JP5733347B2 - 正孔注入輸送層用塗布溶液 - Google Patents

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Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセント素子などの有機デバイスに関するものである。
有機物を用いた有機デバイスは、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子という。)、有機トランジスタ、有機太陽電池等、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。
有機EL素子は、発光層に到達した電子と正孔とが再結合する際に生じる発光を利用した電荷注入型の自発光デバイスである。この有機EL素子は、1987年にT.W.Tangらにより蛍光性金属キレート錯体とジアミン系分子とからなる薄膜を積層した素子が低い駆動電圧で高輝度な発光を示すことが実証されて以来、活発に開発されている。
有機EL素子の素子構造は、陰極/有機層/陽極から構成される。この有機層は、初期の有機EL素子においては発光層/正孔注入層とからなる2層構造であったが、現在では、高い発光効率と長駆動寿命を得るために、電子注入層/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/正孔注入層とからなる5層構造など、様々な多層構造が提案されている。
これら電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層、正孔注入層などの発光層以外の層には、電荷を発光層へ注入・輸送しやすくする効果、あるいはブロックすることにより電子電流と正孔電流のバランスを保持する効果や、光エネルギー励起子の拡散を抑制するなどの効果があるといわれている。
電荷輸送能力の向上を目的として、酸化性化合物を、正孔輸送性材料に混合して電気伝導度を高くすることが試みられている(特許文献1、特許文献2)。
特許文献1においては、酸化性化合物すなわち電子受容性化合物として、トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモン等の対アニオンを含む化合物や7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン等の炭素−炭素二重結合の炭素にシアノ基が結合した電子受容性が極めて高い化合物が用いられている。
特許文献2においては、酸化性ドーパントとして、一般的な酸化剤が挙げられ、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、及びアリールアミンとハロゲン化金属又はルイス酸との塩が挙げられている。
一方、有機トランジスタは、π共役系の有機高分子や有機低分子からなる有機半導体材料をチャネル領域に使用した薄膜トランジスタである。一般的な有機トランジスタは、基板、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース・ドレイン電極、及び有機半導体層の構成からなる。有機トランジスタにおいては、ゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)を変化させることで、ゲート絶縁膜と有機半導体膜の界面の電荷量を制御し、ソース電極及びドレイン電極間の電流値を変化させてスイッチングを行なう。
有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との電荷注入障壁を低減することにより、有機トランジスタのオン電流値を向上させ、かつ素子特性を安定化させる試みとして、有機半導体中に電荷移動錯体を導入することによって、電極近傍の有機半導体層中のキャリア密度を増加させることが知られている(例えば、特許文献3)。
特開2000−36390号公報 特許第3748491号公報 特開2002−204012号公報
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3で開示されたような酸化性材料を正孔輸送性材料に用いても、長寿命素子の実現は困難であった。特許文献1乃至特許文献3で開示されている酸化性材料では、正孔輸送性材料への酸化能力が低いか、薄膜の分散安定性が悪いためと推測される。例えば、特許文献1及び特許文献2の両方で用いられているカチオン性トリフェニルアミン誘導体と6フッ化アンチモンとからなる酸化性材料を正孔輸送材料に混合した場合、電荷移動錯体を生成させる一方、電荷移動錯体と同数の遊離の対アニオン種である6フッ化アンチモンが薄膜中に存在する。この遊離の6フッ化アンチモンが駆動時に泳動し、一部で凝集したり、隣接層との界面に析出するなどして、薄膜中の材料の駆動時の分散安定性が悪くなると推定される。このような駆動中における分散安定性の変化は、素子中のキャリア注入や輸送を変化させるために、寿命特性に悪影響を及ぼすと考えられる。
また、特許文献1乃至特許文献3で開示されていたような酸化性材料は、溶液塗布法により成膜する正孔輸送性高分子化合物と、同時に溶解するような溶剤溶解性が十分ではなく、酸化性材料のみで凝集しやすかったり、使用可能な溶剤種も限られるため汎用性に欠けるなどの問題があった。
成膜性や薄膜の安定性は素子の寿命特性と大きく関係する。ここでいう寿命とは、一定電流駆動などで有機EL素子を連続駆動させたときの輝度半減時間とし、輝度半減時間が長い素子ほど長駆動寿命であるという。
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能な有機デバイスを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、正孔輸送性の高分子化合物に、膜中のバルク構造を不安定化させる対アニオン等の成分を含まない特定の酸化性官能基をもつ低分子有機化合物を混合することで、電荷移動錯体を形成可能で且つ安定性の高い膜を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の正孔注入輸送層用塗布溶液は、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する、重量平均分子量が2000未満の低分子有機化合物と、重量平均分子量が2000以上の正孔輸送性高分子化合物と、溶媒とを含有し、前記酸化性官能基が以下の一般式(1c)で示される官能基より選択される1種以上であり、前記正孔輸送性高分子化合物100重量部に対して、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が、10〜100重量部含まれる、正孔注入輸送層用塗布溶液であることを特徴とする。
Figure 0005733347
(式中、Z 、及び は、各々独立にハロゲン原子を表す。)
本発明で用いられる前記一般式(1c)で示される酸化性官能基を有する低分子有機化合物は、酸化力が強く、分散し易いため、正孔輸送性高分子化合物を酸化してラジカルを発生しやすく、且つ正孔輸送性高分子化合物との混合膜の安定性が高い。そのため、本発明では長寿命を達成可能な有機デバイスを提供することができる。
本発明の有機デバイスにおいては、前記酸化性の官能基が、前記一般式(1c)で示される官能基より選択される1種以上であることから、酸化性の点から好ましいものである。
本発明の正孔注入輸送層用塗布溶液においては、前記正孔輸送性高分子化合物100重量部に対して、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が、10〜100重量部含まれることから、正孔輸送性向上の点と膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましいものである
本発明の正孔注入輸送層用塗布溶液においては、前記正孔輸送性高分子化合物が下記一般式(2)で示される化合物であり、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が下記一般式(3)で示される化合物であることが、製造プロセスが容易な上、電荷移動錯体を形成して長寿命を達成する点から好ましい。
Figure 0005733347
(但し、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは0〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
Figure 0005733347
(但し、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。qは0〜10、rは0〜10であり、q+r=1〜20である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
本発明の有機デバイスは、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能であるという効果を奏する。
本発明に係る有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。 本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の他の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る有機デバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る有機デバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の他の一例を示す断面模式図である。 正孔注入層中のTFB100重量部に対するCLBPの重量比率と、駆動電圧及び輝度半減時間との関係をしめすグラフである。
1.有機デバイス
本発明の有機デバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極と、そのうちの2つの電極間に配置され少なくとも正孔注入輸送層を含む有機層を有する有機デバイスであって、
前記正孔注入輸送層が、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを含有することを特徴とする。
本発明の有機デバイスは、前記正孔注入輸送層が、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを含有することにより、製造プロセスが容易でありながら、長寿命を達成可能である。
本発明で用いる少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物は、スルホン酸基などを有する有機酸や、カチオンとアニオンを含む塩などの酸化性材料と異なり、通常芳香族環を多く有する正孔輸送性化合物が溶解するような有機溶媒に溶解しやすい。そのため、本発明の有機デバイスの正孔注入輸送層は、容易に溶液塗布法を用いて形成することができ、製造プロセスが容易である。
