以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明においては、自動変速機を備えたFR(Front engine Rear drive)車両に本発明に係る内燃機関の制御装置を適用した例を説明する。
図1に示すように、本実施の形態における車両1は、内燃機関を構成するエンジン2と、エンジン2から出力された出力トルクを増幅させるトルクコンバータ3と、トルクコンバータ3の出力軸の回転速度を変速した回転速度で出力軸4を回転させる変速機構5と、変速機構5の出力軸4の回転力をドライブシャフト6L、6Rに伝達するディファレンシャルギア7と、ドライブシャフト6L、6Rが回転させられることにより駆動する駆動輪8L、8Rとを備えている。ここで、トルクコンバータ3および変速機構5は、自動変速機9を構成する。
また、車両1は、エンジン2を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「EG−ECU」という)10と、自動変速機9を油圧によって制御する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を電気的に制御する自動変速機用電子制御ユニット(以下、「TM−ECU」という)12とを備えている。
図2に示すように、エンジン2は、シリンダブロック20と、シリンダブロック20の上部に固定されたシリンダヘッド21と、オイルを収納するオイルパン22とを備え、シリンダブロック20と、シリンダヘッド21とによって複数の気筒23が形成されている。
なお、本実施の形態において、エンジン2は、直列4気筒のエンジンによって構成されているものとするが、本発明においては、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、V型12気筒エンジンまたは水平対向6気筒エンジン等の種々の型式のエンジンによって構成されていてもよい。なお、図2に示すエンジン2は、直列に配置された4つの気筒のうちの1つの気筒23が図示されている。
気筒23には、ピストン24が往復動可能に収納され、シリンダブロック20、シリンダヘッド21およびピストン24によって、各気筒23の燃焼室25が形成されている。本実施の形態において、エンジン2は、ピストン24が2往復する間に吸気行程、圧縮行程、燃焼行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、4サイクルのエンジンによって構成されているものとして説明する。
各気筒23に収納されたピストン24は、コネクティングロッド26を介してクランクシャフト27に連結されている。コネクティングロッド26は、ピストン24の往復動をクランクシャフト27の回転運動に変換するようになっている。
したがって、エンジン2は、燃焼室25で燃料と空気との混合気を燃焼させることによりピストン24を往復動させ、コネクティングロッド26を介してクランクシャフト27を回転させることにより、トルクコンバータ3に動力を伝達するようになっている。
なお、エンジン2に用いられる燃料は、ガソリンとするが、ガソリンに代えて、軽油等の炭化水素系の燃料またはエタノール等のアルコールとガソリンとを混合したアルコール燃料であってもよい。
エンジン2には、空気を燃焼室25に導入するためにシリンダヘッド21に連結されている吸気管30が設けられている。吸気管30には、車外から流入した空気を清浄するエアクリーナ31と、燃焼室25に導入される空気の流量すなわち吸入空気量を検出するエアフローセンサ32と、吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ33とが設けられている。
エアクリーナ31は、例えば、内部に収容した紙または合成繊維の不織布のフィルターにより、吸入空気中の異物を除去するようになっている。エアフローセンサ32は、スロットルバルブ33の上流側に設けられ、吸入空気量を表す検出信号をEG−ECU10に出力するようになっている。
スロットルバルブ33は、薄い円板状の弁体によって構成され、この弁体の中央にシャフトを備えている。スロットルバルブ33には、EG−ECU10の制御に応じてシャフトを回動させることによって弁体を回動させ、スロットルバルブ33に吸入空気量を調整させるスロットルバルブアクチュエータ34が設けられている。
また、エンジン2には、燃焼室25のなかで混合気の燃焼によって発生した排気ガスを車外に排出するためにシリンダヘッド21に連結されている排気管35が設けられている。排気管35には、排気ガス中の有害物質を酸化還元浄化するための触媒36が設けられている。
