図面では、同一の参照符号はいくつかの図を通して同一の部分を表す。
以下、本発明の種々の実施形態を説明する。以下の説明は、これらの実施形態の十分な理解と説明を可能とするための具体的な詳細を提供する。しかし当業者は、本発明が、これらの詳細の多くが無くても実施し得ることを理解するであろう。更に、種々の実施形態の重要な説明を不必要に曖昧にすることを避けるために、いくつかの周知の構造又は機能の詳細を表示又は説明しないこともある。
以下に示した説明内で用いる専門用語は、本発明の特定の具体的な実施形態の詳細な説明に関連して用いられているが、広く合理的に解釈されるべきものである。特定の用語を以下で強調することもあるであろうが、専門用語を制限的に解釈すべき場合には、この詳細な説明の項の中で、その旨を明白に具体的に定義することとする。
図3に示すように、野球又はソフトボールバット10(以下「ボールバット」又は「バット」と称する)は、ハンドル12と、バレル14と、ハンドル12をバレル14に結合する遷移領域又はテーパ部16と、を具備している。ハンドル12の自由端は、グリップエンド18あるいは同様の構造を具備している。バレル14は、好適なキャップ、栓、その他の端閉鎖部20によって閉鎖されることが好ましい。バット10の内部は、中空であることが好ましく、これはバット10を比較的軽くすることを容易にするため、ボールプレイヤーがバット10を振る際に、相当なバットスピードを生むことができる。
ボールバット10は、20から40インチの全長を有することが好ましく、26から34インチであることが更に好ましい。バレル全体の外径は、2.0から3.0インチであることが好ましく、2.25から2.75インチであることが更に好ましい。典型的なバットは、2.25、2.625、又は2.75インチの直径を有する。これらの全長及びバレルの直径、更に、あらゆる好適な寸法の様々な組み合わせを有するバットが、ここで検討される。バット寸法の具体的な好ましい組み合わせは、一般的にバット10の使用者が決定するものであり、使用者間で大きく異なり得るものである。
バットバレル14は、単壁構造でも多数壁構造でもよい。多数壁構造であるならば、バレル壁は、米国特許出願第10/903,493号に詳細に説明されるように、1つ以上の界面剪断制御領域(ISCZ)によって分離され得る。使用されるいかなるISCZも、約0.001から0.010インチの半径方向厚みを有することが好ましく、0.004から0.006インチであることがより好ましい。その他あらゆるサイズの好適なISCZを代替的に使用してもよい。
ISCZは、結合阻害層、摩擦継手、スライド継手、エラストマー継手、2つの異なる材料(例えば、アルミニウムと複合材料)間の界面、あるいは、バレルを「多数壁」に分離するための、その他あらゆる好適な要素又は手段を具備している。結合阻害層が使われる場合、それはフッ素高分子材料で作られていることが好ましく、例えば、Teflon(登録商標)(ポリフッ化エチレン)、FEP(フッ化エチレン・プロピレン)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、又はPVF(ポリフッ化ビニル)、及び/又は、PMP(ポリメチルペンテン)、ナイロン(ポリアミド)、セロファン等の他の好適な材料である。
一実施形態では、1つ以上のISCZが、バレル材料の層と一体化し、あるいは埋め込まれ、これによって、バレル14が、一体型多数壁構造としての働きをする。この場合、バレルの少なくとも一端におけるバレル層が、一体型多数壁構造を形成するために混合されることが好ましい。ボールバット10全体を「一体型」として形成してもよい。一体型バット設計とは、バレル壁を相当に厚くするように作用する隙間、挿入部、外被、又は結合構造を有さないバット10のバレル14、テーパ部16、及び、ハンドル12に、概ね関している。このような設計においては、特徴的なラミネート層が荷重条件下で全て一致して作用するように、ラミネート層はバレル構造と一体化していることが好ましい。この一体型の設計を達成するために、バット10の層は共に矯正されることが好ましく、したがって、層が一連の連続した管(挿入部又は外被)で作られて各管の端部の肉厚が異なるということがないようにする。
1つ以上のISCZの周りに、板バネの端部を拘束するように、バレル壁を一体型構造として融合することにより、安定し、耐久性のあるアッセンブリを提供し、特にバレル14の末端部で衝突が生じる際に有効である。多数のラミネート層をまとめることにより、システムがユニット化された構造として働くことを保証し、他の層から独立して機能する層がなくなる。バレルの末端部に応力を再分散することにより、局所応力が減少し、バットの耐久性が向上することとなる。別の多数壁の実施形態では、バット、及び/又は、バレル層は、いずれの端部においても融合されない。
1つ以上のバレル壁のそれぞれは、1つ以上の複合プライ25により構成されることが好ましい。プライを構成する複合材料は、繊維強化されていることが好ましく、例えば、ガラス、グラファイト、ホウ素、カーボン、アラミド(例えば、Kevlar(登録商標))、セラミック、金属の繊維、及び/又は、その他あらゆる好適な構造繊維材料を具備しており、好ましくは、エポキシの形態、又は他の好適な形態である。各複合プライは、約0.002から0.060インチの厚みを有することが好ましく、より好ましくは、0.003から0.008インチである。他のあらゆる好適な厚みのプライを代わりに使用してもよい。
一実施形態では、バットバレル14は、ハイブリッド金属複合構造を有してもよい。例えば、バレルは、複合材料で構成される1つ以上の壁と、金属材料で構成される1つ以上の壁とを具備している。又は、複合材料と金属材料とが、特定のバレル壁内に散在していてもよい。バレルがアルミニウム部、複合部のような金属部を具備する場合、以下に詳細に説明するように、複合部の領域をバレルの最適化のために調整してもよい。別の実施形態では、高強度カーボンナノチューブ複合構造のようなナノチューブが、代替的又は追加的にバレル構造に用いられてもよい。
バットバレル内の壁数の増加は、バットバレル内で許容されるたわみを増加させ、また、1つ以上のISCZの戦略的な配置を通じて、剪断エネルギーを曲げエネルギーに変換する。その結果、バットのトランポリン効果が向上する。しかし、既存の多数壁バットでは、バレルの全長にわたって最適な結果を達成することはできず、それは、衝突がスイートスポットから離れて生じるに連れ、バレルの性能が自然と低下するからである。
この説明のために、図3〜7、16、及び17に示すように、バットバレル14は3つの概念的な領域又はゾーンに分割される。第1領域21、又は「ゾーン1」は、ほぼ、ボールバット10のテーパ部16から、バットバレル14の(上述の)「スイートスポット」に近い位置にまで広がる。第2領域22、又は「ゾーン2」は、ほぼ、バットバレル14の自由端から、スイートスポットに近い位置にまで広がる。第3領域24、又は「ゾーン3」は、第1及び第2ゾーン21、22の間に広がり、バレル14のスイートスポットを具備している。
これらのゾーンの実際の寸法及び位置は異なってもよく、ゾーンの総数もまた異なってもよい。更に、個々のゾーンが異なる長さを有してもよく、異なる領域を占有してもよい。例えば、ゾーン1がボールバット10のテーパ部16内にまで広がってもよく、無数のゾーンをバレルの全長(又はそれ以上)に沿って定めてもよく、ゾーン3がゾーン2より狭くてもよく、また、その他の構成も可能である。したがって、図示の具体的なゾーン1〜3は、単に説明を容易にするために用いるものである。
ゾーン1及び/又は2においてバレルの性能を高めるために、これらのゾーンの片方又は双方におけるISCZの戦略的な配置によって作成される別の「多数壁」アプローチを利用してもよい。図4に示すバレルの一実施形態では、第1ISCZ30が、バットバレル14のゾーン3内に設置されている。第1ISCZ30を、バレル14における剪断応力が最大となるバットバレル14の中立軸に、又はその近傍に設置することが好ましい。このようにして、最適な量の剪断応力を曲げ応力に変換することが可能となる。代替的に、第1ISCZ30を、バットバレル14のゾーン3内のあらゆる別の半径方向の位置に設置してもよい。バレル14が均質の等方性層で構成されている場合は、中立軸は、バレル壁の半径方向のほぼ中点に位置する。バレル14に複数の複合材料が使用されている場合は、及び/又は、材料が均一に分配されていない場合は、中立軸は別の半径方向の位置に存在してもよく、この位置は容易に決定することができる。
