以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明をハイブリッド自動車(HEV)などに用いられる電池システムに対して適用した場合の例である。なお、本発明はHEVに限らず、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)や電気自動車(EV)、鉄道車両などに搭載される各種電池システムに対して幅広く適用可能である。
以下の実施例では、制御の最小単位となる蓄電・放電デバイスとして3.0〜4.2V(平均出力電圧:3.6V)の範囲に電圧を持つリチウムイオン電池を想定しているが、それ以外でもSOC(State of Charge)が高すぎる場合(過充電)や低すぎる場合(過放電)に使用を制限するような、電気を蓄え放電可能なデバイスであれば何でもよく、ここでは、それらを総称して単電池あるいは単電池セルと呼ぶ。
以下に説明する実施形態では、単電池セルを複数個(概ね数個から十数個)直列に接続したものをセルグループと呼び、このセルグループを複数個直列に接続したものを電池モジュールと呼ぶ。更にこのセルグループあるいは電池モジュールを複数個直列または直並列に接続したものを組電池と呼称する。各単電池セルのセル電圧を検出し、バランシング動作等を行いながら電池状態を監視および制御する集積回路は、セルグループ毎に設けられる。
まず、図1を用いて、本発明による電池システムをハイブリッド自動車用駆動システムに適用した例について説明する。図1は、本発明による電池システムを備えたハイブリッド自動車の構成例を示す図である。
電池システム100は、リレー600、610を介してインバータ700に接続されている。インバータ700はモータ800に接続されている。車両の発進・加速時には電池システム100から放電電力がインバータ700を通じてモータ800に供給されて図示されないエンジンをアシストする。車両停止・減速時には、モータ800からの回生電力がインバータ700を通じて電池システム100に充電される。なお、ここではインバータ700は複数の半導体スイッチング素子を備えたインバータ回路と、半導体スイッチング素子のゲート駆動回路と、ゲート駆動回路をPWM制御するパルス信号を発生するモータコントローラとを備えているが、図1では省略されている。
電池システム100は、主に、リチウムイオン電池である複数の単電池セル101から構成される組電池102と、各単電池セル101の電圧をセルグループごとに検出してバランシング放電動作等を行う電池監視・制御用の集積回路300を複数備えたセルコントローラ200と、セルコントローラ200の動作を制御し、各単電池セル101の状態判定を行うバッテリコントローラ500とで構成される。本実施形態に示す電池システム100の例では、定格容量5.5Ahのリチウムイオン電池を単電池セル101として、これを96個直列に接続したものを使用している。バッテリコントローラ500は、絶縁素子群400を介して複数の集積回路300と通信を行い、これらを制御する。集積回路300は、前述のように、セルグループ毎に設けられている。なお、組電池102とセルコントローラ200の間の電圧検出線は、不図示のコネクタでセルコントローラ200に接続されている。
バッテリコントローラ500は、組電池102の総電圧を測定する総電圧検出回路501と、電流センサ503に接続されており組電池102に流れる充放電電流を検出する充放電電流検出回路502と、セルコントローラ200とインバータ700及び図示されない上位の車両コントローラとの間で通信を行い、バッテリコントローラ500の全体を制御するマイクロコンピュータ504とを備えている。なお、組電池102の総電圧を測定できれば、総電圧検出回路501は、図1のようにバッテリコントローラ500の内部に設けられていなくともよい。
インバータ700の内部にも、組電池102の総電圧を検出する総電圧検出回路701が設けられている。また、図1には示されていないが、バッテリコントローラ500は、集積回路300に接続された温度検出回路によって測定された単電池セル101の温度に基づいて、電池状態のパラメータの温度補正を行っている。
なお、図1では省略されているが、セルコントローラ200とバッテリコントローラ500は、一つの基板の上に設けられており、これらは金属製のケースに収納されている。また、組電池102も金属製のケースに収納されている。セルコントローラ200と組電池102とは、複数の電圧検出線や単電池セル101の温度センサ(不図示)の接続線等が束ねられたハーネスで接続されている。
この電池システム100の起動後に以下の動作が行われる。バッテリコントローラ500は、セルコントローラ200に対して、各単電池セル101のOCV(開路電圧)測定を行う指令を絶縁素子群400を介して送信する。この指令に応じて測定された各単電池セル101のOCVのデータは、セルコントローラ200からセルグループ単位で絶縁素子群400を介して、バッテリコントローラ500に送信される。
