1.絶縁被覆酸化チタン構造体
本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体は、アスペクト比が3以上の棒状、管状、繊維状又は板状の酸化チタン構造体(A)の表面上に、絶縁性酸化物膜(B)が形成されてなる。
本発明において、「酸化チタン」とは、二酸化チタンのみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti2O3);一酸化チタン(TiO);Ti4O7、Ti5O9等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含むものである。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi−O−Ti以外の基を含んでいても良い。
1−1.酸化チタン構造体(A)
本発明において使用される酸化チタン構造体(A)は、棒状、管状、繊維状又は板状のものであれば特に制限されない。また、酸化チタン構造体(A)は、酸化チタンのみからなる必要はなく、他の元素を含むものであってもよい。具体的には、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)、酸化チタンナノチューブ(A2)、及び酸化チタンナノロッド(A3)等が挙げられる。これらのなかでも、管状である酸化チタンナノチューブ(A2)は、活性表面積を大きくすることができ、変換効率の向上が期待できるため好ましい。
また、酸化チタン構造体(A)の平均アスペクト比は3以上、好ましくは3〜200000、より好ましくは10〜3000である。酸化チタン構造体(A)の平均アスペクト比が3未満では、後述の絶縁性酸化物膜(B)を形成しても、酸化チタン微粒子から電解液への逆電子移動を防止するだけでなく、酸化チタン微粒子同士の電子伝導も阻害するため、変換効率は向上しない。なお、平均アスペクト比が3以上の酸化チタン構造体(A)を使用すれば、例え絶縁性酸化物膜(B)を形成していても、電子が酸化チタン構造体(A)を通じて伝導するので、電子伝導を阻害することはない。また、酸化チタン構造体(A)の平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
なお、酸化チタン構造体(A)の平均アスペクト比以外の形状は、特に制限されない。具体的には、酸化チタン構造体(A)の形状は、長軸に直交する平均直径を5〜500nm、長軸の平均長さを0.1〜1000μm、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)を3〜200000、好ましくは長軸に直交する平均直径を10〜500nm、長軸の平均長さを1〜50μm、平均アスペクト比を10〜3000とすればよい。このような形状とすることで、充分な表面積を有しつつ、効率よく電子を伝達することができる。なお、本発明において、酸化チタン構造体(A)として管状のものを使用する場合、その直径とは、外径のことを言う。また、酸化チタン構造体(A)の平均直径、平均長さ及び平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
酸化チタン構造体(A)が管状の場合、その肉厚は漏れ電流を防止する点から、2〜250nm程度が好ましく、5〜200nm程度がより好ましい。なお、肉厚とは、酸化チタン構造体(A)における外径と内径の差のことを言う。また、酸化チタン構造体(A)の肉厚は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
<(A1)酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ>
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)としては、例えば、特開2010−24133号公報に記載のものが使用できる。具体的には、棒状又は繊維状のカーボンの表面が、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層で被覆されてなるものである。
「連なってなる」とは、酸化チタン微粒子が、隣接する酸化チタン微粒子と密接に接し、全体として被覆層を形成していることを言い、これにより、色素を担持させるのに適度な表面が形成される。なお、本明細書で言うところの酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層とは、ほぼ平滑な表面を有する酸化チタン層ではない。
棒状又は繊維状のカーボン
棒状又は繊維状のカーボンとしては、特に制限はないが、ナノスケールカーボンチューブを使用することが好ましい。このナノスケールカーボンチューブは、導電性を有する物質で形成されているのが好ましい。
また、この棒状又は繊維状のカーボンは、後にできるだけ微細で表面積が大きく、酸化チタンが長く連続した酸化チタン被覆炭素材料を製造できる点から、長軸に直交する平均直径が1〜100nm程度、長軸の平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が5〜1000000程度のものが好ましく、長軸に直交する平均直径が1〜100nm程度、長軸の平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が5〜10000程度のものがより好ましい。なお、長軸に直交する平均直径、長軸の平均長さ及び平均アスペクト比は、例えば、10000倍以上の電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察により測定できる。
ナノスケールカーボンチューブとしては、ナノサイズの直径を有するカーボンチューブを指し、該カーボンチューブのチューブ内空間部には鉄等が内包されていてもよい。
かかるナノスケールカーボンチューブとしては、
(I)単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ、
(II)本出願人が開発したアモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(III)ナノフレークカーボンチューブ、
(IV)(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブよりなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体、
(V)これらの2種以上の混合物
等を例示することができる。
カーボンナノチューブ(I)は、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブ(I)のうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層カーボンナノチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブがいずれも使用できる。
単層カーボンナノチューブとしては、長軸に直交する平均直径が1〜10nm程度、長軸の平均長さが0.1〜500μm程度、平均アスペクト比が10〜500000程度のものが好ましく、長軸に直交する平均直径が1〜10nm程度、長軸の平均長さが0.1〜500μm程度、平均アスペクト比が10〜50000程度のものがより好ましい。
また、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとしては、長軸に直交する平均直径が1〜100nm程度、長軸の平均長さが0.1〜500μm程度、平均アスペクト比が1〜500000程度のものが好ましく、長軸に直交する平均直径が1〜100nm程度、長軸の平均長さが0.1〜500μm程度、平均アスペクト比が5〜10000程度のものがより好ましい。
また、アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)は、WO00/40509(日本国特許第3355442号)に記載されており、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1〜1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7.0度以上であることを特徴とするものである。
該アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)は、マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル等の金属の塩化物の少なくとも1種からなる触媒の存在下で、分解温度が200〜900℃である熱分解性樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール等を、励起処理することにより得られる。
出発原料としての熱分解性樹脂の形状は、フィルム状又はシート状、粉末状、塊状等の任意の形状であって良い。例えば、基板上に薄膜化アモルファスナノスケールカーボンチューブを形成させた炭素材料を得る場合には、基板上に熱分解性樹脂を塗布あるいは載置した状態で、適切な条件下に励起処理すればよい。
該励起処理としては、例えば、不活性雰囲気中、好ましくは450〜1800℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上で加熱する、室温〜3000℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上でプラズマ処理する等の処理が例示できる。
アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)は、アモルファス構造(非晶質構造)を有するナノスケールのカーボンナノチューブで、中空直線状であり、細孔が高度に制御されている。その形状は、主に円柱、四角柱などであり、先端の少なくとも一方が、キャップを有していない(開口している)場合が多い。先端が閉口している場合には、形状がフラット状である場合が多い。
該アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)としては、平均外径が1〜100nm程度、平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比が1〜1000000程度のものが好ましく、平均外径が1〜100nm程度、平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比が5〜10000程度のものがより好ましい。
ここで、「アモルファス構造」とは、規則的に配列した炭素原子の連続的な炭素層からなる黒鉛質構造ではなく、不規則な炭素網平面からなる炭素質構造を意味し、多数の微細なグラフェンシートが不規則に配列している。代表的な分析手法である透過型電子顕微鏡による像からは、本発明による非晶質構造のナノスケールカーボンチューブは、炭素網平面の平面方向の広がりがアモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)の直径の1倍より小さい。このように、アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)は、その壁部が黒鉛構造ではなく多数の微細なグラフェンシート(炭素網面)が不規則に分布したアモルファス構造を有しているため、最外層を構成する炭素網面は、チューブ長手方向の全長にわたって連続しておらず、不連続となっている。特に、最外層を構成する炭素網面の長さは、20nm未満、特に5nm未満である。
非晶質炭素は一般的にはX線回折を示さないが、ブロードな反射を示す。黒鉛質構造では、炭素網平面が規則的に積み重なっているので、炭素網平面間隔(d002)が狭くなり、ブロードな反射は高角側(2θ)に移行して、次第に鋭くなり(2θバンドの半値幅が狭くなり)、d002回折線として観測できるようになる(黒鉛的位置関係で規則正しく積み重なっている場合はd002=3.354Åである)。
