本発明のある態様のクライオポンプは、露出型のクライオソープションパネル配列を備える。そのパネル配列は、クライオポンプ開口から垣間見える部位またはその他の部位に吸着剤例えば活性炭の欠落した区域を有する。大半のパネル表面及びその上の吸着剤は隣接するパネルによって覆われてクライオポンプ開口から直接見えないよう構成されており、クライオポンプ開口からの吸着剤見える率はゼロまたはわずかである。吸着剤はパネル配列を取り巻く開放空間に露出されている。吸着剤欠落区域は吸着剤の存在区域と共通の面に形成され、吸着剤欠落区域の境界は吸着剤によって画定されている。つまり吸着剤の欠落区域と存在区域とは共通するパネル面を区分する。
こうした露出と非露出とのハイブリッド構成は、非凝縮性気体の高速排気と、難再生気体からの吸着剤の保護との両立に役立つ。これは、多数回の再生処理の反復を通じて安定した排気性能を維持することにつながる。また、ソープションパネルからの吸着剤欠落による見える率低減は、非凝縮性気体の排気効率向上、ひいては省エネルギー性に優れるクライオポンプの提供に寄与する。
クライオポンプの典型的なある用途においては、排気すべき気体に凝縮性気体と少量の非凝縮性気体とが含まれる。凝縮性気体の氷層の堆積によって非凝縮性気体の吸着性能が阻害されるのを避けるために、こうした典型的用途のためのクライオポンプは、クライオコンデンセイションパネルまたは凝縮パネルによって、クライオソープションパネルまたは吸着パネルを隠している。典型的なクライオソープションパネルは、ある面の全域を活性炭で覆うことで形成されている。
例えば、あるクライオパネル構造は、凝縮性気体を捕捉するためのコンデンセイションパネルを外側に有し、その内側に非凝縮性気体を捕捉するためのソープションパネルを有する二重構造を備える。他のクライオパネル構造は、クライオポンプ開口を向く表面にクライオコンデンセイション面を有し、その裏面にクライオソープション面を有する。パネルが例えばその端部に折り曲げ部分を有する場合には例えば、折り曲げ線で区切られたその折曲部分の表面を除くパネルの片面全域が活性炭で覆われるか、折曲部分の表面を含む全域が活性炭で覆われる。
一般に、コンデンセイションパネル及びソープションパネルはともに、共通する冷却温度例えば10K乃至20Kの極低温に冷却される。コンデンセイションパネル及びソープションパネルは、それらを輻射熱から保護するための放射シールドまたは輻射シールドに囲まれている。放射シールドは、コンデンセイションパネル及びソープションパネルよりも高温の冷却温度例えば80K乃至100Kの極低温に冷却される。放射シールドは相対的に高温の極低温面を提供するクライオパネルとみなすこともできる。
クライオポンプの用途によっては極低温面への凝縮性気体の凝縮があまり問題とはならない場合もある。例えばイオン注入装置用のクライオポンプが挙げられる。この用途においては低温クライオパネルに凝縮される気体の使用量は少なく、クライオポンプの主目的は非凝縮性気体(例えば水素)の排気となる。よって、むしろソープションパネルをクライオポンプ開口に向けて露出することによって非凝縮性気体を到達しやすくすることが望ましい。これにより高い排気速度を実現することができる。
露出による排気速度の向上は、ある要求排気速度を実現するためのソープションパネル面積の低減に寄与する。露出により吸着剤への気体の流れ性が良好となり、パネル単位面積当たりの排気速度が高くなるからである。その結果、必要なパネル面積は低減され、クライオパネル構造体の重量も低減される。
パネル重量の低減は、クライオポンプの再生処理の所要時間を短縮する。クライオポンプはいわゆるため込み式の真空ポンプであるから、内部に蓄積された気体を適宜の頻度で外部に排出する再生処理が実行される。再生は、クライオパネルとしての動作温度よりも高温(例えば常温)にクライオパネルを昇温し、パネル表面に凝縮または吸着されている気体を再放出させて外部に排出し、再度クライオパネルの動作温度に冷却する処理である。再生時間を決める1つの大きな要因は、再冷却に要する時間である。再冷却時間は、パネル構造体重量に相関する。パネル構造体の重量低減により再冷却時間が短縮され、その結果として再生時間も短縮される。
クライオポンプに蓄積された気体は通常、再生処理により実質的に完全に排出され、再生完了時にはクライオポンプは仕様上の排気性能に回復される。しかし、蓄積された気体のうち一部の成分は再生処理を経ても吸着剤に残留する割合が比較的高い。
例えば、イオン注入装置の真空排気用に設置されているクライオポンプにおいては、吸着剤としての活性炭に粘着性の物質が付着することが観察された。この粘着性物質は再生処理を経ても完全に除去することが困難であった。この粘着性物質は、処理対象基板に被覆されるフォトレジストから排出される有機系のアウトガスに起因すると考えられる。またはイオン注入処理でドーパントガスつまり原料ガスとして使用される毒性ガスに起因する可能性もある。イオン注入処理におけるその他の副生成ガスに起因する可能性も考えられる。これらのガスが複合的に関係して粘着性物質が生成されている可能性もある。
イオン注入処理では、クライオポンプの排気する気体の大半は水素ガスであり得る。水素ガスは再生により実質的に完全に外部に排出される。難再生気体は微量であれば、1回のクライオポンピング処理においてクライオポンプの排気性能に難再生気体が与える影響は軽微である。しかし、クライオポンピング処理と再生処理とを反復するうちに、難再生気体は徐々に吸着剤に蓄積され、排気性能を低下させていく可能性がある。排気性能が許容範囲を下回ったときには、例えば吸着剤またはそれとともにクライオパネルの交換、または吸着剤への化学的な難再生気体除去処理を含むメンテナンス作業が必要となる。
そこで、本発明のある態様のクライオポンプは、露出型のクライオソープションパネル配列を備えており、その一部から吸着剤例えば活性炭を欠落させている。露出型クライオソープションパネル配列はその周囲に、クライオポンプ開口に開放されるクライオポンプ内部開放空間を有する。この内部開放空間は放射シールドに包囲されている。開放された局所空間がクライオソープションパネル配列の互いに隣接するソープションパネルによって画定されており、その局所空間はクライオポンプ内部開放空間を通じてクライオポンプ外部空間へと開放されている。クライオソープションパネルの開放性はパネル表面への気体の到達を促進し、クライオポンプによる非凝縮性気体例えば水素の高速排気の実現を支援する。
一実施例においては、吸着剤の欠落部位は、クライオポンプ外部からクライオポンプ開口を通じて視認されるクライオソープションパネルの区域に設定されている。吸着剤欠落部位は、クライオポンプ内部開放空間に突出し放射シールドへと向けられているソープションパネルの末端に設けられていてもよい。欠落部位はクライオコンデンセイションパネルとして使用可能である。
こうしてクライオポンプ開口への吸着剤の直接の露出を避けることにより、またはクライオポンプ開口からの吸着剤見える率をごく小さくすることにより、クライオポンプに進入する気体に含まれる難再生気体による吸着剤への作用は防止または軽減される。難再生気体はコンデンセイションパネルに集積され、粘着性物質の吸着剤への蓄積は低減される。このようにして、非凝縮性気体の高速排気と、難再生気体からの吸着剤の保護とを両立することができる。
この技術思想の一具体例に係るクライオポンプは、イオン注入装置の真空排気系への使用に適するクライオポンプである。また、他の一例は、基板処理装置の真空排気系への使用に適するクライオポンプである。基板処理装置は例えば、レジストで被覆されている基板をプロセスガスで処理する。
ここで、難再生気体とは例えば、所定の再生処理において所定の気体(例えば水素)のクライオポンプ外部への排出が実質的に完了した時点でポンプ外部への排出が完了していない気体である。また、所定の気体を実質的に完全にクライオポンプ外部に排出するよう調整されている再生処理を経ても吸着剤における残留が基準を超える気体は、難再生気体であると言える。例えば、ウエハ表面に塗布されているレジストまたはその他のコーティングからの有機系のアウトガスについても再生処理での吸着剤への残留割合が高いおそれがある。また、イオン注入処理に使用される毒性のドーパントガスも難再生気体となりうる。
レジストは例えば、有機系材料からなる有機レジストである。プロセスガスは、処理対象(例えば基板)またはその表面のレジストと化学的に直接反応する反応性プロセスガスであってもよい。またはプロセスガスは、反応性ガスを処理対象へと導入するのを支援するためのガスであってもよい。基板処理装置がスパッタ装置である場合にはプロセスガスは不活性ガス例えばアルゴンである。基板処理装置がイオン注入装置である場合にはプロセスガスは例えば水素ガスまたはドーパントガスである。プロセス中におけるプロセスガスとレジストとの相互作用によって、レジストから有機系のガスが放出されうる。またプロセス中ではなくても真空環境によりレジストからアウトガスが放出されうる。この有機系ガスには例えば、芳香族、直鎖炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル等が含まれ得る。
難再生気体は、上述のレジストからの有機系ガスや、イオン注入処理に使用されるドーパントガスには限られない。例えば、プロセスによってはプロセスガス自体が難再生気体であることもありうる。また、基板へのレジスト以外のコーティングからの放出ガスが難再生気体である場合もある。
