以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1には、本発明の方法に好適に用いられる製造装置の要部が示されている。図1に示す本実施形態の製造装置5は、成形型1と、該成形型1を開閉させる金型ユニット2と、該成形型1の内部(キャビティ)に溶融石鹸を注入する注入装置3と、溶融石鹸の循環装置4(図4参照)とを備えている。本製造装置5は、気泡入りの石鹸の製造に好適に用いられる。
成形型1は、図2に示すように、二個一組の割型1A及び割型1Bで構成されている。各割型は金属等の剛体からなる矩形ブロック状の形態をしており、それぞれのパーティング面PLに凹状のキャビティの形成面11A及び11Bがそれぞれ形成されている。各キャビティの形成面(以下、キャビティ形成面ともいう)11A,11Bは、割型1Aと割型1Bとをそれらのパーティング面PLで突き合わせて組み合わせたとき、図3に示すように、製造すべき石鹸の形状に合致した形状のキャビティ10が形成されるように設けられている。
図3に示すように、割型1A及び1Bを組み付けた状態においては、キャビティ10の下部に該キャビティ10に通ずる溶融石鹸の供給路12が形成される。供給路12は、キャビティ10の下部から下方に延びるランナ12Aと、該ランナ12Aと直交し、かつ割型1A及び1Bを組み付けるときの組み付け方向Zに延びるスプルー12Bとを有しており、成形型1の側面視において略L字状をしている。ランナ12Aは、キャビティ10の最下部(底部)から成形型1の下端近傍まで略垂直に延びている。スプルー12Bは、ランナ12Aの下端から成形型1の外面(割型1Bの背面)まで略水平に延びている。後述するように溶融石鹸は、ランナ12A及びスプルー12Bからなる供給路12を通じて、キャビティ10の下部から上方へ向かって充填される。
図2に示すようにランナ12Aは、割型1Aのパーティング面PLの一部を切り欠いて形成されている。ランナ12Aは、円柱をその軸方向と平行にパーティング面PLに沿って切り欠いた形状をしている。ランナ12Aの横断面形状は、ランナ12Aの全長にわたって略一定となっている。ランナ12Aは一端(上端)がキャビティ形成面11Aで開口し、他端(下端)が閉じている。一方、スプルー12Bは、割型1Bの所定部位に該割型1Bをその厚さ方向に貫通する貫通孔を穿設して形成されている。スプルー12Bの径は、割型1Bの背面側に向かうに連れ漸次縮径している。
図3に示すように、ランナ12Aが形成されている割型1Aをそのパーティング面と反対側に位置する背面から見たときに、該ランナ12Aに対応する部位(ランナー形成面)に、該背面から該ランナ12Aに達する微細幅のスリット13が形成されている。スリット13は、ランナ12Aに対応する部位のみならず、キャビティ10に対応する部位(図2のキャビティ形成面11A及び11B)にも形成されている。割型1Aにおける複数のスリット13は、それぞれ、図2のキャビティ形成面11A又はランナ形成面から該割型1Aの背面まで略水平に延びている。一方、割型1Bにも複数のスリット13が形成されている。割型1Bにおけるスリット13は、それぞれ、図2のキャビティ形成面11Bから該割型1Bの背面まで略水平に延びている。スリット13は、後述するように、成形型1内で溶融石鹸を固化させて固形石鹸とした後に該成形型1を型開する際に利用されるものであり、固形石鹸の一方の割型への吸引や空気の吹き出しに用いられる。スリット13の幅は、好ましくは10〜100μmである。
割型1Aのパーティング面PL上にはキャビティ形成面11Aに通ずるエアベント(図示せず)が設けられている。該エアベントは、キャビティに溶融石鹸を充填するときに該キャビティの空気を外部に排出するための脱気孔として機能する。該エアベントは割型1Aに限らず、割型1Bに設置することもでき、また両割型1A,1Bに設置することもできる。また図示していないが、両割型1A,1Bを構成するブロックには冷却水の循環路が設けられている。
