JP5750695B2 - 装飾材料、装飾品およびカルシウムを含有する装飾材料の製造方法 - Google Patents
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本発明の第1実施形態における宝石10A(図3(b)参照)は、不純物としてカルシウムを含有している領域(以下、不純物領域という)を一部に有する宝石である。このカルシウムを含有する前の状態の装飾材料としての宝石(処理前宝石10:図3(a)参照)は、ルビー、サファイア、ダイヤモンド、ガーネット、スピネル、ルチル、水晶、エメラルド、アクアマリン、トパーズ、トルマリン、ジルコニアなど結晶質の無機物により構成される宝石であればよく、天然宝石のみならず、人工的に合成された合成宝石も含んでいる。この不純物領域においては、カルシウムの濃度が表面に近いほど高くなっている。この例においては、不純物として含有するカルシウムは、人の骨(以下、単に骨という)から得られたものを用いている。なお、骨は、人の骨に限らず、動物の骨であればよい。
以下、この宝石10Aの製造方法について説明する。
まず、焼成された骨を粉砕することにより、主成分がリン酸カルシウムである粉末が得られる。この粉末を10%硫酸溶液に混入させることにより、沈殿が生じる。この沈殿物を濾過することにより、硫化カルシウム(硫化カルシウム水和物を含む)が得られる。得られた硫化カルシウム(硫化カルシウム水和物を含む)を、1300℃で焼成すると、酸化カルシウムを主成分としたカルシウム材が生成される。なお、上記の処理条件は、一例であって、カルシウム材が生成されればどのような条件であってもよい。
上記の実施例として、焼成工程(ステップS312)における焼成条件を変えた場合の蛍光X線分析の結果について説明する。ここでは、処理前宝石10として、ブルーサファイアを用いている。また、カルシウム材粉末20としては、酸化カルシウムを用いている。酸化カルシウムに接触させたブルーサファイアをアルミナ製の容器の上に置き、箱型電気炉に入れて焼成した。焼成条件は、大気圧、空気雰囲気であり、焼成温度は、1100℃、1150℃、1200℃、1400℃である。焼成時間は、1100℃、1150℃のものは2時間(2Hr)、1200℃、1400℃のものは6時間(6Hr)となっている。なお、焼成温度は、装置の設定温度であり、ブルーサファイアそのものの温度は、炉内の温度検出位置などにより若干異なる場合がある。また、焼成温度により焼成時間が異なっているが、同一の時間であっても分析結果に与える影響はほとんどない。
この蛍光X線分析は、蛍光X線分析装置(SIIナノテクノロジー社製EDX5200A)を用い、焼成前の処理前宝石10、または焼成後に得られる宝石10Aの表面部分に励起用のX線を照射して、エネルギー分散型の分析を行った。図5に示すように、焼成前、1100℃においては、3.5〜4eV付近に発生するカルシウムを示すピーク(CaKα、CaKβ)が発生していないが、1150℃以上とすることによりピークが発生している。この結果から、処理前宝石10の表面部分に蛍光X線分析により検出可能な濃度のカルシウムが侵入したことがわかる。
第2実施形態においては、第1実施形態とは侵入処理(ステップS300)の内容が異なっている。そのため、侵入処理の内容について、図6、図7を用いて説明する。
イオン化工程(ステップS322)は、イオン注入装置において、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材を用いて、カルシウムイオンを発生させる工程である。イオン注入工程(ステップS323)は、発生させたカルシウムイオンを電気的に加速し、処理前宝石10に注入する工程である。
第1、第2実施形態においては、カルシウムを含有しない処理前宝石10に対して、カルシウムを侵入させて、カルシウムを含有する宝石10A、10Bを構成していた。第3実施形態では、宝石を生成するための原料の結晶化において、不純物となるカルシウムを原料と混合してから溶融して結晶化することにより、カルシウムを含有する宝石を製造する方法を説明する。
混合工程(ステップS511)は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウム材と酸化アルミニウムとを乳鉢などを用いて混合する工程である。この例においては、カルシウム材と酸化アルミニウムの混合比は、モル比で0.8:99.2である。このモル比は一例であって、様々に変更することができるが、カルシウム材のモル比の上限は、コランダムとして結晶化することが可能な範囲とすることを要する。また、カルシウム材のモル比の下限については、結晶化後、もしくは、後述する加工工程(ステップS600)において加工された後に非破壊の分析で不純物としてコランダムに含まれるカルシウムの検出が可能な濃度になるように決められていることが望ましい。
なお、混合工程(ステップS511)において、さらに、遷移金属または遷移金属化合物など遷移金属元素を含む材料を、モル比で0.01%から5%の範囲となるように混合する(相対的に酸化アルミニウムのモル比を減少させる)ことにより、様々な色に調整することができる。例えば、遷移金属としてクロムを用いれば赤色(ルビー)とすることができ、遷移金属として鉄またはチタンを用いれば青色(サファイア)とすることができる。
以上、本発明の実施形態およびその実施例について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
