JP5616392B2 - 地震前兆観測装置及びその方法、地震前兆観測プログラム - Google Patents
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Description
複数の観測点で実測された地震データを取得するデータ取得手段と、地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求めるパルス演算手段と、前記パルス演算手段で求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出するライン演算手段と、前記ライン演算手段で算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出すヘッド探索手段と、前記ヘッド探索手段が探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視する監視手段とを有することを特徴とするものである。
複数の観測点で実測された地震データを取得し、地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求め、前記求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出し、前記算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出し、前記探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視する構成に構築したものである。
コンピュータに、
複数の観測点で実測された地震データを取得するデータ取得手段と、地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求めるパルス演算手段と、前記パルス演算手段で求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出するライン演算手段と、前記ライン演算手段で算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出すヘッド探索手段と、前記ヘッド探索手段が探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視する監視手段とを構築する構成としたものである。
本発明の基本概念は、後節で述べる実測データに基づいた検証結果から、地震に対する「パラメトリックモデル」を提唱するものである。
前兆、本震及び余震に至る活断層AFの成長過程は図19に示す地表ESのパラメトリックスポットPSに最も反映される。そのパラメトリックスポットPSで、前兆の段階から、破断の高速連破であるパラメトリック効果の反映であるパラメトリックヘッドPHを観測することは、活断層AFの機構に適合した適切な地震予知観測法である。
特に、前兆の段階で、その活断層の挙動を調べることは本震を予測することに繋がるものである。
そこで、2009年から2012年の間に富士山付近から駿河湾に至る地域で発生したマグニチュード5以上の全ての地震について解析した。2009年8月11日に発生した地震EQ1は図3に示すように駿河湾南部を震源とする地震であり、2011年3月15日に発生した地震EQ2は図3に示すように富士裾野を震源とする地震であり、2011年8月1日に発生した地震EQ3は図3に示すように駿河湾南部を震源とする地震であり、2012年1月28日に発生した地震EQ4は図3に示すように河口湖付近を震源とする地震である。これら解析した4つの地震の震源、震度、パラメトリックスポット、震源震度等を次表に一覧にして示す。
これらの全ての地震EQ1〜EQ4でパラメトリックモデルが確立することを示すために、それらの地震のパラメトリックスポット(PS)も示した。また、それらのパラメトリックスポット(PS)で観測されたパラメトリックヘッドPHを図18に示す。図18において、横軸は、複数の地震波パルスの始めを揃えて地震波同士を比較するために時間軸としており、絶対時間を示すものではない。さらに、複数の地震波の速度振幅を比較するために最大振幅で規格化して相対的に上下に重ねて表示するため、縦軸は速度振幅軸としており、絶対速度振幅を示すものではない。
図18のa)は、地震EQ3に対するパラメトリックスポットPSである真鶴での地震の受波信号、b)は、地震EQ2に対するパラメトリックスポットPSである西野原での地震の受波信号、c)は地震EQ4に対するパラメトリックスポットPSである駒ヶ根での地震の受波信号である。
