JP2004124227A - 金属製品の表面硬化方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金属製品の表面部における硬化組織の形成を、マルテンサイト変態によらず、強加工のみで金属組織結晶粒をナノ結晶化することによって行い、これによって極めて高い表面硬度を有する金属製品を得ることができる金属製品の表面硬化方法を提供すること。
【解決手段】金属製品30の表面に、金属製品30の硬度と同等以上の硬度を有する直径が40〜200μmのショット材20を、100m/秒以上の速度で噴射し、金属製品30の表面部を冷間加工することによってその結晶粒径を100nm以下に微細化して金属製品30の表面部を硬化させた。また、その際、金属製品30を冷却室19内で常温以下の温度に冷却しながらショット材20の噴射を行った。さらに、金属製品30を、マルテンサイト変態を生じない純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金で構成した。
【選択図】 図1
【解決手段】金属製品30の表面に、金属製品30の硬度と同等以上の硬度を有する直径が40〜200μmのショット材20を、100m/秒以上の速度で噴射し、金属製品30の表面部を冷間加工することによってその結晶粒径を100nm以下に微細化して金属製品30の表面部を硬化させた。また、その際、金属製品30を冷却室19内で常温以下の温度に冷却しながらショット材20の噴射を行った。さらに、金属製品30を、マルテンサイト変態を生じない純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金で構成した。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属製品の表面に、ショット材を噴射して表面部の結晶粒を微細化することにより金属製品の表面部を硬化させる金属製品の表面硬化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ばねや鋳鋼品、鍛造品等の金属製品の疲労強度を向上させるために、金属製品における表面部を硬化させる表面硬化方法が用いられている。このような表面硬化方法として、焼き入れ焼き戻しなどの処理を施した鉄鋼製品や非鉄金属製品の表面の一部または全部に対して、冷間加工を施すショットピーニングや、マルテンサイト変態を生じさせることができる程度の炭素を含有する鉄鋼製品に対して、微粒子ショットピーニングを行うことにより、鉄鋼製品の表面温度をA3変態点以上に上昇させてマルテンサイト変態を生じさせる表面加工熱処理方法がある。
【0003】
この表面加工熱処理方法においては、粒径の小さなショット材を、高速の噴射速度で、鉄鋼製品に衝突させることにより、その衝突時に発生する熱で鉄鋼製品の表面部を加熱してマルテンサイト変態を生じさせる。そして、これを所定時間継続することによって、鉄鋼製品の表面部に焼き入れ焼き戻し処理を繰り返し行い、その表面部を硬化させる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来の表面硬化方法のうちの、ショットピーニングによる冷間加工は、焼き入れ焼き戻しなどの熱処理を施した鉄鋼製品や非鉄金属製品の加工硬化を図るものであるため、前処理として熱処理を行う必要がある。また、この方法は、鉄鋼製品の表面部の残留オーステナイト組織を、加工応力の付与による加工誘起マルテンサイトへの組織変態によって、表面部の硬度を上昇させるとともに、圧縮残留応力の発生により製品強度の増加を図るものである。
【0005】
これは、金属製品への純粋な加工硬化と圧縮残留応力の付与が目的である。また、加工誘起マルテンサイト変態による硬度上昇は、熱処理済みの鉄鋼材料にのみ発現する現象である。このため、この方法では、対象となる材料をマルテンサイト変態が生じる材料に限定する必要と、前処理として熱処理を実施する必要とが生じるという問題がある。
【0006】
また、前述した従来の表面硬化方法のうちの、マルテンサイト変態を生じさせる表面加工熱処理方法では、マルテンサイト変態が起こり得ない純鉄や低炭素鋼およびそれを含む合金材料、非鉄金属材料およびそれを含む合金材料は、対象にならず、金属製品に使用される材料が限られるという問題がある。また、微粒子ショットピーニング工程で金属製品を構成する鉄鋼製品をA3変態点以上に加熱する必要があるため、噴射密度を大きくする必要がある。
【0007】
【発明の概要】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、金属製品の表面部における硬化組織の形成を、マルテンサイト変態によらず、強加工のみで金属組織結晶粒をナノ結晶化することによって行い、これによって極めて高い表面硬度を有する金属製品を得ることができる金属製品の表面硬化方法を提供することである。
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる金属製品の表面硬化方法の構成上の特徴は、金属製品の表面に、金属製品の硬度と同等以上の硬度を有する直径が40〜200μmのショット材を、100m/秒以上の速度で噴射し、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にすることにより表面部を硬化させることにある。
【0009】
このように構成した本発明の金属製品の表面硬化方法では、金属製品に対して噴射されるショット材の噴射速度を大きくして金属製品の表面部に高ひずみ速度で大きな変形を起こさせる。これによって、金属製品の表面部の転位密度が臨界に達すると、その表面部の結晶組織は、その場再結晶(温度を上げないで加工したまま、または加工中に生じる再結晶)により転位密度(長さ/単位体積)の高い硬化組織から結晶粒径が100nm以下のナノ結晶粒組織に変わり、同時に硬さが、例えば、ビッカース硬度で2倍程度に上昇する。
【0010】
すなわち、本発明では、種々の材質や形状からなる金属製品の表面部に、ナノ結晶粒組織を形成するための手段として、金属製品に対して微粒子からなるショット材を衝撃するショットピーニングなどの方法が用いられる。高速で噴射したショット材を金属製品の表面に衝突させると、金属製品の衝撃部分は高ひずみ速度の超強加工を受ける。この超強加工によって、金属製品の表面部は、加工硬化し転位密度が上昇する。したがって、金属製品へのショット材の噴射を所定時間継続して、金属製品の表面部を繰り返し変形させると、金属製品の表面部の転位密度が臨界に達して、ナノ結晶粒組織を得ることができる。
【0011】
本発明において、ショット材の噴射速度を高速にするのは、ひずみ速度を高くすることによって組織変化に必要な臨界転位密度を得るためであり、この噴射速度は、100m/秒以上に設定する。また、ショット材の直径は、噴射速度との関係で決定され、この場合、40〜200μmに設定する。これによって、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にすることができ、表面部の硬化ができる。
