さて、特許文献1の開示装置では、連動回転するベーンロータ及びカム軸に制御弁が内蔵されているので、スリーブ内のスプールを径方向に貫通の排出口から、当該スリーブに形成のドレンポートへと向かって排出される作動液には、遠心力が作用する。ここでスリーブにおいて、軸方向に貫通するドレンポートは、径方向内側へと突出する環状ワッシャの中心孔により形成されている。故に排出口から排出の作動液は、スプールの径方向外側にて遠心力の作用を受けることで、ワッシャの中心孔よりもさらに径方向外側となる箇所に貯留され得る。
しかし、特許文献1の開示装置では、スプールにおいてドレンポートと軸方向に対向する対向端のうち、排出口が開口する開口外周部の外径よりも、ワッシャの中心孔の内径が大きく設定されている。これにより、ドレンポートを形成するワッシャの中心孔よりも径方向内側に位置することになる開口外周部の周囲では、排出口から排出の作動液が貯留されることなく大気開放の当該ドレンポートへと排出されることになるので、空気の侵入が生じ易い。その結果、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの排出室にて負圧が瞬間的に発生するときには、排出経路として当該負圧を受ける排出口に開口外周部の周囲から吸い込まれる空気が、排出室にまで達する。こうして排出室に吸い込まれた空気は、作動液に混入した気泡となるので、排出室での見かけ上の弾性係数が低下して、ベーンロータの暴れを招くおそれがある。ここでベーンロータの暴れは、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を悪化させるので、望ましくない。
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、液圧式バルブタイミング調整装置においてバルブタイミングの調整精度を確保することにある。
請求項1に記載の発明は、内燃機関においてクランク軸からのトルク伝達によりカム軸が開閉する動弁のバルブタイミングを、供給源から供給される作動液により調整する液圧式バルブタイミング調整装置であって、クランク軸と連動して回転するハウジングと、カム軸と連動して回転し、ハウジング内において複数の作動室を回転方向に区画し、各作動室に対する作動液の入出により、位相変化モードにおいてハウジングに対する回転位相が進角方向又は遅角方向へ変化するベーンロータと、ベーンロータ及びカム軸のうち少なくとも一方に内蔵され、スリーブ内に同軸上に収容されるスプールの移動状態に応じて、各作動室に対する作動液の入出を制御する制御弁とを、備え、
スリーブに形成され、位相変化モードにおいて作動液を導入する作動室としての導入室に連通する導入ポートと、スリーブに形成され、位相変化モードにおいて作動液が排出される作動室としての排出室に連通する排出ポートと、スリーブに形成され、外部の大気に開放されるドレンポートと、スプールに形成され、位相変化モードにおいて排出ポートと連通する排出通路と、スプールに形成され、位相変化モードにおいて排出通路及びドレンポートの間を連通する排出口と、スリーブ内において排出口からドレンポートへ向かって排出される作動液を、スプールの径方向外側に貯留する貯留構造とが、制御弁に設けられるバルブタイミング調整装置において、
ドレンポートは、スリーブを軸方向に貫通し、排出口は、スプールのうちドレンポートと軸方向に対向する対向端を、径方向に貫通し、貯留構造は、対向端の径方向外側を同軸上に囲む筒状部と、筒状部から径方向内側へ突出して対向端と同軸上に第一中心孔を形成し、排出口を軸方向に挟んでドレンポートとは反対側において、当該第一中心孔を対向端に嵌合させる第一環状部と、筒状部のうち第一環状部よりもドレンポート側から径方向内側へ突出して対向端と同軸上に第二中心孔を形成し、当該第二中心孔により排出口をドレンポートに連通させる第二環状部とを、有し、対向端のうち排出口が開口する開口外周部の最小外径よりも、第二中心孔の最小内径が小さいことを特徴とする。
この発明において回転位相を変化させる位相変化モードでは、複数の作動室のうち作動液の導入される導入室に対して排出室からは、制御弁の排出ポート、排出通路、排出口及びドレンポートが順次連通してなる排出経路を通じて、作動液が大気開放の外部へ排出される。これによりベーンロータは、導入室の作動液から受ける圧力の増大と、排出室の作動液から受ける圧力の低下とによりハウジングに対して相対回転する方向へ、回転位相を変化させることになる。したがって、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を高めるには、当該回転位相を作動液の圧力に応じて精確に変化させることが、重要となる。
こうした発明において、ベーンロータ及びカム軸のうち少なくとも一方に内蔵の制御弁では、スリーブ内にて同軸上のスプールを径方向に貫通の排出口から、当該スリーブを軸方向に貫通のドレンポートへと向かって排出される作動液に、遠心力が作用する。故に、排出口から排出の作動液は、スプールの径方向外側にて遠心力の作用を受けることで、該径方向外側の貯留構造により貯留され得る。
ここで貯留構造においては、スプールにおいてドレンポートと軸方向に対向する対向端に対し、その径方向外側を同軸上に囲む筒状部からは、第一環状部が径方向内側へ突出している。この第一環状部が形成する第一中心孔については、排出口を軸方向に挟んでドレンポートとは反対側にて同軸上の対向端に嵌合するので、排出口から排出されて当該反対側へと向かう作動液の流動は、第一環状部により遮られ得る。
さらに貯留構造においては、スプールの対向端を囲む筒状部のうち第一環状部よりもドレンポート側からは、第二環状部が径方向内側へ突出している。この第二環状部が形成する第二中心孔については、対向端のうち排出口が開口する開口外周部の最小外径よりも、最小内径が小さい。故に、第二中心孔よりも径方向外側に位置することになる開口外周部の周囲では、排出口から排出されてドレンポートとは反対側への流動を第一環状部により遮られる作動液が、ドレンポート側への流動も第二環状部により遮られ得る。これらの遮り作用により第一環状部及び第二環状部の間では、遠心力作用を受ける作動液が開口外周部の周囲に確実に貯留されることで、第二中心孔により排出口と連通する大気開放のドレンポートからは、当該周囲に空気が侵入し難くなる。
