JP5604619B2 - 松の材線虫の駆除・防除薬剤とその製造方法および松の材線虫病による松枯れ防除方法 - Google Patents
松の材線虫の駆除・防除薬剤とその製造方法および松の材線虫病による松枯れ防除方法 Download PDFInfo
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Description
本発明は、この松類の集団枯死を引き起こす原因となっている松の材線虫を殺したり、増殖を抑制して松の材線虫病の発病を予防するための樹幹注入剤と、これを用いて材線虫病による松枯れを防除する方法に関する。
「松枯れ」の症状は、盛夏から秋にかけてそれまで正常であった松の針葉が急速に褐変して枯れ死して、翌年の芽吹きがなく、数年のうちに林分内の松類は次々に伝染して枯損して大多数が白骨化して朽ちてゆくというものである。
このような「松枯れ」の病原体は松の材線虫であり、その伝播には媒介者としてマツノマダラカミキリである。その感染のサイクルは、次のとおりである。
6〜7月頃、松の材線虫を保持したマツノマダラカミキリがお尻の先を枝につけたスタイルで松の若い枝の樹皮を摂食する習慣がある。すると松の材線虫は当該カミキリ虫の腹から枝のかじり枝に移り、当該線虫はかじり跡から松の材の内部に侵入し、樹木全体に広がる。即ち樹体内に侵入した松の材線虫は、主に樹脂道を通って速やかに樹体内に分散し、柔細胞と材内に少量存在する菌類を摂食しつつ増殖するのである。
7〜8月頃には、感染した松の外見には異常はないものの、樹脂滲出が停止し、次いで仮道管の閉塞によって材の通水阻害が生じ、最終的に萎凋枯死に至り、穿孔性昆虫に対する防御力が弱まる。前述した後食によって性成熟したマツノマダラカミキリはそのような松に誘引されて飛来し、産卵する。
8〜10月には全身の針葉が褐変して枯死するが、柔細胞を摂食していた松の材線虫はえさ材内に蔓延する青変菌に切り替えて増殖を続ける。カミキリの幼虫は樹皮下の組織を摂食して成長し、材内に蛹室を作って越冬する。
翌年の5〜6月に越冬したカミキリ幼虫に蛹となる。その松の材線虫は蛹室周辺に集まり、体内に脂質を蓄え、口を持たない耐久型幼虫(松の材線虫の幼虫)が現れる。マツノマダラカミキリが羽化するとともに、これらがマツノマダラカミキリに寄生するのではなく、分散に利用するだけである。材を脱出したマツノマダラカミキリは後食(「後食」とは蛹から羽化後に餌を食べることを言い、後食後に完全成虫「繁殖体制」となる。)を行うが、乗り移り後一定の期間が経過した松の材線虫は、後食の際にマツノマダラカミキリを離脱して再び松に侵入する。
以上のように、松の材線虫病は、松の材線虫を保持したマツノマダラカミキリが健全松林分に侵入すると、少数の松が後食を受けて感染・発病し、枯死する。枯死した松の中で次世代の松の材線虫とマツノマダラカミキリとが生育し、放置すれば翌年は発生した当該松の材線虫を保持したマツノマダラカミキリが次々と周囲の松類に感染させ、多数の枯死した樹木が発生させる。このような感染のサイクルが翌年も繰り返されて林内の枯れるべき松属樹木がなくなるまで松の集団枯死の被害が拡大することになる。
このような松の材線虫による「松枯れ」の防除方法として、従来より伐倒駆除、樹幹注入、薬剤散布という手段が主に行われている。当該伐倒駆除は、既に感染してしまって「松枯れ」症状を示した松に木を伐倒し、焼却したり、細かく破砕したり、薬剤を散布したり、燻蒸したりして、材内のマツノマダラカミキリを殺し駆除する方法である。次の年の伝染が少なくなり、被害が広がるのを防ぐ方法として効果的方法である。
次に樹幹注入は、薬剤を松の樹幹又は根部に注入し、松の材線虫の侵入を防いだり、侵入してきた松の材線虫の増殖を抑制したり、駆除したりすることによって発病を防ぐ方法である。由緒ある松の古木や景勝地など松枯れの発生そのものを防がなくてはならない場合には有効な防除方法である。しかし、2〜4年ごとに処理を繰り返す必要があるし、薬剤のコストがかかる難点がある。
更に、薬剤散布は、元気な松の木に薬剤を散布し、マツノマダラカミキリ成虫の細枝をかじること(後食)を防ぐ方法である。マツノマダラカミキリが枝をかじった場合には、枝に付いた薬剤を食べて死んでしまい、松の材線虫が松の木に移るのを防ぐことにより、松の材線虫病を防ぐものである。大面積には、ヘリコプターなどを用いた空中散布を行い、小面積或いは丁重な防除が必要な場合には、地上から大型噴霧器で散布する。しかしこの方法は、周囲の生態系への影響及び近隣に農地がある場合ドリフト被害を与えるおそれがあり、場合によって人体への影響を与える場合があるのが問題である。
松の材線虫による「松枯れ」の被害を防ぐため、どの防除方法を選定するのがよいのかは、被害の発生状況や時期によって最適な方法を選定したり、組み合わせるのが望ましい。
松の材線虫病は、伝染病であるので、伝染の源となる枯れた松を見つけた場合には、伐倒駆除することが最も簡単で確実な方法である。同時にその年に枯れた松の隣の松の木には、薬剤樹幹注入をする必要がある。なぜなら枯れた木と隣接する木の根が地下で癒着していて、松の材線虫が根を伝わって移動しているかもしれないので、次の年に枯れるのを防ぐためである。また、予防対策としては、原則としては、枯れた松のある場合その周囲500m以内にある松の木については薬剤樹幹注入又は薬剤散布をするのが望ましい。特に、薬剤散布では周りの生体系や環境に被害を与える可能性がある場合とか、人体に影響を与える恐れがある場合とか、木が高くて薬液が木の上方にまで届かない場合などには、薬剤樹幹注入することになる。
本発明は、前記松の材線虫病の防除方法のうち、薬剤樹幹注入法に用いる松の材線虫の駆除・防除薬剤を新しく開発し、それを用いた新しい松枯れ防除方法を提供するものである。
樹幹注入用の材線虫防除薬剤として農薬登録され、市販されているものとして、次のようなものがある。殺虫性有効成分が酒石酸モランテルの「グリーンガード」(ファイザー社の商標)、殺虫性有効成分がメスルフェンホスの「ネマノーン注入剤」(バイエルクロップサイエンス社の商標)、殺虫性有効成分がネマデクチンの「メガトップ液剤」(理研グリーン社の商標)、殺虫性有効成分がエマメクチンの「ショットワンツー液剤」(シンジェンタジャパン社・井筒屋化学社の商標)、殺虫性有効成分がミルベクチンの「マツガード」(三共アグロ社の商標)、殺虫性有効成分が塩酸レバミゾールの「センチュリーエース」(日本グリーンアンドガーデン社・バイエルクロップサイエンス社の商標)などがそれである。
これらの松の材線虫の駆除・防除薬剤は、それぞれ有効性がみとめられ、農薬として登録されているものであるが、本発明者は、これら以外の殺虫性有効成分を用いた薬剤樹幹注入用の松の材線虫の駆除・防除薬剤を開発せんとして、鋭意研究して開発したものである。