成形型1は、図1に示すように金型ユニット2に取り付けられる。具体的には、成形型1における割型1Bはその背面が、ベースプレート20から立設された支持板21に取り付けられており、固定型となっている。一方、割型1Aはその背面が、サーボモーター22に送りねじ23を介して接続された可動板24に取り付けられている。サーボモーター22は、送りねじ23が可動板24と直交する方向に摺動するように、ベースプレート20から立設された支持板25に取り付けられている。したがって、割型1Aは水平方向に移動可能な移動型となっている。成形型1は、図3に示すように各供給路12が各キャビティ10の下側に位置するように固定されている。これによって、溶融石鹸はキャビティ10の下部から上方へ向かって充填される。
成形型1の型締めやキャビティ10の圧力制御を行うサーボモーター22は、図示しない制御装置と電気的に接続されている。該制御装置は、サーボモーター22をはじめとする製造装置5全体を実質的に制御するマイクロコンピュータ等のCPUと、該CPUにより実行される制御プログラムや各種データ等の必要な固定情報を格納したROMと、該CPUによる処理の実行時におけるワークエリアとして使用されるRAMと、該制御装置のオペレーター用入力装置などを備えている。
図1に示すように、割型1Bの背面側には、溶融石鹸の注入装置3が配されている。注入装置3は、図3に示す供給路12に対応する溶融石鹸の注入部39を備えている。注入部39は、その一端が、後述する循環装置4の循環管路42に接続されている供給管30を備えている。供給管30の他端は、溶融石鹸の液溜まり部31となっており、その液溜まり部31に注入ノズル32が突設されている。ノズル32内には、該ノズル32の内形状と同形状の外形を有する押し込みプラグ33が配されている。プラグ33は、その後端に取り付けられているエアーシリンダ38によってノズル32内を進退する。プラグ33が後退することでノズル32とプラグ33との間に空隙が生じ、この空隙を通じて溶融石鹸が成形型1へ供給される。一方、プラグ33が前進するとノズル32とプラグ33とが嵌り合って、両者間には空隙が無くなり溶融石鹸の供給が停止される。つまり、プラグ33の進退によって、溶融石鹸が供給され、またその供給が遮断されるようになっている。
供給管30における、溶融石鹸の流動方向(図1中、矢印Aで示す方向)に関して注入ノズル32よりも上流側の位置には、定容量供給装置の一例であるシリンダ34及びピストン36が取り付けられている。シリンダ34は、供給管30と交差するように設けられている。シリンダ34内には、該シリンダ34を境として供給管30の上流側又は下流側とシリンダ34とを択一的に連通させる切り替え用のロータリーバルブ35が配されている。これとともにシリンダ34内には、該シリンダ内を進退可能になっているピストン36が配されている。そして、シリンダ34とピストン36とによって、溶融石鹸の定容量供給装置が構成されている。ピストン36の進退は、その後端に取り付けられているサーボモーター37によって精密に制御されている。ピストン36が後退することで、シリンダ34内には、溶融石鹸を収容するための空間が形成される。この空間に溶融石鹸が充填されたのち、ピストン36を押し込むことで、成形型1のキャビティ10へ溶融石鹸が加圧下に充填される。キャビティ10への溶融石鹸の供給体積は、ピストン36の後退距離又は押し込み距離によって決定される。具体的には、1)後退前のピストン36の位置を原点としてピストン36の後退距離で供給体積を決定する方法、又は2)後退後のピストン36の位置を原点としてピストン36の押し込み距離で供給体積を決定する方法がある。計量される溶融石鹸が気泡入りである場合、これは圧縮性の流体であるので、前記1)の方法において、ピストン36の原点の位置でシリンダ34内に溶融石鹸ができるだけ残らないように原点を決めることが、製品重量の精度を高める点から好ましい。