以上によれば、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの排出室にて負圧が発生しても、排出経路として当該負圧を受ける排出口には、ドレンポートの空気よりも、開口外周部の周囲の作動液が優先的に吸い込まれ得る。したがって、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項2に記載の発明によると、筒状部、第一環状部及び第二環状部を形成するスリーブにおいて、第一中心孔が対向端に摺動嵌合し且つ第二中心孔がドレンポートを区画することを特徴とする。
この発明の貯留構造では、スリーブにおいて筒状部から径方向内側へ突出する第一環状部は、スプールの対向端に摺動嵌合する第一中心孔を形成するので、排出口から排出の作動液につき、ドレンポートとは反対側へ向かう流動を遮り得る。さらに貯留構造では、スリーブにおいて筒状部から径方向内側へ突出する第二環状部は、最小内径が開口外周部の最小外径よりも小さい第二中心孔を形成するので、排出口から排出の作動液につき、ドレンポート側への流動をも遮って開口外周部の周囲に確実に貯留し得る。故に開口外周部の周囲には、大気開放のドレンポートを区画する第二中心孔から、空気が侵入し難くなる。以上によれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項3に記載の発明によると、貯留構造は、スプールと一体移動する環状移動体を、有し、環状移動体は、第一環状部及び第二環状部の間において対向端に同軸上に固定されることを特徴とする。
この発明の貯留構造においてスプールと一体移動する環状移動体は、対向端に対する同軸上の固定箇所である第一環状部及び第二環状部の間にて、排出口から排出の作動液がドレンポート側へと向かう流動を、第二環状部よりも先に遮り得る。故に開口外周部の周囲では、作動状態によっては排出口からの作動液の排出量が少なくなる場合であっても、第一環状部及び第二環状部の間のうち特に第一環状部及び環状移動体の間にて、作動液が確実に貯留され得る。これによれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項4に記載の発明によると、環状移動体は、第一環状部とは排出口を軸方向に挟んだ反対側において、対向端に固定され、環状移動体の最大外径は、第二中心孔の最小内径よりも大きく且つ筒状部の最小内径よりも小さい。
この発明の貯留構造において環状移動体は、第一環状部とは排出口を軸方向に挟んだ反対側の固定箇所にて、即ち排出口よりもドレンポート側にて、排出口から排出の作動液の流動を遮り得る。故に開口外周部の周囲では、排出口からの排出量が少ない作動液であっても、排出口を挟む環状移動体及び第一環状部の間に逃がさずに、貯留され得る。しかも、大気開放のドレンポートを区画する第二中心孔から、万が一空気が侵入した場合であっても、当該第二中心孔の最小内径よりも大きな最大外径を有する環状移動体は、第一環状部との間の排出口へ向かう空気流動を遮り得る。以上によれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保する効果の信頼性を高めることが、可能となるのである。
さらに、上述の如き請求項4に記載の発明において最大外径が筒状部の最小内径よりも小さい環状移動体は、当該筒状部の径方向内側に空間部を確保することで、第一環状部との間を第二環状部との間に連通させ得る。故に、排出口を挟む環状移動体及び第一環状部の間から、環状移動体及び第二環状部の間を経てドレンポートに溢れることによる作動液の排出は、確実に許容され得る。これによれば、排出室の作動液をドレンポートまで到達させて排出できるので、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度が環状移動体の採用により悪化することにつき、回避可能となるのである。
請求項5に記載の発明によると、排出ポートは、筒状部とは第一環状部を軸方向に挟んだ反対側において、スリーブを径方向に貫通し、環状移動体の最大外径は、第一中心孔の最小内径よりも大きいことを特徴とする。
この発明では、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの排出室にて負圧が発生すると、スリーブを貫通して排出室と連通する排出ポートにも、当該負圧が作用する。ここで、スリーブのうち第一環状部を軸方向に挟んで筒状部とは反対側部分を径方向に貫通する排出ポートは、当該第一環状部の第一中心孔とスプールの対向端との間の摺動嵌合隙間を通じて、ドレンポート側の開口外周部の周囲にも負圧を作用させる。そのため、開口外周部の周囲に空気が侵入している場合、当該侵入空気が摺動嵌合隙間及び排出ポートに順次吸い込まれて排出室の作動液に気泡として混入することで、ベーンロータの暴れを招くおそれがある。
しかし、上述の如き請求項5に記載の発明において最大外径が第一中心孔の最小内径よりも大きい環状移動体は、空気の侵入し難い開口外周部の周囲のうち当該第一中心孔よりも径方向外側となる位置まで、作動液を貯留し得る。故に、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの排出室にて負圧が発生しても、第一中心孔及び対向端の間にて当該負圧を受ける摺動嵌合隙間には、開口外周部の周囲の作動液が空気よりも優先的に吸い込まれ得る。したがって、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項6に記載の発明によると、導入ポートは、筒状部とは第一環状部を軸方向に挟んだ反対側において、スリーブを径方向に貫通し、環状移動体の最大外径は、第一中心孔の最小内径よりも大きいことを特徴とする。
