[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るプラズマ処理装置100の構成例を模式的に示す断面図である。図2は、図1のプラズマ処理装置100に用いられる平面アンテナを示す平面図である。プラズマ処理装置100は、複数のスロット状の孔を有する平面アンテナ、特に、radial line slot antenna(ラジアルラインスロットアンテナ)にて処理容器内にマイクロ波を導入してプラズマを発生させることにより、高密度かつ低電子温度のプラズマを発生させ得るプラズマ処理装置として構成されている。プラズマ処理装置100では、109/cm3〜1013/cm3のプラズマ密度で、かつ2eV以下の低電子温度を有するプラズマによる処理が可能である。従って、プラズマ処理装置100は、各種半導体装置の製造過程において好適に利用できるものである。
プラズマ処理装置100は、主要な構成として、気密に構成された処理容器1と、処理容器1内にガスを供給するガス供給装置18と、このガス供給装置18に接続するガス導入部15と、処理容器1内を減圧排気するための排気装置24と、処理容器1の上部に設けられ、処理容器1内にマイクロ波を導入するマイクロ波導入機構27と、これらプラズマ処理装置100の各構成部を制御する制御手段としての制御部50と、を備えている。なお、ガス供給装置18、排気装置24およびマイクロ波導入機構27は、処理容器1内で処理ガスのプラズマを生成させるプラズマ生成手段を構成している。なお、ガス供給装置18をプラズマ処理装置100の構成部分には含めずに、外部のガス供給装置をガス導入部15に接続して使用する構成としてもよい。
処理容器1は、接地された略円筒状の容器により形成されている。なお、処理容器1は角筒形状の容器により形成してもよい。処理容器1は、アルミニウム等の材質からなる底壁1aと側壁1bとを有している。
処理容器1の内部は、被処理体であるシリコンウエハ(以下、単に「ウエハ」と記す)Wを水平に支持するための載置台2が設けられている。載置台2は、熱伝導性の高い材質例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。この載置台2は、排気室11の底部中央から上方に延びる円筒状の支持部材3により支持されている。支持部材3は、例えばAlN等のセラミックスにより構成されている。
また、載置台2は、加熱または冷却機構を備えておりウエハWの温度を例えば室温から900℃までの範囲で制御可能となっている。
また、載置台2には、ウエハWを支持して昇降させるためのウエハ支持ピン(図示せず)が設けられている。各ウエハ支持ピンは、載置台2の表面に対して突没可能に設けられている。
処理容器1の底壁1aの略中央部には、円形の排気口10が形成されている。底壁1aにはこの排気口10と連通し、下方に向けて突出する排気室11が設けられている。この排気室11には、排気管12が接続されており、この排気管12を介して排気装置24に接続されている。
処理容器1の上端には、処理容器1を開閉させるリッドとしての環状のプレート13が配置されている。プレート13の内周部は、内側(処理容器内空間)へ向けて突出し、透過板28を支持する環状の支持部13aを形成している。このプレート13と処理容器1との間は、シール部材14を介して気密にシールされている。
処理容器1の側壁1bには、環状をなすガス導入部15が設けられている。このガス導入部15は、配管を介して酸素含有ガスやプラズマ励起用ガスを供給するガス供給装置18に接続されている。なお、ガス導入部15は、処理容器1内に突出するノズル状、または複数のガス孔を有するシャワー状に設けてもよい。
ガス供給装置18は、例えば、プラズマ生成用のAr、Kr、Xe、He等の希ガスや、酸化処理における酸素ガス等の酸化性ガス、窒化処理における窒化ガスなどの処理ガス等を供給するガス供給源(図示せず)を有している。また、CVD処理の場合には、成膜原料ガス、処理容器内雰囲気を置換する際に用いるN2、Ar等のパージガス、処理容器1内をクリーニングする際に用いるClF3、NF3等のクリーニングガス等を供給するガス供給源を設けることもできる。各ガス供給源は、図示しないマスフローコントローラおよび開閉バルブを備え、供給されるガスの切替えや流量等の制御が出来るようになっている。
また、処理容器1の側壁1bには、プラズマ処理装置100と、これに隣接する搬送室(図示せず)との間でウエハWの搬入出を行うための搬入出口16と、この搬入出口16を開閉するゲートバルブ17とが設けられている。
排気装置24は、例えばターボ分子ポンプなどの高速真空ポンプを備えている。前記のように、排気装置24は、排気管12を介して処理容器1の排気室11に接続されている。排気装置24を作動させることにより、処理容器1内のガスは、排気室11の空間11a内へ均一に流れ、さらに空間11aから排気管12を介して外部へ排気される。これにより、処理容器1内を例えば0.133Paまで高速に減圧することが可能となっている。