これに対し、非晶質構造は、上記のように一般的にはX線による回折を示さないが、部分的に非常に弱い干渉性散乱を示す。X線回折法(入射X線=CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される本発明によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)の理論的な結晶学的特性は、以下の様に規定される:炭素網平面間隔(d002)は、3.54Å以上であり、より好ましくは3.7Å以上である;回折角度(2θ)は、25.1度以下であり、より好ましくは24.1度以下である;前記2θバンドの半値幅は、3.2度以上であり、より好ましくは7.0度以上である。
典型的には、アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)は、X線回折による回折角度(2θ)が18.9〜22.6度の範囲内にあり、炭素網平面間隔(d002)は3.9〜4.7Åの範囲内にあり、2θバンドの半値幅は7.6〜8.2度の範囲内にある。
アモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。すなわち、透過型電子顕微鏡によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)像の長さをLとし、そのアモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)を伸ばした時の長さをL0とした場合に、L/L0が0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
かかるアモルファスナノスケールカーボンチューブ(II)のチューブ壁部分は、あらゆる方向に配向した複数の微細な炭素網平面(グラフェンシート)からなる非晶質構造であり、これらの炭素網平面の炭素平面間隔により活性点を有するためか、樹脂との親和性に優れているという利点を有する。
また、鉄−炭素複合体(IV)は、特開2002−338220号公報(特許第3569806号)に記載されており、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブよりなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている。即ち、チューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものではなく、上記炭化鉄又は鉄がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。壁部は、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブである。
本明細書において、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
かかる鉄−炭素複合体(IV)は、特開2002−338220号公報に記載の方法に従って、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10−5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10−10〜1×10−1となる濃度に調整した反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内に不活性ガスを導入し、圧力10−5Pa〜200kPaで熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により製造される。
ここで、酸素量Bの単位である「Ncc」は、気体の25℃での標準状態に換算したときの体積(cc)という意味である。
該鉄−炭素複合体(IV)は、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブよりなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなるものであって、該カーボンチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の実質上全てが充填されているのではなく、該空間部の一部、より具体的には10〜90%程度、特に30〜80%程度、好ましくは40〜70%程度が炭化鉄又は鉄により充填されている。
鉄−炭素複合体(IV)においては、特開2002−338220号公報に記載されているように、炭素部分は、製造工程(1)及び(2)を行った後、特定の速度で冷却するとナノフレークカーボンチューブとなり、製造工程(1)及び(2)を行った後、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
ナノフレークカーボンチューブ(a−1)と炭化鉄又は鉄(b)からなる鉄−炭素複合体(IV)は、典型的には円柱状であるが、そのような円柱状の鉄−炭素複合体(特開2002−338220号公報の実施例1で得られたもの)の長手方向にほぼ垂直な断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示し、側面のTEM写真を図1に示す。
また、図4の(a−1)にそのような円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図を示す。図4の(a−1)において、100は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像を模式的に示しており、200は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像を模式的に示している。
鉄−炭素複合体(IV)を構成するナノフレークカーボンチューブ(a−1)は、代表的には、中空円筒状の形態を有し、その断面をTEM観察した場合、弧状グラフェンシート像が同心円状に集合しており、個々のグラフェンシート像は、不連続な環を形成しており、その長手方向をTEMで観察した場合、略直線状のグラフェンシート像が、長手方向にほぼ並行に多層状に配列しており、個々のグラフェンシート像は、長手方向全長にわたって連続しておらず、不連続となっているという特徴を有している。
より詳しくは、鉄−炭素複合体(IV)を構成しているナノフレークカーボンチューブ(a−1)は、図3及び図4の(a−1)の200から明らかなように、その長手方向に垂直な断面をTEM観察した場合、多数の弧状グラフェンシート像が同心円状(多層構造のチューブ状)に集合しているが、個々のグラフェンシート像は、例えば210、214に示すように、完全に閉じた連続的な環を形成しておらず、途中で途切れた不連続な環を形成している。一部のグラフェンシート像は、211に示すように、分岐している場合もある。不連続点においては、一つの不連続環を構成する複数の弧状TEM像は、図4の(a−1)の222に示すように、層構造が部分的に乱れている場合もあれば、223に示すように隣接するグラフェンシート像との間に間隔が存在している場合もあるが、TEMで観察される多数の弧状グラフェンシート像は、全体として、多層状のチューブ構造を形成している。
また、図1及び図4の(a−1)の100から明らかなように、ナノフレークカーボンチューブ(a−1)の長手方向をTEMで観察した場合、多数の略直線状のグラフェンシート像が鉄−炭素複合体(IV)の長手方向にほぼ並行に多層状に配列しているが、個々のグラフェンシート像110は、鉄−炭素複合体(IV)の長手方向全長にわたって連続しておらず、途中で不連続となっている。一部のグラフェンシート像は、図4の(a−1)の111に示すように、分岐している場合もある。また、不連続点においては、層状に配列したTEM像のうち、一つの不連続層のTEM像は、図4の(a−1)の112に示すように、隣接するグラフェンシート像と少なくとも部分的に重なり合っている場合もあれば、113に示すように隣接するグラフェンシート像と少し離れている場合もあるが、多数の略直線状のTEM像が、全体として多層構造を形成している。
かかるナノフレークカーボンチューブ(a−1)の構造は、従来の多層カーボンナノチューブと大きく異なっている。即ち、図4の(a−2)の400に示すように、入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)は、その長手方向に垂直な断面のTEM像が、410に示すように、実質上完全な円形のTEM像となっている同心円状のチューブであり、且つ、図4の(a−2)の300に示すように、その長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像310等が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
以上より、詳細は未だ完全には解明されていないが、鉄−炭素複合体(IV)を構成するナノフレークカーボンチューブ(a−1)は、フレーク状のグラフェンシートが多数パッチワーク状ないし張り子状に重なり合って全体としてチューブを形成しているようにみえる。
このようなナノフレークカーボンチューブ(a−1)とそのチューブ内空間部に内包された炭化鉄又は鉄(b)からなる鉄−炭素複合体(IV)は、特許第2546114号に記載されているような入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)のチューブ内空間部に金属が内包された複合体に比し、カーボンチューブの構造において大きく異なっている。
鉄−炭素複合体(IV)を構成しているナノフレークカーボンチューブ(a−1)をTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。即ち、図4の(a−1)の100に示されるように、110で示される略直線状のグラフェンシートのTEM像が多数集まってナノフレークカーボンチューブ(a−1)の壁部のTEM像を構成しており、個々の略直線状のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
このように、鉄−炭素複合体(IV)においては、その壁部を構成するナノフレークカーボンチューブ(a−1)の最外層は、チューブ長手方向の全長にわたって連続していない不連続なグラフェンシートから形成されており、その最外面の炭素網面の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
鉄−炭素複合体(IV)を構成するナノフレークカーボンチューブ(a−1)の壁部の炭素部分は、上記のようにフレーク状のグラフェンシートが多数長手方向に配向して全体としてチューブ状となっているが、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
また、鉄−炭素複合体(IV)のナノフレークカーボンチューブ(a−1)からなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
前記のように、工程(1)及び(2)を行った後、特定の加熱工程を行うことにより、得られる鉄−炭素複合体(IV)を構成するカーボンチューブは、入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)となる。
こうして得られる入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)は、図4の(a−2)の400に示すように、その長手方向に垂直な断面のTEM像が実質的に完全な円を構成する同心円状のチューブであり、且つ、その長手方向の全長にわたって連続したグラフェンシート像が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
鉄−炭素複合体(IV)を構成する入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)の壁部の炭素部分は、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