一実施形態に係るクライオポンプは、第1冷却温度を提供するための第1冷却ステージと、該第1冷却温度よりも低く非凝縮性気体の吸着に使用される第2冷却温度を提供するための第2冷却ステージと、を含む冷凍機と、気体を受け入れる開口を形成するシールド前端を含み、第1冷却ステージに熱的に接続され、第2冷却ステージを包囲する放射シールドと、第2冷却ステージに熱的に接続されているクライオパネルアセンブリであって、その外周部と放射シールドとの間に前記開口への開放空間を形成し、シールド前端から少なくとも一部を視認可能であるクライオパネルアセンブリと、を備えてもよい。
クライオパネルアセンブリは、シールド開口に面するトップパネルと、シールド開口を向くパネル前面を含みトップパネルに対しシールド開口とは反対側に配設された中間パネルと、を含んでもよい。中間パネルのパネル前面に対向する隣接のクライオパネルと該パネル前面との間に前記開放空間に連続する開放部分が形成されてもよい。中間パネルのパネル前面に対向する隣接のクライオパネルと該パネル前面との間に前記開放空間に連続する開放部分が形成されてもよい。該開放部分はその深さが該隣接のクライオパネルと該パネル前面との間隔よりも大きくてもよい。
中間パネルはパネル前面に非凝縮性気体のための吸着領域を有してもよい。該吸着領域は、シールド前端から前記隣接のクライオパネルの末端への視線と前記パネル前面との交差により定まる境界の内側に形成されていてもよい。吸着領域は、前記パネル前面において前記境界内側の区域を占有してもよい。
中間パネルはその表面に凝縮性気体のための凝縮領域を有してもよい。該凝縮領域は前記パネル前面における前記境界外側の区域を含んでもよい。
中間パネルの外周部はトップパネルに平行にかつトップパネルの外周部よりも放射シールドに近接する位置まで延びていてもよい。中間パネルは、シールド開口を向く前面及び該開口とは反対側を向く背面とを各々が含み互いに平行に配列されている複数のプレートを含んでもよい。
クライオパネルアセンブリは、中間パネルに対しシールド開口とは反対側に配設された下側パネルを含んでもよい。該下側パネルの外周部は中間パネルに平行にかつ中間パネルの外周部よりも放射シールドに近接する位置まで延びていてもよい。
クライオポンプは、放射シールドに熱的に接続されシールド開口に配設されたルーバーを備えてもよい。該ルーバーはトップパネルと中間パネルとの中間のサイズを有し、該ルーバーの外周部と放射シールドとの間に開放領域が形成されてもよい。
中間パネルは表面積の少なくとも70%が吸着剤に覆われており、該吸着剤は水素吸着可能であり、クライオポンプは少なくとも30%の水素捕捉確率を有してもよい。吸着剤は前記開放部分に収容されており、吸着剤の総面積に対するシールド開口から視認可能である吸着剤面積の比率である吸着剤見える率が7%未満であってもよい。
一実施形態に係るクライオポンプは、放射シールドと、該放射シールド内で手前から奥へと配列され各々が該放射シールドの開口を向く前面と該開口とは反対側を向く背面とを有する複数のクライオパネルの配列を含み、該複数のクライオパネルの外周部と前記放射シールドとの間に前記開口への開放空間を形成するクライオパネルアセンブリと、を備えてもよい。クライオパネルアセンブリは、複数のクライオパネルの前面及び背面の合計面積の少なくとも70%が水素吸着可能である吸着剤に覆われており、クライオポンプは少なくとも30%の水素捕捉確率を有してもよい。吸着剤は複数のクライオパネルの各々の背面と当該クライオパネルの奥に隣接するクライオパネルの前面との間に収容されており、複数のクライオパネルの吸着剤総面積に対するシールド開口から視認可能である吸着剤面積の比率である吸着剤見える率が7%未満であってもよい。
複数のクライオパネルの配列は、手前のクライオパネルによって奥のクライオパネルの少なくとも一部が前記開口に対し遮蔽されており、吸着剤は、シールド開口から視認不能であるように、クライオパネルの遮蔽された部位に設けられていてもよい。
吸着剤総面積は、複数のクライオパネルの前面及び背面の合計面積の90%以下であってもよい。
吸着剤の少なくとも90%が放射シールドまたはシールド開口に露出されていてもよい。
一実施形態に係るクライオポンプは、クライオポンプ開口へと開放されたクライオポンプ内部開放空間に包囲されている複数のクライオソープションパネルの配列と、該クライオポンプ内部開放空間を包囲する放射シールドと、を備えてもよい。複数のクライオソープションパネルの少なくとも1つは、クライオポンプ内部開放空間に突出し放射シールドへと向けられているパネル末端を含み、該パネル末端は、吸着剤の欠落した区域を有してもよい。
吸着剤欠落区域は、吸着剤存在区域と共通の面に形成されていてもよい。吸着剤欠落区域は、クライオコンデンセイションのためにクライオパネル基材表面が露出されていてもよい。吸着剤欠落区域は、前記クライオポンプ開口を通じて視認される周縁露出部位にあってもよい。
一実施形態に係るクライオポンプの製造方法は、クライオパネルの基材にマスキングをすることと、マスキングされていない前記基材の表面に吸着剤を接着することと、を含んでもよい。マスキングをすることは、他のクライオパネルによって遮蔽されない前記基材の露出部にマスキングをすることを含んでもよい。この方法は、複数のクライオパネルの配列の各クライオパネルについて放射シールドの前端から当該クライオパネルに隣接するクライオパネルの末端への視線と当該クライオパネルとの交差により定まる境界の外側をマスキング領域として決定することを含んでもよい。
一実施形態に係るクライオポンプは、第1冷却温度を提供するための第1冷却ステージと、該第1冷却温度よりも低く非凝縮性気体の吸着に使用される第2冷却温度を提供するための第2冷却ステージと、を含む冷凍機と、気体を受け入れる開口を形成するシールド前端を含み、第1冷却ステージに熱的に接続され、第2冷却ステージを包囲する放射シールドと、第2冷却ステージに熱的に接続されているクライオパネルアセンブリであって、その外縁と放射シールドとの間にシールド開口への開放空間を形成し、シールド前端から少なくとも一部を視認可能であるクライオパネルアセンブリと、を備えてもよい。
クライオパネルアセンブリは、シールド開口に面するトップパネルと、シールド開口を向くパネル前面を含みトップパネルに対しシールド開口とは反対側に配設された中間パネルと、を含んでもよい。中間パネルのパネル前面に対向する隣接のクライオパネルの外周部と該外周部に対向する前記パネル前面の部分とは前記開放空間で放射シールドに向けて平行に延びており、該パネル前面は非凝縮性気体のための吸着領域と凝縮性気体のための凝縮領域とに区分されていてもよい。パネル前面の外周部が非凝縮性気体のための吸着領域と凝縮性気体のための凝縮領域とに区分されていてもよい。
前記隣接のクライオパネルはトップパネルであり、中間パネルの外周部はトップパネルの外周部よりも放射シールドに近接する位置まで延びていてもよい。トップパネル及び中間パネルのそれぞれは、シールド開口を向く前面及び該開口とは反対側を向く背面とを各々が含み互いに平行に配列されている複数のプレートを含み、中間パネルのプレートはトップパネルのプレートよりも大型であってもよい。
クライオパネルアセンブリは、中間パネルに対しシールド開口とは反対側に配設された下側パネルをさらに含んでもよい。該下側パネルの外周部は中間パネルに平行にかつ中間パネルの外周部よりも放射シールドに近接する位置まで延びていてもよい。下側パネルは、シールド開口を向く前面及び該開口とは反対側を向く背面とを各々が含み互いに平行に配列されている複数のプレートを含み、該プレートは中間パネルのプレートよりも大型であってもよい。
中間パネルのパネル前面の前記部分と前記隣接のクライオパネルの外周部との間に前記開放空間に連続する開放部分が形成され、該開放部分はその深さが該隣接のクライオパネルと該パネル前面との間隔よりも大きくてもよい。
クライオポンプは、放射シールドに熱的に接続され、シールド開口に配設されたルーバーを備えてもよい。該ルーバーはトップパネルと中間パネルとの中間のサイズを有し、該ルーバーの外周部と放射シールドとの間に開放領域が形成されてもよい。
クライオポンプは少なくとも30%の水素捕捉確率を有しており、中間パネルは水素吸着可能である吸着剤を表面に支持するためのクライオパネル基材を含み、該クライオパネル基材の総表面積の多くとも30%から吸着剤を欠落させることにより、該クライオパネル基材の全面を吸着剤で覆う場合に比べてクライオポンプの水素排気速度と吸着剤面積との比である水素排気効率を高くしてもよい。
一実施形態に係るクライオポンプは、放射シールドと、該放射シールド内で手前から奥へと配列されている複数のクライオパネルを含み該複数のクライオパネルの外周部と放射シールドとの間にシールド開口への開放空間を形成するクライオパネルアセンブリと、を備え、少なくとも30%の水素捕捉確率を有するクライオポンプであってもよい。複数のクライオパネルの各々は、水素吸着可能である吸着剤を表面に支持するためのクライオパネル基材を含み、該クライオパネル基材の総表面積の多くとも30%から吸着剤を欠落させることにより、該クライオパネル基材の全面を吸着剤で覆う場合に比べてクライオポンプの水素排気速度と吸着剤面積との比である水素排気効率を高くしてもよい。
水素排気効率は、5×10−2L/s・mm2以上であってもよい。クライオパネル基材の総表面積の少なくとも10%は吸着剤欠落区域であってもよい。吸着剤の少なくとも90%が放射シールドまたはシールド開口に露出されていてもよい。
