以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。以下では、複数相コンバータ用リアクトルユニットとして、2相コンバータ用リアクトルユニットについて説明するが、複数相コンバータを構成するものであればよく、2相以外の複数相、例えば3相等であってもよい。
なお、以下に説明する複数相コンバータ用リアクトルユニットは、例えばハイブリッド車両の駆動源として使用する回転電機である、走行用モータに接続されたインバータを駆動するために使用できる。ただし、複数相コンバータ用リアクトルユニットを使用する回転電機は、電気自動車、燃料自動車等の、ハイブリッド車両以外を駆動するためのものでもよい。また、回転電機は、車両駆動以外の補機駆動用でもよい。また、回転電機を2個とし、2の回転電機に接続された2のインバータと、二次電池等の蓄電部との間にコンバータを設ける構成に本発明に係るリアクトルユニットを使用することもできる。
図1は、本発明の実施の形態の1例に係る複数相コンバータ用リアクトルユニットである、2相コンバータ用リアクトルユニットを有する2相昇降圧コンバータを含む電源回路の図である。なお、以下の説明では、2相コンバータ用リアクトルユニットを、昇降圧用として使用する場合を説明するが、本発明に係る複数相コンバータ用リアクトルユニットは、昇降圧用に限定するものではなく、昇圧用または降圧用の単独の用途に使用することもできる。
電源回路14は、直流電源である蓄電部12と、蓄電部12に接続された複数相コンバータ用リアクトルユニットである、2相コンバータ用のリアクトルユニット30を含む昇降圧コンバータ10とを備える。昇降圧コンバータ10は、リアクトルユニット30と、第1アーム20及び第2アーム22と、コンデンサC1とを含む。昇降圧コンバータ10を昇圧用として使用する場合、蓄電部12から出力された電圧が昇圧され、図1の左側の端子TA1,TA2に接続された図示しないインバータ等の回路に、昇圧された電力を供給する。逆に、昇降圧コンバータ10を降圧用として使用する場合、端子TA1,TA2に接続された回路から供給される高電圧を降圧して、蓄電部12に供給し、蓄電部12を充電する。
蓄電部12は、充放電可能な二次電池であり、例えば200Vから325Vの大きさの端子電圧を有するリチウムイオン組電池、ニッケル水素組電池等のいずれかを採用できるが、キャパシタ等を用いることもできる。
コンデンサC1は、端子TA1,TA2の間に接続される。なお、図1に破線aで示す、蓄電部12と昇降圧コンバータ10との間に別のコンデンサC2を接続することもできる。各アーム20,22は、それぞれ上側スイッチング素子S1a,S1b及び下側スイッチング素子S2a,S2bを直列に接続しており、各アーム20,22は、互いに並列にコンデンサC1に接続されている。なお、蓄電部12の正極側と負極側とに、それぞれ制御部により制御されるリレースイッチを設けることもできる。
また、リアクトルユニット30は、逆結合リアクトル32と、順結合リアクトル34とを含み、互いに非磁性材製の支持部材(図示せず)を介して一体に結合している。逆結合リアクトル32は、2相リアクトルとして使用されるもので、逆結合側第1相コイル36及び逆結合側第2相コイル38を含み、これら各相コイル36,38は、図示しない逆結合側コアを介して互いに磁気的に逆結合されている。また、順結合リアクトル34は、2相リアクトルとして使用されるもので、順結合側第1相コイル40及び順結合側第2相コイル42を含み、これら各相コイル40,42は、図示しない順結合側コアを介して互いに磁気的に順結合されている。また、逆結合側第1相コイル36及び順結合側第1相コイル40は、電気的に直列に接続されており、逆結合側第2相コイル38及び順結合側第2相コイル42も、電気的に直列に接続されている。
逆結合側第1相コイル36及び逆結合側第2相コイル38の巻き数比は、好ましくは1:1とする。また、順結合側第1相コイル40及び順結合側第2相コイル42の巻き数比も、好ましくは1:1とする。ただし、互いに磁気結合するコイル同士の巻き数比は、異ならせることもできる。なお、図1で示すコイル36,38,40,42に付されたドットの記号は、コイル36,38,40,42に電圧が誘起された場合の高電位側を示すものである。後述する図3で同様である。
