JP5755156B2 - ピストンリングおよび、そのピストンリングを備えたエンジン - Google Patents
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Description
図9(A)はエンジン5の理想状態のピストンリング6とシリンダライナ51との関係を示し、シリンダライナ51の径は上下において略同じになっている。ピストンリング6はシリンダライナ51に規定の面圧を有して接触し、燃焼室52の圧力を保持するようになっている。
図9(B)はエンジンの実際のピストンリング6とシリンダライナ51との関係を拡大して示したもので、理想状態すなわち、図面上で各部品を組合せた状態に対して、実際の状態は、部品の自重や、部品を組み立てるためにボルト締め付けによる変形、さらに温度による変形等により、シリンダライナ51が拡径(54部分)し、ピストン3が上死点近傍に位置するときには、該シリンダライナ51の拡径に伴いピストンリング6も拡径する。
これは、燃焼室52内の圧力を保持するため、シリンダライナ51の内周面に適度の面圧を有して摺接するように、ピストンリング6自体に弾力性を持たせていることによる。
また、ピストンリング6はエンジンの稼働と共に熱負荷を受け、線膨張するため、および前記弾力性を持たせて拡径、縮径可能なようにするため、リング状の一箇所に合口61〔図10参照〕と称される切断部分が設けられている。
このピストンリング6の合口の切り欠き長さは、短い場合には、ピストンリング6の線膨張によって、ピストンリング6の合口の端面が押し合って、ピストンリング外形が拡大し、シリンダライナ51との焼き付きを生じるおそれがあるため、燃焼室内温度の上昇量に対応した切欠き長さとなっている。
しかし、図10に示すように、合口61を上下方向(ピストンの軸線方向)に切欠いた形状になっているので、ライナの上方にあるときは合口61が開くため、合口61を通過するガス流量が増大して、ピストンリング6及び、ピストンリング溝31周辺への入熱増大につながり、シール不良や、スラッジ生成増大につながる。
また、合口61のガス流量を小さくする構造にすると、ピストンリング6の上下面に作用する圧力差が大きくなり、ピストンリングの変形により、シリンダライナ2への押付け力が部分的に過大となり、摩耗の促進、内部抵抗増大が懸念される。
このような、対応策として、合口を通過するガス流量を適正に維持する、いわゆるガスタイトリング形状の技術が知られている。
そして、トップリングとして使用された場合、ピストンリングの負荷を緩和するため、ピストンリングの外周面にピストンリングの軸線に沿って上側から下側まで貫通する漏出溝が設けられ、後続のピストンリングに確実に圧力が作用するようになっている。
しかし、合口部の一端側及び他端側の外周面と、シリンダライナとの摺接面の面圧を適正にして、ガス抜け防止と、過大な接触面圧による摩耗増大防止を図る技術までは開示されていない。
該ピストンリングの合口部の一端側は、断面形状が上片と該上片に連続して前記ピストンリングの内周側を形成する内周片とで溝部が形成された上舌部と、
前記合口の他端側は、前記溝部に重合し、前記上片及び、前記内周片に夫々対向した面を有した断面形状が略矩形状の下舌部と、
前記ピストンリングのピストン軸線方向の上面側と、下面側とをガスが流通する流通部とを備え、
前記流通部を前記合口部に配設すると共に、前記上舌部と前記下舌部との前記ピストンリングのピストン軸線方向の厚さを略同等にすることを特徴とする。
また、このようなピストンリングを備えたエンジンとすることで、エンジンの信頼性及び、耐久性の向上を図ることができる。
但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
尚、発明の方向性を呼称する場合、上下方向は燃焼室側を「上」とし、クランクシャフト側を「下」とする。
本発明にかかるピストンリングについて図1、図2、図3及び図9(A)に基づいて説
明する。
図9は舶用2サイクル大型ディーゼルエンジン5(以後「エンジン」と称す)の燃焼室
52を形成する概略図である。
