JP5567860B2 - 粉末成形体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、無機粉末を含みゲル化するスラリーを所望の形状に保たせたままゲル化によって固化させて粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法に関する。
無機粉末を含む原料を所望の形状に成形して粉末成形体を製造する際に、複雑な形状の粉末成形体を製造する場合には、原料として無機粉末とゲル化する物質を含んだスラリーを用い、このスラリーを所望の形状に保たせたままゲル化によって固化させて粉末成形体を形成する方法が適している。このような粉末成形体の製造方法としては、ゲルキャスト法が知られている(例えば、特許文献1、2)。
上記方法では、スラリーが所定以上の硬さで固化していることを確認しなければならない。例えば成形型を用いるケースにおいて粉末成形体が所定以上の硬さで固化していない場合には、成形型からの離型の後に、粉末成形体に変形やクラックが生じてしまう。スラリーが所定以上の硬さで固化していることを確認するためには、固化させたスラリーに直接接触して検査することや、同時に複数個作製した粉末成形体から1個あるいは数個をサンプリングして破壊検査することが実施されている(例えば、特許文献1)。
特開2001−335371号公報 特開2008−201606号公報
原料ロット、製造設備、スラリーの組成、スラリーの混合状態、あるいは温度や湿度などが異なる時に、同じ組成のスラリーであってもスラリーの固化速度が異なる場合がある。しかしながら、このような場合、従来の接触や破壊による検査によってスラリーの固化状態を正確に判断しようとすれば、製品用のスラリーとは別に検査用に複数のスラリーを調製し、これら検査用のスラリーに対して順次接触や破壊による検査を行っていくことが要求される。
スラリーをゲル化によって固化させる時間を十分に長く設ければ、スラリーを所定以上の硬さに確実に固化させることができるため、接触や破壊による検査を必要としないとも考えられる。しかしながら、固化させる時間を十分に長くするということは、既に次工程に進める程度にスラリーの固化が完了した状態のまま待機することにもなるため、生産性の低下に繋がる。
また、ゲル化時間を十分に設けて形成した粉末成形体同士を接合する次工程を実施した場合、接合強度に必要十分な材料収縮量が得られずに不具合を発生することがあり(例えば、特許文献2を参照)、スラリーを固化させる時間を十分に長くするだけでは目的とする製品を製造できない場合もある。
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、無機粉末とゲル化する物質を含むスラリーをゲル化によって固化させて粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法において、非接触で数値化する方法によってスラリーの固化状態を判断して粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明者は、NMRのT緩和時間および/またはT緩和時間によってスラリーの固化状態を把握できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す粉末成形体の製造方法が提供される。
[1] 無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、およびゲル化剤を含有し且つ前記有機分散媒と前記ゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを複数に分けてそれぞれを略同時に所望の形状にて保持させる形状保持状態に置きつつ前記スラリーを前記化学反応によって固化させると共に、前記形状保持状態置かれた複数の前記スラリーのうちの一部の前記スラリーを測定対象物として前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定して、前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記形状保持状態に置かれた前記スラリーの固化状態を判断し、前記一部のスラリーが所定の固化状態にあると判断されたときに、残余の前記スラリーを前記形状保持状態から解放して粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法。
] 無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、およびゲル化剤を含有し且つ前記有機分散媒と前記ゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを成形型内と容器内とに分けて注入し、前記成形型内または前記容器内に注入された状態で前記化学反応によって前記スラリーを固化させると共に、前記容器内にある前記スラリーを測定対象物として前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定して、前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記容器内にある前記スラリーの固化状態を判断し、前記容器内にある前記スラリーが所定の固化状態にあると判断されたときに、前記成形型内にある前記スラリーを前記成形型から離型して粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法。
] 前記容器が、プロトン(H)から発生するNMR信号が極めて少ない材質からなる前記[]に記載の粉末成形体の製造方法。