薬剤樹幹注入用の松の材線虫の駆除・防除薬剤というのは、樹幹や根から注入された薬剤(有効成分)が、仮導管を通って葉に移動する樹体内の水に溶解して枝などに移行浸透して樹体全体に拡散・転流させ、これによって松の材線虫の侵入を防止したり、侵入した松の材線虫が増殖するのを防いだり、死滅させたりするものである。前記市販されている松の材線虫の駆除・防除薬剤は、その有効成分によって、駆除や防除の方法やその駆除や防除の作用・効果が相違する。例えば、有効成分の酒石酸モランテルやメスルフェンホスは、松の材線虫の侵入防止と増殖防止をするものであり、ミルベクチンや塩酸レバミゾールは殺線虫活性の高いものであり、ネマデクチンは増殖抑制効果に優れている。
このように、薬剤樹幹注入用の松の材線虫の駆除・防除薬剤の効果については、殺虫性の有効成分の特性も重要であるが、近年はその有効性を更に高めるための研究がされるようになっている。例えば、上記のように、薬剤樹幹注入剤は、注入すると水に溶解して枝などに移行して樹体全体に拡散させるため、有効成分の水に対する適度な溶解度が必要とされる。このため、水に対する溶解度が1,000ppmを超える薬剤のみが樹幹注入により松枯れ病に対して有効性を示したとの報告がある(植物防疫、38巻、p27〜31,1984年)。つまり、有効成分の溶解度が低い場合には、注入部位の近傍で薬剤の結晶析出現象を起こして水分の通導障害を起こし、樹体内に有効成分が必要なだけ移行拡散しなくなって、松の材線虫に対する駆除効果が安定的に持続しなくなる。このような技術的課題を解決するため、可溶化製剤を用いることが提案されている(特開平8−175914号公報)。
また、有効成分のなかは、水の中で加水分解してしまって松の材線虫に対する有効性が早期に低減したり、消失してしまったりするものがある。このような場合には、効力の持続性がなくなってしまい、有効期間は短くなって、頻繁に薬剤樹幹注入を行わなくてはならなくなる。更に、逆に樹体内に浸透した有効成分の濃度が高くなりすぎて、樹木や人畜に対して薬害を起こす場合もある。更にまた、有効成分には、酸やアルカリに不安定なものや、直射日光に不安定なもの、熱や温度に不安定なものなどがあり、常に安定した効果が得られない場合もある。このため、松の材線虫に対する生物活性を制御する薬剤の有効成分が効率的且つ効果的に作用し、安定した効果が出るようにするための補助材として、界面活性剤、有機溶剤、製油類を加えることが提案されている(特開平10−152407号公報)。
しかし、従来のこれらの発明は、有効成分である薬剤の特性とこれに毒作用を示す松の材線虫の特性を中心に考慮して改良が加えられてきたものである。しかし、これでもまだ必要充分ではない。
松の材線虫病による松枯れは、その主因が松の材線虫ではあるが、様々な要素が誘引となって、発病を促進したり、発病を抑制したりするものである。まず、松の材線虫病による松枯れを起こすのは、松属の樹木であるが、ハイマツ及びゴヨウマツは分布が公知や寒冷地に偏っていてマツノマダラカミキリの分布と重ならないため、ほとんど影響を受けない。また、テーダマツ、リギダマツなどは、松の材線虫の抵抗性をもっていて、松の材線虫病による松枯れはほとんど起こらない。しかしマツ科樹木のうちカラマツ、ヒマラヤスギ、トウヒ、モミなども松の材線虫病による松枯れが報告されているが、特に、アカマツ、クロマツ、リュウキュウマツ、チョウセンゴヨウ、ヤクネタゴヨウなどは松の材線虫に感受性があり、大きな被害を受けている。本発明の場合もこれらの松の木の性質を充分考慮すべきである。
更にまた、植物は、根から養分や水分を吸収し、樹液となって主に浸透圧により水分や養分を樹木に高い枝葉にまで移行させるものである。従って、当該植物の健全な状態の樹液から大きく相違する高濃度の薬剤や低濃度の薬剤を樹幹や根から無理に注入しても、植物の当該樹液循環メカニズムが狂ってしまうような場合には、なかなか樹木全体に移行したり浸透することはない。それは養分濃度だけの問題ではなく、樹液のpHや電気伝導率や可溶性固形分が相違する場合もその樹木の活性力は低減してしまう。松属樹木の場合も、樹液に適合した好適なpHや養分濃度を電気伝導率や可溶性固形分で調整した薬剤を注入すると、当該薬効成分をスムーズに吸収するし、その吸収した薬効成分は迅速に樹木全体に移行・浸透して、有効な効果を発揮する。市販の松の材線虫の駆除・防除薬剤の中には加圧注入することが必要な場合もあるが、このように無理に注入した場合には、松の木にストレスを与え、樹液循環メカニズムを狂わせるので、その活性力が衰えて薬害が起こる場合もある。
本発明は、このような防除対象となる松属樹木の性質や状態を十分考慮して、その樹液と適合するように調整改良された新しいタイプの樹幹注入用の松の材線虫の駆除・防除薬剤を提供するとともに、それを用いた松の材線虫病による松枯れ防除方法を提供せんとするものである。
当該第1発明は、松の材線虫を駆除したり、防除するための樹幹注入用の薬剤である。その特徴は、その樹幹注入用薬剤の有効性を高めるために、農薬用溶剤のpHや電気伝導率や可溶性固形分を調整し、キレート剤を混合して溶解性や安定性を高めたり、アルコール類を混合して浸透・分散性を改善するようにした点にある。これによって当該溶剤には殺虫剤が良く溶解して薬効成分の安定性を保持させることができるし、当該薬液を松の樹幹に注入したとき、当該薬液は対象となる松属樹木の樹液と適合しているので、薬液を樹内にスムーズに吸収するし、吸収された薬液は、効率的に樹木全体に拡散・移行する。その結果、本発明に係る樹幹注入用の薬剤は、松の材線虫に対する駆除や防除効果を安定的且つ効果的に発現できるようになるものである。
以下本発明の構成要素について説明する。
まず、殺虫剤として、カーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を選定した。当該カーバメート系殺虫剤もメソミル剤も体内のコリンエステラーゼの活性を阻害し、体内にアセチルコリンの蓄積をもたらし、コリン作動性の症状によって毒作用を現すものである。当該カーバメート系殺虫剤もメソミル剤も虫の神経系に障害を与えるものであり、松の材線虫に対しては、速効性のある接触毒および食毒として働くが、神経のない植物には毒作用の被害を与えない利点がある。また、カーバメート系殺虫剤もメソミル剤も水に溶けやすく、根や樹幹からの吸収が良く、浸透移行性に優れているなどの特性があり好適である。当該カーバメート系殺虫剤としては、アラニカルブ剤、エチオフェンカルブ剤、オキサミル剤、カルボスルファン剤、チオジカルブ剤、ピリミカーブ剤、ベンルラカルブ剤、などがある。また、メソミル剤は、厳密にいえばカーバメート系ではないが、化学的および作用機作がカーバメート系殺虫剤に近く、線虫類に効果があることが知られている。尚、使用に際しては、各農薬毎に定められていたり慣用されていたりする農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して使用するものとするのは当然である。