逆結合側第1相コイル36及び順結合側第1相コイル40を直列に接続することにより、第1要素44を構成している。また、逆結合側第2相コイル38及び順結合側第2相コイル42を直列に接続することにより、第2要素46を構成している。第1要素44及び第2要素46の一端は、蓄電部12の正極側に接続されている。また、第1要素44の他端は、第1アーム20の上側スイッチング素子S1a及び下側スイッチング素子S1bの中点に接続されている。第2要素46の他端は、第2アーム22の上側スイッチング素子S2a及び下側スイッチング素子S2bの中点に接続されている。各スイッチング素子S1a,S1b,S2a,S2bは、IGBTまたはトランジスタ等であり、それぞれダイオードを逆並列に接続している。なお、各スイッチング素子S1a,S1b,S2a,S2bのオンオフ動作は、図示しない制御部により制御される。
このような昇降圧コンバータ10では、いずれかのアーム20(または22)の下側スイッチング素子S1b(またはS2b)がオンされ、逆結合側各相コイル36,38の一方のコイルに励磁電流が流れると、その電流の変化に応じて、一方のコイルと、一方のコイル側の順結合側のコイル40(または42)とに電圧が誘起される。この場合、逆結合側各相コイル36,38の他方のコイルに相互誘導作用で電圧が誘起される。このため、端子TA1、TA2側に、蓄電部12の出力電圧が昇圧された電圧が生じ、昇圧動作が可能となる。このような誘起電圧は、下側スイッチング素子S1b,S2bのオンデューティ比に応じて変化する。このため、各アーム20,22の下側スイッチング素子S1b,S2bを、各アーム20,22同士で交互にオンオフすることにより、適切に昇圧された昇圧動作が可能となる。この場合、例えば各アーム20,22の上側スイッチング素子S1a,S2aはオフのままとする。このように、各アーム20,22の下側スイッチング素子S1b,S2bは、互いに180度位相をずらせた状態でスイッチングされ、スイッチングのオンデューティ比に応じて蓄電部12からの電圧が昇圧され、端子TA1,TA2側へ昇圧された電圧が供給される。
これに対して、降圧動作を行う場合、各アーム20,22の上側スイッチング素子S1a,S2aをオンオフすることで、端子TA1,TA2間に供給される高電圧を降圧して、蓄電部12側に降圧した電力を供給する。この場合、各アーム20,22の下側スイッチング素子S1b,S2bはオフのままとする。このように、各アーム20,22の上側スイッチング素子S1a,S2aは、互いに180度位相をずらせた状態でスイッチングされ、スイッチングのオンデューティ比に応じて端子TA1,TA2側からの電圧が降圧され、蓄電部12側へ供給される。
このような昇降圧コンバータ10の回路は、上記の図16に示した回路の場合と同様に作用する。これを説明するために、図1に示す回路での電圧方程式と、図16に示す回路での電圧方程式とを比較する。なお、以下の電圧方程式では、単純化して比較するため、図1の回路での逆結合リアクトル32及び順結合リアクトル34は、それぞれ強結合したものとし、それぞれでの漏れインダクタンスは無視する。また、図16の回路での第2リアクトル18は強結合したものとし、漏れインダクタンスは無視する。まず、図1に示す回路において、第1要素44での電圧方程式は、次式で表される。
ここで、V1は第1要素44の電圧であり、Lは第1要素44のインダクタンスであり、L=M1+M2である。M1は逆結合リアクトル32の相互インダクタンスであり、M2は順結合リアクトル34の相互インダクタンスである。また、i1は第1要素44を流れる電流であり、i2は第2要素46を流れる電流である。
また、図1に示す回路の第2要素46での電圧方程式は、次式で表される。なお、V2は第2要素46の電圧である。(2)式において、他の記号は (1)式の場合と同様である。
これに対して、図16に示す回路の第1リアクトル16と、第2リアクトル18の第1相コイル26とを接続した部分の電圧方程式は、次式で表される。なお、V1´は第1リアクトル16と、第1相コイル26とを接続した部分の電圧であり、Lsは第1リアクトル16のインダクタンスであり、Lcは第2リアクトル18の自己インダクタンスであり、Mは第2リアクトル18の相互インダクタンスである。第2リアクトル18は強結合のため、Lc=Mとなる。また、i1は第2リアクトル18の第1相コイル26を流れる電流であり、i2は第2リアクトル18の第2相コイル28を流れる電流である。
