以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
図1は、通常公知の一般的な電子写真方式の画像形成装置における内部構成の一例を概略で示した概略断面図である。この図1に示されるような画像形成装置は、従来技術で用いられている定着装置だけでなく、以下に説明される本発明の温度制御方法を使用する定着装置を備えることが可能である。なお、図1に記載される画像形成装置の構成は、後述される本発明の定着装置の温度制御方法以外は当業者にはよく知られているため、画像形成装置の構成と作用とについては、概略で説明する。
図1に記載の画像形成装置は、電子写真方式を採用するものであり、画像形成装置本体100の上には画像読取装置200が設置され、右側面には両面ユニット300が取り付けられている。画像形成装置本体100内には、中間転写装置10が設けられ、当該中間転写装置10は、複数のローラに掛けまわされて、ほぼ水平に張り渡されたエンドレスベルト状の中間転写ベルト11を有し、当該中間転写ベルト11が反時計まわりに走行するように構成されている。中間転写装置10の下方には、シアン、マゼンタ、イエロ、ブラックの各色トナー用の作像装置12c、12m、12y、12kが、中間転写ベルト11の張り渡し方向乃至走行方向に沿って四連タンデム式に並べて設けられている。各作像装置12c、12m、12y、12kは、図中時計まわりに回転するドラム状の像担持体のまわりに帯電装置、現像装置、転写装置、クリーニング装置などを設置することで構成される。さらに、作像装置12c、12m、12y、12kの下方には、露光装置13が設けられている。
露光装置13の下方には、記録媒体20を積層して収納する給紙カセット15を有する給紙装置14が設けられていて、当該給紙装置14は、ここに図示した例では二段構成となっている。そして、各給紙カセット15の右上には、各給紙カセット15内の記録媒体20を一枚ずつ繰り出して記録媒体搬送路16に入れる給紙コロ17がそれぞれ設けられる。図1に示した例における画像形成装置の記録媒体搬送路16は、画像形成装置本体100内部における右側方で、下方から上方に向けて形成されていて、画像形成装置本体100上で画像読取装置200との間に形成されている胴内排紙部18へと通ずるように設けられる。記録媒体搬送路16には、搬送ローラ19、中間転写ベルト11に対向する二次転写装置21、定着装置22及び一対の排紙ローラよりなる排紙装置23などが、記録媒体搬送経路16の記録媒体搬送経路順に設けられている。搬送ローラ19から見て、記録媒体搬送方向上流側には、一旦画像を表面に形成された記録媒体20を両面ユニット300から再度記録媒体搬送経路16へ再給紙するために、あるいは、両面ユニット300を横切って手差し給紙装置36から記録媒体20を手差し給紙するために設けられる給紙路37であって、当該記録媒体搬送路16に合流する給紙路37が設けられている。また、定着装置22の記録媒体搬送方向下流側には、両面ユニット300への再給紙搬送路24が分岐されて設けられている。
この画像形成装置でコピーを取るときは、画像読取装置200で原稿画像をまずは読み取り、当該読取った画像の各色トナー像に対応した画像情報に基く潜像を、帯電装置を用いて一様に帯電された各作像装置12c、12m、12y、12kの像担持体上に、露光装置13を用いて書き込む。さらに、各作像装置12c、12m、12y、12kのそれぞれの像担持体上における各色トナー潜像に現像装置から各色トナーを付与することで、トナー画像を形成して、そのトナー画像を一次転写装置25c、25m、25y、25kを用いて、順次中間転写ベルト11上に一次転写することで、当該中間転写ベルト11上に所望のカラー画像を形成する。
一方で、2段構成の給紙カセット15における給紙コロ17の一方を選択的に回転させて、対応する給紙カセット15から記録媒体20を繰り出して記録媒体搬送路16に入れる。あるいは、手差し給紙装置36から手差しされた記録媒体を、給紙路37から記録媒体搬送路16に入れることもできる。そして、記録媒体搬送路16を通して搬送ローラ19まで搬送された記録媒体20は、搬送ローラ19により、中間転写ベルト11上に形成されたトナー画像とタイミングを取って二次転写装置21の二次転写位置へと送り込まれ、その際に、中間転写ベルト11上のカラー画像が二次転写装置21で記録媒体20に転写される。画像が転写された後の記録媒体20は、定着装置22で熱と圧力とを受けることで画像を定着され、その後、排紙装置23により胴内排紙部18上に排紙され、スタックされることで画像形成動作が完了する。
なお、記録媒体20の裏面にも画像を形成しようとする場合には、一旦記録媒体20の表面に画像を定着させた後の記録媒体20を、搬送経路を切り替える切替爪(図示せず)などを利用して、再給紙搬送路24に入れて、両面ユニット300に導入させる。この両面ユニット300を通過する際に、記録媒体20は、その表面と裏面とを反転させられて給紙路37に導入され、当該給紙路37を通して、記録媒体搬送経路16に再給紙される。その後、別途中間転写ベルト11上に形成した裏面用のカラー画像を、表面と同様に記録媒体20に二次転写して、再び定着装置22で定着し、さらに、排紙装置23で胴内排紙部18に排出する。
この種の画像形成装置で用いられる一般的な定着装置の構成の一例が図2に概略断面図で示される。この図2に示される定着装置の基本構成は、従来技術で使用される定着装置と同様のものであり、その基本構成については概略で以下に説明する。また、図2に示される定着装置は、定着部材として定着ベルトを採用し、この定着ベルトが掛け回される加熱ローラ及び定着ローラを用いる定着装置であって、定着ベルトを介して定着ローラと加圧部材である加圧ローラとで定着ニップ部を形成する所謂ベルト方式の定着装置を用いているが、本発明はこれに限られず、加熱源を自身に有する定着部材としての定着ローラと、加圧部材としての加圧ローラとを用いた所謂熱ローラ方式の定着装置であっても良い。