注入部39は、ベースプレート60上に取り付けられている。ベースプレート60は、台座62上に摺動自在に配されたスライダー63の上に載置固定されている。スライダー63は、台座62上に載置されたサーボモーター64に送りねじ65を介して接続されており、サーボモーター64の動作によって台座62上を摺動する。これによって注入部39が、金型ユニット2に取り付けられた成形型1に対して接離可能になっている。
溶融石鹸の循環装置4は、図4に示すように、貯蔵タンク41、該貯蔵タンク41に接続されかつ該貯蔵タンク41内を経由するループを形成する循環管路42、該循環管路42の途中に介在された循環ポンプ43を備えている。また貯蔵タンク41には、発泡部(図示せず)において発泡された溶融石鹸の供給管路44が接続されている。更に貯蔵タンク41内には撹拌翼45が設置されている。撹拌翼45はモータ46によって所定方向に回転する。循環管路42には、上述した溶融石鹸の注入部39が、循環管路42と開閉可能に連通するように一個又は複数個接続されている。なお図4では、複数の注入部39が循環管路42に直列に接続されているように記載されているが、両者の接続は必ずしもこのようになっているわけではない。貯蔵タンク41及び循環管路42を含む循環装置4並びに注入部39には、いずれも温水及びヒータなどの保温装置が取り付けられており、所定温度に保たれている。
以上の構成を有する製造装置5を用いた気泡入り石鹸の製造方法について説明する。先ず循環装置4による溶融石鹸の循環について図4を参照しながら説明すると、図示しない発泡部において発泡されて、無数の気泡が分散含有されている溶融石鹸は、供給管路44を通じて貯蔵タンク41内に貯えられる。貯蔵タンク41内において溶融石鹸は、撹拌翼45によって撹拌されて、気泡の分散状態が均一に保たれる。溶融石鹸の一部は、循環ポンプ43によって循環管路42内に送り込まれる。その結果、貯蔵タンク41内に貯えられている溶融石鹸は、貯蔵タンク41を経由して循環管路42内を循環する。この循環によって、たとえ何らかのトラブルが発生して気泡入り石鹸製造の作業が停止しても、溶融石鹸が配管系内で停滞することがなくなり、溶融石鹸に剪断力が常に加わった状態が維持され、気泡と液体分とが分離状態となることが防止される。特に、本実施態様においては、溶融石鹸を循環させることで剪断力を加えるので、例えば溶融石鹸の流速を制御して溶融石鹸に剪断力を加える時間を制御できるという利点がある。つまり気泡を含む溶融石鹸のような保存安定性の低い圧縮性流体に長時間剪断力を加え続けることで気泡の状態を保持させることができる。一方、剪断力を加えないと、気泡の合一や気液の分離が起こることが避けられない。このように、溶融石鹸を循環させる場合に、剪断力を加える時間を制御することで、溶融石鹸に効果的に剪断力を加えることができ、その結果、貯蔵タンク41内の気泡入り石鹸における気泡の分散状態を良好にすることができ、かつその良好な状態を長時間保つことができる。貯蔵タンク41における撹拌翼45による撹拌によっても、気泡と液体分との分離はある程度防止できるが十分とはいえない。撹拌翼45によって気液分離や気泡の合一が発生しないように溶融石鹸を撹拌すると、溶融石鹸が気泡を巻き込みその比重が変動してしまう。したがって、貯蔵タンク41内では気泡を混入させない緩やかな撹拌を行い、気泡と液体分との分離防止は、循環管路42内の循環によって行うことが好ましい。
無数の気泡を分散含有する溶融石鹸の調製方法としては、例えば本出願人の先に出願に係る特開平11−43699号公報に記載されている方法を用いることができる。溶融石鹸の発泡には各種気体を用いることができる。特に、不活性気体、とりわけ窒素ガス等の非酸化性の不活性ガスを用いることで、溶融石鹸の加熱に起因して、その配合成分が酸化分解することで発生する異臭等を効果的に防止することができる。発泡に不活性気体を用いることは、気泡入り石鹸の配合成分として、酸化分解し易い香料成分が配合されている場合に特に有効である。