また、鉄−炭素複合体(IV)の入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)からなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
本明細書において、上記ナノフレークカーボンチューブ(a−1)及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)よりなる群から選ばれるカーボンチューブ内空間部の炭化鉄又は鉄(b)による充填率(10〜90%)は、鉄−炭素複合体(IV)を透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンチューブの空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の像の面積に対する、炭化鉄又は鉄(b)が充填されている部分の像の面積の割合である。
炭化鉄又は鉄(b)の充填形態は、カーボンチューブ内空間部に連続的に充填されている形態、カーボンチューブ内空間部に断続的に充填されている形態等があるが、基本的には断続的に充填されている。従って、鉄−炭素複合体(IV)は、金属内包炭素複合体ないし鉄化合物内包炭素複合体、炭化鉄又は鉄内包炭素複合体とも言うべきものである。
また、鉄−炭素複合体(IV)に内包されている炭化鉄又は鉄(b)は、カーボンチューブの長手方向に配向しており、結晶性が高く、炭化鉄又は鉄(b)が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄又は鉄(b)のTEM像の面積の割合(以下「結晶化率」という)は、一般に、90〜100%程度、特に95〜100%程度である。
内包されている炭化鉄又は鉄(b)の結晶性が高いことは、鉄−炭素複合体(IV)の側面からTEM観察した場合、内包物のTEM像が格子状に配列していることから明らかであり、電子線回折において明確な回折パターンが得られることからも明らかである。
また、鉄−炭素複合体(IV)に炭化鉄又は鉄(b)が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
鉄−炭素複合体(IV)は、湾曲が少なく、直線状であり、壁部の厚さが全長に亘ってほぼ一定の均一厚さを有しているので、全長に亘って均質な形状を有している。その形状は、柱状で、主に円柱状である。
該鉄−炭素複合体(IV)としては、平均外径が1〜100nm程度、平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比が1〜1000000程度のものが好ましく、平均外径が1〜100nm程度、平均長さが0.1〜1000μm程度、平均アスペクト比が5〜10000程度のものがより好ましい。
鉄−炭素複合体(IV)の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。即ち、透過型電子顕微鏡により鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料を200〜2000nm四方の範囲で観察し、像の長さをWとし、該像を直線状に伸ばした時の長さをWoとした場合に、比W/Woが、0.8以上、特に、0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
鉄−炭素複合体(IV)は、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなナノフレークカーボンチューブ(a−1)及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブ(a−2)から選ばれるカーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に鉄または炭化鉄(b)が充填されている鉄−炭素複合体(IV)は、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該鉄−炭素複合体(IV)を含むバルク材料であって、鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料、或いは、炭化鉄又は鉄内包炭素質材料ともいうべき材料の形態で大量に得られる。
特開2002−338220号公報の実施例1で製造されたナノフレークカーボンチューブ(a−1)とそのチューブ内空間部に充填された炭化鉄(b)からなる炭素質材料の電子顕微鏡写真を、図2に示す。
図2から判るように、鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄(b)が充填されており、空間部が充填されていないカーボンチューブは実質上存在しないのが通常である。但し、場合によっては、炭化鉄又は鉄(b)が充填されていないカーボンチューブも微量混在することがある。
また、鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料においては、上記のようなカーボンチューブ内空間部の10〜90%に鉄又は炭化鉄(b)が充填されている鉄−炭素複合体(IV)が主要構成成分であるが、鉄−炭素質複合体(IV)以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、鉄−炭素質複合体(IV)以外の成分を除去して、炭素質材料中の鉄−炭素質複合体(IV)の純度を向上させ、実質上鉄−炭素複合体(IV)のみからなる炭素質材料を得ることもできる。
また、従来の顕微鏡観察で微量確認し得るに過ぎなかった材料とは異なり、鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料は大量に合成できるので、その重量を容易に1mg以上とすることができる。
炭素質材料は、該炭素質材料1mgに対して25mm2以上の照射面積で、CuKαのX線を照射した粉末X線回折測定において、内包されている鉄又は炭化鉄(b)に帰属される40°<2θ<50°のピークの中で最も強い積分強度を示すピークの積分強度をIaとし、カーボンチューブの炭素網面間の平均距離(d002)に帰属される26°<2θ<27°のピークの積分強度Ibとした場合に、IaのIbに対する比R(=Ia/Ib)が、0.35〜5程度、特に0.5〜4程度であるのが好ましく、より好ましくは1〜3程度である。
本明細書において、上記Ia/Ibの比をR値と呼ぶ。このR値は、鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料を、X線回折法において25mm2以上のX線照射面積で観察した場合に、炭素質材料全体の平均値としてピーク強度が観察されるために、TEM分析で測定できる1本の鉄−炭素複合体(IV)における内包率ないし充填率ではなく、鉄−炭素複合体(IV)の集合物である炭素質材料全体としての、炭化鉄又は鉄(b)充填率ないし内包率の平均値を示すものである。
尚、多数の鉄−炭素複合体(IV)を含む炭素質材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の鉄−炭素複合体(IV)における炭化鉄又は鉄(b)の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによっても求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明で使用する鉄−炭素複合体(IV)からなる炭素質材料全体としての炭化鉄又は鉄(b)の平均充填率は、10〜90%程度、特に40〜70%程度である。
上記の鉄又は炭化鉄(b)がナノフレークカーボンチューブ(a−1)のチューブ内空間に部分内包されている鉄−炭素複合体(IV)を酸処理することにより、内包されている鉄又は炭化鉄(b)が溶解除去され、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄(b)が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブ(III)を得ることができる。
上記酸処理に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等を例示でき、その濃度は0.1〜2N程度のものが好ましい。酸処理方法としては、種々の方法により行うことが可能であるが、例えば、1Nの塩酸100mlに対して、1gの鉄内包ナノフレークカーボンチューブを分散し、室温で6時間撹拌処理し、ろ過分離した後、さらに、2回1Nの塩酸100mlで同様の処理を行なうことで、中空のナノフレークカーボンチューブ(III)を得ることができる。
この酸処理によってもナノフレークカーボンチューブ(III)の基本的構成は特に変化を受けない。よって、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄(b)が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブ(III)においても、その最外面を構成する炭素網面の長さは、500nm以下であり、特に2〜500nm、特に10〜100nmである。
被覆層
被覆層は、酸化チタン微粒子が連なってなる。
酸化チタン微粒子の結晶構造としては、とくに制限されるわけではないが、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンを含むものがより好ましい。なお、酸化チタン微粒子の結晶構造は、例えば、X線回折法、ラマン分光分析等により測定することができる。
酸化チタン微粒子の平均粒子径は、より多くの色素を吸着し、光を吸収できる点から、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。ただし、電池内部への光閉じ込め効果の観点から、光散乱の大きい酸化チタン粒子を併用してもよい。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM)観察等により測定することができる。
被覆層の厚みは、漏れ電流を防止する点から、2〜500nmが好ましく、5〜200nmがより好ましい。なお、被覆層の厚みは、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)は、棒状又は繊維状のカーボンの表面が、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層で被覆されている。これにより、図5に示すように、棒状又は繊維状の酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)の表面には、微細な凹凸が存在している。表面に微細な凹凸を有する酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)を色素増感太陽電池用として使用することで、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収できる。そして、効率よく電子を発生させ、図6に示すように、芯材となるカーボンを通して、電子を効率よく透明電極に運ぶことができる。
なお、図7で示されるような、被覆層で充分に被覆されておらず、カーボンの露出面積が大きい酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)を使用すると、図8に示すように、光を吸収することにより発生した電子が、カーボンから電解液中に逆電子移動を起こすため、電子を効率的に運ぶことができない。このような観点から、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)は、棒状又は繊維状のカーボンの表面の酸化チタン微粒子の被覆率は、70〜100%が、特には85〜100%が好ましい。また、カーボン/チタンの表面元素比率は、0/100〜70/30(原子比)が好ましく、0/100〜50/50(原子比)がより好ましい。なお、表面被覆率(カーボンの表面上の、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層で覆われている箇所の割合)は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により、また、カーボン/チタンの表面元素比率は、例えば、X線光電子分光分析等により、測定することができる。
