まず、実施例の詳細な説明に先立って、本発明に係る紙幣処理手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る紙幣処理手法の概要を示す図である。なお、同図の(A)には、本発明に係る紙幣処理手法で用いられる2つの動作モードを示し、同図の(B)には、動作モードが第2のモードである場合の動作例を示している。
同図に示したように、本発明に係る紙幣処理手法では、入金された紙幣を収納部へ収納することなく識別計数のみを行って出金する点に特徴を有する。また、本発明に係る紙幣処理手法では、繰り入れた紙幣を一時的に保留するとともに再度繰り出し可能な一時保留部を用いることによって、入金された紙幣を金種ごとに並び替えて出金したり、紙幣の表裏を揃えて出金したりする点にも特徴がある。
具体的には、同図の(A)に示したように、本発明に係る紙幣処理手法では、従来の紙幣処理装置と同様の処理手順で紙幣を処理する第1のモードと、本発明に特有の動作モードである第2のモードとを有する。
より具体的には、第1のモードでは、紙幣の「入金」を受け付けると、入金された紙幣を「識別」したのち、識別された紙幣を識別結果に応じて金種ごとに「収納」し、収納された紙幣をユーザからの操作等に応じて「出金」する。一方、第2のモードでは、入金された紙幣を「識別」したのち、識別された紙幣を収納することなく「出金」する。
ここで、第2のモード時における紙幣処理装置の動作について図1の(B)を用いて具体的に説明する。同図の(B)に示したように、紙幣処理装置は、紙幣の入金を受け付けると(同図の(1)参照)、搬送路によって入金口から搬送されてきた紙幣を識別部によって識別する(同図の(2)参照)。ここで、識別部は、紙幣の金種、真偽、正損、表裏あるいは天地等を識別する。また、識別部は、識別した紙幣を金種ごとに計数する処理も併せて行う。
つづいて、紙幣処理装置は、識別部による識別結果に応じて、第1の種別の紙幣を出金口へ投出し(同図の(3)参照)、第2の種別の紙幣を一時保留部に一時的に保留し(同図の(4)参照)、その他の紙幣をリジェクト口へ投出する(同図の(5)参照)。そして、紙幣処理装置は、一時保留部によって一時的に保留された紙幣を所定のタイミングで出金口へ投出する(同図の(6)参照)。
ここで、第1の種別の紙幣および第2の種別の紙幣は、ユーザによって任意に設定することができる。たとえば、第1の種別の紙幣を一万円札とし、第2の種別の紙幣を千円札とすれば、五千円札や偽券あるいは損券を含む複数の紙幣を入金口へまとめて投入した場合であっても、これらの紙幣の中から一万円札と千円札だけを識別計数して出金口へ投出することができる。
しかも、一時保留部に千円札を一時的に保留させておき、一万円札を全て出金口へ投出した後に一時保留部から出金口へ千円札を投出することによって、一万円札と千円札とを分けて投出することができる。
また、一時保留部は、搬送路から繰り入れた紙幣を表裏を反転させたうえで再度搬送路へ繰り出すことが可能となっている。このため、第1の種別の紙幣を一万円札の「表券」とし、第2の種別の紙幣を一万円札の「裏券」とすれば、複数の一万円札が表裏バラバラの状態で入金口へ投入された場合であっても、これら一万円札を識別計数し、かつ、表裏を揃えて出金口から投出することができる。なお、一時保留部による紙幣の表裏反転処理の詳細については、図3を用いて後述することとする。
このように、本発明に係る紙幣処理手法では、識別部によって識別された紙幣を収納部へ収納する第1のモードと、識別部によって識別された紙幣を収納部へ収納することなく投出する第2のモードとを有し、動作モードが第2のモードである場合には、識別部によって識別された紙幣を識別結果に応じて出金口、リジェクト口あるいは一時保留部の何れかへ振り分けることとしたため、入金された紙幣を収納部へ収納することなく識別計数することができる。
また、本発明に係る紙幣処理手法では、第2の種別の紙幣を一時保留部によって一時的に保留したうえで出金口へ投出することとしたため、識別計数の対象外の紙幣をリジェクト口へ投出させつつ2金種の紙幣を識別計数し、かつ、これら2金種の紙幣を金種ごとに並び替えて投出することができる。
なお、ここでは、一時保留部によって保留された紙幣を出金口へ投出する場合について説明したが、これに限ったものではなく、入金口あるいはリジェクト口へ投出することとしてもよい。また、一時保留部によって保留された紙幣を入金口あるいはリジェクト口へ投出する処理は、ボタン操作等の手動操作に基づいて開始してもよいし、入金口またはリジェクト口に紙幣が無くなったことを検知して自動的に開始してもよい。
