JP5569841B2 - 希土類金属抽出剤の合成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類元素、特に軽希土類元素(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu)の中の少なくとも2種以上から、又は該軽希土類元素の中の少なくとも1種以上とそれ以外の希土類元素(Yを含む)の少なくとも1種以上とから特定の希土類元素を抽出・分離するための希土類金属抽出剤の合成方法に関する。
近年、希土類元素は、希土類磁石や蛍光体、更にはニッケル水素電池などの電子・電気材料に幅広く用いられている。しかし、その希土類元素の供給の現状として、産出国がほぼ限定されていること、価格の安定性を欠くこと、更には近い将来需要が供給を上回るとも予想されることから、希土類元素の資源的な危機が叫ばれている。そのため、現在、それらに用いられる希土類元素使用量の削減及びその代替開発に関して様々な取組みがなされている。同時に、製品の生産時に発生する工程内スクラップや、市中より回収された電子・電気製品から有価物である希土類元素の再生(リサイクル)、更には、新たな希土類鉱床の探査や開発が強く求められている。
希土類元素の分離方法として、イオン交換樹脂等を用いたカラム抽出法(固−液抽出法)や溶媒抽出法(液−液抽出法)などが知られている。カラム抽出法(固−液抽出法)は、溶媒抽出法に比べ、装置が単純であり、操作性が簡単ではあるが、抽出容量が小さく、迅速な処理ができないことから、溶液中における抽出すべき金属の濃度が低い場合、即ち、抽出すべき金属が不純物である場合の除去や排水処理などに多く用いられる。一方、溶媒抽出法(液−液抽出法)は、カラム抽出法に比べ、装置がより複雑であり、操作性も簡単ではないが、抽出容量が大きく、迅速な処理が可能なため、工業的な金属元素の分離精製に用いられている。希土類元素の分離・精製には、連続的な工程により効率的に大量処理することが求められるため、それが可能な溶媒抽出法が主に用いられている。
溶媒抽出法とは、分離対象の金属元素を含む水溶液からなる水相と、特定の金属元素を抽出する金属抽出剤及び該金属抽出剤を希釈するための有機溶媒からなる有機相とを接触させることで、金属元素を金属抽出剤に抽出させることで分離する方法である。
従来、その金属抽出剤としてはTBP(リン酸トリブチル)、カルボン酸(バーサティックアシッド10)、リン酸エステル、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物等が知られている。例えば、リン酸エステルとしては、ジ−2−エチルヘキシルリン酸[di−2−ethylhexylphosphoric acid(D2EHPA)]、ホスホン酸化合物としては2−エチルヘキシルリン酸モノ−2−エチルヘキシルエステル[2−ethylhexylphosphoric acid−mono−2−ethylhexyl ester(PC−88A:大八化学工業(株)製商品名)]、ホスフィン酸化合物としてはビス(2,4,4−トリメチルペンチル)リン酸[bis(2,4,4−trimethylpentyl)phosphoric acid(Cyanex272:CYTEC Industries社製商品名)]等が市販され、一般的に使用されている。
溶媒抽出法の分離効率は、金属抽出剤の分離性能、特に分離係数によって決まる。即ち、分離係数が大きいほど溶媒抽出法の分離効率は高くなり、分離工程の簡略化、分離設備の小規模化が可能となり、結果的に工程の効率化及びコストダウンに繋がる。一方、分離係数が小さい場合は、分離工程が複雑となり、分離設備の大規模化を招いてしまう。
現在、市販され実用化されている金属抽出剤のうちで希土類元素に対する分離係数が大きいと言われるPC−88Aでも、原子番号が隣接した元素間の分離係数は小さく、例えば、希土類元素の中でも最も分離が困難とも言われるネオジム/プラセオジムの分離係数は2より小さく、約1.4である。この分離係数は、ネオジム/プラセオジムを分離するためには十分なものではなく、それらを十分な純度で分離するためには、大規模な設備が必要となり、多大なコストがかかることになる。そのため、これらの元素を効率的に分離するために、従来よりも分離係数の大きな抽出剤及び抽出・分離方法の開発が望まれている。
