JP5766585B2 - 頭蓋内圧測定装置および測定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、外耳道内および体表面に生体センサを設置して、データ処理を行うことで頭蓋内圧を測定する、頭蓋内圧測定装置および測定方法に関する。
人間の頭部には、脳をはじめ多くの器官や神経が集中しており、この部位における生体情報を測定することは、健康管理、疾病予防の観点から大変意義深い。特に頭蓋内圧(ICP、または頭蓋内圧ともいう)は、生体恒常性によって常に一定に保たれており、頭蓋内圧が亢進、または低下してしまうと、場合によって生命に関わる重篤な疾病を引き起こすことが知られている。また、頭蓋内圧は、脳損傷、脳卒中、頭蓋内出血等の治療や診断を行う際の指標として使用されている。このため、頭蓋内圧については、その測定方法の確立は、特に重要な意義が見出されている。
従来の頭蓋内圧測定には、頭蓋骨の直下に圧電センサを入れる方法(特許文献1、非特許文献1、2)と、側脳室に直接チューブを差し込んでそこから立ち上がる水柱の圧を測る方法(特許文献2、非特許文献3)が一般的に知られている。しかし、上記の手法はいずれも、頭蓋骨に穿孔し、内部にセンサやチューブを設置する必要があり、被測定者の侵襲性の高く、また、測定中には絶対安静を要するものであった。また、頭蓋内圧は、一度の瞬間値のみによって測定、評価することが困難で、ある程度の時間をかけて連続値を測定すること一般的である。そうした際に、被測定者に菌の感染が起こる危険性があるため、これに対する対策についても考慮する必要があった。このため、被測定者の負担の少ない、即ち侵襲性の低い頭蓋内圧の測定技術が数多く研究されてきた。
これまで報告されてきた頭蓋内圧の測定法として、例えば、被測定者の頭蓋骨内に造影剤を注入し、NMR測定によって測定する技術について報告がある(特許文献3)。また、被測定者の頭蓋骨内に造影剤を注入し、その部位に微細な泡を発生させ、その低周波応答を取得し、共振周波数を解析する技術について報告がある(特許文献4)。また、被測定者の眼球に赤外線をあて、反射光のFT-IR分析を行うことで、頭蓋内圧測定を行う技術について報告がある(特許文献5−7)。更に、脳周辺の部位から、生体情報を非侵襲的に検出する技術として、外耳道内脈波を測定する技術について報告がある(特許文献8−15)。また、動脈血圧と中大脳動脈の血流について音響データを測定し、それらの非線形相関を取ることで頭蓋内圧の算出を行う報告がある(特許文献16)。また、医学的な動物実験では、猫の外耳道圧波、動脈圧波、頭蓋内圧波の同時記録から、血圧上昇時には外耳道圧の振幅が増大し、頭蓋内圧上昇時には動脈圧波から外耳道圧波への伝播時間が短くなること(非特許文献4)、犬の(外耳道内圧波の主成分である)動脈圧波と頭蓋内圧波の測定から、伝達関数上にノッチが現れ、それが脳内圧(脳脊髄液圧)変化の影響を受けていることが分かっている(非特許文献5)。
特表2008−539811号公報 特開平5−300880号公報 特開2001−346767号公報 特開2006−230504号公報 特表2002−513310号公報 特開2007−301215号公報 特表2008−543352号公報 特開平8−84704号公報 特開2000−121467号公報 特表2004−528104号公報 特開2006−102163号公報 特表2006−505300号公報 特開2008−237847号公報 特開2010−17317号公報 特開2010−187928号公報 特表2006−526487号公報
Neurosurgery. 2003 Mar;52(3):619-23; discussion 623. Korean J Cerebrovasc Dis. 2002 Mar;4(1):52-57. Korean. Neurologia medico-chirurgica 29(6), 484-489, 1989-06-15 慶応医学, Vol.72(6), pp.497-509, 1995. J. Neurosurg Pediatrics, Vol.2, pp.83-94, 2008.