説明を容易にするために、図4〜7に示す実施形態において使用される複合バレル材料は、均質の等方性層であることとし、したがって、バレル14の中立軸は、バレル壁の半径方向のほぼ中点に位置する。しかし、実際には、あらゆる好適な複合材料及び/又は金属材料の組み合わせを用いてバレル14を構成してもよく、この場合、中立軸はバレル14における別の場所に位置してもよい。更に、ISCZがバレル14に付加されると、米国特許出願第10/712,251号に詳細に説明されるように、ISCZはバレル14を2つのバレル「壁」に分割し、それぞれが独自の中立軸を有することとなる。
図4に示す実施形態に戻り、ゾーン1は2つのISCZ32、34を具備しており、ゾーン2は2つのISCZ36、38を具備している。各ISCZ32、34、36、38を、半径方向のバレル厚みの約三分の一の位置に設置し、あるいは、別の態様で設置してもよい。バットバレル14のゾーン1及び2のそれぞれに、2つのISCZを設置することにより、これらの領域が、実質的に三壁構造として機能し、したがって、実質的に二重壁構造であるゾーン3に比べ高いたわみ性を示す。その結果、ゾーン1及び2のバレルのたわみ性及びトランポリン効果は、ゾーン3に比べて高まり、これにより、ゾーン1及び2が、バットバレル14のゾーン3の性能により近づくことになる。したがって、ボールがゾーン1又はゾーン2のいずれかにおいてバレル14に衝突した場合、バレル14は、ボールバットのスイートスポットが生み出すトランポリン効果により近いトランポリン効果を生み出す。
図4に示す実施形態では、ISCZ32、34、36、38は、ゾーン3における第1ISCZ30に連続するように配向される。更に、ゾーン1におけるISCZ32、34は、ゾーン3におけるISCZ36、38に実質的に対称的である。ISCZ32、34、36、38の1つ以上が第1ISCZ30に連続していなくてもよく、また、ゾーン1におけるISCZ32、34は、ゾーン3におけるISCZ36、38に非対称でもよく、このことは更に後述する。
図5及び6に示すバレルの実施形態では、バットバレル14のゾーン2においてよりも多くのISCZがゾーン1において設置される。このような配置は、回転慣性の効果のために好ましい。典型的なバットのスイング中は、ゾーン1内で生み出される回転慣性は、ゾーン2内で生み出される回転慣性よりも小さく、これはゾーン1がゾーン2よりもバットハンドル12に相対的に近接しているからである。したがって、通常、バット性能はゾーン2内よりもゾーン1内の方が劣る。この性能の差を打ち消すために、図5及び6に示す実施形態では、ゾーン2内よりもゾーン1内により多くのISCZが具備されており、ゾーン1内のバレルのたわみ性をゾーン2内よりも大きく増加させる。
図5に示すバレルの実施形態では、連続したISCZ40が、バレル壁の半径方向のほぼ中点でゾーン1、2及び3を通る。2つの別個の不連続なISCZ42、44が、ゾーン1内で、ISCZ40とバットバレル14の中心軸との間に設置され、一方、付加的な不連続なISCZ46が、ゾーン1内のISCZ40とバットバレル14の外面との間に設置される。したがって、ゾーン1は合計4つのISCZを具備しており、これにより、バレル14はゾーン1内において実質的に五壁構造のように機能する。ゾーン2は、ISCZ40とバットバレル14の中心軸との間に位置する1つの不連続なISCZ48を具備しており、更に、もう1つの不連続なISCZ50がISCZ40とバットバレル14の外面との間に位置している。したがって、ゾーン2は合計3つのISCZを具備しており、これにより、バレル14はゾーン2において実質的に四壁構造のように機能する。
図6に示すバレルの実施形態では、ゾーン3は、バレル壁の半径方向のほぼ中点に位置する1つのISCZ60を具備している。ゾーン1は、バレル壁の半径方向の中点と外面との間に位置する2つのISCZ62、64を具備しており、更に、バレル壁の半径方向の中点とバレル14の中心軸との間に位置する1つのISCZ66を具備している。したがって、ゾーン1は合計3つのISCZを具備しており、これにより、バレル14はゾーン1内において実質的に四壁構造のように機能する。ゾーン2は、バレル壁の半径方向の中点と外面との間に位置する1つのISCZ68を具備しており、更に、バレル壁の半径方向の中点とバレル14の中心軸との間に位置する1つのISCZ70を具備している。したがって、ゾーン2は合計2つのISCZを具備しており、これにより、バレル14はゾーン2内において実質的に三壁構造のように機能する。ゾーン1における3つのISCZ62、64、66と、ゾーン2における2つのISCZ68、70とは、全てゾーン3内のISCZ60と連続している。
図5及び6に示すバレルの実施形態は、本明細書で企図する設計自由度を表す。例えば、ゾーン1及びゾーン2における1つ以上のISCZが、ゾーン3における1つ以上のISCZと連続しても、又は不連続でもよく、また、ゾーン1〜3のいずれかにおける、1つ以上のISCZをバレル壁の半径方向の中点と外面との間に設置してもよく、これは、バレル壁の半径方向の中点に設置しても、その近傍に設置してもよく、又は、バレル壁の半径方向の中点とバットバレル14の中心軸との間に設置してもよく、また、その他の構成でもよい。更に、ゾーン1及び2は、他方と同じ数の、又は異なる数のISCZを具備してもよい。
重要なことは、ISCZの終端が、特に2つのゾーンが合流する地点である必要はないことである。実際、ICSZは重なってもよく、あるいは、1つ以上のゾーンに属してもよく、また、ゾーンは図面に描かれるものよりも短くても長くてもよい。更に、より多くの、又はより少ない数のゾーンを指定してもよい。実際、「ゾーン」は単に説明の目的で用いるものであり、いかなる種類の物理的又は理論的な境界を与えるものではない。したがって、所望のバレル及びボールバットの総合的な性能特性を達成するために、無数の設計に従って、ISCZをバットバレル14内の(テーパ部16内及びハンドル12内と同様に)多種多様な位置で設置してもよい。
このために、一部の実施形態では、向上したバレルのたわみ性とトランポリン効果とを領域内に提供するには、スイートスポットを具備したバレル領域に位置するISCZの数より多くのISCZが、スイートスポットから離れて位置する少なくとも1つのバレル領域に存在することが望ましい。更に、一部の実施形態では、領域内の回転慣性の効果の差を補償するには、スイートスポットとバレルの自由端との間の領域内よりも多くのISCZが、バットのテーパ部と、スイートスポットと、の間のバレル領域内に具備されるのが望ましい。しかし、あらゆる好適な数のISCZをあらゆるバレル(更にボールバットの他の部品)の領域内に設置してもよく、あらゆる好適な構成が可能であり、特定のボールバットの設計目標に応じて設置できることが認められている。
図7は、別のバレルの実施形態を示し、バットバレル14が金属外側領域80と、複合内側領域82とを具備している。金属外側領域80は、結合阻害層のような、好適なISCZ86によって、複合内側領域82から分離されていることが好ましい。又は、金属外側領域80と複合内側領域との間の結合していない界面自体が、ISCZを形成してもよい。
金属外側領域80は、アルミニウム、及び/又は、別の好適な金属材料を具備するのが好ましい。複合内側領域82は、少なくともバレル14のゾーン1及びゾーン2内に、1つ以上のISCZ84を具備するのが好ましく、これらの領域に高いバレルたわみ性を提供する。このハイブリッド金属/複合構造は、金属外側領域80が存在することにより高い耐久性を提供し、また、複合内側領域82の特定のゾーン内に1つ以上のISCZを設置することにより、領域のバレルたわみ性の向上という利点をも提供する。別の実施形態では、バレル14は、複合外側領域と金属内側領域とを具備している。
図8は、典型的な二重壁バットバレル(図8のグラフ内の二重壁バレル曲線は、図2のグラフに示した二重壁バレル曲線と同じものである)と、バットバレル14のゾーン1及びゾーン2内に付加的なISCZを組み込んだ「多数壁」バットバレルとの、相対性能特性のグラフによる比較を示す。図8が示すように、バットバレル14のゾーン1及び2内に付加的なISCZを設置することにより、典型的な二重壁バットと比較して、バレル14の全長にわたって性能が、概ね向上する。