図18から明らかなように、地震に対するパラメトリックスポットPSである観測点で受波した全ての受波信号にパラメトリックヘッドPHが確認され、パラメトリックモデルが確立することを明らかにしている。なお、図18のb)は、後節のパラメトリックラインPLから若干ずれている観測点で受波した地震の受波信号を示すものであり、その受波信号の波形を図18a)及びc)に示す受波信号と比較すると波形が崩れているが、先頭部分に位置するパラメトリックヘッドPHの傾向は明確に現れている。
その結果、震源は特定の方向に高速で移動する音源に相当することが明らかになった。高速で移動する方向には、パラメトリック効果により鋭い地震波ビームが形成される。このビーム波が伝搬する方向では、圧力が累積的に加算されるため、パラメトリックパルスの先頭部分の振幅が大きくなる。これをパラメトリックヘッドPHと名付ける。このパラメトリックヘッドPHは本震、余震のみならず前兆にも表れるため、活断層の発達を知る目安として、地震の予知に役立てることができる。
前記水中におけるタイムリバーサル波の音圧に関する論文は、水中に設置した音源からの音波を距離を置いて設置した変換器アレイで受信し、その受信波に時間反転処理を施し、その時間反転処理を施した音波を前記変換器アレイから水中に放射し、その音波が前記音源に集束することを実証している。
ここで、
は音源から変換器アレイ素子mまでのグリーン関数で、
はアレイ素子mから点rまでのグリーン関数で、
は音源から送波される波のスペクトルである。r,z, t及びωは、それぞれ距離、深度、時間、及び角周波数を表す。この式は音源から変換器アレイまでの、いわゆる往路の伝搬関数と、変換器アレイから音源までの復路の伝搬関数との共役積分になっている。
従って、実験的には、変換器アレイで受波した信号を、時間反転して再放射して、元の音源付近にパルスを形成させることと等価である。この方式は前記W. A. Kuperman等によって実海域実験で立証されている。
この原理を地震波に適用する。即ち、実際に地震計で受波した地震波に、式(1)に基づく時間反転処理を施して、その時間反転処理した地震波を伝搬シミュレーション上で放射して、音源に相当する震源付近にパルスを形成させることができる。従って、前記パルスが形成される位置付近が地震の震源付近となる。
図3から明らかなように、駿河湾には震源EQ1,EQ3を囲むように○印で示す観測点が多数配置されている。そのため、震源の振動を広い角度範囲で調べることができる。しかし、各観測点に設置されている地震計の深度は、本川根の海抜776mから浜松の海抜−1006mまで、大きく分散している。
各観測点に設置した地震計は、上下方向,水平方向(東西、南北)の3つの振動速度を常時観測している。その観測データは、防災科学技術研究所のHi-netから取得することができる。
一般に、低周波音源には指向性がないために、低周波水中音源のタイムリバーサルパルスには方位性はない。例えば、お寺の鐘の音のように、どの方角にも同じ音を放射している。
しかし、地震EQ1のタイムリバーサルパルスは各観測点によって大きく異なる結果が得られた。図4は浜松(a)、芝川(b)、沼津(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスを示している。震源から各観測点までの距離はそれぞれ70.3km,46.6km,52.1kmである。それらの観測点に設置した地震計の深度はそれぞれ海抜−1006m,−225m,109mである。また、震源から真北を方位0とすると、これらの観測点の方位角はそれぞれ266°,1°,28°である。
この様に、距離,深度,方位角が違えば、地震波の伝搬環境が異なるため、タイムリバーサルパルスも異なるとも考えられる。しかしながら、式(1)を見ると、距離rと深度zは含まれているので、距離と深度は考慮されて、自動的に補正されている。従って、伝搬環境の地理的な変化の影響を補正する必要がある。