この発明では、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの導入室にて負圧が発生すると、スリーブを貫通して導入室と連通する導入ポートにも、当該負圧が作用する。ここで、スリーブのうち第一環状部を軸方向に挟んで筒状部とは反対側部分を径方向に貫通する導入ポートは、当該第一環状部の第一中心孔とスプールの対向端との間の摺動嵌合隙間を通じて、ドレンポート側の開口外周部の周囲にも負圧を作用させる。そのため、開口外周部の周囲に空気が侵入している場合、当該侵入空気が摺動嵌合隙間及び導入ポートに順次吸い込まれて導入室の作動液に気泡として混入すると、導入室での見かけ上の弾性係数が低下して、これによってもベーンロータの暴れを招くおそれがある。
しかし、上述の如き請求項6に記載の発明において最大外径が第一中心孔の最小内径よりも大きい環状移動体は、空気の侵入し難い開口外周部の周囲のうち当該第一中心孔よりも径方向外側となる位置まで、作動液を貯留し得る。故に、カム軸からベーンロータへの変動トルク作用により、位相変化モードの導入室にて負圧が発生しても、第一中心孔及び対向端の間にて当該負圧を受ける摺動嵌合隙間には、開口外周部の周囲の作動液が空気よりも優先的に吸い込まれ得る。したがって、開口外周部の周囲から導入室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項7に記載の発明によると、貯留構造は、スプールと一体移動する可動体を、有し、筒状部、第一環状部並びに第二環状部を形成する可動体において、第一中心孔が対向端に嵌合固定され且つ第二中心孔がドレンポートと軸方向に連通することを特徴とする。
この発明の貯留構造では、スプールと一体移動する可動体において筒状部から径方向内側へと突出する第一環状部は、スプールの対向端に嵌合固定される第一中心孔を形成するので、排出口から排出の作動液につき、ドレンポートとは反対側へ向かう流動を遮り得る。さらに貯留構造では、可動体において筒状部から径方向内側へ突出する第二環状部は、最小内径が開口外周部の最小外径よりも小さい第二中心孔を形成するので、排出口から排出の作動液につき、ドレンポート側への流動をも遮って開口外周部の周囲に確実に貯留し得る。故に開口外周部の周囲には、第二中心孔と連通する大気開放のドレンポートから、空気が侵入し難くなる。以上によれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項8に記載の発明によると、貯留構造は、スプールと一体移動する環状移動体を、有し、環状移動体は、第一環状部及び第二環状部の間において対向端に同軸上に固定されることを特徴とする。
この発明の貯留構造においてスプールと一体移動する環状移動体は、対向端に対する同軸上の固定箇所である第一環状部及び第二環状部の間にて、排出口から排出の作動液がドレンポート側へと向かう流動を、第二環状部よりも先に遮り得る。故に開口外周部の周囲では、作動状態によっては排出口からの作動液の排出量が少なくなる場合であっても、第一環状部及び第二環状部の間のうち特に第一環状部及び環状移動体の間にて、作動液が確実に貯留され得る。これによれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保することが、可能となるのである。
請求項9に記載の発明によると、環状移動体は、第一環状部とは排出口を軸方向に挟んだ反対側において、対向端に固定され、環状移動体の最大外径は、第二中心孔の最小内径よりも大きく且つ筒状部の最小内径よりも小さい。
この発明の貯留構造において環状移動体は、第一環状部とは排出口を軸方向に挟んだ反対側の固定箇所にて、即ち排出口よりもドレンポート側にて、排出口から排出の作動液の流動を遮り得る。故に開口外周部の周囲では、排出口からの排出量が少ない作動液であっても、排出口を挟む環状移動体及び第一環状部の間に逃がさずに、貯留され得る。しかも、第二中心孔と連通する大気開放のドレンポートから、万が一空気が侵入した場合であっても、当該第二中心孔の最小内径よりも大きな最大外径を有する環状移動体は、第一環状部との間の排出口へ向かう空気流動を遮り得る。以上によれば、開口外周部の周囲から排出室へ空気が吸い込まれることによるベーンロータの暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保する効果の信頼性を高めることが、可能となるのである。
さらに、上述の如き請求項9に記載の発明において最大外径が筒状部の最小内径よりも小さい環状移動体は、当該筒状部の径方向内側に空間部を確保することで、第一環状部との間を第二環状部との間に連通させ得る。故に、排出口を挟む環状移動体及び第一環状部の間から、環状移動体及び第二環状部の間を経てドレンポートに溢れることによる作動液の排出は、確実に許容され得る。これによれば、排出室の作動液をドレンポートまで到達させて排出できるので、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度が環状移動体の採用により悪化することにつき、回避可能となるのである。
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態による液圧式バルブタイミング調整装置1を車両の内燃機関に適用した例を、示している。装置1は、「作動液」としての作動油により、「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する。
(基本構成)
まず、装置1の基本構成につき、説明する。図1,2に示すように装置1は、内燃機関においてクランク軸(図示しない)から出力される機関トルクをカム軸2へ伝達する伝達経路に設置の回転機構系10と、当該回転機構系10を駆動するための作動油の入出を制御する制御系40とを、組み合わせてなる。
(回転機構系)
まず、回転機構系10の基本構成を説明する。回転機構系10においてハウジング11は、シューケーシング12の軸方向両端にリアプレート13及びフロントプレート15を締結してなる。シューケーシング12は、円筒状のハウジング本体120と、仕切部である複数のシュー121,122,123とを有している。各シュー121,122,123は、ハウジング本体120において回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向内側へ突出している。回転方向において隣り合うシュー121,122,123の間には、それぞれ収容室20が形成されている。リアプレート13は、タイミングチェーン(図示しない)を介してクランク軸と連繋するスプロケット134を、有している。かかる連繋により内燃機関の回転中は、クランク軸からスプロケット134へと機関トルクが伝達されることで、ハウジング11がクランク軸と連動して一定方向(図2の時計方向)に回転する。
