この発明に係る輸液装置及び輸液セットについて、図面を参照して、説明する。この発明に係る輸液装置の一実施例である輸液装置1は、図1に示したように、患者に投与する輸液を貯蔵する輸液貯蔵容器10と、輸液貯蔵容器10に一端が接続され、他端が患者に設けられた輸液注入部材例えばカテーテル(図1において図示しない。)に接続される輸液チューブ20と、輸液貯蔵容器10から輸液注入部材まで輸液チューブ20の流路内で輸液貯蔵容器10に貯留された輸液を送液する輸液ポンプ30と、後述する弁装置5とを備えている。換言すると、輸液装置1は、図1に示すように、輸液貯蔵容器10と、後述する輸液セット3と、輸液ポンプ30とを備えている。この輸液装置1は、図1に示すように、輸液チューブ20に、点滴筒7とクレンメ8とが上流方向からこの順で介装されている。
そして、この発明に係る輸液セット3は、弁装置5における弁本体40(この例において、弁本体40として後述する可撓性弁体41が採用されている。)を収容した輸液チューブ20と、弁装置5における保持部60を有し、輸液チューブ20を支持固定する支持板9とを備えている。また、この輸液セット3は、前述のとおり点滴筒7とクレンメ8とを備えている。
したがって、この輸液装置1における輸液セット3は、具体的には、点滴筒7と刺針21Aを備えた一端が輸液貯蔵容器10に接続され、他端が点滴筒7に接続される第1の輸液チューブ21と、一端が点滴筒7に接続され、他端がクレンメ8に取り付けられる第2の輸液チューブ22と、一端がクレンメ8に取り付けられ、他端が輸液注入部材に接続され、かつ、弁装置5の弁本体40を収納した第3の輸液チューブ23と、第3の輸液チューブ23を保持する弁装置5の保持部60が形成された支持板9とを備えてなる。この輸液セット3は、前記第1の輸液チューブ21が輸液貯蔵容器10に接続され、かつ前記第3の輸液チューブ23が輸液ポンプ30に装着されて、輸液装置1を構成する。
この発明に係る輸液装置1及び輸液セット3における輸液貯蔵容器10は、所定量の輸液を貯蔵した容器であればよく、例えば、所定量の輸液を貯蔵したプラスチック製の輸液バッグ、所定量の輸液を貯蔵したプラスチック製又は金属製の輸液ボトル等が挙げられる。この輸液貯蔵容器10の一端部には、第1の輸液チューブ21の一端に設けられた刺針21Aが穿刺される被穿刺部11が形成されている。この輸液貯蔵容器10は、通常、前記輸液注入部材の位置よりも高所に、前記被穿刺部11が下方になるように、例えばスタンド等に吊り下げられる。
輸液貯蔵容器10に貯蔵される輸液は、例えば血液、ブドウ糖、生理食塩水、栄養剤等が挙げられる。
輸液チューブ20、この例においては第1の輸液チューブ21、第2の輸液チューブ22及び第3の輸液チューブ23は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂、塩化ビニール等の可撓性を有する材料で管体として形成されている。この輸液チューブ20は、後述する輸液ポンプ30によって輸液貯蔵容器10に貯蔵されている輸液を移送する移送路となる。そして、輸液チューブ20、この例においては第3の輸液チューブ23は、この発明に係る弁装置の弁が収容されると共に、後述する輸液ポンプ30の輸液チューブ固定部31に固定され、前記輸液注入部材に直接又は他の接続部材例えばジョイント、他の輸液チューブ等を介して接続される。この発明に係る弁装置については後述する。
輸液ポンプ30は、所定量の輸液を所定の速度で移送することのできる輸液ポンプであればよく、例えば医療用輸液ポンプ等が挙げられる。医療用輸液ポンプとしては、具体的には、フィンガーと称される突起を複数備えてなるフィンガー式ペリスタルティックポンプや、図1に概略的に示したように、遊星ローラ機構を備えてなるローラーポンプ等が挙げられる。これらのポンプは、フィンガーの蠕動運動又はローラの回転運動によって、輸液チューブ20の側面を扱くように押圧して、輸液チューブ20内の輸液を一定方向に移送することができる。このようないわゆるチューブポンプを用いて、フィンガーの蠕動運動又はローラの回転運動における運動速度、駆動時間等を適宜設定することで、目的の流速及び移送量で輸液を移送することができる。
図1に示したローラポンプは、輸液装置1等の医療用輸液ポンプとしてよく用いられるポンプであり、一般にローラ機構32と、所定の間隔をあけてローラ機構32の円周方向に延びる輸液チューブ固定部31と、輸液チューブ固定部31及びローラ機構32を支持する筐体33と、操作部(図1に図示しない。)と、表示部(図1に図示しない。)とを備えてなる。
