本発明の非水系二次電池は、水素イオン(H+)と水素化物(H−)との間の酸化還元反応を担う負極と、H+イオンを輸送可能なイオン伝導体と、正極を有する非水系二次電池において、負極が非水環境下で充放電することができるように、負極に水が接触するのを防ぐ非水処理手段を設けたことを特徴としている(第一の手段)。
正極は、酸素と水の間の酸化還元反応を担うことが好ましい(第二の手段)。非水処理手段として、負極と正極の間に水を実質的に透過させない水隔離膜を挿入して用いることが好ましい(第三の手段)。水隔離膜は、水素(H2)を吸収する機能を有する材料を含むことが好ましい(第四の手段)。
負極が金属イオンを放出し、イオン伝導体が金属イオンも輸送可能であって、正極が金属イオンの析出溶解または吸蔵放出の少なくとも一方の酸化還元反応を担う構成としてもよい(第五の手段)。
非水処理手段は、負極と正極を収納し、かつ水を実質的に透過させない容器によって構成してもよい(第六の手段)。負極は、周期律表の1族、2族、4族、13族、14族の中から選択された少なくとも1種類の元素が含まれていることが好ましい(第七の手段)。負極の内部に、周期律表の1族、2族の中から少なくとも1種類の元素が含有され、かつ、負極の内部と表面の組成が異なる二層構造であることが好ましい(第八の手段)。
正極の表面に、周期律表の4族、13族、14族の中から選択された少なくとも1種類の元素が含まれていることを特徴とする(第九の手段)。非水系二次電池に電気エネルギーを貯蔵し、かつその電気エネルギーを利用することを特徴とする装置を用いることである(第十の手段)。
本発明の非水系二次電池は、水素イオン(H+)と水素化物(H−)の間の酸化還元反応を担う負極と、正極と、両電極の間においてH+を輸送可能なイオン伝導体と、を有しており、負極に水を接触させない非水処理手段が設けられている。
イオン伝導体は、少なくともH+を輸送可能であることを条件とするが、負極から溶出した金属イオンも輸送可能であっても良い。以下の説明では、H+を主に輸送するイオン伝導体を「H+伝導体」と記す。また、H+と負極から溶出した金属イオンの両方を輸送するものを、単に「イオン伝導体」と表記する。
非水処理手段とは、負極が水と反応して、負極が腐食して負極の性能が低下する問題を回避する目的で必要とする。そして、負極に水を接触させない手段として、正極と負極の間に水隔離膜を設置する方法や、正極と負極を容器内に収納する方法が例示される。以下、その発明の内容を詳細に説明する。
図1は、実施例1の非水系二次電池101の断面構造を模式的に示す図である
実施例1の非水系二次電池101は、正極107、負極108、および両電極の間に挿入されたH+伝導体109からなる電極群を有しており、容器102の内部に収容されている。
正極107は、酸素の酸化還元反応を担う空気極によって構成されている。そして、電極群の負極108とH+伝導体109との間に、非水処理手段である水隔離膜130が設けられている。水隔離膜130は、負極108に水が接触するのを防ぐように設けられている。また、水透過膜130は、H+または水素(HまたはH2)を透過させる機能を兼ね備えており、負極108に水素化物を形成できるようにしている。
容器102には、正極107に空気を供給、排出できるように、容器102の正極側に空気の供給口123と排出口124が設けられており、大気側に開放されている。よって、本構成は、電池が大気に開放されていない第五の手段によるものと異なる。
電池容器102の上部には、蓋103が取り付けられている。蓋103には、正極外部端子104、負極外部端子105が設けられている。蓋103は、電池容器102内に電極群を収納した後に、電池容器102の上部に被せられ、蓋103の外周を溶接して電池容器102と一体に構成される。
電池容器102への蓋103の取り付けには、溶接の他に、かしめ、接着などの他の方法を採ることができる。蓋103を省略し、電池容器102の上部に絶縁部材112を被せて、絶縁部材112を貫通するように正極外部端子104または負極外部端子105を成形して固定しても良い。
次に、主要部品の技術的特徴について詳細に説明する。
正極107は、酸素を酸化還元する機能を有する電極(空気極)、または負極108から溶出した金属イオンを吸蔵・放出する機能を有する電極を用いる。
前者の、酸素を酸化還元する機能を有する電極の場合は、下記の式(1)、(2)にしたがって充電反応が進行する。放電時は負極と正極において式(1)、(2)の逆反応が進行する。
放電時の場合は、正極で生成した水素イオンに対して等量の水素イオンを負極で消費するので、電解液中の水素イオン濃度は変化しない。したがって、水素濃度が減少して出力が低下することはない。
また、下記の式(1)、(2)は、ニッケル水素電池のように水を用いず、非水系で進行させるので、水素と酸素の酸化還元反応によって規定される電位窓(約1.2V)よりも高い電圧を得ることができる。
負極の充電反応:M+H++e−→MH ・・・(1)
正極の充電反応:1/2H2O→1/2O2+H++e− ・・・(2)
なお、式(1)では、金属と水素のモル比が1となる反応を例示しているが、モル比は任意である。
そして、後者の、正極107が負極108から溶出した金属イオンを吸蔵・放出する機能を有する電極の場合は、下記の式(3a)または(3b)による金属イオンの還元反応と、下記の式(3c)による水素化物形成反応によって負極の充電反応が進行する。ここで、M+(溶液)は電解液中に溶解している金属イオンM+を、M(負極表面)は負極表面に析出した金属Mを、M+(負極内部)は負極内部に吸蔵されたM+、MHは金属Mの水素化物をそれぞれ意味している。なお、ここでは酸化数が1とした反応を例示しているが、酸化数が2以上であっても良い。
正極の充電反応は、下記の式(4)で示されている。AOxは金属Aとxモルの酸素からなる酸化物を、MAOxは酸化物AOxの中に金属Mが吸蔵された状態の化合物を表している。ただし、金属イオンM+を吸蔵する材料は、酸化物に限定されない。
負極の充電反応:M+(溶液)+e−→M(負極表面) ・・・(3a)
M+(溶液) → M+(負極内部) ・・・(3b)
M+H++e−→MH ・・・(3c)
正極の充電反応:MAOx→AOx+M+(溶液)+e− ・・・(4)
放電時は、負極と正極において式(3a)、(3b)、(3c)、(4)の逆反応が進行する。この場合は、負極の充電時に水素イオンを消費するので(式(3c)の逆反応)、電解液中に存在している分だけが利用される。
残りの放電には、金属の溶解反応(式3aの逆反応)または金属イオンの放出反応(式(3b)の逆反応)が起こる。他方、正極では、金属イオンを吸蔵する放電反応が進行する(式(4)の逆反応)。
この電池反応(式(3a)、(3b)、(3c)、(4))の利点は、軽量な水素を吸蔵する反応(式(3c))を利用しているので、充電容量密度を高めることが可能となり、高エネルギー密度の非水系二次電池を提供することができる。