図2に示される定着装置22は、ローラ形状の定着ローラ1と、ローラ形状の加圧部材である加圧ローラ2と、内部に加熱源5を備えた加熱ローラ4と、定着ローラ1と加熱ローラ4とに架け回された定着部材としての定着ベルト3とで主として構成される。定着ローラ1及び加圧ローラ2のうちの一方のローラの回転軸は、画像形成装置などに固定されている一方で、他方のローラの回転軸は移動自在として構成されていることで、他方のローラが一方のローラに対して接離可能に支持されている。また、他方のローラが一方のローラに向けてばねなどで付勢されて、定着ローラ1と加圧ローラ2との間で定着ベルト3を介した定着ニップ部nが形成される。なお、定着ニップ部nの記録媒体搬送方向における長さがニップ幅wである。さらにまた、加圧ローラ2には、加圧部材温度を検知可能な加圧部材温度検知手段としての温度センサ7が設けられている。なお、ここに図示される加圧ローラ2には加熱源が設けられておらず、低熱容量のスポンジローラが用いられている。
また、この図2に示した定着装置22における加熱源としては、加熱ローラ4の内側にハロゲンヒータ5が配置されており、当該ハロゲンヒータ5を加熱することで、加熱ローラ4を介して定着ベルト3を加熱することができるようになっている。なお、ここではハロゲンヒータを使用する例を示したが、定着部材である定着ベルト3を加熱する加熱源は、セラミックヒータや誘導加熱(IH)など、他の熱源を採用する構成でも構わない。
ここで、図2に示されるような定着装置22における定着ベルト3の温度制御方式について説明する。図2に図示される定着装置22には、定着ベルト3に近接して定着ベルト3の温度を測定可能な非接触式温度センサ6が設置されている。この非接触式温度センサ6により、定着ベルト3の温度が検知されるが、この検知された定着ベルト3の温度と、指定された定着ベルト3の目標制御温度との間の温度偏差の情報を基に、定着温度コントローラ92aを介して、単位時間当たりのハロゲンヒータ5への通電時間(=DUTY)を制御して、すなわちハロゲンヒータ5への印加電力を制御して、PWM駆動回路92bを通して定着ベルト3の温度を制御する。以上のような形態で、記録媒体20及びトナー画像へ与える熱量が所定の状態になるようにハロゲンヒータ5の電力が制御される。
次いで、このような基本構成の定着装置において、定着後記録媒体温度と定着品質の指標である定着強度と光沢度との間の関係について以下に説明する。まず、本発明の検証用に使用した定着後の記録媒体温度測定方法について、図3を用いて説明する。図3は、定着後記録媒体温度の測定方法を説明するための概略図である。なお、以下に記載される記録媒体温度測定センサ40は、量産される装置には設置されていない場合もあり、本願発明の温度制御方法では基本的に不要なものであるが、本発明の温度制御方法を検証するに際しては、以下に示す位置に設置して行った。
図3に示すように、定着装置ニップ部nの出口付近に、記録媒体温度測定センサとしての非接触式の温度測定器40を設置し、定着直後の記録媒体温度を測定する。温度測定器40としては、例えばキーエンス社製のFT−H20を用いることができる。また、記録媒体温度測定センサ40は、図4及び図5に示す位置での定着後記録媒体温度を測定している。なお、図4は、定着後記録媒体温度の測定位置を、定着部材側から観測した概要図であり、定着後記録媒体温度の、記録媒体幅方向での測定位置を説明するための説明図である。図5は、定着後記録媒体温度の、記録媒体送り方向での測定位置を説明するための説明図である。
図4において、測定に使用された記録媒体としてはA4紙が使用され、長辺を先として定着装置22に通紙された。図4に示されるように、記録媒体温度測定センサ40の幅方向設置位置は、記録媒体の送り方向中央付近(点線)の位置を測定可能な位置としている。また、定着時の記録媒体温度を正確に知る上では、記録媒体温度測定センサ40の測定位置は出来る限り定着ニップ部nに近づけることが望ましいが、レイアウトの制約などを考慮して、図5に示される位置に、具体的には定着ニップ部nを出てから50〜300msec搬送後、あるいは、定着ニップ部nから10〜30mmの位置の記録媒体温度を測定できるように配置するとよい。定着装置22を通過する記録媒体の温度は、定着ニップ部nで加熱され、当該定着ニップ部通過後に外気によって冷却されるので、図5の下方に示すような温度推移を示す。
次に、図6を用いて、測定された定着後記録媒体温度の検証用の処理方法について説明する。図6は、測定された定着後記録媒体温度の処理方法を説明するための説明図である。なお、ここに示される記録媒体温度測定センサ40による定着後記録媒体温度の測定のサンプリング周期は、10msecとして温度測定を行った。測定の結果、図6に示すような符号Xで示す温度波形が得られる。次にこの波形から、実際に温度センサが記録媒体温度を測定している部分のみを抽出する。この際には、温度センサにはスポット径があるので、抽出は記録媒体先端と後端とでスポットが全て記録媒体上にのるA〜Bの範囲を抽出する。抽出を行った温度の平均値からY値を得て、これを定着後記録媒体温度とした。
このような方法で測定された定着後記録媒体温度に対する、記録媒体とトナーとの定着性である定着強度について、図7〜10を用いて説明する。なお、図7は、記録媒体の折り曲げによる定着強度ランクの測定方法を示した図であり、図8は、この定着強度ランク測定方法に用いられた重りによる折り曲げ方法を示した図であり、図9は、定着強度ランクの一例を示した図であり、図10は、定着後記録媒体温度と測定された定着強度ランクとの関係を示したグラフである。