本発明に係る松の材線虫の駆除・防除薬剤の溶媒として水を選定した。
松の材線虫病による松枯れは、松の材線虫が侵入すると、まず、樹脂滲出が停止し、次いで仮導管の閉塞によって材の通水阻害が生じ、萎凋して枯死する。すなわち高温と乾燥による水ストレスが発病を促進する。水は植物にとって最も重要な要素である。しかも本発明に係る松の材線虫の駆除・防除薬剤は、樹液内に薬剤を注入する方式のものである。そこで本発明の溶媒を、樹液と共通する水にしたのである。しかし、水にも様々な性質がある。例えば還元状態の水の場合には、特に植物の根は酸素不足になって弱ってしまうし、水にはさまざまな物質が含くまれていて有害なものが含まれている場合もある。従って、本件の場合も酸素が充分溶け込んでいるものにしたり、有害物質を取り除いたりして水質の調整が必要な場合がある。つまり、薬剤の溶媒として用いる本発明の水は、有害物質が溶け込んでいない清水であればそれで良いが、出来れば水中に高濃度に酸素を溶け込ませた水を用いるのが望ましい。発明者は、独自の酸素発生装置を開発し、過酸化水素をセラミックと触媒を用いて純粋酸素と活性酸素を発生させて、水中に溶かし込んだ溶存酸素の豊富な処理水を用いている。当該溶存酸素の豊富な水は、植物を健全に育成させ、植物自体の活性力を高め、耐病性を引き出し、薬剤の効果を高め、病原菌が繁殖しにくい環境を造り出すことができるからである。
次に、殺虫剤を溶質とすると溶媒である水にキレート剤を加えて、可溶化と溶解性を高め、有効成分の安定化を図るようにする。即ち、後で混入される有効成分の溶解性を高め、水中に含まれるカルシウムイオンや鉄イオンなどのミネラル分を水中で封鎖して薬剤の作用が阻害されるのを防いたり、抗酸化作用により有効成分の変質、変色などの品質劣化を防止できるように水質改善をした。具体的には、溶媒である水にキレート剤としての松が含有する有機酸類若しくは酒石酸を混合する。当該松が含有する有機酸類とは、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸などである。これらの有機酸は元来松の木の中に存在するものであるから、注入対象となる松の木との親和性が良く、当該松の木に対して薬害要因になりにくいうえ、多くの有機物質を溶解する性質がある。このようなキレート作用や抗酸化作用により薬剤中の有効成分や樹幹注入後の有効成分の安定性を維持することができるのである。
また酒石酸は、酸味のある果実に含まれる有機化合物であり、水に溶けやすく、植物との適合性にも優れているだけでなく、酒石酸水溶液はキレート剤・抗酸化剤として作用する。即ち、松の体液や薬剤の溶媒として用いる水の中に、もし微量の金属イオンが存在していると、前記薬剤の有効成分がくっついて溶けにくくなったり、薬剤の作用を阻害したり、自動酸化の触媒となって酸化させやすくする。そこで、このような薬剤成分の効果阻害を防ぎ、酸化を防ぐために金属イオンを不活性化する目的で(金属イオン封鎖剤として)用いて殺虫剤を溶かす水溶液を改良したものである。尚、キレート剤として酒石酸水溶液が好ましいとして選定した理由は、pH2.0〜4.0で処理した場合には、重金属の除去率が50〜80%以上と高いものになるからである。即ち、処理の際の重金属の除去率が高い際のpHが松の木の樹液のpH4.3〜5.9に近く取り扱いが容易であり、金属イオンの不活性化に有効だからである。
その上で、当該溶剤の養分濃度を電気伝導率や可溶性固形分を調整することにより松の木の樹液に適合した好適な養分濃度にする。このように溶剤の濃度を電気伝導率や可溶性固形分を調整した薬液を樹幹内に注入すると、当該農薬用溶剤と樹液との適合性が良いため、当該薬効成分をスムーズに吸収するうえ、その吸収した薬効成分は迅速に樹木全体に移行・浸透して、有効な効果を発揮するようになるのである。
植物は、根から養分や水分を吸収し、樹液となって主に浸透圧により水分や養分を樹木に高い枝葉にまで移行させるものである。従って、当該植物の健全な状態の樹液から大きく相違する高濃度の薬剤や低濃度の薬剤を樹幹や根から無理に注入しても、植物の当該樹液循環メカニズムが狂ってしまうような場合には、なかなか樹木全体に移行したり浸透することはない。それは養分濃度だけの問題ではない。樹液のpHや電気伝導率や可溶性固形分が相違する場合もその樹木の活性力は低減してしまう。松属樹木の場合も、樹液に適合した好適なpHや養分濃度を電気伝導率や可溶性固形分に調整した薬剤を注入すると、当該薬効成分をスムーズに吸収するし、その吸収した薬効成分は迅速に樹木全体に移行・浸透して、有効な効果を発揮する。市販の松の材線虫の駆除・防除薬剤の中には加圧注入することが必要な場合もあるが、このように無理に注入した場合には、松の木にストレスを与え、樹液循環メカニズムを狂わせるので、その活性力が衰えて薬害が起こる場合もある。従って、松属樹木の樹液にはそれぞれ好適な基準となる養分濃度だけでなくpHや電気伝導率や可溶性固形分にも留意すべきである。
アミノ酸は、植物の細胞の蛋白質を作る成分であり、これを与えることは施肥効果が素早く現れ、植物体で作られた糖の消費が無く、生長のために役立つため、松の樹木を活性化させると共に、樹液の濃度調整に適している調整材である。
また無機酸は、水に溶けやすく、強力なもの(硫酸)から極めて弱いもの(ホウ酸)まであるので、pH調整剤として向いている。特にオルトリン酸は、環境に無害な無機酸であり、3価の弱い酸であり、水に溶けやすいので、松の樹液をpH4.3〜5.9に調整するのに好適である。実験の結果では、対象となる松属の樹木の体液のpHは、たとえ同種の松であっても、生育している土壌環境によって1本1本そのpHの値が異なっている。そこで、発明者は、松の材線虫の駆除・防除薬剤のpHを注入対象の松の木の樹液のpHとほぼ一致するように調整してみた。すると、薬効成分の吸収が非常に良く、スムーズに注入できるだけでなく、松の木全体への移行浸透が良好となり、松の木の活性力も維持されるため松の材線虫の防除効果が非常に良いものであることが判明した。
同じ要領で、アミノ酸や無機酸を加えることにより、電気伝導率や可溶性固形分についても注入対象の松の木の樹液の電気伝導率や可溶性固形分とほぼ一致するように調整した。そうすると薬効成分の吸収が更に良くなり、松の材線虫の駆除・防除薬剤の注入がスムーズとなり、松の木全体への移行浸透が良好であり、松の木の活性力も維持されることが判明した。