また、本発明の電池の構成は、従来技術のように、1族または2族の元素の負極と、それらの水素化物の正極とからなる構成でないために、高い端子間電圧が得られ、電池の高エネルギー密度を増大させることが可能となる。
まず、図1を用いて、負極を水素化物極(式(1))、正極を空気極(式(2))とした本発明の非水系二次電池101の構成と機能を説明する。
正極107は、大気中の酸素に接触する構造になっていて、酸素から水へ還元させることと、水から酸素へ酸化させることのいずれかを促進させる機能を有する。したがって、本発明の非水系二次電池101は、半開放状態の構造にあって、リチウムイオン二次電池のような完全密閉の構造にないことが特徴である。
正極107には、酸素と水の間で酸化還元反応を促進させる材料、いわゆる正極触媒が含まれている。その正極触媒として、炭素粒子に白金、イリジウム、ルテニウム、チタンあるいはこれらの合金の微粒子を担持させた粉末、マンガン酸化物などがある。これらの材料を混合したり、結合させたり、任意の形態で用いることが可能である。さらに、これらの材料に限定されず、酸素と水の間で酸化還元反応を担うものであれば、利用可能である。
これらの正極触媒は微粒子で用いた場合は、粒子間の電子の授受を速やかに行う必要がある。そのために、導電性の材料、例えば炭素粉末や炭素繊維、あるいは耐食性の金属や炭化物からなる粉末や繊維を添加して、正極107を製作しても良い。正極107がシート状であれば、担体を電子伝導性の材料を選択し、正極触媒粒子を担持する。また、正極107とH+伝導体109との間でH+の授受を行うので、正極107の間にH+伝導体109の微粒子、繊維などを混合しても良い。
例えば、炭素繊維とともに高比表面積の炭素材料、例えばカーボンブラックや活性炭を、導電助剤として用いても良い。このようにすれば、導電性繊維のみを用いたときよりも正極の導電性が向上する。その結果、全ての正極触媒を機能させることができる。
正極触媒の粒径は、合剤層の厚さ以下になるように規定される。正極触媒中に正極107の厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級などにより粗粒を除去する。
また、電池101に要求される電流に相当するH+イオンが、必要な電流を流しうるだけの十分な速度で移動可能になるように、正極107の厚さを調整する。正極107は多孔質であると、正極触媒の酸素との接触面積が増大し、大きな電流を流すことができるので、好適である。
正極107の製造方法は、公知の手段を適用することができる。例えば、正極触媒、導電助剤、バインダ、溶媒からなるスラリを調製し、シート状の正極107を製造することができる。予め多孔質の導電性シートがあれば、それに正極触媒を含浸させて、正極107を製作することも可能である。
バインダには、フッ素系バインダやゴム系バインダなどの公知の材料を用いることができる。必要に応じて、分散性や粘度を調製するための添加剤(例えば、カルボキシメチルセルロース)を添加しても良い。このスラリを十分に混ぜ合わせて、なめらかな正極スラリを調製する。そして、このスラリを正極集電体に塗布し、乾燥することによって正極107を製造する。
正極集電体には、厚さが10〜100μmの多孔質炭素フェルト、シートなどを用いることができる。孔径0.1〜10mmの穿孔を有する炭素シートであっても良い。なお、材質は炭素に限定されず、アルミニウム、ステンレス、チタンなどの耐食性材料を適用可能である。正極107が作動する電位で、担体の溶解が起こらず、また酸化物層が担体内部まで成長しない材料であれば、本発明に適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の触媒担体を使用することができる。
正極スラリの製造には、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などの既知の製法を採ることができ、手段に制限はない。また、正極スラリを触媒担体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥し、ロールプレスによって正極107を加圧成形することにより、正極107を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回おこなうことにより、複数の正極触媒の層を積層化させることも可能である。
本発明の正極107は、固体高分子形燃料電池の正極(カソード)と類似の反応を担っている。しかし、本発明の負極108は、水を含まない環境にて水素化物を形成する電極であって、前記燃料電池の負極が水素(燃料)を酸化させる電極である点で異なる。本発明の負極108が標準水素電極電位よりも低い電位で作動するので、本発明の電池電圧は、燃料電池の理論電圧(1.23V)より大きくなる。したがって、本発明の非水系二次電池101は、従来の燃料電池とも異なる動作原理に基づいていることが明らかである。
負極108は、容器102によって密閉された状態にあり、外界の酸素や水分が負極108に接触しない構造とした。これは、水素化物が酸素や水と反応し、分解してしまうからである(下記の式(5)を参照)。なお、MOHは、金属Mの水酸化物を表す。
MH + 1/2O2 → M + H2O ・・・(5)
MH + H2O → MOH + H2 ・・・(6)
負極108は、水素イオン(H+)から直接、水素化物を形成する材料(以下では負極活物質とする。)を用いる。負極活物質がシート状であれば、そのまま用いる。負極活物質が粉体、繊維状などの微細な構造になっていれば、それにバインダを添加して、シート状に成形した後に用いる。
バインダが電子伝導性であればそのままで良いが、高抵抗な材料であるときには導電性を有する材料を添加する。このようにすれば、全ての負極活物質粒子を有効に機能させることができる。
導電性材料には、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブのなどの炭素質材料、あるいは5員環または6員環の環式炭化水素または環式含酸素有機化合物を熱分解によって合成した非晶質炭素材料、などが利用可能である。また、金属や半導体のような材料を添加しても良い。本発明を実施する上で障害はない。
また、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレンからなる導電性高分子材料を、負極108の導電性材料として用いることができる。これらの材料と黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素等のグラフェン構造を有する炭素材料と組み合わせて、本発明を実施することができる。
高レート充放電が必要な場合は、上述の導電性材料を負極108に添加することが望ましい。ただし、必要以上に添加すると、負極108の体積が増大し、電池のエネルギー密度が低下するので、適切な量の導電性材料を用いる。その量を負極合剤重量に対し1〜10%の範囲にすることが、導電性とエネルギー密度の両立に好適である。
