値であり、単位幅1m当りの値が48.02(kN)となる。
図10(b)に示すように、建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が3.33(kN)及びこの水平荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.95(m)から、単位幅1m当りのモーメントが3.16(kN・m)となる。建物荷重の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が30.25(kN)及びこの水平荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.56(m)から、単位幅1m当りのモーメントが47.19(kN・m)となる。背面土の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が14.44(kN)及びこの水平荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.633(m)から、単位幅1m当りのモーメントが9.15(kN・m)となる。
したがって、水平荷重ΣPによる転倒モーメントΣMoは、上記の建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重のモーメントと、建物荷重の土圧による水平荷重のモーメントと、背面土の土圧による水平荷重のモーメントを積算した値であり、単位幅1m当りの値が59.50(kN・m)となる。
そして、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMoを用いて擁壁RWの転倒の評価を行うと、式(27)に示すようになり、転倒について「OK」である。また、鉛直荷重ΣVと水平荷重ΣP及び摩擦係数μを用いて滑動の評価を行うと、式(28)に示すようになり、滑動については基準を満たしていないことを示す「NG」が表示部6の画面に表示される。
また、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMo及び鉛直荷重ΣVを用いて、式(29)によりdの値を計算する。そして、そのdの値と擁壁RWの底盤RWbの長さBを用いて、式(30)により偏心量eを計算して偏心の評価を行うと、式(30)に示すようになり、偏心については基準を満たしていないことを示す「NG」が表示部6の画面に表示される。
さらに、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量e及び擁壁RWの地耐力(実施例1では100kN/m
2)を用いて、式(31)により最大接地圧σmaxを計算して擁壁RWが沈下しないかどうかの接地圧の評価を行うと、式(31)に示すようになり、接地圧については基準を満たしていないことを示す「NG」が表示部6の画面に表示される。また、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量eを用いて、式(32)により最小接地圧σminを計算して最小接地圧の評価を行うと、式(32)に示すようになり最小接地圧については基準を満たしていないことを示す「NG」が表示部6の画面に表示される。
そして、図11に示すように、上記の判定結果や評価結果が画面表示される。実施例1の場合、安息角の確保では、上記で説明したように判定用線分JLの水平面に対する判定角βが安息角=30°(判定用荷重分散角θ)より大きく、たて壁に荷重に影響があることを示す「NG」が表示される。擁壁の転倒評価では、上記で説明したように「OK」が表示される。擁壁の滑動評価では、上記で説明したように基準を満たしていないことを示す「NG」が表示される。偏心の評価では、上記で説明したように基準を満たしていないことを示す「NG」が表示される。擁壁の接地圧評価では、上記したように最大接地圧σmaxが地耐力よりも大きくなり、基準を満たしていないことを示す「NG」が表示される。偏心の評価では、上記で説明したように基準を満たしていないことを示す「NG」が表示される。この結果から、実施例1の擁壁RWに対する建物(基礎BF)の配置では、擁壁RWの安全性を確保できないので、建物(基礎BF)をより安全側に変更(例えば、基礎BFを擁壁RWからより離す配置、基礎BFを地表面GLからより深く配置)して再度評価を行う必要がある。
次に、図12〜図15を参照して、判定用荷重分散線が擁壁の底盤に通過する場合の実施例2について説明する。図12は、実施例2の判定用荷重分散線が擁壁のたて壁を通過しない場合の擁壁と建物(基礎)との配置図である。図13は、実施例2の入力画面であり、(a)が設計条件の入力画面であり、(b)が既存擁壁の各部の断面寸法の入力画面である。図14は、実施例2の計算結果であり、(a)が鉛直荷重と安定モーメントであり、(b)が水平荷重と転倒モーメントである。図15は、実施例2の安全性の評価結果画面である。
