JP5750752B2 - 2dブロンズ型酸化タングステンナノシート、その製造方法およびそれを用いた光触媒とフォトクロミック素子 - Google Patents

2dブロンズ型酸化タングステンナノシート、その製造方法およびそれを用いた光触媒とフォトクロミック素子 Download PDF

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本発明は、二次元(2D)ブロンズ構造を有する酸化タングステンナノシート、その製造方法およびそれを用いた光触媒とフォトクロミック素子に関し、より詳細には、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、シート断面方向に複数規則的に配列し、シート平面方向に一次元トンネルを有する2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート、前駆体の酸処理ステップと剥離剤との混合ステップからなるその製造方法およびそれらを用いた光触媒、フォトクロミック素子に関する。
従来、粘土鉱物、および、硫化物、酸化物、水酸化物、グラファイトなどの様々な組成・構造を有する層状化合物を単層剥離させることによって、ナノレベルまで薄片化された2次元シート状物質が多く合成されている。これらナノシートは、二次元方向のバルクサイズと一次元方向のナノサイズを兼備しており、バルクの良好なハンドリング性とナノサイズ効果による特異な物性の両方を期待することができる。近年、グラファイトの剥離から得たグラフェンは、透明電極から電気化学キャパシタ、二次電池材料に至るまで幅広い領域へ応用されるなど、層状化合物の剥離技術は基礎・応用の両観点から大きな関心が寄せられている。多くの場合、層状化合物の単層剥離から得たナノシートは静電荷を帯びているため、自己組織化交互吸着法やLangmuir−Blodgett法、再凝集法、電気泳動法などを用いることによって、薄膜から粉体まで様々な形態の材料をナノスケールから構築できるという優れた材料成形性・設計性を有し、幅広い材料分野に応用できる可能性を秘めている。
ナノシート群の中でも酸化物系ナノシートは組成・構造のバリエーションに富み機能性の発現および合成・取り扱いの簡便さからとりわけ工業的利用価値が高い。例えば、レピドクロサイト型のナノシートにおいては数nmレベルにおいても高い誘電性を維持することや(例えば、特許文献1)、ドーパントの種類によってバルクには見られない巨大な磁気光学効果を発現することが見出されており、極薄の機能性材料としてデバイス分野からとりわけ大きな注目を浴びている。最近では、レピドクロサイトより厚い骨格を持つペロブスカイト型のナノシートを創製することでより高い誘電率の保持を実現できることが示され(例えば、特許文献2)、組成に加え、構造に着目したナノシート探索が重要な鍵となっている。
良く知られた鉱物・結晶構造にちなんで名付けられた、レピドクロサイト型(例えば、特許文献3)、α−NaFeO型(例えば、特許文献4)、ペロブスカイト型(例えば、特許文献5や非特許文献1)、2Dパイロクロア型ナノシート(例えば、特許文献6)は、アルカリ層状酸化物を出発物質として合成する手法がすでに確立されている。しかし、ペロブスカイト同様、強誘電や超伝導など多才な構造として知られる二次元のブロンズ構造を持った単層ナノシートは、その前駆体となるアルカリ層状化合物自体がポリタングステン酸以外ではほとんど知られていないために合成されていなかった。
酸化タングステン系は、光触媒やエレクトロクロミック素子、フォトクロミック素子、脱硫・脱硝触媒など機能性材料としても広範囲な工業的用途を有する。2Dブロンズ型ホスト層を有する、アルカリ層状ポリタングステン酸としてはRb1135が存在することが知られている(例えば、非特許文献2)。このホスト層は、金属−酸素八面体からなる六員環構造がホスト層断面方向に複数規則的に配列したポーラスな骨格から形成されている。よって、2Dブロンズ型ホスト層は1nmより厚く、単層剥離することができれば、1nm以下のレピドクロサイト型やα−NaFeO型のホスト層を取り扱うナノシート群とは異なった、数nmというナノサイズと2Dブロンズ構造の両方の特徴を活かした独自の機能性を有するナノシートの創製が期待される。
しかしながら、アルカリ層状ポリタングステン酸の結晶構造は、大きなユニットセルを持つ場合が多く非常に複雑なため、回折データを取得しても解析が至難な上、多くのアルカリ:タングステン比の各組成で得られるポリタングステン酸は、変色しやすい、単相あるいは単結晶を合成することが困難など未だ多くの課題を抱えている。そのため、単相のポリタングステン酸を識別・取り出し、それらのイオン交換反応から新規物質を誘導するなどのソフト化学的な研究例は乏しい。
したがって、2Dブロンズ構造を有するホスト層からなるアルカリ層状ポリタングステン酸のソフト化学的処理から単層剥離現象を誘発し、これまでに無い2Dブロンズ構造を有した酸化タングステンナノシートが得られれば望ましい。また、そのような2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートのさらなる利用が望まれる。
WO2007/094244 WO2008/078652 特開2001−270022号公報 特開2003−201121号公報 特開2009−292680号公報 特開2009−1441号公報
Chem. Mater., 1990,2,279 Inorg.Mater.,1998,34,845 Chem.Mater., 2002,14,3524