負極活物質には、周期律表上で1族、2族、4族、13族、14族の中から選択された少なくとも1種類の元素であれば、水素化物を形成することができる。これらの材料を少なくとも一種類以上を含み、その材料を水素化物にすることができれば、他の元素はいかなるものであっても差支えはない。
1族の元素には、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムがある。資源量の豊富さと、取扱性を考慮すると、リチウムかナトリウムが望ましい。なお、リチウムまたはナトリウムにそれらの元素以外の同族元素を添加しても良い。
2族の元素には、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムがある。この中でベリリウムとラジウムは取扱いに難があるので、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが望ましく、その中でもマグネシウムとカルシウムが単位重量当たりの水素保持量が高くて優れている。なお、マグネシウムまたはカルシウムにそれらの元素以外の同族元素を添加しても良い。
4族の元素には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ラザホージウムがある。等量の水素の保持させるときの負極活物質の重量を下げるために、チタンまたはジルコニウムが好適である。なお、チタンまたはジルコニウムにそれらの元素以外の同族元素を添加しても良い。
13族の元素には、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムがある。この中でタリウムは取扱いに難があるので、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムが好適であり、その中でもホウ素とアルミニウムが単位重量当たりの水素保持量が高いので特に望ましい。なお、ホウ素とアルミニウムにそれらの元素以外の同族元素を添加しても良い。
14族の元素には、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛がある。この中で鉛は重く、炭素は水素化物になりにくいので、ケイ素、ゲルマニウム、スズが好適であり、その中でもケイ素が単位重量当たりの水素保持量が高いので特に望ましい。なお、ケイ素にケイ素以外の同族元素を添加しても良い。
以上で列挙した元素の中から少なくとも一種類以上の元素を含む負極活物質を用いれば、負極108の充電時には水素化物を形成し、放電時には水素イオン(H+)を放出する。水素吸蔵材料を用いた場合には、放電時に水素吸蔵材料にてH+を発生する。
本発明の電池に用いる負極108は、1族または2族の軽金属を主体に用いる。このような材料は第一イオン化エネルギーが小さく、金属水素化物を形成したときに、水素の酸化数はゼロから−1方向へ変化している。そのため、式(3c)の水素化物MHと金属Mとの間の酸化還元平衡電位が標準水素電極電位よりも低い値となる。従来のニッケル水素電池で用いられている希土類系合金負極が標準水素電極電位付近で作動していることと比較すると、本発明の負極108が材質と機能の点で明らかに異なることがわかる。
負極活物質はシート状であっても良い、粉末であっても良い。一般には、後者の方が反応面積を増大させることが容易で、高性能な非水系二次電池にすることができる。
粉末状の負極活物質を用いる場合は、それにバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に負極基体へ保持させる。本発明の負極108では、負極活物質の粒径を合剤層の厚さ以下にすることが望ましい。負極活物質粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級、風流分級などにより粗粒を除去する。また、負極中の水素イオンや水素原子の拡散が遅くならないように、負極108の厚さを調整する。
粉末状の負極活物質を用いるときの負極108の基体には、厚さが10〜100μmの銅箔、厚さが10〜100μm、孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡金属板などが用いられ、材質も銅の他に、ステンレス、チタン、ニッケルなども適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法などに制限されることなく、任意の基体を選択することができる。
負極活物質、バインダ、および有機溶媒を混合した負極スラリを、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法などによって負極基体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥し、ロールプレスによって負極を加圧成形することにより、負極108を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回繰り返して行うことにより、多層合剤層を集電体に形成させることも可能である。
シート状、板状、棒状の負極を使う場合には、上述のスラリを必要としないので、そのまま負極108として用いることができる。極薄の金属や合金を用いるときに、その形状を保持するために穿孔箔、エキスパンドメタルなどの基体を用いることは、本発明の効果を得る上で何ら差支えはない。
以上のように作製した正極107と負極108の間に、H+伝導体109と水隔離膜130を挿入する。
H+伝導体109は100℃以上の高温で発現される固体電解質であっても良いが、電池の起動停止を短時間で行うためには、常温で伝導性を有するものが好適である。そのような常温作動タイプのH+伝導体109を列挙すると、プロトン型の固体高分子電解質膜や、イオン交換膜などがあり、形状は薄膜状あるいはシート状など任意の形状を選択することができる。
プロトン型固体高分子膜にメタノール等のアルコール溶媒を含浸させて、非水系のH+伝導体109として用いることも可能である。この場合は、添加した溶媒が正極107で酸化分解しないように、H+伝導体109と正極107の境界に溶媒の透過を抑制するがプロトンのみを透過させる膜を挿入する。
このような膜状のH+伝導体でなくても、不織布やガラスフィルタに酸を溶解させた水溶液または有機溶液を含浸させた電解液をそのまま用いても良い。多孔質体に常温溶融塩(イオン液体とも呼ばれる。)を含浸させて用いることも可能である。
さらに、リン酸複合化ポリマーを用いることも可能で、従来の燃料電池の固体高分子電解質膜のように、非水環境下でH+を移動させることが可能である。このような非水環境下で機能するH+伝導体109を用いれば、後述の水隔離膜130を省略することができる。
