≪実施形態1≫
本発明の実施形態について、図1〜図13に基づいて説明すると以下のとおりである。
本発明の生体測定装置は、生体の状態をセンシングするセンサなどから生体信号情報を取得し、そこから得られるパラメータを用いて被験者の様々な状態、症状を測定するものである。
本実施形態では、生体の一例として、人間(以下、被験者と称する)の状態をセンシングする生体センサとして、被験者が発する音を取得する1つの音響センサを用いることとする。そして、本発明の生体測定装置を、上記音響センサとは別体で設けられた、可搬性、携帯性にすぐれた小型の情報処理装置にて実現する場合について説明する。よって、本実施形態では、センサが取得した生体信号情報は、無線または有線の適宜の通信手段を介して生体測定装置に供給される。しかし、これに限らず、本発明の生体測定装置は、パソコンなどの据え置き型の情報処理装置にて実現してもよい。また、本発明の生体測定装置は、上記の構成に限定されず、上記センサ自体に内蔵して実現してもよい。
さらに、本発明の生体測定装置は、人間以外の動物(例えば犬など)を生体として扱い、動物の生体音を取得して、動物の状態を測定することも可能である。
〔生体測定システム〕
図2は、本発明の実施形態における生体測定システム100の構成を示す概略図である。本発明の生体測定システム100は、少なくとも、1つの音響センサ(生体音センサ)2と、解析装置(生体測定装置)1とを含む構成となっている。さらに、図2に示すとおり、生体測定システム100には、被験者の測定に関わる各種の情報を処理する外部装置3が含まれていてもよい。
音響センサ2は、被験者の体に装着され、当該被験者が発する音を検出する密着型のマイクロフォンである。音響センサ2の表面には粘着剤層が設けられており、この粘着剤層によって音響センサ2が被験者の体表面に装着される。音響センサ2の装着位置は、目的の音が効果的に拾える箇所であればよい。例えば、被験者の呼吸音、咳音などを検出する目的では、音響センサ2は、気道、胸のあたりに装着され、被験者の心音、心拍数などを検出する目的では、胸部左(被験者から見て)に装着され、被験者の腹腔音を検出する目的では、腹部に装着される。
音響センサ2は、被験者が発出した生体音を検出し、検出した生体音の音データを生体信号情報として解析装置1に送信する。例えば、図2に示す例では、胸部左に装着された音響センサ2は、検出した心音の音データを生体信号情報として解析装置1に送信する。音響センサ2から出力される音データを、生体信号情報の中でも特に、生体音信号情報と称する。
図3の(a)は、音響センサ2の要部構成を示すブロック図である。図3の(a)に示すとおり、音響センサ2は、制御部120、電力供給部129、マイク部130、無線通信部131、および、粘着剤層124を備える構成となっている。
電力供給部129は、制御部120、マイク部130および無線通信部131の各回路に電力を供給するものであり、一般的な畜電池で構成される。あるいは、電力供給部129は、ACアダプタなどへ有線接続する接続部で構成されてもよい。また、電力供給部129は、無線給電によるエネルギー供給を受けるシステムの場合、供給されたエネルギーを一時的に蓄えておくキャパシタなどで構成される。
マイク部130は、被験者が発する生体音を採取するものである。
粘着剤層124は、音響センサ2が重力や衣服等の摩擦によって、被験者の体表面から脱落したり離れ過ぎたりしないようにするための装着機構であり、音響センサ2の外表面上に設けられる。粘着剤層124は、吸盤や吸着ジェル等によって実現され、体表面上に留まるための機能を提供する。
無線通信部131は、生体測定システム100における他の装置(解析装置1、外部装置3、あるいは、他の生体センサ)と無線通信するものである。無線通信手段としては、Bluetooth(登録商標)通信、WiFi通信などの近距離無線通信手段を採用し、各種の装置と直接近距離無線通信を行うことが想定される。あるいは、構内LANを構築し、これを介して各種装置と無線通信を行ってもよい。
特に、無線通信部131は、音響センサ2が採取した生体音信号情報を解析装置1に送信したり、解析装置1から送信された制御データを受信したりする。制御データは、解析装置1が、測定の開始や終了、測定条件の設定などを、音響センサ2に対して遠隔制御するための情報である。
なお、音響センサ2と解析装置1とがケーブルを介して有線接続されていてもよく、この場合、音響センサ2は、無線通信部131の代わりに、ケーブルを介して有線通信を行う通信部を備え、通信部が、ケーブルを介して、解析装置1などとの間で、各種情報の送受信を実行する。
制御部120は、自装置の各部を制御するものであり、センサ用のマイクロコンピュータなどで実現される。制御部120は、A/Dコンバータなどで実現されるアナログ/デジタル(A/D)変換部127を内蔵している。A/D変換部127は、マイク部130が採取した生体音をデジタル化して音データを出力する。デジタル化された音データは、生体音信号情報として、無線通信部131を介して、解析装置1に送信される。
図3の(b)は、音響センサ2の構成の一例を示す図であり、音響センサ2の構成を示す断面図である。同図に示すように、音響センサ2は、いわゆるコンデンサマイクロフォン方式の集音ユニットであり、円柱形状で一端面が開口した筐体部121と、筐体部121の開口面を閉塞するように筐体部121に密着したダイアフラム123とを備えている。また、音響センサ2は、第1変換部125および第2変換部としてのA/D変換部127を搭載した基板128と、第1変換部125およびA/D変換部127に電源を供給するバッテリとしての電力供給部129を備えている。
上述のマイク部130は、図3の(b)に示すとおり、ダイアフラム123、第1変換部125、および、空気室壁126によって実現されている。
ダイアフラム123の表面には粘着剤層124が設けられており、この粘着剤層124によって音響センサ2が被験者の体表面(H)に装着される。音響センサ2の装着位置は、目的の測定部位の音(心音、呼吸音、腹腔音など)が効果的に拾えるよう適宜定められる。
ダイアフラム123は、被験者が生体音を発すると、この生体音の波長に合わせて微小振動する。ダイアフラム123の微小振動は、上面及び下面が開口した円錐形状の空気室壁126を伝って第1変換部125に伝搬される。
空気室壁126を介して伝えられえた振動は、第1変換部125によって電気信号に変換され、A/D変換部127によってデジタル信号に変換されて、生体音信号情報として、解析装置1に送信される。
解析装置1は、音響センサ2から取得した生体音信号情報に基づいて、被験者の状態を測定するものである。解析装置1は、取得した生体音信号情報を生体測定処理にかけることにより測定結果を得ることができる。具体的には、生体測定処理は、1または複数の情報処理からなっている。解析装置1は、得られた生体音信号情報に対して、1または複数の情報処理を実行して、被験者の状態を示す測定結果情報を導出する。1または複数実行される「情報処理」とは、例えば、生体音信号情報(すなわち、音データ)を分析して測定に使う音データとしての品質の良し悪し判定する「品質判定処理」であったり、生体音信号情報から被験者に係る様々な情報(パラメータ)を抽出して、パラメータに基づいて被験者の状態を評価する「状態評価処理」であったりする。しかし、解析装置1が、測定結果情報を導出するために、生体音信号情報に対して実行する情報処理は、上記に限定されない。さらに、第3の情報処理、第4の情報処理・・・の各種情報処理が実行されてもよい。例えば、解析装置1は、「情報処理」として、さらに、生体音信号情報から解析に不要な雑音などの成分を除去する「雑音除去処理」を実行する機能を備えていてもよい。
本発明の解析装置1は、1つの情報処理につき、幾通りものアルゴリズムを記憶している。この幾通りものアルゴリズムは、音響センサ2の属性情報ごとに用意されている。音響センサ2の属性情報とは、以下に限定する意図はないが、例えば、(1)音響センサ2が被験者の体のどこに装着されているか(以下、属性情報名は「装着位置」)、(2)音響センサ2で被験者の体の何の音を測定したいのか、すなわち、大まかな測定の目的(以下、属性情報名は「測定部位」)、および、(3)音響センサ2で被験者のどのような状態(具体的な症状)を測定したいのか、すなわち、詳細な測定の目的(以下、属性情報名は「測定項目」)などである。
したがって、解析装置1は、用いるセンサが音響センサの1種類であっても、音響センサ2の属性情報(装着位置、測定部位、測定項目)に応じて、1つの情報処理について、実行すべき処理のアルゴリズムを異ならせることが可能である。音響センサの1種類を用いるだけで、音響センサ2の装着位置や測定の目的に応じて、多様な生体測定処理を実現し、測定の目的に適った測定結果情報を導出することができる。つまり、解析装置1は、属性情報に応じて、適したアルゴリズムを選択することができる。結果として、被験者の状態について判定の精度を向上させることが可能となる。
解析装置1において、音響センサ2の属性情報はどのようにして決定されるのかについては、以下で詳しく説明するが、例えば、外部装置3を介してユーザが指定する属性情報が解析装置1に送信されることが想定される。
なお、本実施形態では、解析装置1は、情報処理「状態評価処理」を実行するにあたり、被験者に関する様々なパラメータを用いる。例えば、解析装置1は、測定結果の精度を向上させるために、音響センサ2以外の装置(外部装置3など)から取得した外部取得情報、および、自装置に直接入力された手動入力情報からパラメータを抽出して利用することができる。
ここで、音響センサ2などの各種生体センサから得られる生体(音)信号情報から得られるパラメータを「生体(音)パラメータ」、また、上記外部取得情報または上記手動入力情報から得られるパラメータを「外的パラメータ」と称し、これらの用語は、両者を性質上区別する必要がある場合に用いる。
生体パラメータは、被験者の生理状態を反映したものである。生体パラメータの具体例としては、例えば、音響センサ2が検出した音データ(生体音信号情報)から取得される「音量」、「周波数分布」などが想定される。さらに、波形がパターン化される場合に、波形のパターンを分析することにより、波形の「間隔」、「周期」、「有無」、「長短」、「回数」などが、生体パラメータとして抽出されてもよい。
外的パラメータは、上記生体パラメータが被験者の生理状態を反映したものであるのに対し、被験者の体外の環境条件を反映したものである。外的パラメータの具体例としては、例えば、生体センサの仕様情報(バージョン情報、どういった情報を検出できる機能を持つのか、など)、上記生体センサの装着位置(胸部、腹部、背中、気道付近など)、上記被験者に関する被験者情報(年齢、性別、睡眠時間、直前の食事時間、運動量、過去の疾患履歴など)、および、上記被験者が置かれた測定環境(気温、気圧、湿度など)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
解析装置1は、上記生体パラメータに、上記外的パラメータを適切に組み合わせて測定結果情報を導出することにより、測定の目的に適ったさらに精度よい判定を実現することが可能となる。