次に、マイクロ波導入機構27の構成について説明する。マイクロ波導入機構27は、主要な構成として、透過板28、平面アンテナ板31、遅波板33、カバー部材34、導波管37、マッチング回路38および電磁波発生装置39を備えている。
マイクロ波を透過させる透過板28は、プレート13において内周側に張り出した支持部13a上に配備されている。透過板28は、誘電体、例えば石英やAl2O3、AlN等のセラミックスから構成されている。この透過板28と支持部13aとの間は、シール部材29を介して気密にシールされている。したがって、透過板28は、プレート13を介して処理容器1の上部の開口を塞いでおり、処理容器1内の気密性が保持されている。
平面アンテナ板31は、透過板28の上方において、載置台2と対向するように設けられている。平面アンテナ板31は、円板状をなしている。なお、平面アンテナ板31の形状は、円板状に限らず、例えば四角板状でもよい。この平面アンテナ板31は、プレート13の上端に係止されている。
平面アンテナ板31は、例えば表面が金または銀メッキされた銅板またはアルミニウム板から構成されている。平面アンテナ板31は、マイクロ波を放射する多数のスロット状のマイクロ波放射孔32を有している。マイクロ波放射孔32は、所定のパターンで平面アンテナ板31を貫通して形成されている。
個々のマイクロ波放射孔32は、例えば図2に示すように、細長い長方形状(スロット状)をなしている。そして、典型的には隣接するマイクロ波放射孔32が「T」字状に配置されている。また、このように所定の形状(例えばT字状)に組み合わせて配置されたマイクロ波放射孔32は、さらに全体として同心円状に配置されている。
マイクロ波放射孔32の長さや配列間隔は、マイクロ波の波長(λg)に応じて決定される。例えば、マイクロ波放射孔32の間隔は、λg/4〜λgとなるように配置される。図2においては、同心円状に形成された隣接するマイクロ波放射孔32どうしの間隔をΔrで示している。なお、マイクロ波放射孔32の形状は、円形状、円弧状等の他の形状であってもよい。さらに、マイクロ波放射孔32の配置形態は特に限定されず、同心円状のほか、例えば、螺旋状、放射状等に配置することもできる。
平面アンテナ板31の上には、遅波板33が設けられている。遅波板33は、真空よりも大きい誘電率を有する材料から構成されている。遅波板33の材料としては、例えば、石英、アルミナ、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。この遅波板33は、空気中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてプラズマを調整する機能を有している。遅波板33の下面は、平面アンテナ板31に当接しており、上面は、カバー部材34に当接している。本実施の形態では、遅波板33として、内外二重に分離した構造のものを用いる。
図3は、遅波板33の配置を示す外観斜視図であり、図4は遅波板33の平面図である。図5は、平面アンテナ板31の上に配備された遅波板33を示す要部断面図である。遅波板33は、内側に配置される小径部材101と、小径部材101を囲む大径部材103とから構成されている。小径部材101と大径部材103は、いずれもリング状に形成された平板である。小径部材101及び大径部材103は、同じ誘電率を持つ材質で形成してもよいし、あるいは、異なる誘電率の材質で形成してもよい。小径部材101の中央部には、同軸導波管37aの中心を通る内導体41(後述)へ固定するために、厚み方向に貫通した開口部105が設けられている。つまり、小径部材101は、開口部105において内導体41に固定されている。大径部材103は、その周縁部103aにおいて、例えばカバー部材34又は平面アンテナ板31に固定されている。
小径部材101と大径部材103とは、間隔をあけて配置されている。小径部材101と大径部材103との間には、空気層(エアギャップAG)が介在している。本実施の形態のプラズマ処理装置100では、小径部材101及び大径部材103の材質と、必要に応じてエアギャップAGを利用して、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率を制御している。小径部材101及び大径部材103は、いずれも比誘電率εが1を超える誘電体材料で構成されている。それに対して、空気層であるエアギャップAGの比誘電率εはほぼ1である。従って、平面アンテナ板31に隣接する上方の領域(平面アンテナ板31とカバー部材34との間)を一つのまとまった単位として考えると、小径部材101と大径部材103を配置したことによって、当該領域における誘電率は、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において、非均一になっている。例えば、小径部材101及び大径部材103の材質として比誘電率εが3.8である石英を使用した場合、平面アンテナ板31に隣接する上方の領域の誘電率は、平面アンテナ板31の上面に平行な断面において、中心の内導体41側から径外方向に、比誘電率ε=3.8(小径部材101)、ε=1(エアギャップAG)、ε=3.8(大径部材103)のように変化する。