その上、本発明で用いられる少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物は、酸化力が強く、膜中で分散しやすいものである。すなわち、本発明の有機デバイスの正孔注入輸送層においては、特定の酸化性官能基は、酸化力が高いため、正孔輸送性高分子化合物をカチオンラジカルとして、電荷移動錯体を形成し易い。その結果、正孔注入輸送層の電荷注入輸送能力を効率よく向上することが可能である。この電荷移動錯体を形成していることは、例えば、1H NMR測定により、上記酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物と正孔輸送性高分子化合物とを溶液中で混合した際に、混合前に観測される芳香環由来のシグナルが10〜12ppm付近の低磁場にシフトする現象が観測されることによって示唆される。
更に、本発明で用いる少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物は、スルホン酸基などを有する有機酸や、カチオンとアニオンを含む塩などの酸化性材料と異なり、膜中での分散安定性が高く、正孔輸送性高分子化合物との混合膜の安定性が高くなる。
本発明で用いる少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物の酸化力の強さと、正孔輸送性高分子化合物との混合膜の安定性のため、本発明では長寿命を達成可能な有機デバイスを提供することができる。
以下、本発明に係る有機デバイスの層構成について説明する。
図1は本発明に係る有機デバイスの基本的な層構成を示す断面概念図である。本発明の有機デバイスの基本的な層構成は、基板7上に対向する2つの電極(1及び6)と、その2つの電極(1及び6)間に配置され少なくとも正孔注入輸送層2を含む有機層3を有する。
基板7は、有機デバイスを構成する各層を形成するための支持体であり、必ずしも電極1の表面に設けられる必要はなく、有機デバイスの最も外側の面に設けられていればよい。
正孔注入輸送層2は、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを含有し、電極1から有機層3への正孔の注入及び/又は輸送を担う層である。
有機層3は、正孔注入輸送されることにより、デバイスの種類によって様々な機能を発揮する層であり、単層からなる場合と多層からなる場合がある。有機層が多層からなる場合は、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、有機デバイスの機能の中心となる層(以下、機能層と称呼する。)や、当該機能層の補助的な層(以下、補助層と称呼する。)を含んでいる。例えば、有機EL素子の場合、正孔注入輸送層の表面に更に積層される正孔輸送層が補助層に該当し、当該正孔輸送層の表面に積層される発光層が機能層に該当する。
電極6は、対向する電極1との間に正孔注入輸送層2を含む有機層3が存在する場所に設けられる。また、必要に応じて、図示しない第三の電極を有していてもよい。これらの電極間に電場を印加することにより、有機デバイスの機能を発現させることができる。
図2は、本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2が積層され、当該正孔注入輸送層2の表面に補助層として正孔輸送層4a、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔注入層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の正孔輸送層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。更に、電極との密着性向上も期待できる。
図3は、本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に補助層として正孔注入層4bが形成され、当該正孔注入層4bの表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を正孔輸送層の位置で用いる場合には、導電率の向上に加え、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いた溶媒に不溶になるので、上層の発光層を積層する際にも溶液塗布法を適用することが可能である。
図4は、本発明に係る有機デバイスの一実施形態である有機EL素子の層構成の別の一例を示す断面模式図である。本発明の有機EL素子は、電極1の表面に正孔注入輸送層2、機能層として発光層5が順次積層された形態を有する。このように、本発明に特徴的な正孔注入輸送層を1層で用いる場合には、工程数が削減されるというプロセス上のメリットがある。
上記図2〜図4においては、電極1は陽極、電極6は陰極として機能する。上記有機EL素子は、陽極と陰極の間に電場を印加されると、正孔が陽極から正孔注入輸送層2及び正孔輸送層4を経て発光層5に注入され、且つ電子が陰極から発光層に注入されることにより、発光層5の内部で注入された正孔と電子が再結合し、素子の外部に発光する機能を有する。
素子の外部に光を放射するため、発光層の少なくとも一方の面に存在する全ての層は、可視波長域のうち少なくとも一部の波長の光に対する透過性を有することを必要とする。また、発光層と電極6(陰極)の間には、必要に応じて電子輸送層及び/又は電子注入層が設けられていてもよい(図示せず)。
図5は、本発明に係る有機デバイスの別の実施形態である有機トランジスタの層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層としての有機半導体層8と、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有し、電極1と電極6の表面に、正孔注入輸送層2が形成されている。
上記、有機トランジスタは、ゲート電極における電荷の蓄積を制御することにより、ソース電極−ドレイン電極間の電流を制御する機能を有する。
図6は、本発明に係る有機デバイスの実施形態である有機トランジスタの別の層構成の一例を示す断面模式図である。この有機トランジスタは、基板7上に、電極9(ゲート電極)と、対向する電極1(ソース電極)及び電極6(ドレイン電極)と、電極9、電極1、及び電極6間に配置された前記有機層として本発明の正孔注入輸送層2を形成して有機半導体層8とし、電極9と電極1の間、及び電極9と電極6の間に介在する絶縁層10を有している。この例においては、正孔注入輸送層2が有機半導体層8となっている。
尚、本発明の有機デバイスの層構成は、上記例示に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明に係る有機デバイスの各層について詳細に説明する。
(1)正孔注入輸送層及び有機層
本発明の有機デバイスに含まれる有機層は、少なくとも正孔注入輸送層を含み、上述のように、有機層が多層の場合には、有機層は、正孔注入輸送層の他に更に、有機デバイスの機能の中心となる層や、当該機能層を補助する役割を担う補助層を含んでいるが、それらの機能層や補助層は、後述する有機デバイスの具体例において、詳細に述べる。
本発明の有機デバイスにおける正孔注入輸送層は、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを含有する。
本発明で用いられる正孔輸送性高分子化合物は、正孔輸送性を有し、且つ、ゲル浸透クロマトグラフィーのポリスチレン換算値による重量平均分子量が2000以上の高分子化合物をいう。本発明の正孔注入輸送層は、溶液塗布法により安定な膜を形成することを目的として、正孔輸送性材料としては有機溶媒に溶解しやすく且つ化合物が凝集し難い安定な塗膜を形成可能な高分子化合物を用いる。なおここで、正孔輸送性とは、公知の光電流法により、正孔輸送による過電流が観測されることを意味する。
このような正孔輸送性高分子化合物としては、例えばアリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェン誘導体、フルオレン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等を繰り返し単位に含む重合体を挙げることができる。アリールアミン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、非共役系の高分子としてコポリ[3,3’−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、下記構造で表されるPTPDES及びEt-PTPDEK等、共役系の高分子としてポリ[N,N´-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N´-ビス(フェニル)-ベンジジン]を挙げることができる。アントラセン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体類を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。スピロ化合物を繰り返し単位に含む重合体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9’−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの正孔輸送性高分子化合物は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
Figure 0005733347
正孔輸送性高分子化合物としては、中でも、下記一般式(2)で示される化合物であることが、隣接する有機層との密着安定性が良好になりやすく、HOMOエネルギー値が陽極基板と発光層材料の間である点からも好ましい。
Figure 0005733347
(式(2)において、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは0〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
また、2つの繰り返し単位の配列は任意であり、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
nの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、mの平均は、5〜5000であることが好ましく、更に10〜3000であることが好ましい。また、n+mの平均は、10〜10000であることが好ましく、更に20〜6000であることが好ましい。
上記一般式(2)のAr〜Arにおいて、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
上記一般式(2)のAr〜Arが置換基を有する場合、当該置換基は、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基やアルケニル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