解析装置1は、上述のようにして、生体音信号情報に対して、1つ以上の情報処理を実行し、得られた測定結果情報を、自装置の表示部に表示するとともに、外部装置3に送信する。なお、解析装置1は、上記測定結果情報のみならず、音響センサ2から得た処理前の生体音信号情報(音データそのもの)を、外部装置3に転送する構成であってもよい。
外部装置3は、解析装置1と通信して、解析装置1において実行される生体測定処理に係る各種情報をやり取りし、また、それらの情報を処理するものである。本実施形態の生体測定システム100において、外部装置3は、解析装置1と通信できればどのような装置であってもよい。例えば、外部装置3は、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末装置3a、ノートパソコン3b、データ蓄積装置3cなどで実現される。
次に、上述した解析装置1の構成についてさらに詳細に説明する。
〔解析装置1の構成〕
図1は、本発明の実施形態における解析装置1の要部構成を示すブロック図である。
図1に示すとおり、本実施形態における解析装置1は、制御部10、記憶部11、センサ通信部12、入力操作部14および表示部15を備える構成となっている。また、解析装置1は、上述の各部の回路に電力を供給する図示しない電力供給部を有する。なお、解析装置1は、通信部13を備えていてもよい。
センサ通信部12は、生体測定システム100における、音響センサ2などの各種生体センサと通信するものである。本実施形態では例えば、センサ通信部12は、無線通信手段にて実現される。無線通信手段としては、Bluetooth(登録商標)通信、WiFi通信などの近距離無線通信手段を採用し、音響センサ2と直接近距離無線通信を行うことが想定される。あるいは、構内LANを構築し、これを介して音響センサ2と無線通信を行ってもよい。
なお、解析装置1のセンサ通信部12は、有線通信手段によって音響センサ2との通信を実現してもよい。ただし、音響センサ2と解析装置1との通信を無線で実現することが好ましい。無線通信にすることで、音響センサ2の被験者への装着が平易になり、測定環境下における被験者の行動に対する制約が減り、被験者のストレスや負担を低減できるからである。
通信部13は、外部装置3などの各種外部装置と通信するものである。本実施形態では、例えば、通信部13は、広域通信網を介して外部の装置と通信を行う。通信部13は、構内LANまたはインターネットなどを介して、外部の装置と情報の送受信を行う。例えば、解析装置1は、生体測定処理に利用する外的パラメータを抽出するための外部取得情報を、通信部13を介して、外部の情報提供装置から受信してもよい。ここで、通信部13が取得する外部取得情報としては、特定の日の天気、気温、気圧、湿度や、利用する各生体センサの仕様情報などが想定される。例えば、仕様情報を参照することにより、解析装置1は、どの測定項目に応じてどの生体センサからのパラメータを利用するべきかを判断したり、あるいは、複数の生体センサを同時に利用するときの組み合わせの条件や、禁忌を把握したりすることができる。あるいは、通信部13は、外部装置3に対してユーザから入力された測定開始の指示や、属性情報の選択を外部装置3から受信してもよい。なお、通信部13は、無線通信手段、および、有線通信手段のいずれの手段で採用されてもよく、生体測定システム100の実施の形態に合わせて最適な手段が適宜採用される。
入力操作部14は、ユーザ(被験者自身あるいは測定を行う操作者を含む)が解析装置1に指示信号を入力するためのものである。解析装置1が、図2に示すように小型の情報処理装置にて実現される場合には、入力操作部14は、数個のボタン(十字キー、決定キー、文字入力キーなど)、タッチパネル、タッチセンサ、もしくは、音声入力部と音声認識部などの適宜の入力装置で構成される。あるいは、解析装置1が据え置き型の情報処理装置にて実現される場合には、入力操作部14としては、上述の入力装置の他に、複数のボタン(十字キー、決定キー、文字入力キーなど)で構成されるキーボード、マウスなどの入力装置が採用されてもよい。本実施形態では、ユーザは、入力操作部14を用いて、測定の開始や終了の指示を入力したり、音響センサ2の装着位置、測定部位、測定項目などの属性情報を選択したりすることができる。さらに、ユーザは、入力操作部14を用いて、測定に必要な情報(手動入力情報)を解析装置1に直接入力してもよい。例えば、被験者の年齢、性別、平均睡眠時間、測定日当日の睡眠時間、直近の食事時間、食事内容、運動量などの各パラメータが解析装置1に入力される。
表示部15は、解析装置1が実行した生体測定処理の測定結果を表示したり、ユーザが解析装置1を操作するための操作画面をGUI(Graphical User Interface)画面として表示したりするものである。例えば、ユーザが、上述の各パラメータを入力するための入力画面を表示したり、ユーザが、測定項目を指定して測定の開始を指示するための操作画面を表示したり、実行した生体測定処理の測定結果を表す結果表示画面を表示したりする。表示部15は、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)などの表示装置で構成される。
本実施形態では、解析装置1は、携帯可能な小型の情報処理装置で実現されているため、解析装置1に備えられた入力操作部14および表示部15は、インターフェース部として入出力されるべき情報量に対して十分に対応できないことが考えられる。このような場合には、入力操作部14および表示部15を、ノートパソコン3bやその他据え置き型の情報処理装置に備えられているインターフェース部にて実現することが好ましい。
上記構成によれば、ノートパソコン3bの表示部15に、上記操作画面を表示し、ノートパソコン3bの入力操作部14(キーボード、マウスなど)から、ユーザの指示を受け付ける。これにより、ユーザは、容易に、測定の開始や終了の指示を入力したり、音響センサ2の装着位置、測定部位、測定項目などの属性情報を選択したりすることができ、操作性が向上する。ノートパソコン3bを介して入力された指示や属性情報は、構内LANを介して解析装置1の通信部13に送信される。また、ノートパソコン3bの表示部15は、測定結果を表す結果表示画面を、解析装置1の表示部15よりも大きく表示することができ、測定結果についてより多くの情報をユーザに分かり易く提示することが可能となる。解析装置1が導出した測定結果情報は、構内LANを介して、解析装置1の通信部13からノートパソコン3bに送信される。
制御部10は、解析装置1が備える各部を統括制御するものであり、機能ブロックとして、情報取得部20、属性情報決定部21、アルゴリズム選択部22、ならびに、情報処理部としての、品質判定部23および状態評価部24を備えている。これらの各機能ブロックは、CPU(central processing unit)が、ROM(read only memory)、NVRAM(non-Volatile random access memory)等で実現された記憶装置(記憶部11)に記憶されているプログラムを不図示のRAM(random access memory)等に読み出して実行することで実現できる。
記憶部11は、制御部10が実行する(1)制御プログラム、(2)OSプログラム、(3)制御部10が、解析装置1が有する各種機能を実行するためのアプリケーションプログラム、および、(4)該アプリケーションプログラムを実行するときに読み出す各種データを記憶するものである。特に、記憶部11は、解析装置1が実行する生体測定処理を実行する際に読み出す各種プログラム、データを記憶する。具体的には、記憶部11には、音データ記憶部30、測定方法記憶部31、音源記憶部32および属性情報記憶部34が含まれる。
なお、解析装置1は、図示しない一時記憶部を備える。一時記憶部は、解析装置1が実行する各種処理の過程で、演算に使用するデータおよび演算結果等を一時的に記憶するいわゆるワーキングメモリであり、RAMなどで構成される。
制御部10の情報取得部20は、生体測定処理に必要な各種情報を取得するものである。詳細には、情報取得部20は、センサ通信部12を介して、音響センサ2から生体音信号情報(音データ)を取得する。情報取得部20は、取得した音データを音データ記憶部30に格納する。情報取得部20は、音データを格納するとき、採取日時や被験者情報などを併せて格納してもよい。なお、情報取得部20は、取得したすべての音データを、音データ記憶部30に格納するのではなく、一旦、制御部10が参照する不図示のRAMなどに入力することが好ましい。上記構成によれば、取得した音データに対するリアルタイム処理を実行することが可能となり、音データのすべてが必要でない場合に処理負荷を低減することができ、かつ、音データ記憶部30のメモリ容量を節約することが可能となる。
属性情報決定部21は、解析装置1が実行しようとする生体測定処理において用いられる音響センサ2の属性情報を決定するものである。一例として、属性情報決定部21は、音響センサ2の装着位置、および、音響センサ2による大まかな測定の目的(測定部位)を決定する。詳細な測定の目的も定まる場合には、測定項目も併せて決定してもよい。属性情報の決定方法は、いくつか考えられる。
本実施形態では、属性情報の入力画面を外部装置3の表示部15に表示して、外部装置3の入力操作部14にてユーザに選択させる構成が考えられる。属性情報決定部21は、通信部13を介して、ユーザによって選択された属性情報を受信し、受信した内容に基づいて、ユーザによって指定された装着位置および測定部位(および測定項目)を決定する。
図4は、表示部15に表示される属性情報の入力画面の一例を示す図である。図4に示すとおり、属性情報決定部21は、人体図40を表示部15に表示し、装着位置の選択を受け付ける。ユーザは、例えば、入力操作部(マウス)14を操作して、所望の装着位置をクリックすることにより、音響センサ2の装着位置を指定することができる。図4に示す例では、指定された装着位置には、黒塗りの星印42が表示される。このように装着位置が指定されると、属性情報決定部21は、指定された星印42の位置に対応する装着位置(例えば、「正面−胸−左上」)を、属性情報「装着位置」として決定する。なお、属性情報決定部21は、想定されるすべての装着位置を候補として、白抜きの星印を表示してもよいし、装着位置をテキストにてリストにして表示してもよい。
属性情報決定部21は、測定部位の候補43を表示部15に表示し、測定部位の選択を受け付ける。ユーザは、入力操作部14を操作して、所望の測定部位をクリックすることにより、音響センサ2の測定部位を指定することができる。同様に、測定項目の候補44が表示部15に表示される。ユーザは、所望の測定項目をクリックし、音響センサ2の測定項目を指定することができる。属性情報決定部21は、ユーザによって選択された選択肢を、属性情報「測定部位」、「測定項目」として決定する。図4に示すとおり、測定の目的は、漠然と「心音」「呼吸音」「血流音」・・・のように、測定部位を選択することもできれば、さらに詳細に具体的な疾患名(測定項目)を選択することもできる。