筐体33は、通常金属製であり、筐体33には、ローラ機構32を回転駆動させるモータと、このモータの回転速度、回転間隔等を制御する制御部、表示装置、操作機構等が収納されている。
ローラ機構32は、図1に示したように、円板状をなす1対のローラディスクのあいだにその円周方向に等間隔で複数個この例においては8個のローラをそれぞれ回転可能に支持した遊星ローラ機構である。このローラ機構32は筐体33に回転可能に軸支されている。
輸液チューブ固定部31は、前記ローラとの距離が輸液チューブ20の外径よりも小さな距離となるように、ローラ機構32の周方向に沿って、筐体33に立設されている。そして、輸液チューブ20は、輸液チューブ固定部31とローラ機構32との間隙に装入固定される。輸液チューブ20がこの間隙に装入固定されると、輸液チューブ20は円柱状突起部と輸液チューブ固定部31とで部分的に強く押圧される。この状態で、ローラ機構32が回転駆動すると、円柱状突起部で押圧された輸液チューブの押圧部がローラ機構32の回転方向に移動し、換言すると輸液チューブ20が蠕動運動する。このようにして、輸液チューブ20内の輸液がローラ機構32の回転方向に移送される。このときの輸液の移送量は、ローラによる輸液チューブの押圧量(ローラと輸液チューブ固定部31との距離)及びローラの配列間隔等によって適宜設定することができる。
点滴筒7は、透明な筒体であり、輸液の移送速度を確認するための部材である。クレンメ8は、手動で輸液の移送を調節することのできる部材である。これら点滴筒7及びクレンメ8は、輸液装置及び輸液セットに通常用いられる点滴筒及びクレンメを特に制限されることなく用いることができる。なお、この発明においては、これら点滴筒7及びクレンメ8は任意の構成要素であり、この発明に係る輸液装置及び輸液セットは、点滴筒7やクレンメ8を備えていなくてもよい。
この発明に係る輸液装置の別の一実施例である輸液装置2は、図2に示したように、この発明に係る弁装置が設けられる位置が異なること以外は、前記輸液装置1と基本的に同様である。すなわち、輸液装置2は、輸液貯蔵容器10と輸液チューブ20と輸液ポンプ30と点滴筒7とクレンメ8とを備えている。換言すると、輸液装置2は、図示したように、輸液貯蔵容器10と後述する輸液セット4と輸液ポンプ30とを備えている。そして、この輸液装置2における輸液セット4は、第1の輸液チューブ21、第2の輸液チューブ22及び第3の輸液チューブ23を有し、弁装置5における弁本体40(この例において、弁本体40として後述する可撓性弁体41が採用されている。)を収容した輸液チューブ20と、弁装置5における保持部60と、点滴筒7と、クレンメ8とを備え、輸液セット3と異なり、支持板9を備えていない。この輸液セット4は、前記第1の輸液チューブ21が輸液貯蔵容器10に接続され、かつ前記第3の輸液チューブ23が輸液ポンプ30に装着されて輸液装置2を構成する。
この輸液装置2及び輸液セット4において、この発明に係る弁装置は輸液セット3と同様に第3の輸液チューブ23に介装され、前記弁装置を構成する保持部60は輸液貯蔵容器10を吊り下げるスタンド(図示しない。)に装着可能な環状装着部材(図示しない。)として前記輸液チューブ20とは別体として構成され、前記スタンドに装着されている。図2には、この環状装着部材を前記スタンドに装着し、この環状装着部材に形成された保持部60に第3の輸液チューブ23を保持した状態を示している。
この発明に係る輸液装置及び輸液セットは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において種々の変更が可能である。例えば、この発明に係る輸液セットは、輸液チューブ、点滴筒、クレンメ及び弁装置を構成する保持部等を支持固定する支持板を備えていなくてもよい。この場合には、この発明に係る弁装置を構成する保持部は、例えば輸液セット4の環状装着部材のように、輸液チューブとは別部材として輸液セットを構成してもよく、輸液ポンプの筐体又は輸液貯蔵容器10を吊り下げるスタンドに装着されてもよい。
また、輸液セット3及び4並びに輸液装置1及び2は、点滴筒7及びクレンメ8を備えていなくてもよく、この場合には、第1の輸液チューブ21、第2の輸液チューブ22及び第3の輸液チューブ23は1本の輸液チューブとされる。