本実施の形態では、小径部材101と大径部材103との間隔(つまり、エアギャップAGの幅L)は、任意の大きさに設定できる。例えば、図6に示したように、エアギャップAGの幅Lを図4に比べて小さく設定することも可能である。エアギャップAGの幅Lを変化させることによって、小径部材101と大径部材103の合計体積に対する空気層の体積比率を変化させることができる。
また、エアギャップAGを設ける径方向の位置も可変に調節できる。幅Lが同じ場合でも、エアギャップAGを設ける位置を変えることによって、小径部材101と大径部材103との比率(面積比率及び体積比率)を変化させることができる。このように、小径部材101、大径部材103及びエアギャップAGの配置と比率を調節することにより、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。
また、遅波板33における小径部材101と大径部材103は円環状に限るものではなく、任意の形状を採用できる。例えば図7は、大径部材103を非均等な形状にした例である。この例では、大径部材103Aの内周が、第1の円弧部分CA1と、第1の円弧部分CA1よりも曲率半径の小さな第2の円弧部分CA2とを有するように変形させている。このような形状により、小径部材101と大径部材103Aとの間隔であるエアギャップAGの幅Lが均一ではなく、第2の円弧CA2との間だけ部分的に小さくなるように設計できる。なお、図示は省略するが、大径部材103の内周形状ではなく、小径部材101の外周形状を変形させることによっても、同様の構成が得られる。
また、例えば図8では、小径部材101Aを、大径部材103の中心(平面アンテナ板31の中心または同軸導波管37aの中心と同じ)から偏心させて配置している。このように、小径部材101Aの外周と、大径部材103の内周とが同心円を形成しないように、小径部材101Aを偏心させて配置することにより、エアギャップAGの幅Lを偏心方向には偏心幅だけ部分的に小さくし、逆に、偏心方向と反対側は、偏心幅だけ大きくなるように設計できる。図7及び図8に示すような遅波板33を構成する部材の非対称な形状や非対称な配置は、平面アンテナ板31の上面と平行な平面において、径方向と周方向の両方で、誘電率を非均一にすることができる。従って、例えば、処理容器1内のプラズマの分布に局所的な強弱があって偏っている場合などに、その偏りを是正する際に有効である。さらに、図9に示すように、大径部材103の内周を偏心させることによっても同様の構成が得られる。
また、本実施の形態では、小径部材101(101A)と大径部材103(103A)の材質として、異なる誘電率の材料を用いることも可能である。例えば、図3から図5における小径部材101の材質として石英を、大径部材103の材質として比誘電率εが8.5であるアルミナ(Al2O3)を使用した場合、平面アンテナ板31の上面に平行な上方領域は、中心の内導体41側から径外方向に、比誘電率ε=3.8(小径部材101)、ε=1(エアギャップAG)、ε=8.5(大径部材103)のように変化する。このように、小径部材101と大径部材103の材質を変えることによっても、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。なお、小径部材101と大径部材103の材質が異なる場合には、熱膨張等によって破損が生じない限り、エアギャップAGを設けずに、小径部材101と大径部材103とを接触させても誘電率を非均一な状態にすることができる。この場合は、小径部材101と大径部材103との熱膨張係数が同程度の材質を選択することが好ましい。
このように、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、単体の遅波板ではなく、複数に分離した遅波板33を設けたことによって、平面アンテナ板31の直上の領域を、異なる誘電率をもつ複数の小領域に細分化できる。そのため、単体の遅波板を用いる場合に比べ、マイクロ波の波長の調節を細かく制御することが可能であり、処理容器1内で生成するプラズマの分布を細かく制御できる。なお、遅波板33を構成する部材としては、小径部材101と大径部材103の2つの部材に限るものではなく、3つ以上の部材を組み合わせて使用することもできる。
なお、遅波板33の厚みは、遅波板33を構成する材質の誘電率による波長短縮と遅波板33内での定在波の周期性を考慮して設定することが好ましい。
処理容器1の上部には、これら平面アンテナ板31および遅波板33を覆うように、導波路を形成する機能も有するカバー部材34が設けられている。カバー部材34は、例えばアルミニウムやステンレス鋼、銅等の金属材料によって形成されている。プレート13の上端とカバー部材34とは、マイクロ波が外部へ漏えいしないように導電性を有するスパイラルシールドリングなどのシール部材35によりシールされている。また、カバー部材34には、冷却水流路34aが形成されている。この冷却水流路34aに冷却水を通流させることにより、カバー部材34、遅波板33、平面アンテナ板31および透過板28を冷却できるようになっている。この冷却機構により、カバー部材34、遅波板33、平面アンテナ板31、透過板28およびプレート13がプラズマの熱により変形・破損することが防止される。なお、プレート13、平面アンテナ板31およびカバー部材34は接地されている。