バッテリコントローラ500は、受信した各単電池セル101のOCVをSOCに変換し、各単電池セル101のSOCの偏差を算出する。このSOCの偏差が所定の値よりも大きい単電池セル101がバランシング放電を行う対象となる。バランシング放電の対象となった単電池セル101のSOCの偏差が0となるまでの時間が計算され、この時間だけ集積回路300内のバランシングスイッチをオンとする制御動作を行う指令が、バッテリコントローラ500からセルコントローラ200に送られる。この指令に応じて、セルコントローラ200によりバランシング対象の単電池セル101のバランシング放電が行われる。
上記で測定された各単電池セル101のOCVから、組電池102のSOCが算出された後、インバータ700あるいは上位コントローラである車両コントローラ(不図示)がリレー600とリレー610とをオンとして、電池システム100がインバータ700とモータ800に接続される。そして、車両コントローラからの充放電指令をインバータ700が受けると、インバータ700が動作してモータ800を駆動するとともに、電池システム100の充放電動作が行われる。
リレー600及びリレー610をオンとして電池システム100が充放電を開始する時から、バッテリコントローラ500は、総電圧検出回路501および充放電電流検出回路502を用いて、一定時間毎に総電圧と充放電電流を測定する。得られた総電圧と充放電電流の値から、バッテリコントローラ500は組電池102の充電状態(SOC)と内部抵抗(DCR)をリアルタイムに算出する。さらに、これらの値から、組電池102が充放電可能な電流あるいは電力をリアルタイムに算出して、インバータ700に送信する。インバータ700は、その電流あるいは電力の範囲内で充放電電流あるいは電力を制御する。
図2は、本発明によるセルコントローラ200内の集積回路300a〜300dとバッテリコントローラ500内のマイクロコンピュータ504の間の通信接続例を示す図である。なお、図2の集積回路300a〜300dは、図1の集積回路300に対応するものである。
マイクロコンピュータ504は、セルコントローラ200内の集積回路300a〜300dを起動させるための起動信号を出力するための起動信号出力ポートと、コマンド及びデータを送信するためのデータ送信ポートTXDと、過充電状態を検出するためのデータパケット(FF信号)を出力するためのFF信号出力ポートとを有している。
図2の例では、複数の単電池セル101を直列接続したセルグループを2個直列接続した電池モジュールを、サービスディスコネクトスイッチ(SD−SW)103の上下に一つずつ配した構成となっている。この電池モジュールを構成するセルグループの数は2個に限定されず、3個以上であってもよい。各セルグループに対応して、それぞれ集積回路300a〜300dが設けられている。なお、以下において単に集積回路300と呼ぶ場合は、集積回路300a〜300dを特に限定しない場合とする。
SD−SW103は、高電圧の組電池などでよく用いられるスイッチである。保守点検時にこのSD−SW103を開放することによって、組電池102の電流経路を遮断し、作業者の感電を防止することを目的としている。このSD−SW103を開放しておけば、電池モジュール間の直列接続が絶たれるため、組電池102の最上位端子と最下位端子を人間が触っても高電圧が人体に印加されることはないので、感電が防止できる。
コマンドおよびデータ信号の通信ラインでは、コマンドおよびデータ信号が、マイクロコンピュータ504のデータ送信ポートTXDから高速絶縁素子401を通じて、組電池102において最下位電位側のセルグループに対応する集積回路300aの通信受信端子RXDに送信される。一方、起動信号の通信ラインでは、起動信号がマイクロコンピュータ504の起動信号出力ポートから、低速絶縁素子402を通じて集積回路300aの直流起動信号入力端子WU_Rxに送信される。また、FF信号の通信ラインでは、FF信号がマイクロコンピュータ504のFF信号出力ポートから、低速絶縁素子402を通じて集積回路300aのFF入力端子FFINに送信される。
最下位電位側のセルグループに対応する集積回路300aは、その通信出力端子TXDが、電位順序で一つ上位のセルグループに対応する集積回路300bの通信受信端子RXDにコンデンサ403を介して接続されている。また、集積回路300aのFF出力端子FFOUTと、起動出力端子WU_Txとは、集積回路300bのFF入力端子FFINと、交流起動信号入力端子WU_RxACとに、それぞれコンデンサ403を介して接続されている。