また、一時保留部から入金口あるいはリジェクト口への投出を開始するときには、投出される紙幣が識別済みの処理対象紙幣であることを示す情報を所定表示部に表示する。
図2は、本実施例に係る紙幣処理装置の全体構成を示す図である。同図に示すように、本実施例に係る紙幣処理装置1は、上部ユニット10と下部ユニット20とを有する。上部ユニット10は、主に、入金紙幣の受け付けや入金された紙幣の識別計数、出金紙幣の投出等を行うユニットである。具体的には、上部ユニット10は、入金口11と、識別計数部12と、出金口13と、リジェクト口14と、一時保留部15と、搬送路16とを含んでいる。なお、本実施例では、出金口13が「第1出金口」、リジェクト口14が「第2出金口」に相当する。
入金口11は、装置の天面を凹状に窪ませて開口を形成したボックスであり、ボックス内またはその近傍に設けられたローラ等の繰り込み部によって入金紙幣を1枚ずつ装置内部の搬送路16へと繰り込む。また、入金口11には、入金口11に残存する紙幣を検知する残存紙幣検知センサ(図示せず)が設けられている。なお、入金紙幣の繰り込み開始は、手動で行ってもよいし自動で行ってもよい。
識別計数部12は、搬送路16によって搬送される紙幣を識別する紙幣識別機である。具体的には、識別計数部12は、搬送路16によって搬送されてきた紙幣に対して金種判定、真偽判定、正損判定、表裏判定あるいは天地判定といった各種の鑑別を行う。また、識別計数部12は、識別した紙幣を金種ごとに計数する処理も併せて行う。なお、真偽判定とは、紙幣が本物か偽物かを判定することを示す。また、正損判定とは、本物の紙幣のうち状態のよい紙幣(正券)か汚れや損傷がある紙幣(損券)かを判定することを示す。
出金口13は、入金口11と同様に開口が形成されたボックスであり、装置内部から投出された出金紙幣が集積される。また、出金口13には、出金口13に残存する紙幣を検知する残存紙幣検知センサ(図示せず)が設けられている。
リジェクト口14は、入金口11や出金口13と同様に開口が形成されたボックスであり、動作モードが第1のモードである場合に、入金紙幣のうち識別計数部12によって不適正と識別された紙幣(偽券、損券あるいは識別不能券)が集積される。なお、動作モードが第2のモードである場合、リジェクト口14は、上記不適正と識別された紙幣の他、適正ではあるが識別計数の対象となっていない紙幣や識別計数の対象紙幣の集積にも利用することができる。たとえば、出金時には収納部21に収納されたリジェクト券をリジェクト口14へ投出せずに集積部22へ集積することで、リジェクト口14を第2出金口として利用することができる。
一時保留部15は、搬送路16によって搬送される紙幣を繰り入れて一時的に保留するとともに保留した紙幣を繰り出し可能な収納繰出部である。また、一時保留部15は、搬送路16によって搬送される紙幣をスイッチバックさせて搬送路16へ戻すことによって紙幣の表裏を反転させることができる。
ここで、一時保留部15による表裏反転処理の動作例について図3を用いて説明する。図3は、一時保留部15による表裏反転処理の動作例を示す図である。なお、同図の(A)には、紙幣を一時保留部15へ繰り入れる場合の動作例を示し、同図の(B)には、一時保留部15から紙幣を繰り出す場合の動作例を示している。
同図の(A)に示したように、一時保留部15は、スイッチバック経路15aと、テープ式巻取部15bとを備える。スイッチバック経路15aは、搬送路16から分岐する経路であり、搬送路16とテープ式巻取部15bとを接続している。ここで、搬送路16を搬送される紙幣は、スイッチバック経路15aへ一旦引き込まれたのち再度搬送路16へ繰り出される(すなわち、スイッチバックされる)ことによって、表裏が反転した状態で搬送路16へ戻されることとなる。なお、スイッチバック経路15aは、搬送路16とリジェクト口14とを接続する経路でもある。
テープ式巻取部15bは、回転ドラム151と、上部プーリ152と、下部プーリ153と、テープ154,155とを含んで構成される。回転ドラム151は、正逆回転自在に軸支された回転部材であり、周縁には2つのテープ154,155が巻き付けられている。また、上部プーリ152は、2つのテープ154,155のうち、テープ154を巻き取る部材であり、下部プーリ153は、テープ155を巻き取る部材である。