上記一般式(2)で示される化合物として、具体的には例えば、下記式(4)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)、下記式(5)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N’−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N’−{1,4−ジフェニレン})]、下記式(6)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO)が好適な化合物として挙げられる。
Figure 0005733347
Figure 0005733347
Figure 0005733347
一方、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物は、分子量が2000未満の化合物であり、更に、分子量が1000以下の化合物であることが好ましい。また、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基は、当該酸化性官能基により、上記正孔輸送性高分子化合物を酸化、すなわち上記正孔輸送性高分子化合物から電子を奪うことができる官能基であれば良い。
少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基としては、下記一般式(1a)〜(1d)で示される官能基より選択される1種以上であることが好ましい。
Figure 0005733347
(式中、Z、Z及びZは、各々独立にハロゲン原子を表す。)
、Z及びZは、各々独立にハロゲン原子であるが、特に塩素原子であることが好ましい。
中でも、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基としては、一般式(1c)で示される官能基であることが、酸化力が強く、上記正孔輸送性高分子化合物から電子を奪い電荷移動錯体を効率的に形成しやすく、駆動時の安定性に優れるため、デバイスの寿命が向上しやすい点から好ましく、特に、リン酸クロライド基(−OP(O)Cl)は、酸化力が強く、より効率的に電荷移動錯体を形成しやすく、駆動時の安定性に優れるため、デバイスの寿命が向上しやすい点から好ましい。
一方、当該特定の酸化性官能基の数は、当該低分子有機化合物の1分子内に1つ以上であればいくつであっても良い。
本発明の少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物は、上記正孔輸送性高分子化合物との相溶性が良くなり、本発明の正孔注入輸送層の膜の分散安定性が向上し、長駆動寿命化に寄与する点から、芳香環及び/又は複素環を含む。上記少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基は、芳香環及び/又は複素環に、直接結合していても良いし、アルキル基などスペーサー構造を介して結合していても良い。
芳香環及び/又は複素環を含む構造としては、具体的には例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、及びこれらの構造の組み合わせ等が挙げられる。
本発明の少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物は、本発明の効果を損なわない限り、芳香環及び/又は複素環を含む構造に置換基しても良い。置換基としては、例えば、炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも、ハロゲン原子が好ましい。炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルキル基の中では、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。ハロゲン原子の中では、塩素原子、ヨウ素原子が好ましい。
例えば、上記正孔輸送性高分子化合物が上記一般式(2)で示される化合物であるとき、当該特定の酸化性官能基を有する低分子有機化合物としては、下記一般式(3)で示される化合物を好適に用いることができる。
Figure 0005733347
(但し、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。qは0〜10、rは0〜10であり、q+r=1〜20である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
Ar〜Arにおいて、芳香族炭化水素基における芳香族炭化水素としては、具体的には例えば、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体、更に、フェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。また、複素環基における複素環としては、具体的には例えば、チオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、及びこれらの組み合わせ、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
一般式(3)において、Ar、Ar、及びArの組み合わせ及び/又はArは、一般式(2)におけるAr、Ar、及びArの組み合わせ及び/又はAr、Ar、Ar及びArのいずれかと、少なくとも芳香族炭化水素基または複素環基の骨格が同一であることが好ましい。
具体的には、上記一般式(2)で示される化合物が、上記式(4)で示されるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)であるとき、当該特定の酸化性官能基を有する低分子有機化合物は下記式(7)で示されるジフェニルアミノフェニルリン酸ジクロロホスホダート(TPA―O-P(O)Cl2)、あるいは下記式(8)〜(11)に示す化合物であることが、正孔注入輸送層と正孔注入電極との界面、及び正孔注入輸送層と隣接する有機層との界面を特に安定させ、密着安定性を保つことができ、有機デバイスの駆動安定性、及び長駆動寿命化に特に大きく寄与する。Rは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数6〜60のアリールオキシ基、炭素数7〜60のアリールアルキル、炭素数7〜60のアリールアルコキシ基、炭素数4〜60の複素環基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子からなる群から選ばれる基を示す。
Figure 0005733347
Figure 0005733347
Figure 0005733347
Figure 0005733347
Figure 0005733347
また、上記一般式(2)で示される化合物が、PVK(ポリビニルカルバゾール)であるとき、当該特定の酸化性官能基を有する低分子有機化合物は下記式(12)〜(14)に示す化合物を好適に用いることができる。ここでRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数6〜60のアリールオキシ基、炭素数7〜60のアリールアルキル、炭素数7〜60のアリールアルコキシ基、炭素数4〜60の複素環基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子からなる群から選ばれる基を示す。
Figure 0005733347
Figure 0005733347
Figure 0005733347
本発明の正孔注入輸送層においては、前記正孔輸送性高分子化合物100重量部に対して、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が、10〜100重量部含まれることが、正孔注入輸送性を高くし、且つ、膜の安定性が高く長寿命を達成する点から好ましく、中でも、20〜50重量部含まれることが好ましい。
正孔注入輸送層を構成する上記低分子有機化合物の含有量が多くなるほど、ITOから正孔注入層への注入効率や、正孔注入層の導電率が高くなり、駆動電圧が低下するが、上記低分子有機化合物の含有量が多すぎると、正孔注入層の膜強度が弱くなったり、ITO電極とTFBの密着性が悪くなるなどの悪影響がある場合があり、また上記低分子有機化合物の含有量が少なすぎると、ITO電極とTFBの密着性が悪くなったり、正孔注入層の導電性が低くなったり、不溶化せずに上層を塗布する際に正孔注入輸送層がダメージを受けるなどの悪影響がある場合がある。
本発明の正孔注入輸送層は、本発明の効果を損なわない限り、バインダー樹脂や硬化性樹脂や塗布性改良剤などの添加剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。また、熱または光等により硬化するバインダー樹脂を含有していてもよい。熱または光等光等により硬化する材料としては、上記正孔輸送性高分子化合物において分子内に硬化性の官能基が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。具体的に、硬化性の官能基としては、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、シランカップリング剤等を挙げることができる。
上記正孔注入輸送層の膜厚は、目的や隣接する層により適宜決定することができるが、通常0.1〜1000nm、好ましくは1〜500nmである。
また、上記正孔注入輸送層の仕事関数は5.0〜6.0eV、更に5.0〜5.8eVであることが、正孔注入効率の点から好ましい。
本発明の正孔注入輸送層は、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを、双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合した溶液を用いて、溶液塗布法により形成されたものであることが好ましい。上記特定の酸化性官能基を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とを、双方が良好に溶解乃至分散する溶媒中で混合すると、溶液中で上記特定の酸化性官能基を有する低分子有機化合物が上記正孔輸送性高分子化合物を酸化させて、電荷移動錯体を形成するため、正孔輸送性及び膜の経時安定性に優れた正孔注入輸送層を形成できる。このように電荷移動錯体を形成した正孔注入輸送層は、正孔注入輸送層を形成する際に用いた溶媒に不溶になるため、当該正孔注入輸送層の上層を形成する場合も、当該正孔注入輸送層を溶出させることなく溶液塗布法を用いる可能性が広がる。
ここで溶液塗布法とは、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物と、その他の成分を溶媒に添加し、溶解乃至分散して塗布溶液を調製し、当該塗布溶液を下地となる電極又は層上に塗布し、乾燥して正孔注入輸送層を形成する方法である。
溶液塗布法として、例えば、浸漬法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、デイップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などが挙げられる。
