心筋の健康状態は、主に、核医学イメージング技術を用いて調べられている。よく知られているように、核医学イメージング技術には、SPECT(Single Photon Emission Tomography:単一光子放射断層撮影法)やPET(Positron Emission Tomography: 陽電子放出断層撮影法)といった技術が存在する。これらの技術は、放射性核種を含む医薬品を体内に投与し、その核種の崩壊に起因して放出されるガンマ線を検出器で捕らえて画像化する技術である。他の生体イメージング技術であるCTやMRIが、主に生体組織の形態の異常を調べるために利用されるのに対し、核医学イメージング技術は、投与された放射性医薬品の分布や集積量、経時的変化の情報から、臓器や組織の形態だけでなく、機能や代謝状態などを評価するために利用される。
心電図同期撮影が可能な多くの装置は、心周期中の所望の位相において核医学画像を得ることができように構成されている。装置によっては、例えば1心拍を8点や16点に分割した時の各位相について、核医学画像を得ることができるように構成されている。これら異なる位相において得られた核医学画像を並べれば、心筋収縮の経時的な様子を観察することができそうである。しかしながら、核医学画像は3次元画像であるので、心筋の広い範囲を一度に観察することは難しく、また並べた複数の画像の変化(たとえば色の変化)を直感的に把握することも容易ではない。そこで、心筋の運動の様子を容易に把握することを可能とする技術が開発されている。
特開2006−153867には、内腔を分割して得られる複数の部分空間の容量変化の時系列データを、横軸に位相、縦軸に容量をとったグラフに表すことが記載されている。しかしこの方法は、ある部分空間と他の部分空間との間の運動状態の違いを把握することが容易ではない。
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態の例を具体的に説明する。
図1は、本明細書で開示される様々な処理を実行するためのシステム100の主な構成を説明するための図である。図1に描かれるように、システム100は、ハードウェア的には一般的なコンピュータと同様であり、CPU102,主記憶装置104,補助記憶装置106,ディスプレイ・インターフェース107,周辺機器インタフェース108,ネットワーク・インターフェース109などを備えることができる。CPU102は主記憶装置104よりもさらに高速なアクセスを提供するキャッシュメモリ103を搭載していることができる。システム100は、単一の筐体にほぼ全ての構成要素が搭載される装置として提供されてもよいし、物理的に異なる複数の筐体から構成されるものであってもよい。一般的なコンピュータと同様に、主記憶装置104としては高速なRAM(ランダムアクセスメモリ)を使用することができ、補助記憶装置106としては、安価で大容量のハードディスクやフラッシュメモリ、SSDなどを用いることができる。実施形態によっては、補助記憶装置106は、物理的に異なる複数の記憶装置から構成されている場合や、システム100とは物理的に異なる筐体に収められて適当なインタフェースでシステム100に接続された記憶システムである場合もある。システム100には、情報表示のためのディスプレイを接続することができ、これはディスプレイ・インターフェース107を介して接続される。またシステム100には、情報入力のためのユーザインタフェースを接続することができ、これは周辺機器インタフェース108を介して接続される。かかるユーザ・インターフインターフェースは、例えばキーボードやマウス、タッチパネルであることができる。また周辺機器インタフェース108は、例えばUSBインタフェースであることができる。ネットワーク・インターフェース109は、ネットワークを介して他のコンピュータやインターネットに接続するために用いられることができる。システム100の最も基本的な機能は、補助記憶装置106に格納されるオペレーティングシステム110がCPU102に読み込まれて実行されることにより提供される。また、補助記憶装置106に格納される各種のプログラムがCPU102に読み込まれて実行されることにより、オペレーティングシステム110で提供される機能以外の機能が提供される。
好適な実施形態の説明
本実施例における装置又はシステム100は、上記各種のプログラムとして、DICOMサポートプログラム111,スライス操作プログラム112,心筋輪郭抽出プログラム113,マップ作成プログラム116の4つを備えているが、これは単なる例示であることには留意されたい。DICOMサポートプログラム111は、医用画像データのファイル形式や通信規格の事実上の標準となっているDICOMをサポートするためのプログラムである。本明細書で説明する心筋輪郭抽出処理の対象となる心筋核医学画像データも、DICOMに準拠したファイル形式を有するものであってよく、DICOMサポートプログラム111によって、心筋核医学画像データの入出力や保存がサポートされる。スライス操作プログラム112は、3次元の心筋核医学画像データを自在の断面で切り出して2次元スライスを作成する、いわゆるリスライス機能を提供するプログラムである。かかる機能を有するプログラムも広く利用可能となっており、医用画像を扱うための多くのワークステーションに搭載されている。従って、本実施例においても、既存の適当なプログラムを適宜利用することにより、DICOMサポートプログラム111やスライス操作プログラム112を容易に実装することができる。心筋輪郭抽出プログラム113は、3次元心筋SPECT画像データ130,131,132等に対して、心筋輪郭の抽出を行うためのプログラムである。マップ作成プログラム116は、本明細書で開示される新しい2次元マップを作成するための中心的なプログラムである。マップ作成プログラム116は、心筋輪郭抽出プログラム113による心筋輪郭抽出の結果を利用して解析を行う。
本明細書で開示される様々な処理は、特に断わりのない限り、プログラム111〜116の全て又は一部のコードがCPU102に読み込まれて実行されることにより実装されることができる。各処理において、CPU102は、各プログラムの命令に従って、記憶装置からデータを読み出して演算を行い、得られた結果のデータをキャッシュメモリ103や主記憶装置104に格納する。格納されたデータは、各プログラムの命令に従って、さらに別の処理に用いられたり、補助記憶装置106へ保存されたりする。補助記憶装置106は、本実施例による処理の対象となる3次元心筋SPECT画像データ130や、処理の途中のデータ141、心筋輪郭抽出処理が完了したデータ142、解析結果のデータ143などを格納するための領域として使用することができる。キャッシュメモリ103や主記憶装置104も、処理すべきデータを一時的に格納するための記憶領域として使用されることができる。特に断わりのない限り、以下に説明される全ての処理において、CPU102と記憶装置103,104,106との間で、データや演算結果が同様にやり取りされる。
実施例によっては、本実施例における装置又はシステム100は、さらに心筋輪郭抽出プログラム113による心筋輪郭抽出結果を利用して各種の解析を行う別のプログラムを備えていてもよい。本実施例では、そのような解析プログラムとしてプログラム114及び115が補助記憶装置106に格納されている。本実施例における解析プログラム114は、心筋の2次元表示のためによく利用される心筋ポーラーマップの各セグメントに対応付けられる画素数が、心周期の異なる位相によってどのように変化するかを調べるプログラムである。また本実施例における解析プログラム115は、ポーラーマップの各画素の画素値の位相変化を調べるプログラムである。無論、このようなプログラム114及び115の存在や機能は単なる例示であり、実施形態によっては、このようなプログラムがシステム又は装置100に備えられていなかったり、異なる機能を有するプログラムであったりする場合もある。
プログラム111〜116は、単一の実行可能ファイルとして実装される場合もあるが、複数の実行可能ファイルからなるプログラムセットとして実装される場合もある。プログラミングの手法は人によって様々であり、プログラム111−116のプログラミングの形態が本明細書や図面に紹介した例によって制限されることは決してないことを念のために記しておく。
さらに実施形態によっては、これらプログラムによる処理の一部を専用のハードウェア回路やプログラマブルロジックなどによって実装してもよい。このような実施形態も、本発明の範囲に含まれるものである。
図1においては、オペレーティングシステム110やプログラム111〜116、画像データ130〜132等が、全て同じ補助記憶装置106に格納されているように図示されている。しかし、実施形態によっては、これらの一つ又は複数のデータは、物理的に異なる記憶装置に格納されていてもよい。例えば実施形態によっては、プログラム111〜116は、CD−ROMやDVD−ROMなどの光ディスクに格納されていてもよい。またこれらのプログラムは、光ディスク媒体やUSBメモリなどの持ち運びが容易な記憶媒体に格納されて、システム100とは別個に提供・販売されてもよい。またこれらのプログラムは、ネットワークを通じたダウンロードなどの形態で、提供・販売されてもよい。
記憶装置106は、プログラム111〜116による処理の対象となる画像データを複数格納していてもよい。図1の例では、特に、画像データ130ほかに画像データ131,132が示されており、これは、画像データ130と同一被験者から異なる時期に撮影された画像データであってもよいし、異なる被験者の画像データであってもよい。図1の例では、画像データ130,131,132の3つしか描かれていないが、無論、さらに多くの画像データが記憶装置106に格納されていてもよい。
システム又は装置100は、図1に描かれた要素のほかにも、電源や冷却装置など、通常のコンピュータが備える装置と同様の構成を備えることができる。また、処理手段102や記憶手段104,106の実装形態には、物理的に単一のCPUや物理的に単一の記憶媒体を用いるものから、複数のCPUや複数の記憶媒体を用いるもの、これらをそれぞれ異なる筐体に収めて適当なインタフェースやネットワークを利用して接続して構成するもの、仮想化技術を用いて仮想的に実現するもの、など様々な実装形態が知られている。本発明を実施するコンピュータシステムの形態としては、これら既存の如何なる実装形態を利用してもよく、コンピュータシステムの形態によって本発明の範囲が制限されることは決してないことを念のために記しておく。一般的に、本発明は、(1)処理手段に実行されることにより、当該処理手段を備える装置またはシステムに、本明細書で説明される各種の処理を遂行させるように構成される命令を備えるプログラム、(2)当該処理手段が当該プログラムを実行することにより実現される装置またはシステムの動作方法、(3)当該プログラム及び当該プログラムを実行するように構成される処理手段を備える装置またはシステム、などとして具現化されうる。また本発明を具現化したプログラムは、CD−ROMなどの媒体に格納されて販売されたり、ネットワークを通じたダウンロードなどの形態により販売されたりすることができる。
前述のように、本願で特許を受けようとする発明は、心周期の異なる位相に各々対応する複数の心筋ポーラーマップの情報に基づいて2次元マップを作成することを含む。ここで心筋ポーラーマップの情報とは、例えばポーラーマップの各セグメントに対して容積に関する値を有する情報であったり、セグメント毎に画素値に関する値を有する情報であったり、セグメント毎に時間に関する値を有する情報であったりすることができる。ここで上記容積に関する値とは、例えば、あるセグメントに関連付けられる心臓内腔領域の画素数であることができる。また、上記画素値に関する値とは、例えば、あるセグメントに属するとされる心筋領域の画素の最大値や累積値、最小値、平均値、分散、標準偏差などであることができる。上記時間に関する値とは、例えば、あるセグメントについて、画素値の累積値が最大となる位相からの位相ずれ(時間ずれ)であることができる。しかし、これらの情報を計算するためには、3次元の核医学画像から心筋輪郭を抽出することが必要である。その方法は既に存在し、例えば本願出願人もWO2013/047496や特願2013-062441号明細書(本願出願時点では未公開)に開示している。また、上記特許文献1にも記載されている。そのほか、米Cedars-Sinai Medical Centerで開発されたQGS(Quantitative Gated SPECT)や、米エモリー大学の開発によるEmory Cardiac Toolbox、札幌医大で開発されたpFAST等、一般に入手可能なソフトウェアも存在する。心筋ポーラーマップのようなデータを作成するには如何なる方法を用いてもよく、その方法によって本願請求項に係る発明の範囲が限定されることはない。しかしながら、本明細書でも心筋輪郭抽出の例を一つ説明する。なお、ここで説明する心筋輪郭抽出技術は、特願2013-062441号明細書に記載のものと同一である。
[心筋輪郭抽出処理の例]
図2は、本明細書で説明する心筋輪郭抽出処理の基本的な流れを説明するための図である。ステップ200は処理の開始を示す。ステップ202では、本明細書で説明する心筋輪郭抽出処理の対象となる画像データ130がロードされる。画像データ130のロードは、心筋輪郭抽出プログラム113が、DICOMサポートプログラム111を呼び出して利用することにより、またこれらのプログラムの少なくとも一部の命令がCPU102に実行されることにより、行われてもよい。
