以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
まず、本発明に係る水素電力貯蔵システムの第1の実施形態について説明する。図1は本発明の第1の実施形態による水素電力貯蔵システムの構成を模式的に示すブロック図である。図1に示す水素電力貯蔵システム(装置)10は、電力/水素変換装置11を具備している。電力/水素変換装置11は、発電と水蒸気の電解(水素の生成)とを、時間的に切り替えて行なうことが可能な装置であり、具体的には固体酸化物電解質を備える固体電解質燃料電池からなるものである。
固体電解質燃料電池は、水素と酸化剤ガスとを用いて発電する発電部と、水蒸気を電気分解する電解部とを兼ねるものである。図1において、発電運転モードにおける電気(電力)、空気(酸素)、水素、熱の流れの向きを黒矢印で示し、電解運転モードにおける電気(電力)、水蒸気、熱、水素の流れの向きを白矢印で示す。
発電運転モードにおいては、電力/水素変換装置(固体電解質燃料電池)11の水素極(燃料極)に水素が供給されると共に、酸化剤極に酸化剤ガス(酸素または酸素を含む空気)が供給されて発電が行われる。一方、電解(水素生成)運転モードでは、電力/水素変換装置(固体電解質燃料電池)11の水素極側に水蒸気が供給され、それと同時に電力が供給され、水蒸気を電気分解して水素が生成される。
水素電力貯蔵システム10は、電解(水素生成)運転モードのときに発生した水素を貯蔵する水素貯蔵部12を具備している。水素貯蔵部12としては、例えば水素貯蔵タンクが用いられる。水素貯蔵部12に貯蔵された水素は、発電運転モードのときに電力/水素変換装置(固体電解質燃料電池)11の水素極(燃料極)に供給される。
さらに、水素電力貯蔵システム10は発電運転モードのときに電力/水素変換装置11で発生する650〜1000℃の高温の熱を貯蔵する高温蓄熱部13を具備している。高温蓄熱部13に貯蔵された高温の熱は、電解運転モードのときに電力/水素変換装置11に供給される。水蒸気電解は吸熱反応であるため、外部から熱の供給が必要である。なお、ここでは図示を省略したが、水素電力貯蔵システム10は高温蓄熱部13に加えて低温蓄熱部を具備している。高温蓄熱部および低温蓄熱部の詳細については後述する。
水素電力貯蔵システム10においては、例えば一般的に電力需要の少ない夜間に電力を使う水蒸気の電解運転を行なって水素を水素貯蔵部12に貯蔵し、電力需要の多い日中は水素貯蔵部12に貯蔵されていた水素を用いて発電運転を行なう。発電運転時に発生した熱は、排出される水蒸気またはこれと熱交換させた熱媒体を通して、高温蓄熱部13に蓄熱される。高温蓄熱部13では、例えば650〜1000℃の熱が蓄熱される。
電解運転時には、電力/水素変換装置(固体電解質燃料電池)11の水素極側に水(水蒸気)を供給する。このとき、電解運転時に必要な熱を、水蒸気または熱媒体を通して高温蓄熱部13から放熱させる。放熱する水蒸気または熱媒体の温度は、例えば600〜1000℃とする。水素極側では水蒸気の電解により水素が生成して排出されるため、これを水素貯蔵部12に蓄える。同時に、酸素極側では酸素が生成して排出される。
高温蓄熱部13の具体的な構成例について、図2を参照して説明する。図2は第1の実施形態の水素電力貯蔵システム10の高温蓄熱部13を構成する蓄熱装置の一例を示す斜視図である。高温蓄熱部(蓄熱装置)13は、蓄熱材が封入される複数のカプセル14と、これらカプセル14を収容する蓄熱器容器15とを具備する。蓄熱器容器15はカプセル14の周りを流れる熱媒流体の流路を形成するものである。
カプセル14は例えば円筒形の容器であり、その内部には蓄熱材(図示せず)が封入されている。高温蓄熱部13に用いられる蓄熱材は、蓄熱するときに溶融すると共に放熱するときに凝固する融点を有するものであり、例えば650〜1000℃の温度域に融点を持ち、融解熱が200kJ/kg以上で、固体および液体の比熱が1kJ/kg・K以上であることが好ましい。カプセル14は封入する蓄熱材に対して耐食性を有し、650〜1000℃の熱伝導率が10W/m・K以上であることが好ましい。
発電運転時には、電力/水素変換装置11で発生した熱により得られる、例えば650〜1000℃の高温の水蒸気またはこれと熱交換させた熱媒流体が、蓄熱器容器15内に導入されてカプセル14の外側を流れる。これによって、カプセル14およびその内部に封入された固体状の蓄熱材が加熱される。蓄熱材は加熱されて溶融し、固体から液体に変化する。この固体から液体への相転移時の潜熱を利用することによって、比較的少量の蓄熱材で大きな熱量を蓄えることができる。
電解運転時には、液体状の蓄熱材が凝固する際に生じる高温の熱を、カプセル14を通じて熱媒流体に伝える。この高温の熱媒流体を電力/水素変換装置11に送ることによって、電解運転時に必要な熱を供給することができる。この場合、水蒸気等の熱媒流体は蓄熱材である溶融塩等と直接接触せず、カプセル14の外側の流路を通過する。
高温蓄熱部13に用いる蓄熱材としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、および水素化リチウム(LiH)から選ばれる少なくとも1種が例示される。これらは混合物として使用してもよい。
電力/水素変換装置(固体電解質燃料電池)11の固体電解質の種類や運転条件によって、発電時に排出される熱の温度が異なるため、排出される熱の温度と蓄熱容量とに応じて蓄熱材の種類を選定することが好ましい。上述した化合物(溶融塩)を単体として用いることによって、変動する温度や装置の大型化で問題となる蓄放熱特性の変動を抑えることができ、これにより水素電力貯蔵システム10の安定化を図ることが可能となる。
カプセル14は、炭化ケイ素(SiC)焼結体、炭化ケイ素−シリコン(SiC−Si)複合焼結体、炭化ケイ素基長繊維(SiC−長繊維(SiC長繊維等))複合材料、炭化ホウ素(B4C)焼結体、窒化ケイ素(Si3N4)焼結体、窒化ホウ素(BN)焼結体、および黒鉛(C)から選ばれる少なくとも1種のセラミックス部材で構成することが好ましい。セラミックス部材で構成されたカプセル14によれば、蓄熱材と水蒸気または熱媒流体との熱伝達を向上させることができ、蓄熱装置の軽量化や小型化と共に、総合効率の向上を実現することができる。
カプセル14は、少なくとも一方が容器形状を有する第1および第2のセラミックス部材により構成される。セラミックス部材の具体例は上記した通りである。図3にカプセル14の第1の構成例を示す。図3に示すカプセル14は、容器状の第1のセラミックス部材16と蓋状の第2のセラミックス部材17とを有している。なお、第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17の双方が容器形状を有していてもよい。このようなカプセル14に蓄熱材を封入する方法としては、以下に示す方法が挙げられる。