本発明は、従来の層状化合物の単層剥離から得られた薄片状物質とは構造・組成が異なる、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、シート断面方向に複数規則的に配列した一次元トンネル状構造を有する2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート、その製造方法、および、それを用いた光触媒、フォトクロミック素子を提供しようと言うものである。
そこで本発明者らにおいては、鋭意研究を重ねた結果、上記の課題を解決するため、2Dブロンズ構造を有するホスト層が積み重なった層状酸化タングステンに着目し、この酸化物から基本的結晶構造を壊すことなく単層剥離し得ることを見出した。すなわち、組成式Rb1135で表される一次元トンネルを有するホスト層が積層しアルカリ層状結晶(図1参照)を出発物質として、この物質に塩酸・硝酸・硫酸などの酸性水溶液を作用させ、ホスト層の2Dブロンズ構造を崩壊させることなく固体酸性を備えた水素イオン交換体を誘導し、次いで、これに嵩高い陽イオンを含む溶液を作用させることによって、2Dブロンズ構造を持つ酸化物ナノシートを単層レベルである1nm〜4nmの厚みまでに単層剥離し得ることに知見し、成功したものである。本発明はこれらの知見、成功に基づいてなされたものであり、2Dブロンズ型ナノシート、およびその製造方法とそれを用いた光触媒、フォトクロミック素子を提供するものである。
すなわち、本発明は、以下(1)〜(8)に記載する構成要件を備えてなるものであり、これによって2Dブロンズ構造を有する特有な性質を有する酸化タングステンナノシートを提供することに成功したものである。
(1)金属−酸素八面体からなる六員環構造が、シート断面方向に複数規則的に配列した一次元トンネル状構造からなる2Dブロンズ構造を有する酸化タングステンナノシート
(2)WとOのモル比11:35で表される前記(1)項に記載の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート。
(3)結晶学的厚みが1nm〜4nm、横サイズがサブミクロンから数ミリの範囲である前記(1)項に記載の酸化タングステンナノシート。
(4)2Dブロンズ構造を有するホスト層が積層した構造を持つ層状タングステン酸化物を単層剥離して得られてなる前記(1)項に記載の酸化タングステンナノシート。
(5)金属―酸素八面体の六員環構造(ブロンズ構造のホール)がシート側面に2層ないし3層含む、前記(1)項記載の酸化タングステンナノシート。
(6)2Dブロンズ構造を有するホスト層が積層した構造を持つ層状タングステン酸化物のホスト層構造を維持したままプロトンまたはオキソニウムイオンを層間に導入し、次にその層間に嵩高いカチオンを導入することによって、単層剥離した2次元シート状物質が分散した溶液を得ることを特徴とする、2Dブロンズ構造を有する酸化タングステンナノシートの製造方法。
(7)前記(1)〜(5)項記載のいずれかの2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする、光触媒。
(8)前記(1)〜(5)項記載のいずれかの2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする、フォトクロミック素子。
本発明による酸化タングステンナノシートは、2Dブロンズ構造を有する。このような2Dブロンズ型ナノシートは、シート断面方向にナノサイズを有し、シート平面方向にはバルクサイズを有し得る。このようなサイズ・性状の薄片状ナノ物質は、他のナノ物質に比べ取り扱いが簡便であるだけでなく、製膜性、塗布性に優れており、薄膜材料、コーティング材として利用可能である。また、2Dブロンズ構造は、アルカリイオンをイオン交換することでオープンチャネルとして機能し得るので、各種分子やガスの吸着を利用したセンサー、触媒として有用である。
本発明による2Dブロンズ型ナノシートは、光触媒、エレクトロクロミック素子、フォトクロミック素子、脱硫・脱硝触媒など多才な工業的利用価値を有している酸化タングステンより構成されている。単層剥離後の2Dブロンズ型ナノシートも同様の性質を有す上に、極めて有用な使用態様を含んでおり、大いに使用され、産業の発展に寄与することが期待される。すなわち、近年、光触媒作用を利用した窓ガラスの防曇・セルフクリーニング技術が省エネルギー技術としてに注目を集めている。これら機能性を屋外のみならず屋内において発現させるためには、さらなる高感度化と可視光利用が必要不可欠であり、様々な単独材料系あるいは複合材料系が精力的に模索されている。本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、2Dブロンズ構造に由来して最大で4nmに及ぶ厚みと金属−酸素八面体の結合構造から、多くの既存の半導体酸化物ナノシートのバンドギャップより狭いバンドギャップを有し、紫外光/可視光環境下における光触媒効果やフォトロミック特性の利用などの応用展開が考えられうる。さらに、2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、ポリアニオンとして取り扱うことが可能であり、前述のレイヤーバイレイヤー法などによって材料成形性に富んでいることから、まったく新しい光触媒・フォトクロミック薄膜材料が産み出されることが期待され、その意義は極めて大きい。
