JP5618246B2 - 優れた白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、任意の原料土壌に対して、白紋羽病に対する優れた抑止活性を長期間安定して付与する技術に関し、当該技術を利用して優れた白紋羽病の防除作用(予防作用、治療作用)を有する土壌を作製する方法に関する。
・白紋羽病の被害
果樹類における白紋羽病は、子嚢菌類に属する白紋羽病菌(Rosellinia属に属する100種類以上の種のうち、R.necatrix、R.compacta)によって引き起こされる。
白紋羽病菌は土壌伝染性があり、果樹の根の表面に白色の菌叢と樹皮下に菌糸束を形成する。特に、根を腐敗させる病徴を示す。
また、白紋羽病の罹病部の観察は容易でなく、地上部に症状が確認された時には、果樹そのものが枯死する場合が多い。当該特徴により、白紋羽病は果樹生産に甚大な被害を与えている。
そのため、果樹類の生産現場から確実な防除方法(予防方法、治療方法)の開発が望まれている。
・従来の防除方法の課題
植物病原性を示す糸状菌類の病害を防除する方法としては、従来では、農薬等の化学物質によって行われてきた。
しかし、農薬等の使用による化学物質による環境汚染を引き起こす問題から、環境負荷低減を目指した技術である生物を利用する防除方法の開発が急務となっている。
ここで、白紋羽病の防除に有用な微生物としては、例えば、バチルス(Bacillus)属等の細菌類(特許文献1〜3等 参照)、トリコデルマ(Trichoderma)属菌などの糸状菌類(特許文献4,5等 参照)、エノキタケ(キノコ類)の菌糸(特許文献6等 参照)等に、白紋羽病に対する拮抗作用(致死作用、増殖阻害作用等)があることが報告されている。
しかし、これらの拮抗作用が確認されている微生物は、特定の菌種・菌株に関する微生物であるため、これらを任意の栽培土壌等に直接投入した場合、元々栽培土壌中に生息していた微生物群(在来微生物)によって、これらの微生物(外来微生物)の定着が妨げられる場合が多い。
そのため、白紋羽病抑止活性が十分に発揮される前に、これらの微生物は死滅してしまうことがほとんどである。
従って、上記拮抗微生物を用いた防除方法は、任意の栽培土壌等に利用可能な技術でなく、果樹栽培等の現場での実用化には未だ至っていないのが現状である。
・従来の治療方法の課題
予防ができずに白紋羽病に感染した樹木に対しては、治療を施して病徴を回復させて白紋羽病を防除する方法が試みられている。従来の治療方法としては、‘温水治療法’という技術が知られている。温水治療とは、白紋羽病菌が通常の土壌微生物よりも大幅に低い致死温度であることを利用し、土壌の地表面に40℃程度の温水点滴処理を行う土壌改良技術を指す(特許文献7等 参照)。当該技術は、環境負荷の小さい技術として注目を集める技術である。
しかし、当該技術は、高温耐性を有する樹木にしか適用できない技術であり、植物種によっては高温障害や枯死が懸念される。また、季節によって地中温度の調製が必要となり、任意の樹木に対して施行するには慎重な条件決定が必要となる。
特開2002-284615号公報(好熱性細菌を含む白紋羽病防除剤) 特開2003-289854号公報(Bacillus mojavensisに属する細菌を含むカビ防除剤) 特開2005-206496号公報(白紋羽病防除剤) 特開H6-256125(白紋羽病防除剤) 特開2006-199601号公報(微生物資材) 特開2009-292741号公報(土壌病害防除微生物資材) 特開2007-129996号公報(白紋羽罹病樹の治療方法)
Martijn ten Hoopen, G. and Krauss, U., Biology and control of Rosellinia bunodes, Rosellinia necatrix and Rosellinia pepo: A review. Crop Prot. 25. 89-107. (2006)
本発明では、上記課題を解決し、環境に対する安全性が高い技術であり, 且つ, 任意の原料土壌に、白紋羽病に対する優れた抑止活性を長期間安定して付与する技術(即ち、任意の栽培土壌に対して適用が可能であり且つ効果的な白紋羽病防除技術)を提供することを目的とする。
また、本発明では、任意の植物に対して適用が可能であり且つ効果的な白紋羽病の防除方法(予防方法及び治療方法)を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料土壌に特定種類の糸状菌を混和して、特定条件にて静置することにより、白紋羽病菌に対して強い拮抗作用を示す在来の拮抗微生物(原料土壌中に元々生息していた微生物)を、大量に増殖できることを見出した。そして、当該特異的な拮抗微生物の働きにより、当該土壌の白紋羽病菌の抑止活性を、顕著に高めることができることを見出した。当該特異的な拮抗微生物は、元々原料土壌中に生息していたものであるので、当該土壌中に長期間安定して生存可能であった。そのため、当該優れた抑止活性は、長期間安定して維持されていた。また、環境に対する安全性も全く問題ない技術と認められた。
これらの知見は、従来の特定菌種・菌株を用いた生物防除剤(特許文献1〜6 参照)の課題を、完全に克服するものと認められた。
また、本発明者らは、上記作製した土壌を施用することによって、効果的な白紋羽病の予防が可能となることを見出した。さらに、本発明者らは、当該作製土壌を白紋羽病の病斑と接触させて栽培することによって、既に白紋羽病に感染した植物体の治療が可能となることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
[請求項1]に係る本発明は、土壌微生物を含む原料土壌に対して、以下(A)に記載の処理を行うことにより、前記土壌中に白紋羽病菌に対して特異的な拮抗作用を有する微生物を培養し、;以下(B)に記載の状態となった時点以降に前記培養を終了させる、;ことを特徴とする、白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製方法に関するものである。
(A): 前記土壌に生育可能な非病原性又は低病原性のRosellinia属に属する糸状菌の菌叢を混和して、10〜30℃で静置する処理。
(B): 前記土壌表面の前記糸状菌の生育が減少傾向に転じた状態。
[請求項2]に係る本発明は、前記糸状菌が、白紋羽病菌である、請求項1に記載の土壌の作製方法に関するものである。
[請求項3]に係る本発明は、前記(B)に記載の状態が、前記土壌表面の前記糸状菌の生育が確認できなくなった状態である、請求項1又は2に記載の土壌の作製方法に関するものである。
[請求項4]に係る本発明は、前記(A)に記載の処理を、合計2〜10回繰り返して行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載の土壌の作製方法に関するものである。
[請求項5]に係る本発明は、前記(A)に記載の処理において、原料土壌に対する1回目の前記糸状菌の菌叢の混和が、以下(C)に記載の菌叢を混和するものであり、;2回目以降の前記糸状菌の菌叢の混和のうちの1回以上の混和が、以下(D)に記載の菌叢を混和するものである、;請求項4に記載の土壌の作製方法に関するものである。
(C): 全部が前記糸状菌の生育菌叢。
(D): 前記糸状菌の生育菌叢と死滅菌叢との混合菌叢, 又は, 全部が前記糸状菌の死滅菌叢。
[請求項6]に係る本発明は、前記死滅菌叢が、35℃以上の温水との接触によって死滅した菌叢である、請求項5に記載の土壌の作製方法に関するものである。
[請求項7]に係る本発明は、前記原料土壌が、黒土, 黒ボク土, 褐色森林土, 低地土, 及び赤黄色土, から選ばれる1以上のものである、請求項1〜6のいずれかに記載の土壌の作製方法に関するものである。
[請求項8]に係る本発明は、前記原料土壌が、Trichoderma属に属する微生物を含むものである、請求項1〜7のいずれかに記載の土壌の作製方法に関するものである。

・果樹等の栽培現場での有用性
本発明により、環境に対する問題を発生させることなく, 且つ, 任意の栽培土壌に、白紋羽病に対する優れた抑止活性を長期間安定して付与することが可能となる。
本発明で作製した土壌は、果樹等の栽培現場において、環境に負荷を与えることなく施用可能な土壌であり、白紋羽病の発生を長期間大幅に低減させることが可能となる。
本発明で作製した土壌を施用することによって、効果的な白紋羽病の予防が可能となる。さらに、当該作製土壌を白紋羽病の病斑と接触させて栽培することによって、既に白紋羽病に感染した植物体の治療が可能となる。
そのため、本発明は、白紋羽病を防除(予防、治療)する技術として、果樹等の栽培農家において広く普及する技術であると認められる。
・資材としての作製土壌
本発明の作製土壌は、常温流通過程においても長期保存が可能な資材であり、また、即座に栽培土壌として利用することが可能であることから、栽培農家等への普及が期待される。また、栽培用培土、土壌改良剤、白紋羽病防除剤(予防剤、治療剤)として園芸資材メーカー等からの販売も期待される。
・温水治療との組み合わせ
本発明の作製土壌を、上記温水治療(特許文献7等 参照)後の土壌に施用することによって、さらに長期間の白紋羽病防除(予防、治療)効果が持続することが期待される。