また、図16に示す回路の第1リアクトル16と、第2リアクトル18の第2相コイル28とを接続した部分の電圧方程式は、次式で表される。なお、V2´は、第1リアクトル16と、第2相コイル28とを接続した部分の電圧である。(4)式において、他の記号は、(3)式の場合と同様である。
ここで、 (1)式及び(2)式での順結合側の相互インダクタンスM2が、(3)式及び(4)式での第1リアクトル16のインダクタンスLsと等しく(M2=Ls)、かつ、(1)式及び(2)式での逆結合側での相互インダクタンスM1が、(3)式及び(4)式での第2リアクトル18の相互インダクタンスMと等しい(M1=M(Lc))と仮定すると、(1)式及び(3)式と、(2)式及び(4)式とはそれぞれ同じになる。このため、図1の回路は、図16の回路と等価であることが分かる。すなわち、図1の回路は、非特許文献2に記載された回路構成と同じように動作することが分かる。非特許文献2には、開示された回路が正常に動作することが報告されているので、本実施の形態に係る回路も同様に動作することが分かる。
また、本実施の形態の動作状態をシミュレーションによっても確認した。シミュレーションでは、図1の回路を用いて、順結合リアクトル34のインダクタンスを50μHとし、逆結合リアクトル32のインダクタンスを350μHと200μHとの2種類で異ならせた2例で動作確認した。また、シミュレーションは、キャリア周波数を15kHzとし、200Vから650Vに昇圧する場合で行った。図2Aは、逆結合リアクトル32のインダクタンスを350μHとした第1の条件で行ったシミュレーション結果を示しており、図2Bは、逆結合リアクトル32のインダクタンスを200μHとした第2の条件で行ったシミュレーション結果を示している。なお、以下の説明では、図1と同等の要素には同一の符号を付して説明する。
なお、図2A、図2Bで、横軸のuは単位時間を表している。また、縦軸は、電圧値または電流値を表している。図2A、図2Bにおいて、細い実線は第1アーム20の下側スイッチング素子S1bの駆動電圧である、第1相下側IGBTのゲート電圧を示しており、破線は第2アーム22の下側スイッチング素子S2bの駆動電圧である、第2相下側IGBTのゲート電圧を示している。また、図2A、図2Bにおいて、太い実線は第1要素44の電流である第1相コイル電流を示しており、一点鎖線は第2要素46の電流である第2相コイル電流を示している。
また、図2Aの第1の条件のシミュレーションでは、逆結合側各相コイル36,38の電流変動の最大幅D1(ピーク−トゥ−ピーク電流)は34Appとなり、逆結合側各相コイル36,38の電流の最大差分は9.7Aとなった。また、図2Bの第2の条件のシミュレーションでは、逆結合側各相コイル36,38の電流変動の最大幅D2(ピーク−トゥ−ピーク電流)は41Appとなり、逆結合側各相コイル36,38の電流の最大差分は18.4Aとなり、いずれも図2Aの場合よりも大きくなった。
このように本実施の形態では、上記の図16の場合と同様に動作することを確認できた。このような、本実施の形態によれば、従来型2相リアクトルに対して体積を(例えば50%程度に)十分に小さくでき、昇降圧コンバータ10の小型化が可能になる。すなわち、コンバータを構成するコイルには、電力を伝達するための直流電流に、コイルに接続されるスイッチング素子のオンオフ動作に基づくチョッピング作用により形成される電流リップルが重畳される。これに対して、本実施の形態では、順結合リアクトル34を、直流電流による磁束成分の制御用に使用でき、逆結合リアクトル32を、電流リップルによる磁束成分の制御用に使用できる。順結合リアクトル34に加わる電圧変動は、逆結合リアクトル32により平均化されるので、順結合リアクトル34では、小さなインダクタ成分による磁束を考慮して、体格が小さくなるように決定できる。すなわち、順結合リアクトル34では、電流リップルによる磁束密度が生成されず、体格を小さくできる。