伝搬環境の地理的な変化の影響を補正するために、タイムリバーサルのロバストネスを利用した伝搬環境算出法を考案して、観測点毎に正確なP波の速度分布を求めている。即ち、タイムリバーサル理論により、受信点で受波した信号を時間反転して放射すると元の音源位置にパルスが収束する。この際、伝搬環境が本来の状態からずれていると、そのずれの程度に応じて収束のレベルが低下する。そこで、伝搬環境を変化させながら収束のレベルが最大になる伝搬環境を求める。この様にタイムリバーサルを逆問題的に活用して、各観測点に最適な伝搬伝搬環境を求める方法である。ロバストネスに関する論文としては、菊池, 水谷: 音響学会講演論文集, 2-1-17 (2009.3) ,菊池, 水谷: 海洋音響学会講演論文集, 09-37 (2009.5) ,菊池, 水谷: 音響学会講演論文集, 3-2-13 (2010.3) ,T. Kikuchi and K. Mizutani: Proc. Symp. Ultrasonic Electronics 31 (2010) 575が存在する。
以上の考察から、観測点の位置やセンサ深度など受信側の要因によるタイムリバーサルパルスの変化は考えられない。即ち、タイムリバーサルパルスの変化は震源振動に起因すると考えられる。
そこで、震源振動を分析するために、タイムリバーサルパルスを方位角順に並べ替えた。その結果同一方位にある観測点のタイムリバーサルパルスはほぼ一致した。大須賀(a),袋井(b),浜松(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスを図5に示す。
大須賀(a),袋井(b),浜松(c)の各観測点の震源からの距離はそれぞれ49.1km,59.7km,73.8kmである。また、それらの観測点に設置した地震計の深度はそれぞれ海抜−65m,−428m,−1006mであり、いずれも大きく異なっている。しかしながら、これらの観測点の方位角は約260°であり、方位がほぼ一定である。
これらの結果から、震源は特定の方位に、特定の振動を放射しているが、その振動は方位によって大きく異なることが明らかである。この様な振動を放射する震源は、どのような振動体であるかは容易には予測できない。
図6は、浜松(a),袋井(b),森(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルを示している。浜松(a),袋井(b),森(c)の各観測点の方位角は、それぞれ259°,271°,279°である。浜松(a),袋井(b),森(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスの主たる周波数成分は図6から2Hz以下であることが分かる。
図7は、裾野(a),沼津(b),函南(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルである。裾野(a),沼津(b),函南(c)の各観測点の方位角は、それぞれ27°,37°,52°である。裾野(a),沼津(b),函南(c)の各観測点に対応するタイムリバーサルパルスの主たる周波数成分は図7から4〜5Hzにあることが分かる。
これらの図6及び図7から、タイムリバーサルパルスの周波数スペクトルは、方位角が近ければほぼ一致することが分かる。また、方位角が約250°から約40°へ、即ち西から東へ移動するにつれて、周波数スペクトルの周波数成分が上昇することが分かる。
次に、方位角に対する周波数スペクトルの変化を知るために、周波数スペクトルのピーク周波数を調べる。
なお、図4,図5,図6,図7,図9,図10,図11及び図12において、横軸は、複数の地震波パルスの始めを揃えて地震波同士を比較するために時間軸としており、絶対時間を示すものではない。さらに、複数の地震波の速度振幅を比較するために最大振幅で規格化して相対的に上下に重ねて表示するため、縦軸は速度振幅軸としており、絶対速度振幅を示すものではない。
図8は観測データに数学的なデータ処理法である最小自乗法を適用してデータに最適な曲線を求めた方位角に対する周波数スペクトルのピーク周波数の分布を示す図であり、丸印と実線は、地震計の東西方向成分に基づいた算出した結果、 X印と破線は地震計の南北方向成分に基づいた結果である。図8において、○印は東西水平速度成分、×は南北水平速度成分を示しており、実線で示す曲線は東西水平速度成分についての周波数スペクトルのピーク周波数分布を示し、一点鎖線は南北水平速度成分についての周波数スペクトルのピーク周波数分布を示している。図8において、横軸は震源を中心とした方位角(°)、縦軸は周波数(Hz)を示している。
図8において、浜松,静岡,裾野,河津を含めた観測点での周波数スペクトルのピーク周波数をマッピングし、そのピーク周波数分布に基づいて震源の移動、すなわちパラメトリックラインPLを推定する。このパラメトリックラインPLを推定することにより、図20に示す活断層AFの発達が把握できるものと考えた。
