JP5684553B2 - 架線金具類の劣化予測マッピング装置及び劣化予測マッピング方法 - Google Patents
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Description
また、架線金具類の摩耗速度予測には各種影響因子(荷重径間、速度比等)を考慮した重回帰分析が適用される。重回帰分析とは、予測したい事象(目的変数と呼ぶ)とそれに影響を及ぼす因子群(説明変数と呼ぶ)との間に式を当て嵌めることにより、予測式を構築する手法である。しかし、重回帰分析では説明変数の線形結合から成る式を当て嵌める、すなわち目的変数と説明変数間に線形の関係が成り立つことが前提とされており、摩耗現象が持つ特異性からその精度向上が図れないといった問題がある。
また、架線金具類の摩耗現象は、その設備(荷重径間、高低差等)の影響が大きいため、摩耗量調査結果から得られた摩耗速度予測式は、当該地点の予測値のみを与えるため、その分布に偏りが出るといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、説明変数間の相互作用の加味、最適な説明変数(それらの相互作用も含む)の選択、クラスタリングによる解析領域の細分化により、架線金具類の腐食速度並びに摩耗速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる劣化予測マッピング装置、及び劣化予測マッピング方法を提供することを目的とする。
本発明により、腐食速度および摩耗速度に影響を及ぼすと思われる事象のデータ群から必要なものを選別し、予測式を構築することが出来る。また構築した予測式から腐食速度および摩耗速度を予測し、その結果をマップ化することが出来る。
本発明は請求項1と同様の作用効果を奏する。
一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。上述の理由から、目的変数との単相関係数および説明変数同士の単相関係数から説明変数の選別を以下の手順で行う。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択をおこなう。即ち、単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する。
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける。
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする。
これにより、予測精度を高めつつ、マルチコを避けることができる。
汚損区分データとは腐食の主要因の一つであると考えられている塩分による汚損の度合いを示すものであり、想定最大塩分付着密度(mg/cm2)を複数段階で評価したものである。また、汚損区分は概ね海岸線に並行するような形で分布しており、使用可能なデータは沿岸部に海岸線に沿うように位置する鉄塔を多く含んでいる。そのため重回帰分析において鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を反映することが出来ず、汚損区分データを十分に活用できないことが想像される。そこで、汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。これにより、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
相乗効果を及ぼす因子の数(積算する前記説明変数の項数)についても、同様にStep−wise法を用いて決定する。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求める。これにより、各説明変数間の相互作用による相乗効果も反映した予測式が構築ができる。
一般に架線金具類の腐食現象は、その領域特有の環境影響(気温、湿度、ぬれ時間等)を受けるため、その予測精度向上には解析領域の細分化(地域別・線路別等)が不可欠となる。しかし、膨大な腐食量調査が必要となることから現実的ではない。そこで必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行う。これにより、解析領域の予測精度を向上させることができる。
分割数を決め、クラスタリングを行い、クラスタ毎に予測式を構築する。次に各クラスタの予測式をトータルで評価し、その分割数での予測式の評価とする。これを分割数を増やしながら評価し、評価が極大となる分割数を求める。これにより、最適な領域分割数を求めることができる。
これにより任意地点が前記クラスタリング結果基づいて構築した予測式の内、最適なものを選択し予測・マッピング化することができる。