] 前記容器が、テフロン(登録商標)樹脂からなる前記[]に記載の粉末成形体の製造方法。
] 前記スラリーに含有される前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤が水素原子を構成成分として含み、前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する前記水素原子のプロトン(H)を前記観測核とするH−NMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定し、前記プロトン(H)を前記観測核とする前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記スラリーの固化状態を判断する前記[]〜[]のいずれかに記載の粉末成形体の製造方法。
発明の粉末成形体の製造方法は、無機粉末とゲル化する物質を含むスラリーをゲル化によって固化させて粉末成形体を形成する際に、NMRを用いることで、非接触で数値化することによってスラリーの固化状態を判断しながら粉末成形体を形成することを可能にする。
本発明の粉末成形体の製造方法よって製造することができる、粉末成形体の一例の断面図である。 図1に示す粉末成形体を製造するための成形型の断面図である。 図2Aの成形型にスラリーを注入した状態を表す断面図である。 図2Aの成形型とは別の容器にスラリーの一部を注入した状態を表す断面図である。 成形型内に注入された状態のスラリーにおけるゲル化開始からのT緩和時間およびT緩和時間の推移を表す実施例のグラフである。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
1.スラリーの評価方法:
本発明のスラリーの評価方法は、無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、ゲル化剤を含有し且つ有機分散媒とゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを評価の対象物とする。なお、スラリーとは、一般に、細かい粉末が液体中に分散している濃厚な懸濁液(「セラミックス辞典」(第2版)、日本セラミックス協会編)、あるいは固体粒子が液体中に懸濁している流動体のことを指すが、本明細書では、説明の便宜上、流動性のあるスラリーがゲル化によって流動性を失った状態のもの及び完全に固化したものもスラリーと称することにする。
本発明のスラリーの評価方法は、上記スラリーを測定対象物として有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定し、測定されたT緩和時間および/またはT緩和時間から有機分散剤とゲル化剤との化学反応によるスラリーの固化状態を評価することを特徴とする。
NMRは、磁場中に置かれた分子にラジオ波(電磁波)を照射した際に、分子を構成する原子の核スピンがエネルギー吸収・放出する現象である。この原子の核スピンがエネルギー吸収・放出は、NMR信号として観察される。NMRのT緩和時間およびT緩和時間は、上記のNMR信号から測定されるものであり、T緩和時間は、スピン−格子緩和時間、縦緩和時間ともいわれ、T緩和時間は、スピン−スピン緩和時間、横緩和時間ともいわれる。NMRのT緩和時間およびT緩和時間は、測定対象物を磁場中に置いてこれにラジオ波(電磁波)のパルスを照射した際の共鳴による、NMR信号から得ることができる。そのため、NMRのT緩和時間およびT緩和時間は、測定対象物に接触することや測定対象物を破壊することなく測定できる。すなわち、スラリーの成分となる分子を構成する原子の原子核を観測核とするNMRのT緩和時間およびT緩和時間は、スラリーへの接触やスラリーの破壊を要さずに測定できる。
無機粉末は、材質がセラミックスおよび/または金属である限りにおいて特に限定されず、ガラス、アルミナ、シリカ、窒化珪素、炭化珪素、窒化アルミ、ジルコニア、サイアロン等のセラミック粉末や各種金属粉末を使用することができる。なお、これらセラミックス粉末および各種金属粉末は、適宜、一種単独、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、スラリーを調製可能な限りにおいて、無機粉末の粒子径は特に限定されない。
有機分散媒およびゲル化剤は、有機分散媒の反応性官能基とゲル化剤との化学結合を形成する化学反応を生じる。これら有機分散媒とゲル化剤は、無機粉末と共にスラリーに含有させたとき、上記化学反応によって、スラリーをゲル化させて固化させる。有機分散媒とゲル化剤は、両者の間で化学結合を形成する化学反応によってスラリーを固化させるものであれば特に限定されない。特許文献1、2などの文献にて本出願人が開示したように、有機分散媒の具体例としては、多価アルコール(エチレングリコール等のジオール類、グリセリン等のトリオール類)、多塩基酸(ジカルボン酸類等)、多塩基酸エステル(グルタル酸ジメチル、マロン酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(トリアセチン等)を挙げることができ、ゲル化剤の具体例としては、有機分散媒の反応性官能基に応じて、イソシアナート基(−N=C=O)やイソチオシアナート基(−N=C=S)を有する化合物を挙げることができる。