テープ式巻取部15bに紙幣を保留させる場合には、回転ドラム151が正方向(同図の(A)に示した矢印方向)に回転し、スイッチバック経路15aを介して繰り込まれる紙幣をテープ154,155間に挟み込んだ状態で回転ドラム151の周面に巻き付けて保持する。
一方、テープ式巻取部15bから紙幣を繰り出す場合には、同図の(B)に示したように、回転ドラム151が逆方向(同図の(B)に示した矢印方向)に回転し、テープ154,155間に挟持されていた紙幣をスイッチバック経路15bへ繰り出す。そして、テープ式巻取部15bによってスイッチバック経路15bへ繰り出された紙幣は、搬送路16から繰り入れられたときと表裏が反転した状態で搬送路16へと戻される。
このように、一時保留部15は、スイッチバック経路15aへ引き入れられた紙幣をテープ式巻取部15bを用いて一時的に保留することができる。また、一時保留部15は、一時的に保留した紙幣をスイッチバックさせて再び搬送路16へと戻すことによって紙幣の表裏を反転させることができる。
図2に戻り、搬送路16について説明する。搬送路16は、紙幣を表裏両側から挟持して一枚ずつ搬送するベルトコンベアおよびかかるベルトコンベアの駆動部を含んだ搬送部である。具体的には、搬送路16は、入金口11、識別計数部12、出金口13、リジェクト口14、一時保留部15、後述するスタッカ21a〜21e、精査カセット21fおよび集積部22をベルトコンベアによって相互に接続し、これら各部の間で紙幣の搬送を行う。
つづいて、下部ユニット20について説明する。下部ユニット20は、収納繰出部21と、集積部22とを備える。収納繰出部21は、紙幣を金種ごとに収納するとともに収納した紙幣を上部ユニット10へ繰り出し可能な収納部である。具体的には、収納繰出部21は、スタッカ21a〜21eと、精査カセット21fとを備える。
スタッカ21a〜21eは、紙幣を金種ごとに収納する収納部である。また、スタッカ21a〜21eは、収納した紙幣を上部ユニット10の搬送路16へ繰り出す繰出機構を備えている。なお、ここでは一例として、スタッカ21aには千円札、スタッカ21bには二千円札、スタッカ21cには五千円札、スタッカ21dには一万円札がそれぞれ収納されるものとする。ただし、どのスタッカにどの金種の紙幣を収納するかは、ユーザによって任意に設定可能である。
精査カセット21fは、収納繰出部21に対して脱着可能な現金カセットであり、紙幣詰まりなどが原因でスタッカ21a〜21eの収納枚数が不確定となった場合にそのスタッカ21a〜21eの収納枚数を精査する機能を有する。なお、精査カセット21fは、スタッカ21a〜21eと同様に紙幣を収納するとともに収納した紙幣を上部ユニット10へ繰り出すこともできる。
集積部22は、収納繰出部21とは異なり、紙幣の収納のみを行う収納部である。この集積部22には、たとえば、営業終了後において売上金等が収納されることとなる。
ここで、図2を用いて第1のモード(通常モード)時の動作について説明しておく。動作モードが第1のモードである場合には、紙幣処理装置1は、入金口11で受け付けた紙幣を搬送路16を介して識別計数部12へと搬送し、識別計数部12による紙幣の識別結果に応じて、紙幣を金種ごとのスタッカ21a〜21eへ収納する。
具体的には、紙幣処理装置1は、識別計数部12によって千円札と識別された紙幣を搬送路16を介してスタッカ21aへ収納し、二千円札と識別された紙幣をスタッカ21bへ収納する。同様に、紙幣処理装置1は、識別計数部12によって五千円札と識別された紙幣を搬送路16を介してスタッカ21cへ収納し、一万円札と識別された紙幣を搬送路16を介してスタッカ21dへ収納する。
また、紙幣処理装置1は、識別計数部12によって偽券、損券あるいは識別不能と判定されたリジェクト紙幣(リジェクト券)をリジェクト口14へ投出する。これによって、識別計数部12による紙幣の識別結果に応じて、リジェクト紙幣については投出しつつ、その他の正常な紙幣を金種ごとに収納することができる。
また、ユーザから出金操作を受け付けた場合には、紙幣処理装置1は、操作に応じた紙幣をスタッカ21a〜21dから繰り出し、搬送路16を介して出金口13から投出する。なお、紙幣処理装置1は、スタッカ21a〜21dから繰り出した紙幣を再度識別計数部12で識別し、不適切な紙幣が混在している場合には、集積部22へ投出する。