まず、図3(a)に示すように、蓄熱材(図示せず)が収容された第1のセラミックス部材16の開口部上に、接合材18を介して第2のセラミックス部材17を配置する。接合材18としては、セラミック前駆体、カーボン接着剤、シリコンろう材等が用いられる。第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とは、炭化ケイ素−シリコン複合体等を適用して接合することも可能である。次いで、図3(b)に示すように、接合材18に応じた温度で熱処理することによって、第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とを接合層19を介して接合する。
セラミック前駆体としては、ポリカルボシラン、ポリカルボシラザン、ポリシラザン、ポリボロシロキサン、ポリメタロキサン等が用いられる。これらは焼成後に接合層19としてSi−C系セラミックス、Si−C−N系セラミックス、Si−O系セラミックス、Si−B−C系セラミックス等からなるセラミックス層を生成する。カーボン接着剤は黒鉛粉末と樹脂等を含み、焼成後には接合層19としてカーボン層が生成される。シリコンろう材としては箔やペースト等が用いられ、これらは焼成後(ろう付後)に接合層19としてシリコン層を生成する。
炭化ケイ素−シリコン複合体を適用した接合方法は、カーボン接着剤や有機樹脂系接着剤等の炭素成分を含む接着剤を接合材18として用いて、第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とを接着した後、シリコン(Si)の存在下で熱処理することによって、炭化ケイ素−シリコン複合体からなる接合層19を形成して第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とを接合する方法である。シリコンは、例えば接着層(接合材18)に溶融シリコンを含浸することにより供給される。この際、溶融シリコンの一部を積極的に残存させることによって、炭化ケイ素−シリコン複合体からなる接合層19を形成することができる。
第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とを接合して構成したカプセル14内には、蓄熱材が封入される。カプセル14内に蓄熱材を封入する場合、緻密で強度を有する接合ができなければ、接合部から蓄熱材が漏れてしまう等の問題が発生する。また、伝熱管を兼ねるセラミックス部材16、17と接合部との熱物性に差異が生じていると、蓄放熱時の熱サイクルにより接合部を起点とする破損等が発生しやすい。上述した接合層19はいずれも緻密で高強度であり、また熱物性にも優れるため、接合部からの蓄熱材の漏れや接合部を起点とする破損等を抑制することができる。従って、安定した蓄放熱特性を有する蓄熱装置を得ることが可能となる。
第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17との接合層19には、炭化ケイ素−シリコン複合体を適用することが好ましい。接合層19を構成する炭化ケイ素−シリコン複合体は、炭化ケイ素粒子と、炭化ケイ素粒子の隙間に網目状に連続して存在するシリコン相とを有する組織を備えることが好ましい。このような炭化ケイ素−シリコン複合体は、第1の炭化ケイ素粒子と炭素とを有する多孔質体に溶融シリコンを含浸し、多孔質体中の炭素を溶融シリコンと反応させて第2の炭化ケイ素粒子を生成すると共に、溶融シリコンの一部をシリコン相として残存させることにより形成することができる。
第1の炭化ケイ素粒子と炭素とを有する多孔質体は、例えば以下のようにして形成される。まず、接合材18として、第1の炭化ケイ素粒子となる炭化ケイ素粉末と炭素粉末と室温硬化型樹脂およびその硬化剤とを含有する粘性材料(接合用材料)を用意する。炭化ケイ素粉末は0.5〜5μmの範囲の平均粒子径を有することが好ましい。炭素粉末は0.3〜3μmの範囲の平均粒子径を有することが好ましい。さらに、粘性材料中の全粉末成分に対する炭化ケイ素粉末の体積比は18〜60%の範囲とすることが好ましく、炭化ケイ素粉末と炭素粉末との合計質量比は粘性材料全体の29〜55%の範囲とすることが好ましい。これら各数値の限定理由については後述する。
次いで、蓄熱材(図示せず)が収容された第1のセラミックス部材16の開口部上に、上記した粘性材料からなる接合材18を介して第2のセラミックス部材17を配置する。溶融シリコンの供給源としてはシリコン箔等を用いることができる。粘性材料を第2のセラミックス部材17の接合面に塗布する場合、シリコン箔は粘性材料と接触するように第1のセラミックス部材16の接合面に配置される。あるいは、第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17との間に粘性材料を配置した場合、シリコン箔はその周囲に巻き付けるようにして配置してもよい。粘性材料とシリコン箔とが接していれば、熱処理時において多孔質体内に溶融シリコンを十分に供給することができる。
次に、粘性材料中の室温硬化型樹脂を室温下で硬化させて固化体とする。これによって、第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17とは予備的に接着されるため、熱処理炉への搬送時や取扱い時における蓄熱材のこぼれ等を防止することができる。続いて、粘性材料の固化体に熱処理を施すことによって、室温硬化型樹脂の硬化物を炭化する。これによって、粘性材料の固化体は多孔質化される。そして、このような多孔質体に溶融シリコンを含浸し、多孔質体中の炭素を溶融シリコンと反応させて第2の炭化ケイ素粒子を生成すると共に、溶融シリコンの一部をシリコン相として残存させることによって、炭化ケイ素−シリコン複合体からなる接合層19が形成される。なお、炭化ケイ素−シリコン複合体からなる接合層19の形成条件の詳細については後述する。
カプセル14を構成する第1および第2のセラミックス部材16、17の形状は、図3に示す形状に限られるものではない。容器状の第1のセラミックス部材16と蓋状の第2のセラミックス部材17との接合面の形状は、図4および図5に示すように噛み合せ形状とすることも有効である。図4および図5は第2のセラミックス部材17の接合面に突起を設けると共に、第1のセラミックス部材16の接合面に突起に対応する凹みを設けた接合面を示している。このような接合面の形状によれば、カプセル14の内部に封入する蓄熱材の漏れ等をより確実に抑制することができる。
天候の変動が大きい地域での太陽エネルギーや風力等の再生エネルギーについては、発電と水蒸気電解とを行なう固体電解質燃料電池を備える水素電力貯蔵システムを採用することが電力貯蔵効率の向上に有効である。夜間電力や天候の変動の少ない地域での太陽エネルギー等の再生エネルギーにおいても、発電と水蒸気電解とを行なう固体電解質燃料電池を備える水素電力貯蔵システムを採用することが電力貯蔵効率の向上に有効である。この実施形態の水素電力貯蔵システム10は、発電時に排出される650〜1000℃の熱を蓄熱し、その熱を水蒸気の電解時に使用するため、蓄熱された熱を有効に活用することができる。従って、水素電力貯蔵システムの総合効率を大幅に高めることが可能となる。
