JP5700296B2 - 油入電気機器の内部異常の診断方法 - Google Patents
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(1)油入電気機器内部の異常によって絶縁油中に生成される可燃性ガスは、絶縁油の循環によって、絶縁油中にほぼ均一に対流・拡散していると考えられる(非特許文献1の第22頁参照)。このため、絶縁油中に溶存する可燃性ガスの溶存濃度を測定し、測定した可燃性ガスの溶存濃度と絶縁油量とを乗算すれば、これにより得られる値は、絶縁油中に溶存する可燃性ガスの溶存量(総量)を表していると考えることができる。そして、油入電気機器の内部異常の程度が同じであれば、同量の可燃性ガスが生成されると考えられるため、この可燃性ガスの溶存量を用いて内部異常を診断すれば、従来のように可燃性ガスの溶存濃度を用いて診断する場合に比べて、精度の良い診断が可能であると考えられる。
(2)油入電気機器の内部異常を診断するに当たって、複数の可燃性ガスの溶存量を主成分分析すれば、各可燃性ガスの溶存量を個別に評価するのではなく、複数の可燃性ガスの溶存量を総合的に評価することができる。また、主成分の値と内部異常の有無との関係や、各可燃性ガスの溶存量に対する因子負荷量と内部異常の種類との関係(換言すれば、主成分の経時的変化の方向と内部異常の種類との関係)を予め把握しておきさえすれば、診断対象である油入電気機器の主成分の値やその経時的変化を評価するだけで、熟練者以外の作業者であっても、内部異常の有無や内部異常の種類や進展を容易に診断可能であると考えられる。
すなわち、本発明は、内部に絶縁油が含まれる油入電気機器の内部異常を診断する方法であって、以下の第1〜第8ステップを含むことを特徴とする。
<第1ステップ>
内部異常の有無や内部異常の種類が既知で且つ混在する複数の油入電気機器について、各油入電気機器に含まれる絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存濃度を測定し、各可燃性ガスの溶存濃度と各油入電気機器の絶縁油量との積で表される各可燃性ガスの溶存量を算出する。
<第2ステップ>
前記第1ステップにより得られた、複数の油入電気機器についての複数の可燃性ガスの溶存量を主成分分析することにより、第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量を算出する。
<第3ステップ>
診断対象である油入電気機器について、当該油入電気機器に含まれる絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存濃度を測定し、各可燃性ガスの溶存濃度と当該油入電気機器の絶縁油量との積で表される各可燃性ガスの溶存量を算出する。
<第4ステップ>
前記第3ステップにより得られた当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量と、前記第2ステップにより得られた第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量とに基づき、当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分及び第2主成分を算出する。
<第5ステップ>
前記第4ステップにより得られた第1主成分及び第2主成分に基づき、当該油入電気機器の内部異常の有無を診断する。
<第6ステップ>
前記第4ステップで今回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分と、前記第4ステップで前回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分との差で表される第1主成分の増加量を算出する。
<第7ステップ>
前記第4ステップで今回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第2主成分と、前記第4ステップで前回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第2主成分との差で表される第2主成分の増加量を算出する。
<第8ステップ>
前記第6ステップ及び前記第7ステップにより得られた第1主成分の増加量及び第2主成分の増加量に基づき、当該油入電気機器の内部異常の種類及び進展を診断する。
上記のように、主成分分析の対象は、可燃性ガスの溶存濃度ではなく、内部異常の程度と相関を有すると考えられる可燃性ガスの溶存量(可燃性ガスの溶存濃度と絶縁油量との積)であるため、内部異常の程度に応じた精度の良い主成分分析が可能である。
そして、内部異常の有無が既知である油入電気機器に生成された可燃性ガスの溶存量を主成分分析するため、例えば、主成分分析の結果から得られる第1主成分及び第2主成分の値に対する所定のしきい値(内部異常の有無を識別するためのしきい値)を設定可能である。また、内部異常の種類が既知である油入電気機器に生成された可燃性ガスの溶存量を主成分分析するため、各可燃性ガスの溶存量に対する第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量と内部異常の種類との関係(換言すれば、第1主成分及び第2主成分を座標とする主成分の経時的変化の方向と内部異常の種類との関係)を把握することが可能である。
第5ステップにおける内部異常の有無の診断は、例えば、前述のように、第1ステップ及び第2ステップを実行することにより設定可能なしきい値と、第3ステップ及び第4ステップを実行することにより算出された第1主成分及び第2主成分の値とを比較することによって行うことが可能である。