実施例2での入力画面について説明する。まず、図13(a)に示すように、実施例2の設計条件の入力画面において、実施例1の設計条件の入力画面と比較すると建物分散荷重ω’だけが増えており、他の条件については全て同じである。建物荷重の分散値ω’として、27.85(kN/m
2)が入力される。この建物荷重の分散値ω’については、建物荷重ω、基礎BFのフーチングの幅F及び分散値ω’が分散される範囲l’を用いて、式(33)により計算される。なお、建物荷重の分散値ω’については、入力値とするのでなく、安全性評価システム1において計算するようにしてもよい。
図13(b)に示すように、実施例2の既存擁壁の断面の各寸法の入力画面において、実施例1の既存擁壁の断面の各寸法の入力画面と比較すると入力項目は全て同じであり、H8の値だけが異なる。H8として、1.290(m)が入力される。これは、実施例1における基礎BFの配置よりも、実施例2では、基礎BFが地表面GL1からより深い根入れの基礎(実施例1の50kN基礎より0.6mだけ底盤が深い位置になる。)が建物本体基礎仕様のプルダウンメニューから選択されていることにより、H8の値が通常の標準的な50kN基礎より0.6mだけ深い寸法が設定されていることを示す。すなわち、H8の値は、記憶部3に記憶されたデータテーブルを参照して、通常の50kN基礎の根入れ深さに対応した0.69から50kN(0.6mダウン基礎)の根入れ深さに対応した値である1.29に置換されている。なお、H8の値は入力部2からマウスキーボードを使って行ってもよい。
なお、実施例2の擁壁の鉄筋量及びコンクリート強度の入力画面については、実施例1の擁壁の鉄筋量及びコンクリート強度の入力画面と同じであり、各値も全て同じである。
実施例2では、判定用荷重分散角θとして、普通土の安息角の30°が設定される。また、実施例2では、計算用荷重分散角θ’として、60°が設定される。まず、図12に示す判定用線分JLの水平面に対する判定角βを求めるために、式(34)により、たて壁RWaの基礎側の端部と基礎BFの擁壁側の端部との距離Xを計算する。また、式(35)により、基礎BFの底面BFaと地表面GL2との距離Yを計算する。そして、距離X、距離Yと判定角βの関係が式(36)となるので、判定角βを式(37)により計算する。このように判定角βは21.9°であり、判定用荷重分散角θの30°と比較すると、判定用荷重分散角θが判定角βより大きく、底盤RWbの底面のラインを通る線と交わる点(通過点)の座標が底盤RWbの底面の左端から右端まで座標の範囲内であるので、判定用荷重分散線DLjが底盤RWbを通過すると判定される。仮に通過点が、その範囲外である場合は、「不通過」と判定される。
この場合、建物荷重は擁壁RWの底盤RWbにのみ作用する。建物荷重は、計算用荷重分散角θ’=60°に沿った計算用荷重分散線DLc,DLcの内側(基礎BF側)の範囲内に分散し、底盤RWbにおける計算用荷重分散線DLc,DLcとの交点RWe,RWfの範囲内に作用する。この底盤RWb(水平面)に作用する建物荷重によって、擁壁の底盤RWbにのみ鉛直荷重が載荷される。底盤RWbにおける計算用荷重分散線DLc,DLcで形成される荷重分散幅lは、H6,H8、基礎BFの幅F、計算用荷重分散角θ’を用いて、式(16)により計算される。実施例2の場合、建物荷重の分散値ω’が分散される範囲l’は、荷重分散幅lである。また、建物荷重の分散値ω’は、その分散範囲l’と基礎BFの幅F及び建物荷重ωを用いて、式(17)(式(33))により計算され、27.846(kN/m2)となる。そして、載荷Ω’は、建物荷重の分散値ω’と分散の範囲l’を用いて、式(11)により計算される。
次に、鉛直荷重及び安定モーメントを計算する。図14(a)に示すように、擁壁RWの自重による鉛直荷重、背面土の自重による鉛直荷重及び建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’について、実施例1と同様に計算される。建物荷重による載荷Ω’は、上記で説明したように建物荷重の分散値ω’と分散値ω’が分散される範囲l’を用いて(11)により計算され、単位幅1m当りの鉛直荷重が22.502(kN)となる。ここで、建物荷重の分散値ω’については、上記で説明したように建物荷重ω、フーチングの幅F及び分散値ω’が載荷される範囲l’を用いて式(33)に計算され、27.646(kN/m
