JP5561723B2 - 半導体ナノ粒子からなる蛍光性ファイバー - Google Patents

半導体ナノ粒子からなる蛍光性ファイバー Download PDF

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Description

本発明は、半導体ナノ粒子から作製され、発光するファイバーに関する。
発光材料は今日、照明、表示材料及び各種検出装置用の3つの用途に広く使われ、我々の日常生活を支えている。この発光材料には、遷移元素イオン(遷移金属イオン又は希土類イオン)を分散させた無機マトリックスなどからなる蛍光体の他に、有機分子がある。有機分子は、近年はエレクトロルミネッセンスへの応用が進んでいる。また、有機分子には、バイオ用の蛍光試薬としての用途もある。
一方でこの10年ほどの間で、溶液法によって作製した半導体ナノ粒子が高効率の発光を示すことが見出され、遷移元素イオン、有機分子に替わる第三の蛍光体として注目されている。この半導体ナノ粒子としては、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、セレン化亜鉛等のII−VI族化合物が代表的である。半導体ナノ粒子としては、他に硫化鉛、セレン化鉛、III−V族化合物(インジウムリンなど)などが知られている。これらの半導体ナノ粒子は直径2〜12nm程度の大きさで、発光の減衰時間が短く、また粒径によって発光波長が制御できる。なお、半導体ナノ粒子が完全な球形でない場合、たとえばラグビーボール型(対称軸方向に長い回転楕円体)、パンケーキ型(偏平な回転楕円体)などの場合は、本願明細書では3つの軸の長さの平均を直径とみなす。
このような半導体ナノ粒子は、粒径が小さいために表面の割合が大きい。表面には、通常、多数の欠陥(活性点)があって、この欠陥が無輻射失活の原因となる。したがって、ナノ粒子のように粒径が小さい場合は特に、何らかの方法でこれを不活性化することが、高い発光効率を得るためには必須となる。さらに、溶液法で作製するナノ粒子は、そのままでは扱いづらく、工業的な応用を考える場合には適切なマトリックス中に安定化させる必要がある。
一方で、半導体ナノ粒子の作製方法には、有機溶液法と水溶液法とがあり、それぞれセレン化カドミウム及びテルル化カドミウムの2つが代表的なものとして知られている。半導体ナノ粒子をバイオ分野へ応用したり、ゾル−ゲル法でガラスマトリックス中に分散、安定化させたりするためには、半導体ナノ粒子が水分散性を持つことが重要である。有機溶液法で作ったナノ粒子は疎水性であり、水分散性にするためには数々の化学的操作が必要になる。この化学的操作の際に、半導体ナノ粒子の発光効率の低下、凝集などが起きることが多い。それに対して水溶液法で作製したナノ粒子は、始めから水分散性を有しているため有利である。この場合は、半導体ナノ粒子の表面が界面活性剤で覆われている。この界面活性剤は、チオール等の硫黄を含むものが好ましく用いられ、その種類及び加える量と発光効率との関係が明らかになっている(特許文献1)。
また、溶液中のナノ粒子は、自発的に集合して組織体を作る場合があることも知られている。例えば、CdSeナノ粒子を分散したトルエン溶液中に、貧溶媒であるメタノールを徐々に加えると、CdSeナノ粒子が析出して六角形の超格子構造(ナノ粒子が規則正しく配列した結晶)を作る(非特許文献1)。さらに、表面の界面活性剤の一部を取り除いたPbSナノ粒子をヘキサンとオクタンとの混合溶媒に分散させ、基板上に形成した小さい間隙に滴下して溶媒を蒸発させると規則的配列を形成する(非特許文献2)。水溶液中でのCdTeナノ粒子の合成の場合は、Cdイオンと界面活性剤(チオグリコール酸)の溶液を還流中に反応させてファイバーをつくり、さらにNaHTe溶液を加えることでこのファイバー中にCdTeナノ粒子を形成できることが報告されている(非特許文献3
)。
しかし、いずれの場合も発光スペクトル及び発光効率の値は報告されていない。半導体ナノ粒子の発光効率を保つためには、集合体を作る際にナノ粒子表面の界面活性剤を保持して表面欠陥を作らないことが最も大切である。また、界面活性剤は、溶液中で半導体ナノ粒子が不規則に凝集するのを防ぐ役割を持っている。ところが、半導体ナノ粒子を規則正しく並べた集合体を作る場合は、お互いの距離を近づける必要があるために、界面活性剤を少なくとも一部分、取り除くことが通常、行われる。界面活性剤を全て取り除くと、直ぐに不規則な凝集体を作るので、一部分は残しておくのが好都合である。このような作製法では、発光効率が大きく減少する。また、これまでに報告された集合体は、ケイ素を含むものがなく、このために作製した集合体の形状の保持が難しいという難点があった。