希土類元素、特に軽希土類元素であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)に対し分離係数の大きな金属抽出剤として、ジアルキルジグリコールアミド酸が知られている(特許文献1:特開2007−327085号公報)。これを用いて溶媒抽出を行うことで、希土類元素、特に軽希土類元素の抽出・分離工程の効率化を図ることができる。実際、ジアルキルジグリコールアミド酸を用いた軽希土類元素の抽出・分離は、実験室レベルにおいて、良好な結果が得られている。
また、金属抽出剤としてジアルキルジグリコールアミド酸を使用した場合の希土類元素の分離工程における実操業条件である希土類元素濃度(CA:0.01mol/L≦CA≦0.7mol/L)、及びそれに対応する金属抽出剤濃度(CO:0.1mol/L≦CO≦1.5mol/L)における軽希土類元素の抽出・分離試験、更に、実操業装置の向流多段ミキサーセトラーを用いた軽希土類元素の抽出・分離試験において、良好な結果が確認されている。
このように、ジアルキルジグリコールアミド酸は、金属抽出剤として軽希土類元素の分離性能において、良好な分離係数を示し、加えて、使用条件に関する検討もなされているが、その合成方法について十分な検討はなされていない。
既知のジアルキルジグリコールアミド酸の合成方法は、下記反応式に従う。
Figure 0005569841
(式中、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。)
まず、無水ジグリコール酸をジクロロメタン中に懸濁させ、無水ジグリコール酸に対して等molよりも若干少ない量の第二級アルキルアミンをジクロロメタン中に溶解させて、両者を0〜30℃で混合する。無水ジグリコール酸が反応すると溶液が透明になり、そこで反応を終了する。次いで、純水洗浄による水溶性不純物の除去、脱水剤(硫酸ナトリウム)による水の除去、濾過、溶媒の除去を経て、更に、ヘキサンを用いて再結晶を複数回行うことで精製し、目的の生成物が得られる(特許文献1:特開2007−327085号公報)。
この合成方法において合成溶媒に用いられるジクロロメタンは、化審法、労働安全衛生法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、PRTR法などに規定された有害な物質であり、使用しないことが好ましく、更に、原料である無水ジグリコール酸のジクロロメタンへの溶解度が低いため、合成反応が固−液反応となり、反応性に劣る。
また、前記の既知の合成方法では、合成量が数gというスケールでしか合成していないため、90%以上の収率を得ることができるが、数kgやそれ以上のスケールでの合成の場合、その収率の低下は顕著となる。実際、数百gのスケールの合成であっても、その収率は80%を下回り、その収率の低下が問題である。
特開2007−327085号公報
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであり、従来の合成方法における合成溶媒であるジクロロメタンを用いることなく、更に、合成物の収率向上及び合成過程の効率化を図ることができる希土類金属抽出剤の合成方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、希土類金属抽出剤であるジアルキルジグリコールアミド酸を合成する際、その原料であるジグリコール酸無水物と、ジアルキルアミンとを合成溶媒である非プロトン性極性溶媒中で反応させた後、該合成溶媒を除去することでジアルキルジグリコールアミド酸を得ることを見出し、この方法がジアルキルジグリコールアミド酸を合成するに際し、高収率で、かつ効率的であることを知見し、本発明をなすに至った。
従って、本発明は、下記の希土類金属抽出剤の合成方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
Figure 0005569841
(式中、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。)