また、電流リップルは、逆結合リアクトル32に印加される最大電流の数分の1と十分に小さくなる。このため、逆結合リアクトル32では、電流リップルによって発生する2相コイルである、逆結合側各相コイル36,38の電流差分の最大値である小さい最大差分で磁気飽和するように、逆結合リアクトル32を設計すればよく、体格を十分に小さくできる。このため、本実施の形態によれば、従来型2相リアクトルに対して体積を十分に小さくでき、昇降圧コンバータ10の小型化が可能になる。
なお、上記の特許文献2の図7、図8では、互いに磁気的に逆結合される、逆結合側第1相コイル及び逆結合側第2相コイルを含む逆結合リアクトルと、逆結合側第1相コイル及び逆結合側第2相コイルのそれぞれに互いに別の電流変化率抑制用リアクトルとを直列に接続することが記載されている。ただし、この構成では、リアクトルの数が3つと増えるだけでなく、各電流変化率抑制用リアクトルで、直流電流による磁束密度と、電流リップルによるコア損失を低減させる磁束密度との兼ね合いから体積を決定することが必要となる。コア損失を低減させるためには、コア体積を大きくして磁束密度を下げる必要があるため、リアクトル全体の体積が大きくなるという不都合がある。これに対して、本実施の形態では、各電流変化率抑制用リアクトルの代わりに、互いに磁気的に順結合した順結合リアクトル34を備えるので、順結合リアクトル34は、電流リップルによる磁束密度に基づいて体積を決定する必要がなく、リアクトル32,34全体の数を2つまたは1つに少なくできるとともに、リアクトル32,34全体の体積を小さくできるという利点がある。
また、本実施の形態では、2入力型とすることが可能になる。すなわち、図3に示すように、図1の回路を利用して1入力型から2入力型に変更することができ、この場合も昇降圧コンバータ10の回路は、図1の場合と等価になる。図3では、第1要素44側に第1蓄電部48を接続し、第2要素46側に第2蓄電部50を接続している。このように、第1要素44及び第2要素46に、別の電源を接続することができ、2入力型とすることができる。このため、第1要素44及び第2要素46のそれぞれに接続する電源の種類を互いに異ならせることができ、応用範囲を拡大できるとともに、電池劣化時の交換頻度を低くできる。例えば、第1要素44に接続する第1蓄電部48として、性能は劣るが急速充電が可能な二次電池を使用するとともに、第2要素46に接続する第2蓄電部50として、従来型の標準的な二次電池を使用することができる。また、2の蓄電部48,50として2の電池や電池組が使用可能となるので、電池劣化時の電池交換頻度を従来の1/2とすることができる。すなわち、一部の蓄電部48(または50)に不具合がある場合でも、第2要素46または第1要素44の使用により、昇降圧コンバータ10の使用が可能となる。このため、入力側の電源についての利便性を向上できる。
次に、図4から図15を用いて、図1の回路に使用可能な2相コンバータ用であるリアクトルユニットの具体例を説明する。まず、図4から図7は、リアクトルユニット30の具体例の第1例を示している。図4は、図1のリアクトルユニットの具体例の第1例を示す図である。図5は、図4のリアクトルユニットを構成する逆結合リアクトルを示す図である。図6は、図5の逆結合リアクトルを構成するコアを示す図である。図7は、図4のリアクトルユニットを構成する順結合リアクトルを示す図である。
図4に示すように、リアクトルユニット30は、逆結合リアクトル32と、順結合リアクトル34とを含み、逆結合、順結合の両リアクトル32,34を非磁性材製の支持部材52を介して一体に結合固定することにより構成されている。図5に示すように、1のリアクトルである逆結合リアクトル32は、逆結合側コア54に逆結合側第1相コイル36及び逆結合側第2相コイル38が巻装されることにより構成されている。図6に示すように、逆結合側コア54は、磁性材であるコア材料により構成したもので、互いに平行に配置した2の基部56の長さ方向に対し直交する方向に3の脚部である端脚部58と中央脚部60とを結合している。すなわち、逆結合側コア54の幅方向(図6の左右方向)両端に2の端脚部58を設け、2の端脚部58の間に中央脚部60を設けている。中央脚部60は、それぞれ2の基部56から互いに対向する側に結合した2の脚要素62を含み、2の脚要素62同士をギャップであるギャップ空間64を介して対向させている。ただし、2の脚要素62同士を、非磁性材製のギャップ板を介して対向させ、結合することもできる。