【0012】
また、ショット材の直径は、前述したように、40〜200μmに設定するが、より好ましくは、40〜100μmに設定することである。さらに、金属製品を構成する材料としては、鉄鋼材料、非鉄金属材料およびそれらを含む合金材料を用いることができる。また、ショット材を構成する材料としては、金属製品の硬度と同程度以上の硬度を有するものを用いる。金属製品に鋼球等の物が衝突すると、金属製品の表面部は硬化するが、ショット材の硬度は、この表面部の硬化を生じさせることのできる大きさであればよく、金属製品の硬度よりも小さなものでもよい。さらに、表面硬化処理中の金属製品の温度は、例えば、金属製品を構成する材料として鉄鋼材料を用いた場合には、A3変態点を超えないように維持することが必要である。
【0013】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法の他の構成上の特徴は、金属製品を常温以下の温度に冷却しながらショット材の噴射を行うことによる。
【0014】
このように構成した本発明の金属製品の表面硬化方法では、金属製品が過度に加熱されないように、金属製品を冷却して低温に維持する。すなわち、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にするためには、表面硬化処理中における金属製品の温度管理が重要である。結晶の転位は、表面硬化処理により温度が上昇すると回復速度が高くなるため、その場再結晶が発生する臨界転位密度まで蓄積されにくいが、低温領域においては、表面硬化処理によって微細化された結晶組織の回復が遅くなるために転位密度が蓄積され易い。すなわち、ナノ結晶粒化が生じる臨界転位密度に到達しやすくなるためである。したがって、効果的にナノ結晶領域を生成するためには、金属製品の温度を低く維持することが好ましい。
【0015】
この場合、液体窒素(温度−196℃)や液化炭酸ガス(温度−79℃)等を用いて金属製品を冷却することができ、金属製品を構成する材質に応じて、常温から−150℃程度の間で適宜最適温度に冷却することが好ましい。これによって、室温で表面硬化処理した場合と比べ、より多くのナノ結晶粒組織が生成する。また、特に、金属製品を構成する材料として鉄鋼材料を用いた場合には、金属製品が、A3変態点以上に加熱されないことが重要である。A3変態点以上に加熱されて金属製品の結晶組織がオーステナイトに変態すると、フェライト領域での表面硬化処理により得られた転位が消滅し、表面硬化処理による結晶微細化の効果が失われるためである。
【0016】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法のさらに他の構成上の特徴は、金属製品を、マルテンサイト変態を生じない金属材料で構成したことにある。これによると、従来の方法では、加工硬化のみによってしか硬化できなかった金属材料に対しても、ナノ結晶粒組織を形成することができ、種々の材料からなる金属製品の表面部の微細化処理による硬化が可能になる。
【0017】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法のさらに他の構成上の特徴は、金属材料を、純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金で構成したことにある。これによると、従来、ショットピーニングによる加工では、A3変態点以上の加熱によるマルテンサイトの硬化層を形成することができず、しかも金属製品として多くの分野で使用されている純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金に対してもナノ結晶粒組織を形成することができるようになる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明にかかる金属製品の表面硬化方法で用いられるショットピーニング装置10を示している。このショットピーニング装置10は、直径が50μmのスチールビーズからなるショット材20を収容するタンク11を備えている。タンク11は、円筒状の胴部11aと、胴部11aの下方に形成され、下端が先細りになった漏斗状の下部11bとで構成されている。そして、天井部には、ショット材20をタンク11内に供給するための穴部が設けられ、この穴部に蓋12が着脱可能に取り付けられている。
【0019】
また、タンク11の天井部上面には、ホッパー13が設けられており、蓋12を開けて、タンク11内にショット材20を供給する際、ホッパー13によってショット材20はタンク11内にガイドされる。さらに、タンク11の胴部11aには、圧縮空気供給管14と排気管15とが接続され、タンク11の下部11bの下端には、タンク11内のショット材20を吐出させるための吐出管16が接続されている。また、圧縮空気供給管14からは、圧縮空気供給管14aが分岐して吐出管16の上流端に接続されている。そして、圧縮空気供給管14および排気管15には、それぞれ圧縮空気供給管14および排気管15を開閉するための開閉バルブ17a,17bが設けられ、吐出管16の下流端には、ショット材20を外部に噴出するための噴射ノズル18が設けられている。
【0020】
噴射ノズル18は、先端の噴射口を冷却室19内に位置させて設置されており、冷却室19内における噴射ノズル18の前方には、金属製品30を着脱可能に、取り付けるための取付装置(図示せず)が設けられている。また、この取付装置は、金属製品30を、噴射ノズル18の噴射口に対して移動可能に保持する。また、冷却室19には、冷却室19内を常温から−150℃程度の間で温度制御する冷却装置(図示せず)が設けられており、圧縮空気供給管14には、圧縮空気供給装置(図示せず)が接続されている。また、ショット材20は金属製品30よりも硬度の大きな材質のもので構成されている。
【0021】
つぎに、以上のように構成したショットピーニング装置10を用いて図1に示した円柱状の金属製品30を表面硬化処理(以下、加工処理と記す。)する方法について説明する。金属製品30の加工処理に際しては、まず、蓋12を外してタンク11の穴部を開けて、ホッパー13に、ショット材20を供給する。これによって、ショット材20は、ホッパー13からタンク11内に落下し、タンク11の下部11bから順次胴部11aの上部に向って充填される。タンク11内のショット材20が所定量に達すると、ショット材20の供給を停止し、蓋12でタンク11の穴部を閉塞する。
【0022】