次に、本発明に係る水素電力貯蔵システムの第2の実施形態について説明する。図6は本発明の第2の実施形態による水素電力貯蔵システムの構成を模式的に示すブロック図である。図6に示す水素電力貯蔵システム20は、水素と酸化剤ガスとを用いて発電する発電部21と、水蒸気を電気分解する電解部22とを具備している。発電部21には、例えば固体酸化物電解質を備える固体電解質燃料電池が適用される。電解部22には、固体酸化物電解質を備える水蒸気電解セルが適用される。電解部22を構成する水蒸気電解セルは、発電部21を構成する固体電解質燃料電池とは別個の装置である。
第2の実施形態においては、第1の実施形態における電力/水素変換装置11に相当する部分が、発電を行なう燃料電池(発電部21)と水蒸気を電気分解する水蒸気電解セル(電解部22)とに分離されており、それぞれ別個の装置で構成されている。その他の構成は第1の実施形態と同様である。第2の実施形態においては、第1の実施形態のような発電と水蒸気電解との間の運転モードの切り替えが不要であり、より柔軟に発電と水蒸気電解とを行なうことができる。そのため、電力需要の変動等に対してより柔軟に対応でき、電力の安定供給に寄与するものである。さらに、第1の実施形態と同様に、熱を有効利用した水素電力貯蔵システムの総合効率を向上させることができる。
次に、本発明に係る水素電力貯蔵システムの第3の実施形態について説明する。図7は本発明の第3の実施形態による水素電力貯蔵システムの構成を模式的に示すブロック図である。第3の実施形態は高温蓄熱部13と低温蓄熱部31とを備える水素電力貯蔵システム30を示すものである。第3の実施形態の水素電力貯蔵システム30は、第1の実施形態の高温蓄熱部13に加えて低温蓄熱部31を備えている。
第3の実施形態の水素電力貯蔵システム30において、発電時に電力/水素変換装置11で発生した熱は、水蒸気またはこれと熱交換させた熱媒体を通して高温蓄熱部13に蓄熱される。高温蓄熱部13では650〜1000℃の熱が蓄熱される。さらに、高温蓄熱部13で熱交換された後の100〜600℃の熱は、水蒸気またはこれと熱交換させた熱媒体を通して低温蓄熱装置30に蓄熱される。
水蒸気の電解時においては、低温蓄熱部31から放熱された熱で水を蒸発させて水蒸気を生成し、この水蒸気を電力/水素変換装置11の水素極側に供給する。さらに、水蒸気の電解時に必要な熱は、水蒸気または熱媒体を通して高温蓄熱部13から放熱させて供給する。放熱する水蒸気または熱媒体の温度は、例えば600〜900℃とする。電力/水素変換装置11の水素極側では水蒸気の電解により水素が生成して排出されるため、これを水素貯蔵部12に蓄える。同時に、酸素極側では酸素が生成して排出される。
低温蓄熱部31には、図2に示した高温蓄熱部13と同様な構造を有する蓄熱装置が適用される。低温蓄熱部31に用いられる蓄熱材は、100〜200℃の温度域に融点を持ち、融解熱が150kJ/kg以上で、固体および液体の比熱が1kJ/kg・K以上の有機物や溶融塩を用いることが好ましい。そのような蓄熱材を構成する有機物としては、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、アルジトール、尿素等が挙げられる。溶融塩としては、塩化アルミニウム(AlCl3)、塩化鉄(FeCl3)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)、硝酸リチウム(LiNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3)等が挙げられる。
次に、本発明に係る水素電力貯蔵システムの第4の実施形態について説明する。図8は本発明の第4の実施形態による水素電力貯蔵システムの構成を模式的に示すブロック図である。第4の実施形態の水素電力貯蔵システム40は、第2の実施形態と同様に、発電部(固体酸化物電解質を備える固体電解質燃料電池)21と、それとは別個の電解部(固体酸化物電解質を備える水蒸気電解セル)22とを具備している。それ以外の構成については第3の実施形態と同様とされている。
第4の実施形態の水素電力貯蔵システム40は、第2の実施形態と第3の実施形態の特徴を併せ持つものである。第4の実施形態では第3の実施形態のような発電と電解との間の運転モードの切り替えが不要であり、より柔軟に発電と電解を行なうことができる。そのため、電力需要の変動等に対してより柔軟に対応でき、電力の安定供給に寄与するものである。また、第3の実施形態と同様に、高温蓄熱部13に加えて低温蓄熱部31を具備するため、熱を有効利用した水素電力貯蔵システムの総合効率がより向上する。
上述した各実施形態は本発明の水素電力貯蔵システムの例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、第3および第4の実施形態における低温蓄熱部31の構造は、図2に示す高温蓄熱部13と同様のものでなくてもよい。低温蓄熱部31には前述した特許文献3ないし特許文献6のいずれかに記載された潜熱蓄熱装置の構造を適用することができる等、本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
次に、本発明のセラミックス接合用材料とそれを用いたセラミックス複合部材の製造方法の実施形態について説明する。この実施形態によるセラミックス複合部材の製造方法(セラミックス部材の接合方法)は、前述した水素電力貯蔵システムの実施形態におけるカプセル14の形成方法(第1のセラミックス部材16と第2のセラミックス部材17との接合方法)に適用されるものであり、その際の具体的な条件等を示すものである。ただし、この実施形態のセラミックス接合用材料とセラミックス複合部材の製造方法はそれだけに限られるものではなく、各種セラミックス体の接合や補修に適用可能である。
この実施形態のセラミックス接合用材料は、炭化ケイ素粉末と炭素粉末と室温硬化型樹脂とを含有する混合物からなる第1の成分と、第1の成分(混合物)を硬化させる硬化剤(室温硬化型樹脂を硬化させる硬化剤)からなる第2の成分とを具備している。セラミックス接合用材料は、第1の成分と第2の成分とを混合して調製された粘性材料として、セラミックス体の接合や補修に用いられるものである。すなわち、セラミックス接合用材料は、第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)として、複数のセラミックス体を接合したセラミックス接合部材やセラミックス体の一部を補修したセラミックス補修部材等のセラミックス複合部材の製造に使用される。
セラミックス接合用材料を接合や補修に適用するセラミックス体としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、それらを主として含む複合化合物等のケイ化物セラミックスの成形体や焼結体が挙げられる。また、ケイ化物セラミックス以外にも適用可能であり、炭化ホウ素や黒鉛等の炭化物セラミックスに対しても有効である。セラミックス体の具体例としては、炭化ケイ素−炭素複合成形体、炭化ケイ素−シリコン複合焼結体、炭化ケイ素焼結体、窒化ケイ素焼結体、黒鉛が挙げられる。特に、炭化ケイ素系のセラミックス体に対してセラミックス接合用材料は特に有効である。