図8に示すピーク周波数分布から、浜松から静岡に向かってピーク周波数が上昇して、その後、裾野から河津に向かってピーク周波数が下降していることが明らかであり、そのピーク周波数分布からピーク周波数が下降した観測点である河津と震源地EQ1とを結ぶ線上にパラメトリックラインPLが存在しているものと推定した。
このようなピーク周波数の変動は通常の音源では起こりにくく、通常の音源に対するドップラー効果では説明できない変化である。
そこで、震源が河津方向に移動している、すなわち震源地EQ1と河津とを結ぶ方向にパラメトリックラインPLが存在することを裏付けるために、観測点河津の付近の観測点に対応するタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルを調べる。
図9のa)は伊東、b)は西伊豆西、c)は河津のそれぞれ周波数スペクトルを示している。図9では、東西の水平速度を用いている。
図9から明らかなように、いずれの観測点においても高い周波数成分を含んでいるが、図9のb)に示す西伊豆西では5Hzの成分が卓越している。このときの伊東,西伊豆西,及び河津の各観測点で受波された地震波信号を図10に示す。図10のa)は伊東、b)は西伊豆西、c)は河津の観測点で受波した地震波の波形を示している。
図10は地震波全体を示すために、P波とS波からなる全体の地震波の波形を表示しているが、解析はP波のみである。解析にP波のみを用いる理由は、P波はS波に比べて伝搬途中の影響を受け難いからである。
図10のb)から明らかなように、観測点西伊豆西で受波したP波の波形の先頭部分Hが特別な振動をしていることが分かる。この成因の詳細は後節で述べるが、特定の方向に周波数成分が重畳するために生じる。これは後節に述べるパラメトリック効果によるものであるから、この特定の方向をパラメトリックラインPLと呼ぶ。このパラメトリックラインPLが活断層AFの長さ方向であることを後節で説明する。また、図10のb)に示すように受波したP波の波形の先頭部分Hが大きくなる現象を、その成因からパラメトリックヘッドPHと呼ぶ。このパラメトリックヘッドPHは、次項の余震でより明確になる。このパラメトリックヘッドPHにより地震の前兆を観測することを後述する。
伊東と河津は距離的に西伊豆西に近いが、図10から明らかなようにパラメトリックヘッドPHは見られない。これはパラメトリック効果によって生成されるビームは非常に狭いことと合致している。
図11を図9及び図10と比較すると明らかなように、いずれの余震も、前後に離れた2本の大きなピークが見られるが、始めのピークはP波のパラメトリックヘッドPHで、次のピークはS波のピークである。このS波のピークより前部はP波成分であるが、そのP波の先頭部分の大きさが際立っている。
図20に示すように、活断層AFの破断(亀裂)Dが始まり微弱な地震(前兆)が発生した段階で、その後の地震を予測する。活断層AFが知られていれば、図17及び図19に示すパラメトリックスポットPSで、パラメトリックヘッドPHを捜すことにより、活断層AFが破断し始める前兆を調べる。
通常に発生している地震は、予め活断層AFの存在が確認されていない地域で起こっている。従って、地殻歪みが溜まっていると予測される地域では微弱な地震の観測からパラメトリックヘッドPHを捜すことにより前兆を捉えることができる。パラメトリックスポットPS付近に観測点がない場合は、前兆と思われる地震の周波数スペクトルを調べて、亀裂が高速に移動を始めたかを調べる。
パラメトリックモデルが確立されたので、その特性から応用範囲が広がる。パラメトリックスポットPSが不明な場合でも、パラメトリックモデルの放射特性から、活断層の挙動が予測できる。また、パラメトリックモデルの放射特性は通常の震動源の放射特性と大きく異なるため、早期予報システム等に大きな要因を与えることができる。例えば、活断層と観測点の位置関係により、P波の振幅と周波数成分が大きく異なることである。
パラメトリックラインPLは音源が高速で移動する線であるが、地震の場合は活断層AFに亀裂Dが構築される線と同じと考えられる。
図12は、一般に知られている波形、即ちP波とS波を表示しているが、本発明者は、図12に示す波形のうち前部のP波部分に注目し、これらのP波の先頭部が徐々に大きくなってくることに注目している。具体的には、図12のa)に示す受波信号と図12のb)に示す受波信号では、パラメトリックヘッドPHが形成されつつあるが、図12のc)に示す受波信号では、ほぼパラメトリックヘッドPHが形成されていることに注目している。
