JP5747240B2 - 薬剤が細胞に与える影響を評価するシステム - Google Patents

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本発明は、一細胞毎の細胞増殖率、細胞死誘導率をそれぞれ算出し、細胞集団の3つの特性(細胞集団の増殖率、細胞集団の細胞死誘導率、細胞特性の多様性)を算出し、薬剤が細胞に与える影響を評価するシステムに関する。
現在、癌の化学療法に用いられる抗癌剤は数十種類あるといわれているが、癌細胞に対して殺傷率が高い抗癌剤の場合、副作用も強いことが多く、投与量を少なめに設定したり、投与期間に間を空けることになり、癌細胞が部分的にしか死滅せず(Fractional Killing)、生き残った細胞が耐性を獲得してしまい、元の抗癌剤ではもはや十分な殺傷効果は得られない場合も多い(非特許文献1、2、3)。そうすると、さらに強力な別の抗癌剤を用いることになり、癌患者をますます副作用に苦しめることになりかねない。
むしろ、癌細胞への殺傷効果は低くても細胞増殖抑制効果が高い抗癌剤であれば、患者に対する副作用も少なく、腫瘍自体が大きくならないので、癌と長期に亘って共存できる可能性が期待できるので、最近では、このような細胞増殖抑制効果のある抗癌剤の重要性が注目されてきている。例えば、ソラフェニブはRafキナーゼ、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)キナーゼ、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)キナーゼ、KITキナーゼを阻害し、その結果細胞増殖や血管新生を阻害する(参考文献4)。このような癌細胞の増殖を抑制する薬剤開発は現在も盛んに行われており、精度の高い薬剤のスクリーニング方法の開発が望まれている(特許文献1、2)。
抗癌剤の開発において、典型的には、「創薬研究」、「前臨床研究(薬物動態)」、「臨床研究」、「臨床治験」の順でプロセスを進める。「創薬研究」では、候補化合物の同定、合成、特徴付け、薬効のスクリーニングおよびアッセイの順に試験を進め、これらの試験で有用性を有する化合物について、前臨床研究への段階をすすめる。
候補化合物の同定や薬効のスクリーニングにおいて多くの場合、モデル細胞を用いて、細胞の増殖や癌マーカーを指標に評価がおこなわれる(In vitro実験)。細胞増殖を指標に薬効を評価する手法としては、(1)薬剤添加細胞群と薬剤不添加細胞群(コントロール)を用意し、薬剤添加一定時間後の細胞数を測定し、コントロールとの細胞数を比較する、(2)薬剤添加直前の細胞数を測定し、薬剤添加一定時間後の細胞数を測定する、といった方法である。また、細胞死誘導能を正確に知るために、死細胞を正確にカウントすることも行われている(特許文献3など)。
しかしながら、これら従来のIn vitro実験では、薬剤の添加前後での細胞数の変化が数値的には同じ数値を与える場合であっても、A:「癌細胞が一方で増殖しながら一方で死ぬ」という現象とB:「癌細胞の増殖が停止する」という現象が区別されていない。つまり、抗癌剤の細胞増殖抑制能と、細胞死誘導能とが区別されていないことである。Aのタイプの薬剤であると、1部の癌細胞が完全に死滅しても、残りの癌細胞が生き残って継続的に増殖するため、細胞分裂時のDNA複製の機会が多く、複製のたびに遺伝的な変異が誘導されるので、継続的な薬剤耐性を獲得するリスクが高まる。一方、Bのタイプの薬剤は癌細胞全体の増殖を抑えるわけだから、遺伝的な変異の機会は少ないため薬剤耐性を獲得するリスクが少なく、有効な癌細胞増殖抑制剤として、または他の抗癌剤の補助的薬剤などとして有用な薬剤の可能性が高い。
実際、臨床研究現場において、抗癌剤添加細胞群と不添加細胞群(プラセボ群)を用意し、薬効を癌組織の大きさを比較する際に、癌組織の大きさがコントロールに対して縮小していた場合でも、「癌細胞の増殖が抑制されている」のか「癌細胞の細胞死が誘導されて結果として生存細胞の数が増えていない」のかを区別する事はできない。臨床医が、経験に基づき、癌細胞の形態についても評価を行い、例え生存した癌細胞の数が少なくても、残った癌細胞の悪性度が高い(例えば細胞増殖が盛んと考えられる形状)場合は、薬剤の効果が低いと判断し、生存している癌細胞が多くてもそれらの多くの細胞状態が悪い場合(例えば細胞増殖が停止していると考えられる形状)は、薬剤の効果が高いと判断している。
このことは、抗癌剤開発における、上記AタイプとBタイプの薬剤を区別することの重要性を示しており、臨床研究に持ち込む以前の創薬研究において、十分にA,Bタイプの薬剤を区別し評価することが、高コストな臨床研究における不要な実験を回避し、創薬プロセスのコスト軽減に寄与すると考えられ、したがって、A,Bタイプの薬剤を区別してスクリーニングする方法の開発が強く求められている。つまり、たとえ癌細胞への細胞死誘導活性は弱くても、全ての癌細胞に対して均一に細胞死誘導活性を有する薬剤又は全ての癌細胞に対して増殖を抑制する薬剤をスクリーニングする方法の提供が求められている。
特開2000−86531 特開2001−316289 WO2007/018316
Spencer, S.L., Gaudet,S., Albeck, J. G., Burke, J. M., Sorger, P. K. (2009) Nature. 459, 428-432. Bastiaens,P. (2009) Nature. 459, 334-335. Newsom-Davis,T., Prieske, S., Walczak, H. (2009) Apoptosis. 14, 607-623. Wilhelm,S., Carter, C., Lynch, M., Lowinger, T., Dumas, J., Smith, R. A., Schwartz, B.,Simantov, R., Kelley, S. (2006) Nat. Rev. Drug. Discov. 5, 835-844. Ashkenazi, A., HerbstR. S. (2008) J. Clincal Invest., 118, 1979-1990. Fujita, S., Ota, E.,Sasaki, C., Takano, K., Miyake, M.*, Miyake, J. (2007) J. Biosci. Bioeng.,,104, 329-333. Fujita, S., Takano,K., Ota, E., Yoshikawa, T., Sasaki, C., Sano, T., Miyake, M.*, Miyake, J.(2008) Method in Mol Biol., Min, W-P. eds. Humana Press, In press.
本発明は、全ての癌細胞に対して均一に細胞死誘導活性を有する薬剤もしくは全ての癌細胞に対して増殖を抑制する薬剤、又は癌に対して薬剤が一様に作用するような補助薬剤の開発につながるスクリーニング方法、適切な評価システムを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく従来の抗癌剤スクリーニング方法の欠点を解析した結果、「癌細胞が一方で増殖しながら一方で死ぬ」現象と「癌細胞の増殖が停止する」という現象が区別されていないことは、経時的な評価が不足しており、細胞増殖抑制能と、細胞死誘導能とを区別していない点が問題であることに気づいた。
また、別の観点から言えば、従来方法においては、一人の患者から得られた癌組織や培養癌細胞系から得られた細胞集団が均一であることを前提としており、個々の細胞の個性による影響を区別できない。つまり、「薬剤が1部の細胞に対しては強く細胞死を誘導しているが、他の細胞にはほとんど影響を与えない場合」と、「弱いながらも均一に細胞死誘導又は増殖抑制をする場合」を区別できていないことでもある。
このように、従来は、細胞を集団で扱ってきたため、細胞の薬剤に対する応答が平均化して表現されてしまうため、極端な例を想定すれば、従来の薬剤評価システムにおいて、細胞死誘導率50%といっても、全ての癌細胞で確率的に50%の細胞に細胞死が誘導される場合ではなく、癌細胞の半数の薬剤耐性が100%で、残りの半数の細胞の薬剤耐性が0%であるというケースも考えられるが、その場合の薬剤の添加は、薬剤耐性を獲得しやすい悪性度の高い癌をスクリーニングしているに過ぎないということになる。
本発明者らは、通常均一な細胞集団であることが前提となっている株化細胞を用いた実験においても、実際には個々の細胞応答は極めて多様であり、一細胞毎、且つ時間変化を考慮した細胞評価が重要であることに思い至った。例えば、TRAILは癌細胞特異的に細胞死を誘導する薬剤として知られるが(非特許文献5)、一方でTRAILに対する一細胞毎の細胞応答が多様であり、クローナルとされる細胞集団においても均一な細胞死が誘導されないことが判明した(図1)(非特許文献1)。
そこで、発明者らは、癌細胞など細胞集団を低密度で播種・培養し、一定の大きさのコロニー(4−16個程度)を形成させ、薬剤添加前にあらかじめ細胞画像を経時的に取得しておき、薬剤を添加後に経時的に取得した細胞画像を、前記画像と比較することで、薬剤に対するコロニー毎の細胞の応答(細胞死の誘導率と細胞の増殖率)を正確に算出した。
このように算出した一細胞毎の「細胞死の誘導率」と「細胞の増殖率」に基づくことで、細胞集団全体の薬剤応答の傾向(細胞死誘導率、細胞増殖率)と共に、一細胞毎の両データのばらつき「標準偏差」を算出することができる。その際に、添加薬剤として、抗癌剤候補物質を適用することで、各候補物質の評価を正確かつ簡便に行うことができることから、全ての細胞に対して一様に細胞死を誘導するか、少なくとも均一に増殖を抑えるような薬剤耐性の起こりにくい、理想的な抗癌剤候補の選択が可能となった。また、既知の抗癌剤を標的癌細胞集団に対して均一に作用させる効果を有する、抗癌剤の抗癌作用増強剤候補を選択することも可能である。
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
〔1〕 標的癌細胞に対して細胞死誘導効果及び/又は細胞増殖抑制効果を有する薬剤の評価方法又はスクリーニング方法であって、少なくとも下記の工程(1)〜(4)を含む方法;
(1)癌細胞を低密度で培養プレート又はセルチップ上に播種し、培養して個々の細胞毎にコロニーを形成させる工程、
(2)コロニー群の1部を被検薬剤で処理した後、培養しながら細胞画像を経時的に記録し、単位時間毎に各コロニー別に生存細胞数及び死細胞数をカウントして、単位時間あたりの各コロニーの細胞増殖率L(sample)及び細胞死誘導率D(sample)を算出し、
コロニー群の他の1部を被検薬剤で処理することなく、培養しながら細胞画像を経時的に記録し、単位時間毎に各コロニー別に生存細胞数及び死細胞数をカウントして、単位時間あたりの各コロニーの細胞増殖率L(control)及び細胞死誘導率D(control)を算出する工程、
(3)工程(2)で被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(L(sample))及び細胞死誘導率平均値μ(D(sample))を、各コロニーの細胞増殖率L(sample)及び細胞死誘導率D(sample)の相加平均値としてそれぞれ算出し、
工程(2)で被検薬剤処理を行わない細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(L(control))及び細胞死誘導率平均値μ(D(control))を、各コロニーの細胞増殖率L(control)及び細胞死誘導率D(control)の相加平均値としてそれぞれ算出する工程、
(4)前記算出したμ(L(sample))とμ(L(control))とを比較して、μ(L(ratio))=μ(L(sample))/μ(L(control))×100(%)が100(%)未満である場合に被検薬剤を細胞増殖抑制効果が高い薬剤であると評価して選定し、
前記算出したμ(D(sample))とμ(D(control))とを比較して、μ(D(ratio))=μ(D(sample))/μ(D(control))×100(%)が100(%)より大きい場合に、被検薬剤を細胞死誘導効果が高い薬剤であると評価して選定する工程。
〔2〕 前記〔1〕に記載の工程(1)〜(4)に加え、対照実験として、さらに下記の工程(5)及び(6)を設ける、請求項1に記載の方法;
(5)正常細胞に対して前記工程(1)及び(2)と同一の手法を適用し、正常細胞の個々の細胞毎のコロニーを形成させ、被検薬剤処理を施した場合の各コロニー毎の細胞増殖率CL(sample)及び細胞死誘導率CD(sample)と共に被検薬剤処理を施さない場合の各コロニー毎の細胞増殖率CL(control)及び細胞死誘導率CD(control)を算出し、
それぞれの相加平均値として、被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(CL(sample))及び細胞死誘導率平均値μ(CD(sample))、並びに被検薬剤処理を行わない細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(CL(control))及び細胞死誘導率平均値μ(CD(control))を算出し、μ(CL(sample))とμ(CL(control))との比であるμ(CL(ratio))、及びμ(CD(sample))とμ(CD(control))との比であるμ(CD(ratio))を算出する工程、
(6)前記μ(CL(ratio))が50%<μ(CL(ratio))<200%であって、かつ(CD(sample))がμ(CD(sample))<1%であるか又はμ(CL(ratio))が50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(ratio))が50%<μ(CD(ratio))<200%である場合に、被検薬剤の作用の有用性が高いと評価し選定する工程。