ステップ204では、それ以降の処理を容易にするための前処理が画像データ130に対して行われる。このステップはオプションであり、ステップ210以降の心筋輪郭抽出処理を行なうために必ずしも必要なステップという訳ではない。後にステップ210の具体的な処理の例をいくつか紹介する。
ステップ210では、次のステップ220で心筋輪郭抽出を行うための基礎となる楕円体パラメータが画像データ130から計算される。このステップでは、心室内の点から球放射状に画像データ130の画素値の変化を調べることと、調べた各方向における特徴的な画素値の集合を近似する楕円体を求めることとの、2種類の処理が行われる。ここで心室内の点は、心室の中心付近であることが好ましく、操作者が例えば実際の画像を見ながら手動で設定してもよい。心筋輪郭抽出プログラム113は、心室中心の手動設定に関する操作者からの入力を周辺機器インタフェース108を通じて受け取り、その情報をステップ210の楕円体パラメータ計算処理に使用するようにCPU102を動作させるように構成されてもよい。しかしながら、好ましい形態においては、上記の心室内の点は自動的に設定される。後に説明する好適な形態では、そのような自動設定の手法の例が紹介される。
ステップ210における上記2種類の処理は、順番に実行されてもよいが、そのような形態に限られるわけではない。むしろ、後に説明する好適な形態では、これら2種類の処理が明確に分離することなく混ざりあって実行される。
ステップ220では、心筋輪郭抽出を行うために、画像データ130の各画素の中から、心筋の内膜点や外膜点に対応する画素を特定するための処理が行われる。本ステップの処理は、ステップ210で計算された楕円体に基づいて、トレースを行う複数の方向を設定することと、これら複数のトレース方向の各々において、画像データ130の各画素の中から心筋の内膜点や外膜点に対応する画素を特定することとの、2種類の処理が行われる。ここでトレースとは、特定の道筋に沿って画素をサンプリングして画素値の変化を調べることを含む処理を表すことができる。ステップ220における処理で特に特徴的なことは、上記複数のトレース方向の各々が、上記楕円体の長軸上の点から当該楕円体の面に垂直な方向へ向かって、長軸の周りに円錐放射状に設定されることである。このステップの処理例は後に詳述される。
ステップ220における上記2種類の処理も、必ずしも順番に実行されなければならない訳ではなく、むしろ、後に説明する好適な形態では、これら2種類の処理が明確に分離することなく混ざりあって実行される。
ステップ230では、ステップ220で特定された心筋内外膜点の情報に基づいて様々な補間や整形処理を行うことにより、抽出される心筋輪郭の質の向上が図られる。ただしこのステップはオプションであり、実施形態の全てに必須なステップという訳ではない。しかしながら、後に、ステップ230の具体的な処理の様々な紹介する。
ステップ299は処理の終了を表す。
以下、各ステップをより詳細に説明する。
〔処理対象となる画像データ〕
本明細書で説明する心筋輪郭抽出処理の対象となる画像データ130は、心筋を対象とした心電図同期SPECT法により得られた3次元画像データであることができる。前述のように、このような画像データは、201TlCl(塩化タリウム)や99mTc-tetrofosmin(テトロホスミン)など、冠状動脈の血流に比例して心筋細胞内に取り込まれる性質を有する放射性物質をトレーサとして被験者に投与し、トレーサから放出されるガンマ線をSPECT装置で捕え、得られたカウントデータを3次元画像に再構成することにより得られることができる。通常、市販されているSPECT装置には、収集したガンマ線のカウントデータを3次元画像へ再構成するソフトウェアが付属していることが多いので、画像データ130は、例えばそのような手段によって得ることができる。画像データ130の各画素の画素値は、当該画素に対応する被験者の部位から放出されたガンマ線のカウント数に関連する値を有している。このため本願明細書では、画像データ130の各画素の画素値をカウント値やカウント数,カウントと称する場合がある。但し補間処理や規格化処理などの影響により、画素値は必ずしも整数ではない。
〔心筋輪郭特定のための前処理〕
図3は、図2のステップ204で行われうる処理の例をいくつか紹介するための図である。ステップ204自体が、図2のステップ210以降の心筋輪郭抽出処理において必須のステップではないことは先に述べたが、図3で紹介する各ステップ310〜370も、その全てがステップ204にとっての必須の処理ではなく、実施形態によってはこれらのうち一つ以上が実装されない場合がある。しかしながら画像データ130に対して図3に描かれる各処理を行うことにより、図2のステップ210以降の心筋輪郭抽出処理の結果の質が向上することが確かめられているので、これらの処理を行うことは推奨される。
なお、図示されるステップ310〜370の順番は、必ずこの順番で実行されなければならないというものではなく、実施形態によって、異なる順番で実行されたり複数のステップが並行的に実行されたり複数のステップが混合されて一体的に実行されたりする場合がある。
また、前述のように、図示されるステップ310〜370の処理は、心筋輪郭抽出プログラム113の少なくとも一部の命令に従って、CPU102が動作することにより遂行されるものである。また各処理を遂行するために、心筋輪郭抽出プログラム113の少なくとも一部の命令は、DICOMサポートプログラム111やスライス操作プログラム112を呼び出して利用するようにCPU102を動作させるように構成されていてもよい。
ステップ300は処理の開始を示す。ステップ310は、画像データ130の画素数や画素サイズを変更するステップである。現在市販されている多くのSPECT装置から得られる3次元画像データの画素数は、短軸横断断面スライス(axialスライス)あたり64×64や128×128であることが多い。また短軸横断断面スライスの数、すなわち長軸方向の分解能は様々である。従って各画素が表す実際の大きさも様々である。ステップ310では、画像データ130の全体に3重線形補間によるリサイズ処理を適用することにより、ユーザが所望する画素数や画素サイズに変更する。一例であるが、本ステップを経た後の画像データ130の画素数や画像サイズは、短軸横断断面スライスあたりの画素数が128×128で、各画素のサイズがaxial,coronal,sagittalの全方向とも2mmになるように調節されてもよい。このとき、所定の閾値以上または以下の画素値を有する画素は、所定の値に丸め込んでしまってもよい。例えば補間の結果0以下の値を有することになった画素の画素値は、0とするようにしてしまってもよい。
ステップ320では、後段の処理のために「画像閾値」なる値を計算する。この値は次式:
[式1]
画像閾値={(最大カウント値−最小カウント値)×閾値率}+最小カウント値
によって定義される値である。ただし上記の最大カウント値および最小カウント値は、それぞれ、画像データ130において画像化されている組織がほぼ心筋部に限られる可能性が高い領域に基づいて計算されることが好ましい。例えば、短軸横断断面像の全スライスでの上半分の最大カウント値および最小カウント値とすることができる。これは、短軸横断断面像における体の向きが事実上標準化されており、画像の下半分に肝臓や腸管が位置するような向きになっていることが多いからである。従って、短軸横断断面像において上半分に位置する画素のみを対象とすれば、主に心筋が画像化されている可能性の高い領域を対象として最大カウント値や最小カウント値を求めることができる。上記の式における閾値率は、ユーザが任意に設定することができる。心筋輪郭抽出プログラム113は、周辺機器インタフェース108を介して、上記の閾値率を設定するための入力を受け取ることができるように構成されていることが好ましい。
また実施形態によっては、上記の式で定義される画像閾値は、本明細書で紹介する様々な処理例において使用されることがあり、処理例によっては用いられる閾値率や、計算に用いられるスライス又は画素範囲が異なる場合もありうる。そこでステップ320では、閾値率やスライス/画素範囲を変更して、複数の画像閾値を計算しておき、後の処理で呼び出して使えるようにRAM104や補助記憶装置106に格納しておいてもよい。
ステップ330では、画像データ130の全画素の平均座標である画像中心が計算されると共に、画像データ130において上記画像閾値以上のカウント値を有する全ての画素の平均座標である画像重心が計算される。そして、画像中心と画像重心との距離が、画像データ130の縦・横・奥行きいずれかの方向の長さの所定の割合を超える場合は、前記全画素の平均座標が前記画像重心に一致するように各画素を平行移動する。
このとき、上記画像閾値を計算するための閾値率は、ユーザが任意に定めることができるが、心筋輪郭抽出処理に好影響を与えるためには、30%程度であることが好ましいという調査結果が存在する。また上記の所定の割合についても、心筋輪郭抽出処理に好影響を与えるためには、10%程度であることが好ましい。
ステップ310やステップ330の処理は、実施形態によっては、画像データ130に予め施されているだろう。つまり図1において補助記憶装置106に格納されている画像データ130は、予めステップ310やステップ330の処理が施された画像データである場合がある。その場合はこれらのステップに係る処理を再度繰り返す必要はもちろんない。
ステップ340では、画像データ130の中で後の処理の対象とする範囲が設定される。このステップでは、画像データ130を、短軸横断断面像を含む画像スライスの集合に見立て、短軸横断断面スライスを心尖部側から心基部方向に走査し、上記画像閾値を超える画素が存在する最初のスライスを同定する。また、心基部側から心尖部方向にも走査し、上記画像閾値を超える画素が存在する最初のスライスを同定する。そして、同定された2枚のスライスの間に存在する画素のみを、後続の処理(例えば図3のステップ350以降の処理や、図2のステップ210や220の処理)の対象とする。
ステップ340で、画像データ130の中で処理の対象とする範囲を設定することにより、以降の処理から不要なデータの影響を取り除くことができる。この処理により、特に心基部における心筋輪郭抽出の質が向上するという検討結果が存在する。この処理における上記画像閾値を計算するための上記閾値率は、ユーザが任意に設定することができるように構成されていることが好ましい。しかし、閾値率を大きくとれば、より多くの不要部分を処理対象から除外することができるが、必要な部分まで処理対象から除外される危険性も増す。心筋輪郭抽出処理に好影響を与えるためには、30%程度の閾値率を用いることが好ましいという検討結果が存在する。
ステップ350では、画像データ130に画像化されている心室(通常は左心室)の中心を自動処理で決定する。ここで決定される心室中心は、後続のステップ360や370において、心筋輪郭抽出処理の対象となる画素をさらに絞り込むために使用されたり、図2のステップ210で近似楕円体を計算するために使用されたりすることができる。
図4のフローチャートを用いて、ステップ350の心室中心決定処理のより具体的な例を紹介する。
ステップ400は処理の開始を示す。ステップ404では、心室中心の検索を開始するスライスの決定を行う。ここでいうスライスとは、短軸横断断面像を含む画像スライスである。画像データ130を短軸横断断面スライスの集合であると考え、その中で心室中心が存在する可能性のあるスライスを検索開始スライスとする。
本例では、ステップ404の処理においても、ステップ320に関連して式1で定義した上述の画像閾値を用いる。そして、計算した画像閾値以上のカウント値を有する全ての画素の平均座標(画像重心)を計算し、この画像重心が属する短軸横断断面スライスを、検索開始スライスとする。ステップ404で用いる閾値率は、ステップ320で用いた閾値率とは異なってもよい。ここで用いる閾値率はユーザが任意に設定できるようにされていてもよい。しかし、閾値率を50%程度とすることが、心室中心決定処理に好影響を与えるという検討結果が存在する。したがって、ここで用いる閾値率は、50%程度とすることが推奨される。なお、ステップ404で画像閾値を計算する基礎となる画素の集合も、ステップ320において画像閾値を計算する基礎となる画素の集合とは異なっていてもよい。
ステップ408以降では、検索対象スライスにおいて心室中心の検索が行われる。この処理においても、上に式1で定義した画像閾値が用いられる。そしてステップ408では、ステップ404で決定された検索対象スライスに対して当該画像閾値の初期値を設定する。すなわち式1における閾値率の初期値を設定する。この閾値率の初期値は任意に設定することができるが、30%程度が好ましいという検討結果が存在する。ステップ404の場合と同様に、ステップ408において画像閾値を計算する基礎となる閾値率や画素集合は、ステップ320や404で用いられる閾値率や画素集合とは異なっていてもよい。
ステップ412は心室中心の検索を実行するステップである。本例においては心室中心の検索を次のような処理によって行っている。
(サブステップ1)検索対象スライスにおいて、設定した画像閾値(今の場合はステップ408で設定された初期閾値)を上回る画素値を有する領域に対してラベリングを行う。また、そのうちサイズが最大となるラベルを特定する。なお、ラベリングとは、画像処理の分野でよく用いられる用語であり、連続する画素に対して同じ番号を割り振る処理のことをいう。サイズが最大となるラベルとは、ラベルに用いられる数字の大きさではなく、同じ数字(ラベル)を有する画素の数が多いラベルを意味する。例えば、ラベルとして1〜3が割り振られたケースであって、ラベル1が割り振られた画素が10個、ラベル2が割り振られた画素が40個、ラベル3が割り振られた画素が5個である場合、サイズが最大となるラベルはラベル2となる。
