JP5717138B2 - タンパク質固定化表面修飾材料 - Google Patents
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Description
その一方で、表面プラズモン共鳴(SPR)センサーや導波モードセンサーなどの高感度バイオセンサー開発では、センシング素子表面での分子認識をより感度よく検出するため、単分子膜を始めとするできるだけ薄い膜での表面修飾が求められる。この目的のために、センシング素子表面と反応する官能基であるチオールやシランなどを導入した薄膜表面修飾材料が開発されている。特にチオールを導入した表面修飾材料は、金表面に単分子膜修飾が容易にできることから、多方面で利用されている。その一方でシランを導入した化合物は、ガラス、布、プラスチック、カーボンなどの多様な材料表面を修飾でき、さらに単分子膜修飾も可能であることから、より汎用性のある薄膜表面修飾材料として知られている。
抗体をセンシング基板表面に化学固定化するための活性エステル基としてのヒドロキシスクシンイミドエステルをセンシング基板表面に導入する様々な手法が開発されている。センシング基板が金である場合、カルボキシル基を有するアルカンチオールを用いて単分子膜を構築し、続いて基板表面のカルボキシル基を縮合剤などを用いてヒドロキシスクシンイミドと反応させ、エステル化する手法が一般的である。シラン化合物と反応する基板の場合では、アミノ基を有するシラン化合物を用いて基板表面をアミノ化し、基板表面に導入されたアミノ基を足がかりとしてヒドロキシスクシンイミドエステルを導入するといった多段階手法が採られている(特許文献2、3)。これらの手法の問題点は、多段階であるが故の煩雑な手順に加え、基板表面の官能基を全て反応させることが不可能な固−液界面反応であることから、高感度化やハイスループット化を目指した、精緻な修飾表面構築ができないことである。
ヒドロキシスクシンイミドエステルを基板表面に一段階で導入可能な技術に関しては、アルキル鎖のω末端にヒドロキシスクシンイミドなどの活性エステル基を導入したシランカップリング剤が開発され、核酸、タンパク質など幅広いバイオマテリアルの固定化用基板に適用可能であることが報告されている(特許文献4)。しかしながら、当該文献中に記載されるヒドロキシスクシンイミドエステルを含有するシラン化合物は、精緻な単分子膜修飾表面を構築する必要のある高感度バイオセンサー用センシング素子の表面修飾には適さない。当該文献のシラン化合物は、その製造過程で分離しにくい副産物が混入することが避けられないので、減圧蒸留法など化合物にとって過酷な精製法を適用することになるが、当該精製法を適用できるのは、ヒドロキシスクシンイミドエステル基とシリル基とを繋ぐアルキル鎖長が短いものに限られる。そして、このような短いアルキル鎖長のシランカップリング剤では、単分子膜形成に必要な疎水性が得られない。特に、アルカンチオールによって構築される自己集合膜(SAM)に匹敵するような高密度の単分子膜をシラン化合物で構築するためには、アルキル鎖の疎水性相互作用だけでは不十分であり、アミド基など水素結合形成性官能基に基づく分子間相互作用が必要であることが報告されている(非特許文献1)。
以上述べたように、バイオセンサーの高感度化・ハイスループット化を実現するために不可欠な技術として、センシング素子表面へのタンパク質を固定化するための精緻な修飾表面構築技術の確立が望まれており、具体的には、センシング素子表面の修飾材料として、一段階でヒドロキシスクシンイミドエステルを基板表面に導入でき、かつ自己集合膜に匹敵するような高密度単分子膜修飾が可能なシラン化合物の提供が望まれていた。
このように、本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1)は、アミド基を含有した新規化合物である点に特徴を有するものであるが、その合成方法の特徴も大きい。すなわち、本合成方法によると、ヒドロキシスクシンイミドエステルと酸ハロゲン化物の反応性差が大きいため、当該反応性の差を利用して酸クロライド部位のみを選択的にシラン化合物のアミノ基と反応させることが可能であり、その結果として目的とする化合物を慣用の精製操作によって高純度で単離できることができ、さらには、多様な分子設計が可能である。本手法によって提供される高純度なヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物を用いることによって、いろいろな材質のセンシング基板において精緻な修飾表面構築が可能になり、抗体を始めとする種々のタンパク質をセンシング基板に化学固定化することが可能になった。即ち、本発明は、高感度バイオセンサー開発に資する、抗体を初めとするタンパク質をセンシング基板に化学固定化する表面修飾材料として有望なヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物を提供するものである。