本発明による2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートの断面模式図。 実施例2の各濃度のコロイド溶液の紫外−可視光吸収スペクトルを示す図と255nmの吸光度と濃度をプロットした挿入図。 実施例2の(a)単層剥離した2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートをCuグリッドに吸着させて観察したTEM像を示す図と(b)その電子回折パターンを示す図。 実施例2の(a)Si基板上に形成された薄膜のAFM像および(b)その断面プロファイルを示す図。 (a)Rb1135とそれを16規定の硝酸で(b)1、(c)3、(d)5回処理したサンプルの粉末X線回折パターンを示す図。 実施例2の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートコロイド溶液を各回転数で遠心分離したときの酸化タングステン重量の回収率を示す図。 実施例3の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートと有機カチオンを10回交互積層したときの紫外−可視光吸収スペクトルを示す図と積層回数毎における255nmの吸光度をプロットした挿入図。 実施例3の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートと有機カチオンを10回交互積層した(a)as−grown薄膜と(b)紫外線1時間照射、(c)紫外線4時間照射、(d)紫外線24時間照射後のX線回折パターンを示す図。 実施例4の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートコロイド溶液の紫外線照射前後での紫外−可視光吸収スペクトルを示す図。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。同様の要素には同様の参照符号を付し、説明が重複するのを避ける。
本発明は、まず出発物質として2Dブロンズ構造(図1参照)を有するホスト層からなるアルカリ層状ポリタングステン酸が用いられる。このような物質としては組成式Rb1135で表されるアルカリ層状酸化物が挙げられる。このようなアルカリ層状酸化物以外にも、本発明の意図する目的に適う2Dブロンズ構造のホスト層からなる層状化合物があれば使用することができる。この実施例では上記組成の層状酸化物を用い、硝酸などの酸性水溶液で処理して水素イオン含有物質Rb4−x1135(0≦x≦4)水和物に変換し、次いで、嵩高いゲストとして機能する四級アンモニウムイオンに代表される嵩高いゲストを含む水溶液中で混合・振盪させることによって水和層状ポリタングステン酸を単層レベルの厚みに剥離させ、2Dブロンズ構造を壊すことなく、薄片状のナノシート分散溶液を得る。
本発明のアルカリ層状ポリタングステン酸Rb1135は、タングステンブロンズ構造に類似した金属−酸素八面体からなる六員環構造が、シート断面方向に3層分規則的に配列することでシート断面方向に一次元チャンネルを形成している、2Dブロンズ構造を持つホスト層から形成されている(図1参照:斜方晶a=1.4653(3)nm,b=2.568(3)nm,c=0.7684(3)nm)。この層状化合物に酸処理を施した後、剥離促進剤を加えることによって、ホスト層一枚一枚にまでバラバラになったナノレベルの薄片状ナノ物質が分散したコロイド溶液が得られる。
剥離反応を進行させるためには、酸処理によってアルカリイオンを一部あるいはすべて抽出し、層間に水素イオンまたはオキソニウムイオンを導入しすることで固体酸性を持たせる必要がある。酸処理には塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができる。
酸の種類・濃度・処理回数によってイオン交換後の生成物である組成式Rb4−x1135水和物(0≦x≦4)中のxの量を変化させることができるが、剥離反応をうまく進行させるためには、単位格子中の層間のRbイオン量に相当するx=1以上をイオン交換させる必要がある。このとき完全にルビジウムを抽出することは困難であり、ルビジウムを上記組成式の2より少なくするためには、高濃度の塩酸・硝酸・硫酸等を繰り返し用いる必要があり経済的に好ましくない。最終的にコストや日数を考慮すれば、濃度10規定以上の硝酸を(溶液)/(固体)=100cm−1の固液比で組成式中xが2程度になるまで酸処理を行うことが望ましい。
ルビジウムが水素イオンと交換した水素イオン交換体Rb4−x1135水和物(0≦x≦4)と剥離促進剤を水溶液中で混合・振盪させることによって、層状化合物の層と層の剥離反応を進行させると、ナノスケールまで薄片化した2Dブロンズ構造のナノシートが分散した溶液を得ることができる。このとき、水素イオン交換体中の水素イオンと剥離促進剤のモル比を調節することによって、単層剥離した2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを主成分として得ることができる。
本発明に用いる剥離促進剤としては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、n−プロピルアミン、n−エチルアミン、エタノールアミンを用いることができるが、テトラブチルアンモニウムイオン(以下、TBA)が特に有効である。
水素イオン交換体Rb4−x1135水和物(0≦x≦4)中の水素イオンに対して、剥離促進剤TBAの比が0.5〜2の範囲となるように加えることによって、黄色い分散液が得られる。モル比が0.5未満の場合には、剥離が十分に進行しない場合がある。また、モル比が2を超えると、ホストの2Dブロンズ構造が崩壊する場合がある。より好ましくは、モル比=1のとき最も収率良く2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを得ることができる。これらの条件で発生する未反応物は分散液をさらに遠心分離することによって、取り除くことが可能である。得られた黄色い上澄み液は、図2に示すようにバンドギャップに基づく光吸収特性を持っている。この吸収ピークのショルダー部(255nm)をプロットした挿入図を見ると、Lambert−Beer則に従っていることから、層状化合物がホスト単層までバラバラになった状態で分散したコロイド溶液であることがわかる。また、その吸収ピークの立ち上がりは、吸収した光のエネルギーの0.5乗でプロットすると直線となり、バンドギャップ約3.3eVの間接遷移に基づいていることを示している。