図9及び10は、別の実施形態を示し、単一の連続したISCZがバットバレルのゾーン1、ゾーン3、及びゾーン2を通り、実質的に二重壁バットバレルを形成している。しかし、これらの実施形態の単一の連続したISCZは、ゾーン1、2、及び3のそれぞれにおいて複数のプライと交差し、すなわち、各バレル壁の厚みがバレルの全長を通じて異なる。したがって、バットバレルは、実質的に同じ半径方向の位置においてバレルの全長にわたって通る、単一の連続したISCZを有する典型的な二重壁バレルのようには機能しない。
図9は、ゾーン3内においてゾーン1及び2内よりも、バレル14の外面に近接して通る、単一の連続したISCZ90を具備するバットバレルを示す。図10は、単一の連続した「段差」ISCZ92を具備するバットバレルを示し、これは、ゾーン2内においてゾーン3内よりも、バレル14の外面に近接して通り、ゾーン3においてゾーン1よりもバレル14の外面に近接して通る。連続したISCZは対称的である必要はなく、図9及び10に示す実施形態とは逆に配置してもよく、あるいは、他のあらゆる好適な方法で配向してもよい。バットバレル全体を通じて単一の連続したISCZの位置を変化させることにより、バレルのスイートスポットが向上され、及び/又は、修正される。別の実施形態では、連続したISCZは、より少ない数のゾーン内又はバレル領域内において、複数のプライと交差してもよく、これらの領域内においてのみバレル壁の厚みが異なることになる。
ISCZをボールバット10のバットハンドル12内、及び/又は、テーパ部16内に(バレルから外れた打撃に高い変形を提供するために)設置して、これらの領域内に高いたわみ性を提供することが更に考えられる。ICSZのバットハンドル12内での使用は、高いハンドルのコンプライアンスを提供し、これは、剪断変形とは対照的に、効率的なエネルギー伝達が曲げ変形から生じるためである。更に、1つ以上のICSZを使用してハンドル12を分離することにより、振動エネルギーを消散するためのより多くの界面が提供されて、バット10の「感触」が向上する。
1つ以上のISCZがハンドル12のテーパ部16の近くに配置された場合、ボールバット10は、ISCZがハンドル12の使用者のグリップ位置の近くに配置された場合よりも、軸位置への速い「スナップバック」をスイング中に示す。この速いスナップバックは、概ね、速いスイング速度を生み出す技術のある選手にとって好適である。ISCZをハンドル12のグリップ位置の近くに配置することは、バット10がボールの衝突時、又は直前に、軸位置に戻るのが遅すぎるため、技術のある選手から操作性を奪ってしまう傾向がある。
しかし、初心者の選手にとっては、使用者のグリップ位置に近いバットハンドル12にISCZを設置することが好ましく、それは、技術不足の選手はストライクゾーンを通じてバットを「押す」傾向があるからであり、その結果、バット10が軸位置から顕著に外れて「曲がる」ことが妨げられてしまう。当業者には、ISCZのハンドル12への具体的な配置は、概ね、残りのバットハンドル12内の可撓性、バットバレル14の重量、対象選手の技術レベル、及びハンドル12に用いられる材料、に依存することが理解されるであろう。
図11〜15は、1つ以上の全体衝撃減衰(「ISA」)領域がボールバット10に具備された実施形態を示す。図11を参照すると、ISA領域130は、ボールバット10の遷移領域又はテーパ部16内に位置する。ISA領域130(更に、後述の実施形態における他のISA領域)は、1つ以上の高緩衝材料及び/又は低モジュラス材料を具備しており、これらは、ISA領域130に入る衝撃波からの振動エネルギーを消散又は減衰することに有効である。ISA領域130を構成する1つ以上の材料は、バット構造内のISA領域130の長手方向の上及び/又は下に位置する隣接材料よりも、実質的に低い長手方向又は軸方向のヤング率を有することが好ましい。その結果、断面厚みが比較的均一であると仮定すると、ISA領域130は、ISA領域130の長手方向の上及び/又は下に位置する材料(すなわち、図11におけるバレル14及びハンドル12の材料)よりも、低い軸方向剛性(構造上の軸方向剛性=軸方向ヤング率×材料の断面率)を有する。
ISA領域130は、バット構造内のISA領域130の長手方向の上及び/又は下に位置する隣接材料の軸方向ヤング率の、15〜85%、又は30〜70%、又は40〜60%、又は50%の軸方向ヤング率を有する1つ以上の材料により構成されることが好ましい。ISA領域130は、例えば、約3から7msi、又は4から6msiの軸方向ヤング率を有する材料で構成されてもよく、バット構造の隣接領域は、約8から12msi、又は10msiの軸方向ヤング率を有してもよい。
図15の表に示すように、特定の材料のプライ(グラファイト、及びガラス繊維の一種であるSガラスは、単なる例として表に示してある)の軸方向ヤング率は、ボールバット10の長手方向軸135に対するプライの配向によって変化する。したがって、ISA領域130用に選択される具体的な材料は、バット構造内の材料層の配向に依存して変化する。
上述の例でまとめたパラメータを満たすために、例えば、ISA領域130に、Sガラス製の強化繊維を具備している1つ以上の複合層又はプライを具備してもよく、各プライは実質的にボールバットの長手方向軸から10°から20°の角度に配向される(各プライの軸方向ヤング率は、およそ4.21から5.87msiとなる)。同様に、ISA領域130に、グラファイト製の強化繊維を具備している1つ以上の複合層又はプライを具備してもよく、各プライは実質的にボールバットの長手方向軸から25°から35°の角度に配向される(各プライの軸方向ヤング率は、およそ4.02から6.47msiとなる)。
他に考えられるISA領域材料には、アラミド(例えば、Kevlar(登録商標)、Spectra(登録商標)等)、PBO(Zylon(登録商標))、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)、及び/又は、種々のプライの配向において比較的低い軸方向ヤング率を有する、及び又は、そうでなくとも、高い減衰特性を有するあらゆる好適な材料、から作られる強化繊維を具備している複合層又はプライが含まれるが、これに限定されない。また、エラストマーゴムのような粘弾性材料をISA領域130に使用してもよい。ISA領域130は、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂、及び/又は注入樹脂、又はその他の好適な樹脂のような強化樹脂を、更に具備するのが好ましい。
ボールバット10の遷移領域内又はテーパ部16内に、ISA領域130を配置することにより、バレルの性能特性に影響を与えずに、バット構造内で振動エネルギーを減衰することができる。低モジュラスで高減衰のISA層は、芯から外れた打撃から生じ、バレル14からボールバット10のハンドル12に向けて進む衝撃波に対する消散バリアとして機能する。ISA領域130は衝撃波を減衰又は吸収し、衝撃波がバットハンドル12及びバッターの手に到達することを、実質的に、又は完全に防止する。その結果、しびれが実質的に減り、又は無くなる。
図12を参照し、別の実施形態では、ISA領域140が、ハンドル12がテーパ部16に合流するボールバット10の領域内に、設置され、これにより、ISA領域140は、ボールバット10のハンドル12とテーパ部16との双方に属する。この部分にISA領域140を配置することには、比較的断面率が低いことから利点があり、低い断面率は、この部分の比較的低い軸方向剛性に寄与し、それ故、ISA領域140に入る衝撃波のエネルギーを消散するためのISA領域140の振動動作を促進する。
図13を参照し、別の実施形態では、ISA領域150が挿入部155を具備しているサンドイッチ構造として形成され、挿入部155は、1つ以上の高緩衝材料で構成され、繊維強化複合材料の1つ以上のプライにより囲まれている。挿入部155は、好ましくは、粘弾性又はエラストマーゴム、ウレタン、及び/又は、発泡材料、又は、振動エネルギーを効果的に減衰させる、その他のあらゆる材料である。このような挿入部155をISA領域150内に具備することにより、ISA領域150の効率性と耐久性を高めることができ、特に、周囲のISA領域の繊維が、低い圧縮強度あるいは低い歪エネルギー回収性を有する場合に有効である。サンドイッチISA領域150を、ハンドル12、テーパ部16、及び/又は、バット構造のあらゆる他の好適な領域内に設置してもよい。図14では、サンドイッチISA領域150は、ハンドル12がテーパ部16に合流する、ボールバット10内の領域に設置されているが、これは例示のものにすぎない。