本発明者は、日本のほぼ全域及び韓国各地における種々松属樹木の樹液のpH、樹液の電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を多数測定して蓄積し、その蓄積した多数のデータを分析して、松属樹木の樹液に適合した好適な調整数値をpH4.3〜5.9に、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分Brixを6.0〜25.0に選定した。そして、この数値範囲に調製した薬剤を各地の多数の松属樹木に注入する実験をすると、薬効成分の吸収が非常に良くなり、松の材線虫の駆除・防除薬剤の注入がスムーズとなり、松の木全体への移行浸透が良好となって、松の木の活性力も維持されながら松の材線虫の防除効果が良いものになることが判明した。
以上の研究と実験から、当該電気伝導率は、根から土壌中の高分子有機物・無機養分や水分を吸収し易い樹液状態になっていることと、その樹液が浸透圧により水分や養分を樹木の高い枝葉にまで全体に移行させるに適した状態であるか否かを判別できるものであることが判明した。以下、その理由について考察すると次のようになる。
植物体は、多量の水を含んでおり、水なしでは生命活動を全うすることができません。吸水によって初めて植物細胞や組織の維持ができ、生長することができるのである。植物は根から水を吸収するが、その吸収には能動的吸収と受動的吸収がある。当該能動的吸収は、呼吸エネルギーに依存したイオン吸収集積・濃縮によって、根の細胞の水ポテンシャルが低下(根の細胞水濃度が濃くなる)し、その結果として水吸収が引き起こされる現象である。例えば、茎葉を切断した植物の葉柄の切り口からかなりの量の出液が認められますが、これは根圧すなわち浸透圧に基づいた能動的な吸収によるものである。
これに対し、受動的吸収は、蒸散作用によって、水を失った細胞の水ポテンシャル(細胞水濃度が濃くなる)が低下し、隣接する細胞の水を引き出す作用が連続して、最終的に通導組織の減圧により根からの水の吸収を引き起こすものである。植物の水の吸水の仕組みはこの二つである。
前記能動的な養水分の吸収には電気伝導率EC:mS/cm(肥料濃度)や可溶性固形分Brix:(可溶性固形分濃度)が大きく関わっている。ここで電気伝導率ECとは、溶液中の塩類濃度の示す測定項目である。溶液中にしか存在しない硝酸態チッ素や硫酸根、塩素等のマイナスイオン濃度を示している。また、土壌の電気伝導率EC濃度は粘土鉱物中に吸着しきれずに土壌溶液中に存在しているアンモニア態チッ素やカリウム、マグネシウム、カルシウム等の量と比例して数値が高くなる。一般に当該ECの値は、土壌中の硝酸態チッ素と比較的比例関係が強いため、作物の肥培管理に応用されている。このECの値は、伝導率メーター法で測定しmS/cmの単で表わされている。好適な電気伝導率(EC)は、土壌や植物の種類、生育時期によって異なり、集積されたデータに基づいて判断され、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに調製すると良いことが判った。
土壌溶液中の低い濃度のイオン化した養分を根から吸収し、吸収されたイオンは内皮細胞に移動して濃縮され、濃度が濃い状態の樹液になる。樹液の濃度が高くなると植物の細胞水濃度が濃くなり、細胞の水ポテンシャルが低下し、その結果として養水分の吸収が引き起こされる。このように能動的に吸収された濃度が濃い状態の樹液として導管から必要な各部位に送られて利用されることになる。例えば、土壌溶液濃度がEC:2.5mS/cmで、Brix:2.0の養分を根から吸収すると、内皮細胞に移動して濃縮され、濃度が濃い状態のEC:25mS/cm以上で、Brix:20以上の樹液になる。樹液の濃度が高くなるとそれに比例して植物の細胞水濃度が濃くなり、細胞の水ポテンシャルが低下するため能動的に養水分の吸収が引き起こされることになるのである。
また可溶性固形分は、前記電気伝導率では把握できない養分の溶解状態を確認し、適正な活性力が維持される数値に調整するためのものである。松の木の場合、多くの集積データーからその樹液の可溶性固形分Brixを6.0〜25.0に調整した場合、好適であることが判った。
更に、当該農薬用溶剤にアルコール類を加えることにより、当該薬効成分の浸透・移行性を更に高めるようにしたものである。例えば、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3ブチレングリコールなどのような多価アルコール、などである。
叙上のように、本発明は、当該第1発明は、神経系に障害を与え、神経を持たない植物には障害を与えない殺虫剤を選定し、これに水と、金属イオンを不活性化するキレート剤・抗酸化剤と、pH調整剤とを混合して、pHを4.3〜5.9、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分(Brix)を6.0〜25.0に調整した酸性水溶液となし、更にこれに浸透分散材を加えて、農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合してなる松の材線虫の駆除・防除薬剤である。その結果従来のものより松の材線虫の防除効果を効率的に高めるとともに、松の生育上生理障害や植害を低減して、松の健全性を保持して松の枯損被害を可及的に防止出来るようにしたものである。
特許を受けようとする第2発明は、水に、酒石酸0.5%(重量比)以内とオルトリン酸とアミノ酸を混合してpH4.3〜5.9に、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分Brixを6.0〜25.0に調整した酸性水溶液となし、これにアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合してなることを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤である。
当該第2発明は、構成要素の酒石酸とアルコール類の混合比率を具体的に数値特定して、その実施態様を明確にすることにより、松の材線虫の防除効果を確実に高め、従来の松の材線虫の駆除・防除薬剤よりも改良された新しいタイプの樹幹注入用の松の材線虫の駆除・防除薬剤を提供するものである。
特許を受けようとする第3発明は、松の材線虫の駆除・防除薬剤のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を注入対象の松の木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)とほぼ一致するように調整した農薬用溶剤に、カーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を混合したことを特徴とする第1発明又は第2発明に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤である。