図5に戻って示すように、逆結合リアクトル32は、中央脚部60(図6)の各脚要素62(図6)に逆結合側第1相コイル36及び逆結合側第2相コイル38を巻装し、互いに磁気的に逆結合されるようにしている。すなわち、それぞれ蓄電部12側から電流が流れた場合にそれぞれのコイル36,38で生成される磁束の方向が、図5で矢印で示すように逆方向となるようにしている。言い換えれば、2相のコイルである逆結合側第1相コイル36と逆結合側第2相コイル38とを、同一方向に通電した場合に磁束が形成され難い、逆相に設置している。
また、図7に示すように、別のリアクトルである順結合リアクトル34は、順結合側コア66に順結合側第1相コイル40及び順結合側第2相コイル42が巻装されることにより構成されている。順結合側コア66の形状自体は、逆結合側コア54の形状と同様であり、磁性材であるコア材料により構成されている。また、順結合側コア66の中央脚部60(図6参照)の各脚要素62(図6参照)に順結合側第1相コイル40と順結合側第2相コイル42とを巻装し、互いに磁気的に順結合されるようにしている。すなわち、それぞれ蓄電部12側から電流が流れた場合にそれぞれのコイル40,42で生成される磁束の方向が、図7で矢印で示すように、同方向となるようにしている。言い換えれば、2相のコイルである順結合側第1相コイル40と順結合側第2相コイル42とを、同一方向に通電した場合に磁束が形成されやすい、同相に設置している。
逆結合リアクトル32及び順結合リアクトル34の構造は、互いに基本的にコイル以外は同じであるが、コア寸法や、コイルの巻き数は異ならせている。さらに、逆結合側コア54は、順結合側コア66を構成する材料よりも鉄損が低い低損失の材料により構成されている。例えば、順結合側コア66を、鉄を基材とする磁性粉末を加圧成形することにより構成する圧粉磁心により構成するダストコアとする。また、この場合に、逆結合側コア54を、圧粉磁心よりも少なくとも予め設定した所定の磁束密度範囲(例えば、1T以下の範囲)でコアロスである、鉄損が低い低損失の日立金属社製のファインメット(商品名)等の、アモルファス合金を熱処理により結晶化させ、約10nmの微細結晶とアモルファス相とを混在させた材料である、ナノ結晶軟磁性材料により構成する。
このようなリアクトルユニット30によれば、損失を小さくできるとともに、体格をより小さくできる。すなわち、図4から図7の構成の場合と異なり、逆結合側コア及び順結合側コアを構成する材料を互いに同じ高い鉄損の材料により構成すると仮定すると、電流リップルにより逆結合リアクトルでの鉄損が大きくなる可能性がある。これに対して、上記の図4から図7の構成によれば、コアでの飽和磁束密度が小さくてもよい逆結合リアクトル32の逆結合側コア54で鉄損の低い材料を使用し、コアでの飽和磁束密度が高くなる順結合リアクトル34の順結合側コア66で鉄損の高い材料を使用するので、全体として鉄損を十分に小さくできるとともに、体格をより小さくでき、上記のような不都合が生じない。
例えば、上記のように、順結合側コア66を圧粉磁心により構成し、逆結合側コア54を圧粉磁心よりも鉄損が低いファインメット等を使用する場合、例えば、リアクトルユニット30を含む昇降圧コンバータ10で、10kHzのキャリア周波数で駆動した場合に、鉄損を約1/10〜1/20と少なくできる。このため、損失を小さくできるとともに、体格をより小さくできる。なお、順結合側コア66は、圧粉磁心ではなく、ケイ素が3〜6.5%で厚さが0.05mmの薄型ケイ素鋼板の積層体等により構成することもできる。
次に、上記の図4から図7のリアクトルユニット30を用いて図1の昇降圧コンバータ10を構成した場合の設計例と、従来型2相リアクトルとにおいて、体積比やコア損比等を比較した計算結果を説明する。設計例では、順結合側コア66をJFEスチール社製のスーパーEコア(商品名)とし、逆結合側コア54をファインメットにより構成した。また、リアクトルユニット30の駆動条件を、325Vから650Vへの昇圧とし、キャリア周波数を10kHzとした。また、順結合リアクトル34では、順結合側各相コイル40,42にそれぞれ100Aを通電する場合に、順結合側コア66の磁束密度が1Tとなるようにした。また、逆結合リアクトル32では、逆結合側各相コイル36,38の電流差分の最大値が18Aで、逆結合側コア54の磁束密度が0.6Tとなるようにした。