図14を参照し、別の実施形態では、2つの(又はそれ以上の)ISA領域160、170を、ボールバット10のハンドル12と端閉鎖部20とからバットバレル14の打撃部を分離するために使用してもよい。ボールバット10の端閉鎖部20は、通常、隣接するバレル部よりも剛性が高いことから、端閉鎖部20は、バットバレル14の開口端に十分な耐久性を提供することができる。バットバレルの端部を鍛造し、バレルの縁を圧延して、完全な、又はほぼ完全な閉鎖部を形成すること、及び/又は、バレルをウレタン又は類似の半剛性材料で充填することは、バットバレル14の端部を強固にするために使用される典型的な方法である。
しかし、端閉鎖部20の硬化は、ボールバット10の振動反応を増加させる可能性があり、同時に、振動エネルギーを効果的に消散するための十分なバレルの動作を許容しない可能性がある。第1ISA領域170をバット10の端閉鎖部20に隣接して設置し、第2ISA領域160をバット10のテーパ部16(又はハンドル12)に、又は隣接して設置することにより、バット10の打撃部から誘起した振動がハンドル12と端閉鎖部20との双方から分離され、振動エネルギーは、わずかしか、あるいは全く、バットハンドル12(及びバッターの手)又は比較的硬い端閉鎖部20に進行しない。その結果、しびれは実質的に減少し、あるいは無くなる。
上述したISAのどの実施形態においても、用いられるISA領域が、単壁バレル設計のバット壁の半径方向の厚み全体を占有してもよく(例えば、図11〜14に示すように)、又は、半径方向の厚みの一部のみを占有してもよい。多数壁バレル設計では、バット壁の1つのみに、又はバット壁の2つ以上に、ISA領域を具備させてもよい。更に、多数壁バレルに用いられるあらゆるISA領域が、1つ以上のバット壁の半径方向の厚みの全て又は一部を占有し得る。1つ以上のISA領域が半径方向の壁の厚みの全体を占有する場合に、衝撃波が概ね良く減衰されるものの、半径方向の壁の厚みのあらゆる好適な部分が1つ以上のISA領域に占有されてもよい。
1つ以上のISA領域の構成層配向を変更して、所望の振動減衰の水準を達成することもできる。図15の表は、どのようにして特定の材料のプライ(グラファイト及びSガラスを例として示す)の軸方向ヤング率、すなわち、プライの軸方向剛性が、ボールバット10の長手方向軸に対するプライの配向を変更することにより修正され得るかを示す。このように、1つ以上のISA領域のプライを変更することにより、ISA領域を調整して様々な選手の要求を満たすことが可能となる。例えば、ボールバット10内の1つ以上のISA領域全体の軸方向剛性を操作して、技術不足の選手には多くの弾性収縮力を提供し、技術のある選手には少ない弾性収縮力を提供してもよい。また、ISA領域をボールバット10の特定の領域に設置して、これらの領域に高いたわみを提供してもよい。
図16〜18は、スイートスポットから離れて位置する少なくとも1つのバレル領域内において軸方向コンプライアンスを高めることによる、バット性能の最適化を示している。典型的な既存の単壁金属バットでは、材料強度及び等方性挙動が、バットの剛性をバットの長手方向軸に沿って変化させることが可能な範囲を制限してきた。バレルの端部近傍の、キャップ又はテーパ部のいずれかにおけるバットバレルの剛性の低下は、材料強度が不十分となることから、概ねバットの耐久性を低下させてきた。しかし、複合材料の異方性強度は、バットの設計者がバットの長手方向軸に沿ってバットバレルのフープ及び軸方向剛性を単独で変更することを可能にする。多数壁複合バットは、単壁設計よりも大幅なバレル剛性の低下を提供することさえもあり、したがって、一般的に多数壁複合バットが好ましい。しかし、以下の技術を用いて単壁バレルを強化することも可能である。
通常のボールバットの性能は、バットバレルのスイートスポットから離れて衝突が生じると低下することがよく知られている。一般的に、ボールバットの性能は、スイートスポットから離れてボールがバットに衝突するに従い、より低下する。更に、バットスイングから生み出される回転慣性は、バットの自由端においての方がバットのテーパ部においてよりも大きいことがよく知られている。この回転慣性は、バットの総合的な性能に貢献する。したがって、離散薄膜調整又は他の強化手段を施さないバレルの性能は、概ね、ボールバットのゾーン1内よりもゾーン2内の方が優れている。
したがって、バレルの性能を全長にわたって最適化するためには、バットバレル14のゾーン2の性能、そして特にゾーン1の性能を向上させなければならない。ゾーン1及び2の半径方向コンプライアンスの増加、すなわち半径方向の剛性の減少は、バットバレル14のこれらの領域の性能を向上させる1つの方法である。ゾーン3に対するゾーン1及び2内の半径方向コンプライアンスを増加することにより、テーパ部とスイートスポットとの間と、自由端とスイートスポットとの間との、バットバレル14の領域に、バットバレル14のスイートスポットに近い機能を持たせることが可能となる。
図16は、バレルの性能を全長にわたって最適化するため、すなわち、ゾーン1及び2の性能をバレル14のゾーン3(及びスイートスポット)の性能により近づけるための、バットバレル14のゾーン1及び2内に必要な半径方向コンプライアンスの量を概念的に示すグラフである。図16に示すように、ゾーン2内よりもゾーン1内に、より多くの半径方向コンプライアンス、すなわち、低い半径方向剛性が必要とされ、これは、上述したように、ゾーン1内に比べゾーン2内では、より大きな回転慣性が生じるためである。
例示的な実施形態では、バットバレル14の性能を最適化する、すなわち、3つ全てのバレルゾーン内の性能を実質的に等しくするには、ゾーン1内の半径方向剛性をゾーン3内の半径方向剛性の5%から75%になるように概ね調整し、ゾーン2内の半径方向剛性をゾーン3内の半径方向剛性の10%から90%になるように概ね調整する。好適な一実施形態においては、ゾーン3内の半径方向剛性は約3000ポンド/インチになるように調整され、ゾーン1内の半径方向剛性は1000ポンド/インチ以下になるように調整され、ゾーン2内の半径方向剛性は2000ポンド/インチ以下になるように調整され、このことは以下に詳細に説明する。
各領域内の半径方向剛性は、もちろん、これらの範囲より高くても低くてもよく、全ての領域に図16に示すコンプライアンス曲線を満たすための調整が必要なわけではない。コンプライアンス曲線を満たすバットバレルが観念的には最適であるものの、1つの領域内でのみ、又は2つの領域内、あるいは3つ全ての領域内において、半径方向コンプライアンスが増加される(減少される)バットバレルを設計してもよく、また、あらゆる特定の領域内の半径方向コンプライアンスを、上述した例示的実施形態で概要を示したものよりも広い範囲又は狭い範囲で調整してもよい。
図17は、一実施形態にかかる、ゾーン1〜3のバレル層の少なくとも一部の例示的な断面図である。バレル14は、いかなる好適な数の複合層、及び/又は、他の材料の層を具備してもよく、例えば、1つ以上のISCZを介して、あらゆる好適な数の壁に分割され得る。また、バレル14は、ISCZ無しの1つの単壁を具備してもよい。更に、1つ以上のゾーンを2つ以上の壁に分割してもよく、同時に、1つ以上の他のゾーンが単壁のみを具備してもよい。もちろん、存在するあらゆるISCZは、いかなる場所で終了してもよく、又は、バレル14の全長にわたって(あるいはそれ以上)延びてもよく、必ずしも2つの概念上のゾーンが合流する地点で終了する必要はない。実際、米国特許出願第10/903,493号に詳細に説明されるように、あらゆるISCZが、2つ以上のゾーンに重複してもよく、ゾーンの間又は単独のゾーン内で終了してもよい。
増加した半径方向コンプライアンス、又は減少した半径方向剛性は、1つ以上の方法を介して1つ以上のバレル領域内において達成され得る。一実施形態では、バットバレル14の1つ以上の領域内の半径方向コンプライアンスを増加させるために、バットバレル14の個々の複合層又はプライが、ボールバット10の長手方向軸に対して様々な角度で配向され得る。一般的に、プライがボールバット10の長手方向軸の近くに配向されるほど、軸方向コンプライアンスが増加し、軸方向剛性が減少する。したがって、バットの長手方向軸から測ったプライの角度配向が増大するにつれ、そのプライの半径方向コンプライアンスは減少し、すなわち、(例えば、図15に示すように)ボールバット10の長手方向軸から90度にプライが配向された場合に、半径方向剛性は最も大きくなる。