一方で、ケイ素を含むガラスでコートした蛍光性半導体ナノ粒子を、金属イオンとチオールとを含有し、界面活性剤を分散した水溶液中で還流すると、発光効率が増大し発光波長が長波長側へ移動することが見出された。そしてこの現象は、チオールが還流中に分解して硫黄イオンを生じ、その硫黄イオンがガラス中を拡散して金属イオンと結合してガラス中のナノ粒子の近傍でクラスター(大きさ1nm又はそれ以下)を生じるためであると説明されている。ガラス層中のナノ粒子の近傍に成長したクラスターは、ナノ粒子と一体になって複合構造を持ったガラスビーズを形成する。そして、半導体ナノ粒子中にできた励起子中の電子がクラスターへと染み出して量子サイズ効果が小さくなる。これにより、発光効率が増大し発光波長が長波長側へ移動する現象が現れると考えられた(特許文献2、非特許文献4)。このようなガラスビーズ中では、半導体ナノ粒子が多数のクラスターに周りを取り囲まれているために、半導体ナノ粒子だけで水中に分散している場合と比較して、化学的耐久性が格段に優れている。
このように、化学的耐久性に優れ、発光効率が高いガラスビーズは知られているが、高い発光効率を保持できる蛍光性ファイバーは知られていない。
国際公開第2004/065296号パンフレット 国際公開第2009/028282号パンフレット
タラピンら、アドバンスト マテリアルズ、13巻、1868ページ、2001年。 タラピンら、サイエンス、310巻、86ページ、2005年。 ニウら、アンゲバンテ ヒェミー インターナショナル エディション、45巻、6462ページ、2006年。 村瀬ら、スモール、5巻、800ページ、2009年。
本発明の目的は、ナノ粒子が集合して一定の形状を保った蛍光性ファイバー及びその製造法を提供することである。
本発明者らは、特定の方法により作製したファイバーは、発光を失わず、また、発光色は、還流時間を変えることで制御できることを見出した。さらに、この蛍光性ファイバーは、還流溶液中のケイ素以外の金属イオン、界面活性剤及びアルコキシドの量を制御する
ことで、筒状の空洞を有するチューブ、断面が四角形のファイバー等、その形態を制御できることも見出し、本発明を完成するに至った。この蛍光性ファイバーはケイ素を含むため、形状の安定性にも優れている。
即ち、本発明は、下記記載の蛍光性ファイバー、それを用いたバイオ用蛍光体及び蛍光性ファイバーの製造方法を提供する。
項1.平均粒径が2〜12nmの半導体ナノ粒子を含み、
直径が20nm〜2μm、長さが40nm〜500μm、アスペクト比が2〜1000である、蛍光発光効率が5%以上のケイ素を含む蛍光性ファイバー。
項2.ファイバーの直径の10〜80%の直径を有する筒状の空洞を有するチューブ形状である、項1に記載の蛍光性ファイバー。
項3.ファイバーの断面が四角形であるロッド形状である、項1に記載の蛍光性ファイバー。
項4.ファイバー中の半導体ナノ粒子の分散濃度が、0.0001〜0.01モル/リットルである、項1〜3のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
項5.半導体ナノ粒子がテルル化カドミウムである、項1〜4のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
項6.半導体ナノ粒子がチオールで覆われている、項1〜5のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
項7.チオールがチオグリコール酸である、項6に記載の蛍光性ファイバー。
項8.蛍光スペクトルのピーク波長が500〜900nmであり、スペクトルの半値全幅が30〜150nmである、項1から7のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
項9.エレクトロルミネッセンスを示す、項1〜8のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
項10.項1〜9のいずれかに記載の蛍光性ファイバーを用いて得られるバイオ用蛍光体。
項11.半導体ナノ粒子がケイ素を含む層で被覆された蛍光性ファイバーの製造方法であって、
(1)平均粒径が2〜12nmの半導体ナノ粒子に、ケイ素アルコキシドを用いたゾルゲル法により被覆層を形成する工程、及び
(2)アルコキシドを1×10−3〜7×10−3モル/リットル、チオールを1×10−3〜6×10−3モル/リットル、ケイ素以外の金属元素を含む化合物をチオールの25〜50モル%含有する水溶液に、工程(1)で得られた被覆層が形成された半導体ナノ粒子を1×10−6〜3×10−5モル/リットルの濃度で分散させ、40〜110℃で加熱処理する工程
を含むことを特徴とする製造方法。
項12.チオールがチオグリコール酸である、項11に記載の蛍光性ファイバーの製造方法。
本発明の蛍光性ファイバーは、半導体ナノ粒子を透明なケイ素を含むガラス層で被覆してガラスビーズを作製し、さらに特定の条件で加熱することで、ガラスビーズを自発的に集合させて作製する。ある条件ではファイバーは中空部分を持つチューブとすることもでき、このチューブの中に薬理作用のある分子を詰めれば、その分子の生体中の場所を発光によって検出することができる。
実施例1で作製したチューブ状の蛍光性ファイバーの走査電子顕微鏡写真である。 実施例2で作製したベルト状の蛍光性ファイバーの走査電子顕微鏡写真である。 実施例3で作製したロッド状の蛍光性ファイバーの走査電子顕微鏡写真である。 実施例4で作製した蛍光性ファイバーの蛍光顕微鏡写真である。光学顕微鏡であるから分解能が1μmのオーダーであり、ファイバーの直径及び形状をこの図から正確に判定することはできない。 実施例5で櫛型電極上に蛍光性ファイバーを塗布して作製したEL素子が、印加電圧36V(電界強度7.2x10V/m)において発光する様子(光学顕微鏡を用いて撮影した外観写真とEL発光像を同位置で重ね合わせて表示)である。色の濃い部分が金電極(幅10μm)、色の薄い部分が電極間のギャップ(幅5μm)である。電極間にファイバーが付着している部分が発光している。