さらに、輸液セット3及び4並びに輸液装置1及び2は1つの弁装置5が設けられているが、この発明において、輸液セット及び輸液装置は2個以上の弁装置が設けられていてもよい。
次に、この発明に係る弁装置を説明する。この発明に係る弁装置は、輸液チューブの途中に介装される弁と、この弁が介装された筒状部を保持する保持部とを備えてなり、筒状部が保持部に保持されていないときは弁が閉状態となり、筒状部が保持部に保持されているときは弁が開状態となる。この発明に係る弁装置によれば、筒状部を備えた輸液チューブが保持部から取り外されると、弁が自動的に閉状態になるから、例えば、輸液チューブを輸液装置から取り外すときに「輸液投与を中止するための特別な操作」をする必要がない。また、筒状部を保持部に保持する操作により弁が開状態となるので、輸液ポンプを駆動すればただちに輸液が開始され、したがって緊急を要する輸液処理や輸液流量が小量である場合であっても応答よく輸液を開始させることができる。さらに、準備段階で筒状部を保持部で保持する操作を行うまでは弁は閉じ状態に保たれるので、準備段階での過誤操作によるフリーフローの発生を防ぐ効果も期待できる。このように、人為的なミスが比較的起こりやすい特別な操作をする必要がなく、また、フリーフローが発生する要因が生じたとしても、この発明に係る弁装置及びこの弁装置を備えた輸液セット及び輸液装置によれば、フリーフローの発生をより確実に防止することができる。
<第1参考形態>
この弁装置の第1の参考形態を、図を参照して説明する。この弁装置5は、図1または図2に示したように、輸液チューブ20に使用され、具体的には、輸液チューブ20の内部に収容される弁本体40と、弁本体40が収容された輸液チューブ20を保持する保持部60とを備えてなり、輸液チューブ20が保持部60に保持されていないときは弁本体40が閉状態となり、輸液チューブ20が保持部60に保持されているときは弁本体40が開状態となる。なお、この発明との関係においては、前記弁本体40を収容した輸液チューブ20の一部、より詳細には第3の輸液チューブ23が、この発明の筒状部に相当する。
図3に示したように、弁装置5における弁本体40が第3の輸液チューブ23内に収納され、図4に示したように、弁装置5における保持部60が、第3の輸液チューブ23をその外側から径方向内側向きの押圧力を作用する態様で挟持可能となるように、支持板9(図1)に設けられている。
弁本体40が収納される第3の輸液チューブ23は、図3に示したように、上流側に配置され、弁本体40を支持固定する第4の輸液チューブ24と、下流側に配置され、第4の輸液チューブ24よりも太径の第5の輸液チューブ25と、第4の輸液チューブ24と第5の輸液チューブ25との間に介装され、第4の輸液チューブ24と共に弁本体40を支持固定する連結チューブ26とから形成されている。
第4の輸液チューブ24と第5の輸液チューブ25とは、それらの外径が異なること以外は、前記輸液チューブ20と基本的に同様に形成されている。連結チューブ26は、前記輸液チューブ20と同様に可撓性を有する材料で筒状に形成され、互いに内径及び外径が異なる大径部27と小径部28とを有している。前記大径部27は、第4の輸液チューブ24の外径と略同一又はわずかに小さな内径を有する筒体であり、後述する弁本体40及び第4の輸液チューブ24が内部に挿入される。前記小径部28は、前記大径部27の一方の端部から軸線方向に延在し、前記大径部27の外径よりも小さくかつ第5の輸液チューブ25の内径と略同一又はわずかに大きな外径を有する筒体であり、第5の輸液チューブ25内に挿入される。したがって、連結チューブ26は、図3に示したように、大径部27で第4の輸液チューブ24と接続され、小径部28で第5の輸液チューブ25と接続されて、第4の輸液チューブ24と第5の輸液チューブ25とを液密に接続する。
弁本体40は、図3に示したように、後述する可撓性を有する材料で半楕円体状に形成された可撓性弁本体41と、可撓性弁本体41の頂部に形成されたスリット42と、可撓性弁本体41の底部から半径方向に突出する環状鍔部43とを有している。可撓性弁本体41は、その内部に、底部から頂部に向けて軸線方向に延びる流路(図示しない。)を有しており、この流路は頂部近傍でスリット42に連通している。弁本体40のスリット42は、可撓性弁本体41の頂点を通過する1本の切り込みとして形成されている。