それゆえに、バレル14の全長に広がる複合プライを、例えば、ゾーン2内よりもゾーン1内で、また、ゾーン3内よりもゾーン2内で、ボールバットの長手方向軸に対して小さい角度で配向して、このプライのコンプライアンスを最適化してもよい。例えば、(単に図解を容易にすることを目的として、バットの長手方向軸に対して実質的に零度に配向されている)図17の層1を、バットの長手方向軸に対して、ゾーン1内で±10°、ゾーン2内で±20°、ゾーン3内で±60°で配向してもよい。これは、もちろん、考えられる無数の層配向の組み合わせの1つにすぎない。
この例では、層1の軸方向剛性は、ゾーン2内よりもゾーン1内において低く、ゾーン3内よりもゾーン2内において低い(層1が、均一の材料で構成され、均一の厚みを有していること等を前提とする)。したがって、ゾーン3に対する半径方向コンプライアンスをゾーン2内において増加し、ゾーン1内においては更に増加することにより、ゾーン1及び2内の性能がゾーン3内の性能により近づく(すなわち、図16に示すコンプライアンス曲線を実質的に満たす)。
一般的に、バットバレル14全体を最適化することが望ましいが、特定の領域のみを最適化することが望ましいこともある。したがって、高いコンプライアンスを必要とするバットバレル14の領域内において、バット10の長手方向軸に対してプライをより小さい角度で配向し得るという概念は、概ね追随され得るが、バレル全体のコンプライアンスを向上させるために全ての個々のプライをこのように配向する必要はない。実際、高い半径方向コンプライアンスを必要とするバレル領域内の、ボールバット10の長手方向軸に対するプライの角度配向が、低いコンプライアンス、あるいはコンプライアンスを必要としない領域内の角度配向よりも全体的に小さければ、バットバレル14の相対的な全体の半径方向コンプライアンスは、一般的に高くなる(バレル層が均一の材料で構成され、均一の厚みを有していること等を前提とする)。
別の実施形態では、バレルの1つ以上の領域内の1つ以上のバレル壁の厚みを、他のバレル壁と比べて減少させて、減少された厚みの領域内の半径方向剛性を減少させてもよい。例えば、ゾーン1及び/又はゾーン2内のバレル壁の厚みを、対応するゾーン3内のバレル壁の厚みと比較して減少させてもよい。これらの領域内の一方又は双方におけるバレル壁の厚みを減少することにより、これらの領域の半径方向剛性が、バットバレル14のゾーン3内の半径方向剛性と比べて減少し得る。
上述した層配向の実施形態と同様に、バレル壁の厚みをゾーン2内よりもゾーン1内で大きく減少させて、半径方向剛性をゾーン2内よりもゾーン1内において大きく減少させることもできる(均一なバレル材料、層配向、その他が使用されることを前提とする)。その結果、ゾーン1及び2内の半径方向コンプライアンスを、図16に示すコンプライアンス曲線に従って増加して、バレルの性能を最適化することもできる。
別の実施形態では、異なる半径方向剛性特性を有する異なる材料を、異なるバレル領域内に設置して、バレル14全体のバレル剛性を最適化してもよい。例えば、バットバレル14の他の領域内に位置する材料よりも、(特定の配向において)低い半径方向剛性を有する材料を、バレル14のゾーン1及び/又はゾーン2の一部(又は、必要な場合はゾーン3の一部)の中に配置して、バレル14内の他の領域に対するこれらの領域内の半径方向剛性を減少してもよい。上述の実施形態と同じように、半径方向剛性をゾーン2内よりもゾーン1内で大きく減少させることが概ね望ましい。したがって、図16に示す半径方向コンプライアンス曲線に従ってバットバレルをより最適化するには、所定の層配向における低い半径方向剛性を有する材料が、バットバレル14のゾーン2内よりもゾーン1内により多く設置されることが好ましい。
同様に、バットバレル14の他の領域内に位置する材料よりも(特定の配向において)高い半径方向剛性を有する材料を、バレル14のゾーン3の一部内に配置して、バレル14の他の領域に対するその領域内の半径方向剛性を増加させることもできる。一般的に、高い半径方向コンプライアンスが望まれる領域内に半径方向剛性が低い材料が用いられるあらゆる構成、及び/又は、低い半径方向コンプライアンスが望まれる領域内に半径方向剛性が高い材料が用いられるあらゆる構成が(例えば、野球協会の安全基準を満たすため)、ここで企図される。
別の実施形態では、上述したバレルの最適化方法のあらゆる組み合わせを、バットバレル14の性能を最適化するために利用してもよい。例えば、ゾーン1及び/又はゾーン2内の1つ以上の層を、ボールバット10の長手方向軸に対して、ゾーン3内においてよりも低い角度で配向してもよく、また、ゾーン1及び/又はゾーン2内の1つ以上のバレル壁の厚みを、ゾーン3内のバレル壁の厚みよりも薄くしてもよい。更に、ゾーン1及び/又はゾーン2の一部内に位置する1つ以上の材料が、ゾーン3内に位置する材料よりも低い半径方向剛性を有していてもよく、及び/又は、高い半径方向剛性を有する1つ以上の材料をゾーン3内に設置してもよい。これらの特徴の考えられるあらゆる組み合わせ、又は、バットのスイートスポットから離れた地点の半径方向コンプライアンスを高めるその他あらゆる方法を、バレルの性能を最適化するために利用してもよい。
説明を容易にするため、上の方法のいずれかを通じて、又はその他あらゆる好適な方法を通じて増加した半径方向コンプライアンスを示すバレル領域を、以下、「半径方向コンプライアンス領域」と称する。半径方向コンプライアンス領域を、ボールバット10のテーパ部16及び/又はハンドル12内に具備して、これらの領域内に高い半径方向コンプライアンス及びたわみ性を提供してもよい。
ボールバット10のテーバ部16内における1つ以上の半径方向コンプライアンス領域の設置は、バレルから外れた打撃に高いバット変形を提供する。ボールバット10のテーパ部16内に、1つ以上の半径方向コンプライアンス領域を追加することにより、ボールの衝突がテーパ部16で生じた場合の、バット10の性能が概ね向上し、これは、上述したように、バットバレル14のゾーン1及び2内の改良と同様である。
バットハンドル12内に1つ以上の半径方向/軸方向コンプライアンス領域の設置は、概ね、バット10の「感触」を向上させ、これは、減衰化を通じた振動エネルギーの消散する多数の界面が、提供されるためである。バットハンドル12は、更に、曲げ及び剪断変形の形式で、エネルギーを蓄積し開放する。したがって、半径方向コンプライアンス領域の選択的な配置を介してハンドル12が大きく変形することを可能とすることにより、加速度が加わった際に(すなわち、バットのスイング時に)、高いエネルギー伝達を実現することができる。上述の「動的に結合された」バレル14を調整するために使用する方法と同様に、ハンドル12を特定の選手のスイングスタイルに合わせて調整してもよい。
一部の選手は実際に、ボールバット10のテーパ部16近傍のバットハンドル12において、高い半径方向剛性領域、すなわち、低い半径方向コンプライアンスを有する領域を好むかもしれない。テーパ部16近傍における高い半径方向剛性の提供は、低い半径方向剛性がその領域内に提供された場合に比べ、スイング中にバット10がより速く軸位置に「スナップバック」することを可能にする。この速いスナップバックは、高いスイング速度を生み出す技術の高い選手に、概ね好まれる。したがって、テーパ部16近傍のハンドル12における半径方向コンプライアンス領域の設置は、技術の高い選手から制御を奪う傾向があり、これは、ボールの衝突時、又は直前に、バット10がその軸位置に戻るのが遅すぎるためである。
しかし、初心者の選手、あるいは低いスイングスピードを生み出す選手にとっては、ボールバット10のテーパ部16に隣接した半径方向コンプライアンス領域を提供することが好ましいかもしれない。技術不足の選手はストライクゾーンを通じてバットを「押す」傾向があるため、バット10が軸位置の外へ顕著に「曲がる」という結果を生じない。更に、スイング中のバット10の感触を向上させるために、半径方向コンプライアンス領域を、バットハンドル12内の使用者のグリップ位置の近くに設置することが概ね望ましい。したがって、当業者は、バットハンドル12内の半径方向コンプライアンス領域の最適な配置は、概ね、残りのハンドル12の可撓性、バットバレル14の重量、対象使用者の技術レベル、及び、ハンドル12に用いられる材料に依存することを認識するであろう。