実施例1の土壌作製において、添加した培養材片や土壌の処理状態を撮影した写真像図である。(A):白紋羽病菌を培養したナシ枝チップ(生育菌叢で覆われた培養材片)。(B):土壌と培養材片の混和後2週間静置した状態。 実施例1における土壌の白紋羽病抑止活性の測定において、測定の各段階での状態を撮影した写真像図である。 (1):爪楊枝上での白紋羽病菌の培養処理。(2):爪楊枝先端での白紋羽病菌の一部死滅処理。(3) :供試土壌との接触処理。(4):白紋羽病菌の菌叢死滅域の計測。 なお、(1),(3),(4)における上部・下部プラントボックスの間には、バラフィルムでのシールを施した。 実施例1の白紋羽病抑止活性の測定において、爪楊枝上の白紋羽病菌の菌叢死滅域と生存域の境界線(黒線)付近を撮影した写真像図である。 なお、当該黒線は、土壌接触処理において白紋羽病菌から分泌されたメラニン成分(拮抗微生物に対する防御のために分泌されたもの)の沈着により形成された線である。 実施例1で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例2の土壌作製において、土壌の処理状態を撮影した写真像図である。(A):土壌と培養材片の混和後2週間静置した状態(1回目)。(B):土壌と培養材片の混和後2週間静置した状態(3回目)。 実施例2で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例3の予防試験において、ポット植えのリンゴ台木苗の培土構造を示した写真像図である。 実施例3の予防試験において、リンゴ苗の白紋羽病の病徴が発生する個体の割合(発病率)を算出した図である。 実施例3の予防試験において、各処理区の平均的な苗の生育状態を撮影した写真像図である。 実施例4で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例5で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例6で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例7において、白紋羽病菌とその拮抗微生物を共培養した状態を撮影した写真像図である。(A):Trichoderma属の糸状菌との共培養した状態。(B):Clonostachys属の糸状菌との共培養した状態。 野外土壌に含まれる白紋羽病菌に対する拮抗微生物についての微生物組成を示した図である。 実施例8で作製した土壌について、白紋羽病抑止活性(爪楊枝上における菌叢死滅域(mm))を測定した結果である。 実施例8の治療試験において、リンゴ台木苗に白紋羽病菌感染処理を行っている状態を撮影した写真像図である。(A):リンゴ台木苗をポットに植え付けて穴の空いたビニール円盤を茎に通して土壌表面に敷いた状態。(B):小ポットの水抜き穴を茎に通して開口部が上方になるように重ねて設置した状態(上方斜視図)。(C):前記(B)の状態の側面図。(D):接種源を埋土した圃場土を小ポット内に充填して感染処理を行っている状態のポット苗。(E):前記処理により白紋羽病の病斑が発生した茎部。 実施例8の治療試験において、治療処理後の各処理区の平均的な苗の生育状態を撮影した写真像図である。(A):茎葉を含む地上部の状態。(B):圃場土と接触させて栽培した後の茎部の状態。(C):作製土壌と接触させて栽培した後の茎部の状態。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、任意の原料土壌に対して、白紋羽病に対する優れた抑止活性を長期間安定して付与する技術に関し、当該技術を利用して優れた白紋羽防除作用(予防作用、治療作用)を有する土壌を作製する方法に関する。
〔対象土壌〕
本発明では、土壌微生物が生息している土壌(土壌微生物を含む土壌)であれば、任意の如何なる土壌をも原料土壌とすることができる。
・土壌の種類
ここで土壌(soil, 通称:土)とは、地表の表面を覆っている生物活動の影響を受けた物質層のことを指す。
土壌の構成粒子は、粒径2mm未満と定義され、2mm以上のものは‘礫’と呼ばれ土壌の構成粒子とは区別される。
土壌の構成粒子のうち、0.2〜<2mmのものは‘粗砂’、0.02〜<0.2mmのものは‘細砂’、0.002〜<0.02mmのものは‘微砂’、0.002mm未満のものは‘粘土’と呼ばれる。
土壌の構成粒子は、岩石が風化した粗粒, コロイド状の鉱物, 生物の死骸等が分解された腐植物, などによって構成される。
土壌は、粘土と砂の組成によって、‘砂土’(粘土含量が0〜<5%, 砂含量が85%以上のもの)、‘砂壌土’(粘土含量が0〜<15%, 砂含量が65〜<85%のもの)、‘壌土’(粘土含量が0〜<15%, 砂含量が40〜<65%のもの)、‘植壌土’(粘土含量が15〜<25%のもの)、‘植土’(粘土含量が25〜<45%のもの)、‘重植土’(粘土含量が45%以上のもの)、に分けることができる。
本発明においては、これらのいずれの土壌をも原料土壌として用いることができるが、好ましくは、これらのうち、植物の栽培に適した土壌を用いることが望ましい。
具体的には、通気性, 保水性, 排水性の全てに優れている観点から、砂壌土, 壌土, 植壌土に分類されるものを用いることが望ましい。これらの土壌は、微生物の生育に適した土壌だからである。
一方、水はけの悪い土壌は、本発明の原料土壌として望ましくない。
また、植物栽培に適した耕作土などでは、土壌粒子どうしが互いに凝集した団粒構造をとることが知られている。
本発明の原料土壌としても、通気性, 保水性, 排水性の観点から、土壌粒子が団粒構造を形成している土壌であることが望ましい。
また、本発明に用いる原料土壌としては、微生物の生育に適したものであるように、有機物やミネラル分を適度に含み、土壌pHが弱酸性〜中性付近の土壌であることが望ましい。
・土壌微生物
本発明の原料土壌としては、土壌微生物が生息している土壌を用いることが必要である。好ましくは、土壌微生物が、豊富に生息している土壌を用いることが望ましい。
原料土壌中に含まれる土壌微生物が多い場合、含まれる白紋羽病菌の拮抗微生物の初期個体数や種類も多く、作製土壌の白紋羽病抑止活性が高いものとすることができる。
ここで土壌微生物とは、土壌中に在来種として生息し、微生物生態系を構成している種類の微生物の全体を指す。ここには、カビ等の子嚢菌類の糸状菌類, キノコ等の担子菌類の糸状菌類, 単細胞性(酵母型)の真核菌類, 通常の細菌類, 放線菌類, 等、膨大な種類と数の微生物が含まれる。
これらの中には、通常、白紋羽病菌(子嚢菌類であるカビ等と同じ糸状菌類)に対して何らかの拮抗作用を示す微生物が存在する。
ここで「拮抗作用を有する微生物」, 「拮抗作用を示す微生物」, 「拮抗微生物」とは、ある微生物に対して致死, 増殖阻害, 生育阻害等の作用を示す微生物を指す。
例えば、(i) 捕食や吸収によって、対象微生物を物理的に栄養源とする微生物を挙げることができる。
また、(ii) 生息環境における資源(生態的ニッチ)が競合する関係にあるが、増殖や生育能が対象微生物よりも優れているため、対象微生物を圧倒する微生物を挙げることができる。
また、(iii) 細胞内に寄生することによって、宿主を生理的に死に至らせる微生物を挙げることができる。
また、上記(i),(ii)に該当する微生物の中には、外分泌物質によって、対象微生物の増殖や生育を阻害する作用(アレロケミカル作用)を有する微生物も存在する。
・白紋羽病菌の拮抗微生物
本発明の原料土壌としては、「白紋羽病菌に対して拮抗作用を示す微生物(白紋羽病菌の拮抗微生物)」を含むことが必要である。
白紋羽病菌の拮抗微生物としては、図14に示すように、Trichoderma属等の特定の糸状菌類, ;Bacillus属やPseudomonas属等の特定の細菌類, ;Streptomyces属等の特定の放線菌類, ;などの微生物を挙げることができる。
ここで、野外土壌に含まれる白紋羽病菌の拮抗微生物の微生物組成(個体数の割合)の6割以上は、特定の糸状菌類であることが知られている(非特許文献1: Martijn ten Hoopen, G. and Krauss, U. 2006 参照)。
このことから、当該特定の糸状菌は、土壌環境中での白紋羽病菌の増殖を抑制するために、重要な働きをしていると認められる。
白紋羽病菌に対して拮抗作用を示す糸状菌として、具体的には、Trichoderma属, Glomus属, Penicillium属, Beauveria属, Clonostachys属, Sordaria属等に属する糸状菌を挙げることができる。
当該糸状菌は、白紋羽病菌(同じ糸状菌の一種)に対して、上記(i)〜(iii)で挙げた類型のいずれかに該当する生態学的関係にあると考えられる。
即ち、当該糸状菌にとっては、白紋羽病菌が環境中に存在すると、自己の生存に有利に働く関係にあると認められる。
また、「白紋羽病菌の拮抗微生物」には、白紋羽病菌に対する拮抗作用の度合いが異なる様々な微生物が含まれる。
ここで‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が強い微生物’としては、白紋羽病菌に対して特異的な拮抗作用を示す傾向の微生物(他の種類の糸状菌類に対しては拮抗作用を示しにくい微生物)を挙げることができる。
このような性質を有する微生物としては、具体的には、Trichoderma属に属する糸状菌類を挙げることができる。特には、T. harzianum, T. koningii, T. atroviride, T. asperellum, に属する菌株を挙げることができる。