また、ポリエチレン、ポリプロピレンなどからなるポリオレフィン系高分子シート、あるいはポリオレフィン系高分子と4フッ化ポリエチレンを代表とするフッ素系高分子シートを溶着させた多層構造のH+伝導体108などを使用することが可能である。
電池温度が高くなったときにH+伝導体109が収縮しないように、H+伝導体109の表面にセラミックスとバインダの混合物を薄層状に形成しても良い。これらのH+伝導体109は、電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、一般に細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%であれば、本発明の非水二次電池101に使用可能である。
水隔離膜130は、H+またはH原子(あるいは水素分子)を透過させるが、水を透過させない材料で構成される。水が透過すると、負極108上で水の電気分解が起こり、電力の損失が生じるからである。負極108が水と接触しない配置にあって、充電時に負極108が標準水素電極電位よりも低い電位において水素化物を形成する点で、従来のニッケル水素電池や燃料電池の動作原理において異なる。
水隔離膜130は、イオンまたは電子が移動可能でないと、負極108と正極107の間に電気を流すことができず、充放電不能となってしまう。したがって、水隔離膜130は、正極107と負極108の間に水の移動を遮断するが、イオンまたは電子の少なくとも一方を伝導させる機能が必要である。
このように、水隔離膜130は、図1の構成において負極108を標準水素電極電位以下で作動させるために必須な部品である。水隔離膜130が存在しないと、H+伝導体109を透過した水が負極108上で還元され、充電のための電力を損失するからである。また、水の還元反応が優勢となり、負極108上での水素化物の形成反応(上記式(3c)を参照)が阻害される。
したがって、水隔離膜130は、正極109側に供給される酸素や水分から負極108を隔離するだけでなく、H+伝導体109を透過する水からも負極108を隔離していることが必要である。なお、水隔離膜130はH+伝導体109と兼用させても良い。
水隔離膜130の代表的な材料は、水素吸蔵金属または合金である。これらの材料を薄層またはシート状として、負極108に密着させる。水素吸蔵合金の薄層はH+伝導体109として機能するように、H+を水素原子まで還元させ、その水素原子を吸蔵する材料を用いる。水素吸蔵合金の層を水は透過しないが、水素は透過し、負極108に到達した水素は、負極108上で水素化物に変化する(式(3c)を参照)。
水素吸蔵合金の薄層は、H+伝導体109として機能するように、H+を水素原子まで還元させ、その水素原子は拡散により、負極に到達する。負極108は、その水素吸蔵材料から水素を受け取り、水素化物を形成することができる。このように、H+伝導体109と水隔離膜130を組み合わせることによって、2段階のプロセスによりH+を水素化物に変化させることができる。
水隔離膜130の材料として、パラジウム、チタン、マグネシウムなどの水素吸蔵金属または合金を用いることが可能である。水素の透過速度を高めるために、1μmから100μmの極薄の膜を用いることが望ましい。その他にバナジウム合金、ニオブ-チタン-ニッケル系合金など水素透過用金属や、金属ガラス(例えば、Ni−Nb−Zr−Co合金)、あるいは分子サイズの微細孔を有するセラミック多孔質体などの低コスト材料を用いることができる。
正極から負極へ水が到達し、負極上で水が反応しないようにするために、以下の3種類の構成例が考えられる。まず、一つ目は、水隔離膜130を負極108と一体化部品とし、負極表面の直前で水を排除する構成、二つ目は、正極107に水隔離膜130を一体化し、H+伝導体109に水が浸入するのを阻止して水を負極108に到達させない構成、三つ目は、水隔離膜130をH+伝導体109と一体化部品とし、その一体化部品の内部で水の移動を遮断して水を負極108に到達させない構成である。
これらの3種類の構成のうち、特に、H+伝導体109自身が水を透過しにくい材料であれば(上記三つ目の構成の場合)、水隔離膜130を不要とし、H+伝導体109を水隔離膜130と兼用させることができ、好都合である。
また、H+伝導体109と水隔離膜130の少なくとも一方は電子絶縁性であることが必要である。正極107と負極108の間に短絡電流、漏れ電流が流れてしまい、充電した電気エネルギーが損失するだけでなく、充電自体が不能となるからである。
正極109、H+伝導体109、水隔離膜130、負極108からなる積層体は、電池容器102に収納される。電池容器102が金属等の電気良導材料で製作されている場合には、各電極107、108と電池容器102の間には絶縁部材を挿入し、正極109と負極108が短絡しないようにする。電池容器102が樹脂等の絶縁材料で製作されている場合には、前記絶縁部材を用いる必要がない。
積層体の上部は、正極外部端子104と負極外部端子105に電気的に接続されており、正極107と負極108の間に電流を流す構造になっている。正極107は正極外部端子104に接続されている。負極108は負極外部端子104に接続されている。なお、図1では各電極がそれぞれの外部端子に直結されているが、途中に線状、板状、箔状のリードを介して連結する方法であっても良い。電流を流したときにオーム損失を小さくすることのできる構造であり、かつ電解液と反応しない材質であれば、リード形状、材質は任意である。
また、正極外部端子104または負極外部端子105と、電池容器102の間には絶縁性シール材料112を挿入し、両端子が短絡しないようにしている。絶縁性シール材料112にはフッ素樹脂、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシールなどから選択することができ、正極触媒、負極活物質、水素、あるいは水と反応せず、気密性に優れた任意の材質を使用することができる。
正極107と正極外部端子104の途中、あるいは負極108と負極外部端子105の途中に、正温度係数(PTC; Positive temperature coefficient)を有する抵抗素子を装備した電流遮断機構を設けると、電池内部の温度が高くなったときに、非水系二次電池101の充放電を停止させ、電池101を保護することが可能となる。
また、電池内部の圧力が規定値よりも大きくなったときに、その内部の圧力を解放するための圧力弁を蓋103に設けても良い。
積層体の構造は、図1に示した短冊状電極の積層したもの、あるいは円筒状、扁平状などの任意の形状に捲回したものなど、種々の形状にすることができる。電池容器の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒型、偏平長円形状、角型などの形状を選択してもよい。
電池容器102の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製、プラスチック製など、耐食性のある材料から選択される。