(サブステップ2)サブステップ1で同定した、サイズが最大となるラベルの領域の中心を計算する。本明細書又は特許請求の範囲において、この中心を「最大ラベル中心」と称する場合がある。
(サブステップ3)サブステップ1で同定した、サイズが最大となるラベルの領域内において、上記設定した閾値を下回る画素値を有する画素に対してラベリングを行う。このとき用いるラベルを、サブステップ1で行うラベリングに用いるラベルと区別するため、穴ラベルと称する。
(サブステップ4)割り振られた穴ラベルのうち、次の条件の少なくとも一つを満たすラベルは後の処理から除外する。すなわち後の処理では使わない。
・ スライスの辺縁に近い領域に中心を有する穴ラベル。これは、スライスの端部には心室中心は存在しないと思われるからである。例えば、スライスの辺縁から40mm以内に中心を有する穴ラベルは除外する。なお穴ラベルの中心とは、抽出された穴ラベルの座標平均とすることができる。
・ 中隔領域に中心を有する穴ラベル。ただし中隔領域は適当な手段で推定しなければならない。これには例えば次のような方法がある。まずは検索対象スライスにおいて、上記画像閾値の初期値以上の画素値を有する画素についてラベリングを行う。そして、前壁が上側に位置するように表示した場合に、最も大きなサイズを有するラベルの平均座標より上側において、最も左側に位置するラベル座標より左側を中隔領域とする。なお、PETやSPECTの短軸横断断面像における心室(心臓)の向きは事実上標準化されており、短軸横断断面像における心室の向きは、ディスプレイに表示される時に前壁側が上側となり、中隔領域側が左側になるように画素配列されていることが一般的となっている。
・ ラベルのサイズが1cm2未満である穴ラベル。
(サブステップ5)サブステップ4までの処理において、残った穴ラベルの数が一つだけである場合、その穴ラベルの中心を心室中心と決定する。サブステップ4までの処理を行なっても複数の穴ラベルが残っている場合、残った穴ラベルのうち、サブステップ2で計算した最大ラベル中心に最も近い中心を有する穴ラベルの中心を、心室中心と決定する。決定された心室中心の座標データは、後続の処理に用いられるべく、プログラム113の命令に従うCPU102によって、主記憶装置104または補助記憶装置106に格納されてもよい。本明細書で説明される様々な処理においても、プログラム111−113とCPU102との協働によって得られた演算結果は、主記憶装置104または補助記憶装置106に格納され、後続の処理に用いられる。
ステップ416は、ステップ412において心室中心が決定できたか否かを判断する。心室中心が決定できていれば、さらに処理を行なうことなく、心室中心検索処理は終了となる(ステップ436)。しかし、心室中心が決定できていなければ、ステップ420に進み、ステップ412で用いる画像閾値を変更して、改めて心室中心の検索を実行する(ステップ424,412)。
ステップ420で行われる閾値の変更は次のように行われる。
(1)初めは、処理ループがステップ420に戻るたびに画像閾値を上げていく。例えば、上記の例では、上記閾値率の初期値を30%としていたが、これを、処理ループがステップ420に戻るたびに、5%ずつ上昇させる。
(2)閾値率が所定の値、例えば50%に到達しても、まだ心室中心が決定できていなければ、閾値率を初期値より低い値に設定する。例えば、初期値である30%より低い28%に設定する。その後、処理ループがステップ420に戻るたびに、閾値率を所定の割合ずつ減少させる。例えば2%ずつ減少させる。
検索のための画像閾値を上記のように変更する理由は次の通りである。すなわち、ある値(例えば閾値率50%としたときの画像閾値)までは、心室中心を決定できない理由を、画像閾値が低すぎて心室中心であっても画素値が閾値を越えてしまっているためであると予想する。しかし、画像閾値をある程度以上高くしても心室中心が決定できない場合は、検索対象スライスにおいては、そもそも閾値が高すぎて心筋部ですらも閾値以下の画素値しか有していないと予想を変更する。そこで今度は画像閾値を下げて、画素値が画像閾値を超える画素が現れることを期待する。このような柔軟な閾値変更スキームのために、心室中心を自動で特定する能力が従来技術に比べて大きく向上している。
ステップ424では、上記のように変更した検索閾値率が検索終了値未満になっているかどうかを調べる。検索終了値は任意に設定してもよく、例えば10%とすることができる。閾値率が検索終了値より低くなっている場合、ステップ428に進み、検索対象スライスを変更する。本例では、現在の検索対象スライスから所定枚数(例えば1枚)心基部側に離れたスライスを、次の検索対象スライスとする。いずれかの検索対象スライス及び画像閾値(閾値率)において心室中心が特定できれば、他のスライスについて心室中心特定処理を行なうことなく、処理を終了する(ステップ436)。ステップ408から432を繰り返し、検索終端スライスに到達して、なお心室中心の決定に失敗する場合は、エラーを出力する(ステップ440)。検索終端スライスは任意に設定することができる。例えば、上記閾値率を所定値(例えば30%)としたときの画像閾値を超える画素値を有さないスライスを、検索終端スライスとしてもよい。
上記の説明においては、閾値率として50%や30%など、いくつかの数値が使用されているが、これらは全て例示に過ぎないことに留意されたい。後の説明においてもいくつかの具体的な数値が示されるが、本明細書で使用される数値は全て例示であり、実施形態のバリエーションには、これらとは異なる数値を使用したものも含まれる。しかしながら、これらの数値は、現時点において好適であると考えられている数値でもあって、これらの数値を変更した場合、処理が遅くなるなどの不利益が生じる可能性は存在する。
続いて図3に戻り、ステップ360の処理を説明する。このステップでは、画像データ130の中で、図2のステップ210以降で心筋輪郭抽出処理の対象とする画素をさらに絞り込む処理を行う。この処理は、次のようなサブステップによって行われてもよい。
(サブステップ1)画像データ130の中で、ステップ350で決定した心室中心が属する短軸横断断面スライスを特定する。
(サブステップ2)特定した短軸横断断面スライスにおいて、心室中心から前壁側に複数の方向で画素値の変化を調べると共に、調べた各方向において心筋外膜点の特定を試行する。前述のように、短軸横断断面像における心室の向きは、ディスプレイに表示される時に前壁が上側にくるように画素配列されていることが一般的となっている。そこで、例えば心室中心から鉛直上方を0°として所定の角度ごとにトレース方向を設定し、各トレース方向において画素値の変化を調べて外膜点を特定することとしてもよい。トレース方向は、例えば、0±60°の区間を10°間隔で設定してもよい。画素値の変化から外膜点を特定するには、例えば閾値法や変化率法を利用してもよい。閾値法の場合、例えば、トレース方向における最大画素値を有する画素よりもトレース中心から遠い位置の画素であって、その画素値が閾値以下となる画素(例えば前記最大画素値の例えば70%)を、外膜点としてもよい。変化率法の場合、例えば、トレース方向に沿う画素値変化の微分カーブにおける変曲点に対応する画素であって、トレース方向における最大画素値を有する画素よりもトレース中心から遠い位置の画素を、外膜点としてもよい。
図5の(A)は、トレース方向の設定の様子を描いたものである。心室中心502から鉛直上方に0°のトレース方向503が設定されると共に、+60°方向にトレース方向504が、−60°方向にトレース方向505が設定されている。図示されていないが、これらのトレース方向の間にも10°間隔でトレース方向が設定されている。
(サブステップ3)各トレース方向で特定された心筋外膜点のうち、心室中心から最も離れた心筋外膜点に基づいて、画像データ130の中で心筋輪郭点抽出処理の対象とする範囲を決定する。例えば、心室中心を中心として、そこから最も離れた心筋外膜点までの距離の、例えば1.3倍を半径とする円内を、心筋輪郭点抽出処理の対象とすることとしてもよい。この様子が図5(B)に描かれており、図中の符号506で示された円が、上記のようにして求められた円を表している。サブステップ1で特定された短軸横断断面スライスだけでなく、他の短軸横断断面スライスについても、ここで設定された範囲を踏襲して心筋輪郭点抽出処理の対象とすることとしてもよい。すなわち、上記の円を含む円柱状の領域を、画像データ130の中で心筋輪郭点抽出処理の対象とする範囲と決定してもよい。
サブステップ2で心筋外膜点の特定を行うにあたり、特定処理の対象とする画素を、所定の閾値率により計算された前述の画素閾値よりも大きな画素値を有する画素に限定してもよい。この所定の閾値率は任意に定めることができるが、画素閾値を大きくすれば不要な部分を処理の対象から除くことができるが、大きくし過ぎると心筋部分まで処理から除外される可能性がある。30%程度が好ましいという検討結果が存在する。
続いて図3のステップ370の処理を説明する。このステップでもステップ360と同様に、図2のステップ210以降で心筋輪郭抽出処理の対象とする画素を絞り込むための処理が行われる。したがって実施形態によっては、ステップ360と370のいずれかのみを実行することとしてもよい。ステップ370の処理は、次のようなサブステップによって行われてもよい。
(サブステップ1)画像データ130の中で、ステップ350で決定した心室中心が属する短軸横断断面スライスを特定する。
(サブステップ2)心室中心から放射状に(例えば10°ステップで)トレース方向を設定すると共に、各トレース方向において画素値の変化を調べて心筋外膜点の特定を試みる。画素値の変化から外膜点を特定するには、例えば閾値法や変化率法を利用してもよい。閾値法の場合、例えば、トレース方向における最大画素値を有する画素よりもトレース中心から遠い位置の画素であって、その画素値が閾値以下となる画素(例えば前記最大画素値の例えば70%)を、外膜点としてもよい。変化率法の場合、例えば、トレース方向に沿う画素値変化の微分カーブにおける変曲点に対応する画素であって、トレース方向における最大画素値を有する画素よりもトレース中心から遠い位置の画素を、外膜点としてもよい。
(サブステップ3)特定された心筋外膜点をサンプル点として円近似を行い、中心と半径を求める。
(サブステップ4)サブステップ2,3を、サブステップ1で特定された短軸横断断面スライスの近傍の複数のスライスについても行う。ただしこれらのスライスについてのトレース方向の原点(トレース中心)は、各スライスにおいて心室中心が投影される位置に置く。
(サブステップ5)サブステップ2,3を行ったスライスのうち、近似円の半径が最大となるスライスで特定された心筋外膜点を用いてマスク領域を設定する。例えば、特定された各心筋外膜点からトレース中心から見て外側に10mm離れた点をつないで作成した略円状の領域をマスク領域としてもよい。他のスライスについても、対応する領域をマスク領域としてもよい。
(サブステップ6)設定されたマスク領域よりトレース中心からみて外側の領域に位置する画素の画素値を0にクリアする。このクリア処理は、マスク領域の設定に用いられたスライスだけで行われるのではなく、画像データ130全ての短軸横断断面スライスに対して行われる。従って、画像データ130の中で、サブステップ5で設定された略円を含む略円柱状の領域にのみ、0でない画素値が残ることになる。
図6(A)は、上記サブステップ5の処理を説明するための図である。この図には短軸横断断面像に略円状に分布する点が2重に描かれている。符号602で示した内側の点が心筋外膜点を表し、符号604で示した外側の点がマスク領域を定義する点である。図6(B)は、上記サブステップ6の処理を説明するための図であり、マスク領域の外に位置する画素が0にクリアされた様子を描いている。符号604で示した、マスク領域を定義する点の外側の画素が黒く表示されており、画素値が0であることが示されている。図6(C)は、上記サブステップ6の処理がなされた後の画像データ130から長軸横断断面像を切り出して表示したものである。図中、符号604aは、図6(A)または(B)における点604のいずれかに対応する位置を示している。画像データ130の全体にわたって、マスク領域の外に位置する画素が黒く描かれており、画素値が0にクリアされていることが示されている。
〔心筋輪郭特定処理の基礎となる楕円体の作成〕
続いて、図2のステップ210で示されている近似楕円体の作成処理の具体例を図7を用いて説明する。この近似楕円体のパラメータは、次のステップ220で心筋輪郭抽出を行うための基礎となる。
ステップ700は処理の開始を示す。ステップ704では、近似楕円体を求める基礎となる点をサンプリングするための基準となる中心点を決定する。実施形態によっては、この中心点をユーザが好きなように設定したり、図3のステップ350で決定した心室中心としたりすることができる。また実施形態によっては、次のようにしてサンプリング中心点を決定してもよい。
(サブステップ1)図3のステップ350で決定した心室中心が属する短軸横断断面像において、心室中心から放射状に画素値の変化を調べる。すなわち画素値の(変化の)プロファイルを作成する。(画像データ130の画素値はガンマ線のカウント数に対応する値を有していることから、本明細書ではこのプロファイルをカウントプロファイルと称することがある。)また、調べた各方向において、画素値が最大となる点を特定する。