塗布溶液に用いられる溶媒としては、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物と、正孔輸送性高分子化合物とが良好に溶解乃至分散すれば特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、アニソール、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、安息香酸エチル、安息香酸ブチル等が挙げられる。
(2)基板
基板は、本発明の有機デバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的に用いることができる材料としては、例えば、ガラス、石英、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等を挙げることができる。
これらのうち、合成樹脂製の基板を使用する場合には、ガスバリア性を有することが望ましい。基板の厚さは特に限定されないが、通常、0.5〜2.0mm程度である。
(3)電極
本発明の有機デバイスは、基板上に対向する2つ以上の電極を有する。
本発明の有機デバイスにおいて、電極は、金属又は金属酸化物で形成されることが好ましく、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム混合物、リチウム/アルミニウム混合物等が用いられるが、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物により形成することができる。
電極は、通常、基板上にスパッタリング法、真空蒸着法などの方法により形成されることが多いが、塗布法やディップ法等の湿式法により形成することもできる。電極の厚さは、各々の電極に要求される透明性等により異なる。透明性が必要な場合には、電極の可視光波長領域の光透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上となることが望ましく、この場合の厚さは、通常10〜1000nm、好ましくは20〜500nm程度である。
本発明においては、電極上に、電荷注入材料との密着安定性を向上させるために、更に金属層を有していても良い。金属層は金属が含まれる層をいい、上述のような通常電極に用いられる金属や金属酸化物から形成される。
(4)その他
本発明の有機デバイスは、必要に応じて、電子注入電極と有機層の間に、従来公知の電子注入層及び/又は電子輸送層を有していてもよい。
2.有機EL素子
本発明の有機デバイスの一実施形態として、有機層が少なくとも本発明の正孔注入輸送層及び発光層を含む、有機EL素子が挙げられる。
以下、有機EL素子を構成する各層について、図2〜4を用いて順に説明する。
(基板)
基板7は、有機EL素子の支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、例えば、上記有機デバイスの基板の説明において挙げたものを用いることができる。
発光層5で発光した光が基板7側を透過して取り出される場合においては、少なくともその基板7が透明な材質である必要がある。
(陽極、陰極)
電極1および電極6は、発光層5で発光した光の取り出し方向により、どちらの電極に透明性が要求されるか否かが異なり、基板7側から光を取り出す場合には電極1を透明な材料で形成する必要があり、また電極6側から光を取り出す場合には電極6を透明な材料で形成する必要がある。
基板7の発光層側に設けられている電極1は、発光層に正孔を注入する陽極として作用し、基板7の発光層側に設けられている電極6は、発光層5に電子を注入する陰極として作用する。
本発明において、陽極及び陰極は、上記有機デバイスの電極の説明において列挙した金属又は金属酸化物で形成されることが好ましい。
(正孔注入輸送層、正孔輸送層、及び正孔注入層)
正孔注入輸送層2、正孔輸送層4a、及び正孔注入層4bは、図2〜4に示すように、発光層5と電極1(陽極)の間に適宜形成される。図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層し、その上に発光層を積層してもよいし、図4のように、電極1の上に、本発明に係る正孔注入輸送層2を積層しその上に発光層を積層してもよい。
図2のように、本発明に係る正孔注入輸送層2の上に更に正孔輸送層4aを積層する場合に、正孔輸送層4aに用いられる正孔輸送材料は特に限定されないが、本発明に係る正孔注入輸送層において説明した正孔輸送性高分子化合物を用いることが好ましい。中でも、隣接する本発明に係る正孔注入輸送層2に用いられている正孔輸送性高分子化合物と同じ高分子化合物を用いることが、正孔注入輸送層と正孔輸送層の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
正孔輸送層4aは、正孔輸送材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔輸送層4aの膜厚は、通常0.1〜1μm、好ましくは1〜500nmである。
図3のように、正孔注入層4bの上に更に本発明に係る正孔注入輸送層2を積層する場合に、正孔注入層4bに用いられる正孔注入材料は特に限定されないが、本発明に係る正孔注入輸送層において説明した、上記少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物を用いることが好ましい。少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基は電極表面と反応し得るため、電極上に少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物の単分子膜を形成し得る化合物であり、電極と正孔注入層4bと本発明に係る正孔注入輸送層2の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
その他に、正孔注入層4bの正孔注入材料としては、従来公知の化合物を用いることができ、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
正孔注入層4bは、正孔注入材料を用いて、後述の発光層と同様方法で形成することができる。正孔輸送層4aの膜厚は、通常1nm〜1μm、好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは5nm〜200nmである。
さらに、正孔注入特性を考慮すると、電極1側から有機層である発光層5に向かって各層の仕事関数(HOMO)の値が階段状に大きくなるような正孔注入材料及び正孔輸送材料を選択して、各界面での正孔注入のエネルギー障壁をできるだけ小さくし、電極1と発光層5の間の大きな正孔注入のエネルギー障壁を補完することが好ましい。
具体的には例えば、電極1にITO(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)を用い、発光層5にAlq3(HOMO5.7eV)を用いた場合、正孔注入輸送層を構成する材料としてTFB(仕事関数5.4eV)とTPA―O-P(O)Cl2(仕事関数5.3eV)の混合物、正孔輸送層を構成する材料としてTFB(仕事関数5.4eV)というように選択して、電極1側から発光層5に向かって各層の仕事関数の値が順に大きくなるような層構成をとるように配置することが好ましい。なお、上記仕事関数又はHOMOの値は、光電子分光装置AC−1(理研計器製)を使用した光電子分光法の測定値より引用した。
このような層構成の場合、電極1(UVオゾン洗浄直後の仕事関数5.0eV)と発光層5(例えばHOMO5.7eV)の間の正孔注入の大きなエネルギー障壁を、HOMOの値が階段状になるように補完可能で、正孔注入効率に非常に優れた正孔注入輸送層が得られる。
(発光層)
発光層5は、図2〜4に示すように、電極1が形成された基板7と電極6との間に、発光材料により形成される。
本発明の発光層に用いられる材料としては、通常、発光材料として用いられている材料であれば特に限定されず、蛍光材料およびりん光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の材料を挙げることができ、低分子化合物または高分子化合物のいずれも用いることができる。
(色素系発光材料の具体例)
色素系発光材料としては、例えば、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、(フェニルアントラセン誘導体、)、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、シロール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、スチルベン誘導体、スピロ化合物、チオフェン環化合物、テトラフェニルブタジエン誘導体、トリアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、ピラゾリンダイマー、ピリジン環化合物、フルオレン誘導体、フェナントロリン類、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体等を挙げることができる。またこれらの2量体や3量体やオリゴマー、2種類以上の誘導体の化合物も用いることができる。
具体的には、トリフェニルアミン誘導体としてはN,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、アリールアミン類としてはビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)、オキサジアゾール誘導体としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)、アントラセン誘導体としては9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)、カルバゾール誘導体としては4,4−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)フェナントロリン類の具体例としては、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
(金属錯体系発光材料の具体例)
金属錯体系発光材料としては、例えばアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体(BeBq)を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
(高分子系発光材料)
高分子系発光材料としては、分子内に上記低分子系材料を分子内に直鎖あるいは側鎖あるいは官能基として導入されたもの、重合体およびデンドリマー等を使用することができる。
例えば、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレノン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、及びそれらの共重合体等を挙げることができる。
(ドーパントの具体例)