その後、蓋103を電池容器102に密着させ、電池全体を密閉する。電池を密閉する方法には、溶接、かしめなど公知の技術がある。
電池容器102の正極側には、空気を供給するための供給口123と空気を排出するための排出口124が形成されている。供給口123からは空気または酸素を供給し、水を水蒸気として供給すると、H+伝導体109のH+移動速度が高められて、好適である。また、充電時には水を酸化してH+をH+伝導体109に伝達する必要があるので、充電中に酸素の供給を停止しても良いが、水を正極107に供給する必要がある。なお、排出口124は、ポンプを介して、供給口123に連絡し、酸素を循環させる構成としても良い。
(実施例1)
以上の説明を踏まえ、図1の非水系二次電池の具体的構成と性能について実施した内容を説明する。
まず、正極107は以下のように製作した。正極107は、酸素の酸化還元活性に優れた白金の微粒子を炭素に担持させた正極触媒(E−TEK(登録商標))を、フッ素系バインダで金属メッシュに付着させた電極とした。すなわち、正極107は、正極触媒(E−TEK(登録商標))をフッ素系バインダで金属メッシュに付着させた電極とした。電極サイズは10cm×15cmの短冊状とした。
負極108の材質は、マグネシウム合金(型式AZ61)を選択した。厚さは0.3mmとし、10cm×15cmの短冊状とした。
H+導電体109には、プロトン型のNafion(登録商標)を用いた。厚さは50μmとした。H+導電体109と正極107との密着性を高め、H+が速やかに移動可能になるように、上記正極触媒にNafionを添加した分散液をH+導電体109に塗布、乾燥し、さらに熱プレスによって、H+導電体109の表面に正極107を密着させた。
水隔離膜130にはパラジウム(厚さ5μm)を用い、負極108の表面に蒸着して用いた。これによって、負極108が水と直接、接触することを回避できる。
そこで、非水系二次電池101の正極側に、空気の供給口123と排出口124を設け、外付けのブロアから供給口123に空気を供給した。なお、供給する酸素は純酸素(酸素濃度100%)としてボンベから供給しても良いが、本実施例では大気(空気)を用いた。
供給される空気は、露点60℃とした。前記ブロアと供給口123の配管の途中にヒーター付きバブラを設置し、そのバブラに空気を通過させて、露点60℃になるように空気を加湿した。電池温度も60℃になるように、空調設備を用いて制御した。空気の流量は、電気から計算される酸素消費量の5倍になるように、流量を設定した。
電池の初期エージングには、開回路の状態より2時間率に相当する電流(0.5A)にて充電を開始し、3.5Vに到達した後に、120分の定電圧充電を行った。その後30分の休止を経て、電池電圧が2.0Vに達するまで1Aの定電流放電を行い、30分の休止を設けた。この一連のサイクルを3回行って、初期エージングを終了した。最後のサイクルの放電容量は1.0Ahであり、これを電池の定格容量とした。本電池をB1とする。電池の数は5個とした。
その後、充電時と放電時の電流を0.5Aとしたまま、充電時の保持電圧を3.5Vとし、充電総時間を120分、放電終止電圧を2.0V、充電後と放電後の休止時間を30分として、20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.97Ahであり、容量維持率の平均値は97%であった。
電池B1の負極をLi-Mgシートに置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B2を5個、製作した。なお、負極の合金組成はLi:Mg=1:5(原子数の比率)となるように、高周波溶融炉を用いて不活性ガス雰囲気下で各金属を溶融させて金属塊(インゴット)とした。以下、本手法を溶融法とする。後述の電池B2、B5〜B8の負極も溶融法にて製作した。それを圧延して厚さ0.3mm、10cm×15cmの短冊状の板を製作した。他に、メカニカルアロイ法によって、合金にする方法を適用しても良い。
電池B1と同じ条件で、電池B2についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.94Ahであり、容量維持率の平均値は94%であった。
電池B1の負極をLiシートに置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B3を5個、製作した。負極厚さは0.3mm、10cm×15cmの短冊状とした。電池B1と同じ条件で、電池B3についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.90Ahであり、容量維持率の平均値は90%であった。
電池B1の負極をニッケル板へのCa蒸着膜に置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B4を5個、製作した。電池B1と同じ条件で、電池B4についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.95Ahであり、容量維持率の平均値は95%であった。
電池B1の負極をTi-Mg合金に置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B5を5個、製作した。負極の合金組成は、Ti:Mg=1:1(原子数の比率)とし、厚さは0.3mm、10cm×15cmの短冊状とした。
電池B1と同じ条件で、電池B5についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.98Ahであり、容量維持率の平均値は98%であった。
電池B1の負極をAl-Mg合金に置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B6を5個、製作した。負極の合金組成は、Al:Mg=1:1(原子数の比率)とし、厚さは0.3mm、10cm×15cmの短冊状とした。電池B1と同じ条件で、電池B6についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.99Ahであり、容量維持率の平均値は99%であった。
電池B1の負極をSi-Mg合金に置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B7を5個、製作した。負極の合金組成は、Si:Mg=1:2(原子数の比率)とし、厚さは0.3mm、10cm×15cmの短冊状とした。電池B1と同じ条件で、電池B7についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.97Ahであり、容量維持率の平均値は97%であった。