一実施形態に係る方法は、クライオソープションパネルの表面の一部から吸着剤を欠落させる条件のもとでパネル構造パラメタを変化させたときの最大の水素排気速度を与えるパネル構造パラメタの値を求めることと、そのパネル構造パラメタの値に基づいてクライオソープションパネル配列の構成を決定することと、を含んでもよい。パネル構造パラメタは、クライオソープションパネルの寸法を含んでもよい。
図1は、本発明の一実施形態に係るイオン注入装置1及びクライオポンプ10を模式的に示す図である。目標にビームを照射するためのビーム照射装置の一例としてのイオン注入装置1は、イオン源部2、質量分析器3、ビームライン部4、及びエンドステーション部5を含んで構成される。
イオン源部2は、基板表面に注入されるべき元素をイオン化し、イオンビームとして引き出すように構成されている。質量分析器3は、イオン源部2の下流に設けられており、イオンビームから必要なイオンを選別するよう構成されている。
ビームライン部4は、質量分析器3の下流に設けられており、イオンビームを整形するレンズ系、及びイオンビームを基板に対して走査する走査システムを含む。エンドステーション部5は、ビームライン部4の下流に設けられており、イオン注入処理の対象すなわち照射目標となる基板8を保持する基板ホルダ(図示せず)、及びイオンビームに対して基板8を駆動する駆動系等を含んで構成される。ビームライン部4及びエンドステーション部5におけるビーム経路9を模式的に破線の矢印で示す。
また、イオン注入装置1には、真空排気系6が付設されている。真空排気系6は、イオン源部2からエンドステーション部5までを所望の高真空(例えば10−5Pa程度の高真空)に保持するために設けられている。真空排気系6は、クライオポンプ10a、10b、10cを含む。
例えば、クライオポンプ10a、10bは、ビームライン部4の真空チャンバの真空排気用にビームライン部4の真空チャンバ壁面のクライオポンプ取付用開口に取り付けられている。クライオポンプ10cは、エンドステーション部5の真空チャンバの真空排気用にエンドステーション部5の真空チャンバ壁面のクライオポンプ取付用開口に取り付けられている。なお、ビームライン部4及びエンドステーション部5はそれぞれ、1つのクライオポンプ10によって排気されるように真空排気系6が構成されていてもよい。また、ビームライン部4及びエンドステーション部5がそれぞれ複数のクライオポンプ10によって排気されるように真空排気系6が構成されていてもよい。
クライオポンプ10a、10bはそれぞれゲートバルブ7a、7bを介してビームライン部4に取り付けられている。クライオポンプ10cは、ゲートバルブ7cを介してエンドステーション部5に取り付けられている。なお以下では適宜、クライオポンプ10a、10b、10cを総称してクライオポンプ10と称し、ゲートバルブ7a、7b、7cを総称してゲートバルブ7と称する。イオン注入装置1の動作中はゲートバルブ7は開弁されており、クライオポンプ10による排気が行われる。クライオポンプ10を再生するときはゲートバルブ7は閉じられる。
なお、真空排気系6は、さらに、イオン源部2を高真空とするためのターボ分子ポンプ及びドライポンプを備えてもよい。また、真空排気系6は、ビームライン部4及びエンドステーション部5を大気圧からクライオポンプ10の動作開始圧まで排気するための粗引きポンプをクライオポンプ10と並列に備えてもよい。
ビームライン部4及びエンドステーション部5に存在する気体及び導入される気体がクライオポンプ10によって排気される。この被排気気体の大半は通常水素ガスである。クライオポンプ10のクライオパネルを使用してビーム経路9から水素ガスを含む被排気気体が排気される。なお被排気気体には、基板に塗布されているレジストからの放出ガス、ドーパントガス、またはイオン注入処理における副生成ガスが含まれてもよい。
イオン注入装置1は、当該装置を制御するためのメインコントローラ11を備える。また、クライオポンプ10には、クライオポンプ10を制御するためのクライオポンプコントローラ(以下では簡潔のため「CPコントローラ」という)100が設けられている。メインコントローラ11は、CPコントローラ100を介してクライオポンプ10を統括する上位のコントローラであると言える。メインコントローラ11及びCPコントローラ100はそれぞれ、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備える。メインコントローラ11とCPコントローラ100とは互いに通信可能に接続されている。
CPコントローラ100は、クライオポンプ10とは別体に設けられており、複数のクライオポンプ10をそれぞれ制御する。各クライオポンプ10a、10b、10cにはそれぞれ、CPコントローラ100と通信する入出力を処理するためのIOモジュール(図示せず)が設けられていてもよい。なお、CPコントローラ100は、各クライオポンプ10a、10b、10cのそれぞれに個別に設けられてもよい。
イオン注入装置1のためのクライオポンプ10は上述のように、主として水素ガスを排気する。イオン注入装置1のイオン注入処理のスループットを高めるために、高速に水素ガスを排気することのできるクライオポンプ10が求められている。また、水素の排気効率向上、ひいては省エネルギー性に優れるクライオポンプが求められている。そこで、クライオポンプ10は、露出されたクライオソープションパネル配列14において実質的に非露出に形成されている非凝縮性気体のための吸着領域を備える。
図2は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す断面図である。図3は、好ましい一実施形態に係るクライオポンプ10の上面図である。図4は、好ましい一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す断面図である。
露出型のクライオパネル配列14は、その外周部と放射シールド16との間にクライオポンプ開口31に開放されるクライオポンプ内部開放空間30を形成する。開放された局所空間54がクライオパネル配列14の互いに隣接するクライオパネル50によって画定されており、その局所空間54はクライオポンプ内部開放空間30へと連続している。吸着領域は、局所空間54を囲むクライオパネル50の表面に形成されている。こうした局所空間54の開放性は吸着領域への気体の到達を促進し、クライオポンプ10による非凝縮性気体例えば水素の高速排気の実現を支援する。
開放局所空間54の少なくとも一部は隣接するクライオパネル50によってクライオポンプ開口31から遮蔽され、吸着領域はその局所空間54に収容されている。クライオポンプ開口31への吸着領域の直接の露出を避けることにより、クライオポンプ10に進入する気体に含まれる難再生気体から吸着領域は保護される。こうして、非凝縮性気体の高速排気と、難再生気体からの吸着領域の保護とを両立することができる。
クライオポンプ10は、第1の冷却温度レベルに冷却される第1のクライオパネルと、第1の冷却温度レベルよりも低温の第2の冷却温度レベルに冷却される第2のクライオパネルと、を備える。第1のクライオパネルは、第1の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体を凝縮により捕捉する。例えば基準蒸気圧(例えば10−8Pa)よりも蒸気圧が低い気体が排気される。
第2のクライオパネルはソープションパネルであり、蒸気圧が高いために第2の温度レベルにおいても凝縮しない非凝縮性気体を吸着により捕捉する。そのためにパネル表面の全域または大半が吸着領域である。吸着領域は例えばパネル表面に吸着剤を設けることにより形成される。吸着剤は例えば活性炭である。吸着領域は特定の気体分子を選択的に吸着するように形成されている例えばゼオライト等の吸着剤を用いてもよいし、そのようにパネル基材に形成されている多孔質の表層であってもよい。非凝縮性気体は、第2の温度レベルに冷却された吸着領域に吸着されて排気される。非凝縮性気体は、水素を含む。第2の冷却温度レベルにおいて蒸気圧が低い気体が雰囲気に存在する場合には、ソープションパネルの吸着剤の上にまたは吸着剤のない表面の上に凝縮により捕捉される。
クライオポンプ10は、冷凍機12を備える。冷凍機12は、作動気体を吸入して内部で膨張させて吐出する熱サイクルによって寒冷を発生する。冷凍機12は、ギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)である。また冷凍機12は2段式の冷凍機であり、第1段シリンダ18、第2段シリンダ20、第1冷却ステージ22、第2冷却ステージ24、及び冷凍機モータ26を有する。第1段シリンダ18と第2段シリンダ20とは直列に接続されており、互いに連結される第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサ(図示せず)がそれぞれ内蔵されている。第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサの内部には蓄冷材が組み込まれている。なお、冷凍機12は2段GM冷凍機以外の冷凍機であってもよく、例えば単段GM冷凍機を用いてもよいし、パルスチューブ冷凍機やソルベイ冷凍機を用いてもよい。
冷凍機12は、作動気体の吸入と吐出を周期的に繰り返すために作動気体の流路を周期的に切り替える流路切替機構を含む。流路切替機構は例えばバルブ部とバルブ部を駆動する駆動部とを含む。バルブ部は例えばロータリーバルブであり、駆動部はロータリーバルブを回転させるためのモータである。モータは、例えばACモータまたはDCモータであってもよい。また流路切替機構はリニアモータにより駆動される直動式の機構であってもよい。