本願発明の新規化合物(化合物1)は、下記化学式(1)の一般式で記載することができ、下記化学式(2)及び化学式(3)を反応させて合成することができる(反応式1)。
化学式(1)
化学式(2)
(化学式3)
〔1〕 下記の化学式(1)で表される、ヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1);
化学式(1)
〔2〕 前記〔1〕に記載のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1)の製造方法であって、
下記化学式(2)で表される
化学式(2)
と、下記化学式(3)で表される
化学式(3)
とを反応させることを特徴とする、方法。
〔3〕 前記〔1〕に記載のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物からなる単分子膜であって、基板表面の少なくとも1部を修飾している単分子膜。
〔4〕 前記〔3〕に記載の単分子膜により、少なくとも表面の1部が修飾されている基板。
〔5〕 前記基板が導波モードセンサーで用いるバイオセンシング素子である、前記〔4〕に記載の基板。
〔6〕 前記〔4〕又は〔5〕に記載の基板表面に抗体又は他のタンパク質若しくはペプチドが固定化された基板であって、当該基板表面で単分子膜を構成するシラン化合物中の少なくとも1部のヒドロキシスクシンイミド基が、抗体又は他のタンパク質若しくはペプチドのアミノ基と置換されている、固定化基板。
本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物は文献未記載の化合物であり、いろいろな材質のセンシング基板を単分子膜修飾することが可能である。修飾した表面は優れたタンパク質化学固定化効果を示し、高感度バイオセンシング基板の構築材料として有望である。本発明では、合成したヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物のタンパク質化学固定化効果を評価するために、導波モードセンサーチップを表面修飾し、レプチン抗体を用いた抗原抗体反応応答性を検討した。
本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1)は下記の一般式化学式(1)で表される。
化学式(1)
上記式中、X1〜X3はそれぞれ独立してハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基、又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。ただし、X1〜X3のうちの少なくとも1つはハロゲン、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。ここで、アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
R1は炭素数1〜10、好ましくは炭素数2〜5の直鎖アルキル鎖を表し、R2は−(CH2)m−(OCH2CH2)n−、又は−(CH2CH2O)n−(CH2)m−を表す。mは3〜30、好ましくは8〜20の整数であり、nは0〜20、好ましくは0〜10の整数であり、m+n≧3、好ましくはm+n≧8である。
なお、本明細書中の化学式、反応式内で用いている記号、符号は、同一記号、符号であればそれぞれ全て同じ意味を表す。
以下、本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物の製造法を説明する。
(2−1)ヒドロキシスクシンイミドエステルを有する酸クロライドの合成
まず下記反応式に示すように、ジカルボン酸とN−ヒドロキシスクシンイミドを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)やベンゾトリアゾールイルテトラメチルウロニウムヘキサフルオロフォスフェート(HBTU)などの縮合剤を用いて反応させることによって、ヒドロキシスクシンイミドモノエステルカルボン酸を合成することができる。ここで用いる原料化合物は、いずれも市販品として入手可能である。
本発明の最終目的物であるヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物を得るためには、上記(反応式3)により合成されたヒドロキシスクシンイミドエステルを有する酸クロライドと共に、下記化学式(3)で表されるアミノ基を有するシラン誘導体が必要であるが、当該シラン誘導体は、ほとんど市販化合物として入手可能である。例えば、3−アミノプロピルトリハロゲン化シラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが東京化成社などにより市販されている。本実施例では、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成社製)を用いている。
化学式(3)