反対に、‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が弱い微生物’としては、白紋羽病菌と他の糸状菌類(例えば他のカビ等)の区別なく拮抗作用を示す傾向の微生物を挙げることができる。
このような性質を有する微生物としては、例えば、Clonostachys属に属する糸状菌類の菌株を挙げることができる。
この点を踏まえると、本発明に用いる原料土壌としては、作製土壌に優れた白紋羽病抑止活性を付与できる観点から、白紋羽病菌に対する拮抗作用が強い(特異性が高い)微生物を含む土壌を用いることが好適である。
・二次拮抗微生物
原料土壌中に、「白紋羽病菌の拮抗微生物に対してさらに拮抗作用を示す微生物(二次拮抗微生物)」の初期個体数や種類が多い場合、作製土壌中に培養された‘白紋羽病の拮抗微生物’が、当該‘二次拮抗微生物’の働きにより急激に個体数が減少しやすくなり、作製土壌の白紋羽病抑止活性が短期間で失われやすくなる。
なお、このような作製土壌中においては、遷移現象により、当該‘二次拮抗微生物’の個体数が急激に増加したものとなる。
そのため、本発明の原料土壌としては、作製土壌の白紋羽病抑制活性の持続性を長くするために、当該‘二次拮抗微生物’の種類や量が少ない原料土壌を用いることが望ましく、特には、当該‘二次拮抗微生物’を実質的に含まない土壌、又は、当該‘二次拮抗微生物’を全く含まない土壌、を用いることが好ましい。
・具体的な土壌の種類
本発明の原料土壌として好適な土壌の種類として、具体的には、黒土, 黒ボク土, 褐色森林土, 低地土, 赤黄色土, 等を挙げることができる。また、これらの1以上を混合した作土も好適に用いることができる。
これらの土壌は、物理的な土壌特性(土壌粒子の粒径や成分)が、通気性, 補水性, 排水性に優れたものであり、有機物や土壌微生物の種類や量も多く、本発明の原料土壌として好適だからである。
なお、本発明では、これらのうち、有機物や土壌微生物の含量が豊富である‘黒土’を用いることが好適である。
本発明の原料土壌としては、これらの土壌に、腐葉土, バーク堆肥, 家畜糞尿堆肥, 泥炭, 木炭, 山土, 川砂, 山砂, 鹿沼土, 赤玉土, バーミキュライト, パーライト, ゼオライト, ベントナイト, 珪藻土焼成粒, 等を混合した作土も好適に用いることができる。
例えば、腐葉土, バーク堆肥, 家畜糞尿堆肥には、有機物や土壌微生物の種類や量が豊富である。そのため、作製土壌に高い白紋羽病抑止活性を付与するためには、これらを混合することが好適である。
一方、川砂, 山砂, 鹿沼土, 赤玉土は、土壌微生物の種類や量が大幅に少ないため、前記‘二次拮抗微生物’が実質的に又は全く含まれない。
そのため、作製土壌に付与された活性を長く保持したい場合には、二次拮抗微生物の密度を低下させる意味で、これらの砂や土を混合することが好適である。
また、土壌pHの調製のために、苦土石灰, 消石灰等を混合することが好適である。
〔白紋羽病菌の拮抗微生物の培養工程〕
本発明では、前記原料土壌に対して、特定種類の糸状菌の菌叢を混和して、特定条件にて静置する処理を行うことを要する。
本発明においては、当該処理により、土壌中に元々生息していた在来の白紋羽病菌の拮抗微生物を、特異的に大量に培養することが可能となる。
当該処理により、作製土壌中には、白紋羽病菌の拮抗微生物(特に、白紋羽病菌に対して強い拮抗作用を示す微生物)が、極めて大量に含まれるものとなる。
・容器等
当該培養工程は、土壌の保管が可能な容器を用いて行うことが可能である。
例えば、バケツ, 生ゴミ堆肥作製容器(コンポスター), クリアケース, プラケース, ガラス容器, 水槽, 段ボール箱, コンテナ, 等の固形状容器、;ビニール袋等の袋状容器、;を用いて行うことが可能である。
また、容器としては、遮光が可能なものが好適である。例えば、光透過性の低い素材(金属製, 透明でないプラスチック製, 等)のものを用いることが好適である。また、固形状容器の場合、蓋をすることが可能なものが好適である。
・特定種類の糸状菌
当該培養工程では、前記原料土壌に対して、特定種類の糸状菌の菌叢を混和することが必要である。
ここで、特定種類の糸状菌としては、前記原料土壌で生育が可能であり, 且つ, 非病原性又は低病原性のRosellinia属に属する糸状菌を用いることを要する。
当該糸状菌は、「白紋羽病菌の拮抗微生物」にとって、餌や栄養源となり、自己の生育のために好適な存在となる。
本発明では、これらのうち、「白紋羽病菌」として分類されているR.necatrix, R.compacta(特にはR.necatrix)を用いることが望ましい。
白紋羽病菌を混和した場合、作製土壌中の微生物組成における‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が強い(特異性が高い)微生物’を、さらに増やすことができ好適となる。
なお、R.necatrixは、多くの果樹を含む樹木に対して、白紋羽病の強い病徴を引き起こす原因微生物である。そのため、当該種に属する糸状菌を用いる場合には、非病原性又は低病原性の菌株を用いることを要する。
具体的には、当該種に属する非病原性又は低病原性の菌株である、NITE P-269株(W450株), FERM P-18142株(W370株), MAFF 645024(W1032株), W1050株, W1051株, W1052株, 等を用いることが望ましい。特には、NITE P-269株(W450株), FERM P-18142株(W370株)が好適である。
一方、R.compactaは、R.necatrixの近縁種と分類される白紋羽病菌であるが、病徴が軽微な低病原性の種類である。そのため、当該種に属する菌株は、いずれの菌株についてもそのまま用いることができる。
当該種に属する菌株としては、MAFF 328148株, MAFF 625100株, MAFF 625101株, MAFF 625102株, MAFF 625135株, 等を挙げることができる。
また、当該培養工程には、白紋羽病菌以外にも、Rosellinia属に属する如何なる糸状菌を用いることができる。
例えば、R. abscondita, R. aquila, R. arcuata, R. asperata, R. beccariana, R. bicolor, R. bonaerensis, R. bothryna, R. breensis, R. brevifissurata, R. britannica, R. bunodes, R. buxi, R. canzacotoana, R. caudata, R. chusqueae, R. communis, R. congesta, R. corticium, R. culmicola, R. decipiens, R. desmacutispora, R. desmazieresii, R. diathrausta, R. dingleyae, R. dolichospora, R. emergens, R. erianthi, R. etrusca, R. eucalypticola, R. euterpes, R. evansii, R. formosana, R. franciscae, R. freycinetiae, R. gigantea, R. gigaspora, R. gisborniae, R. glabra, R. griseo-cincta, R. helvetica, R. herpotrichoides, R. horrida, R. hughesii, R. hyalospora, R. immersa, R. indica, R. johnstonii, R. lamprostoma, R. longispora, R. macdonaldii, R. macrosperma, R. macrospora, R. mammiformis, R. mammoidea, R. markhamiae, R. mastoidiformis, R. medullaris, R. megaloecia, R. megalosperma, R. megalospora, R. merillii, R. mimosae, R. musispora, R. mycophila, nectrioides, R. nothofagi, R. novae-zelandiae, R. palmae, R. paraguayensis, R. pardalios, R. pepo, R. perusensis, R. petrakii, R. petrinii, R. picta, R. procera, R. puiggiarii, R. radiciperda, R. rhopalostilicola, R. rhypara, R. rickii, R. saccardii, R. samuelsii, R. sancta-cruciana, R. stenasca, R. subiculata, R. subsimilis, R. thelena, R. thelena var. microspora, R. thindii, R. victoria, 等を用いることができる。
これらの糸状菌は、植物に対して白紋羽病の病徴を示さない種類である。そのため、これらのうち、白紋羽病以外の植物病に対して非病原性又は低病原性が明らかな種類については、これらの種に属する菌株をそのまま用いることができる。
