ターボ符号やLDPC(Low Density Parity Check:低密度パリティ検査)符号を受信側で復号する処理を行う場合、復号器への入力である軟判定情報としてLLR(Log-Likelihood Ratio:対数尤度比)が用いられる。このLLRは、受信側のデマッピング処理により受信信号から導出する値であり、送信信号が0なのか1なのかを確率的に表した事前確率である。同相成分及び直交成分をそれぞれ直交する軸にとった複素平面を考えたときに、コンスタレーションを示す複素平面上において、受信信号点の位置を複素数y=(yI,yQ)で表わす。yIが実数成分(同相成分)であり、yQが虚数成分(直交成分)である。また着目ビットbiの値が0である複数のシンボル点のうち、受信信号点yに距離が最も近い点を複素数
で表わす。以降、この点のことを、便宜上、値0の最近点と呼ぶ。更に、着目ビットb
iの値が1である複数のシンボル点のうち、受信信号点yに最も距離が近い点を複素数
で表わす。以降、この点のことを、便宜上、値1の最近点と呼ぶ。このとき、受信信号の着目ビットb
iについてのLLRをL(b
i)とすると、L(b
i)は、
で表わされる。即ち、所定の分散を有するガウス分布である確率密度関数により尤度が定まると考え、値0の尤度と値1の尤度との比をとり、更にその比の対数をとることにより、LLRが求められる。
図1は、128QAM(quadrature amplitude modulation)変調のコンスタレーションの一例を示す図である。着目ビットをb1とした場合、複素平面上の点2として示す受信信号点yに対する値1の最近点は、シンボル点“1100000”である。また受信信号点yに対する値0の最近点は、シンボル点“0101000”である。この値1の最近点の座標は(−A,7A)であり、値0の最近点の座標は(3A,7A)である。これらの座標値を上記のLLRの計算式(L(bi)の式)に代入すると、
が得られる。即ち、y
Iの値のみを変数とする計算式により、図1に示す受信信号点yのLLRを計算できることになる。
図1のコンスタレーションを示す複素平面上において、受信信号点yの位置が上記の点2に示す位置から少し移動しても、値0の最近点及び値1の最近点が変わらなければ、上記のL(1)の計算式をそのまま用いることができる。しかしながら、受信信号点yの位置が大きく移動して、値0の最近点及び値1の最近点が変わってしまうと、上記のL(1)の計算式をそのまま用いることはできない可能性がある。即ち、値1の最近点の座標と値0の最近点の座標とが、上記の(−A,7A)及び(3A,7A)から変わってしまい、新たな座標値を上記のL(bi)の式に代入して得られる式は、上記のL(1)の計算式とは異なってしまう可能性がある。
上記の説明から分かるように、シンボル点のコンスタレーションを示す複素平面上においては、受信信号点の位置に応じて、LLRの計算式が異なってくる。但し、複素平面上のある領域内で受信信号点の位置が動いても値0の最近点及び値1の最近点が変わらなければ、その領域内ではLLRの計算式が同一となる。また複素平面上のある領域内で受信信号点の位置が動いても、値0の最近点と値1の最近点との間の相対的な位置関係が変わらなければ、その領域内ではLLRの計算式が同一となる。これは、上記のLLRの計算式において、値0の最近点の座標と値1の最近点の座標との差分のみが現れるからである。また更には、ある領域と実数軸又は虚数軸に対して線対称な位置にある領域においても、符号の違いを適宜計算に反映させれば、LLRの計算式は同一となる。このようにして、コンスタレーションを示す複素平面は、各領域の内部においてLLRの計算式が同一となるような、複数の領域に分割されることになる。
図2乃至図8は、図1に示す128QAM(quadrature amplitude modulation)変調のシンボル点配置における領域分割パターンを示す図である。図2乃至図8の領域分割パターンは、それぞれ第1ビット(最上位ビット)乃至第7ビット(最下位ビット)の領域分割パターンである。各図において、128個のシンボル点の各々について、そのビット値が各シンボル点の直ぐ上に示されている。また各領域に順番に領域番号を付け、その領域番号を下線を付して示してある。128個のシンボル点への0及び1のビット値の割り当てが、第1ビット乃至第7ビットのそれぞれで異なるために、領域分割パターンはビット毎に異なるものとなる。例えば図4に示す第3ビットに対する領域分割パターンは、全体で21個の領域に分割され、更には各領域が複雑に入り込んだパターンとなっている。また例えば図7に示す第6ビットに対する領域分割パターンは、全体で10個の領域に分割され、更には各領域が複雑に入り込んだパターンとなっている。それに対し、例えば図3に示す第2ビットに対する領域分割パターンは、全体で10個の領域に分割されているが、各領域が比較的単純に整然と分割されたパターンとなっている。