2)となる。分散値ω’が分散される範囲l’は、実施例2の場合、荷重分散幅lとなる。荷重分散幅lは、H6,H8、計算用荷重分散角θ’(=60°)及びフーチングの幅Fを用いて、式(38)により計算され、0.808(m)となる。したがって、鉛直荷重ΣVは、上記の擁壁RWの7つの各部分の鉛直荷重と、背面土の4つの各部分の鉛直荷重と、建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’と、建物荷重による載荷Ω’を積算した値であり、単位幅1m当りの値が90.857(kN)となる。
また、図14(a)に示すように、擁壁RWの自重による鉛直荷重のモーメント、背面土の自重による鉛直荷重のモーメント、建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’のモーメントは、実施例1と同様に計算される。建物荷重による載荷Ω’のモーメントについては、鉛直荷重が22.502(kN)及びこの鉛直荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.100(m)から、単位幅1m当りのモーメントが22.51(kN・m)となる。したがって、鉛直荷重ΣVによる安定モーメントΣMrは、上記の擁壁RWの7つの各部分のモーメントと、背面土の4つの各部分のモーメントと、建物荷重以外の地表面載荷重q’による載荷Q’のモーメントと、建物荷重による載荷Ω’のモーメントを積算した値であり、単位幅1m当りの値が86.80(kN)となる。
次に、水平荷重及び転倒モーメントを計算する。図14(b)に示すように、建物以外の地表面載荷重q’の土圧による荷重及び背面土の土圧による荷重は、実施例1と同様に計算される。建物荷重の土圧による水平荷重は、実施例2の場合には建物荷重は底盤RWbにのみ荷重されるので、0.00となる。したがって、水平荷重ΣPは、上記の建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重と、背面土の土圧による水平荷重を積算した値であり、単位幅1m当りの値が17.77(kN)となる。
図14(b)に示すように、建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が3.33(kN)及びこの水平荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が1.00(m)から、単位幅1m当りのモーメントが3.33(kN・m)となる。建物荷重の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が0なので、0(kN・m)となる。背面土の土圧による水平荷重のモーメントについては、水平荷重が14.44(kN)及びこの水平荷重の作用点とモーメントの基点CPとの距離(アーム)が0.633(m)から、単位幅1m当りのモーメントが9.15(kN・m)となる。したがって、水平荷重ΣPによる転倒モーメントΣMoは、上記の建物以外の地表面載荷重の土圧による水平荷重のモーメントと、背面土の土圧による水平荷重のモーメントとを積算した値であり、単位幅1m当りの値が12.48(kN)となる。
そして、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMoを用いて擁壁RWの転倒の評価を行うと、式(39)に示すようになり、転倒について「OK」である。また、鉛直荷重ΣVと水平荷重ΣP及び摩擦係数μを用いて滑動の評価を行うと、式(40)に示すようになり、滑動については基準を満たしていることを示す「OK」が表示部6の画面に表示される。
また、安定モーメントΣMrと転倒モーメントΣMo及び鉛直荷重ΣVを用いて、式(41)によりdの値を計算する。そして、そのdの値と擁壁RWの底盤RWbの長さBを用いて、式(42)により偏心量eを計算して偏心の評価を行うと、式(42)に示すようになり、偏心については基準を満たしていることを示す「OK」が表示部6の画面に表示される。
さらに、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量e及び擁壁RWの地耐力(実施例2では100kN/m
2)を用いて、式(43)により最大接地圧σmaxを計算して擁壁RWの接地圧の評価を行うと、式(43)に示すようになり、接地圧については基準を満たしていることを示す「OK」が表示部6の画面に表示される。また、鉛直荷重ΣV、擁壁RWの底盤RWbの長さB、偏心量eを用いて、(44)により最小接地圧σminを計算して最小接地圧の評価を行うと、式(44)に示すようになり最小接地圧については基準を満たしていることを示す「OK」が表示部6の画面に表示される。