属性情報決定部21は、上述のとおり決定した属性情報をアルゴリズム選択部22に伝達する。さらに、属性情報決定部21は、決定した属性情報を不揮発的に記憶しておく場合には、決定した属性情報を属性情報記憶部34に格納しておく。
アルゴリズム選択部22は、属性情報決定部21によって決定された属性情報に応じて、解析装置1の各種の情報処理部が実行すべきアルゴリズムを、複数通りある中から選択するものである。測定方法記憶部31には、各種の情報処理につき、幾通りものアルゴリズムが属性情報に対応付けて記憶されている。アルゴリズム選択部22は、測定方法記憶部31を参照し、決定された属性情報に基づいて、各情報処理部が実行すべきアルゴリズムを選択する。
図5Aは、測定方法記憶部31に記憶される、属性情報とアルゴリズムとの対応関係を示す対応テーブルの具体例を示す図である。図5Bは、測定方法記憶部31に記憶される、各情報処理のアルゴリズムの具体例を示す図である。
図5Aに示すとおり、解析装置1は、属性情報とアルゴリズムとの対応関係を示す情報を測定方法記憶部31に保持している。図5Aに示す例では、対応関係を示す情報は、対応テーブルとしてテーブル形式にて保持されているが、対応関係が維持されてさえいれば、どのようなデータ構造でもかまわない。
図5Aに示す対応テーブルでは、装着位置かつ測定部位ごとにアルゴリズムのセットが対応付けられている。図5Aに示す例では、一例として、装着位置のバリエーションは27個、測定部位のバリエーションは5個であるので、27×5=135通りのアルゴリズムが予め用意されている。
アルゴリズム選択部22は、属性情報決定部21より伝達された装着位置と、測定部位とに基づいて、アルゴリズムを選択する。例えば、「装着位置」として「正面−胸−左上」が、「測定部位」として「心音」が選択された場合、アルゴリズム選択部22は、図5Aの対応テーブルを参照し、A3のアルゴリズムを選択する。
図5Bは、選択されたA3のアルゴリズムの具体例を示している。本実施形態では、解析装置1は、情報処理部として、品質判定部23と、状態評価部24とがある。そこで、A3のアルゴリズムには、品質判定部23が実行する品質判定処理のための、品質判定アルゴリズムA3と、状態評価部24が実行する状態評価処理のための、状態評価アルゴリズムA3とが少なくとも含まれる。ここで、解析装置1が、第3の情報処理部、第4の情報処理部を有している場合、それぞれが実行する情報処理についても、A3のアルゴリズムが含まれる。
図5Bに示す例では、A3の品質判定アルゴリズムは、装着位置および測定部位ごとに1通りであるので、測定項目によらず共通である。この場合、アルゴリズム選択部22は、当該A3の品質判定アルゴリズムを選択し、このアルゴリズムにしたがって品質判定処理を実行するように品質判定部23に伝達する。
図5Bに示す例では、A3の状態評価アルゴリズムは、さらに、測定項目ごとに幾通りか用意されている。そこで、アルゴリズム選択部22は、決定された測定項目に基づいて、対応するアルゴリズムを選択する。例えば、「測定項目」として「僧帽弁開放音(疾患名:僧帽弁閉鎖不全)」がユーザによって選択された場合、アルゴリズム選択部22は、図5Bに示すA3の状態評価アルゴリズムの中から、評価関数「f1(x)」と、閾値「6」とを含むアルゴリズムを選択する。アルゴリズム選択部22は、選択した上記アルゴリズムにしたがって状態評価処理を実行するように状態評価部24に伝達する。もし、測定項目が、属性情報決定部21によって決定されなかった場合には、アルゴリズム選択部22は、A3のすべての状態評価アルゴリズムを実行するように、状態評価部24に指示してもよい。
図5Bに示すとおり、対応テーブルにて一意に特定されたアルゴリズム(例えば、A3のアルゴリズム)には、先に選択された品質判定アルゴリズムと対をなす状態評価処理アルゴリズムが測定項目ごとにそれぞれ用意されている。これにより、例えば、同じ心音を評価するアルゴリズムA3であっても、状態評価処理アルゴリズムでは、その心雑音の特性(測定項目、または、対象疾患)ごとに異なるアルゴリズムが設けてある。このため、品質判定部23は、1種類の音響センサ2から取得される音データに基づいて、様々な疾患ごとの詳細な評価を行うことが可能である。
品質判定部23は、品質判定処理を実行するものである。品質判定処理とは、音響センサ2から得られた生体音信号情報(すなわち、音データ)を分析して測定に使う音データとしての品質の良し悪し判定する処理であり、解析装置1が実行する生体測定処理に含まれる情報処理の1つである。品質判定部23は、アルゴリズム選択部22によって選択された品質判定アルゴリズムにしたがって、上記音データを処理する。そして、採取した音データが、あらかじめ決定された測定の目的を達成するのに十分な品質を備えているか否かを判定する。例えば、品質判定部23は、測定部位「心音」が選択されているのに、音データ中の心音の音量が不十分であれば、音データの品質は不十分であると判定する。品質判定部23は、音データの品質に対する判定結果を表示部15に出力してもよい。これにより、ユーザは、被験者に装着された音響センサ2の装着箇所や、装着状態を改善することができる。あるいは、品質判定部23の指示にしたがって、情報取得部20は、音響センサ2から音データを取得しなおしてもよい。品質判定部23は、品質が良好と判定した音データのみを、後工程の情報処理部(状態評価部24など)に引き渡す。上記構成によれば、音データが不完全な状態で、処理にかけられることを防止することができる。
状態評価部24は、状態評価処理を実行するものである。状態評価処理とは、生体音信号情報から被験者に係る様々な情報(パラメータ)を抽出して、パラメータに基づいて被験者の状態を評価する処理であり、解析装置1が実行する生体測定処理に含まれる情報処理の1つである。状態評価部24は、アルゴリズム選択部22によって選択された状態評価アルゴリズムにしたがって、上記音データを処理する。そして、選択された測定項目にそって、測定結果情報を導出する。例えば、測定項目「僧帽弁開放音(疾患名:僧帽弁閉鎖不全)」が選択された場合、状態評価部24は、上記音データから様々なパラメータを抽出し、これらを評価関数「f1(x)」にかけて、得られた値を閾値「6」と比較する。そして、比較結果に基づいて、僧帽弁閉鎖不全に関して異常の有無を評価する。さらに、状態評価アルゴリズムには、異常の有無にかかわらず、音データから心拍数を求める計算が含まれていてもよい。状態評価部24は、異常の有無の評価結果、心拍数、および、その他導出した情報を測定結果情報として、表示部15に出力する。
図6は、表示部15に表示される測定結果情報の出力画面の一例を示す図である。図6に示すとおり、状態評価部24は、選択された測定項目に対する被験者の状態評価結果64を出力する。図6に示す例では、状態評価結果64には、選択された測定項目「僧帽弁開放音(疾患名:僧帽弁閉鎖不全)」に関し、被験者の状態が正常か、異常か(あるいは要注意、要経過観察など)の評価が含まれている。さらに、状態評価部24は、選択された属性情報(装着位置61、測定部位62および測定項目63)を表示してもよい。さらに、状態評価部24は、心拍数を求めた場合には、心拍数の算出結果および心拍数の異常の有無を心拍数情報65として表示部15に表示してもよい。さらに、状態評価部24は、状態評価処理の過程で音データから抽出した様々な生体パラメータの評価結果を表示部15に表示してもよい。例えば、図6に示すとおり、レーダチャート形式にして評価結果を表示することが考えられる。
なお、状態評価部24が出力した測定結果情報は、必要性や目的に応じて、外部装置3の各装置に送信され、外部装置3において、測定結果情報が表示されたり、蓄積されたり、あるいは、別の処理に用いられたりする。
品質判定部23および状態評価部24の動作については、具体例を用いて後に詳述する。
〔生体測定処理フロー〕
図7は、本実施形態における解析装置1の生体測定処理の流れを示すフローチャートである。
解析装置1において、生体測定処理を実行するアプリケーションが起動されると、属性情報決定部21は、例えば、図4に示すような入力画面を表示部15に表示して、ユーザから属性情報の選択を受け付ける(S101)。属性情報決定部21は、入力操作部14を介して入力された選択肢に基づいて、属性情報「装着位置」、「測定部位」、および、「測定項目」を決定する(S102)。
ここで、ユーザは、音響センサ2を、被験者の身体上において、S101にて入力した装着位置と同じ位置に装着する。ユーザは、測定の準備が完了し、決定された属性情報で問題がなければ、図4に示す「測定開始」のボタンをクリックするなどして、測定の開始を解析装置1に指示する。なお、音響センサ2の装着のタイミングとしては、先に所定の装着箇所に音響センサ2を装着した後に、S101の入力を行う順番であっても構わない。
入力操作部14を介して「測定開始」のボタンがクリックされると(S103においてYES)、アルゴリズム選択部22は、属性情報決定部21によって決定された「装着位置」および「測定部位」に対応する品質評価アルゴリズムを選択する(S104)。ここまでで、測定開始のための準備が終了し、解析装置1および音響センサ2は、生体測定処理の実行状態に遷移する。
まず、音響センサ2が、被験者の生体音を採取する。情報取得部20は、音響センサ2から、上記生体音の音データ(生体音信号情報)を取得する(S105)。品質判定部23は、アルゴリズム選択部22によって選択された品質判定アルゴリズムにしたがって、S105にて取得された音データの品質を判定する(S106)。例えば、S101にて選択された測定部位の音が、一定以上の音量で該音データに含まれているのか否かなどを判定する。これにより、音響センサ2の装着位置または装着状態の適否、および、測定部位に基づいた生体音が高品質で測定できているか否かが判断される。
ここで、品質判定部23が、音データの品質が不十分であると判定した場合(S107においてNO)、品質判定部23は、装着位置または装着状態が良好でない旨のエラーメッセージを表示部15に表示して、ユーザに対し、音響センサ2の再装着を促してもよい(S108)。さらに、図4の人体図40を表示して、正しい装着位置をユーザに提示してもよい。
一方、品質判定部23が、音データ(音響センサ2が再装着され、再取得された音データも含む)の品質が十分であると判定した場合(S107においてYES)、解析装置1は、詳細な健康情報を求めるための処理に移行する。すなわち、アルゴリズム選択部22は、S101にて選択された、装着位置、測定部位および測定項目に基づいて、状態評価アルゴリズムを選択する(S109)。そして、状態評価部24は、アルゴリズム選択部22によって選択された状態評価アルゴリズムにしたがって、S105にて取得された音データを処理して、被験者の状態を評価する(S110)。状態評価部24は、選択された測定項目に対応する被験者の状態を測定、評価し、これにより導出した測定結果情報を表示部15に出力する(S111)。測定結果情報は、例えば、図6に示す出力画面のように表示される。
