JP5633196B2 - 炭酸エステルの精製方法および炭酸エステル - Google Patents
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工業的に製造される炭酸エステルは、いずれの製造法でも反応副生成物や原料、触媒由来の各種不純物を含有しており、これらの不純物の内、可視領域(400〜700nm)に吸収を示す不純物の存在が確認されている。芳香族ポリカーボネートや電池やコンデンサなどの非水電解液のように着色が問題となる製品は、これらの不純物による着色が品質に大きな影響を与えるため、精製工程で十分に除去する必要がある。
蒸留法は、物質ごとの蒸気圧の差を利用して混合物の特定成分を濃縮する方法で、工業的に最も汎用的に実施されている精製方法である。しかしながら、炭酸エステルに含まれる可視領域に吸収を示す不純物の中には、蒸気圧が炭酸エステルと近い物質が存在し、蒸留法により完全に除去することが困難である。
吸着法は、シリカゲルや、活性アルミナ、合成ゼオライトなどの吸着剤と接触させ不純物を除去する精製方法である。吸着法は、吸着剤の持つ極性効果を利用するため、水分やアルコールなどの極性の高い物質は容易に除去できるが、炭酸エステルに含まれる可視領域に吸収を示す不純物の中には、極性の低い物質が存在するため、これらの吸着剤で完全に除去することは困難である。
すなわち、本発明の要旨は、下記に示すとおりである。
[1]炭酸エステルをH形の強酸性陽イオン交換樹脂と接触させることを特徴とする炭酸エステルの精製方法。
[2]H形の強酸性陽イオン交換樹脂と接触される炭酸エステルに含まれるカチオン種の総和が1000質量ppm未満であることを特徴とする上記[1]記載の炭酸エステルの精製方法。
[3]炭酸エステルと強酸性陽イオン交換樹脂とを接触する場合の通液条件が下記内であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の炭酸エステルの精製方法。
ア)通液速度(SV)が1以上200以下であること
イ)通液温度が0℃〜80℃であること
[4]強酸性陽イオン交換樹脂の官能基がスルホン酸基であることを特徴とする上記[1]ないし[3]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[5]強酸性陽イオン交換樹脂の母体構造が、架橋されたポリスチレン骨格をもつ樹脂であることを特徴とする上記[1]ないし[4]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[6]強酸性陽イオン交換樹脂が、架橋度が6質量%以下のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする上記[1]ないし[5]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[7]強酸性陽イオン交換樹脂が、細孔容積0.01ml/g以上の微多孔質構造を有する樹脂であることを特徴とする上記[1]ないし[5]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[8]強酸性陽イオン交換樹脂が、細孔容積0.1ml/g以上、比表面積1m2/g以上の多孔質構造を有する樹脂を用いることを特徴とする上記[1]ないし[5]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[9]強酸性陽イオン交換樹脂が粒径500μm以下の樹脂であることを特徴とする上記[6]記載の炭酸エステルの精製方法。
[10]強酸性陽イオン交換樹脂のH形含有率が80%以上であることを特徴とする上記[1]ないし[9]のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
[11]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートであり、可視領域の吸光度積算値が7.3未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[12]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがプロピレンカーボネートであり、可視領域の吸光度積算値が24.7未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[13]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートとジフェニルカーボネートの混合物であり、可視領域の吸光度積算値が5.7未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[14]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合物であり、可視領域の吸光度積算値が1.3未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[15]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートとジエチルカーボネートの混合物であり、可視領域の吸光度積算値が3.6未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[16]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートとエチレンカーボネートの混合物であり、可視領域の吸光度積算値が4.2未満であることを特徴とする炭酸エステル。
[17]非水電解液の溶媒として用いる炭酸エステルであって、前記炭酸エステルがジメチルカーボネートとビニレンカーボネートの混合物であり、可視領域の吸光度積算値が3.6未満であることを特徴とする炭酸エステル。
(上記[11]〜[17]において、前記可視領域の吸光度積算値は、前記炭酸エステル20mlに純度98%硫酸を0.6g添加し、30分間静置後、長さ50mmの石英セルに入れ、紫外可視分光光度計を用いて、波長域400nmから700nmの吸光度を1nm間隔で測定し、得られた吸光度の値を積算し求める。)
[炭酸エステル]
本発明において精製対象とされる炭酸エステルは、次の一般式(I)で表される化合物である。
一般式(I)中、R1とR2は、それぞれ独立して、置換基を有してもいてもよい炭化水素基であり、R1とR2は結合して、環状炭酸エステルを形成してもよい。