なお、ここでは、入金口11で受け付けた紙幣を一時保留部15を利用することなくスタッカ21a〜21eへ収納する場合について説明したが、入金時に一時保留部15を利用してもよい。たとえば、紙幣処理装置1は、リジェクト券を除く入金紙幣を一時保留部15に保留した後、計数結果を後述する表示部114に表示させる。そして、紙幣処理装置1は、利用者による操作によって計数結果が承認された後に、一時保留部15へ収納しておいた入金紙幣をスタッカ21a〜21eへ収納することとしてもよい。
次に、本実施例に係る紙幣処理装置1の機能構成について図4を用いて説明する。図4は、本実施例に係る紙幣処理装置の機能構成を示すブロック図である。なお、同図には、紙幣処理装置1の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
同図に示すように、本実施例に係る紙幣処理装置1は、操作部111と、識別計数部112と、分岐部113と、表示部114と、制御部120と、記憶部130とを備えている。また、制御部120は、モード切替部120aと、紙幣振分部120bと、保留紙幣繰出部120cとを備え、記憶部130は、モード設定情報130aと、入金情報130bとを記憶している。
操作部111は、ユーザからの各種操作を受け付ける入力装置である。具体的には、操作部111では、動作モードの切替指示や識別計数の対象となる紙幣の選択といった操作を受け付ける。ここで、操作部111は、動作モードの切替指示や識別計数の対象となる紙幣の指定をユーザから受け付けると、かかる切替指示や対象紙幣の指定情報をモード切替部120aへ通知する。なお、入金口11へ投入された紙幣の繰り入れ開始の指示をかかる操作部111で受け付けることとしてもよい。
識別計数部112は、図2に示した識別計数部12であり、搬送路16によって搬送されてきた紙幣に対して金種判定、真偽判定、正損判定、表裏判定あるいは天地判定といった各種の鑑別および識別した紙幣の計数処理を行う。また、識別計数部112は、紙幣の識別計数処理を行うごとに、識別結果および計数結果を紙幣振分部120bへ通知する。
分岐部113は、搬送路16の各分岐点に設けられた経路切替部である。具体的には、分岐部113は、搬送路16によって搬送される紙幣をそのまま搬送路16の下流側へ搬送させる位置と、搬送路16に接続される各部(たとえば、出金口13やスタッカ21a〜21e)へ搬送させる位置との間で揺動することで、紙幣を所望の場所へ投出させることができる。たとえば、分岐部113は、搬送路16とスイッチバック経路15aとの分岐点や、搬送路16と出金口13との分岐点あるいは搬送路16と入金口11との分岐点等に設けられている。
表示部114は、識別計数部112による紙幣の識別結果や計数結果を表示するディスプレイである。
制御部120は、動作モードの切り替えや識別された紙幣の振り分けあるいは一時保留部15に一時的に保留された紙幣の繰り出しといった処理を行う処理部である。モード切替部120aは、操作部111からモード切替指示を受け取った場合に、モード設定情報130aを更新することによって第1のモードと第2のモードとの間で動作モードの切替を行う処理部である。また、モード切替部120aは、操作部111から受け取った対象紙幣の指定情報も同様にモード設定情報130aとして記憶部130に記憶する。このように、モード設定情報130aは、現在設定されている動作モードに関する情報と、対象紙幣の指定情報とを含んだ情報である。
紙幣振分部120bは、識別計数部112から紙幣の識別結果を受け取ると、受け取った識別結果に応じて分岐部113を揺動させることによって紙幣を各部へ振り分ける処理部である。具体的には、紙幣振分部120bは、モード設定情報130aを参照し、動作モードが第1のモードである場合には、識別計数部112によって適正と識別された紙幣を金種ごとのスタッカ21a〜21eへ振り分ける。また、紙幣振分部120bは、識別計数部112によって不適正と識別された紙幣をリジェクト口14へ振り分ける。
一方、動作モードが第2のモードである場合には、紙幣振分部120bは、識別計数部112による識別結果に応じて紙幣を出金口13、リジェクト口14あるいは一時保留部15の何れかへ振り分ける。かかる紙幣振分部120bの第2のモード時の動作例については、図5および図6を用いて後述する。
また、紙幣振分部120bは、識別計数部112から受け取った識別結果および計数結果に応じて入金情報130bを更新する。ここで、入金情報130bは、紙幣の識別結果の履歴情報および金種ごとの計数結果を含んだ情報である。