[変形例1]
上述した第1実施形態においては、宝石10Aの表面全体にカルシウムを含有する不純物領域120が存在する構成であったが、表面の一部に不純物領域120が存在し、残りの部分はカルシウムを含有しない(または、不純物領域120よりカルシウムの濃度が低い)構成であってもよい。この場合には、接触工程(ステップS311)において、処理前宝石10の表面の一部にカルシウムを含有しない物質(以下マスク部材という)を接触させて覆い、その周りからカルシウム材粉末20と接触させればよい。この構成について図10を用いて説明する。
この例においては、取出工程(ステップS313)は、さらにマスク部材30を除去する工程を含んでいてもよい。図10(b)では、マスク部材30を除去した場合を示し、マスク部材30が存在した部分を破線で示している。このようにマスク部材30を除去する場合には、薬液などにより溶解させればよい。このとき、マスク部材30を溶解しやすく、宝石10Cを溶解しにくい薬液を用いることが望ましい。すなわち、マスク部材30は、ある薬液に対して宝石10Cよりも溶解しやすい部材であることが望ましい。
上述したマスク部材30を用いた方法は、第1実施形態における接触法に限らず、第2実施形態におけるイオン注入法においても用いることができる。
上述した第1実施形態においては、宝石10Aの表面全体にカルシウムを含有する不純物領域120が存在する構成であったが、表面の一部に不純物領域120が存在し、残りの部分はカルシウムを含有しない構成であってもよい。この構成は、上述の変形例1におけるマスク部材30を用いる方法においても実現可能であるが、変形例2においては、マスク部材30を用いない別の方法により実現する。この方法について、図12を用いて説明する。
上述した第2実施形態において、宝石10Bの未侵入領域110側にさらにイオン注入法でカルシウムを侵入させて、図3に示す宝石10Aのように、表面全体に不純物領域120が存在するようにしてもよい。
上述した第1、第2実施形態においては、処理前宝石10に侵入させるカルシウムは、骨に含まれていた骨由来のカルシウムであったが、骨に含まれているものでないカルシウム(骨由来以外のカルシウム)であってもよい。すなわち、動物、植物などの生体、また生体に限らずその他様々なものに含まれるカルシウムであれば、どのようなものであってもよい。このようして、本発明は、思い出のものを宝石に含有させて身近に置いておきたいという要求を満たすこともできる。なお、第3実施形態において宝石に含有されるカルシウムについても同様に適用できる。
上述した第1、第2実施形態における未侵入領域110、第3実施形態において得られる宝石は、光透過性を有することが望ましい。ここでの光透過性とは、可視光に含まれる波長の少なくとも一部の波長の光に対して透過性を有していることをいう。なお、不純物領域120についても光透過性を有することが望ましい。
上述した第1、第2実施形態において、生成工程(ステップS200)は、焼成された骨に化学的処理が施され酸化カルシウムが生成されていたが、他の化学的処理を用いてもよい。例えば、以下の方法である。
まず、焼成された骨を粉砕して得られる主成分がリン酸カルシウムの粉末を、10%クエン酸溶液に溶解させる。この溶液に炭酸アンモニウムを加えると沈殿が生じ、濾過すると炭化カルシウムなどが得られる。このとき、反応熱などにより炭酸アンモニウムからアンモニアが抜けないように、保冷しておくことが望ましい。
この炭化カルシウムを1300℃で焼成すると、酸化カルシウムを主成分としたカルシウム材が生成される。このように他の化学的処理を用いてカルシウム剤が生成されるようにしてもよい。
上述した第1、第2、第3実施形態において、カルシウム材は、生成工程(ステップS200)において生成されたカルシウムまたは酸化カルシウムであったが、カルシウム化合物であれば、他の物質であってもよい。例えば、リン酸カルシウムをカルシウム材として用いてもよい。また、カルシウム材としては、骨焼成工程(ステップS100)において焼成された骨を粉砕したものであってもよいし、焼成される前の骨を粉砕したものであってもよい。
また、第1、第2実施形態における接触工程(ステップS311)においては、カルシウム材を粉末として処理前宝石10と接触させていたが、接触させるときには、粉末状でなくてもよく、例えば、塊状であってもよいし、溶剤に溶けた状態の液状であってもよいし、気体状として焼成工程(ステップS312)における焼成雰囲気として炉内に導入してもよい。
上述した第1、第2実施形態における処理前宝石10は、カルシウムを含有しない物質であったが、カルシウムを含有していても、蛍光X線分析などの非破壊の分析で検出されない濃度であればよい。また、このような分析により検出されるものであっても、処理前宝石10と宝石10A、10Bとでカルシウム濃度が増加していることを測定すれば、骨に含まれるカルシウムが含まれる状態になったことを確認することができる。
上述した第1、第2実施形態における処理前宝石10は、結晶質の無機物により構成される天然宝石または人工宝石であったが、ガラス(クリスタルガラスを含む)、オパールなどの非晶質の無機物により構成される宝石であってもよい。このように、本発明における装飾材料とは、結晶質または非晶質の無機物で構成される宝石を示す。なお、非晶質の無機物で構成される宝石を用いた場合、第1実施形態における焼成工程(ステップS312)において、焼成温度は、その宝石の軟化点(摂氏換算)の70%以上であることが望ましい。また、上限温度としては、その宝石の軟化点(摂氏換算)を超える温度であってもよく、宝石の形状が維持できる程度の温度とすることが望ましい。