なお、R. arcuata, R. bunodes, R. pepo, R. subiculata, は、白紋羽病でない植物病の原因微生物であることが知られている。そのため、これらの種を用いる場合には、これらの植物病に対する非病原性又は低病原性の菌株を用いることを要する。
なお、当該培養工程において、‘Rosellinia属に属さない糸状菌’を用いた場合、作製土壌に十分な白紋羽病抑制活性を付与することができない。
例えば、別の属の糸状菌である紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa), ならたけ病菌(Armillaria mellea), を用いた場合、作製土壌に付与された白紋羽病抑止活性は低いものとなる(例えば、後述する実施例4 参照)。
・特定種類の糸状菌を培養した支持体
当該培養工程で用いる前記糸状菌の菌叢は、支持体の表面及び/又は内部に菌糸を培養した状態で用いることが望ましい。好ましくは、支持体に菌叢が蔓延した状態のものや、支持体全体が菌叢で覆われたものを、用いることが望ましい。
ここで、支持体としては、表面及び/又は内部において、前記糸状菌の菌糸の培養が可能である形状, 大きさ, 材質のものであれば如何なるものも用いることができる。
例えば、材片, おがくず, 植物種子, 寒天培地, スポンジ, ロックウール, 等の材質からなる支持体を挙げることができる。
これらの支持体は、0.5〜5cmのチップ状, 長軸状, シート状, キューブ状, 球状, 等であると好適である。
なお、サイズが大きめの支持体を用いて糸状菌を培養し、培養後に当該形状や大きさに加工しても良い。
また、前記糸状菌を培養した後であれば、さらに微細な顆粒状, 粉末状に加工することも可能である。
当該支持体が木片である場合、前記糸状菌を接種して、室温(具体的には10〜30℃)にて、4〜40日間、放置(培養)し、必要に応じて破砕, 粉末化, 接着, 固形化等の加工を行うことで、調製することができる。
なお、材片を用いる場合、木材の材質としては如何なるものでも良いが、例えば、果樹の剪定枝(ナシ, カバノキ, アスペン等)を用いることができる。また、おがくずを用いることもできる。
なお、抗菌性物質が多く含まれているものなどは適さないので、使用する前に培養可能かを確認することが望ましい。
また、支持体が植物種子である場合、種子にそのまま前記糸状菌を接種して、上記と同様にして培養することで調製することができる。
植物種子としては、具体的には、麦類(小麦, 大麦等)の穀粒を用いることが好適である。
また、支持体が寒天培地等のスポンジやロックウールである場合、これらの支持体に培地成分を染み込ませ、前記糸状菌を接種して上記と同様に培養し、必要に応じて細断等の加工を行うことで、調製することができる。
また、支持体が寒天培地等のゲルである場合、例えば、PDA寒天培地上に前記糸状菌を接種して上記と同様に培養し、必要に応じてゲルを破砕等して加工することによって、調製することができる。
また、上記支持体を粉砕や粉末化した後、液体(水等)に懸濁した状態で、土壌との混和に用いる態様も採用することができる。
・土壌と前記糸状菌の菌叢の混和
土壌と前記糸状菌の菌叢との混和は、移植ごて, シャベル, スコップ, 等の通常の園芸器具で行うことができる。また、ミキサー等の撹拌用の機器を用いて行うこともできる。
当該培養工程にて要する混和の程度は、前記糸状菌の菌叢(又は支持体)が、土壌中にある程度均一に分散する程度で行えば十分である。好ましくは、両者が均一になるように行うことが好適である。
・静置処理
当該培養工程では、上記混和の後、一定期間土壌を静置することにより、土壌中に元々生息していた在来の白紋羽病菌の拮抗微生物(特に、白紋羽病菌に対して強い拮抗作用を示す微生物)を、特異的に大量に増殖させることができる。
当該静置は、‘前記糸状菌’と‘白紋羽病菌の拮抗微生物’の両方の生育に適した条件で行うことが好適である。
ここで、好適な温度としては、10〜30℃, 好ましくは15〜28℃, を挙げることができる。
また、当該静置は、暗所で行うことが好適である。具体的には、当該静置は透光性の低い素材の容器内にて行うことが望ましいが、透光性の素材の容器を用いる場合は、蓋等をして遮光して行うことが望ましい。
また、土壌中の含水量は、容水量の20〜90%, 好ましくは40〜80%であることが好適である。
なお、土壌の嫌気化を防ぐために、7日〜2ヶ月、好ましくは14日〜1ヶ月の間隔で、定期的に土壌の撹拌を行うことも好適である。
・培養工程中の微生物動態
当該静置を開始した直後は、前記糸状菌の菌糸が急激に増殖して、土壌中に当該糸状菌の菌叢が大量に形成される。即ち、前記糸状菌が土壌環境を優先する。
しかし、静置期間が経過するに従い、白紋羽病菌の拮抗微生物が急激に増殖し、遷移現象により前記糸状菌の生育は減少傾向に転じる。
そして、さらに静置することで、白紋羽病菌の拮抗微生物が土壌環境を優先し、前記糸状菌の生育は確認できなくなる。
・菌叢の追加混和
当該培養工程では、土壌中に白紋羽病菌の拮抗微生物を顕著に増加させるために(作製土壌に高い白紋羽病抑止活性を付与するために)、時間経過とともに減少した前記糸状菌を補う操作を行うことが好適である。即ち、前記糸状菌の菌叢を追加混和する操作を行うことが好適である。
追加混和を行う時期としては、時間経過により減少した前記糸状菌の個体数を補えるタイミングで行うことが好適である。
具体的には、前記混和処理後の7日以上, 好ましくは10日以上, さらには12日以上, さらには14日以上, が経過した後に、前記糸状菌の追加混和をすることが好適である。
また、上限としては、白紋羽病菌の拮抗微生物が死滅しない期間内で行えば良いが、例えば、前記混和処理後の6ヶ月以内, 好ましくは4ヶ月以内, さらには3ヶ月以内, さらには2ヶ月以内, さらには1ヶ月以内, に行うことが好適である。
当該菌叢を追加混和した後は、前記した静置条件にて再び静置を継続し、白紋羽病菌の拮抗微生物の培養を行うことが望ましい。
・菌叢混和の回数
前記菌叢を混和する処理は、最初の原料土壌への混和を含めて、合計で2回以上, 好ましくは3回以上, さらには4回以上行うことが好適である。
特に3回以上行うことで、白紋羽病菌の拮抗微生物が十分に増殖した状態になっている場合が多い。
また、混和回数の上限としては、対象土壌中に前記‘二次拮抗微生物’が増殖してこない限りは行うことができるが、例えば、最初の原料土壌への混和を含めて合計で10回, 好ましくは8回を挙げることができる。
なお、2回目以降の菌叢混和を行う時期についても、時間経過により個体数が減少した前記糸状菌の個体数を補えるタイミングで行うことが好適である。
・死滅菌叢の混和
当該培養工程では、原料土壌への混和(1回目の混和)に、前記糸状菌の生育菌叢を混和して静置した後、2回目以降の混和には、前記糸状菌の死滅菌叢を用いて混和することが好適である。
本発明の土壌作製においては、当該死滅菌叢を混和することにより、培養工程に要する時間を大幅に短縮することが可能となる。
その原理は、当該死滅菌叢には、白紋羽病菌の拮抗微生物を誘引したり増殖を促す物質が、大量に含まれているためと考えられる。
そのため、1回目の混和及び静置により、土壌中にある程度増殖した白紋羽病の拮抗微生物が、死滅菌叢を栄養源や餌として、急激に増殖することが可能となる。
なお、原料土壌への混和(1回目の混和)に、死滅菌叢を用いることは好適でない。
この場合、原料土壌中に初めから存在する‘白紋羽病菌に拮抗作用を示さない微生物’や‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が弱い微生物’の増殖も促されてしまう。即ち、‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が強い微生物’が特異的に増殖できる環境でなくなる。
当該死滅菌叢の混和は、2回目以降, 好ましくは3回目以降, さらには4回目以降, の混和のうちの1回以上について行うことが望ましい。
特に、白紋羽病菌の拮抗微生物がある程度増殖した、3回目以降の混和から行うことが好適である。
また、当該死滅菌叢の混和は、複数回行う混和のうちの後半の混和について行うことが望ましい。
特に、4回以上の混和を行う場合において、最後の2回のうちのいずれか, 好ましくは最後の1回, については、当該死滅菌叢の混和を行うことが好適である。
なお、当該死滅菌叢の混和を連続して行う場合は、連続3回以下, 好ましくは連続2回以下, で行うことが好適である。
連続回数が増えると、‘白紋羽病菌に拮抗作用を示さない微生物’や‘白紋羽病菌に対する拮抗作用が弱い微生物’が増加しやすくなるため好適でない。
当該培養工程で用いる死滅菌叢としては、原料土壌に添加した前記糸状菌の生育菌叢と同じ種類(好ましくは同じ菌株)を死滅させた菌叢を用いることが望ましい。
また、菌叢の全てが死滅した菌叢だけでなく、一部の菌叢が死滅したもの(生育菌叢と死滅菌叢が混ざったもの)も、好適に用いることができる。
また、死滅菌叢として好ましくは、乾燥やタンパク質の分解が進行していない新鮮な死菌からなる菌叢であることが好適である。
ここで加熱処理としては、温水との接触処理を挙げることができる。また、ホットプレートやヒートブロック等の個体相との接触処理も挙げることができるが、菌叢が炭化するような高温且つ乾燥状態での態様は好適でない。