このように、半径方向コンプライアンス領域を、バレル14、テーパ部16、及び/又は、ボールバット10のハンドル12内に具備して、総合的な性能とボールバット10の感触とを向上させることができる。同様に、高いスイングスピードを生み出す選手のために、高い半径方向コンプライアンスを必要としない領域内において、例えば、バットバレル14のスイートスポットにおける領域内、又はその近傍の領域内、及び/又は、テーパ部16近傍のハンドル12における領域内において、半径方向コンプライアンスを減少させることもできる。バレル14の特定の領域内の半径方向コンプライアンスの減少は、例えば、野球協会の安全基準、又は他の安全規則を満たすために望まれ得る。
図18は、上述した、典型的な二重壁バットバレル(図18のグラフ内の二重壁バレル曲線は、図2のグラフ内に示した二重壁バレル曲線と同じである)の相対性能特性と、バットバレル14のゾーン1及び2内に半径方向コンプライアンス領域を有する最適化されたバットバレル14との、グラフによる比較を示す。図18が示すように、バットバレル14のゾーン1及び2内の半径方向コンプライアンスを増加させることにより、概ね、典型的な二重壁バットに比べて、バレル14の全長にわたって性能が向上する。
重要なのは、いかなる半径方向コンプライアンス領域の終端も、特に2つのゾーンが合流する地点である必要はないことである。実際、半径方向コンプライアンス領域は重なってもよく、あるいは、1つ以上のゾーンに属してもよく、また、ゾーンは図面に描かれるものよりも短くても長くてもよい。更に、より多くの、又はより少ない数のゾーンを指定してもよい。実際、「ゾーン」は、単に説明のために用いるものであり、いかなる種類の物理的又は理論的な境界を与えるものではない。したがって、無数の設計に従って、半径方向コンプライアンス領域をバットバレル14内の(更に、テーパ部16及びハンドル12内の)幅広い位置に設置、配向、及び/又は、作成して、所望のバレル及びボールバットの総合的な性能特性を達成してもよい。
このために、図16〜18に示す実施形態は、バットの性能を最適化するために、一般的に、バレルのスイートスポットから離れた少なくとも1つのバレル領域内に、増加した半径方向コンプライアンスを有するボールバットを示す。更に、一実施形態では、領域内の回転慣性の異なる効果を補償するには、バットのテーパ部とスイートスポットとの間のバレル領域内で、スイートスポットとバレルの自由端との間のバレル領域内よりも、半径方向コンプライアンスを大きく増加させることが好ましい。しかし、特定のボールバットの設計目標に応じて、バレル(及び/又はボールバットの他の部分)のあらゆる領域内の半径方向コンプライアンスを増加(又は減少)してもよく、あらゆる好適な構成が可能であることが認められている。
図19〜22は、制約された層緩衝を具備するボールバットを示す。図20は、バットバレル14の複合層232に組み込まれた1つ以上の振動緩衝要素、又は緩衝部230を具備するバットバレル14の一実施形態の内部を示す。1つ以上の緩衝部230は、いかなる好適な振動減衰材料又は緩衝材料、すなわち、ボールバット内の近隣又は周囲の材料の軸方向弾性率よりも低い軸方向弾性率を有する、あらゆる材料で構成されてもよい。一実施形態では、1つ以上の緩衝部230は、ボールバット10内の近隣又は周囲の材料の軸方向弾性率の0.01から50%、又は0.02から25%、又は0.05から10%、又は0.10から5.0%、又は0.50から2.5%、又は0.75から1.25%の軸方向弾性率を有し得る。しかし、ボールバット10内の近隣又は周囲の材料より低い弾性率を有するあらゆる材料を使用してもよい。
一実施形態では、1つ以上の緩衝部230が、エラストマーゴム、シリコーン、ゲル発泡体、又はその他の同種の材料のような、1つ以上の粘弾性材料、及び/又は、エラストマー材料で構成される。緩衝部230は、代替的又は追加的に、あらゆる他の好適な緩衝材によって構成されてもよく、それには、PBO(ポリベンゾオキサゾール)、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン、例えば、Dyneema(登録商標))、繊維ガラス、dacron(登録商標)(「ポリエチレン・テレフタレート」−PET又はPETE)、nylon(登録商標)(ポリアミド)、certran(登録商標)、Pentex(登録商標)、Zylon(登録商標)、Vectran(登録商標)、及び/又は、アラミドが具備されるが、これらに限定されず、これらは、ボールバット10内の近隣又は周囲の材料と比較して、振動エネルギーを消散あるいは減衰する上で効果的である。
したがって、ボールバット10の構成層を形成するために用いられる1つ以上の材料に依存して、(近隣又は周囲の構成材料に関連した)幅広い緩衝材料をボールバット10に用いることができる。例えば、軟質ゴム緩衝材料は、約10,000psiの軸方向弾性率を有し、一方、アラミド等の「緩衝」材料は、約12,000,000psiの軸方向弾性率を有する。アラミドの緩衝作用は、通常の軟質ゴムの緩衝作用よりも顕著に低いが、それでも、更に高い軸方向弾性率を有する周囲又は近隣のバット材料に対して相当の緩衝作用を有し、また、軟質材料と比較して高い耐久性を提供し得る。それゆえに、アラミドのように、比較的高い軸方向弾性率を有する材料を、有効な緩衝部として一部のボールバット構造内に使用してもよい。
各緩衝部230は、ボールバット10内の1つ以上の複合層の一部を形成してもよく、又は、別の層として具備されてもよい。更に、図21Aに示すように、任意的に、各緩衝部230を近隣の複合層の間に挟んでもよい。各緩衝部230は、ボールバット10内の周囲の複合材料に結合され、固定され、あるいは、取り付けられ、もしくは、融合されることが好ましい。ボールバット10の1つ又は双方の端部における複合材料、及び/又は、緩衝部230の1つ又は双方の端部に隣接した位置における複合材料も、バット構造と緩衝部230との間に連続負荷路を提供するために、融合又は混合され得る。
図21Aに示す実施形態では、単なる例として、緩衝部230が、実質的にバレル壁の中間面に設置されており、そこでは剪断応力が最も高い。1つ以上の緩衝部230を代替的又は追加的に、バットバレル14を構成するバレル壁の半径方向の厚み内のどこに設置してもよく、あるいは、ボールバット10の他の領域内のいずれに設置してもよい。図21Bは、例えば、緩衝部230が、バレル壁の内部に設置される実施形態を示す。この実施形態では、複合材料製の少なくとも1つの内層が、バレル構造内の緩衝部230を閉じ込めることが好ましく、緩衝部230の各端部を少なくとも1インチ以上超えて延びることが好ましい。別の実施形態では、1つ以上の緩衝部230を追加的又は代替的に、1つ以上のバレル壁の外部、又は他のバット領域に、同様に配置してもよい。
図21Cは、多数の緩衝部230が、バレル壁の内部の単層内に直列的に配置された実施形態を示す。別の実施形態では、多数の緩衝部230が、追加的又は代替的に、並列的に設置され、つまり、バレル14又は他のバット領域内の異なる半径方向位置において、ボールバット10のほぼ同じ長手位置に配置され得る。ボールバット10が多数壁バレル14、及び/又は、1つ以上のISCZを具備している場合は、緩衝部230を、1つ以上のバレル壁のあらゆる好適な位置に設置してもよく、この位置には、隣接するバレル壁の間の面、及び/又は、ISCZの片側又は両側に対する位置が具備されている。したがって、以下に更に説明するように、所望の反応を達成するために、1つ以上の緩衝部230を、バレル14、遷移領域16、及び/又は、ボールバット10のハンドル12内のあらゆる位置に設置してもよい。
1つ以上の緩衝部230は、それぞれあらゆる好適な長さ、及び/又は、厚みを有する。例えば、緩衝部230は、長さ0.25から5.00インチ(必要ならそれ以上)、厚み0.004から0.100インチ(又はあらゆる好適な厚み)である。一実施形態では、各緩衝部は0.008から0.020インチの厚みを有する。緩衝部230は考えられるあらゆる寸法でもよく、理論上はボールバット10のほぼ全長に広がることも可能であるが、ボールバット10に実質的に重量を加えず、又は耐久性を顕著に下げることなく選択的に振動を緩衝するには、1つ以上の戦略的な位置に、小さい寸法の1つ以上の離散緩衝部を組み込むことが好ましい。