〔3〕 前記〔1〕に記載の工程(1)〜(4)又はさらに前記〔2〕に記載の工程(5)〜(6)を設けた場合に加え、さらに下記の工程(7)〜(9)を設ける、前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法;
(7)被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差σ(L(sample))を各コロニー毎の細胞増殖率L(sample)と細胞集団全体の細胞増殖率の平均値μ(L(sample))との差を用いて算出した後、被検薬剤処理した細胞集団全体の増殖率の変動係数「C.V.(L(sample))=σ(L(sample))/μ(L(sample))」を算出し、
被検薬剤処理を行わない細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差σ(L(control))を各コロニー毎の細胞増殖率L(control)と細胞集団全体の細胞増殖率の平均値μ(L(control))との差を用いて算出した後、被検薬剤処理した細胞集団全体の増殖率の変動係数「C.V. (L(control))=σ(L(control))/μ(L(control))」を算出する工程、
(8)被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差σ(D(sample))を各コロニー毎の細胞死誘導率D(sample)と細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値μ(D(sample))との差を用いて算出した後、被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数「C.V.(D(sample))=σ(D(sample))/μ(D(sample))」を算出し、
被検薬剤処理を行わない細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差σ(D(control))を各コロニー毎の細胞死誘導率L(control)と細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値μ(D(control))との差を用いて算出した後、被検薬剤処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数「C.V.(D(control))=σ(D(control))/μ(D(control))」を算出する工程、
(9)前記工程(8)で求めた両細胞増殖率の変動係数の比であるC.V.(L(ratio))=C.V.(L(sample))/C.V.(L(control))×100の数値、及び/又は前記工程(6)で求めた両細胞死誘導率の変動係数の比であるC.V.(D(ratio))=C.V.(D(sample))/C.V.(D(control))×100の数値が100%未満であれば、被検薬剤が細胞増殖率及び/又は細胞死誘導率において、部分的な細胞増殖抑制及び/又は部分的な細胞死(Fractional Killing)が抑制できる薬剤であると評価して選定する工程。
〔4〕 既知抗癌剤の細胞死誘導効果及び/又は細胞増殖抑効果を増幅するかもしくは個々の細胞に均一に作用させるための補助薬剤の評価方法又はスクリーニング方法であって、下記の工程(1)〜(4)を含む方法;
(1)癌細胞を低密度で培養プレート又はセルチップ上に播種し、培養して個々の細胞毎にコロニーを形成させる工程、
(2)コロニー群の1部を前記既知抗癌剤及び被検補助薬剤で併用処理した後、培養しながら細胞画像を経時的に記録し、単位時間毎に各コロニー別に生存細胞数及び死細胞数をカウントして、単位時間あたりの各コロニーの細胞増殖率L(sample)及び細胞死誘導率D(sample)を算出し、
コロニー群の他の1部を前記既知の抗癌剤のみで処理した後、培養しながら細胞画像を経時的に記録し、単位時間毎に各コロニー別に生存細胞数及び死細胞数をカウントして、単位時間あたりの各コロニーの細胞増殖率L(control)及び細胞死誘導率D(control)を算出し、
(3)工程(2)で既知抗癌剤及び被検補助薬剤の併用処理した細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(L(sample))及び細胞死誘導率平均値μ(D(sample))を、各コロニーの細胞増殖率L(sample)及び細胞死誘導率D(sample)の相加平均値としてそれぞれ算出する工程、
工程(2)の既知抗癌剤のみで処理した細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(L(control))及び細胞死誘導率平均値μ(D(control))を、各コロニーの細胞増殖率L(control)及び細胞死誘導率D(control)の相加平均値としてそれぞれ算出する工程、
(4)前記算出したμ(L(sample))とμ(L(control))とを比較して、μ(L(ratio))=μ(L(sample))/μ(L(control))×100(%)が100(%)未満である場合に被検補助薬剤を細胞増殖抑制の増幅効果が高い薬剤と評価して選択し、
前記算出したμ(D(sample))とμ(D(control))とを比較して、μ(D(ratio))=μ(D(sample))/μ(D(control))×100(%)が100(%)より大きい場合に、被検補助薬剤を細胞死誘導効果が高い薬剤と評価して選択する工程。
〔5〕 前記〔4〕に記載の工程(1)〜(4)に加え、既知の抗癌剤を用いない系での対照実験として、さらに下記の工程(5)及び(6)を設ける、前記〔4〕に記載の方法;
(5)癌細胞のコロニー群に対して、既知の抗癌剤を用いずに被検補助薬剤のみを用いて、前記工程(1)及び(2)と同一の手法を適用し、被検補助薬剤のみの処理を施した場合の各コロニー毎の細胞増殖率CL(sample)及び細胞死誘導率CD(sample)と共に、被検補助薬剤を施さない場合の各コロニー毎の細胞増殖率CL(control)及び細胞死誘導率CD(control)を算出し、
それぞれの相加平均値として、被検補助薬剤処理した場合の癌細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(CL(sample))及び細胞死誘導率平均値μ(CD(sample))、並びに被検補助薬剤処理を行わない癌細胞集団全体の細胞増殖率平均値μ(CL(control))及び細胞死誘導率平均値μ(CD(control))を算出する工程、
(6)前記μ(CL(ratio))が50%<μ(CL(ratio))<200%であって、かつ(CD(sample))がμ(CD(sample))<1%であるか又はμ(CL(ratio))が50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(ratio))が50%<μ(CD(ratio))<200%である場合に、被検補助薬剤の作用の有用性が高いと評価し選定する工程。
〔6〕 前記〔4〕に記載の工程(1)〜(4)又はさらに前記〔5〕に記載の工程(5)〜(6)を設けた場合に加え、さらに下記の工程(7)〜(9)を設ける、前記〔4〕又は〔5〕に記載の方法;
(7)被検補助薬剤の併用処理した細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差σ(L(sample))を各コロニー毎の細胞増殖率L(sample)と細胞集団全体の細胞増殖率の平均値μ(L(sample))との差を用いて算出した後、被検補助薬剤の併用処理した細胞集団全体の増殖率の変動係数「C.V.(L(sample))=σ(L(sample))/μ(L(sample))」を算出し、
既知抗癌剤のみで処理した細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差σ(L(control))を各コロニー毎の細胞増殖率L(control)と細胞集団全体の細胞増殖率の平均値μ(L(control))との差を用いて算出した後、既知抗癌剤のみで処理した細胞集団全体の増殖率の変動係数「C.V.(L(control))=σ(L(control))/μ(L(control))」を算出する工程、
(8)被検補助薬剤の併用処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差σ(D(sample))を各コロニー毎の細胞死誘導率D(sample)と細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値μ(D(sample))との差を用いて算出した後、被検補助薬剤の併用処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数「C.V.(D(sample))=σ(D(sample))/μ(D(sample))」を算出し、
既知抗癌剤のみで処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差σ(D(control))を各コロニー毎の細胞死誘導率L(control)と細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値μ(D(control))との差を用いて算出した後、既知抗癌剤のみで処理した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数「C.V.(D(control))=σ(D(control))/μ(D(control))」を算出する工程、
(9)前記工程(8)で求めた両細胞増殖率の変動係数の比であるC.V.(L(ratio))=C.V.(L(sample))/C.V.(L(control))×100の数値、及び/又は前記工程(7)で求めた両細胞死誘導率の変動係数の比であるC.V.(D(ratio))=C.V.(D(sample))/C.V.(D(control))×100の数値が、100%未満であれば、被検補助薬剤が細胞増殖率及び/又は細胞死誘導率において、部分的な細胞増殖抑制及び/又は部分的な細胞死(Fractional Killing)の抑制を増幅できる薬剤であると評価して選択する工程。
〔7〕 標的癌細胞として、あらかじめ既知の抗癌剤で処理し、当該抗癌剤に対して耐性となった癌細胞を選択して用いることを特徴とする、前記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 評価又はスクリーニングの対象となる被検補助薬剤が、既知の抗癌剤耐性となった癌細胞の感受性を回復するための補助薬剤である前記〔7〕に記載の方法。
〔9〕 前記既知の抗癌剤がTRAILであり、被検補助薬剤がsiRNA製剤又は当該siRNAが標的とする配列を含む遺伝子の発現を阻害する薬剤である前記〔7〕又は〔8〕に記載の方法。
〔10〕 MDM2、MCL1又はPOU2F1遺伝子の発現を阻害する薬剤を有効成分とする、抗癌剤TRAIL耐性となった癌細胞のTRAIL感受性を回復するための又はTRAILの抗癌剤作用を増強するための補助薬剤。
〔11〕 前記MDM2、MCL1又はPOU2F1遺伝子の発現を阻害する薬剤が、MDM2、MCL1又はPOU2F1遺伝子を標的とするsiRNA製剤である前記〔10〕に記載の補助薬剤。
〔12〕 前記siRNA製剤が、配列番号2,6、10及び11に示される塩基配列から選択されたいずれかの塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含む、前記〔11〕に記載の補助薬剤。
既存の抗癌剤、抗癌剤候補物質に対して、種々の癌細胞に対する応答傾向の評価が的確に行うことができる。また、新たな抗癌剤又は抗癌作用増強剤の候補物質スクリーニングも簡便に行うことができ、薬剤耐性の起こりにくい、全ての細胞に対して一様に細胞死又は増殖抑制を誘導できる理想的な抗癌剤の開発に資する技術である。また、対象の癌に対して、被検薬剤として各種の既知siRNAを作用させ評価することで、抗癌剤がターゲットとすべき癌遺伝子をそれぞれの癌特異的に特定することができ、癌の種類、ステージなどに応じた治療に繋がる技術でもある。また、すでに耐性株となった抗癌剤耐性株を感受化する薬剤の探索に用いることもできる。
細胞コロニー毎に異なる薬剤(TRAIL)の効果 HeLa細胞を24wellプレートに播種する。この際、コロニーが区別出来るよう非常に低密度で一細胞毎にバラバラになるように播種する。48時間培養した後TRAILを添加し、コロニー毎のTRAILに対する応答を観測した。その結果、TRAILに対する薬剤の応答がコロニー毎で異なった。例えば、左上の円内の細胞群は部分的に細胞死が誘導され、下方の円内ではすべての細胞が死滅、右上の円内では、多くの細胞が生存している。 本発明のシステム工程のフローチャート ガン細胞のTRAIL耐性獲得原因の評価手順 control siRNAの導入確認 A-Dについては、Cy3Labeled Negative Control siRNAをリバーストランスフェクションし、48h後に撮影、EはNonTarget siRNAを導入、FはCell Death siRNAを導入 A.細胞の位相差画像(x4)scalebar 100μm B.細胞の蛍光画像(x4)scale bar 100μm、siRNAが細胞に導入されていることを示す。 C.細胞の位相差画像(x20)scalebar 50μm D.細胞の蛍光画像(x20)s scale bar 50μm siRNAが細胞の細胞質に局在している事を示す。 E.細胞の位相差画像(x4)scalebar 100μm F.細胞の位相差画像(x4)scale bar 100μm Cell Death siRNAが細胞に導入され細胞死が誘導されている。 TRAIL耐性をもつHeLa細胞の感受化に関わる遺伝子のスクリーニング HeLa細胞をsiRNAを固相化した24wellプレートに播種する。この際、コロニーが区別出来るよう非常に低密度で一細胞毎にバラバラになるように播種する。播種された細胞はプレート底面に接着し、接着底面よりsiRNAが細胞に導入される。48時間培養した後TRAILを添加し、コロニー毎のTRAILに対する応答を観測した。 各細胞株TRAIL曝露後の生存率変化 A.HeLa野生株(N=20), B.TRAIL曝露後生き残ったHeLa株(N=27) 取得した時系列細胞画像よりTRAIL添加1時間後から4時間ごとに細胞集団の生存率を測定