図20に示すように、活断層AF内のある点で亀裂Dが生じると、その亀裂Dは次々と伝搬していくことがある。それに伴って地震の震源Fも同時に移動する。即ち、亀裂Dの移動状況に伴って地震の震源Fも移動するので、亀裂Dの変化を音源追従によって推定することが可能になる。特に大きな地震では、亀裂Dがある方向に急速に進むので、図20に示すようなパラメトリックラインPLが形成される。
一般に、音波の放射は音源の大きさが波長に比べて十分大きい場合は、放射される音波ビームの指向性は鋭くなる。しかし、波長と同程度の大きさを有する音源から放射される音波は殆ど無指向性である。例えば、お寺の鐘の音は、どの方角でも同じ音に聞こえる。それに反して、小さな音源で低周波の鋭い音波ビームを放射するために考案されたのがパラメトリックアレイである。
図13a)は、パラメトリックアレイを概念的に示すものである。音源から高い周波数の音波を放射すると、図13a)に破線で示すように鋭い幅のビームが放射される。この音波の音圧を大きくすると、図13a)に示すように、正弦的な波が徐々に鋸歯状化していく。これは媒質の非線形効果によって起きるものである。この鋸歯状化した領域では、始めに、f1だった周波数成分に加えて2f1,3f1,4f1などの高調波成分が発生する。
同じように、音源から強い音波f2を放射した場合も、f2に加えて2f2,3f2,4f2などの高調波成分が発生する。この2次的に発生する2f1,3f1,4f1,2f2,3f2,4f2等の高調波成分は音源から放射されているものではなく、水中を伝搬中に、その音波の進行と共に水中で発生するものである。
次に、同じ音源から共に強い音波f1と音波f2とを同時に放射した場合は、上記の高次周波数成分の他に、f1−f2(図中の○印)と、f1+f2の和差周波数成分が発生する。ここで、図13a)において、f1−f2の差周波数成分に注目する。音源として低周波の音波を出力する音源を想定しているから、前記差周波数成分は低周波であるため、通常の音源では指向性の鋭いビームを作ることはできない。お寺の鐘の音が低周波であって四方八方に無指向性で伝搬することからも明らかである。
しかし、図13a)に示すように、同じ音源から共に強い音波f1と音波f2とを同時に放射した場合における差周波数成分f1−f2は、一次音源の進行と共に発生するので、発生点も音波の伝搬と同じ速度で、同じ方向に進行する。そのため、それらの差音は全て同位相で干渉するため、特定の方向にビームの狭い音波を放射することになる。即ち、一次音波f1とf2の伝搬と共にf1−f2の差周波数成分が発生するので、それらは全て同じ速度で伝搬する。
したがって、図13b)に示すように、差音S1が進行してS2点に達したときに、S2から新たな差音が発生する。S1とS2からの差音がS3点に達したときS3から新たな差音が発生する。S1とS2及びS3からの差音がS4点に達したときに新たな差音S4が発生する。
上述した過程を繰り返してS10まで進んだときの、各点から放射された音波の波面、即ち、S1からの波面P1、S2からの波面P2、S3からの波面P3等を図13b)に示している。それらの波面は進行方向前面で全てが同位相になるため大きな振幅の波が形成される。
このように、媒質の中でビームが加算されていくため、ある縦型のアレイを形成しているので、パラメトリックアレイと呼ばれている。このパラメトリックアレイの特徴は低周波にもかかわらず狭いビームを形成することにある。そして、ビームの幅はパラメトリックアレイの長さが長くなるにつれて狭くなる。
地震波の場合、図20に示すように活断層AFに添って亀裂D(音源に相当する震源F)が進行する場合、亀裂Dの進行と共に圧力が加算されつつ進むので、水中のパラメトリックアレイと同じ作用が働いていると考えられる。そして、図20に示す活断層AFの長さ(パラメトリックラインPL)が長いほど、即ち大きな地震ほど放射される地震波のビームは狭くなる。
そこで、前記シミュレーションを行う際に、図20示す亀裂Dとして低周波成分の雑音を設定した。前節の水中の場合と異なるのは、音源が雑音であることである。前記雑音は、図20に示す活断層AFに亀裂Dが構築される際に発生するものである。前記雑音が伝搬中にある周波数成分に変換されていることは、伝搬媒質にダクト構造があると考えられる。
一般に図20に示す活断層AFが生じる地層EC内には強い応力が集中して加わっている。高い応力がかかった部分は、応力の加わらない部分より伝搬速度が部分的に上昇することが分かっている。
本シミュレーションでは図14に示すように、深度方向に地震波の速度が変化していると仮定する。この速度が最小の深度例えば20kmの深度に音源に相当する雑音として想定した震源を置き、その深度内を水平方向に進行する雑音震源N1,N2,N3・・・を考える。