この実施形態のセラミックス接合用材料は、後に詳述する成形工程、熱処理工程、溶融シリコンの含浸工程等を経て炭化ケイ素(SiC)−シリコン(Si)複合体を形成するものである。SiC−Si複合体は、接合用材料中の炭化ケイ素粉末に基づく第1のSiC粒子と、接合用材料中の炭素成分(炭素粉末や室温硬化型樹脂の硬化物に熱処理(炭化処理)を施して生成された多孔質炭素)と溶融シリコンとの反応により生成された第2のSiC粒子と、第1および第2のSiC粒子の隙間を埋めるSi相(遊離Si相)とを備える。このようなSiC−Si複合体は、複数のケイ素系セラミックス体間を接合する接合部やケイ素系セラミックス体の一部を補修する補修部を構成するものである。
セラミックス接合用材料の第1の成分は、接着性や粘性を付与する成分として室温硬化型樹脂を含有する混合物からなり、また第2成分は第1の成分(混合物)を硬化させる硬化剤からなる。室温硬化型樹脂および硬化剤は室温硬化型樹脂組成物を構成するものであり、室温硬化性を有するエポキシ系樹脂組成物やフェノール系樹脂組成物が使用される。室温硬化型樹脂組成物は室温硬化型樹脂を主成分とする主剤と硬化剤の2成分に分離されており、これらを作業直前に混合して使用する。セラミックス接合用材料では、例えば炭化ケイ素粉末と炭素粉末と室温硬化型樹脂組成物の主剤とを予め混合(第1の成分)しておき、これに硬化剤(第2の成分)を配合してセラミックス体の接合や補修に使用する。
室温硬化型エポキシ系樹脂組成物において、主剤はエポキシ系樹脂組成物の主成分としてビスフェノールA型、ビスフェノールF型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、高分子型、エポキシポリオール等のエポキシ樹脂を含んでいる。主剤はエポキシ樹脂に加えて、一般的にシリカ、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、石英粉末、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機充填剤を含んでいる。なお、第1の成分における炭化ケイ素粉末と炭素粉末も、樹脂組成物における無機充填剤の一部に相当する。さらに、主剤は硬化促進剤、着色剤、カップリング剤等のエポキシ系樹脂組成物に通常添加される各種の充填剤や添加剤、また希釈用の溶剤等を含んでいてもよい。従って、接合用材料の第1の成分は室温硬化型エポキシ樹脂に加えて、無機充填剤、硬化促進剤、着色剤、カップリング剤等の充填剤や添加剤、また希釈用の溶剤等を含むことができる。
室温硬化型エポキシ系樹脂組成物中の硬化剤としては、例えば酸無水物、ポリアミン、ポリアミド、ノボラック樹脂、エピクロルヒドリン等が挙げられる。硬化剤の量(主剤中のエポキシ樹脂に対する量)はその種類や室温での硬化反応機構、さらに粘性材料の室温での硬化度合い等に応じて適宜に設定されるものである。このような室温硬化型エポキシ樹脂の硬化剤が接合用材料の第2の成分として用いられる。
室温硬化型フェノール系樹脂組成物において、主剤はフェノール系樹脂組成物の主成分としてノボラック、レゾール等のフェノール樹脂を含んでいる。主剤はフェノール樹脂に加えて、一般的にシリカ、アルミナ、タルク、クレー、マイカ、石英粉末、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機充填剤を含んでいる。さらに、主剤は硬化促進剤、着色剤、カップリング剤等のフェノール系樹脂組成物に通常添加される各種の充填剤や添加剤、また希釈用の溶剤等を含んでいてもよい。従って、接合用材料の第1の成分は室温硬化型フェノール樹脂に加えて、無機充填剤、硬化促進剤、着色剤、カップリング剤等の充填剤や添加剤、また希釈用の溶剤等を含むことができる。
室温硬化型フェノール系樹脂組成物中の硬化剤としては、例えば酸無水物、ポリアミン、ポリアミド等が挙げられる。硬化剤の量はその種類や室温での硬化反応機構、さらに粘性材料の室温での硬化度合い等に応じて適宜に設定される。硬化剤の量(主剤中のフェノール樹脂に対する量)はその種類や室温での硬化反応機構、さらに粘性材料の室温での硬化度合い等に応じて適宜に設定されるものである。このような室温硬化型フェノール樹脂の硬化剤が接合用材料の第2の成分として用いられる。
この実施形態のセラミックス接合用材料は、室温硬化型樹脂組成物の主剤に炭化ケイ素粉末と炭素粉末とを混合(第1の成分)し、この混合物に硬化剤(第2の成分)を混合して粘性材料(第1の成分と第2の成分との混合物)を調製して使用されるものである。セラミックス接合用材料は、室温硬化型樹脂からなる樹脂成分(液状樹脂成分等の流動性樹脂成分)と、炭化ケイ素粉末や炭素粉末による粉末成分とを有する。セラミックス接合用材料における粉末成分とは炭化ケイ素粉末および炭素粉末を示すものであり、室温硬化型樹脂に予め配合される粉末分は含まないものとする。
セラミックス接合用材料の第1の成分に配合する炭化ケイ素粉末は0.5〜5μmの範囲の平均粒子径を有している。炭化ケイ素粉末の平均粒子径が0.5μm未満であると、第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)に熱処理を施して形成する多孔質体中の各構成成分(炭化ケイ素粉末、炭素粉末、樹脂に基づく炭素分)の分散状態、またそれに溶融Siを含浸して形成するSiC−Si複合体中の構成成分(第2のSiC粒子やSi相)の分布状態が不均一になる。一方、炭化ケイ素粉末の平均粒子径が5μmを超えるとSi相のサイズが大きくなりすぎる傾向がある。いずれの場合にもSiC−Si複合体の強度を十分に高めることができない。
炭素粉末は0.3〜3μmの範囲の平均粒子径を有している。炭素粉末の平均粒子径が0.3μm未満であると凝集しやすく、SiC−Si複合体における第2のSiC粒子やSi相の分布状態が不均一になる。炭素粉末の平均粒子径が3μmを超えるとチョーキング現象が発生しやすくなり、SiC−Si複合体の強度が低下する。ここで、チョーキング現象とは、溶融シリコンとの反応によるSiCの生成時の体積増加で緻密なSiC層が表面側に形成され、内部への溶融シリコンの浸透が妨げられることで、内部の炭素がそのまま残ってしまう現象である。さらに、炭素粉末の平均粒子径が大きすぎるとSi相の平均径が大きくなる傾向があり、接合部や補修部を構成するSiC−Si複合体の強度の低下やバラツキを招くことになる。
セラミックス接合用材料は炭化ケイ素粉末を全粉末成分に対して18〜60体積%の範囲で含んでいることが好ましい。炭化ケイ素粉末の体積比が18体積%未満であると、SiC−Si複合体中で骨材として機能する第1のSiC粒子が不足し、第2のSiC粒子やSi相の分布状態が不均一になりやすい。一方、炭化ケイ素粉末の体積比が60体積%を超えると、SiC−Si複合体中のSi相が多くなりすぎる。いずれの場合にもSiC−Si複合体の強度を十分に発現させることができないおそれがある。炭化ケイ素粉末の全粉末成分に対する体積比は22〜56%の範囲とすることが好ましい。
セラミックス接合用材料における炭化ケイ素粉末および炭素粉末の合計含有量は材料全体の29〜55質量%の範囲とすることが好ましい。このような粉末成分(炭化ケイ素粉末および炭素粉末)の含有量を適用することによって、複数のセラミックス体間を接合する接合部やセラミックス体の一部を補修する補修部を形成する際に、各種の形状、サイズの接合部や補修部を成形しやすい粘性材料(セラミックス接合材料の第1の成分と第2の成分との混合物)を得ることができる。すなわち、セラミックス接合用材料による接合部や補修部の成形性(施工性)を高めることができる。