つぎに、冷却室19の取付装置に、金属製品30を取り付けて、冷却装置を作動させることにより、冷却室19内を所定の低温に維持する。そして、開閉バルブ17bを閉じるとともに、開閉バルブ17aを開けて、圧縮空気供給装置を作動させる。これによって、圧縮空気供給装置から吐出される圧縮空気は、圧縮空気供給管14を介して、タンク11に圧入され、タンク11内のショット材20をタンク11の下端部に加圧するとともに、圧縮空気供給管14aを介して吐出管16に供給される。この結果、タンク11から吐出管16に落下するショット材20は、圧縮空気によって、吐出管16の下流端に送られ、噴射ノズル18から金属製品30に向けて噴射される。
【0023】
この場合、ショット材20の噴射速度が、150〜200m/秒になるように、圧縮空気供給装置を調節する。また、金属製品30の全周面について加工処理を行う場合には、取付装置で金属製品30を回転移動させることにより、金属製品30の全周面に、ショット材20が衝突するようにする。これによって、金属製品30の表面部には、結晶粒径が、100nm以下の微細結晶からなる層が形成される。この微細結晶からなる層は、硬度も大幅に上昇したものとなる。
【0024】
以上のように、本実施形態によって加工処理された金属製品30では、表面部に、微細結晶からなる層が形成されるため、表面硬度が極めて大きくなる。したがって、金属製品30は、強度が向上し、疲労強度や耐久性の優れたものとなる。また、加工処理が終了すると、開閉バルブ17bを開けて、タンク11内を排気しておく。
【0025】
このように、金属製品30にショットピーニングによる加工処理を施すと、その表面部に加工硬化が生じるが、この加工硬化は、転位密度の平方根に比例することが知られている。一般的に、金属製品30に対する加工処理を継続していくと、結晶に生じる転位同士の合体消滅の速度も大きくなるので加工硬化の割合は加工量が増加すると次第に小さくなる。しかしながら、高ひずみ速度で金属製品30を強加工すると、結晶の転位が消滅することなく、転位密度は高い値に達する。そして、転位密度がある臨界値に達すると、転位セル組織が粒界構造に変化する。
【0026】
このときに生成する結晶粒径は、鉄鋼材料を用いた場合で、100nm以下のナノ結晶粒組織であり、組織変化と同時に強度が大幅に上昇する。このような変化は、すべての炭素鋼において生じ、また、純鉄やその他の多結晶金属材料においても生じる。また、多結晶金属材料の強度σと結晶粒径dとの間には、下記の数式1で表したホールペッチ(Hall−Petch)の関係が成り立つことが知られている。なお、下記の数式1において、σ0およびkは定数である。
【0027】
【数1】
【0028】
鉄鋼材料における結晶粒径と硬度との関係は、結晶粒径が小さくなって、50nm程度になるまでは、上記数式1にしたがって、結晶粒微細化とともに、硬度は上昇するが、結晶粒径が50nm以下になると、上記数式1によって求められる値よりも硬度は低くなる。そして、硬度の上昇は、結晶粒径が10nm程度になるまで続く。
【0029】
比較例として、Fe−3wt%Siの珪素鋼からなる粉末材を、ボールミル法(回転する円筒体内でボールと被加工物とを一緒に回転させる加工方法)を用いて加工硬化処理を行った。図2は、粉末材にボールミル加工を施すことにより、生成したナノ結晶の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像を示している。また、図3は、ボールミル加工後の粉末材を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図2および図3から分かるように、粉末材の表面部(図2の左上の部分および図3の左側部分)には、ナノ結晶領域が確認できる。また、図2におけるナノ結晶領域の右下部分および図3における右側部分には、加工硬化領域が形成されている。
【0030】
ナノ結晶領域は、通常の加工硬化領域、母材領域に比べて加熱による粒成長が極めて遅いため、加熱することにより視覚的、硬度的に通常の加工硬化領域、母材領域と明確に区別することができる。図2と図3とからわかるように、ボールミル加工後の粉末材を加熱することによって、通常の加工硬化領域の結晶粒は大幅に粗大化し硬度も低下(ビッカース硬度で、HV450からHV310に低下)しているのに対して、ナノ結晶領域は、粒成長が極めて遅く、硬度低下も小さい(HV700からHV650に低下)ことが判る。このような、加熱による再結晶挙動からもナノ結晶領域の生成を確認することができる。
【0031】
つぎに、試料として、Fe−0.03wt%Cの純鉄、Fe−3wt%Siの珪素鋼、高張力鋼板を選択し、それらの材質からなる試料に加工処理を行ったのちの硬度、強度等を比較した。その結果を、表1に示す。なお、各試料の比較試験では、すべて、ショット材20としては、粒径が50μmのスチールビーズを用い、噴射速度を150〜200m/秒、噴射圧力を0.51MPa、噴射距離を100mm、噴射時間を10秒とした。また、各試料は、取付装置に一定の姿勢で固定し、冷却室19内の温度は常温(略20℃)に維持して行った。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例1は、Fe−0.03wt%Cの純鉄からなる板材を試料1として、前記条件で、加工化処理を行った。そして、試料1の加工処理前と加工処理後におけるビッカース硬度を測定したところ、加工処理前が、HV100で、加工処理後が、HV750であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、Fe−0.03wt%Cの純鉄の表面硬度を大幅に上昇できることがわかる。
【0034】
また、図4は、加工処理後の試料1の断面SEM像を示しており、図5は、加工処理後の試料1を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図4および図5から判るように、試料1の表面部(図示の上部側部分)には、ナノ結晶領域が確認できる。また、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によって形成される加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されている。
【0035】
試料1が、Fe−0.03wt%Cの純鉄からなっていることから、実施例1によるナノ結晶化は、マルテンサイト変態とは無関係に発現することが示されており、この結果から、本発明の効果は純鉄以外の多結晶金属材料およびその合金への応用も可能であると考えられる。また、図4および図5に示すように、表面領域の下部側に表れている加工硬化領域が、焼鈍によって大幅に結晶粒が粗大化しているのに対し、表面部の結晶粒は粗大化せず成長が極めて遅いことからもこの表面部の結晶組織がナノ結晶であることが判る。
【0036】
実施例2は、Fe−3wt%Siの珪素鋼からなる板材を試料2として、前記実施例1と同じ条件で、加工処理を行った。そして、試料2の加工処理前と加工処理後におけるビッカース硬度を測定したところ、加工処理前が、HV240で、加工処理後が、HV700であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、Fe−3wt%Siの珪素鋼の表面硬度を大幅に上昇できることがわかる。