以下、本発明について詳細に説明する。
I.蛍光性ファイバー
本発明の蛍光性ファイバーは、平均粒径が2〜12nmの半導体ナノ粒子を含み、直径が20nm〜2μm程度、長さが40nm〜500μm程度、アスペクト比が2〜1000程度で、ケイ素を含む。この蛍光性ファイバー中の半導体ナノ粒子は、ケイ素を含む層でコートされているのが好ましい。このように、本発明の蛍光性ファイバーは、ファイバーの形状を有することで、粒子形状の蛍光体と比較し、長手方向に電圧を印加して発光を得ることも可能である。このことは、従来の粒子形状の蛍光体では得られなかった利点である。さらにファイバー中に空洞がある場合(特にチューブ状の場合)は、内部に所望の物質を充填して生体内に分散させ、分散位置を蛍光で知ることができるなどの利点もある。
また、本発明の蛍光性ファイバーは、蛍光発光効率が5%以上である。
この蛍光性ファイバーは、通常、半導体ナノ粒子の作製、半導体ナノ粒子の被覆、加熱処理を経て作製されるので、以下にその工程を説明する。なお、実施例に示したように、この手順によらず、例えば加熱処理を行わなくても蛍光性ファイバーを作製できる。
半導体ナノ粒子の作製
本発明で使用する半導体ナノ粒子としては、水分散性を有する蛍光性半導体ナノ粒子が好適に用いられ、例えば、直接遷移を示すII−VI族又はIII−V族の化合物半導体であって、可視領域で発光するものが挙げられる。このような半導体ナノ粒子としては、例えば、亜鉛、カドミウム、水銀、硫黄、セレン、テルル、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リン、ヒ素、アンチモン及び鉛よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むも
のが例示される。具体的には、例えば、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム等が挙げられ、好ましくはセレン化亜鉛又はテルル化カドミウムであり、特に好ましくはテルル化カドミウムである。他に硫化鉛;セレン化鉛;III−V族半導体であるインジウムリン、ガリウムヒ素;及びそれらの混合物等も例示される。
これらの半導体ナノ粒子は、李ら、ケミストリー レターズ、34巻、92ページ(2005年)に従って又は準じて製造することが出来る。
具体的には、例えば、II族元素を含む水溶性化合物及び界面活性剤を溶解したアルカリ性水溶液中に、不活性雰囲気下においてVI族元素化合物を導入することによって、II−VI族半導体を得ることができる。VI族元素化合物は、気体状のものを用いることもできる。
II族元素を含む水溶性化合物としては、過塩素酸塩が好ましく、例えば、II族元素がカドミウムである場合には、過塩素酸カドミウムを用いることができる。水溶液中のII族元素を含む水溶性化合物の濃度は、通常、0.001〜0.05モル/リットル程度、さらに0.01〜0.02モル/リットル程度、特に0.013〜0.018モル/リットル程度とすることが好ましい。
界面活性剤としては、疎水基であるチオール基と親水基とを有するものが好ましい。親水基としては、カルボキシル基等のアニオン性基、アミノ基等のカチオン性基、水酸基等を例示できるが、特に、カルボキシル基等のアニオン性基が好ましい。この界面活性剤の具体例としては、チオグリコール酸(TGA)、チオグリセロール、メルカプトエチルアミン等、好ましくはTGAを例示できる。界面活性剤の使用量は、水溶液中に含まれるII族元素イオン1モルに対して、通常1〜2.5モル程度、特に1〜1.5モル程度とすることが好ましい。界面活性剤の使用量が上記範囲を上回るか又は下回ると、得られる半導体ナノ粒子の発光効率が低下する傾向がある。
VI族元素化合物としては、例えば、VI族元素の水素化物等を用いることができ、VI族元素がテルルである場合には、テルル化水素を用いることができる。その他、テルル化水素を水酸化ナトリウムと反応させて得られるテルル化水素ナトリウムを水溶液として導入することも可能である。VI族元素化合物の使用量は、通常、II族イオン1モルに対して、VI族イオンが0.3〜1.5モル程度であればよく、さらに0.4〜0.9モル程度とすることが好ましい。
半導体ナノ粒子の製造に用いる水は高純度の水を用いることが好ましい。特に、比抵抗18MΩ・cm以上、且つ水中の有機系化合物の総量(TOC)が5ppb以下、好ましくは3ppb以下の超純水を用いることがより好適である。この様な高純度の水で反応容器等を充分に洗浄し、更に、反応溶媒としても高純度の水を用いることよって、優れた発光性能を有する半導体ナノ粒子を得ることが可能となる。
上記反応は、通常、不活性雰囲気下において、II族元素を含む水溶性化合物及び界面活性剤を溶解した水溶液中に、気体状のVI族元素化合物をバブリングさせるか、気体状のVI族化合物を水酸化ナトリウム溶液と反応させて水溶液とした後、注射器等でII族元素を含む水溶性化合物及び界面活性剤を溶解した水溶液中に注入することによって行うことができる。