このように構成される弁本体40は、図3に示したように、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されていない状態、すなわち径方向内側向きに押圧されていない状態(自由状態)では、スリット42が閉じて、閉状態となっている。したがって、第4の輸液チューブ24内の輸液は弁本体40を通過して第5の輸液チューブ25に流通し又は移送されることはない。一方、弁本体40は、図4に示したように、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持された状態、すなわち、第3の輸液チューブ23がその径方向内側向きに押圧された状態(押圧状態)では、弁本体40特に可撓性弁本体41の頂部がスリット42を境に互いに逆方向に変形してスリット42が開口し、前記流路とスリット42とが連通して、開状態となる。したがって、第4の輸液チューブ24内の輸液は弁本体40(前記流路及びスリット42)を通過して第5の輸液チューブ25に流通し又は移送される。
弁本体40の可撓性弁本体41の最大直径は、連結チューブ26における小径部28の内径とほぼ同じ又は小さければよく、弁本体40の環状鍔部43の外径は、連結チューブ26における大径部27の内径とほぼ同じ又は小さく調整されている。弁本体40がこのようなサイズに調整されていると、図3に示したように、連結チューブ26と第4の輸液チューブ24とで弁本体40の環状鍔部43を挟持して、連結チューブ26内に支持固定することができる。図3に示した弁本体40は、この場合、輸液の流通方向上流側に向かって可撓性弁本体41の頂部が位置するように収装されている。
この弁本体40は、適宜製造してもよく、市販品を用いてもよい。弁本体40は、例えば、後述する可撓性を有する材料を各種成形方法で所定の形状に成形した後に、スリットを形成することによって製造することができる。市販品としては、例えば、商品名「ダックビルチェックバルブ」(VERNAY社)を用いることができる。
弁本体40を形成する可撓性を有する材料としては、押圧により開状態となり、押圧を解除すると閉状態となるように、適度な硬度と復元力を持つ材料であればよく、このような材料として、例えばシリコーン樹脂、ブチルゴム、イソプレンゴム等が挙げられる。
弁装置5における前記保持部60は、弁本体40が収納された第3の輸液チューブ23、特に第3の輸液チューブ23の弁本体40が収納された部分をその外側から径方向内側向きの押圧力により挟持して保持することができるように構成されていればよく、例えば、クリップ、一対の保持片等が挙げられる。図1、図2及び図4には、一対の保持片61、61からなる保持部60を示している。この一対の保持片61、61は、第3の輸液チューブ23、この例においては連結チューブ26の外径よりも小さな間隔をあけて互いに略平行となるように、支持板9(図1)に立設されている。保持部60は、支持板9に形成されているから、図1に示したように、輸液貯蔵容器10とローラ機構32との間に配置されている。
弁装置5は、前記構成の弁本体40が輸液チューブ20の内部に収容され、前記構成の保持部60が輸液チューブ20の外部に配置される。
弁装置5を備えた輸液セット3及び輸液装置1の作用について以下に説明するが、弁装置5を備えた輸液セット4及び輸液装置2も輸液セット3及び輸液装置1と基本的に同様に作用する。輸液装置1を使用するには、図1に示したように、輸液セット3、輸液貯蔵容器10を準備して、これらを所定の位置に配置する。すなわち、準備した輸液貯蔵容器10を例えばスタンド等に吊り下げ、輸液セット3における第1の輸液チューブ21の刺針21Aを輸液貯蔵容器10の被穿刺部11に穿刺する。このとき、第3の輸液チューブ23は保持部60に保持されていないから、図3に示したように、弁本体40は閉状態にあり、したがって、輸液貯蔵容器10内の輸液は弁本体40よりも下流側への流通が阻止されている。次いで、第3の輸液チューブ23を輸液チューブ固定部31に固定し、さらに、弁本体40が収納されている第3の輸液チューブ23の連結チューブ26近傍を、図4に示したように、保持部60に保持させる。このとき、第3の輸液チューブ23は一対の保持片61、61の間に圧入するだけで保持されるから、第3の輸液チューブ23の取付け作業性がよく、従来の輸液セットと比較すると、フリーフロー防止機構の取付け作業性が極めて高い。