1.本発明のシステム工程
本発明システムは以下の工程を含むものである(図2)。
(1)細胞画像取得工程
(1−1)対象細胞集団(癌細胞など)を低密度で培養プレートまたはセルチップ上に播種し、培養して一定の大きさのコロニーを形成させる。その際に、好ましくは多数のwellを有する培養プレートの各well内の細胞数が1つずつになるように播種し、1〜60時間後、好ましくは3〜48時間培養して各細胞のコロニーを形成させる。
(1−2)コロニー群の1部をコントロールとして用いる。つまり、被検薬剤処理を行わずに培養を続けながら、細胞画像を経時的に、2コロニー以上で通常は薬剤処理コロニー群と同じコロニー数のコロニー群に対して、薬剤処理コロニー群と同じ時間間隔で細胞画像を取得する。このコントロールの画像取得は、下記(1−4)と同時に行うことが好ましいが、必ず同時に行う必要はなく、あらかじめ行っておくことができる。ここで、コントロールとは、陰性対照(ネガティブコントロール)となるので、被検薬剤を添加しない場合の他、効果のない偽薬(プラセボ薬剤)を添加する場合も含まれる。なお、コントロールが複数種類のことがあるので、下記4.で詳細に述べる。
(1−3)対象となる被検薬剤の2種類以上、好ましくは4種類以上、より好ましくは10種類以上、通常は6〜100種類のそれぞれについて、標的細胞の2コロニー以上、好ましくは4コロニー以上、より好ましくは10コロニー以上、通常は6〜100コロニーに対して同時に処理を施す。各コロニーが示す値の平均値を用いて評価することになるので、対象コロニー数が多いほど、より正確な評価が可能となる。siRNA、遺伝子治療用核酸など核酸の場合は適当なベクター、キャリアなどを用いたトランスフェクション処理により細胞内に導入する。なお、特定の薬剤、例えば市販癌治療薬の耐性株出現の程度などを正確に評価するためにも本発明を適用することができるが、その場合は被検薬剤が1種類のみという場合もあり得る。
薬剤投与の際、陰性対照(ネガティブコントロール)と共に陽性対照(ポジティブコントロール)を行うことが好ましい。ここで、陰性対照(ネガティブコントロール)とは、上述のごとく薬剤を添加しないかプラセボ薬剤を添加する場合であり、陽性対照(ポジティブコントロール)とは、既知の効果が確認されている薬剤を添加する対照実験をいう。
(1−4)被検薬剤(又は陰性対照薬剤又は陽性対照薬剤)を添加後、細胞画像を経時的に取得する。具体的には、5分〜1時間毎に10時間以上、好ましくは10〜30分毎に24時間〜96時間、細胞画像を取得する。その際、全ての被検薬剤を対象のコロニー群に対して、同時に薬剤処理し、コントロールを含めてすべて同じ時間間隔で細胞画像取得を行うことが好ましい。しかし、被検薬剤処理を行わないコントロールの場合は、あらかじめ取得しておいても良い。
(2)データ処理の工程
(2−1)コロニー毎、単位時間毎の生存細胞数、及び死細胞数をカウントする。
(2−2)コロニー毎に、「細胞増殖率」、及び「細胞死誘導率」を算出する。
(2−3)各コロニー毎の細胞の応答(細胞死の誘導率と細胞の増殖率)を積算して平均値を求め、細胞集団全体の「平均細胞死誘導率」と「平均細胞増殖率」を算出する。
(2−4)コロニー毎の細胞死誘導率及び細胞増殖率が細胞集団全体の両率に対してどの程度ばらついているかを評価する。その際の指標として、「標準偏差」及び「変動係数」を算出する。
(2−5)平均細胞死誘導率及び平均細胞増殖率が陰性対照群(ネガティブコントロール)の値と比較して何パーセントの値を持つか「対照群に対する平均値の割合」、細胞死誘導率及び細胞増殖率のそれぞれの変動係数が陰性対照群(ネガティブコントロール)の値と比較して何パーセントの値を持つか「対照群に対する変動係数の割合」を算出する。
(3)薬剤の評価工程、又は細胞集団の特性決定工程
得られた数値に従って、薬剤を以下の指標で評価する。
(1)細胞増殖に与える影響
(2)細胞死に与える影響
(3)部分的な細胞死(Fractional Killing)の抑制能
(4)薬剤作用の時間依存性
2.本発明で対象とする細胞集団
本発明における対象細胞集団としては、薬剤評価の場合には、入手しやすい増殖性の培養細胞、典型的にはHela細胞などの培養癌細胞が対象となるが、細胞集団の特性を判定に用いる場合には、患者から採取した各種癌細胞、骨髄細胞、組織幹細胞などの増殖性の培養可能な細胞が対象となる。また、病原性微生物などの細菌、酵母類に適用することもできるので、本発明において、「細胞」というとき、これらの微生物を含めるものとする。
また、セルチップに播種する際には、低密度に、すなわち、細胞を薄く広く播種し、細胞同士が接触しない状態をつくる。その場合、例えば、DMEM+10% FBSなどのATCC(アメリカ細胞バンク:American Type Culture Collection)が推奨する培養条件で細胞を懸濁し、2〜20個、好ましくは4〜16個/セルチップ程度となるように播種する。異なるウェルに一細胞ずつ播種することが好ましい。
その際、培地としては市販の培地を用いることができる。また、液性因子を揃えるため、あらかじめ同種の細胞の培養に用いた培地をそのまま用いる方が細胞の成育が早い。
3.本発明で対象とする薬剤
本発明における対象薬剤としては、既存の抗癌剤、細胞死誘導剤、細胞増殖抑制剤、若しくはこれらの薬剤の作用を増強する物質などであるが、これら薬剤候補を選択するためのスクリーニング対象被検物質であってもよい。細胞の細胞死誘導、又は増殖抑制の作用を増強する典型的な物質としては、細胞表面抗原を認識する抗体、若しくはそのフラグメント、T細胞レセプター若しくはその可溶性フラグメントなど蛋白質、ペプチドの他、siRNA、アンチセンス、リボザイム、癌抑制遺伝子等の遺伝子を含む発現ベクターなどの核酸も対象となる。
ここで、市販の抗癌剤など各種既存の薬剤を対象とすれば、これら既存薬剤における、各種癌細胞に対する薬効を評価することができる。その際には、投与時の薬剤濃度、投与回数、投与時期、併用する他の薬剤,化合物などとの組み合わせ、投与のタイミング(時間)とその組合せなどの検討に用いることができる。また、既知siRNAや遺伝子発現ベクターを用いて、これらの遺伝子の過剰発現、または遺伝子抑制による細胞の影響を評価することができ、これによって、抗癌剤の対象とすべき遺伝子の評価が可能である。
既知の培養癌細胞を用いて、機能が未同定の被検物質を作用させることで、優れた抗癌剤、細胞死誘導剤、細胞増殖抑制剤、若しくはこれら各薬剤の作用を増強する候補物質のスクリーニングが可能である。被検物質としてsiRNAや発現ベクターを用いた場合は、薬剤デザインの対象となりうる遺伝子のスクリーニングが可能となる。
つまり、各種の既知のsiRNAを被検薬剤として用いて、本発明を適用することで、各siRNAを評価することができるので、当該siRNA自体を薬剤とすることもできるが、同時に当該siRNAが作用する対象遺伝子を特定できるから、特定された対象癌遺伝子をターゲットとした新たな抗癌剤開発が可能となる。
具体的な既存の優れた抗癌剤としては、癌細胞に特異的に細胞死を誘導する抗癌剤として注目されているTRAIL(TNF関連アポトーシス誘発リガンド)が、耐性株ができやすい抗癌剤としても知られているので、好適な例となる。その他、CPT(カンプトテシン)、パクリタキセル、ドセタキセルなども好ましい対象となる。
また、公知の抗癌剤、特定癌マーカーを認識するモノクローナル抗体、siRNAや遺伝子発現ベクターを用い、これらに対する被検細胞集団中の個々の細胞の挙動を観察することで、被検細胞集団のプロファイルを作成することができる。例えば、患者由来の細胞に対して認可済既知薬剤を用いたプロファイルを作成することで、患者に最適な薬剤を選択することが可能であり、医師の治療計画が立てやすくなる効果がある。
標的細胞に対して被検薬剤で処理する、又は被検薬剤を作用させるというとき、低分子化合物、蛋白質、ペプチドなどの場合は、公知の緩衝液に溶融もしくは懸濁して、培地に添加することをいう。また、siRNA、遺伝子治療用核酸などの場合は、適当な遺伝子導入用ベクターや公知キャリアーと共に、トランスフェクション処理して細胞内に導入することを指す。その際に、複数の被検物質、又は被検物質と既知の薬剤を組み合わせて作用させてもよく、遺伝子導入処理と培地への添加を同時に行ってもよい。
典型的な例として、siRNA(標的遺伝子の発現を特異的にノックダウンする機能を持つ小さなRNA)や遺伝子の発現プラスミドのトランスフェクションを行うことで、細胞内の各遺伝子の発現を亢進、または抑制することができる。各遺伝子に対応したsiRNAまたは発現プラスミドを標的癌細胞に対してトランスフェクションし、当該癌細胞の応答を一細胞毎に観察することで、各遺伝子の機能(細胞の増殖・抑制、細胞死の誘導、すべての細胞に対して均一に作用するか)を明らかにすることができる。
また、TRAILなどの既知抗癌剤に対する補助薬剤としての評価系として、既知の癌遺伝子関連siRNAや発現プラスミドの複数種を平行して細胞に導入してTRAILとの相乗効果を観察することも有効である。
特に、既知の抗癌剤のうちでもTRAILのような耐性株を作りやすい抗癌剤の場合、まずTRAIL耐性株を作製し、その耐性株を標的癌細胞として被検薬剤を作用させることで、TRAIL耐性を感受化する薬剤を探索することができる。TRAILと併用投与して評価すれば、TRAILの細胞死誘導作用を増強又は補完(均一化)するTRAIL補助薬剤をスクリーニングできる。
4.コントロールの選定について
(4−1)抗癌剤又はその候補物質の評価、スクリーニング系におけるコントロールと対照実験
癌細胞の各コロニーに対して、被検薬剤を加えた場合の単位時間あたりの細胞増殖率(L)と細胞死誘導率(D)を測定するが、被検薬剤の場合は、L(sample)及びD(sample)と表現される。被検薬剤を加えない(又はプラセボ薬剤を加える)場合が、L(control)及びD(control)と表現される。しかし、抗癌剤候補スクリーニングの場合、実用化に耐えられるためには、正常細胞へのダメージができるだけ少ない方がいいので、正常細胞に対する対照実験を行うことが好ましい。つまり、標的とする細胞を癌細胞から正常細胞に代えただけで、他の処理は全く同一の処理を施す。その場合、正常細胞に被検薬剤処理を施した場合をLC(sample)及びDC(sample)と表現し、被検薬剤を加えない場合は、LC(control)及びDC(control)と表現される。
(4−2)抗癌剤の補助薬剤又はその候補物質の評価、スクリーニング系におけるコントロールと対照実験
被検薬剤が、補助薬剤の場合、既知抗癌剤と用いて抗癌剤の細胞死誘導効果を増強する効果、又は抗癌剤が均一に作用を及ぼすことを補助する効果の程度を評価するか、又はそのような補助薬剤をスクリーニングすることになる。その場合、癌細胞に対して、被検補助薬剤を、抗癌剤と併用した場合が、L(sample)及びD(sample)と表現され、被検補助薬剤を加えずに、抗癌剤のみ(又はプラセボ薬剤+抗癌剤)の場合がL(control)及びD(control)と表現される。また、補助薬剤はあくまで抗癌剤の効果の増強及び均一化を目的とするものであるから、たとえ癌細胞に対してであっても、補助薬剤のみで強い効果がある場合は強い副作用が懸念され、実用性に乏しい。そこで、さらなるコントロール系としては、癌細胞に対して抗癌剤を加えずに補助薬剤(候補)のみを加える場合が、LC(sample)及びDC(sample)に相当し、何も加えない場合(又はプラセボ薬剤を加える場合)がLC(control)及びDC(control)に相当する。
補助薬剤のスクリーニングにおいて、標的癌細胞として、既知抗癌剤に対する耐性を獲得した癌細胞を用いることで、すなわち、あらかじめ標的癌細胞に対して既知の抗癌剤処理を施し、当該抗癌剤に対する耐性を獲得させた癌細胞とした後、既知抗癌剤と補助薬剤候補とを作用させることで、当該抗癌剤耐性株を感受性株に戻す補助薬剤を選定できる。当該補助薬剤は、当該抗癌剤に対する細胞死誘導効果の増強作用及び/又は均一化作用の高い補助薬剤のスクリーニングが可能となる。
また、上記補助薬剤のスクリーニング系により補助薬剤が絞り込まれた場合には、さらに、正常細胞へのダメージが少ないことを確認するための、正常細胞を用いた対照実験を設けることが好ましい。
本発明の実施例で用いた既知抗癌剤TRAILと補助薬剤候補の各種siRNAの例でいうと、標的癌細胞の各クローンに対し、TRAIL(+)、siRNA(+)の系がL(sample)及びD(sample)で表され、TRAIL(+)、siRNA(−)の系がL(control)及びD(control)で、TRAIL(−)、siRNA(+)の場合がLC(sample)及びDC(sample)で、そして、TRAIL(−)、siRNA(−)の場合がLC(control)及びDC(control)として表されることになる。
5.生存細胞数、又は死細胞数のカウント方法
本発明では、薬剤処理後に、コロニー毎、単位時間毎の生存細胞数、及び死細胞数をカウントする必要がある。その際のカウントは、コロニー数及び細胞数が少ない場合は顕微鏡下で計数することも可能であるが、通常はコンピューターによる画像処理により行う。なお、死細胞は、プレートから剥離し、形状から容易に判断可能である。また、生きた細胞のみを染色できるCrystal VioletやCarcein-AMなどや、死んだ細胞のみを染色できるEthidium homodimer (EthD-1)などを用いることで、蛍光顕微鏡による計測ができる。
6.細胞増殖率、細胞死誘導率、及び標準偏差の算出方法
まず、コロニー毎に,下記の式に従い細胞増殖率、及び細胞死誘導率を算出する。

