JP5716550B2 - クランクシャフト及びその表面改質方法 - Google Patents
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Description
そのため、上記のように自動停止及び自動始動が繰り返されると、滑り軸受の軸受面が、それよりも硬く表面粗さの大きなクランクジャーナル部の表層部によって削り取られて摩耗する現象であるアブレシブ摩耗が発生する。そして、滑り軸受において削り取られた部分がクランクジャーナル部に移着して、同クランクジャーナル部の表層部がさらに粗くなり、滑り軸受の摩耗が進行する。この摩耗の進行は、内燃機関のNV(Noise, Vibration)の悪化や、内燃機関の信頼性の低下を招く。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の出力軸を構成するものであり、クランクジャーナル部において滑り軸受により回転可能に支持され、かつ少なくとも前記クランクジャーナル部が黒鉛鋳鉄により形成されたクランクシャフトであって、前記クランクジャーナル部は表層部に改質層を有し、前記改質層は、前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなるショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより形成されるものであり、前記改質層上には固体潤滑皮膜が形成されており、前記固体潤滑皮膜は、前記ショットとして、固体潤滑剤により被覆されたものを用いて前記ショットピーニング処理を行なうことにより、前記改質層の形成とともに形成されるものであることを要旨とする。
前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなり、固体潤滑剤により被覆されたショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより前記改質層を形成するとともに該改質層上に固体潤滑皮膜を形成することを要旨とする。
ショットの粒径が1μm未満では、衝突のエネルギーが少なく、クランクジャーナル部の表層部に所定の改質層が得られにくい。また、ショットの粒径が100μmよりも大きいと、衝突のエネルギーが過大となり、クランクジャーナル部の表層部がショットピーニング処理前よりも粗くなる。上記いずれの場合にも、改質層による滑り軸受の摩耗抑制効果が充分得られない。
さらに上記の構成によれば、ショットピーニング処理に際しては、クランクシャフトにおけるクランクジャーナル部の表層部に対し、固体潤滑剤によって被覆されたショットが衝突させられる。この衝突により、クランクジャーナル部の表層部に改質層が形成されるとともに、その改質層の上に固体潤滑皮膜が形成される。
また、クランクジャーナル部の表層部に、黒鉛が脱落してなる脱落痕があった場合には、上記固体潤滑剤が脱落痕の内壁面に付着し、同内壁面にも固体潤滑皮膜が形成される。
上記クランクジャーナル部が滑り軸受によって支持されたクランクシャフトは、滑り軸受の軸受面上を摺動しながら回転する。この際、固体潤滑皮膜は潤滑作用を発揮することで、摺動特性の改善や耐摩耗性の向上に寄与する。そのため、固体潤滑皮膜が設けられていない場合に比べ、滑り軸受の摩耗が一層抑制される。
また、請求項3に記載の発明は、内燃機関の出力軸を構成するものであり、クランクジャーナル部において滑り軸受により回転可能に支持され、かつ少なくとも前記クランクジャーナル部が黒鉛鋳鉄により形成されたクランクシャフトであって、前記クランクジャーナル部は表層部に改質層を有し、前記改質層は、前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなるショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより形成されるものであり、前記内燃機関は、自動停止及び自動始動が行なわれるものであることを要旨とする。
自動停止及び自動始動が行なわれる内燃機関では、自動停止に伴いオイルポンプも停止され、クランクジャーナル部及び滑り軸受間への潤滑油の供給が停止される。自動始動は、このように摺動部分への潤滑油の供給が停止された状況で行なわれる。そのため、内燃機関の自動停止及び自動始動が頻繁に行なわれることにより、クランクジャーナル部と滑り軸受との間に潤滑油が充分に供給されず、滑り軸受の軸受面が油膜切れしたような状態となる頻度が増えるおそれがある。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記ショットピーニング処理は、研磨及びラップ処理の施された前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し行なわれるものであることを要旨とする。
ここで、黒鉛鋳鉄によって形成されたクランクジャーナル部の表層部を、表面粗さが極微小となるように仕上げるために、同表層部に対し、研磨と、ペーパラップ処理等のラップ処理とが施された場合には、その表層部の黒鉛の周辺に微細なバリ、カエリ(かえり)等が多く生ずることがある。また、表層部の表面の近くには、上記研磨、ラップ処理によりフェライトの塑性流動層(塑性変形層)が生ずることもある。そして、これらのバリ、カエリ、塑性流動層等により、表層部の表面粗さが大きくなるおそれがある。
しかし、このようなクランクジャーナル部を有するクランクシャフトであっても、粒径及び流速についての上記条件のもとでショットピーニング処理が行なわれることにより、上記バリ、カエリ、塑性流動層等が除去されたり塑性変形されたりして、クランクジャーナル部の表層部に、表面粗さの小さな硬質の改質層が形成される。
従って、上記ショットピーニング処理は、研磨及びラップ処理の行なわれたクランクジャーナル部の表面改質に特に有効であるといえる。
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図8を参照して説明する。
車両には、図1において二点鎖線で示すように、多気筒を有する内燃機関11が搭載されている。この内燃機関11の運転は、例えば車両走行中における信号待ちといった一時的な車両停止時に停止され、運転者の始動要求に応じて再開される。本実施形態では、内燃機関11の通常の運転停止・開始と区別するために、上記状況での内燃機関11の運転停止を「自動停止」といい、運転再開を「自動始動」というものとする。
さらに、内燃機関11には、クランクシャフト30の回転を利用して作動するオイルポンプ(図示略)が設けられている。