ある受信信号点に対してLLRを計算する場合、その受信信号点が属する複素平面上の領域を決定し、その領域に対応するLLRの計算式を用いる。このように受信信号点が属する複素平面上の領域を決定するためには、その受信信号点の位置と領域間の境界位置との比較を行い、境界の内部にあるのか外部にあるのかを判定する。
図9乃至図15は、図2乃至図8に示す各領域についての領域条件式及びLLR計算式を示す表である。例えば、図9には、図2に示す第1ビットの全領域(領域番号1乃至9)について、領域条件式及びLLR計算式が示される。図9において、受信信号点が例えば0≦|yI|<2Aの領域条件式を満たすならば領域1に属することになり、その場合のLLR演算式は前述のL(1)の計算式となる。また例えば図11A及び図11Bには、図4に示す第3ビットの全領域(領域番号1乃至21)について、領域条件式及びLLR計算式が示される。第3ビットに対しては、領域数が多いだけでなく、領域条件式も複雑になっていることが分かる。
このようにシンボル点の配置によっては、領域数が多数になると共に各領域が複雑に入り込んだパターンとなり、領域間の境界が多数の境界辺が連なった複雑な形状となる。このように領域数が多数になったり、領域間の境界が多数の境界辺が連なった複雑な形状となったりすると、比較判定動作を数多く実行することになってしまう。数多くの比較判定動作を実行すると言うことは、領域判定処理をハードウェア化したときに、加算器や比較器の数が多いことになり、回路規模が増大してしまう。
以下に、本発明の実施例を添付の図面を用いて詳細に説明する。
図16は、通信システムの構成の一例を示す図である。図16に示す通信システムは、送信装置10及び受信装置20を含む。送信装置10は、送信データを符号化及び変調して送信信号を生成し、送信信号を出力する。送信信号は、有線又は無線の通信路15を介して受信装置20により受信される。受信装置20は、受信データを復調及び復号化して復号データを生成する。
送信装置10は、符号化部11、マッピング部12、変調部13、及びD/A変換部14を含む。符号化部11は、送信データに対してターボ符号化やLDPC符号化等を行なうことにより、符号化データを生成する。マッピング部12は、符号化部11から供給される符号化データを128QAM等のシンボル点(信号点)に割り当てることにより、キャリア変調を行なう。変調部13は、マッピング部12によりキャリア変調されたデータに対してOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調等を施すことにより、変調信号を生成する。D/A変換部14は、変調信号をデジタルからアナログに変換して、送信信号を生成する。
なお図16及び以降の同様の図において、各ボックスで示される各機能ブロックと他の機能ブロックとの境界は、基本的には機能的な境界を示すものであり、物理的な位置の分離、電気的な信号の分離、制御論理的な分離等に対応するとは限らない。各機能ブロックは、他のブロックと物理的にある程度分離された1つのハードウェアモジュールであってもよいし、或いは他のブロックと物理的に一体となったハードウェアモジュール中の1つの機能を示したものであってもよい。
受信装置20は、A/D変換部21、復調部22、デマッピング部23、及び復号部24を含む。デマッピング部23は、領域判定部25、LLR演算部26、及びビット幅削減部27を含む。A/D変換部21は、通信路15を介して送信装置10から受信した受信信号をアナログからデジタルに変換して、デジタル受信信号を復調部22に供給する。復調部22は、送信側で用いた変調に対応する復調処理を実行し、復調された受信信号をデマッピング部23に供給する。
デマッピング部23は、送信側で用いた変調方式におけるシンボル点のうち受信信号点に近いシンボル点を検出し、受信信号の値が0又は1である確からしさを軟判定し、軟判定結果であるLLRを計算して出力する。具体的には、領域判定部25がまず、同相成分及び直交成分をそれぞれ直交する軸にとった複素平面上で、受信信号点の属する領域を判定する。これは、受信信号点が複素平面上で属する領域に応じて、最近のシンボル点の組み合わせが異なるために、具体的なLLR計算式が異なるためである。LLR演算部26は、領域判定部25により判定された領域に応じたLLR計算式を用いて、受信信号からLLRを計算する。ビット幅削減部27は、LLR演算部26により演算されたLLRを量子化することによりビット幅を削減し、後段の計算における計算量及び回路規模を削減可能とする。