単位時間当たり細胞の増殖率 [L]:
L=Exp{ln(L(t+Δt)/Lt)/Δt}x100
L: 細胞の増殖率(%)
L(t+Δt): 時間(t+Δt)において生存している細胞の個数
Lt: 時間(t)において生存している細胞の個数
L(t+Δt)/Lt: 時間(Δt)の間の細胞増殖率
各種条件における単位時間当たり細胞の増殖率 [L]を区別して表記する場合、LをL(Sample)、L(Control)、CL(Sample)、CL(Control)と表記する。

単位時間当たり細胞死の誘導率 [D]:
D=1-Exp[ln{1-(D(t+Δt)-Dt)/(L(t+Δt)+D(t+Δt )-Dt)}/Δt]x100
D: 細胞死の誘導率(%)
D(t+Δt)-Dt: 時間tから時間(t+Δt)の間に死んだ細胞の個数
L(t+Δt): 時間(t+Δt)において生存している細胞の個数
L(t+Δt)+D(t+Δt)-Dt: 時間(t+Δt)における細胞数(生細胞と死細胞の合計)
(D(t+Δt)-Dt)/(L(t+Δt)+D(t+Δt)-Dt): 時間(Δt)の間の細胞死誘導率
各種条件における単位時間当たり細胞死の誘導率 [D]を区別して表記する場合、DをD(Sample)、D(Control)、CD(Sample)、CD(Control)と表記する。
次いで、下記式に従って、各コロニー毎の細胞の応答(細胞の増殖率と細胞死の誘導率)の相加平均値、標準偏差、変動係数を下記式に従って算出する。

細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(L)]:
μ(L)=(L1+L2+・・・+Ln)/n:
μ(L): 細胞集団全体の細胞増殖の平均値 (%)
Ln: n番のコロニーの細胞増殖率(%)
n: 細胞数
各種条件における細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(L)]を区別して表記する場合、μ(L)をμ(L(Sample))、μ(L(Control))、μ(CL(Sample))、μ(CL(Control))と表記する。

細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(L)]:
Figure 0005747240
σ(L): 細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差 (%)
Li: i番目のコロニーの細胞増殖率
各種条件における細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(L)]を区別して表記する場合、σ(L)をσ(L(Sample))、σ(L(Control))、σ(CL(Sample))、σ(CL(Control))と表記する。

細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(L)]:
C.V.(L)=σ(L) /μ(L) x 100
C.V.(L): 細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 (%)\
各種条件における細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(L)]を区別して表記する場合、C.V. (L)をC.V. (L(Sample))、C.V.
(L(Control))、C.V. (CL(Sample))、C.V. (CL(Control))と表記する。

細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値 [μ(D)]:
μ(D)= (D1+D2+・・・+Dn)/n:
μ(D): 細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値 (%)
Dn: n番のコロニーの細胞死誘導率
(%)
各種条件における細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(D)]を区別して表記する場合、μ(D)をμ(D(Sample))、μ(D(Control))、μ(CD(Sample))、μ(CD(Control))と表記する。

細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差 [σ(D)]:
Figure 0005747240
σ(D): 細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差 (%)
Di: i番目のコロニーの細胞死誘導率
(%)
各種条件における細胞集団全体の細胞死誘導率の標準偏差 [σ(D)]を区別して表記する場合、σ(D)をσ(D(Sample))、σ(D(Control))、σ(CD(Sample))、σ(CD(Control))と表記する。

細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数 [C.V.(D)]:
C.V.(D)=σ(D) /μ(D) x 100
C.V.(D): 細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数 (%)
各種条件における細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数 [C.V.(D)]を区別して表記する場合、C.V. (D)をC.V. (D(Sample))、C.V.(D(Control))、C.V. (CD(Sample))、C.V. (CD(Control))と表記する。
上記の各式に従って、単位時間あたりの各コロニー毎の増殖率として、L(sample)及びL(control)、を、好ましくはさらにLC(sample)及びLC(control)を求め、単位時間あたりの各コロニー毎の細胞死誘導率としてD(sample)及びD(control)を、好ましくはDC(sample)及びDC(control)を求める。
次いで、これらの値の相加平均値、必要に応じて標準偏差、変動係数を求め、細胞集団としての細胞の応答を算出する。具体的には、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞増殖率のμ(L(sample))及びμ(L(control))、を、好ましくはさらにμ(LC(sample))及びμ(LC(control))を求め、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞死誘導率のμ(D(sample))及びμ(D(control))を、好ましくはμ(DC(sample))及びμ(DC(control))を求める。
また、必要に応じて、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞増殖率の標準偏差σ(L(sample))及びσ(L(control))、を、好ましくはさらにσ(LC(sample))及びσ(LC(control))を求め、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞死誘導率の標準偏差σ(D(sample))及びσ(D(control))を、好ましくはσ(DC(sample))及びσ(DC(control))を求める。必要に応じて、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞増殖率の変動係数C.V.(L(sample))及びC.V.(L(control))、を、好ましくはさらにC.V.(LC(sample))及びC.V.(LC(control))を求め、細胞集団全体の単位時間あたりの細胞死誘導率の変動係数C.V.(D(sample))及びC.V.(D(control))を、好ましくはC.V.(DC(sample))及びC.V.(DC(control))を求めてもよい。
次いで、下記式に従って、「陰性対照薬剤(ネガティブコントロール)による細胞応答(細胞の増殖率と細胞死の誘導率)の相加平均値、変動係数」それぞれに対する「被検群(サンプル)による細胞応答(細胞の増殖率と細胞死の誘導率)の相加平均値、変動係数」の割合を下記式に従って算出する。

対照群に対する平均細胞増殖率の平均値の割合[μ(L(ratio))]:
μ(L(ratio))=μ(L(sample))/μ(L(control)) x 100
μ(L(ratio)): 「陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の平均値」に対する「被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の平均値」の割合(%)
μ(L(sample)): 被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の平均値(%)
μ(L(control)): 陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の平均値(%)

対照群に対する細胞増殖率の変動係数の割合[C.V.(L(ratio))]:
C.V.(L(ratio))=C.V.(L(sample))/C.V.(L(control))x100
C.V.(L(ratio)): 「陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の変動係数」に対する「被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の変動係数」の割合 (%)
C.V.(L(sample)): 被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の変動係数 (%)
C.V.(L(control)): 陰性対照薬を添加した細胞集団全体の細胞増殖率の変動係数 (%)

対照群に対する細胞死誘導率の平均値の割合 [μ(D(ratio))]:
μ(D(ratio))=μ(D(sample))/μ(D(control)) x 100
μ(D(ratio)): 「陰性対照薬剤(ネガティブコントロール)を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値」に対する「被検薬剤(サンプル)を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値」の割合(%)
μ(D(sample)): 被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値(%)
μ(D(control)): 陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値(%)