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)は、より大きな電流を得られる点から、10MPa下での粉体抵抗が10Ω・m以下であるものが好ましく、5Ω・m以下であるものがより好ましく、1Ω・m以下であるものがさらに好ましい。粉体抵抗は、小さいほうが好ましく、下限値は特に制限されないが、0.0001Ω・m程度である。なお、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)の測定方法は、特に限定されないが、例えば、10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加して流れる電流値を測ることにより測定できる。
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)は、表面積を大きくし、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収する点から、比表面積が50m2/g以上であるものが好ましく、比表面積が70m2/g以上であるものがより好ましく、80m2/g以上であるものがさらに好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、3000m2/g程度である。なお、比表面積は、BET法等により測定できる。
製造方法
また、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)は、棒状又は繊維状のカーボンの表面に、チタンフルオロ錯体からの析出反応により、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層を形成する工程を含む方法により、酸化チタン微粒子からなる被覆層を形成して得られる。
チタンアルコキシドを原料とするゾルゲル法又は四塩化チタン等を原料とする湿式法でも、棒状又は繊維状のカーボンの表面に、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層を形成させることができるが、チタンフルオロ錯体からの析出反応により酸化チタン微粒子を析出させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、棒状又は繊維状のカーボンを、硝酸、硫酸、塩酸等の酸で処理した後、分散剤を含む溶媒中に分散させ、その後、チタンフルオロ錯体及びホウ酸、塩化アルミニウム等のフッ化物イオン補足剤等を加えて酸化チタンを析出させる方法である。その後、酸化チタン同士の結合を強化するために300〜550程度℃で熱処理してもよい。
ここで、チタンフルオロ錯体としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロチタン酸カリウム等が挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、水、水とアルコールとの混合溶媒等、チタンフルオロ錯体が溶解する溶媒等が挙げられる。
また、分散剤としては、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物系分散剤、ポリカルボン酸塩系分散剤、マレイン酸α−オレフィン共重合体塩系分散剤、アニオン性界面活性剤等の陰イオン性分散剤;四級アンモニウム塩系分散剤、アルキルアミン塩等の陽イオン性分散剤;セルロース系分散剤、ポリビニルアルコール系分散剤、ポリエーテル系分散剤等の非イオン性分散剤;両性界面活性剤等のその他の分散剤等が挙げられる。これらのなかでも、非イオン性分散剤が好ましく、ポリエーテル系分散剤がより好ましい。
上記では、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)としては、棒状又は繊維状のカーボンの表面が、酸化チタン微粒子が連なってなる被覆層で被覆されてなるものを説明したが、その他の形態、例えば、棒状又は繊維状のカーボンの表面が、平滑な酸化チタン層で被覆されたもの等も使用することができる。
<(A2)酸化チタンナノチューブ>
酸化チタンナノチューブ(A2)としては、公知の酸化チタンナノチューブ(A2a)でもよいし、酸化チタン微粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)、マグネリ相の結晶形態を有する酸化チタンを30%以上含む酸化チタンナノチューブ(A2c)等でもよい。
公知の酸化チタンナノチューブ(A2a)
公知の酸化チタンナノチューブ(A2a)を使用する場合は、例えば、特許第3513738号、特許第3983533号に記載のものを使用すればよい。
酸化チタン微粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)
酸化チタン微粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)としては、例えば、特開2010−24132号公報に記載のものが使用できる。具体的には、以下に説明するものが使用できる。
「連なってなる」とは、酸化チタン微粒子が、隣接する酸化チタン微粒子と密接に接していることを言い、これにより、色素を担持させるのに適度な表面が形成される。なお、公知の酸化チタンナノチューブ(A2a)のように、ほぼ平滑な表面を有する酸化チタンナノチューブではない。
酸化チタン微粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)では、酸化チタン微粒子が、管状を形成するように連なって、酸化チタンナノチューブを形成している。これにより、図9に示すように、酸化チタン微粒子が連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)の表面には、微細な凹凸が存在している。これにより、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収できる。そして、効率よく電子を発生させ、図10に示すように、隣接する酸化チタン微粒子同士が密接に接触しているため、隣接する酸化チタン微粒子を通して、電子を効率よく透明電極に運ぶことができる。
酸化チタン微粒子の結晶構造としては、特に制限されるわけではないが、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンを含むものがより好ましい。なお、酸化チタン微粒子の結晶構造は、例えば、X線回折法やラマン分光分析等により測定することができる。また、酸化チタン微粒子としては、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンに加えて、さらに、3価チタンの酸化物及び4価チタンの酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
酸化チタン微粒子としては、他にも、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを含むことが好ましい。このマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンは、具体的な構成は明らかではないが、組成式:TinO2n−1(n:4〜10)で表され、金属と同程度の導電性を有するものである。このマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを含むことで、酸化チタンナノチューブ(A2b)の導電性を向上させることができる。
酸化チタン微粒子の平均粒子径は、より多くの色素を吸着し、光を吸収できる点から、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
酸化チタンナノチューブ(A2b)の比表面積は、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収する点から、20m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましく、80m2/g以上がさらに好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、3000m2/g程度である。なお、比表面積は、BET法等により測定できる。
酸化チタンナノチューブ(A2b)の粉体抵抗は、より大きな電流が得られる点から、10MPa下で3×106Ω・m以下が好ましく、1×105Ω・m以下がより好ましい。粉体抵抗は、小さいほうが好ましく、下限値は特に制限されないが、0.1Ω・m程度である。なお、酸化チタンナノチューブ(A2b)の粉体抵抗の測定方法は、特に限定されないが、例えば、10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加して流れる電流値を測ることにより測定することができる。
酸化チタンナノチューブ(A2b)の肉厚は漏れ電流を防止する点から、2〜250nm程度が好ましく、5〜200nm程度がより好ましい。なお、肉厚とは、酸化チタンナノチューブ(A2b)における外径と内径の差のことを言う。また、酸化チタンナノチューブ(A2b)の肉厚は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
上記のような酸化チタンナノチューブ(A2b)は、例えば、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)中に存在するナノスケールカーボンを消失させる方法により得られる。これにより、酸化チタンがアナターゼ型結晶構造になるとともに密着性が増す利点がある。なお、ここでは、ナノスケールカーボンチューブを消失させればよく、その手法は特に限定されるものではないが、酸化消失させるのが簡便である。例えば、空気中で加熱して酸化消失させる場合には、その加熱温度は、好ましくは450℃以上、より好ましくは550℃以上、さらに好ましくは600〜750℃、特に好ましくは600〜700℃である。なお、高導電性の酸化チタンナノチューブ(A2b)を得るために、減圧雰囲気(0.1〜1000Pa、好ましくは10〜300Pa)にて、上記の温度条件で焼成してもよい。
マグネリ相の結晶形態を有する酸化チタンを30%以上含む酸化チタンナノチューブ(A2c)
酸化チタンナノチューブ(A2c)は、酸化チタン微粒子からなり、前記酸化チタン微粒子の30%以上が、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンである。なお、酸化チタンナノチューブ(A2b)も、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを含むが、その量は少なく、30%以上とはならない。
酸化チタンナノチューブ(A2c)を構成する酸化チタン微粒子の平均粒子径は、1〜100nm、好ましくは30〜80nmである。このように、酸化チタン微粒子の平均粒子径を上記範囲内とすることで、活性比表面積を大きくすることができるため、より多くの色素を吸着し、光を吸収しやすくできる。なお、酸化チタン微粒子の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)では、酸化チタン微粒子の30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上が、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンである。酸化チタン微粒子の30%以上を、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンとすることで、導電性を向上させることができる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)中に含まれるマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンは、一般式(1):