触媒36は、一般に、排気ガスに含まれる未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)といった有害物質を効率的に除去することができる三元触媒を備えている。この三元触媒は、好ましくはNOx含有率の高い排気ガスからでも、NOxを効率的に除去する機能を有するものが用いられる。
シリンダブロック20には、冷却水が循環するウォータジャケット37が形成され、ウォータジャケット37内を循環する冷却水の水温を検知する水温センサ38が設けられている。シリンダヘッド21には、吸気管30と燃焼室25とを連通させる吸気ポート40と、燃焼室25と排気管35とを連通させる排気ポート41とが形成されている。
また、シリンダヘッド21には、吸気管30から燃焼室25への燃焼用空気の導入を制御するための吸気バルブ42と、燃焼室25から排気管35への排気ガスの排出を制御するための排気バルブ43と、燃焼室25内に燃料を噴射するためのインジェクタ44と、燃焼室25内の混合気に点火するための点火プラグ45とが設けられている。
インジェクタ44は、EG−ECU10によって制御されるソレノイドコイルおよびニードルバルブを有している。インジェクタ44には、所定の圧力で燃料が供給されている。インジェクタ44は、EG−ECU10によってソレノイドコイルが通電されると、ニードルバルブを開いて、燃焼室25に燃料を噴射するようになっている。
点火プラグ45は、プラチナやイリジウム合金製の電極を有する公知の点火プラグによって構成されている。点火プラグ45は、EG−ECU10によって電極が通電されることにより放電し、燃焼室25内の混合気に点火するようになっている。
図3に示すように、エンジン2には、シリンダヘッド21の上部に、吸気カムシャフト50および排気カムシャフト51が回転可能に設けられている。吸気カムシャフト50には、吸気バルブ42の上端に当接する吸気カム52が設けられている。吸気カムシャフト50が回転すると、吸気カム52が吸気バルブ42を開閉駆動し、吸気ポート40と燃焼室25との間が開閉されるようになっている。
排気カムシャフト51には、排気バルブ43の上端に当接する排気カム53が設けられている。排気カムシャフト51が回転すると、排気カム53が排気バルブ43を開閉駆動し、燃焼室25と排気ポート41との間が開閉されるようになっている。
吸気カムシャフト50の一端部には、吸気カムスプロケット54と、吸気カムシャフト50を吸気カムスプロケット54に対して回転させる吸気側回転位相コントローラ55とが設けられている。
吸気側回転位相コントローラ55は、EG−ECU10によって制御されることにより、吸気カムシャフト50を吸気カムスプロケット54に対して進角または遅角側に回転させるようになっている。
排気カムシャフト51の一端部には、排気カムスプロケット56と、排気カムシャフト51を排気カムスプロケット56に対して回転させる排気側回転位相コントローラ57とが設けられている。
また、排気側回転位相コントローラ57は、EG−ECU10によって制御されることにより、排気カムシャフト51を排気カムスプロケット56に対して進角または遅角側に回転させるようになっている。
クランクシャフト27の一端部には、クランクスプロケット58が設けられている。吸気カムスプロケット54と、排気カムスプロケット56と、クランクスプロケット58とには、タイミングベルト59が巻き掛けられている。タイミングベルト59は、クランクスプロケット58の回転を吸気カムスプロケット54および排気カムスプロケット56に伝達するようになっている。
したがって、タイミングベルト59によってクランクシャフト27の回転が吸気カムシャフト50および排気カムシャフト51に伝達されることにより、吸気カムシャフト50および排気カムシャフト51に駆動される吸気バルブ42および排気バルブ43は、クランクシャフト27に同期して吸気ポート40および排気ポート41をそれぞれ開閉するようになっている。吸気カムシャフト50および排気カムシャフト51は、クランクシャフト27が2周する間に1周するようになっている。
クランクシャフト27には、クランクシャフト27とともに回転するクランクロータ60が設けられている。エンジン2は、クランクロータ60の回転角を検出するためのクランク角センサ61を備えている。