対照群に対する細胞死誘導率の変動係数の割合[C.V.(D(ratio))]:
C.V.(D(ratio))=C.V.(D(sample))/C.V.(D(control))x100
C.V.(D(ratio)): 「陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数」に対する「被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数」の割合(%)
C.V.(D(sample)): 被検薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数(%)
C.V.(D(control)): 陰性対照薬剤を添加した細胞集団全体の細胞死誘導率の変動係数(%)
同様に、対照細胞(抗癌剤スクリーニング系における正常細胞、補助薬剤スクリーニング系における抗癌剤(−)癌細胞)の場合についても、細胞増殖率の平均値の割合μ(CL(ratio))、細胞死誘導率の平均値の割合μ(CD(ratio))、細胞増殖率の変動係数の割合C.V.(CL(ratio))及び細胞誘導率の変動係数の割合C.V.(CD(ratio))を、以下のように求めることができる。
μ(CL(ratio))=μ(CL(sample))/μ(CL(control))×100(%)
μ(CD(ratio))=μ(CD(sample))/μ(CD(control))×100(%)
C.V.(CL(ratio))=C.V.(CL(sample))/C.V.(CL(control))×100(%)
C.V.(CD(ratio))=C.V.(CD(sample))/C.V.(CD(control))×100(%)
7.被検薬剤に対する評価
上記5.で得られた数値に従って、被検薬剤を以下の指標で評価する。既知薬剤においては、投与時の薬剤濃度、投与回数、投与時期、併用する他の薬剤、化合物などとの組み合わせ、投与のタイミング(時間)とその組合せなどの検討を以下の指標(1)〜(4)に基づいて行い、最適な条件を評価する。未知薬剤においても、投与時の薬剤濃度、投与回数、投与時期、併用する他の薬剤、化合物などとの組み合わせ、投与のタイミング(時間)とその組合せによる検討を以下の指標(1)〜(4)に基づいて最適な薬剤のスクリーニングに用いる。
(1) 細胞増殖に与える影響
被検薬剤添加を行った癌細胞群(サンプル群)と陰性対照薬剤の添加を行った癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞増殖率の平均値μ(L(sample))及びμ(L(control))を比較する。具体的には、μ(L(ratio))=μ(L(sample))/μ(L(control)) x 100を算出しμ(L(ratio))の数値を評価する。μ(L(ratio)) < 100(%)であれば、コントロール群に対して、サンプル群がより強く癌細胞の増殖を抑制出来たことになる。一方、被検薬剤添加を行った正常細胞群(サンプル群)と陰性対照薬剤の添加を行った正常細胞群(コントロール群)それぞれの細胞増殖率の平均値μ(CL(sample))及びμ(CL(control))を比較する。具体的には、μ(CL(ratio))=μ(CL(sample)) /μ(CL(control)) x 100を算出しμ(CL(ratio))の数値を評価する。μ(CL(ratio))の値が100(%)に近いほど抗癌剤が正常細胞の増殖に影響を及ぼさず、薬剤の副作用が少なく有用性が高いことを意味する。
既知抗癌剤の抗癌剤作用を増強させる補助薬剤の評価又はスクリーニングの場合は、既知抗癌剤及び被検補助薬剤を併用処理した癌細胞群(サンプル群)と既知抗癌剤のみで処理した癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞増殖率の平均値μ(L(sample))及びμ(L(control))を比較する。具体的には、μ(L(ratio))=μ(L(sample)) /μ(L(control)) x 100を算出しμ(L(ratio))の数値を評価する。μ(L(ratio)) < 100(%)であれば、コントロール群に対して、サンプル群がより強く癌細胞の増殖を抑制出来たことになり、補助薬剤が既知抗癌剤の抗癌作用を増強したことを示す。一方、被検補助薬剤を処理した癌細胞群(サンプル群)と被検補助薬剤を施さない場合の癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞増殖率の平均値μ(CL(sample))及びμ(CL(control))を比較する。具体的には、μ(CL(ratio))=μ(CL(sample)) /μ(CL(control)) x 100を算出しμ(CL(ratio))の数値を評価する。μ(CL(ratio)) の値が100(%)に近いほど補助薬剤単独の投与が細胞増殖率に与える影響がなく、補助薬剤としての有用性が高い。
(2) 細胞死に与える影響
被検薬剤添加を行った癌細胞群(サンプル群)と陰性対照薬剤の添加を行った癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞死誘導率の平均値μ(D(sample))及びμ(D(control))を比較する。具体的には、μ(D(ratio))=μ(D(sample)) /μ(D(control)) x 100を算出しμ(D(ratio))の数値を評価する。μ(D(ratio)) > 100(%)であれば、コントロール群に対して、サンプル群がより強く癌細胞の細胞死を誘導出来たことになる。一方、被検薬剤添加を行った正常細胞群(サンプル群)と陰性対照薬剤の添加を行った正常細胞群(コントロール群)それぞれの細胞死誘導率の平均値μ(CD(sample))及びμ(CD(control))を比較する。具体的には、μ(CD(ratio))=μ(CD(sample)) /μ(CD(control)) x 100を算出しμ(CD(ratio))の数値を評価する。ただし、μ(CD(control))の値が0やそれに近い値の場合は、正確なμ(CD(ratio))の算出が不能であるため、μ(CD(sample))の値で評価する。μ(CD(ratio)) の値が100%に近いほど(μ(CD(ratio))≒100%)(例えば50%<μ(CD(ratio))<200%)又はμ(CD(sample))の値が0%に近いほど(μ(CD(sample))≒0%)(例えばμ(CD(sample))<1%)、抗癌剤が正常細胞の細胞死に影響を及ぼさず、薬剤の副作用が少なく有用性が高いと評価する。
既知抗癌剤の抗癌剤作用を増強させる補助薬剤の評価又はスクリーニングの場合は、既知抗癌剤及び被検補助薬剤を併用処理した癌細胞群(サンプル群)と既知抗癌剤のみで処理した癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞死誘導率の平均値μ(D(sample))及びμ(D(control))を比較する。具体的には、μ(D(ratio))=μ(D(sample)) /μ(D(control)) x 100を算出しμ(D(ratio))の数値を評価する。μ(D(ratio)) > 100(%)であれば、コントロール群に対して、サンプル群がより強く癌細胞の細胞死を誘導出来たことになり、補助薬剤が既知抗癌剤の抗癌作用を増強したことを示す。一方、被検補助薬剤を処理した癌細胞群(サンプル群)と被検補助薬剤を施さない場合の癌細胞群(コントロール群)それぞれの細胞増殖率の平均値μ(CD(sample))及びμ(CD(control))を比較する。具体的には、μ(CD(ratio))=μ(CD(sample)) /μ(CD(control)) x 100を算出しμ(CD(ratio))の数値を評価する。ただし、μ(CD(control))の値が0やそれに近い値の場合は、正確なμ(CD(ratio))の算出が不能であるため、μ(CD(sample))の値で評価する。例えば、μ(CD(ratio)) の値が100%に近いほど(μ(CD(ratio))≒100%)(例えば50%<μ(CD(ratio))<200%)又はμ(CD(sample))の値が0%に近いほど(μ(CD(sample))≒0%)(例えばμ(CD(sample))<1%)、補助薬剤単独の投与が細胞死誘導率に与える影響がなく、補助薬剤としての有用性が高い。
(3) 部分的な細胞死(Fractional Killing)の抑制能
薬剤添加を行った細胞群(サンプル群)と陰性対照薬剤の添加を行った細胞群(コントロール群)それぞれの細胞集団全体の細胞増殖率の変動係数(C.V.(L))及び細胞死誘導率の変動係数(C.V.(D))を比較する。具体的には、C.V.(L(ratio))
= C.V.(L(sample)) / C.V.(L(control)) x 100
及びC.V.(D(ratio))=C.V.(D(sample))/C.V.(D(control)) x 100を算出しC.V.(L(ratio)) 及びC.V.(D(ratio))の数値を評価する。C.V.(L(ratio))<100(%)及びC.V.(D(ratio)<100(%)であれば、細胞増殖率および細胞死誘導率において、コントロール群に対してサンプル群の部分的な細胞死(Fractional Killing)が抑制できたことになる。
(4) 上記各指標の時間変化
さらに、細胞増殖に与える影響、細胞死に与える影響、部分的な細胞死(Fractional Killing)の抑制能の時間的な推移を分析することで、薬剤の作用の時間依存性について評価できる。
(5) 対照細胞(抗癌剤スクリーニング系における正常細胞、補助薬剤スクリーニング系における抗癌剤(−)癌細胞)を用いた場合についての評価例
上記評価項目に加え、さらに、細胞増殖率の平均値の割合μ(CL(ratio))、細胞死誘導率の平均値の割合μ(CD(ratio))、細胞増殖率の変動係数の割合C.V.(CL(ratio))及び細胞誘導率の変動係数の割合C.V.(CD(ratio))についてさらに詳細な評価することが好ましい。具体的には、以下の通りである。
被検薬剤に対する評価例として例えば、薬剤(サンプル)及び陰性対照薬剤(コントロール)を患者癌組織由来の細胞と正常細胞に添加し、それぞれのμ(CL(sample))及びμ(CL(control))から陰性対照群に対するサンプル群の平均細胞増殖率の割合μ(CL(ratio))を算出する。また、同様にμ(CD(sample))及びμ(CD(control))からサンプル群の平均細胞死誘導率の割合μ(CD(ratio))を算出する。正常細胞において、μ(CL(ratio))≒100%であり、かつμ(CD(sample))≒0(%)であるか、又はμ(CL(ratio))≒100%であり、かつμ(CD(ratio))≒100%であることが最も好ましい。少なくとも、50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(sample))<1%であるか、又は50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつ50%<μ(CD(ratio))<200%は満たしている必要がある。また同時に、患者癌組織由来の細胞においてμ(L(ratio))<100(%)、μ(D(ratio))>100(%)であれば、薬剤の有用性は高いと評価できる。好ましくはμ(L(ratio))<50(%)、μ(D(ratio))>1000(%)であり、より好ましくはμ(L(ratio))<10(%)、μ(D(ratio))>10000(%)の場合である。
また、例えば上記した薬剤において、対照群に対する細胞増殖率の変動係数の割合C.V.(CL(ratio)) や対照群に対する細胞死誘導率の変動係数の割合C.V.(CD (ratio))の値が小さい(<100 %)場合、細胞集団の中に悪性度の高い(薬剤の効果が少ない)亜集団が含まれている可能性が低いと考えられ、薬剤の有用性が高いと評価できる。
抗癌剤の有効性が高いと評価される値は、(ア)癌細胞に対してμ(L(ratio))<100(%)、μ(D(ratio))>100(%)、C.V.(L(ratio))<100(%)、C.V.(D(ratio))<100(%)であり、好ましくはμ(L(ratio))<50(%)、μ(D(ratio))>1000(%)であり、より好ましくはμ(L(ratio))<10(%)、μ(D(ratio))>10000(%)(イ)正常細胞に対して、少なくとも、50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(sample))<1%であるか、又は50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつ50%<μ(CD(ratio))<200%であり、μ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(ratio))≒100(%)またはμ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(sample))≒0(%)であることが好ましい。
有効な抗癌剤というためには、癌細胞に対してμ(L(ratio))、μ(D(ratio))、C.V.(L(ratio))及びC.V.(D(ratio))のうち少なくとも1つの指標が上記指標を満たす事が好ましい。一般に2以上の指標を満たすことが好ましく、すべてを満たすことは最も好ましいといえる。ただし、癌細胞に対する指標を満たしても、正常細胞においてμ(CL(ratio))及びμ(CD(ratio))が上記指標を満たすか、またはμ(CL(ratio))及びμ(D(sample))が上記指標を満たす場合でなければ、重篤な副作用が懸念されるため、有効な抗癌剤とは言えない。