成形開始前に、金型ユニット2(図1参照)のサーボモーター22を動作させて送りねじ23を押し出して、図5に示すように割型1Aと割型1Bとを型閉する。両割型には、前述した冷却水の循環路(図示せず)に水を循環させておく。また、成形型1における割型1Bの背面側に注入装置3を配置し、該注入装置3のサーボモーター64を動作させスライダー63を摺動させて、図5に示すように注入部39における注入ノズル32の先端と、割型1Bにおけるスプルー12Bの開孔部とを接続する。
図5に示す状態においては、注入部39におけるシリンダ34と循環管路42との連通が、ロータリーバルブ35によって遮断されている。シリンダ34に接続しているピストン36は所定の位置に留まっている。またこの状態においては、図6に示すように、注入部39における押し込みプラグ33はノズル32内に完全に挿入されており、溶融石鹸が供給されないようになっている。
この状態下に、循環管路42を循環する溶融石鹸は、その一部が注入部39へ送り込まれる。溶融石鹸を注入部39へ送り込むには、ロータリーバルブ35を所定角度回転させてシリンダ34と循環管路42とを連通させる。これとともにサーボモーター37を作動させてピストン36を後退させる。これによってシリンダ34内に空間が形成され、その空間内に溶融石鹸が流入する。ピストン36の後退は、所定量の溶融石鹸がシリンダ34内に充填されるまで続けられる。
所定量の溶融石鹸がシリンダ34内に充填されたら、サーボモーター37の作動を停止し、ピストン36の後退を停止する。次に、ロータリーバルブ35を所定角度反転させてシリンダ34と循環管路42との連通を遮断し、かつシリンダ34とノズル32とを連通させる。引き続き、図7に示すエアーシリンダ38を作動させてノズル32内からプラグ33を引き抜き、両者間に空隙を形成する。この状態を図7に示す。これによって、図5(要部拡大図は図6)に示す、シリンダ34、供給管30、液溜まり部31及びノズル32並びにスプルー12B、ランナ12A及びキャビティ10からなる溶融石鹸の供給路が形成される。この状態下にサーボモーター37を作動させてシリンダ34内のピストン36を押し込む。これによって、シリンダ34内に充填されていた溶融石鹸が前記の供給路を通じて成形型1のキャビティ10内に加圧注入される。溶融石鹸の供給量がピストン36のストローク量で決定されることは前述のとおりであるが、そのストローク量はサーボモーター37によって精密に制御される。キャビティ10に溶融石鹸が満たされるにつれて、キャビティ10の空気は前記エアベント(図示せず)から外部に排出され、溶融石鹸に置換されていく。成形型1において、溶融石鹸は供給路12(ランナー12A及びスプルー12B)を通じてキャビティ10の下部から上方へ向かって充填されるので、溶融石鹸の脱泡がより確実に行われる。
本実施形態の製造方法においては、図8に示すように、溶融石鹸はキャビティ10のみならずこれに通ずる供給路12(ランナー12A及びスプルー12B)にも充填される。最終的に製品とされるのはキャビティ10に充填された溶融石鹸が固化した固形石鹸のみであるが、溶融石鹸の注入量をキャビティ10の容積よりも多くして供給路12内にも溶融石鹸を充填することによって、その固化に際しての収縮やひけの発生が防止される。
キャビティ10及び供給路12への所定量の溶融石鹸の注入が完了したら、再び注入部39における押し込みプラグ33をノズル32内に完全に挿入する。そして、この状態下に成形型1内の溶融石鹸を冷却固化させる。上述したとおり割型1A,1Bは冷却水の循環によって所定温度に冷却されているので、これによってキャビティ10及び供給路12内の溶融石鹸の冷却固化が促進される。
キャビティ10に充填された溶融石鹸に加わる圧力は特に制限されないが、好ましくは0.2MPa以下である。この圧力は、例えばキャビティ10に公知の圧力センサーを設けることで測定される。一般に、圧力が高くなると、溶融石鹸の固化速度が速まるので生産性は向上するが、溶融石鹸の固化に際して収縮やひけが発生しやすくなり、所望の形状が得られなくなる場合がある。また、製造する石鹸の種類によっては圧力が低い方が好ましい場合があり、例えば本実施形態のように気泡入りの石鹸を製造する場合には、冷却固化後の成形型の型開時における石鹸の爆発の回避等の観点から、圧力を前記の範囲に調整することが好ましい。