しかし、頭蓋内圧の測定は、救急医療の現場において使用される可能性があり、この場合は、装置が簡素であり、かつ非侵襲である必要があるところ、特許文献3、4は、頭蓋骨に薬剤注入用の穿孔をする必要があり、手術を要し侵襲製がある点、感染症の危険性が残る点で課題があった。また、人に関する生体情報をセンサによって測定する場合には、単純な物理情報や化学情報だけでなく、一つの物理量で記述できない複合量である場合や、数値で表せない状態であることが知られている。このため、被測定者から正確に情報を得るためには、得られたデータの詳細な解析を要するところ、特許文献5−15には、こうした開示がなく、正確なデータを得られるか不明なままであるという課題があった。また、開示された測定方法からは、定性的なデータしか得ることができず、被測定者の定量的な数値を得ることができないという課題があった。また、データの取得に磁気や音波の刺激を与える必要があり、こうした機器が被測定者周辺に設置する必要があるため、被測定者の姿勢変化に伴うリアルタイムの頭蓋内圧データを動的に取得する事が困難であるという課題があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、非侵襲的であり、かつ簡便な装置を用いることにより、被測定者に負担なくリアルタイムに頭蓋内圧を測定することを可能にする、頭蓋内圧測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置および測定方法は、
結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置と、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクを備えた体表面情報検出装置と、前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置とに接続された演算処理部と、を備えることを特徴とする。
また、前記外耳道情報検出装置と、被測定者のもう一方の外耳道に設置して生体情報を検出するための別の外耳道情報検出装置と、前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置とに接続された演算処理部と、を備えることを特徴とする。
また、請求項2記載の頭蓋内圧測定装置を用いて被測定者の頭蓋内圧を測定する方法であって、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置によって被測定者の外耳道から生体情報を検出する外耳道情報検出工程と、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置によって被測定者のもう一方の外耳道から生体情報を検出する別の外耳道情報検出工程と、前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置とに接続された演算処理部によって、前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置から得られた情報を、伝達関数法を用いて処理する演算処理工程と、を備えることを特徴とする。
また、請求項1記載の頭蓋内圧測定装置を用いて被測定者の頭蓋内圧を測定する方法であって、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置によって、被測定者の外耳道から生体情報を検出する外耳道情報検出工程と、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクを備えた体表面情報検出装置によって、被測定者の体表面から生体情報を検出する体表面情報検出工程と、前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置とに接続された演算処理部によって、前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置から得られた情報を、伝達関数法を用いて処理する演算処理工程と、を備えることを特徴とする。
また、被検体の外耳道に挿入して生体情報を検出するための生体情報検出装置であって、結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクと、耳栓を有する外耳道密閉装置と、を備えることを特徴とする。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置は、外耳道内に設置された外耳道情報検出装置によって、耳朶脈波等の生体情報を検出し、別の部位に設置された別の情報検出装置から取得した心拍数や呼吸等の情報と併せて速度変位変換を行い、これらを演算処理部で演算することによって、動的な生体情報、特に頭蓋内圧の変化を算出することを可能にするものである。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置は、密閉された外耳道内での内圧の変化をセンサで検出することで、生体情報を検出する。この際、密閉された外耳道内にエレクトレットコンデンサマイクを設置して検出を行うことによって、内圧変化を増幅回路等で増幅させることなく、直接検出することが可能になる。これは、前記マイクを構成するエレクトレットにあらかじめ分極処理が施されているため、外耳道内の振動を直接出力できるためである。また、前記マイクより出力された信号は、AD変換すれば解析処理に直接使用することができるため、信号の直流成分を遮断するための結合コンデンサを要しない。