図7に示されるように、定着画像品質の評価指標の一つである定着強度としては、記録媒体である用紙に、定着後記録媒体温度を振り分けてベタ画像を形成した後に、当該用紙を折り曲げ、この際にベタ画像トナーがどの程度用紙から剥離されたかを持って評価した。用紙を折り曲げる際には、定着後の記録媒体のベタ画像面側が内側になるように軽く曲げ、その後、図8に示されるように、所定の重りを用いて折り目を形成する。ここに図示した重りは、円筒形状の幅50mm、重量1kgの重りを用いている。また、この重りを回転させながら折り曲げ部を一往復させることで用紙折り目を形成した。次に、用紙を広げ、折り曲げ部である評価位置をウェスなどを用いて軽く擦り、剥離したトナーを除去する。そして、このトナー剥離状態を、図9に示すような定着強度ランクが5段階にわかれた見本と対比して、ランク付けし、定着強度を判定した。このようにして得られた定着強度ランクと定着後記録媒体温度との関係をグラフにプロットしたものが図10に示されるグラフである。図10に示されるように、定着性の指標である定着強度と定着後記録媒体温度との間には、非常に強い相関関係があることがわかる。
また、定着画像品質の重要な評価指標の一つである画像の光沢度と、定着後記録媒体温度との関係について、図11を用いて説明する。図11は、所定の画像(例えば、図7に示されるようなベタ画像)を、定着後記録媒体温度を振り分けて形成した際に、そのそれぞれの定着後記録媒体温度における画像の光沢度をプロットしたグラフであり、したがって、定着後記録媒体温度と光沢度との関係を示したグラフに相当する。なお、光沢度とは、記録媒体における定着後画像の光沢性を表す指標であり、一般的に光沢度計といった計測器により得ることが可能である。また、定着後記録媒体温度は、図3〜図6に示されるような実験方法で得ることが可能である。この図11に示されるように、定着後記録媒体温度と光沢度との関係は非常に強い相関関係が有り、また、この図11から得られた相関近似直線の傾きによれば、定着後記録媒体温度が10℃変動した場合、光沢度変動は15%であり、5℃変動した場合は、光沢度変動は7.5%であった。
このように、定着強度や光沢度といった画像定着後の画像品質には、定着後記録媒体温度が大きく影響しており、当該定着画像品質を一定にするためには、定着後記録媒体温度を、所定の一定値で、あるいは、少なくとも一定の温度幅で制御することが重要であることがわかる。さらに、定着後記録媒体温度が高い場合には、より多くの熱エネルギーが記録媒体に消費されていることになるため、定着後記録媒体温度が定着品質を一定に保つための一定温度幅以上になるような熱エネルギーが記録媒体に加われば、省エネルギーの観点からも不利益であるという問題も発生する。
ここで、加圧部材温度は、定着装置で記録媒体へ供給される熱量の一部を担っており、定着後記録媒体温度に対する影響が非常に大きい。ところが、このような性質があるにも関わらず、従来技術においては、加圧部材温度の定着後記録媒体温度への影響度が、定着部材温度への温度制御へ反映されていなかった。したがって、加圧部材温度の変動が定着後記録媒体温度を変動させる大きな要因となってしまう。
この加圧部材温度の定着後記録媒体温度への影響について、以下に、図12及び図13を用いて説明する。なお、図12は、加圧部材にヒータが設置され、加圧部材温度が制御されている場合における、定着部材温度、加圧部材温度及び定着後記録媒体温度の推移を示したグラフであり、図13は、加圧部材温度が制御されていない場合における、定着部材温度、加圧部材温度及び定着後記録媒体温度の推移を示したグラフである。図12に示されているように、加圧部材にヒータが設置されて、加圧部材温度が制御されている定着装置においては、印刷条件によらず加圧部材温度を一定に制御することが可能なため、定着後記録媒体温度も一定になり、その結果、定着品質が一定に保たれていることがわかる。一方で、図13に示されているように、加圧部材2にヒータが設置されていない定着装置においては、加圧部材温度を一定に制御することができないため、定着後記録媒体温度を一定にすることができず、その結果、定着品質がばらついていることがわかる。
そして、近年の定着装置においては、省エネルギーの観点から、画像面側、すなわち定着部材1側のみを温め、非画像面側の加圧部材2に熱を溜め込まないようにするため、加圧部材2にはヒータを設置しない、また設置されている場合でも、印刷中には点灯しないといった手法が取られている。すなわち、近年の定着装置では、図13に示されるような加圧部材温度推移を取る定着装置が一般的であり、さらに、このような定着装置では加圧部材2の熱容量が小さいものが採用される傾向にあり、使用状態によって加圧部材温度が容易に変化しやすくなってきている。このような定着装置では、スリープモードに入ったり・連続通紙を行うといったことで、経時的には加圧部材2の温度が容易に変化するため、定着後記録媒体温度も容易に変化し、その結果、定着品質が落ちたり、あるいは、必要以上のエネルギーを定着装置が使用する原因となってしまう。
この従来技術における定着部材温度が一定に制御されている場合の加圧部材温度と定着後記録媒体温度の関係を図14に示す。図14に示されているように、従来技術では、定着部材の設定温度が一定の場合であっても、加圧部材温度が高くなれば、それに応じて定着後記録媒体温度が高くなっていることがわかる。すなわち、記録媒体への加圧部材温度による影響を考慮しなければ、定着後記録媒体温度を所望の温度範囲に保つことはできない。
ここで、加圧部材の温度制御を実施しない場合で、定着後記録媒体温度を印刷条件によらず一定に保つための最も単純な方法は、図3で示したような定着後記録媒体温度を検知可能な温度センサ40を設置し、定着後記録媒体温度を直接検知したうえで、加熱源の温度に対してフィードバック制御を行うことである。しかし、この方法では高額なセンサの追加により、画像形成装置のコストアップを避けることができない。また、フィードバック制御を、検知された定着後記録媒体温度に良好に追随させるためには、加熱源の加熱性能や定着部材の熱伝達性能がより高性能な部材(すなわち、高スピードで検知結果温度に達することが可能になるような加熱・放熱性能を有する部材)を必要とする場合もある。