本実施形態における解析装置1の構成および、上記生体測定方法によれば、ユーザは簡便な入力操作に行うだけで、(1種類の)音響センサを用いて、様々な測定項目に沿って、精度よい測定を行うことが可能となる。特に、測定したい対象音(測定部位)が明確であり、そのための測定方法(装着位置)について、ある程度の知識を有するユーザに対しては、特に、効率的で利便性の高い生体測定システム100を実現することが可能となる。
〔品質判定処理について〕
次に、S106において品質判定部23が実行する品質判定処理について、具体例を用いて説明する。以下の説明では、属性情報決定部21が、装着位置を「正面−胸−左上」、測定部位を「心音」と決定している場合を想定している。
図8の(a)および(b)は、音響センサ2から採取された音データの波形を示す図である。結論から述べると、図8に示す音データの波形は、正常心音の波形であるが、音響センサ2の装着状態が悪いため、背景雑音が大きく、測定に用いる生体音信号情報の品質としては十分ではない波形の例を示している。図8の(a)は、10秒間の波形を示し、図8の(b)は、このうち、相対経過時間が4秒から5秒までの間の1秒間の波形を拡大したものを示す。図中の(1)は、心音のI音の波形を示し、(2)は、II音の波形を示す。
品質判定部23は、選択された品質判定アルゴリズム(例えば、A3)にしたがって、まず、図8に示す音データの波形に対して、高速フーリエ変換(FFT)処理を行う。図9の(a)および(b)は、図8の(a)および(b)に示す音データをFFT処理にかけることによって得られた音データの周波数スペクトルを示す図である。図9の(a)は、周波数0〜25KHzの間の周波数スペクトルを示し、図9の(b)は、このうち、周波数0〜200Hzの間の周波数スペクトルを拡大したものを示す。
心音の特徴は、スペクトルが60〜80Hzの帯域に集中している点である。この基準となる帯域を信号帯域と称し、測定部位ごとに予め定められているものとする。心音の信号帯域は、上述のとおり、60〜80Hzである。
図9の(b)に示すとおり、スペクトルが集中しているのは、60〜80Hzの信号帯域である。これにより、品質判定部23は、採取された音データは、心音を含んでいると推定することができる。しかしながら、図9の(b)に示すとおり、この音データは、60〜80Hzの信号帯域以外に、さらに、50Hz以下の帯域にも成分を多く含んでいる。品質判定部23は、信号帯域以外の帯域(例えば、50Hz以下の帯域)に存在する成分をノイズとして検出する。なお、解析装置1は、事前に採取したクリアな心音を音源とする音データを、標本として予め音源記憶部32に記憶しておき、それとの比較によって、ノイズの有無を検出してもよい。なお、音源記憶部32は、標本の音データそのものを記憶するものであってもよいし、音データから所定の手順にて抽出された特徴量であってもよい。特徴量は、音データに対して事前に所定の処理を施して得られるものであってもよいし、音データに対して統計処理を施して得られた統計値を特徴量としたものであってもよい。ここで、音源記憶部32の記憶容量と、比較を実行する解析装置1の処理負荷とを考慮すれば、特徴量は音データそのものに比べてはるかにデータ容量が少ないので、音源記憶部32に記憶するのは、標本の音データそのものよりも該音データの特徴量の方が好ましく、解析装置1を、特徴量同士を比較する構成とすることが望ましい。
続いて、品質判定部23は、上記品質判定アルゴリズムにしたがって、さらに、信号帯域(60〜80Hz)のスペクトルの成分の大きさをBsignalとして求め、次に、上記信号帯域の成分に、該信号帯域以外の帯域の成分も加算した場合の大きさをBnoiseとして求める。そして、両者の比を求めることにより、音データの信号品質を表すSNRを算出する。すなわち、上記品質判定アルゴリズムは、次式
(以下、式1)を含んでおり、品質判定部23は、上記式1を用いて、採取された音データの品質を判定する。
図8および図9に示す音データの例では、品質判定部23は、Bsignalを「465880448」と求め、Bnoiseを「143968」と求め、最後に、SNRを、465880448÷143968=3236と算出する。
SNRの値は、大きい方が信号品質が良いと判断できる値である。本実施形態では、一例として、SNRの閾値を10000とし、SNRが10000以上の音データを、品質良好(測定可能)と判定し、SNRが10000未満の場合を、品質不十分(測定不可)と判定する。上記品質判定アルゴリズムは、以上のように信号品質を判定するための判定条件を含んでいる。
上述したとおり、図8および図9に示す音データは、装着状態が不完全であったため、背景ノイズが多く、音データとしての品質は、測定結果情報を導出するには、不十分であった。品質判定部23は、選択された品質判定アルゴリズムにしたがって、図8および図9に示す音データのSNRを3236と算出し、閾値10000と比較する。比較結果は、「SNR=3236<閾値10000」となり、品質判定部23は、当該音データのSNRは閾値に達しておらず、よって、品質不十分と判定する。
この場合、品質判定部23は、表示部15に「音響センサ2の装着状態が不安定です。再装着して下さい。」などのメッセージを出力し、音響センサ2の再装着をユーザに対して促す。
図10の(a)および(b)は、ユーザが音響センサ2を再装着した後に、音響センサ2から採取された音データの波形を示す図である。結論から述べると、図10に示す音データの波形は、装着状態が改められたために背景雑音が低減され、測定に用いる生体音信号情報の品質として十分良好な波形の例を示している。図10の(a)は、10秒間の波形を示し、図10の(b)は、このうち、相対経過時間が4秒から5秒までの間の1秒間の波形を拡大したものを示す。図中の(1)は、心音のI音の波形を示し、(2)は、II音の波形を示す。
品質判定部23は、上述の手順と同様に、上記品質判定アルゴリズムにしたがって、図10に示す音データの波形に対して、FFT処理を実施する。図11の(a)および(b)は、図10の(a)および(b)に示す音データをFFT処理にかけることによって得られた音データの周波数スペクトルを示す図である。図11の(a)は、周波数0〜25KHzの間の周波数スペクトルを示し、図11の(b)は、このうち、周波数0〜200Hzの間の周波数スペクトルを拡大したものを示す。
品質判定部23は、求めた周波数スペクトルに基づいて、Bsignalを「589981113」と求め、Bnoiseを「14643」と求め、最後に、SNRを、589981113÷14643=40291と算出する。品質判定部23は、上記音データのSNRは、閾値10000以上であると判断し、当該音データの品質は、十分であると判定する。
上記では、SNRの閾値が、あらかじめ品質判定アルゴリズムに含まれているものとして説明したが、解析装置1の構成はこれに限定されない。例えば、品質判定アルゴリズムは、採取した音データと、音源記憶部32に記憶されている標本の音データとをマッチングする処理のアルゴリズムを含んでいてもよい。この場合、品質判定部23は、品質判定アルゴリズムにしたがって、採取した音データの周波数スペクトルと、音源記憶部32に記憶されている標本の音データの周波数スペクトルとを比較し、そのマッチングの度合いに基づいて、品質の適否を判定することができる。
〔状態評価処理について〕
次に、S110において状態評価部24が実行する状態評価処理について、具体例を用いて説明する。以下の説明では、属性情報決定部21が、装着位置を「正面−胸−左上」、測定部位を「心音」と決定し、測定項目を「僧帽弁開放音(僧帽弁閉鎖不全)」と決定している場合を想定している。
図12の(a)および(b)は、音響センサ2から採取された音データの波形を示す図である。図12の(a)は、10秒間の波形を示し、図12の(b)は、このうち、相対経過時間が4秒から5秒までの間の1秒間の波形を拡大したものを示す。図中の(1)は、心音のI音の波形を示し、(2)は、II音の波形を示す。図12に示す音データの波形は、図10に示す正常心音の波形と比べて、I音とII音との間に比較的大きな、雑音のような信号音Nが存在している。結論から述べると、図12に示す波形は、異常心音の典型例の一つであり、具体的には、僧帽弁閉鎖不全の(心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁の閉鎖が不完全である)被験者の心音波形の例を示している。
なお、この音データに対しては、状態評価部24が、測定項目「僧帽弁開放音(僧帽弁閉鎖不全)」について状態評価処理を実施する前に、品質判定部23が品質の判定を行っている。図13の(a)および(b)は、図12の(a)および(b)に示す音データをFFT処理にかけることによって得られた音データの周波数スペクトルを示す図である。図13の(a)は、周波数0〜25KHzの間の周波数スペクトルを示し、図13の(b)は、このうち、周波数0〜200Hzの間の周波数スペクトルを拡大したものを示す。図13に示す例では、品質判定部23は、当該音データのSNRを、805504207÷25943=31049と算出し、信号品質は十分であると判定する。しかしながら、品質判定部23の一連の処理によって、得られた図13の周波数スペクトルと、音源記憶部32に記憶されている標本の音データの周波数スペクトル(例えば、図11の周波数スペクトル)とを比較しても、一見して異常心音と判断することは難しい。状態評価部24は、品質判定部23が用いた品質判定アルゴリズム異なる、状態評価アルゴリズムを用いて、測定項目「僧帽弁開放音(僧帽弁閉鎖不全)」について状態評価処理を実施する。
ここで、アルゴリズム選択部22によって選択される状態評価アルゴリズムは、上述した属性情報の例にしたがって、図5Bに示す、評価関数「f1(x)」および閾値「6」を含むA3のアルゴリズムである。
そこで、状態評価部24は、選択された状態評価アルゴリズムに含まれる、次式
(以下、式2)として示される、関数f1(x)を計算する。
具体的には、まず、状態評価部24は、図12の(b)に示すように、少なくとも心拍の1周期以上の音データを含む音データ列をA(x)とし、A(x)において、I音からII音の時間間隔Tに対し、その前後25%ずつを取り除いた区間Δtを求める。そして、状態評価部24は、この区間Δtの音データ列A(x)の信号電力を、上記式2を用いて計算する。上記式2にしたがって、図12に示す音データについて、f1(x)を求めると、12.6となる。
上記状態評価アルゴリズムには、f1(x)の値が閾値6以上の場合に、僧帽弁閉鎖不全の異常ありと判定し、閾値6未満の場合に、異常なしと判定する判定条件が含まれている。
したがって、状態評価部24は、上記で求めたf1(x)=12.6を、閾値6と比較して、f1(x)≧6であると判断する。この判断に基づいて、状態評価部24は、図12に示す音データを採取した被験者の状態が「心音異常、特に、僧帽弁閉鎖不全の疑いあり」の状態であると評価する。状態評価部24が導出した状態評価結果は、例えば、図6に示す状態評価結果64として、表示部15に表示されるなどしてユーザに提示される。