で表されるジアルキルジグリコールアミド酸からなる希土類金属抽出剤を合成する方法であって、前記ジアルキルジグリコールアミド酸の原料であるジグリコール酸無水物とジアルキルアミンとを、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる非プロトン性極性溶媒中で、ジグリコール酸無水物(A)とジアルキルアミン(B)とのモル比B/Aを1.0以上として反応させる工程、及び前記非プロトン性極性溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする希土類金属抽出剤の合成方法。
請求項
ジアルキルジグリコールアミド酸の原料であるジグリコール酸無水物(A)と、ジアルキルアミン(B)とのモル比B/Aが、1.0≦B/A≦1.2の範囲で反応させることを特徴とする請求項1記載の希土類金属抽出剤の合成方法。
本発明の希土類金属抽出剤の合成方法によれば、軽希土類元素の分離性に優れたジアルキルジグリコールアミド酸を有害なジクロロメタンを用いることなく、効率よく、かつ高い収率で合成できるため、工業的利用価値が大きい。
実施例1で合成した反応生成物の1H−NMRチャートである。 比較例1で合成した反応生成物の1H−NMRチャートである。 比較例2で合成した反応生成物の1H−NMRチャートである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における希土類金属抽出剤は、下記一般式(1)
Figure 0005569841
で表されるジアルキルジグリコールアミド酸である。
ここで、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であるが、少なくとも一方は、炭素数6以上、好ましくは6〜18、より好ましくは7〜12の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基である。炭素数が6未満の場合、親油性が十分でないため、有機相の安定性に欠くことになり、水相との分相性が不良となるばかりか、抽出剤自身の水相への溶解が無視できなくなり、抽出剤の役割を果たすことができない。また、炭素数が過剰に大きい場合には、その抽出剤の製造コストが高くなるにも拘わらず、基本性能である抽出能、分離能そのものの向上には寄与しない。なお、R1及びR2については、親油性が確保されるものであれば、一方が炭素数6以上であれば他方は6未満であってもよい。例えば、より好適なものとして、2つのオクチル基(−C817)を導入した化合物、N,N−ジオクチル−3−オキサペンタン−1,5−アミド酸:ジオクチルジグリコールアミド酸[N,N−ジオクチル−3−オキサペンタン−1,5−アミック酸:ジオクチルジグリコールアミック酸、N,N−dioctyl−3−oxapentane−1,5−amic acid:dioctyldiglycolamic acid(以下、DODGAAと称する)]が挙げられる。
本発明のジアルキルジグリコールアミド酸の合成方法では、ジアルキルジグリコールアミド酸の原料であるジグリコール酸無水物とジアルキルアミンとを非プロトン性極性溶媒中で反応させる。原料としてジグリコール酸無水物と、ジアルキルアミンとを用い、例えば、それぞれを合成溶媒である非プロトン性極性溶媒に溶解後、混合することにより反応させることができる。そして、その後、非プロトン性極性溶媒を、常圧又は減圧下で留去するなどの方法により、除去することで目的のジアルキルジグリコールアミド酸を得る。ここで、ジアルキルアミンは、前記式(1)で示されるジアルキルジグリコールアミド酸中のR1及びR2に対応するアルキル基を有する第二級アルキルアミンを用いる。
ここで用いる合成溶媒の非プロトン性極性溶媒とは、両親媒性を有する、即ち、親水性と親油性を併せもった性質を有する溶媒を示し、その例としては、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。その中でも合成過程における溶媒除去及び、溶媒自身のPRTR法などの規制などの観点から、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)が好ましい。非プロトン性極性溶媒を合成溶媒に用いると、無水ジグリコール酸及びジアルキルアミンが容易に合成溶媒に溶解しうるため、合成反応が液−液反応となり、反応性に優れる。
合成溶媒として無極性溶媒を用いた場合、親油性を有するジアルキルアミンは容易に合成溶媒に溶解するが、親水性をもつジグリコール酸無水物の合成溶媒に対する溶解度が低いため、合成反応が固−液反応となり、反応性が低くなる。