電池B1の負極をAl-Sn合金に置き換えて、他の部品は同一仕様として、電池B8を5個、製作した。負極の合金組成は、Al:Sn=1:1(原子数の比率)とし、厚さは0.3mm、10cm×15cmの短冊状とした。電池B1と同じ条件で、電池B8についても定格容量1.0Ahを得た。さらに、電池B1の試験条件と同一の条件で20サイクルの充放電サイクル試験を行った。20サイクル経過後の容量は約0.97Ahであり、容量維持率の平均値は97%であった。上記試験結果である電池B1からB8の容量維持率を下記の表1に示す。
(実施例2)
実施例2では、水隔離膜230を正極207に接するように設けて、非水環境下でH+伝導体209を用いた非水系二次電池201を製作した。
水隔離膜230には、リン酸を添加した固体高分子膜を用い、無加湿の状態でH+が移動可能なものを用いた。H+導電体209は、ガラス繊維の不織布に、サリチル酸を電解質として溶解させた1−メチルー2−ピロリドン溶液を含浸させたものである。なお、サリチル酸の替わりに、トリフロロ酢酸、安息香酸などの他の有機酸を用いても良い。溶媒も、有機酸が溶解すれば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの他の非水溶媒に置き換えても良い。
正極207、負極208は実施例1と同一条件で製作した。ただし、水透過膜230が別に設けられているため、負極208表面へのパラジウム薄膜の加工は省略した。正極207、負極208、水隔離膜230、H+伝導体209からなる積層体を電池容器202に収納し、正極端子204と負極端子205を備えた蓋203と容器202とを溶接して、本実施例の非水系二次電池201を組み立てた。
正極端子204または負極端子205と蓋203の間には、絶縁性シール材料212を挿入し、電気的絶縁を保った。
容器202には、正極207に空気を供給、排出できるように、容器202の正極側に空気の供給口223と排出口224が設けられており、大気側に開放されている。
なお、供給口223から正極207へ供給される空気は、露点60℃に加湿した。前記ブロアと酸素供給口223の配管の途中にヒーター付きバブラを設置し、そのバブラに空気を通過させて、露点60℃になるように空気を加湿した。電池温度も60℃になるように、空調設備を用いて制御した。
空気の流量は、電気から計算される酸素消費量の5倍になるように、流量を設定した。この実施例では、負極208において、水素化物の反応(式(3c)を参照)の他に、マグネシウムの溶解析出反応(式(3a)を参照)が加わるため、空気の流量を増加させた。本実施例では、空気流量を実施例1の流量の1.2倍とした。
水隔離膜230は、正極207側に供給された酸素や水が負極208に到達しないように設置した。本実施例の場合は、負極208がH+伝導体209の電解液に接するので、水素化物の反応(式(3c)を参照)の他に、マグネシウムが溶解析出する反応(式(3a)を参照)が加わる。これを可能にするために、負極208表面へのパラジウム薄膜加工を省略した。
電池の初期エージングには、開回路の状態より2時間率に相当する電流(0.5A)にて充電を開始し、3.5Vに到達した後に、120分の定電圧充電を行った。その後30分の休止を経て、電池電圧が2.0Vに達するまで5Aの定電流放電を行い、30分の休止を設けた。この一連のサイクルを3回行って、初期エージングを終了した。最後のサイクルの放電容量を電池の定格容量1.2Ahを得た。本電池をB2とする。水隔離膜230の配置によって、負極209を構成する金属の溶解析出反応(式(3a)を参照)が関与することになり、電池201の容量が増加した。
負極208はマグネシウム合金としたが、Mg2+を吸蔵・放出可能なインタカレーション化合物に置き換えることは可能であり、反応式(3b)と(3c)によって電池の容量を増大させることができる。また、式(3b)と(3c)は、他の金属イオンの吸蔵・放出反応、例えばLi+、Na+などの1価のイオン、Ca2+、Fe2+などの2価のイオン、Fe3+、Al3+などの3価のイオンの吸蔵・放出反応に置き換えることは可能である。
その後、充電時と放電時の電流を0.5Aとしたまま、充電時の保持電圧を3.5Vとし、充電総時間を120分、放電終止電圧を2.0V、充電後と放電後の休止時間を30分として、20サイクルの充放電サイクル試験を行った。いずれの電池においても平均容量として0.9Ah以上の高い容量が得られた。
(実施例3)
実施例3では、H+伝導性を有する水隔離膜330を用いた非水系二次電池301を製作した。水隔離膜330は、実施例1と2で用いたH+伝導体と水隔離膜の両方の機能を兼ね備えたものである。H+伝導性と水隔離の両方の機能をもつ膜330は、CsHSO4を多孔質セラミックシートに含浸させたものである。電池温度を150℃以上に加熱することによってH+伝導性が得られる。
正極307、負極308は実施例1と同一条件で製作した。ただし、水透過膜230が別に設けられているため、負極208表面へのパラジウム薄膜の加工は省略した。正極307、負極308、H+伝導性を有する水隔離膜330からなる積層体を電池容器302に収納し、正極端子304と負極端子305を備えた蓋303と容器302とを溶接して、本実施例の非水系二次電池301を組み立てた。水隔離膜330は、正極207側に供給された酸素や水が負極208に到達しないように設置した。
正極端子304または負極端子305と蓋303の間には、絶縁性シール材料312を挿入し、電気的絶縁を保った。容器302の正極307側には、空気の供給口323と排出口324が設けられており、正極307側は大気に開放されている。なお、供給口323から正極307へ供給される空気は、露点90℃に加湿した。前記ブロアと酸素供給口323の配管の途中にヒーター付きバブラを設置し、そのバブラに空気を通過させて、露点90℃になるように空気を加湿した。
電池は、その側面を真空断熱材で覆い、電池温度も120〜150℃になるように保温した。空気の流量は、電気から計算される酸素消費量の1.1倍になるように、流量を減少させ、電池の熱が外部に逃げないようにした。
電池の初期エージングには、開回路の状態より2時間率に相当する電流(0.5A)にて充電を開始し、3.5Vに到達した後に、120分の定電圧充電を行った。その後30分の休止を経て、電池電圧が2.0Vに達するまで5Aの定電流放電を行い、30分の休止を設けた。この一連のサイクルを3回行って、初期エージングを終了した。最後のサイクルの放電容量を電池の定格容量1.0Ahを得た。
その後、充電時と放電時の電流を0.5Aとしたまま、充電時の保持電圧を3.5Vとし、充電総時間を120分、放電終止電圧を2.0V、充電後と放電後の休止時間を30分として、20サイクルの充放電サイクル試験を行った。いずれの電池においても平均容量として0.95Ah以上の高い容量が得られた。
(比較例1)
実施例1の構成から水隔離膜130を省略した電池を比較例1として製作した。水隔離膜130の必要性を確認するためである。電極107、108などの他の構成物は同一仕様とし、空気の供給条件、充放電条件なども実施例1と同一とした。