上記発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーピング材料を添加してもよい。高分子系材料の場合は、これらを分子構造の中に発光基として含んでいても良い。このようなドーピング材料としては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクドリン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。またこれらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
具体的には、1−tert−ブチル―ペリレン(TBP)、クマリン6、ナイルレッド、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(TPB)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、りん光系のドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属イオンを中心に有し、燐光を示す有機金属錯体が使用可能である。具体的には、Ir(ppy)、(ppy)Ir(acac)、Ir(BQ)、(BQ)Ir(acac)、Ir(THP)、(THP)Ir(acac)、Ir(BO)、(BO)(acac)、Ir(BT)、(BT)Ir(acac)、Ir(BTP)、(BTP)Ir(acac)、FIr6、PtOEP等を用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
本発明においては、発光層の材料としては蛍光発光する低分子化合物または高分子化合物や、燐光発光する低分子化合物または高分子化合物のいずれをも用いることができる。本発明において、発光層を設ける下地層が本発明の上記正孔注入輸送層である場合、当該正孔注入輸送層は電荷移動錯体を形成して溶液塗布法に用いたキシレン等の非水系溶媒に不溶になるので、発光層の材料としては、キシレン等の非水系溶媒に溶解しやすく溶液塗布法により層を形成する高分子型材料を用いることが可能である。この場合、蛍光発光する高分子化合物または蛍光発光する低分子化合物を含む高分子化合物や、燐光発光する高分子化合物または燐光発光する低分子化合物を含む高分子化合物を好適に用いることができる。
発光層は、発光材料を用いて、溶液塗布法または蒸着法または転写法により形成することができる。溶液塗布法は、上記正孔注入輸送層の項目において説明したのと同様の方法を用いることができる。蒸着法は、例えば真空蒸着法の場合には、発光層の材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10‐4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、発光層の材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板7、電極1、正孔注入輸送層2、及び正孔輸送層4aの積層体の上に発光層5を形成させる。転写法は、例えば、予めフィルム上に溶液塗布法又は蒸着法で形成した発光層を、電極上に設けた正孔注入輸送層2に貼り合わせ、加熱により発光層5を正孔注入輸送層2上に転写することにより形成される。また、フィルム、発光層5、正孔注入輸送層2の順に積層された積層体の正孔注入輸送層側を、電極上に転写してもよい。
発光層の膜厚は、通常、1〜500nm、好ましくは20〜1000nm程度である。本発明は、正孔注入輸送層を溶液塗布法で形成することが好適であるため、発光層も溶液塗布法で形成する場合はプロセスコストを下げることができるという利点がある。
3.有機トランジスタ
本発明に係る有機デバイスの別の実施形態として、有機トランジスタが挙げられる。以下、有機トランジスタを構成する各層について、図5及び図6を用いて説明する。
図5に示されるような本発明の有機トランジスタは、電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2が形成されているため、それぞれの電極と有機半導体層との間の正孔注入輸送能力が高くなり、且つ本発明の正孔注入輸送層の膜安定性が高いため、長駆動寿命化に寄与する。
本発明の有機トランジスタは、図6に示されるような、本発明の正孔注入輸送層2が有機半導体層8として機能するものであっても良い。
また、本発明の有機トランジスタは、図5に示されるように電極1(ソース電極)と電極6(ドレイン電極)の表面に正孔注入輸送層2を形成し、更に有機半導体層8として電極表面に形成した正孔注入輸送層とは材料が異なる本発明の正孔注入輸送層2を形成してもよい。
図5に示されるような有機トランジスタを形成する場合に、有機半導体層を形成する材料としては、ドナー性(p型)の、低分子あるいは高分子の有機半導体材料が使用できる。
上記有機半導体材料としては、ポルフィリン誘導体、アリールアミン誘導体、ポリアセン誘導体、ペリレン誘導体、ルブレン誘導体、コロネン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸二無水化物誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェンビニレン誘導体、ポリチオフェン−複素環芳香族共重合体とその誘導体、α−6−チオフェン、α−4−チオフェン、ナフタレンのオリゴアセン誘導体、α−5−チオフェンのオリゴチオフェン誘導体、ピロメリト酸二無水物誘導体、ピロメリト酸ジイミド誘導体を用いることができる。具体的には、ポルフィリン誘導体としては例えばフタロシアニンや銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンを挙げることができ、アリールアミン誘導体としては例えばm−TDATAを用いることができ、ポリアセン誘導体としては、例えばナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセンを挙げることができる。
図5に示されるような、本発明の正孔注入輸送層有機トランジスタを形成する場合であっても、前記有機半導体層8を構成する化合物としては、本発明の正孔注入輸送層に用いられている正孔輸送性高分子化合物を用いることが好ましい。中でも、上記一般式(2)で示される正孔輸送性高分子化合物を用いる場合には、本発明の正孔注入輸送層2と有機半導体層8の界面の密着安定性を向上させ、長駆動寿命化に寄与する点から好ましい。
有機半導体層のキャリア移動度は10−6cm/Vs以上であることが、特に有機トランジスタに対しては10−3cm/Vs以上であることが、トランジスタ特性の点から好ましい。
また、有機半導体層は、上記有機EL素子の発光層と同様に、溶液塗布法またはドライプロセスにより形成することが可能である。
基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、絶縁層については、特に限定されず、例えば以下のような材料を用いて形成することができる。
基板7は、本発明の有機デバイスの支持体になるものであり、例えばフレキシブルな材質であっても、硬質な材質であってもよい。具体的には、上記有機EL素子の基板と同様のもの用いることができる。
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極としては、導電性材料であれば特に限定されないが、本発明に係る電荷輸送材料を用いて、金属イオンが配位している化合物が吸着してなる正孔注入輸送層2を形成する点からは、金属又は金属酸化物であることが好ましい。具体的には、上述の有機EL素子における電極と同様の金属又は金属酸化物を用いることができるが、特に、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITOおよび炭素が好ましい。
ゲート電極を絶縁する絶縁層には種々の絶縁材料を用いることができ、無機酸化物でも有機化合物でも用いることが出来るが、特に、比誘電率の高い無機酸化物が好ましい。無機酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコニウム酸チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ストロンチウムビスマス、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウムなどが挙げられる。それらのうち好ましいのは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンである。窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物も好適に用いることができる。
有機化合物としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、あるいはアクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、およびシアノエチルプルラン、ポリマー体、エラストマー体を含むホスファゼン化合物、等を用いることができる。
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は特に特定しない限り重量部を表す。
実施例において有機EL素子の寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。初期輝度5000cd/mに対して50%の輝度に劣化するまでの時間を寿命とした。
下記で合成した全ての化合物は日本電子社製核磁気共鳴スペクトルJNM−LA400WBを用いて、1H NMRスペクトルを測定し構造の確認を行った。
[合成例1]
下記のスキームに従って、化合物TPA−OP(O)Cl2を合成した。
Figure 0005733347
(1)TPA−OH(1)の合成
還流管を付した300 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものに無水キシレン (110 mL)、トリスt−ブチルホスフィン (0.43 mL, 1.9 mmol)、酢酸パラジウム (0.1 g, 0.48 mmol)、ナトリウム t−ブトキシド (2.2 g, 22.8 mmol)をいれ、室温で10分間撹拌した。このものにブロモベンゼン (2.0 mL, 19 mmol)を加え、10分間撹拌した後、4-ヒドロキシジフェニルアミン (3.1 g, 17 mmol)を加え、6時間加熱還流した。室温に戻し、クロロホルム (100 mL)を加え、水 (200 mL×1)、飽和食塩水 (200 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、淡赤色固体の粗生成物 5.0 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 100 g:溶出溶媒 ヘキサン/酢酸エチル= 10/1)に供し、無色油状物のTPA−OH (1) (2.8 g, 9.9 mmol; 58% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.20 (t, J = 7.9 Hz, 4H), 7.02 (m, J = 7.6, 8.0 Hz, 6H), 6.93 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 6.77 (d, J = 8.0 Hz, 2H) 5.41 (brs, 1H) ppm.