音源である雑音震源の一例を図15の上図に示す。震源をなす雑音は乱数によって発生させているので、ほぼランダムであると考えられる。図15の下図はその震源(雑音)の周波数スペクトルである。図15の上図において、横軸は時間(秒)、縦軸は速度振幅を示している。図15の下図において、横軸は周波数(Hz)、縦軸は振幅を示している。
図14に示すように、雑音震源が進行と共にN1,N2,N3・・・の各点で放射しながら進むので、パラメトリックアレイと同じ効果が生じていると考えられる。
さらに、図14に示すように雑音震源が進行と共にN1,N2,N3・・・の各点で放射しながらパラメトリックアレイ長が1400mのとき、すなわち図20に示す活断層AFの長さが1400mであるとき、図14に示す雑音震源から水平方向に35km進んだ点で受波した信号を図16の上図に示している。図16の上図において、横軸は時間(秒)、縦軸は速度振幅を示している。図16の下図において、横軸は時間(秒)、縦軸は速度振幅を示している。
前記35kmの距離は図3に示す地震EQ1と観測点の西伊豆西までの距離に等しい。この西伊豆西は震源地EQ1を通るパラメトリックラインPL上に位置していることは上述した通りである。
図16の下図はその周波数スペクトルを表している。図16の上図では、受波したパラメトリックパルスの先頭部分に周波数の高い成分が集まってパラメトリックヘッドPHを形成しており、低い成分が後方に分散している。図15の上図に示したように、雑音はほぼランダムな信号であるが、地中のダクトを進行する間に、図16の上図に示すように、パラメトリック効果により特定の周波数成分が強調される、すなわちパラメトリックヘッドPHを形成することが分かる。
そこで、2011年8月1日に発生した図3に示す地震EQ3についても解析した結果、震源から観測点、真鶴方向に向いていることが確認できた。また、2011年3月12日に富士山付近で発生した地震EQ2の場合は西野原の観測点方向に向いていることが確認できた。更に、2012年1月28日に河口湖付近で発生した地震EQ4の場合は駒ヶ根の観測点方向に向いていることが確認できた。一般に、殆どの地震波は図20に示す活断層AFのずれによって発生するといわれている。
従って、本方式は多くの地震の前兆を観測する手段として有効であると考えられる。
すなわち、本発明の実施形態に係る地震前兆観測装置は図1に示すように、複数の観測点で実測された地震データを取得するデータ取得手段1と、地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求めるパルス演算手段2と、前記パルス演算手段2で求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から活断層の長さ方向でのパラメトリックラインPLを算出するライン演算手段3と、前記ライン演算手段3で算出したパラメトリックラインPL上或いはその付近のパラメトリックスポットPSの観測点で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドPHを探し出すヘッド探索手段4と、前記ヘッド探索手段4が探し出したパラメトリックヘッドPHを観測することにより活断層の発達を監視する監視手段5とを有する構成として構築したものである。
これを解消するために前記パルス演算手段2は上述したように、タイムリバーサルのロバストネスを利用した伝搬環境算出法を適用して伝搬環境を把握し、その伝搬環境を考慮して観測点で受波した地震波にタイムリバーサルを適用してタイムリバーサルパルスを演算している。
データ取得手段1は、図3に○印で示した複数の観測点で実測された地震データを取得する(図2のステップSP1)。この地震データは防災科学技術研究所が管理しているので、その防災科学研究所のHi-netからダウンロードして取得すればよい。前記データ取得手段1は取得した地震データをパルス演算手段2に受け渡す。
前記ヘッド探索手段4は、マグニチュウド2程度の微弱な地震を含む全ての地震に対して、受波した地震波の波形を分析してパラメトリックヘットPHを探す。この場合、前記ヘッド探索手段4は、地震計で実測した上下、水平(東西、南北)の3速度成分に対して地震の波形の解析する必要がある。
上述したように、パラメトリックラインPL上では、本震と余震で特異な信号が受波されることが分かっっており、地震の前兆を捉えるためには、パラメトリックラインPL上で発生する地震の特徴をつかむ必要がある。