なお、当該拮抗微生物の増殖促進の点では、死滅させた死菌体に水分が含まれている方が望ましい。そのため、加熱処理後の死菌体が乾燥状態となっている場合には、水分を含ませる処理を行うことが好適である。
これらの点を踏まえると、本発明では、温水との接触処理により、加熱処理を行うことが好適である。
温水との接触処理としては、蒸気噴霧による処理、温水噴霧による接触処理、蒸煮処理なども挙げることができるが、好ましくは温水への浸漬処理が好適である。
加熱処理の温度としては、35℃以上を挙げることができるが、確実に短間に死滅させるためには、40℃以上、さらには45℃以上を挙げることができる。
なお、死滅効率だけを考えると、できるだけ高い温度で行うことが望ましいが、死菌体に含まれるタンパク質の変性を防ぐためには、70℃以下, 好ましくは65℃以下, さらには60℃以下, で行うことが望ましい。
また、処理時間としては、温水浸漬の場合、例えば30分以上, 好ましくは1時間以上, さらには2時間以上, を挙げることができる。
例えば、40℃の温水浸漬の場合1時間の処理にて、45℃の温水浸漬の場合は30分間の処理にて、70℃の温水浸漬の場合は20秒間の処理にて、浸漬した部分の白紋羽病菌の菌叢を死滅させることができる。
・培養状態の指標
本発明においては、土壌表面における前記糸状菌の生育状態を指標として、白紋羽病の拮抗微生物の増殖程度を判断することができる。
具体的には、対象土壌が、下記(I)の状態(好適には、下記(II)の状態)になった時点で、白紋羽病の拮抗微生物が十分に増殖したものと判断することができる。
ここで、(I)の状態とは、土壌表面における前記糸状菌が減少傾向になった状態を指す。当該状態は、当該土壌環境を優先している前記糸状菌に対して、これを減少させる程度の白紋羽病菌の拮抗微生物の個体数が増殖した状態に相当する。
また、(II)の状態とは、土壌表面における前記糸状菌の生育が確認できなくなった状態を指す。当該状態は、白紋羽病菌の拮抗微生物が土壌環境を優先した状態に相当する。
これらのことから、本発明では、対象土壌が、上記(I)(好適には、上記(II))の状態になった時点以降に培養工程を終了させることで、本発明の作製土壌を完成させることができる。
〔作製土壌の微生物組成〕
上記工程を得て作製された土壌中には、白紋羽病菌に対して強い拮抗作用を示す微生物が、特異的且つ大量に、培養されたものとなる。
例えば、Trichoderma属に属する微生物(拮抗作用が強い微生物)に注目してみると、上記工程を経て作製した土壌では、その原料土壌に比べて、Trichoderma属に属する微生物(強い拮抗作用を有する拮抗微生物)が、少なくとも10倍以上に増加したものとなる。
詳細には、作製された土壌は、Trichoderma属に属する微生物(強い拮抗作用を有する拮抗微生物)が、土壌1g(湿重量)に対して、5×104個体以上, 好ましくは1×105個体以上, さらには2.5×105個体以上, さらには5×105個体以上, さらには1×106個体以上, 含まれたものとなる。
なお、原料となる通常の土壌においては、土壌微生物の含量が多い土壌(例えば黒土等)であっても、Trichoderma属に属する微生物は、土壌1g(湿重量)に対して、5×103個体以下しか含まれていない。
また、当該作製土壌に含まれるTrichoderma属に属する微生物の総個体数の30%以上, 好ましくは35%以上, さらには40%以上, さらには45%以上, さらには50%以上, は、T. harzianum, T. koningii, T. atroviride, T. asperellum, に属する微生物(白紋羽病菌に対する拮抗作用が極めて強い微生物)となる。
なお、自然界の土壌においては、Trichoderma属に属する微生物(特に、T. harzianum, T. koningii, T. atroviride, T. asperellum)が、上記のような極めて高密度で生息している土壌は存在しえない。
また、当該作製土壌においては、白紋羽病に対して弱い拮抗作用しか示さない微生物についても、その個体数の増加が起こり得る。
但し、土壌における生息環境における資源競争関係(前記糸状菌の栄養源とする関係)を鑑みると、当該拮抗作用の弱い微生物の個体数は少ない方が望ましい。
例えば、Clonostachys属に属する微生物(白紋羽病菌に対する拮抗作用が弱い微生物)に注目した場合、その個体数が、Trichoderma属に属する微生物の個体数の10%以下, 好ましくは5%以下, さらには1%以下, さらには0.5%以下, であることが好適である。
〔作製土壌が有する白紋羽病防除作用〕
上記工程を経て作製した土壌では、上記微生物組成が奏する特性により、優れた白紋羽病抑止活性を有するものとなる。そして、当該白紋羽病抑止活性により、当該作製土壌は優れた白紋羽病防除作用(予防作用、治療作用)を有するものとなる。
当該作製土壌を用いて、植物を栽培することにより、栽培した植物が白紋羽病に罹病する確率(発病率)及び罹病する度合い(罹病度)を、大幅に低減させることが可能となる。即ち、植物栽培における白紋羽病の予防が可能となる。
例えば、病原性の白紋羽病菌の菌株を培養したチップを、‘故意に’樹の根下に培土した場合でも、当該作製土壌を培土しなかった場合に比べて、その発病率を1/2以下, 好ましくは1/4以下, に低減させる作用が発揮される。
これは、通常の栽培環境のおいては、ほぼ完全に白紋羽病の発生を予防できる活性に相当する。
また、当該作製土壌は、優れた白紋羽病治療作用を有する。また、当該治療作用は、土壌に付与された白紋羽病抑止活性が高いほど強い作用が奏される。
具体的には、当該作製土壌と白紋羽病感染植物体の根部や茎部に形成された病斑とを接触させることにより、当該病徴が劇的に改善される。即ち、本発明の作製土壌を用いることで、既に白紋羽病に感染している植物体を治療することが可能となる。また、当該治療作用は、治療対象の植物種を問わずに発揮される作用である。
上記工程を経て作製した土壌は、白紋羽病抑止活性が高い土壌である程、強い防除作用(予防作用、治療作用)を発揮する土壌となる。当該白紋羽病抑止活性の度合いは、例えば、下記の実施例1に記載の方法により測定することが可能である。
当該白紋羽病抑止活性(防除作用)の度合いは、原料土壌に含まれていた土壌微生物の総量(初期微生物量), 原料土壌の特性, 培養工程における前記糸状菌の混和回数, 静置期間(培養期間), 等によって決定される。
本発明においては、上述の項目で挙げた好適な実施形態を採用することで、当該抑止活性の高い土壌(防除作用の強い土壌)を作製することが可能となる。
上記工程を経て作製した土壌を培土として施用した場合、その白紋羽病抑止活性を長期間発揮させることが可能となる。即ち、白紋羽病の発生抑制及び増殖抑制効果が長期間発揮されることにより、優れた防除作用(予防作用、治療作用)が長期間奏される。
また、当該作製土壌は、常温にて長期間保管した場合でもその白紋羽病抑止活性は長期間維持される。具体的には、当該作製土壌が有する白紋羽病の抑止活性は、少なくとも6ヶ月間以上, 好ましくは9ヶ月以上, さらには1年以上, さらには1年6ヶ月以上, さらには2年以上, 実用レベルでの活性が持続すると認められる。
なお、当該白紋羽病抑止活性(防除作用)は経時変化とともに低下する。当該低下の度合いは、土壌中における前記‘二次拮抗微生物’の種類や量に依存する割合が大きい。
例えば、原料土壌中に元々生息していた二次拮抗微生物が多かった場合、作製土壌中の白紋羽病の拮抗微生物の個体数が減少しやすくなり、作製土壌が有する当該抑止活性は短期間で失われやすくなる。
反対に、原料土壌中に元々生息していた二次拮抗微生物が少なかった場合、作製土壌中の白紋羽病の拮抗微生物の個体数が減少しにくくなり、作製土壌が有する当該抑止活性は長時間維持されやすくなる。
〔施用態様〕
本発明の作製土壌は、白紋羽病の防除用途(予防用途、治療用途)であれば、如何なる施用態様でも用いることができる。例えば、ポット苗, プランター等において、培土又は培土の一部として施用できる。また、果樹園, 農場, 栽培場, 圃場において、培土の一部として施用できる。なお、当該作製土壌は、植物体(樹木)単位で施用することが可能となる。
ここで「培土の一部として施用する」とは、(a)当該作製土壌と他の土壌を混合して作土した土壌組成物として用いる態様、(b)当該作製土壌を他の土壌と混合せずに一塊として用いる態様、の両方を挙げることができる。
なお、(a)の土壌組成物とする態様においては、施用状態における最終的な微生物組成が、上記「作製土壌の微生物組成」に記載の条件を充足することを要する。
ここで、土壌組成物としては、他の有用な性質を有する土壌とを混合することによって、様々な性質が付与された土壌組成物を挙げることができる。例えば、当該作製土壌に、;黒土, 黒ボク土, 褐色森林土, 低地土, 赤黄色土, 腐葉土, バーク堆肥, 家畜糞尿堆肥, 泥炭, 木炭, 山土, 川砂, 山砂, 鹿沼土, 赤玉土, バーミキュライト, パーライト, ゼオライト, ベントナイト, 珪藻土焼成粒, 等から選ばれる1以上のもの、;を混合したものとすることができる。
当該土壌を治療目的で施用する場合においては、病斑や菌叢形成部に局部的に接触させて(例えば、土壌の一部を交換しての接触、塗り込み、練り込み等の処理を行って)施用することが好適である。