図22は、ボールバット10の卓越振動の腹の位置を含む、34インチのボールバット10の一実施形態を示す。腹とは、定常波で振幅が最大となる点である。したがって、衝突条件において、ボールバット10の振動の腹は、ボールバット10内の最大たわみ(振動中のバットのモード形状に特有な)の領域に位置する。ここで用いられる振動の腹とは、概ね、ボールバット10の曲げモード、及び/又は、フープモードに関する。1つ以上のこれらの振動の腹の位置は、当業者は容易に判定できるであろうが、ボールバット10全体の寸法及び構成により異なる。したがって、図22に示す具体的な腹の位置は、単なる例として示すものである。
一実施形態では、1つ以上の振動緩衝部230を、ボールバット10内の1つ以上の振動の腹に設置し、そして、任意的にボールバット10内の1つ以上の振動の腹を実質的に中心として設置し、中心から外れた打撃によってこれらの位置に発生する振動の振幅を減少させる。また、1つ以上の緩衝部230を1つ以上の振動の腹に隣接して、あるいは実質的に近傍に設置することもでき、これは、腹近傍のバット領域のたわみ性が比較的高いためである。「実質的にそこに」、「そこに、又は近傍に」等の緩衝部の位置を説明するためにここで用いる用語及び語句は、概ね、緩衝部をまさに腹の位置に設置することが理想的であるが、代替的又は追加的に緩衝部を腹の近傍に設置して緩衝作用を生み出すことも可能であることを意味する。したがって、このような言葉は、緩衝部を腹に直接設置し、又は腹にかなり近接して設置し得ることを意味するように意図されている。
1つ以上の緩衝部230は、重大な剪断歪エネルギーを吸収し、それを熱エネルギーの形態で環境に消散することにより、衝突反力とモード振動との振幅を減少させる。粘弾性材料で構成される緩衝部230は、例えば、典型的な弾性材料よりも低い速度で(ヒステリシスのため)エネルギーを消散するため、衝突エネルギーの消散が比較的ゆっくりと生じ、初期衝突インパルスの高い緩衝をもたらす。
緩衝部230の好適な位置の1つは、ボールバット10の第1曲げモードの(すなわち、基本波の)腹、又はその近傍であり、図22において「1」で示す。第1曲げモードの腹は、全ての第1モードの中で、最大の変形と最高の歪みエネルギーとを示す。したがって、第1曲げモードの腹、又はその近傍に、すなわち、図22に示すボールバット10のキャップ端部から約19から21インチの位置に、1つ以上の緩衝部230を設置することにより、芯から外れた打撃から生じた多量の振動エネルギーが消散され、そうでなくとも減衰される。
第2及び/又は第3曲げモードを抑制するために、1つ以上の緩衝部230を、ボールバット10の第2及び/又は第3曲げモード(第1曲げモードの腹が示すような変形は示さないものの、振動作用には寄与する)の腹に、又は近傍に設置してもよく、これらを、それぞれ図22の数字「2」及び「3」で示す。図22に示すボールバット10の第2曲げモードを抑制するために、例えば、1つ以上の緩衝部230を、ボールバット10のキャップ端部から、約8から10インチ、及び/又は、26から28インチの位置に配置してもよい。
別の実施形態では、緩衝部230が追加的又は代替的に、ボールバット10の基本又は第1フープモードの腹に、又は近傍に配置され、これを図22の文字「A」で示す。図22に示すボールバット10のキャップ端部から約4から8インチに設置されるこの腹が、実質的にCOPと第1及び第2高調波曲げノードとの交点に位置する(すなわち、ボールバットの「スイートスポット」に位置する)ことから、例えあるとしても、最小限の振動がこの位置で生じる。したがって、しびれを防止するために、最小限の振動減衰(例えあるとしても)のみがこの位置に必要とされる。しかし、この「スイートスポット」の位置に、又は近傍に、1つ以上の緩衝部230を追加することにより、知覚されるスイートスポットの大きさが、概ね増大し、バッターにより良い感触を提供する。
ボールバット10内の振動を最小化するために、多数の緩衝部230を、バット構造全体のあらゆる腹の組み合わせの位置、又はその近傍に設置してもよい。各緩衝部230は、他の緩衝部230から分離されて、不連続であることが好ましく、主に単独の腹に、又はその近傍に設置される。しかし、1つ以上の個別の緩衝部230が2つ以上の腹に重なることも考えられる。
例えば、単一の緩衝部230を、ボールバットの遷移領域内に設置される第1曲げモードの腹「1」と第3曲げモードの腹「3」とに重ねて配置することも可能である(例えば、図22に示すボールバット10のキャップ端部から約19〜22インチ)。しかし、全体の重量を最小化し、バット構造の十分な耐久性を維持するためには、実質的に全ての緩衝部230が分離していて、単一の振動の腹に、又はその近傍に、戦略的に配置されることが概ね好ましい。上述したように、特定の腹の位置に、又は近傍に、複数の緩衝部を並列的に、すなわち異なる半径方向位置に設置してもよい。
図23及び24は、1つ以上の集中屈曲領域を含んだボールバットを示す。図23は、集中屈曲領域330具備しているボールバット10の一実施形態を示す。集中屈曲領域330は、上述したような構造複合材料の1つ以上を有する半径方向内側領域330と、ボールバット10内の近隣の構造複合材料よりも低い軸方向弾性率を有する1つ以上の「非構造」材料を有する半径方向外側領域333と、を具備している。集中屈曲領域330の大部分又は全体をボールバットの遷移領域16内に設置することが好ましいが、代替的又は追加的に、ボールバット10のハンドル12及び/又はバレル14内に部分的に又は完全に設置してもよい。更に、1つ以上の集中屈曲領域330をボールバット10内に具備してもよい。
集中屈曲領域330の構造的半径方向内側領域331は、ボールバット10内の近隣の構造材料335と連続していてもよく、また、開始位置及び/又は終了位置が定められた別個の領域でもよい。半径方向内側領域331の厚みは、ハンドル、バレル、及び/又は、遷移部を具備している近隣領域内の構造材料又は層335の厚みに実質的に等しくてもよく(すなわち、構造「管」は、ボールバット10全体にわたって比較的均一な厚みを有する)、また、半径方向内側領域331の厚みは、ボールバット10内の1つ以上の他の構造領域と比較して異なってもよい。
「窪んだ」集中屈曲領域330を具備することにより、半径方向内側領域331内の構造層又は材料、あるいは構造「管」の外径及び内径は、ボールバット10内の近隣領域と比較して減少する。ボールバット10の特定の長手方向位置での材料領域の構造軸曲げ剛性(EI)は、材料領域の外径D0、材料厚み(D0−Di)、材料軸方向弾性率E、の関数であり、以下の式により定められる。
管構造の曲げ剛性=EI=
図面においては、参照符号D0、D0'、Di、及びDi'は、それぞれの直径が測定されるボールバット10内の位置を示す。例えば、D0は、ボールバット10の外径が測定される位置である。Diは、集中屈曲領域330以外のいずれかの領域での、ボールバット10の壁又は管の内径が測定される位置である。したがって、D0及びDiは、ハンドル12、遷移部16及び/又はバレル14の間で、及び/又は、範囲内で、通常異なるものである。D0'及びDi'は、それぞれ集中屈曲領域330の半径方向内側領域331の外径及び内径が測定されるボールバット10の位置である。
集中屈曲領域330の半径方向内側領域331内の構造材料の外径D0'を減少させることにより、ボールバット10内の近隣の領域と比較して、その位置における構造「管」の軸方向剛性が顕著に減少する。そして、集中屈曲領域330は、一般的に、ボールバット10の「キックポイント」と一致する。キックポイントとは、バット10の回転中に生じる慣性に起因するボールバット10内の最大曲率の地点である。
集中屈曲領域330の考えられる1つの位置は、遷移部16内の、ボールバット10の一次基本振動の腹の近傍である。一般的に、この位置は、ハンドル12の端部の、丁度バットの外径(D0)が増加し始める位置、又はその近傍である。この領域は、スイング中に最大の軸方向たわみの影響を受けやすく、そのため、バット10がこの特定の領域内で曲がるという自然な傾向を利用して、選手の特定のスイングのスタイルに合わせて調整することができる。この位置におけるいくつかの利点は、典型的なボールバット10の外径(D0)が、この位置における断面剛性が顕著に増加するほどに大きくないことと、バットスイングの加速中の慣性負荷がバットを曲げるのに十分なバレルの質量が、この部分の先に存在することである。更に、通常、この位置へのボールの衝突は稀であるため、この位置のバットを軸方向に柔軟にしても、バットの耐久性が顕著に悪影響を受けることはないといえる。