さらに各因子の相互作用の考慮、領域分割および領域毎の予測式構築により、腐食現象が持つ特異性にも柔軟に対応できる。また領域分割の際には、予測式の精度評価を基準に最適な分割数も求めるため領域分割に係る事前検討も不要となる。
これらにより、ユーザは予測したい現象および影響を及ぼすと思われる因子群を入力するだけで、1)予測に有用な因子の選別、2)予測に適した領域の分割、3)領域毎の予測式の構築が行える。
また、離散値データ(汚損区分など)は境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度(=想定最大塩分付着密度)に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とするので、鉄塔の立地位置の汚損区分の微妙な変化を重回帰分析に反映することができる。
また、順次説明変数として検討する積の項の次数を上げてモデルを構築し、評価が上がらなくなる次数を求めたので、各説明変数間の相互作用による相乗効果を予測式に反映することができる。
また、必要最小限のデータから最大の効果を発揮するよう、各種クラスタリングの検討による領域最適化を行うので、解析領域の予測精度を向上させることができる。
これにより対象領域に応じた領域分割による最適な予測式の構築が出来る。
また、本発明で求めた腐食速度予測式に基づく、腐食速度予測マップを生成するので、鉄塔の腐食速度の予測を、効率的に、且つ精度良く実施することができる。
一般に、架線金具類の腐食速度予測には、各種影響因子(ぬれ時間、硫黄酸化物濃度等)を考慮した重回帰分析が適用される。しかし、目的変数と説明変数間の線形性を前提とする重回帰分析では、腐食現象が持つ特異性からその精度向上が図れない結果も得られている。このため、本発明では非線形分析手法を適用し、相互作用も加味することで精度の高い予測式を構築する。
汚損区分データは6段階の離散値であるが、現実の状況を考えると汚損度(=想定最大塩分付着密度)が離散的に変化するのは不自然である。そこで汚損区分の境界線を等高線に見立て、各区分内の汚損度に傾斜をつけることでより現実に近い連続値とすることを試みた。
モデルの基本的な求め方は最小二乗法であり、目的変数の観測値と推定値の誤差の二乗平均が最小となるモデルの各係数を求めるものである。求められたモデルは、決定係数により評価される。決定係数とは説明変数が目的変数をどの程度説明できるかを示すものであり、構築したモデルのデータに対する当てはまりの良さを表す。決定係数は1.0に近いほどその当てはまりが良いことを表す。図3(a)は最小二乗法を示す図、(b)は決定概念を示す図である。
決定係数の一般的な定義は以下の通りである。
そこで正規分布から大きく外れていると思われるデータをはずれ値として除去し、除去後のデータを以降の検討のインプットとした。具体的には、95%の信頼区間の外にあるものをはずれ値とみなし、除去した。
はずれ値除去前後の目的変数のヒストグラムを図4に示す。図4(a)は、はずれ値除去前、図4(b)は、はずれ値除去後を示す。
今回架線金具類の腐食速度の予測に際し使用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、気温、湿度(2種)、降水量、ぬれ時間(6種)、速度比(3種)、吹上角(3種)、二酸化硫黄濃度、汚損区分の環境因子18種および経過年の合計21種である。一般に説明変数を多く用いるほどモデルの当てはまり度は高くなるが、必ずしも全ての説明変数候補を利用することが良いわけではない。従って重回帰分析に利用する説明変数の組み合わせを検討する必要がある。また分析結果に悪影響を及ぼす多重共線性(通称マルチコと呼ばれる)を避ける必要がある。マルチコは非常に高い相関関係にある説明変数を用いることに起因するものであり、マルチコを避ける意味でも説明変数の選別は重要である。
1.目的変数および説明変数候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出する。
2.単相関係数の絶対値が0.9より大きい説明変数候補の取捨選択
単相関係数の絶対値が小さい方を説明変数候補から削除する
3.目的変数との単相関係数の絶対値の降順に説明変数を順位付ける
4.残った説明変数候補のうち3.の順位付けの上位5つを説明変数とする
重回帰分析の限界を把握する上で、上記手順にて選別した5つの説明変数の組み合わせの最適性を検証する必要がある。これについては後述する。
前記で選別した説明変数を用いて重回帰分析を実施した結果を図6に示す。目的変数である腐食速度は、上記選択された説明変数(標高、相対湿度、ぬれ時間6、吹上角.西風、経過年数)の線形和で説明されることとなり、偏回帰係数が線形和の各項の重みを表す。したがって、架線金具類の腐食速度は以下の式で説明される。
また重回帰分析時に求まるこの式の決定係数は0.708となった。