当該第3発明は、農薬用溶剤のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を注入対象の松の木の樹液とほぼ一致するように調整した点に特徴がある。尚、「松の木の樹液とほぼ一致するように」というのは、樹液の測定値±10%である。このように注入対象の松の樹液と特徴がほぼ一致している農薬用溶剤に殺虫剤を混合した松の材線虫の駆除・防除薬剤を松の樹幹に注入すると、親和性が良いため、薬害要因にはならないし、当該薬効成分をスムーズに吸収するうえ、その吸収した薬効成分は迅速に樹木全体に移行・浸透して、有効な効果を発揮するようになるのである。
特許を受けようとする第4発明は、松の材線虫の駆除・防除薬剤の構成要素である水が、水中に高濃度に酸素を溶け込ませた水を用いるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤である。
当該第4発明に係る松の材線虫の駆除・防除薬剤の溶媒である水に高濃度に酸素を溶け込ませた水を溶かし込んで、溶存酸素の豊富な処理水を用いると、松の木を健全に育成させ、松自体の活性力を高め、耐病性を引き出し、薬剤の効果を高め、病原菌が繁殖しにくい環境を造り出すことができ、普通の清水を使用した場合より有効な効果を発揮することができる。
特許を受けようとする第5発明は、注入対象となる松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、水に、キレート剤・抗酸化剤として松が含有する有機酸若しくは酒石酸を0.5%(重量比)以内混合したうえ、酸度調整をするためのオルトリン酸と濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となし、この酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、そのうえで当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製したことを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤の製造方法である。
当該第5発明は、松の材線虫の駆除・防除薬剤の製造方法である。その製造工程は、
第1工程で、注入対象となる松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておく。
第2工程は、水に、キレート剤・抗酸化剤として松が含有する有機酸若しくは酒石酸を0.5%(重量比)以内混合する。
第3工程は、酸度調整をするためのオルトリン酸と濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となす。なお、松の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するようにとは、松の樹液の測定値±10%である。
第4工程で、この酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となす。
第5工程で、当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製する。
第6工程 上記のような手順で調製してなる松の材線虫の駆除・防除薬剤の原液をろ過して溶液状に仕上げ製品化する。
本発明は、松の材線虫の駆除・防除薬剤を製造する方法である。この製造法により製造された薬剤は、注入対象となる松属樹木の樹液と親和性があり、当該薬効成分をスムーズに吸収するうえ、その吸収した薬効成分は迅速に樹木全体に移行・浸透して、有効な効果を発揮する松の材線虫の駆除・防除薬剤を製造することができる。
特許を受けようとする第6発明は、第1発明または第2発明のいずれか1つに記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤を用意し、当該松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木した松属樹木の樹幹又は根部に注入し、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させることにより、松の材線虫が松属樹木の樹体内に侵入するのを防除したり、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止したり、松の材線虫を駆除したりすることを特徴とする松の材線虫病による松枯れ防除方法である。
当該第6発明は、前記第1発明又は第2発明に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤を用いた松枯れ防除方法である。本発明にかかる松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木松樹の樹幹又は根部に注入するだけで、樹体内に急速に浸透移行する。その際、当該薬剤で特定されているpHや電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)の数値範囲は、数多くの健康な松の木樹液を採取・測定したデータを蓄積した上で、その測定値の幅と変化要因を分析し、松の木との適合性がある範囲を選定したものである。従って、前記第1発明又は第2発明に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤を用いた場合、適合性が良いので、松の木が活性化してその薬剤の吸収が良くなり、その濃度が適度に高まり浸透圧により松の木全体に急速に拡散するので、松の材線虫に対して安定した毒作用を発揮する。
また、本発明に係る松の材線虫病による松枯れ防除方法は、松の材線虫が松属樹木の樹体内に侵入するのを防除したり、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止したり、松の材線虫を駆除したりすることができる。その使い分けは、薬剤の注入時期による。まず、松の材線虫が松属樹木の樹体内に侵入するのを防除する場合は、松の材線虫の運び屋であるマツノマダラカミキリが羽化(成虫する)する直前の6月〜7月半ばまでの期間に注入することが必要である。次に、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止する場合は、6月末〜10月末日までが適当である。なぜなら、松の材線虫がこの間樹皮下乃至樹内にいるからである。更に松の材線虫を駆除する場合は、8月〜翌年の5月半ばまでが適当である。その間8月〜10月までは、最も効果的な駆除の時期である。