第8ステップにおける内部異常の種類の診断は、例えば、前述のように、第1ステップ及び第2ステップを実行することにより把握可能な、各可燃性ガスの溶存量に対する第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量と内部異常の種類との関係(換言すれば、第1主成分及び第2主成分を座標とする主成分の経時的変化の方向と内部異常の種類との関係)を用いることによって行うことができる。具体的には、各可燃性ガスの溶存量に対する第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量と内部異常の種類との関係(第1主成分及び第2主成分を座標とする主成分の経時的変化の方向と内部異常の種類との関係)が把握できていれば、主成分が経時的に何れの方向に増えるかによって、内部異常の種類を診断可能である。例えば、一酸化炭素の溶存量に対する第1主成分の因子負荷量よりも第2主成分の因子負荷量の方がかなり大きいことが分かっており、なお且つ、絶縁紙の過熱・劣化が原因で一酸化炭素が生成されることが分かっているのであれば、当該油入電気機器において経時的に主として第2主成分が増える場合には、当該油入電気機器の内部異常の種類は絶縁紙の過熱・劣化であると診断することが可能である。
また、第8ステップにおいて、内部異常が進展しているか否かは、主成分の増加量の程度に応じて診断可能である。
本実施形態に係る診断方法は、油入変圧器の内部異常を診断するための基準を作成する基準作成工程と、該基準作成工程によって作成された基準に基づき内部異常を診断する診断工程とに大別される。以下、各工程について順次説明する。
図2は、本実施形態に係る診断方法における基準作成工程を説明するフロー図である。
図2に示すように、本工程では、まず最初に、内部異常の有無や内部異常の種類が既知で且つ混在する複数(本実施形態ではn個)の油入変圧器T1〜Tnから、絶縁油を採油する(図2のS11)。このn個の油入変圧器については、熟練者によって、内部異常の有無(本実施形態では、「正常」、「要注意」、「危険」の3段階に区分している)や、内部異常が生じている場合にはその種類(絶縁紙の過熱・劣化、巻線に関連する部位の高温過熱、鉄心など巻線以外の部位の高温過熱や低温過熱など)が予め判断されている。そして、このn個の油入変圧器には、内部異常が生じていないものや、内部異常の種類が異なるものが混在している。さらには、このn個の油入変圧器から採油した絶縁油には、同一の油入変圧器から採油した絶縁油であるが、採油するタイミングが異なるものも含まれている。
以上に説明した手順は、本発明の第1ステップに相当する。
以上に説明した手順は、本発明の第2ステップに相当する。
なお、各可燃性ガスに対する第1主成分Z1の因子負荷量及び第2主成分Z2の因子負荷量を座標とする点は、内部異常の種類に応じて、第1主成分Z1及び第2主成分Z2を座標とする主成分が経時的に何れの方向に増えるかを示すことになる。図4(b)に示す例では、Aグループに属する一酸化炭素(CO)は、絶縁紙の過熱・劣化に起因して生成されると熟練者であれば判断可能である。そして、後述する診断工程において、Aグループに属する一酸化炭素の因子負荷量(第1主成分Z1の因子負荷量及び第2主成分Z2の因子負荷量を座標とする点)の方向(進展方向D1)に主成分が経時的に増えるのであれば、内部異常として絶縁紙の過熱・劣化が発生していると診断することができる。
また、Bグループに属するエチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)は、生成される一酸化炭素が比較的少ない場合には、巻線以外の部位の高温過熱に起因して生成されると熟練者であれば判断可能である。そして、後述する診断工程において、Bグループに属するエチレン、アセチレンの因子負荷量の方向(進展方向D2)に主成分が経時的に増えるのであれば、内部異常として巻線以外の部位の高温過熱が発生していると診断することができる。
さらに、Cグループに属するメタン(CH4)、エタン(C2H6)、水素(H2)は、生成される一酸化炭素が少ないことも考慮して、鉄心など巻線以外の部位の低温過熱に起因して生成されると熟練者であれば判断可能である。そして、後述する診断工程において、Cグループに属するメタン、エタン、水素の因子負荷量の方向(進展方向D3)に主成分が経時的に増えるのであれば、内部異常として鉄心など巻線以外の部位の低温過熱が発生していると診断することができる。
なお、Aグループに属する一酸化炭素と、Bグループに属するエチレン又はアセチレンとが同時に比較的多く生成されるのであれば、巻線に関連する部位の高温過熱が発生していると熟練者であれば判断可能である。巻線が高温過熱している場合には、エチレンやアセチレンが生成されると共に、巻線を覆う絶縁紙の劣化に起因して一酸化炭素も生成されるからである。そして、後述する診断工程において、Aグループに属する一酸化炭素の因子負荷量の方向(進展方向D1)と、Bグループに属するエチレン、アセチレンの因子負荷量の方向(進展方向D2)との中間の方向(進展方向D4)に主成分が経時的に増えるのであれば、内部異常として巻線に関連する部位の高温過熱が発生していると診断することができる。
図5(a)に示す例では、変圧器を高負荷で運転していたため、巻線温度が高く、絶縁紙の過熱によって、当初は一酸化炭素が多く検出されていた。その後、エチレンやアセチレンが検出されるに至ったので、熟練者が巻線異常と判断して変圧器を停止し、内部調査を行ったところ、巻線に異常のあることが判明した。図5(a)に示すように、主成分は当初進展方向D1に変化していることから、図4を参照して説明したように、内部異常として絶縁紙の過熱・劣化が発生していると診断することができる。その後、主成分は進展方向D4に変化していることから、図4を参照して説明したように、内部異常として巻線に関連する部位の高温過熱が発生していると診断することができる。このように、主成分の経時的変化の方向に着目すれば、一般の作業者であっても、熟練者の診断や実際の内部調査の結果と同様の診断が可能であることが分かる。