上記の結果は、上記で選択した説明変数のみでモデルを構築した結果である。目的変数との相関係数が比較的高いもの上位5つを選択することとしたが、本手法による選択が最善であることは証明できない。また今回使用可能なデータの種類が多いことからも、上記説明変数が最適なものであるかを検証する必要がある。
予測式構築に用いる説明変数の選択については、Step−Wise法により、最適な予測式の構築に用いる説明変数の選択を行う仕組みを備えている。従って、劣化に影響を及ぼすと思しき新たな因子が出てきた場合、入力に追加し実行するだけで予測に有用な因子かどうかの判断ができる。さらに各説明変数の相互作用を考慮に入れた。これは例えば環境因子と汚損度や時間が腐食現象に対し相乗効果を及ぼす可能性を想定してのことである。重回帰分析において、相互作用は説明変数の積として表現される。また今回何項の積まで検討した方が良いかについても、同様にStep−wise法を用いて検討した。具体的には、2項の積までを説明変数とした場合、3項の積までを説明変数とした場合と順次説明変数として検討する積の項の次数を上げモデルを構築、評価が上がらなくなる次数を求めた。
除かれた説明変数:なし
追加された説明変数:降水量、二酸化硫黄濃度
モデルの決定係数の向上:0.708→0.747
本データは塩分に関するデータであり、塩分は汚損の主要因でもあるため、意味するものが汚損区分データと重複する恐れがある。そこで汚損区分との相関にも配慮しつつ、重回帰分析の説明変数として扱うべきか否かの判断を行う。図10に汚損区分および腐食速度と塩分に係る因子1〜3との単相関係数を示す。
図10から分かる通り、塩分に係る因子1と2は汚損区分と比較的相関がある。しかし単相関係数は0.6〜0.8程度であり、同時に説明変数として扱っても問題ないと思われる。一方、塩分に係る因子1〜3のそれぞれの相関を見ると、塩分に係る因子1と塩分に係る因子3の単相関係数が0.9を超えている。したがってマルチコを生じる恐れがあるため、腐食速度との相関がより高い塩分に係る因子1を採用することとする。
また各データとも腐食速度との単相関係数は低く、より良いモデルの構築への貢献はあまり期待できない。塩分に係る因子1〜3のデータの有効性は、構築したモデルに含まれるか否かで判断することとする。
1.塩分に係る因子1〜3も説明変数として用いる。
2.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
3.説明変数間の相互作用も検討する。
ハードクラスタリングにより分類された各クラスタのサンプル数を以下に示す。ハードクラスタリングについても、分類クラスタの最適な数も併せて検証するため、分類クラスタ数2、3、4について検証した。
[分類クラスタ数:2]
クラスタ1:50件
クラスタ2:186件
[分類クラスタ数:3]
クラスタ1:19件
クラスタ2:166件
クラスタ3:51件
[分類クラスタ数:4]
クラスタ1:50件
クラスタ2:19件
クラスタ3:95件
クラスタ4:72件
各種クラスタリングおよび自己組織化マップによる領域最適化について検討した。各手法による領域最適化後、重回帰分析により作成したモデルの決定係数を図15に示す。
クラスタリングを実施しない(1クラスタ)、2クラスタに分類、3クラスタに分類…と試行していき、全体的に決定係数の向上が見られなくなったところで、試行をやめ、最適なクラスタ数を求める方法を採用した。従って、この方法に従うことで、収集したデータ(もしくは対象とする地域)に適したクラスタ数を求めることができる。
クラスタリングを実施しない場合、標高に強く影響を受けたマップとなった。その結果、内陸部の標高が高い箇所にAの領域(腐食速度が0.0に近い)が広がっている。腐食の主要因が塩分に係る因子であるとしても、内陸部で全く腐食が進まないというのは不自然である。一方クラスタリングを施す場合、海岸からの距離が近い領域では比較的腐食速度が速く、海岸距離が大きい領域では腐食速度がなだらかに変化するマップとなっている。さらに河川等の影響があると思われる領域では、海岸距離が同程度の他の領域よりも腐食速度が速くなっている。これらのことから、クラスタリングを施したマップの方が局所的な特徴を捉えつつ大局的にも整合性の取れたマップとなっていると判断でき、領域最適化(ハードクラスタリング)の有効性が確認できた。
今回摩耗速度予測に使用するデータは、摩耗量調査データであり超高圧系と標準系の2種類である。図19に摩耗量調査データ(=腐食速度)のヒストグラムを示す。グラフが双峰となっており、値が大きい方の山が超高圧系、小さいほうが標準系という分布になっていた。そこで超高圧系と標準系は異なるデータとして扱うこととした。
腐食速度予測の場合と同様に、95%信頼区間外のデータをはずれ値として除去することとした。また超高圧系のデータは非常に数が少ないため、はずれ値の除去は行わないこととした。