特許を受けようとする第7発明は、注入対象として特定した松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、水に、キレート剤として松が含有する有機酸又は酒石酸を0.5%(重量比)以内混合したものに、酸度調整をするためのオルトリン酸と、濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松属樹木の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となし、その酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、そのうえで当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製した松の材線虫の駆除・防除薬剤となし、そのうえで当該松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木した松属樹木の樹幹又は根部に注入し、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させることにより、松の材線虫が樹体内に侵入するのを防除したり、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止したり、松の材線虫を駆除したりすることを特徴とする松の材線虫病による松枯れ防除方法である。
当該第7発明は、注入対象として特定した松属樹木毎に、その樹液特性を測定し、それにあわせて薬剤の農薬用溶剤の特性がほぼ一致するように調整した松の材線虫の駆除・防除薬剤を調製する。すなわち、本発明は、松属樹木毎に注文調製した松の材線虫の駆除・防除薬剤を使用しての樹幹注入方式の松の材線虫の駆除・防除薬剤の松の材線虫病を効果的に防除する方法である。注入対象として特定した松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)と当該薬剤のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)とがほぼ一致させてあるため、注入対象となる松の木にとって、最も親和性の高い薬剤となる。その結果、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させる環境が最良の状態となるので、その結果、松の材線虫の防除効果も最高に高まるとともに、松の生育上生理障害や植害を低減して、松の健全性を保持しながら松の枯損被害を可及的に防止出来るものとなる。同時に、松の木の組織を強化し、耐病性を向上させ、害虫の忌避効果を高めるので、松枯れ病の発病を防ぎ、枯損が可及的に少なくなる。このように、本発明は、松の材線虫の駆除・防除薬剤の薬効を最大限引き出す条件を整えたものであり、松の材線虫が松属樹木の樹体内に侵入するのを防除したり、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止したり、松の材線虫を駆除したりすることを効果的にできるものである。
また、水溶液にオルトリン酸などの無機酸を加えて、松の材線虫の駆除・防除薬剤のpHを4.3〜5.9、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分Brixを6.0〜25.0の範囲内に調整する。この数値は、数多くの松の木の樹液のpHと電気伝導率(EC)と可溶性固形分(Brix)を測定したデータを蓄積した上、こえを分析して特定した適合性のある範囲である。従って、薬剤のpHと電気伝導率(EC)と可溶性固形分(Brix)をこの範囲に調整すると、確実に注入対象の松の木の樹液との適合性を確保することができる。これにより薬剤の樹木内への吸収が良くなってスムーズに注入できるだけでなく、松の木全体への移行浸透が良好となるし、松の木の健全な活性力が維持されるようになった。
更に、注入対象として特定した松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、その上で松の材線虫の駆除・防除薬剤のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を当該注入対象の松の木の樹液とほぼ一致するよう(樹液の測定値±10%)に調整した農薬用溶剤に、カーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を混合したことを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤を調製する。そのうえで、このように注入対象の松の樹液と特性がほぼ一致している農薬用溶剤に殺虫剤を混合した松の材線虫の駆除・防除薬剤を松の樹幹に注入すると、親和性が良いため、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させる環境が最良の状態となる。その結果、松の材線虫の防除効果も最高に高まるとともに、松の生育上生理障害や植害を低減して、松の健全性を保持しながら松の枯れ死被害を可及的に防止出来るものとなる。同時に、松の木の組織を強化し、耐病性を向上させ、害虫の忌避効果を高めるので、松枯れ秒の発病を防ぎ、枯損が可及的に少なくなる。このように、松の材線虫の駆除・防除薬剤の松の材線虫病を防除するのに好適な方法である。
特に、使用する溶媒としての水を、水中に高濃度に酸素を溶け込ませた処理水を用いることにより、植物を健全に育成させ、植物自体の活性力を高め、耐病性を引き出し、薬剤の効果を高め、病原菌が繁殖しにくい環境を造り出すことができる。
図2は、本発明に係る運び屋マツノマダラカミキリを示す斜視図である。
図3は、本発明に係る松の材線虫を示す拡大斜視図である。
注入対象として特定した松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、水に、キレート剤として松が含有する有機酸又は酒石酸を0.5%(重量比)以内混合したものに、酸度調整をするためのオルトリン酸と、濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松属樹木の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となし、その酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、そのうえで当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製した松の材線虫の駆除・防除薬剤となす。そのうえで当該松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木した松属樹木の樹幹又は根部に注入し、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させることにより、松の材線虫が樹体内に侵入するのを防除したり、侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止したり、松の材線虫を駆除したりすることを特徴とする松の材線虫病による松枯れ防除方法である。
