JP5752542B2 - 車輪用軸受装置 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば自動車の懸架装置に対して駆動車輪(FF車の前輪、FR車の後輪、4WD車の全輪)を回転自在に支持する車輪用軸受装置に関する。
従来の車輪用軸受装置として、例えば、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離を可能としてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示された車輪用軸受装置は、図10に示すように、ハブ輪101、内輪102、複列の転動体103,104および外輪105からなる車輪用軸受120と等速自在継手106とで主要部が構成されている。
ハブ輪101は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面107が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ109を備えている。この車輪取付フランジ109の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト110が植設されている。このハブ輪101のインボード側外周面に形成された小径段部112に内輪102を嵌合させ、この内輪102の外周面にインボード側の内側軌道面108が形成されている。
内輪102は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪101の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面107と、内輪102の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面108とで複列の軌道面を構成する。この内輪102をハブ輪101の小径段部112に圧入し、その小径段部112の端部を外側に加締めることにより、加締め部111でもって内輪102を抜け止めしてハブ輪101と一体化し、車輪用軸受120に予圧を付与している。
外輪105は、内周面にハブ輪101および内輪102の内側軌道面107,108と対向する複列の外側軌道面113,114が形成されている。この外輪105の外周面を車体の懸架装置(図示せず)から延びるナックルに嵌合させて固定することにより、車輪用軸受装置を車体に取り付けるようにしている。
車輪用軸受120は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪101および内輪102の外周面に形成された内側軌道面107,108と外輪105の内周面に形成された外側軌道面113,114との間に転動体103,104を介在させ、各列の転動体103,104を保持器115,116により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
この車輪用軸受120においては、インボード側に位置する転動体104(ボール)のPCD(ピッチ円径)とアウトボード側に位置する転動体103のPCDとは同一に設定されている(ボールPCD:Di=Do)。
車輪用軸受120の両端開口部には、ハブ輪101と内輪102の外周面に摺接するように、外輪105とハブ輪101および内輪102との環状空間を密封する一対のシール117,118が外輪105の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
等速自在継手106は、内周面にトラック溝123が形成された外側継手部材124と、その外側継手部材124のトラック溝123と対向するトラック溝125が外周面に形成された内側継手部材126と、外側継手部材124のトラック溝123と内側継手部材126のトラック溝125との間に組み込まれたボール127と、外側継手部材124の内周面と内側継手部材126の外周面との間に介在してボール127を保持するケージ128とで構成されている。
外側継手部材124は、内側継手部材126、ボール127およびケージ128からなる内部部品を収容したマウス部129と、マウス部129から軸方向に一体的に延びるステム部130とで構成されている。内側継手部材126は、シャフト122の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合され、止め輪121により抜け止めされている。
等速自在継手106の外側継手部材124と、内側継手部材126から延びるシャフト122との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ131を装着して、外側継手部材124の開口部をブーツ131で閉塞した構造としている。
このブーツ131は、外側継手部材124の外周面にブーツバンド132により締め付け固定された大径端部133と、中間シャフト122の外周面にブーツバンド134により締め付け固定された小径端部135と、大径端部133と小径端部135とを繋ぎ、その大径端部133から小径端部135へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部136とで構成されている。
この車輪用軸受装置において、外側継手部材124のステム部130は、その外周面に軸方向に延びる複数の凸部137からなる雄スプラインが形成されている。これに対して、ハブ輪101の軸孔138は、その内周面に雌スプラインが形成されていない円筒状をなす。この外側継手部材124のステム部130をハブ輪101の軸孔138に圧入し、ステム部130の凸部137をハブ輪101の軸孔138の円筒状内周面に転写することにより凹部140を形成し、凸部137と凹部140との嵌合接触部位全域で密着する凹凸嵌合構造を構成している。