なお、図3のステップ350で決定した心室中心の座標は、主記憶装置104または補助記憶装置106に格納されていてもよい。また、軸の方向は、オリジナル画像データで用いられている座標系に従ったものであってもよい。当該心室中心を含む短軸横断断面像は、前述のように、心筋輪郭抽出プログラム113の命令に従って呼び出されたスライス操作プログラム112の命令に従って、CPU102が画像データ130を操作することにより作成される短軸横断断面スライスであってもよい。
(サブステップ2)サブステップ1で得られた画素値の特徴点を近似する円を求める。例えば画素値が最大となる点の集合を近似する円を求める。
(サブステップ3)サブステップ2で得られた近似円の中心をサンプリング中心点と決定する。
近似円の導出は様々な方法で行うことができる。例えば、全ての画素値最大点の座標の平均値を中心座標とし、当該中心座標から各画素値最大点までの距離の平均値を半径とした円を近似円としてもよい。また、この近似円の中心座標や半径を少しずつ変化させ、それぞれ残差の二乗和を計算してこれが最小となる円を最終的な近似円としてもよい。
実施形態によっては、次のような画素値最大点を、サブステップ2の近似円を求める処理から除外してもよい。
・ 原点(図3のステップ350で決定した心室中心)から画素値最大点までの距離が、他の画素値プロファイルにおける同様の距離の平均より2σ以上乖離している点。
・ 画素値が、全ての最大画素値の最大値の所定割合以下である点。
なお、実施形態のバリエーションには、サンプリング中心点を手動で決定することや、市販のプログラムを用いて決定した心室中心点をサンプリング中心点とすることも含む。心筋輪郭抽出プログラム113のバリエーションには、任意の方法で取得したサンプリング中心点を用いてステップ708以降を実行するようにCPU102に命令するように構成されるものが存在してもよい。
ステップ708では、前のステップで決定したサンプリング中心点から球放射状に、すなわち3次元的に四方八方に、画像データ130をサンプリングし、画素値の変化を調べる。また、調べた各方向において、画素値が最大となる点を特定する(ステップ710)。ステップ712では、得られた画素値最大点の集合を近似する楕円体を計算する。
本例において、ステップ708−712の処理は、より具体的に次のように行われることができる。
(サブステップ1)サンプリング中心点を通り、心基部から心尖部へと延びる軸をZ軸とし、これを含む断面(長軸横断断面)において、心尖部を0°,心基部を180°として、サンプリング中心点を原点として例えば10°間隔で全周に亘ってサンプリング方向を設定し、各方向について画像データ130をサンプリングして画素値の変化を調べる。すなわち画素値のプロファイル(カウントプロファイル)を作成する。ただし、180°方向については、心筋が存在しない可能性があるので、画素値プロファイルの作成は行わない。また、調べた各方向において、画素値が最大となる点を特定する。サンプリング中心点とサンプリング方向、および作成される近似楕円の様子を図8に示した。
ところでZ軸は、実際には画像データ130における短軸横断断面像に垂直な軸などと決定することができる。この軸は、実際の心尖部方向や心基部方向とは若干ずれている可能性がある。しかし、このステップで使用される中心点や軸は、後の心筋内外膜点の判定トレースを行うための楕円体を求めるための中心点や軸であり、実際の心筋内外膜点の判定トレースに用いられるものではないので、多少の誤差があっても構わない。
(サブステップ2)サブステップ1で得られた画素値最大点の集合を近似する楕円を求める。
(サブステップ3)画素値プロファイルを作成する断面を、Z軸のまわりに例えば10°ずつ回転し、それぞれについて、サブステップ1,2と同様の処理を行なって近似楕円を求める。
(サブステップ4)サブステップ1−3によって得られた18個(サブステップ3における回転間隔が10°であった場合)の近似楕円のパラメータ(中心座標、長辺、短辺等)の平均を、近似楕円体のパラメータ(中心座標、長軸、短軸長等)とする。例えば、近似楕円体の中心座標は上記18個の近似楕円の中心座標の平均座標とすることができる。また例えば、近似楕円体の長軸の方向は、上記18個の近似楕円の中心座標をこれらの平均座標に平行移動した後の、当該18個の近似楕円の長辺の平均方向とし、近似楕円体の長軸の長さは、上記18個の近似楕円の長辺の長さの平均値とすることができる。また例えば、近似楕円体の短軸の長さは、上記18個の近似楕円の短辺の長さの平均値とすることができる。したがって、得られる近似楕円体は回転楕円体、すなわち長軸の周りに円対称となる楕円体である。
なお、これらのサブステップの順番は例示であることに留意されたい。例えば、上記の例のように特定の断面についてサンプリングと楕円近似を行なってから次の断面についてのサンプリングと楕円近似を行うのではなく、全ての断面についてサンプリングを行なってから、各断面について楕円近似を行うという流れで処理を行ってもよい。
近似楕円の導出は様々な方法で行うことができる。例えば、全ての画素値最大点の座標の平均値を中心座標とし、当該中心座標から各画素値最大点までの距離の最大値を長辺の長さ、最小値を短辺の長さとする楕円を近似楕円としてもよい。また、この近似楕円の中心座標や半径を少しずつ変化させ、それぞれ実際の画素値最大点との残差の二乗和を計算して、これが最小となる楕円を最終的な近似楕円としてもよい。
〔心筋輪郭点の抽出〕
続いて、図9a〜図9dを用いて、図2のステップ220の処理の詳細を説明する。このステップでは、その前のステップ210で求めた楕円体に基づいて、処理対象の画像データ130の画素のうち、心筋の外膜点や内膜点に対応する画素を特定する。
ステップ900は処理の開始を示す。ステップ902では、図2のステップ210で求めた楕円体について、その長軸を含む断面を一つ決定する。この断面は任意に設定してよい。例えば、長軸をZ軸とし、これに垂直にX軸、Y軸を設定したとき、Y軸に垂直な断面とすることができる。この断面は当然楕円となる。
ステップ904以降では、ステップ902で得られた楕円を利用して、心筋輪郭点の抽出を行うトレース方向を設定していく。まずステップ904において、Z軸において心尖部方向を0°、心基部方向を180°として検索角度を設定し、ステップ906において、楕円中心から設定した検索角度方向へ延ばした直線と、楕円との交点を求める。本例では、最初の検索角度を10°とし、処理ループがステップ924を経てステップ904に戻るたびに角度を5°ずつ増していき、検索角度が170°に達したところでそれ以上は検索角度を増やさずに終了することとしている。すなわち図9aのステップ924に記載されている「検索終了角度」を170°としている。しかしながら、これらの数値は例示であり、最初の検索角度や検索終了角度、角度の増分ステップに、他の数値を採用してもよいことはもちろんである。
ステップ910では、ステップ906で計算された交点における法線が求められる。すなわち交点における接線に垂直な直線が求められる。ステップ912においては、この法線とZ軸(すなわち楕円の長軸)との交点が計算され、この交点が現在の処理ループにおける心筋輪郭点抽出のトレース中心と決定される。すなわち、心筋輪郭点抽出のためのサンプリングの起点と決定される。
ステップ916では、心筋輪郭点抽出を行う最初のトレース方向(すなわちサンプリングの方向)が決定される。これは、ステップ912で決定されたトレース中心からステップ906で計算された交点へ向かう方向であると決定される。続く処理のために、この方向を向くベクトル(トレース方向ベクトル)が計算される。
図9bに、検索角度と、検索角度方向へ延びる直線と楕円との交点、当該交点の法線、法線とZ軸との交点、トレース方向ベクトルなどの関係を図示した。
ステップ918では、トレース方向ベクトルをZ軸(すなわち楕円の長軸)の周りに回転させるための回転角度が設定される。本例では、処理ループがステップ922を経てステップ918に戻るたびに、0°から350°まで、10°ステップで回転角度を増すこととしている。すなわちZ軸の周りに初期方向ベクトルを一周させる。従ってトレース方向は、ステップ210で求めた楕円体の長軸上の点から当該楕円体の面に垂直な方向に向かって該長軸の周りに円錐放射状に等間隔に設定される。上記のステップ幅である10°はもちろん例示であり、実施形態によっては、角度の増分ステップを、例えば5°など他の値としてもよい。ステップ920では、ステップ918で設定された方向すなわち回転した方向ベクトルの方向で、画像データの心筋輪郭点抽出処理が行われる。この処理については図9cを用いて後に詳細に説明する。
ステップ922では、トレース方向ベクトルのZ軸の周りの回転角度が回転終了角度であるか否かが判定される。前述のように、本例ではこれを350°としている。回転終了角度になっていれば、ステップ924に進み、ステップ904で設定した現在の検索角度が検索終了角度であるか否かが判定される。前述ように、本例ではこれを170°としている。検索終了角度になっていれば、処理は終了する(ステップ926)。
続いて図9cを用いて、図9aのステップ920の心筋輪郭点抽出処理の一例を説明する。
ステップ930は処理の開始を示す。ステップ932では、ステップ912で設定されたトレース中心から、ステップ922で設定されたトレース方向ベクトルの方向に、処理対象の画像データ130が走査され、画素値のプロファイルが作成される。すなわち位置に応じた画素値の変化が調べられる。このステップにおいて、有効な画素値について閾値を設けてもよい。例えば、このプロファイルにおける最大画素値の30%以下の画素値については、画素値を無効又は0としてもよい。または、前述の閾値率を30%として前述の画素閾値を定め、これを下回る画素値を有する画素を処理から除いてもよい。これは、ノイズを含む可能性のある画素を処理から除外するためである。
ステップ934では、ステップ932で作成されたプロファイルにおける画素値が最大となる点(画素)が特定される。
ステップ936では、次のステップ938で設定される判定ラインを計算するための「判定閾値」が初期値にセットされる。ステップ938ではその判定ラインが計算される。この判定ラインは、後述のように、次のステップ940において、心筋の内膜点及び外膜点を特定する基準となるものである。実施形態によっては、この判定ラインは、ステップ932で作成された画素値プロファイルにおける最大画素値に基づいて決定されてもよい。実施形態によっては次のように決定されてもよい。
判定ライン=(最大値−最小値)× 判定閾値 + 最小値
上の式において、最大値とは画素値プロファイルにおける最大画素値を表し、最小値とは画素値プロファイルにおける最小画素値を示す。判定閾値はステップ936で初期設定されると共に、必要に応じてステップ944で再設定される。判定閾値を再設定する場合についてはステップ942に関連して後述される。例示であるが、ステップ936でセットされる初期の判定閾値は、本例では75%である。実施形態によっては、内膜点を判定する場合と外膜点を判定する場合とで判定閾値を変えてもよい。
ステップ940においては、画素値プロファイルがこの判定ラインと交差する点の付近を心筋の内膜点や外膜点と判定する。実施形態によっては、プロファイルにおける画素値最大点から見てトレース中心の側において該プロファイルが判定ラインと交差する点のうち、画素値最大点に最も近い点又はその近傍を、そのプロファイルにおける心筋の内膜点と判定する。例えば、画素値最大点からトレース中心の方へプロファイルカーブを下って行くとき、プロファイルが判定ラインを最初に下回った点(画素)を、そのプロファイルにおける心筋内膜点と判定する。同様に、実施形態によっては、プロファイルにおける画素値最大点から見てトレース中心の反対側において該プロファイルが判定ラインと交差する点のうち、画素値最大点に最も近い点又はその近傍を、そのプロファイルにおける心筋の外膜点と判定する。例えば、画素値最大点からトレース中心とは反対側の方へ画素値プロファイルカーブを下って行くとき、プロファイルが判定ラインを最初に下回った点(画素)を、そのプロファイルにおける心筋外膜点と判定する。
図9dに、Z軸方向から見た、画像データのトレース面や、トレース中心、トレース方向、画素値プロファイル、判定ライン、画素値最大点、内膜であると判定した点や外膜であると判定した点などの関係を示してあるので参照されたい。画像データのトレース面は、ステップ904で設定される検索角度が90°未満の場合、実際にはZ軸方向に角度がついており、コーン状のトレース面を上から平面的に表しているものであることに注意されたい。
ステップ942においては、ステップ940で特定された内膜点と外膜点との距離が計算され、この距離が所定の範囲内に収まっているかどうかが判定される。内膜点と外膜点との距離は、心筋の膜厚を反映していると考えられる。前述の所定の範囲は、例えば8mm以上32mm以下とすることができる。この範囲は例示ではあるが、心筋に異常がない者でも、何らかの異常を抱えているものでも、例えば心筋が薄くなるような疾患を抱えている者に対しても心筋輪郭点抽出が最も良好に行われる範囲であるという検討結果が存在する。ステップ942で、内膜特定点と外膜特定点との距離が上記所定の範囲内にない場合は、ステップ944に進み、判定閾値を変更する。閾値の変更ステップは例えば5%などとすることができる。例えば、内膜特定点と外膜特定点との距離が8mm以下の場合、判定閾値を5%ずつ上昇させることとしてもよい。また例えば、内膜特定点と外膜特定点との距離が32mm以上の場合、判定閾値を5%ずつ減少させることとしてもよい。内膜特定点と外膜特定点との距離が所定の範囲内に収まる場合、内膜及び外膜の特定点を確定し、処理を終了する(ステップ948)。一定以上判定閾値を変化させても内膜特定点と外膜特定点との距離が所定の範囲内に収まらない場合、エラーを出力(ステップ950)し、当該プロファイルにおいては内膜点及び/又は外膜点を特定できなかった旨が示される。なお、処理がエラー出力で終了する場合(ステップ950)であっても、例えば初期判定閾値に基づく判定ラインに基づいて特定された内膜点及び/又は外膜点を出力に含めることが好ましい。