第1段シリンダ18の一端に冷凍機モータ26が設けられている。冷凍機モータ26は、第1段シリンダ18の端部に形成されているモータ用ハウジング27の内部に設けられている。冷凍機モータ26は、第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサのそれぞれが第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20の内部を往復動可能とするように第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサに接続される。また、冷凍機モータ26は、モータ用ハウジング27の内部に設けられている可動バルブ(図示せず)を正逆回転可能とするように当該バルブに接続される。
第1冷却ステージ22は、第1段シリンダ18の第2段シリンダ20側の端部すなわち第1段シリンダ18と第2段シリンダ20との連結部に設けられている。また、第2冷却ステージ24は第2段シリンダ20の末端に設けられている。第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24はそれぞれ第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20に例えばろう付けで固定される。
モータ用ハウジング27の外側に設けられている気体供給口42及び気体排出口44を通じて冷凍機12は圧縮機102に接続される。冷凍機12は、圧縮機102から供給される高圧の作動気体(例えばヘリウム等)を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。圧縮機102は、冷凍機12で膨張した作動気体を回収し再び加圧して冷凍機12に供給する。
具体的には、まず圧縮機102から冷凍機12に高圧の作動気体が供給される。このとき、冷凍機モータ26は、気体供給口42と冷凍機12の内部空間とを連通する状態にモータ用ハウジング27内部の可動バルブを駆動する。冷凍機12の内部空間が高圧の作動気体で満たされると、冷凍機モータ26により可動バルブが切り替えられて冷凍機12の内部空間が気体排出口44に連通される。これにより作動気体は膨張して圧縮機102へと回収される。可動バルブの動作に同期して、第1段ディスプレーサ及び第2段ディスプレーサのそれぞれが第1段シリンダ18及び第2段シリンダ20の内部を往復動する。このような熱サイクルを繰り返すことで冷凍機12は第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24に寒冷を発生させる。
第2冷却ステージ24は第1冷却ステージ22よりも低温に冷却される。第2冷却ステージ24は例えば10K乃至20K程度に冷却され、第1冷却ステージ22は例えば80K乃至100K程度に冷却される。第1冷却ステージ22には第1冷却ステージ22の温度を測定するための第1温度センサ23が取り付けられており、第2冷却ステージ24には第2冷却ステージ24の温度を測定するための第2温度センサ25が取り付けられている。
冷凍機12の第1冷却ステージ22には放射シールド16が熱的に接続された状態で固定され、冷凍機12の第2冷却ステージ24にはクライオパネルアセンブリ14が熱的に接続された状態で固定されている。このため、放射シールド16は第1冷却ステージ22と同程度の温度に冷却され、クライオパネルアセンブリ14は第2冷却ステージ24と同程度の温度に冷却される。
CPコントローラ100(図1参照)はセンサ出力信号に基づいて制御出力を決定する。CPコントローラ100は例えば、冷凍機モータ26に供給されるべき電圧及び周波数を決定する。CPコントローラ100は、冷凍機モータ26に付設されるインバータ(図示せず)を制御する。冷凍機モータのインバータはCPコントローラ100からの指令によって、外部電源例えば商用電源から供給される規定の電圧及び周波数の電力を調整し冷凍機モータ26に供給する。
CPコントローラ100は例えば、クライオパネルの温度に基づいて冷凍機12を制御する。CPコントローラ100は、クライオパネルの実温度が目標温度に追従するように冷凍機12に運転指令を与える。例えば、CPコントローラ100は、第1クライオパネルの目標温度と第1温度センサ23の測定温度との偏差を最小化するようにフィードバック制御により冷凍機モータ26の運転周波数を制御する。冷凍機モータ26の運転周波数に応じて冷凍機12の熱サイクルの周波数が定まる。第1クライオパネルの目標温度は例えば、真空チャンバ80で行われるプロセスに応じて仕様として定められる。この場合、冷凍機12の第2冷却ステージ24及びクライオパネルアセンブリ14は、冷凍機12の仕様及び外部からの熱負荷によって定まる温度に冷却される。
第1温度センサ23の測定温度が目標温度よりも高温である場合には、CPコントローラ100は、冷凍機モータ26の運転周波数を増加するよう指令値を出力する。モータ運転周波数の増加に連動して冷凍機12における熱サイクルの周波数も増加され、冷凍機12の第1冷却ステージ22は目標温度に向けて冷却される。逆に第1温度センサ23の測定温度が目標温度よりも低温である場合には、冷凍機モータ26の運転周波数は減少されて冷凍機12の第1冷却ステージ22は目標温度に向けて昇温される。
通常は、第1冷却ステージ22の目標温度は一定値に設定される。よって、CPコントローラ100は、クライオポンプ10への熱負荷が増加したときに冷凍機モータ26の運転周波数を増加するように指令値を出力し、クライオポンプ10への熱負荷が減少したときに冷凍機モータ26の運転周波数を減少するように指令値を出力する。なお、目標温度は適宜変動させてもよく、例えば、目標とする雰囲気圧力を排気対象容積(例えば真空チャンバ80)に実現するようにクライオパネルの目標温度を逐次設定するようにしてもよい。またCPコントローラ100は、第2クライオパネルの実温度を目標温度に一致させるように冷凍機モータ26の運転周波数を制御してもよい。
典型的なクライオポンプにおいては、熱サイクルの周波数は常に一定とされている。常温からポンプ動作温度への急冷却を可能とするように比較的大きい周波数で運転するよう設定され、外部からの熱負荷が小さい場合にはヒータにより加熱することでクライオパネルの温度を調整する。よって、消費電力が大きくなる。これに対して本実施形態においては、クライオポンプ10への熱負荷に応じて熱サイクル周波数を制御するため、省エネルギー性に優れるクライオポンプを実現することができる。また、ヒータを必ずしも設ける必要がなくなることも消費電力の低減に寄与する。
クライオポンプ10は、クライオパネルアセンブリまたはクライオパネル構造体14を備える。クライオパネルアセンブリ14は、冷凍機12の第2冷却ステージ24により冷却される複数のクライオパネルを含む。これらのパネルは放射シールド16内で手前即ち開口側から奥へと配列されている。各クライオパネルは、シールド開口31を向く前面とシールド開口31とは反対側即ち閉塞部28を向く背面とを有する。クライオパネルアセンブリ14は、放射シールド16の側面を向くクライオパネルまたはその他の向きに向けられたクライオパネル(図示せず)を含んでもよい。パネル表面には気体を凝縮または吸着により捕捉して排気するための極低温面が形成される。クライオパネルの表面には通常、気体を吸着するための活性炭などの吸着剤が設けられる。
クライオパネルアセンブリ14は、その外周部と放射シールド16との間に、シールド開口31へと開放された内部空間30を形成する。クライオパネルアセンブリ14は、その少なくとも一部例えば外周部を、シールド前端33から視認可能である。図2に示すクライオポンプ10と図3及び図4に示すクライオポンプ10とはクライオパネルアセンブリ14の具体的な形態を異にする。それぞれのクライオパネルアセンブリ14の構成の詳細については後述する。
クライオポンプ10は、放射シールド16を備える。放射シールド16は、クライオパネルアセンブリ14を周囲の輻射熱から保護するために設けられている。放射シールド16は一端にシールド開口31を有する有底の円筒状の形状に形成されている。シールド開口31は放射シールド16のシールド前端33により、例えば筒状側面の端部内面により画定される。シールド前端33は、真空チャンバ80からクライオパネルアセンブリ14へと気体を受け入れるための開口を形成する。
一方、放射シールド16のシールド開口31とは反対側つまりポンプ底部側の他端には閉塞部28が形成されている。閉塞部28は、放射シールド16の円筒状側面のポンプ底部側端部において径方向内側に向けて延びるフランジ部により形成される。図2に示されるクライオポンプ10はいわゆる縦型のクライオポンプであるので、このフランジ部が冷凍機12の第1冷却ステージ22に取り付けられている。冷凍機12は放射シールド16の中心軸に沿って内部空間30に突出しており、第2冷却ステージ24は内部空間30に挿入された状態となっている。
図4に示されるいわゆる横型のクライオポンプは、放射シールド16の軸方向に交差する方向(通常は直交方向、図4においては紙面の奥から手前に)に冷凍機の第2段の冷却ステージ24が挿入され配置されている。横型の場合には閉塞部28は通常完全に閉塞されている。冷凍機12は、放射シールド16の側面に形成されている冷凍機取付用の開口部から放射シールド16の中心軸に直交する方向に沿って内部空間30に突出して配置される。冷凍機12の第1冷却ステージ22は放射シールド16の冷凍機取付用開口部に取り付けられ、冷凍機12の第2冷却ステージ24は内部空間30に配置される。第2冷却ステージ24にはクライオパネルアセンブリ14が取り付けられる。こうしてクライオパネルアセンブリ14は放射シールド16の内部空間30に配置される。