上記クランクジャーナル部31の表面粗さが極微小となるように表面を仕上げるために、図3(A)に示すように、クランクジャーナル部31の表層部35に対し、研磨が施されるとともに、その後にペーパラップ処理が施されている。ペーパラップ処理は、表面に砥粒を塗布した布又は紙(ペーパ)を用いた表面仕上げ法である。このペーパラップ処理に際しては、例えば、テープ送り機構に支持されたペーパ(ラップテープ)を、相互に接近離間可能に配した一対のラッピングアームに設けられたシューによりワーク(クランクジャーナル部31)に押付ける。そして、ラップテープの間でワークを回転させて、そのワークの外周面をラップ加工することが行なわれる。
条件2:ショットを、100メートル毎秒(以下「m/s」と記載する)〜300m/sの流速で吹付けること。
各クランクジャーナル部31において各主軸受28によって支持されたクランクシャフト30は、ピストンの往復移動に伴いピン部33がコンロッドによって押されることで、軸線L1を回転中心として回転する。この際、各クランクジャーナル部31は、基本的には主軸受28に対し油膜を介して摺動しながら回転する。また、各ピン部33は、基本的にはコンロッド軸受29に対し油膜を介して摺動しながら回転する。
ショットの粒径が1μm未満では、同ショットが表層部35に衝突する際の衝突のエネルギーが少なく、同表層部35に所定の改質層41が得られにくい。また、ショットの粒径が100μmよりも大きいと、衝突のエネルギーが過大となり、上記表層部35がショットピーニング処理前よりも粗くなる。上記いずれの場合にも、改質層41による主軸受28の摩耗抑制効果が充分得られない。
(1)クランクジャーナル部31の表層部35に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなるショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうようにしている。
そのため、研磨及びペーパラップ処理により、微細なバリ、カエリ、塑性流動層38等が多く生じて、表層部35の表面粗さが大きなクランクジャーナル部31を有するクランクシャフト30であっても、ショットピーニング処理によってクランクジャーナル部31の表層部35に改質層41を形成して、上記(1)の効果を得ることができる。
(3)クランクシャフト30を、自動停止及び自動始動の行なわれる内燃機関11のクランクシャフトに適用している。
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、上記図8及び図9を参照して説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と同様の部材、箇所等については、同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
ショットピーニング処理は、上述した条件1及び条件2を満たした状況下で行なわれる。このショットピーニング処理に際しては、クランクジャーナル部31の表層部35に対し、固体潤滑剤によって被覆されたショットが衝突させられる。この衝突により、クランクジャーナル部31の表層部35に改質層41が形成されるとともに、さらにその上に、改質層41よりも軟質の固体潤滑皮膜42が形成される。このように、固体潤滑剤により被覆されたショットを用いてショットピーニング処理を行なうことで、改質層41の形成と、固体潤滑皮膜42の形成とが一度に行なわれる。
(4)ショットとして固体潤滑剤により被覆されたものを用いてショットピーニング処理を行なうことにより、クランクジャーナル部31の表層部35に改質層41を形成するとともに、その改質層41の上に固体潤滑皮膜42を形成するようにしている。
さらに、固体潤滑皮膜42により、クランクジャーナル部31及び主軸受28間のフリクションを低減させることも可能である。
なお、本発明は、次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・ショットピーニング処理は、研磨及びラップ処理が施されていないクランクジャーナル部31の表層部35に対して行なわれてもよい。また、ショットピーニング処理は、研磨及びラップ処理とは異なる研磨処理が施されて、表層部35の表面が仕上げられたクランクジャーナル部31に対して行なわれてもよい。
Claims (5)
- 内燃機関の出力軸を構成するものであり、クランクジャーナル部において滑り軸受により回転可能に支持され、かつ少なくとも前記クランクジャーナル部が黒鉛鋳鉄により形成されたクランクシャフトであって、
前記クランクジャーナル部は表層部に改質層を有し、
前記改質層は、前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなるショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより形成されるものであり、
前記改質層上には固体潤滑皮膜が形成されており、
前記固体潤滑皮膜は、前記ショットとして、固体潤滑剤により被覆されたものを用いて前記ショットピーニング処理を行なうことにより、前記改質層の形成とともに形成されるものであることを特徴とするクランクシャフト。 - 前記内燃機関は、自動停止及び自動始動が行なわれるものである請求項1に記載のクランクシャフト。
- 内燃機関の出力軸を構成するものであり、クランクジャーナル部において滑り軸受により回転可能に支持され、かつ少なくとも前記クランクジャーナル部が黒鉛鋳鉄により形成されたクランクシャフトであって、
前記クランクジャーナル部は表層部に改質層を有し、
前記改質層は、前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなるショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより形成されるものであり、
前記内燃機関は、自動停止及び自動始動が行なわれるものであることを特徴とするクランクシャフト。 - 前記ショットピーニング処理は、研磨及びラップ処理の施された前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し行なわれるものである請求項1〜3のいずれか一項に記載のクランクシャフト。
- 内燃機関の出力軸を構成するものであり、クランクジャーナル部において滑り軸受により回転可能に支持され、かつ少なくとも前記クランクジャーナル部が黒鉛鋳鉄により形成されたクランクシャフトに適用されて、前記クランクジャーナル部の表層部に改質層を形成するクランクシャフトの表面改質方法であって、
前記クランクジャーナル部の前記表層部に対し、1μm〜100μmの粒径を有する硬質粒子からなり、固体潤滑剤により被覆されたショットを、100m/s〜300m/sの流速で衝突させてなるショットピーニング処理を行なうことにより前記改質層を形成するとともに該改質層上に固体潤滑皮膜を形成することを特徴とするクランクシャフトの表面改質方法。
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