カバー部材34の上壁(天井部)の中央には、開口部36が形成されており、この開口部36には導波管37の下端が接続されている。導波管37の他端側には、マッチング回路38を介してマイクロ波を発生する電磁波発生装置39が接続されている。電磁波発生装置39で発生させるマイクロ波の周波数としては、例えば2.45GHzが好ましく用いられ、他に800MHz〜1GHz(好ましくは800MHz〜915MHz)、8.35GHz、1.98GHz等を用いることもできる。
導波管37は、上記カバー部材34の開口部36から上方へ延出する断面円形状の同軸導波管37aと、この同軸導波管37aの上端部にモード変換器40を介して接続された水平方向に延びる矩形導波管37bとを有している。モード変換器40は、矩形導波管37b内をTEモードで伝播するマイクロ波をTEMモードに変換する機能を有している。
同軸導波管37aの中心には内導体41が延在している。この内導体41は、その下端部において平面アンテナ板31の中心に接続固定されている。このような構造により、マイクロ波は、内導体41を有する同軸導波管37aを介して平面アンテナ板31へ放射状に効率よく均一に伝播される。
以上のような構成のマイクロ波導入機構27により、電磁波発生装置39で発生したマイクロ波が導波管37を介して平面アンテナ板31へ伝搬され、さらに透過板28を介して処理容器1内に導入されるようになっている。
プラズマ処理装置100の各構成部は、制御部50に接続されて制御される構成となっている。制御部50は、図10に示したように、CPUを備えたプロセスコントローラ51と、このプロセスコントローラ51に接続されたユーザーインターフェース52および記憶部53を備えている。プロセスコントローラ51は、プラズマ処理装置100において、例えばガス流量、圧力、マイクロ波出力などのプロセス条件に関係する各構成部(例えば、ガス供給装置18、排気装置24、電磁波発生装置39など)を統括して制御する制御手段である。
ユーザーインターフェース52は、工程管理者がプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等を有している。また、記憶部53には、プラズマ処理装置100で実行される各種処理をプロセスコントローラ51の制御にて実現するための制御プログラム(ソフトウエア)や処理条件データ等が記録されたレシピが保存されている。
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース52からの指示等にて任意のレシピを記憶部53から呼び出してプロセスコントローラ51に実行させることで、プロセスコントローラ51の制御下、プラズマ処理装置100の処理容器1内で所望の処理が行われる。また、前記制御プログラムや処理条件データ等のレシピは、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばCD−ROM、ハードディスク、フレキシブルディスク、フラッシュメモリ、DVD、ブルーレイディスクなどに格納された状態のものを利用したり、あるいは、他の装置から、例えば専用回線を介して随時伝送させてオンラインで利用したりすることも可能である。
このように構成されたプラズマ処理装置100では、600℃以下の低温で下地膜等へのダメージフリーなプラズマ処理を行うことができる。また、プラズマ処理装置100は、プラズマの均一性に優れていることから、プロセスの均一性を実現できる。
次に、本実施の形態に係るプラズマ処理装置100を用いたプラズマ処理の手順の一例について説明する。ここでは、処理ガスとして窒素を含有するガスを用い、ウエハ表面をプラズマ窒化処理する場合を例に挙げる。まず、例えばユーザーインターフェース52から、プラズマ処理装置100でプラズマ窒化処理を行うように指令が入力される。この指令を受けて、プロセスコントローラ51は、記憶部53に保存されたレシピを読み出す。そして、レシピに基づく条件でプラズマ窒化処理が実行されるように、プロセスコントローラ51からプラズマ処理装置100の各エンドデバイス例えばガス供給装置18、排気装置24、電磁波発生装置39などへ制御信号が送出される。
そして、ゲートバルブ17を開にして搬入出口16からウエハWを処理容器1内に搬入し、載置台2上に載置する。次に、処理容器1内を減圧排気しながら、ガス供給装置18から、不活性ガスおよび窒素含有ガスを所定の流量でそれぞれガス導入部15を介して処理容器1内に導入する。さらに、排気量およびガス供給量を調整して処理容器1内を所定の圧力に調節する。