復号部24は、デマッピング部23から出力されたLLRに基づいてターボ復号処理やLDPC復号処理等の復号処理を行なう。この際、復号された符号語が正しいものとなるように誤り訂正を行う。これにより誤り訂正後の受信信号が得られる。
図16の送信側におけるマッピング部12でのマッピング処理に用いられるシンボル点配置(コンスタレーション)は、1シンボルに対応する複数個のビットのビットパターンを、各シンボル点に割り当てたものである。例えば128QAMの場合、図1に示した例のように128個のシンボル点が存在し、各シンボル点には7ビットのビットパターンが割り当てられている。
図16に示す通信システムにおいては、受信側におけるデマッピング部23での領域判定及びLLR計算の基礎となるシンボル点配置(コンスタレーション)は、送信側でのシンボル点配置とは異なる。具体的には、送信側の第1のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られる第2のシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定する。
通信システムにおいては、QPSK(Quatrature Phase Shift Keying)、64QAM、128QAM等の種々の異なる変調方式のうち、何れか1つの変調方式を採用している。送信装置10では、その変調方式(例えば128QAM)の所定のシンボル点配置を用いたマッピング処理により変調を行なう。受信側では、通常は、その所定のシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定し、判定された領域に応じたLLR計算式を用いてLLRを計算する。しかしながら、図16に示す受信装置20においては、上記の所定のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られるシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定する。
受信装置20の領域判定部25は、予め定義された領域分割パターンに従った領域条件式を用いて、受信信号点の属する領域を判定するのみであり、その領域分割パターンの基になるシンボル点配置が領域判定部25内に明示的に記憶されているわけではない。しかしながら、受信装置20が受信対象とする受信信号の変調方式及びシンボル点配置(送信側で用いるシンボル点配置)は、通信設定として決められているものである。従って、図16に示す受信装置20の場合、領域判定部25の内部で比較処理等により実現されている領域条件式が、受信対象である信号のシンボル点配置(送信側で用いるシンボル点配置)に従った領域分割パターンに一致していないことになる。この意味において、領域判定部25による領域判定処理には、送信側の第1のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られる第2のシンボル点配置が、内在的に反映されていることになる。実際、送信側の第1のシンボル点配置に基づく領域分割パターンに対して、領域判定部25により実現される領域分割パターンを対比させることで、領域判定処理の基になる第2のシンボル点配置を第1のシンボル点配置から推定することが可能である。
図17乃至図23は、図1に示す128QAM変調のコンスタレーションに対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られる各ビット毎の領域分割の様子を示す図である。図17乃至図23の領域分割パターンは、それぞれ第1ビット(最上位ビット)乃至第7ビット(最下位ビット)の領域分割パターンである。各図において、128個のシンボル点の各々について、そのビット値が各シンボル点の直ぐ上に示されている。また各領域に順番に領域番号を付け、その領域番号を下線を付して示してある。また図17乃至図23の各図において、シンボル点を追加した箇所を丸印30で示し、シンボル点を削除した箇所を丸印31で示し、シンボル点を値反転した箇所を丸印32で示している。
例えば図19に示す第3ビットに対する領域分割パターンは、シンボル点の追加及び削除により、全体で10個の領域に分割され、比較的単純な境界線で画定されている。それに対して、図4に示す送信側のシンボル点配置における第3ビットに対する領域分割パターンは、全体で21個の領域に分割され、各領域が複雑に入り込んだパターンとなっている。また例えば図22に示す第6ビットに対する領域分割パターンは、シンボル点の追加及び値反転により、全体で4個の領域に分割され、比較的単純な境界線で画定されている。それに対して、図7に示す送信側のシンボル点配置における第6ビットに対する領域分割パターンは、全体で10個の領域に分割され、更には各領域が複雑に入り込んだパターンとなっている。
なおシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つは、上記の例から分かるように、1シンボルに対応する複数個のビットの各ビット毎に(即ち第1ビット乃至第7ビットの各々について)行なわれている。この結果、図17乃至図23に示すシンボル点配置において、1シンボルに対応する複数個のビットのうち少なくとも1つのビットのシンボル点配置が他のビットのシンボル点配置と異なるものとなってよい。具体的には、例えば図17の第1ビットのシンボル点配置と図18の第2ビットのシンボル点配置とは異なる配置パターンとなっている。また図17乃至図23に示すシンボル点配置において、1シンボルに対応する複数個のビットのビットパターンのうち、それに対応するシンボル点が存在しないビットパターンがある。例えば図22で、丸印32の内部のシンボル点の値を0から1に反転してあるので、図1の例えば右上に示す0000001に対応するビットパターンは、図17乃至図23に示すシンボル点配置において存在しない。
図24は、第1ビットの領域分割パターンの場合を例にとり、シンボル点の追加により領域分割パターンが簡素化される様子を示す図である。図24の上段には、図2に示す送信側のシンボル点配置における第1ビットの領域分割パターンの第1象限の部分が示される。この第1象限の右上の部分が、領域番号6,8,9の細かな領域に分割されている。それに対して図24の中段に示すように、第1象限の右上の部分において4つのシンボル点40を、その周囲のシンボル点の配列を延長する配列位置に、即ち周囲のシンボル点の縦横のピッチと同一の縦横のピッチとなる位置に追加する。このとき図示する領域aにおいて、値0の最近点の座標は(9A,9A)となり、値1の最近点の座標は(−A,9A)となる。この値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係は、実数軸方向に10Aの差で虚数軸方向に0の差となり、領域番号5の領域の値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係と同一となる。従って、領域aのLLR計算式は、領域番号5の領域のLLR計算式と同一となる。また領域bについても同様であり、領域bのLLR計算式は、領域番号5の領域のLLR計算式と同一となる。更に、図示する領域cにおいて、値0の最近点の座標は(11A,9A)となり、値1の最近点の座標は(−A,9A)となる。この値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係は、実数軸方向に12Aの差で虚数軸方向に0の差となり、領域番号7の領域の値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係と同一となる。従って、領域cのLLR計算式は、領域番号7の領域のLLR計算式と同一となる。また領域dについても同様であり、領域dのLLR計算式は、領域番号7の領域のLLR計算式と同一となる。図24の下段には、領域が統合された様子が示される。
図25は、第3ビットの領域分割パターンの場合を例にとり、シンボル点の削除により領域分割パターンが簡素化される様子を示す図である。図25の上段には、図4に示す送信側のシンボル点配置における第3ビットの領域分割パターンの第1象限の部分が示される。この第1象限の左上の部分が、領域番号2,3,5,6の細かな領域に分割されている。それに対して、この第1象限の左上の部分にある4つのシンボル点41を削除することにより、図25の中段に示すように、第1象限の左上の部分においてシンボル点が存在しない状態となる。このとき図示する領域2において、値0の最近点の座標は(A,7A)となり、値1の最近点の座標は(5A,7A)となる。この値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係は、実数軸方向に4Aの差で虚数軸方向に0の差となり、領域番号1の領域の値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係と同一となる。従って、領域2のLLR計算式は、領域番号1の領域のLLR計算式と同一となる。また領域3−aについても同様であり、領域3−aのLLR計算式は、領域番号1の領域のLLR計算式と同一となる。更に、図示する領域5−aにおいて、値0の最近点の座標は(3A,7A)となり、値1の最近点の座標は(5A,7A)となる。この値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係は、実数軸方向に2Aの差で虚数軸方向に0の差となり、領域番号4の領域の値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係と同一となる。従って、領域5−aのLLR計算式は、領域番号4の領域のLLR計算式と同一となる。領域3−b,5−b,6についても、同様の考え方で、領域番号7又は8の領域に併合される。図25の下段には、領域が統合された様子が示される。