クランク角センサ61は、磁気抵抗素子(MRE:Magnetic Resistance Element)を有するMREセンサによって構成されている。クランクシャフト27が回転すると、クランクロータ60に設けられた歯の山と谷により、クランク角センサ61にかかる磁界の方向、すなわち、磁気ベクトルが変化し、内部抵抗値が変化する。
クランク角センサ61は、この抵抗値の変化を電圧に変換した上で出力される波形と、閾値とを比較することによりHigh状態とLow状態とをとる矩形波に整形したクランク角信号を生成し、生成したクランク角信号をEG−ECU10に出力するようになっている。
図4に示すように、トルクコンバータ3は、入力軸70を介してエンジン2のクランクシャフト27と連結されるポンプ翼車71と、変速機構5の入力軸の一部を構成する出力軸72を介して連結されるタービン翼車73と、一方向クラッチ74によって一方向の回転が阻止されているステータ翼車75とを有している。ここで、ポンプ翼車71とタービン翼車73とは、流体を介して動力を伝達するようになっている。
また、トルクコンバータ3は、ポンプ翼車71とタービン翼車73との間を直結するためのロックアップクラッチ76を有している。ロックアップクラッチ76は、車両1の高速走行時等において、作動油により図示しないフロントカバーを掴み、ポンプ翼車71とタービン翼車73とを機械的に直結する係合状態をとることにより、ポンプ翼車71とタービン翼車73とを機械的に解放する解放状態と比較して、エンジン2から変速機構5への動力の伝達効率を上げるようになっている。
ポンプ翼車71には、変速機構5を変速制御するための油圧および各部に潤滑油を供給するための油圧を発生する機械式のオイルポンプ77が設けられている。
変速機構5は、第1遊星歯車装置78と、第2遊星歯車装置79と、第3遊星歯車装置80とを備えている。第1遊星歯車装置78のサンギヤS1は、クラッチC3を介して入力軸に連結可能であるとともに、一方向クラッチF2およびブレーキB3を介してハウジング81に連結可能となっている。
第1遊星歯車装置78のキャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジング81に連結可能となっている。第1遊星歯車装置78のリングギヤR1は、第2遊星歯車装置79のリングギヤR2と連結されており、ブレーキB2を介してハウジング81に連結可能となっている。
第2遊星歯車装置79のサンギヤS2は、第3遊星歯車装置80のサンギヤS3と連結されており、クラッチC4を介して入力軸に連結可能となっている。また、サンギヤS2は、一方向クラッチF4およびクラッチC1を介して入力軸に連結可能となっている。
第2遊星歯車装置79のキャリアCA2は、第3遊星歯車装置80のリングギヤR3と連結されており、クラッチC2を介して入力軸に連結可能であるとともに、ブレーキB4を介してハウジング81に連結可能となっている。
また、キャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられた一方向クラッチF3により、入力軸の回転方向と反対方向への回転が阻止されるようになっている。また、第3遊星歯車装置80のキャリアCA3は、出力軸4に連結されている。
クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4は、多板式のクラッチやブレーキ等のように、油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置により構成されている。
油圧制御回路11は、トランスミッションソレノイドS1〜S4およびリニアソレノイドSLT、SLUを有している。トランスミッションソレノイドS1は、1速から2速への変速時に作動するようになっている。トランスミッションソレノイドS2は、2速から3速への変速時および5速から6速への変速時に作動するようになっている。
トランスミッションソレノイドS3は、3速から4速への変速時に作動するようになっている。トランスミッションソレノイドS4は、4速から5速への変速時に作動するようになっている。
リニアソレノイドSLTは、ライン圧制御および図示しないアキュムレータの背圧制御を行うようになっている。リニアソレノイドSLUは、主にロックアップクラッチ76の状態を制御するようになっている。
このように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4は、トランスミッションソレノイドS1〜S4およびリニアソレノイドSLT、SLUの励磁、非励磁や図示しないマニュアルバルブの作動状態によって切り替えられる油圧回路に応じて、係合状態および解放状態のいずれか一方の状態をとるようになっている。