同様に、集積回路300bの通信出力端子TXD、FF出力端子FFOUTおよび起動出力端子WU_Txは、電位順序で一つ上位のセルグループに対応する集積回路300cの通信受信端子RXD、FF入力端子FFINおよび交流起動信号入力端子WU_RxACに、それぞれコンデンサ403を介して接続されている。また、集積回路300cの通信出力端子TXD、FF出力端子FFOUTおよび起動出力端子WU_Txは、電位順序で一つ上位のセルグループ、すなわち最上位電位側のセルグループに対応する集積回路300dの通信受信端子RXD、FF入力端子FFINおよび交流起動信号入力端子WU_RxACに、それぞれコンデンサ403を介して接続されている。
なお、SD−SW103の下側のセルグループに接続されている集積回路300bと、上側のセルグループに接続されている集積回路300cとの間の通信は、絶縁して行う必要がある。その理由は、もしもこれらの通信ラインを直結すると、その接続を通じて、SD−SW103の上下に配置されている電池モジュール同士が直列接続されることになるためである。この場合、SD−SW103の切り離しを行っても電池モジュール同士の直列接続が維持されるため、組電池102の通電を遮断できなくなる。したがって、各セルグループにそれぞれ含まれる単電池セル101の数が多く、各セルグループの端子間電圧が高いと、作業者が感電する可能性を生じることになる。このため、図2の例では、集積回路300bと集積回路300cの間にコンデンサ403を挿入している。
最上位電位側のセルグループに対応する集積回路300dは、その通信出力端子TXDが、マイクロコンピュータ504のデータ受信ポートRXDに高速絶縁素子401を介して接続されている。同様に、集積回路300dのFF出力端子FFOUTと、起動出力端子WU_Txとは、マイクロコンピュータ504のFF信号入力ポートと、起動信号入力ポートとに、それぞれ低速の絶縁素子402を介して接続されている。
なお、マイクロコンピュータ504と集積回路300aおよび300dの間の各通信経路で用いられている高速絶縁素子401と低速絶縁素子402を、図1ではまとめて絶縁素子群400として示している。
低速絶縁素子402には、直流信号を伝送できるフォトカプラのような絶縁素子が用いられる。マイクロコンピュータ504は、この低速絶縁素子402を介して、起動信号出力ポートから集積回路300aの直流起動信号入力端子WU_Rxへ、直流信号の起動信号を出力する。この起動信号を直流信号とするのは、電池システム100の起動時はノイズや電圧変動が発生し易いので、その影響を除去するためである。
マイクロコンピュータ504からの起動信号が直流起動信号入力端子WU_Rxへ入力されると、これに応じて集積回路300aが起動し、次の集積回路300bを起動するための起動信号を出力する。このとき集積回路300aは、コンデンサ403を介して、起動出力端子WU_Txから集積回路300bの交流起動信号入力端子WU_RxACへ、交流の起動信号を出力する。たとえば、矩形波信号を起動信号として出力する。
集積回路300aからの起動信号が交流起動信号入力端子WU_RxACへ入力されると、これに応じて集積回路300bが起動し、次の集積回路300cを起動するための起動信号を集積回路300aと同様に出力する。すなわち、集積回路300bは、コンデンサ403を介して、起動出力端子WU_Txから集積回路300cの交流起動信号入力端子WU_RxACへ、交流信号の起動信号を出力する。その後、集積回路300cでも同様の動作が行われる。
集積回路300cからの起動信号が交流起動信号入力端子WU_RxACへ入力され、集積回路300dが起動すると、集積回路300dの起動出力端子WU_Txからマイクロコンピュータ504の起動信号入力ポートへ起動信号が出力される。これを受けることで、マイクロコンピュータ504は、集積回路300a〜300dの起動を確認し、セルコントローラ200が起動されたことを認識することができる。
セルコントローラ200の起動後は、マイクロコンピュータ504は高速絶縁素子401を通じて集積回路300aの受信端子RXDにコマンド信号及びデータ(データパケット)を送信する。集積回路300aはコマンド信号とデータパケットを受信し、さらにこれらを出力端子TXDから次の集積回路300bに送信する。このようにして全部の集積回路300a〜300dはコマンド信号とデータを受信し、このコマンド信号とデータに従って動作を行う。集積回路300a〜300dがそれぞれ制御するセルグループの各単電池セル101の端子間電圧(セル電圧と呼ぶ)等のデータを得る場合には、それぞれの集積回路300a〜300dがデータパケットにデータを付加して、送信端子TXDから次の集積回路のRXD端子に送信し、最終的にマイクロコンピュータ504のデータ受信ポートRXDで受信される。マイクロコンピュータ504は、自分が送信したコマンド信号を含めたデータパケットを受信することで、正常にコマンド信号転送が行われたことを確認し、かつ集積回路300a〜300dが付加したデータがある場合にはそのデータを受信する。