ベーンロータ14は、ハウジング11内に同軸上に収容されており、軸方向両端にてリアプレート13及びフロントプレート15と摺接する。ベーンロータ14は、円筒状の回転軸140と、複数のベーン141,142,143とを有している。回転軸140は、内燃機関において軸受6により軸支されるカム軸2に対して、同軸上に固定されている。これによりベーンロータ14は、カム軸2と連動してハウジング11と同一方向(図2の時計方向)に回転可能且つハウジング11に対して相対回転可能となっている。ここで本実施形態の回転軸140は、軸本体140aの両側に、リアプレート13を軸方向に貫通してカム軸2に締結されるボス140bと、フロントプレート15を軸方向に貫通してハウジング11外に向かって開口するブッシュ140cとを、同軸上に締結してなる。
各ベーン141,142,143は、回転軸140の軸本体140aにおいて回転方向に所定間隔ずつあけた箇所から径方向外側へ突出し、それぞれ対応する収容室20に収容されている。図2に示すように各ベーン141,142,143は、それぞれ対応する収容室20を回転方向に分割することにより、作動油が入出する進角室22,23,24及び遅角室26,27,28を、ハウジング11内に区画している。具体的には、シュー121及びベーン141の間には進角室22が形成され、シュー122及びベーン142の間には進角室23が形成され、シュー123及びベーン143の間には進角室24が形成されている。一方、シュー122及びベーン141の間には遅角室26が形成され、シュー123及びベーン142の間には遅角室27が形成され、シュー121及びベーン143の間には遅角室28が形成されている。
以上の構成によりベーンロータ14は、進角室22,23,24及び遅角室26,27,28の各々から受ける圧力に応じてハウジング11に対して相対回転する方向へ、回転位相を変化させることになる。具体的には、進角室22,23,24への作動油の導入及び遅角室26,27,28からの作動油の排出により、進角室22,23,24の圧力が増大し且つ遅角室26,27,28の圧力が低下する。その結果、ハウジング11に対してベーンロータ14が相対回転する進角方向へ回転位相が変化し、それに対応してバルブタイミングが進角する。
一方、遅角室26,27,28への作動油の導入及び進角室22,23,24からの作動油の排出により、遅角室26,27,28の圧力が増大し且つ進角室22,23,24の圧力が低下する。その結果、ハウジング11に対してベーンロータ14が相対回転する遅角方向へ回転位相が変化し、それに対応してバルブタイミングが進角するのである。
(制御系)
次に、制御系40の基本構成を説明する。図1,2に示すように、制御系40において進角主通路41は、回転軸140の内周部に沿って形成されている。進角分岐通路42,43,44は回転軸140を貫通し、それぞれ対応する進角室22,23,24及び共通の進角主通路41と連通している。遅角主通路45は、回転軸140の内周部に開口する溝により形成されている。遅角分岐通路46,47,48は回転軸140を貫通し、それぞれ対応する遅角室26,27,28及び共通の遅角主通路45と連通している。
供給通路50は回転軸140を貫通し、図1の如くカム軸2及び軸受6を貫通する搬送通路3を介して、「供給源」としてのポンプ4と連通している。ここでポンプ4は、内燃機関の回転に伴ってクランク軸により駆動されるメカポンプであり、ドレンパン5から吸入した作動油を、当該回転の速度(エンジン回転数)と共に上昇する圧力にて吐出する。かかつポンプ4から吐出の作動油が供給される供給通路50には、リード式の逆止弁(リード弁)520が設けられている。逆止弁500は、供給通路50において作動油がポンプ4側へと逆流するのを防止する。
ドレン通路54は、回転機構系10及びカム軸2の外部に設けられている。ここで、かかる外部のドレン回収要素としてドレンパン5と共に大気に開放されるドレン通路54には、作動油の排出が可能となっている。
制御弁60は、リニアソレノイド80への通電により発生する駆動力と、コイルスプリング82の弾性変形により当該駆動力と反対方向に発生する復原力とを利用して、スリーブ66内のスプール70を往復移動させるスプール弁である。制御弁60は、進角ポート661、遅角ポート662、供給ポート664及びドレンポート666を、スリーブ66において有している。ここで、進角ポート661は進角主通路41と連通し、遅角ポート662は遅角主通路45と連通し、供給ポート664は供給通路50と連通し、ドレンポート666はドレン通路54と連通している。制御弁60は、スプール70の移動状態に応じて、これらポート661,662,664,666間の連通及び遮断を切り替える。
制御回路86は、例えばマイクロコンピュータ等を主体に構成される電子回路であり、リニアソレノイド80及び内燃機関の各種電装品(図示しない)と電気接続されている。制御回路86は、内部メモリに記憶のコンピュータプログラムに従って、リニアソレノイド80への通電を含む内燃機関の回転を制御する。
(ベーンロータのへの変動トルク作用)
次に、装置1においてカム軸2からベーンロータ14に作用する変動トルクにつき、説明する。内燃機関の回転中は、カム軸2により開閉駆動される吸気弁からのスプリング反力等に起因して生じる変動トルクが、当該カム軸2を通じて回転機構系10のベーンロータ14へと作用する。図3に例示するように変動トルクは、ハウジング11に対する進角方向に作用する負トルクと、ハウジング11に対する遅角方向に作用する正トルクとの間において交番変動する。ここで、特に本実施形態の変動トルクについては、カム軸2及び軸受6間のフリクション等に起因して、正トルクのピークトルクT+が負トルクのピークトルクT−よりも大きくなっており、それらの平均トルクTaveが正トルク側に偏っている。したがって、内燃機関の回転中にベーンロータ14は、カム軸2から伝達される変動トルクにより、ハウジング11に対する遅角方向へと平均的に偏って付勢される。