電池の初期エージングには、開回路の状態より2時間率に相当する電流(0.5A)にて充電を開始し、3.5Vに到達した後に、120分の定電圧充電を行った。その後30分の休止を経て、電池電圧が2.0Vに達するまで1Aの定電流放電を行い、30分の休止を設けた。この一連のサイクルを3回、実行して、初期エージングを終了した。最後のサイクルの放電容量は0.1〜0.3Ahであり、充放電効率も10〜30%以下に大幅に低下した。数値がばらついた理由は、H+伝導体109から透過する水分や酸素の量がふらついたためと推定される。
(実施例4)
図2の電池構成において、空気供給口223と空気排出口224および水隔離膜230を省略し、電池全体を密閉構造とした非水電解質電池を製作した。図4にその電池401の断面構造を示す。
本実施例の電池401は、電池容器402と蓋403が水隔離機能を有しているため、図2の水隔離膜230を省略することができる。その結果、電池容器402の内部には、非水環境下で使用可能なH+伝導体409を正極407と負極408の間に挿入した。
正極407は、二酸化マンガン(MnO2)とアセチレンブラック(AB)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる正極活物質層をアルミニウム集電体に形成させた電極である。重量比は、MnO2:AB:PVDF=85:7:8とした。アルミニウム箔の厚さは20μmである。放電時に電解液に溶解したMg2+が正極へ取り込まれ、充電時にはMg2+が電解液に放出される。電池反応は以下に示す反応(7a)(7b)(8)である。
負極の充電反応:M+H++e−→MH ・・・(7a)
Mg2++2e−→Mg ・・・(7b)
正極の充電反応:
MgMn2O4→2MnO2+Mg2++2e− ・・・(8)
H+導電体409は、ガラス繊維の不織布に、サリチル酸を電解質として溶解させた1−メチル−2−ピロリドン溶液を含浸させたものである。なお、サリチル酸の替わりに、トリフロロ酢酸、安息香酸などの他の有機酸を用いても良い。電解質が可溶となる溶媒であれば、アセトニトリル、ジメチルアセトアミドなどの他の非水溶媒に置き換えても良い。
負極408は実施例1と同一条件で製作したが、負極活物質は他のマグネシウム合金であっても良いし、純マグネシウムをそのまま用いても良い。さらに、表1に示したMg−Li合金を負極に用いることも可能である。
正極407、負極408、イオン伝導体409からなる積層体を電池容器402に収納し、正極端子404と負極端子405を備えた蓋403と容器402とを溶接して、本実施例の非水系二次電池401を組み立てた。
正極端子404または負極端子405と蓋403の間には、絶縁性シール材料412を挿入し、電気的絶縁を保った。
本実施例の場合は、負極408がイオン伝導体409の電解液に接するので、水素化物の反応(式(3c)を参照)の他に、マグネシウムが溶解析出する反応(式(3a)を参照)が加わる。正極407ではMg2+の吸蔵または放出の反応が進行する。
本実施例の電池の初期エージングには、開回路の状態より2時間率に相当する電流(0.5A)にて充電を開始し、3.5Vに到達した後に、120分の定電圧充電を行った。その後30分の休止を経て、電池電圧が1.5Vに達するまで5Aの定電流放電を行い、30分の休止を設けた。この一連のサイクルを3回行って、初期エージングを終了した。最後のサイクルの放電容量を電池の定格容量1.0Ahを得た。なお、負極409を構成する金属の溶解析出反応(式(3a)を参照)が関与するので、それが負極409の容量密度の増加に寄与する。
負極209はマグネシウム合金としたが、Mg2+を吸蔵・放出可能なインタカレーション化合物に置き換えることは可能であり、反応式(3b)と(3c)によって電池の容量を増大させることができる。
その後、充電時と放電時の電流を0.5Aとしたまま、充電時の保持電圧を3.5Vとし、充電総時間を120分、放電終止電圧を1.5V、充電後と放電後の休止時間を30分として、20サイクルの充放電サイクル試験を行った。いずれの電池においても平均容量として0.7Ah以上の高い容量が得られた。
本実施例で得られた電池容量は、正極活物質MnO2の使用量を増加させれば、大きくすることができるので、実施例2で得た電池容量よりも小さくなったことは本質的な問題ではない。
(実施例5)
実施例1の電池B1と同一仕様の角型電池を製作した。電池の定格容量は、2時間率放電条件にて1Ahであった。
図5は、2個の非水系二次電池501a、501bを直列に接続した本発明の電池システムを示す。本システムをS1とする。
各電池501a、501bは、正極507、負極508、H+伝導体509、水隔離膜530からなる同一仕様の積層体は、電池容器502に収納されている。その上部に溶接した電池蓋503は、正極外部端子504、負極外部端子505を有している。各外部端子と電池容器の間には絶縁シール部材512を挿入し、外部端子同士が短絡しないようにしている。
各電池の正極側には酸素の供給口523と排出口524が設けられ、外付けのブロアから供給口523へ酸素が供給される。なお、供給する酸素は純酸素(酸素濃度100%)としてボンベから供給しても良いが、本実施例では大気(空気)を用いた。
供給される空気は、露点60℃とした。前記ブロアと酸素供給口523の配管の途中にヒーター付きバブラを設置し、そのバブラに空気を通過させて、露点60℃になるように空気を加湿した。電池温度も60℃になるように、空調設備を用いて制御した。正極で酸素の授受が行われた後の排ガスは、酸素排出口524から排出される。空気の流量は、電気から計算される酸素消費量の5倍になるように、流量を設定した。
非水系二次電池501aの正極外部端子504は、電力ケーブル513により充電制御器516の正極入力ターミナルに接続されている。非水系二次電池501aの負極外部端子505は、電力ケーブル514を介して、非水系二次電池501bの正極外部端子504に連結されている。
非水系二次電池501bの負極外部端子505は、電力ケーブル515により充電制御器516の負極入力ターミナルに接続されている。このような配線構成によって、2個の非水系二次電池501a、501bを充電または放電させることができる。
充放電制御器516は、電力ケーブル517、518を介して、外部に設置した機器(以下では外部機器と称する。)519との間で電力の授受を行う。外部機器519は、充放電制御器516に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器、ならびに本システムが電力を供給するインバータ、コンバータおよび負荷が含まれている。外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータ等を設ければ良い。これらの機器類は、公知のものを任意に適用することができる。