(1)供試する松の材線虫の駆除・防除薬剤は、図1に示す手順で調整した試験薬剤1〜4を用意する。
<試験試薬の調整法>
A:キレート剤・抗酸化剤として酒石酸(0.5%以内)又は有機酸(琥珀酸+クエン酸)を用いる。
A1:濃度調製材としてのアミノ酸を用いる。当該アミノ酸は、対象となる樹木の樹液にほぼ一致させるように可溶性固形分(Brix)を3.5〜45.0mS/cmに、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmの範囲内になるように調整する。
B:酸度調整材としてオルトリン酸を用いる。当該オルトリン酸は、対象となる樹木の樹液にほぼ一致させるようにpHを4.3〜5.9に調整する。
C:浸透分散材としてアルコール類(10.0%以内)を用いる。
D:殺虫剤としてカーバメート系殺虫剤及びメソミル剤を所定の使用濃度範囲で混合する。
<試験試薬4種類>
試験薬剤1:表−1に記載したようにC,Dを配合した薬剤
(イ)土壌の土性、沖積土又は洪積土の別等は、表−5の通りである。
種類:松
品種:あか松(5年性の苗木をポットに上げた。)
(4)試験方法
カーバメート系殺虫剤及びメソミル剤を改良した薬液を使用し、松の材線虫に対しての防除効果と殺虫効果があることを確認するために、5年生のアカ松の苗木を5本ずつポットに上げ、それぞれの確認試験を行うために、試験区を10設置した。
<試験区1>
「松の材線虫」を接種し、薬剤の注入処理は行わず、松の材線虫の毒性を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月25日に松の材線虫を接種し、薬剤処理は行わず、2007年9月12日に松の材線虫の毒性による松の枯死率の調査を行いました。
表―1に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、その後松の材線虫を接種し、松の材線虫に対する防除効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、表―1に記載したように配合した製剤を2007年7月10日の樹体内に12ml注入し、2007年6月25日に松の材線虫を接種し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−8)
表―2に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、その後松の材線虫を接種し、松の材線虫に対する防除効果を確認する区の設置をする。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、表―2に記載したように配合した製剤を2007年7月10日の樹体内に12ml注入し、2007年6月25日に松の材線虫を接種し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−9)
表―3に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、その後松の材線虫を接種し、松の材線虫に対する防除効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、表―3に記載したように配合した製剤を2007年7月10日の樹体内に12ml注入し、2007年6月25日に松の材線虫を接種し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−10)
表―4に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、その後松の材線虫を接種し、松の材線虫に対する防除効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、表―4に記載したように配合した製剤を2007年7月10日の樹体内に12ml注入し、2007年6月25日に松の材線虫を接種し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−11)
「松の材線虫」を接種し、その後表―1に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、松の材線虫に対する殺虫効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月23日に松の材線虫を接種し、
2007年6月18日に表―1に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−12)
「松の材線虫」を接種し、その後表―2に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、松の材線虫に対する殺虫効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月23日に松の材線虫を接種し、2007年6月18日に表―2に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−13)
「松の材線虫」を接種し、その後表―3に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、松の材線虫に対する殺虫効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月23日に松の材線虫を接種し、2007年6月18日に表―3に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−14)
「松の材線虫」を接種し、その後表―4に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、松の材線虫に対する殺虫効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月23日に松の材線虫を接種し、2007年6月18日に表―4記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−15)