(制御弁)
次に、装置1における制御弁60の構造につき、詳細に説明する。尚、以下の説明では、水平面上における車両内の装置1の鉛直方向及び水平方向を、単に「鉛直方向」及び「水平方向」というものとする。
図1に示すように、制御弁60において金属製のスリーブ66は、互いに連動回転する連動回転要素2,14の双方に同軸上に内蔵されることで、水平方向(同図の左右方向)に延伸する有底円筒状に設けられている。スリーブ66は、カム軸2に螺着固定される雄螺子状の固定部667を、底側の一端に有していると共に、当該カム軸2との間に回転軸140を挟持する円環鍔状のフランジ部668を、開口側の他端に有している。図4,5に示すようにスリーブ66には、フランジ部668側端から固定部667側端に向かって順に、ドレンポート666、進角ポート661、供給ポート664及び遅角ポート662が設けられている。ここで本実施形態のドレンポート666は、スリーブ66においてフランジ部668側端を軸方向に貫通する円筒孔状に、形成されている。一方、本実施形態の進角ポート661、供給ポート664及び遅角ポート662は、スリーブ66の周壁部660を径方向に貫通する矩形孔状に、形成されている。
制御弁60において金属製のスプール70は、スリーブ66内に同軸上に収容されて周壁部660に摺動支持されることで、軸方向両側へ往復移動可能な円筒状に設けられている。スプール70のうちドレンポート666と軸方向に対向する対向端700は、リニアソレノイド80の駆動軸81(図1も参照)と同軸上に当接している。一方、スプール70のうちドレンポート666とは反対側の係止端701は、コイルスプリング82をスリーブ66の底側端との間に同軸上に挟持している。これら当接並びに挟持状態下、制御回路86からリニアソレノイド80への通電制御に従って駆動軸81の駆動力が発生することで、当該駆動力とは反対方向にコイルスプリング82の復原力を受けるスプール70が移動する。
スプール70のうち両端700,701間の中間部には、軸方向に貫通する排出通路702が、円筒孔状に形成されている。また、かかる中間部において軸方向に所定間隔をあけた二箇所には、スプール70を径方向に貫通して排出通路702と連通する連通口703,704が、矩形孔状に形成されている。ここで連通口703は、図4に示す進角領域Raへのスプール70の移動状態にて遅角ポート662と連通する一方、図5に示す遅角領域Rrへのスプール70の移動状態にて当該連通を遮断される。これに対して連通口704は、図5に示す遅角領域Rrへの移動状態にて進角ポート661と連通する一方、図4に示す進角領域Raへの移動状態にて当該連通を遮断される。
さらに、スプール70の対向端700には、径方向に貫通して排出通路702と連通する排出口705が、矩形孔状に形成されている。本実施形態の排出口705は、鉛直方向(図4,5の上下方向)に沿う径方向に排出通路702を挟んだ両側にて対向端700を貫通し、スプール70の任意の移動状態にてドレンポート666と連通する。
以上の構成下、「回転位相変化モード」としての進角モードにて制御回路86がリニアソレノイド80への通電を制御するときには、図4に示す進角領域Raへとスプール70が移動する。この進角領域Raへの移動状態では、通路41,42,43,44を介して進角室22,23,24と連通する進角ポート661が、供給ポート664にも連通する。このとき供給ポート664は、供給通路50を介して搬送通路3と連通しているので、ポンプ4から当該通路3へ供給の作動油は、ポート664,661間を通じて進角室22,23,24に導入される。それと共に進角領域Raへの移動状態では、通路45,46,47,48を介して遅角室26,27,28と連通する遅角ポート662が、連通口703を介して排出通路702とも連通する。このとき排出通路702は、排出口705を介してドレンポート666と連通しているので、遅角室26,27,28の作動油は、ポート662,666間を排出要素702,705で順次連通してなる排出経路を通じて、大気開放のドレン回収要素54,5に排出される。したがって、このような進角領域Raでは、進角室22,23,24への作動油の導入且つ遅角室26,27,28からの作動油の排出により、回転位相が進角方向へと変化してバルブタイミングが進角することになる。
また、「回転位相変化モード」としての遅角モードにて制御回路86がリニアソレノイド80への通電を制御するときには、図5に示す遅角領域Rrへとスプール70が移動する。このとき遅角領域Rrへの移動状態では、通路45,46,47,48を介して遅角室26,27,28と連通する遅角ポート662が、供給ポート664にも連通する。このとき供給ポート664は、供給通路50を介して搬送通路3と連通しているので、ポンプ4から当該通路3へ供給の作動油は、ポート664,662を通じて遅角室26,27,28に導入される。それと共に遅角領域Rrへの移動状態では、通路41,42,43,44を介して進角室22,23,24と連通する進角ポート661が、連通口704を介して排出通路702とも連通する。このとき排出通路702は、排出口705を介してドレンポート666と連通しているので、進角室22,23,24の作動油は、ポート661,666間を排出要素702,705で順次連通してなる排出経路を通じて、大気開放のドレン回収要素54,5に排出される。したがって、このような遅角領域Rrでは、遅角室26,27,28への作動油の導入且つ進角室22,23,24からの作動油の排出により、回転位相が遅角方向へと変化してバルブタイミングが遅角することになるのである。
(貯留構造)
次に、第一実施形態の特徴部分として、図1の如く制御弁60に設けられる貯留構造90につき、詳細に説明する。尚、以下の説明では、スリーブ66及びスプール70の共通の軸方向、径方向及び周方向を単に、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」というものとする。