また図2乃至図4に示されるように、放射シールド16のシールド開口31には、放射シールド16に熱的に接続されているバッフルまたはルーバー32が設けられている。ルーバー32と放射シールド16とは同軸に配置され、ルーバー32の外周部と放射シールド16との間には環状の開放領域35が形成されている。ルーバー32は、クライオパネルアセンブリ14とは放射シールド16の中心軸方向に間隔をおいて設けられている。なおルーバー32と真空チャンバ80との間にはゲートバルブ7(図1参照)が設けられている。
図3に示されるように、ルーバー32は、取付構造37により放射シールド16に取り付けられている。取付構造37は例えば90度おきに4箇所に設けられる。取付構造37は、ルーバー32を放射シールド16に機械的に固定するとともに、放射シールド16からルーバー32への伝熱経路としても機能する。
ルーバー32は複数の羽板38から形成されており、各羽板38はそれぞれ径の異なる円すい台の側面の形状に形成されて同心円状に配列されている。図3では各羽板38の間に隙間があるが、隣接する羽板38が互いに重なり合って上から見たときに隙間のないよう各羽板38が密に配列されてもよい。各羽板38は十字形状の支持部材39に取り付けられ、この支持部材39が取付構造37に取り付けられている。ルーバー32は、真空チャンバ80側から見たときに例えば同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。
クライオポンプ10による水素排気速度が要求仕様を実現するように開放領域35の面積が設定される。具体的には例えば、ルーバー32の羽板38の枚数を変えることによりルーバー32の径を異ならせて、開放領域35の面積を調整することができる。ルーバー32によって遮蔽されていないクライオパネルアセンブリ14の露出部位例えば周縁部が開放領域35を通じて外部から視認される。
クライオポンプ10は、ポンプケース34によって真空チャンバ80に取り付けられている。真空チャンバ80は、例えばビームライン部4またはエンドステーション部5(図1参照)の真空チャンバである。クライオポンプ10はポンプケース34のフランジ部36を介して真空チャンバ80の排気用開口に気密に固定され、真空チャンバ80の内部空間と一体の気密空間が形成される。
ポンプケース34は、放射シールド16、ルーバー32、クライオパネルアセンブリ14、及び冷凍機12の第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を収容する。ポンプケース34及び放射シールド16はともに円筒状に形成されており、同軸に配設されている。ポンプケース34の内径が放射シールド16の外径を若干上回っているので、放射シールド16はポンプケース34の内面との間に若干の間隔をもって配置される。
ポンプケース34は径の異なる2つの円筒を直列に接続して形成されている。ポンプケース34の大径の円筒側端部は開放され、真空チャンバ80との接続用のフランジ部36が径方向外側へと延びて形成されている。よってポンプケース34の大径の端部は、クライオポンプの外部例えば真空チャンバ80から気体を受け入れるためのクライオポンプ開口31を画定する。ポンプケース34の小径の円筒側端部は冷凍機12のモータ用ハウジング27に固定されている。
クライオパネルアセンブリ14は放射シールド16の内部空間30に配置されている。クライオパネルアセンブリ14は、複数のクライオパネル50と、パネル取付部材52とを備える。クライオパネルアセンブリ14は、異型のまたは異径のクライオパネルの組合せを含む。
パネル取付部材52は、設計されたパネルレイアウトに従って複数のクライオパネル50を固定的に配列し、冷凍機12の第2冷却ステージ24から各クライオパネル50への伝熱経路を構成する要素である。パネル取付部材52は例えば、第2冷却ステージ24への取付のため底面と、複数のクライオパネル50を固定するための側面と、を有する部材である。パネル取付部材52は、その底面がポンプ開放側に向けられて、側面が第2冷却ステージ24を囲んでいる。
複数のクライオパネル50は、シールド開口31に近い手前から奥へと配列されている。各クライオパネル50は放射シールド16の側面に向けて互いに平行に延びている。クライオパネル50は隣接するクライオパネルの間隔は等しくされて均等に配列されている。複数のクライオパネル50は、複数の大型のクライオパネルと複数の小型のクライオパネルとを含む。図3及び図4に示す一実施例では、更に大型の複数のクライオパネルが含まれる。小型のクライオパネルは、大型のクライオパネルの外形に包摂される形状を有する。クライオパネル外周端は、シールド中心軸から開放空間30へ向けて放射方向に突き出している。クライオパネル外周端と放射シールド16の側面との間に開放空間30が広がっており、開放空間30はルーバー32の周囲の開放領域35へと直接に連続している。
以下ではクライオポンプ開口31に面するクライオパネルをトップパネルと呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ開口31に最も近いクライオパネルがトップパネルである。図2においてはトップパネルが大型のクライオパネルであるが、図4に示すようにトップパネルは小型のクライオパネルであってもよい。また、トップパネルは1枚のクライオパネルであってもよいし、クライオポンプ開口31に最も近いいくつかのクライオパネルを総称するものであってもよい。
図2に示す一実施例においては、大型のクライオパネルと小型のクライオパネルとが互いに間隔をあけて交互に配列されている。すなわち、大型のクライオパネルに小型のクライオパネルが隣接しており、その小型のクライオパネルに次の大型のクライオパネルが隣接している。大型のクライオパネルの外周端は、小型のクライオパネルの外周端よりも放射シールド16に近接する位置まで延びている。ルーバー32は大型のクライオパネルと小型のクライオパネルとの中間のサイズを有してもよい。
一方、図3及び図4に示す好ましい一実施例においては、クライオパネルアセンブリ14の複数のクライオパネル50はその寸法によって複数のグループに区分けされ、そのグループが放射シールド16の手前から奥へと配列されている。
本実施例においてはシールド開口31に近いほうから順に第1から第3の3つのグループに分けられており、奥にあるグループほど大型である。そこで、第1グループのクライオパネルをトップパネルまたは小型クライオパネル60と、第2グループのクライオパネルを中間パネルまたは中型クライオパネル62と、第3グループのクライオパネルを下側パネルまたは大型クライオパネル64と、以下では適宜称する。なお本実施例においては3つのグループに分けられているが、クライオパネルアセンブリ14は2つのグループを備えてもよいし、3より多くのグループを備えてもよい。
各グループは少なくとも1つのクライオパネルを含み、好ましくは各グループが複数のクライオパネルを含む。一実施例においては、各グループが2枚乃至5枚のクライオソープションパネルを有し、クライオパネルアセンブリ14は合計で8枚乃至14枚のクライオソープションパネルを有する。図4においては、小型クライオパネル60、中型クライオパネル62、大型クライオパネル64はそれぞれ、3枚、4枚、3枚である。
中型クライオパネル62は、小型クライオパネル60に対しシールド開口31とは反対側に配設されている。大型クライオパネル64は、中型クライオパネル62に対しシールド開口31とは反対側に配設されている。中型クライオパネル62の外周部は小型クライオパネル60に平行にかつ小型クライオパネル60の外周部よりも放射シールド16に近接する位置まで延びている。大型クライオパネル64の外周部は中型クライオパネル62に平行にかつ中型クライオパネル62の外周部よりも放射シールド16に近接する位置まで延びている。図3に示されるように、ルーバー32は小型クライオパネル60(図3に破線で示す)と中型クライオパネル62との中間のサイズを有してもよい。
一実施例においては、各クライオパネル50は円板形状を有する。この場合、複数のクライオパネル50は、大径の円板パネルと小径の円板パネルとその中間の径の円板パネルとを含む。ルーバー32は、中間径の円板パネルと小径の円板パネルとの中間の径を有する円板状のルーバーであってもよい。図2に示す実施例においては、ルーバー32は、大径の円板パネルと小径の円板パネルとの中間の径を有する円板状のルーバーであってもよい。
複数のクライオソープションパネル50の各々は、シールド開口31またはルーバー32を向く前面とその反対側である閉塞部28を向く背面とを含む例えば金属のプレートである。プレートの表面に活性炭が接着されて吸着領域が形成されている。前面と背面の合計面積の例えば少なくとも50%は吸着領域であり、残りの多くとも50%は非吸着領域である。非吸着領域は吸着剤が設けられていないプレートの金属面が露出された吸着剤欠落区域である。こうした吸着剤欠落区域は凝縮領域として機能しうる。
各クライオパネル50の背面全域が吸着領域であり、クライオパネル50の前面の少なくとも一部も吸着領域であってもよい。最上部のクライオパネルは背面のみが吸着領域を有してもよい。図2に示す一実施例においては例えば、最上部のクライオパネルを除く下方のクライオパネル50のうち少なくとも大型クライオパネルの前面は中心部が吸着領域であり、その外側が非吸着領域または凝縮領域であってもよい。それら下方のクライオパネル50のうち小型クライオパネルの前面は全域が吸着領域であってもよい。最下方にあるいくつかの大型クライオパネルの前面も全域が吸着領域であってもよい。