TiOx
(式中、xは1.75〜1.95である)
で示され、なかでもxが1.75〜1.85のものは金属と同程度の導電性を有するものである。具体的には、例えば、Ti4O7、Ti5O9、Ti6O11、Ti8O15等が挙げられる。中でも、より導電性の高いT4O7が好ましい。これらのマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンは、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
酸化チタンナノチューブ(A2c)には、上記のマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタン以外にも、アナターゼ型チタニア、ルチル型チタニア、ブルッカイト型酸化チタン等を含んでいてもよい。マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタン以外の酸化チタンを含む場合には、上記の3種類のなかでも、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンが好ましい。なお、上記3種類のうち、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
酸化チタンナノ粒子の結晶構造は、例えば、X線回折、電子線回折、ラマン分光分析等により測定することができる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)の肉厚は漏れ電流を防止する点から、2〜250nm程度が好ましく、5〜200nm程度がより好ましい。なお、肉厚とは、酸化チタンナノチューブ(A2c)における外径と内径の差のことを言う。また、酸化チタンナノチューブ(A2c)の肉厚は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
また、酸化チタンナノチューブ(A2c)は、その表面が平滑なものであってもよいし、凹凸を有していてもよい。表面に凹凸を有している場合は、酸化チタンナノチューブ(A2c)は、酸化チタンナノ粒子が連なってなるものを使用することが好ましい。
酸化チタンナノチューブ(A2c)を、酸化チタン微粒子が連なってなるものとすれば、酸化チタンナノチューブ(A2c)の表面に、微細な凹凸を形成させることができる。このように、表面に微細な凹凸を有する酸化チタンナノチューブ(A2c)を色素増感太陽電池用として使用すれば、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収し、効率よく電子を発生させることができる。また、酸化チタンナノチューブ(A2c)は、マグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンを多く含んでいるため、隣接する酸化チタンを通して、電子を効率よく透明電極に運ぶことができる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)のは、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収する点から、比表面積が20m2/g以上であるものが好ましく、比表面積が70m2/g以上であるものがより好ましく、80m2/g以上であるものがさらに好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、3000m2/g程度である。なお、比表面積は、BET法等により測定できる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)は、より大きな電流が得られる点から、10MPa下での粉体抵抗が3×106Ω・m以下であるものが好ましく、1×105Ω・m以下であるものがより好ましい。粉体抵抗は、小さいほうが好ましく、下限値は特に制限されないが、1×10−6Ω・m以下Ω・m程度である。なお、酸化チタンナノチューブ(A2c)の粉体抵抗の測定方法は、特に限定されないが、例えば、10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加して流れる電流値を測ることにより測定することができる。
酸化チタンナノチューブ(A2c)は、例えば、酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブ(A1)を、還元雰囲気下、950℃以下で熱処理する方法により製造できる。つまり、酸化チタンナノチューブ(A2b)の製造方法において、熱処理の雰囲気を還元雰囲気とすればよい。これにより、比表面積が大きく、酸化チタンナノ粒子中のマグネリ相の結晶形態を有する酸化チタンの量が多い酸化チタンナノチューブ(A2c)が得られる。
還元雰囲気としては、特に制限されるわけではないが、還元性ガスを有する雰囲気とすればよい。還元性ガスとしては、例えば、水素、一酸化炭素、一酸化窒素、不飽和炭化水素性ガス(アセチレン、エチレン等)、飽和炭化水素性ガス(メタン、エタン、プロパン等)等が挙げられ、水素、一酸化炭素及びアセチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。このように、還元雰囲気下で熱処理することで、得られる酸化チタンナノチューブ(A2c)におけるマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンの含有量を大きくすることができる。
なお、本発明では、還元雰囲気とは、必ずしも、上記還元性ガスのみからなる雰囲気とする必要はなく、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスを含んでいてもよい。不活性ガスを含む雰囲気とする場合には、還元性ガスは、50モル%以上含んでいればよい。
また、還元雰囲気で熱処理した場合でも、後述の熱処理温度を満たさない場合、つまり高温で熱処理した場合は、酸化チタンナノ粒子同士が凝集してしまい、平均粒子径が1μm以上程度となってしまう。このため、活性比表面積を大きくすることができず、充分な導電性が得られない。
熱処理温度は950℃以下、好ましくは650〜850℃である。上述のように、熱処理温度が高すぎると、酸化チタン微粒子同士が凝集してしまい、平均粒子径が1μm以上程度となってしまうためである。
なお、950℃以下で熱処理した場合でも、還元雰囲気でない場合、例えば大気中、不活性雰囲気下等で熱処理した場合は、得られる酸化チタンナノチューブ(A2c)におけるマグネリ相構造の結晶形態を有する酸化チタンの含有量を充分に大きくできない。
<(A3)酸化チタンナノロッド>
酸化チタンナノロッド(A3)としては、公知の酸化チタンナノロッド(A3a)でもよいし、アスペクト比が大きな酸化チタンナノロッド(A3b)でもよい。
アスペクト比が大きな酸化チタンナノロッド(A3b)
酸化チタンナノロッド(A3b)は、複数の酸化チタン結晶を含有する、アスペクト比が10以上の板状の構造体である。また、長手方向側面の算術平均粗さ(Ra)が平均幅の10%未満である。
「板状」とは、幅(短辺)に対して長さ(長辺)が大きければよく、必ずしも完全な平面である必要はなく、曲面であってもよい。ただし、筒状(チューブ状)のものは除く。
「複数の酸化チタン結晶を含有する酸化チタン構造体」は、通常は多結晶体である。本発明では、酸化チタンナノロッド(A3b)が、複数の板状の結晶からなることを意図している。つまり、酸化チタンナノロッド(A3b)は、図11(a)に示されるように、筒状で長手方向に結晶面が酸化チタン構造体の端から端まで続くような、従来公知の酸化チタンナノチューブでもないし、図11(b)に示されるように、粒子状結晶が連なってなるものではない。
酸化チタンナノロッド(A3b)は、直線的で折れ曲がりの少ないものが、酸化チタンナノロッド(A3b)同士が絡み合いにくく、分散性を向上させる観点から好ましい。具体的には、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)による酸化チタン構造体像の長さをLとし、その酸化チタン構造体を伸ばした時の長さをL0とした場合に、L/L0が0.7以上となる形状特性が好ましい。
また、酸化チタンナノロッド(A3b)は、向かい合う長辺同士が平行であることが好ましい。本明細書において、「平行」とは、完全に平行である必要はなく、略平行であるものも含まれる。具体的には、酸化チタンナノロッド(A3b)の端部100nmを除いて、向かい合う長辺のなす角が0〜10°であることが好ましい。
酸化チタンナノロッド(A3b)の形状(L/L0及び向かい合う長辺のなす角)は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
また、酸化チタンナノロッド(A3b)は、長手方向側面の算術平均粗さ(Ra)が平均幅の10%未満、好ましくは0〜5%程度である。具体的には、長手方向側面の算出平均粗さ(Ra)は、5nm未満、好ましくは0〜3nm程度とすればよい。なお、長手方向側面の算術平均粗さは、例えば、TEMの電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いてチタニアナノロッド(A3b)の表面の直線又は曲線を測定することにより測定できる。
酸化チタンナノロッド(A3b)は、複数の酸化チタン結晶を含有する。本明細書において、「複数の酸化チタン結晶を含有する」とは、具体的には、図12(a)に示すように、一部が結晶化したものを複数含有するもの、図12(b)に示すように、複数種の長さが短い結晶(長さが50nm以下)を複数種混合したもの、図12(c)に示すように、主結晶(長さが50nmより大きい)中に長さが短い結晶(長さが50nm以下)を含有するもののいずれも包含する概念である。
より詳細には、長手方向の長さが50nm以下である結晶を30%以上、特に50%以上含むことが好ましい。このように、長手方向の長さが50nm以下の結晶を30%以上含むことで、強度、導電性、比表面積を両立しながらも、凝集が起こりにくい。
酸化チタンナノロッド(A3b)の具体的な結晶構造は、特に制限されるわけではないが、アナターゼ型、ブルッカイト型、TiO2−B型のうち少なくとも1種を含むことが好ましく、アナターゼ型及び/又はTiO2−B型を含むことがより好ましく、少なくともアナターゼ型を含むことがさらに好ましい。酸化チタンナノロッド(A3b)の結晶構造は、例えば、X線回折、電子線回折、ラマン分光分析等により測定することができる。
酸化チタンナノロッド(A3b)は、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収できる点から、比表面積は15m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、3000m2/g程度である。比表面積は、BET法等により測定できる。
酸化チタンナノロッド(A3b)中のアルカリ金属の含有量は、活性を確保する点から、2000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましい。なお、耐熱性を必要とする場合は、Naが多いほうが好ましいことがあるため、アルカリ金属含有量は、目的等に応じて適宜設定すればよい。アルカリ金属の含有量は、イオンクロマトグラフ法、ICP発光分光分析法等により測定できる。
酸化チタンナノロッド(A3b)は、より大きな電流が得られる点から、10MPa下での粉体抵抗は3×106Ω・m以下が好ましく、1×105Ω・m以下がより好ましい。粉体抵抗は、小さいほうが好ましく、下限値は特に制限されないが、0.1Ω・m程度である。なお、酸化チタンナノロッド(A3b)の粉体抵抗の測定方法は、特に限定されないが、例えば、10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加して流れる電流値を測ることにより測定することができる。