次に、電磁波発生装置39のパワーをオン(入)にして、マイクロ波を発生させる。そして、所定の周波数例えば2.45GHzのマイクロ波は、マッチング回路38を介して導波管37に導かれる。導波管37に導かれたマイクロ波は、矩形導波管37bおよび同軸導波管37aを順次通過し、平面アンテナ板31に供給される。マイクロ波は、矩形導波管37b内ではTEモードで伝搬し、このTEモードのマイクロ波はモード変換器40でTEMモードに変換されて、同軸導波管37a内を平面アンテナ板31に向けて伝搬していく。そして、マイクロ波は、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の偏平導波路を伝搬する際に、遅波板33によって波長が短縮される。本実施の形態のプラズマ処理装置100では、上記偏平導波路の誘電率が平面アンテナ板31の径外方向に非均一になるように、遅波板33として、小径部材101と大径部材103とを有する内外二重の部材からなり、必要に応じて間にエアギャップAGを介在させた構成のものを用いている。その結果、偏平導波路を通過するマイクロ波を所望の波長に制御できる。
遅波板33によって波長が短縮化されたマイクロ波は、平面アンテナ板31に貫通形成された孔であるマイクロ波放射孔32から透過板28を介して処理容器1内におけるウエハWの上方空間に放射される。マイクロ波出力は、マイクロ波を効率良く供給する観点から、平面アンテナ板31の面積1cm2あたりのパワー密度として0.41〜4.19W/cm2の範囲内とすることが好ましい。マイクロ波出力は、例えば500〜5000W程度の範囲内から目的に応じて上記範囲内のパワー密度となるように選択することができる。
平面アンテナ板31から透過板28を経て処理容器1に放射されたマイクロ波により、処理容器1内で電磁界が形成され、不活性ガスおよび窒素含有ガスがそれぞれプラズマ化する。このマイクロ波により励起されたプラズマは、マイクロ波が平面アンテナ板31の多数のマイクロ波放射孔32から放射されることにより、109/cm3〜1013/cm3の高密度で、かつウエハW近傍では、略2eV以下の低電子温度のプラズマとなる。このようにして形成される高密度プラズマは、下地膜へのイオン等によるプラズマダメージが少ないものである。そして、プラズマ中の活性種例えばラジカルやイオンの作用によりウエハWのシリコン表面が窒化されてシリコン窒化膜SiNの薄膜が形成される。なお、窒素含有ガスに代えて酸素含有ガスを用いることにより、シリコンの酸化処理が可能であり、また、成膜原料ガスを用いることによりプラズマCVD法による成膜を行うことも可能である。
プロセスコントローラ51からプラズマ処理を終了させる制御信号が送出されると、電磁波発生装置39のパワーがオフ(切)にされ、プラズマ処理が終了する。次に、ガス供給装置18からの処理ガスの供給を停止して処理容器内を真空引きする。そして、ウエハWを処理容器1内から搬出し、1枚のウエハWに対するプラズマ処理が終了する。
以上のように、本実施の形態のプラズマ処理装置100では、誘電体により構成される遅波板33を、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率が、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において径方向及び/又は周方向に変化するように構成したので、マイクロ波の波長を制御して、平面アンテナ板31を交換しなくとも処理容器1内におけるプラズマ分布を制御することができる。従って、処理容器1内で所望の分布でプラズマを安定的に維持することができる。また、ウエハWの大型化に対応して処理容器1を大型化させた場合でも、遅波板33の構成を変えることによって、処理容器1内で生成するプラズマ分布を簡単に調節できる。
[第2の実施の形態]
次に、図11から図13を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係るプラズマ処理装置について説明する。本実施の形態のプラズマ処理装置は、遅波板33の構成が異なる点以外は、第1の実施の形態のプラズマ処理装置100(図1)と同じであるため、全体の説明は省略し、遅波板33の構成についてのみ説明を行う。図11は、第2の実施の形態に係る遅波板33の平面図である。遅波板33は、内側に配置される小径部材101と、小径部材101を囲む大径部材103と、小径部材101と大径部材103との間に介在配置された複数(図11では8個)の着脱自在なピース107を有している。ピース107は、いずれも誘電体から構成されている。ピース107は、小径部材101及び大径部材103と同じ材質でもよいし、異なる材質でもよい。また、ピース107毎に異なる材質を用いることも可能である。
本実施の形態において、ピース107は遅波板33に着脱自在に構成されており、一つないし複数のピース107を装着したり、取り外したりすることができる。図11では、一つのピース107を外した状態を示している。ピース107を取り外した場合、その部分は空気層(エアギャップAG)となる。従って、ピース107の装着個数、配置を変化させることによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。つまり、当該領域における誘電率が、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において径方向及び周方向に様々なパターンで非均一になるように変化させることができる。