図1は、図9のピストン3外周部のピストンリング溝31に嵌合した、本実施形態に係
るピストンリング1の外観斜視図である。図2は図1のA部(2点鎖線包囲部)の部分
拡大図、図3は図2のA−A断面図を示す。
図9において、燃焼室52は、エンジン5に嵌挿されたシリンダライナ51と、該シリンダライナ51の内部に、シリンダライナ51の軸線に沿って摺動するピストン3の頂部32と、前記シリンダライナ51の頂部を閉塞するシリンダヘッド53とで構成されている。
そして、ピストンリング1はピストン3とシリンダライナ51との隙間を閉塞して、燃焼室52内の圧力を保持している。
ピストンリング1は断面が略矩形状をしたリング状に形成されている。また、ピストンリング溝31には夫々の作用に沿った形状をしたピストンリング1が配設されている。一番上のピストンリング1は燃焼室52の圧力を保持するために配設されており、図1に示すように、リング状の一部が合口(合口部)11と称され周方向に分断された構造となっている。
従って、上舌部12の断面形状は、略矩形状断面の下片と、シリンダライナ51と摺接する面の下半分が溝部である略矩形状の切欠き部12eを形成する鉤状(図3のZ部)となっており、周方向に長さL1が形成されている。
傾斜面13fを設けることにより、当該部の流通断面積がピストンリング1の外周側へ向け拡大しているので、排ガスは膨張し温度を下げると共に、速度も減少するので、上舌部12の基部および、切欠き部12e部の熱負荷が軽減され、ピストンリング1の耐久性の向上が図れる。
上舌部12の切欠き部12eに、下舌部13とが嵌入する状態で重合して、ピストンリング1の周方向に沿って、重合代の変化(エンジンの温度変化による線膨張)を吸収することができるようになっている。
切欠き部12eの長さL1及び、下舌部13の長さL2は燃焼室52(図9参照)の温度が低い時には重合状態が解消しない嵌合代を有し、温度が最も高くなる状態においても突当たらないように長さを調整してある。
また、内周片12bの切欠き側の面である切欠き面12dと、該切欠き面12dと対向した下舌部13の対向面13dとの間には流通部である流通路8となる隙間αが形成されている。
従って、ピストンリング1の上側と下側とが連通した流通路8が形成されることになる。
この流通路8によって、ピストンリングの上側に作用するガスが、下側に導かれることにより、上側と下側との圧力差を最適に調整することでピストンリング自体の受ける圧力負担(変形)を軽減させることで、シリンダライナ51とピストンリング1との摩擦抵抗を低減させて、エンジンの内部負荷を軽減させ出力向上を図ることができる。
即ち、図5に示すように、上舌部15のピストンリング1の内周壁を形成する内周片15bで、エンジン温度が冷態時においても、下舌部13の先端部が重合しない部分に、ピストンリングのラジアル方向に流通部である第1流通孔81を設けてもよい。
また、図6に示すように、上舌部16の上片16aで、エンジン温度が冷態時においても、下舌部13の先端部が重合しない部分に、ピストンリング1の軸線方向(図6において上下方向)第2流通孔82を設けてもよい。
上述のようにピストンリングの上側と下側との圧力差を最適に調整するために、第1流通路8、第1、2流通孔81、82、夫々を適宜組合せて使用することも可能である。
また、第1流通孔81,第2流通孔82を併用することは、流通路8の隙間αを小さくすることで、合口11を形成する上舌部12及び、下舌部13夫々のラジアル方向幅が大きくすることができ、当該部の剛性向上と、剛性向上に伴う合口部の変形量低減に伴う摩擦抵抗低減も期待できる。
図4は、ピストンリング1のピストンリング軸線(ピストンリングのリング中心を上下方向に延在する線)方向の全体厚さHに対する、上舌部12の厚さについて検討した結果をグラフにしたものである。
横軸に上舌部12の上片12aの厚みh/ピストンリング全体厚みHの比(h/H)を表わし、縦軸にピストンリング1とシリンダライナ51の接触面圧比率を表わしたものである。
△―△印は上舌部12側を表わし、■−■印は下舌部13側を表わしている。