吸着領域と非吸着領域との境界、言い替えれば吸着剤の欠落区域と存在区域との境界は、クライオパネルの前面に投射される視線の軌跡によって定めてもよい。この視線は、その1つ手前のクライオパネルの外周端へシールド前端33から引かれる直線である。つまり、その視線とパネル前面との交差した線が境界線となる。その境界線の内側に吸着領域が形成され、好ましくは境界内側は吸着領域が占有する。また、凝縮領域は境界外側の区域を包含し、好ましくは境界外側に限定される。このようにして、クライオパネル50の前面の外周部が吸着領域と凝縮領域とに区分されている。
図5は、図4に示すクライオポンプに関しクライオパネル50に形成される吸着領域を説明するための図である。図5に破線の矢印で、シールド前端33からの第1視線70と第2視線72とを説明のために例示する。第1視線70は、シールド開口31またはシールド前端33から最も離れた小型クライオパネル60の外側末端への視線である。第2視線72は、シールド開口31またはシールド前端33に最も近い中型クライオパネル62の外側末端への視線である。上述のように、シールド開口31から最も離れた小型クライオパネル60とシールド開口31に最も近い中型クライオパネル62とは隣接している。
シールド開口31に最も近い中型クライオパネル62の前面における第1視線70の軌跡が、その中型クライオパネル62の前面における吸着領域74と凝縮領域78との境界84を与える。また、シールド開口31に二番目に近い中型クライオパネル62の前面における第2視線72の軌跡が、その中型クライオパネル62の前面における吸着領域76と凝縮領域82との境界86を与える。同様にして、残りの中型クライオパネル62、小型クライオパネル60、及び大型クライオパネル64についても吸着領域と凝縮領域との境界を決めることができる。
図6は、図4及び図5に示すクライオポンプ10に関しクライオパネル50のパネル前面を示す上面図である。クライオパネル50にはパネル取付部材52への取付のために、外周の一部分から中心部へと切欠部88が形成されている。図6には一例として、図5の第2視線72によって決められた境界線86を示す。シールド開口31及びクライオパネル50が円形であることに対応して、境界線86もパネル前面で円を描く。この場合、境界線86は吸着剤の貼付限界半径を表す。貼付限界半径の内側全域に吸着剤を接着することにより、シールド開口31から見て吸着剤を露出させることなく最も多くの吸着剤をパネル前面に搭載することができる。
図7は、図6に示すクライオパネル50の背面を示す図である。上述のようにパネル背面は全域に吸着剤を接着してもよいし、図7に示されるように背面外周端をわずかに空けてもよい。こうした幅狭の吸着剤欠落区域は、例えば、接着される吸着剤例えば活性炭の粒の高さを考慮して、シールド開口31に露出されないことを確実にするために設けてもよい。
このようにして、クライオソープションパネル50には吸着剤欠落区域が吸着剤存在区域と共通の面に形成されている。共通の面は例えば平面であり、より具体的には、パネル前面またはパネル背面である。吸着剤欠落区域は、クライオコンデンセイションのためにクライオパネル基材表面例えば金属面が露出されている。吸着剤欠落区域は、クライオポンプ開口31を通じて視認される周縁露出部位にある。
クライオパネル50に接着されている活性炭の粒は例えば円柱形状に成形されている。多数の活性炭の粒がクライオパネル50の表面に密に並べられた状態で不規則な配列で接着されている。なお吸着剤の形状は円柱形状でなくてもよく、例えば球状やその他の成形された形状、あるいは不定形状であってもよい。吸着剤のパネル上での配列は規則的配列であっても不規則な配列であってもよい。
図2及び図4の実施例においては、複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の少なくとも60%または少なくとも70%が吸着剤に覆われている。好ましくは、少なくとも上方(開口側)のクライオパネル50の中心部を吸着剤存在区域にすることにより、複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の多くとも90%または多くとも80%が吸着剤に覆われている。複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の65〜85%が吸着剤に覆われていてもよい。
また、図2及び図4の実施例においては、複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の多くとも40%または多くとも30%は吸着剤の欠落した区域である。好ましくは、少なくとも上方(開口側)のクライオパネル50の外周部を吸着剤欠落区域にすることにより、複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の少なくとも10%または少なくとも20%が吸着剤欠落区域である。複数のクライオパネル50の前面と背面の合計面積の15〜35%が吸着剤欠落区域であってもよい。
特に、中型クライオパネル62を含むクライオパネルアセンブリ14においては、中型クライオパネル62の総表面積の少なくとも60%または少なくとも70%が吸着剤に覆われていることが好ましい。中型クライオパネル62の各パネルの各面について少なくとも60%または少なくとも70%が吸着剤に覆われていてもよい。各パネルの両面について、または複数パネルの合計として、少なくとも60%または少なくとも70%が吸着剤に覆われていてもよい。また、外周部を吸着剤欠落区域にすることにより、中型クライオパネル62の総表面積の90%以下または80%以下が吸着剤に覆われていることが好ましい。より好ましくは、中型クライオパネル62は65〜85%の吸着剤被覆率を有する。
この場合、小型クライオパネル60は中型クライオパネル62に等しいかまたは中型クライオパネル62よりも小さい吸着剤被覆率を有することが好ましい。例えば小型クライオパネル60は50〜65%の吸着剤被覆率を有することが好ましい。大型クライオパネル64は中型クライオパネル62に等しいかまたは中型クライオパネル62よりも大きい吸着剤被覆率を有することが好ましい。例えば大型クライオパネル64は85〜100%の吸着剤被覆率を有することが好ましい。大型クライオパネル64は両面全域が吸着剤で覆われていてもよい。
図8及び図9は、本発明の一実施形態に係るクライオパネルアセンブリ14の吸着剤欠落率または被覆率の一例を示すテーブルである。小型クライオパネル60、中型クライオパネル62、及び大型クライオパネル64のそれぞれについて吸着剤の欠落率及び被覆率を示す。個別のプレートと、グループの合計との両方について欠落率及び被覆率を示す。図8は前面と背面のそれぞれについて示し、図9は前面と背面との合計を示す。
図8及び図9においては、小型クライオパネル60、中型クライオパネル62、大型クライオパネル64をそれぞれ1群、2群、3群と表記している。本実施例では、1群、2群、3群はそれぞれ3枚、4枚、3枚のプレートを含み、合計10枚のプレートを含む。これらのプレートが図4に示されるクライオパネルアセンブリ14と同様に配列されている。図8ではそれぞれをプレート番号1から番号10を付して表している。
この実施例では、各プレートは金属であり吸着剤は粒状の活性炭であり、活性炭が金属面に接着剤で接着されている。よって、図8に示される金属部の面積はプレートの前面及び背面それぞれの面積を表す。活性炭部の面積は、その表面に活性炭が設けられていない場合にはゼロであり、表面全域が活性炭に覆われている場合には金属部の面積に等しく、活性炭を欠落した区域がある場合にはそれらの中間の値となる。金属部の面積に占める活性炭部の面積の比率が被覆率であり、金属部の面積に占める残りの面積の比率が欠落率である。
なお、小型クライオパネル60の3枚のプレートはいずれも同径である。1群の最も開口に近いトッププレート(プレート番号1)のほうがその直下のプレート(プレート番号2、3)よりも面積が大きいのは、プレート番号2、3が図6に示すように切欠部88を有するのに対し、トッププレートは有しないからである。つまり切欠部88に相当する面積だけトッププレートのほうが面積が大きくなっている。
プレートの前面については、図6に示す実施例と同様に、プレート前面と、その手前側の隣接プレート末端へのシールド前端33からの視線との交差により定まる境界の内側に活性炭が接着されている。しかし、1群の最も開口に近いトッププレート(プレート番号1)の前面には活性炭は設けられておらず、金属面が露出されている。その直下のプレート(プレート番号2)についても、前面に活性炭は設けられておらず金属面が露出されている。シールド前端33からの視線とプレート面とが交わらないためである(即ち前面全域がシールド前端33から見える)。
視線により定まる境界の内側の全域を活性炭が占有しているのは、1群の最も開口から遠いプレート(プレート番号3)、2群の最も開口に近いプレート(プレート番号4)、2群の2番目に開口に近いプレート(プレート番号5)、3群の最も開口に近いプレート(プレート番号8)、3群の2番目に開口に近いプレート(プレート番号9)である。
製作上の効率性から、2群の2枚の下方のプレート(プレート番号6、7)は、その直上のプレート(プレート番号5)と同一とし、3群の最下方のプレート(プレート番号10)は、その直上のプレート(プレート番号9)と同一としている。よって、これらのプレートは、視線により定まる境界よりも若干内側に、実際の活性炭部の外周がある。これらのプレートについても、視線により定まる境界と実際の活性炭部の外周とを一致させて活性炭部をいくらか広くしてもよい。