酸化チタンナノロッド(A3b)は、500〜900℃程度の高温領域でも形状が崩れず、比表面積及びアスペクト比を維持できる。つまり、酸化チタンナノロッド(A3b)は、高温においても、高比表面積、溶液中への分散性及び高強度を維持できる。
酸化チタンナノロッド(A3b)の製造方法は、例えば、
(1)3〜20mol/Lのアルカリ水溶液と、平均粒子径が50nm以下の酸化チタン微粒子とを、160℃より高い温度で接触させる工程
を備える。
工程(1)では、具体的には、これに限定されるわけではないが、3〜20mol/Lのアルカリ水溶液中に、平均粒子径が50nm以下のチタニアナノ粒子を添加し、その後、160℃より高い温度に加熱すればよい。
アルカリ水溶液としては、原料の酸化チタンの表面を溶解し、反応を促進する点から、アルカリ金属の水酸化物の水溶液が好ましい。なお、アルカリとして、2種類以上のアルカリを含む水溶液としてもよく、水酸化ナトリウムを50重量%以上含む水溶液とするのがより好ましい。アルカリとして水酸化ナトリウム以外のアルカリを含む場合は、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を水酸化ナトリウムと併用させればよい。
アルカリ水溶液の濃度は、原料の酸化チタンの表面を溶解し、かつ反応液の流動性を保つことにより、アスペクト比の大きい板状チタニア結晶からなる酸化チタンナノロッド(A3b)を、長時間かけることなく作製できる点から、3〜20mol/L、好ましくは5〜15mol/L程度である。なお、2種類以上のアルカリを含む水溶液を使用する場合には、アルカリ水溶液の濃度は、全アルカリの濃度の総和である。
使用する酸化チタンナノ粒子の形態は、特に制限はない。公知又は市販の酸化チタン微粒子をそのまま使用してもよいし、粒径が大きい場合は遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式又は湿式で粉砕して用いても良い。
また、酸化チタン微粒子は、少なくともアナターゼ型を示すものが好ましい。
使用する酸化チタン微粒子の平均粒子径は、より低温、より短時間で本発明の酸化チタンナノロッド(A3b)を製造できる点から、50nm以下、好ましくは30nm以下である。使用する酸化チタン微粒子の平均粒子径が大きすぎると、酸化チタンナノロッド(A3b)を製造するのが困難である。酸化チタン微粒子の平均粒子径は、小さいほうが好ましく、下限値は特に設定されないが、通常3nm程度である。酸化チタン微粒子の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
アルカリ水溶液中に添加する酸化チタン微粒子の量は、特に制限されないが、反応液の流動性と生産性とのバランスを取る観点から、0.01〜1mol/L程度、好ましくは0.05〜0.5mol/Lとすればよい。
アルカリ水溶液と酸化チタン微粒子とを接触させる温度は、160℃より高い温度である。接触温度の上限値は、特に制限はないが、通常水の臨界点である370℃である。好ましくは、180〜370℃程度、より好ましくは200〜300℃程度とすればよい。接触温度が低すぎると酸化チタンナノロッド(A3b)を製造することはできず、酸化チタン微粒子が凝集した塊状の構造体、又は幅が非常に小さい酸化チタンナノロッドが絡み合い、全体として塊状の構造体しか製造できない。つまり、高アスペクト比かつ高分散性の酸化チタンナノロッドは得られない。特許第3513738号及び特許第3983533号では、160℃以上とするとチューブ状のものが生成されにくくなる(特許第3513738号の[0024]及び特許第3983533号の[0024])とされているが、逆に、低温で接触させると、酸化チタンナノロッド同士が絡み合ってしまうため、高アスペクト比且つ高分散性の酸化チタンナノロッドは得られない。また、接触温度が高すぎると、使用するエネルギー量と安全性の面で望ましくない。
アルカリ水溶液と酸化チタン微粒子とを接触させる時間は、特に制限はなく、1〜24時間程度とすればよい。
酸化チタン微粒子の平均粒子径、接触温度及び接触時間の好ましい範囲には相関関係があり、平均粒子径が大きめの酸化チタン微粒子を使用する場合には、接触温度を高めとすることが好ましい。例えば、平均粒子径7nmの酸化チタン微粒子を用いて接触時間を12時間とした場合には、接触温度を160℃より高い温度とすればよいが、平均粒子径25nmの酸化チタン微粒子を用いて接触時間を12時間とした場合には、接触温度を185℃以上とすることが好ましい。
酸化チタンナノロッド(A3b)の製造方法においては、上記の工程(1)の後、さらに、
(2)工程(1)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)を水、酸及びイオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種と接触させる工程
を備えることが好ましい。
具体的には、水又は酸を使用する場合には、例えば、工程(1)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)を、水又は酸性水溶液中に添加すればよく、イオン交換樹脂を使用する場合には、イオン交換樹脂を充填したカラムに生成物を含む液を通過させてもよく、イオン交換樹脂と混合して撹拌するだけでもよい。
アルカリ水溶液としてアルカリ金属の水酸化物を用いた場合には、工程(1)で得られる酸化チタンナノロッド中に、アルカリ金属が含まれることがあるが、この工程により、酸化チタンナノロッド中に含まれるアルカリ金属を取り除くことができる。
酸としては、アルカリ金属イオンとプロトンを交換できるプロトン酸が好ましい。具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸等の一般的な無機酸又は有機酸が挙げられる。これらの酸は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
イオン交換樹脂としては、例えば、ダイヤイオン(三菱化学(株)製;登録商標)、アンバーライト(ローム・アンド・ハース社製)等の陽イオン交換樹脂等が挙げられる。これらのイオン交換樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
水、酸及びイオン交換樹脂のなかでも、工程(1)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)中に含まれるアルカリ金属を短時間で取り除くことができる点から、酸を用いることが好ましく、塩酸、硝酸、酢酸、シュウ酸等がより好ましい。ただし、酸を用いる場合には、工程(1)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)を酸と接触させた後、酸化チタンナノロッド(A3b)を水洗して酸を除去することが好ましい。
工程(1)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)と水、酸及びイオン交換樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種とを接触させる時間は、1〜48時間程度とすればよく、充分にアルカリ金属を除去する必要がある場合は8時間以上がより望ましい。
酸化チタンナノロッド(A3b)の製造方法においては、上記の工程(2)の後、さらに、
(3)工程(2)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)を150℃以上で焼成する工程
を備えることが好ましい。
工程(2)で得られた酸化チタンナノロッド(A3b)は、一般的に行われる熱風乾燥、減圧乾燥等により乾燥を行ってもよいが、加熱して焼成することが好ましい。これにより、酸化チタンナノロッド(A3b)に残存するTi−OH基の脱水反応を行わせることができる。
焼成温度は、酸化チタンナノロッド(A3b)に残存するTi−OH基の脱水反応を行わせることができる点から150℃以上が好ましく、酸化チタンナノロッド(A3b)の結晶性を向上させられる点から300℃以上がより好ましい。なお、焼成温度の上限値は特に制限はないが、通常1000℃程度である。
1−2.絶縁性酸化物膜(B)
本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体は、前記した酸化チタン構造体(A)の表面上に、絶縁性酸化物膜(B)が形成されている。
絶縁性酸化物膜(B)は、特に限定されないが、絶縁性酸化物(B)の電子伝導帯エネルギー準位が酸化チタン構造体(A)の電子伝導帯エネルギー準位より真空エネルギー準位側にあり、色素から酸化チタン構造体(A)へ電子をトンネル伝導させることが可能であるものを使用すればよい。具体的には、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化マンガン、酸化銅、酸化ゲルマニウム、酸化ガリウム等を使用すればよく、なかでも、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムが好ましい。これらの酸化物は、1種単独又は2種以上で使用できる。
絶縁性酸化物膜(B)の厚みは、特に制限されないが、逆電子移動の防止のため、0.1〜100nmm、特に0.1〜10nm、さらに0.5〜5nmとすることが好ましい。
なお、酸化チタン構造体(A)の表面に絶縁性酸化物膜(B)を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、スパッタリング法、浸漬法、スプレー法、蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等が挙げられる。これらの中で、酸化チタン構造体(A)の細部まで絶縁性酸化物膜(B)を形成する手段として浸漬法が好ましく、絶縁性酸化物の前駆体を0.001〜1mol/L程度含む溶液中に酸化チタン構造体(A)を浸漬し、その後焼成すればよい。
絶縁性酸化物の前駆体としては、例えば、該酸化物を構成する金属のアルコキシド、ハロゲン化物、オキソハロゲン化物、カルボニル、有機錯体等が挙げられる。具体的には、例えば、マグネシウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、イットリウムイソプロポキシド等を使用すればよい。
焼成条件は、特に制限されるわけではないが、300〜600℃程度、特に450〜550℃程度にて1〜60分程度、特に10〜30分程度とすればよい。
2.多孔質酸化チタン組成物
本発明の多孔質酸化チタン組成物は、本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体と、平均粒子径が1〜400nmの酸化チタン微粒子(C)とを含む。
酸化チタン微粒子(C)としては、本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体の作製に使用した酸化チタンを用いてもよいし、違うものを用いてもよい。具体的には、以下のものが使用できる。
酸化チタン微粒子(C)の結晶構造としては、とくに制限されるわけではないが、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン及びブルッカイト型酸化チタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、光に対する活性が高い点から、アナターゼ型酸化チタンを含むものがより好ましい。なお、酸化チタン微粒子(C)の結晶構造は、例えば、X線回折法やラマン分光分析等により測定することができる。