そして、グラフはピストンリング1の本来の作用から、上舌部12及び、下舌部13の上面側と、下面側では圧縮圧力の作用力が異なるので、シリンダライナ51との面圧(シール性に影響)を確保するリング厚さについて検討したものである。
一方、下舌部13側の■−■印の特性(面圧比率)は、h/H比率の増加に対し、略二次曲線的に減少する値になっている。
上舌部12側の特性と、下舌部13側の特性とが交差する部分の面圧比率=1、h/H比率=0.47になっている。
従って、h/H比率=0.47が最適値となる。
また、上舌部12側の△―△印においては、h/Hが0.35位では接触面圧比率が0(ゼロ)に近く、面圧が生じていないことを示している。
更に、下舌部13側の■−■印においては、h/Hが0.35位(下舌部側の厚みが上舌側の略2倍)では面圧が上舌部に比べ高すぎる。
また、上舌部12側の△―△印においては、h/Hが0.8位では接触面圧比率が4と高いが、一方の下舌部13側の■−■印においては接触面圧比率が0(ゼロ)に近く、面圧が生じていないことを示している。
このため、上舌部12側の△―△印においては、確実に面圧(kgf/mm2)が生起する接触面圧比率が0.5以上となることが必要であり。即ち、h/H比率が0.4以上あることが好ましい値となる。
一方、下舌部13側の■−■印においても、上舌部12側と同様に必要な接触面圧比率が0.5以上必要となる。即ち、h/H比率は0.6以下が好ましい値となる。
上述の結果から、上舌部12の厚さhのピストンリング全体厚さHに対する比率h/Hは、0.4≦h/H≦0.6 が好ましいことが分かった。
図8(A)はh/H=0.47(0.4≦h/H≦0.6)の場合を示し、合口全域にわたって高い面圧が生起されており、ガスの吹き抜けが抑えられている。
また、本実施形態では、上舌側及び、下舌側共に、面圧の高い部分の上下幅変化の少ない連続した圧力分布となっており、安定した高いシール性が得られていることが判明した。
図8(B)はh/H=0.34(好適範囲外)の場合を示し、上舌部は略全域にわたり面圧が低く、ガス抜けのおそれがある。
本実施形態は、流通路の下流側の流通断面形状を変更した以外は、第1実施形態と同じなので、当該部のみの説明とし、他は省略する。
流通路85の下流側(上舌部25の上舌端縁25cの開口を上流側開口83、下舌部26の下舌端縁26cの開口を下流側開口84とする)は、図7(A)に図3のA−A断面矢視図を示す。
図7(A)はピストンリング20の下舌部22の下流側で、流通路85を形成する下舌部26の面に、端縁に向けてピストンリング2の外周側へ傾斜した第1傾斜面27が形成されている。第1傾斜面27部分は下流側開口84に向けて流路断面積が拡大するようになっている。
従って、上流側開口部83からのガスは、当該部(第1傾斜面27部分)で膨張しながら流速を減じることになり、上舌部21の基部28に接するガスの温度の低下(ガスの膨張による)、ガスの膨張による上舌部21の基部28との接触面積の増大(単位面積あたりの受熱量の減少)等により、当該部の熱負荷が軽減され、ピストンリング2の耐久性の向上が図れる。
本実施形態は、第1実施形態の変形例を示し、流通路の下流側の流通断面形状を変更した以外は、第1実施形態と同じなので、当該部のみの説明とし、他は省略する。
図7(B)において、ピストンリング30の上舌部35の下流側で、流通路86を形成する上舌部35の面に、基部38に向けてピストンリング30の内周側へ傾斜した第2傾斜面37が形成されている。
一方、この場合には、下舌部36の上側コーナ部にはピストンリング30の外周に向けて傾斜面Cが形成されており、更なる流路拡大を促進させてある。
第2傾斜面37部分は下流側に向けて流路断面積が拡大するようになっている。効果については第2実施形態と同じなので省略する。
本実施形態は、第1実施形態の変形例を示し、流通路の下流側の流通断面形状を変更した以外は、第1実施形態と同じなので、当該部のみの説明とし、他は省略する。