図11では、ピース107を小径部材101及び/又は大径部材103に接触させて配置しているが、離間させてもよい。ピース107を小径部材101及び/又は大径部材103に接触させる場合は、小径部材101及び/又は大径部材103との熱膨張係数が同程度の材質を選択することが好ましい。ピース107を小径部材101及び/又は大径部材103と離間させた場合は、離間部分に空気層(エアギャップAG;図示省略)が介在することになる。
図12に、図11に示した遅波板33の変形例として、小径部材101と、着脱可能な複数のピース107A(図12では8個)とを組み合わせた態様を示した。この遅波板33では、小径部材101を囲むように、その周囲にピース107Aが配置されている。ピース107Aは、いずれも誘電体から構成されている。ピース107Aは、小径部材101と同じ材質でもよいし、異なる材質でもよい。また、ピース107A毎に異なる材質を用いることも可能である。
図12に示したように、ピース107Aは、アーム60を使用して着脱可能に構成されており、一つないし複数のピース107Aを装着したり、取り外したりすることができる。ピース107Aを取り外した場合、その部分は空気層(エアギャップAG)となる。従って、ピース107Aの装着個数、配置を変化させることによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。つまり、当該領域における誘電率が、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において径方向及び周方向に様々なパターンで非均一になるように変化させることができる。
図12では、ピース107Aを小径部材101に接触させて配置しているが、離間させてもよい。ピース107Aを小径部材101に接触させる場合は、小径部材101との熱膨張係数が同程度の材質を選択することが好ましい。ピース107Aを小径部材101と離間させた場合は、そこに空気層(エアギャップAG;図示省略)が介在することになる。また、隣接するピース107Aどうしも、接触させても離間させてもよく、接触させる場合は、熱膨張係数が同程度の材質を選択することが好ましい。ピース107Aどうしを離間させた場合は、そこに空気層(エアギャップAG;図示省略)が介在することになる。
図13は、本実施の形態のさらなる変形例を示しており、ベース板111と、このベース板111に組み合わせて配置される着脱可能な平面矩形の複数のピース113とを有している。ベース板111とピース113は、いずれも誘電体から構成されている。ピース113は、ベース板111と同じ材質でもよいし、異なる材質でもよい。また、ピース113毎に異なる材質を用いることも可能である。
ベース板111には、複数の切り欠き部111aが設けられており、この切り欠き部111aにピース113を嵌め込んだり、外したりすることによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。ベース板111とピース113とを組み合わせていない状態では、切り欠き部111aに空気層(エアギャップAG)が形成されるので、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において径方向及び周方向に誘電率が非均一になる。ベース板111の切り欠き部111aにピース113を挿入して組み合わせた場合は、ベース板111とピース113とが同じ材質であれば、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において誘電率が非均一な状態は解消され、ベース板111とピース113とが異なる材質であれば、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において径方向及び周方向に誘電率が非均一となり、誘電率の分布が生じる。
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。
[第3の実施の形態]
次に、図14から図16を参照しながら、本発明の第3の実施の形態に係るプラズマ処理装置について説明する。本実施の形態のプラズマ処理装置は、遅波板33の構成が異なる点以外は、第1の実施の形態のプラズマ処理装置100(図1)と同じであるため、全体の説明は省略し、遅波板33の構成についてのみ説明を行う。図14は、第3の実施の形態に用いる遅波板33の外観構成を示す斜視図であり、図15は、遅波板33を取り付けた状態を示すプラズマ処理装置の要部断面図である。遅波板33は、平面アンテナ板31と略同程度の面積の平板である円盤部材115と、該円盤部材115の上に重ねて配置されたリング状部材117と、を有している。リング状部材117は、円盤部材115よりも小面積に形成されている。円盤部材115とリング状部材117は、いずれも誘電体から構成されている。円盤部材115とリング状部材117とは、同じ材質でもよいし、異なる材質でもよい。