また、再生可能エネルギーを生み出す機器として風力発電機の動作条件を模擬した発電装置522を設置し、電力ケーブル520、521を介して充放電制御器516に接続した。発電装置522が発電するときには、充放電制御器516が充電モードに移行し、外部機器519に給電するとともに、余剰電力を非水系二次電池502aと502bに充電する。また、風力発電機を模擬した発電量が外部機器519の要求電力よりも少ないときには、非水系二次電池502aと502bを放電させるように充放電制御器516が動作する。なお、発電装置522は他の発電装置、すなわち太陽電池、地熱発電装置、燃料電池、ガスタービン発電機などの任意の装置に置換することができる。充放電制御器516は上述の動作をするように自動運転可能なプログラムを記憶させておく。
非水系二次電池501a、501bを定格容量が得られる通常の充電を行う。例えば、2時間率の充電電流にて、一つの電池当たり3.5Vの定電圧充電を2時間、実行することができる。充電条件は、非水系二次電池の材料の種類、使用量などの設計で決まるので、電池の仕様ごとに最適な条件とする。
非水系二次電池501a、501bを充電した後には、充放電制御器516を放電モードに切り替えて、各電池を放電させる。通常は、一定の下限電圧に到達したときに放電を停止させる。
外部機器519は充電時に電力を本システムへ供給し、放電時に本システムが蓄えていた電力を消費させて、運転試験を実施した。本実施例では、1時間率放電まで実施し、2時間率放電時の容量に対して98%の高い容量を得た。
(実施例6)
実施例1の電池B6と同一仕様の正極607、負極608、H+導電体と水隔離膜を一体化した複合膜630を複数個、積層した直列セル(以下ではセルスタックと記す。)を組み立てた。そのセルスタックの断面構造を図6に、空気の流路を有する空気流路板631の構造を図7に示した。
各セルは負極608、複合膜630、正極607、空気流路板631、ガスケット632から構成される。空気流路板の流路を有しない平板(図6では右側の面)は隣接セルの負極608が接触しているので、隣接セル間に直流電流を流すことができる。セルを直列に積層したセル群は、その両端に正極集電体604と負極集電体605に配しているので、それぞれの集電体から電力を授受される。すなわち、全セルを等しい電流で充電または放電させることができる。
さらにそのセル群の外側には絶縁板633を挿入し、さらにその外側に端板634を設けている。絶縁板633は、正極集電体604と負極集電体605が端板634とボルト636を介して短絡することを防止するために用いられている。端板634が絶縁性材料で製作されていれば、絶縁板633を省略しても良い。
端板634にはボルト636を貫通させ、ナット638と皿ばね637を用いて、端板634を締め付けることができる。このようにしてガスケット632に適度な圧縮圧力を印加することができるため、空気がセルから漏れ出たり、あるいは空気や水が負極608に接触することを防止することが可能となる。
正極集電体604と負極集電体605にケーブル615を接続し、充放電制御回路616にて充放電を制御する。さらに、充放電制御回路616は、ケーブル617を介して、外部負荷619に電力を供給する機能を有する。外部負荷619を発電機や電力系統に置き換えると、セルスタックを充電することも可能である。
次に、各セルに均等な流量で空気を流すための空気流路板631について、説明する。その詳細な構造は図7に示されている。供給された空気は、図7の空気流路板731のマニホールド741から供給され、凸状のリブ743にて均等に分配された後に、凸状のリブ745で分割された流路744に沿って流れる。この時に、リブ745が接する正極(図6の607)に酸素や水を供給または取り込んで、電気化学反応が進行する。
最後に、反応後の排ガスは、凸状リブ743を経て、マニホールド742から排出される。
リブの幅は0.3〜5mm、溝幅は0.3〜20mm、溝深さは0.3〜20mmの範囲に設定することができる。特に、リブ幅を1〜2mm、溝幅を1〜5mm、深さ0.5〜5mmにすると、正極が均等な圧力で保持され、電気抵抗が小さくなり、好適である。また、流路745に水が詰まって、空気の流れを阻害しないようにするためにも、溝幅と溝深さは5mm以下にして、適度なガス線速を確保することが望ましい。
図7のマニホールド741と742は、各セルの積層方向(図6において水平方向に同じ。)に同一直線状に並んでいる。そのため、図6のセルスタックの内部に空気が流れる通路が形成されている。図6に再び戻って説明すると、空気流路板631を貫通する2つのマニホールドは、集電体604、605と絶縁板633に設けた貫通孔に連絡されている。さらにその貫通孔の末端には、端板634の内部で屈曲した通路に導かれ、端板に取り付けられている空気供給口623のコネクタと空気排出口624のコネクタに連絡されている。このようにして、空気は各セルに均等に供給される。
空気流路板631に隣接する正極607と負極608の間にはガスケット632が挿入され、空気が電池の外に漏れないようにした。また、集電板604、605と絶縁板633に設けた貫通孔の周囲にはOリング溝を形成し、Oリングをそれにはめ込んだ。この方法によって、集電板604、605と空気流路板631の間、集電板604、605と絶縁板633の間、絶縁板633と端板634の間から空気が漏れないようにした。
セルの直列数は9個とした。充放電条件は、実施例1の電池B6にて適用した試験条件が、図6の各セルに均等に適用されるように設定した。本セルスタックの定格容量は2時間率放電条件にて1Ahであり、作動電圧は13.5〜31.5Vであった。
図6のセルスタックを図5の電池501a、501bに置き換えることによって、高容量なシステムを提供することができる。
なお、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれており、本発明の要旨を変更しない範囲で、具体的な構成材料、部品などを変更しても良い。
例えば、上記した実施例は、本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
そして、本発明の構成要素を含んでいれば、公知の技術を追加し、あるいは公知の技術で置き換えることも可能であり、発電装置は、太陽光、地熱、波動エネルギーなどの任意の再生可能なエネルギー発電システムに置き換えることができる。
また、外部機器519は電気モータなどの駆動装置に置き換えると、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、運搬機器、建設機械、介護機器、軽車両、電動工具、ゲーム機、映像機、テレビ、掃除機、ロボット、携帯端末情報機器、宇宙探査機などに利用することも可能である。また、太陽光、風力、波力、地熱などの自然エネルギーの発電施設や燃料電池発電システムなどに隣接される蓄電装置、あるいは宇宙ステーションの電源としても利用可能である。