補助薬剤の有効性が高いと評価される値は、(ア)既知抗癌剤と補助薬剤の併用投与において、μ(L(ratio)) < 100(%)、μ(D(ratio))>100(%)、C.V.(L(ratio))<100(%)、C.V.(D(ratio))<100(%)であり、好ましくはμ(L(ratio))<50(%)、μ(D(ratio))>1000(%)であり、より好ましくはμ(L(ratio))<10(%)、μ(D(ratio))>10000(%)、(イ)補助薬剤のみの投与において、一般的には、50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(sample))<1%であるか、又は50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつ50%<μ(CD(ratio))<200%であり、μ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(ratio))≒100(%)またはμ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(sample))≒0(%)であることが好ましい。有効な補助薬剤というためには、既知抗癌剤と補助薬剤の併用投与において、標的癌細胞に対する上記各評価指標のうち、少なくとも1つを満たす必要がある。一般に2以上の指標を満たすことが好ましく、すべてを満たすことは最も好ましいといえる。ただし、抗癌剤併用投与の際の各指標を満たしても、補助薬剤のみの投与において、μ(CL(ratio))とμ(CD(ratio))またはμ(CL(ratio))とμ(CD(sample))のいずれかの組み合わせによる観察結果が上記指標を満たさない場合、抗癌剤の補助薬剤としての役割を超えた強い細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用があることを意味する。正常細胞に対してもダメージを与えるリスクが高いため、重篤な副作用が懸念される。つまり、特定抗癌剤用の補助薬剤としては有効な補助薬剤とは言えない。
8.被検細胞集団の特性決定
上記6.で得られた数値に従って、被検細胞集団を以下の指標で評価する。被検細胞集団(例えば患者由来の細胞)に対して、公知の抗癌剤、特定癌マーカーを認識するモノクローナル抗体、siRNAや遺伝子発現ベクターを用い、これらに対する被検細胞集団中の個々の細胞の挙動を観察することで、被検細胞集団のプロファイルを作成することができる。また、他の挙動データの比較により、各薬剤の被検細胞集団に対する有効性の評価が可能である。工程は上記6と同様、投与時の薬剤濃度、投与回数、投与時期、併用する他の薬剤,化合物などとの組み合わせ、投与のタイミング(時間)とその組合せなどの検討を上記6に示した「指標(1)〜(4)」に基づいて行う。
例えば、薬剤及び陰性対照薬剤を特性が未知の癌細胞群(サンプル)と正常細胞や既知癌細胞などの対照(コントロール)細胞群に添加し、それぞれのμ(L(sample))及びμ(L(control))から陰性対照群に対するサンプル群の平均細胞増殖率の割合μ(L(ratio))を算出する。また、同様にμ(D(sample))及びμ(D(control))からサンプル群の平均細胞死誘導率の割合μ(D(ratio))を算出する。
特性が未知の癌細胞群(サンプル)において、μ(L(ratio))<100(%)、μ(D(ratio))>100(%)であり、コントロールとして用いた癌細胞群のμ(L(ratio))の値を下回り、μ(D(ratio))の値を上回れば、該当未知癌細胞群への薬剤の効果は高いと評価できる。この際、正常細胞において、少なくとも、50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(sample))<1%であるか、又は50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつ50%<μ(CL(ratio))<200%であり、μ(CL(ratio))≒100(%)であって、かつμ(CD(sample))≒0(%)であるか又はμ(CL(ratio))≒100(%)であって、かつμ(CD(ratio))≒100(%)であることが望ましい。
また、未知の癌細胞群(サンプル)において、コントロールとして用いた癌細胞群と比べてC.V.(L(ratio))やC.V.(D (ratio))の値が小さければ、未知癌細胞群中に悪性度の高い(薬剤の効果が少ない)亜集団が含まれている可能性が低いと考えられる。
未知の癌細胞群の悪性度が低く薬剤投与が有効と評価される値は、(ア)未知癌細胞群に対してμ(L(ratio))<100(%)、μ(D(ratio))>100(%)、C.V.(L(ratio))<100(%)、C.V.(D(ratio))<100(%)好ましくはμ(L(ratio))<50(%)、μ(D(ratio))>1000(%)、(イ)正常細胞に対して50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつμ(CD(sample))<1%であるか、又は50%<μ(CL(ratio))<200%であり、かつ50%<μ(CD(ratio))<200%であり、好ましくは、μ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(ratio))≒100(%)またはμ(CL(ratio))≒100(%)、μ(CD(sample))≒0(%)、(ウ)未知癌細胞群におけるμ(L(ratio))及びμ(D(ratio))の値が、コントロールとして用いた癌細胞群のμ(L(ratio))の値を下回り且つμ(D(ratio))の値を上回る。以上の評価指標のすべてを満たすことが好ましいが、必ずしもすべてを満たさなくても良い。
9.本発明の実施の態様について
本発明が典型的に適用される場合は、大きく分けて、6.において説明した「被検薬剤に対する評価」、7.において説明した「被検細胞集団の特性決定」、の2種類がある。
前者の例として以下の4例を挙げる。(ア)被検薬剤(抗癌剤)が、標的とする癌の細胞集団を構成する個々の癌細胞に対して、均一に細胞死を誘導することができるか、及び/又は均一に細胞増殖を抑制することができるかを評価することで、薬剤耐性株を作りやすい薬剤であるかどうかを判定する場合である。また、(イ)標的とする癌の細胞集団を構成する個々の癌細胞に対して、均一に細胞死を誘導するか、及び/又は均一に細胞増殖を抑制する未知抗癌剤のスクリーニング、あるいは(ウ)既知の抗癌剤の細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用を、標的とする癌の細胞集団を構成する個々の癌細胞に対して亢進する作用、又は均一に作用させる作用を持つ未知補助薬剤のスクリーニングに用いる場合や(エ)既知の抗癌剤に対して耐性を獲得した癌細胞に対する抗癌剤の細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用をリカバリーする(再び復活させる)作用、又は均一に作用させる作用を持つ未知補助薬剤のスクリーニングに用いる場合にも本発明の典型例となる。
後者の例として以下の1例を挙げる。(オ)被検細胞集団(例えば患者由来の細胞)に対して、公知の抗癌剤、特定癌マーカーを認識するモノクローナル抗体、siRNAや遺伝子発現ベクターを用い、これらに対する被検細胞集団中の個々の細胞の挙動を観察することで、被検細胞集団のプロファイルを作成することもできる。
本発明の実施態様としては、(エ)の「既知の抗癌剤に対して耐性を獲得した癌細胞に対する抗癌剤の細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用をリカバリーする(抗癌剤耐性株を、抗癌剤感受性に戻す)作用、又は均一に作用させる作用を持つ未知補助薬剤のスクリーニング」する方法について述べる。周知の癌細胞特異的な抗癌剤と併用して、その細胞死誘導作用を増幅する効果を示す薬剤をスクリーニングする手法ではなく、強力な抗癌剤に対しての耐性株の出現が重大な問題であることを鑑み、抗癌剤の細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用をリカバリーする(抗癌剤耐性株を、抗癌剤感受性に戻す)ことができるような薬剤のスクリーニングを行ったので、具体的に示す。本発明がこのような手法に限定されるものではないことは当然である。
本発明の実施態様としては、周知の強力な抗癌剤として、癌細胞に特異的に細胞死を誘導する抗癌剤として注目されているTRAIL(TNF関連アポトーシス誘発リガンド)を用い、標的癌細胞としては、ヒトのモデル癌細胞として用いられる培養HeLa細胞を用い、以下の手順で行う。
(1)従来のスクリーニング法による、TRAILの細胞死誘導を阻害する活性のある候補siRNAの予備選択
(2)コロニー毎のTRAIL耐性の評価とTRAIL耐性Hela細胞株の定義(図3)
HeLa細胞集団のTRAIL耐性を評価する。また、HeLa細胞集団にTRAILを添加し、生存した細胞集団のTRAIL耐性を評価し、元のHeLa細胞集団と比較する。TRAILに対して耐性を持つHeLa細胞集団を定義する。
(3)TRAIL耐性HeLa細胞の感受化に関わるsiRNAの評価
本発明の評価方法を適用し、TRAILの細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用をリカバリーする(TRAIL耐性HeLa細胞の、TRAIL耐性を再び感受性に戻す)効果、及び/又はTRAILによる細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用を個々のHela細胞コロニーに対して均一に作用させる効果を持つ未知補助薬剤を評価する。
以下、本発明の理解を深めるために、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、本明細書中において引用した特許文献又は非特許文献の記載内容は、本明細書の記載として組み入れるものとする。
本実施例では、周知の癌細胞特異的に細胞死を誘導する抗癌剤として注目されているTRAIL(TNF関連アポトーシス誘発リガンド)を用い、標的癌細胞としては、ヒトのモデル癌細胞として用いられる培養HeLa細胞より獲得した「TRAIL耐性HeLa細胞」を用い、TRAILの細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用をリカバリーする(TRAIL耐性Heal細胞の、TRAIL耐性を再び感受性に戻す)効果、及び/又はTRAILによる細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用を個々のHela細胞コロニーに対して均一に作用させる効果を持つ未知補助薬剤をスクリーニングするためのモデル実験である。その際、TRAILの効果を増幅する(つまり、細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用及び/又は、TRAILによる効果の均一化作用)補助薬剤の候補として、各種siRNA を用いてTRAIL投与をした各癌細胞コロニーに作用させた。これらの各siRNAが、各癌細胞コロニーに対して均一に作用させる薬剤、失われたTRAILの細胞死誘導作用や細胞増殖阻害作用をリカバリーし、及び/又は増幅させる薬剤、のいずれか、すなわち抗癌剤補助薬剤としての作用効果が奏されるかを評価するため、各siRNAを作用させた癌細胞集団の時系列的解析行った。
また、本実施例で用いた細胞培養、遺伝子操作などで用いた材料及びその調整法は、いずれも通常の実験室で用いられる一般的な材料、調整法であるが、具体的には以下の通りである。なお、これらはいずれも典型的な例示であって、これのみに限定されるものではない。
(1)細胞培養関連材料
Hela細胞を細胞培養する際の基本的な培地、及び添加成分としては以下の材料を用いた。
・DMEM (4.5g/l Glucose) with L-Glutamin, without Sodium Pyrurate (Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)
・FBS: CEL Lect GOLD FETAL BOVINE SERUM ICN (ICN Pharmaceuticals, Costa Mesa, CA)
・Penicillin / Streptomycin Mix (Penicillin5000u/ml, Streptomycin5000ug/ml, Nacalai Tesque)
・Kanamycin (10mg/ml, 0.85%食塩水), (Invitrogen, Carlsbad, CA)
また、細胞やwellの洗浄などに用いるPBSとしては、PBS(-) without Calcium, Magnecium (Nacalai Tesque)を、また細胞をwellから剥離する際には、0.025%Trypsin / 1mM EDTA Solution (Nacalai Tesque)を、細胞を一時的に保存する際には、セルバンカー2(Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)を用いた。
(2)TRAIL暴露による経時観察に必要な材料
TRAIL薬剤としては、Recombinant Human TRAIL/ Apo2L (50μg/tube) (PeproTech Inc., Rocky Hill, NJ)を用い、経時観察のために用いたwellはEZview 24well (Asahi Glass Co., LTD, Tokyo, Japan)である。
(3)リバーストランスフェクション関連材料
滅菌のために用いた手法は以下の通りである。
オートクレーブ滅菌時には、0.1%Gelatin(Sigma-Aldrich, St. Louis MO)をMilliQ水に溶解(0.1%Gelatin/MilliQ)して用いるか、又は0.5% Polyvinyl Alcohol/MilliQを用い、ろ過滅菌は0.22μmフィルターを用いて、45mg/ml dextran4000(Wako)/MilliQに溶解して行った。