そして、図15に示すように、上記の判定結果や評価結果が画面表示される。実施例2の場合、安息角の確保では、上記で説明したように判定用線分JLの水平面に対する判定角βが安息角=30°(判定用荷重分散角θ)より小さく、「OK」が表示される。擁壁の転倒評価では、上記で説明したように「OK」が表示される。擁壁の滑動評価では、上記で説明したように「OK」が表示される。偏心の評価では、上記で説明したように「OK」が表示される。擁壁の接地圧評価では、上記したように最大接地圧σmaxが地耐力よりも小さく、「OK」が表示される。この結果から、実施例2の擁壁RWに対して建物(基礎BF)の配置では、擁壁RWの安全性を確保できる。この場合でも、建物(基礎BF)をより擁壁RWに近づけた配置等にして、再度評価を行うことがある。
この安全性評価システム1によれば、建物荷重と敷地の建物荷重以外の地表面積載荷重とを区別し、建物荷重については判定用荷重分散線が擁壁の通過する部位(たて壁又は底盤)に応じて建物荷重が影響する範囲を変えて擁壁にかかる荷重を計算することにより、擁壁に対する建物の接近度合いに応じて擁壁への建物荷重の影響度合いを正確に評価でき、擁壁と建物との配置(離れ具合)を考慮して擁壁の安全性を高精度に評価することができる。その結果、安全性を確保した上での擁壁と建物との離れ距離を効率的に決定することができる。特に、既存擁壁に対して安全性を確保して上で、建物を必要以上に擁壁から離すことなく配置することができ(建物(基礎)を擁壁にどの程度まで近づけることができるかを高精度に判断できる)、敷地を有効利用した設計が簡易に可能となる。
さらに、安全性評価システム1によれば、判定用荷重分散線が擁壁のたて壁を通過する場合にはたて壁及び底盤に建物荷重が載荷されると想定して、判定用荷重分散線が擁壁の底盤を通過する場合には底盤にのみ建物荷重が載荷されると想定して、鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを計算するので、擁壁に対する建物の接近度合いに応じて鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを高精度に求めることができ、この高精度な鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを用いて擁壁の転倒、滑動及び接地圧等を高精度に評価できる。
また、安全性評価システム1によれば、判定用の荷重分散角と計算用の荷重分散角とを別々に設定することにより、安全性をより考慮した評価や擁壁と建物との距離をより近づける場合の評価等の様々な評価を行うことができる。また、安全性評価システム1によれば、判定用線分を設定して、判定用線分の判定角と判定用荷重分散角とを比較することにより、判定用荷重分散線が擁壁のどの部位を通過するかを簡易かつ高精度に判定できる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では既存擁壁に対する安全性評価システムに適用したが、新規の宅地造成の擁壁の構造設計を行う場合の安全性評価システムにも適用できる。この場合、建物荷重を必要以上に過大に設定することがなくなり、敷地を有効利用した設計が簡易に可能となり、新規の造成時の施行や費用面で負担を軽減できる。
また、本実施の形態では安全性評価システムにおいて擁壁の転倒、滑動、接地圧等を評価する構成としたが、そのうちのいずれかだけを評価する構成としてもよいし、計算した鉛直荷重、安定モーメント、水平荷重、転倒モーメントを用いて他の項目についての評価を行ってもよい。
また、本実施の形態では鉛直荷重、安定モーメント、水平荷重、転倒モーメントの計算方法の一例を示したが、他の方法で計算を行ってもよい。また、本実施の形態では判定用荷重分散線が擁壁において通過する部位に応じて建物荷重の分散値ω’、分散範囲l’、載荷Ω’を計算し、その建物荷重の分散値ω’、分散範囲l’、載荷Ω’を用いて擁壁にかかる鉛直荷重と安定モーメント及び水平荷重と転倒モーメントを計算する構成としたが、建物荷重の分散値ω’、分散範囲l’、載荷Ω’を用いて他のパラメータを計算し、その他のパラメータを用いて擁壁の安全性を評価してもよい。
また、本実施の形態では、コンピュータを用いた擁壁の安全性評価システムにより判定用荷重分散角θと計算用荷重分散角θ’を設定したが、荷重分散角θのみを設定して判定用と計算用の荷重分散角を同一の値にしてもよい。本実施の形態では判定角βを計算し、判定用荷重分散角θと判定角βとを比較して判定用荷重分散線が擁壁のどの部位を通過するかを判定したが、通過点座標と擁壁面の線分情報の重なる点を有するかどうかを判定する演算処理など他の方法によって荷重分散線が擁壁のどの部位を通過するかを判定してもよい。