ところで、心尖部においては、輪郭点判定トレース領域(すなわちステップ904−922によって設定される円錐状の領域)が、心筋の膜内に入るか近づきすぎてしまい、心筋内膜点を特定できないことがある。そこで心尖部と思われるトレース領域においては、外膜点のみを特定し、内膜点は特定しないとしてもよい。その場合、判定ラインを変化させることは不要であるので、例えば、ステップ936で設定された初期判定閾値に基づく判定ラインに基づいて、上記のように外膜点を特定し、その点を該当プロファイルにおける外膜判定点と決定してもよい。トレース領域が心尖部に位置するか否かは、例えばステップ904において検索角度が所定範囲内、例えば15°以内の場合であるなどとすることもできる。また、後に説明される心尖部特定方法に基づいて心尖部を特定してもよい。
これまで説明された処理を用いることにより、心筋の3次元SPECT画像データにおいて精度良く心筋の内膜点や外膜点に対応する画素を特定することが可能となる。特定された心筋輪郭点の情報を含む画像データは、画像データ142として補助記憶装置106に格納されてもよい。
しかしながら、図2のステップ230として示されているように、心筋輪郭点の抽出の質をさらに向上させるために、様々な補間処理や整形処理などを更に加えてもよい。また、実施形態によっては、心尖部や心基部、またその中間領域に分けて補間処理や整形処理を行うが、心尖部領域や心基部領域をどのように特定するかについても関心があろう。以下はそのような処理についても紹介する。
〔心尖部領域の特定〕
図10を用いて、心尖部領域を特定する処理の例について説明する。本処理例では、図2のステップ210で求めた楕円体とは別の第2の楕円体を求め、その先端部を心尖部の先端と決定する。また、求めた楕円体の中心付近における短軸横断断面スライスを用いて心筋の平均膜厚を計算し、これを心尖部の膜厚としても用いる。
ステップ1000は処理の開始を示す。ステップ1004から1020までは、心尖部の最先端部を決定するための処理となる。ステップ1004では、上記第2の楕円体を求めるためのトレースを行う中心点を設定する。ある実施形態では、この中心点は、図2のステップ210で求めた楕円体(以下、この楕円体を第1の楕円体と称する場合がある)の中心である。ステップ1008では、設定した中心点から放射状に、処理対象の画像データ130のトレースを行い、画素値の変化を調べる。すなわち画素値のプロファイルを作成する。実施形態によっては、このトレースは、心尖部側についてのみ行ってもよい。実施形態によっては、第1の楕円体の長軸方向の心尖部側を90°としたとき、楕円体の中心(トレース中心)から0〜80°及び180〜100°の範囲についてのみトレースを行ってもよい(図10a参照)。長軸の周りの角度については、360°の範囲でトレースを行うことが好ましい。
ステップ1012では、ステップ1008の各トレースで得た各画素値プロファイルについて、図9cのステップ940と同様の処理により、外膜点を特定する。すなわち、プロファイルの画素値最大点から見てトレース中心と反対側において、プロファイルが判定ラインと交差する点のうち前記画素値最大点に最も近い点またはその近傍を、該プロファイルにおける心筋の外膜点と特定する。例えば、画素値最大点から見てトレース中心の反対側において、画素値プロファイルが判定ラインを最初に下回る点を、当該プロファイルの外膜点と判定する。ステップ1016では、得られた外膜判定点の集合を近似する楕円体(すなわち上記の第2の楕円体が)求められる。
第2の楕円体を求める計算は、図7のステップ712における計算と同様に行うことができる。すなわち、例えば、第1の楕円体の長軸を含む断面であって、外膜判定点を有する断面のそれぞれについて、当該断面に含まれる外膜判定点との残差の二乗和を最小とする楕円を求め、これらの楕円の中心の平均値や長辺・短辺の平均から、求める第2の近似楕円体の中心や長軸・短軸を決定してもよい。
良好な近似楕円体を求めるために、ステップ1016において近似楕円体を求める前に、ステップ1012で得られた判定点のうち、トレース中心から所定の距離よりも遠い位置にある判定点は無効として、近似楕円体を求める計算から除外してもよい。
ステップ1020では、心尖部の最先端部を決定する。実施形態によっては、求めた第2の近似楕円体における心尖部側の最先端部をもって、画像データに含まれる心臓心室の心尖部の最先端部としてもよい。
図10aは、ある長軸断面を用いて、画像データのトレース中心と方向すなわち画素値の変化を調べるための画像データのサンプリングの開始点および方向と、判定された外膜点、それに外膜判定点を近似した楕円の様子を描いた図である。またこの図には、ステップ1020で決定された心尖部の最先端部すなわち心尖部の外側に接する横断断面スライスも描かれている。なお、図10aは2次元の楕円の長辺に接するように心尖部外側スライスが描かれているが、これは説明の便のためにそうなっているだけで、実際には、ステップ1016において求められた3次元の近似楕円体の長辺に接するスライスである。
ステップ1024以降は、心尖部の膜厚を決定するための処理となる。ステップ1024では、ステップ1004で設定したトレース中心付近の短軸横断断面像を何枚か抽出する。短軸横断方向は、例えば、第1の楕円体の長軸に垂直な方向とすることができる。実施形態によっては、トレース中心とした第1の楕円体の中心を含む短軸横断断面像と、これに心尖部方向及び心基部方向に隣接する短軸横断断面像をそれぞれ例えば10枚ずつ抽出してもよい。
ステップ1028では、ステップ1024で抽出した各短軸横断断面像について、それぞれ膜厚の平均を求め、さらに抽出した全ての短軸横断断面像における膜厚の平均を求める。各短軸横断断面像における膜厚を求める手法としては、図9aのステップ912−922で説明した手法を応用することができる。すなわち、トレース中心から、所定の角度範囲において、所定の角度ステップで、各角度方向に画素値の変化のプロファイルを作成し、最大画素値の付近で判定ラインと交差する点の付近をそれぞれ内膜点及び外膜点とし、これらの間の距離をもって膜厚とすることができる。トレース中心としては、各スライスにおいて、上記第1の楕円体の長軸と同軸に位置する座標を用いてもよい。図9cに関連して説明したように、判定ラインは可変とすることができる。
実施形態によっては、ステップ1028において、各短軸横断断面像において膜厚を求める角度範囲を、当該短軸横断断面スライスのトレース中心を中心とし、各短軸横断断面像の上方向を0°として、±60°としている。これは、前壁方向の膜厚のみを抽出するためである。前述のように、短軸横断断面像においてこの角度範囲が前壁方向であるのは、核医学イメージングの分野において一般的なことである。
ステップ1032では、ステップ1024で抽出した各短軸横断断面像の各平均膜厚の平均をもって、心尖部の膜厚と定める。ステップ1036では、ステップ1020で決定した心尖部最先端部から、ステップ1032で決定した心尖部膜厚の分だけ心室中心側に移動した位置を、心尖部内側端と決定する。ステップ1040は処理の完了を表す。
図10bに、ステップ1024で設定する平均膜厚を調べるための範囲と、ステップ1028で壁厚検索を行う角度範囲、それにステップ1032で決定される心尖部内側端を、図10のステップ1020で決定される心尖部外側端と共に例示する。
〔心基部領域の特定〕
続いて、図11を用いて、心基部領域を特定する処理の例を説明する。この処理においては、心基部側に位置する所定の範囲の短軸横断断面像において、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かを調べ、その結果に基づいて心基部の開始位置を特定する。
ステップ1100は処理の開始を示す。ステップ1104は、調査対象の画像データ130のうち、心壁の途切れを判定する最初の短軸横断断面スライス(心基部判定開始スライス)を設定する。このスライスは、例えば、図2のステップ210で求めた楕円体(第1の楕円体)を利用して設定することができ、例えば、第1の楕円体の長軸に垂直な面を表すスライスであって、長軸の心尖部方向を0°としたときに、例えば110°に位置するスライスとすることができる。
ステップ1108では、判定対象のスライスについて、内膜点及び外膜点の特定を行う。この処理は、例えば、上記第1の楕円体の長軸と判定対象スライスとの交点をトレース中心として当該スライス上で放射状にトレース方向を設定し、各方向について図9cで説明した手法などを利用して行うことができる。
ステップ1112では、ステップ1108の処理結果から、判定対象のスライスにおいて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かを調べる。心壁の途切れの存在は、特定の画素値プロファイルにおいて有効な内膜点及び/又は外膜点が存在しないことをもって判断することができる。このような場合、当該画素値プロファイルに対応する角度領域は、心壁が途切れていると判断することができる。核医学イメージングで得られる短軸横断断面像においては、一般的に、画面の左方向が中隔側となっている。そこで、例えば、原点を各画素値プロファイルのトレース中心(例えば上記第1の楕円体の長軸と判定対象スライスとの交点)とし、画面右方向を0°とした場合の、150〜210°の範囲を中隔側と設定することができる。むろん、この範囲は例示に過ぎず、別の範囲を用いることもできる。参考のため、図11aに、本例における検索対象の角度範囲の様子を示した。ステップ1112では、この角度範囲において、所定角度(例えば20°)以上の連続した心壁途切れが存在するかどうかを調べる。
ステップ1108及び1112の処理は、心基部判定開始スライスから、それより心基部側に位置する後述する「調査スライス」と呼ばれるスライスまで、順々に行われる(ステップ1116)。それによって、各スライスについて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するか否かが調べられる。
ステップ1122では、心基部の開始スライスの決定が試みられる。これは次のように行われる。
(a)調査スライスにおいて、中隔側の心壁に所定角度以上の途切れが存在するスライスが連続しているかどうかが判定される。そのようなスライスが連続している場合、連続しているスライスのうち最も心尖部側のスライスを、心基部の開始スライスであると決定する。例えば、スライス番号と途切れ状態の判定結果が次のようであった場合、スライス54が心基部開始スライスとして決定される。
スライス番号 途切れ状態
50 なし 心基部判定開始スライス
51 あり
52 なし
53 なし
54 あり
55 あり
56 あり 調査スライス
(b)調査スライスにおいて、上のような途切れが存在するスライスが連続していない場合は次のように処理を進める。
・ 調査スライスおよび調査スライスより心尖部側に位置するスライスの中で、上のような途切れが存在するスライスがないかを調べる。そのようなスライスがある場合、その中で最も心基部側のスライスを、心基部の開始スライスであると決定する。
・ 調査スライスおよび調査スライスより心尖部側に位置するスライスには、上のような途切れが存在するスライスがない場合は、ステップ1122では心基部開始スライスを決定せず、次のステップに進む。
ステップ1124では、ステップ1122において心基部の開始スライスが決定できたか否かが判定され、決定できていれば、ステップ1148に進んで処理は終了する。決定できていなければ、ステップ1128に進む。
ステップ1128以降では、調査スライスより心基部側に一つずつスライスを移動し、それぞれステップ1108及び1112と同様の処理によって、当該スライスに上記のような心壁の途切れがあるかないかを判定する(ステップ1132)。ステップ1136では、当該スライスに心壁の途切れが見つかったかどうかが判定され、見つかった場合は、当該スライスを心基部開始スライスと決定する(ステップ1140)。見つからない場合は、判定終了スライスまでスライスを一つずつ移動し、さらに心壁途切れを有するスライスを検索する(ステップ1144)。処理範囲終端スライスまで検索しても、上記のよう心壁途切れを有するスライスが見つからない場合は、エラーを出力して処理終了する(ステップ1152)。
これまでの処理において、「調査スライス」は、例えば、上記第1の楕円体の長軸の心尖部方向を0°としたときに、例えば135°に位置するスライスとすることができる。また、「処理範囲終端スライス」は、例えば150°に位置するスライスとすることができる。むろん、これらの角度は例示であり、実施形態によっては他の角度を用いてもよい。
図11bに、心基部判定開始スライスと調査スライス、判定対象スライス範囲、および処理範囲終端スライスの関係を例図によって示す。
〔心基部寄りの領域における心筋輪郭点抽出〕
心基部寄りの領域においては、図9aを参照して説明した手法よりも、次に説明する手法を用いて心筋輪郭点の抽出を行った方が、結果が良好になるという検討結果が存在する。この手法を図12を参照して説明する。