そこで、本発明では、定着後記録媒体温度を直接的に測定せず、加圧部材温度を検知可能な加圧部材温度検知手段7を設け、当該加圧部材温度検知手段7の検知結果に基いて、定着後記録媒体温度を予測演算し、当該演算された定着後記録媒体温度が所定温度幅に入るように、前記定着部材温度を制御することで、定着後記録媒体温度をセンシングするための温度センサを使用する必要をなくした。したがって、本発明ではセンシングした定着後記録媒体温度を制御に用いるわけではないため、上記のような温度センサ40などの追加によるコストアップが生じることがない。
なお、定着後記録媒体温度を一定に制御するためには、加圧部材温度による制御の他にも、ニップ時間を制御することも考えられるが、本発明では、定着後記録媒体温度に対して最も感度があり、且つ、制御性の高い加圧部材温度に基いた定着後記録媒体温度制御を採用している。例えば、加圧部材温度が高い場合には、定着部材温度を下げることで、定着後記録媒体温度を望ましい温度に一定に制御することができる。
この関係を図15に示す。図15は、加圧部材温度が異なる場合に、定着部材温度をどの程度の設定温度にすれば、定着後記録媒体温度が一定になるかを示したグラフである。このような関係を予め得ておけば、加圧部材温度に応じて、定着部材温度の目標設定値が定まるので、定着後記録媒体温度を一定の温度制御幅に収めることが可能になる。なお、この図15に示されるような関係は、定着部材設定温度と加圧部材温度とを振り分けた実験室での実験や実機での実験を繰り返すことで得ることが可能である。
このような定着装置における温度制御を行った例と、従来技術での温度制御を行った例とを図16a及び図16bを用いて説明する。なお、図16aは、従来技術による定着装置の熱量状態が異なる場合の定着後記録媒体温度を説明するための説明図であり、図16bは、本発明による定着装置の熱量状態が異なる場合の定着後記録媒体温度を説明するための説明図である。ここに図示されている例は、大量の連続印刷はほとんど行わず、少枚数を間欠的に印刷するような低速機(A4紙10枚/分〜30枚/分)としての画像形成装置において、立ち上げ直後や、印刷直後といった加圧部材温度の蓄熱量が異なる状態で画像形成を行った場合に、当該蓄熱量の違いが定着品質に対して問題となる例を示したものである。すなわち、立ち上げ直後では加圧部材温度が低いが、印刷直後の加圧部材温度は蓄熱状態にあり、この2状態では定着品質が異なるという例を示している。
図16aに示されるように、従来技術では、立ち上げ直後の加圧部材温度が低い時であっても、あるいは、印刷直後の加圧部材温度が高い時であっても、定着部材温度が一定であるために、加圧部材の蓄熱状態の違いにより定着後記録媒体温度が異なり、ひいては、定着後の画像品質が異なっていたが、本発明では、図16bに示すように、蓄熱状態の違いによっても定着部材温度を制御できるので、すなわち、加圧部材温度が低い場合には、定着部材温度を高温に設定し、加圧部材温度が上昇してきた際には、定着部材温度の設定温度を低く設定することにより、定着後記録媒体温度が一定となり、定着品質を一定に保つことができる。したがって、立ち上げ直後や、印刷直後など、定着装置の熱量状態が異なる場合でも、定着後記録媒体温度が概ね一定になるように制御することが可能となり、その結果、定着装置の熱量状態が異なる場合でも概ね一定の定着品質を得ることができるようになると共に、定着装置の消費エネルギーを低減することができるようになる。
また、一般的なオフィス環境においては、稼働とオフ/スリープが繰り返される使用環境におかれることが多く、その際には、当然ながら定着装置における定着部材や加圧部材の温度などの熱量状態が異なる。そのため、このような一般的に使用されるオフィス環境に対しても、定着品質を一定に保たれることが望まれるが、上記したように、本発明の温度制御を行えば、定着装置の熱量状態が異なる場合であっても、定着後記録媒体の温度を所定の温度幅で一定に保つことができる。なお、この稼働とオフ/スリープが繰り返される使用環境における定着部材温度と加圧部材温度と定着後記録媒体温度との関係を示した例を図17に示す。この図17は、オフ/スリープ状態と印刷状態を4回繰り返して行った間欠印刷を行った例であり、図17からも明らかなように、本発明ではこの動作を行う際、定着後記録媒体温度の所望の温度幅で一定に制御することができた。
ここで、図17に示した例では、定着後の画像品質における光沢度変動との関係から、定着後記録媒体温度の温度幅を5℃以内に制御している。この温度制御幅を5℃以内に制御するのが好ましい理由を以下に説明する。
まず、光沢度がどの程度変動すると人は、それを光沢度変動と感じるかの実験を行った。評価に用いる画像サンプルとしては以下の表1に示される条件で印刷を行ったものを使用した。
上記の実験条件で光沢度差が5%、7.5%、及び10%と異なる2枚の画像サンプルを、それぞれの光沢度差に対応して3対作成した。画像サンプルの作り方としては定着部材の温度を所定の一定値に設定し、約15分間放置させて十分に定着装置全体に熱が蓄熱された状態にしておき、画像を記録媒体上に定着させる。これを光沢度差が5%、7.5%、及び10%となるように、定着部材温度を変更させて3対のサンプルを作成している。得られたサンプルの光沢度差の測定確認には、光沢度計(MINOLTA社製のUni Gross60)を使用した。また、当該光沢度計では、画像の光沢度測定のために、画像上に入射光を照射して、その反射光を測定している。今回は入射光の入射角を60°となるように設定した。これは、一般的なオフィスで使用される画像形成装置による画像評価では60°の入射角が広く使用されているためである。このように作成した光沢度差が異なる3対のサンプルのそれぞれ2枚を主観評価者に比べてもらい、そのそれぞれの光沢度差が気になるかどうかの意見を聞くという作業を複数人数に対して行い調査した。この評価結果を図18に示す。