上記では、f1(x)の閾値が、あらかじめ状態評価アルゴリズムに含まれているものとして説明したが、解析装置1の構成はこれに限定されない。例えば、状態評価アルゴリズムは、採取した音データと、音源記憶部32に記憶されている標本の音データとをマッチングする処理のアルゴリズムを含んでいてもよい。この場合、状態評価部24は、状態評価アルゴリズムにしたがって、採取した音データのf1(x)の値(図12の波形の場合「12.6」)と、音源記憶部32に記憶されている標本の音データのf1(x)の値(例えば、図10の波形が標本の波形だとすると、「0.02」)とを比較し、そのマッチング度合いに基づいて、品質の適否を判定することができる。
上述の評価関数および閾値は、状態評価アルゴリズムの一例である。状態評価アルゴリズムは、これに限定されず、目的の疾患、あるいは、症状を検出するためのあらゆる数式、値を含むものである。これらの状態評価アルゴリズムは、医学的な知識、経験から適宜定められる。
≪実施形態2≫
本発明の解析装置1に関する他の実施形態について、図14〜図18に基づいて説明すると以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態1では、測定開始準備段階で、ユーザが、属性情報、すなわち、装着位置、測定部位および測定項目の情報を手動で入力することにより、属性情報が決定される構成であった。実施形態1の構成は、測定の目的(測定部位または測定項目)が明確であり、そのための測定方法(装着位置)について、ある程度の知識を有するユーザに対して、特に有効な構成であるといえる。
本実施形態2では、ユーザから測定の目的について入力を受け付けた後に、解析装置1が、音響センサ2の装着位置を特定し、測定の目的に応じて有効な装着位置を、ユーザに対して提示する構成について説明する。したがって、実施形態2の構成は、測定の目的は明確であるが、そのための測定方法(装着位置)について、知識を持たないユーザに対しても有効な構成であるといえる。
〔解析装置1の構成〕
図14は、本発明の実施形態における解析装置1の要部構成を示すブロック図である。図1に示す解析装置1と比べて、図14に示す解析装置1の構成上の異なる点は、属性情報決定部21が、音響センサ2の装着位置を自動で特定する装着位置特定部210を有している点と、記憶部11が、装着位置情報記憶部33を有している点である。
装着位置特定部210は、ユーザから指定された測定の目的(測定部位または測定項目)に基づいて、適切な装着位置を特定するものである。
装着位置情報記憶部33は、解析装置1が実施可能な測定における、測定部位および測定項目と、当該測定において有効な音響センサ2の装着位置との対応関係を示す情報を記憶するものである。
装着位置特定部210は、装着位置情報記憶部33を参照することにより、指定された測定の目的に基づいて、有効な装着位置を特定することができる。
本実施形態では、属性情報決定部21は、まず、図4に示す入力画面のうち、測定部位の候補43と、測定項目の候補44とを表示部15に表示し、測定部位(または、測定部位および測定項目)の選択を受け付ける。ユーザは、実施形態1と同様に、入力画面上のリストから、漠然と「心音」「呼吸音」「血流音」と測定対象音(測定部位)を選択することもできれば、さらに、詳細に具体的な疾患名(測定項目)を選択することもできる。
属性情報決定部21によって、ユーザの選択が受け付けられ、測定部位(測定項目)が決定されると、次に、装着位置特定部210は、装着位置情報記憶部33を参照し、選択された測定部位(測定項目)に対応する装着位置を、候補として特定する。
図15は、装着位置情報記憶部33に記憶される、「測定部位(および測定項目)」と「装着位置」との対応関係を示す対応テーブルの具体例を示す図である。
図15に示すとおり、対応テーブルには、測定部位(測定項目)かつ装着位置ごとに、解析装置1が実施可能な情報処理のアルゴリズムが存在する場合には、そのアルゴリズムの識別子が対応付けて格納されている。図15に示す例では、心音と呼吸音についてのみ対応関係が格納されているが、その他の測定部位についても同様に装着位置ごとにアルゴリズムの存否が分かるように識別子が格納される。
装着位置特定部210は、装着位置を特定するために、図15に示す対応テーブルを参照する。ここで、測定部位が「心音」と決定されている場合、上記対応テーブルによれば、測定項目がいずれであっても、音響センサ2の装着位置が「正面−胸」の、「右上」、「左上」、「右下」および「左下」の4箇所である場合のアルゴリズムしか用意されていない。したがって、装着位置特定部210は、測定部位「心音」に対応する有効な装着位置が、「1:正面−胸−右上」、「2:正面−胸−左上」、「3:正面−胸−右下」、「4:正面−胸−左下」の4つであると特定することができる。
なお、本実施形態では、装着位置特定部210は、アルゴリズムの存否を知ることができれば十分であるので、アルゴリズムの識別子の代わりに単に存否を示すフラグが格納されているだけでもよい。測定部位(測定項目)かつ装着位置ごとにアルゴリズムの対応関係を示す情報は、アルゴリズム選択部22が参照するので、図15に示す対応テーブルは、別途、測定方法記憶部31に記憶されている。
さらに、ある測定項目に関する測定において、その装着位置でのセンシングが特に重要、必須であるという場合には、装着位置の重要性を示すフラグ150が、アルゴリズムの存否のフラグに加えて格納されていることが好ましい。図15に示す例では、フラグ150は、測定項目「僧帽弁閉鎖不全」の測定において、装着位置「正面−胸−左下」での音データの分析が特に重要であることを示している。装着位置特定部210は、フラグ150によって、測定項目ごとの装着位置の重要性を把握することができる。
装着位置特定部210は、ユーザによって指定された測定部位(測定項目)に基づいて、装着位置の候補を特定すると、特定した装着位置の候補を再び表示部15に示し、装着位置の選択を受け付ける。
図16および図17は、ユーザによって測定部位(測定項目)が指定された後、装着位置特定部210が装着位置を特定した後に表示部15に表示される装着位置の入力画面の一例を示す図である。図16に示す例は、測定部位「心音」、測定項目「僧帽弁閉鎖不全」が選択されたときの、装着位置の入力画面を示している。図17に示す例では、測定部位「呼吸音」が選択されたとき(測定項目は非選択のとき)の、装着位置の入力画面を示している。
属性情報決定部21は、人体図40とともに、装着位置特定部210が特定した装着位置の候補を星印にて表示部15に表示して、装着位置の選択を受け付ける。ユーザは、入力操作部(マウス)14を操作して、表示された星印のいずれかをクリックすることにより、音響センサ2の装着位置を指定することができる。図16および図17に示す例では、白抜きの星印41は非選択の装着位置の候補を示し、黒塗りの星印42は選択された装着位置を示す。
図16および図17に示すとおり、属性情報決定部21は、すでに決定している測定部位45、および、測定項目46の情報を表示してもよい。
また、図15に示す例では、測定項目「僧帽弁閉鎖不全」と装着位置「正面−胸−左下」との組み合わせに対して、重要性を示すフラグ150が付与されていた。このため、装着位置特定部210は、心音の僧帽弁閉鎖不全に関する測定を行う場合に、図16に示すとおり、装着位置「正面−胸−左下」でのセンシングを行うようにユーザを誘導するためのメッセージ47を、候補の星印とともに表示してもよい。これにより、指定された測定の目的にて、測定を実施するにあたり、必要な情報が得られないという事態を避けることができ、情報が不完全なまま測定が進行することを防止することができる。
装着位置の候補の星印がクリックされると、属性情報決定部21は、選択された星印42の位置に対応する装着位置(例えば、「正面−胸−左上」)を、属性情報「装着位置」として決定する。その後、属性情報決定部21は、図16および図17に示すとおり、さらに、決定した装着位置での測定に関し、ガイダンス情報48を表示してもよい。
ユーザは、表示された内容を確認して問題なければ、選択した装着位置にしたがって被験者に音響センサ2を装着し、測定の準備が整えば、測定開始ボタンをクリックするだけでよい。
ここで、属性情報決定部21において、属性情報「装着位置」、「測定部位」、および、「測定項目」が確定し、アルゴリズム選択部22に伝達される(あるいは、属性情報記憶部34に格納される)。アルゴリズム選択部22は、実施形態1に示したのと同様の手順で、図15(または図5A)に示す対応テーブルを参照し、決定された属性情報「装着位置」、「測定部位」、および、「測定項目」に対応するアルゴリズム(品質判定アルゴリズムおよび状態評価アルゴリズム)を選択する。図15に示す対応テーブルが、測定方法記憶部31に記憶されている場合、図16に示す例では、アルゴリズム選択部22は、「装着位置:正面−胸−左上」、「測定部位:心音」、「測定項目:僧帽弁閉鎖不全」に基づいて、「アルゴリズムA3b」を選択する。
以上のように測定開始準備が完了した後は、実施形態1と同様に、品質判定部23および状態評価部24の各部が、測定結果情報を導出するために各々の情報処理を、選択されたアルゴリズムにしたがって実行する。
〔生体測定処理フロー〕
図18は、本実施形態における解析装置1の生体測定処理の流れを示すフローチャートである。
解析装置1において、生体測定処理を実行するアプリケーションが起動されると、属性情報決定部21は、測定部位および測定項目を入力するための入力画面を表示部15に表示して、ユーザから属性情報の選択を受け付ける(S201)。属性情報決定部21は、入力操作部14を介して入力された選択肢に基づいて、属性情報「測定部位」(または、「測定部位」および「測定項目」)を決定する(S202)。
次に、装着位置特定部210は、装着位置情報記憶部33に記憶されている対応テーブルを参照し、決定された「測定部位」(および「測定項目」)に基づいて、有効な「装着位置」を特定する(S203)。
そして、属性情報決定部21は、装着位置特定部210が特定した内容に基づいて、図16または図17に示すような装着位置入力画面を表示部15に表示して、ユーザから装着位置の選択を受け付ける(S204)。ここで、ユーザによって装着位置の選択が行われると、属性情報決定部21は、選択された装着位置を、属性情報「装着位置」として決定する(S205)。
属性情報が決定され、入力操作部14を介して「測定開始」のボタンがクリックされると(S206においてYES)、実施形態1と同様に、アルゴリズムを選択する処理に移行する。本実施形態では、アルゴリズム選択部22は、S202にて属性情報決定部21によって決定された「測定部位」(および「測定項目」)と、S205にて決定された「装着位置」とに基づいて、対応するアルゴリズムを選択する(S104)。ここまでで、測定開始のための準備が終了し、解析装置1および音響センサ2は、生体測定処理の実行状態に遷移する(図7のS104以降の工程を実行する)。