なお、病斑部位への局部的な塗布や練り込みによって施用する場合には、施用時に粘性を有するものにすることが好ましい。例えば、ベントナイトや粘土質を有する土壌と水分を混合して泥状組成物とすることが好ましい。また、流通時には通常の土壌混合組成物や乾燥物の形態である場合には、使用時に水分を含ませて泥状にして施用することが好ましい。
・対象植物
当該作製土壌は、特に果樹や花卉の樹木の栽培における白紋羽病の防除(予防、治療)において、好適に用いることができる。例えば、リンゴ, ナシ, ブドウ, ビワ, イチジク, キウイフルーツ, モモ, ウメ, オウトウ, アンズ, スモモ, カキ, カンキツ, クリ, クワ, チャ, サクラ, カシ, ナラ, ポプラ, カエデ, ツバキ, ツツジ, バラ, キク, オモト, シャクヤクなどの栽培において好適に用いることができる。
〔栽培資材としての具体的な態様〕
本発明の作製土壌は、白紋羽病防除作用(予防作用、治療作用)を有することに加えて、常温流通過程においても長期保存が可能であるため、優れた栽培用培土として有効に利用することが可能となる。
ここで、栽培用培土の流通態様としては、当該作製土壌, 又は, 当該作製土壌と他の土壌を混合して作土した土壌組成物(上記(a)に記載の土壌組成物), を容器(例えばビニール袋等)に充填し、これを最終製品として流通させる態様を採用することができる。
また、上記培養工程が終了した後、培養工程での容器のまま流通させる態様を採用することもできる。さらには、上記培養工程が終了する前に流通過程に乗せ、流通段階中に培養工程を行う態様を採用することもできる。
なお、上記(a)に記載の土壌組成物からなる栽培用培土とする場合においては、施用状態(局所的に施用する場合には当該局部的な部位)における最終的な微生物組成が、上記「作製土壌の微生物組成」に記載の条件を充足することを要する。
また、当該作製土壌は、当該土壌自体を有効成分とした剤形態とすることができる。具体的には、白紋羽病の防除作用(予防作用、治療作用)を有する土壌改良剤の有効成分として利用することができる。当該土壌改良剤を施用することによって、施用した土地の土壌が改質され、白紋羽病が発生し難い(白紋羽病の予防が可能な)性質の土質に改良することができる。また、既に発生した白紋羽病の治療が可能な性質の土質に改良することができる。
土壌改良剤の剤形態としては、使用時に他の土壌に混合できる形態であれば如何なる形態でも良い。例えば、上記した栽培用培土と同様の形態を採用することができる。
また、当該作製土壌は、白紋羽病の防除剤(予防剤、治療剤)の有効成分として利用することができる。当該防除剤を施用することによって白紋羽病を効率良く予防することが可能となる。また、白紋羽病を劇的に治療することが可能となる。
当該防除剤の剤形態としては、上記した栽培用培土と同様の形態を採用することができる。なお、治療剤として病斑部位への局部的な塗布や練り込みによって施用する場合には、施用時に粘性を有するものにすることが好ましい。例えば、ベントナイトや粘土質を有する土壌と水分を混合して泥状組成物とすることが好ましい。また、流通時には通常の土壌混合組成物や乾燥物の形態である場合には、使用時に水分を含ませて泥状にして施用することが好ましい。
なお、土壌改良剤及び防除剤(予防剤、治療剤)のいずれの剤形態を採用する場合においても、施用状態(局所的に施用する場合には当該局部的な部位)における最終的な微生物組成は、上記「作製土壌の微生物組成」に記載の条件を充足する微生物組成であることが好適である。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
〔実施例1〕『白紋羽病抑止活性土壌の作製』
白紋羽病菌を培養した材片を混和し静置する処理を行った場合における、土壌への影響を検討した。
(1) 「土壌の作製」
ステンレス製寸胴容器内に、圃場土(果樹研究所内のナシ圃場土)4Lと、白紋羽病菌の非病原性菌株(Rosellinia necatrix NITE P-269株)を培養した材片(菌叢で覆われたナシ枝チップ:図1A 参照)200mL分を入れ、土壌と材片を混和した。そして、暗所にて23℃で2週間静置した(図1B 参照)。
静置後、前記培養材片200mLをさらに添加して混和し、同条件にて静置を継続した。当該混和及び2週間の静置操作は、最初の操作を含めて合計4回繰り返して行った。
なお、4回目の静置後の土壌では、土壌表面の白紋羽病菌の菌糸は僅かとなっていた。そこで、4回目の静置後の土壌(試料1-1)を以下の試験に供した。
(2) 「白紋羽病抑止活性の測定」
上記作製した土壌(試料1-1)について、特願2012-052593の明細書の実施例1に記載の方法及び器具を用いることによって、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
白紋羽病菌(R. necatrix W563株)の菌叢で覆われた爪楊枝(25本=縦5本×横5本)を備えた蓋部, 及び, 当該蓋部に装着可能な下部容器を準備し(図2A)、下部容器に温水を入れて当該爪楊枝の菌叢の一部のみ(先端から1cm)を45℃の温水で30分間浸漬することで、死滅させる処理を行った(図2B)。
次いで、新しい下部容器に評価対象の土壌(試料1-1)を入れて、当該死滅菌叢と生存菌叢の両方が対象土壌に接触するようにして培養した(図2C)。
23℃で3週間培養した後、爪楊枝上の死滅域の長さ(mm)を計測し(図2D, 図3)、土壌接触前後での死滅域の増減を求めることによって、対象土壌が有する白紋羽病に対する抑止活性を測定した。
また、対照として、上記処理を行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1)についての白紋羽病抑止活性を測定した。結果を図4に示した。
(3) 「結果」
測定の結果、上記作製した土壌(試料1-1)を供した場合、未処理の圃場土(対照1)を供した場合と比べて、爪楊枝上の白紋羽病菌の菌叢死滅域が大幅に長くなることが示された。
このことから、白紋羽病菌を混和して静置する処理を行い、白紋羽病菌の菌叢が観察されなくなった土壌(試料1-1)では、未処理の圃場土(対照1)に比べて、白紋羽病に対する抑止活性が顕著に高くなっていることが明らかになった。
当該抑止活性の向上は、白紋羽病菌に対する拮抗微生物(白紋羽病菌を栄養源とする微生物, 増殖阻害作用を有する微生物, 等)が、土壌中に顕著に増加したことによるためと推測された。
〔実施例2〕『培養材片の菌叢死滅処理の効果』
白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製において、菌叢を死滅させた材片を混和した場合の影響を検討した。
(1) 「培養材片の温水処理」
実施例1に記載の白紋羽病菌培養材片を、40℃で1時間の温水に浸漬することにより、材片に培養した白紋羽病菌を死滅させる処理を行った。これにより、死滅菌叢で覆われた材片を調製した。
(2) 「土壌の作製」
実施例1に記載の方法に準拠して、圃場土(果樹研究所内のナシ圃場土)への培養材片の混和及び2週間の静置を合計4回行った。但し、本例においては、前半の2回は、実施例1と同じ白紋羽病菌培養材片(生育菌叢)を用い、;後半2回は、上記(1)により調製した温水処理材片(死滅菌叢)、;を用いた。
なお、3回目の静置後に得られた土壌, 及び, 4回目の静置後に得られた土壌では、土壌表面の白紋羽病菌の菌糸はほとんど確認されなくなっていた(図5A, B 参照)。
そこで、4回目の静置後に得られた土壌(試料2-1)を以下の試験に供した。
(3) 「白紋羽病抑止活性の測定」
上記作製した土壌(試料2-1:生育菌叢の混和静置+死滅菌叢の混和静置)について、実施例1に記載の方法と同様にして、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
また、実施例1で作製した土壌(試料1-1:生育菌叢の混和静置のみ)についての測定も行った。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1)の測定も行った。結果を図6に示した。
(4) 「結果」
その結果、白紋羽病菌の生育菌叢の混和静置の後、死滅菌叢を混和静置して作製した土壌(試料2-1)は、生育菌叢の混和静置のみにより作製した土壌(試料1-1)よりも、白紋羽病に対する抑止活性がさらに高くなることが示された。
この結果は、白紋羽病菌に対する拮抗微生物にとって、死滅菌叢が栄養源や餌として豊富に存在する環境(試料2-1)が、生育に極めて好適であったため(急激に増殖しやすい環境であったため)と考えられた。
逆に、当該拮抗微生物が、白紋羽病菌の生育菌叢のみが存在する環境下(試料1-1)で増殖するためには、死滅菌叢を栄養源とするよりも多くの時間を要することが示唆された。
〔実施例3〕『作製土壌の白紋羽病予防効果』
上記方法により作製した土壌を培土として用いた場合に、実際に白紋羽病の白紋羽病の予防が可能か(即ち、発病抑制が可能か)を検証した。
(1) 「予防試験」
ポットで1ヶ月育成したポット植えのリンゴ台木苗について、図7に示すような培土構造になるように、上層と下層には通常の土壌(黒ボク土:川砂:堆肥=1:1:1で混合したもの)を、中層には表1に示した各土壌を積層させた(試験区3-1〜3-2, 対照区)。
この時、病原性を有する白紋羽病菌(W563株)の菌叢で覆われた材片(オートクレーブした3cm×8mmのナシ切枝上でW563株を1ヶ月間培養したもの)を接種源とし、下層と中層の間に2個ずつ配置した。なお、各試験区につきポット苗を6個ずつ準備した。