図18に示すように、光沢度差が5%のサンプル2枚を比較した場合に光沢度差が気になると回答した評価者は6%であり、光沢度差が7.5%の場合に光沢度差が気になると回答した評価者は18%である一方で、光沢度差が10%のサンプル2枚を比較した場合に光沢度差が気になると回答した評価者は65%であり、7.5%を閾値として大きく変動している。したがって、光沢度差が7.5%以内に収まるように定着後記録媒体温度の温度制御幅を制御することが重要であることがわかった。この場合、光沢度差を7.5%以内に収めるためには、図11に示される関係から、定着後記録媒体温度の温度制御幅が5℃以内にあればいいことがわかる。したがって、定着後記録媒体温度の所定温度幅が5℃以内であるように、加圧部材温度に応じて定着部材温度を制御すれば、光沢度変動が抑えられた定着品質の画像を得ることが可能になるため好適である。
ところで、このような加圧部材温度の変動による定着後記録媒体温度への影響度は、ニップ時間、坪量、熱伝導率、比熱、含水率などの記録媒体情報により変化する。したがって、図15に示されるような、定着後記録媒体温度を一定にするための定着部材温度設定値の傾きを、当該ニップ時間、坪量、熱伝導率、比熱、含水率などの記録媒体情報を用いて補正して、当該補正により得られた定着後記録媒体温度になるように定着部材温度を制御すれば、より正確に定着後記録媒体温度を制御することが可能になるため好適である。以下に、これら記録媒体情報に基いた定着部材温度設定値の補正について説明する。
まず、ニップ時間により定着部材温度設定値を補正する例を説明する。ここで、定着部材や加圧部材は、蓄熱されていくと熱膨張することにより、定着ニップ幅w(図2参照)が変化するため、定着装置の蓄熱状態に応じて変化してしまう。したがって、加圧部材温度の影響が、ニップ時間によりどのように変化するかを実機や実験室での実験及び/又はシミュレーションにより評価した。なお、本明細書中のニップ時間とは、定着ニップ幅wを記録媒体の搬送速度で割った値として定義される時間であり、記録媒体上の一点を仮想点として設定した場合に、当該仮想点がニップ幅wを通過するのに要する時間である。また、ここでのシミュレーションとしては、熱定着装置における記録媒体温度の上昇は、熱伝導が支配的な伝熱現象であり、この伝熱現象を模擬する必要がある。したがって、図19に示されるような、定着ニップ部を記録媒体が通過し、定着部材からの熱を受けて記録媒体温度が上昇する際の記録媒体の温度をシミュレーションした。なお、図19は、定着ニップ部nを記録媒体が通過し、その際に、定着部材からの熱を受けて上昇する記録媒体温度のシミュレーションを説明するための説明図である。そして、この記録媒体の温度は、以下の熱伝導方程式を基礎式として求めることができる。
ここで、式1において、θは温度、ρは密度、cは比熱、λは熱伝導率であり、当該式1に示される熱伝導方程式は、非線形のため、容易に解析解を求めることが出来ないことから、差分法により近似した数値解を求めることで、定着後記録媒体のシミュレーションを行っている。
このようなシミュレーションや、実機乃至実験室での実験を行った結果、ニップ時間を変化させた場合に、同じ定着後記録媒体温度となるための定着部材設定温度と加圧部材温度との関係が得られた。この結果が図20のグラフに示される。図20に示されるような関係を得るための実験としては、例えば、定着部材温度設定値を所定値に設定し、さらに、ニップ時間を振り分けた際に、所定の定着後記録媒体温度となる加圧部材温度を探る実験を、定着部材温度設定値を様々な設定値で繰り返し行うことで得ることができる。
図20に示されるように、ニップ時間が長いほど、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾き(絶対値)が大きいことがわかる。この直線の傾きの大きさは、加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響度を示しており、ニップ時間が長いほど、加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響が大きいことを示している。これは、ニップ時間が長ければ長いほど、加圧部材から記録媒体に伝わる熱量が大きくなるためであると考えられる。
そして、このようにして得られた図20に示される結果から、ニップ時間を横軸に取り、縦軸には、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾きを取ったグラフと、ニップ時間を横軸に取り、縦軸には、図20に示される各ニップ時間における定着部材設定温度の切片を取ったグラフを得ることができる。これが、図21aと図21bに示されており、図21aは、図20に示される関係から得られた、ニップ時間と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きとの関係を示したグラフであり、図21bは、図20に示される関係から得られた、ニップ時間と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の切片との関係を示したグラフである。これら図21a及び図21bに示されるように、ニップ時間は、当該傾きと切片とに非常に強い相関直線関係があることがわかる。そして、これら図21a及び図21bに示される関係の近似直線をそれぞれ求める。図示した例では、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きをy1とし、ニップ時間をxとすると、図21aから、y1=−0.0027×x−0.1812の近似直線関係が得られた。また、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の切片をy2とし、同じくニップ時間をxとすると、図21bから、y2=0.1282×x+176.7の近似直線関係が得られた。したがって、上記2つの関係式を予め得ておけば、ニップ時間が判明すると、上記y1とy2とが決まるため、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線が、Y=y1×X+y2として得られる。ここで、Yは、ニップ時間により補正された補正後の定着部材設定温度であり、Xは、検知された加圧部材温度である。