【0037】
また、図6は、加工処理後の試料2の断面SEM像を示しており、図7は、加工処理後の試料2を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図6および図7から分かるように、試料2の表面部(図示の上部側部分)にも、ナノ結晶領域が確認できる。また、この場合も、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によって得られる加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されている。また、実施例1と同様、図6および図7に表れているように、表面領域の下部側の加工硬化領域の結晶粒が、焼鈍によって大幅に粗大化しているのに対し、表面部の結晶粒が粗大化せず成長が極めて遅いことからもこの組織がナノ結晶であることが判る。
【0038】
実施例3は、引張強さが、650N/mm2の高張力鋼板からなる平板疲労試験片を試料3として、実施例1,2と同じ条件で、加工処理を行った。そして、試料3の加工処理前と加工処理後において平面曲げ疲れ試験を行ったところ、加工処理前の強度σ(A107)が80N/mm2で、加工処理後の強度σ(A107)が220N/mm2であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、高張力鋼板の平面曲げ疲労強度を大幅に上昇できることがわかる。なお、この場合の「強度σ(A107)が80N/mm2」は、試料3に、80N/mm2の力を107回繰り返し付加したときに試料3が、疲労破壊したことを示している。
【0039】
また、図8は、加工処理後の試料3の断面SEM像を示しており、図9は、加工処理後の試料3を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図8および図9から分かるように、試料3の表面部(図示の上部側部分)にも、ナノ結晶領域が確認できる。また、この場合も、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によっても形成される加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されており、その下方には、母材の組織が確認できる。また、前述した実施例1,2と同様、ナノ結晶化加工後の焼鈍前後での結晶粗大化を比較しても、ナノ結晶領域の加熱による粒成長が、加工硬化領域に比べて極めて微小であることを確認できる。
【0040】
以上の結果から、実施例1ないし3によって得られた各試料1〜3の表面部は、ショットピーニングによって、高ひずみ速度で超強加工されることにより加工硬化することがわかる。そして、各試料1〜3の表面部は、加工硬化したのち、転位密度が所定の臨界値を越えるとその場再結晶が起こり、転位が殆ど消滅すると同時に、結晶粒がナノ結晶化することで、加工硬化状態のほぼ2倍という高い強度になる。この現象は、純粋に加工による効果であり、マルテンサイト変態とは異なるため、マルテンサイト変態が生じない純鉄や珪素鋼においても発現する。
【0041】
また、従来の方法による加工硬化と異なることは、強度が2倍も高くなることである。この場合の加工硬化による強度の変化は、連続して変化していくものでなく、加工硬化が所定のレベルに達したときに、突然大きく変化する。したがって、本発明の効果を得るためには、所定の臨界値以上のひずみ速度とひずみ量を得るために、ショット材20の大きさ、噴射速度およびショット時間を最適値に設定することが極めて重要になる。
【0042】
また、従来の微粒子ショットピーニングによる表面加工熱処理方法により、マルテンサイト変態を利用して硬化組織を形成する場合には、金属製品30の表面部をA3変態点以上に加熱することが必要となるが、本発明では、金属製品30の温度を上げるとその効果を得難くなり、冷却することによりより好ましい結果が得られる。
【0043】
また、金属製品30として、鉄鋼材料を用いた場合、その鉄鋼材料に含有される炭素の含有量は、ナノ結晶粒領域の硬度に影響を及ぼす。この場合、炭素の含有量の増加にしたがって、鉄鋼材料の硬度が上昇する。この硬度上昇への炭素の影響としては、結晶組織への炭素の固溶も一部にあるが、その殆どは、炭素の含有量が多くなるにしたがって、フェライト粒が微細になることに起因する。
【0044】
また、本発明によって得られるナノ結晶粒組織は、加熱による再結晶挙動が、従来の表面硬化方法による加工硬化とは、全く異なる。すなわち、従来の表面硬化方法による加工硬化状態では、不連続再結晶が生じ、例えば、600℃の温度で、1時間の焼鈍を行うと、数μm以上の大きさの結晶粒が形成されるが、本発明による表面硬化方法では、ゆっくりとした粒成長のみが生じ、結晶粒の大きさが100nm以下のナノ結晶粒組織が維持される。結晶粒成長が遅いということは、熱的に安定しているということであり、焼き戻し軟化抵抗が大きいということである。したがって、本発明による表面硬化方法によって加工処理される金属製品30が、高温条件下で使用される機械部品等であれば、特に、好ましい効果が得られる。
【0045】
以上のように、本発明によれば、ショット材20を高速で金属製品30に噴射することにより、金属製品30の表面部に、強加工によるナノ結晶化効果を容易に発現させることができる。また、表面から数μmの深さを従来の加工硬化法やマルテンサイト変態では、到達し得ない高い硬度にするとともに、圧縮残留応力を発生させて、優れた疲労特性、靭性などを得ることができ、これによって金属製品30の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態で使用するショットピーニング装置を示す概略図である。
【図2】ボールミル加工処理を施した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図3】ボールミル加工処理を施したのちに焼鈍した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図4】本発明による加工処理を施した純鉄からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図5】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した純鉄からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図6】本発明による加工処理を施した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図7】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図8】本発明による加工処理を施した高張力鋼板からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図9】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した鋼張力鋼板からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【符号の説明】