図1は、密閉外耳道内の音響管モデルを示す。図中のloはマイクから鼓膜までの距離であり、およびSは外耳道のマイク位置における断面積である。このとき、ピストンホンの原理に基づき、数式1に示す断熱変化の状態方程式が成り立つ。
ここで、Pは圧力、Vは体積、γは空気の比熱比である。次に数式1を全微分すると、数式2が得られる。
したがって、数式2を整理し、外耳道内の体積変化量から変換した微少変位量δlは、数式3で与えられる。なお、式中のPoは静圧である。
具体的な数値として、実験室内気圧が968hPaの時、外耳道内温度36℃の静圧P0は0.9874×105Paで与えられる。また空気の比熱比γは1.4034kg/m3であり、耳栓型マイクロホンを挿入したときの長さl0は平均1.65×10-2mであるから、音圧振幅δPを1Paと仮定すると、鼓膜変位量δlは119nmと推定できる。
本発明における測定方法では、頸動脈脈波を入力信号とし、外耳道内脈波を出力信号として伝達関数を推定する。その入力信号ベクトルをx、出力信号ベクトルをyとする。ただし両ベクトルは同じ長さとする。このとき、観測データをフーリエ変換することで、直接スペクトルを推定することができる。この方法をFFT法といい、このときの伝達関数H(ω)は、FFT法により求められるxとyのクロススペクトルP_xy(ω)と、xのパワースペクトルP_xx(ω)を用いて、次に示す数式4で与えられる。
一般的に、有限個のデータ系列におけるパワースペクトルを推定するためのピリオドグラムP(ω)は窓関数WR(n)を用いて次式で与えられる。ここで、Δtはサンプリング間隔である。また、窓関数WR(n)はハニング窓を用いた。
以下では、頸動脈脈波から外耳道内脈波を推測する線形予測モデルを検討する。MATLAB(MathWorks)では、System Identification Toolbox を使用して容易に最適な推定モデルを選定できる。入力信号 u(t)、出力信号 y(t)をもつ1入出力システムに対する線形モデルは一般的に次式で与えられる。
ここで、nkは入力から出力への遅れの数、e(n)は予測誤差である。また、数式4の関数A、Bi、C、D、Fiはシフトオペレータ q^(-1)の多項式で、それぞれ次式で与えられる。ただしna、nb、nc、nd、nfは各々の多項式の次数である。
数式6を使った特別な場合としての線形モデルは、それぞれ次式で与えられる。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置の演算処理部で行う演算では、伝達関数法という方法を用いる。これは、2個所から得られた信号を、入力信号と出力信号とに分けてその伝達関数を求めることで一般式を導き出す方法である。これにより、一つのセンサから得られた信号から、もう一方のセンサの信号を推定することが可能になり、これと、実測された信号とを比較することで、被測定者の状態について評価することが可能になる。例えば、外耳道内脈波と、頸動脈脈波から得られたデータについて、脈波伝搬遅延時間を検出し、この際の伝達関数の変動から、被測定者の状態や姿勢による頭蓋内圧の変化を検出することが可能になる。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置は、最少の構成によっては、例えば耳栓型の外耳道情報検出装置と、例えば聴診器型の体表面情報検出装置と、これらにコードで接続された電源装置と、A/D変換器と、演算装置のみによって構成することが可能なため、簡易で小型なシステムを構成することが可能になる。このため、測定時における被測定者の負担が少なく、本発明に係る測定装置を装着した状態で、被測定者はその姿勢を変化させることが可能になる。またその際、姿勢変化に伴う頭蓋内圧の変動について、動的なデータを測定することが可能になる。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置において、外耳道情報検出装置は、左右いずれの耳に設置することも可能であるし、装置構成中に外耳道情報検出装置を二つ設けて、左右両方の耳に設置することも可能である。また、体表面情報検出装置は、測定の際に、被測定者の体表面に設置する必要があるが、この部位に特に制限はなく、心拍数や呼吸に関する情報を得ることができれば、いずれの部位であっても適用が可能である。また、装置構成中に体表面情報検出装置を複数設けて、被測定者の複数部位に設置することも可能である。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置に用いる外耳道情報検出装置に用いるエレクトレットコンデンサマイクの種類については、特に制限はなく、直流バイアスを使用せずに外耳道内の内圧の変動を検出することができる圧力センサ、音センサであればいずれも適用可能である。