図26は、第6ビットの領域分割パターンの場合を例にとり、シンボル点の値反転により領域分割パターンが簡素化される様子を示す図である。図26の上段には、図7に示す送信側のシンボル点配置における第6ビットの領域分割パターンの第1象限の部分が示される。図26の上段から中段への変化において、図示の第1象限の右上の部分に4つのシンボル点43が追加されると共に、中央上部にある4つのシンボル点42の値が0から1に反転されている。この結果、図示の第1象限内において、横方向に延びる各行は6個のシンボル点を含み、これら6個のシンボル点の値は各行で同一となる。この結果、図26の中段に示す領域番号5,6−a,6−b,7,8,9,10−a,10−b,11の領域は全て、領域番号3又は4の領域に併合される。即ち例えば、領域6−aにおいて、値0の最近点の座標は(3A,7A)又は(5A,7A)となり、値1の最近点の座標は(3A,9A)又は(5A,9A)となる。この値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係は、実数軸方向に0の差で虚数軸方向に2Aの差となり、領域番号3の領域の値0の最近点と値1の最近点との相対的な位置関係と同一となる。従って、領域6−aのLLR計算式は、領域番号3の領域のLLR計算式と同一となる。図26の下段には、領域が統合された様子が示される。
図27乃至図33は、図17乃至図23に示す各領域についての領域条件式及びLLR計算式を示す表である。例えば、図27には、図17に示す第1ビットの全領域(領域番号1乃至6)について、領域条件式及びLLR計算式が示される。図27において、受信信号点が例えば0≦|yI|<2Aの領域条件式を満たすならば領域1に属することになり、その場合のLLR演算式は前述のL(1)の計算式となる。また例えば図29には、図19に示す第3ビットの全領域(領域番号1乃至10)について、領域条件式及びLLR計算式が示される。この図29に示す領域の数及び領域条件式は、図11A及び図11Bに示される第3ビットの領域の数及び領域条件式と比較して、領域数が少なくなっていると共に領域条件式がより単純なものとなっている。即ち、シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを行なうことにより、領域判定処理の対象となる領域数が、送信側のシンボル点配置における領域数よりも少なくなっている。より一般的に言えば、シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを行なうことにより、領域判定処理の総比較演算数が、送信側のシンボル点配置における領域判定処理の総比較演算数よりも少なくなっている。なお特別領域という領域が規定されているが、これについては後程説明する。
図34は、領域分割の方法を示すフローチャートである。例えば図1に示す128QAMのシンボル点配置に対して、図34に示すフローチャートの処理を適用することにより、図17乃至図23に示すような領域分割パターンが得られる。ステップS1では、送信側のコンスタレーションに対して、仮想点の配置(即ち送信側に存在しないシンボル点の追加)、配置点の削除(即ち送信側に存在するシンボル点の受信側での削除)、及び配置点の反転(即ちシンボル点の値反転)の少なくとも1つを実行する。例えば図19に示すように追加と削除とを組み合わせてもよいし、或いは追加、削除、及び値反転の3つを組み合わせて同時に用いてもよい。ステップS2では、LLRの計算式を適用した場合に同一演算式となる範囲を領域化する。即ち、複素平面上でLLR計算式が同一の計算式となる範囲が同一の領域となるように、複素平面を複数の領域に分割する。
図35は、追加、削除、及び値反転の3つを組み合わせて同時に用いる場合の一例を示す図である。コンスタレーションの一部が、図35の上段に示すような4つのシンボル点の配置になっているとする。この場合、図35の下段に示すように仮想点を配置(シンボル点を追加)し、配置点反転(シンボル点の値反転)し、配置点削除(シンボル点削除)することにより、値が全て0である4つのシンボル点が縦2点×横2点のマトリクス状の配置となる。このような整然とした配置とすることにより、領域数の削減や領域間の境界線の簡素化が期待できる。