また、装飾材料は宝石などに限らず、装飾品に用いられる結晶質または非晶質の金属化合物を含む。また、所定の光学特性を有する光学材料(酸化マグネシウム、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム、臭化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化ホウ素、硫化亜鉛、セレン化亜鉛など)に本発明を適用してもよい。この場合、光学材料にカルシウムを侵入させる程度により、光学特性を変化させればよい。
上述した第3実施形態においては、酸化アルミニウムを母物質としたコランダムを宝石の例としていたが、他のものであってもよい。例えば、母物質をスピネル型結晶構造AB2O4(例えば、MgAl2O4、NiFe2O4など)としてもよいし、ガーネット型結晶構造(例えば、Fe3Al2(SiO4)3、Y3(CrAl5)O12など)としてもよいし、トパーズといわれるケイ酸塩鉱物としてもよい。このような場合には、カルシウム材と母物質との混合比は、例えば、モル比で1:99とすればよい。
上述した第3実施形態においては、原料棒の一部にのみカルシウム材が分布するようにしてもよい。また、原料棒は、棒状に加工された母物質の周囲にカルシウム材を接触させて焼成したものとしてもよい。
上述した第3実施形態においては、浮遊帯域法を用いて宝石を製造したが、その他の方法を用いてもよい。例えば、フラックス添加型浮遊帯域法(Traveling Solvent Floating Zone法)を用いることが望ましい。或いは、通常、鉛直方向に結晶が育成できる方法であり坩堝を用いる方法、例えば、坩堝降下法(Bridgman法)、垂直型帯溶融法、単純引き上げ法(Nacken法)、下方引き出し法、回転引き上げ法(Czochralski法)などを用いてもよい。さらには、坩堝を使わない方法、例えば、ベルヌーイ法(Verneuil法)、スカルメルト法(Skull Melt法)、ぺデスタル(Pedestal法)、浸設アーク法などを用いてもよい。
Claims (10)
- 不純物としてカルシウムを含有する装飾材料であって、
前記装飾材料の表面の少なくとも一部において、前記カルシウムの濃度が高い不純物領域と、
前記装飾材料の内部において、前記カルシウムの濃度が低い未侵入領域と
を有することを特徴とする装飾材料。 - 前記カルシウムは、前記表面全体にわたって分布している
ことを特徴とする請求項1に記載の装飾材料。 - 前記領域は、可視光に含まれる波長の少なくとも一部の波長の光に対して透過性を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾材料。 - 前記カルシウムは、前記表面からの非破壊での分析により検出可能な濃度で前記領域に含まれている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の装飾材料。 - 前記分析は、蛍光X線分析である
ことを特徴とする請求項4に記載の装飾材料。 - 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の装飾材料と、
前記装飾材料を支持する支持部材と
を有することを特徴とする装飾品。 - 不純物としてカルシウムを含有する装飾材料の製造方法であって、
カルシウムを含有するカルシウム材と結晶質の装飾材料とを接触させる接触工程と、
前記カルシウム材と接触した状態の前記結晶質の装飾材料を、当該結晶質の装飾材料の融点(摂氏換算)より低く当該融点(摂氏換算)の30%以上の温度で焼成することにより、当該結晶質の装飾材料に前記カルシウムを含有させる焼成工程と
を有することを特徴とするカルシウムを含有する装飾材料の製造方法。 - 不純物としてカルシウムを含有する装飾材料の製造方法であって、
カルシウムを含有するカルシウム材と非晶質の装飾材料とを接触させる接触工程と、
前記カルシウム材と接触した状態の前記非晶質の装飾材料を、当該非晶質の装飾材料の軟化点(摂氏換算)の70%より高く当該非晶質の装飾材料の形状を維持できる温度で焼成することにより、当該非晶質の装飾材料に前記カルシウムを含有させる焼成工程と
を有することを特徴とするカルシウムを含有する装飾材料の製造方法。 - 不純物としてカルシウムを含有する装飾材料の製造方法であって、
カルシウムを含有するカルシウム材からカルシウムをイオン化させるイオン化工程と、
前記イオン化したカルシウムを装飾材料に注入することにより、当該装飾材料に前記カルシウムを含有させるイオン注入工程と
を有することを特徴とするカルシウムを含有する装飾材料の製造方法。 - 動物の骨に含まれるリン酸カルシウムからリンを分離してカルシウムまたはカルシウム化合物を生成する生成工程をさらに有し、
前記カルシウム材は、前記生成されたカルシウムまたはカルシウム化合物を含む
ことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載のカルシウムを含有する装飾材料の製造方法。
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