ただし、生体に関する情報を検出するために、低周波領域の波長の圧力変化を正確に検出するものであると好適である。例えば、呼吸器系の変動成分であれば、0.1から1Hzの周波数を検出する必要があり、循環器系の変動成分については、1から100Hz程度の周波数を検出する必要がある。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置に用いる外耳道密閉装置について、使用される耳栓は、その種類や形状に特に制限はなく、外耳道を十分に密閉し、内部の圧力を一定に保つことが可能なものであればいずれも適用が可能である。ただし、シリコン樹脂製の耳栓が好適である。
本発明に係る演算処理装置は、使用するハードウェアに特に制限はなく、電子的に演算処理を行い出力することが可能な機器であればいずれも適用可能である。ただし、救急車等の移動体での測定に適用できるよう装置全体が小型化されている必要があるため、ノートパソコン、PDA、スマートフォン、タブレット端末などの小型電子機器が好適である。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置および測定方法によれば、簡易小型な装置でありながら、被測定者の頭蓋内圧を高い分解能でリアルタイム測定することが可能な、非侵襲的頭蓋内圧測定装置および方法を提供することが可能になる。
密閉外耳道内音響管モデルである。 外耳道情報検出装置の断面図である。 外耳道内脈波音圧波形のグラフである。 呼吸器系脈動を示すグラフである。 血液循環器系脈動を示すグラフである。 体表面情報検出装置の断面図である。 測定器の全体図である。 測定ブロック図である。 左右外耳道内脈波及び頸動脈脈波波形を示すグラフである。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間の遅延特性(1st)である。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間の遅延特性(7th)である。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間の遅延特性(8th)である。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間のゲイン特性(1st)である。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間のゲイン特性(7th)である。 頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間のゲイン特性(8th)である。 各線形予測モデルと実測値(立位)を比較したグラフである。 各線形予測モデルと実測値(仰臥位)を比較したグラフである。 起きた時の定常状態における伝達関数を示すグラフである。 寝た時の定常状態における伝達関数を示すグラフである。 過渡状態(102〜110s間)における伝達関数を示すグラフである。 過渡状態(106〜114s間)における伝達関数を示すグラフである。 過渡状態(110〜118s間)における伝達関数を示すグラフである。
<実施例>
以下に本発明に係る頭蓋内圧測定装置および測定方法を実施するための形態について説明する。
図2は、試作した外耳道情報検出装置を示す。試作にあたっては、材料として、市販のマイクロホンを使用し、直径10mmの低周波エレクトレットコンデンサマイクロホン(PRIMO EM-162S5A, 感度-41dB 0dB=1V/Pa)を選定した。このマイクロホンを組み込む耳栓は、North by Honeywell社製ソニックイヤーバルブを選定した。また外耳道情報検出装置の先端部の外耳道密閉装置は、被験者毎に交換でき、外耳道の個人差に左右されずに密閉度が高く、かつコード等の圧力変化の影響を受けない耳栓(MOLDEX 6870 Meteors)を選定した。
外耳道情報検出装置の出力は、直流成分からピックアップできるように結合コンデンサと増幅器を介さずに直接AD変換器(タートル工業社製 TUSB- 0412ADSM-SZ)に接続した。マイクロホン出力の直流成分は、0.411Vであることから、入力レンジをユニポーラ(0V〜+1V)に設定し、その間を量子化12bits(分解能:0.244mV)に設定した。外耳道内脈波音圧波形は概ね9mV〜74mV(SN比30dB〜50dB)の範囲であることから、AD変換した後にソフトウェアで直流成分除去と増幅(マイクロホン感度が-41dBであることから112.2倍)を行えば、直接Pa単位で脈波波形が観察できる。
データ計測解析ソフトウェアは、松山アドバンス社製LaBDAQ-PRO TLを使用し、サンプリング周波数は1kHzに設定した。計測用PCは、現場で使用しやすい軽量(1.29kg)で長時間バッテリー駆動(15時間)可能なPanasonic CF- S9LY9BDU を選定した。