炭化ケイ素粉末および炭素粉末からなる粉末成分の合計含有量が55質量%を超えると、セラミックス接合用材料の第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)の粘性が高くなりすぎる傾向がある。また、粉末成分の合計含有量が29質量%未満の場合には、逆に第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)の粘性が低くなりすぎるおそれがある。いずれの場合にも、第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)の施工性(成形性)が低下する。セラミックス接合用材料における炭化ケイ素粉末および炭素粉末の合計含有量は29〜40質量%の範囲とすることがより好ましい。
さらに、接合または補修するセラミックス体が焼結体のように緻密質の場合には、粉末成分の含有量が比較的多いセラミックス接合用材料(粉末成分の含有量が55質量%側の接合用材料)を使用することが好ましい。逆に、セラミックス体が圧粉体等の成形体のように多孔質の場合には、粉末成分の含有量が比較的少ないセラミックス接合用材料(粉末成分の含有量が29質量%側の接合用材料)を使用することが好ましい。
セラミックス接合用材料中の粉末成分量が比較的多い(粉末成分の含有量が55質量%側)場合、第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)の保形性が高くなり、セラミックス体に接合しやすくなる。ただし、セラミックス体が圧粉体のように多孔質の場合には、樹脂成分(液状成分)がセラミックス体に吸収されてしまうため、例えばセラミックス体同士を接合しにくくなる。このような場合には、粉末成分量が比較的少ないセラミックス接合用材料(粉末成分の含有量が29質量%側の接合用材料)を使用することが好ましい。このような接合用材料によれば、第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)が圧粉体表面の凹部に食い込んで接着性が向上する。
この実施形態のセラミックス接合用材料において、第1の成分と第2の成分とを混合して調製した粘性材料は、室温硬化型樹脂が有する流動性(液状性等)や粉末成分の配合量等に基づいて適度な粘性が付与されているため、セラミックス体の接合面や補修面に容易に成形することができる。さらに、第1の成分と第2の成分との混合物からなる粘性材料は室温で硬化するため、接合部や補修部に求められる所定の形状を容易に維持することができる。従って、この実施形態のセラミックス接合用材料を用いることによって、各種の形状やサイズのセラミックス体、特に大型構造部材や複雑形状部材を構成するセラミックス体に対して接合部や補修部を容易にかつ精度よく形成することが可能となる。
次に、本発明の実施形態によるセラミックス複合部材の製造方法について、図9を参照して説明する。図9は本発明の製造方法を適用したセラミックス接合部材の製造方法を示す断面図である。なお、本発明の製造方法を適用したセラミックス補修部材の製造方法は、セラミックス接合用材料の第1の成分と第2の成分との混合物(粘性材料)をセラミックス体の補修箇所に配置することを除いて、接合部材の製造方法と同様な工程を適用して実施される。ここでは接合部材の製造方法について主として説明する。
図9は本発明の実施形態によるセラミックス接合部材の製造工程を示している。まず、図9(a)に示すように、被接合部材(基材)となる第1および第2のセラミックス体51、52を用意する。ここでは2個のセラミックス体51、52を接合する工程について述べるが、被接合部材(基材)となるセラミックス体は3個もしくはそれ以上であってもよい。この実施形態をセラミックス補修部材の製造方法に適用する場合には、補修が必要なセラミックス体(基本的には1個のセラミックス体)を用意する。
第1および第2のセラミックス体51、52は、前述したように炭化ケイ素、窒化ケイ素、それらを主として含む複合化合物等のケイ化物セラミックスの成形体や焼結体、また黒鉛等の炭化物セラミックスからなるものであることが好ましい。第1および第2のセラミックス体51、52は、炭化ケイ素−炭素複合成形体、炭化ケイ素−シリコン複合焼結体、炭化ケイ素焼結体、窒化ケイ素焼結体、および黒鉛から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。第1および第2のセラミックス体51、52は同種のセラミックス体または異種のセラミックス体のいずれであってもよい。第1および第2のセラミックス体51、52の一方が成形体で他方が焼結体であってもよい。
この実施形態の接合工程は、特に炭化ケイ素−炭素複合成形体同士の接合、炭化ケイ素−シリコン複合焼結体同士の接合、炭化ケイ素焼結体同士の接合に好適であり、そのような場合により良い結果(接合強度や接合部を含むセラミックス接合部材(複合部材)の強度の向上効果等)を得ることができる。この実施形態をセラミックス補修部材の製造方法に適用する場合も同様であり、炭化ケイ素−シリコン複合焼結体や炭化ケイ素焼結体の補修に適用した場合により良い結果を得ることができる。
セラミックス体51、52を構成する炭化ケイ素焼結体としては、通常の炭化ケイ素粉末の加圧焼結体や液相焼結体、あるいは炭素粉末を含む原料粉末(例えば炭素粉末と炭化ケイ素粉末との混合粉末)の反応焼結体等が挙げられる。セラミックス体51、52としての炭化ケイ素−炭素複合成形体は、炭化ケイ素粉末と炭素粉末との混合粉末の圧粉体であり、これに溶融シリコンを含浸することで炭化ケイ素−シリコン複合焼結体となる。
炭化ケイ素−炭素複合成形体は、例えば炭化ケイ素粉末と炭素粉末との混合粉末に粉体加圧成形や圧力鋳込み成形等の加圧成形を適用して作製される。混合粉末の加圧成形には金型プレス、ラバープレス、冷間等方圧プレス等が適用される。圧力鋳込み成形を適用する場合には、混合粉末を水または有機溶媒中に分散させてスラリーを作製し、このスラリーを適度な圧力下で鋳込み成形する。このような加圧成形を適用することによって、適度な密度(粉体の充填状態)を有する成形体が得られる。
図9(a)に示すように、第1および第2のセラミックス体51、52の間に粘性材料53を配置する。粘性材料53は、炭化ケイ素粉末と炭素粉末と室温硬化型樹脂とを含有する混合物からなる第1の成分と、第1の成分(混合物)を硬化させる硬化剤からなる第2の成分とを混合して調製したものであり、炭化ケイ素粉末54、炭素粉末55および室温硬化型樹脂組成物(主剤と硬化剤とが混合されたもの)56とを有する。粘性材料53中の室温硬化型樹脂を室温下で硬化させて、所望の接合部材形状を有する形状物57を成形する。粘性材料53は形状物57の成形工程で硬化された室温硬化型樹脂の硬化物に基づいて第1および第2のセラミックス体51、52の接合面に接着された固化体となる。