その後、ガラス室内で1ヶ月栽培し、各試験区における白紋羽病の病徴が発生する個体の割合(発病率)を計算した。結果を図8に示した。
(2) 「結果」
その結果、白紋羽病抑止活性(実施例1,2で測定した値)が高い土壌である程、本実施例で算出した白紋羽病発病率は、低い値を示すことが確認された。
具体的には、実施例1で作製した土壌(試料1-1:生育菌叢の混和静置処理)を用いた試験区3-1では、未処理の圃場土を用いた対照区に比べて、白紋羽病の発病率が約1/2に低減されることが確認された。
さらに、実施例2で作製した土壌(試料2-1:生育菌叢の混和静置処理+死滅菌叢の混和静置処理)を用いた試験区3-2では、未処理の圃場土を用いた対照区に比べて、白紋羽病の発病率が約1/4にまで低減されることが確認された。
なお、試験区3-2での平均的な苗の生育状態と、対照区での平均的な苗の生育状態とを比較した様子を、図9にそれぞれ示した。
この結果から、培土の一部に本発明の作製土壌を施用することによって、植物体への白紋羽病の感染を予防できることが示された。また、その予防効果は、土壌に付与された白紋羽病抑止活性の強さの度合いと相関することが示された。
〔実施例4〕『他の糸状菌類を用いて作製した土壌の白紋羽病抑止効果』
白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製において、白紋羽病菌の代わりに他の属(Rosellinia属以外の属)に属する糸状菌類を混和静置した場合においても、白紋羽病抑止活性が付与されるかを検討した。
(1) 「土壌の作製」
実施例1に記載の方法に準拠して、圃場土(果樹研究所内のナシ圃場土)への培養材片の混和及び2週間の静置を合計4回行った。
但し、本例においては、培養材片として、別属の糸状菌類である紫紋羽病菌(Helicobasidium mompa V17株), ;ならたけ病菌(Armillaria mellea P-A株), ;をそれぞれ混和して、各土壌(試料4-1, 4-2)を作製した。
(2) 「白紋羽病抑止活性の測定」
上記作製した各土壌(試料4-1, 4-2)について、実施例1に記載の方法と同様にして、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
また、実施例1で作製した土壌(試料1-1:白紋羽病菌の混和静置)についての測定も行った。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1)の測定も行った。結果を図10に示した。
(3) 「結果」
その結果、紫紋羽病菌, ならたけ病菌をそれぞれ混和静置して作製した土壌(試料4-1, 4-2), についても、白紋羽病に対して抑止活性が向上していることが示された。
これは、試料4-1の土壌中に増殖した紫紋羽病菌に対する拮抗微生物, 試料4-2の土壌中に増殖したならたけ病菌に対する拮抗微生物, の一部のものは、白紋羽病菌に対しても拮抗作用を示す微生物(即ち、白紋羽病菌に対する拮抗微生物に含まれる微生物)であるためと推測された。
但し、これらの土壌(試料4-1, 4-2)は、白紋羽病菌そのものを混和静置して作製した土壌(試料1-1)に比べて、白紋羽病に対する抑止活性は低いものであった。
この結果は、これらの土壌中の微生物組成が、紫紋羽病菌やならたけ病菌に対する拮抗作用に最適化されたものであること、に起因する結果であると推測された。
即ち、これらの土壌(試料4-1, 4-2)に含まれる微生物群のうち、白紋羽病菌に対して拮抗作用を示す微生物は、当該微生物群に含まれる微生物のうちの一部に過ぎないためであると推測された。
〔実施例5〕『長期保存による影響』
上記方法により作製した土壌の白紋羽病抑止活性が、長期保存した場合でも保持されるかを検証した。
(1) 「土壌の作製」
実施例2に記載の方法に準拠して、圃場土(果樹研究所内のナシ圃場土)への白紋羽病菌の生育菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行い、その後、白紋羽病菌の死滅菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行った。
その後、23℃の暗所にて、6ヶ月間静置保存した(試料5-1)。
(2) 「白紋羽病抑止活性の測定」
上記作製した土壌(試料5-1)について、実施例1に記載の方法と同様にして、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1)の測定も行った。結果を図11に示した。
(3) 「結果」
・長期常温保存性
その結果、作製後に6ヶ月間の長期常温保存を行った後においても、作製した土壌が有する白紋羽病抑止活性が高く維持されることが示された。
このことから、本発明により作製した土壌は、長期の常温保存が可能であることが示された。
〔実施例6〕『土壌の違いによる影響』
白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製において、土壌の種類を代えた場合の影響を検討した。
(1) 「土壌の作製」
実施例2に記載の方法に準拠して、土壌への白紋羽病菌の生育菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行い、その後、白紋羽病菌の死滅菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行った。なお、当該作製に供した土壌としては、果樹研究所内のナシ圃場土, ;市販の鹿沼産黒土, ;を用いた。
その後、23℃の暗所にて6ヶ月間静置保存した(試料6-1, 6-1)。
(2) 「白紋羽病抑止活性の測定」
上記作製後に6ヶ月間静置保存した土壌(試料6-1, 6-2)について、実施例1に記載の方法と同様にして、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1), 市販の鹿沼産黒土(対照2), の測定も行った。結果を図12に示した。
(3) 「結果」
その結果、作製に供した未処理の土壌の抑止活性は、黒土(対照2)の方が圃場土(対照1)よりも低い値を示していた。
しかし、上記作製後に6ヶ月間保存した後の白紋羽病抑止活性は、市販黒土を用いて作製した土壌(試料6-2)の方が、圃場土を用いて作製した土壌(試料6-1)よりも高い値を示すようになった。
この結果は、土壌生態系の遷移現象が関係するものと考えられた。
即ち、未処理の圃場土の方が黒土よりも高い抑止活性を奏していたことは、未処理の土壌中では、圃場土の方が黒土よりも、土壌微生物の総量自体が多かった(白紋羽病菌に対する拮抗微生物の量が多かった)ためと推定された。
一方、作製土壌を6ヶ月間長期保存した後では、黒土の方が、圃場土よりも高い抑止活性が発揮されていた。これは、黒土の方が圃場土よりも、「白紋羽病菌に対する拮抗微生物」が維持されやすい環境であったためと推定された。
この結果は、黒土の方が圃場土よりも、土壌微生物の種類が少なかった(土壌微生物の多様性が低かった)ために、遷移現象として増殖してくるはずの「二次拮抗微生物」(白紋羽病菌の拮抗微生物をさらに捕食等する微生物)の量が極めて少なかったため、と推定された。
これらの結果から、‘抑止活性が高い土壌’を作製するためには、土壌微生物の総量が多い原料土壌を用いることが好適であると考えられた。
また、‘抑止活性が長期間維持されやすい土壌’を作製するためには、二次拮抗微生物の種類や量が少ない土壌を用いることが好適であると考えられた。
〔実施例7〕『拮抗微生物組成の変化』
上記作製した土壌が有する白紋羽病抑止活性は、白紋羽病菌に対する拮抗微生物の個体数が、顕著に増加したために発揮されたものと推定された。
そこで、白紋羽病菌に対する拮抗作用が知られているTrichoderma属とClonostachys属の糸状菌に注目し、これらの出現頻度を算出することで、白紋羽病菌に対する拮抗微生物組成の変化を調べた。
(1) 「拮抗作用の確認」
まず、Trichoderma属, Clonostachys属の糸状菌が有する白紋羽病菌に対する拮抗作用を確認した。
これらの糸状菌と白紋羽病菌を共培養したところ、Trichoderma属の糸状菌は、外分泌物質により白紋羽病菌を死滅させて、増殖を阻害することが確認された(図13Aの符号14 参照)。
また、Clonostachys属の糸状菌は、菌糸の絡み付きとその後の菌糸内への侵入により、白紋羽病菌を物理的及び生理的に死滅させることが確認された(図13Bの符号15 参照)。
これらのことから、Trichoderma属, Clonostachys属の糸状菌類は、白紋羽病菌に対して具体的な拮抗作用を示す微生物であることが確認された。
(2) 「土壌の作製」
実施例2に記載の方法に準拠して、土壌への白紋羽病菌の生育菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行い、その後、白紋羽病菌の死滅菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行った。なお、当該作製に供した土壌としては、果樹研究所内のナシ圃場土(試料7-1), ;市販の鹿沼産黒土(試料7-2), ;を用いた。
(3) 「拮抗微生物群の組成の調査」
上記作製した土壌(試料7-1, 7-2)について、白紋羽病菌(R. necatrix W563株)を培養した爪楊枝を各16本ずつ差し込み、23℃で暗所にて1ヶ月間静置した。