なお、集積回路300a〜300dの各FF入力端子FFINおよびFF出力端子FFOUTを経由するFF信号のループは、単電池セル101の過充電あるいは過放電の状態を検出するための通信路である。これは、リチウムイオン電池を用いた単電池セル101の安全性確保に重要な過充電の検出の信頼性を向上するため、TXD端子とRXD端子を経由する通信ラインとは別の系統で過充電を検出するためのものである。FF信号は一定周期の矩形波信号を想定しており、例えば、正常状態は1kHzの矩形波で、過充電状態は2KHzの矩形波とする。
集積回路300は、FF入力端子FFIN入力に1KHzの矩形波が入力された場合、上位の通信順序の各集積回路300は正常な状態である(過充電でない)と認識し、FF出力端子FFOUT出力に1kHzの矩形波を出力する。一方、当該集積回路300のセル電圧検出値が過充電電圧を検出した場合には、FF入力端子FFINの入力信号の周波数が1kHzまたは2kHzのどちらの場合でも、FF出力端子FFOUT出力に2kHzの矩形波を出力し、過充電状態を次の集積回路300に出力する。また、FFIN端子の入力信号の周波数が1kHzあるいは2kHz以外の信号の場合は、FF出力端子FFOUTに矩形波を出力しないものとする。
ある集積回路300がその制御するセルグループの単電池セル101の過充電電圧を検出していなくても、FF入力端子FFINに他の集積回路300から2kHzの矩形波が入力されると、当該集積回路300はFF出力端子FFOUTに2kHzの矩形波を出力する。このようにして、FF信号ループはいずれかの集積回路300が過充電を検出したことを出力する。これにより、マイクロコンピュータ504は高速の通信信号ループとは別の経路で過充電を検出できる。
なお、マイクロコンピュータ504は、通常、最下位電位側の集積回路300aを最上位の通信順序として、これに1kHzの正常状態を示す矩形波をFF信号として出力するものとする。一方、FFループの動作確認時には、過充電を示す2kHzの矩形波を出力すればよい。すなわち、全部の集積回路300a〜300dが過充電電圧を検出していなくても、戻ってきたFF信号の矩形波が2kHzであれば、マイクロコンピュータ504はFFループが正常に動作していることを確認することができる。また、FFループに障害が発生した場合、例えば断線した場合は、矩形波が伝送されないのでその状態を識別できる。
上記実施形態で説明した本発明による電池システムは、セルコントローラ200内の集積回路300a〜300dにおける起動信号の通信ラインに特徴を有する。図3は、この本発明による電池システムの特徴を説明するための比較例として、従来例によるセルコントローラ200内の集積回路300a〜300dとバッテリコントローラ500内のマイクロコンピュータ504の間の通信接続例を示す図である。
図2と図3を比較すると、図2では集積回路300a〜300d間の起動信号の通信ラインがコンデンサ403を介してそれぞれ接続されているのに対して、図3では低速絶縁素子402を介して、または直結で接続されている点が異なる。すなわち、図3に示すような従来例では、集積回路300a〜300d間において直流信号の起動信号を入出力するために、このような接続形態とする必要があった。
次に集積回路300の内部構成について説明する。図4は、本発明による集積回路300の内部構成例を示す図である。なお図4では、12個の単電池セル101(セル1〜12とする)から一つのセルグループが構成されているものとした。
セルグループとこれを制御する集積回路300とは、セル1〜12の電圧検出を行うための電圧検出線L1P〜L12PおよびL13Nを介して、電圧検出用のCV端子(端子CV01〜CV12およびCV12N)と、バランシング動作を行うためのBS端子(端子BS01H〜BS12Hおよび端子BS01L〜BS12L)とに接続されている。セル1〜12の各両端、すなわち正極端子と負極端子は、セル入力抵抗Rcvを経由して各CV端子にそれぞれ接続されている。各CV端子とGND端子の間には、セル入力コンデンサCinが接続されている。
また、セル1〜12の各両端は、バランシング抵抗Rbを通じて各BS端子にそれぞれ接続されている。集積回路300内において、端子BS01H〜BS12Hと端子BS01L〜BS12Lとの間には、バランシング電流を通電するためのバランシングスイッチBSWがそれぞれ接続されている。いずれかのセルに対応するバランシングスイッチBSWをオンとすると、バランシング抵抗Rbを通じて当該セルのバランシング電流が流れる。各BS端子間にはバランシング端子コンデンサCbが接続されている。