本実施形態における解析装置1の構成および、上記生体測定方法によれば、ユーザは、測定したい対象音や疾患が明確であるが、そのための測定方法(装着位置)について、知識が十分でなくとも、有効な装着位置を解析装置1から通知してもらうことにより、測定を実施することが可能となる。さらに、必須の装着位置や測定ガイダンスを表示することによって、ユーザに対し、測定のための知識を補完することができるので、知識の乏しいユーザに対しても利便性の高い生体測定システム100を実現することが可能となる。
≪実施形態3≫
本発明の解析装置1に関する他の実施形態について、図19〜図21に基づいて説明すると以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1および2にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態2では、測定開始準備段階で、ユーザが、属性情報として、測定部位および測定項目の情報を手動で入力することにより、装着位置がある程度絞り込まれ、属性情報が決定される構成であった。実施形態2の構成は、測定の目的が明確であるが、測定方法について知識を持たないユーザに対して、特に有効な構成であるといえる。
本実施形態3では、ユーザは、属性情報の入力を一切行わずに、まず、被験者に音響センサ2を装着する。本実施形態では、所望する測定部位の周辺に適当に音響センサ2が装着されればよい。本実施形態では、装着された音響センサ2から取得される音データに基づいて、装着位置および測定部位を特定する構成について説明する。したがって、実施形態3の構成は、大まかな測定の目的と大まかな測定方法は明確であるが、詳細については知識を持たないユーザに対して有効な構成であるといえる。また、詳細な手動入力操作が不要となるので、測定開始準備段階のユーザ操作をさらに簡素化することができる。
〔解析装置1の構成〕
図19は、本発明の実施形態における解析装置1の要部構成を示すブロック図である。図1および図14に示す解析装置1と比べて、図19に示す解析装置1の構成上の異なる点は、属性情報決定部21が、さらに、測定部位特定部211および装着位置推定部212を有している点である。
本実施形態では、まず、ユーザが被験者の身体上に音響センサ2を装着し、生体音の採取を行う。ここでの装着位置は、所望の測定部位に近い場所にユーザが適当に決めたもので構わない。その後、入力操作部14を介して、音データ取得の開始が指示されると、音響センサ2は音の採取を開始し、音響センサ2が検出した音データは、センサ通信部12を介して、情報取得部20に送信される。
測定部位特定部211は、上述のようにして音響センサ2から取得された、被験者の生体音である音データを分析して、音データが被験者のどの測定部位の音を含んでいるのかを特定するものである。測定部位特定部211は、音源記憶部32に記憶されている標本の音データの特徴量と、取得した音データの特徴量とでマッチングを行うことにより、測定部位を特定する。測定部位特定部211が、音データからどのようにして測定部位を特定するのかについて、その処理の一例を以下に説明する。
本実施形態では、測定部位特定部211は、取得された音データに対して、一例として、高速フーリエ変換(FFT)処理を実施し、上記音データに含まれる音成分の周波数スペクトルを求める。このようにして得られた周波数の分布には、対象音源の特徴が表れる。同様に、その他の「呼吸音」、「血流音」、「腹腔音」、「胎児心音」、および、その他の測定対象音について、その音の特徴を表す信号帯域(周波数分布)があらかじめ定められ、これが、測定部位ごとの特徴量として、測定部位に対応付けて音源記憶部32に格納されている。
測定部位特定部211は、取得された音データの周波数スペクトルと、測定部位ごとの周波数分布とを比較して、取得された音データの周波数スペクトルの周波数分布と最も合致する周波数分布が対応付けられた測定部位を特定し、これを、取得された音データの測定部位と特定する。例えば、「心音」の標本の音データでは、スペクトルが60〜80Hzの帯域に集中している。したがって、取得された音データのスペクトルが60〜80Hzの帯域に集中いる場合には、測定部位特定部211は、測定部位を「心音」と特定することができる。
装着位置推定部212は、上述のようにして音響センサ2から取得された、被験者の生体音である音データを分析して、装着位置を推定するものである。装着位置推定部212は、音源記憶部32に記憶されている音源データベースを参照し、標本の音データと、取得した音データとでマッチングを行うことにより、装着位置を特定する。
図20は、本実施形態に係る解析装置1において、音源記憶部32に記憶されている音源データベースのデータ構造を示す図である。音源記憶部32には、装着位置ごとに、老若男女を問わず集めた被験者データを基に作成した標準的な音データが記憶されており、さらに、その音データをどのように分析してマッチングを行うのかを記述した位置推定アルゴリズムが記憶されている。位置推定アルゴリズムは、共通のアルゴリズムが1つ用意されていてもよいが、図20に示すとおり、装着位置ごとに、音データとセットで異なるアルゴリズムが用意されていることが好ましい。音データの波形は装着位置によって様々に異なるため、マッチング度合い(類似度)を評価する方法を、波形に応じて変える方が、より正確に装着位置を推定することになるからである。位置推定アルゴリズムは、主に、音データから特徴量を抽出するための特徴量抽出関数、特徴量同士をマッチングするための特徴量マッチング関数、マッチング度合い(類似度)に応じて、音データの一致/不一致を評価するためのマッチング度合い評価関数、および、マッチング度合い(類似度)に基づいて、採取された音データがその装着位置からの音であるという尤もらしさの指標を算出するための相関係数算出関数などで構成されている。なお、図20は、音源記憶部32は、標本の音データそのものを装着位置ごとに記憶しているデータ構造の例を示しているが、本発明の音源記憶部32のデータ構造はこれに限定されない。音源記憶部32は、上記音データに加えて、あるいは、上記音データに代えて、該音データから抽出される特徴量を装着位置ごとに記憶する構成であってもよい。
装着位置推定部212は、採取された音データを、図20に示す装着位置ごとの標本の音データそれぞれと比較して、どの装着位置の音データと最も類似するのかを推定する。すなわち、装着位置推定部212は、採取された音データと標本の各音データとについて、位置推定アルゴリズムP1〜P27にしたがって、マッチングを行い、尤もらしさの指標である相関係数を装着位置ごとに算出する。そして、例えば、P1〜P27の関数群を計算した後、得られた相関係数が最も高かったのが、P3のアルゴリズムにしたがってマッチングを行ったときだとした場合、装着位置推定部212は、採取された音データは、
装着位置「正面−胸−左上」に装着されたときのものであると推定することができる。
なお、音源記憶部32に記憶されている音源データベースは、標本の音データと推定位置アルゴリズムのセットを、さらに、「測定部位」ごとに記憶しておくことが好ましい。つまり、測定部位「心音」の位置推定アルゴリズムP1〜P27、「呼吸音」の位置推定アルゴリズムQ1〜Q27、・・・というように、測定部位ごとに、装着位置27箇所分の標本の音データと推定位置アルゴリズムとを格納しておく。
上記データ構造によれば、さらに、測定部位の違いによる波形の違いを考慮して、音データのマッチングを行うことができるので、より正確に装着位置の推定を行うことが可能となる。しかし、装着位置推定部212が、音源データベースに記憶されている、P1〜P27、Q1〜Q27、・・・のすべての位置推定アルゴリズムを実施すると、処理負荷が膨大になるという問題がある。したがって、このような場合には、まず、測定部位特定部211が、採取された音データに対して測定部位の特定を行い、装着位置推定部212は、測定部位特定部211によって特定された測定部位についてのみ、位置推定アルゴリズムを実施する。例えば、測定部位特定部211が測定部位を「呼吸音」と特定した場合には、装着位置推定部212は、「呼吸音」に関連付けられた位置推定アルゴリズムQ1〜Q27のみを実施して装着位置の推定を行えばよい。
上記構成によれば、ユーザの操作は、被験者の身体上のおおよその位置に音響センサ2を装着して、音データを採取するのみでよい。後は、音データに基づいて、解析装置1の測定部位特定部211が、測定部位を特定し、装着位置推定部212が装着位置を推定する。これにより、ユーザの入力操作を省いて解析装置1が属性情報を決定し、解析装置1は、決定した属性情報に応じて精度よい測定を実施することができる。
なお、属性情報決定部21は、測定部位特定部211が特定した測定部位の情報を、図16の測定部位45のように表示し、装着位置推定部212が推定した装着位置の情報を、図4の人体図40および星印42のように表示して、ユーザに確認を求めることが好ましい。ユーザは、表示部15に提示された属性情報で問題が無ければ、測定開始ボタンをクリックする。これにより、属性情報決定部21は、属性情報「装着位置」および「測定部位」を確定させることができ、解析装置1は、属性情報に応じたより詳細な測定の実行に移行することができる。
〔生体測定処理フロー〕
図21は、本実施形態における解析装置1の生体測定処理の流れを示すフローチャートである。
解析装置1において、生体測定処理を実行するアプリケーションが起動されると、例えば、属性情報決定部21は、音響センサ2を用いて音データの採取を実施するようにユーザを促してもよい。ユーザは、とりあえず被験者の身体のどこかに音響センサ2を装着し生体音の検出を行う。音響センサ2が採取した音データを解析装置1に送信すると、情報取得部20は、送信された音データを取得する(S301)。
測定部位特定部211は、取得された音データの特徴量(例えば、周波数分布)を、測定部位ごとに格納されている音データの特徴量と比較することにより、取得された音データの測定部位を特定する(S302)。すなわち、当該音データを採取した音響センサ2が、その部位の測定を目的としているのかを特定する。測定部位特定部211は、特定した測定部位の情報を表示部15に表示するなどして、ユーザに提示し確認を促す(S303)。
続いて、装着位置推定部212は、測定部位特定部211によって特定された測定部位に基づいて、取得された音データの装着位置を推定する(S304)。具体的には、装着位置推定部212は、測定部位特定部211によって特定された測定部位について、装着位置ごとに格納されている標本の音データを音源記憶部32から読み出し、それらの標本の音データとセットになっている位置推定アルゴリズムにしたがって、取得された音データと標本の音データとのマッチングをそれぞれ行う。そして、最も高い相関係数が得られた位置推定アルゴリズムに対応している装着位置を、取得された音データの装着位置と推定する。すなわち、当該音データを採取した音響センサ2が、装着されている位置を推定する。装着位置推定部212は、推定した装着位置の情報を表示部15に表示するなどして、ユーザに提示し確認を促す(S305)。