有機分散媒の反応性官能基とゲル化剤との化学結合の形成が進行した場合、有機分散媒とゲル化剤は、互いに拘束されて運動性を低下し、これらを含有するスラリーがゲル化を進行させて固化していく。NMRのT緩和時間およびT緩和時間は、分子の運動性と相関を示すことが知られ、特にT緩和時間は、観察核となる原子核を含む分子の運動性が高いときには長くなり、逆に観察核となる原子核を含む分子の運動性が低いときには短くなる傾向がある。また、T緩和時間についても、観察核となる原子核を含む分子の運動性が著しく高いまたは著しく低いときには短くなる傾向があり、分子の運動性と相関を示す傾向がある。よって、有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核としてNMRのT緩和時間を測定した場合、固化の程度があまり進んでいないスラリーについては、長いT緩和時間が測定され、固化の程度が進んだスラリーについては、短いT緩和時間が測定される。T緩和時間についても、スラリーに含有される有機分散媒やゲル化剤の運動性にその長さが反映する。
特に、スラリーのゲル化過程においては、スラリーの温度の変化が極めて少ない。そのため、有機分散媒およびゲル化剤の分子の運動性の変化は、スラリーの温度変化の影響によるものではなく、有機分散媒の反応性官能基とゲル化剤との化学結合の形成の度合いを大きく反映する。したがって、有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定すれば、有機分散媒とゲル化剤との化学結合の形成によるスラリーのゲル化の進行の度合い、すなわち、スラリーの固化現象そのものを評価することが出来る。
緩和時間およびT緩和時間を測定する際には、通常のNMR装置を使用できる。NMR装置の磁場強度は、永久磁石を用いた装置が適応できるため、0.2T〜9.4Tが好適であり、0.2〜1.5Tがより好適である。
NMR法により検出される観察核の種類は、限定されないが、比較的静磁場強度が低い環境においてもNMR信号の強度が強いため、プロトン(H)とすることが好ましい。したがって、有機分散媒および/またはゲル化剤が水素原子を構成成分に含む場合には、有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)を観察核とすることが好ましい。プロトン(H)以外の原子核を観察核とする場合には、超伝導磁石による磁場印加が一般的であり、元素信号の分離を行うために試料を回転させながら計測する必要が生じることがある。したがって、スラリーを回転させるとゲル化の反応形態が変化する場合には、NMR信号の測定時にスラリーの回転を要さない点においても、プロトン(H)を観察核とすることが適している。
本発明のスラリーの評価方法では、スラリーの各部おけるゲル化による固化状態を判断する際に、画像計測を用いる実施形態も適用できる。例えば、成形型内などにあるスラリーについてそのまま断層撮像を行い、この断層撮像では、スラリー各部での有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするT緩和時間およびT緩和時間の長短を濃淡や色温度のような色分けで視覚化することができる。この実施形態では、スラリーのどの部分で固化が十分で、固化が不足であるのかをより的確に把握できる。さらに、上記の断層撮像した像を組み合わせて三次元画像を構築することで、スラリーの各部について有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間およびT緩和時間の変化を3次元的に視覚化することができる。
また、スラリーに含有される有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)を観察核とする場合には、プロトン(H)から発生するNMR信号が極めて少ない材質からなる容器、例えばテフロン樹脂からなる容器にスラリーを収容してNMR信号を計測することが好ましい。これによって、有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)から発生されたNMR信号が、非常にノイズの少ない状態で計測することが可能となり、NMRのT緩和時間およびT緩和時間の測定値とスラリーのゲル化による固化状態との間でより強い相関関係がつくられる。そのため、スラリーに含有される有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間から、スラリーの固化状態をより正確に判断できる。
2.粉末成形体の製造方法:
本発明の粉末成形体の製造方法では、無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、およびゲル化剤を含有し且つ有機分散媒とゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを材料とし、このスラリーを所望の形状にて保持させる形状保持状態に置きつつ前記化学反応によって固化させることにより粉末成形体を形成する。
ここでいう形状保持状態とは、例えば成形型内にスラリーを注入してそのまま成形型内にスラリーを充填させたままにする、あるいはスラリーをシート上に塗布してスラリーの粘性や表面張力によってスラリーの形状を保持させたまま静置するなど、スラリーの形状をほぼ同じにしたまま保たせることができる状態をいう。このように形状保持状態でスラリーを固化し、スラリーが所定以上の硬さを備えた固化状態に達した後、スラリーを形状保持状態から解放すれば、得られる粉末成形体は、所望の硬さまで固化していないことを原因とする変形やクラックを生じない。
本発明の粉末成形体の製造方法は、形状保持状態に置かれたスラリーの固化状態を判断するにあたり、先に述べたNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間に基づくスラリーの評価方法を用いることを特徴とする。すなわち、形状保持状態に置かれたスラリーを測定対象物として、スラリーに含有される有機分散媒および/またはゲル化剤の成分の分子を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定し、測定されたT緩和時間および/またはT緩和時間からスラリーの固化状態を判断する。