不活性雰囲気としては、反応に関与しない気体の雰囲気であればよく、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気を好適に利用できる。
上記反応は、通常、室温(例えば、10〜30℃程度)において行うことができる。水溶液のpHは、10〜12程度、特に10.5〜11.5であることが好ましい。反応は、通常、VI族化合物を導入後、10分程度以内に終了する。
その後、大気中で還流することにより、所望のサイズの半導体ナノ粒子が分散した水溶液を得ることができる。
このようにして製造される半導体ナノ粒子は、平均粒径2〜12nm程度、好ましくは2〜8nm程度、さらに好ましくは3〜7nm程度の範囲にある。この平均粒径は、還流時間によって制御することができる。また、例えば、平均粒径は透過電子顕微鏡により測定できるし、半導体の組成がわかっていれば、蛍光ピーク波長から換算することもできる。単色の発光を得るためには、還流時間を一定に制御し、半導体ナノ粒子の粒径分布の分散の標準偏差が、平均粒径に対して20%以下、好ましくは15%以下となるようにすればよい。
例えば、テルル化カドミウム又はセレン化カドミウムの場合、平均粒径は2〜5nm程度である。還流時間を長くすると、粒径を大きくすることができる。該半導体ナノ粒子の発光色は粒径によって決まり、粒径が小さいほど短波長の発光を示す。半導体ナノ粒子の粒径を揃えれば単色の発光が得られる。
この様にして得られる半導体ナノ粒子の水溶液(水分散液)には、通常、原料として用いたII族元素のイオン、界面活性剤等が含まれる。この半導体ナノ粒子の水溶液をそのまま無機マトリックス中に分散、乾燥させて蛍光体とすることができる。
さらに、該水溶液に含まれる半導体ナノ粒子を、粒子径のそろった半導体ナノ粒子毎に分離することもできる。例えば、半導体ナノ粒子の粒径が大きくなるほど溶解度が低くなることを利用して、該ナノ粒子の水溶液にイソプロパノール等のアルコール又はアセトン等のケトンを貧溶媒として添加することで、サイズの大きなナノ粒子から順に沈殿させ、さらに遠心分離器にかけて分離することができる。
この様にして精製した半導体ナノ粒子を水に再分散させて水溶液とすることもでき、この場合も該ナノ粒子は高い発光効率を示す。該水溶液はそのままでもある程度は安定であるが、該水溶液にさらにII族元素を含む水溶性化合物及び界面活性剤を添加することによって、水溶液の安定性を向上させて凝集を防ぎ、発光効率を保つことができる。II族元素化合物の種類、該化合物の濃度、界面活性剤の量、水溶液のpH等は、上述したII−VI族半導体ナノ粒子を作製するために用いる水溶液と同様の範囲に調製すればよい。
具体的には、II−VI族半導体ナノ粒子(1×10−7〜3×10−6モル/リットル程度、好ましくは、3×10−7〜2×10−6モル/リットル程度)、II−VI族半導体ナノ粒子の原料であるII族元素を含む水溶性化合物(II族元素イオン)(0.001〜0.05モル/リットル程度、好ましくは0.01〜0.02モル/リットル程度、より好ましくは0.013〜0.018モル/リットル程度)、及び界面活性剤(水溶液中に含まれるII族元素イオン1モルに対し0.5〜5モル程度、好ましくは1〜1.5モル程度)を含むpH10〜12程度(好ましくは、10.5〜11.5程度)の水溶液が好適である。
その他に、セレン化カドミウム等の半導体ナノ粒子は、有機金属の熱分解を利用して有機溶媒中で作製することもできる。この半導体ナノ粒子表面をTGA等のチオール系の界面活性剤で置換したものも水分散性を有するので、半導体ナノ粒子の水溶液として用いることができる。これは、公知の方法(バベンディーら、特表2002−525394号公
報)として知られている。
セレン化亜鉛ナノ粒子を用いる場合には、TGA等を界面活性剤として用いて上記の方法で作製した後に紫外線照射処理を行うと、発光効率が35%程度にまで上昇する。詳しくは、李ら、コロイズ アンド サーフェスイズ エー、294巻、33ページ(2007年)に記載の方法によって行う。他に、III−V族のインジウムリン、ガリウムヒ素等も使用可能である。
半導体ナノ粒子の被覆
上記で作製した半導体ナノ粒子分散液を用いて、半導体ナノ粒子の表面に金属アルコキシドを用いたゾルゲル法により被覆層をコートする。特に、ケイ素アルコキシドを用いた場合には、透明なケイ素を含むガラス層が形成される。
その方法の一例では、水に分散した半導体ナノ粒子に金属アルコキシドを添加し、さらにアルカリ性にして攪拌する。これにより、加水分解した金属アルコキシドが半導体ナノ粒子表面に接着して該ナノ粒子表面を覆い、ガラス層等の被覆層で被覆された半導体ナノ粒子が形成される。
半導体ナノ粒子分散液に、先に説明したように半導体ナノ粒子の構成元素が分散していると、それらは自然にガラス層に取り込まれる。
具体的には、金属アルコキシド、半導体ナノ粒子の原料となる金属元素を含む化合物(特に、ケイ素以外の金属元素を含む)、界面活性剤及び水を含む水溶液(組成物)を用いて、ゾル−ゲル法により該半導体ナノ粒子の表面に被覆層を形成する。