このような凹凸嵌合構造により、外側継手部材124とハブ輪101とをトルク伝達可能に結合させている。そして、外側継手部材124のステム部130の軸端に形成された雌ねじ141にボルト142を螺合させることにより、そのボルト142をハブ輪101の端面に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手106をハブ輪101に固定している。
特開2009−97557号公報
ところで、前述の特許文献1で開示された車輪用軸受装置における凹凸嵌合構造では、ステム部130をハブ輪101に圧入する際のハブ輪101の膨張で車輪用軸受120の内輪102の内側軌道面108にフープ応力による変形が発生し易くなる。このフープ応力の発生により、車輪用軸受120における転がり疲労寿命の低下やクラックの発生を招く可能性がある。
そのため、従来の車輪軸受装置では、前述のフープ応力による変形を抑制するため、凹凸嵌合構造が内輪102の内側軌道面108からできるだけ離隔するように、凹凸嵌合構造を、複列の転動体103,104間のアウトボード側寄り、つまり、インボード側に位置する転動体104とアウトボード側に位置する転動体103との間のアウトボード側寄りに配置する必要があった。その結果、外側継手部材124のステム部130の軸方向寸法が長くなり、その分、外側継手部材124の重量増となって、車輪用軸受装置の軽量化が困難であった。
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、フープ応力の発生による車輪用軸受の転がり疲労寿命低下やクラック発生を防止すると共に、ステム部の短縮による軽量化を図り得る車輪用軸受装置を提供することにある。
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪およびハブ輪の外周に嵌合した内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより前記車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、前記複列の転動体のうち、インボード側に位置する前記転動体のPCDをアウトボード側に位置する前記転動体のPCDよりも大きくし、前記ハブ輪と前記外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、他方に形成された、前記凸部に対して締め代を有する複数の凹部に圧入し、その他方に、圧入した凸部による切削を伴って前記凸部の形状を転写することにより、前記凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し前記締め代が、前記凹部の径方向断面を凸部の径方向断面よりも小さくすることで与えられると共に、前記ねじ締め付け構造の軸力によるステム部の引き込みで前記凸部の圧入が可能となる大きさに設定され、前記凹凸嵌合構造を軸受中心よりもインボード側に配置すると共に、前記外側継手部材のステム部の先端面を軸受中心よりもインボード側に配置したことを特徴とする。
本発明では、複列の転動体のうち、インボード側に位置する転動体のPCDをアウトボード側に位置する転動体のPCDよりも大きくしたことにより、インボード側の内側軌道面が形成された内輪の肉厚を増大させることが可能となり、凸部の圧入によるフープ応力の発生を抑制することができる。その結果、凹凸嵌合構造を軸受中心よりもインボード側に配置することで、外側継手部材のステム部の軸方向寸法を短くすることができ、外側継手部材の軽量化が図れる。
本発明において、凸部の圧入位置を確認するための切り欠き孔をハブ輪に設けた構造が望ましい。このようにすれば、ハブ輪に設けられた切り欠き孔を利用することで、凸部の圧入位置を確認することができるので、安定した凸部の圧入状態を容易に確保することができる。これは、凹凸嵌合構造を軸受中心よりもインボード側に配置することで、外側継手部材のステム部の軸方向寸法を短くした場合に有効である。
本発明における凹凸嵌合構造は、複数の凸部を、凸部に対して締め代を有する複数の凹部が形成された他方に圧入した構造であり、凸部に対して締め代を有する凹部を予め形成している。これにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域で密着する際の圧入荷重を下げることができるので、車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材を圧入して等速自在継手を車輪用軸受に結合させることが容易となる。
本発明では、ねじ締め付け構造により発生する軸力以下でハブ輪に対して外側継手部材を圧入可能としているので、車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入するに際して、専用の治具を別に用意する必要がなく、車輪用軸受装置を構成する部品であるねじ締め付け構造でもって等速自在継手を簡易に車輪用軸受に結合させることができる。
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、その雌ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雌ねじ部に雄ねじ部を螺合させることによりその雄ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