図36は、デマッピング部23の構成の一例を示す図である。図36において、図16と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は適宜省略する。図36に示すデマッピング部23は、|YI|&|YQ|算出部51、比較判定部52、領域分割テーブル53−1乃至53−7、LLR演算部26、及びビット幅削減部27を含む。|YI|&|YQ|算出部51、比較判定部52、及び領域分割テーブル53−1乃至53−7が、図16の領域判定部25に相当する。
|YI|&|YQ|算出部51は、受信信号点yを受け取り、その同相成分YI及び直交成分YQのそれぞれの絶対値|YI|及び|YQ|を求める。比較判定部52は、|YI|及び|YQ|に基づいて、図36に比較判定処理54として示す12個の比較式のそれぞれが満たされるか否かを判定する。これら12個の比較式は、図27乃至図33の領域条件式中に現れる全ての比較式を網羅している。なお領域分割パターンの境界上においては、境界の一方の側のLLR計算式を用いるか境界の他方の側のLLR計算式を用いるかに関わらず、同じ計算結果となる。従って、比較式の不等号がイコール“=”を含むか否かの違いは問題とならない。また図36において、比較判定処理56として示す第13乃至第23の比較式は、送信側のシンボル点配置に対応する図9乃至図15の領域条件式中に現れる比較式である。比較判定部52においては、シンボル点の追加、削除、及び値反転の処理により、比較判定処理56の比較式を実行不要となっている。即ち、比較判定部52の回路規模が、シンボル点の追加、削除、及び値反転の処理を行なわない場合と比較して、小さな回路規模となる。
比較判定部52は、12個の比較式のそれぞれについて比較式の条件を満たすか否かを示すフラグ信号flag1乃至flag12を出力する。これらフラグ信号flag1乃至flag12は、領域分割テーブル53−1乃至53−7に入力される。領域分割テーブル53−1乃至53−7は、フラグ信号flag1乃至flag12に基づいて、受信信号yが属する領域を示す領域判定信号を出力する。ここで領域分割テーブル53−1乃至53−7は、それぞれ第1ビット乃至第7ビットの領域を判定する。即ち、領域分割テーブル53−k(k=1〜7)は、第kビットbkの領域分割パターンにおいて受信信号点yが属する領域を示す領域判定信号を出力する。例えば第1ビットの場合、図27に示すように領域番号1乃至6の6個の領域がある。6個の領域を示すためには、3ビット幅の領域判定信号があればよい。領域分割テーブル53−1には、フラグ信号flag1乃至flag12が示す12個の判定式の成否の組み合わせに対して、出力すべき3ビット幅の領域判定信号が登録されている。領域分割テーブル53−1は、入力されたフラグ信号flag1乃至flag12に応じた3ビット幅の領域判定信号を出力することにより、6個の領域のうちで受信信号点yが属する1つの領域を示すことができる。
LLR演算部26は、領域分割テーブル53−1乃至53−7からの領域判定信号に基づいて、第1ビット乃至第7ビットについてのLLRを計算する。即ち、LLR演算部26は、各ビット毎に、特定された領域に応じたLLR計算式を用いてLLRを計算する。
ビット幅削減部27は、計算されたLLRを量子化することにより、ビット幅を削減する。
図37は、領域分割の方法の変形例を示すフローチャートである。図37に示すフローチャートのステップS1及びステップS2は、図34に示す変形例のフローチャートのステップS1及びステップS2と同様である。図37に示す変形例では、これらステップS1及びステップS2の処理に加えて、更にステップS3の処理が設けられている。このステップS3では、LLR演算値の誤差が大きくなる領域を、事後補正処理を行なう特別領域とする。ステップS1において、シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行するということは、正しいシンボル点配置(送信側で用いたシンボル点配置)とは異なる計算をしていることになる。従って、受信信号の値によっては、復号処理において誤差が大きくなり、正しい送信データが再生できない可能性がある。図37に示す変形例では、シンボル点が配置された複素平面上で誤差が大きくなる領域を予め調べておき、この領域を特別領域として設定しておく。信号受信時に領域判定処理を行なう際には、受信信号点yが所定の領域(即ち上記特別領域)に属する場合には、補正により誤差を小さくするために、通常のLLR計算式を用いて計算したLLR計算値とは異なるLLR計算値を求める。