酸化チタン微粒子(C)の平均粒子径は、より多くの色素を吸着し、光を吸収できる点から、1〜100nmが好ましく、10〜50nmがより好ましい。ただし、電池内部への光閉じ込め効果の観点から、粒径が大きく光散乱の大きい酸化チタン粒子(100〜400nm程度)を併用してもよい。なお。平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
本発明では、酸化チタン構造体(A)と酸化チタン微粒子(C)とを混合して使用することで、図13に示すように、表面の微細な凹凸をより増加させ、表面に色素を担持させやすくすることができる。
本発明の多孔質酸化チタン組成物は、分散時流動性を確保する点から、酸化チタン構造体(A)を0.1〜90重量%(さらに0.2〜80重量%(特に0.5〜60重量%))、酸化チタン微粒子(C)を10〜99.9重量%(さらに20〜99.8重量%(特に40〜99.5重量%))混合することが好ましい。なお、酸化チタン構造体(A)の含有量を60重量%以下とすれば、組成物の塗布性が高く塗膜の強度にも優れるため、ばらつきが少なく安定した導電性、光電変換効率が得られるという利点がある。また、より高い光電変換効率が得られ、かつ低コストであるという利点もある。
本発明の多孔質酸化チタン組成物においては、表面積を大きくし、かつ、電解液のイオン拡散性を保持する点から、空孔径が5〜50nmの空孔が、全空孔の40〜100%、特に60〜100%存在することが好ましい。
さらに、本発明の多孔質酸化チタン組成物の比表面積は、表面積を大きくし、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収する点から、30〜500m2/gが好ましく、50〜500m2/gがより好ましく、60〜500m2/gがさらに好ましい。ただし、電池内部への光閉じ込め効果の観点から光散乱の大きい、つまり比表面積の小さい酸化チタン粒子を併用してもよい。
本発明の多孔質酸化チタン組成物は、例えば、本発明の酸化チタン構造体(A)と前記した酸化チタン微粒子(C)とを混合すればよい。
混合する手法としては、特に制限はなく、ペイントシェーカー、乳鉢をはじめとして、各種ボールミル、サンドミル、ジェットミル、ニーダー、ローラー公知の混合方法等が挙げられる。粘度の低い溶媒で希釈し、ペイントシェーカー等で混合し、後に溶媒を減圧蒸留などにより除去してもよい。
3.電極
本発明の電極は、基板上に、本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体又は多孔質酸化チタン組成物を含む多孔質酸化チタン層が形成され、該多孔質酸化チタン層に色素が担持されているものである。
基板としては、樹脂基板でもガラス基板でもよい。ただし、後述の絶縁性酸化物膜の形成工程において、300℃以上の温度で焼成する関係上、ガラス基板を用いるのが好ましい。
樹脂基板としては、導電性の樹脂基板であれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンナフタレート樹脂基板(PEN樹脂基板)、ポリエチレンテレフタレート樹脂基板(PET樹脂基板)等のポリエステル;ポリアミド;ポリスルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンサルファイド;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリメチルメタクリレート;ポリスチレン;トリ酢酸セルロース;ポリメチルペンテン等が挙げられる。
ガラス基板としても特に制限はなく、公知又は市販のものを使用すればよく、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等のいずれでもよい。
この樹脂基板又はガラス基板としては、板厚が0.05〜10mm程度のものを使用すればよい。
本発明では、多孔質酸化チタン層は、樹脂基板又はガラス基板の表面上に直接形成されていてもよいが、透明導電膜を介して形成されていてもよい。
透明導電膜としては、例えば、スズドープ酸化インジウム膜(ITO膜)、フッ素ドープ酸化スズ膜(FTO膜)、アンチモンドープ酸化スズ膜(ATO膜)アルミニウムドープ酸化亜鉛膜(AZO膜)、ガリウムドープ酸化亜鉛膜(GZO膜)等が挙げられる。これらの透明導電膜を介することで、発生した電流を外部にとりだすことが容易となる。これらの透明導電膜の膜厚は、0.02〜10μm程度とするのが好ましい。
前記多孔質酸化チタン層は、必ずしも本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体又は多孔質酸化チタン組成物のみからなる必要はなく、例えば、酸化チタン被覆ナノスケールカーボン、酸化チタンナノチューブ、酸化チタンナノロッド、酸化チタンナノワイヤー等を含んでいてもよい。
多孔質酸化チタン層の上には、さらに、絶縁性酸化物膜が形成されていることが好ましい。該絶縁性酸化物膜を構成する酸化物や厚み等は、絶縁性酸化物膜(B)と同様とすればよい。
本発明において、基板上に、前記多孔質酸化チタン層を形成する方法としては、特に制限されるわけではないが、例えば、本発明の絶縁被覆酸化チタン構造体、又は本発明の多孔質酸化チタン組成物を含むペーストを、前記基板上に塗布し、乾燥及び焼成すればよい。
この際の条件としては、特に制限されないが、乾燥温度は100〜500℃、特に200〜300℃とすればよい。また、焼成条件は、100〜1000℃、特に170〜600℃で1〜24時間程度とすればよい。
また、多孔質酸化チタン層の表面に絶縁性酸化物膜を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、スパッタリング法、浸漬法、スプレー法、蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等が挙げられる。これらの中で、酸化チタン構造体(A)の細部まで絶縁性酸化物膜を形成する手段として浸漬法が好ましく、絶縁性酸化物の前駆体を0.001〜1mol/L程度含む溶液中に酸化チタン構造体(A)を浸漬し、その後焼成すればよい。
絶縁性酸化物の前駆体としては、例えば、該酸化物を構成する金属のアルコキシド、ハロゲン化物、オキソハロゲン化物、カルボニル、有機錯体等が挙げられる。具体的には、例えば、マグネシウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムブトキシド、イットリウムイソプロポキシド等を使用すればよい。
焼成条件は、特に制限されるわけではないが、300〜600℃程度、特に450〜550℃程度にて1〜60分程度、特に10〜30分程度とすればよい。
上記の方法により、多孔質酸化チタン層の上に、厚みが0.1〜100nm程度の絶縁性酸化物膜を形成するとともに、多孔質酸化チタン層中の酸化チタン構造体(A)の表面にも、厚みが0,1〜100nm程度の絶縁性酸化物膜を形成することができる。
上述のように、基板上に多孔質酸化チタン層を形成した後、色素を吸着させればよい。
色素は、可視域や近赤外域に吸収特性を有し、多孔質酸化チタン層の光吸収効率を向上(増感)させる色素であれば特に限定されないが、金属錯体色素、有機色素、天然色素、半導体等が好ましい。また、多孔質酸化チタン層への吸着性を付与するために、色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ホスホニル基、カルボキシルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホニルアルキル基、ホスホニルアルキル基等の官能基を有するものが好ましい。
金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、亜鉛、水銀の錯体(例えば、メリクルクロム等)や、金属フタロシアニン、クロロフィル等を用いることができる。また、有機色素としては、例えば、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、金属フリーフタロシアニン系色素等が挙げられるが、これらに限定されない。色素として用いることができる半導体としては、i型の光吸収係数が大きなアモルファス半導体や直接遷移型半導体、量子サイズ効果を示し、可視光を効率よく吸収する微粒子半導体等が好ましい。通常、各種の半導体や金属錯体色素や有機色素の一種、又は光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することができる。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
色素を多孔質酸化チタン層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に色素を溶解させた溶液を、多孔質酸化チタン層上にスプレーコートやスピンコート等により塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に樹脂基板又はガラス基板を加熱しても良い。また、多孔質酸化チタン層を溶液に浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は色素が充分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の色素の濃度としては、1〜1000mmol/L、好ましくは10〜500mmol/L程度である。
用いる溶媒は特に制限されるものではないが、水及び有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ブタノン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
色素間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を色素吸着液に添加し、多孔質酸化チタン層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物やスルホン酸塩類等が挙げられる。
未吸着の色素は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
色素を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、半導体層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
3.光電変換素子及び色素増感太陽電池
本発明では、本発明の電極における色素が担持された多孔質酸化チタン層の上に対向電極(対極)を形成し、これら電極間を電解液で満たすことにより光電変換素子を形成する。
対極は、導電性材料からなる単層構造でもよいし、導電層と基板とから構成されていてもよい。基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、樹脂でもよい。かかる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。また、電荷輸送層上に直接導電性材料を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)して対極を形成しても良い。
導電性材料としては、白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属;炭素材料;導電性有機物等の比抵抗の小さな材料が用いられる。
また、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いても良い。金属リードは白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属からなるのが好ましく、アルミニウム又は銀からなるのが特に好ましい。
本発明では、対極を形成する前に、本発明の電極の光吸収効率を向上すること等を目的として、多孔質酸化チタン層に色素を担持(吸着、含有など)させることが好ましい。色素及び色素の担持方法は、上述したとおりである。
本発明の色素増感太陽電池は、上記の光電変換素子をモジュール化するとともに、所定の電気配線を設けることによって製造することができる。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