ここで、ケイ素以外の金属としては、半導体ナノ粒子の原料に用いられる金属を含むものであり、例えば、II族の亜鉛、カドミウム、水銀;III族のアルミニウム、ガリウム、
インジウム等が挙げられ、他に鉛、銅等も挙げられる。なお、これらケイ素以外の金属を含む化合物としては、それぞれの金属の塩、例えば過塩素酸化合物、塩化物、酢酸塩等が使用できる。
なお、本発明では、上記で作製した半導体ナノ粒子の水分散液をそのまま用いずに、作製した半導体ナノ粒子を単離しこれを水に再分散させたものを用いることもできる。具体的には、半導体ナノ粒子分散液に、貧溶媒のアルコール、ケトン等を添加することでサイズの大きな半導体ナノ粒子から順に沈殿することを利用し、特定の大きさの粒子を遠心分離により取り出すことができる。
その後に、クラスターの成分となる金属イオンとそのカウンターイオンを供給する物質、例えば半導体ナノ粒子としてテルル化カドミウムを使用する場合には、その構成元素であるカドミウムイオンを供給するカドミウム塩と硫黄イオンを供給するチオール、好ましくはチオグリコール酸(TGA)とを分散させてから金属アルコキシドを加えてガラスコートする。これにより、これらの元素がガラス層にも取り込まれる。
次に、ガラスコートされた半導体ナノ粒子を加熱することでこれら元素がクラスターに成長すると推定される。さらに、半導体ナノ粒子の構成元素とは別の元素を分散させておくことで、半導体ナノ粒子とは別の種類のクラスターを成長させることも可能である。これにより、ガラスビーズが形成される。
コートする際に用いる金属アルコキシドとしてはケイ素アルコキシドが好ましく、該ケイ素アルコキシドとしてはテトラメトキシオルソシリケート、テトラエトキシオルソシリ
ケート(TEOS)等の4官能のケイ素アルコキシドが好適に用いられる。これらのケイ素アルコキシドは、
一般式(I):
Si(OR (I)
(Rは炭素数1〜4の低級アルキル基)
で表されるものである。
上記一般式(I)で表される化合物以外に、有機官能基がついたアミノプロピルトリエトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等の3官能のケイ素アルコキシドを用いたり、4官能のアルコキシドに3官能のアルコキシドを一部、添加したりすることも可能である。ここで、3官能のケイ素アルコキシドは、
一般式(II):
−Si(OR4−p (II)
(式中、Rはアミノ基、チオール基又はカルボキシル基を有する炭素数1〜4の低級アルキル基、Rは炭素数1〜4の低級アルキル基を示し、pは1、2又は3を示す)
で表される化合物である。この、一般式(II)で表される化合物は、1個のSi原子に、上記Rで表される有機官能基と、上記ORで表されるアルコキシ基の両方が結合しているものであり、アルコキシドの中でも、特にシランカップリング剤と総称される。
また、溶液をアルカリ性にするためにはアンモニア、水酸化ナトリウム等を用いるが、特にアンモニアが好ましい。
加熱処理
本発明では、上記で作製したガラス層等の被覆層で被覆された半導体ナノ粒子を、アルコキシド、チオール、及びケイ素以外の金属元素を含む化合物を分散した溶液中で加熱する。これにより、驚くべきことに、従来は作製が困難であった本発明の蛍光性ファイバーが能率的に形成される。
ここで、アルコキシド、チオール、及びケイ素以外の金属元素を含む化合物としては、上記で説明したものを使用することができる。また、それぞれの物質の濃度は、アルコキシドを1×10−3〜7×10−3モル/リットル(より好ましくは3×10−3〜5×10−3モル/リットル)、チオールを1×10−3〜6×10−3モル/リットル(より好ましくは2×10−3〜4×10−3モル/リットル)、ケイ素以外の金属元素を含む化合物をチオールの25〜50モル%(より好ましくは30〜40モル%)含有する水溶液に、上記で得られた被覆層が形成された半導体ナノ粒子を1×10−6〜3×10−5モル/リットル(より好ましくは1.5×10−6〜2×10−5モル/リットル)の濃度で分散させることが好ましい。
なお、本発明の蛍光性ファイバーの形態は、上記の分散させる物質の濃度によって決まる。例えば、半導体ナノ粒子としてCdTeナノ粒子、アルコキシドとしてTEOS、チオールとしてTGAを用いた場合には、チューブ形状、ベルト形状、ロッド形状の蛍光性ファイバーを形成するには、それぞれの物質のモル濃度を以下の表1の範囲とすればよい。
Figure 0005561723
ただし、半導体ナノ粒子のモル濃度は、表1の左欄に示したように、1×10−6を省いた形で記入している。また、ケイ素以外の金属元素としてカドミウムを用いる場合には、そのモル濃度は、表1のTGAのモル濃度の25〜50モル%とするのが好ましく、さらに30〜40モル%がより好ましい。
なお、半導体ナノ粒子の濃度は、ナノ粒子の吸収スペクトルを文献値(II−VI族半導体ナノ粒子の場合は、ウイリアム ユーら、ケミストリー オブ マテリアルズ、15巻、2854ページ、2003年及び村瀬ら、ナノスケール リサーチ レターズ、2巻、230ページ、2007年)と比較することで求められる。
この際に使用する溶液のpHは、8〜10.5程度が好ましく、9〜10程度が更に好ましい。また、pHの制御は、水酸化ナトリウムを添加することで行える。