一方、プロトン性極性溶媒を合成溶媒として用いる場合は、その溶媒に対するジグリコール酸無水物と、ジアルキルアミンそれぞれの溶解度は溶媒種類により異なる。例えば、合成溶媒が水の場合、ジグリコール酸無水物は容易に溶解するものの、ジグリコール酸無水物が無水物でなくなるため、ジアルキルアミンとの反応が進まないことがある。また、合成溶媒がアルコールの場合、ジアルキルアミンは容易に溶解するが、ジグリコール酸無水物のアルコールに対する溶解度が低いため、合成反応が固−液反応となり、反応性が低くなるだけでなく、ジグリコール酸無水物の一部が、アルコールとのアルキルエステルを形成してしまう。そのため、不純物としてジグリコール酸アルキルエステルが残留し、反応で得られるジアルキルジグリコールアミド酸の量も少なくなる。更に、その反応からは、目的とするジアルキルジグリコールアミド酸だけではなく、ジアルキルジグリコールアミド酸のアルキルエステルも副生成物として得られる。前記ジグリコール酸アルキルエステルとジアルキルジグリコールアミド酸のアルキルエステルは、希土類金属イオンと錯形成することから、希土類金属抽出剤としての性能を多少有するものの、分離性能をほとんど有していないため、溶媒抽出の抽出・分離における阻害因子となる。結果として、得られた反応生成物は、ジアルキルジグリコールアミド酸に比べ、希土類金属抽出剤としての希土類元素の分離性能が大きく劣る。
従来の合成方法においては、反応終了後、純水洗浄による水溶性不純物の除去、脱水剤による水の除去、反応液の濾過、溶媒の除去を経て、更に、ヘキサンを用いて再結晶を複数回行い精製することで目的の生成物を得ていた。本発明の合成方法においては、純水洗浄による水溶性不純物の除去、脱水剤による水の除去、反応液の濾過、再結晶などの反応後の後処理をしてもよいが、反応終了後、反応後の後処理をすることなく、溶媒を除去するだけで目的の生成物を得ることができる。本発明の合成反応が従来の固−液反応でなく、液−液反応であり、その結果、反応性に優れることで未反応物が少なく、洗浄、再結晶等により不純物を除去するほどの必要を生じないためである。
本発明において、反応させるジグリコール酸無水物(A mol)とジアルキルアミン(B mol)との比率(B/A)は1.0以上であり、1.0≦B/A≦1.2であることが好ましく、1.0≦B/A≦1.1であることがより好ましい。ここで得られる反応生成物には、目的のジアルキルジグリコールアミド酸と共に、未反応のジアルキルアミンが含まれる。従来の方法においては、未反応のジアルキルアミンを取り除くため、再結晶を複数回実施していたが、ジアルキルアミンが残留したジアルキルジグリコールアミド酸を用いて溶媒抽出を行っても、その分離性及び分相性に何ら問題はなく、良好な抽出・分離が可能である。即ち、ジアルキルアミンが、金属抽出剤や溶媒抽出の有機相に残留していても、抽出・分離における阻害要因にならないため、不純物としてそれを除去する必要はなく、合成工程の簡略化を図ることができる。更に、再結晶による反応生成物のロスも少ないことから、収率も向上する。
B/A>1.2の場合、得られる反応生成物には、目的のジアルキルジグリコールアミド酸と共に、過剰の未反応ジアルキルアミンが含まれることがある。この場合は、溶媒抽出における分離性、分相性に問題は生じないため、抽出剤として用いることができるが、ジアルキルアミンを過剰に用いる意味がない。また、合成原料コストが高くなることから、効果的ではない。
B/A<1.0の場合、反応生成物として目的のジアルキルジグリコールアミド酸は得られるが、ジグリコール酸無水物を過剰量にて反応させることになるため、反応生成物に未反応のジグリコール酸が残留することがある。ジグリコール酸が残留したジアルキルジグリコールアミド酸を金属抽出剤として用いて溶媒抽出を行うと、十分な分離性能が得られないばかりか、有機相、水相の界面にクラッドが発生し、白濁してしまうため、分相不良となり、正常な抽出・分離ができないことがある。これは、金属抽出剤であるジアルキルジグリコールアミド酸と共に残留したジグリコール酸が、希土類金属イオンと錯形成するため、良好な分離・抽出ができないことを示す。つまり、ジグリコール酸が抽出の阻害要因になっているためと考えられる。