溶融石鹸が固化したら、図9に示すように、金型ユニット2を後退(図9中、右向きに移動)させ、注入装置3を割型1Bから取り外すとともに、サーボモーター22を動作させて送りねじ23を引き込み、両割型1A,1Bを型開する。このとき、割型1Aのキャビティ形成面11A及び前記ランナ形成面に形成されているスリット13(図3参照)を通じて吸引を行う。これとともに割型1Bのキャビティ形成面11Bに形成されているスリット13(図3参照)を通じて該キャビティ形成面11Bから固形石鹸Sに向けて空気を吹き付け、該キャビティ形成面11Bからの固形石鹸Sの離型を促進させる。これらの操作によって、固形石鹸Sを割型1Aのキャビティ形成面11A及び前記ランナ形成面に保持させる。
溶融石鹸の冷却固化後に成形型1を型開する時期に特に制限はないが、石鹸の内部までが固化してから型開するよりも、もっと早い段階、例えば石鹸の表層部は固化しているが内部は未固化の状態で型開する方が、石鹸は確実に割型1A側に保持される。
成形型1の型開が完了したら、図10に示すように、二つの割型1A,1B間に、固形石鹸Sの把持装置70を挿入する。把持装置70は、固形石鹸Sを成形型から取り出す手段の一つとして用いられるものである。把持装置70によって把持された固形石鹸Sを割型1Aから取り出すときには、該割型1Aに形成されているスリット13(図3参照)を通じてキャビティ形成面11A及び前記ランナ形成面から固形石鹸Sに向けて空気を吹き付け、割型1Aからの固形石鹸Sの離型を促進させる。こうして、固形石鹸Sが得られる。その後、割型1Aと割型1Bとを型閉して図5に示す状態に復帰させ、これまでに述べた操作を繰り返す。
このようにして成形型1から取り出された固形石鹸Sは、図11に示すように、キャビティ10内で溶融石鹸が固化して形成された固化部位S1と、供給路12(ランナ12A及びスプルー12B)内で溶融石鹸が固化して形成された固化部位S2とを含んでいる。これらの固化部位S1,S2のうち、目的とする最終製品は固化部位S1なので、固化部位S1から固化部位S2を除去する必要がある。固化部位S2の除去の方法について図12を参照しながら説明する。なお以下の説明では固化部位S1のことを「最終製品S1」ともいい、固化部位S2のことを「除去部位S2」ともいう。
先に図10を参照しながら説明したとおり、型開された成形型1の二つの割型1A,1B間に把持装置70を挿入して固形石鹸Sを取り出したら、該固形石鹸Sを把持装置70ごと切断ステーション(図示せず)に移動させる。切断ステーションは、金型ユニット2とは別の位置に設けられている。図12に示すように、把持装置70は、板状体からなる基板71の一面に取り付けられた複数の吸引パッド72を有している。更に把持装置70は、除去部位S2の切断のために用いられる受け部材73を有している。固形石鹸Sが把持装置70によって把持された状態において、受け部材73はその長さが、該受け部材73の先端が除去部位S2に当接するような長さになっている。また受け部材73の先端は面状になっている。つまり、受け部材73は、面で以て除去部位S2と当接している。したがって、以下の説明では、受け部材73の先端のことを「面状当接部位」ともいう。面状当接部位は、該部位が当接する除去部位S2の表面と相補形状になっていることが好ましい。したがって除去部位S2のうち面状当接部位との当接部が例えば凸面である場合には、受け部材73の面状当接部位を、該凸面と相補形状をなす凹面とすることが好ましい。
面状当接部位は、除去部位S2の幅方向全域にわたって該除去部位S2と当接していてもよく、あるいは後述する図14(a)及び(b)に示すように、除去部位S2の幅方向の一部において該除去部位S2と当接していてもよい。本発明者らの検討の結果、後者の当接態様であっても除去部位S2の切断を首尾良く行い得ることが判明した。後者の場合には、面状当接部位の幅方向の少なくとも中央域において、面状当接部位が除去部位S2と当接していることが好ましい。