保留紙幣繰出部120cは、動作モードが第2のモードである場合に、紙幣振分部120bによって一時保留部15へ振り分けられた紙幣を出金口13へ繰り出す処理部である。また、保留紙幣繰出部120cは、入金情報130bを参照して、紙幣の計数結果を表示部114に対して表示させる処理も併せて行う。
ここで、紙幣振分部120bおよび保留紙幣繰出部120cの動作例について図5を用いて説明する。図5は、本実施例に係る紙幣振分部120bおよび保留紙幣繰出部120cの動作例を示す図である。
なお、同図では、識別計数の対象紙幣を一万円札とするとともに識別計数を行った一万円札を表裏が揃った状態で投出する場合を例に挙げて説明する。また、同図の(A)には、紙幣振分部120bの動作例を示し、同図の(B)には、保留紙幣繰出部120cの動作例について示している。
同図の(A)に示したように、入金口11に一万円札とリジェクト券(偽券や識別不能券を含む紙幣)とが表裏がバラバラな状態で投入されたとする(同図の(1)参照)。かかる場合、紙幣処理装置1では、識別計数部12が、入金口11に投入された紙幣を1枚ずつ識別計数し(同図の(2)参照)、紙幣振分部120bが、識別計数された紙幣を識別結果に応じて出金口13、リジェクト口14あるいは一時保留部15の何れかへ振り分ける。
具体的には、紙幣振分部120bは、識別計数部12へ搬送された紙幣が一万円札の表券と識別された場合には、搬送路16と出金口13との間の分岐部113を揺動させることによって、かかる紙幣を出金口13へ投出する(同図の(3)参照)。
また、紙幣振分部120bは、識別計数部12へ搬送された紙幣が一万円札の裏券と識別された場合には、搬送路16と一時保留部15(スイッチバック経路15a)との間の分岐部113を揺動させることによって、かかる紙幣を一時保留部15(テープ式巻取部15b)に一時的に保留させる(同図の(4)参照)。また、紙幣振分部120bは、識別計数部12によってリジェクト券と識別された紙幣をリジェクト口14へ投出する(同図の(5)参照)。
一方、入金口11に設けられた残存紙幣検知センサが入金口11に残存する紙幣を検知しなくなり、紙幣振分部120bが入金口11に投入された紙幣の全てを振り分け終えると、保留紙幣繰出部120cは、同図の(B)に示したように、一時保留部15によって保留された一万円札の裏券を出金口13へ投出する。
具体的には、保留紙幣繰出部120cは、搬送路16とスイッチバック経路15aとの間の分岐部113を揺動させたうえで、一時保留部15によって一時的に保留された一万円札の裏券を搬送路16へ繰り出させる。ここで、一時保留部15によって一時的に保留された一万円の裏券は、上述したように、表裏が反転した状態で搬送路16へ繰り出される。そして、保留紙幣繰出部120cは、搬送路16と出金口13との間の分岐部113を揺動させることによって、一時保留部15から搬送路16へ繰り出された紙幣を出金口13へ投出する(同図の(6)参照)。これにより、出金口13には、一万円札の表券のみが集積されることとなる。
このように、紙幣振分部120bが、識別計数部12によって所定の金種と識別された紙幣のうち、表券を出金口13へ振り分けるとともに裏券を一時保留部15へ振り分け、保留紙幣繰出部120cが、一時保留部15へ振り分けられた紙幣の表裏を反転させたうえで出金口13へ繰り出すこととすれば、表裏がバラバラな状態で紙幣が投入された場合であっても、これら複数の紙幣のうち所定の金種の紙幣を識別計数し、かつ、所定の金種の紙幣を表裏が揃った状態で投出することができる。
すなわち、本実施例に係る紙幣処理装置1によれば、識別計数のみを行う専用機を用意する必要がなくなるため、かかる専用機によって無駄な設置スペースを取られることがなく、また、設備費用を抑えることもできる。また、専用の表裏反転機構を別途設けることなく識別計数処理および表裏反転処理を同時に行うことができる。
ところで、出金口13、リジェクト口14あるいは一時保留部15に対してどういった種別の紙幣を振り分けるかは、ユーザによる操作部111への操作に応じて任意に設定可能である。そこで、以下では、紙幣振分部120bおよび保留紙幣繰出部120cの他の動作例について図6を用いて説明する。図6は、紙幣振分部120bおよび保留紙幣繰出部120cの他の動作例を示す図である。