この場合、正常な抽出・分離ができる希土類金属抽出剤として、ジグリコール酸を含まないジアルキルジグリコールアミド酸を得るには、従来の方法と同様に、未反応のジグリコール酸を除去する工程、即ち、水溶性のジグリコール酸を取り除くために合成溶媒を除去し、反応生成物を水洗することが必要となる。ただし、水洗を行うと、水への溶解度が非常に低いジグリコールアミド酸は、結晶化し、溶媒中に析出する(例えば、DODGAAの水への溶解度は、6.2×10-6mol/Lである)。ここで結晶化したジアルキルジグリコールアミド酸を希土類金属抽出剤として用いるためには、濾過、乾燥しなければならず、比率B/Aが1.0≦B/A≦1.2の場合に比べ、多くの工程が必要となるため、効率的ではない。
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1、比較例1]
希土類金属抽出剤の合成とその抽出分離性
様々な合成溶媒を用いてDODGAAを合成し、更に、合成したDODGAAを用いて溶媒抽出法による混合希土類金属の分離性能を調べた。
まず、無水ジグリコール酸34.8g(0.3mol)を合成溶媒であるアセトン400mL中に溶解させ、別にジオクチルアミン72.4g(0.3mol)をアセトン100mLに溶解させた後、無水ジグリコール酸溶液を撹拌しながらジオクチルアミン溶液を滴下し、室温で撹拌しながら、無水ジグリコール酸が反応して溶液が透明になったことを確認した。その後、減圧乾燥を行うことでアセトンを除去し、反応生成物105.2gを得た(実施例1)。
一方、比較例1として、合成溶媒に、プロトン性極性溶媒であるヘキサノールを用いたこと以外は、前記と同様の方法によって、反応生成物103.3gを得た。
実施例1、比較例1で得られたそれぞれの反応生成物を、1H−NMRにより同定した(図1、2)。これから、実施例1で合成された反応生成物は、DODGAAであり、比較例1で合成された反応生成物は、DODGAA及び、DODGAAのヘキシルエステルであることを確認した。
次に、抽出分離性能試験を行うため、実施例1、比較例1から得られたそれぞれの反応生成物の一部をヘキサノールで溶解し、0.3mol/Lの濃度の溶液を調製して有機相となる有機溶液とした。
混合希土類金属水溶液として、濃度がPr:Nd=1:1(モル比)で、Pr+Nd=0.1mol/Lとなるように塩化プラセオジムと塩化ネオジムの混合水溶液を調製して水相となる水溶液とした。前記有機溶液100mLと水溶液100mLを分液漏斗に入れ、20℃で約20分間振盪し、抽出させ平衡に達した後、有機相と水相を分離した。更に、分離した有機相100mLと5N塩酸100mLを分液漏斗に入れ、20℃で約20分間振盪し、有機相に抽出された希土類元素を塩酸水溶液中に逆抽出した。水相と逆抽出した塩酸水溶液中のプラセオジムとネオジムの濃度をICP発光分析装置(ICP−7500:島津製作所(株)製商品名)で測定した。
それらの結果をNd/Pr分離係数として表1に示す。また、実施例1、比較例1の反応生成物の収率は、合成原料であるジグリコール酸無水物、ジオクチルアミンの量の合算と、得られた反応生成物質量から算出した値であり、その値も合わせて表1に示す。
[比較例2]
無水ジグリコール酸34.8g(0.3mol)をジクロロメタン400mL中に懸濁させ、別にジオクチルアミン72.4g(0.3mol)をジクロロメタン100mLに溶解させた後、無水ジグリコール酸懸濁液を撹拌しながらジオクチルアミン溶液を滴下し、室温で撹拌しながら、無水ジグリコール酸が反応して溶液が透明になることを確認した。次いで、純水洗浄により水溶性不純物を除去し、更に脱水剤である硫酸ナトリウムを用いて水分を除去後、反応液を濾過し、減圧乾燥を行うことでジクロロメタンを除去した。その後、n−ヘキサン700mLを用いて再結晶を3回行い、反応生成物85.4gを得た。
比較例2で得られた反応生成物を、1H−NMRにより同定した(図3)。これから、合成された反応生成物は、DODGAAであることを確認した。
次に、比較例2で得られた反応生成物を用いて、実施例1と同様の条件で抽出分離性能試験を行った。
その結果をNd/Pr分離係数として表1に示す。また、比較例2の反応生成物の収率は、合成原料であるジグリコール酸無水物、ジオクチルアミンの量の合算と、得られた反応生成物質量から算出した値であり、その値も合わせて表1に示す。
Figure 0005569841