10…ショットピーニング装置、14,14a…圧縮空気供給管、16…排気管、18…噴射ノズル、19…冷却室、20…ショット材、30…金属製品。
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属製品の表面に、ショット材を噴射して表面部の結晶粒を微細化することにより金属製品の表面部を硬化させる金属製品の表面硬化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ばねや鋳鋼品、鍛造品等の金属製品の疲労強度を向上させるために、金属製品における表面部を硬化させる表面硬化方法が用いられている。このような表面硬化方法として、焼き入れ焼き戻しなどの処理を施した鉄鋼製品や非鉄金属製品の表面の一部または全部に対して、冷間加工を施すショットピーニングや、マルテンサイト変態を生じさせることができる程度の炭素を含有する鉄鋼製品に対して、微粒子ショットピーニングを行うことにより、鉄鋼製品の表面温度をA3変態点以上に上昇させてマルテンサイト変態を生じさせる表面加工熱処理方法がある。
【0003】
この表面加工熱処理方法においては、粒径の小さなショット材を、高速の噴射速度で、鉄鋼製品に衝突させることにより、その衝突時に発生する熱で鉄鋼製品の表面部を加熱してマルテンサイト変態を生じさせる。そして、これを所定時間継続することによって、鉄鋼製品の表面部に焼き入れ焼き戻し処理を繰り返し行い、その表面部を硬化させる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来の表面硬化方法のうちの、ショットピーニングによる冷間加工は、焼き入れ焼き戻しなどの熱処理を施した鉄鋼製品や非鉄金属製品の加工硬化を図るものであるため、前処理として熱処理を行う必要がある。また、この方法は、鉄鋼製品の表面部の残留オーステナイト組織を、加工応力の付与による加工誘起マルテンサイトへの組織変態によって、表面部の硬度を上昇させるとともに、圧縮残留応力の発生により製品強度の増加を図るものである。
【0005】
これは、金属製品への純粋な加工硬化と圧縮残留応力の付与が目的である。また、加工誘起マルテンサイト変態による硬度上昇は、熱処理済みの鉄鋼材料にのみ発現する現象である。このため、この方法では、対象となる材料をマルテンサイト変態が生じる材料に限定する必要と、前処理として熱処理を実施する必要とが生じるという問題がある。
【0006】
また、前述した従来の表面硬化方法のうちの、マルテンサイト変態を生じさせる表面加工熱処理方法では、マルテンサイト変態が起こり得ない純鉄や低炭素鋼およびそれを含む合金材料、非鉄金属材料およびそれを含む合金材料は、対象にならず、金属製品に使用される材料が限られるという問題がある。また、微粒子ショットピーニング工程で金属製品を構成する鉄鋼製品をA3変態点以上に加熱する必要があるため、噴射密度を大きくする必要がある。
【0007】
【発明の概要】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、金属製品の表面部における硬化組織の形成を、マルテンサイト変態によらず、強加工のみで金属組織結晶粒をナノ結晶化することによって行い、これによって極めて高い表面硬度を有する金属製品を得ることができる金属製品の表面硬化方法を提供することである。
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明にかかる金属製品の表面硬化方法の構成上の特徴は、金属製品の表面に、金属製品の硬度と同等以上の硬度を有する直径が40〜200μmのショット材を、100m/秒以上の速度で噴射し、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にすることにより表面部を硬化させることにある。
【0009】
このように構成した本発明の金属製品の表面硬化方法では、金属製品に対して噴射されるショット材の噴射速度を大きくして金属製品の表面部に高ひずみ速度で大きな変形を起こさせる。これによって、金属製品の表面部の転位密度が臨界に達すると、その表面部の結晶組織は、その場再結晶(温度を上げないで加工したまま、または加工中に生じる再結晶)により転位密度(長さ/単位体積)の高い硬化組織から結晶粒径が100nm以下のナノ結晶粒組織に変わり、同時に硬さが、例えば、ビッカース硬度で2倍程度に上昇する。
【0010】
すなわち、本発明では、種々の材質や形状からなる金属製品の表面部に、ナノ結晶粒組織を形成するための手段として、金属製品に対して微粒子からなるショット材を衝撃するショットピーニングなどの方法が用いられる。高速で噴射したショット材を金属製品の表面に衝突させると、金属製品の衝撃部分は高ひずみ速度の超強加工を受ける。この超強加工によって、金属製品の表面部は、加工硬化し転位密度が上昇する。したがって、金属製品へのショット材の噴射を所定時間継続して、金属製品の表面部を繰り返し変形させると、金属製品の表面部の転位密度が臨界に達して、ナノ結晶粒組織を得ることができる。
【0011】
本発明において、ショット材の噴射速度を高速にするのは、ひずみ速度を高くすることによって組織変化に必要な臨界転位密度を得るためであり、この噴射速度は、100m/秒以上に設定する。また、ショット材の直径は、噴射速度との関係で決定され、この場合、40〜200μmに設定する。これによって、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にすることができ、表面部の硬化ができる。
【0012】
また、ショット材の直径は、前述したように、40〜200μmに設定するが、より好ましくは、40〜100μmに設定することである。さらに、金属製品を構成する材料としては、鉄鋼材料、非鉄金属材料およびそれらを含む合金材料を用いることができる。また、ショット材を構成する材料としては、金属製品の硬度と同程度以上の硬度を有するものを用いる。金属製品に鋼球等の物が衝突すると、金属製品の表面部は硬化するが、ショット材の硬度は、この表面部の硬化を生じさせることのできる大きさであればよく、金属製品の硬度よりも小さなものでもよい。さらに、表面硬化処理中の金属製品の温度は、例えば、金属製品を構成する材料として鉄鋼材料を用いた場合には、A3変態点を超えないように維持することが必要である。
【0013】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法の他の構成上の特徴は、金属製品を常温以下の温度に冷却しながらショット材の噴射を行うことによる。