今回架線金具類の摩耗速度の予測に際し利用できるデータ(説明変数候補)は、標高、海岸距離の地形因子2種、連続係数(3種)、径間長(2種)、荷重径間、前後径間長差、前後径間長比、支持点高低差、tanδ(3種)、地線/下腕金地上高、地線/下腕金標高、重量荷重径間、連続係数荷重径間、連続係数径間平均、電線サイズ(2種)、電線重量(3種)の鉄塔諸元(22種)、速度比(3種)、吹上角(3種)の環境因子6種および経過年数の合計31種である。
架線金具類の摩耗速度予測について、重回帰分析およびその他の非線形手法の適用を検討した。検討の結果、重回帰分析が最適であると判断した。また重回帰分析の実施方針は以下のものが最適であると判断した。
1.超高圧系と標準系それぞれのモデルを構築する。
2.塩分に係る因子も説明変数として用いる。
3.Step−wise法を用いて最適な説明変数の組み合わせを求める。
4.説明変数間の相互作用も検討する。
これまでの検討で、架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。また後述するが、摩耗速度予測結果の点面展開には限られた点の予測値を空間的に展開していく補完法等の手法は用いず、重回帰分析の説明変数に制限を設けることで鉄塔所在地以外でも予測可能なモデルの構築を行う。よってマッピングに資する影響因子とは、モデルの説明変数である。
架線金具類の摩耗現象はその設備の影響が大きい。しかし一方で設備の所在地は限られており、その分布には偏りがある。
点面展開の方法として補完法があるが、この手法ではサンプル点(本件では摩耗速度予測が可能な地点すなわち設備所在地を意味する)が面展開したい領域に均等に分布していることを前提としている。サンプル点の分布に偏りがある場合でも補完法のよる点面展開は可能であるが、補完法の基本的な考え方「近傍のサンプル点との距離による加重平均」では、精度良い点面展開ができない。
以下に鉄塔諸元データ以外のデータについて実施した、分類数が2〜4のハードクラスタリングによる領域最適化の検討結果を述べる。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図23に各検討した手法の決定係数を示す。図24(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(超高圧系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
検討の結果、ハードクラスタリングにより3クラスタに分類した場合が最良であった。図26に各検討した手法の決定係数を示す。図27(a)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ1)を示す図、(b)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:2分類、クラスタ2)を示す図、(c)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ1)を示す図、(d)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ2)を示す図、(e)は鉄塔諸元データを用いない摩耗速度予測モデルの重回帰分析結果(標準系:3分類、クラスタ3)を示す図である。
マッピングに資する影響因子、効果的な点面展開手法およびハードクラスタリングによる領域最適化について検討した。超高圧系、標準系とも鉄塔諸元以外のデータを用いた重回帰分析を効果的な点面展開手法の代替案として採用することとした。したがってマッピングに資する影響因子は、摩耗速度予測マップの作成に使用される因子、すなわち重回帰分析により構築されたモデルに含まれる説明変数となる。
全クラスタの決定係数の平均をその手法の決定係数として評価すると、ハードクラスタリングにより3クラスタに領域分割する方法が最良であった。そこで当該手法で作成したモデルに従い、秋田県、新潟県の腐食速度予測マップを作成した。予測地点は気象データと同様の1km間隔の点とし、各予測値点の所属クラスタは重心が最も近いクラスタとした。
標準系のマップについては、クラスタリングを実施しない方が、粗が目立たない結果となった。しかし海岸距離に強く影響を受けている形となっており、その他の要因等の局所的な影響は無視されているようにも見える。したがって超高圧系と同様に実測データとの比較による検証や十分なデータからのモデル構築を実施することが望まれる。
全体的に見て腐食速度に比べ、負の予測値や局所的に急峻な変化等が見られ粗が目立つマップとなった。これは今回使用できる金具のデータ数が非常に少ないこと、また使用可能なデータの中に秋田・新潟県内の鉄塔がほとんど含まれていなかったことが原因と思われる。しかし現実には限られたデータからの予測の必要がある。そこで既設の鉄塔に限定されるが、鉄塔諸元を用いた予測式(図22参照)から鉄塔単位で摩耗速度を予測することを試行した。
1.架線金具類の腐食速度予測に関する検討