加熱温度は、通常40〜110℃程度であればよく、好ましくは70〜110℃、より好ましくは80〜90℃である。水溶液の沸点よりもわずかに低い温度で還流させることで、アンモニア等の成分が過度に揮発するのを効果的に抑止することができる。なお、加熱によらなくとも還流するだけでも蛍光性ファイバーの作製は可能であるが、加熱する方が蛍光性ファイバー作製にかかる時間を短縮し、また、収穫量を増やすことができる。なお、加熱時間が長いと、蛍光性ファイバーの長さが長くなる傾向がある。
なお、加熱により、ガラス層表面に新たな金属アルコキシドの付加が生じ、ガラスビーズの大きさが若干増加することが多い。時間とともに発光波長は赤色側にシフトするため、その変化をモニターしながら、所望の波長が得られるまで加熱すればよい。
このような加熱過程により、ガラスビーズ同士が自発的に集まり、一定の形態の蛍光性ファイバーを形成し、溶液中の濃度に応じた形態の沈殿物として収穫できる。
このようにして形成した本発明の蛍光性ファイバーは、直径が20nm〜2μm程度(好ましくは100nm〜1μm程度)、長さが40nm〜500μm程度(好ましくは500nm〜200μm程度)、アスペクト比が2〜1000程度(好ましくは10〜100程度)のものである。なお、作製後、粉砕してアスペクト比を低下させることも可能である。
また、本発明の蛍光性ファイバーをチューブ形状とした場合には、蛍光性ファイバーの直径の10〜80%程度、好ましくは15〜50%程度の直径を有する筒状の空洞を有するものをつくることができ、ロッド形状とした場合には、その断面を四角形とすることができる。また、ベルト状とした場合には、その面が平坦である必要はなく、反り返っていてもよい。
なお、本発明の蛍光性ファイバーを、断面が四角形のロッド形状又はベルト形状とした場合には、直径とは、断面の長辺(長いほうの辺)のことを言う。
また、このようにして作製した本発明の蛍光性ファイバーは、水溶液中のガラスビーズと同等の蛍光スペクトルを示す。この蛍光スペクトルは、ピーク波長が500〜900nm程度、好ましくは550〜700nm程度であり、スペクトルの半値全幅が30〜150nm、好ましくは35〜100nm程度である。また、本発明の蛍光性ファイバーの蛍光発光効率は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。ここでの発光効率は、励起光を吸収した後に蛍光を発する確率として定義され、外部量子効率と呼ばれることもある。本発明の蛍光性ファイバーは励起光を散乱するので、この発光効率は積分球を用いて
測定するほうが正確である。これらの測定は、市販の装置(例えば、浜松ホトニクス(株)製のC9920−12)を用いて行うことができる。
本発明の蛍光性ファイバーは、水に懸濁させて吸収スペクトルを測定することができる。この場合は、散乱の影響が現れるが、これは短波長に向けて滑らかに増大するので除去することができ、散乱を含んだスペクトルからナノ粒子の第一吸収ピーク波長での吸光度を求めることができる。このようにして求めた吸光度、モル吸光係数、分散させたファイバーの質量及び比重から、蛍光性ファイバー中の半導体ナノ粒子の濃度を見積もることができる。この濃度を適当に保つことで、発光の輝度を低下させないとともに、半導体ナノ粒子同士の距離を適度に保ち、濃度消光と呼ばれる現象により、励起エネルギーの移動が起きて発光効率が低下するのを抑制できる。このような観点から、蛍光性ファイバー中の半導体ナノ粒子の濃度は、0.0001〜0.01モル/リットルであることが好ましい。さらに、0.0005〜0.005モル/リットルであることがより好ましい。
II.蛍光性ファイバーの用途
本発明の蛍光性ファイバーは、発光効率が高く、発光スペクトル幅が狭い。また、チューブ状の形態を示すものも作製できる。このチューブの中に薬理作用のある分子を詰めることで、その分子の生体中の場所を発光によって検出することができるため、バイオ用蛍光体等として有用である。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
製造例1
チオグリコール酸(TGA)で表面を保護したCdTeナノ粒子は、公知の方法(李、村瀬、ケミストリー レターズ、34巻、92ページ、2005年)によって作製した。すなわち、過塩素酸カドミウム(6水和物、1.095g)を水200ミリリットルに溶かし、これに界面活性剤のTGAを過塩素酸カドミウムに対し、1.25倍モル加えた。これに、1規定水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pH11.4に調整した。30分脱気した後、不活性雰囲気下、激しく攪拌しながらテルル化水素ガスを導入した。さらに10分間の攪拌後、コンデンサーをつけて約100℃で還流した。還流とともにテルル化カドミウム粒子が成長し、およそ20分で緑色発光のTGAで被覆されたCdTeナノ粒子(直径約2.6nm)が分散した水溶液を得た。この緑色発光のナノ粒子の発光効率は24%であった。