図38は、図37に示す領域分割方法を図1に示す128QAMに適用した場合の具体的な領域分割の処理を示すフローチャートである。ステップS1で、着目ビット位置を示す変数iを初期値1に設定する。ステップS2で、変数iの値を判断する。i=1であればステップS3、i=3であればステップS4、i=4であればステップS5、i=5であればステップS6、i=6であればステップS7、i=7であればステップS8を実行する。これらステップS3乃至S8では、図17乃至図23に示したようなシンボル点の追加、削除、及び値反転の処理を実行する。i=2の場合には、シンボル点の追加、削除、及び値反転の何れの処理も実行しない。
ステップS9で、LLRの計算式を適用した場合に同一演算式となる範囲を領域化する。即ち、複素平面上でLLR計算式が同一の計算式となる範囲が同一の領域となるように、複素平面を複数の領域に分割する。ステップS10で、変数iの値を判断する。i=3であればステップS11の補正処理、i=6であればステップS12の補正処理を実行する。iの値がそれ以外の場合には、補正処理は実行しない。ステップS11では、第3ビットに対して所定の不等式(図29の特別領域の領域条件式)を満たす領域を特別領域とする。更に、この特別領域に受信信号点が属する場合には、特別領域処理としてステップS11に示す式(図29の特別領域のLLR計算式)の値を、LLR計算値に加算することを規定しておく。ステップS12では、第6ビットに対して所定の不等式(図32の特別領域の領域条件式)を満たす領域を特別領域とする。更に、この特別領域に受信信号点が属する場合には、特別領域処理としてステップS12に示す式の値(図32の特別領域のLLR計算式)でLLR計算値を置き換えることを規定しておく。
図39は、デマッピング部23の構成の変形例を示す図である。図39において、図36と同一の構成要素は同一の番号で参照し、その説明は適宜省略する。図39に示すデマッピング部23は、|YI|&|YQ|算出部51、比較判定部52、領域分割テーブル53−1乃至53−7、LLR演算部26、及びビット幅削減部27を含む。デマッピング部23は更に、領域分割テーブル53−8及び53−9、セレクタ(SEL)61、特別領域のLLR演算部62、及びセレクタ(SEL)63を含む。領域分割テーブル53−1乃至53−7が図36で説明したように領域判定を行ない、LLR演算部26が図36で説明したように領域判定結果に従ってLLR計算を行なう。
領域分割テーブル53−8は、第3ビットに対する図29に示す特別領域に受信信号点yが属する場合に、その出力をアサートする。領域分割テーブル53−9は、第6ビットに対する図32に示す特別領域に受信信号点yが属する場合に、その出力をアサートする。セレクタ61及び63は、領域分割テーブル53−8又は53−9の出力がアサートされない限り、LLR演算部26の出力するLLR計算値を、特別領域のLLR演算部62を介することなくビット幅削減部27にそのまま供給する。
領域分割テーブル53−8又は53−9の出力がアサートされると、LLR演算部26のLLR計算値出力は、セレクタ61により特別領域のLLR演算部62に供給されて、補正処理が実行される。この例の場合、特別領域のLLR演算部62は、領域分割テーブル53−8の出力のアサートに応答して、図29の特別領域のLLR計算式の値をLLR演算部26のLLR計算値出力に加算する。また特別領域のLLR演算部62は、領域分割テーブル53−9の出力のアサートに応答して、図32の特別領域のLLR計算式の値でLLR演算部26のLLR計算値出力を置き換える。セレクタ63は、領域分割テーブル53−8又は53−9の出力がアサートされると、特別領域のLLR演算部62の出力をビット幅削減部27に供給する。
図40は、復号処理のビットエラーレートを比較する図である。図40において、横軸はSNR(信号対雑音比)であり、縦軸はBER(ビットエラーレート)である。図40に示すBER特性は、送信系、伝送系、及び受信系を計算機上に構築して、送受信処理を計算機シミュレーションにより実現して求めたものである。シミュレーション条件としては、LDPC符号化を用いて、符号長が4830、符号化率が55/58であり、通信路にはAWGN(Additive White Gaussian Noise:加法的白色ガウス雑音)のものを仮定している。また復号アルゴリズムとしては、Normalized Min-sumアルゴリズムを用いている。