図4,5に示すように貯留構造90は、スリーブ66のフランジ部668側端において周壁部660により形成される筒状部91及び一対の環状部92,93を、有している。具体的に筒状部91は、スリーブ66に対して相対移動自在なスプール70の対向端700のうち、排出口705が開口する開口外周部700aの径方向外側を同軸上に囲む円筒状に、設けられている。これにより筒状部91の径方向内側には、連動回転要素2,14の回転方向に沿って周方向に連続する円環状の貯留空間94が、スプール70の任意の移動状態(移動位置)にて開口外周部700aとの間に常に確保される。
第一環状部92は、筒状部91から径方向内側へと突出する円環形内フランジ状に、設けられている。これにより、水平方向に沿った軸方向にて筒状部91及び進角ポート661間に位置している本実施形態の第一環状部92は、当該軸方向に貫通する円筒孔状の第一中心孔920を、対向端700と同軸上に形成している。この第一中心孔920は、対向端700の外周部のうち開口外周部700aよりも大径の嵌合外周部700bに対し、スプール70の任意の移動状態(移動位置)にて嵌合する。これにより、排出口705を軸方向に挟んでドレンポート666と反対側では、第一環状部92に対しては嵌合外周部700bが摺動自在となっている。即ち第一環状部92には、嵌合外周部700bが同軸上に摺動嵌合しているのである。
第二環状部93は、筒状部91のうち第一環状部92よりもドレンポート666側から、径方向内側へと突出する円環形内フランジ状に、設けられている。これにより第二環状部93は、軸方向に貫通する円筒孔状の第二中心孔930を、対向端700と同軸上に形成している。この第二中心孔930は、対向端700と軸方向に当接する駆動軸81の径方向外側に、スプール70の任意の移動状態(移動位置)にて間隔をあけることで、開口外周部700aの周囲の貯留空間94と連通するドレンポート666を、区画している。即ち本実施形態では、排出口705とドレンポート666とが第二中心孔930により、常に連通する状態となっている。そして、図6に示すように第二中心孔930(第二環状部93)の最小内径φr2は、開口外周部700aにおいて排出口705が開口する箇所の最小外径φoよりも小さな寸法に、設定されているのである。
さて、図4,5に示すように貯留構造90は、スリーブ66の形成する筒状部91及び環状部92,93に加えて、スプール70と一体移動する環状移動体95を、有している。具体的に環状移動体95は、対向端700に同軸上に嵌合固定される円環状に、設けられている。これにより、対向端700のうち開口外周部700aの排出口705を軸方向に挟んで第一環状部92とは反対側から径方向外側へと突出している環状移動体95は、スプール70の任意の移動状態(移動位置)にて環状部92,93間に位置する。即ち環状移動体95は、環状部92,93の間の貯留空間94内に常に収容される状態となっている。
ここで、図6に示すように環状移動体95の最大外径φmは、第一中心孔920(第一環状部92)の最小内径φr1及び第二中心孔930(第二環状部93)の最小内径φr2よりも大きな寸法に、設定されている。それと共に環状移動体95の最大外径φmは、筒状部91の最小内径φtよりも小さな寸法に、設定されている。この後者の設定により、貯留空間94内の環状移動体95は、図4,5の如くスプール70の任意の移動状態(移動位置)にて筒状部91の径方向内側に間隔をあけることで、周方向に連続する円環状の空間部94aを当該筒状部91との間に常に確保する。
(作用効果)
次に、ここまで説明した第一実施形態の作用効果につき、説明する。連動回転要素2,14に内蔵される制御弁60において、スプール70を径方向に貫通の排出口705から、スリーブ66を軸方向に貫通のドレンポート666へと向かって、貯留空間94を通じて排出される作動油には、遠心力が作用する。故に、排出口705から排出の作動油は、スプール70の径方向外側にて遠心力の作用を受けることで、当該径方向外側の貯留空間94に貯留構造90によって貯留される。
ここで貯留構造90では、スリーブ66において筒状部91から径方向内側へ突出する第一環状部92は、スプール70の対向端700と同軸上に嵌合する第一中心孔920を、ドレンポート666とは排出口705を挟んで反対側に形成している。これにより、排出口705から排出の作動油は、ドレンポート666とは反対側へ向かう流動を、第一環状部92により遮られ得る。さらに貯留構造90では、スリーブ66において筒状部91から径方向内側へ突出する第二環状部93は、対向端700のうち開口外周部700aの最小外径φoよりも最小内径φr2が小さい第二中心孔930を、第一環状部92よりもドレンポート666側に形成している。これにより、第二中心孔930よりも径方向外側にて排出口705を開口させている開口外周部700aの周囲では、当該排出口705から排出されてドレンポート666とは反対側への流動を遮られた作動油が、ドレンポート666側への流動も第二環状部93により遮られ得る。故に環状部92,93間の貯留空間94にて、こうした遮り作用と共に遠心力作用を受ける作動油は、開口外周部700aの周囲に確実に貯留され得るので、第二中心孔930が区画する大気開放のドレンポート666からは、当該周囲に空気が侵入し難くなる。
また、貯留構造90では、対向端700との固定箇所が環状部92,93間の貯留空間94内に常に位置している環状移動体95は、排出口705から排出の作動油がドレンポート666側へ向かう流動を、第二環状部93よりも先に遮り得る。故に開口外周部700aの周囲では、スプール70の作動状態によっては排出口705からの作動油の排出量が少ない場合であっても、図4,5に示す貯留空間94のうち特に環状移動体95及び第一環状部92の間の空間部94bにて、作動油が確実に貯留され得る。また特に、第一実施形態の環状移動体95は、第一環状部92とは排出口705を軸方向に挟んだ反対側にて対向端700に固定されているので、当該排出口705よりもドレンポート666側にて、排出口705から排出の作動油の流動を遮り得る。故に開口外周部700aの周囲では、排出口705からの排出量が少なくなる作動油であっても、排出口705を挟む環状移動体95及び第一環状部92の間に逃がさずに、貯留され得る。しかも、ドレンポート666を区画する第二中心孔930から、万が一空気が侵入した場合でも、当該第二中心孔930の最小内径φr2よりも大きな最大外径φmの環状移動体95は、第一環状部92との間の排出口705へ向かう空気流動を遮り得るのである。