このように、粘性材料53は室温下で固化させることができるため、第1のセラミックス体51と第2のセラミックス体52とを粘性材料53の固化体を介して接着した形状物57を、被接合部材を治具等で固定することなく、容易にかつ精度よく得ることが可能となる。さらに、その後の熱処理工程や溶融シリコンの含浸工程においても形状物57を治具等で固定する必要がないため、セラミックス体51、52や接合部材の形状、サイズ等による制約を緩和することができる。すなわち、各種の形状やサイズのセラミックス体51、52を粘性材料53の固化体により接着することが可能となる。
さらに、粘性材料53は室温下で固化体とすることができるため、例えば第1およびセラミックス体51、52間の距離(接着距離)、ひいては粘性材料53の固化体に基づく接合部の厚さを精度よく制御することが可能となる。接着距離は接着層(粘性材料53の固化体層)の厚さに基づくものであり、さらに溶融シリコンの含浸後における接合層(SiC−Si複合体からなる層)の厚さに相当するものである。接合部(接合層)の厚さは第1のセラミックス体51と第2のセラミックス体52とを接合して構成した接合部材の強度特性等に影響を及ぼす。言い換えると、接合部の厚さを精度よく制御することによって、接合部材の強度やその再現性を高めることが可能となる。
次に、図9(b)に示すように形状物57に熱処理を施して、室温硬化型樹脂の硬化物を炭化する。室温硬化型樹脂の硬化物は熱処理で分解されて炭素の多孔体58となり、この多孔体58中に炭化ケイ素粉末54や炭素粉末55が分散された状態となる。このような熱処理(炭化処理)に基づいて粘性材料53の固化体を多孔質体59とする。室温硬化型樹脂の硬化物を炭化するための熱処理は400〜1300℃の範囲の温度で実施することが好ましい。熱処理を減圧雰囲気で実施する場合は1Pa以下とすることが好ましい。このような条件下で熱処理工程を実施することで多孔質体59の形成性が向上する。
この後、多孔質体59に溶融シリコンを含浸することで、図9(c)に示すように第1および第2のセラミックス体51、52をSiC−Si複合体60からなる接合部を介して接合したセラミックス接合部材61を作製する。溶融シリコンの含浸工程は、多孔質体59を有する形状物57を減圧雰囲気中にて1400〜1500℃の範囲の温度に加熱し、この加熱状態の多孔質体59に溶融シリコンを減圧雰囲気下で含浸(真空含浸)することにより実施される。真空含浸時の減圧雰囲気は1Pa以下であることが好ましい。
セラミックス補修部材を作製する場合には、炭化ケイ素−シリコン複合焼結体や炭化ケイ素焼結体等からなるセラミックス体の補修箇所、例えば欠けやクラック等が生じた箇所に粘性材料(第1の成分と第2の成分との混合物)を塗布して成形する。補修箇所が深さを有する場合には、その部分に粘性材料を充填する。この後、粘性材料を塗布したセラミックス体に、上述した熱処理工程(炭化工程)および溶融シリコンの含浸工程を施すことによって、所望形状のセラミックス補修部材を作製する。
多孔質化された粘性材料53の固化体(多孔質体59)内に存在する炭化ケイ素粉末54は、溶融シリコンの含浸工程においてもほとんど粒成長しないため、炭化ケイ素粉末54の平均粒子径とほぼ同等の粒径を有する第1のSiC粒子62となる。多孔質体59中の炭素成分、すなわち炭素粉末55や室温硬化型樹脂組成物56に由来する炭素58は、高温下で溶融シリコンと接触して反応し、炭化ケイ素(第2のSiC粒子63)を生成する。さらに、多孔質体59内には溶融シリコンが一部残存し、これが第1および第2のSiC粒子62、63の隙間にSi相64として存在することになる。
セラミックス体51、52が炭化ケイ素−炭素複合成形体等である場合には、多孔質体59と同時に2個の成形体にも溶融シリコンを含浸する。溶融シリコンの含浸工程において、2個の炭化ケイ素−炭素複合成形体は溶融シリコンと反応して炭化ケイ素−シリコン複合焼結体となる。すなわち、溶融シリコンの含浸工程で反応焼結させた2個の炭化ケイ素−シリコン複合焼結体を、これらと同時に反応させて形成したSiC−Si複合体60からなる接合部で一体化したセラミックス接合部材61を作製する。炭化ケイ素−シリコン複合焼結体は、接合部としてのSiC−Si複合体60と同様な組織を有する。
SiC−Si複合体60からなる接合部は、第1および第2のSiC粒子62、63とそれらの隙間に網目状に連続して存在するSi相64とを備える。すなわち、SiC粒子62、63の隙間をSi相64で埋めた緻密な組織を有する。補修部をSiC−Si複合体で構成する場合にも同様な組織を有する。炭素成分と溶融シリコンとの反応に基づく第2のSiC粒子63は、粘性材料53中に配合された炭化ケイ素粉末54に基づく第1のSiC粒子62より小さい平均粒径を有する。炭化ケイ素粉末54や炭素粉末55の平均粒子径とそれに基づく第1および第2のSiC粒子62、63の平均粒径に基づいて、均質な複合組織(SiC粒子62、63の隙間に大きさが均質なSi相64を連続して存在させた組織)を有するSiC−Si複合体60が得られる。
さらに、SiC−Si複合体60は粘性材料53中の炭化ケイ素粉末54の全粉末成分に対する配合量(体積比で18〜60%)に基づいて適量のSiC粒子62、すなわち平均粒径が比較的大きい第1のSiC粒子62を有している。第1のSiC粒子62の含有量と炭化ケイ素粉末54の平均粒子径に基づくSiC粒子62の平均粒径等に基づいて、SiC−Si複合体60中の第2のSiC粒子63やSi相64の分布状態が均一化され、さらにSiC−Si複合体60の緻密性も向上する。これらによっても、SiC−Si複合体60の強度やその再現性を高めることが可能となる。
SiC−Si複合体60において、Si相64はSiC粒子62、63の隙間を埋めるだけでなく、SiC粒子62、63の隙間に網目状(ネットワーク状)に連続して存在していることが好ましい。Si相64の網目構造が分断されると、チョーキング現象(溶融シリコンの供給経路が断たれて炭素の反応が止まる現象)の発生を招き、残留炭素量が増大してSiC−Si複合体60からなる接合部の強度が低下するおそれがある。言い換えると、SiC粒子62、63の隙間にSi相64を連続して存在させることによって、緻密で高強度の接合部を得ることが可能となる。
上述したセラミックス接合部材(複合部材)の製造工程において、多孔質体59は0.5〜5μmの範囲の平均気孔径を有することが好ましい。多孔質体59の平均気孔径は水銀圧入法を用いて円柱と仮定して求めた径の平均値を示すものとする。このような平均気孔径を有する多孔質体59に溶融シリコンを含浸することによって、SiC−Si複合体60中のSi相(遊離Si相)64の分布状態や平均径等に基づいて強度特性(SiC−Si複合体60の接合強度、SiC−Si複合体60自体の強度、SiC−Si複合体60を含む接合部材61の強度等)を向上させることが可能となる。
多孔質体59の平均気孔径が0.5μm未満であると、溶融シリコンの供給経路が断たれて残留炭素量の増大を招いたり、また炭素から炭化ケイ素を生成する際の体積膨張で割れが発生しやすくなる。多孔質体59の平均気孔径が5μmを超えるとSi相64の量が増大する。これらはいずれもSiC−Si複合体60の強度を低下させる。さらに、多孔質体59の平均気孔径が大きすぎると溶融シリコンを含浸する前に割れ等が生じやすくなり、セラミックス接合部材61の製造歩留りや強度が低下する。