したがって、このような補正演算をすることで、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、ニップ時間という記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になり、ひいては、定着後記録媒体温度がニップ時間によって補正される。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、より狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。
同様な方法で、記録媒体の坪量、記録媒体の熱伝導率、記録媒体の比熱、及び、記録媒体の含水率に対しても、定着後記録媒体温度を補正することが可能である。以下に、これらの記録媒体情報について説明する。
記録媒体の坪量に関して、上記したニップ時間に関するような実験及び/又はシミュレーションを行った。その結果が図22に示される。図22は、記録媒体の坪量を変化させた場合に、同じ定着後記録媒体温度となるための定着部材設定温度と加圧部材温度との関係を示したグラフである。図22に示されるように、坪量が小さければ小さいほど、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾き(絶対値)が大きいことがわかる。すなわち、坪量が小さいほど加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響が大きいことになる。これは、加圧部材から記録媒体に伝わる熱量の伝達スピードが、坪量が小さければより速く伝達されるためであると考えられる。このような図22に示されるような関係が得られれば、図21a及び図21bに示されるような、坪量を横軸に取り、縦軸には、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾きを取ったグラフと、坪量を横軸に取り、縦軸には、各坪量における定着部材設定温度の切片を取ったグラフを得ることができる。そして、図22に示されるように、坪量もまた、当該傾きと切片とに非常に強い相関直線関係があるので、図21a及び図21bを用いて説明されたように、坪量に応じた、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと切片とに対する相関直線(すなわち、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線)を得ることが可能であり、当該直線が得られれば、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、坪量という記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になる。したがって、定着後記録媒体温度が坪量によって補正されて得られる。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、より狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。なお、画像形成されるべき記録媒体の坪量は、画像形成装置に使用者によって入力された情報やセンサなどを使用して入手することができる。
次に、記録媒体の熱伝導率に関しても、上記したニップ時間に関するような実験及び/又はシミュレーションを行った。その結果が図23に示される。図23は、記録媒体の熱伝導率を変化させた場合に、同じ定着後記録媒体温度となるための定着部材温度と加圧部材温度との関係を示したグラフである。図23に示されるように、熱伝導率が大きければ大きいほど、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾き(絶対値)が大きいことがわかる。すなわち、熱伝導率が大きいほど加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響が大きいことになる。これは、加圧部材から記録媒体に伝わる熱量の伝達スピードが、熱伝導率が大きければより速く伝達されるためであると考えられる。このような図23に示されるような関係が得られれば、図21a及び図21bに示されるような、熱伝導率を横軸に取り、縦軸には、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾きを取ったグラフと、熱伝導率を横軸に取り、縦軸には、各熱伝導率における定着部材設定温度の切片を取ったグラフを得ることができる。そして、図23に示されるように、熱伝導率もまた、当該傾きと切片とに非常に強い相関直線関係があるので、図21a及び図21bを用いて説明されたように、熱伝導率に応じた、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと切片とに対する相関直線(すなわち、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線)を得ることが可能であり、当該直線が得られれば、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、熱伝導率という記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になる。したがって、定着後記録媒体温度が熱伝導率によって補正されて得られる。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、より狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。なお、画像形成されるべき記録媒体の熱伝導率は、画像形成装置に使用者によって入力された情報やセンサなどを使用して入手することができる。