図40において、送信側でのシンボル点配置に対応する図9乃至図15の領域条件式及びLLR計算式を用いてLLR計算した場合のBER特性が特性曲線71により示される。また特性曲線72は、シンボル点を追加、削除、及び値反転したシンボル点配置に対応する図27乃至図33の領域条件式及びLLR計算式を用いてLLR計算した場合のBER特性を示す。特性曲線71と比較して、特性曲線72は、SNRが良好な領域において僅かにBERが低下しているが、全体としては略同程度のBERを達成している。即ち、シンボル点を追加、削除、及び値反転したシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従いLLR計算しても、送信側と同一のシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従いLLR計算した場合と略同程度のBER特性が得られることが分かる。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で様々な変形が可能である。
なお本願発明は以下の内容を含むものである。
(付記1)
送信側の第1のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られる第2のシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定する領域判定ユニットと、
前記判定された領域に応じたLLR計算式を用いてLLRを計算するLLR演算ユニットと
を含むことを特徴とする信号処理装置。
(付記2)
前記シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つは、1シンボルに対応する複数個のビットの各ビット毎に行なわれていることを特徴とする付記1記載の信号処理装置。
(付記3)
前記受信信号点が所定の領域に属するか否かを判定し、前記受信信号点が前記所定の領域に属する場合には、前記LLR計算式を用いて計算したLLR計算値とは異なるLLR計算値を求めることを特徴とする付記1又は2記載の信号処理装置。
(付記4)
前記シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つにより、前記第2のシンボル点配置における領域判定処理の総比較演算数が、前記第1のシンボル点配置における領域判定処理の総比較演算数よりも少なくなっていることを特徴とする付記1乃至3何れか一項記載の信号処理装置。
(付記5)
前記シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つにより、前記第2のシンボル点配置における領域数が、前記第1のシンボル点配置における領域数よりも少なくなっていることを特徴とする付記1乃至4何れか一項記載の信号処理装置。
(付記6)
前記第2のシンボル点配置において、1シンボルに対応する複数個のビットのうち少なくとも1つのビットのシンボル点配置が他のビットのシンボル点配置と異なることを特徴とする付記1乃至5何れか一項記載の信号処理装置。
(付記7)
前記第2のシンボル点配置において、1シンボルに対応する複数個のビットの所定のビットパターンに対応するシンボル点が存在しないことを特徴とする付記1乃至6何れか一項記載の信号処理装置。
(付記8)
送信側のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られるシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定し、
前記判定された領域に応じたLLR計算式を用いてLLRを計算する
各段階を含むことを特徴とする信号処理方法。
(付記9)
前記シンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つは、シンボル点に対応するデータの各ビット毎に行なわれていることを特徴とする付記1記載の信号処理方法。
(付記10)
前記受信信号点が所定の領域に属するか否かを判定し、
前記受信信号点が前記所定の領域に属する場合には、前記LLR計算式を用いて計算したLLR計算値とは異なるLLR計算値を求める
各段階を更に含むことを特徴とする信号処理方法。
(付記11)
アナログ受信信号をデジタル受信信号に変換するA/D変換部と、
前記デジタル受信信号を復調して復調された受信信号を生成する復調部と
前記復調された受信信号からLLRを演算するLLR演算部と、
前記LLRに基づいて復号処理を行なう復号部と
を含み、前記LLR演算部は、
送信側の第1のシンボル点配置に対してシンボル点の追加、削除、及び値反転の少なくとも1つを実行して得られる第2のシンボル点配置に基づいた領域分割パターンに従い、受信信号点の属する領域を判定する領域判定ユニットと、
前記判定された領域に応じたLLR計算式を用いてLLRを計算するLLR演算ユニットと
を含むことを特徴とする受信装置。