次にこのCdTeナノ粒子を沈殿させた後、TGA0.02モル/リットル、過塩素酸カドミウム0.007モル/リットルを含む水に濃度3×10−5モル/リットルの濃度で分散させた。この溶液を4ミリリットル取り出し、さらにアンモニア水(6.25重量%)を50マイクロリットル、テトラエトキシオルソシリケート(TEOS)を100マイクロリットル加えた後に、2時間攪拌した。これにより、ナノ粒子表面にシリカ層がコーティングされた。
実施例1
TEOS及びTGAを表2のモル濃度で含有した水溶液に、製造例1で作製した、シリカコートされたCdTeナノ粒子を表2に示したモル濃度で分散させ、さらにTGAの33%のモル濃度(0.0003モル/リットル)で過塩素酸カドミウムを分散させた。この溶液を90℃で2時間還流したところ、平均長さ50μm程度、アスペクト比50〜200程度のチューブ形状の蛍光性ファイバーが作製された。
Figure 0005561723
このチューブ形状の蛍光性ファイバーを走査型電子顕微鏡で観察すると、図1のようであった。図1において、a(1)は、aの一部を拡大したものであるが、それによると、直径500nm程度の蛍光性ファイバーの中に、直径150nm程度の中空部分があり、チューブ形状となっていることが確認できる。このとき、内部に、蛍光性ファイバーの直径の30%程度の筒状の空洞を有している。また、図1において、bは、電顕観察用グリッド上の別の部分のファイバーの観察像である。それによると、直径650nm程度の蛍光性ファイバーの中に、直径150nm程度の中空部分があり、チューブ形状となっていることが確認できる。このとき、内部に、蛍光性ファイバーの直径の23%程度の筒状の空洞を有している。
浜松ホトニクス(株)製の外部量子効率測定装置(C9920−12)により積分球を用いる方式によりこのチューブの発光効率を励起波長365nmにて測定したところ、16%であった。また、発光ピーク波長は625nm、発光スペクトルの半値全幅は、47nmであった。
さらに、このチューブ状の蛍光性ファイバーを水に懸濁させて、吸収スペクトルを測定した。短波長側に向けて滑らかに増加する散乱曲線から、ナノ粒子の吸収に由来する第一吸収ピークの吸光度を読み取ることができた。モル吸光係数がわかっているので、さらにファイバーの重量と、比重を用いることで、このチューブの中に分散している半導体ナノ粒子の濃度を0.002モル/リットルと見積もることができた。この結果から、チューブ中でのナノ粒子同士の平均距離はおよそ9nmと計算される。この距離が5nm程度になると、ナノ粒子間で励起エネルギーの移動が起きる。これは濃度消光と呼ばれる現象で、これによって発光効率は大きく低下する。今回のファイバーのように、ナノ粒子が適度な間隔で分散していることが、発光効率の保持に役立ち、また、濃度が高いので、輝度の向上にも役立つ。
次に、加熱時間と蛍光性ファイバーの平均長さとの関係を測定した。この実施例の条件では、30分程度の加熱で5μm、1時間程度の加熱で20μm、2時間程度の加熱では表2に示したように50μm、さらに3時間程度の加熱で60μmの長さになった。発光効率は、還流時間1時間のとき25%で最大となった。このときの発光ピーク波長は600nm、発光スペクトルの半値全幅は、42nmであった。
実施例2
実施例1と同じ方法によりシリカコートCdTeナノ粒子を作製した。
次に、TEOS及びTGAを表3のモル濃度で含有した水溶液に、シリカコートCdTeナノ粒子を表3に示したモル濃度で分散させ、さらにTGAの33%のモル濃度で過塩素酸カドミウムを分散させた。この溶液を90℃で2時間還流したところ、平均長さ50μm程度のベルト状の蛍光性ファイバーが作製された。
Figure 0005561723
このベルト形状の蛍光性ファイバーを走査型電子顕微鏡で観察すると、図2のようであった。図2のa(2)は、a(1)の一部を拡大したものであるが、そのクロスセクション(Cross section)と示したところでは断面形状が示されており、幅0.5μm、反った部分の全体の高さ0.1μm、三日月状の断面の厚みの最大値は30nmであった。従って、アスペクト比は100程度となった。このベルト形状の蛍光性ファイバーの発光効率を励起波長365nmにて測定したところ、10%であった。また、発光ピーク波長は599nm、発光スペクトルの半値全幅は48nmであった。さらに、このベルトの中に分散している半導体ナノ粒子の分散濃度は、0.004モル/リットルと見積もられた。
さらに、エネルギー分散型蛍光X線分析装置によって組成分析を行ったところ、モル比にしてS/Cdが1.55、Si/Cdが0.58となり、ケイ素が含まれていることが確認できた。
なお、還流時間を1時間に減少させると、発光ピーク波長は585nm、発光スペクトルの半値全幅は50nmとなった。還流時間が3時間の場合は、発光ピーク波長は 619nm、発光スペクトルの半値全幅は48nmであった。
実施例3
実施例1と同じ方法によりシリカコートCdTeナノ粒子を作製した。
次に、TEOS及びTGAを表4のモル濃度で含有した水溶液に、シリカコートCdTeナノ粒子を表4に示したモル濃度で分散させ、さらにTGAの33%のモル濃度で過塩素酸カドミウムを分散させた。この溶液を90℃で2時間還流したところ、平均長さ40μm程度のロッド形状の蛍光性ファイバーが作製された。
Figure 0005561723