ステップ1200は処理の開始を表す。ステップ1204では、最初に心筋輪郭点抽出処理を行うスライスを決定する。本例では、このスライスは、図2のステップ210で求めた第1の楕円体の中心を含み、当該第1の楕円体に垂直なスライスよりも、一枚心基部側に寄ったスライスとする。
ステップ1208では、処理対象のスライスにおいて心筋内外膜点の特定を行う。この処理は、第1の楕円体との長軸との交点をトレース中心として放射状にトレース方向を設定すると共に、設定したトレース方向の各々において、例えば図9cを用いて説明した手法を用いて、心筋内外膜点の特定を試みることで行うことができる。このとき、特定された心筋内外膜点が次のようである場合は、特定された内外膜点を無効としてもよい。
・ 特定された内膜点からトレース中心までの距離が、隣接するトレース方向において特定された外膜点からトレース中心までの距離よりも長い場合。
・ トレースにおけるカウント値の最大値が、有効な内外膜点が特定された全トレースのカウント最大値の平均値より2σ以上離れている場合。但し1σが平均値の10%以下であれば、この判定は行わなくともよい。
・ 壁厚(内膜から外膜までの距離)が、30mmを超えるプロファイル。
ステップ1212では、有効な外膜点の集合を近似する円を計算し、その中心を求める。この中心を、当該スライスにおける心室中心として記録してもよい。
ステップ1216では、ステップ1212で計算した近似円の中心をトレース中心として、改めて放射状にトレース方向を設定すると共に、設定したトレース方向の各々において、例えば図9cを用いて説明した手法を用いて、心筋内外膜点の特定を試みる。但し、ステップ1208において有効な外膜点の割合が低い場合は、すなわち外膜点の判定点が少ない場合は、隣接するスライスのトレース中心と同じ位置をトレース中心として、ステップ1216の処理を実行する。ステップ1216で抽出された心筋内外膜点に対しても、ステップ1208で説明した内外膜点の無効判定処理を適用することができる。
図9aの手法のように円錐状にトレース方向を設定するのではなく、図2のステップ210で求めた第1の楕円体の長軸に垂直な面内でトレース方向を設定し、さらに一度特定した心筋外膜点を用いて改めてトレース中心を設定して心筋内外膜点の抽出を行うことにより、より正確に心筋内外膜点の抽出を行うことができる。
ステップ1220では、処理対象スライスが心基部開始スライス(図11のステップ1122・1124で決定されたスライス)に到達したか否かが判定される。到達していなければ、ステップ1224に進んで、処理対象スライスを1枚心基部側に移動する。到達していれば、ステップ1228に進んで処理を終了する。
図9a,9bを用いて紹介した心筋輪郭点特定処理においては、心尖部方向から心基部方向までほぼ半周に亘って円錐状に心筋内外膜点トレースを行ったが、図12の心筋輪郭点特定処理を行う場合には、心基部方向については行なわなくてもよい。その代わりに心基部方向の心筋輪郭点については、図12の処理で特定された輪郭点を採用することができる。
〔逸脱判定点の除去および調整〕
図9a,9bを用いて紹介した心筋輪郭点特定処理において特定される心筋輪郭点の中には、他に特定された心筋輪郭点の傾向から逸脱し、正常に特定されていないと思われる点が含まれることがある。以下に、そのような逸脱点を除去するために有用な処理の例を紹介する。
(a)ステップ912で特定されたトレース中心と、ステップ940で特定された心筋外膜点とを結ぶ直線上で、トレース中心から心筋外膜点までの距離が、トレース中心から近似楕円体との交点(ステップ906参照)までの距離の所定割合未満、例えば90%未満であれば、その外膜点は無効とする。
(b)あるカウントプロファイル(ステップ932参照)の中で、カウント値が最大となる点(画素)が、トレース中心から離れすぎている場合(例えばトレース中心から近似楕円体との交点までの距離の例えば150%を超える場合)や、逆にトレース中心に近すぎる場合(例えばトレース中心から近似楕円体との交点までの距離の例えば50%未満の場合)は、そのカウントプロファイルで特定された内膜点・外膜点の両方を無効とする。
(c)あるカウントプロファイルで特定された内膜点と外膜点との間の距離が所定の値より短い場合(例えば8mmを下回る場合)、外膜点を外側に移動させて所定の値に等しくなるようにする。
〔補間・整形処理〕
続いて図13を参照して、特定された心筋輪郭点に基づいて補間や移動、無効化などの処理を施すことにより、より滑らかな心筋輪郭を特定するための処理について説明する。
ステップ1300は処理の開始を示す。ステップ1302では補間処理により心筋輪郭点が追加される。図9a,9bや図12を用いて紹介した心筋輪郭点特定処理では、心筋輪郭点特定トレースを行う角度ステップを5°や10°などと例示したように、それほど細かいステップでトレースを行わない場合がある。このため、これらの処理が終了した段階においては、特定された心筋内外膜点は画像データ中に比較的まばらにしか存在しない。そこで、上述の逸脱判定点無効化処理を行った後に残った心筋輪郭点に基づいて線形補間を行って心筋輪郭点を追加することにより、全ての短軸横断断面スライスにおいて心筋内膜点又は外膜点の少なくとも一方が存在するようにされる。
ステップ1304では、画像データ中の心尖部領域を決定する。心尖部は、例えばステップ904において検索角度が所定範囲内、例えば15°以内の場合であるなどと、一律に定めてしまってもよい。また、図10を用いて説明した手法により自動的に心尖部を特定することとしてもよい。
ステップ1308では、画像データ中の心基部領域を決定する。心尖部と同様に心基部についても、例えばステップ904において検索角度が所定範囲以上、例えば135°以上の場合であるなどとするなど、一律に定めてしまってもよい。また、図11を用いて説明した手法により自動的に心基部を特定することとしてもよい。
以下のステップでは、短軸横断断面スライスの位置によって補間や整形のための処理を変える。このためステップ1312では、処理対象の短軸横断断面スライスの位置が判定される。心尖部内側から心基部直前に位置するスライスについては、ステップ1316に進む。このステップでは、スライスごとに、当該スライスに存在する心筋内膜点および心筋外膜点を、それぞれ円近似する。続いて、近似円の中心と半径に基づいて、内膜点又は/及び外膜点が存在しない領域に内膜点又は/及び外膜点の補間点を挿入する。ステップ1316の近似円による補間処理の様子を図13aに示した。この処理により、補間処理が行われたスライスについては全周に亘って心筋内膜点・外膜点が存在することになる。
ステップ1316の処理は、心尖部内側から心基部直前に位置する全てのスライスについて行われる。図13にはループが記載されていないが、これら全てのスライスについて処理が行われるものと理解されたい。また、当該スライスの心室中心を、内膜の近似円の中心に更新する。(ただし外膜のみ補間を行った場合は、外膜の近似円の中心に更新する。)しかし、あるスライスの内膜の有効判定点が少ない場合、例えば全周の25%以下である場合は、そのスライスの内膜については、ステップ1316の円近似補間処理は行わない。同様に、あるスライスの外膜の有効判定点が全周の25%以下である場合、そのスライスの外膜については、ステップ1316の円近似補間処理は行わない。このようなスライスの内膜又は外膜については、ステップ1320の隣接スライスによる補間処理が適用される。
続いてステップ1320の処理について説明する。前述のように、ステップ1320の処理は、内膜又は外膜の有効な輪郭点が少ないスライスについて適用される。説明の便のために、あるスライスAの内膜において、有効な輪郭点が全周の25%以下である場合を考える。
(サブステップ1)まず、スライスAに存在する内膜点と、スライスAのトレース中心又はZ軸との距離の平均を求める。
(サブステップ2)次に、スライスAに隣接するスライスBにおいて、そのトレース中心又はZ軸と各内膜点との距離の平均を求める。スライスBは、スライスAより中心側(すなわちステップ210で求めた楕円体の中心側)に隣接するスライスであることが好ましい。
(サブステップ3)続いて、スライスAに関して計算した平均距離と、スライスBに関して計算した距離の平均との差を計算する。
(サブステップ4)最後に、スライスAにおいて輪郭点が存在しない角度(Z軸周りの角度)において、スライスBの対応する角度(Z軸周りの角度)の内膜点の座標を上に計算した差だけ移動した点を、当該プロファイルにおける内膜点と定める。
なお、サブステップ4で用いる差は、スライスAに存在する内膜点が非常に少ない場合、例えば全周の10%以下である場合は、スライスBとそれにさらに隣接する別のスライスとから同様に計算された平均距離の差を用いてもよい。
外膜についても、内膜と同様に処理することができる。
続いてステップ1324の処理について説明する。ステップ1324の処理は、心尖部のすぐ内側のスライスについてのみ行い、これらのスライスについての内膜判定点を近似した円の径が、心尖部に向けて所定の割合で減少するように、各内膜判定点の位置を補正する。
例えば、心尖部領域のすぐ内側のスライスをスライスA,スライスAに心基部側で隣接するスライスをスライスB,スライスBに心基部側で隣接するスライスをスライスC,スライスCに心基部側で隣接するスライスをスライスD,スライスDに心基部側で隣接するスライスをスライスEと表す。このとき、各スライスの内膜近似円の半径の比が、例えば、E:D:C:B:A=1:0.82:0.73:0.60:0.43となるように、各スライスの内膜判定点の位置を補正してもよい。(内膜近似円とは内膜点を近似した円を指す。ステップ1316において求めたものと同じである。)このような補正を行なうことにより、内膜の輪郭をより滑らか且つ自然にすることができる。
続いて、ステップ1312で、心尖部領域に位置すると判定されたスライスについての処理について説明する。この場合、処理はステップ1328に進む。ステップ1328においても、ステップ1316における処理と同様に、各スライスに存在する輪郭点を円で近似し、得られた近似円の中心及び半径を利用して、輪郭点が存在しない角度領域に補間により輪郭点を追加する。ただし、心尖部領域に位置するスライスについては内膜点は存在しないので、円近似及び補間は外膜点についてのみ行われる。しかし、外膜点が全周の50%以下しか存在しないスライスについては、良好な近似円を作成できないので、ステップ1328の補間処理は行わずに、ステップ1332の隣接スライスによる補間処理を行う。
ステップ1332では、図10のステップ1016で求められた第2の楕円体を利用して補間を行う。ステップ1332では、全周の50%以下にしか輪郭点が存在しないスライス(以下、スライスPという)に含まれる全ての外膜点と、第2の楕円体の中心軸との平均距離を計算する。また、スライスPに隣接するスライス(以下、スライスQという)に含まれる外膜点と第2の楕円体の中心軸との平均距離を計算する。そして、これらの平均距離の差分を求め、スライスQの外膜点を当該差分の量だけ移動した点を、スライスPの外膜判定点とする。
続いて、ステップ1312で、心基部領域に位置すると判定されたスライスについての処理について説明する。このようなスライスは、ステップ1336以降により処理される。ステップ1336では次のようなサブステップを含む処理が行われる。
(サブステップ1)心基部の開始を表すスライス(以下、スライスAという)において、外膜および内膜それぞれについて、ラベリングなどの手法を用いて、有効な輪郭点が連続する最大の領域である有効領域を特定する。有効な輪郭点とは、無効とマークされていない輪郭点を意味してよい。
(サブステップ2)スライスAに含まれる外膜点のうち、外膜点に関する有効領域に含まれないものを無効とする。同様に、スライスAに含まれる内膜点のうち、内膜点に関する有効領域に含まれないものを無効とする。
サブステップ1で設定される有効領域と、サブステップ2で無効とされる判定点の様子を図13bに図示したので参照されたい。
(サブステップ3)スライスAに対して心基部終端側に隣接するスライス(以下、スライスBという)において、当該スライスに含まれる外膜点のうち、スライスAの外膜に関する有効領域に対応する領域に含まれない点を無効とする。ここでスライスAの外膜に関する有効領域に対応するスライスBの領域とは、Z軸方向において、スライスBの領域のうち、スライスAの有効領域に重なる領域のことをいう。スライスBに含まれる内膜判定点についても、同様に、スライスAの内膜に関する有効領域に対応する領域(すなわち長軸方向において重なる領域)に含まれない点を無効とする。
(サブステップ4)スライスBに対してさらに心基部終端側に隣接するスライス(以下、スライスCという)について、サブステップ3と同様の処理を行う。すなわち、スライスBをスライスA,スライスCをスライスBと見立てて、サブステップ3と同様の処理を行う。
(サブステップ5)サブステップ3を繰り返すたびに、スライスの心室中心から有効領域の角度幅を計算する。あるスライスの有効領域の角度幅が所定の角度以下となった場合、当該スライスおよびそれより心基部終端側のスライスにおける全ての輪郭点を無効にする。この所定の角度は、例えば120°とすることができる。
なお、図13の各ステップにおける処理と同様に、ステップ1336も複数のスライスについて行われる処理である。図13にはループが描かれていないが、上にサブステップ4の説明からも理解できるように、ステップ1336の処理には実際にはループが含まれるので、注意されたい。