例えば、アルミニウム(E=106psi)等の特定の均質材料にとって、1.50インチの外径D0と0.10インチの厚み(D0−Di)とを有する壁又は構造管の屈曲剛性は、1.15インチの外径D0'を有する同一の厚みの壁又は管よりも約235%大きい(すなわち、2.35倍硬い)。したがって、直径1.50インチの管を直径1.15インチの管と同じたわみで屈曲するには、約2.35倍の負荷が必要となる。言い換えると、固定したエネルギーのスイングでは、ボールバット10の直径1.15インチの構造領域は、直径1.50インチの構造領域よりも、約235%大きいポテンシャルエネルギーを屈折し、跳ね返す(実際の差は、集中屈曲領域330の半径方向外側領域333の材料特性次第で異なる)。
したがって、集中屈曲領域330の半径方向内側領域331内の構造材料の局所直径(D0')にわずかな変更を加えることにより、ボールバット10の局所軸方向剛性及び可撓性が、顕著に減少し、又は変更され得る。構造材料の中でのこれらの直径の変更による所望の効果を達成するために、集中屈曲領域330の半径方向外側領域333が、ボールバット10内の1つ以上の近隣の構造材料335の軸方向弾性率より低い軸方向弾性率を有する1つ以上の材料で構成されることが好ましい。
ここでは「緩衝材料」と呼ぶこれらの軸方向弾性率が低い材料は、エラストマーゴム、シリコーン、ゲル発泡体、又はその他の同種の材料等の、比較的低い軸方向弾性率を有する1つ以上の粘弾性又はエラストマー材料を具備し得る。ボールバット内の近隣の構造材料335よりも低い弾性率を有するあらゆる他の材料を、代替的又は追加的に、半径方向外側領域333内に用いてもよく、それには、PBO(ポリベンゾオキサゾール)、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン、例えば、Dyneema(登録商標))、繊維ガラス、dacron(登録商標)(「ポリエチレン・テレフタレート」−PET又はPETE)、nylon(登録商標)(ポリアミド)、certran(登録商標)、Pentex(登録商標)、Zylon(登録商標)、Vectran(登録商標)、及び/又は、アラミドが含まれるが、これらに限定されない。
したがって、ボールバット10の構造層335を形成するために用いる1つ以上の材料次第で、(近隣又は周囲の構造材料335と比較して)多種多様の緩衝材を、集中屈曲領域330の半径方向外側領域333内に用い得る。例えば、軟質ゴム緩衝材料は約10,000psiの軸方向弾性率を有し、一方、アラミド等の「緩衝」材料は、約12,000,000psiの軸方向弾性率を有する。アラミドの軸方向弾性率は、通常の軟質ゴム材料の軸方向弾性率よりも顕著に大きいが、それでも、アラミドは、更に高い軸方向弾性率を有する周囲又は近隣の構造バット材料に対して相当の緩衝作用を有し、軟質材料と比較して高い耐久性を提供し得る。それゆえに、アラミドのように比較的高い軸方向弾性率を有する材料を、有効な緩衝部として一部のボールバット構造に使用してもよい。
図24は、考えられる集中屈曲領域330の一構成を示すが、集中屈曲領域330内に、減少された軸方向剛性を提供するために好適な、あらゆる他の形状又は構成を用いてもよい。集中屈曲領域330の半径方向外側領域333は、約0.060から0.250インチ、又は0.080から0.120インチの深さ(D0−D0'にほぼ等しい)を有することが好ましい。あらゆる他の深さを代わりに用いてもよい。ISCZ又は同様の領域がボールバット10(例えば、多数壁バット内)内に具備された場合は、半径方向領域333はISCZにまで延びる(又はISCZ内の開口を通り抜ける)深さを有し得る。
半径方向外側領域333の基部は、0.20から1.50インチ、又は0.40から0.80インチの長さを有することが好ましく、半径方向外側領域333の(ボールバット10の外面に対応する)外面は、約0.25から2.50インチ、又は0.50から1.50インチの長さを有することが好ましい。半径方向外側領域333は、あらゆる他の好適な寸法を有してもよく、(例えば、図24に示すように)テーパ状端領域334を有しても、有しなくてもよい。
一実施形態では、半径方向外側領域333の深さは、半径方向内側領域331の厚みの、60%から150%、又は80%から120%である。追加的又は代替的に、半径方向内側領域331の外径D0'は、ボールバット10内の近隣の長手方向領域の外径D0の、60%から95%、又は70%から85%である。追加的又は代替的に、集中屈曲領域330は、ボールバットの近隣の長手方向領域の軸方向剛性の、10%から90%、又は30%から70%、又は40%から60%の軸方向剛性を有するように調整される。この減少された軸方向剛性は、半径方向外側領域333内の材料が、ボールバット10内の近隣領域より低い軸方向弾性率を有する結果、及び/又は、半径方向内側領域331が、ボールバット10内の近隣の長手方向領域よりも小さい外径D0'及び/又は厚み(D0'−Di')を有する結果である。1つ以上のこれらの相対的な比率は、特定のバット設計の指示に応じて、ここに記述される制限を越えて異なり得るものである。
1つ以上の集中屈曲領域330の位置、形状、及び構成は、特定のボールバット10の構成要件に基づいて異なり得る。遷移部16内に集中屈曲領域330を設置することにより、例えば、バットの屈曲性を増加させることができ、また、振動エネルギーをバット構造から減衰させることができ、その結果、バレルの動力学特性が向上する。集中屈曲領域330の軸方向剛性及び位置を調整して、異なる打撃スタイル(例えば、押すスタイル又はスナップスタイル)に特定の反跳を提供してもよい。集中屈曲領域330を、例えば、典型的な野球バットのバレル14の近くに設置してもよく、また、典型的なファストピッチ・ソフトボール用バットのハンドル12の近くに設置してもよい。
一般的に、スイング中に増大した「スナップバック」を提供するために、集中屈曲領域330をテーパ部16内にバレル14に向けて配置してもよく、また、スイング中にバットを「押す」傾向にある選手に少ないスナップバックを提供するために、テーパ部16内にハンドル12に向けて配置してもよい。したがって、特定のバット設計の要件に応じて、1つ以上の集中屈曲領域330をバット構造内のどこにでも配置し得る。
ここに説明した種々のボールバットの実施形態は、あらゆる好適な方法により構成され得る。一実施形態では、所望のバット形状を有するマンドレル又は同様の構造上に、バット10の種々の層を圧延することにより、ボールバット10が構成される。上述の実施形態で説明したように、あらゆるISCZ、ISA領域、半径方向コンプライアンス領域、緩衝要素、及び/又は、集中屈曲領域が、好適に戦略的に作成され、配置され、設置され、及び/又は、配向される。
材料層の端部は、硬化の前に端部が同じ位置で終わらないように、相互に離れた状態又はオフセットであることが好ましい。更に、様々な層配向及び/又は肉厚を用いる場合は、所望のバット形状を形成するために、層をずらし、切り、あるいは角度をつけ、手を加えてもよい。そして、バット10を硬化するために熱及び圧力を加えると、様々な層は、特徴的な「一体型」又は一体化した構造へと融合する。更に、複合材料の加熱及び硬化中に、集中屈曲領域330の半径方向外側領域333内に用いられるあらゆる緩衝部230及び/又は緩衝材料が、周囲の複合材料と溶融して、バット構造全体の一体部分になることが好ましい。
別の言い方をすれば、バットの全ての層は単一のステップ内で「共硬化」され、少なくとも一端において融合し、あるいは一緒に終って、(少なくとも一端において)隙間を有さない単一構造を帰結し、したがって、バレル14は、それぞれ異なる肉厚を有し管の端部で終わる一連の管で構成されない。その結果、全ての層が、ボールの打撃中等の荷重条件下において一致して機能する。バレル14の片方又は双方の端部が、このように一緒に終わって、1つ以上のバレル壁(ISCZが使用されたか否かによる)を具備した一体型バレル14を形成し得る。別の設計では、バレルのどちらの端部も融合されず、複数部分からなる構造が形成される。
したがって、いくつかの実施形態を示し、説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱しない範囲において、種々の変更及び置換を行い得ることは当然である。したがって、本発明は、以下の請求の範囲及びその等価物以外によって限定されるべきではない。