さらに、Si相54は0.2〜2μmの範囲の平均径を有することが好ましい。Si相64の平均径はSiC粒子62、63間の平均距離に相当する。Si相64の平均径は以下のようにして求めた値を示すものとする。まず、SiC−Si複合体60を有するセラミックス接合部材61を減圧下で1600℃に加熱し、SiC−Si複合体60中の遊離Siを除去する。Si相64の平均径は、遊離Siを除去して形成された細孔の径を、水銀圧入法を用いて円柱と仮定して求めた径の平均値を示すものとする。この値はSiC−Si複合体60の微構造を金属顕微鏡やSEMで断面観察した結果と一致する。
Si相64の平均径が小さいということは、強度が低いSi相64が微細化されていることを意味する。さらに、SiC粒子62、63の隙間にSi相64が均質に分布していることを意味する。SiC粒子62、63の隙間はSi相64で満遍なく充填されている。このように、Si相64の平均径を0.2〜2μmの範囲に制御することによって、SiC−Si複合体60からなる接合部の強度、さらに接合部を含むセラミックス接合部材61としての強度を再現性よく高めることが可能となる。
Si相64の平均径が2μmを超える場合には、強度が低いSi相64が偏析されている状態に近くなり、SiC−Si複合体60の強度に対するSi相64の影響が大きくなる。従って、SiC−Si複合体60の強度やセラミックス接合部材61の強度が低下しやすくなる。Si相64の平均径が0.2μm未満になると、連続した網目状の構造を維持することが困難となる。これによって、SiC−Si複合体60に空孔や遊離炭素が生じやすくなり、接合部の強度にばらつきが生じやすくなる。補修部をSiC−Si複合体で構成する場合も同様である。
Si相64の平均径は、溶融シリコンを含浸する前の多孔質体59の平均気孔径や粘性材料53に配合された炭化ケイ素粉末54や炭素粉末55の平均粒子径に基づいて制御することができる。すなわち、平均粒子径が0.5〜5μmの範囲の炭化ケイ素粉末54と平均粒子径が0.3〜3μmの範囲の炭素粉末55を用いると共に、多孔質体59の平均気孔径を0.5〜5μmの範囲に制御することによって、微細で均質なSi相64(例えば平均径が0.2〜2μmの範囲のSi相64)を得ることが可能となる。
セラミックス複合部材の製造工程において、溶融シリコンの含浸工程は1400〜1500℃の範囲の温度下で実施することが好ましい。溶融シリコンの含浸雰囲気は1Pa以下の減圧雰囲気とすることが好ましい。このような条件下で溶融シリコンの含浸工程を実施することによって、溶融シリコンの含浸性やSiC粒子63の形成性が向上すると共に、Si相64中の微細なポア(マイクロポアやナノポア)を大幅に減少させることができる。従って、SiC−Si複合体60の強度やその再現性を高めることが可能となる。
この実施形態のセラミックス接合部材61の製造工程では、2個のセラミックス体51、52を粘性材料53で接着する際に、接合部を所定の形状に成形したままの状態で硬化させることができるため、大型構造部材や複雑形状部品等に適用可能であると共に、接合部の形状精度を高めることができる。従って、強度や熱的特性等の材料特性のばらつきを抑制した接合部を得ることが可能となる。
上述した接合部によれば、それ自体の材料特性の向上に加えて、接合部を有するセラミックス接合部材61の材料特性やその再現性を向上させることが可能となる。また、被接合部材を治具等で固定する必要がないため、セラミックス接合部材61の製造コストや製造工数を低減することが可能となる。なお、接合部材の形状が複雑な場合や接合個所が多岐にわたるような場合において、治具等の使用を妨げるものではない。
さらに、セラミックス接合部材61の製造工程において、SiC−Si複合体60からなる接合部はセラミックス体51、52への接合強度に優れるだけでなく、それ自体の強度やその再現性に優れる。従って、複数のセラミックス体51、52を高強度に接合することができると共に、セラミックス接合部材61の強度を再現性よく高めることができる。これらによって、複雑形状や大型の構造部材や部品に好適な高強度のセラミックス接合部材61を低コストで提供することが可能となる。また、この実施形態の製造工程をセラミックス補修部材の製造に適用した場合も同様であり、セラミックス補修部材の高強度化、形状精度の向上、低コスト化等を図ることができる。
上述したセラミックス接合部材61やセラミックス補修部材等の複合部材は、強度等の機械的特性を再現性よく高めることできるため、高強度が求められる各種部材や部品に適用することが可能となる。特に、大型構造物や複雑形状部品等の高強度化に大きく寄与する。セラミックス複合部材は、半導体製造装置用治具、半導体関連部品(ヒートシンクやダミーウエハ等)、ガスタービン用高温構造部材、蓄熱器用高温部材、宇宙および航空用構造部材、メカニカルシール部材、ブレーキ用部材、摺動部品、ミラー部品、ポンプ部品、熱交換器部品、化学プラント要素部品等、各種の装置部品や装置部材に適用することができる。特に、高強度が求められる装置部品や部材に好適に用いられる。
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
(粘性材料1〜6)
以下のようにして粘性材料1〜6を作製した。まず、室温硬化型樹脂組成物として室温硬化性を有するエポキシ系樹脂組成物とフェノール系樹脂組成物とを用意した。表1に示す室温硬化型樹脂組成物の主剤に、平均粒子径が0.5〜5μmの範囲の炭化ケイ素粉末と平均粒子径が0.3〜3μmの範囲の炭素粉末とを添加して混合した。炭化ケイ素粉末および炭素粉末の平均粒子径、粘性材料における炭化ケイ素粉末の体積比および炭化ケイ素粉末と炭素粉末との合計質量比は表1に示す通りである。
上述した室温硬化型樹脂組成物の主剤と炭化ケイ素粉末と炭素粉末との混合物に、室温硬化型樹脂組成物の硬化剤を添加し、十分に混合して粘性材料1〜6とした。なお、室温硬化型樹脂組成物の硬化剤は、後述する実施例1〜15のセラミックス複合部材の作製工程で粘性材料を施工する直前(接合部材ではセラミックス体の接合面間に配置する直前、補修部材ではセラミックス体の一部に配置する直前)に混合した。粘性材料1〜6の具体的な構成は表1に示す通りである。
(実施例1)
平均粒子径が0.8μmの炭化ケイ素粉末と平均粒子径が0.4μmの炭素粉末(カーボンブラック)とを、質量比で10:3(=SiC:C)となるように混合した。この混合粉末を適当量の有機バインダと共に混合した後、溶媒中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを圧力鋳込み成形機を用いて成形型内に加圧しながら充填した。このようにして、2個のSiC−C複合成形体(圧粉体)を作製した。
次に、2個のSiC−C複合成形体の接合面間に表1の粘性材料1を配置した後、室温硬化型樹脂組成物を硬化させて所望の接合部材形状を有する形状物を成形した。この形状物を窒素またはアルゴン雰囲気中にて1000℃の温度に加熱して、室温硬化型樹脂組成物の硬化物を炭化した。この炭化処理で粘性材料の固化体は多孔質体となる。多孔質体の平均気孔径は1.0μmであった。この後、2個の成形体を多孔質体で繋げた形状物を、1Pa以下の減圧雰囲気中にて1450℃の温度に加熱しながら、2個の成形体および接合部を構成する多孔質体に溶融シリコンを含浸した。