これにより、ユーザは、表示部15に表示された「測定部位」を確認して、おおまかな測定の目的を把握するとともに、目的の測定を達成するための正確な「装着位置」を把握することができる。表示部15に表示された「装着位置」と、実際に装着されている位置とにずれがある場合には、ユーザは、被験者に装着した音響センサ2の位置を、提示された「装着位置」に基づいて修正することができる。ユーザは、提示された内容に問題がなければ、図4に示す測定開始ボタンをクリックするなどして生体測定処理の開始を解析装置1に対して指示する。ここで、属性情報決定部21は、さらに、測定項目の指定をユーザから受け付けてもよい。
属性情報決定部21は、測定開始ボタンがクリックされるなど、ユーザの了解が得られた時点で(S306においてYES)、属性情報を確定させる。以降は、実施形態1および2と同様に、アルゴリズムを選択する処理、および、測定結果情報を導出する処理に移行する。
本実施形態における解析装置1の構成および、上記生体測定方法によれば、ユーザは、深い思慮無しに「とりあえず装着して測定できる」という利便性を享受することができる。また、1つの音響センサを、複数の対象音や複数の疾患に関する測定に用いる場合、一般的には、疾患ごとに装着箇所についての多くの知識をユーザに要求しなければならないが、本発明によれば、採取した音データに基づいて、ユーザが測定対象としたい音源や疾患を推定し、表示することができるため、ユーザの事前の知識を廃して、ユーザに対して利便性の高い生体測定システム100を実現することが可能となる。
≪実施形態4≫
本発明の解析装置1に関する他の実施形態について、図22〜図24に基づいて説明すると以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1〜3にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態1〜3では、生体測定システム100において、音響センサ2を1つ用いる場合を想定して説明したが、本発明の生体測定システム100は、これに限定されず、複数の音響センサ2を被験者に装着し、それぞれの音響センサ2の属性情報に応じて、それぞれ情報処理を行い、測定結果情報を導出してもよい。
図22は、本発明の実施形態に係る生体測定システム100において、複数個の音響センサ2を用いた場合の装着例を示す図である。
図22に示す例では、音響センサ2a、および、音響センサ2bの2個の音響センサ2が被験者に装着されている。なお、音響センサ2の装着位置および個数は、用途やコストに応じて変えることが可能である。
解析装置1は、音響センサ2a、bのそれぞれとセンサ通信部12を介して通信することができる。本実施形態では、解析装置1は、音響センサ2aおよび音響センサ2bを一意に識別することが可能である。
図23は、本実施形態における音響センサ2a、2bの要部構成を示すブロック図である。図3の(a)に示す音響センサ2と比べて、図23に示す音響センサ2a、bの構成上の異なる点は、音響センサ2a、bが、さらに、個体識別装置132を備えている点である。
個体識別装置132は、解析装置1が各音響センサ2を一意に識別するための個体識別情報、すなわち、センサIDを保持するものである。無線通信部131は、解析装置1と通信するときに、個体識別装置132に記憶されているセンサIDを通信データのヘッダなどに追記する。解析装置1は、ヘッダに含まれているセンサIDに基づいて、それぞれの音響センサ2を識別することができる。なお、個体識別装置132は、物理的あるいは論理的いずれの形態で実現されてもよい。例えば、個体識別装置132は、物理的なジャンパ配線で実現されてもよいし、EEPROMなどの不揮発性メモリでもよい。あるいはマイコンなどで実現される制御部120内のメモリの一部に含まれて実現されてもよい。
上記センサIDによって、解析装置1は、音響センサ2を個別に識別することが可能となり、解析装置1は、各音響センサ2の属性情報を、音響センサ2ごとに、属性情報記憶部34にて個別に管理することができる。
図24は、属性情報記憶部34に記憶される、複数の音響センサ2についての属性情報の具体例を示す図である。例えば、上述の実施形態1〜3のいずれか、または、それらが組み合わせられた解析装置1の構成に基づいて、音響センサ2aの属性情報が、装着位置「正面−胸−左上」、測定部位「心音」と決定された場合には、属性情報決定部21は、図24に示すとおり、決定した装着位置「正面−胸−左上」および測定部位「心音」の情報を、音響センサ2aのセンサIDに対応付けて記憶する。同様に、音響センサ2bの属性情報が、装着位置「正面−胸−左上」、測定部位「呼吸音」と決定された場合には、属性情報決定部21は、装着位置「正面−胸−左上」および測定部位「呼吸音」の情報を、音響センサ2bのセンサIDに対応付けて記憶する。
アルゴリズム選択部22は、属性情報記憶部34に記憶されている属性情報に基づいて、音響センサ2a、2bのそれぞれについて、適用するべきアルゴリズムを個別に選択する。図24および図5Aに示す例に基づいて具体的に説明すると以下のとおりである。音響センサ2aは、左胸上部に装着され、心音の測定を目的とするものである。したがって、アルゴリズム選択部22は、音響センサ2aによって採取された音データに対しては、A3のアルゴリズムを選択する。一方、音響センサ2bは、同じ装着位置「左胸上部」ではあるが、測定部位「呼吸音」を測定することを目的としている。したがって、アルゴリズム選択部22は、音響センサ2bによって採取された音データに対しては、B3のアルゴリズムを選択する。例えば、心音の測定を目的とするアルゴリズムA3には、「雑音除去処理」として、採取した音データから、心音成分以外の音成分を雑音とみなして除去するためのアルゴリズムが含まれていてもよい。また、呼吸音の測定を目的とするアルゴリズムB3には、「雑音除去処理」として、採取した音データから、呼吸音成分以外の音成分を雑音とみなして除去するためのアルゴリズムが含まれていてもよい。
上述の構成によれば、同じ種類の音響センサ2を複数用いることによって、異なる測定部位(例えば、心音と呼吸音)の同時測定が可能となる。両方の測定部位に関して複数の疾患をもつ被験者であっても、測定を1回で済ませることが可能となり、したがって、測定時間の短縮を図ることができる。また、1つの疾患に関する測定であっても、複数の測定部位について同時に測定を行うことにより、多点での同時の生体音収集が可能になる。よって、情報量を増やし、より精度の高い測定を実現することが可能となる。例えば、右肺、左肺、気管支の3箇所で同時採音をすれば、その3つの音データを分析することにより、肺炎や気管支炎などの状態観察および測定に関し、精度の向上が達せられる。
≪実施形態5≫
本発明の解析装置1に関する他の実施形態について、図25〜図27に基づいて説明すると以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1〜4にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
上述の実施形態3では、属性情報決定部21の装着位置推定部212が、位置推定アルゴリズムを駆使して、音響センサ2の装着位置を推定する構成について説明した。ここで、実施形態4に記載したとおり、音響センサ2が複数装着される場合には、装着位置推定部212は、音響センサ2ごとにそれぞれの装着位置を推定する。
本実施形態5では、複数の音響センサ2が解析装置1と無線通信する際の信号を利用して、装着位置推定部212における装着位置の推定の精度および処理効率を向上させる構成について説明する。
図25は、本発明の実施形態に係る生体測定システム100において、複数個の音響センサ2を用いた場合の装着例を示す図である。
図25に示す例では、音響センサ2a〜dの4個の音響センサ2が被験者に装着されている。詳細には、音響センサ2a〜cが被験者の前面に、音響センサ2dが被験者の背面に装着されている。音響センサ2の構成は、図23に示すとおりであるので、解析装置1は、4個の音響センサ2を識別しつつ、それぞれと無線通信することができる。
図25に示すとおり、音響センサ2a〜dが生体音の検出を行っているとき、音響センサ2a〜dと解析装置1との間で無線通信によるデータ信号の送受信が発生する。各音響センサ2a〜dが、解析装置1から受ける無線信号のキャリア強度は、各音響センサ2a〜dと解析装置1との物理的な距離に依存する。
そこで、本実施形態では、各音響センサ2a〜dは、自装置の無線通信部131にて解析装置1から信号を受信したときのキャリア強度を求めてこれを保持し、適宜、解析装置1に通知する構成となっている。さらに、各音響センサ2a〜dは、他の音響センサ2が個別に解析装置1と無線通信している際の、他の音響センサ2から出力された信号の自装置におけるキャリア強度も求め、これを保持しておくことができる。例えば、音響センサ2aが解析装置1と無線通信を行っている場合、他の音響センサ2b〜dは、音響センサ2aが送信した無線信号の、自装置におけるキャリア強度を、自装置の無線通信部131において各々求める。
解析装置1の装着位置推定部212は、各音響センサ2a〜dが求めたキャリア強度の情報を収集する。装着位置推定部212は、収集したキャリア強度の情報に基づいて、各音響センサ2a〜dの相対的な位置関係を類推し、各音響センサ2の装着位置を推定する際の一助とする。
図26は、装着位置推定部212が収集したキャリア強度の情報の具体例を示す図である。キャリア強度の情報は、属性情報が決定されるまで、不図示の一時記憶部に格納されている。なお、キャリア強度の情報は、記憶部11のいずれかの領域に不揮発的に記憶されていてもよい。ここでは、各装置の配置は、一例として、図25に示すとおりであるとする。すなわち、解析装置1が、被験者の腰部にベルトのバックル付近で装着されており、音響センサ2a〜cが、被験者の胸側に、音響センサ2dのみが背中側に装着されているものとする。
キャリア強度は、信号の発信源となる音響センサまたは解析装置(送信元)と、その信号を受けた音響センサ(受信元)との関係で、一意に定められている。例えば、受信元センサID「音響センサ2a」に関連付けられている、4つのキャリア強度「12a」、「22ba」、「22ca」および「22da」は、それぞれ、音響センサ2aが、解析装置1から信号を受信したときの受信強度、音響センサ2bから信号を受信したときの受信強度、音響センサ2cから信号を受信したときの受信強度、および、音響センサ2dから信号を受信したときの受信強度を示す。
音響センサ2a〜c、および、解析装置1は、いずれも正面側に設置されている。そのため、例えば、キャリア強度12a〜cは、キャリア強度12dと比較して、相対的にキャリア強度が大きい。キャリア強度12dが比較的小さいのは、音響センサ2dが、背中側に装着され、解析装置1との距離が離れているからである。すなわち、図26に示すキャリア強度テーブルにおいて、網掛けセルに記載されたキャリア強度は、相対的に大きな値を示すが、それ以外のセルに記載されたキャリア強度は、上記に比べると小さい値になる。また、網掛けセルに記載されたキャリア強度の中では、音響センサ2cと解析装置1との間のキャリア強度が相対的に大きく、他の音響センサ2a、2bと比較して、解析装置1に近い位置に装着されていると推定できる。