同図の(A)には、一万円札および千円札が対象紙幣として設定された場合における紙幣振分部120bおよび保留紙幣繰出部120cの動作例を示している。同図の(A)に示したように、入金口11に一万円札、五千円札、千円札およびリジェクト券がそれぞれ複数枚投入されたとする(STEP1)。かかる場合、紙幣振分部120bは、一万円札と識別された紙幣を出金口11へ、千円札と識別された紙幣を一時保留部15へ、その他の紙幣(五千円札およびリジェクト券)をリジェクト口14へそれぞれ振り分ける(STEP2)。
そして、出金口13に設けられた残存紙幣検知センサが出金口13に残存する紙幣を検知しなくなった場合、すなわち、出金口13へ投出された一万円札がユーザによって取り出されると、保留紙幣繰出部120cは、一時保留部15に保留されている千円札を出金口13へ繰り出す(STEP3)。
このように、紙幣振分部120bが、識別計数部12によって第1金種と識別された紙幣を出金口13へ振り分けるとともに第2金種と識別された紙幣を一時保留部15へ振り分け、保留紙幣繰出部120cが、一時保留部15へ振り分けられた第2金種の紙幣を出金口13へ繰り出すこととすれば、入金口11に投入された複数の紙幣の中から2種類の紙幣を識別計数し、かつ、これら2金種の紙幣を金種ごとに並び替えて投出することができる。
しかも、紙幣振分部120bが、偽券や識別不能券といったリジェクト券および所定の金種と識別された紙幣以外の紙幣(五千円札等)をリジェクト口14へ振り分け、保留紙幣繰出部120cが、紙幣振分部120bによって一時保留部15へ振り分けられた紙幣を出金口13、入金口11またはリジェクト口14のいずれかへ繰り出すこととしたため、識別計数の対象外の紙幣が混在している場合であっても、これら対象外の紙幣をリジェクト口14へ別途集積しながら対象紙幣を識別計数することができる。
さらに、出金口13に紙幣が残存していないことが残存紙幣検知センサによって検知された場合に、保留紙幣繰出部120cが、一時保留部15へ振り分けられた第2金種の紙幣を出金口13へ繰り出すこととした。すなわち、保留紙幣繰出部120cが、紙幣振分部120bによって一時保留部15へ振り分けられた紙幣を、残存紙幣検知センサによって紙幣が残存していないことを検知した出金口13またはリジェクト口14のいずれかへ繰り出すこととしたため、ユーザは、第1金種の紙幣と第2金種の紙幣とを個別に取り出すことができる。
なお、同図の(A)では、ユーザが出金口13から第1金種の紙幣を取り出したあとで第2金種の紙幣を出金口13へ投出することとしたが、第1金種の紙幣を出金口13へ投出し終えた後すぐに第2金種の紙幣を出金口13へ投出することとしてもよい。また、第1金種の紙幣を出金口13へ投出し終えたあと、表示部114に対して第1金種の紙幣の投出が終了した旨を表示し、ユーザが操作部111を用いて第2金種の紙幣の投出指示を行った場合に、第2金種の紙幣を出金口13へ投出することとしてもよい。
また、一時保留部15によって保留された紙幣を出金口13ではなく、入金口11へ投出することとしてもよい。かかる場合には、第1金種の紙幣および第2金種の紙幣をそれぞれ出金口13および入金口11から同時に投出させることができる。なお、一時保留部15によって保留された紙幣の投出先や投出タイミングについては、利用者が任意に設定することができる。
また、処理対象である一万円札および千円札を各々出金口13およびリジェクト口14のいずれかへ投出し、リジェクト券を一時保留部15に保留することもできる。かかる場合には、処理対象の紙幣を全て処理し終えた直後に、識別計数を終えた処理対象紙幣が出金口13およびリジェクト口14に投出された状態にある。すなわち、第1金種および第2金種がそれぞれ他の金種の紙幣と分離された状態で個別に投出されるため、第1金種および第2金種の紙幣をすぐに他の処理に回すことができる。
なお、一時保留部15に保留されたリジェクト券は、入金口11に投出してもよいし、処理対象紙幣が取り出された後に出金口13およびリジェクト口14のいずれかに投出してもよい。また、処理対象となる紙幣の投出先についても、利用者が任意に設定することができる。
また、処理時には、入金口11、出金口13、リジェクト口14に投出される紙幣や、一時保留部15に保留される紙幣に関する情報等、必要な情報が表示部114に表示されるため、利用者は混乱することなく、各処理を行うことができる。