続いて、処理はステップ1340に進む。ステップ1340では、有効な内膜および外膜点を有する各スライスについて、内膜および外膜それぞれについて個別に円近似を行う。ただし、輪郭点が、外膜で全周の25%以下、内膜で50%以下になった段階で、そのスライスも含めて最後のスライスまでの輪郭点を全て無効とする。従って、そのスライスより一つ心室中央側のスライスが、心筋終端スライスとなる。また、各輪郭点が求められた近似円の円周上に位置するように、各輪郭点の位置を修正してもよい。これらの処理は、心基部の輪郭をより滑らかにするためである。
ステップ1344は処理の終了を示す。
〔内膜点および外膜点のスムージング〕
続いて、有効な内膜点および/または外膜点を持つスライスに対して、カーブフィッティングによる位置補正を行い、輪郭点がスムーズになるようにする処理の例を示す。ここでは、例えば、次の3つの処理のうち、少なくとも1つの処理を行ってもよい。
(スムージング処理1)スライス別のスムージング
短軸横断断面スライスの各々について個別にスムージング処理を行う。具体的には次のように行う。
・ 各スライスの心室中心から有効な輪郭点の距離に対してフーリエ級数近似によるフィッティングを行い、結果を輪郭点に反映させる。
・ 心尖部内側から心基部開始スライスまでの範囲においては、内膜点・外膜点をそれぞれ個別にフィッティングを行う。心尖部については外膜点のみフィッティングを行う。心基部については、内外膜点を結合してフィッティングを行う。近似区間は、心基部以外を2、心基部を4とする。(この値が小さいほど形状は鈍る。)
図14aにフィッティングの様子の例を示した。Z軸周りの角度を横軸に、心室中心(トレース中心)からの距離を縦軸にとって、内膜または外膜の輪郭点がプロットされている。また、これらをフーリエ級数近似によるフィッティングを行った後の点も示されている。内膜または外膜の輪郭点の位置がスムーズに変化するように修正されたことが理解できる。
(スムージング処理2)長軸方向のスムージング
図2のステップ210で決定した楕円体の中心を含む長軸横断断面像の各々について、楕円体中心から各輪郭点の距離に対してカーブフィッティングを行い、結果を輪郭点に反映させる。具体的には次のように行う。
・ 図10bの心尖部外側スライスから楕円体中心付近までの輪郭点に対しては、ガウス近似によるフィッティングを行う。
・ 楕円体中心付近から心基部終端までの輪郭点に対しては、移動平均近似(平均区間:4)によるフィッティングを行う。
図14bに、ガウス近似によるフィッティングを行う範囲や移動平均近似によるフィッティングを行う範囲の設定の様子の例を示した。図示されるように、フィッティングは、心尖部と心基部に分けて行うが、それぞれ中心より心基部側、心尖部側の判定点も少し含むようにフィッティングすることが好ましい。これは、中心付近において輪郭点の位置の変化がスムーズになるようにするためである。
(スムージング処理3)スプライン補間による整形
輪郭点をスプライン補間によりさらにスムージングする。
まず、内外膜それぞれでサンプリングスライスを決定して、スライスに垂直な方向(Z軸方向,図14c、14d参照)のスプライン補間を行い、サンプリングスライス以外の内外膜輪郭点を補間位置に変更する。外膜のサンプリングスライスは、例えば、心尖部外側スライス,心尖部外側スライス+1スライス内側,心尖部中間スライス(心尖部外側−内側の中間),心尖部内側スライス+1スライス外側,心尖部内側スライス,心筋中間スライス(心尖部内側−心基部直前の中間),心基部開始スライス,心筋終端スライスの8スライスとすることができる(図14c参照)。
また内膜のサンプリングスライスは、例えば、心尖部内側スライス,心尖部内側スライス+2スライス内側,心筋中間スライス(心尖部内側−心基部直前の中間),心基部開始スライス,心筋終端スライスの5スライスとすることができる(図14d参照)。むろんこれらのスライス選択は例示である(図14e参照)。
次に、スライス別に補間用サンプリング位置(例えば45°刻みで8角度)の内外膜輪郭点でそれぞれスプライン補間を行い、サンプリング位置以外の内外膜輪郭点を補間位置に変更する。
〔輪郭線の決定〕
これまでの処理で求められた内膜/外膜点を線形補間により結線し、閉曲線を作成して心筋輪郭線を決定する。図15に、心尖部、心尖部内側から心基部直前まで、心基部、それぞれについての結線の様子を例示した。心尖部については外膜の輪郭点しかないので、これを線形補間により結線し、閉曲線を作成する。心尖部内側から心基部直前までについては、内膜点及び外膜点を、それぞれ個別に線形補間により結線して閉曲線を作成する。心基部(または輪郭点が存在しない角度が20°以上存在するスライス)については、内膜点と外膜点とを接続して一つの閉曲線を作成する。すなわち、内膜点と外膜点とを線形補間により結線して1つの閉曲線を作成する。これらの閉曲線が心筋の輪郭線としてCPU102から出力されてもよい。
〔表示例〕
上の心筋輪郭点抽出技術を用いて、3次元心筋SPECT画像データから切り出した断面像に心筋輪郭を重ねて表示した例を、図16に示す。図16では、2つの3次元心筋SPECT画像データ(例えば図1の画像データ130,131)からの画像が表示されており、1602及び1604の行に表示されている画像は第1の画像データ(例えば画像データ130)からの画像であり、1606及び1608の行に表示されている画像は第2の画像データ(例えば画像データ131)からの画像である。1602及び1604の行に表示されているSPECT画像は負荷条件で得られた画像であり、1606及び1608の行に表示されている画像は同一被験者の安静条件で得られた画像である。最も左に位置する列(1612)に表示されている画像は、画像の解剖学的方向を示すためのもので、その右に位置する4つの列(1622)には、それぞれ関連する解剖学的方向の異なる断面像が表示されている。図示されているように、1602及び1606の行に表示されている画像は短軸横断断面像であり、1604及び1608の行に表示されている画像は長軸横断断面像である。
各断面画像には、上の心筋輪郭点抽出技術を用いて抽出した心筋輪郭が白線で重ねて表示されている。短軸横断断面像においては、抽出した心筋輪郭点を円補間によって互いにつなぐことにより、連続した線として心筋輪郭を描いている。長軸横断断面像においては、心室中心(例えば図2のステップ210,図7のステップ712で計算される近似楕円体の中心)を中心に心尖部から心基部までをa,b,c,dに4分割し、最も心尖部側に位置する領域aにおいては抽出した心筋輪郭点を円補間によって互いにつなぎ、それ以外の領域b,c,dにおいては抽出した心筋輪郭点をスプライン補間によって互いにつなぐことにより、心筋輪郭を連続した線として描いている。この領域分割の様子が1608の行の最も左に位置する列に描かれている。
このような補間方法により心筋輪郭点をつなぐことにより、心筋輪郭を滑らかな線として表示することが可能になる。
〔心筋輪郭抽出処理の説明のむすび〕
以上、3次元心筋SPECT画像についての心筋輪郭抽出技術の好適な例を説明してきたが、この技術は、これまでに例示してきた形態にとどまらず、他にも様々な形態をとって具現化されうるものであることはもちろんである。上記の例の説明では、いくつかのフローチャートを用いて処理の順番を説明してきたが、これらの処理の順番は単なる例であって、例示した順番で処理を行わねばならないというものでは全くないことに注意されたい。異なる順番で処理が行われてもよいし、複数の処理を並列的に又は結合して行ってもよいし、特定の処理をサブルーチンやソフトウェア関数、ダイナミックリンクライブラリなどとして実装して他の複数の処理ステップにおいて呼び出されて使用されるように構成されてもよい。
[解析例1]
次に、心筋輪郭抽出技術を応用した3次元心筋SPECT画像の解析例をいくつか紹介する。最初の例は、心筋ポーラーマップの各領域に対応付けられる画素数の時間変化のグラフ化である。グラフ化の一例を図17Aに示す。
図17Aには、心筋ポーラーマップのある領域に対応付けられる画素数の時間変化のグラフが2つ描かれている。それぞれ負荷条件下のグラフ1702と、安静条件下のグラフ1704である。また心筋ポーラーマップ1706も描かれている。例示されるポーラーマップ1706は、心筋内膜面を3つのセグメントに分割しているが、これは単なる例示であり、よく知られているように、分割数はもっと多くてもよい。8分割や17分割、21分割など様々な分割数のものが知られている。ユーザがセグメント1〜3のいずれかをマウスや画面タッチ操作などで選択すると、そのセグメントに対応付けられる画素数の時間変化が、グラフ1702及び1704として表示される。グラフ1702,1704には、それぞれ符号1708で示したポイントが8つ描かれているが、これらが実測データであり、それぞれ心周期の異なる位相に対応する心電図同期心筋SPECT画像から計算された値である。曲線1709はこれらのポイントをガウスフィッティングによりつないだものである。
グラフ1702,1704のそれぞれにおいて、横軸は時間(ms)である。実施形態によっては一心周期を0−360°で表した位相としてもよい。縦軸は、各位相(時間)における、選択されたポーラーマップ・セグメントに関係付けられる画素数に関する値である。本例では、縦軸の値を、曲線1709の最高点を100として規格化して%で表示している。曲線1710は、曲線1709の微分曲線である。符号1708〜1710はグラフ1702にしか付されていないが、これは煩雑さを避けて図面の見易さを保つためであり、グラフ1704についても、図示されているとおり同様の要素が描かれている。このように、グラフ1702,1704は、一心周期において、選択されたセグメントに関係付けられる画素数がどのように変化するかを表すグラフである。なお、「セグメントに関係付けられる画素数」の意味については、図19の説明で明らかになるだろう。
グラフ化の別の例を図17Bに示す。図17Bに描かれる2次元マップ1752は、一心拍の時間長で規格化した時間を横軸に、心筋ポーラーマップのセグメントの番号を縦軸にとって、各時間において各セグメントに対応付けられる画素数を色スケールを用いて表現したグラフである。
連続的なグラデーションで表現されているが、これはむろんスムージング処理を施したためであって、元のデータは格子状にしか存在しない。例えば、一心周期中の3次元心筋SPECT画像の数が8つであり(すなわち8位相について3次元心筋SPECT画像を構築した場合であり)、抽出した心筋を17セグメントのポーラーマップに展開する場合は、SPECTの実測に基づくデータが存在するポイントの数は8×17となる。スムージング処理をかける場合、各データポイントのオリジナルの値は若干変わってしまうことになるだろう。実施形態によってはスムージング処理をかけずにグラフを表示してもよい。その場合のグラフは、マップ1752のような滑らかな表示にはならず、(位相又は時間のデータポイント)×(セグメント数)のマス目の各々に(例えば前述の例であれば、8×17のマス目の各々に)、データ値に対応する色や数字が表示されたグラフになるだろう。
色スケール1754は、マップ1752でグラフの表現に用いられている色スケールを示したものである。図17Bでは図示されているようにグレースケールが用いられているが、本来はカラースケールの方を用いた方が濃淡が容易に分かって好ましい。図17Bの例示にグレースケールが用いられているのは、特許出願書類に使用できないからという理由に過ぎない。色スケール1754に相対ボリューム(%)と記載されているように、マップ1752において時間・セグメントの各組に対応するデータ値は適当な値で規格化されている。例えば、セグメント毎に、当該セグメントの一心周期中における最大画素数で各データ値を規格化してもよい。別の例では、最大拡張期における心臓内腔のボリューム(心臓内腔領域の画素数)で、各データ値を規格化してもよい。色スケール1754が、相対「ボリューム」と記載されている理由は、特定のセグメントに対応付けられる画素数は、当該セグメントに対応する心臓内腔領域のボリュームに関連していると考えることができるからである。
実施形態によっては、マップ1752の横軸は、一心周期を0−360°で表現した位相としてもよい。
縦軸のセグメントの並び方は任意でよい。また、実施形態によっては、ポーラーマップ展開したセグメントの全てをマップ1752に含めなくともよい。実施形態によっては、マップ1752にデータを含めるセグメントを、ユーザが選択することを許すようなユーザインタフェースを提供してもよい。例えば、図17Aに示したようなポーラーマップをディスプレイに提示し、特定のセグメントの選択が行われたことに応じて(例えば特定のセグメント上でマウスボタンのクリックが行われたことに応じて)、当該セグメントに関するデータをマップ1752に追加したり除いたりすることができるように実施してもよい。
健康な心臓(心室)は、疾患を有する心臓(心室)に比べて、心筋の各部位が比較的揃って収縮することが多い。言葉を変えれば、疾患を有する心臓心室は、健康な心臓心室に比べて、心筋の収縮の位相が揃っていないことが多い。従って、健康な心臓の例えば左心室心筋のデータから作成したマップ1752は、濃淡が縦軸に沿って揃う傾向があるのに対し、弱っている心臓の例えば左心室心筋のデータから作成したマップ1752は、濃淡が横方向に広がってしまう傾向がある。従って、マップ1752は心臓の健康状態に対する有用な知見を提供することができる。