そして、当該化学式(3)のシラン誘導体を、上記(反応式3)に従って合成した下記化学式(2)のヒドロキシスクシンイミドエステルを有する酸クロライドと、下記(反応式1)に従ってアミド化反応させることによって、目的とするヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物を得ることができる。この反応自体は古くから知られている反応であるが、本反応では、同じカルボン酸活性基であるヒドロキシスクシンイミドエステルと酸ハロゲン化物では、そのカルボン酸活性が大きく違うために精製の妨げになる副産物の産生がほぼ無視できることを見いだしたことに特徴がある。
化学式(2)
使用される溶媒としては、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、アセトニトリル等の有機溶媒であるが、好ましくはテトラヒドロフランを用いて行われる。
酸クロライドとシラン化合物の反応割合は、前者1モルに対して後者を0.8〜1.2モル程度、好ましくは等モル程度とすればよい。触媒の使用量は、オレフィン誘導体1モルに対して1〜10モル、好ましくは2モル程度とすればよい。反応温度は0〜50℃程度、好ましくは室温とし、反応時間は12時間程度とすればよい。メトキシオリゴエチレングリコールを導入したカルボン酸誘導体とシラン誘導体の反応割合は、前者1モルに対して後者を0.5〜2モル程度、好ましくは等モル程度とすればよい。
このようにして得られるヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物は、慣用されている精製法、例えばHPLC法、カラムクロマトグラフィー法、薄層クロマトグラフィー法などにより、又はこれら手法を組み合わせることによって容易に単離精製できる。
また、本発明の目的物が合成できたことは、NMRや質量分析等により確認できる。
本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物は、ペプチドアレイ、抗体アレイ、DNAチップなどのようなタンパク質などの特異的結合を厳密に測定するための高感度の各種バイオセンシング素子、チップに用いられる種々の材料表面、例えばシリカ、窒化ケイ素、酸化処理プラスチック、酸化処理カーボンのチップ表面に抗体などタンパク質を単分子膜状に固定化できる表面を形成することができる。そして、このように精緻なタンパク質固定化単分子膜を形成できることから、広範なバイオセンシング素子表面修飾材料として有効に利用できる。そして、これらのセンシング素子の他、ヒドロキシスクシンイミドエステル基という活性エステル基を有するシランカップリング剤として用いることもできるので、両反応基の特質を生かして、基板表面に核酸、各種ペプチド、糖類、脂質などを固定化するバイオチップ用基板表面の修飾材料としても用いることができ、またその際の基板の材質もガラスなどのシリル基を有するものに限られず、紙、繊維、ステンレスなど幅広く対象とすることもできる。本発明において「基板」というとき、センシング素子として用いるチップなどを含め、本発明の修飾対象となる表面を有する基材一般を指すものとする。
本発明において、基板の表面が本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物のシリル基と共有結合を形成した単分子膜などの薄膜により被覆されることを「表面修飾」という。
本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物を用いて基板表面を薄膜修飾するための手法として、単分子膜を形成させるためには、浸積法を用いることが好ましい。典型的な浸積手法としては、修飾したい基材、チップなどを完全に洗浄し乾燥した後、本発明のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物の溶液中に当該基材、チップなどを浸積し、洗浄、乾燥する方法を適用できる。一般には、浸積法の他、塗布、噴霧方法を用いることができ、スポット状に修飾する場合は、インクジェットなど印刷機技術が転用できる。また、抗体、ペプチドなどの固定化対象物質を配置しようとする一部表面のみを修飾することも可能である。対象となる基板、基材の形状、大きさはどのようなものでもよいが、単分子膜形成を要するセンシング素子の場合は、取り外し可能で浸積工程に供しやすいチップ状が好ましい。
ヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物の溶剤としてはシラン化合物を分解しない有機溶媒であれば何でも使用することができるが、典型的なものとしては、トルエン、エタノール、THFがある。ただし、基材の材質がプラスチックの場合は、プラスチック溶解性のあるトルエン、THFなどは用いることができないので、エタノールなどのアルコール系溶媒が好ましい。
導波モードセンサーなど高感度バイオセンサー用のセンシング素子のように、自己組織化膜のような高密度の単分子膜形成が求められる場合の基板表面修飾及び抗体固定化の手順は、例えば、以下の様な手順で行うことができる。
(1)アセトン中で10分間超音波洗浄