被験者は、健全な男子大学生8名である。測定は、椅子に座った状態で30秒間測定した。信号処理は、直流除去、増幅(112.2倍)、移動平均(呼吸器系脈動抽出は1,111msに設定)、外耳道内脈波信号から呼吸器系脈動成分を差し引いた血液循環器系脈波成分の抽出を実行した。
図3は、被験者Aの外耳道内脈波を示す。同図から、脈波振幅が相対音圧で0.6Paであることがわかる。また、8名の外耳道内平均音圧は4.5Paであり、標準偏差値は2.27Paである。
図4は、移動平均処理を施した後の呼吸器系脈動を示す。ただし、被験者Aは、意識して呼吸を速めた状態である。同図から、1回が平均2.5秒の脈動が観察され、その相対音圧振幅が0.125Paであることがわかる。また、8名の外耳道内平均音圧は1.17Paであり、標準偏差値は0.58Paである。
図5は、血液循環器系の脈動を抽出した脈波を示す。同図から、1回が平均1.05秒の脈動が観察され、図3と比較して明らかなように、血液循環器系の脈波が計測できていることがわかる。また、8名の外耳道内平均音圧は4.16Paであり、標準偏差値は2.33Paである。
図6は、頸動脈脈波検出のために、前記外耳道情報検出装置と同じ低周波コンデンサマイクロホン(PRIMO EM-162S5A, 感度-41dB 0dB=1V/Pa)を組み込んだ直径47mmの聴診器(3M Littmann Classic2 S.E.)から構成される体表面情報検出装置を示す。前記の外耳道情報検出装置と、体表面情報検出装置を組み合わせることで、外耳道内脈波と頸動脈脈波を同時に測定できる構成にした。
図8は測定ブロック図を示す。同図に示す結線を行った上で、被験者に外耳道情報検出装置を装着し、体表面情報検出装置を首筋(頸動脈部位)に軽く当てた状態で、左右外耳道内脈波と頸動脈脈波を同時に測定した。信号処理は、データ計測解析ソフトウェア(松山アドバンス社製LaBDAQ-PRO TL)を用いて、波形の直流除去、及び増幅(112.2倍)を実行した。その後、MATLABを用いて伝達関数法により伝達関数の遅延特性・ゲイン特性を求めた。またMATLABのSystem Identification Toolboxを用いて、数式8の各線形モデルから伝達関数を推定した。その中で最も適合するモデルを採用し、そのモデルを用いて推定した定常状態、過渡状態での伝達関数から頭蓋内圧との関係について考察した。
被験者は健全な男子大学生8名である。サンプリング周波数は1kHz、測定時間は3分間(180秒間)とし、姿勢変化に伴う頭蓋内圧変化を測定するため、はじめ起きた状態からスタートし、その後1分(60秒)毎に寝た状態、起きた状態と体勢を変えて測定を行った。
図9は起きた状態において、各検出装置の出力を直接AD変換して得られた左右の外耳道内脈波及び頸動脈脈波の波形の一例を示す。同図から、直流成分から信号が抽出できていること、平均0.96秒間隔の脈動が観察されていること、外耳道内脈波の脈動の後、0.02秒程遅れて頸動脈脈波の脈動が生じていること、右耳外耳道内脈波音圧波形は0.507~0.538Vであること、左耳外耳道内脈波音圧波形は0.438~0.533Vであること、及び頸動脈脈波音圧波形は0.345~0.708Vの範囲であることなどが分かる。実際にはマイクロホン出力の直流成分0.411Vが含まれていることから、左右外耳道内脈波と頸動脈脈波の音圧を同じディメンジョンとして抽出していることが確認できた。
図10、図11、図12は、被験者8人中3人(被験者A,B,C)について、伝達関数法により求めた1st、7th、8thにおける頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間の遅延特性を示す。図10から姿勢変化する60秒、120秒付近で遅延時間が大幅に増加し、その後安定する傾向が見られる。図11および図12から、定常状態での遅延時間は図10と比較すると、被験者Aは310ms、被験者Bは140ms、被験者Cは340ms程度短くなっていることが分かる。また姿勢変化する60秒、120秒付近での遅延時間は図10とは逆に減少している。
図13、図14、図15は伝達関数法による1st、7th、8thにおける頸動脈脈波‐右耳外耳道内脈波間のゲイン特性を示す。同図から、寝た時の方が起きた時よりも振幅が小さくなる傾向が見られる。しかし、図13において被験者A、Cは、寝た時の振幅の方が起きている時の振幅よりも7dBから10dB程度小さくなったにも関わらず、被験者Bは、寝た時と起きた時でそれほど振幅に差異が見られない。これについては、年齢や測定時の疲労度が関与している可能性があると考えられる。
図16、図17は、数式8の各線形モデルを用いて確定したパラメータから伝達関数を求め、これに基づいて予測されたデータと、被験者から実測されたデータとを比較した結果のグラフを示す。測定では、被験者の姿勢によって、立位の場合と仰臥位の場合のそれぞれについて実験を行った。実験の結果から、被験者がいずれの姿勢であっても、OE(Output Error)モデルを用いた場合が、適合率が平均50%前後となり各モデルの中で最も高い値を示していることが認められた。