また、識別計数の対象となっている紙幣のみが入金口11へ投入された場合には、第1金種の紙幣を出金口13へ投出すると同時に、第2金種の紙幣をリジェクト口14へ投出することもできる。たとえば、同図の(B)に示すように、入金口11に一万円札および千円札のみが投入されたとする(STEP1)。かかる場合、紙幣振分部120bは、一万円札と識別された紙幣を出金口11へ振り分けるとともに、千円札と識別された紙幣を一時保留部15ではなくリジェクト口14へ振り分ける(STEP2)。これにより、ユーザは、識別計数の対象である2金種の紙幣を同時に取り出すことができる。
また、2金種の紙幣を識別計数するとともに、識別計数した2金種の紙幣の表裏を揃えて投出することもできる。具体的には、同図の(C)に示すように、入金口11に一万円札および千円札のみが投入されたとする(STEP1)。かかる場合、紙幣振分部120bは、一万円札の表券と識別された紙幣を出金口11へ、千円札の表券と識別された紙幣をリジェクト口14へ、一万円札の裏券と識別された紙幣および千円札の裏券と識別された紙幣を一時保留部15へ振り分ける(STEP2)。
そして、全ての紙幣を各部へ振り分け終えると、保留紙幣繰出部120cは、一時保留部15によって保留されている紙幣のうち一万円札の裏券を出金口13へ投出するとともに、千円札の裏券をリジェクト口14へ投出する(STEP3)。ここで、一時保留部15から繰り出された一万円札の裏券および千円札の裏券は、上述したように、表裏が反転された状態で出金口13およびリジェクト口14へ投出されるため、出金口13には一万円札の表券のみが集積され、リジェクト口14には千円札の表券が集積されることとなる。
これにより、2金種の紙幣を同時に識別計数でき、かつ、識別計数した2金種の紙幣の表裏を揃えて投出することができる。なお、保留紙幣繰出部120cは、一万円札の裏券と千円札の裏券とがどの順序で一時保留部15に保留されているかを入金情報130bを参照することによって特定することができる。したがって、保留紙幣繰出部120cは、入金情報130bを参照して、一時保留部15に保留されている紙幣のうち一万円札の裏券を出金口13へ投出し、千円札の裏券をリジェクト口14へ投出する。
また、紙幣の表裏を揃えるとともに、天方向向きの紙幣と地方向向きの紙幣とを区別して投出することも可能である。具体的には、同図の(D)に示すように、入金口11に一万円札が投入されたとする(STEP1)。かかる場合、紙幣振分部120bは、天方向向きの表券と識別された紙幣を出金口11へ、地方向向きの表券と識別された紙幣をリジェクト口14へ、天方向向きの裏券と識別された紙幣および地方向向きの裏券と識別された紙幣を一時保留部15へ振り分ける(STEP2)。
そして、全ての紙幣を各部へ振り分け終えると、保留紙幣繰出部120cは、一時保留部15によって保留されている紙幣のうち天方向向きの裏券を出金口13へ投出するとともに、地方向向きの裏券をリジェクト口14へ投出する(STEP3)。ここで、一時保留部15から繰り出された天方向向きの裏券および地方向向きの裏券は、上述したように、表裏が反転された状態で出金口13およびリジェクト口14へ投出される。このため、出金口13には天方向向きの表券のみが集積され、リジェクト口14には地方向向きの表券のみが集積されることとなる。したがって、ユーザは、識別計数後の紙幣の天地方向を揃えるといった煩雑な作業を行う必要がなくなる。
次に、本実施例に係る紙幣処理装置1の具体的動作について図7を用いて説明する。図7は、紙幣処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。
同図に示すように、識別計数部112は、搬送路16によって搬送されてきた紙幣を識別するとともに(ステップS101)、金種ごとに計数する(ステップS102)。つづいて、紙幣振分部120bは、モード設定情報130aを参照することによって動作モードが第2のモードであるか否かを判定する(ステップS103)。そして、動作モードが第2のモードである場合には(ステップS103、Yes)、紙幣振分部120bは、識別結果に応じて出金口13、リジェクト口14あるいは一時保留部15に紙幣を振り分ける(ステップS104)。
つづいて、保留紙幣繰出部120cは、全ての紙幣の各部への振り分けが完了したか否かを判定し(ステップS105)、紙幣の振り分けが完了した場合には(ステップS105、Yes)、一時保留部15に保留された紙幣を出金口13へ繰り出す(ステップS106)。そして、保留紙幣繰出部120cは、識別計数部112による計数結果を表示部114に対して表示させて(ステップS107)、処理を終了する。