(2)エタノール中で5分間超音波洗浄
(3)1時間減圧乾燥
(4)合成した化合物の1mMトルエン溶液に浸積
(5)アセトン中で1分間超音波洗浄後、エタノールで洗浄
(6)抗体溶液に浸積24時間、抗体濃度:20μg/ml
(7)PBS洗浄
ここで、上記(4)のチップの合成化合物溶液中への浸積時間と温度は、用いるヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物により左右され、C12Esの場合、0℃〜80℃で3〜48時間、好ましくは室温〜50℃で5〜24時間、C16Esの場合、室温〜80℃で5〜48時間、好ましくは50℃で12〜24時間、C20Esの場合、室温〜80℃で10〜72時間、好ましくは50℃で12〜48時間である。
抗体、他のタンパク質、ペプチド類の固定化方法では、活性エステル固定化法が有効であることが知られている。ヒドロキシスクシンイミドエステルはきわめて活性なエステル基であり、固定化したい化合物がアミノ基を有する場合、混合するだけでアミノ基と反応してアミド基を形成し、抗体、他のタンパク質、ペプチド類を基板上に固定化できる。
本実施例で用いた手法は、上記3.の基板表面修飾手法の適用により単分子膜を形成し、タンパク質の非特異吸着抑制という機能を発揮していることをすでに確認済みの化合物(M3EG)に、本発明化合物を加えることによる修飾表面の機能変化を観察するという定性的手法である。M3EGに本発明化合物を加えることによって修飾表面に抗体を固定できるようになり、抗原抗体反応による波長シフト値を測定することで固定された抗体量を推定できる。よってM3EGと本発明化合物の混合比と表面に固定された抗体量の相関、及びM3EGと本発明化合物が単分子膜を形成したと仮定したときの各分子の専有面積を用いて計算により推定される抗体固定量を比較検討することにより、本発明化合物はM3EGと混合したときはもちろんのこと、単独でも単分子膜形成能があることを確かめることができる。
なお、単分子膜が形成されたことを物理的(定量的)手法で確認する場合には、上記3.基板表面修飾及び抗体固定化手順(5)の後、XPS(X線光電子分光法)やエリプソメトリー(偏光解析法)などの膜組成や膜厚測定法により確認することができる。
(1−1)ドデカン二酸モノスクシンイミドエステルの合成
無色固体
収率40%
褐色液体
粗収率100%
無色液体
収率69%
1H−NMR;(CDCl3、500MHz)δ:0.63(2H、t、J=8.25Hz)、1.22(9H、t、J=7.10Hz)、1.25〜1.43(12H、m)、1.57〜1.65(4H、m)、1.69〜1.77(2H、m)、2.14(2H、t、J=7.80Hz)、2.59(2H、t、J=7.55Hz)、2.83(4H、d、J=4.60Hz)、3.24(2H、q、J=6.57Hz)、3.81(6H、q、J=7.02Hz)、5.69(1H、t、J=5.28Hz)
(2−1)ヘキサデカン二酸モノスクシンイミドエステルの合成
無色固体
収率45%
褐色液体
粗収率100%
無色固体
収率49%
1H−NMR;(CDCl3、500MHz)δ:0.63(2H、t、J=8.25Hz)、1.22(9H、t、J=7.10Hz)、1.23〜1.44(20H、m)、1.57〜1.66(4H、m)、1.69〜1.78(2H、m)、2.14(2H、t、J=7.80Hz)、2.59(2H、t、J=7.55Hz)、2.83(4H、d、J=5.50Hz)、3.25(2H、q、J=6.57Hz)、3.81(6H、q、J=7.02Hz)、5.69(1H、t、J=5.73Hz)
(3−1)エイコサン二酸モノスクシンイミドエステルの合成
無色固体
収率45%
褐色液体
粗収率100%
無色固体
収率21%
1H−NMR;(CDCl3、500MHz)δ:0.63(2H、t、J=8.03Hz)、1.22(9H、t、J=7.10Hz)、1.23〜1.44(28H、m)、1.58〜1.66(4H、m)、1.69〜1.78(2H、m)、2.14(2H、t、J=7.78Hz)、2.60(2H、t、J=7.58Hz)、2.83(4H、d、J=5.95Hz)、3.25(2H、q、J=6.72Hz)、3.82(6H、q、J=7.03Hz)、5.68(1H、t、J=5.28Hz)
合成したC12Es、C16Es、C20Esを用いて導波モードセンサーシリカチップの表面修飾を行い、修飾表面のタンパク質固定化効果を、糖尿病の疾病マーカーの一つとして知られているタンパク質、レプチン(ヒト由来、(株)免疫生物研究所製)およびレプチンに結合する抗体(抗ヒトレプチンモノクロナール抗体、IgG1κ型、ミクリ免疫研究所(株)製)を用いて抗原抗体反応を行い評価した。チップの表面修飾及び抗体固定化は、
(1)アセトン中で10分間超音波洗浄
(2)エタノール中で5分間超音波洗浄
(3)1時間減圧乾燥
(4)合成した化合物の1mMトルエン溶液に浸積
(5)アセトン中で1分間超音波洗浄後、エタノールで洗浄
(6)抗体溶液に浸積24時間、抗体濃度:20μg/ml