(2)TPA−OP(O)Cl2 (2)の合成
50 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものにTPA−OH (1) (1.5 g, 5.7 mmol)、無水ベンゼン (16 mL)を入れ反応系内を氷浴にて冷却した。塩化ホスホリル (8.4 mL, 90 mmol)を滴下し、ついで無水ピリジンのベンゼン溶液 (1 M, 5.8 mL, 5.8 mmol)をゆっくりと滴下した。室温に戻し、2時間撹拌した後、無水ジエチルエーテル (30 mL)を加え、析出した無色固体をろ別した。ろ液を減圧下濃縮し、残渣に無水ジエチルエーテル (30 mL)を加えた。さらに析出した無色固体を除き、ろ液中のジエチルエーテルおよび残るベンゼン、塩化ホスホリルを減圧下留去し、非晶質固体のTPA−OP(O)Cl2 (2)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.27 (m, J = 8.4, 7.9, 7.2 Hz, 4H), 7.13 (dd, J = 9.2, 2.0 Hz, 2H), 7.08 (t, J = 7.2 Hz, 8H) ppm.
[合成例2]
下記のスキームに従って、化合物TPA−TPA−OP(O)Cl2を合成した。
Figure 0005733347
(1)DPA−OTBDMS(3)の合成
300 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものに無水ジクロロメタン (110 mL)、4−ヒドロキシジフェニルアミン (20 g, 108 mmol)、トリエチルアミン (30 mL, 216 mmol)を入れた。反応系内を0 ℃に冷却し、塩化t−ブチルジメチルシラン (18 g, 120 mmol)を30分かけて加えた。室温にゆっくり戻し、13時間撹拌した。得られた茶色懸濁の反応混合物にジクロロメタン (200 mL)を加え、水 (300 mL×1)、飽和食塩水 (300 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、淡赤色固体の粗生成物 35 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 500 g:溶出溶媒 ヘキサン/酢酸エチル= 9/1)に供し、無色固体のDPA−OTBDMS (3) (31 g, 104 mmol; 96% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.25 (dd, J = 7.2, 8.8 Hz, 2H), 7.00 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.91 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 6.83 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 6.78 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 5.48 (brs, 1H)
(2)TPA−Br−OTBDMS(4)の合成
ディーンスタークおよび還流管を付した300 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものにDPA−OTBDMS (1) (20 g, 67 mmol)、4-ブロモ-ヨードベンゼン (19.8 g, 70 mmol)、ジイソプロピルベンゼン m−, p− 異性体混合物 (200 mL)、銅紛 (4.5 g, 72 mmol)、炭酸カリウム (20 g, 144 mmol)を入れた。反応系内を37時間加熱還流した。室温に戻し、反応混合物をろ過し、ジクロロメタン (100 mL)で洗浄した。合わせたろ液を水 (200 mL×1)、飽和食塩水 (200 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、淡赤色固体の粗生成物 25 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 700 g:溶出溶媒 ヘキサン/クロロホルム= 10/1)に供し、淡黄色油状物のTPA−Br−OTBDMS (4) (14.3 g, 22 mmol; 32% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.27 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.21 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 7.02 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 6.97 (m, J = 8.8 Hz, 3H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz., 2H), 6.76 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H) ppm.
(3)TPA−TPA−OTBDMS(5)の合成
還流管を付した250 mLシュレンク型反応管に磁気撹拌子を入れ、減圧下加熱乾燥しアルゴンガス置換した。このものにTPA−B(OH)2 (1.3 g, 4.6 mmol)、TPA−Br−OTBDMS (4) (2.0 g, 4.4 mmol)、無水トルエン (18 mL)、蒸留水 (6 mL)、炭酸カリウム (3.2 g, 23 mmol)を入れ、減圧によるアルゴンガス置換を3回行い、脱気した。このものにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) (266 mg, 0.23 mmol)を入れ、50℃で19時間加熱還流した。室温に戻し、水 (50 mL)、ジクロロメタン (50 mL)を加えた。有機層を分取し、水層をジクロロメタン (50 mL×2)で抽出し、合わせた有機層を水 (100 mL×1)、飽和食塩水 (100 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、赤褐色固体の粗生成物 4.3 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 50 g:溶出溶媒 ヘキサン/クロロホルム= 20/1)に供し、無色固体のTPA-TPA-OTBDMS (5) (1.7 g, 2.7 mmol; 62% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.45 (t, J = 3.2 Hz, 2H), 7.41 (d, J = 7.6 Hz, 3H), 7.25 (m, 4H), 7.15 (m, 20H), 6.77 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 0.99 (s, 9H), 0.21 (s, 6H), ppm.
(4)TPA−TPA−OH (6)の合成
50 mLナス型フラスコに磁気撹拌子を入れ、TPA−TPA−OTBDMS (5) (1.7 g, 2.7 mmol)、無水テトラヒドロフラン(THF) (10 mL)を加えた。このものにフッ化テトラブチルアンモニウム 1.0 M THF溶液 (3.0 mL, 3.0 mmol)を滴下し、室温で2時間撹拌した。酢酸エチル (30 mL)を加え、水 (30 mL × 3)、飽和食塩水 (100 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、茶白色固体の粗生成物 1.8 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 30 g:溶出溶媒 ヘキサン/クロロホルム= 10/1)に供し、無色固体のTPA−TPA−OH (6) (1.0 g, 2.0 mmol; 72% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.42 (brs 5H), 7.25 (m, 8H), 7.11 (m, 10H), 7.01 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 6.79 (m, 2H), 4.68 (brs, 1H), ppm.
(5)TPA−TPA−OP(O)Cl2の合成
50 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものにTPA−TPA−OH (6) (1.0 g, 2.0 mmol)、無水ベンゼン (5.6 mL)を入れ反応系内を氷浴にて冷却した。塩化ホスホリル (2.9 mL, 31 mmol)を滴下し、ついで無水ピリジン のベンゼン溶液 (1 M, 2.0 mL, 2.0 mmol)をゆっくりと滴下した。室温に戻し、2時間撹拌した後、無水ジエチルエーテル (20 mL)を加え、析出した無色固体をろ別した。ろ液を減圧下濃縮し、残渣に無水ジエチルエーテル (20 mL)を加えた。さらに析出した無色固体を除き、ろ液中のジエチルエーテル、ベンゼン、塩化ホスホリルを減圧下留去し、非晶質固体のTPA−TPA−OP(O)Cl2を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.43 (brs 5H), 7.25 (m, 8H), 7.11 (m, 14H), ppm.