水素イオン交換体Rb4−x1135水和物(0≦x≦4)に剥離促進剤を加えることによって得られたコロイド溶液をTEM観察用グリッド上に滴下し、乾燥後観察すると、グリッド上の大部分で図3(a)に示すように均一コントラストかつシャープなエッジを持ったシート状物質を観測することができる。この均一かつ薄いコントラストは、コロイド中に見出されたシート状物質が、前駆体の単層剥離によってナノレベルまで細分化されたナノシートであることに起因している。図3(b)に示した観察されたナノシートの電子回折パターンは、前駆体である層状ポリタングステン酸バルク体のホスト層と同様の二次元長方形格子で指数付けすることができた(a=1.4nm,c=0.78nm)。この結果は、コロイド中のナノシートが図1に示した出発物質のホスト層と同一の2Dブロンズ構造からなる二次元骨格を形成している根拠となる。
元の層状化合物の単層剥離から得られたナノレベルまで細分化された2Dブロンズ構造のナノシートのシート平面方向は、剥離に用いる母結晶の大きさに依存している。出発原料に数ミリオーダーのサイズを用いれば、得られる2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートも最大で数ミリオーダーである。剥離促進剤と混合した後、振盪すると収率が向上するがシート平面方向のサイズが小さくなる傾向がある。ミクロンサイズの母結晶を用いて収率を優先して合成した場合、一般的には、サブミクロンから数ミクロン程度の横サイズを持っている。実際に、180rpm振盪後に得られた酸化タングステンナノシートコロイド溶液から、カチオン性ポリマーを用いた自己組織化吸着法によって、ナノシート単層をSi基板上に吸着させ、原子間力顕微鏡(AFM:図4参照)で観察すると、0.1〜1ミクロン弱程度の横サイズのナノシートが観測できる。これら2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートの結晶学的厚みは、ホスト一層分に酸素のファンデルワールス半径を考慮すれば約2.5nmであり、AFM観察像から見積もった約3nmの高さと良い一致を示している。この結果は、Si基板上に吸着させた薄片状酸化タングステンが図1に示した出発物質Rb1135のホスト層と同一の2Dブロンズ構造からなる二次元骨格を形成していることを示す傍証となる。
以上の分散溶液として得た2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、液相のpHや電解質濃度を制御したり、あるいは加熱または凍結乾燥することによってナノシートを再凝集させることが可能であり、室温近傍で高比表面積をもった微粒子を作製することができる。このとき、アルカリイオンや有機分子、錯体を共存させることによって様々なカチオン種を挟み込んだ層状化合物に再構築・設計することができる。また、2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートはアニオン性を有するため、ポリカチオンなどの有機高分子や、複合水酸化物の剥離から得られた無機高分子などとの静電的自己組織化反応を利用することによって、コンポジット材料を誘導したり、様々な基板上(例えば、Si、SiO、ITO、Al、Ni等)に交互吸着製膜することが可能である。例えば、SiO基板上に有機カチオンと共に交互吸着製膜させると、図5に示すように2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを吸着させる回数に比例して光吸収スペクトルも増加することから、任意の光吸収特性または膜厚を有した超薄膜を簡便に大面積で製膜することが可能である。また、Langmuir−Blodgett法や電気泳動法などを用いることによっても製膜可能なため、精密膜厚制御、Roll to roll、大面積化など様々な製膜技術の工業的ニーズに対応した材料を構築することができる。
本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート中におけるタングステン(W)と酸素(O)とのモル比は、一次元トンネル内に吸着あるいは挿脱する物質を除けば、11:35を満たす。WとOとのモル比が、上記関係からはずれると、図1の2Dブロンズ構造が維持されなくなり、ナノシートが得られない場合がある。
また、本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、ホスト層の金属−酸素八面体の六員環構造を高い結晶性のまま保持し得る。六員環構造のホールの直径は、酸素のイオン半径を考慮すれば0.3nmある。このサイズは、一般的なゼオライトと同程度であるため、ホール中のアルカリイオンを取り除くことで、水や特定の分子の吸着材・吸収材として機能する。特に、ゼオライトとは異なり2Dブロンズ型酸化タングステン骨格が光機能性を発現することから、吸着能と光機能性とを組み合わせた独自の機能性材料発現が期待される。
本発明による2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、その厚みと構造から従来知られている酸化タングステンナノ粒子(5nm以下)や2Dパイロクロア型酸化タングステンナノシートより狭い約3.3eVのバンドギャップを有する上に、光触媒反応による有機物の分解・除去が可能である。そのため、可視光/紫外光応答の光触媒反応を利用する、水分解、光誘起親水性、太陽電池等の他の応用範囲まで適用することが可能である。