すなわち、変速機構5は、クラッチC1〜C4およびブレーキB1〜B4の係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段をとるようになっている。本実施の形態において、変速機構5は、1速〜6速により構成される6つの前進変速段および1つの後進変速段のうちいずれかの変速段を形成するものとする。
図1において、EG−ECU10は、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、フラッシュメモリと、入出力ポートと、を備えたマイクロプロセッサによって構成されている。
EG−ECU10のROMには、当該マイクロプロセッサをEG−ECU10として機能させるためのプログラムが記憶されている。すなわち、EG−ECU10のCPUがRAMを作業領域としてROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該マイクロプロセッサは、EG−ECU10として機能する。
本実施の形態において、EG−ECU10の入力側には、クランク角センサ61、エアフローセンサ32、水温センサ38に加えて、アクセルペダル90の開度を表すアクセル開度を検出するアクセル開度センサ91と、車速を検出する車速センサ92とが接続されている。
アクセル開度センサ91は、例えば、ホール素子を用いた電子式のポジションセンサにより構成されている。アクセルペダル90が運転者により操作されると、アクセル開度センサ91は、アクセルペダル90の開度を示すアクセル開度を表す信号をEG−ECU10に出力するようになっている。車速センサ92は、ドライブシャフト6L、6Rの回転角を検出し、検出したドライブシャフト6L、6Rの回転角を平均化してEG−ECU10に出力するようになっている。
EG−ECU10は、TM−ECU12等の他のECUと高速CANを介して通信するようになっており、TM−ECU12等の他のECUと各種制御信号やデータのやりとりを行うようになっている。
例えば、EG−ECU10は、エンジン2の運転状態を検出する各種センサから入力される検出信号等に基づいて、インジェクタ44に対する燃料噴射制御、点火プラグ45に対する点火制御およびスロットルバルブアクチュエータ34に対する吸入空気量調節制御等のエンジン2の運転制御を行うとともに、必要に応じてエンジン2の運転状態に関するデータをTM−ECU12に出力するようになっている。
また、EG−ECU10は、エンジン2の運転状態に応じて吸気バルブ42および排気バルブ43の開閉タイミングを調整するために吸気側回転位相コントローラ55および排気カムスプロケット56を制御するVVT(Variable Valve Timing)制御を実行するようになっている。
TM−ECU12は、図示しないCPUと、ROMと、RAMと、フラッシュメモリと、入出力ポートと、を備えたマイクロプロセッサによって構成されている。TM−ECU12のROMには、当該マイクロプロセッサをTM−ECU12として機能させるためのプログラムが記憶されている。
すなわち、TM−ECU12のCPUがRAMを作業領域としてROMに記憶されたプログラムを実行することにより、当該マイクロプロセッサは、TM−ECU12として機能する。
本実施の形態において、TM−ECU12の入力側には、シフトレバー93によって選択されたシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ94が接続されている。
TM−ECU12は、EG−ECU10等の他のECUと高速CANを介して通信するようになっており、EG−ECU10等の他のECUと各種制御信号やデータのやりとりを行うようになっている。
例えば、TM−ECU12は、シフトポジションセンサ94によって検出されたシフトポジションとEG−ECU10から出力されたエンジン2の運転状態に基づいて、油圧制御回路11を制御することによって、変速機構5にいずれかの変速段を形成させるとともに、変速機構5に形成させた変速段を表す情報をEG−ECU10に出力するようになっている。
以下、本実施の形態におけるEG−ECU10によって実行される燃料カットについて説明する。EG−ECU10は、エンジン2の出力トルクを減衰させてからエンジン2に対する燃料供給を停止する燃料カットを実行するようになっている。なお、EG−ECU10は、本発明における出力トルク減衰手段を構成する。