先述のスラリーの評価方法を用いれば、T緩和時間および/またはT緩和時間を測定することによって、固化途中のスラリーに接触することなく、その固化状態を数値化して判断することができる。
図1に示す両端が開口した円筒形状のゲル化部品(粉末成形体1)をつくる場合、図2Aの縦断面図に示すような、底壁部13と円筒状の側壁部15とから構成されるスラリーの収容部分19を有し、柱部17が収容部分19の中心で底壁部13から延びている成形型11を使用する。図2Bに示すように、この成形型11の収容部分19にスラリー3を注入し、スラリー3を固化させている途中で、成形型11内に注入されたままのスラリー3に対してNMR信号を測定する。上記のようにNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間の長短を三次元画像化した場合には、スラリー3の各部分での固化状態をより正確に判断することも可能になる。例えば、図2Bに示す成形型11内のスラリー3を例に述べると、枠α内の部分で固化が十分で枠β内の部分では固化が不足しているといった判断もできる。したがって、本発明の粉末成形体の製造方法では、粉末成形体1が離型後に変形やクラックが生じることを従来技術よりも一層低減できる。
緩和時間およびT緩和時間とスラリーの固化状態との相関関係を一層確実に把握するには、同じスラリーに対して、NMRのT緩和時間およびT緩和時間による評価と、特許文献1に示すような破壊試験とを併用するとよい。NMRのT緩和時間およびT緩和時間の数値と破壊試験の結果とを対比することで、NMRのT緩和時間およびT緩和時間とスラリーの固化状態との間の相関関係を一層正確に把握することができる。これにより、T緩和時間およびT緩和時間が所定値にあるときにスラリーが所望の固化状態にあると判断することも可能になる。
また、同じ組成かつ同じ製造工程を経て固化させるスラリーを評価する場合には、固化前から完全に固化するまでの固化過程の各段階のスラリーに対してNMRのT緩和時間およびT緩和時間による評価と破壊試験などを併用することで、予めNMRのT緩和時間およびT緩和時間とスラリーの固化度合いとの間の相関関係をより詳細に把握しておくことがより好ましい。さらに、破壊試験等の測定値に基づきスラリーの固化度合いを表す指数を決めておき、この指数の値とT緩和時間およびT緩和時間の測定値との対応関係を予め把握しておくことがより好ましい。これによれば、T緩和時間および/またはT緩和時間の測定値からスラリーの固化度合いを表す指数へと直ちに変換することができるため、スラリーの固化状態を即時に把握することも可能になる。さらに、先に述べたNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間の長短を三次元画像化する実施形態の場合には、スラリーの固化度合いを表す指数について色温度のように色分けする技術をさらに加えることで、スラリーの固化の度合いを三次元的に視覚化することも可能になる。
あるいは、ゲル化開始前のT緩和時間およびT緩和時間の初期値に対し、ゲル化開始後のT緩和時間およびT緩和時間の比を算出することにより、スラリーの固化状態を判断することもできる。
さらに、スラリーを複数の分け、それぞれを略同時に形状保持状態に置いたときに、複数に分けられたスラリーが略同じように固化状態を変化させていく場合には、複数に分けられたスラリーのうちの一部のスラリーを測定対象物としてT緩和時間および/またはT緩和時間を測定し、T緩和時間および/またはT緩和時間を測定した一部のスラリーが所定の固化状態にあると判断されれば、残余のスラリーについても形状保持状態から解放することができる。
なお、固化時のスラリーの形状についても、例えば、中身の詰まった球形状と中空の筒形状のように、形状や大きさが異なる状態でスラリーを保持させて固化させた時に、これら異なる状態のスラリーの間で固化の進行が同じ場合には、T緩和時間および/またはT緩和時間を測定するためのスラリーを、NMR装置での測定に都合のよい形状や大きさで形状保持状態に置くことが好ましい。このような実施形態は、NMR装置で対象となる直接検査ができない場合、例えば、大型の成形型を用いて大型粉体成形体を得る場合や、NMR信号の測定においてノイズを生じさせるような部材を用いてスラリーを形状保持状態に置く必要がある場合に有効である。
また、この実施形態を適用できるスラリーを成形型内で固化させる場合には、スラリーを成形型内と容器内とに分けて注入し、前記容器内にある前記スラリーを測定対象物としてT緩和時間および/またはT緩和時間を測定することが好ましい。そして、T緩和時間および/またはT緩和時間を測定した容器内のスラリーが所定の固化状態にあると判断されれば、成形型内のスラリーを成形型から離型し、粉末成形体を得ることができる。