溶融シリコンの含浸工程において、2個の成形体を溶融シリコンと反応させてSiC−Si複合焼結体とすると共に、これらを多孔質体と溶融シリコンとの反応生成物であるSiC−Si複合体で接合した。このようにして得たセラミックス接合部材について、SiC−Si複合体からなる接合部の表面を研磨加工した後、微構造を電子顕微鏡で観察した。その結果、接合部はSiC粒子の隙間にSi相が網目状に連続して存在する組織を有していることが確認された。Si相の平均径は0.7μmであった。このようなセラミックス複合部材を後述する特性評価に供した。
(実施例2)
実施例1と同様に作製した2個のSiC−C複合成形体を不活性ガス雰囲気中にて600℃の温度で加熱・保持し、有機バインダを除去した。脱脂後の成形体を1×10-1Paの減圧雰囲気中にて1450℃の温度に加熱し、この加熱状態を維持した成形体に溶融シリコンを含浸した。溶融シリコンの含浸工程で成形体を反応焼結(SiCの生成並びにSi相による緻密化)させることによって、2個のSiC−Si複合焼結体を作製した。
次に、2個のSiC−Si複合焼結体の接合面間に表1の粘性材料2を配置した後、室温硬化型樹脂組成物を硬化させて所望の接合部材形状を有する形状物を成形した。この形状物を不活性雰囲気中にて800℃の温度に加熱して、室温硬化型樹脂組成物の硬化物を炭化した。この炭化処理で粘性材料の固化体は多孔質体となる。多孔質体の平均気孔径は0.8μmであった。この後、2個の焼結体を多孔質体で繋げた形状物を、1Pa以下の減圧雰囲気中にて1400〜1500℃の温度に加熱しながら、接合部を構成する多孔質体に溶融シリコンを含浸した。
溶融シリコンの含浸工程において、2個のSiC−Si複合焼結体を多孔質体と溶融シリコンとの反応生成物であるSiC−Si複合体で接合した。このようにして得たセラミックス接合部材について、SiC−Si複合体からなる接合部の表面を研磨加工した後、微構造を電子顕微鏡で観察した。その結果、接合部はSiC粒子の隙間にSi相が網目状に連続して存在する組織を有していることが確認された。Si相の平均径は0.5μmであった。このようなセラミックス複合部材を後述する特性評価に供した。
(実施例3〜10)
被接合部材としてSiC−C複合成形体、SiC−Si複合焼結体、粉末焼結法によるSiC焼結体、Si3N4焼結体を用意した。これらを表2に示す組合せに基づいて接合してセラミックス接合部材を作製した。接合工程は実施例1、2と同様にして実施した。接合に使用した粘性材料は表2に示す通りである。表3に接合部の構成を示す。各セラミックス接合部材の接合部はいずれもSiC粒子の隙間にSi相が網目状に連続して存在する組織を有していた。各セラミックス接合部材を後述する特性評価に供した。
(比較例1)
実施例2と同様に作製した2個のSiC−Si複合焼結体の間にシリコン箔を挟み、これらを治具で固定した後に、シリコン箔が溶ける温度まで加熱して接合した。このようにして得たセラミックス接合部材を後述する特性評価に供した。
(比較例2)
実施例1と同様に作製した2個のSiC−C複合成形体の接合面に、炭化ケイ素粉末や炭素粉末等を溶媒中に分散させたスラリーを塗布して接着し、これらを治具で固定した後に、実施例1と同様にして溶融シリコンを含浸した。このようにして得たセラミックス接合部材を後述する特性評価に供した。
実施例1〜10および比較例1〜2による各セラミックス接合部材の接合強度の測定(4点曲げ試験)をJIS R 1624に準拠して実施した。その結果を表3に示す。表3にはセラミックス接合部材の製造過程で形成した多孔質体の平均気孔径、さらに最終的なセラミックス接合部材におけるSi相の平均径を併せて示す。さらに、各例による製造工程の適用範囲を検討し、大型構造部材や複雑形状部品等にも適用可能な場合を○、実用的に適用が困難な場合を×として示した。
表3から明らかなように、実施例1〜10のセラミックス接合部材は比較例1〜2に比べての接合強度等の機械的特性がいずれも優れていることが分かる。接合部は基材のSiC−Si複合焼結体等と同等の特性を有していることが確認された。さらに、実施例1〜10による接合部は熱伝導率等の熱的特性にも優れていることが確認された。なお、熱伝導率はJIS R 1611に準拠して測定した。また、実施例1〜10は各種形状およびサイズの部材や部品に適用することができる。サイズに関してはメートル級の大型構造部材に対して適用できることが確認された。
比較例1では加熱時に接合形状を維持すると共に、挟んだシリコン箔が脱落しないように治具等で固定しなければならない。さらに、溶融したシリコンが溶け落ちないような状態で加熱しなければならない。このため、各種形状やサイズの部品、特に大型構造部材や複雑形状部品への適用は困難である。比較例2によるスラリーで接着、乾燥した状態ではほとんど強度を有していないため、各種形状やサイズの部品、特に大型構造部材や複雑形状部品に比較例2の製造工程を適用することは困難である。
(実施例11)
実施例2と同様にしてSiC−Si複合焼結体を作製し、これに補修部を形成するための切り欠き部を形成した。切り欠き部の大きさは20mmとした。このSiC−Si複合焼結体の切り欠き部に、表1の粘性材料2を塗布して充填した後、室温硬化型樹脂組成物を硬化させた。このSiC−Si複合焼結体を不活性雰囲気中にて1000℃の温度に加熱して、室温硬化型樹脂組成物の硬化物を炭化した。この炭化処理で粘性材料の固化体は多孔質体となる。多孔質体の平均気孔径は0.5〜2.0μmであった。この後、SiC−Si複合焼結体を1Pa以下の減圧雰囲気中にて1450℃の温度に加熱しながら、補修部を構成する多孔質体に溶融シリコンを含浸した。
溶融シリコンの含浸工程において、SiC−Si複合焼結体の切り欠き部を多孔質体と溶融シリコンとの反応生成物であるSiC−Si複合体で補修した。このようにして得たセラミックス補修部材について、SiC−Si複合体からなる補修部の表面を研磨加工した後、微構造を電子顕微鏡で観察した。その結果、補修部はSiC粒子の隙間にSi相が網目状に連続して存在する組織を有していることが確認された。Si相の平均径は0.2〜1.2μmであった。このようなセラミックス補修部材の強度を測定したところ、補修部を有しないSiC−Si複合焼結体と同等の強度を有することが確認された。
(実施例12〜15)
被補修部材としてSiC−Si複合焼結体、SiC−C複合成形体、および粉末焼結法によるSiC焼結体を用意した。これらを表4に示す組合せに基づいて補修してセラミックス補修部材を作製した。補修工程は実施例11と同様にして実施した。補修に使用した粘性材料は表4に示す通りである。各セラミックス補修部材の強度を測定した結果を表5に示す。表5には補修部の構成を併せて示す。
表5から明らかなように、SiC−Si複合体で補修部を形成したセラミックス補修部材は、いずれも補修部を有しない焼結体と同等の強度を有しており、SiC−Si複合体からなる補修部の有効性が確認された。さらに、補修材料として使用した粘性材料は成形時に固化させることができるため、補修部の形状精度を高めことが可能となる。従って、補修したセラミックス部材の信頼性や補修歩留りが向上する。