具体的には、図5に示すように、EG−ECU10は、時刻t0でアクセル開度センサ91によってアクセルペダル90の開度が0、すなわち、アクセルOFFになったことを検出すると、予め定められたディレー区間、例えば、100ms〜200ms程度経過した時刻t1になると、エンジン2の出力トルクを推定するようになっている。
ここで、EG−ECU10のROMには、エンジン2の機関回転数と、吸入空気量と、点火プラグ45に対する点火タイミングとに対して、エンジン2の出力トルクが予め実験により対応付けられたマップが格納されている。
EG−ECU10は、クランク角センサ61から出力された信号から得られるエンジン2の機関回転数と、エアフローセンサ32から得られる吸入空気量と、点火プラグ45に対する点火タイミングとに対して、マップに対応付けられたエンジン2の出力トルクを特定することにより、現在のエンジン2の出力トルク(以下、「現在トルクTQc」という)を推定するようになっている。
また、EG−ECU10は、エンジン2の出力トルクを減衰させていくことによって、エンジン2の運転状態が、駆動力を発生する駆動状態から車両1の慣性力等による駆動力を受ける被駆動状態に切り替わるエンジン2の出力トルク(以下、「駆動切替トルクTQex」という)を推定するようになっている。
ここで、EG−ECU10のROMには、車速と、変速機構5に形成させた変速段と、エアーコンディショナ、オルタネータおよびオイルポンプ等の補機負荷と、エンジン2の冷却水の水温とに対して、駆動切替トルクTQexが予め実験により対応付けられたマップが格納されている。
EG−ECU10は、車速センサ92から得られる車両1の車速と、TM−ECU12から得られる変速機構5に形成させた変速段と、各補機の作動状態に応じた補機負荷と、水温センサ38から得られる水温とに対して、マップに対応付けられた駆動切替トルクTQexを特定することにより、駆動切替トルクTQexを推定するようになっている。
時刻t1において、EG−ECU10は、エンジン2の出力トルクを駆動切替トルクTQexより予め定められた数N・m程度の微小トルクTQm分だけ高いトルクTQex+TQmを目標トルクとしてエンジン2の出力トルクを現在トルクTQcから減衰させるようになっている。
具体的には、EG−ECU10は、予め定められた範囲R内の減衰率ΔTQで、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuの自然数倍の時間をかけて、エンジン2の出力トルクを現在トルクTQcから目標トルクTQtまで減衰させる出力トルク減衰制御を実行するようになっている。ここで、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuは、変速機構5に形成された変速段毎に予め実験により定められている。
また、予め定められた範囲Rは、限界減衰率θaから最小許容減衰率θbまでとする。限界減衰率θaは、エンジン2の出力トルクの減衰率が大幅に低下したときに、車両1にショックが発生し始める減衰率であり、予め実験により定められている。
すなわち、限界減衰率θa以上の減衰率でエンジン2の出力トルクを減衰させていった場合、エンジン2の出力トルクの減衰率が大幅に低下したときに、車両1にショックが発生する。
一方、最小許容減衰率θbは、予め定められた減衰率ΔTQのガード値である。すなわち、最小許容減衰率θb未満の減衰率でエンジン2の出力トルクを減衰させていった場合、エンジン2の出力トルクが目標トルクになるまでの時間が予め定められた許容時間より長くなる。
より具体的には、EG−ECU10は、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuと予め定められた自然数Nとを乗じた時間をかけて、エンジン2の出力トルクを現在のトルクTQcから目標トルクTQtまで減衰させる減衰率ΔTQを算出するようになっている。
ここで、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが限界減衰率θa以上であることを条件として、限界減衰率θaより低い減衰率で、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuの自然数倍の最短時間をかけて、エンジン2の出力トルクを現在のトルクTQcから目標トルクTQtまで減衰させるようになっている。
また、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが最小許容減衰率θb未満であることを条件として、最小許容減衰率θb以上の減衰率で、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuの自然数倍の最長時間をかけて、エンジン2の出力トルクを現在のトルクTQcから目標トルクTQtまで減衰させるようになっている。