実施例1の合成方法によって得られたDODGAAの収率は高く、更に、その金属抽出剤としての分離性能を示すNd/Pr分離係数も良好であった。一方、比較例1の合成方法では、その収率は高いものの、Nd/Pr分離係数は、そこで生成されたDODGAAのヘキシルエステルが希土類金属分離の阻害要因となるため、低い値となった。また、比較例2の合成方法によって得られたDODGAAは、Nd/Pr分離係数は良好であったが、収率が実施例1に比べ非常に劣っていた。
[実施例2〜5、比較例3]
下記表2中、Aで示される量の無水ジグリコール酸をアセトン40mL中に溶解させ、別に下記表2中、Bで示される量のジオクチルアミンをアセトン10mLに溶解させた後、無水ジグリコール酸溶液を撹拌しながらジオクチルアミン溶液を滴下し、室温で撹拌しながら、無水ジグリコール酸が反応して溶液が透明になったことを確認した。用いた無水ジグリコール酸の量(A mmol)と、ジオクチルアミンの量(B mmol)との比であるB/Aは、表2に示すとおりである。その後、減圧乾燥を行うことでアセトンを除去し、反応生成物を得た。また、ここで得られたそれぞれの反応生成物を、1H−NMRにより同定したところ、全てにおいて、DODGAAが検出されたが、実施例2,3及び5からは、少量のジオクチルアミン、比較例3からは、少量のジグリコール酸が確認された。
実施例2〜5、比較例3で得られた反応生成物の一部をヘキサノールで溶解し、濃度が0.3mol/Lの溶液を調製して有機相となる有機溶液とした。
混合希土類金属水溶液として、濃度がPr:Nd=1:1(モル比)で、Pr+Nd=0.1mol/Lとなるように塩化プラセオジムと塩化ネオジムの混合水溶液を調製して水相となる水溶液とした。前記有機溶液100mLと水溶液100mLを分液漏斗に入れ、20℃で約20分間振盪し、抽出させ平衡に達した後、有機相と水相を分離した。更に、分離した有機相100mLと5N塩酸100mLを分液漏斗に入れ、20℃で約20分間振盪し、有機相に抽出された希土類元素を塩酸水溶液中に逆抽出した。水相と逆抽出した塩酸水溶液中のプラセオジムとネオジムの濃度をICP発光分析装置(ICP−7500:島津製作所(株)製商品名)で測定した。抽出剤の状態、Nd/Pr分離係数及び分相状態の結果を表2に示す。
Figure 0005569841
無水ジグリコール酸(A mmol)、ジオクチルアミン(B mmol)の比B/Aが1.0≦B/A≦1.2である実施例2,3,4の場合、得られたDODGAAの収率は高く、更に、その金属抽出剤分離性能を示すNd/Pr分離係数及びその分相状態も良好であった。
B/A>1.2である実施例5の場合、Nd/Pr分離係数及びその分相状態は良好であるものの、反応生成物中の過剰すぎるジオクチルアミンが固化してしまい、他に比べ取扱い難くなった。一方、比較例3では、過剰である無水ジグリコール酸が抽出の阻害要因になってしまうため、分相状態は分相不良となり、Nd/Pr分離係数は測定不能であった。

Claims (2)

  1. 下記一般式(1)
    Figure 0005569841
    (式中、R1及びR2は、互いに同一又は異種のアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数6以上の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。)
    で表されるジアルキルジグリコールアミド酸からなる希土類金属抽出剤を合成する方法であって、前記ジアルキルジグリコールアミド酸の原料であるジグリコール酸無水物とジアルキルアミンとを、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから選ばれる非プロトン性極性溶媒中で、ジグリコール酸無水物(A)とジアルキルアミン(B)とのモル比B/Aを1.0以上として反応させる工程、及び前記非プロトン性極性溶媒を除去する工程を含むことを特徴とする希土類金属抽出剤の合成方法。
  2. ジアルキルジグリコールアミド酸の原料であるジグリコール酸無水物(A)と、ジアルキルアミン(B)とのモル比B/Aが、1.0≦B/A≦1.2の範囲で反応させることを特徴とする請求項1記載の希土類金属抽出剤の合成方法。
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