[合成例3]
下記のスキームに従って、化合物FO−TPA−O P(O)Cl2を合成した。
Figure 0005733347
(1)FO−TPA−OTBDMS (8)の合成
還流管を付した250 mLシュレンク型反応管に磁気撹拌子を入れ、減圧下加熱乾燥しアルゴンガス置換した。このものにFO−B(OH)2 (2.0 g, 8 mmol)、Br−TPA−OTBDMS (4) (2.0 g, 4.4 mmol)、無水トルエン (18 mL)、蒸留水 (6 mL)、炭酸カリウム (3.2 g, 23 mmol)を入れ、減圧によるアルゴンガス置換を3回行い、脱気した。このものにジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)ジクロロメタン錯体 (161 mg, 0.23 mmol)を入れ、50℃で19時間加熱撹拌した。室温に戻し、水 (50 mL)、ジクロロメタン (50 mL)を加えた。有機層を分取し、水層をジクロロメタン (50 mL×2)で抽出し、合わせた有機層を水 (100 mL×1)、飽和食塩水 (100 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、赤褐色固体の粗生成物 4.0 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 100 g:溶出溶媒 ヘキサン/クロロホルム= 20/1)に供し、無色油状物のFO−TPA−OTBDMS (8) (1.5 g, 1.8 mmol; 95% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.70 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.25 (m, 4H), 7.06 (m, 8H), 6.78 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 1.97 (dd, J = 6.8, 9.6 Hz, 4H), 1.10 (m, 20H), 0.99 (s, 9H), 0.80 (t, 7.6 Hz, 6H), 0.65 (brs, 4H), 0.22 (s, 6H), ppm.
(2)FO−TPA−OH (9)の合成
50 mLナス型フラスコに磁気撹拌子を入れ、FO−TPA−OTBDMS (8) (1.5 g, 2.0 mmol)、無水THF (9 mL)を加えた。このものにフッ化テトラブチルアンモニウム 1.0 M THF溶液 (2.0 mL, 2.0 mmol)を滴下し、室温で2時間撹拌した。酢酸エチル (30 mL)を加え、水 (30 mL × 3)、飽和食塩水 (100 mL×1)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧下溶媒を留去し、茶白色固体の粗生成物 1.7 gを得た。このものをフラッシュカラムクロマトグラフィー(silica gel 30 g:溶出溶媒 ヘキサン/クロロホルム= 10/1)に供し、無色固体のFO−TPA−OH (9) (1.2 g, 2.0 mmol; 72% yield)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.70 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.52 (br, 4H), 7.33 (m, 4H), 7.06 (m, 8H), 6.78 (br, 2H), 1.97 (dd, J = 6.0, 9.6 Hz, 4H), 1.10 (m, 20H), 0.80 (t, 7.6 Hz, 6H), 0.65 (brs, 4H), ppm.
(3)FO−TPA−OP(O)Cl2の合成
50 mL三口フラスコに磁気撹拌子を入れ、アルゴンガスを30分流入させ反応系内を置換した。このものにFO−TPA−OH (9) (1.2 g, 2.0 mmol)、無水ベンゼン (5.1 mL)を入れ反応系内を氷浴にて冷却した。塩化ホスホリル (2.7 mL, 29 mmol)を滴下し、ついで無水ピリジン のベンゼン溶液 (1 M, 1.9 mL, 1.9 mmol)をゆっくりと滴下した。室温に戻し、2時間撹拌した後、無水ジエチルエーテル (20 mL)を加え、析出した無色固体をろ別した。ろ液を減圧下濃縮し、残渣に無水ジエチルエーテル (20 mL)を加えた。さらに析出した無色固体を除き、ろ液中のジエチルエーテル、ベンゼン、塩化ホスホリルを減圧下留去し、油状物のFO−TPA−OP(O)Cl2を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 7.73 (m, J = 7.6, 6.4 Hz, 2H), 7.56 (br, 4H), 7.33 (m, 4H), 7.13 (m, 10H), 1.97 (dd, J = 7.6, 8.8 Hz, 4H), 1.13 (m, 20H), 0.80 (t, 7.2 Hz, 6H), 0.65 (brs, 4H), ppm.
[実施例1]
ガラス基板の上に透明陽極、正孔注入層として本発明に特徴的な正孔注入輸送層、正孔輸送層、発光層、電子注入層、陰極の順番に成膜して積層し、最後に封止して有機EL素子を作製した。透明陽極と正孔注入輸送層以外は、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で作業を行った。
まず、透明陽極として酸化インジウム錫(ITO)の薄膜(厚み:150nm)を用いた。ITO付ガラス基板(三容真空社製)をストリップ状にパターン形成した。パターン形成されたITO基板を、中性洗剤、超純水の順番に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。UVオゾン処理後のITOのHOMOは5.0eVであった。
次に、正孔輸送性高分子化合物としてポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB、アメリカン・ダイ・ソース社製、品番:ADS259BE(分子量分布:5万〜10万))と、合成例1で得られたTPA−O P(O)Cl2を、重量比で10:3になるように安息香酸ブチル中に溶解させ、正孔注入層形成用塗布溶液を調製した。
次に、上記正孔注入層形成用塗布溶液を、洗浄された陽極の上にグローブボックス内でスピンコート法により塗布して、正孔注入層を乾燥後の厚みが20nmとなるように成膜した。正孔注入層の塗布後、溶剤を蒸発させるためにグローブボックス内でホットプレートを用いて120℃で1時間乾燥させた。
次に、作製した正孔注入層の上に、正孔輸送層として共役系の高分子材料であるポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4’−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)薄膜(厚み:20nm)を形成した。キシレンにTFBを溶解させた溶液を、グローブボックス内でスピンコート法により塗布して成膜した。TFB溶液の塗布後、溶剤を蒸発させるためにグローブボックス内でホットプレートを用いて120℃で1時間乾燥させた。
次に、作製した正孔輸送層の上に、発光層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq3)薄膜(厚み:60nm)を形成した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により製膜した。
次に、作製した発光層の上に、電子注入層としてLiF(厚み:0.5nm)、陰極としてAl(厚み:150nm)を順次成膜した。真空中(圧力:1×10−4Pa)で、抵抗加熱蒸着法により成膜した。
最後に陰極形成後、グローブボックス内にて無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤を用いて封止し、実施例1の有機EL素子を作製した。
[実施例2]
実施例1における正孔注入層を形成する際に使用する材料としてTPA−O P(O)Cl2の代わりに、合成例2で得られたTPA−TPA−O P(O)Cl2を用いたこと以外は実施例1と同様に、実施例2の有機EL素子を作製した。
[実施例3]
実施例1における正孔注入層を形成する際に使用する材料としてTPA―O-P(O)Cl2の代わりに、合成例3で得られたFO−TPA−O P(O)Cl2を用いたこと以外は実施例1と同様に実施例3の有機EL素子を作製した。
[実施例4]
実施例1における正孔注入層を形成する際に使用する材料としてTPA―O-P(O)Cl2の代わりに、4-クロロフェニルホスホロジクロリダート(下記化合物)を用いたこと以外は実施例1と同様に実施例4の有機EL素子を作製した。
Figure 0005733347
[実施例5]
実施例1において、正孔注入層を形成する際に使用する材料としてTPA―O-P(O)Cl2の代わりに、フェニルホスホロジクロリダートを用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
参考
実施例1において、正孔注入層を形成する際に使用する材料としてTPA―O-P(O)Cl2の代わりに、4-クロロベンゼンスルホニルクロライドを用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
参考