さらに、本発明による2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、水和三酸化タングステンと同様に可視光/紫外光に応答してフォトクロミック反応を生じる。酸化タングステン系のフォトクロミック材料においては、プロトンなどのカチオン種が吸着することで吸収域が生まれるため、カチオン種が多く吸着できる表面積を増やすことが重要な課題となっている。本発明による2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、表面積が大きく取れる二次元のシート形状を有すると共に、ホスト層内のアルカリイオンがプロトンと置き換わり大きな空間を作ることから、酸化タングステン八面体一つ当たりの高い効率を実現するフォトクロミック材料になる可能性がある。具体的には、本発明による2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを、サングラス、スマートガラス、自動車の窓ガラスなどへ適用してもよい。また、酸化チタン等の半導体的性質を有するナノ材料と複合化すれば、ナノスケールのエネルギー貯蔵型光触媒として機能することが期待される。
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。但し、これらの実施例は、あくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示するためのものであって、本発明をこれによって限定する趣旨ではない。
参考例
WOとRbCOを11:2の比で混合し、750℃で1時間仮焼成後再び粉砕・混合し850℃で12時間本焼成を行った。焼成物の粉末X線回折パターン(図5a)からRb1135が単相で得られていることを確認した(斜方晶:a=1.4653(3)nm,b=2.568(3)nm,c=0.7684(3)nm)。
合成した黄色い粉末Rb1135と、16規定の硝酸を(溶液)/(固体)=100cm−1の固液比で反応させ得られた物質の粉末X線回折パターンを図5bに示す。硝酸1回処理によって、元の層状化合物Rb1135の層間の反射によるd=2.59nm(2θ=3.4°)の回折ピークが低角へ極わずかにシフトが見られるがほぼ同じパターンであり、高濃度の硝酸と接触しても溶解せず基本的な結晶構造を維持していることがわかった。得られた粉体試料のICP発光分析と原子吸光分析から、Rb:Wの比を求めたところ、4:11から3.3:11へRbイオンが抽出されていることがわかり、イオン交換反応が進行していることが示唆された。
次に、酸処理回数を1回で1日反応時間を取りながら3、5回と増やすと、層間の反射に起因するピークはさらに低角へシフトした(図5c、d参照)。最終的に5回処理することで、d=2.64nm(2θ=3.3°)の回折ピークが検出された。Rb:W比は3、5回処理したときそれぞれ3.0:11と2.4:11であり、処理回数に伴ってRbイオンをさらに抽出できることが示された。この抽出量は層間のRbイオンより多く、ホスト層内の一部のRbイオンもプロトンまたはオキソニウムイオンと交換されているものと考えられ、2Dブロンズ型ホスト層自体がイオン交換反応を示すことを示唆している。さらに、5回処理の試料のX線回折パターンを元の斜方晶格子で指数付けしたところ、a=1.464(1)nm,b=2.578(2)nm,c=0.764(2)nmのユニットセルで帰属できることがわかった。このとき、2θ=23.3°、24.3°、33.9°、36.7°、49.8°のピークは、2Dブロンズ型ホスト層の二次元周期構造(それぞれ02、40、42、60、80)に帰属することができ、5回以上硝酸処理を行ってもホスト層の2Dブロンズ構造が崩れることなく、層間・ホスト層内のイオン交換反応が進行していることがわかった。これは酸処理回数を増やしていくことでより多くのRbイオンを抽出できることを示しているが、剥離促進材と反応させるためには少なくとも、Rb:W=3:11まで減らす必要があり、経済的な効率を考慮すれば濃度16規定の硝酸で3回以上行うことが望ましい。
以上、最適なイオン交換条件として、Rb1135の粉末試料と(溶液)/(固体)=100cm−1の割合で16規定の硝酸を混合・攪拌した。これを1日ごとに新しい硝酸に交換して5回繰り返し、イオン交換処理を行った後、水洗、風乾して固体残留物を回収した。化学分析によりこの固体は水素イオン置換型層状タングステン酸粉末(Rb2.41.61135・nHO:nは乾燥状態に依存)であることがわかった。
実施例1
参考例で得られた水素型層状タングステン酸粉末(Rb2.41.61135・nHO:nは乾燥状態に依存)から、n=0として計算したときの乾燥体の重量が0.8gとなるようにサンプル採取し、テトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液(TBAOH)200cmに加えて室温で遮光しながら約10日間振盪(180rpm)した。このとき、TBAOHの濃度を固体中のイオン交換性プロトンとのモル比TBA/H=0.1〜10まで変化させたところ、TBA/H=0.5〜2の範囲で、静置後黄色い分散液と沈降した未剥離成分を目視にて確認した。特に、TBA/H=1のとき沈降成分が少なくかつ最も濃く見える分散液が得られた。なお、図示しないが、モル比が0.5未満および2より大きい場合においては、静置後上澄みはほぼ透明な溶液であり、剥離が進行しなかったことを目視にて確認した。