a.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、Step−wise法および相互作用の検討が有用であることが確認された。
b.塩分に係る因子の追加による精度向上検討
新たに入手可能となった影響因子(塩分に係る因子)の追加検討による精度向上について検討した。既に使用している汚損区分データとの重複(汚損区分との高い相関)が懸念されたが、同時に説明変数として扱っても問題ない程度の相関であった。また腐食速度との相関も他の説明変数候補に比較しやや高く、精度向上に貢献できることが確認できた。
以上のことから、鉄塔の腐食速度予測手法として以下の方針が最適であると判断した。 ・Step−wise法による重回帰分析を採用する
・説明変数の相互作用(積の項)も検討する
・塩分に係る因子も説明変数として考慮する
c.ハードクラスタリングによる領域最適化
ハードクラスタリングについても、ファジークラスタリング同様、最適分類数の検討まで行った。同様に2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがってハードクラスタリングの場合、最適分類数は3であると判断した。また決定係数も本研究で実施した全ての手法の中で最良であった。
以上のことから、領域最適化の手法として以下のものが最適であると判断した。またその結果構築したモデルに従い、秋田県および新潟県の腐食速度予測マップを作成した。
・ハードクラスタリングによる3クラスタへの分類
d.重回帰分析の精度向上(影響因子最適化等)とその限界把握
目的変数である摩耗速度の分布から、超高圧系と標準系は分けて扱うこととした。したがってそれぞれでモデルを構築する。単相関係数を参考にした説明変数の選択からStep−wise法による説明変数の最適組み合わせの探索を行った。また説明変数の積として表現される相互作用も加味した検討を行った。
検討の結果、超高圧系、標準系ともStep−wise法および相互作用の検討が有効であることが確認された。
e.マッピングに資する影響因子の検討
架線金具類の摩耗速度予測には重回帰分析が適していることが分かった。点面展開手法の代替手法として、鉄塔諸元以外のデータから重回帰分析により構築したモデルによる予測を採用することとした。これは予測したい領域に比べデータ数が非常に少なくまた偏りがあることから、点面展開では対応しきれないと判断したためである。鉄塔諸元を使用しない場合、鉄塔の所在に関わらず予測が可能となるため、モデルから直接(点面展開等の処理を行わず)マッピングが可能となる。したがってマッピングに資する影響因子とは、マッピングに使用する因子、すなわち当該モデルの説明変数である。
f.効果的な点面展開手法の検討
使用可能なデータは既設の鉄塔に関するものであるが故、その分布に非常に偏りがある。そのため、鉄塔諸元以外のデータから予測可能なモデルの構築を検討した。検討の結果、当該モデルでも問題ないことが確認された。
g.ハードクラスタリングによる領域最適化
摩耗速度についても、腐食速度同様、最適分類数の検討まで行った。2〜4まで分類数を変えモデルを構築した結果、分類数3の場合が決定係数が最大となった。したがって、最適分類数は3であると判断した。
まず、3クラスに分類したハードクラスタリングを行う(S10)。クラスタ毎に説明変数を選別するために、目的変数との相関上位5つを選別する(S11)。そのとき、説明変数同士の相関が高いものは、目的変数との相関が一番高いもの1つを残しその他は削除する。次に、選別された説明変数によるモデルを構築する。このとき各クラス毎にモデルを構築する(S12)。次に、各モデルをStep−wise法により更新する(S13)。次に予測地点の所属クラスタを決定する。このとき、各クラスタの重心からの距離により決定する(S14)。次に所属クラスタのモデルに従って予測する(S15)。そして、その予測値をGIS(Geographic Information System:文字や数値データ等を地図と結び付けて管理・分析・表示するシステム)に載せてマッピング化する(S16)。
Claims (8)
- 重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置であって、
前記重回帰分析手段は、
前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力する説明変数入力手段と、
該説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と摩耗速度との関係式を構築する関係式構築手段と、
前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する選択変数関係式選択手段と、
前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択する非選択変数関係式選択手段と、