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBと4-クロロフェニルホスホロジクロリダート(CLBP)の重量比が10:3の代わりに、重量比が10:0.5になるように正孔注入輸送層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例8]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:1になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例9]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:2になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例10]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:4になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例11]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:5になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例12]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:10になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
参考
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBとCLBPの重量比が10:3の代わりに、重量比が10:12になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例14]
実施例4において、正孔注入層を構成するTFBの代わりにPC−TPD−DEGを用い、PC−TPD−DEGと4-クロロフェニルホスホロジクロリダートの重量比が10:3になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例15]
実施例4において、正孔注入層を構成する正孔注入層を構成するTFBの代わりにPFOを用い、PFOと4-クロロフェニルホスホロジクロリダートの重量比が10:3になるように正孔注入層を作製した以外は実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[実施例16]
実施例4において、正孔注入層の乾燥温度が、CLBPの沸点(142℃)以上の180℃以上で乾燥させた以外は、実施例4と同様にして有機EL素子を作製した。
[比較例1]
実施例1において、正孔注入層をTPA―O-P(O)Cl2の代わりに下記化合物(TBAHA)を用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
Figure 0005733347
[比較例2]
実施例1において、正孔注入層を、TPA―O-P(O)Cl2を用いずにTFBのみを用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
[比較例3]
実施例1において、正孔注入層をTPA―O-P(O)Cl2の代わりにフェニルホスホン酸を用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
[比較例4]
実施例1において、正孔注入層をTPA―O-P(O)Cl2の代わりに4-クロロベンゼンスルホン酸を用いて作製した以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
[比較例5]
実施例14において、正孔注入層を、4-クロロフェニルホスホロジクロリダートを用いずにPC−TPD−DEGのみを用いて作製した以外は実施例14と同様にして有機EL素子を作製した。
[比較例6]
実施例15において、正孔注入層を、4-クロロフェニルホスホロジクロリダートを用いずにPFOのみを用いて作製した以外は実施例15と同様にして有機EL素子を作製した。
上記実施例及び比較例において作製した有機EL素子について、寿命特性の評価を上記方法により行った。初期輝度5000(cd/m)での輝度半減時間(hr.)を表1に示す。
Figure 0005733347
<結果のまとめ>
実施例1と比較例1を比較すること、従来技術の正孔注入層を構成する低分子材料(TBAHA)を用いる場合に比べて、本発明で特定したTPA−O P(O)Cl2を用いる方が、寿命が12倍長いことが分かる。この結果は、実施例1の正孔注入層の方が、高分子化合物と低分子有機化合物の相溶性が高く、発光駆動中でも低分子有機化合物が正孔注入層の中で安定して分散していることによる効果であると考えられる。
実施例1と比較例2を比較すると、正孔注入層を構成する材料としてTFBにTPA−O P(O)Cl2を混ぜた方が、TFBのみの場合よりも寿命が106倍長い。TPA−O P(O)Cl2を混ぜた場合、ITO電極とTFBの密着性が良くなる、正孔注入層の導電性が高くなる、不溶化するため正孔輸送層を塗布する際に正孔注入層がダメージを受けないなどの効果により特性が向上したと考えられる。
実施例2〜5、参考例1と比較例2を比較すると、正孔注入層を構成する低分子材料として、少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する低分子有機化合物を混ぜた方が、このような低分子有機化合物を混ぜないTFBのみの場合よりも寿命が長い。
実施例4、参考例2、実施例812及び参考例3と比較例2の結果を比較すると(図7参照)、正孔注入層を構成する特定の酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有する低分子有機化合物の含有量に最適値があることが分かる。正孔注入層を構成する上記低分子有機化合物の含有量が多くなるほど、ITOから正孔注入層への注入効率や、正孔注入層の導電率が高くなり、駆動電圧が低下することが分かる。しかし、寿命特性の結果からは10〜100重量部含まれている場合が好適であることが分かる。この結果は、上記低分子有機化合物の含有量が多すぎると、正孔注入層の膜強度が弱くなる、ITO電極とTFBの密着性が悪くなるなどの悪影響があり、また少なすぎると、ITO電極とTFBの密着性が悪くなる、正孔注入層の導電性が低くなる、不溶化せずに正孔輸送層を塗布する際に正孔注入層がダメージを受けるなどの悪影響があるため、最適値があると考えられる。
実施例14と比較例5を比較すると、正孔注入層を構成する高分子材料が非共役系のポリマーであっても、寿命が40倍に向上しており、添加した特定の低分子有機化合物の効果があることが分かる。
実施例15と比較例6を比較すると、正孔注入層を構成する高分子材料が非アミン系のポリマーであっても、寿命が30倍に向上しており、添加した特定の低分子有機化合物の効果があることが分かる。
実施例5と比較例3、および参考例1と比較例4を比較すると、添加する低分子有機化合物に含まれる基が−OHではなく、ハロゲン化されていなければ、有機溶剤に溶解できず、素子化が不可能であることが分かる。
実施例4と実施例16を比較すると、CLBPの沸点は142℃であるが、低分子有機化合物の沸点以上の180℃で加熱しても添加する低分子有機化合物の効果があることが分かる。これは、高分子化合物と低分子有機化合物が電荷移動錯体を形成することで、乾燥時に高温で加熱しても、膜中から溶剤のみ主に取り除かれ、膜中に残存したCLBPとTFBの相互作用で、素子特性が維持されていると考えられる。高温で乾燥できることは、溶剤を揮発させる、あるいは正孔注入層膜の強度を向上でき、寿命特性向上の点から好ましい。
1 電極
2 正孔注入輸送層
3 有機層
4a 正孔輸送層
4b 正孔注入層
5 発光層
6 電極
7 基板
8 有機半導体層
9 電極
10 絶縁層

Claims (2)

  1. 少なくとも酸素原子とハロゲン原子を含む酸化性官能基を有し、且つ芳香環及び/又は複素環を有する、重量平均分子量が2000未満の低分子有機化合物と、重量平均分子量が2000以上の正孔輸送性高分子化合物と、溶媒とを含有し、前記酸化性官能基が以下の一般式(1c)で示される官能基より選択される1種以上であり、前記正孔輸送性高分子化合物100重量部に対して、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が、10〜100重量部含まれる、正孔注入輸送層用塗布溶液。
    Figure 0005733347
    (式中、Z、及びZは、各々独立にハロゲン原子を表す。)
  2. 前記正孔輸送性高分子化合物が下記一般式(2)で示される化合物であり、前記酸化性官能基を有する低分子有機化合物が下記一般式(3)で示される化合物である、請求項1に記載の正孔注入輸送層用塗布溶液。
    Figure 0005733347
    (但し、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。nは0〜10000、mは0〜10000であり、n+m=10〜20000である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
    Figure 0005733347
    (但し、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なっていてもよく、共役結合に関する炭素原子数が6個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の芳香族炭化水素基、または共役結合に関する炭素原子数が4個以上60個以下からなる未置換もしくは置換の複素環基を示す。qは0〜10、rは0〜10であり、q+r=1〜20である。また、2つの繰り返し単位の配列は任意である。)
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