図7(C)において、上舌部45の内周片基部48は、流通路87のピストンリング40の周方向に沿った面49と、流通路87のピストンリング4の半径方向に沿った面である第3傾斜面47とで成す角度θが鈍角を成すような傾斜面即ち第3傾斜面47が設けられている。
従って、流通路87の下流側の流通断面積が拡大されると共に、ガスは第3傾斜面47に沿ってシリンダライナ側へ流れ、上舌部35の基部38および、第3傾斜面47へのガスの接触量は少なくなり、当該部の熱負荷が低減できる。
3 ピストン
5 エンジン
8,85,86,87 流通路(流通部)
11 合口(合口部)
12,15,16,25,35,45 上舌部
12a 上片
12b 内周片
12c 上舌端縁
13,26,36,46 下舌部
13c 下舌端縁
27 第1傾斜面
28,38,48 基部
31 ピストンリング溝
32 ピストン頂部
33 ピストンスカート部
37 第2傾斜面
47 第3傾斜面
51 シリンダライナ
52 燃焼室
81、 第1流通孔(流通部)
82 第2流通孔(流通部)
83 上流側開口
84 下流側開口
Claims (7)
- エンジンのシリンダ内を摺動するピントン外周部に外嵌し、合口部が入れ子構造からなるガスタイトリング形状のピストンリングであって、
該ピストンリングの合口部の一端側は、断面形状が上片と該上片に連続して前記ピストンリングの内周側を形成する内周片とで溝部が形成された上舌部と、
前記合口の他端側は、前記溝部に重合し、前記上片及び、前記内周片に夫々対向した面を有した断面形状が略矩形状の下舌部と、
前記ピストンリングのピストン軸線方向の上面側と、下面側とをガスが流通する流通部とを備え、
前記流通部を前記合口部に配設すると共に、前記上舌部の上片と前記下舌部との前記ピストンリングのピストン軸線方向の厚さを略同等にし、
前記流通部は、前記内周片の前記ピストンリングの周方向に沿った面と該周方向に沿った面に対向する面との間において周方向に延在する流通路と、前記流通路に連通するとともに前記上舌部の端縁側が前記ピストンリングの上方に開口してなる上流側開口部と、前記流通路に連通するとともに前記下舌部の端縁側が前記ピストンリングの下方に開口してなる下流側開口部と、を含み、
前記流通路の下流側の断面積が上流側よりも大きくなるように形成されるか、又は、前記下流側開口部の下流側の断面積が上流側よりも大きくなるように形成されることを特徴とするエンジンのピストンリング。 - 前記上舌部の上片の厚さは前記ピストンリング全体の厚さに対し厚さ比率を0.4〜0.6としたことを特徴とする請求項1記載のエンジンのピストンリング。
- 前記流通部は、前記上舌部と前記下舌部とが重合しない部分の前記上片、または前記内周片の少なくともいずれかに配設した流通孔をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンのピストンリング。
- 前記下舌部の前記流通路を形成する面の端縁側に、前記端縁に向け前記ピストンリングの外周側へ傾斜する第1傾斜面を設けることで、前記流通路の下流側の断面積が上流側よりも大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエンジンのピストンリング。
- 前記上舌部の前記内周片の前記流通路を形成する面に、前記内周片の基部に向け前記ピストンリング内周側に傾斜した第2傾斜面を設けることで、前記流通路の下流側の断面積が上流側よりも大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のエンジンのピストンリング。
- 前記上舌部の前記下流側開口部を形成する面が、前記内周片の周方向に沿った面との成す角度が鈍角になるように傾斜した第3傾斜面からなることで、前記下流側開口部の下流側の断面積が上流側よりも大きくなるように形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のエンジンのピストンリング。
- 請求項1乃至6のいずれか一項に記載のピストンリングを装着したピストンを備えたことを特徴とするエンジン。
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