前記選択変数関係式選択手段で選択された関係式及び前記非選択変数関係式選択手段で選択された関係式のうち評価が高い関係式を選択する関係式選択手段と、
前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証する関係式検証手段と、を備え、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング装置。 - 説明変数入力手段、関係式構築手段、選択変数関係式選択手段、非選択変数関係式選択手段、関係式選択手段、及び関係式検証手段を備え、重回帰分析手段により複数の鉄塔の架線金具類に係る腐食速度及び摩耗速度を夫々予測し、該予測の結果をマッピング化して表示する架線金具類の劣化予測マッピング装置の劣化予測マッピング方法であって、
前記説明変数入力手段が、前記架線金具類の腐食速度又は摩耗速度である目的変数に影響を与える変数である説明変数を入力するステップと、
前記関係式構築手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数と前記腐食速度、及び該説明変数と前記摩耗速度との関係式を構築するステップと、
前記選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力された説明変数から何れか1つの説明変数を除いて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記非選択変数関係式選択手段が、前記説明変数入力手段により入力されていない説明変数のうち何れか1つの説明変数を加えて構築した関係式の中で評価が最良なものを選択するステップと、
前記関係式選択手段が、前記選択変数関係式選択手段で選択された関係式及び前記非選択変数関係式選択手段で選択された関係式のうち評価が高い関係式を選択するステップと、
前記関係式検証手段が、前記関係式選択手段により選択された関係式と前記関係式構築手段により構築された関係式のうち何れの評価が高いかを検証するステップから成り、
前記関係式検証手段で、前記関係式構築手段により構築された関係式より前記関係式選択手段により選択された関係式の方が評価が高いと検証された場合は、該関係式で選択した説明変数により再試行を行うことを特徴とする架線金具類の劣化予測マッピング方法。 - 前記説明変数入力手段により入力する説明変数を選別する手順は、前記目的変数及び前記説明変数の候補の全ての組み合わせの単相関係数を算出し、該単相関係数の絶対値が小さい方を前記説明変数候補から削除し、前記目的変数との単相関係数の絶対値の降順に前記説明変数を順位付け、残った前記説明変数候補のうち前記順位付けにより順位付けされた上位の所定数を説明変数とすることを特徴とする請求項2に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
- 前記説明変数入力手段は、腐食の主要因の1つである塩分による汚損度を段階的に示す汚損区分データを前記説明変数に含ませ、該汚損区分の境界線を等高線と見做し、各汚損区分内の各位置の汚損度を、各等高線間の汚損度の差と各等高線間の距離とに基づく各等高線間の傾斜面上の対応点の値として扱うことを特徴とする請求項2又は3に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
- 前記重回帰分析において、前記環境因子と前記汚損度及び時間が腐食現象に対して相乗効果を及ぼす相互作用は、前記説明変数の積として表現することを特徴とする請求項4に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
- 前記架線金具類の腐食現象が、該架線金具類が配置された領域に特有の環境影響を受けるため、該領域をいくつかの部分集合に分類するクラスタリングにより前記領域の最適化を行うことを特徴とする請求項2乃至5の何れか一項に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
- 前記クラスタリングにおいて、クラスタ数を変えながら関係式の構築・評価を行うことで最適な領域分割数を求めることを特徴とする請求項6に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
- 前記予測の結果をマッピング化する手順は、前記クラスタリングにより前記領域を最適な数の部分集合に分類し、該部分集合ごとに前記説明変数を選別して該説明変数による関係式を構築し、構築した各関係式を前記重回帰分析により更新し、予測地点の部分集合を決定し、決定した部分集合の関係式に従って予測し、予測した値に基づいて表示部にマッピングすることを特徴とする請求項6又は7に記載の架線金具類の劣化予測マッピング方法。
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