図18、図19は、被験者8人中3人(被験者1,2,3)について、OEモデルから推定した起きた時、寝た時の定常状態での伝達関数を示す。この時、数式8における係数は数式7からそれぞれ、起きた時が数式9で与えられ、寝た時が数式10で与えられる。
図18において、被験者3名の適合率の平均は,39.8689%となり、5Hzから9Hzの範囲で共振周波数を持った。図19において、被験者3名の適合率の平均は46.0014%となり、7.5Hzから9Hzの範囲で共振周波数を持った。寝た時の方が起きた時よりも適合率が高くなった理由は、寝た時の方が観測波形にコード等のノイズが含まれず、比較的安定して計測できたからだと考えられる。また、全被験者について5Hzから10Hzの間で共振周波数を持ったが、これは脳波におけるリラックス時に出やすいα波(8〜14Hz)、ぼんやりした時に出やすいθ波(4〜8Hz)のどちらかの状態にあてはまると考えられる。従って共振周波数が脳波に依存していると仮定すると、その時の精神状態によって共振周波数が変化すると推測される。
次に姿勢変化での過渡現象の様子を観察するため、観測データを8秒間隔ごとに区切った上で、移動平均をとり、同様にOEモデルを用いて伝達関数を推定した。その結果、最も適合率が良くなる最適移動平均は79msであることが分かった。図21は、被験者Aの過渡現象において、姿勢変化直前(106~114s)での伝達関数上の1.5Hz付近にノッチ特性が現れている様子、図20、図22はその前後の様子を示す。このノッチ特性の出現は犬の侵襲的な実験でも報告されている。従って、人間の場合にも脳脊髄液圧(頭蓋内圧)の影響を受けていると考えられる。
本発明に係る頭蓋内圧測定装置は、検査環境に左右されず被測定者の生体情報を測定することを可能にするため、幅広い場面で適用することが可能である。特に、救急科、あるいは救急車内における頭蓋内圧の測定においては、容易な方法で迅速に測定を行う必要があるため、その点で好適に適用可能である。また、病院の入院患者に対しても、本発明に係る頭蓋内圧測定装置を用いて、他のベッドサイドモニタリング装置と同様に頭蓋内圧を測定できるようになると、脳外科やその他脳圧変化に関連する疾病について、より適切な治療を助けることが可能になり、これにより、医療の進歩に資することが可能となる。
10 エレクトレット
20 外耳道密閉装置
30 ハウジング
40 ケーブル
50 聴診器ハウジング

Claims (5)

  1. 結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置と、
    結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクを備えた体表面情報検出装置と、
    前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置とに接続された演算処理部と、
    を備えることを特徴とする頭蓋内圧測定装置。
  2. 結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクおよび外耳道密閉装置を備えた外耳道情報検出装置および別の外耳道情報検出装置と、
    前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置とに接続された演算処理部と、
    を備えることを特徴とする頭蓋内圧測定装置。
  3. 請求項2記載の頭蓋内圧測定装置を用いて被測定者の頭蓋内圧を測定する方法であって、
    前記外耳道情報検出装置によって被測定者の外耳道から生体情報を検出する外耳道情報検出工程と、
    前記別の外耳道情報検出装置によって前記被測定者のもう一方の外耳道から生体情報を検出する別の外耳道情報検出工程と、
    前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置とに接続された演算処理部によって、前記外耳道情報検出装置と前記別の外耳道情報検出装置から得られた情報を、伝達関数法を用いて処理する演算処理工程と、
    を備えることを特徴とする頭蓋内圧測定方法。
  4. 請求項1記載の頭蓋内圧測定装置を用いて被測定者の頭蓋内圧を測定する方法であって、
    前記外耳道情報検出装置によって、被測定者の外耳道から生体情報を検出する外耳道情報検出工程と、
    前記体表面情報検出装置によって、前記被測定者の体表面から生体情報を検出する体表面情報検出工程と、
    前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置とに接続された演算処理部によって、前記外耳道情報検出装置と前記体表面情報検出装置から得られた情報を、伝達関数法を用いて処理する演算処理工程と、
    を備えることを特徴とする頭蓋内圧測定方法。
  5. 被検体の外耳道に挿入して生体情報を検出するための生体情報検出装置であって、
    結合コンデンサを備えていないエレクトレットコンデンサマイクと、
    耳栓を有する外耳道密閉装置と、
    を備えることを特徴とする生体情報検出装置。
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