なお、本実施の形態において、EG−ECU10は、図5に示すように、エンジン2に対する吸入空気量および点火タイミングを変動させることにより、エンジン2の出力トルクを減衰させるようになっている。
また、EG−ECU10は、時刻t1で出力トルク減衰制御を実行し、エンジン2の出力トルクが時刻t2で目標トルクになると、予め定められた運転状態切替期間においては、エンジン2の出力トルクの減衰率を負にならない程度まで低下させるようになっている。
ここで、運転状態切替期間は、エンジン2の運転状態が、駆動力を発生する駆動状態から車両1の慣性力等による駆動力を受ける被駆動状態に切り替わる期間を含んでいる。運転状態切替期間において、EG−ECU10は、駆動切替トルクTQexより微小トルクTQm分だけ高いトルクTQex+TQmから駆動切替トルクTQexより微小トルクTQm分だけ低いトルクTQex−TQmまで、エンジン2の出力トルクを減衰させるようになっている。
また、EG−ECU10は、時刻t2でエンジン2の出力トルクを減衰させ、エンジン2の出力トルクが時刻t3でトルクTQex−TQmになると、エンジン2に対する燃料供給を停止するときのエンジン2のトルクTQfcを目標トルクとして、出力トルク減衰制御を実行するようになっている。
また、EG−ECU10は、時刻t3で出力トルク減衰制御を実行し、エンジン2の出力トルクが時刻t4で目標トルクになると、燃料を噴射させないようにインジェクタ44を制御するようになっている。
このように、EG−ECU10は、時刻t1から時刻t2までの間、出力トルク減衰制御を実行することにより、時刻t2から時刻t3までの運転状態切替期間において、エンジン2の出力トルクの減衰率が大幅に低下したことによって発生するしゃくりを車両1にショックを生じさせず、かつ、所定の最小許容減衰率θbを下回らないように抑制するように構成されている。
また、EG−ECU10は、時刻t2から時刻t3までの運転状態切替期間において、エンジン2の出力トルクの減衰率を大幅に低下させることにより、エンジン2の運転状態が駆動状態から被駆動状態に切り替わるときに動力伝達系に発生するショックを防止するように構成されている。
また、EG−ECU10は、時刻t3から時刻t4までの間、出力トルク減衰制御を実行することにより、時刻t4でインジェクタ44による燃料の噴射を停止させることによって発生するしゃくりを車両1にショックを生じさせず、かつ、所定の最小許容減衰率θbを下回らないように抑制するように構成されている。
次に、EG−ECU10による出力トルク減衰制御における動作について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。なお、図6に示すフローチャートが示す出力トルク減衰制御における動作は、図5に示す時刻t1および時刻t3にスタートする。
まず、EG−ECU10は、エンジン2の出力トルクを減衰させる減衰率ΔTQ(=Tu×N)を算出し(ステップS1)、現在のトルクTQcを推定し(ステップS2)、目標トルクTQtを決定する(ステップS3)。
次に、EG−ECU10は、目標トルクTQtと現在のトルクTQcの差分、すなわち、現在のトルクTQcから目標トルクTQtを減じた差分トルクTQsubを算出する(ステップS4)。
ここで、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが限界減衰率θa以上であるか否かを判断し(ステップS5)、減衰率ΔTQが限界減衰率θa以上でないと判断した場合には、減衰率ΔTQが最小許容減衰率θb未満であるか否かを判断する(ステップS6)。ここで、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが最小許容減衰率θb未満でないと判断した場合には、出力トルク減衰制御をステップS11までスキップする。
ステップS5において、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが限界減衰率θa以上であると判断した場合には、差分トルクTQsubと、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuと、限界減衰率θaとを用いて、n>TQsub/(Tu×θa)を満たす最小の自然数nを算出する(ステップS7)。