本実施の形態では、円盤部材115と組み合わせてリング状部材117を配置することによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。つまり、円盤部材115の直上の領域は、所定の誘電率を持つリング状部材117が存在する部分以外は、空気層(エアギャップAG)となるため、誘電率が平面アンテナ板31の上面と平行な断面において非均一となっている。
また、リング状部材117は、円盤部材115上でアーム60により配置を変更できるように可動式に構成されている。リング状部材117の配置を変更することによって、エアギャップAGの形状が変化するので、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において簡単に変化させることができる。
次に、本実施の形態における遅波板33の変形例について図16を参照しながら説明する。図16は、遅波板33を取り付けた状態を示すプラズマ処理装置100の要部断面図である。この変形例では、リング状部材117を平面アンテナ板31の上面に接触させて配置し、その上に、円盤部材115を重ねて配置した。この場合、リング状部材115は可動式とはせずに、例えば同軸導波管37aの中心を通る内導体41に固定されている。本実施の形態では、リング状部材117を円盤部材115と平面アンテナ板31との間に介在配置させることによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率を平面アンテナ板31の上面と平行な断面において非均一にすることができる。つまり、円盤部材115の直下の領域は、所定の誘電率を持つリング状部材117が存在する部分以外は、空気層(エアギャップAG)となるため、平面アンテナ板31の上面と平行な断面において誘電率の分布が生じている。
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。
[第4の実施の形態]
次に、図17及び図18を参照しながら、本発明の第4の実施の形態に係るプラズマ処理装置について説明する。本実施の形態のプラズマ処理装置は、遅波板33の構成が異なる点以外は、第1の実施の形態のプラズマ処理装置100(図1)と同じであるため、全体の説明は省略し、遅波板33の構成についてのみ説明を行う。図17は、第4の実施の形態に用いる遅波板33を取り付けた状態を示すプラズマ処理装置の要部断面図である。本実施の形態の遅波板33は、ベース板119と、このベース板119に部分的に形成された凹部(溝121)とを有している。つまり、ベース板119の上面(平面アンテナ板31に接する面とは反対側)には、部分的に一つないし複数の溝121が形成されている。溝121の配設位置や形状、深さや大きさなどは特に限定されるものではなく、例えば同軸導波管37aを囲むように環状に設けてもよいし、ベース板119の面内に複数の溝121が点在するように設けてもよい。
本実施の形態では、ベース板119の上面に溝121を設けたことによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率を平面アンテナ板31の上面と平行な断面において細かく区分することができる。つまり、溝121の部分は空気層(エアギャップAG)となるため、所定の誘電率を持つベース板119との間で誘電率の差異が生じる。従って、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率を平面アンテナ板31の上面と平行な断面において非均一な状態にすることができる。なお、同様な効果を得るために、図18に示すようにベース板119の下面(平面アンテナ板31に接する面)に部分的に溝121を設けてもよく、さらに図示は省略するが、ベース板119の上下両面に部分的に溝121を設けてもよい。
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。
[第5の実施の形態]
次に、図19及び図20を参照しながら、本発明の第5の実施の形態に係るプラズマ処理装置について説明する。本実施の形態のプラズマ処理装置は、遅波板33の構成が異なる点以外は、第1の実施の形態のプラズマ処理装置100(図1)と同じであるため、全体の説明は省略し、遅波板33の構成についてのみ説明を行う。図19及び図20は、本実施の形態に係る遅波板33の平面図である。本実施の形態の遅波板33は、単体のベース板123と、その厚み方向に貫通する一つ又は複数(図19では9つ、図20では1つ)の貫通開口125を有している。ベース板123における貫通開口125形状や大きさ、配設位置は任意であり、特に限定されるものではないが、例えば同軸導波管37aを囲むように螺旋状、環状、半円(弧)状等に設けることが好ましい。