R1とR2とが結合せずに鎖状炭酸エステルを形成する場合は、アルキル基、アルケニル基、アリル基などが挙げられ、特にアルキル基の場合に精製効果を発現し易い。R1とR2の合計炭素数が2〜10、好ましくは2〜8が適している。これらの基は直鎖、分岐鎖いずれでもよい。また、R1とR2が結合している場合は、アルキレン基、アルケニレン基などを形成する例が挙げられる。
本発明に使用する炭酸エステルとして、鎖状炭酸エステルとしては、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどが挙げられる。環状炭酸エステルとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレンなどが挙げられる。
[イオン交換樹脂]
炭酸エステルに含まれる可視領域に吸収を示す不純物は、極めて微量であるため同定されていないが、吸収スペクトルから、C=C二重結合及び/又はC=Oなどの発色団を有する化合物と推定される。これらの化合物は、特異的なイオン性官能基を有していないので、炭酸エステル中から選択的に除去することが非常に困難である。本発明者らは鋭意検討した結果、該不純物を含有する炭酸エステルをH形の強酸性陽イオン交換樹脂と接触させることにより、該不純部に起因する可視領域の吸収を大幅に低減できることを見出し、本発明に到達した。
架橋度(全仕込モノマーの質量に対する該架橋剤の質量の割合)は、樹脂の構造により異なるが、通常、物理的多孔を有しないゲル型の樹脂では1質量%〜16質量%、乾燥状態(樹脂が溶媒和していない状態)では殆ど多孔度を有さないが湿潤状態(樹脂が溶媒和している状態)では多孔度を有する微多孔性樹脂では2質量%〜20質量%、乾燥状態でも多孔度を有する樹脂では8質量%〜55質量%程度のものが知られている。
孔径15〜75,000Åの細孔容積0.1ml/g以上のものが好ましい。イオン交換樹脂の乾燥状態での細孔容積は、例えば、200Å以上細孔径については水銀圧入法、それ以下の細孔についてはBET多点法で測定できる。多孔質型樹脂は、イオン交換樹脂としての機能は細孔表面で行われるため、架橋度によって規定することは困難である。本発明で用いる多孔質型樹脂は、乾燥状態で、細孔径15〜75,000Åの細孔容積0.1ml/g以上であることが好ましく、0.3ml/g以上がさらに好ましい。また、比表面積は、1m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がさらに好ましく、20m2/g以上であることが特に好ましい。イオン交換樹脂の乾燥状態での比表面積は、例えば、BET多点法で測定できる。微多孔質及び多孔質樹脂は、細孔表面での反応が大きく寄与するため、粒径の影響はゲル型樹脂に比べ小さく、特に規定するものではない。
強酸性陽イオン交換樹脂による炭酸エステルの精製手段は、両者を接触させればよく、特に限定されない。例えば、炭酸エステルの中に樹脂を入れ、攪拌することによる精製に代表されるバッチ形式、樹脂をカラムに充填し、炭酸エステルを通液することによるカラム流通形式などが使用できるが、工業的な実用面からは、連続で行うことが可能なカラム形式が安定した炭酸エステルの品質を与えることから、好ましい。
[着色性の評価方法]
炭酸エステルの着色は、炭酸エステル単独では発生せず、酸素の混入や光の照射、製品にする際に他の原料に含まれる不純物との反応などにより起こる。炭酸エステルの潜在的な着色性の定量は、例えば紫外可視吸光光度計を用いて、特定波長における吸光度、可視領域全体の吸光度積分値などを得ることにより実施可能である。詳細な定量方法は限定されないが、例えば、「JIS K0072,化学製品の硫酸着色試験方法」、「ASTM-D848-03,Standard Test Method for Acid Wash Color of Industrial Aromatic Hydrocarbons」など
公知の方法で評価できる。
(比較例1)
蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸ジメチル(DMC)20mlに純度98%硫酸
を0.6g添加し、30分間静置後、長さ50mmの石英セルに入れ、島津製作所製の紫外可視分光光度計UV−1800を用いて、波長域400nmから700nm(以下、可視領域とする)の吸光度を1nm間隔で測定し、得られた吸光度の値を積算した。可視領域の吸光度の積算値は、7.3であった。
蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸プロピレン(PC)の吸光度を比較例1と同様
の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、24.7であった。
(比較例3)
蒸留精製した純度99.9%以上のDMCと蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸ジフェニル(DPC)の混合溶媒(質量比1:0.4)の吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、5.7であった。
蒸留精製した純度99.9%以上のDMCと蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸エチルメチル(EMC)の混合溶媒(質量比1:1)の吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、1.3であった。
(比較例5)
蒸留精製した純度99.9%以上のDMCと蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸ジエチル(DEC)の混合溶媒(質量比1:1)の吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、3.6であった。
蒸留精製した純度99.9%以上のDMCと蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸エチレン(EC)の混合溶媒(質量比1:1)の吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、4.2であった。
(比較例7)
蒸留精製した純度99.9%以上のDMCと蒸留精製した純度99.9%以上の炭酸ビニレン(VC)の混合溶媒(質量比1:1)の吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、3.6であった。
あらかじめ2mol/lの塩酸水溶液でイオン交換基をプロトン置換し、脱塩水で十分に洗浄後、無水メタノールで樹脂中の水分を除去した強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」200CT(ローム&ハース社製、架橋度非公開、細孔容積0.3ml/g、比表面積41m2/g、粒径600μm、H形含有率98%)12.5mlを内径16mmのガラスカラムに充填した。カラムの上方から、蒸留精製した純度99.9%以上のDM