また、ステップS6において、EG−ECU10は、減衰率ΔTQが最小許容減衰率θb未満であると判断した場合には、差分トルクTQsubと、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuと、最小許容減衰率θbとを用いて、n≦TQsub/(Tu×θb)を満たす最大の自然数nを算出する(ステップS8)。
自然数nを算出すると、EG−ECU10は、エンジン2の出力トルクを減衰させる時間Tr(=Tu×n)を算出し(ステップS9)、エンジン2の出力トルクを減衰させる減衰率ΔTQ(=TQsub/Tr)を算出する(ステップS10)。
EG−ECU10は、このように算出した減衰率ΔTQでエンジン2の出力トルクを減衰させ(ステップS11)、エンジン2の出力トルクが目標トルクTQtになったときに、出力トルク減衰制御を完了する。
以上のように、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置は、車両1にショックを生じさせず、かつ、所定の最小許容減衰率θbを下回らないように予め定められた範囲R内の減衰率ΔTQで、エンジン2と駆動輪8L、8Rとの間に介在する動力伝達系の固有振動周期Tuの自然数倍の時間をかけてエンジン2の出力トルクを減衰させることにより、車両1にショックを生じさせずにしゃくりを抑制するため、エンジン2の出力トルクを減衰させてからエンジン2の燃料供給を停止することによるドライバビリティの低下および燃費の悪化を抑制することができる。
なお、本実施の形態において、EG−ECU10は、エンジン2に対する吸入空気量および点火タイミングを変動させることにより、エンジン2の出力トルクを減衰させるものとして説明したが、本発明において、EG−ECU10は、エンジン2に対する吸入空気量および点火タイミングのいずれか一方を変動させることにより、エンジン2の出力トルクを減衰させるようにしてもよい。
また、本実施の形態において、自動変速機を備えた車両に本発明に係る内燃機関の制御装置を適用した例を説明したが、本発明に係る内燃機関の制御装置は、手動変速機を備えた車両に適用してもよく、無段変速機を備えた車両に適用してもよい。
また、本実施の形態において、FR車両に本発明に係る内燃機関の制御装置を適用した例を説明したが、本発明に係る内燃機関の制御装置は、FF(Front engine Front drive)車両に適用してもよく、四輪駆動車両に適用してもよい。
また、本実施の形態において、本発明に係る内燃機関としてガソリンを燃料とするガソリンエンジンを適用した例について説明したが、本発明に係る内燃機関としてディーゼルエンジンを適用してもよい。
なお、本発明に係る内燃機関としてディーゼルエンジンを適用した場合には、EG−ECU10は、エンジン2に対する燃料噴射量を変動させることにより、エンジン2の出力トルクを減衰させるように構成する。
また、本発明に係る内燃機関の制御装置は、動力分割式のハイブリッド車両に適用してもよい。この場合には、エンジン2によって発生された動力が分配される回転電機によって消費される動力を変動させることにより、エンジン2の出力トルクを減衰させるように構成する。
また、本実施の形態において、EG−ECU10は、エンジン2の機関回転数と、吸入空気量と、点火プラグ45に対する点火タイミングとに対して、エンジン2の出力トルクが対応付けられたマップに基づいて、エンジン2の出力トルクを推定するものとして説明した。
これに対し、本発明におけるEG−ECU10は、エンジン2の機関回転数と、吸入空気量と、点火プラグ45に対する点火タイミングとに加えて、排気管35内の排気ガスの一部を吸気管30内に還流するEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置におけるEGR率、水温センサ38から得られる水温、および、VVT制御における位相角の少なくとも1つに対して、エンジン2の出力トルクが対応付けられたマップに基づいて、エンジン2の出力トルクを推定するようにしてもよい。
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
以上のように、本発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関の出力トルクを減衰させてから内燃機関の燃料供給を停止することによるドライバビリティの低下および燃費の悪化を抑制することができるという効果を奏するものであり、内燃機関の出力トルクを減衰させてから前記内燃機関に対する燃料供給を停止する内燃機関の制御装置に有用である。