各CV端子は、集積回路300の内部でマルチプレクサ210に接続されている。マルチプレクサ210は、任意のセルを選択してその正極電位と負極電位を出力するものであり、ロジック部213からの出力に応じて制御される。マルチプレクサ210の出力は、差動増幅器211によりセル1〜12の端子間電圧にそれぞれ変換された後、ADコンバータ212によりデジタル値に変換される。なお、ADコンバータ212の動作はロジック部213により制御され、ADコンバータ212の出力はロジック部213で処理される。すなわち、差動増幅器211とADコンバータ212とで電圧測定を行っている。
マルチプレクサ210に接続される各電圧入力ラインのうち、互いに隣り合う2つの電圧入力ライン、すなわち各セルの正極に接続された電圧検出線と負極に接続された電圧検出線の間には、マルチプレクサ入力短絡スイッチMSWが設けられている。
集積回路300には、補助入力端子AUXINおよびAGNDが設けられている。これらの補助入力端子AUXINおよびAGNDには、サーミスタ207、サーミスタ分割抵抗Rthp、サーミスタ入力抵抗Rthおよびサーミスタ入力コンデンサCthが接続されている。
サーミスタ207は、設置された場所の温度によりその抵抗値が大きく変化する。このサーミスタ207と直列に接続されたサーミスタ分割抵抗RthpとでVDD電圧が分圧される。サーミスタ207の端子間電圧は、補助入力端子AUXINおよびAGNDから集積回路300に入力される。サーミスタ入力抵抗Rthとサーミスタ入力コンデンサCthは、この入力信号のノイズを除去するRCフィルターとして作用する。すなわち、サーミスタ207が温度の変化に対応して発生する電圧は、このRCフィルターでノイズ除去されて集積回路300に入力される。
集積回路300に入力されたサーミスタ207の端子間電圧がマルチプレクサ210により選択されると、その電圧値が差動増幅器211およびADコンバータ212を介してデジタル化される。こうしてデジタル化されたサーミスタ207の端子間電圧値がロジック部213に入力される。
ロジック部213は、通信出力部220を介して、デジタル化されたサーミスタ207の端子間電圧をデータ信号として通信出力端子TXDから送信する。このデータ信号が前述の通信ラインを経由してバッテリコントローラ500へ送信されることにより、デジタル化されたサーミスタ207の端子間電圧が送信される。バッテリコントローラ500は、このサーミスタ207の端子間電圧に基づいて、サーミスタ207が設置されている場所の温度を算出する。この温度の算出は、サーミスタ207の抵抗温度特性に基づいて予め設定されたサーミスタ207の端子間電圧と温度との関係式、もしくはサーミスタ207の端子間電圧と温度との関係をテーブル化したデータを用いて行うことができる。
バランシングスイッチ状態検出回路223は、バランシング電流の有無を検出したり、バランシングスイッチBSWの診断を行う。これらの結果はロジック部213に出力され、ロジック部213内のレジスタに格納される。
ロジック部213は、集積回路300に設けられた各種のスイッチを制御するためのデータが格納されるレジスタを備えている。たとえば、マルチプレクサ210の入力を選択するためのデータ、マルチプレクサ入力短絡スイッチMSWを制御するためのデータ、バランシングスイッチBSWを制御するためのデータ、バランシングスイッチ状態検出回路223のスイッチ回路を制御するためのデータなどが、このレジスタに格納されている。ロジック部213には発振回路214からのクロック信号が入力される。このクロック信号を用いてロジック部213が動作する。
集積回路300の動作電源Vccは、電圧検出線L1Pと接続されているVcc端子から供給される。Vcc端子には、ノイズを抑えるためのコンデンサCvccが接続されている。電圧検出線L1Pは、セル1の正極側に接続されている。このセル1の正極側電圧が動作電源Vccとして集積回路300に供給される。
Vcc端子は更に、集積回路300内で電源部226に接続されている。電源部226はレギュレータ227を有している。レギュレータ227は、Vcc端子から供給される動作電源Vccを用いて3.3Vの動作電源VDDを生成し、ロジック部213などに供給する。この動作電源VDDは、集積回路300のVDD端子を介して、集積回路300の外部にある回路へも供給される。VDD端子には動作安定用のコンデンサCvddが接続されている。
電源部226はまた、起動検出部215からの起動検出信号に応じて動作する起動回路228を有している。起動検出部215は、下位の通信順序にある集積回路300からの交流起動信号が交流起動信号入力端子WU_RxACへ入力されるか、またはマイクロコンピュータ504からの直流起動信号が直流起動信号入力端子WU_Rxへ入力されると、これを検出して電源部226へ起動検出信号を出力する。起動回路228は、この起動検出信号が起動検出部215から入力されると、レギュレータ227へ動作電源Vccを出力すると共に、集積回路300を起動してPOR(パワーオンリセット)動作を行う。なお、交流起動信号入力端子WU_RxACには、交流起動信号を倍電圧整流して起動検出部215へ起動検出信号を出力するための整流素子であるダイオード216が集積回路300内に接続されている。