次に、記録媒体の比熱に関しても、上記したニップ時間に関するような実験及び/又はシミュレーションを行った。その結果が図24に示される。図24は、記録媒体の比熱を変化させた場合に、同じ定着後記録媒体温度となるための定着部材温度と加圧部材温度との関係を示したグラフである。図24に示されるように、比熱が小さければ若干ではあるが、直線の傾き(絶対値)が大きいことがわかる。すなわち、比熱が小さいほど加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響が大きいことになる。これは、加圧部材から記録媒体に伝わる熱量の伝達スピードが、比熱が小さければより速く伝達されるためであると考えられる。このような図24に示されるような関係が得られれば、図21a及び図21bに示されるような、比熱を横軸に取り、縦軸には、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾きを取ったグラフと、比熱を横軸に取り、縦軸には、各比熱における定着部材設定温度の切片を取ったグラフを得ることができる。そして、図24に示されるように、比熱もまた、当該傾きと切片とに非常に強い相関直線関係があるので、図21a及び図21bを用いて説明されたように、比熱に応じた、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと切片とに対する相関直線(すなわち、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線)を得ることが可能であり、当該直線が得られれば、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、比熱という記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になる。したがって、定着後記録媒体温度が比熱によって補正されて得られる。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、より狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。なお、画像形成されるべき記録媒体の比熱は、画像形成装置に使用者によって入力された情報やセンサなどを使用して入手することができる。
次に、記録媒体の含水率に関しても、上記したニップ時間に関するような実験及び/又はシミュレーションを行った。その結果が図25に示される。図25は、記録媒体の含水率を変化させた場合に、同じ定着後記録媒体温度となるための定着部材温度と加圧部材温度との関係を示したグラフである。図25に示されるように、含水率が小さければ若干ではあるが、直線の傾き(絶対値)が大きいことがわかる。すなわち、含水率が小さいほど加圧部材の温度が記録媒体温度に与える影響が大きいことになる。これは、含水率が小さいほど記録媒体の見かけ上の熱伝導率が上がるためであると考えられる。このような図25に示されるような関係が得られれば、図21a及び図21bに示されるような、含水率を横軸に取り、縦軸には、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の直線の傾きを取ったグラフと、含水率を横軸に取り、縦軸には、各含水率における定着部材設定温度の切片を取ったグラフを得ることができる。そして、図25に示されるように、坪量もまた、当該傾きと切片とに非常に強い相関直線関係があるので、図21a及び図21bを用いて説明されたように、含水率に応じた、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと切片とに対する相関直線(すなわち、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線)を得ることが可能であり、当該直線が得られれば、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、含水率という記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になる。したがって、定着後記録媒体温度が含水率によって補正されて得られる。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、より狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。なお、画像形成されるべき記録媒体の含水率は、画像形成装置に使用者によって入力された情報やセンサなどを使用して入手することができる。
これまで、ニップ時間、坪量、熱伝導率、比熱、含水率などの記録媒体情報のいずれか一つを用いて、定着後記録媒体温度を補正する例を示してきたが、これら記録媒体情報を組み合わせて、すなわち、これら記録媒体情報の少なくとも2つを用いて、定着後記録媒体温度を補正すれば、さらに精度良く定着後記録媒体温度が演算され、その結果、定着後記録媒体温度の温度制御幅をより小さくできるので好適である。以下に、これら本記録媒体情報の少なくとも2つを用いて、定着後記録媒体温度を補正する例を図26aと図26bとを用いて説明する。