以上の結果を踏まえると、装着位置推定部212は、図27に示すとおり、各音響センサ2のおおまかな位置を特定することができる。上述の例では、例えば、音響センサ2dは、解析装置1から最も遠い背面のどこかに装着されていると推定される。音響センサ2cは、解析装置1から最も近い、正面腹部あたりに装着されていると推定される。音響センサ2aおよび2bは、音響センサ2c、2dの間の距離で、正面胸部あたりに装着されていると推定される。各音響センサ2の測定部位は、上述の実施形態1〜3に示す手順にて適宜決定される。
装着位置推定部212は、図27に示す属性情報(特に装着位置)についての中間結果を属性情報記憶部34に格納し、実施形態3に示した位置推定アルゴリズムを実施して、より詳細な装着位置に書き換えることができる。
以上のように、装着位置推定部212が、位置推定アルゴリズムを実施する前に、図27に示すとおり各音響センサ2の大まかな装着位置を推定することには、次のような利点がある。
上述したとおり、実施形態3において、装着位置推定部212は、想定されている装着位置ごとに、位置推定アルゴリズムP1〜P27(測定部位が「心音」の場合)を順次、取得した音データに適用し、相関係数の最も高くなるアルゴリズムを特定する構成となっている。ここで、装着位置推定部212が、キャリア強度に基づいて、大まかな装着位置を推定しておけば、上記音データに適用すべき位置推定アルゴリズムを限定することができる。例えば、音響センサ2dの装着位置を推定する場合、図27に示すとおり、事前に装着位置は「背面」と大まかに推定されている。この場合、装着位置推定部212は、位置推定アルゴリズムP1〜P27のすべてを実行せずとも、背面の装着位置に対応するP16〜P27のアルゴリズムに限定して実行するだけで済む。音響センサ2a〜cについても同様に、装着位置推定部212は、大まかに推定した位置関係に基づいて、それぞれの音データに適用する標本の音データと位置推定アルゴリズムの数を限定することができる。
結果として、解析装置1の制御部10の処理負荷を大幅に低減することが可能となり、装着位置を推定するための処理の効率化を図ることができる。
≪変形例≫
上述の各実施形態では、生体の一例として人間(被験者)の状態をセンシングする生体センサを用いて、本発明の生体測定装置が、人間(被験者)の状態を測定する場合について述べた。しかしながら、本発明の生体測定装置は上記構成に限定されない。本発明の生体測定装置は、人間以外の動物(例えば犬など)を被検体(生体)として扱い、動物の生体音を取得して、動物の状態を測定することも可能である。この場合、図5A、図5B、図15、図20などに示す、属性情報とアルゴリズム、ならびに、音源データベースの対応テーブルは、被検体となる動物の性質等に応じて適宜構築される。例えば、被検体が犬の場合、犬特有の病状を検出するためのアルゴリズムや、標本となる犬の生体音データが用意される。
〔補足〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、解析装置1は、実施形態2における装着位置特定部210(図14)、ならびに、実施形態3における測定部位特定部211および装着位置推定部212(図19)をすべて備えてもよい。上記構成によれば、入力操作部14を介して、装着位置、測定部位、測定項目のすべての属性情報がユーザによって指定された場合には、属性情報決定部21は、ユーザの入力にしたがって属性情報を決定し、測定部位(および測定項目)のみが指定された場合には、装着位置特定部210が装着位置を特定し、いずれの属性情報も入力されなかった場合には、測定部位特定部211が測定部位を特定して、装着位置推定部212が装着位置を推定する。したがって、ユーザを選ばず(ユーザに専門知識を要求せず)に、ユーザの知識量に応じて利便性および操作性の高い生体測定システム100を提供することができる。
また、上述の各実施形態では、音源記憶部32に記憶される生体音信号情報は、生体音がデジタル化された音データそのものとして説明したが、本発明はこれに限定されない。生体音信号情報は、音データおよび/または音データから得られる特徴量で構成されてもよい。すなわち、解析装置1の音源記憶部32は、生体音信号情報として、上記音データに加えて、あるいは、上記音データに代えて、該音データから抽出される特徴量を記憶する構成であってもよい。特徴量とは、上記音データに対して事前に所定の処理を施して得られた情報であってもよいし、音データに対して統計処理を施して得られた統計値を特徴量としたものであってもよい。すなわち、採取された生体音信号情報と、音源記憶部32に記憶されている標本の生体音信号情報とを解析装置1が比較することは、音データそのものを比較することを含んでいてもよいし、音データを分析して得られた特徴量同士を比較することを含んでいてもよい。
なお、解析装置1の各ブロック、特に、属性情報決定部21、アルゴリズム選択部22、品質判定部23および状態評価部24は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、解析装置1は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである解析装置1の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記解析装置1に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、解析装置1を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
〔従来技術の課題と本発明の効果〕
センサを用いて被験者をセンシングし、センサから得られた信号情報に基づいて、被験者の状態を測定する場合、特許文献1に記載されているような多種類のセンサを一つの測定装置内に構成する必要は必ずしもない。1種類のセンサを1つ用いて、測定箇所を変えて、測定することで必要な生体情報が得られる場合もあるし、本発明の実施形態4または5に記載したように、1種類のセンサを複数用いて多点を同時測定することで得られる場合もある。
例えば、生体から発せられる音に着目した場合、呼吸器や心臓からの生体音を同時多点的に測定することは非常に有意である。従来から医師が患者を診察する場合においても、胸部と上背部の広い面積の呼吸音を聴診する必要があり、聴診器を全身の10箇所以上に順々に当てて聴診を行っている。
たとえ、医師を介しない、個人的に身体の健康状態を測定するための健康モニタ装置であっても、呼吸状態をモニタするためには、医師の行為に則した複数箇所の測定が望まれる。しかしながら、そのような聴診器を医師と同じように、ユーザが自ら測定すべき箇所に順々に当てる方法では、医療知識の乏しいユーザが行う際には、測定精度を十分に保って測定を行うことは大変難しく、たとえ慎重に行ったとしても、長時間の測定が必要になることは想像に難くない。
さらに特許文献1に記載の技術では、生体情報計測装置内に、脈波・脈拍、GSR、皮膚温度、血糖値、加速度などの複数の計測手段が含まれているが、本願発明のように、生体音を取得するための音響センサは想定されていない。
また仮に、生体音ではなく、ユーザ身体上の多点の脈波を、特許文献1に記載による装置で測定する場合でも、複数の装置を全身に装着しなければならないが、脈波測定には必要のないGSR、温度センサ、血糖値センサ、加速度センサなどが装備されているため、装置自体が大きくなり装着性に問題が生じると共に、不必要なセンサに支払うコストが懸念される。
特許文献1に記載の技術では、身体装着ベルトによって、手首や、頭部や、首から吊り下げるなどの装着を可能にしているが、例えば、心音や呼吸音などの生体音を測定するための音響センサを生体情報計測装置内に新たに設けようとした場合、胸囲を取りまく身体装着ベルトが必要であり、この場合、ユーザが一人では装着が困難なことが考えられる。また、センサの装着箇所にズレがあり正しく生体情報の計測ができなかった場合、その位置を何度か修正する動作は、ユーザにとって非常に使い勝手が悪い。さらに、肺の左右前後の位置から生体音を計測する場合は、身体装着ベルトを何重にも巻く必要があり、現実的には非常に多くの困難をユーザに招く虞がある。
上記課題を解決するため、本発明の生体測定システム100においては、生体音マイクとデジタル化し外部へ出力する音響センサと、単数、ないし複数個の同音センサからの生体音データを収集し、解析し、評価するユニットと、ユニットから出力される生体音データを解析して得られた健康情報を受信し、あるいはユニットに対して生体音測定のための設定情報を入力する外部装置とを用いる。
本発明によれば、音響センサを、図3の(a)および(b)に記載するとおり、マイクから得られた生体音情報をデジタル化して出力するだけの機能に限定して構成することができる。これにより、音響センサを安価で、小型化して実現することが可能となり、ユーザに容易な装着性を提供する。また、音響センサは安価であるため、複数個を用意することは、ユーザにとって負担にならない。この場合、同時多点の生体音測定を行えるため、測定精度の向上と測定時間の短縮が図れる。また、上述したとおり、解析装置1が音響センサの正しい装着箇所を案内するので、知識が乏しいユーザに対しても使いやすく、広い層のユーザに生体音をモニタする生体測定システム100を提供できる。
さらに、本発明によれば、漠然と装着したい場所に音響センサを装着するだけで、解析装置1が、取得した音データから、どの生体音を対象として解析、評価を行うかを判断して、測定結果情報を出力するため、ユーザに深い知識を要求しない。
また得られた音データから、装着位置と、測定対象音(測定部位)とを特定することで、更に詳しい解析のために必要な、音響センサのより正確な装着位置を、解析装置1がユーザに提案するので、測定精度が改善される。
なお、本発明は、以下のようにも表現できる。
すなわち、本発明は、音データ(生体音信号情報)と前記音データに基づいた属性情報から音データの処理を選択する選択手段を備えた音モニタリング装置(解析装置1または外部装置3)である。
また、前記属性情報は前記音データを測定した測定部位の情報であってもよい。
また、前記属性情報は前記音データの測定パラメータであってもよい。
また、前記音データの処理は前記音データの品質を判定する処理を含んでいてもよい。
また、前記音データの処理は前記音データの音源(測定部位)を特定する処理を含んでいてもよい。
また、前記音データの処理は前記属性情報に位置情報がない場合に前記音データを測定した測定部位を特定する処理を含んでいてもよい。
なお、前記測定パラメータは心音、呼吸音、血流音、腹腔音などである。
また、前記音データは音センサで取得する。
さらに、前記音データは複数の音センサ(音響センサ2)で取得してもよい。
さらに、前記音センサは外部装置(解析装置1または外部装置3)と通信する手段を備えていてもよい。
さらに、前記外部装置は前記選択手段と前記音データの処理結果を表示する表示手段を備えていることが好ましい。
上述の本発明の音モニタリング装置による情報に基づいて被験者の健康状態(正常 or異常)を提示する健康状態モニタリング装置(生体測定システム100)も本発明の範疇に入る。