以上より、図4の進角モードにて排出側となる遅角室26,27,28に変動トルク起因の負圧が発生しても、排出経路として当該負圧を受ける排出口705には、ドレンポート666の空気よりも、開口外周部700aの周囲の作動油が優先的に吸い込まれ得る。また同様に、図5の遅角モードにて排出側となる進角室22,23,24に変動トルク起因の負圧が発生しても、排出経路として当該負圧を受ける排出口705には、ドレンポート666の空気よりも開口外周部700aの周囲の作動油が優先的に吸い込まれ得る。これらのことから、排出側の遅角室26,27,28又は進角室22,23,24へ開口外周部700aの周囲より空気が吸い込まれることによるベーンロータ14の暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保可能である。
加えて、上述の如き効果を齎す貯留構造90では、環状移動体95の最大外径φmが筒状部91の最小内径φtよりも小さく設定されることで、それら要素95,91間の空間部94aが貯留空間94の一部として確保されている。故に、図4,5に示す貯留空間94のうち、環状移動体95及び第一環状部92の間の空間部94bは、環状移動体95及び第二環状部93間の空間部94cに対して、環状移動体95及び筒状部91間の空間部94aにより常に連通する形となっている。したがって、排出口705を挟む環状移動体95及び第一環状部92間の空間部94bから、環状移動体95及び第二環状部93間の空間部94cを経て、ドレンポート666に溢れることによる作動油の排出は、確実に許容され得る。これによれば、遅角室26,27,28又は進角室22,23,24の作動油をドレンポート666まで到達させて排出できるので、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度が環状移動体95の採用により悪化する事態を、回避可能である。
また加えて、図4の進角モードでは導入側、また図5の遅角モードでは排出側となる進角室22,23,24に、変動トルク起因の負圧が発生するときには、進角室22,23,24と連通する進角ポート661にも、当該負圧が作用する。このとき、スリーブ66のうち第一環状部92を挟んで筒状部91とは反対側部分を貫通している進角ポート661は、当該第一環状部92の第一中心孔920と対向端700の嵌合外周部700bとの間の摺動嵌合隙間を通じて、ドレンポート666側の開口外周部700aの周囲にも負圧を作用させる。そのため、開口外周部700aの周囲に侵入した空気が、要素920,700b間の摺動嵌合隙間及び進角ポート661に順次吸い込まれて進角室22,23,24の作動油に気泡として混入することによっても、ベーンロータ14の暴れを招くことが、懸念される。
しかし、貯留構造90において最大外径φmが第一中心孔920の最小内径φr1よりも大きい環状移動体95は、上述の如く空気が侵入し難い開口外周部700aの周囲のうち、当該第一中心孔920よりも径方向外側となる位置まで、作動油を貯留し得る。故に図4の進角モードでは、進角ポート661と連通する導入側の進角室22,23,24に負圧が発生しても、第一中心孔920及びび嵌合外周部700bの間にて当該負圧を受ける摺動嵌合隙間には、開口外周部700aの周囲の作動油が空気よりも優先的に吸い込まれ得る。また同様に図5の遅角モードでは、進角ポート661と連通する排出側の進角室22,23,24に負圧が発生しても、第一中心孔920及び嵌合外周部700bの間にて当該負圧を受ける摺動嵌合隙間には、開口外周部700aの周囲の作動油が空気よりも優先的に吸い込まれ得る。これらのことから、進角室22,23,24へ開口外周部700aの周囲より空気が吸い込まれることによるベーンロータ14の暴れを抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保可能である。
尚、ここまでの説明から明らかなように、進角モードにおいて、進角室22,23,24が「導入室」に相当し、進角ポート661が「導入ポート」に相当し、遅角室26,27,28が「排出室」に相当し、遅角ポート662が「排出ポート」に相当する。また、遅角モードにおいて、遅角室26,27,28が「導入室」に相当し、遅角ポート662が「導入ポート」に相当し、進角室22,23,24が「排出室」に相当し、進角ポート661が「排出ポート」に相当する。
(第二実施形態)
図7,8に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態の特徴部分として装置1に設けられる貯留構造2090は、スリーブ66に形成の筒状部91及び環状部92,93に代えて、スプール70と一体移動する可動体2096に形成の筒状部2091及び環状部2092,2093を、有している。
具体的に筒状部2091は、第一環状部2092を介して固定されるスプール70の対向端700のうち、排出口705が開口する開口外周部700aの径方向外側を同軸上に囲む円筒状に、設けられている。これにより筒状部2091の径方向内側には、連動回転要素2,14の回転方向に沿って周方向に連続する円環状の貯留空間2094が、スプール70の移動状態(移動位置)に拘らず常に開口外周部700aとの間に確保される。
第一環状部2092は、筒状部2091から径方向内側へと突出する円環形内フランジ状に、設けられている。これにより第一環状部2092は、軸方向に貫通する円筒孔状の第一中心孔2920を、対向端700と同軸上に形成している。この第一中心孔2920は、対向端700のうち排出口705を挟んでドレンポート666とは反対側部分に嵌合固定されている。