このロッド形状の蛍光性ファイバーを走査型電子顕微鏡で観察すると、図3のようであった。図3のb(2)は、b(1)の一部を拡大したものであるが、断面が四角形で、中には中空部分がないことが確認できる。このロッドの長辺の長さは300nm〜2μm程度であった。従って、アスペクト比は20〜130程度となった。また、断面の四角形は長方形であり、その長辺と短辺の長さの比(長辺/短辺)は1.5程度であった。このロッドの発光効率を励起波長365nmにて測定したところ、21%であった。また、発光ピーク波長は605nm、発光スペクトルの半値全幅は46nmであった。さらに、このベルトの中に分散している半導体ナノ粒子の分散濃度は、0.002モル/リットルと見
積もられた。
なお、還流時間を1時間に減らした場合には、発光ピーク波長は591nm、発光スペクトルの半値全幅は47nmであった。
実施例4
還流によらなくても、時間をかければ蛍光性ファイバーを作製することが可能であった。
TGAの濃度0.005モル/リットル、TEOSの濃度0.02モル/リットルで分散した水溶液に、さらにTGAの33%のモル濃度で過塩素酸カドミウムを分散させた。
さらに、実施例1で作製したガラスコートCdTeナノ粒子を5×10−5モル/リットルの濃度で分散させて2日間、室温にて放置すると、長さ約20μmの蛍光性ファイバーが成長することが、図4の蛍光顕微鏡観察像から示された。このときの発光ピーク波長は550nm、半値全幅は50nmであった。また、発光効率は23%であった。
実施例5
実施例3で作製したロッド状の蛍光性ファイバー(蛍光発光色:赤色)を、水で湿潤させ、ガラス基板上の櫛型金電極(電極幅10μm、電極間ギャップ幅5μm、(株)ビー・エー・エス製)上に薄く塗布し、室温・大気中で1日乾燥させた。このファイバー塗布櫛型電極を、直流定電圧電源に接続し、光学顕微鏡((株)ニコン製、エクリプス80i蛍光顕微鏡を励起光なしで使用)下でエレクトロルミネッセンス(EL)発光を調べた。
印加電圧を0Vから上げると、13V(電界強度2.6×10V/m)から赤色のEL発光が確認でき、使用した電源による上限電圧である36V(電界強度7.2×10V/m)に至るまで、印加電圧を高めるにつれてEL発光強度が高くなった。EL発光の色は、紫外線励起による蛍光発光と同じく赤色であった。発光しているEL素子の細部を観察したところ、図5に示すように、櫛型電極間のギャップ付近でファイバーが発光していることが確認できた。

Claims (12)

  1. 平均粒径が2〜12nmの半導体ナノ粒子を含み、
    直径が20nm〜2μm、長さが40nm〜500μm、アスペクト比が2〜1000である、蛍光発光効率が5%以上のケイ素を含む蛍光性ファイバー。
  2. ファイバーの直径の10〜80%の直径を有する筒状の空洞を有するチューブ形状である、請求項1に記載の蛍光性ファイバー。
  3. ファイバーの断面が四角形であるロッド形状である、請求項1に記載の蛍光性ファイバー。
  4. ファイバー中の半導体ナノ粒子の分散濃度が、0.0001〜0.01モル/リットルである、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
  5. 半導体ナノ粒子がテルル化カドミウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
  6. 半導体ナノ粒子がチオールで覆われている、請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
  7. チオールがチオグリコール酸である、請求項6に記載の蛍光性ファイバー。
  8. 蛍光スペクトルのピーク波長が500〜900nmであり、スペクトルの半値全幅が30〜150nmである、請求項1から7のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
  9. エレクトロルミネッセンスを示す、請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光性ファイバー。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の蛍光性ファイバーを用いて得られるバイオ用蛍光体。
  11. 半導体ナノ粒子がケイ素を含む層で被覆された蛍光性ファイバーの製造方法であって、
    (1)平均粒径が2〜12nmの半導体ナノ粒子に、ケイ素アルコキシドを用いたゾルゲル法により被覆層を形成する工程、及び
    (2)アルコキシドを1×10−3〜7×10−3モル/リットル、チオールを1×10−3〜6×10−3モル/リットル、ケイ素以外の金属元素を含む化合物をチオールの25〜50モル%含有する水溶液に、工程(1)で得られた被覆層が形成された半導体ナノ粒子を1×10−6〜3×10−5モル/リットルの濃度で分散させ、40〜110℃で加熱処理する工程
    を含むことを特徴とする製造方法。
  12. チオールがチオグリコール酸である、請求項11に記載の蛍光性ファイバーの製造方法。
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