したがって、前記監視手段5は、本震,余震,さらには本震より時間的に遡った地震波から探し出したパラメトリックヘッドPHの情報を記憶し、それらの情報を比較することにより、前記ヘッド探索手段4が探し出したパラメトリックヘッドPHを観測して図20に示す活断層AFの発達を監視する。
具体的には前記監視手段5は、図12のa)に示す受波信号と図12のb)に示す受波信号では、パラメトリックヘッドPHが形成されつつあるが、図12のc)に示す受波信号では、ほぼパラメトリックヘッドPHが形成されていることを監視し、パラメトリックヘッドPHの情報が図12a)及びb)から図12c)のようにパラメトリックヘッドが顕在化すると、断層の亀裂が発達していると判断する。前記監視手段5から出力される情報に基づいて地震専門家等による地震の予知が行われる。
従って、活断層の存在が分かっていない場合には、地震データに基づいて取得した地震波に式(1)に基づくタイムリバーサルを適用してパラメトリックパルスを演算し、各観測点でのパラメトリックパルスに基づいて図8に示すピーク周波数分布を作成し、ピーク周波数が下降した観測点を見つけ出し、その観測点でのパラメトリックパルスを観測することにより、その観測点と震源地とを結ぶパラメトリックラインPLを割り出すことにより、図20に示す活断層AFの存在を把握することができる。
2 パルス演算手段
3 ライン演算手段
4 ヘッド探索手段
5 監視手段
Claims (5)
- 実測された地震データに基づいて地震前兆を観測する地震前兆観測装置であって、
複数の観測点で実測された地震データを取得するデータ取得手段と、
地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求めるパルス演算手段と、
前記パルス演算手段で求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出するライン演算手段と、
前記ライン演算手段で算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出すヘッド探索手段と、
前記ヘッド探索手段が探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視する監視手段とを有することを特徴とする地震前兆観測装置。 - 請求項1に記載の地震前兆観測装置において、
前記ヘッド探索手段は、地震計で実測した上下、水平(東西、南北)の3速度成分に対して地震の波形の解析を行うものである地震前兆観測装置。 - 実測された地震データに基づいて地震前兆を観測する地震前兆観測方法であって、
複数の観測点で実測された地震データを取得し、
前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求め、
地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出し、
前記算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出し、
前記探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視することを特徴とする地震前兆観測方法。 - 請求項3に記載の地震前兆観測方法において、
地震計で実測した上下、水平(東西、南北)の3速度成分に対して地震の波形の解析を行い、パラメトリックヘッドを探し出す地震前兆観測方法。 - 実測された地震データに基づいて地震前兆を観測するための地震前兆観測プログラムであって、
コンピュータに、
複数の観測点で実測された地震データを取得するデータ取得手段と、
地震の震源から各観測点までの地震波が伝搬する伝搬環境の情報を取得し、その伝搬環境を考慮して前記複数の観測点で受波された地震波にタイムリバーサル処理を施して各観測点におけるタイムリバーサルパルスを求めるパルス演算手段と、
前記パルス演算手段で求めたタイムリバーサルパルスの周波数スペクトルの方位分布から断層の長さ方向でのパラメトリックラインを算出するライン演算手段と、
前記ライン演算手段で算出したパラメトリックライン付近で受波した地震波を分析してパラメトリックヘッドを探し出すヘッド探索手段と、
前記ヘッド探索手段が探し出したパラメトリックヘッドを観測することにより断層の亀裂の発達を監視する監視手段とを構築することを特徴とする地震前兆観測プログラム。
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