集積回路300が起動すると、ロジック部213からの出力で起動出力部219が動作する。起動出力部219は、上位の通信順序にある集積回路300またはマイクロコンピュータ504へ、起動出力端子WU_Txから交流(矩形波)の起動信号を出力する。
なお、起動検出部215はVcc端子と接続されている。これにより、集積回路300の全体の動作が停止している状態でも、起動検出部215には動作電源Vccが供給されている。起動検出部215は、その消費電流をできるだけ少なくするような回路構成となっている。
通信出力部220は、ロジック部213からの出力データに基づいて、上位の通信順序にある集積回路300またはマイクロコンピュータ504へ、通信出力端子TXDからコマンド信号およびデータを出力する。通信受信部217は、下位の通信順序にある集積回路300またはマイクロコンピュータ504から受信端子RXDにコマンド信号およびデータが入力されると、これを受信してロジック部213へ出力する。
FF出力部221は、ロジック部213からの出力データに基づいて、上位の通信順序にある集積回路300またはマイクロコンピュータ504へ、FF出力端子FFOUTから前述のようなFF信号を出力する。FF入力部218は、下位の通信順序にある集積回路300またはマイクロコンピュータ504からFF入力端子FFINにFF信号が入力されると、これを受信して正常状態と過充電状態のいずれであるかを判断し、その判断結果をロジック部213へ出力する。
ここで、比較例として、従来例による集積回路300の内部構成について説明する。図5は、図3に示したような接続例において直流信号の起動信号を入出力するために用いられる従来の集積回路300の内部構成例を示す図である。
図4と図5を比較すると、図5の集積回路300には、チャージポンプ部238およびチャージポンプコンデンサCcpと接続されている端子CP+およびCP−が設けられている。集積回路300内のチャージポンプ部238は、集積回路300外に接続されたチャージポンプコンデンサCcpと協働して、動作電源Vccを用いてチャージポンプ電圧を生成し、起動出力部219へ供給する。従来例では、出力先の集積回路300に対応するセルグループの電位に応じて動作電源Vccよりも高電圧の起動信号を出力するために、このような回路が必要であった。
また、図5の集積回路300には、交流起動信号を受信するための図4の直流起動信号入力端子WU_Rxおよびダイオード216が存在しない。
なお、図5では、図3に示したような接続例の場合、すなわち最下位電位側から順に、組電池102の電位順序とは逆の通信順序で直流起動信号を入出力する場合の集積回路300の内部構成例を示している。しかし、これとは反対に、最上位電位側から順に、組電池102の電位順序と同じ通信順序で直流起動信号を入出力する場合もある。この場合、起動検出部215には、その起動信号を出力した集積回路300に対応するセルグループの電位に応じて、動作電源Vccよりも高電圧の起動信号が入力されることとなる。そのため、チャージポンプ部238やチャージポンプコンデンサCcpは不要となるが、その代わり、高電圧の起動信号が入力されても起動検出部215が正常に動作できるようにするためのインターフェイス回路や保護回路などを設ける必要があった。
次に図2の集積回路300a〜300dおよびマイクロコンピュータ504について、これらの間における起動信号の入出力を詳細に説明する。図6は、図3において最下位電位側の集積回路300aと、電位順序でその一つ上位の集積回路300bと、マイクロコンピュータ504とについて、これらの間の通信接続例の詳細を示す図である。また図7は、図3において最上位電位側の集積回路300dと、電位順序でその一つ下位の集積回路300cと、マイクロコンピュータ504とについて、これらの間の通信接続例の詳細を示す図である。
図6において、最下位電位側の集積回路300aは、通信順序では最上位にある。この集積回路300aでは、マイクロコンピュータ504から出力される直流起動信号を入力するために、直流起動信号入力端子WU_Rxが使用される。この端子には、低速絶縁素子402としてフォトカプラが接続されている。マイクロコンピュータ504がこのフォトカプラのダイオードに駆動用トランジスタ404を通じて電流を流すことで、フォトカプラ内でダイオードと絶縁されたトランジスタ側がオンとなる。トランジスタは、コレクタ側が集積回路300aのVccに抵抗を介して接続されており、エミッタ側が抵抗を介してグランドに接続されている。フォトカプラのトランジスタ側がオンとなると、集積回路300aの直流起動信号入力端子WU_Rxに対して、Vccを抵抗で分圧した電圧が印加される。起動検出部215は、予め設定された閾値を有するコンパレータであり、この閾値以上の電圧を検出すると電源部226(図4参照)へ起動検出信号を出力する。これにより、集積回路300aが起動する。