(7)PBS洗浄
という手順で行った。浸積条件は、C12Esは室温で浸積15時間、C16Esは50℃で浸積15時間、C20Esは50℃で24時間である。
導波モードセンサーにおける反射率ピークの波長シフト測定は、まずPBS中でピーク波長を測定し、1μg/mLのレプチン溶液に10分間浸積した後PBS溶液で洗浄し、再びピーク波長の測定を行い、その波長シフト値を求め、抗原抗体反応の有無を判定した。
図1に、それぞれの化合物で表面修飾した場合の反射率ピーク波長シフト値を示した。抗体を固定化したチップは、いずれも1μg/mLレプチン溶液に浸積、PBS洗浄後においてピーク波長シフトが観測された。このピーク波長シフトが抗原抗体反応に由来することを証明するために、手順(6)で抗体溶液の代わりに緩衝液に24時間浸したチップのピーク波長シフトを測定したところ、これらのチップではいずれも有意なピーク波長シフトは観測されなかったことより、観測されたピーク波長シフトは抗原抗体反応に由来するものであることが確認された(図1)。
実施例4と同様な手順で、C12Esとタンパク質の非特異吸着を抑制するシラン化合物、M3EG(下記分子式)の混合溶液を種々のモル比で調整し、導波モードセンサーシリカチップの表面修飾を行った。レプチン抗原抗体反応を行い、C12EsとM3EGの混合モル比による抗体固定量変化を検討し、C12Esの単分子膜形成性を評価した。浸積条件は室温で浸積15時間、溶液の濃度はいずれもC12EsとM3EGの和が1mMである。ここで用いるM3EG(メトキシトリエチレングリコール−トリエトキシシラン化合物)は、本発明者らが開発したメトキシオリゴエチレングリコール−シラン化合物の1つであり、この浸積条件下で高密度な単分子膜を形成することによってタンパク質の非特異吸着抑制効果を発揮していることが確認されている表面修飾材料である(特願2011−100313号)。なお、M3EGの合成方法は、下記(参考例1)に示す。
(M3EGの構造)
図2に、種々の混合比のシラン化合物溶液で表面修飾した場合の反射率ピーク波長シフト値を示した。C12Es:M3EGのモル比を1:1000から1:100というようにC12Esの割合を増加させた場合、波長シフト値は大幅に増加した。しかしさらにC12Esの割合を増した場合のC12Es:M3EGモル比1:10の溶液では、得られた波長シフト値はほぼ同じであった。以上の結果は、単分子膜が形成される場合にはC12Es:M3EGモル比が1:100において固定化される抗体量は飽和に達するという推定と一致している。さらにC12Es分子単独で修飾しても波長シフト値は同じであるという結果は、M3EGとの混合単分子膜と同じ量の抗体が表面に固定化されていることを意味することから、C12Es分子単独でも単分子膜形成することを強く支持している。
以上の結果より、本発明で合成された新規化合物、C12Es、C16Es、C20Esは、いずれもタンパク質を化学固定化する表面修飾材料として有用であり、アミド基を有することによって高密度な単分子膜を構築できることが明らかになった。
(参1−1)ジアゾ酢酸エチルの合成
黄色液体
粗収率80%
無色液体、b.p.115〜120℃/0.2mmHg
収率65%
無色液体
粗収率97%
淡褐色液体
粗収率100%
無色液体
収率79%
1H−NMR;(CDCl3、500MHz)δ:0.60(2H、t、J=8.48Hz)、1.18(9H、t、J=7.10Hz)、1.55〜1.65(2H、m)、3.24(2H、q、J=6.88Hz)、3.34(3H、s)、3.48〜3.54(2H、m)、3.58〜3.68(10H、m)、3.78(6H、q、J=7.02Hz)、3.95(2H、s)、3.99(1H、t、J=5.70Hz)
Claims (6)
- 下記の化学式(1)で表される、ヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1);
化学式(1)
- 請求項1に記載のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物(化合物1)の製造方法であって、
下記化学式(2)で表される
化学式(2)
と、下記化学式(3)で表される
化学式(3)
とを反応させることを特徴とする、方法。 - 請求項1に記載のヒドロキシスクシンイミドエステル−シラン化合物からなる単分子膜であって、基板表面の少なくとも一部を修飾している単分子膜。
- 請求項3に記載の単分子膜により、少なくとも表面の一部が修飾されている基板。
- 前記基板が導波モードセンサーで用いるバイオセンシング素子である、請求項4に記載の基板。
- 請求項4又は5に記載の基板表面に抗体又は他のタンパク質若しくはペプチドが固定化された基板であって、当該基板表面で単分子膜を構成するシラン化合物中の少なくとも一部のヒドロキシスクシンイミド基が、抗体又は他のタンパク質若しくはペプチドのアミノ基と置換されている、固定化基板。
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