【0014】
このように構成した本発明の金属製品の表面硬化方法では、金属製品が過度に加熱されないように、金属製品を冷却して低温に維持する。すなわち、金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にするためには、表面硬化処理中における金属製品の温度管理が重要である。結晶の転位は、表面硬化処理により温度が上昇すると回復速度が高くなるため、その場再結晶が発生する臨界転位密度まで蓄積されにくいが、低温領域においては、表面硬化処理によって微細化された結晶組織の回復が遅くなるために転位密度が蓄積され易い。すなわち、ナノ結晶粒化が生じる臨界転位密度に到達しやすくなるためである。したがって、効果的にナノ結晶領域を生成するためには、金属製品の温度を低く維持することが好ましい。
【0015】
この場合、液体窒素(温度−196℃)や液化炭酸ガス(温度−79℃)等を用いて金属製品を冷却することができ、金属製品を構成する材質に応じて、常温から−150℃程度の間で適宜最適温度に冷却することが好ましい。これによって、室温で表面硬化処理した場合と比べ、より多くのナノ結晶粒組織が生成する。また、特に、金属製品を構成する材料として鉄鋼材料を用いた場合には、金属製品が、A3変態点以上に加熱されないことが重要である。A3変態点以上に加熱されて金属製品の結晶組織がオーステナイトに変態すると、フェライト領域での表面硬化処理により得られた転位が消滅し、表面硬化処理による結晶微細化の効果が失われるためである。
【0016】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法のさらに他の構成上の特徴は、金属製品を、マルテンサイト変態を生じない金属材料で構成したことにある。これによると、従来の方法では、加工硬化のみによってしか硬化できなかった金属材料に対しても、ナノ結晶粒組織を形成することができ、種々の材料からなる金属製品の表面部の微細化処理による硬化が可能になる。
【0017】
本発明にかかる金属製品の表面硬化方法のさらに他の構成上の特徴は、金属材料を、純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金で構成したことにある。これによると、従来、ショットピーニングによる加工では、A3変態点以上の加熱によるマルテンサイトの硬化層を形成することができず、しかも金属製品として多くの分野で使用されている純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金に対してもナノ結晶粒組織を形成することができるようになる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明にかかる金属製品の表面硬化方法で用いられるショットピーニング装置10を示している。このショットピーニング装置10は、直径が50μmのスチールビーズからなるショット材20を収容するタンク11を備えている。タンク11は、円筒状の胴部11aと、胴部11aの下方に形成され、下端が先細りになった漏斗状の下部11bとで構成されている。そして、天井部には、ショット材20をタンク11内に供給するための穴部が設けられ、この穴部に蓋12が着脱可能に取り付けられている。
【0019】
また、タンク11の天井部上面には、ホッパー13が設けられており、蓋12を開けて、タンク11内にショット材20を供給する際、ホッパー13によってショット材20はタンク11内にガイドされる。さらに、タンク11の胴部11aには、圧縮空気供給管14と排気管15とが接続され、タンク11の下部11bの下端には、タンク11内のショット材20を吐出させるための吐出管16が接続されている。また、圧縮空気供給管14からは、圧縮空気供給管14aが分岐して吐出管16の上流端に接続されている。そして、圧縮空気供給管14および排気管15には、それぞれ圧縮空気供給管14および排気管15を開閉するための開閉バルブ17a,17bが設けられ、吐出管16の下流端には、ショット材20を外部に噴出するための噴射ノズル18が設けられている。
【0020】
噴射ノズル18は、先端の噴射口を冷却室19内に位置させて設置されており、冷却室19内における噴射ノズル18の前方には、金属製品30を着脱可能に、取り付けるための取付装置(図示せず)が設けられている。また、この取付装置は、金属製品30を、噴射ノズル18の噴射口に対して移動可能に保持する。また、冷却室19には、冷却室19内を常温から−150℃程度の間で温度制御する冷却装置(図示せず)が設けられており、圧縮空気供給管14には、圧縮空気供給装置(図示せず)が接続されている。また、ショット材20は金属製品30よりも硬度の大きな材質のもので構成されている。
【0021】
つぎに、以上のように構成したショットピーニング装置10を用いて図1に示した円柱状の金属製品30を表面硬化処理(以下、加工処理と記す。)する方法について説明する。金属製品30の加工処理に際しては、まず、蓋12を外してタンク11の穴部を開けて、ホッパー13に、ショット材20を供給する。これによって、ショット材20は、ホッパー13からタンク11内に落下し、タンク11の下部11bから順次胴部11aの上部に向って充填される。タンク11内のショット材20が所定量に達すると、ショット材20の供給を停止し、蓋12でタンク11の穴部を閉塞する。
【0022】
つぎに、冷却室19の取付装置に、金属製品30を取り付けて、冷却装置を作動させることにより、冷却室19内を所定の低温に維持する。そして、開閉バルブ17bを閉じるとともに、開閉バルブ17aを開けて、圧縮空気供給装置を作動させる。これによって、圧縮空気供給装置から吐出される圧縮空気は、圧縮空気供給管14を介して、タンク11に圧入され、タンク11内のショット材20をタンク11の下端部に加圧するとともに、圧縮空気供給管14aを介して吐出管16に供給される。この結果、タンク11から吐出管16に落下するショット材20は、圧縮空気によって、吐出管16の下流端に送られ、噴射ノズル18から金属製品30に向けて噴射される。
【0023】
この場合、ショット材20の噴射速度が、150〜200m/秒になるように、圧縮空気供給装置を調節する。また、金属製品30の全周面について加工処理を行う場合には、取付装置で金属製品30を回転移動させることにより、金属製品30の全周面に、ショット材20が衝突するようにする。これによって、金属製品30の表面部には、結晶粒径が、100nm以下の微細結晶からなる層が形成される。この微細結晶からなる層は、硬度も大幅に上昇したものとなる。
【0024】
以上のように、本実施形態によって加工処理された金属製品30では、表面部に、微細結晶からなる層が形成されるため、表面硬度が極めて大きくなる。したがって、金属製品30は、強度が向上し、疲労強度や耐久性の優れたものとなる。また、加工処理が終了すると、開閉バルブ17bを開けて、タンク11内を排気しておく。