図26a及び図26bは、記録媒体情報の少なくとも2つを用いて、定着後記録媒体温度を補正するために入手するべき特性値の概念図であり、図26aは、図21aに対応するような、特性値と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きとの関係を示したグラフであり、図26bは、図21bに対応するような、特性値と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の切片との関係を示したグラフである。先に記述したように、図26aや図26bに示されるような相関直線となる特性値が得られれば、言い換えれば、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと、特性値とが図21aに示されたような相関関係のある近似直線となり、且つ、加圧部材温度に対する定着部材設定温度切片と、特性値とが図21bに示されるような相関関係にある近似直線となる特性値であって、上記した記録媒体情報の少なくとも2つと関連する特性値が得られれば、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線を得ることが可能になるため、当該特性値によって補正された定着後記録媒体温度を演算することが可能となる。したがって、このような図26aや図26bに示されるような相関関係を示すことができる、記録媒体情報の少なくとも2つと関連する乃至組み合わされた特性値を作りだせばよい。そして、このような特性値は、加圧部材温度による定着後記録媒体温度への影響度を変える記録媒体情報の性質を考慮した上で、重回帰分析などにより得ることができる。
このような特性値を用いた定着後記録媒体温度補正の例を、図27a及び図27bを用いて説明する。図27aは、2つの記録媒体情報として記録媒体の坪量と記録媒体の熱伝導率とを使用した場合における、図21aに対応するような、特性値と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きとの関係を示したグラフであり、図27bは、図21bに対応するような、この特性値と、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の切片との関係を示したグラフである。ここに示される特性値としては、(熱伝導率/坪量)が採用されている。なお、この特性値を得るための実験の際には、ニップ時間は50msecで一定とし、記録媒体の比熱が1012kJ/(m3・K)で含水率が4%の記録媒体を用いて行った。グラフに示される特性値は、熱伝導率が0.1で坪量が100mg/m2のとき、0.00100であり、熱伝導率が0.1で坪量が80mg/m2のとき、0.00125であり、熱伝導率が0.16で坪量が100mg/m2のとき、0.000160であり、熱伝導率が0.16で坪量が80mg/m 2 のとき、0.000200であり、熱伝導率が0.25で坪量が100mg/m 2 のとき、0.00250であり、熱伝導率が0.25で坪量が80mg/m 2 のとき、0.00313である。これら図27a及び図27bに示されるように、特性値としての(熱伝導率/坪量)は、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾き、及び、加圧部材温度に対する定着部材設定温度切片とが図21a及び図21bに示されるのと同様に非常に高い相関関係があることがわかる。したがって、この特性値を用いれば、図27a及び図27bとに示されるような関係から、図21a及び図21bを用いて説明されたように、熱伝導率と坪量との2つの記録媒体情報に応じた、加圧部材温度に対する定着部材設定温度の傾きと切片とに対する相関直線(すなわち、上記したY=y1×X+y2と同様な相関直線)を得ることが可能であり、当該直線が得られれば、加圧部材温度検知手段7による加圧部材温度検知結果に基き、且つ、熱伝導率と坪量という2つの記録媒体情報によって補正された定着部材設定温度を割り出すことが可能になる。したがって、定着後記録媒体温度が熱伝導率と坪量とによって補正されて得られる。このようにして定着後記録媒体温度が補正されれば、さらにより狙いの定着後記録媒体温度に近い温度制御が可能になるため好適である。
同様にして、様々な記録媒体情報の組み合わせの特性値を実験により得て、これら特性値に基づいて、定着後記録媒体温度のより効果的な補正を行うことが可能である。ここで、ニップ時間と記録媒体の坪量との間における特性値としては、(ニップ時間/坪量)を採用することが可能であり、ニップ時間と記録媒体の熱伝導率との間における特性値としては、(ニップ時間×熱伝導率)を採用することが可能であり、ニップ時間と記録媒体の比熱との間では、特性値として(ニップ時間/比熱)を採用することが可能であり、記録媒体の坪量と記録媒体の比熱との間では、特性値として(1/(坪量×比熱))を採用することが可能であり、記録媒体の熱伝導率と記録媒体の比熱との間では、特性値として(熱伝導率/比熱)を採用することが可能であることが実験などからわかっている。すなわち、上記した特性値を用いれば、2つの記録媒体情報に基いた図27a及び図27bに示されるような相関関係を得ることができる。さらにまた、同様にして3つ以上記録媒体情報に基く特性値を実験などにより得れば、さらなる定着後記録媒体温度の精度を上げた補正が可能になるため好適である。
これまで、本発明における定着装置の温度制御方法ついて説明してきたが、これらの温度制御方法を用いた定着装置や、当該定着装置を搭載する画像形成装置であれば、定着品質を安定化させることが可能であり、さらには、本発明による定着装置の温度制御方法を用いることにより、消費エネルギーの少ない定着装置及び画像形成装置を提供することができるようになる。