本発明におけるねじ締め付け構造は、外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、その雄ねじ部に螺合した状態でハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成された構造が可能である。この構造では、ステム部の雄ねじ部に雌ねじ部を螺合させることによりその雌ねじ部をハブ輪に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手をハブ輪に固定することになる。
本発明における凸部は外側継手部材のステム部に設けられ、凹部はハブ輪に設けられた構造が望ましい。このようにすれば、外側継手部材のステム部をハブ輪に圧入することにより、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を容易に構成することできる。
本発明によれば、複列の転動体のうち、インボード側に位置する転動体のPCDをアウトボード側に位置するPCDよりも大きくしたことにより、インボード側の内側軌道面が形成された内輪の肉厚を増大させることが可能となり、凸部の圧入によるフープ応力の発生を抑制することができる。これにより、凹凸嵌合構造を軸受中心よりもインボード側に配置することで、外側継手部材のステム部の軸方向寸法を短くすることができ、外側継手部材の軽量化が図れる。その結果、フープ応力の発生による車輪用軸受の転がり疲労寿命低下やクラック発生を防止すると共に、外側継手部材のステム部の短縮による軽量化を図ることができる。
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態で、車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す縦断面図である。 図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける前の状態を示す縦断面図である。 図1の車輪用軸受に等速自在継手を組み付ける途中の状態を示す縦断面図である。 (A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する前の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のA−A線に沿う断面図である。 (A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入する途中の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。 (A)は車輪用軸受のハブ輪に外側継手部材のステム部を圧入した後の状態を示す要部拡大断面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。 図1の車輪用軸受装置において、デプスゲージによりステム部の圧入位置を確認する状態を示す縦断面図である。 図1の車輪用軸受装置において、基準治具によりステム部の圧入位置を確認する状態を示す縦断面図である。 本発明に係る車輪用軸受装置の他の実施形態で、車輪用軸受に等速自在継手を組み付けた後の状態を示す縦断面図である。 従来の車輪用軸受装置の全体構成を示す縦断面図である。
本発明に係る車輪用軸受装置の実施形態を以下に詳述する。図1および図2に示す車輪用軸受装置は、内方部材であるハブ輪1および内輪2、複列の転動体3,4、外輪5からなる車輪用軸受20と等速自在継手6とで主要部が構成されている。図1は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付けた後の状態を示し、図2は車輪用軸受20に等速自在継手6を組み付ける前の状態を示す。なお、以下の説明では、車体に組み付けた状態で、車体の外側寄りとなる側をアウトボード側(図面左側)と呼び、中央寄りとなる側をインボード側(図面右側)と呼ぶ。
ハブ輪1は、その外周面にアウトボード側の内側軌道面7が形成されると共に、車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ9を備えている。この車輪取付フランジ9の円周方向等間隔に、ホイールディスクを固定するためのハブボルト10が植設されている。このハブ輪1のインボード側外周面に形成された小径段部12に内輪2を嵌合させ、この内輪2の外周面にインボード側の内側軌道面8が形成されている。
内輪2は、クリープを防ぐために適当な締め代をもって圧入されている。ハブ輪1の外周面に形成されたアウトボード側の内側軌道面7と、内輪2の外周面に形成されたインボード側の内側軌道面8とで複列の軌道面を構成する。この内輪2をハブ輪1の小径段部12に圧入し、その小径段部12の端部を揺動加締めにより外側に加締めることにより、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化し、車輪用軸受20に予圧を付与している。
外輪5は、内周面にハブ輪1および内輪2の軌道面7,8と対向する複列の外側軌道面13,14が形成され、車体(図示せず)の懸架装置から延びるナックルに取り付けるための車体取付フランジ19を備えている。この車体取付フランジ19は、車体の懸架装置から延びるナックル(図示せず)に嵌合されてボルト等により固定される。
車輪用軸受20は、複列のアンギュラ玉軸受構造で、ハブ輪1および内輪2の外周面に形成された内側軌道面7,8と外輪5の内周面に形成された外側軌道面13,14との間に転動体3,4を介在させ、各列の転動体3,4を保持器15,16により円周方向等間隔に支持した構造を有する。