このような設計例のリアクトルユニット30を従来型2相リアクトルと比較した計算結果を表1に示している。なお、従来型2相リアクトルを構成するコアには、JFEスチール社製のスーパーEコア(商品名)を使用している。
表1に計算結果を示す例では、325Vから650Vの昇圧であり、昇圧比は2倍である。この場合、2相である第1要素44と第2要素46とを流れる電流波形は互いに完全に反転した形となるため、第1要素44と第2要素46とでの電流和は常に0になる。このため、順結合側第1相コイル40及び順結合側第2相コイル42を流れる電流和で磁束が生成される順結合リアクトル34には正規の磁束が生成されず、漏れ磁束のみが発生する。このため、表1ではコア損比は0とした。また、設計例では、それぞれのコア54,66での磁束密度を十分に小さく設計できたので、リアクトルユニット30の体積比を、従来型2相リアクトルに比べて合計で約2/3と小さくでき、さらに、コア損比を、従来型2相リアクトルに比べて約1/4と十分に小さくできた。
なお、従来型2相リアクトルを構成するコアでも、ファインメットにより構成できると仮定すれば、低損失の低減が期待できる。ただし、従来型2相リアクトルのコアでは実際には磁束密度が高くなるため、飽和磁束密度を1.5T等と、高く設定する必要がある。これに対して、ファインメットで構成したコアを構成した場合の飽和磁束密度は1.2T等、低く制限されるため、飽和磁束密度が低いファインメット材を使用して従来型2相リアクトルのコアを構成することはできない。これに対して、本実施の形態で使用する逆結合リアクトル32の場合、逆結合側コア54での磁束密度が十分に低くなるため、飽和磁束密度が低いファインメット材を使用することができる。この結果、表1で示した結果から明らかなように、本実施の形態のリアクトルユニット30では、小型化かつ低損失化が可能となる。なお、表1で示した設計例の結果は、必ずしも最適化されているものではなく、適用構成の仕様によってはさらに小型化できる可能性があることは勿論である。
また、リアクトルユニット30のコイルの配置構造は、上記の図4から図7に示した例のように、第1相コイル36(または40)と第2相コイル38(または42)とを中央脚部60に縦方向に積むように巻装する構成に限定するものではない。例えば、図示は省略するが、第1相コイルと第2相コイルとを、各コア54,66の中央脚部60に重ね巻きで巻装することもできる。このように重ね巻きの構成とする場合には、単に縦方向に積むように巻装する場合に比べて、各相コイル間での誘導損失を低減できる面で好ましい。
なお、このような重ね巻きでは、各相コイル間の絶縁機能を十分に確保することが難しい場合がある。このような事情を考慮して、図8のように1のリアクトルを構成することもできる。図8は、図1のリアクトルユニット30の具体例の第2例を構成する1のリアクトルの略断面図を示している。図8に示すリアクトルは、逆結合リアクトル32または順結合リアクトル34であるが、以下の説明では、逆結合リアクトル32を代表して説明する。逆結合リアクトル32を構成する逆結合側コア54の構成自体は、上記の図6に示したコアと同様である。
図8に示す例では、逆結合側第2相コイル38の内側に、径方向に対向させるように逆結合側第1相コイル36を配置することで、各相コイル38,36を同心円状に配置している。このような例では、各相コイル38,36間での誘導損失を低減しやすくなる。
また、図9は、図1のリアクトルユニット30の具体例の第3例の1のリアクトルを構成する、第1相コイル及び第2相コイルを示す図である。図9に示すコイルは、逆結合側各相コイル36,38または順結合側各相コイル40,42であるが、以下の説明では、逆結合側各相コイル36,38を代表して説明する。逆結合リアクトル32を構成する逆結合側コア54の構成自体は、上記の図6に示したコアと同様である。
図9に示す例では、逆結合側第1相コイル36は、軸方向片側(図9の上側)の径方向外側に設けられる第1相片側コイル要素68と、軸方向他側(図9の下側)の径方向内側に設けられる第1相他側コイル要素70とを、互いに電気的に接続することにより構成している。また、逆結合側第2相コイル38は、軸方向片側の第1相片側コイル要素68の径方向内側に設けられる第2相片側コイル要素72と、軸方向他側の第1相他側コイル要素70の径方向外側に設けられる第2相他側コイル要素73とを、互いに電気的に接続することにより構成している。