静置後、爪楊枝の先端に付着していた微生物を回収し、その先端を1/10希釈ポテトデキストロース寒天培地(ストレプトマイシン200μg/Lを含む)に付着させて、生育してきたTrichoderma属とClonostachys属の出現率を解析した。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1), 市販の鹿沼産黒土(対照2), の解析も行った。結果を表2に示した。
(3) 「結果」
その結果、未処理土壌(対照1,2)では、Clonostachys属の糸状菌とTrichoderma hamatumの糸状菌の出現頻度が高い値を示した。
一方、作製土壌(試料7-1, 7-2)では、Clonostachys属の糸状菌が全く存在せず、Trichoderma属の糸状菌の頻度が増加し、特にT. harzianum, T. koningii, T. atroviride, の割合が急増していた。
この拮抗微生物組成の変化動態は、圃場土と黒土で同様に検出されたことから、Trichoderma属の糸状菌は、白紋羽病抑止活性に重要な働きをしていると認められた。
特に、作製土壌中で急激に組成割合が増加したT. harzianum, T. koningii, T. atrovirideは、白紋羽病菌に対する特異性が極めて高い(拮抗作用が特に高い)微生物であると推定された。
なお、Clonostachys属の糸状菌は、白紋羽病菌が高密度で存在する環境下では、Trichoderma属の糸状菌類に駆逐されたことから、白紋羽病菌のみを特異的に栄養源とする微生物ではなく、他のカビ等の糸状菌についても栄養源とする微生物であると推定された。
即ち、白紋羽病菌に対する特異性が弱い(拮抗作用が弱い)微生物であると推定された。
〔実施例8〕『作製土壌の白紋羽病治療効果』
白紋羽病菌に感染し既に病徴が発症している樹木に対して、本発明の作製土壌を用いて白紋羽病の治療が可能かを検証した。
(1) 「土壌の作製」
実施例2に記載の方法に準拠して、圃場土(果樹研究所内のナシ圃場土)への白紋羽病菌の生育菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行い、その後、白紋羽病菌の死滅菌叢培養材片の混和及び2週間の静置を2回行った。なお、本例の土壌作製は、実施例2の1/4スケール(土壌1L, 培養材片50mL)にて行った(試料8-1)。
(2) 「白紋羽病抑止活性の測定」
作製した土壌(試料8-1)について、実施例1に記載の方法と同様にして、土壌が有する白紋羽病抑止活性の測定を行った。
なお、対照として、上記処理を全く行っていない果樹研究所内のナシ圃場土(対照1)の測定も行った。
その結果、上記作製した土壌(試料8-1:生育菌叢の混和静置処理+死滅菌叢の混和静置処理)に、高い白紋羽病抑止活性が付与されていることを確認した。なお、当該結果を図15に示した。
(3) 「白紋羽病菌感染苗の準備」
後述する治療試験の効果判定を容易に行うために、茎部の限定した領域に人為的に白紋羽病菌の病斑を形成させる処理を行った。
冷蔵保存していたリンゴ台木苗(休眠苗:新葉及び新梢が成長していない状態のもの)を通常の土壌(黒ボク土:川砂:堆肥=1:1:1で混合したもの)を充填したポット(図16A 符号21)に植え付けた。この時、中央に穴の空いたビニール円盤(図16A 符号22)を茎に通して土壌表面に敷いた(図16A 参照)。なお、当該ビニール円盤は、後述するポットを逆さにする操作を行う際に、土壌の落下を防止するために設置したものである。
当該円盤の上に、小さなポット(図16B, C 符号23, 以下、小ポットという)の水抜き穴を茎に通して、開口部が上方になるように重ねて設置した(図16B, C 参照)。
この状態のポット苗をガラス室内にて1ヶ月栽培した。なお、当該状態では小ポットはまだ空のままである。
図16Cの状態での栽培後、小ポット(図16D 符号23)に果樹研究所内のナシ圃場土を充填した。この時、病原性を有する白紋羽病菌(W563株)の菌叢で覆われた材片(接種源:オートクレーブした0.5cm×2cmのナシ切枝上でW563株を1ヶ月間培養したもの)1個を茎部に接するように配置して埋土した。この状態(図16D 参照)のポット苗を6個準備し、ガラス室内にて2週間栽培した。
図16Dの状態での栽培後、ポット苗を逆さにして、小ポット内の土を除去し、埋土状態になっていた茎部を観察した。その結果、ポット苗全ての茎部に白紋羽病の病斑が形成されている(白紋羽病菌が感染して病徴が発現している)ことを確認した(図16E 符号26 参照)。
(4) 「白紋羽病の治療試験」
上記病斑形成苗の小ポット内に、供試土壌として上記作製土壌(試料8-1)を充填したポット苗を準備した(試験区8-1)。また、対照としては、供試土壌として通常の圃場土を充填したポット苗を準備した(対照区)。各試験区につきポット苗3個ずつを準備した。
その後、ガラス室内にて1ヶ月栽培し、リンゴ台木苗の発病枯死した個体数を計測した。また、茎部での白紋羽病菌の繁殖の度合いを観察した。結果を表4, 図17に示した。
(5) 「結果」
その結果、白紋羽病の病斑が形成された茎部に、上記作製土壌(試料8-1)を接触させて栽培した処理区では、3個体中2個体の白紋羽病の病斑が完全に消失していた。また、残りの1個体についても、病斑領域は大幅に減少していた(図17C 参照)。また、茎葉を含む地上部の状態は健常そのものであった(図17Aの右側の個体 参照)。
一方、未処理の圃場土を接触させて栽培した処理区(対照区)では、全ての個体において菌がさらに繁殖し病斑領域が拡大していた(図17B 参照)。また、茎葉が萎縮し全ての個体が枯死に至った(図17Aの左側の個体 参照)。
この結果から、白紋羽病の病斑部位に、本発明の作製土壌を接触させて栽培することによって、白紋羽病を既に発症している植物体の病徴が劇的に回復することが示された。即ち、白紋羽病を効果的に治療できることが示された。
本発明の作製土壌は、安全且つ簡便に施用可能なため、リンゴやナシなど白紋羽病の発生する果樹園等の生産現場において、白紋羽病の防除技術(予防技術、治療技術)として広く普及すると期待される。
また、本発明の作製土壌は、温水治療方法と組み合わせて施用することにより、さらに長期間の白紋羽病防除効果(予防効果、治療効果)が持続することが期待される。
また、本発明の作製土壌は、常温流通過程においても長期保存が可能な資材であるため、栽培用培土、土壌改良剤、予防剤、治療剤として、園芸資材メーカー等からの販売が期待される。
1: 土壌接触処理後の培養爪楊枝
2: 白紋羽病菌の菌叢死滅域
3: 菌叢死滅域と生存域の境界線(黒線)
4: 白紋羽病菌の菌叢生存域
5: リンゴ苗
6: 培土上層
7: 培土中層
8: 培土下層
11: 白紋羽病菌の菌糸
12: Trichoderma属糸状菌の菌糸
13: Clonostachys属糸状菌の菌糸
14: Trichoderma属糸状菌の外分泌物質により死滅した白紋羽病菌の菌糸
15: Clonostachys属糸状菌の菌糸の絡み付きにより死滅した白紋羽病菌の菌糸
21: ポット
22: 中央に穴の空いたビニール円盤
23: 小ポット
24: 茎部
25: 接種源を埋土した圃場土
26: 白紋羽病の病班
27A: 供試土壌(作製土壌)
27B: 供試土壌(未処理の圃場土)

Claims (8)

  1. 土壌微生物を含む原料土壌に対して、以下(A)に記載の処理を行うことにより、前記土壌中に白紋羽病菌に対して特異的な拮抗作用を有する微生物を培養し、;以下(B)に記載の状態となった時点以降に前記培養を終了させる、;ことを特徴とする、白紋羽病抑止活性を有する土壌の作製方法。
    (A): 前記土壌に生育可能な非病原性又は低病原性のRosellinia属に属する糸状菌の菌叢を混和して、10〜30℃で静置する処理。
    (B): 前記土壌表面の前記糸状菌の生育が減少傾向に転じた状態。
  2. 前記糸状菌が、白紋羽病菌である、請求項1に記載の土壌の作製方法。
  3. 前記(B)に記載の状態が、前記土壌表面の前記糸状菌の生育が確認できなくなった状態である、請求項1又は2に記載の土壌の作製方法。
  4. 前記(A)に記載の処理を、合計2〜10回繰り返して行うものである、請求項1〜3のいずれかに記載の土壌の作製方法。
  5. 前記(A)に記載の処理において、原料土壌に対する1回目の前記糸状菌の菌叢の混和が、以下(C)に記載の菌叢を混和するものであり、;2回目以降の前記糸状菌の菌叢の混和のうちの1回以上の混和が、以下(D)に記載の菌叢を混和するものである、;請求項4に記載の土壌の作製方法。
    (C): 全部が前記糸状菌の生育菌叢。
    (D): 前記糸状菌の生育菌叢と死滅菌叢との混合菌叢, 又は, 全部が前記糸状菌の死滅菌叢。
  6. 前記死滅菌叢が、35℃以上の温水との接触によって死滅した菌叢である、請求項5に記載の土壌の作製方法。
  7. 前記原料土壌が、黒土, 黒ボク土, 褐色森林土, 低地土, 及び赤黄色土, から選ばれる1以上のものである、請求項1〜6のいずれかに記載の土壌の作製方法。
  8. 前記原料土壌が、Trichoderma属に属する微生物を含むものである、請求項1〜7のいずれかに記載の土壌の作製方法。
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