この車輪用軸受20において、複列の転動体(ボール)3,4のうち、インボード側に位置する転動体4のPCDをアウトボード側に位置する転動体3のPCDよりも大きくしている(ボールPCD:Di>Do)。このように、インボード側に位置する転動体4のPCDをアウトボード側に位置する転動体3のPCDよりも大きくしたことにより、インボード側の内側軌道面8が形成された内輪2の肉厚を従来の車輪用軸受装置の内輪102(図10参照)よりも増大させることが可能となる。
車輪用軸受20の両端開口部には、ハブ輪1と内輪2の外周面に摺接するように、外輪5とハブ輪1および内輪2との環状空間を密封する一対のシール17,18が外輪5の両端部内径に嵌合され、内部に充填されたグリースの漏洩ならびに外部からの水や異物の侵入を防止するようになっている。
等速自在継手6は、内周面にトラック溝23が形成された外側継手部材24と、その外側継手部材24のトラック溝23と対向するトラック溝25が外周面に形成された内側継手部材26と、外側継手部材24のトラック溝23と内側継手部材26のトラック溝25との間に組み込まれたボール27と、外側継手部材24の内周面と内側継手部材26の外周面との間に介在してボール27を保持するケージ28とで構成されている。
外側継手部材24は、内側継手部材26、ボール27およびケージ28からなる内部部品を収容したマウス部29と、マウス部29から軸方向に一体的に延びるステム部30とで構成されている。内側継手部材26は、シャフト22の軸端が圧入されてスプライン嵌合によりトルク伝達可能に結合され、止め輪21により抜け止めされている。
等速自在継手6の外側継手部材24とシャフト22との間に、継手内部に封入されたグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐと共に継手外部からの異物侵入を防止するための樹脂製の蛇腹状ブーツ31を装着して、外側継手部材24の開口部をブーツ31で閉塞した構造としている。
このブーツ31は、外側継手部材24の外周面にブーツバンド32により締め付け固定された大径端部33と、シャフト22の外周面にブーツバンド34により締め付け固定された小径端部35と、大径端部33と小径端部35とを繋ぎ、その大径端部33から小径端部35へ向けて縮径した可撓性の蛇腹部36とで構成されている。
この車輪用軸受装置は、外側継手部材24のステム部30のインボード側外周面に円柱状の嵌合面61を形成すると共に、ステム部30のアウトボード側外周面に軸方向に延びる複数の凸部37からなる雄スプラインを形成する。これに対して、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒状の嵌合面62を形成すると共に、その軸孔38のアウトボード側内周面に前述の凸部37に対して締め代を有する複数の凹部39を形成する(図2参照)。
この車輪用軸受装置では、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入し、相手側の凹部形成面であるハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成し、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xが密着する凹凸嵌合構造Mを構成する(図1参照)。この凹凸嵌合構造Mは、軸受中心Lよりもインボード側に配置されている。ここで、軸受中心Lとは、アウトボード側に位置する転動体3とインボード側に位置する転動体4の軸方向中央位置(図1の一点鎖線参照)を意味する。
前述したように、複列の転動体3,4のうち、インボード側に位置する転動体4のPCDをアウトボード側に位置する転動体3のPCDよりも大きくしたことにより、インボード側の内側軌道面8が形成された内輪2の肉厚を従来の車輪用軸受装置の内輪102(図10参照)よりも増大させることができる。この内輪2の肉厚の増大により、凸部37の圧入によるフープ応力の発生を抑制できることから、凹凸嵌合構造Mを軸受中心Lよりもインボード側に配置すること、つまり、嵌合接触部位全域Xが内輪2の内側軌道面8の溝底に位置するハブ輪1の内周に配置することで、外側継手部材24のステム部30の軸方向寸法を短くすることができ、外側継手部材24の軽量化が図れる。
この車輪用軸受装置は、以下のようなねじ締め付け構造N(図1参照)を具備する。このねじ締め付け構造Nは、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雌ねじ部41と、その雌ねじ部41に螺合した状態でハブ輪1に係止される雄ねじ部であるボルト42とで構成されている。この構造では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1の端面に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定する。なお、車輪用軸受20は、加締め部11でもって内輪2を抜け止めしてハブ輪1と一体化した構造となっていることから、等速自在継手6の外側継手部材24と分離可能となっている。
図3に示すように、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに先立って、ステム部30のインボード側外周面に円柱状の嵌合面61を形成すると共に、ハブ輪1の軸孔38のインボード側内周面に円筒状の嵌合面62を形成していることから、ハブ輪1の軸孔38の嵌合面62にステム部30の嵌合面61を嵌合させることで、ハブ輪1に対するステム部30の軸芯合わせを容易に行うことができる。