このように、図9に示す例では、図8に示す例において、同心円状に配置された各相コイル36,38を軸方向片側と軸方向他側とで各要素68,70,72,73に分離し、径方向外側と径方向内側とを、軸方向片側と軸方向他側とで逆にし、それぞれ同じ相のコイル要素68,70(または72,73)同士を接続している。このような例では、第1相コイル36と第2相コイル38とが、対称配置となるので、対称性が必要とされる場合に好適である。
次に、図10を用いて、順結合側、逆結合側の2のリアクトルを一体化した構成の具体例を説明する。すなわち、図10は、図1のリアクトルユニット30の具体例の第4例を示す図である。上記の図4から図7に示した例では、それぞれのリアクトル32,34で3つの脚部58,60のうち、中央脚部60にコイル36,38,40,42を巻装したものを2つのリアクトル32,34とし、2つのリアクトル32,34を一体化させることによりリアクトルユニット30を構成していた。これに対して、図10に示す例では、2つのリアクトルである逆結合、順結合の各リアクトル32,34を構成する逆結合側コア74及び順結合側コア76は、それぞれ磁性材のコア材料、例えばファインメットにより、基部78の長さ方向に対し直交する方向に、互いに平行に結合された2の脚部80,82を含む。2の脚部80,82のうち、一方の脚部である片側脚部80は、図6の中央脚部60に対応するもので、それぞれ2の基部78から互いに対向する側に結合した2の脚要素84を含み、2の脚要素84同士をギャップであるギャップ空間64を介して対向させている。ただし、2の脚要素84同士を、非磁性材製のギャップ板を介して対向させ、結合することもできる。なお、各コア74,76は両方をファインメットにより構成するものに限定するものではなく、例えば、逆結合側コア74をファインメットにより構成し、順結合側コア76を圧粉磁心や薄型ケイ素鋼板の積層体やスーパーEコア(商品名)等により構成することもできる。
そして、逆結合リアクトル32は、逆結合側コア74に設けた片側脚部80の各脚要素84に逆結合側第1相コイル36と逆結合側第2相コイル38とがそれぞれ巻装され、互いに磁気的に逆結合されることにより構成されている。また、順結合リアクトル34は、順結合側コア76に設けた片側脚部80の各脚要素84に順結合側第1相コイル40と順結合側第2相コイル42とがそれぞれ巻装され、互いに磁気的に順結合されることにより構成されている。
逆結合リアクトル32及び順結合リアクトル34は、それぞれの片側脚部80同士が隣り合い、それぞれの2の脚部80,82の他方の脚部である他側脚部82同士が離れるように、平面上に配置されており、この状態で、逆結合側、順結合側両リアクトル32,34は、図示しない非磁性材製の支持部材を介して一体に結合固定されることにより、リアクトルユニットが構成されている。
このような図10に示す例では、コア74,76の脚部80,82の総数が4となり、図4に示した例の場合にコア54,66の脚部の総数が6となっているのに対し、脚部の総数を少なくできる。このため、簡素化されるので、好適である。また、各相コイル36,38,40,42で生じた磁束は、順結合側、または逆結合側である相手側のリアクトル34(または32)に通過させることができ、漏れ磁束がリアクトルユニットの外部に漏れ出ることを防止できる。
上記のリアクトルユニット30の各具体例では、順結合側、逆結合側の各リアクトル32,34同士でコア54,66,74,76を別体としているが、次に図11から図14に示すように、これらのコアを共通の単一のコアにより構成し、両リアクトル32,34を一体化させることもできる。すなわち、図11は、リアクトルユニット30の具体例の第5例を示す図である。図12は、図11のリアクトルユニット30を構成するコア86を示す図である。図13は、図11のリアクトルユニット30において、逆結合側各相コイル36,38が形成する磁束を示す図である。図14は、図11のリアクトルユニット30において、順結合側各相コイル40,42が形成する磁束を示す図である。