実施例1
<酸化チタンナノチューブ(A2b)の作製>
ナノスケールカーボンチューブ(平均直径:35nm、平均長さ:5μm、平均アスペクト比:143)0.96gに69%硝酸150gを加え、90〜95℃にて6時間保持した。これをろ過し、蒸留水にてろ液がpH6〜7になるまで洗浄した後、乾燥させた。
これを、ポリエーテル系分散剤3.7gを含む蒸留水100gに超音波ホモジナイザーを用いて分散させた。このナノスケールカーボン分散液に1.0Mに希釈したヘキサフルオロチタン酸アンモニウム及び1.0Mに希釈したホウ酸をそれぞれの濃度が0.20M及び0.4Mとなるように加え、35℃にて16時間放置した後、ろ過し、乾燥してナノスケールカーボンチューブの表面に酸化チタンが被覆した構造体を得た。
この構造体をX線光電子分光分析で測定したところ、カーボン/チタンの原子比は0.1でわずかのカーボンしか検出されなかった。また、電子顕微鏡(SEM)で観察を行ったところ、酸化チタンの表面被覆率は98%程度であった。なお、1nm以上の凹凸がない平滑な部分(カーボンチューブの酸化チタンで被覆されていない部分)が5nm以上連続して存在する部分を、被覆されずカーボンチューブが露出している部分とみなし、表面被覆率を測定した。
X線回折法及びラマン分光分析が数マイクロメートルの深さまでの情報を反映するのに対し、X線光電子分光分析は、表面の数ナノメートルの部分の分析なのでナノスケールカーボンチューブが露出せず、酸化チタンが被覆されていることがわかる。
この酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブを空気中で650℃にて1時間焼成し、ナノスケールカーボンチューブを消失させることで、粒子状酸化チタンが連なってなる酸化チタンナノチューブ(A2b)を得た。
得られた酸化チタンナノチューブ(A2b)を用い、本発明の電極を作製した。
<粉体抵抗測定用電極>
上記で作製した酸化チタンナノチューブ(A2b)3.0g、エチルセルロース1.5g及びα−テルピネオール10gを混合して得られる酸化チタンペーストを、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)ガラス(日本板硝子(株)製、抵抗:10Ω/sq)上に、厚みが14μmとなるように塗布した。
その後、125℃で乾燥し、500℃で1時間焼成することで、酸化チタン電極を作製した。この酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシド0.61gを2−プロパノール20mLに溶解させた溶液(マグネシウムエトキシド:0.15mol/L)に60℃で30分間浸漬した。その後酸化チタン電極を80℃の湯に1分間浸漬し、その後450℃で20分間焼成することで、酸化チタン電極の酸化チタン層上に厚み1nmの酸化マグネシウム膜が被覆された絶縁被覆酸化チタン電極を得た。なお、この絶縁被覆酸化チタン電極は、酸化チタン層中の酸化チタンナノチューブ(A2b)の表面にも、厚さ1nmの酸化マグネシウム膜が被覆されていた。
このようにして、実施例1の粉体抵抗測定用電極を作製した。
<光電変換素子用電極>
酸化チタン(石原産業(株)製のST−21(平均粒子径20nm))3.0g、エチルセルロース1.5g及びα−テルピネオール10gを混合し、さらに、上記で作製した酸化チタンナノチューブ(A2b)を、酸化チタンの5重量%となるように添加して得られる酸化チタンペーストを、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)ガラス(日本板硝子(株)製、抵抗:10Ω/sq)上に、厚みが14μmとなるように塗布した。
その後、125℃で乾燥し、500℃で1時間焼成することで、酸化チタン電極を作製した。この酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシド0.61gを2−プロパノール20mLに溶解させた溶液(マグネシウムエトキシド:0.15mol/L)に60℃で30分間浸漬した。その後酸化チタン電極を80℃の湯に1分間浸漬し、その後450℃で20分間焼成することで、酸化チタン電極の酸化チタン層上に厚み1nmの酸化マグネシウム膜が被覆された絶縁被覆酸化チタン電極を得た。なお、この絶縁被覆酸化チタン電極は、酸化チタン層中の酸化チタンナノチューブ(A2b)の表面にも、厚さ1nmの酸化マグネシウム膜が被覆されていた。
得られた絶縁被覆酸化チタン電極にルテニウム色素(Solaronix社製のRutenium535-bis-TBA(N719))を吸着させ、実施例1の光電変換素子用電極を製造した。
実験例1
実施例1にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆されたチタニアナノチューブ(A2b)を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は7.0×105Ω・mであった。
また、実施例1にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、6.5%であった。
実施例2
酸化チタン被覆ナノスケールカーボンチューブを減圧雰囲気(300Pa)下、750℃で2時間焼成すること以外は実施例1と同様に、酸化マグネシウム膜が被覆されたチタニアナノチューブ(A2b)を含む酸化チタン層を有する、実施例2の粉体抵抗測定用電極及び光電変換素子用電極を作製した。
実験例2
実施例2にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆されたチタニアナノチューブ(A2b)を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は5.5×104Ω・mであった。
また、実施例2にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、7.8%であった。
実施例3
酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシドが溶解した溶液に浸漬する温度を70℃とすること以外は実施例2と同様に、酸化マグネシウム膜が被覆されたチタニアナノチューブ(A2b)を含む酸化チタン層を有する、実施例3の粉体抵抗測定用電極及び光電変換素子用電極を作製した。
実験例3
実施例3にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆されたチタニアナノチューブ(A2b)を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は6.0×104Ω・mであった。
また、実施例3にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、7.4%であった。
比較例1
酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシドが溶解した溶液に浸漬する工程を行わないこと以外は実施例1と同様に、酸化マグネシウム膜が被覆されていないチタニアナノチューブ(A2b)を含む酸化チタン層を有する、比較例1の粉体抵抗測定用電極及び光電変換素子用電極を作製した。
比較実験例1
比較例1にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆されていないチタニアナノチューブ(A2b)を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は6.3×105Ω・mであった。
また、比較例1にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、6.0%であった。
比較例2
酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシドが溶解した溶液に浸漬する工程を行わないこと以外は実施例2と同様に、酸化マグネシウム膜が被覆されていないチタニアナノチューブ(A2b)を含む酸化チタン層を有する、比較例2の粉体抵抗測定用電極及び光電変換素子用電極を作製した。
比較実験例2
比較例2にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆されていないチタニアナノチューブ(A2b)を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は5.0×104Ω・mであった。
また、比較例2にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、6.3%であった。
比較例3
平均粒子径20nmの酸化チタン粒子(石原産業(株)製のST−21)を650℃で1時間焼成した粉末を10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工して粉体抵抗測定用電極を作製し、ペレット間に電圧1V印加したところ、粉体抵抗は、3.8×106Ω・mであった。
また、平均粒子径20nmの酸化チタン粒子(石原産業(株)製のST−21)3.0g、エチルセルロース1.5g及びα−テルピネオール10gを混合して得られる酸化チタンペーストを、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)ガラス(日本板硝子(株)製、抵抗:10Ω/sq)上に、厚みが14μmとなるように塗布した。
その後、125℃で乾燥し、500℃で1時間焼成し、ルテニウム色素(Solaronix社製のRutenium535-bis-TBA(N719))を吸着させ、比較例3の光電変換素子用電極を製造した。
比較例3の光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、5.8%であった。
比較例4
<粉体抵抗測定用電極及び光電変換素子用電極>
平均粒子径20nmの酸化チタン粒子(石原産業(株)製のST−21)3.0g、エチルセルロース1.5g及びα−テルピネオール10gを混合して得られる酸化チタンペーストを、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)ガラス(日本板硝子(株)製、抵抗:10Ω/sq)上に、厚みが14μmとなるように塗布した。
その後、125℃で乾燥し、500℃で1時間焼成することで、酸化チタン電極を作製した。この酸化チタン電極を、マグネシウムエトキシド0.61gを2−プロパノール20mLに溶解させた溶液(マグネシウムエトキシド:0.15mol/L)に70℃で30分間浸漬した。その後酸化チタン電極を80℃の湯に1分間浸漬し、その後450℃で20分間焼成することで、酸化チタン電極の酸化チタン層上に厚み1nmの酸化マグネシウム膜が被覆された絶縁被覆酸化チタン電極を得た。なお、この絶縁被覆酸化チタン電極は、酸化チタン層中の酸化チタン粒子の表面にも、厚さ1nmの酸化マグネシウム膜が被覆されていた。
このようにして、比較例4の粉体抵抗測定用電極を作製した。
また、上記の比較例4の粉体抵抗測定用電極にルテニウム色素(Solaronix社製のRutenium535-bis-TBA(N719))を吸着させ、比較例4の光電変換素子用電極を製造した。
比較実験例4
比較例4にて作製した粉体抵抗測定用電極のFTOガラスから酸化マグネシウム膜が被覆された酸化チタン粒子を剥がし取り、10MPaの圧力で厚さ0.9mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗は4.1×106Ω・mであった。
また、比較例4にて作製した光電変換素子用電極とPtスパッタ導電ガラス(ジオマテック(株)製、抵抗:2Ω/sq)との間に電解液(Solaronix社製のIodolyte AN-50)を封入し、セルを作製した。
セルに擬似太陽光(100mW/cm2)を照射し、変換効率を測定したところ、5.9%であった。
上記実施例1〜3及び比較例1〜4の結果を表1に示す。