リバーストランスフェクションは70% Ethanol/MilliQ中で、行った。
被検siRNAのコントロールとして、市販の下記siRNAも用いた(なお、それぞれの保存方法などは各社カタログ記載の方法に従った)。
・Silencer Cy3 Labeled Negative Control siRNA#1 siRNA (Qiagen, Valencia, CA)
・AllStars Hs Cell Death siRNA (QIAGEN)
・Lipofectamin RNAiMAX Reagent (Invitrogen)
(4)培養癌細胞の調整
典型的な培養癌細胞としてHela細胞を用い、DMEM (4.5g/l Glucose, FBS10%, Penicillin 10u/ml, Streptomycin 10ug/ml, Kanamycin 100ug/ml, L-Glutamin)培地で培養し、細胞の密度が7割程度になったら継代を行った。本研究で用いる細胞はあらかじめ拡大培養しセルバンカー2を用いディープフリーザで−80℃で凍結、液体窒素中で保存した。細胞を融解後は必ず2回の継代培養後に実験を行った。
(5)TRAILの調整
Human TRAIL Apo-II LigandをDEPC処理水100μlに溶解し、500ng/mlに調整した。10μlずつ分注−30℃で保存し、使用時使い切りとした。
(実施例1)従来のスクリーニング法による、TRAILの細胞死誘導を阻害する活性のある候補siRNAの予備選択
実施例1においては、HeLa細胞野生株を用いて、アポトーシス関連240遺伝子から、TRAILに応答してアポトーシスを阻害する遺伝子8種を同定した。その際の手法は、従来の薬剤評価システムを適用し、HeLa癌細胞の個々の細胞に注目せず、細胞集団全体に対してTRAIL処理と併用して、siRNA導入処理を行い、生存HeLa細胞が減少している下記の配列番号1〜11で示される11種類のsiRNAを選択した。これらのsiRNAがターゲットとしているアポトーシス阻害遺伝子の候補は8種類であった。この実験では、単に抗癌剤TRAILの単独処理よりも併用処理後の生存細胞の数の減少効果が大きいものを選択しただけなので、実施例3で用いるsiRNA薬剤の候補を本実施例1によってあらかじめ選定するための予備選択実験とも位置づけられる。つまり、これら8種類の遺伝子発現を阻害する各siRNAは細胞集団での評価がなされただけで、細胞の薬剤に対する応答が平均化して表現されており、個々の細胞の薬剤耐性の評価がされていない。また、本実験では細胞の生存細胞の数で評価しているため、細胞数が「増殖阻害」又は「細胞死」のどちらによってもたらされた結果かを区別していない。また、TRAIL耐性株を用いた実験では無いため、「TRAILの効果を増幅させる効果」のみを示す結果であり、「TRAIL耐性を再び感受化させる効果」を示す結果ではない。
本実施例1によって、絞り込まれたsiRNAは以下に示す8種類のターゲット遺伝子に対するsiRNAである。下記の本発明の実施例3では、以下の8種類のターゲット遺伝子に対するsiRNAを用いた。なお、2種のsiRNAを用いる場合は混合液として用いた。
(1)
CASP2(Gene Accession Number:NM_001224)
「AAC ATC TTC TGG AGA AGG ACA(配列番号1)」をターゲットとするanti-CASP2-siRNA(QIAGEN社製)
(2)MDM2(Gene Accession Number: NM_002392)
「CAG GCA AAT GTG CAA TAC CAA(配列番号2)」をターゲットとするanti- MDM2-siRNA(QIAGEN社製)
(3)NFKBIA(Gene Accession Number: NM_020529)
「CTG GGC CAG CTG ACA CTA GAA(配列番号3)」をターゲットとするanti- NFKBIA -siRNA(QIAGEN社製)
「AAG GGT GTA CTT ATA TCC ACA(配列番号4)」をターゲットとするanti- NFKBIA -siRNA(QIAGEN社製)
(4)RAC1(Gene Accession Number:NM_006908)
「ATG CAT TTC CTG GAG AAT ATA(配列番号5)」をターゲットとするanti- RAC1-siRNA(QIAGEN社製)
(5)MCL1(Gene Accession Number:NM_021960)
「CCC GCC GAA TTC ATT AAT TTA(配列番号6)」をターゲットとするanti-MCL1-siRNA(QIAGEN社製)
(6)GNB2L(Gene Accession Number: NM_006098)
「TTG GCA CAC GCT AGA AGT TTA(配列番号7)」をターゲットとするanti-GNB2L -siRNA(QIAGEN社製)」
「ACC AGG GAT GAG ACC AAC TAT(配列番号8)」をターゲットとするanti-GNB2L -siRNA(QIAGEN社製)」
(7)SFN (Gene Accession Number: NM_006142)
「CCG GGA GAA GGT GGA GAC TGA(配列番号9)」をターゲットとするanti- SFN -siRNA(QIAGEN社製)
(8)POU2F(Gene Accession Number: NM_002697)
「CAG GAT CTT CAA CAA CTG CAA(配列番号10)」をターゲットとするanti- POU2F -siRNA(QIAGEN社製)
「TTG GAG AAC TTT CTA ACC AAA(配列番号11)」をターゲットとするanti- POU2F -siRNA(QIAGEN社製)
ポジティブコントロールとしてはCASP8(Gene Accession Number:NM_001080124)の「AAG AGT CTG TGC CCA AAT CAA(配列番号12)」をターゲットとするanti-CASP8-siRNA(QIAGEN社製)を用いた。
(実施例2)コロニー毎のTRAIL耐性の評価とTRAIL耐性Hela細胞株の定義(図3)
均一な細胞集団と考えられる株化ガン細胞(HeLa細胞)を用いて、TRAILに対する耐性の評価をコロニー毎に行い、癌細胞が部分的にしか死滅しない現象(Fractional Killing)の評価を行った。TRAILに対して感受性をもつHeLa野生株にTRAILを曝露し、時系列で細胞を観察した。さらに、死滅しなかったTRAIL耐性癌細胞群のTRAIL耐性が維持されるかどうかを評価するため、TRAIL暴露下で生き残ったHela細胞についても再度TRAILを曝露し、時系列で細胞を観察した。
(2−1)HeLa野生株の経時観察による評価
24well EZviewへHeLa野生株を1×104cells/wellで播種し、翌日培地交換を行った。37℃ 5% CO2インキュベーターで48時間培養し、TRAILを200ng/ml加えた培地とコントロールとしてTRAILを加えない培地に培地交換を行い、60時間TRAILに暴露、時系列細胞画像取得顕微鏡で細胞の時系列画像を取得した。
(2−2)TRAIL曝露後生存した細胞株の回収
1つのwellごとに培地を除去し、PBS(-)1mlでwashを行った。PBS(-)を除去し、0.025%Trypsin/EDTA 200μlを添加した後、すぐに除去した。37℃で2分間反応させ、培地を500μl添加、生存細胞を回収して10ml培地入り10cmシャーレに移した。37℃ 5% CO2インキュベーターで3時間培養後、細胞の底面への接着を確認してから培地交換を行い、通常の培養を行った。
(2−3)TRAIL曝露後生存した細胞株の経時観察による評価
回収後2度継代し、再び24well EZviewへ1×104cells/wellで播種、37℃ 5% CO2インキュベーターで48時間培養した。48時間後にTRAILを200ng/ml加えた培地に培地交換を行い、時系列細胞画像取得顕微鏡でその後60時間の間、時系列画像を取得した。
(2−4)時系列細胞画像取得と画像解析
時系列細胞画像取得装置によって37℃, 5% CO2条件下で培養を行いながら同時に30分間隔で120サイクル位相差画像を取得した。取得した画像より、4時間ごとのそれぞれの細胞集団の生細胞数と死細胞数を細胞画像解析ソフト(ImageJ; http://rsbweb.nih.gov/ij/)のプラグインソフト「Cell Counter」を用いて測定した。生存率は生細胞数を全細胞数(死細胞数と生細胞数の和)で割り算出した。実施例2の手順の流れは図3に示したとおりである。
(2−5)結果と考察
実施例2での実験結果は、Hela細胞はその細胞集団(コロニー)ごとに死細胞数に違いが見られ、細胞集団ごとにTRAILに対する感受性が異なった。TRAIL耐性を持たない細胞集団(TRAIL添加40時間後において70%以上の細胞が死滅している集団)の多くは、TRAIL添加後5時間以内にその表現型(細胞死)を示した。一方、耐性を持つ集団(TRAIL添加40時間後において70%以上の細胞が生存している集団)が65%存在した(図6A)。
そこで、生存した細胞集団が継続的な耐性を獲得しているか否かを確かめるため、TRAIL暴露によって生き残った細胞集団を回収し、TRAILを添加していない培地で2回継代した後、再びTRAILに暴露した。その結果、96%以上の細胞集団がTRAIL耐性(TRAIL添加40時間後において70%以上の細胞が生存)を示した(図6B)。また、野生株で観察された、急激な生存率の低下は1細胞集団しか観察されなかった。
上記の結果は、Hela細胞が、TRAILに対して耐性と感受性を持つ細胞集団が混在すること、及びTRAIL耐性株が、TRAIL曝露下において選択的に増殖したことを強く示唆している。
TRAILの添加後生存した細胞のTRAIL耐性(図6B)は、TRAIL添加によって新たに獲得された細胞特性ではなく、野生株の細胞集団が元々保持していた特性である可能性が高い。野生型Helaは細胞集団としてTRAIL耐性において、不均一な集団である可能性も示唆される。また、本結果は、TRAILに応答して細胞死を誘導する薬剤(siRNAなど)を探索するのではなく、TRAIL耐性株について、耐性を感受化する薬剤を探索することの重要性を示している。
TRAIL暴露によって生き残った細胞集団の96%以上はTRAIL耐性を継続的に獲得しており、TRAIL耐性HeLa細胞株として、以降定義する。以上の手法により取得したTRAIL耐性HeLa細胞株は実施例3において用いる。
(実施例3)TRAIL耐性HeLa細胞の感受化に関わるsiRNAの評価
本実施例3では、実施例1で得られた候補補助薬剤(8種の遺伝子をターゲットとするsiRNA)の評価を行った。
実施例2において、TRAIL耐性株に対して、耐性を感受化する薬剤を探索することの重要性が示されたので、実施例1で得られた候補補助薬剤(siRNA)を実施例2で得られたHeLa細胞由来のTRAIL耐性HeLa細胞に導入(リバーストランスフェクション)し、続いてTRAILを加えることで、TRAIL耐性HeLa細胞のTRAIL耐性を再び感受性に戻す(TRAILの細胞死誘導作用及び/又は細胞増殖抑制作用が亢進する)効果、及びTRAIL耐性HeLa細胞に対するTRAILによる細胞死誘導作用、細胞増殖抑制作用を個々のHeLa細胞コロニーに対して均一に作用させる効果を細胞状態の時系列解析により評価した。
その際の候補補助薬剤(siRNA)としては、実施例1において、HeLa細胞野生株を用いて、アポトーシス関連240遺伝子から選択されたアポトーシス阻害活性遺伝子の候補となる8種類の遺伝子発現を阻害する上記11種類のsiRNAである。
(3−1)リバーストランスフェクション用ウェルの作成
24well EZviewへのsiRNA固相化(5plate分)法について(非特許文献6、7):
24well EZviewへ0.1%Gelatin 500μl/wellをアプライ、1時間クリーンベンチ内において室温で静置した後アスピレートした。続いて、45mg/ml dextranと70%EtOHを等量混合し、ウェル当たり40μlをアプライし、ベンチ内で風乾させた。
表1に示した3種の試薬を混合しsiRNA mixtureを調整した後、室温で20分間静置し、0.5%ポリビニルアルコール(PVA)溶液を 184μlを加えた。その混合溶液を風乾させた24well EZviewへウェル当たり22μlずつアプライし、ベンチ内で完全に風乾させた後、4℃に真空状態で保存、使用時は室温に戻してから使用した(siRNAのモル数は、ウェル当たり3.8pmol)。
Figure 0005747240
(3−2)TRAIL耐性HeLa細胞株の準備
HeLa野生株をコントロールsiRNA(Non Target siRNA:どの遺伝子に対してもノックダウン効率を示さないsiRNA)を固相化したリバーストランスフェクション用ウェル(24well EZview)に1×104cells/wellで播種し、翌日培地交換を行った。37℃ 5% CO2インキュベーターで48時間培養し、TRAILを200ng/ml加えた培地とコントロールとしてTRAILを加えない培地に培地交換を行い、さらに60時間の間、TRAILに暴露した。
(3−3)TRAIL耐性HeLa細胞株の回収
培地を除去し、1wellから培地を除去し、PBS(-)1mlでwashを行った。PBS(-)を除去し、0.025%Trypsin/EDTA 200μlを添加した後、すぐに除去した。37℃で2分間反応させ、培地を500μl添加、生存細胞を回収して10ml培地入り10cmシャーレに移した。37℃ 5% CO2インキュベーターで3時間培養後、細胞の底面への接着を確認してから培地交換を行い、通常の培養を行った。
(3−4)TRAIL耐性HeLa細胞株のノックダウン解析