図11に示すように、リアクトルユニット30は、単一のコア86と、コア86に設けた複数の脚部に巻装した順結合側第1相コイル36、順結合側第2相コイル38、逆結合側第1相コイル40、及び逆結合側第2相コイル42とを備える。図12に示すように、コア86は、磁性材製のコア材料、例えばファインメットにより構成したもので、互いに平行に配置した2の基部の長さ方向両端部同士を互いに平行な2の外側脚部90により結合している。また、2の基部88において、2の外側脚部90同士の間に2の内側脚部92,93を結合している。各内側脚部92,93は、図6の中央脚部60に対応するもので、それぞれ2の基部88から互いに対向する側に結合した2の脚要素94を含み、2の脚要素94同士をギャップであるギャップ空間64を介して対向させている。ただし、2の脚要素94同士を、非磁性材製のギャップ板を介して対向させ、結合することもできる。
そして、図11に示すように、逆結合リアクトル32は、2の内側脚部92,93の一方の内側脚部92の各脚要素94に逆結合側の各相コイル36,38が巻装され、互いに磁気的に逆結合されることにより構成されている。また、順結合リアクトル34は、2の内側脚部92,93の他方の内側脚部93の各脚要素94に順結合側第1相コイル40と順結合側第2相コイル42とが巻装され、互いに磁気的に順結合されることにより構成されている。この結果、逆結合リアクトル32及び順結合リアクトル34は、磁気的に結合されている。この構成により、図13に示すように、基本的には、逆結合側の各相コイル36,38により生成される磁束は、順結合側の内側脚部93に大きな磁気抵抗を生じるギャップ空間64があるため、順結合側の各相コイル40,42に鎖交しない。また、図14に示すように、基本的には、順結合側の各相コイル40,42により生成される磁束は、逆結合側の内側脚部92に大きな磁気抵抗を生じるギャップ空間64があるため、逆結合側の各相コイル36,38に鎖交しない。このため、本例の構成は、上記の図10に示した例の場合と同様の特性を有する。しかも、本例の構成では、コア86が順結合側、逆結合側の両方で共通の単一のコアとなるので、製造作業が容易になるという利点を有する。
また、上記の図11から図14に示した例では、コア86の脚部90,92,93の総数を4つとしているが、図15に示すように、コアの脚部の総数を3つとすることもできる。図15は、リアクトルユニット30の具体例の第6例を示す図である。図15に示すリアクトルユニット30は、上記の図11から図14に示したリアクトルユニット30において、2の外側脚部90のうち、1の外側脚部90を省略したような形状を有する。すなわち、図15に示すリアクトルユニット30は、基部88と、基部88の長さ方向に対し直交する方向に、互いに平行に結合した1の内側脚部96及び2の外側脚部98,100を含む。内側脚部96及び一方の外側脚部98は、それぞれ互いにギャップ空間64を介して対向する2ずつの脚要素102,104を有する。なお、各脚部96,98をそれぞれ構成する2の脚要素102,104は、それぞれ非磁性材のギャップ板を介して対向させることもできる。また、逆結合リアクトル32は、内側脚部96(または一方の外側脚部98)に、逆結合側第1相コイル36及び逆結合側第2相コイル38が巻装されることにより構成されている。また、順結合リアクトル34は、一方の外側脚部98(または内側脚部96)に、順結合側第1相コイル40及び順結合側第2相コイル42が巻装されることにより構成されている。
このような構成では、リアクトルユニット30の幅方向(図15の左右方向)長さは、図11から図14に示したリアクトルユニット30に比べて短くできる。このように構成する場合でも、図11から図14のリアクトルユニット30と同様の特性を得られる。
なお、上記の説明では、逆結合リアクトル32やコア86を構成するコア材料の例として、ファインメットを使用できるとしたが、用途に対し最適化するようにコア材料を選択できることは勿論である。例えば、逆結合リアクトル32を構成する逆結合側コア54を構成するコア材料として、フェライト材を使用することもできる。この場合、フェライト材の飽和磁束密度の小ささから、リアクトルの体格的にはほとんど改善されないが、材料コストが安価になるという利点が得られる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。