CをSV20の流速でカラムに通液し、メタノールが除去されたことを確認した後、500ml回収した。回収したDMCの吸光度を比較例1と同様の方法で測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.2であった。
炭酸エステルをPCに変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、4.8であった。
(実施例3)
炭酸エステルをDMCとDPCの混合溶媒(質量比1:0.4)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、1.4であった。
炭酸エステルをDMCとEMCの混合溶媒(質量比1:1)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0であった。
(実施例5)
炭酸エステルをDMCとDECの混合溶媒(質量比1:1)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.3であった。
炭酸エステルをDMCとECの混合溶媒(質量比1:1)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.5であった。
(実施例7)
炭酸エステルをDMCとVCの混合溶媒(質量比1:1)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.5であった。
流速をSV40に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.9であった。
(実施例9)
流速をSV100に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、2.7であった。
流速をSV200に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、3.9であった。
(実施例11)
イオン交換樹脂を強酸性陽イオン交換樹脂「ダイヤイオンPK208」(三菱化学社製、架橋度4質量%、細孔容積0.02ml/g、比表面積0.1m2/g、粒径560μm、H形含有率98%)に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、0.3であった。
流速をSV100に変更した以外は、実施例11と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、4.5であった。
(実施例13)
イオン交換樹脂を強酸性陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン」UBK08(三菱化学社製、架橋度8質量%、細孔容積0ml/g、比表面積0m2/g、粒径600μm、H形含有率98%)に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、6.1であった。
イオン交換樹脂を弱酸性陽イオン交換樹脂「ダイヤイオン」WK40L(三菱化学社製、架橋度非公開、細孔容積0.01ml/g、比表面積0.1m2/g、粒径650μm)に変更した以外は、実施例1と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、7.5であった。
実施例1と同様に準備したカラムの上方から、蒸留精製した純度99.9%以上のPC
をSV20の流速で10L通液した後、PCを20ml回収した。回収したPCを実施例1と同様の方法で可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、5.1であった。
蒸留精製した純度99.9%以上のPCに市販のジエチルヒドロキシアミン(DEHA
)を1000質量ppm加えた以外は、実施例14と同様に可視領域の吸光度を測定した。可視領域の吸光度の積算値は、25.6であった。
炭酸エステル中の微量不純物が、強酸性陽イオン交換樹脂により除去され、炭酸エステルの着色性が低下したことを示している。
表3から明らかなように、炭酸エステルを強酸性陽イオン交換樹脂に10L(樹脂体積の800倍)通液後、DEHAを含まない炭酸エステル(実施例14)は、強酸性陽イオン交換樹脂による炭酸エステル中の微量不純物の除去効果が維持されているのに対して、DEHAを1000質量ppm含有する炭酸エステル(比較例9)は、除去効果が消失する。これは、炭酸エステル中にカチオン種であるDEHAが含まれると、DEHAが樹脂の官能基とイオン交換して、官能基の反応活性が低下するためと考えられる。
Claims (10)
- 炭酸エステルをH形の強酸性陽イオン交換樹脂と、通液速度(SV)が20以上200以下の条件で接触させることを特徴とする炭酸エステルの精製方法。
- H形の強酸性陽イオン交換樹脂と接触される炭酸エステルに含まれるカチオン種の総和が1000質量ppm未満であることを特徴とする請求項1記載の炭酸エステルの精製方法。
- 炭酸エステルと強酸性陽イオン交換樹脂とを接触する場合の通液条件が下記内であることを特徴とする請求項1又は2記載の炭酸エステルの精製方法。
通液温度が0℃〜80℃であること - 強酸性陽イオン交換樹脂の官能基がスルホン酸基であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂の母体構造が、架橋されたポリスチレン骨格をもつ樹脂であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂が、架橋度が6質量%以下のゲル型強酸性陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂が、細孔容積0.01ml/g以上の微多孔質構造を有する樹脂であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂が、細孔容積0.1ml/g以上、比表面積1m2/g以上の多孔質構造を有する樹脂を用いることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂が粒径500μm以下の樹脂であることを特徴とする請求項6記載の炭酸エステルの精製方法。
- 強酸性陽イオン交換樹脂のH形含有率が80%以上であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか記載の炭酸エステルの精製方法。
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