上記のようにして集積回路300aが起動すると、集積回路300aの起動出力部219は、ロジック部213からの指令により、交流起動信号を起動出力端子WU_Txから出力する。ここでは交流起動信号として矩形波信号を出力するものとする。この信号は、コンデンサ403を通じて、電位順序では一つ上位にあり、通信順序では一つ下位にある集積回路300bの交流起動信号入力端子WU_RxACに印加される。
集積回路300bにおいて、交流起動信号入力端子WU_RxACは、グランドと直流起動信号入力端子WU_Rxの間に接続されているダイオード216と接続されている。このダイオード216と、直流起動信号入力端子WU_Rxとグランドの間に接続されているコンデンサ406とは、倍電圧整流回路の構成要素の一部である。集積回路300aから出力された交流起動信号としての矩形波信号は、集積回路300bにおいて交流起動信号入力端子WU_RxACに入力されると、この倍電圧整流回路により整流されて直流電圧に変換される。この直流電圧が起動検出部215に入力されることにより、起動検出部215から起動検出信号が出力され、集積回路300bが起動する。
なお、集積回路300aにおいても、グランドと直流起動信号入力端子WU_Rxの間にダイオード216が接続されており、これが交流起動信号入力端子WU_RxACに接続されている。しかし、集積回路300aの直流起動信号入力端子WU_Rxに対して入力されたマイクロコンピュータ504からの直流起動信号は、ダイオード216を介さずに起動検出部215に入力される。そのため、起動検出部215により直流起動信号を検出することができる。
図8は、集積回路300a、300b間の交流起動信号の通信経路に関する部分を分かりやすく示したものである。図9は、この部分のうち、ダイオード216、集積回路300aの起動出力端子WU_Txと集積回路300bの交流起動信号入力端子WU_RxACの間に接続されているコンデンサ403、コンデンサ406および集積回路300aと接続されているセルグループに対応する等価回路図である。図9に示される回路は、一般的な倍電圧整流回路となっている。集積回路300aの起動出力端子WU_Txから振幅VDDの矩形波信号が出力されると、この倍電圧整流回路により、集積回路300bの起動検出部215に一定の直流電圧Vwが印加される。
図10は、集積回路300aの起動出力端子WU_Txから出力される振幅VDDの矩形波信号と、集積回路300bの起動検出部215に印加される直流電圧Vwとの電圧波形例を示したものである。図10において、左側の縦軸は矩形波信号の電圧値を表し、右側の縦軸は直流電圧の電圧値を表している。この例に示すように、交流起動信号として周波数32kHz、振幅3.3Vp−pの矩形波信号が集積回路300aから出力されると、約2.5Vの直流電圧が集積回路300bの起動検出部215に印加される。この直流電圧は、矩形波の出力を開始してから0.1ms程度の時間でほぼ90%以上の電圧まで立ち上がっている。これにより、集積回路300aによる交流起動信号の出力から集積回路300bが起動するまでの起動時間は、十分に短いことが分かる。なお、ここではコンデンサ406の容量を0.01μFとした。
ここで図6の説明に戻る。図6の集積回路300aにおいて、通信受信部217と接続されている通信受信端子RXDには、高速絶縁素子401として小型の通信用トランスなどを用いたデジタルアイソレータが接続されている。マイクロコンピュータ504から送信されるコマンドや通信データは、このデジタルアイソレータを通じて集積回路300aの通信受信端子RXDから通信受信部217に入力される。なお、デジタルアイソレータには、集積回路300aのVDD端子から動作電源VDDが供給される。動作電源VDDは集積回路300aの動作停止中には出力されないため、このときにデジタルアイソレータに暗電流が流れることはない。
また、集積回路300aのFF入力部218と接続されているFF入力端子FFINには、直流起動信号入力端子WU_Rxと同様に、低速絶縁素子402としてフォトカプラが接続されている。マイクロコンピュータ504がこのフォトカプラのダイオードに駆動用トランジスタ405を通じて電流を流すことで、フォトカプラ内でダイオードと絶縁されたトランジスタ側がオンとなり、FF信号が伝達される。