「松の材線虫」を接種し、その後表―4に記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、松の材線虫に対する殺虫効果を確認する区を設置する。
5年生のあか松の苗木をポットに上げ、2007年6月23日に松の材線虫を接種し、
2007年6月18日に表―4記載したように配合した製剤を樹体内に12ml注入し、
2007年9月12日に松の枯死率の調査を行いました。(表−15)
試験区1−9のその後のアカ松の生存率を調査した結果は、表−18の通りです。
カーバメート系殺虫剤及びメソミル剤を用いて、それぞれ表−1、表−2、表−3、表−4に記載したように配合改良した薬液を使用し樹幹や根にそれぞれ所定の薬剤を注入し、松の材線虫の防除効果と殺虫効果を検討した。
その結果は表−17に枯死率を示したが、表−4に記載したように改良した薬剤は、確実に松の材線虫に対する防除効果と殺虫効果があることを確認した。尚、松の材線虫に50%程度侵されている、幹の直径10cm程度のアカ松は表−4に記載したように配合改良した薬液500mlで防除効果があった。また、樹幹の直径15cmの場合は1,000ml、幹の直径20cmの場合は2,000mlで完全に防除効果があった。さらに幹の直径が太いほど薬液の使用量は多くなるが、薬液の注入施工作業は樹幹が太いためやり易くなる。また、松の材線虫に50%以上侵されている樹木は、根が弱っているため土壌からの水の吸い上げが悪く、薬液の注入後の浸透が悪く薬剤の効果が出難い場合があった。このような場合は、発根促進剤や水中に高濃度に酸素を溶け込ませた処理水を用いた土壌灌水とを併用すると、完全に松の材線虫に対する防除効果と殺虫効果があることが判った。
Claims (7)
- 水に、松が含有する有機酸若しくは酒石酸と、無機酸と、アミノ酸とを混合してpHを4.3〜5.9に、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分をBrix6.0〜25.0に調整した酸性水溶液となし、これにアルコール類を加えて農薬用溶剤となし、この農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合してなることを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤。
- 水に、酒石酸0.5%(重量比)以内とオルトリン酸とアミノ酸を混合してpH4.3〜5.9に、電気伝導率(EC)を3.5〜45.0mS/cmに、可溶性固形分をBrix6.0〜25.0に調整した酸性水溶液となし、これにアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、
当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合してなることを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤。 - 松の材線虫の駆除・防除薬剤のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を注入対象の松の木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)とほぼ一致するように調整した農薬用溶剤に、カーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を混合したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤。
- 松の材線虫の駆除・防除薬剤の構成要素である水が、水中に高濃度に酸素を溶け込ませた水を用いるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤。
- 注入対象となる松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、
水に、キレート剤・抗酸化剤として松が含有する有機酸若しくは酒石酸を0.5%(重量比)以内混合したうえ、酸度調整をするためのオルトリン酸と濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となし、
この酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、
そのうえで当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製したことを特徴とする松の材線虫の駆除・防除薬剤の製造方法。 - 請求項1または請求項2のいずれか1つに記載した松の材線虫の駆除・防除薬剤を用意し、
当該松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木した松属樹木の樹幹又は根部に注入し、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させることにより、
松の材線虫が松属樹木の樹体内に侵入するのを防除し、又は侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止し、又は松の材線虫を駆除することを特徴とする松の材線虫病による松枯れ防除方法。 - 注入対象となる松属樹木の樹液のpH、電気伝導率(EC)、可溶性固形分(Brix)を測定しておき、
水に、キレート剤として松が含有する有機酸又は酒石酸を0.5%(重量比)以内混合したものに、酸度調整をするためのオルトリン酸と、濃度調整するためのアミノ酸とを混合して、前記測定して得た注入対象となる松属樹木の樹液のpH、可溶性固形分(Brix)、及び電気伝導率(EC)とほぼ一致するように調整した酸性水溶液となし、
その酸性水溶液に更に浸透分散材としてアルコール類を0.5〜10%(重量比)加えて農薬用溶剤となし、
そのうえで当該農薬用溶剤にカーバメート系殺虫剤及び/またはメソミル剤を農薬用基準(農薬を使用する者が遵守すべき所定の使用濃度範囲)で許される範囲内の量を混合して調製した松の材線虫の駆除・防除薬剤となし、
そのうえで当該松の材線虫の駆除・防除薬剤を立木した松属樹木の樹幹又は根部に注入し、樹体内に当該松の材線虫の駆除・防除薬剤の有効成分を拡散・転流させることにより、松の材線虫が樹体内に侵入するのを防除し、又は侵入した松の材線虫が樹体内で移動・増殖するのを抑止し、又は松の材線虫を駆除することを特徴とする松の材線虫病による松枯れ防除方法。
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