プレートの背面については、図7に示す実施例とは異なり、外周端に活性炭欠落区域を設けずに全域に活性炭を接着している。よって、背面の金属部面積と活性炭部面積とは等しくなっている。
図9に示される各群の小計を見ると、活性炭被覆率は1群が50%、2群が77%、3群が87%であり、段階的に大きくなっている。クライオパネルアセンブリ14の全体では、活性炭被覆率は76%である。
図2及び図4に示されるように、隣接する2つのクライオパネル50の一方の背面と他方の前面とが放射シールド16の側面に向けて平行に延びており、その間に開放部分54が形成されている。開放部分54は、放射シールド16に向けられており、開放空間30に連続する。開放部分54の外周側は、開放空間30に連続する気体の入口であり、開放部分54の内周側は、隣接する2つのクライオパネル50とパネル取付部材52とによって閉塞されている。
開放部分54の深さが隣接する2つのクライオパネル50の間隔よりも大きくなるように、クライオパネル50はシールド中心軸方向に密集して配列されている。開放部分54の「深さ」は、クライオパネル50の面内方向の長さであり、クライオパネル外周端からパネル取付部材52までの距離である。隣接する2つのクライオパネル50の大きさが異なる場合には、小さいほうのクライオパネル外周端からパネル取付部材52までの距離が開放部分54の深さである。こうした密集パネル配列によって、より多くの吸着剤をクライオポンプ内部の限られた空間に搭載することができる。
開放部分54を囲むクライオパネル50の表面に吸着領域が形成されているので、少なくとも90%の吸着剤が、好ましくは実質的にすべての吸着剤が、放射シールド16またはシールド開口31に向けて露出されている。クライオポンプ10へと向けて飛来する気体分子はルーバー32の周囲の開放領域35を通過して内部開放空間30へと進入する。水素等の非凝縮性気体はシールド面またはパネル面で反射されて開放部分54へと進入し、吸着剤へと到達する。開放領域35から開放空間30を通じて開放部分54へと続くクライオポンプ内部の開放性は外部から吸着領域への気体の到達を促進する。こうして、少なくとも30%という高い水素捕捉確率を有するクライオポンプ10が実現される。
水素捕捉確率は、クライオポンプ10と同一の口径を有する(即ちクライオポンプ開口面積が同一である)クライオポンプにおける理論上の最大の水素排気速度に対する実際の水素排気速度の比で与えられる。クライオポンプの実際の水素排気速度は、公知のモンテカルロシミュレーションにより求めることができる。
また、理論上の水素排気速度はその開口についての分子流のコンダクタンスに等しいとみなすことができる。水素のコンダクタンスC(水素)は、20℃空気のコンダクタンスC(20℃空気)から次式で求められる。
ここで、Tは水素ガスの温度(K)であり、Mは水素の分子量(即ちM=2)である。20℃空気のコンダクタンスC(20℃空気)は、開口面積A(m2)に比例し、C(20℃空気)=116Aで与えられる。例えば口径250mmのクライオポンプの場合には上式により、理論上の水素排気速度は約20840L/sである。このとき、水素捕捉確率が30%であることと、そのクライオポンプの水素排気速度が約6252L/sであることとは等価である。
典型的な従来の水素高速排気のためのクライオポンプは、より多くのクライオパネルすなわち活性炭をクライオポンプに搭載することで排気速度を高めるという考え方で設計されている。よって、排気速度の向上と、パネル重量の増大さらには再生時間(特にクールダウン時間)の増加とは、トレードオフの関係にある。排気速度を高めつつクールダウン時間の増加を抑えるには、冷凍能力の高い冷凍機を要する。そのため、排気速度の向上によって省エネルギー性能が犠牲となりうる。
これに対して本発明の一実施形態は、水素高速排気のためのクライオポンプにおいて水素排気効率を最適化するという新たな設計思想を提供する。本発明者は、クライオポンプの水素排気速度(L/s)と吸着領域面積(mm2)との比、すなわち吸着剤存在区域単位面積当たりの排気速度をクライオポンプの水素排気効率(L/s・mm2)と定義する。単純に吸着剤を増やす代わりに、吸着領域面積をいくらか小さくすることにより排気効率を高める。上述のようにクライオパネル外周部において吸着領域面積を減らしてもよいし、その他の部位において吸着領域面積を減らしてもよい。
吸着領域面積をいくらか小さくすると、それに応じてクライオポンプの水素排気速度もいくらか小さくなる。しかし、それは実際上あまり問題にならないと考察される。クライオポンプ単体で排気速度に差があっても、真空チャンバに実際に取り付けてクライオポンプを運転したときに実際に結果として生じる排気速度の差はそれよりも小さくなる傾向にある。なぜなら、真空チャンバ側のコンダクタンスによる制限のために、クライオポンプ単体で見たときの排気速度性能がそのまま発揮されるわけでは必ずしもないからである。
本発明者の経験と考察によれば、水素高速排気のためのクライオポンプにおいては、クライオポンプ単体での排気速度性能に10%の違いがあったとしても、真空チャンバに取り付けたときの排気速度性能にはほとんど影響がない。よって、水素排気速度の減少許容範囲を10%以内と設定した場合には、吸着領域面積の低減による水素排気効率の向上の利点は排気速度減少の不利益を凌駕する。そこで、本発明の一実施形態においては、クライオパネル全面を吸着剤で覆う場合の水素排気速度の少なくとも90%の排気速度を与える条件で水素排気効率を高くするよう吸着領域面積を調整してもよい。
本発明者の解析によれば、例えば図2及び図4に示すタイプの開口に平行な複数平板のパネル配列をもつクライオポンプは、クライオパネル全面を吸着剤で覆う場合には、水素排気効率は2×10−2L/s・mm2〜4×10−2L/s・mm2程度に留まる。これに対し、図2及び図4に示す実施例のように吸着剤の欠落部位を設けることにより、水素排気効率を5×10−2L/s・mm2以上に高めることができる。水素排気速度の減少許容範囲において水素排気効率を7×10−2L/s・mm2まで高めることができる。
つまり、水素排気効率はおよそ2倍程度となる。これは同レベルの水素排気速度が半分程度の吸着領域で実現されることを意味する。これによってパネル重量を1000〜2000g程度減らすことができる。パネル重量が低減されればクールダウンに要する時間も短くなる。その結果、再生時の平均消費電力をおよそ4割程度削減することができる。
なお、水素排気効率を7×10−2L/s・mm2よりも高くするためには、吸着剤を完全に露出するタイプのクライオパネルアセンブリ(例えば特許文献4(特開2009−162074号公報)を参照)を採用することが現実的であろう。特開2009−162074号公報を参照によりその全体を本願明細書に援用する。
ところで、外部からクライオポンプ10へと向けて飛来する凝縮性気体の分子は、ルーバー32の周囲の開放領域35を通過して、放射シールド16またはクライオパネル50外周の凝縮領域に直線的経路で到達し、それらの表面に捕捉される。開放局所空間54は外周側の気体入口を除いて、上側のクライオパネル50によりクライオポンプ開口31から遮蔽され、吸着領域はその遮蔽部位に収容されている。難再生気体はほぼ例外なく凝縮性気体である。クライオポンプ開口31への吸着領域の直接の露出を避けることにより、クライオポンプ10に進入する気体に含まれる難再生気体から吸着領域は保護される。難再生気体は凝縮領域に堆積される。こうして、非凝縮性気体の高速排気と、難再生気体からの吸着領域の保護とを両立することができる。
本発明の一実施形態においては、吸着領域が遮蔽部位に収容されることにより、クライオポンプ開口31から視認不能である。言い替えれば、クライオパネル50の吸着剤総面積に対するクライオポンプ開口31から視認可能である吸着剤面積の比率である「吸着剤見える率」がゼロ%である。しかし、本発明の一実施形態に係るクライオポンプは、吸着剤見える率がゼロ%である構成には限定されない。吸着剤見える率が7%未満である場合には、実質的に吸着剤が開口から視認不能であると評価してもよい。一実施例においては、吸着剤見える率が7%未満、5%未満、または3%未満であることが好ましい。しかし、例えば難再生気体の含有量が十分に低いと見込まれる場合、または露出された吸着剤を犠牲にすることが許容される場合には、7%を超える吸着剤が開口から見えていてもよい。
クライオポンプ開口31に近いクライオパネル50に比べて、クライオポンプ開口31から離れた放射シールド16内方のクライオパネル50へは気体分子が到達しにくい。クライオポンプ開口31から離れたクライオパネル50は排気速度への寄与は小さく難再生気体の影響も小さい。よって、一実施例においては、下側の大型クライオパネル64は周縁露出部位に吸着剤が設けられていてもよい。例えば図8に示す実施例において大型クライオパネル64の前面全域に吸着剤を設けた場合の吸着剤見える率は約7%である。
クライオポンプ10の動作を述べる。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプを用いて真空チャンバ80内部を1Pa〜10Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。冷凍機12の駆動により第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24が冷却され、これらに熱的に接続されている放射シールド16、ルーバー32、クライオパネルアセンブリ14も冷却される。上述の第1クライオパネルは放射シールド16及びルーバー32を含み、第2クライオパネルはクライオパネルアセンブリ14を含む。