本実施の形態では、ベース板123に貫通開口125を設けたことによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率を平面アンテナ板31の上面と平行な断面において細かく区分することができる。つまり、貫通開口125の部分は空気層(エアギャップAG)となるため、所定の誘電率を持つベース板123との間で誘電率の差異が生じ、誘電率を平面アンテナ板31の上面と平行な断面において非均一にすることができる。
また、本実施の形態の遅波板33では、ベース板123に貫通開口125を非均等に配設したので、例えばベース板123の装着位置を図19及び図20中に矢印で示すように任意の角度で回転させることによって、平面アンテナ板31とカバー部材34との間の領域の誘電率の分布を簡単に変化させることができる。
本実施の形態における他の構成及び効果は、第1の実施の形態と同様である。
次に、図1に示したプラズマ処理装置100と同様の構成のプラズマ処理装置を用い、遅波板33の構造が、処理容器1内へのマイクロ波パワーの導入効率に与える影響について有限要素法による3次元シミュレーションにより検証した。シミュレーションでは、ソフトウエアとしてCOMSOL(商品名;COMSOL社製)を用い、下記の3種類の遅波板を装着した場合について透過板28の直下における電界強度及びその分布を計算した。遅波板33の材質はいずれも石英とした。
遅波板A(本発明例):
図3〜図5に示したものと同様の二重リング構造の遅波板において、中心から小径部材101の外周部までの径方向の距離を約160mmに設定し、エアギャップAGの幅を10mm、20mm、30mm、40mm、50mm、60mm、72.5mmにそれぞれ設定した。
遅波板B(本発明例):
図3〜図5に示したものと同様の二重リング構造の遅波板において、中心から小径部材101の外周部までの径方向の距離を約195mmに設定し、エアギャップAGの幅を10mm、20mm、30mm、38.5mmにそれぞれ設定した。
遅波板S(比較例):
単体の円板状とした。
シミュレーション実験の結果を表1及び図21に示した。なお、図21は透過板28の直下における電界強度分布を白黒で示しており、大まかな傾向として、白い領域は電界強度が強く、黒い領域は電界強度が弱いことを示している。
表1に示した遅波板A、Bの結果から、エアギャップAGの配置及び幅Lを変化させることにより、処理容器1内の電界強度を大きく変えることが可能であった。また、図21に示すように、エアギャップAGの配置及び幅Lを変化させることにより、処理容器1内の電界分布も大きく変化させることが可能であった。例えば、遅波板Aにおいて、エアギャップAGの幅Lが30mmでは電界分布が透過板28の周縁部の直下で強くなり、幅Lが40mmでは電界分布が透過板28の中央部の直下で強くなるなど、エアギャップAGの幅Lに依存して電界分布が変化する傾向が把握された。従って、例えば図7及び図8で示したような遅波板33の構成(偏心配置)により、処理容器1内で局所的に電界分布が弱い部分のみ電界を強くするなど、電界分布の偏りを積極的に是正する制御が可能であると考えられる。
次に、図1に示したプラズマ処理装置100と同様の構成のプラズマ処理装置を用いてシリコンウエハに対してプラズマ窒化処理を行った。遅波板33として、図3〜図5に示したものと同様の二重リング構造の遅波板を用いた。エアギャップAGの幅は30mm又は40mmとした。プロセス条件は以下の通りである。
[プロセス条件]
N2ガス/Arガスの体積流量比:20%
流量:200mL/min(sccm)
プロセス圧力:20Pa
マイクロ波出力:1500W
載置台温度:500℃
処理時間:90秒
成膜された窒化珪素膜のウエハ面内の膜厚分布をエリプソメーターで測定することにより、ウエハ面内でのプラズマ窒化処理の均一性を評価した。その結果を表2に示した。また、図22に、シミュレーション実験における透過板28の直下における電界強度分布を白黒で示した。図22では、大まかな傾向として、白い領域は電界強度が強く、黒い領域は電界強度が弱いことを示している。
この実験結果から、遅波板33のエアギャップAGの幅Lを変えることによって、窒化珪素膜の膜厚の面内分布が変化することが確認された。従って、本発明の遅波板33を用い、プロセス条件に合わせてその形状と配置を変えることにより、ウエハWの面内での処理の均一性を改善できる可能性が示された。
以上、本発明の実施形態を述べたが、本発明は上記実施形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明のプラズマ処理装置100は、プラズマ窒化処理装置以外にも、例えばプラズマ酸化処理装置やプラズマCVD処理装置、プラズマエッチング処理装置、プラズマアッシング処理装置などに適用できる。さらに、本発明の平面アンテナ板31を備えたプラズマ処理装置100は、被処理体として半導体ウエハを処理する場合に限らず、例えば液晶ディスプレイ装置や有機ELディスプレイ装置などのフラットパネルディスプレイ装置用あるいは太陽電池パネルの基板を被処理体とするプラズマ処理装置にも適用できる。