また、図4(A)(B)に示すように、ハブ輪1のインボード側に位置する嵌合面62とアウトボード側に位置する凹部39との間に、圧入の開始をガイドするガイド部64を設けている。このガイド部64はステム部30の凸部37よりも大きめの凹部65が形成されている(図2の拡大部分参照)。つまり、凸部37と凹部65との間に隙間mが形成されている〔図4(B)参照〕。このガイド部64により、外側継手部材24のステム部30をハブ輪1に圧入するに際して、ステム部30の凸部37がハブ輪1の凹部39に確実に圧入するように誘導することができるので、安定した圧入が可能となって圧入時の芯ずれや芯傾きなどを防止することができる。
ここで、図5(A)(B)に示すように、前述の凹部39が凸部37に対して締め代n〔図5(B)参照〕を有するように、その凹部39を凸部37よりも小さく設定している。このように、凹部39を凸部37よりも小さく設定するには、凹部39の径方向寸法と周方向寸法を凸部37よりも小さくすればよい〔図5(B)参照〕。
図6(A)(B)に示すように、ステム部30のハブ輪1への圧入時、ハブ輪1の軸孔38に凸部37の形状を転写することにより凹部40を形成した場合、凸部37に対して締め代nを有する凹部39、つまり、凸部37よりも小さく設定された凹部39を予め形成していることから、従来のように凸部をハブ輪の円筒状内周面に転写する場合よりも、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着する際の圧入荷重を下げることができる。
その結果、ねじ締め付け構造Nにおけるボルト42の締め付けにより発生する軸力以下という比較的小さな引き込み力の付与でハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入することができる(図3参照)。これにより、専用の治具を別に用意する必要がなく、ボルト42による圧入作業性の向上が図れる。さらに、大きな圧入荷重を付与しないので済むことから、凹凸嵌合構造Mでの凹凸が損傷する(むしれる)ことを防止でき、高品質で長寿命の凹凸嵌合構造Mを実現できる。
この外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37による凹部形成面の塑性変形および切削加工を伴いながら、凸部37が凹部形成面に食い込んでいくことによってハブ輪1の内径が僅かに拡径した状態となって、凸部37の軸方向の相対的移動が許容される。この凸部37の軸方向相対移動が停止すれば、ハブ輪1の内径が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部37と凹部40との嵌合接触部位全域Xで密着し、外側継手部材24とハブ輪1を強固に結合一体化することができる。
このような低コストで信頼性の高い結合により、ステム部30とハブ輪1の嵌合部分の径方向および周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合接触部位全域Xが回転トルク伝達に寄与して安定したトルク伝達が可能であり、耳障りな歯打ち音を長期に亘り防止できる。このように嵌合接触部位全域Xで密着していることから、トルク伝達部位の強度が向上するため、車両用軸受装置の軽量コンパクト化が図れる。
外側継手部材24のステム部30をハブ輪1の軸孔38に圧入するに際して、凸部37の表面硬度を凹部39の表面硬度よりも大きくする。その場合、凸部37の表面硬度と凹部39の表面硬度との差をHRCで20以上とする。これにより、圧入時における塑性変形および切削加工により、相手側の凹部形成面に凸部37の形状を容易に転写することができる。
ハブ輪1の軸孔38と外側継手部材24のステム部30との間に、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容する収容部67を設けている〔図5(A)および図6(A)参照〕。これにより、圧入による凸部形状の転写によって生じる食み出し部66を収容部67に保持することができ、その食み出し部66が装置外の車両内などへ入り込んだりすることを阻止できる。その食み出し部66を収容部67に保持することで、食み出し部66の除去処理が不要となり、作業工数の削減を図ることができ、作業性の向上およびコスト低減を図ることができる。
従来の車輪用軸受装置の場合、図10に示すように、外側継手部材124のステム部130の先端面176をハブ輪101の内壁面171に接触させることによりステム部130の圧入位置を規制することで、凹凸嵌合構造の軸方向長さを確保するようにしている。しかしながら、ステム部130の先端面176がハブ輪101の内壁面171に接触して圧入が正規の位置で完了したか否かを外部から確認することができず、不完全な圧入により凹凸嵌合構造の軸方向長さが短いことから、安定したトルク伝達が困難となる可能性がある。
そこで、図7および図8に示すように、凸部37の圧入位置を確認するための切り欠き孔72をハブ輪1のボルト挿通孔73に連設した構造とする。ボルト42の締め付けによる引き込み力でもってハブ輪1の軸孔38に外側継手部材24のステム部30を圧入した後、ボルト42を一旦取り外し、ハブ輪1のボルト挿通孔73に設けられた切り欠き孔72からデプスゲージ74(図7参照)や基準治具75(図8参照)を装着してその先端をステム部30の先端面76に当接させることにより、ハブ輪1の外壁面77からステム部30の先端面76までの軸方向寸法が規定値であるか否かを確認する。
デプスゲージ74の場合、図7に示すようにハブ輪1の切り欠き孔72からデプスゲージ74の先端をステム部30の先端面76に当接させることにより、そのステム部30の先端面位置を測定する。ハブ輪1の外壁面77からステム部30の先端面76までの軸方向寸法である測定値が規定値となっている場合には、圧入が正規の位置で完了していることを示す。また、測定値が規定値から外れている場合には、ボルト42を再度装着した上で調整すればよい。