面状当接部位の面形状は、除去部位S2の当接部位と合致する形状が好ましいが、加工上安価に製作するために、円又は長方形(正方形含む)としてもよい。面状当接部位の面積は、除去部位S2の当接部位に対し全面当接する面積が好ましいが、除去部位S2の一部に当接する面積でもよい。また、面状当接部位は、例えばポリアセタール、MCナイロン(登録商標、アミドモノマーであるεカプロラクタムを大気圧下で重合・成型(キャスト)したポリアミド−6)のような樹脂(シリコン・ウレタン・ニトリルなどからなるゴム素材を含む)等の素材から構成されることが、腐食防止・切断刃の破損防止の点から好ましい。
切断ステーションには、切断ユニット80が設置されている。切断ユニット80は切断刃81を備えている。切断刃81は、切断ステーションに移動してきた固形石鹸Sにおける除去部位S2を挟んで受け部材73と対向する位置に待機している。切断刃81はピストン82を有するシリンダ83によって、除去部位S2の方向に向けて進退可能になっている可動刃である。図12に示す状態は、切断刃81が後退している状態を表している。
除去部位S2の切断においては、図13に示すように、シリンダ83を動作させて切断刃81を除去部位S2の方向に向けて突き出し、最終製品S1と除去部位S2との結合部に切断刃81の先端を押し当てる。このとき、除去部位S2は、切断刃81によって押し当てられる側とは反対側において、受け部材73によって支えられているので、最終製品S1と除去部位S2との結合部に切断刃81の押し当て力が効果的に加わり、除去部位S2を最終製品S1から首尾良く切断除去することができる。特に、除去部位S2は、受け部材73の先端に位置する面状当接部位によって面で以て支えられているので、切断を安定して行うことができる。先に述べたとおり、固形石鹸Sの成形型1からの取り出しは、該固形石鹸Sが完全に固化する前に行われることが好ましいので、その後の工程である除去部位S2の切断工程においても固形石鹸Sは完全に固化しておらず、外力によって変形しやすい状態にある。そのような状態にある固形石鹸Sから除去部位S2を切断しようとすると、最終製品S1に外観不良が生じやすいが、本製造方法に従えば除去部位S2を首尾良く切断することができ、最終製品S1の外観の低下を効果的に防止することができる。これに対して、例えば受け部材73に代えて固定刃を採用して、該固定刃と前記の切断刃81とが突き合わせの位置関係となる状態下に除去部位S2を切断しても、最終製品S1に外観不良が生じやすくなってしまう。
除去部位S2の切断に際しての切断刃81と受け部材73の面状当接部位との位置関係は、例えば切断刃81の突き出し方向の延長線上に面状当接部位が位置するような位置関係を採用することができる。尤も、最終製品S1に外観不良を一層生じさせないようにする観点から本発明者らが更に検討を推し進めたところ、意外にも、図12に示すように、除去部位S2と最終製品S1との結合位置B1から除去部位S2の先端B2に向けて所定距離隔てた位置に受け部材73の面状当接部位を当接させた状態下に、結合位置に向けて切断刃81を突き出して除去部位S2を切断除去することが有利であることが判明した。
除去部位S2の横断面が円形等の異方性のない形状である場合には、除去部位S2に対する切断刃81の突き出し方向に特に制限はない。これに対して、除去部位S2の横断面が異方性のある形状、例えば長方形、楕円形、台形等の長手方向Lと幅方向Wを有する形状である場合には、図14(a)に示すように、切断刃81の突き出し方向が、除去部位S2の横断面形状における幅方向Wと一致するように切断を行うことができる。あるいは図14(b)に示すように、切断刃81の突き出し方向が、除去部位S2の横断面形状における長手方向Lと一致するように切断を行うことができる。これら2つの切断のしかたのうち、図14(a)に示す切断を行うことが、除去部位S2を一層首尾良く切断できることができ、最終製品S1の外観不良の発生を効果的に防止できることが本発明者らの検討の結果判明した。