図7において、最上位電位側の集積回路300dは、通信順序では最下位にある。この集積回路300dの起動出力部219により起動出力端子WU_Txから出力された矩形波の交流起動信号は、駆動用トランジスタ409および低速絶縁素子402であるフォトカプラを介して、マイクロコンピュータ504の起動信号入力ポートに入力される。この集積回路300dから出力された交流起動信号を受信することにより、マイクロコンピュータ504は集積回路300a〜300dが全て起動したことを確認できる。
また、集積回路300dの通信出力部220により通信出力端子TXDから出力されたコマンドや通信データは、高速絶縁素子401であるデジタルアイソレータを介して、マイクロコンピュータ504のデータ受信ポートRXDに入力される。このデジタルアイソレータには、集積回路300dのVDD端子から動作電源VDDが供給される。さらに、集積回路300dのFF出力部221によりFF出力端子FFOUTから出力されたFF信号は、駆動用トランジスタ410および低速絶縁素子402であるフォトカプラを介して、マイクロコンピュータ504のFF信号入力ポートに入力される。マイクロコンピュータ504は、これらを集積回路300dから受信することで、集積回路300a〜300dが全て起動したことを確認してもよい。
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
(1)電池監視・制御用の集積回路300は、ダイオード216、コンデンサ403およびコンデンサ406によって構成され、コンデンサ403を介して接続された上位の通信順序の集積回路300から入力される交流起動信号に基づいて直流信号を生成する倍電圧整流回路と接続するための交流起動信号入力端子WU_RxACと、この直流信号を検出して当該集積回路300を起動させる起動検出部215と、当該集積回路300の起動後に交流起動信号を下位の通信順序の集積回路300またはバッテリコントローラ500のマイクロコンピュータ504へ出力する起動出力部219とを備える。このようにしたので、直流起動信号を用いた従来の場合と比べて、動作電源Vccよりも高電圧の起動信号を出力するためのチャージポンプ回路や、高電圧の起動信号が入力されても起動検出部215が正常に動作できるようにするためのインターフェイス回路や保護回路などを集積回路300に設ける必要がない。したがって、起動信号を入出力するための特別な回路を不要とすることができる。
(2)上記の倍電圧整流回路は、集積回路300に内蔵されたダイオード216を有している。そのため、集積回路300の外に適切な容量のコンデンサをコンデンサ403およびコンデンサ406として接続することにより、倍電圧整流回路を容易に構成することができる。
(3)集積回路300は、マイクロコンピュータ504から入力される直流起動信号を入力するための直流起動信号入力端子WU_Rxをさらに備える。この直流起動信号入力端子WU_Rxに入力されたる直流起動信号は、上記の倍電圧整流回路を介さずに起動検出部215に入力される。そのため、倍電圧整流回路を介して入力される交流起動信号と同様の検出方法により、起動検出部215において直流起動信号を検出することができる。
なお、以上では本発明の実施形態の一例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の特徴を損なわずに様々な変形実施が可能である。
たとえば、上記実施形態では、組電池102の電位順序とは逆の通信順序に従って、各集積回路300の間で起動信号、コマンドおよび通信データ、FF信号を伝送することとしたが、この通信順序を反対にしてもよい。すなわち、組電池102の電位順序と同じ通信順序により、各集積回路300の間で起動信号、コマンドおよび通信データ、FF信号を伝送することもできる。本発明では、各集積回路300の間においてこれらの信号は全てコンデンサ403を介して伝送されるため、電位順序と通信順序の関係は特に限定されない。
また、上記実施形態で説明した通信信号やFF信号を、ノイズに強くするために差動型の信号としても良い。さらに、バッテリコントローラ500から矩形波などの交流の起動信号を出力し、これを最上位の通信順序にある集積回路300の交流起動信号入力端子WU_RxACへ入力してもよい。あるいは、バッテリコントローラ500からの起動信号と通信信号あるいはFF信号とを共用してもよい。バッテリコントローラ500の動作中は、バッテリコントローラ500から通信信号やFF信号が常時送信される。そのため、これらの信号から直流信号を生成して、集積回路300内で起動信号として利用することが可能である。
なお、以上説明したような各種の変形例は、それぞれ単独で適用しても、任意に組み合わせて適用してもよい。
本発明の適用範囲は、上記実施形態で説明したような構成の電池システムに限定されるものではない。様々な構成の電池システムに対して、また様々な仕様の電動車両に対して本発明の適用が可能である。