一方、基準治具75は、その先端長さが前述の規定値に加工されたものであり、図8に示すようにハブ輪1の切り欠き孔72から基準治具75の先端を挿入し、その先端がステム部30の先端面76に当接する場合には、圧入が正規の位置で完了していることを示す。また、基準治具75の先端がステム部30の先端面76に当接しない場合には、ボルト42を再度装着した上で調整すればよい。
このようにデプスゲージ74あるいは基準治具75をハブ輪1の切り欠き孔72に装着することにより、凸部37の圧入位置を確認することができるので、凸部37の正規の圧入状態を容易に確保することができ、安定したトルク伝達を達成することができる。なお、基準治具75の場合にはデプスゲージ74のような測定が不要となる点で、作業性の向上が図れる。これらデプスゲージ74や基準治具75を用いた圧入状態の確認は、本発明のように凹凸嵌合構造Mを軸受中心Lよりもインボード側に配置することで、外側継手部材24のステム部30の軸方向寸法を短くした場合に有効である。
なお、以上の実施形態では、ステム部30の雌ねじ部41にボルト42を螺合させることによりそのボルト42をハブ輪1の端面に係止させた状態で締め付ける構造を例示したが、他のねじ締め付け構造として、図9に示すように、外側継手部材24のステム部30の軸端に形成された雄ねじ部68と、その雄ねじ部68に螺合した状態でハブ輪1の端面に係止される雌ねじ部であるナット69とで構成することも可能である。この構造では、ステム部30の雄ねじ部68にナット69を螺合させることによりそのナット69をハブ輪1に係止させた状態で締め付けることで、等速自在継手6をハブ輪1に固定することになる。
また、以上の実施形態では、ハブ輪1および内輪2からなる内方部材に形成された複列の内側軌道面7,8の一方、つまり、アウトボード側の内側軌道面7をハブ輪1の外周に形成した(第三世代と称される)タイプの駆動車輪用軸受装置に適用した場合を例示したが、本発明はこれに限定されることなく、ハブ輪の外周に一対の内輪を圧入し、アウトボード側の軌道面7を一方の内輪の外周に形成すると共にインボード側の軌道面8を他方の内輪の外周に形成した(第一、第二世代と称される)タイプの駆動車輪用軸受装置にも適用可能である。
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
1 内方部材(ハブ輪)
2 内方部材(内輪)
3,4 転動体
5 外方部材(外輪)
6 等速自在継手
7,8 内側軌道面
13,14 外側軌道面
20 車輪用軸受
24 外側継手部材
30 ステム部
37 凸部(雄スプライン)
39 凹部
41 雌ねじ部
42 雄ねじ部(ボルト)
68 雄ねじ部
69 雌ねじ部(ナット)
72 切り欠き孔
n 締め代
M 凹凸嵌合構造
N ねじ締め付け構造
X 嵌合接触部位全域

Claims (5)

  1. 内周に複列の外側軌道面が形成された外方部材と、外周に前記外側軌道面と対向する複列の内側軌道面を有し、ハブ輪およびハブ輪の外周に嵌合した内輪からなる内方部材と、前記外方部材の外側軌道面と内方部材の内側軌道面との間に介装された複列の転動体とからなる車輪用軸受を備え、前記ハブ輪の内径に等速自在継手の外側継手部材のステム部を嵌合することにより前記車輪用軸受に等速自在継手をねじ締め付け構造により分離可能に結合させた車輪用軸受装置において、
    前記複列の転動体のうち、インボード側に位置する前記転動体のPCDをアウトボード側に位置する前記転動体のPCDよりも大きくし、
    前記ハブ輪と前記外側継手部材のステム部のうちのいずれか一方に形成されて軸方向に延びる複数の凸部を、他方に形成された、前記凸部に対して締め代を有する複数の凹部に圧入し、その他方に、圧入した凸部による切削を伴って前記凸部の形状を転写することにより、前記凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成し
    前記締め代が、前記凹部の径方向断面を凸部の径方向断面よりも小さくすることで与えられると共に、前記ねじ締め付け構造の軸力によるステム部の引き込みで前記凸部の圧入が可能となる大きさに設定され、
    前記凹凸嵌合構造を軸受中心よりもインボード側に配置すると共に、前記外側継手部材のステム部の先端面を軸受中心よりもインボード側に配置したことを特徴とする車輪用軸受装置。
  2. 前記凸部の圧入位置を確認するための切り欠き孔を前記ハブ輪に設けた請求項1に記載の車輪用軸受装置。
  3. 前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雌ねじ部と、前記雌ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雄ねじ部とで構成されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
  4. 前記ねじ締め付け構造は、前記外側継手部材のステム部の軸端に形成された雄ねじ部と、前記雄ねじ部に螺合した状態で前記ハブ輪に係止される雌ねじ部とで構成されている請求項1または2に記載の車輪用軸受装置。
  5. 前記凸部は前記外側継手部材のステム部に設けられ、前記凹部は前記ハブ輪に設けられている請求項1〜のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
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