そこで、TBA/H=1の条件で得られた分散液を30分間300〜2000rpmの各回転数で遠心分離することで、沈降成分を取り除いた。分離した各上澄み液を乾燥後、それぞれ500℃まで空気中で加熱し重量測定を行うことで収率を求めたところ、約40〜60%ほど回収できたことがわかった(図6参照)。このとき、遠心分離の回転数が上がるにつれ、酸化タングステン回収率が減少するのは、大きなシートサイズを持つ酸化タングステン微粒子が優先的に沈降したものと考えることができる。つまり、遠心分離の回転数を制御することで、ある程度粒子サイズを制御できる可能性がある。
TBA/H=1の条件で得られた分散液をなるべく均一サイズの材料を得る観点から2000rpmで遠心分離した。得られた黄色い上澄み液を超純水(比抵抗値;18MΩcm)で、それぞれ11.4、5.7、1.14および0.57(×10−6moldm−3)の異なる濃度になるように希釈した。その後、各濃度の希釈溶液について紫外−可視光吸収スペクトルを測定したところ、380nm付近から立ち上がる強い吸収ピークが観測された(図2参照)。255nmのショルダー部で吸光度と濃度のプロットを作成したところ、図7挿入図に示すようにLambert−Beerの法則に従っていることから、単層剥離によって生成した酸化タングステンナノシートが高分散したコロイド溶液として得られていることが示された。挿入図のプロットを近似した直線の傾きからRb2.41.61135 2−分散粒子のモル吸光係数を求めたところ、255nmにおいて9×10と大きな値となり、効率良く紫外光を吸収していることがわかった。
また、紫外−可視光吸収スペクトルを、吸収光子のエネルギーの0.5乗を縦軸としてプロットすると直線となり(図示せず)、約3.3eVの間接遷移に基づくバンドギャップを有することが分かった。このバンドギャップは、多くの既存の半導体酸化物ナノシートのバンドギャップより狭く(例えば、2Dパイロクロア型酸化タングステンナノシートは3.6eV、レピドクロサイト型酸化チタンナノシートは3.8eV)、紫外光から可視光までカバーする光触媒材料として、有機成分の分解・除去、水分解、光誘起親水性、太陽電池等の応用展開に有利である。
次に、TBA/H=1、2000rpm30分の条件で得られたコロイド溶液をCuグリッド上に滴下しTEM観察を行った。このコロイド溶液中には、図3(a)のTEM像に示すように均一コントラストかつシャープなエッジを持ったシート状物質を観測することができる。この均一かつ薄いコントラストは、コロイド溶液中に見出されたシート状物質が、前駆体の単層剥離によってナノレベルまで細分化されたナノシートであることに起因している。図3(b)に示した観察されたナノシートの電子回折パターンは、前駆体である層状ポリタングステン酸バルク体のホスト層(a=1.464(1)nm,c=0.764(2)n)と同様の二次元長方形格子で指数付けすることができた(a=約1.4nm,c=約0.78nm)。この結果は、コロイド中に分散したナノシートが図1に示した出発物質のホスト層と同一の2Dブロンズ構造からなる二次元骨格を形成している根拠となる。
次いで、表面を洗浄したSi基板を塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(PDDA:2.5gdm−3、10分浸漬)水溶液100cmに浸し、Si基板表面をポリカチオンで被覆した。TBA/H=1、2000rpm30分の条件で得られたコロイド溶液を超純水(比抵抗値;18MΩcm)で0.4gdm−3に希釈し、ポリカチオンを被覆したSi基板を10分浸した。このとき、単層剥離した2Dブロンズ構造の酸化タングステンナノシートは負電荷を持つため、ポリカチオンとのレイヤーバイレイヤー自己組織化反応によって基板上に優先的に吸着させることができた。
得られた薄膜試料のAFM観察の結果を図4(a)に示す。図4(a)中には、横サイズが100nmから1μm程度のシャープなエッジを有したシート状物質を多数観察することができた。これはTEMで観察されたシート状物質と良く一致している。図4(b)に示したシート状物質の断面プロファイルから、シート厚みはおよそ3nm程度であることがわかり、大きな二次元異方性を持つ薄片状物質、つまりナノシートであることが示された。この値は、酸素のファンデルワールス半径を含む結晶学的な厚みが2.5nmである元の層状化合物の2Dブロンズ型ホスト層の一層分に丁度相当し、Si基板上に吸着させたシート状物質が図1に示した出発物質Rb1135のホスト層と同一の2Dブロンズ構造からなる二次元骨格を形成していることを示す傍証である。また、高さのヒストグラム(図示せず)から被覆率を求めると約50%程度(オーバーラップ部は10%未満)の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート単層膜であることがわかった。
以上、本発明による嵩高いアンモニウムイオンとの混合・振盪によって、2Dブロンズ構造のホスト層を持った層状ポリタングステン酸Rb4−x1135水和物(0≦x≦4)の単層剥離現象が誘発され、極薄のシート状物質“2Dブロンズ型酸化タングステンナノシート”として取り出すことが可能であることが示された。
実施例2
実施例1の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートが約50%程度被覆した単層膜の合成に用いた、PDDA水溶液(2.5gdm−3、10分浸漬)とナノシートコロイド溶液(0.4gdm−3)を用いて、SiO基板上に交互積層を行った。まず、基板をPDDA水溶液に10分浸しポリカチオンを吸着させ、水洗後、酸化タングステンナノシートコロイド溶液に浸して単層膜を合成した。再びPDDA水溶液に10分浸した後、酸化タングステンナノシートコロイド溶液に浸す工程をさらに9回繰り返した。このとき、2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートを吸着させる度に紫外−可視光吸収スペクトル測定でモニターした結果を図7に示す。