なお、ステップS103において動作モードが第2のモードでない場合(ステップS103、No)、すなわち、動作モードが第1のモードである場合には、紙幣振分部120bは、識別結果に応じて紙幣を金種ごとのスタッカ21a〜21eへ振り分けて(ステップS108)、処理を終了する。
上述してきたように、本実施例では、モード切替部が、識別計数部によって識別された紙幣を収納繰出部の各スタッカへ収納する第1のモードと、識別計数部によって識別された紙幣を収納繰出部へ収納することなく投出する第2のモードとの間で動作モードを切り替え、紙幣振分部が、動作モードが第2のモードである場合に、識別計数部による識別結果に応じて紙幣を出金口、リジェクト口あるいは一時保留部の何れかへ振り分け、保留紙幣繰出部が、一時保留部へ振り分けられた紙幣を出金口へ繰り出すこととした。したがって、入金された紙幣を収納することなく識別することができる。
ところで、上述してきた実施例では、モード切替部120aが、ユーザの操作部111への操作に応じて動作モードを切り替える場合について説明してきたが、これに限ったものではない。たとえば、上部ユニット10と下部ユニット20とが分離可能である場合には、上部ユニット10と下部ユニット20との接続状態に応じて動作モードを切り替えることとしてもよい。
以下では、かかる点について図8を用いて説明する。図8は、モード切替処理の変形例を示す図である。なお、同図の(A)には、上部ユニット10と下部ユニット20とが接続されている状態を示しており、同図の(B)には、上部ユニット10と下部ユニット20とが分離している状態を示している。
同図の(A)に示したように、上部ユニット10には、上部ユニット10と下部ユニット20との接続状態を検知するセンサである状態検知部115が備えられている。そして、動作モード切替部120aは、上部ユニット10と下部ユニット20とが接続されたことが状態検知部115によって検知された場合に(同図の(A−1)参照)、動作モードを第1のモードへ切り替える(同図の(A−2)参照)。
一方、同図の(B)に示したように、動作モード切替部120aは、上部ユニット10と下部ユニット20とが接続されていないことが状態検知部115によって検知された場合には(同図の(B−1)参照)、動作モードを第2のモードへ切り替える(同図の(B−2)参照)。
このように、上部ユニット10と下部ユニット20とが接続されている場合には、動作モードを第1のモードとし、上部ユニット10と下部ユニット20とが分離している場合には、動作モードを第2のモードとすることによって、動作モードの切り替えに要するユーザの負担を軽減することができる。
なお、ここでは、上部ユニット10と下部ユニット20とが物理的に分離した場合に動作モードを切り替えることとしたが、これに限ったものではなく、上部ユニット10と下部ユニット20とが電磁的に分離した場合に動作モードを切り替えることとしてもよい。
たとえば、下部ユニット20へ収納された紙幣を店舗側ではなく警送会社や銀行が管理することを想定し、下部ユニット20への紙幣の収納あるいは下部ユニット20からの紙幣の投出を不可状態とするロック機能が紙幣処理装置1に設けられる場合がある。たとえば、紙幣処理装置1は、営業終了後など所定の時刻となった場合に自動的にロック機能を有効化することができる。また、紙幣処理装置1は、何らかのトラブルが発生し、下部ユニット20への紙幣の収納を取り止めたい場合に操作部111または所定のリモートコントローラへの操作に応じてロック機能を有効化することもできる。
そして、動作モード切替部120aは、ロック機能が有効となった場合に、上部ユニット10と下部ユニット20とが物理的には接続されていても、電磁的に分離されたものと判定して動作モードを切り替えることとしてもよい。
また、上述してきた実施例では、一時保留部15によって一時的に保留された紙幣を出金口13へ投出する場合について説明したが、これに限ったものではなく、入金口11へ投出することとしてもよい。
また、上述してきた実施例では、入金された紙幣を一時的に保留するとともに再度搬送路16へ繰り出す一時保留部の一例として一時保留部15を用いて説明したが、これに限ったものではなく、スタッカ21a〜21eの何れかを一時保留部として利用してもよい。
また、上述してきた実施例では、いわゆるテープ式の収納部であるテープ式巻取部15bを用いて紙幣を一時的に保留するとともに再度搬送路16へ繰り出す場合について説明したが、保留した紙幣を再度繰り出し可能であればよく、たとえば、スタッカ21a〜21eと同様にスタッカ式の収納部を用いてもよい。