上記の実施形態を適用し、スラリーに含有される有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間からスラリーの固化状態を判断する場合には、T緩和時間および/またはT緩和時間の測定対象物となるスラリーを注入する容器は、プロトン(H)から発生するNMR信号が極めて少ない材質からなることがより好ましい。これによって、容器内のスラリーに含有される有機分散媒および/またはゲル化剤を構成する水素原子のプロトン(H)から発生られたNMR信号が、非常にノイズの少ない状態で計測することが可能となり、NMRのT緩和時間およびT緩和時間の測定値とスラリーのゲル化による固化状態との間でより強い相関関係がつくられる。よって、容器内のスラリーの固化状態をより正確に判断できる。プロトン(H)から発生されるNMR信号が極めて少ない材質からなる容器としては、例えば、テフロン樹脂、アクリル樹脂、およびナイロン樹脂からなる群のうち少なくとも1種の材質によって形成される容器を挙げることができる。上記のテフロン樹脂等からなる群のうち少なくとも1種の材質によって形成される容器において、その材質にテフロン樹脂を含む場合には、NMR信号の計測後にスラリーを容易に容器から取り出すことが可能になり容器の再利用に適する観点から、容器の表面のうちスラリーと接触する部分がテフロン樹脂によって形成されていることがより好ましい。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
無機粉末としてアルミナ粉末(商品名アルミナAKP−20、住友化学工業株式会社製)100質量部、およびマグネシア0.025質量部、有機分散媒としてケムレツ6080(商品名、保土ヶ谷アシュランド化学工業株式会社)27質量部およびエチレングリコール0.3質量部、ゲル化剤としてSBUイソシアナート0775(商品名、住友バイエルウレタン株式会社製)4質量部、さらに分散剤としてマリアリムAKM0351(商品名、日本油脂株式会社製)3質量部および触媒としてカオライザーNo25(商品名、花王株式会社)0.1質量部を混合し、スラリーを調製した。このスラリーをテフロン樹脂製の6個の成形型に分けて注型後、室温で静置した。なお、スラリーのゲル化は、ゲル化剤および触媒を残余の原料の混合物に添加することにより開始させた。上記6個の成形型のうちの1個の成形型内にあるスラリーを測定対象としてH−NMRのT緩和時間およびT緩和時間を測定した(結果は図3)。NMR測定装置は、MRテクノジー社製の静磁場強度0.3T(共鳴周波数12.8MHz)のCompacTsacnを用いて行った。残る5個の成形型については、それぞれゲル化開始から10,15,20,25,30,34分後に離型し、得られた粉末成形体の様子を観察した(結果は表1)。
Figure 0005567860
緩和時間およびT緩和時間が略一定値にて安定した状態になったゲル化開始25分後より後に離型して得られた粉末成形体では、固化不足やクラック発生を示すことはなかった。
本発明は、無機粉末を含みゲル化するスラリーを所望の形状に保たせたままゲル化させ固化させて成形体を得る粉末成形体の製造方法として利用できる。
1:粉末成形体、3:スラリー、11:成形型、13:底壁部、15:側壁部、17:柱部、19:収容部分、21:容器。

Claims (5)

  1. 無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、およびゲル化剤を含有し且つ前記有機分散媒と前記ゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを複数に分けてそれぞれを略同時に所望の形状にて保持させる形状保持状態に置きつつ前記スラリーを前記化学反応によって固化させると共に、前記形状保持状態置かれた複数の前記スラリーのうちの一部の前記スラリーを測定対象物として前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定して、前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記形状保持状態に置かれた前記スラリーの固化状態を判断し、前記一部のスラリーが所定の固化状態にあると判断されたときに、残余の前記スラリーを前記形状保持状態から解放して粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法。
  2. 無機粉末、反応性官能基を有する有機分散媒、およびゲル化剤を含有し且つ前記有機分散媒と前記ゲル化剤との化学反応によって固化するスラリーを成形型内と容器内とに分けて注入し、前記成形型内または前記容器内に注入された状態で前記化学反応によって前記スラリーを固化させると共に、前記容器内にある前記スラリーを測定対象物として前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する原子の原子核を観察核とするNMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定して、前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記容器内にある前記スラリーの固化状態を判断し、前記容器内にある前記スラリーが所定の固化状態にあると判断されたときに、前記成形型内にある前記スラリーを前記成形型から離型して粉末成形体を形成する粉末成形体の製造方法。
  3. 前記容器が、プロトン(H)から発生するNMR信号が極めて少ない材質からなる請求項に記載の粉末成形体の製造方法。
  4. 前記容器が、テフロン(登録商標)樹脂からなる請求項に記載の粉末成形体の製造方法。
  5. 前記スラリーに含有される前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤が水素原子を構成成分として含み、前記有機分散媒および/または前記ゲル化剤を構成する前記水素原子のプロトン(H)を前記観測核とするH−NMRのT緩和時間および/またはT緩和時間を測定し、前記プロトン(H)を前記観測核とする前記T緩和時間および/または前記T緩和時間から前記スラリーの固化状態を判断する請求項1〜のいずれか一項に記載の粉末成形体の製造方法。
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