計10回基板上に吸着させた2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートにおいても、図2のコロイド状態の紫外−可視光吸収スペクトルと同様の形状のスペクトルが得られた。低波長になるにしたがって増加する吸収ピークのショルダー部(255nm)の吸光度と積層回数のプロットから、積層回数に比例して吸光度が増加していることが明らかとなった。これは、2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートと有機カチオンとの間で静電的自己組織化反応によるレイヤーバイレイヤー交互吸着が起きていることを示している。また、計10回基板上に吸着させたナノシート薄膜のX線回折パターン(図8a参照)には、積層した上下のナノシート間の距離に相当するd=3.4nmの回折ピークおよびその高次反射が観測されており、2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートが累積した有機/無機ハイブリッド超格子を持つ多層膜であることが示された。
上記の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートが累積した有機/無機ハイブリッド多層膜にHgXeランプで光照射(546nm輝線強度5.8mWcm−2nm−1)を行った。1時間光照射後にX線回折測定(図8b参照)を行ったところ、元のナノシート間の距離に相当するd=3.4nm(2θ=2.6°)のピークが消失し、d=3.1nm(2θ=2.9°)のピークが新たに観測された。さらに、図8b、cに示すように4時間以上光照射することで、最終的にd=2.8nm(2θ=3.1°)まで層間距離が小さくなることがわかった。この0.6nm程度の減少は、PDDAがアンモニウムイオンまで分解されたことに起因しているものと考えることができる。実際に、半導体酸化チタンナノシート/PDDA多層膜においても、紫外線照射によっておよそ0.5nm程度の層間の減少が見出されている(非特許文献3)。
以上、本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、その負電荷を利用したポリカチオンとの自己組織化反応によって単層膜から多層膜まで任意の膜厚を有した超薄膜として、室温湿式で大面積製膜が可能である。このようなナノシートの良好な材料成形性に加えて、既存ナノシート系に比べ2Dブロンズ構造としての厚い結晶構造と比較的狭いバンドギャップを有しているという特徴から、有機物の分解・除去を目的とした可視光/紫外光応答型光触媒コーティング材料の開発が期待できる。さらには、光触媒反応と関連する、水分解、光誘起親水性、太陽電池等まで幅広く適用することが可能である。
実施例3
実施例1で得たコロイド溶液(TBA/H=1、2000rpm30分)を、超純水(比抵抗値;18MΩcm)を用いて0.4gdm−3に希釈した。次いで、希釈したコロイド溶液を1cm光路長の密封フィルム付きセルに入れ、窒素ガスを溶液内へ導入することで脱酸素した。これを初期状態とし紫外−可視光吸収スペクトル測定を行った。次に、HgXeランプを用いて光照射を10分間(546nm輝線強度5.8mWcm−2nm−1)行い、再度紫外−可視光吸収スペクトル測定を行った。光照射前後のセルの様子と紫外−可視光吸収スペクトルを図9に示す。
光照射により、コロイド溶液の色が黄色から青色へ変化した。その紫外−可視光吸収スペクトルから光照射に伴って600〜1200nmの可視光/赤外光領域において吸光度が著しく増大していることがわかった。そこで、光照射前後の紫外−可視光吸収スペクトルの差分を取ったところ(図9挿入図)、波長が長くなるにつれ吸光度が増大し、測定上の最大値である1200nmの赤外領域において最大の変化を示していることがわかった。この水分散系での特性評価では、わずかな温度変化による水の赤外吸収スペクトルの変化が大きいため、1200nmより長い波長での正しい測定は困難だが、差分スペクトルの形状から1200nmより長い波長においても十分吸収することが期待できる。
以上、本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、他の水和タングステン酸化物同様、フォトクロミックかつエレクトロクロミック材料である。しかし、従来の2Dパイロクロア型ナノシートやナノ粒子とは、フォトクロミズムを考える上で重要な結晶構造という点において全く異なっている。この差はフォトクロミック特性に反映しているものと考えられ、上記からも2Dブロンズ構造ナノシートでは、相対的に可視光より赤外光を強く吸収する特性を示す。この可視光を通す窓のような光吸収特性は、自動車、住宅産業等で求められている紫外線&赤外線カットコーティング材への応用展開に有利である。
以上の各実施例では、母結晶としてRb1135を用いた例を示したが、Rb1135と類似した2Dブロンズ構造から構成される層状化合物であれば、Rb1135以外の化合物も使用することができると考えられ、これを除外する理由はない。例えば、同組成比を持つアルカリ層状ポリタングステン酸としてA1135(A=Li、Na、K、Cs)が考えられるが、これらはいずれも合成法が報告されていない。出発物質として使用し得る物質は、現段階ではRb1135がもっとも好ましいものとして挙げられる。