冷却されたルーバー32は、真空チャンバ80からクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。ルーバー32の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体はルーバー32を通過して放射シールド16内部へと進入する。ルーバー32を通過した気体分子にクライオパネルアセンブリ14の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えばアルゴンなど)が含まれる場合には、クライオパネルアセンブリ14の表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、クライオパネルアセンブリ14の表面に接着され冷却されている吸着剤により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は真空チャンバ80内部の真空度を所望のレベルに到達させることができる。
特に、イオン注入装置の真空排気系に使用されるクライオポンプ10においては、放射シールド16内部に進入した気体のうち、有機系ガスやドーパントガス等の難再生気体はクライオパネル50の外周部の吸着剤欠落部位に凝縮される。水素ガス等の分子径が比較的小さい気体は吸着剤に吸着される。このようにしてクライオポンピング処理が行われる。
クライオポンピング処理が継続して行われると、クライオポンプ内部に気体が蓄積される。蓄積された気体を外部に排出するために再生処理を実行する。まず、ゲートバルブ7を閉じることによりクライオポンプ10を真空チャンバ80から分離する。次いでクライオパネル50を昇温する。クライオポンピング処理における冷却温度よりも高温(例えば常温)にクライオパネル50を昇温する。
昇温により、クライオパネル表面に凝縮により捕捉されていた気体は気化され、吸着により捕捉されていた気体は脱着されてポンプ容器内部に再放出される。再放出された気体はクライオポンプ10の排出口(図示せず)を通じて、例えば付設の粗引きポンプの駆動により外部に排出する。その後、クライオポンピング処理における動作温度にクライオパネル50を再冷却する。再冷却により再生処理は完了する。ゲートバルブ7が開放されて、再びクライオポンピング処理が開始される。このようにして、クライオポンピング処理と再生処理とが交互に行われる。
図10は、本発明の一実施形態に係り、再生を通じたクライオポンプの水素排気速度変化を示す図である。図10には、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の水素排気速度変化を示す。比較のために、例えば特開2009−162074号公報に記載される吸着剤を完全に露出するタイプのクライオパネルアセンブリを有するクライオポンプについての水素排気速度変化を示す。図10の縦軸は水素排気速度の測定値を示し、横軸は再生回数を示す。実線上にある排気速度測定値は再生処理の実行直前の値であり、破線上にある測定値は再生完了直後の値である。
図10に示す1回目の再生に関して破線上にある測定値は、そのクライオポンプを初めて運転したときの値である。難再生気体により活性炭が汚染されていないので、比較例の完全露出型で特に高い水素排気速度が示されている。
排気速度は再生直前に低く完了後は回復すると予測される。しかし、比較例においては図示されるように、3回目の再生以降はそうした排気速度の低下と回復とが繰り返されているものの、2回目の再生までは当初の高排気速度から急速に排気速度が低下している。露出された活性炭がある程度汚染されるまでは排気速度の低下が続いたものと考えられる。以降の再生によっても初期の排気性能までは回復していない。
ところが、実施例においては1回目の再生から7回目の再生まで排気速度の増減が繰り返されている。再生を繰り返しても図示の太い破線で示すように概ね一定レベルの水素排気速度が維持されている。再生により初期の排気性能に回復している。つまり、クライオポンプの出荷直後の最初の運転から継続的に安定した排気性能が保たれることがわかる。
図11は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の製造方法を説明するためのフローチャートである。この方法は、クライオポンプ10の製造工程において作業者によりまたは製造装置によって行われる。マスキング処理に先行して、母材からクライオパネルの基材を加工し成形する処理が行われる(S10)。図11に示されるように、クライオパネル50の基材にマスキング処理がなされる(S12)。マスキング処理は、他のクライオパネル(例えばクライオパネルアセンブリ14を組み立てたときに隣接する上方のクライオパネル)によって遮蔽されない基材の露出部にマスキングをすることを含む。マスキング処理は、そうした露出部に例えばマスキングテープを貼ることを含む。
次に、マスキングされていない基材の表面に吸着剤を接着する吸着剤接着処理がなされる(S14)。この接着処理は、マスキングされていない基材の表面に接着剤を塗布することと、その接着剤塗布領域に吸着剤例えば粒状の活性炭を接着することと、を含む。吸着剤の接着されたクライオパネル50は、パネル取付部材52に取り付けられ、クライオパネルアセンブリ14が組み立てられる(S16)。クライオパネルアセンブリ14はクライオポンプ10の冷凍機12に取り付けられ、クライオポンプ10が組み立てられる(S18)。
また、マスキング処理に先行して、各クライオパネル50について放射シールド16の前端から当該クライオパネル50に隣接するクライオパネル50の末端への視線と当該クライオパネル50との交差により定まる境界の外側をマスキング領域として決定することが行われてもよい。この決定処理は、製造工程の前段階の設計工程で行われてもよい。
図12は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10の製造するための方法を説明するためのフローチャートである。この方法は例えばクライオパネルアセンブリ14を設計するために実行される。まず、ある制約条件の下でクライオパネル構造パラメタを変化させたときの最大の水素排気速度を与えるクライオパネル構造パラメタの値を求める(S20)。パネル構造パラメタを変数とし水素排気速度を目的関数として公知の実験計画法を使用して、最大水素排気速度を与えるパネル構造パラメタの値を求めてもよい。
制約条件は、クライオソープションパネルの表面の一部から吸着剤を欠落させることを含む。この吸着剤欠落条件は、放射シールド16の前端からあるクライオパネル50に隣接するクライオパネル50の末端への視線とそのクライオパネル前面との交差により定まる境界の内側に吸着領域を形成することであってもよい。
パネル構造パラメタは、クライオソープションパネルの寸法、例えばパネルが円形の場合はパネル径を含む。クライオパネルアセンブリ14が異なる形状の複数種類のクライオパネルを含む場合には、それぞれの形状を表すための複数のパラメタが使用されてもよい。クライオパネルアセンブリ14が異径のクライオパネルを複数種類含む場合には、パネル構造パラメタはそれぞれの径を含んでもよい。パネル構造パラメタは、クライオポンプ開口31とトップパネルとの間隔を含んでもよい。パネル構造パラメタは、ルーバー32の径を含んでもよい。パネル構造パラメタは、隣接するクライオパネル間隔を含んでもよい。
そうして得られたパネル構造パラメタの値に基づいてクライオソープションパネル配列の構成が決定される(S22)。例えば、クライオソープションパネルの表面の一部から吸着剤を欠落させる条件のもとで最大水素排気速度を与えるクライオパネル寸法例えばパネル径の値が得られる。この値を使用して、クライオパネルアセンブリ14の具体的構成を決めることができる。
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
上述の実施形態とは異なるパネル配列を採用してもよい。例えば、クライオパネル間隔はすべてのパネルについて等しくてもよいし、各々異なっていてもよい。例えば開口31からパネルの位置が遠ざかるにつれてパネル間隔が狭くなるように複数のパネル50のそれぞれを配置してもよい。このようにすれば、開口31に近接する領域での気体の流れ性を良好とし排気速度を高くすることができる。それとともに、開口31から遠い領域では相対的にパネルが密に配置されることにより吸着領域を増加させることができるので充分な気体吸蔵量を確保することもできる。
また、上述の実施形態とは異なる形状及び/または配向のクライオパネル50を採用してもよい。例えば、パネル50の径方向の長さを開口31から遠ざかるにつれて短くしてもよいし、互いに等しくしてもよい。パネル50を開口31から見たときの形状は円形でなくてもよく、例えば多角形形状などの他の形状であってもよい。パネル50は例えば周縁部に上方または下方への折り曲げ部分を有してもよい。パネル50は気体流通を促進するための開口またはスリットを表面に有してもよい。パネル50の向きは、径方向外側に延びるにつれて開口31から離れるように斜めになっていてもよいし、径方向外側に延びるにつれて開口31に近づくように斜めになっていてもよい。
例えば、クライオパネルアセンブリ14においてクライオパネル50以外の露出されている表面を吸着剤貼付面として利用してもよい。例えばパネル取付部材52をパネルの1つとして利用してもよい。