第二環状部2093は、筒状部2091のうち第一環状部2092よりもドレンポート666側から、径方向内側へと突出する円環形内フランジ状に、設けられている。これにより第二環状部2093は、軸方向に貫通する円筒孔状の第二中心孔2930を、対向端700と同軸上に形成している。この第二中心孔2930は、スプール70の任意の移動状態(移動位置)にて駆動軸81の径方向外側に間隔をあけることで、開口外周部700a周りの貯留空間2094及びドレンポート666と軸方向に連通する連通空間2097を、区画している。即ち本実施形態では、第二中心孔2930により排出口705とドレンポート666とが、常に連通する状態となっている。そして、図9に示すように第二中心孔2930(第二環状部2093)の最小内径φr2は、開口外周部700aにおいて排出口705が開口する箇所の最小外径φoよりも小さな寸法に、設定されているのである。
さて、図7,8に示すように貯留構造2090は、以下に説明する点を除き、第一実施形態の環状移動体95と実質同一構成の環状移動体2095を、有している。ここで第一実施形態との相違点を説明すると、環状移動体2095は、対向端700のうち開口外周部700aの排出口705を軸方向に挟んで第一環状部2092とは反対側から径方向外側へ突出することで、スプール70の移動状態(移動位置)に拘らず環状部2092,2093間に位置している。即ち環状移動体2095は、環状部2092,2093の間の貯留空間2094内に常に収容される状態となっている。
さらに第一実施形態との相違点を説明すると、図9に示すように環状移動体2095の最大外径φmは、第二中心孔2930(第二環状部2093)の最小内径φr2よりも大きな寸法に、設定されている。それと共に環状移動体2095の最大外径φmは、筒状部2091の最小内径φtよりも小さな寸法に、設定されている。この後者の設定により、貯留空間2094内の環状移動体2095は、図7,8の如くスプール70の移動状態(移動位置)に拘らず筒状部2091の径方向内側に間隔をあけることで、周方向に連続する円環状の空間部2094aを当該筒状部2091との間に常に確保している。
ここまで説明した第二実施形態によれば、スプール70に固定の可動体2096において径方向内側へ突出する環状部2092,2093が、第一実施形態の環状部92,93に準じた作動油流動の遮り作用を、発揮できる。それと共に環状移動体2095が、第一実施形態の環状移動体95に準じた作動油流動及び空気流動の遮り作用を発揮できる。こうしたことから開口外周部700aの周囲では、環状部2092,2093間の貯留空間2094、特に排出口705よりもドレンポート666側の環状移動体95と第一環状部92との間の空間部2094bにて、空気の侵入なく作動油が確実に確保され得る。故に、図7の進角モード及び図8の遅角モードにて排出側の遅角室26,27,28又は進角室22,23,24に負圧が発生しても、当該負圧を受ける排出口705には、ドレンポート666の空気よりも、開口外周部700aの周囲の作動油が優先的に吸い込まれ得る。以上より、排出側の遅角室26,27,28又は進角室22,23,24へ開口外周部700aの周囲から空気が吸い込まれることによるベーンロータ14の暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保可能である。
加えて貯留空間2094では、環状移動体2095及び筒状部2091の間に確保される空間部2094aにより、環状移動体2095を挟んで第一環状部2092側及び第二環状部2093側の各空間部2094b,2094cが常に相互連通している。故に、排出口705を挟む環状移動体2095及び第一環状部2092間の空間部2094bから、環状移動体2095及び第二環状部2093間の空間部2094cを経て、ドレンポート666に溢れることによる作動油の排出は、確実に許容され得る。これによれば、遅角室26,27,28又は進角室22,23,24の作動油をドレンポート666まで到達させて排出できるので、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度が環状移動体2095の採用により悪化する事態を、回避可能である。
(第三実施形態)
図10に示すように、本発明の第三実施形態は第二実施形態の変形例である。第三実施形態の特徴部分として装置1に設けられる貯留構造3090には、環状移動体2095が設けられていない。
このような第三実施形態においても、環状部2092,2093が第一実施形態の環状部92,93に準じた作動油流動の遮り作用を、また環状移動体2095が第一実施形態の環状移動体95に準じた作動油流動及び空気流動の遮り作用を、それぞれ発揮できる。これにより、開口外周部700aの周囲のうち環状部2092,2093間の貯留空間3094では、空気の侵入なく作動油が確実に確保され得る。したがって、排出側の遅角室26,27,28又は進角室22,23,24へ開口外周部700aの周囲から空気が吸い込まれることによるベーンロータ14の暴れを、作動状態に拘らず抑制して、回転位相に対応するバルブタイミングの調整精度を確保可能である。
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
具体的には、第一実施形態の環状移動体95について最大外径φmは、図11に変形例を示すように第一中心孔920の最小内径φr1と実質同径に設定されてもよいし、図示はしないが、第一中心孔920の最小内径φr1よりも小径に設定されてもよい。また、第一実施形態の環状移動体95は、図12に変形例を示すように、第三実施形態に準じて設けられていなくてもよい。さらに、第一及び第二実施形態の環状移動体95,2095は、排出口705の軸方方向中間部に位置合わせされた状態で、対向端700のうち開口外周部700aに固定されていてもよい。
加えて、第一〜第三実施形態の制御弁60は、連動回転要素2,14のうちいずれか一方に内蔵されていてもよく、当該一方に内蔵の制御弁60に、本発明に従う貯留構造90,2090,3090が設けられていればよい。そして、本発明は、第一〜第三実施形態の如く「動弁」としての吸気弁のバルブタイミングを調整する装置以外にも、「動弁」としての排気弁のバルブタイミングを調整する装置や、それら吸気弁及び排気弁の双方のバルブタイミングを調整する装置に適用できるのである。