また、切断刃81の突き出し角度に関しては、除去部位S2の延びる方向と直交する方向H(図12参照)と切断刃81の突き出し方向とのなす角度θが、±30度以内が好ましく、より好ましくは±15度以内であり、製品形状に沿った角度にすることが外観上特に好ましい。また、除去部位S2の切断に際して、切断刃81を30〜130℃、特に70〜90℃に加熱しておくと、石鹸かすの付着や石鹸の変色等を生じさせることなく切断を一層首尾良く行うことができるので好ましい。
切断刃81としては、片刃及び両刃のいずれをも用いることができる。また、切断刃の刃幅は、図14(a)及び(b)に示すように、除去部位S2の幅よりも大きくすることが好ましい。刃の厚みに関しては、これが薄いほど切断抵抗が小さくなり切断には有利であるが、刃の強度が低下してまっすぐな切断面が得られにくくなる。両者を比較考量すると、刃の厚みは0.3〜0.5mm程度に設定することが好ましい。更に、石鹸は一般に弱アルカリ性を示すことから、切断刃81は耐食性の高い材料から形成されていることが好ましい。
上述のようにして除去部位S2が切断除去されたら、切断刃81を待機位置まで後退させる。切断された除去部位S2は、回収して新たな石鹸の製造に利用することができる。切断完了後、切断刃81を含む切断ユニット80を洗浄ステーション(図示せず)に移動させ、切断刃81の洗浄及び乾燥を行う。この目的のために、洗浄ステーションは、図15に示すように、切断刃81の洗浄手段84及び洗浄された切断刃81の乾燥手段85を備えている。除去部位S2の切断後に切断刃81を洗浄することは、溶融石鹸からの固形石鹸の製造に特有の操作であり、合成樹脂の射出成形では採用されない。切断刃81を洗浄する理由は、除去部位S2の切断によって石鹸かすが切断刃81に付着、蓄積し、それによって切断性が低下するからである。
切断刃81の洗浄は、除去部位S2を切断するたびに行ってもよく、あるいは複数回切断を行った後に洗浄を行ってもよい。石鹸かすが付着した切断刃81の洗浄のためには、一般には水を用いればよい。洗浄水は温水でもよく、冷水でもよい。洗浄後には、乾燥手段85によって切断刃81に付着した洗浄水を乾燥除去する。除去部位S2の切断性だけを考えると、切断刃81に少量の水が付着していた方が切断性は向上する傾向にあるが、切断刃81に付着していた水が、除去部位S2の切断によって最終製品S1に移行すると、移行した水に起因して最終製品S1に雑菌等が生じる可能性がある。そこで本製造方法においては、切断刃81に付着している洗浄水を乾燥によって除去する。洗浄水の除去には、例えば熱風の吹き付けや赤外線の照射等の各種の乾燥手段を採用することができる。
以上の製造方法によれば、最終製品S1の外観を損なうことなく、該最終製品S1から除去部位S2を安定的に切断することができる。
本製造方法が適用される石鹸の一例として、先に述べた気泡入り石鹸が挙げられる。この気泡入りの石鹸を製造する場合には、これを構成する配合成分として、例えば脂肪酸石鹸、非イオン系界面活性剤、無機塩、ポリオール類、非石鹸系のアニオン界面活性剤、遊離脂肪酸、香料、水等を用いればよい。更に、抗菌剤、顔料、染料、油剤、植物エキス等の添加物を必要に応じて適宜配合してもよい。また、本発明は気泡入り石鹸以外の石鹸の製造にも同様に適用できる。尤も、本発明は、気泡入り石鹸の製造に特に適している。
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の実施形態においては、成形型1が一つのキャビティ10を有する場合を例に取り説明したが、これに代えて、複数のキャビティを有する成形型を用いてもよい。また前記の実施形態では、固形石鹸の一方の割型への吸引や空気の吹き出しのために、割型にスリット13を形成していたが、このようなスリットは形成しなくてもよい。あるいはスリット13を形成することに代えて、あるいはスリット13の形成とともに、前記キャビティ形成面及び前記ランナ形成面に微小孔を形成してもよい。