siRNA固相化24well EZviewへHeLa TRAIL耐性株(回収後2回継代)を1×104cells/well で播種し、翌日培地交換を行った。播種48時間後、ノックダウンの確認のため細胞画像の取得(図4)を行い、TRAILを200ng/ml加えた培地とコントロールとしてTRAILを加えない培地に培地交換を行った。40時間、時系列細胞画像取得装置で時系列画像を取得した。取得画像より、実施例2(2−4)と同様に画像解析を行った。(図5)
(3−5)リバーストランスフェクション法による細胞へのsiRNAの導入とノックダウンの確認
Cy3によってラベルされたコントロールsiRNA(Cy3 Labeled Negative Control siRNA:どの遺伝子に対してもノックダウン効率を示さないsiRNA)を24well EZviewプレートに固相化し、続いて細胞播種を行い、48時間の培養後、細胞画像を取得した(図4A−D)。siRNAが取り込まれた細胞の蛍光画像(図4A−D)からは、細胞質へのsiRNAの導入が観察された(図4D)。この結果は、siRNAが固相トランスフェクション法によって、細胞質内に導入出来る事を示している。
続いて、細胞死を誘導するsiRNAのミックス(Cell Death siRNA)(図4F)とコントロールsiRNA(図4E)を用いて、siRNAが細胞内で機能するか(遺伝子のノックダウンが可能か)を確かめた。その結果、細胞死を誘導するsiRNAは、細胞に対して高効率で細胞死を誘導し、一方、コントロールsiRNAは、細胞に対して毒性を与えなかった。これは、固相トランスフェクション法によって、siRNAによる遺伝子のノックダウンの誘導が成功した事を示している。また、これらの結果は、同プレート上の他のwellでも正しくノックダウンが行われていると期待され、以降の解析を進めた。
(3−6)TRAIL耐性HeLa細胞におけるTRAILと併用して用いる補助薬剤の評価のための解析
上記(3−4)に従って算出されたそれぞれの細胞集団(コロニー)の各時間における生細胞数と、[0017]に示した計算手順を用いて細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(L)](TRAIL添加した際のサンプルの評価はμ(L(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はμ(L(Contorl))、細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(L)] (TRAIL添加した際のサンプルの評価はσ(L(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はσ(L(Contorl))、細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(L)] (TRAIL添加した際のサンプルの評価はC.V. (L(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はC.V. (L(Contorl))、対照群(TRAIL無)に対する細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(CL)](TRAIL添加無のサンプルの評価はμ(CL(Sample))、TRAIL無のコントロールの評価はμ(CL(Contorl))、細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(CL)] (TRAIL添加無のサンプルの評価はσ(CL(Sample))、TRAIL添加無のコントロールの評価はσ(CL(Contorl))、細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(CL)] (TRAIL添加無のサンプルの評価はC.V. (CL(Sample))、TRAIL添加無のコントロールの評価はC.V. (CL(Contorl))を算出した(表2A、B)
上記(3−4)に従って算出されたそれぞれの細胞集団(コロニー)の各時間における死細胞数と、[0017]に示した計算手順を用いて細胞集団全体の細胞死誘導率の平均値 [μ(D)](TRAIL添加した際のサンプルの評価はμ(D(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はμ(D(Contorl))、細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(D)] (TRAIL添加した際のサンプルの評価はσ(D(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はσ(D(Contorl))、細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(D)] (TRAIL添加した際のサンプルの評価はC.V. (D(Sample))、TRAIL添加した際のコントロールの評価はC.V. (D(Contorl))、対照群(TRAIL無)に対する細胞集団全体の細胞増殖率の平均値 [μ(CD)](TRAIL添加無のサンプルの評価はμ(CD(Sample))、TRAIL無のコントロールの評価はμ(CD(Contorl))、細胞集団全体の細胞増殖率の標準偏差[σ(CD)] (TRAIL添加無のサンプルの評価はσ(CD(Sample))、TRAIL添加無のコントロールの評価はσ(CD(Contorl))、細胞集団全体の細胞の増殖率の変動係数 [C.V.(CD)] (TRAIL添加無のサンプルの評価はC.V. (CD(Sample))、TRAIL添加無のコントロールの評価はC.V. (CD(Contorl))を算出した(表3A、B)
<表2>TRAIL耐性HeLa細胞を用いたTRAILと併用して用いる補助薬剤の細胞増殖率についての評価
Figure 0005747240
<表3>TRAIL耐性HeLa細胞を用いたTRAILと併用して用いる補助薬剤の細胞死誘導率についての評価
Figure 0005747240
(3−7)結果と考察
各遺伝子のノックダウンの評価は以下の通りとなる。
(ア)MDM2のノックダウンについて:○
TRAIL添加時において、MDM2のノックダウンは細胞増殖を阻害し(μ(L(ratio))=69.3%)、細胞死を誘導した(μ(D(ratio))=3020%)。TRAIL非添加時には細胞死は誘導されないので(μ(CD(sample))=0.02%)、TRAILの補助剤として優れている。MDM2はアポトーシスに関与することが知られている遺伝子であり、MDM2がノックダウンされることで、p53が活性化し、セルサイクルの停止と細胞死の誘導が亢進したと考えられる。一方、C.V.(L(ratio))、 C.V.(D(ratio)) 共に100%を超えており、個々のHeLa細胞コロニーに対して均一に作用させる効果は低かった。
TRAIL非添加時においてもMDM2のノックダウンは細胞増殖を阻害しており(μ(CL(ratio))=58.1%)、細胞増殖阻害の効果はTRAIL非依存的と考えられる。
以上より、細胞コロニーに対して一様に作用させる効果は低いものの、TRAILの細胞の細胞死誘導能を補助し、細胞増殖を抑制するMDM2のノックダウンはターゲットとして有効である可能性がある。
(イ)NFKBIAのノックダウンについて:×
TRAIL添加時において、NFKBIAのノックダウンは細胞増殖と細胞死を強く誘導した(μ(L(ratio))=6.00%)、細胞死を誘導した(μ(D(ratio))=21000%)。しかし、TRAIL非添加時においても細胞増殖と細胞死を強く誘導するため、TRAILの補助薬剤としては不適である。NFKBIAのノックダウンはTRAIL非依存的に細胞増殖阻害と細胞死誘導を起こすため、正常細胞への毒性が高くなるかもしれない。
(ウ)RAC1のノックダウンについて:△
TRAIL添加時において、RAC1のノックダウンは細胞増殖を阻害し(μ(L(ratio))=75.7%)、細胞死を誘導した(μ(D(ratio))=377.4%)。しかし、μ(D(ratio))=377.4%はコントロールに対して約4倍の細胞死誘導であり、効果が低く、また、TRAIL非添加時において、(μ(CL(ratio))=64.7 %)、(μ(CD(sample))=0.28%)であり、TRAILの効果を補助する効果も低い。
(エ)MCL1のノックダウンについて:○
TRAIL添加時において、MCL1のノックダウンは細胞死を強く誘導(μ(D(ratio))=5400%)する一方で、細胞増殖はほとんど抑制しなかった(μ(L(ratio))=119.7%)。TRAIL非添加時には細胞死は誘導されないので(μ(CD(sample))=0.03%)、TRAILの補助剤として優れている。また、MCL1はBCLファミリーの一員として知られており、細胞死に特異的に作用する効果が示されたことは、本手法が正しく機能していることを表している。C.V.(L(ratio))、 C.V.(D(ratio))は、ともに100%を下回っており、個々のHeLa細胞コロニーに対して均一に作用させる効果は強かった。
細胞の増殖阻害は無いものの、TRAILの作用を補助し、細胞死を細胞コロニーに対して一様に作用させる効果が強いMCL1のノックダウンは、ターゲットとして有効であることが期待できる。
(オ)GNB2L1のノックダウンについて:△
TRAIL添加時において、GNB2L1のノックダウンは細胞増殖をほとんど阻害しない(μ(L(ratio))=93.1%)が、細胞死は誘導する(μ(D(ratio))=2530%)。しかし、C.V.(L(ratio))、 C.V.(D(ratio))は、ともに100%より大きく、特にターゲットとして優れているとは言えない。
(カ)SFNのノックダウンについて:×
TRAIL添加時(μ(L(ratio))=37.8%)、(μ(D(ratio))=3820%)、非添加(μ(CL(ratio))=34.5%)、(μ(CD(sample))=3.25%)に関わらず、SFNのノックダウンは細胞増殖を阻害し、細胞死を誘導するため、TRAILの補助薬剤としては不適である。
(キ)CASP2のノックダウンについて:×
TRAIL添加時(μ(L(ratio))=9.58%)、非添加(μ(L(ratio))=28.0%)に関わらず、CASP2のノックダウンは細胞増殖を阻害する。μ(D(ratio))=683%はコントロールに対して約7倍の細胞死誘導であり、効果が特に強いわけではなく、特にターゲットとして優れているとは言えない。
(ク)POU2F1のノックダウンについて:○
TRAIL添加時において、POU2F1のノックダウンは細胞死を強く誘導(μ(D(ratio))=4700(%)し、細胞増殖も若干抑制する(μ(L(ratio))=87.4%)。細胞増殖の抑制はTRAIL非添加時においてもみられるため(μ(L(ratio))=57.6%)、この効果はTRAIL依存的ではない。TRAIL非添加時には細胞死の誘導が少ないので(μ(CD(sample))=0.96%)、TRAILの補助剤として優れている。C.V.(L(ratio))は100%を下回っており、個々のHeLa細胞コロニーに対して増殖抑制を均一に作用させる効果は強かった一方、C.V.(D(ratio))は100%を上回っており、細胞死を均一に作用さえる効果は低かった。POU2F1とアポトーシスの関係は詳しく知られていないため、新規補助薬剤のターゲットとしてPOU2F1は非常に有効かもしれない。
(ケ)まとめ
以上の考察より、MDM2、MCL1、POU2F1がTRAIL耐性癌細胞の感受化、及びTRAILの細胞死誘導効果の増強に有効な標的遺伝子として期待できる。標的遺伝子候補が決定できたことで、さらに当該標的遺伝子に対するsiRNAの対応位置の調整や組み合わせなどにより、耐性癌細胞集団の感受性を増大させ、TRAILの薬効を増強することが可能となった。
配列番号1(anti-CASP2-siRNA): AAC ATC TTC TGG AGA AGG ACA
配列番号2(anti- MDM2-siRNA): CAG GCA AAT GTG CAA TAC CAA
配列番号3(anti- NFKBIA -siRNA): CTG GGC CAG CTG ACA CTA GAA
配列番号4(anti- NFKBIA -siRNA): AAG GGT GTA CTT ATA TCC ACA
配列番号5(anti- RAC1-siRNA): ATG CAT TTC CTG GAG AAT ATA
配列番号6(anti-MCL1-siRNA): CCC GCC GAA TTC ATT AAT TTA
配列番号7(anti-GNB2L -siRNA): TTG GCA CAC GCT AGA AGT TTA
配列番号8(anti-GNB2L -siRNA): ACC AGG GAT GAG ACC AAC TAT
配列番号9(anti- SFN -siRNA): CCG GGA GAA GGT GGA GAC TGA
配列番号10(anti- POU2F -siRNA): CAG GAT CTT CAA CAA CTG CAA
配列番号11(anti- POU2F -siRNA): TTG GAG AAC TTT CTA ACC AAA
配列番号12(anti-CASP8-siRNA): AAG AGT CTG TGC CCA AAT CAA

Claims (2)

  1. POU2F1遺伝子を標的とするsiRNA製剤を有効成分とする、抗癌剤TRAIL耐性となった癌細胞のTRAIL感受性を回復するための又はTRAILの抗癌剤作用を増強するための補助薬剤。
  2. 前記siRNA製剤が、配列番号1又は11に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含む、請求項に記載の補助薬剤。
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