本発明は、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、シート断面方向に複数規則的に配列した一次元トンネルを形成している2Dブロンズ型ホスト層が累積した層状化合物を単層剥離することによって、製膜性・塗布性に富む2Dブロンズ構造のナノシートを得るのに成功したものであり、その特異な形態・結晶構造を活かし触媒から各種薄膜材料、コーティング材など様々な分野へ利用されることが期待される。特に、金属−酸素八面体からなる六員環構造は、前述の通りイオン交換サイトとして利用することが可能であり、水素、水、分子等の吸着を利用したセンサーや触媒作用にとって大きな利点となることが期待される。さらに、2Dブロンズ構造内にアルカリイオンを導入することでイオン伝導性を付与すれば、リチウムイオン二次電池などの固体電解質や電極材料のコーティング材として優れた特性を発揮することが予想される。
タングステン自体は、フィラメントや切削用工具などで大量に使用されるため、産業上非常に重要性が高い金属として認知されているが、地殻存在度が低い物質であり、かつ産出地にも大きな偏りがある。日本においてはタングステンをほとんど輸入に頼っている状況であるため、タングステンを利用する材料開発においては、今後益々リサイクル化が進められると共に、少ない量で高機能化することが重要な研究課題となっている。特に、酸化タングステン系は自動車用防眩ミラーや、工場・発電所などの排煙中のNO分解用の触媒、石油化学・石油精製で用いる脱硫・脱硝触媒として現在も幅広く普及しており、工業的利用価値が非常に高い。本発明の2Dブロンズ型ナノシートもまた酸化タングステン系ナノ材料であり、既存の材料と異なる形状・性状を持つ点において有用である。
近年、光触媒作用を利用した窓ガラスの防曇・セルフクリーニング技術が省エネルギー技術としてに普及してきている。これら機能性を屋外のみならず屋内において効果的に発現させるためには、さらなる高感度化と可視光利用が必要不可欠であり、窒素ドープ型酸化チタンや酸化タングステンに異種金属などの助触媒を加えた複合材料など、様々な系が精力的に模索されている。本発明の2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートは、2Dブロンズ構造に由来して最大で4nmに及ぶ厚みと金属−酸素八面体の結合構造から、多くの既存の半導体酸化物ナノシートのバンドギャップより狭く、酸化タングステン単独の系にも関わらず紫外光/可視光照射により光触媒効果を示す。つまり、同ナノシートは有機物分解から水分解、光誘起親水性、太陽電池等まで光触媒効果を利用する様々な分野において応用展開することが可能であり、同成分を用いて高感度化と可視光利用を達成することで光触媒材料の普及が促進されることが期待される。
さらには、他の酸化タングステン同様に、本発明によって得られた2Dブロンズ型酸化タングステンナノシートもまたフォトクロミックかつエレクトロクロミック材料である。バルク材料に比べナノシートは薄く大面積を有しているという形状上の利点を持ち、かつ2Dブロンズ構造独自の内部の吸着サイトを利用することで、極少量で強い発色が予期される。前述の自己組織化反応法などによって製膜性・塗布性に富み、膜厚制御も容易なことから、環境低付加ルートによる高効率、抵コストのフォトクロミック・エレクトロクロミック材料が開発され、サングラス、スマートガラスなど同成分を用いたまったく新しい調光薄膜が産み出されることが期待される。
すなわち、本発明によって2Dブロンズ構造を持つ酸化タングステンナノシートが提供され、前記した用途を始めとして、同成分を必要とする材料設計において活発に用いられ、利用されるものと期待されることから、その意義は極めて大きい。



Claims (8)

  1. 2Dブロンズ構造を有することを特徴とする酸化タングステンナノシート。
  2. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、WとOとのモル比は、11:35を満たすことを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  3. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記2Dブロンズ構造は、金属−酸素八面体からなる六員環構造が、前記酸化タングステンナノシートのシート断面方向に複数規則的に配列した一次元トンネル状構造であることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  4. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシートのシート断面の厚さは1nmから4nmであることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  5. 請求項1に記載の酸化タングステンナノシートにおいて、前記酸化タングステンナノシートは、一般式Rb1135で表される層状タングステン酸化物を単層剥離してなることを特徴とする、酸化タングステンナノシート。
  6. 2Dブロンズ構造を有する酸化タングステンナノシートを製造する方法であって、前駆体を酸処理する酸処理ステップと、前記酸処理された層状タングステン酸化物と、カチオン性の剥離促進剤とを混合する混合ステップとからなることを特徴とする、2Dブロンズ構造を有する酸化タングステンナノシートの製造方法。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする、光触媒。
  8. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化タングステンナノシートを用いたことを特徴とする、フォトクロミック素子。
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