【0025】
このように、金属製品30にショットピーニングによる加工処理を施すと、その表面部に加工硬化が生じるが、この加工硬化は、転位密度の平方根に比例することが知られている。一般的に、金属製品30に対する加工処理を継続していくと、結晶に生じる転位同士の合体消滅の速度も大きくなるので加工硬化の割合は加工量が増加すると次第に小さくなる。しかしながら、高ひずみ速度で金属製品30を強加工すると、結晶の転位が消滅することなく、転位密度は高い値に達する。そして、転位密度がある臨界値に達すると、転位セル組織が粒界構造に変化する。
【0026】
このときに生成する結晶粒径は、鉄鋼材料を用いた場合で、100nm以下のナノ結晶粒組織であり、組織変化と同時に強度が大幅に上昇する。このような変化は、すべての炭素鋼において生じ、また、純鉄やその他の多結晶金属材料においても生じる。また、多結晶金属材料の強度σと結晶粒径dとの間には、下記の数式1で表したホールペッチ(Hall−Petch)の関係が成り立つことが知られている。なお、下記の数式1において、σ0およびkは定数である。
【0027】
【数1】
【0028】
鉄鋼材料における結晶粒径と硬度との関係は、結晶粒径が小さくなって、50nm程度になるまでは、上記数式1にしたがって、結晶粒微細化とともに、硬度は上昇するが、結晶粒径が50nm以下になると、上記数式1によって求められる値よりも硬度は低くなる。そして、硬度の上昇は、結晶粒径が10nm程度になるまで続く。
【0029】
比較例として、Fe−3wt%Siの珪素鋼からなる粉末材を、ボールミル法(回転する円筒体内でボールと被加工物とを一緒に回転させる加工方法)を用いて加工硬化処理を行った。図2は、粉末材にボールミル加工を施すことにより、生成したナノ結晶の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像を示している。また、図3は、ボールミル加工後の粉末材を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図2および図3から分かるように、粉末材の表面部(図2の左上の部分および図3の左側部分)には、ナノ結晶領域が確認できる。また、図2におけるナノ結晶領域の右下部分および図3における右側部分には、加工硬化領域が形成されている。
【0030】
ナノ結晶領域は、通常の加工硬化領域、母材領域に比べて加熱による粒成長が極めて遅いため、加熱することにより視覚的、硬度的に通常の加工硬化領域、母材領域と明確に区別することができる。図2と図3とからわかるように、ボールミル加工後の粉末材を加熱することによって、通常の加工硬化領域の結晶粒は大幅に粗大化し硬度も低下(ビッカース硬度で、HV450からHV310に低下)しているのに対して、ナノ結晶領域は、粒成長が極めて遅く、硬度低下も小さい(HV700からHV650に低下)ことが判る。このような、加熱による再結晶挙動からもナノ結晶領域の生成を確認することができる。
【0031】
つぎに、試料として、Fe−0.03wt%Cの純鉄、Fe−3wt%Siの珪素鋼、高張力鋼板を選択し、それらの材質からなる試料に加工処理を行ったのちの硬度、強度等を比較した。その結果を、表1に示す。なお、各試料の比較試験では、すべて、ショット材20としては、粒径が50μmのスチールビーズを用い、噴射速度を150〜200m/秒、噴射圧力を0.51MPa、噴射距離を100mm、噴射時間を10秒とした。また、各試料は、取付装置に一定の姿勢で固定し、冷却室19内の温度は常温(略20℃)に維持して行った。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例1は、Fe−0.03wt%Cの純鉄からなる板材を試料1として、前記条件で、加工化処理を行った。そして、試料1の加工処理前と加工処理後におけるビッカース硬度を測定したところ、加工処理前が、HV100で、加工処理後が、HV750であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、Fe−0.03wt%Cの純鉄の表面硬度を大幅に上昇できることがわかる。
【0034】
また、図4は、加工処理後の試料1の断面SEM像を示しており、図5は、加工処理後の試料1を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図4および図5から判るように、試料1の表面部(図示の上部側部分)には、ナノ結晶領域が確認できる。また、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によって形成される加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されている。
【0035】
試料1が、Fe−0.03wt%Cの純鉄からなっていることから、実施例1によるナノ結晶化は、マルテンサイト変態とは無関係に発現することが示されており、この結果から、本発明の効果は純鉄以外の多結晶金属材料およびその合金への応用も可能であると考えられる。また、図4および図5に示すように、表面領域の下部側に表れている加工硬化領域が、焼鈍によって大幅に結晶粒が粗大化しているのに対し、表面部の結晶粒は粗大化せず成長が極めて遅いことからもこの表面部の結晶組織がナノ結晶であることが判る。
【0036】
実施例2は、Fe−3wt%Siの珪素鋼からなる板材を試料2として、前記実施例1と同じ条件で、加工処理を行った。そして、試料2の加工処理前と加工処理後におけるビッカース硬度を測定したところ、加工処理前が、HV240で、加工処理後が、HV700であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、Fe−3wt%Siの珪素鋼の表面硬度を大幅に上昇できることがわかる。
【0037】
また、図6は、加工処理後の試料2の断面SEM像を示しており、図7は、加工処理後の試料2を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図6および図7から分かるように、試料2の表面部(図示の上部側部分)にも、ナノ結晶領域が確認できる。また、この場合も、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によって得られる加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されている。また、実施例1と同様、図6および図7に表れているように、表面領域の下部側の加工硬化領域の結晶粒が、焼鈍によって大幅に粗大化しているのに対し、表面部の結晶粒が粗大化せず成長が極めて遅いことからもこの組織がナノ結晶であることが判る。
【0038】