図18A及び19を用いて、グラフ1702,1704,1752に表示されるデータを計算するための処理を説明する。この処理は、図1に描かれる解析プログラム114がCPU102に実行されることによりシステム100が行う処理であってもよい。ステップ1800は処理の開始を示す。ステップ1810および1820では、心周期の特定の位相に対応する心電図同期心筋SPECT画像データがロードされる。すなわちデータの少なくとも一部が補助記憶装置106から主記憶装置104へとコピーされる。図17Aに図示されるように、図17Aのグラフ1702,1704を作成するには、負荷条件下および安静条件下の各々ために、心電図同期心筋SPECT画像データのセットが必要である。各セットには、それぞれ心周期の異なる位相に対応する複数の心電図同期心筋SPECT画像データが含まれる。この例において、補助記憶装置106は、これら全ての画像データを格納していることが好ましい。図18Aの処理をグラフ1702を作成するための処理とし、位相の異なる8つの心電図同期心筋SPECT画像を用いるとすると、ステップ1810において、pは1から8まで変化し、そのたびにステップ1820において、異なる心電図同期心筋SPECT画像データがロードされる。
ステップ1830では、これまでに説明された手法を用いて、ロードされた心筋SPECT画像データから心筋内膜面が抽出される。ステップ1840では、抽出された心筋内膜面をポーラーマップ展開することにより、心筋内膜面に対応する各画素が、ポーラーマップ上のどのセグメントに属するかの情報を計算する。ステップ1850では、この情報をもとに、セグメントごとに当該セグメントに関係付けられる画素数を計算する。
図19はステップ1850で行われる、セグメントに関係付けられる画素数を計算するための処理を説明するための図である。この図はある短軸横断断面スライスの短軸横断断面像を模式的に表したものであり、中心1902は当該断層像における心室中心を模し、円周1904は当該断層像における心筋内膜面を模している。ステップ1840処理により、心筋内膜面1904のうちポイント1912から1914に亘る弧は、例えば図17Aのポーラーマップにおけるセグメント1に対応することが判明しているとする。また、1ポイント1914から1916亘る弧は例えばセグメント3に、ポイント1916から1912は例えばセグメント2に、それぞれ対応することが判明しているとする。そこでCPU102は、解析プログラム114の命令に従って、中心1902と弧1912−1914で規定される略扇型の領域に含まれる画素数を数える。同様にCPU102は、解析プログラム114の命令に従って、中心1902と弧1914−1916、中心1902と弧1916−1912で規定される略扇型の領域に含まれる画素数をそれぞれ数える。この処理を、全ての短軸横断断面スライスについて実行し、各セグメントで数えられた画素数を合算することにより、各セグメントに関連付けられる画素数が計算される。
実施形態によっては、ステップ1850において、単に画素数をカウントするだけではなく、カウントされる画素の画素値の合計や平均値、分散、標準偏差、最大値、最小値等の諸情報を計算してもよい。
なお、図19の例は実際の事例を極めて単純化して描かれていることに注意されたい。実際に抽出される心筋内膜面はきれいな円にはならない場合もあり、従って弧の形もそれほどきれいな円弧にはならない場合もある。また、あるスライスの心筋内膜面には、ポーラーマップの全てのセグメントが現れるとは限らず、場合によっては単一のセグメントに対応した内膜面しか現れない場合もある。その場合はその内膜面内全ての画素数が当該単一のセグメントの画素数として数えられることになる。
図18Aに戻り、ステップ1860では、ステップ1850で計算されたセグメントごとの画素数が保存される。カウントされた画素の画素値の合計や平均値、分散、標準偏差、最大値、最小値等の情報も計算された場合は、これらの情報も保存される。このとき、ステップ1820で読み込まれた心電図同期心筋SPECT画像データに対応する位相(心周期における位相)に対応付けられて保存されることが好ましい。保存されるデータの形式は、例えば次のように表すことができるものであることができる。
d(i, j) = {p(i), s(j), count(i, j), mean(i, j), variance(i, j), sd(i, j), max(i, j), min(i, j)}
ここでp(i)は位相を表し、s(j)はセグメント識別情報(例えばセグメント番号)を表す。count(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素数、mean(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素の画素値の平均、variance(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素の画素値の分散、sd(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素の画素値の標準偏差、max(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素の画素値の最大値、min(i, j)は位相p(i)におけるセグメントs(j)に関係する画素の画素値の最小値である。位相が8つ、セグメント数が3つである上述の例では、i=1〜8であり、j=1〜3である。むろんこれらは単なる例であって、保存されるデータの形式はこれに限られるものでは全くないし、位相とセグメント識別情報の他に格納される情報が、例えば画素数だけであるとか、画素値の平均と標準偏差だけであるなど、例示された情報のいずれかだけであってもよい。当業者であれば、好みで様々なデータ形式を採用することができるであろう。むろん、位相の数やセグメント数も、全くの例示に過ぎない。実施形態によっては、p(i)は位相すなわち角度の単位で表されるのではなく、心周期の特定の位置からの時間として時間の単位で表されてもよい。(実際、図17Aや図17Bでは時間の単位が用いられている)。
ステップ1820−1860の処理を、全ての位相の心電図同期心筋SPECT画像データに対して行うと、ループを抜けて(ステップ1870)処理を終了する(ステップ1880)。ステップ1800−1880の処理の結果として得られたデータは、例えば解析結果データ143として補助記憶装置106に格納されることとしてもよい。すると解析プログラム(例えば図1の解析プログラム116)は、解析結果データ143を読み込むことにより、いつでも図17Aや図17Bに例示したようなグラフを表示することができるようになる。念のためにこの処理の流れをフローチャートにまとめておくと、図18Bのようになる。1890は処理の開始を表す。ステップ1892は、心周期の複数の異なる位相又は時間において、所定の心筋セグメント毎に所定の情報を計算する段階を表し、図18Aにステップ1800−1880で表した処理に対応する。このステップの結果として得られたデータは、前述のように、例えば解析結果データ143として表してもよい。ステップ1896は、解析結果データ143を読み込み、これをグラフに表現する段階である。例えば図17Bに例示したマップ1752を作成・表示するのであれば、ステップ1896では、位相又は時間に関する情報を一方の軸に、心筋セグメントの識別情報(例えばセグメント番号)をもう一方の軸にとり、位相又は時間と心筋セグメントの特定の組に対応するデータ値(例えば画素数)に基づく値を色スケールを用いて表現した2次元マップを作成する処理が行われる。実施形態によっては、ステップ1892はプログラム114がCPU102に実行されることにより装置100が遂行する処理であり、ステップ1896はプログラム116がCPU102に実行されることにより装置100が遂行する処理であることができる。実施形態によってはプログラム114および116は単一のプログラムとして構成されてもよい。
図17Aのグラフ1702,1704における縦軸の値や、図17Bのマップ1752の各格子点のデータ値は、これまでの例では特定の心筋ポーラーマップ・セグメントに関連付けられる画素数であったが、実施形態によっては、当該セグメントに関連付けられる画素の画素値の合計や平均値、分散、標準偏差、最大値、最小値に関連する値であってもよい。
図17Aの例に関して更なる具体例を紹介すると、グラフ1702,1704やポーラーマップ1706の表示と共に、特定の位相における心筋の3次元画像1712,1714や、特定のセグメントにおける諸情報の表示1716なども提供されることが好ましい。心筋の3次元画像1712,1714は、ユーザがグラフの曲線1709や横軸上の任意の点をクリックすることにより、クリックされた位相における心筋の3次元画像1712,1714が自動的に表示されることが好ましい。3次元表示1712,1714はマウスの操作で任意の方向に回転できるように構成されていることが好ましく、心室の向きが情報1713,1715によりユーザに示されるように構成されていてもよい。また、ポーラーマップ1706上の任意のセグメントをクリックすることにより、当該クリックされたセグメントに関する諸情報の表示1716が提供されるように構成されることが好ましい。
[解析例2]
続いて、心筋輪郭抽出技術を応用した3次元心筋SPECT画像の別の解析例を紹介する。この例では、各々心周期の異なる位相に対応する複数の心電図同期心筋SPECT画像データに対してそれぞれ心筋輪郭抽出を行って心筋輪郭をポーラーマップ展開し、ポーラーマップ上で画素値の変化が生じる位相を分析して、その位相をヒストグラムやマップで表示する。
図20のフローチャートを用いて、この解析例の処理の流れを説明する。この処理は、図1に描かれる解析プログラム115がCPU102に実行されることによりシステム100が行う処理であってもよい。ステップ2000は処理の開始を示す。ステップ2002以降のループは、それぞれ心周期の異なる位相に対応する複数の心電図同期心筋SPECT画像データの各々について、心筋輪郭が抽出されそれがポーラーマップ展開される。ステップ2004では、ループの順番に対応する心電図同期心筋SPECT画像データがロードされる。ステップ2006では、これまでに説明された手法を用いて、ロードされた心筋SPECT画像データから心筋輪郭が抽出される。ステップ2008では、抽出された心筋輪郭がポーラーマップ展開される。ポーラーマップ展開されるものは、実施形態によって、心筋の外膜面でも内膜面でも、またはその間の面であってもよい。ステップ2010では、ロードされた心筋SPECT画像データの位相情報に少なくとも関連づけられて、ポーラーマップの画像データが保存される。このループは、心周期一つ分の心電図同期心筋SPECT画像データの全てに対する処理が終わるまで繰り返される(2012)。
ステップ2014では、ステップ2002−2012のループで計算された、各々心周期の異なる位相に対応する複数のポーラーマップの各画素について、画素値に顕著な変化が生じた位相が調べられる。「顕著な変化」の定義は実施形態によって様々であってよく、例えば、前の位相における画素値よりも例えば30%画素値が増加したとか、前の位相までの平均の画素値よりも1σを超えて画素値が変化したとかであってもよい。ステップ2016では、このような分析に基づいて、画素値が急激に変化した位相を改めて画素値としたポーラーマップが作成され、表示される。さらにステップ2018では、画素値が顕著に変化した位相のヒストグラムが作成され、表示される。
図21は、ステップ2016,2018で作成・表示される、位相のポーラーマップやヒストグラムの例を示したものである。符号2102に示されるように、心周期の位相を横軸とし、画素値が急激に変化した位相の頻度を縦軸としたヒストグラムが作成・表示される。また、符号2104で表示されるように、画素値が急激に変化した位相に対応する値により色分けされたポーラーマップが作成・表示される。図21において、上段は負荷条件下のデータから生成されたヒストグラム及びマップを示し、下段は安静条件下のデータから生成されたヒストグラム及びマップを示す。符号2106は位相に対応するカラースケールを示し、このカラースケールによってポーラーマップが色分けされる。
健常者の場合はヒストグラム2102が比較的シャープなものとなり、心筋の機能に異常があると、ヒストグラム2102がばらついたものとなる傾向があるので、これらの情報を提示することにより、心筋SPECT画像を用いる診断に一定の役割を果たすことができる可能性がある。
本発明の実施形態を好適な例を用いて説明してきたが、これらの例は本発明の範囲を限定するために紹介されたわけではなく、特許法の要件を満たし、本発明の理解に資するために紹介されたものである。本発明は様々な形態で具現化されることができ、本発明の実施形態には、ここに例示した以外にも多くのバリエーションが存在する。説明された各種の実施例に含まれている個々の特徴は、その特徴が含まれることが直接記載されている実施例と共にしか使用できないものではなく、ここで説明された他の実施例や説明されていない各種の具現化例においても、組み合わせて使用可能である。フローチャートで紹介された処理の順番も、必ず紹介された順番で実行しなければならないわけではなく、実施するものの好みに応じて、順序を入れ替えたり並列的に同時実行したりするように実装してもよい。これらのバリエーションは全て本発明の範囲に含まれるものであり、例えば請求項に特定される処理の記載順は、実際の処理の順番を特定しているわけではなく、請求項に係る発明の範囲は異なる処理順をも包含するものである。現在の特許請求の範囲で特許請求がなされているか否かに関わらず、出願人は、本発明の思想を逸脱しない全ての形態について、特許を受ける権利を有することを主張するものであることを記しておく。