なお、後述する診断工程において、上記のようにして決定した第1しきい値〜第4しきい値との大小関係に応じて、診断対象である油入変圧器の内部異常の有無が診断されることになる。すなわち、診断対象である油入変圧器の主成分の座標を(X0,Y0)としたとき、
(1)Y1>Y0>Y2であれば、当該油入変圧器は「危険」と診断され、
(2)Y3>Y0>Y4であり、且つ、Y1>Y0>Y2でなければ、当該油入変圧器は「要注意」と診断され、
(3)上記(1)、(2)のいずれでもなければ、当該油入変圧器は「正常」と診断される。
ΔZ1=(Z1−Z1’)/h ・・・(1)
ΔZ2=(Z2−Z2’)/h ・・・(2)
上記の式(1)において、Z1は今回算出した第1主成分の値を、Z1’は前回算出した第1主成分の値を意味する。上記の式(2)において、Z2は今回算出した第2主成分の値を、Z2’は前回算出した第2主成分の値を意味する。上記の式(1)及び(2)において、hは採油ピッチ(測定ピッチ)を意味する。
従って、第1主成分Z1の増加率ΔZ1は、第1主成分Z1の増加量を測定ピッチで除算した値である。同様に、第2主成分Z2の増加率ΔZ2は、第2主成分Z2の増加量を測定ピッチで除算した値である。
図3は、本実施形態に係る診断方法における診断工程を説明するフロー図である。
図3に示すように、本工程では、まず最初に、診断対象である油入変圧器TXから、絶縁油を採油する(図3のS21)。次に、採油した絶縁油をガスクロマトグラフによって分析し、絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガス(メタン、エタン、エチレン、アセチレン、水素、一酸化炭素)の溶存濃度を測定する(図3のS22)。そして、各可燃性ガスの溶存濃度と油入変圧器TXの絶縁油量LXとの積で表される各可燃性ガスの溶存量を算出する(図2のS23)。
以上に説明した手順は、本発明の第3ステップに相当する。
以上に説明した手順は、本発明の第4ステップに相当する。
この手順は、本発明の第5ステップに相当する。
この手順は、本発明の第6ステップ及び第7ステップに相当する。
この手順は、本発明の第8ステップに相当する。
一方、上記の手順(図3のS28)において、内部異常が急速に進展していると診断した場合には、内部異常の有無の診断結果が、近い将来に「要注意」から「危険」に遷移するおそれがあるため、測定ピッチを短縮し(図3のS29)、次の採油タイミング(測定タイミング)に至った時点で、再び同様の手順(図3のS21〜S26)を繰り返せばよい。
Claims (1)
- 内部に絶縁油が含まれる油入電気機器の内部異常を診断する方法であって、
内部異常の有無や内部異常の種類が既知で且つ混在する複数の油入電気機器について、各油入電気機器に含まれる絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存濃度を測定し、各可燃性ガスの溶存濃度と各油入電気機器の絶縁油量との積で表される各可燃性ガスの溶存量を算出する第1ステップと、
前記第1ステップにより得られた、複数の油入電気機器についての複数の可燃性ガスの溶存量を主成分分析することにより、第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量を算出する第2ステップと、
診断対象である油入電気機器について、当該油入電気機器に含まれる絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存濃度を測定し、各可燃性ガスの溶存濃度と当該油入電気機器の絶縁油量との積で表される各可燃性ガスの溶存量を算出する第3ステップと、
前記第3ステップにより得られた当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量と、前記第2ステップにより得られた第1主成分の因子負荷量及び第2主成分の因子負荷量とに基づき、当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分及び第2主成分を算出する第4ステップと、
前記第4ステップにより得られた第1主成分及び第2主成分に基づき、当該油入電気機器の内部異常の有無を診断する第5ステップと、
前記第4ステップで今回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分と、前記第4ステップで前回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第1主成分との差で表される第1主成分の増加量を算出する第6ステップと、
前記第4ステップで今回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第2主成分と、前記第4ステップで前回算出した当該油入電気機器の絶縁油中に溶存する複数の可燃性ガスの溶存量についての第2主成分との差で表される第2主成分の増加量を算出する第7ステップと、
前記第6ステップ及び前記第7ステップにより得られた第1主成分の増加量及び第2主成分の増加量に基づき、当該油入電気機器の内部異常の種類及び進展を診断する第8ステップと、
を含むことを特徴とする油入電気機器の内部異常の診断方法。
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