実施例3は、引張強さが、650N/mm2の高張力鋼板からなる平板疲労試験片を試料3として、実施例1,2と同じ条件で、加工処理を行った。そして、試料3の加工処理前と加工処理後において平面曲げ疲れ試験を行ったところ、加工処理前の強度σ(A107)が80N/mm2で、加工処理後の強度σ(A107)が220N/mm2であった。これによって、本発明の表面硬化方法によると、高張力鋼板の平面曲げ疲労強度を大幅に上昇できることがわかる。なお、この場合の「強度σ(A107)が80N/mm2」は、試料3に、80N/mm2の力を107回繰り返し付加したときに試料3が、疲労破壊したことを示している。
【0039】
また、図8は、加工処理後の試料3の断面SEM像を示しており、図9は、加工処理後の試料3を、600℃の温度で1時間焼鈍したのちの断面SEM像を示している。図8および図9から分かるように、試料3の表面部(図示の上部側部分)にも、ナノ結晶領域が確認できる。また、この場合も、図示におけるナノ結晶領域の下方には、従来の表面硬化方法によっても形成される加工硬化領域と同様の加工硬化領域が形成されており、その下方には、母材の組織が確認できる。また、前述した実施例1,2と同様、ナノ結晶化加工後の焼鈍前後での結晶粗大化を比較しても、ナノ結晶領域の加熱による粒成長が、加工硬化領域に比べて極めて微小であることを確認できる。
【0040】
以上の結果から、実施例1ないし3によって得られた各試料1〜3の表面部は、ショットピーニングによって、高ひずみ速度で超強加工されることにより加工硬化することがわかる。そして、各試料1〜3の表面部は、加工硬化したのち、転位密度が所定の臨界値を越えるとその場再結晶が起こり、転位が殆ど消滅すると同時に、結晶粒がナノ結晶化することで、加工硬化状態のほぼ2倍という高い強度になる。この現象は、純粋に加工による効果であり、マルテンサイト変態とは異なるため、マルテンサイト変態が生じない純鉄や珪素鋼においても発現する。
【0041】
また、従来の方法による加工硬化と異なることは、強度が2倍も高くなることである。この場合の加工硬化による強度の変化は、連続して変化していくものでなく、加工硬化が所定のレベルに達したときに、突然大きく変化する。したがって、本発明の効果を得るためには、所定の臨界値以上のひずみ速度とひずみ量を得るために、ショット材20の大きさ、噴射速度およびショット時間を最適値に設定することが極めて重要になる。
【0042】
また、従来の微粒子ショットピーニングによる表面加工熱処理方法により、マルテンサイト変態を利用して硬化組織を形成する場合には、金属製品30の表面部をA3変態点以上に加熱することが必要となるが、本発明では、金属製品30の温度を上げるとその効果を得難くなり、冷却することによりより好ましい結果が得られる。
【0043】
また、金属製品30として、鉄鋼材料を用いた場合、その鉄鋼材料に含有される炭素の含有量は、ナノ結晶粒領域の硬度に影響を及ぼす。この場合、炭素の含有量の増加にしたがって、鉄鋼材料の硬度が上昇する。この硬度上昇への炭素の影響としては、結晶組織への炭素の固溶も一部にあるが、その殆どは、炭素の含有量が多くなるにしたがって、フェライト粒が微細になることに起因する。
【0044】
また、本発明によって得られるナノ結晶粒組織は、加熱による再結晶挙動が、従来の表面硬化方法による加工硬化とは、全く異なる。すなわち、従来の表面硬化方法による加工硬化状態では、不連続再結晶が生じ、例えば、600℃の温度で、1時間の焼鈍を行うと、数μm以上の大きさの結晶粒が形成されるが、本発明による表面硬化方法では、ゆっくりとした粒成長のみが生じ、結晶粒の大きさが100nm以下のナノ結晶粒組織が維持される。結晶粒成長が遅いということは、熱的に安定しているということであり、焼き戻し軟化抵抗が大きいということである。したがって、本発明による表面硬化方法によって加工処理される金属製品30が、高温条件下で使用される機械部品等であれば、特に、好ましい効果が得られる。
【0045】
以上のように、本発明によれば、ショット材20を高速で金属製品30に噴射することにより、金属製品30の表面部に、強加工によるナノ結晶化効果を容易に発現させることができる。また、表面から数μmの深さを従来の加工硬化法やマルテンサイト変態では、到達し得ない高い硬度にするとともに、圧縮残留応力を発生させて、優れた疲労特性、靭性などを得ることができ、これによって金属製品30の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態で使用するショットピーニング装置を示す概略図である。
【図2】ボールミル加工処理を施した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図3】ボールミル加工処理を施したのちに焼鈍した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図4】本発明による加工処理を施した純鉄からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図5】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した純鉄からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図6】本発明による加工処理を施した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図7】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した珪素鋼からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図8】本発明による加工処理を施した高張力鋼板からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【図9】本発明による加工処理を施したのちに焼鈍した鋼張力鋼板からなる試料の断面の電子顕微鏡写真の複写図である。
【符号の説明】
10…ショットピーニング装置、14,14a…圧縮空気供給管、16…排気管、18…噴射ノズル、19…冷却室、20…ショット材、30…金属製品。
Claims (4)
- 金属製品の表面に、前記金属製品の硬度と同等以上の硬度を有する直径が40〜200μmのショット材を、100m/秒以上の速度で噴射し、前記金属製品の表面部の結晶粒径を100nm以下にすることにより前記表面部を硬化させることを特徴とする金属製品の表面硬化方法。
- 前記金属製品を常温以下の温度に冷却しながら前記ショット材の噴射を行う請求項1に記載の金属製品の表面硬化方法。
- 前記金属製品を、マルテンサイト変態を生じない金属材料で構成した請求項1または2に記載の金属製品の表面硬化方法。
- 前記金属製品を、純鉄、低炭素鋼、非鉄金属またはそれらを含む合金で構成した請求項3に記載の金属製品の表面硬化方法。
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