第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されると、図4に示したように、第4の輸液チューブ24、連結チューブ26及び第5の輸液チューブ25と共に弁本体40がその直径方向から押圧され、前記したように、可撓性弁本体41の頂部が変形してスリット42が開口し、前記流路とスリット42とが連通して、弁本体40が開状態となる。そうすると、弁本体40の部分にまで満たされていた輸液を弁本体40を通過して第5の輸液チューブ25よりも下流側へと移送可能な状態となる。
所定のプライミング処理を終了した後、第5の輸液チューブ25の端部を患者に設けられた輸液注入部材例えばカテーテルに接続し、所定の輸液条件に設定された輸液ポンプ30を起動する。そうすると、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されている限り弁本体40は常に開状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32が間欠的に回転して、輸液が所定の移送量及び移送間隔で移送される。このように、この弁装置5は、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されている限り弁本体40は常に開状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32の回転に対してタイムラグが生じることなく、輸液を所定の速度で所定量投与することができる。すなわち、この発明に係る弁装置、輸液セット及び輸液装置によれば、輸液装置本来の機能を十分に発揮させることができる。
前記のようにして輸液を患者に投与した後に、輸液の投与を停止又は中止するには、輸液ポンプ30を停止して、所望によりクレンメ8を操作し、輸液注入部材から第3の輸液チューブ23を取り外して、第3の輸液チューブ23を含む輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す。次いで、第3の輸液チューブ23を保持部60から取り外すと、図3に示したように、第4の輸液チューブ24、連結チューブ26及び第5の輸液チューブ25と共に弁本体40はその直径方向から押圧されていた押圧力が解除され、前記したように、可撓性弁本体41が復元してスリット42が閉じ、弁本体40が自動的に閉状態になる。このようにして、弁本体40によって輸液の移送が遮断され、弁本体40よりも下流側に輸液が移送されることがない。したがって、輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す前に、輸液ポンプ30の停止、クレンメ8の操作、輸液注入部材からの取り外し操作等をたとえ失念したとしても、第3の輸液チューブ23を保持部60から取り外すと同時に弁本体40が閉状態になるのであるから、輸液が弁本体40を通過して第5の輸液チューブ25内に流入することがなく、輸液セット3及び輸液装置1のフリーフローを防止することができる。
また、輸液チューブ23を保持部60に保持する操作により弁本体40が開状態となるので、輸液ポンプを駆動すればただちに輸液が開始され、したがって緊急を要する輸液処理や輸液流量が小量である場合であっても応答よく輸液を開始させることができる。さらに、準備段階で輸液チューブ23を保持部60で保持する操作を行うまでは弁本体40は閉じた状態に保たれるので、準備段階での過誤操作によるフリーフローの発生を防ぐ効果も期待できる。
このように、弁装置5によれば、その弁装置5の構成が比較的簡便であるにもかかわらず、輸液装置1の機能を損なうことなく、フリーフローを防止することができる。また、弁装置5は、弁本体40と保持部60とで構成され、弁本体40及び保持部60以外にフリーフローを防止するための特別な部材も必要とせず、比較的簡単な構成を有しているから、安価であるうえ、輸液装置1に取付ける際の作業性が極めて高い。
この第1参考形態の弁装置には、前記した参考例に限定されることはなく、種々の変更が可能である。例えば、弁装置5の弁本体40は、前記した所謂「ダックビル型逆止弁」に限定されず、保持部60による径方向内側向きの保持力に基づいて開閉状態が制御される構造を有する弁を用いることができる。
また、弁本体40は、第3の輸液チューブ23に収納されているが、この発明において、弁は、第1の輸液チューブ、第2の輸液チューブに収納されもよく、また、第3の輸液チューブ(図3においては、第5の輸液チューブ)におけるローラ機構の下流側に収納されてもよい。これらの場合には、弁装置を構成する保持部は、支持板又はポンプの筐体等に設けられる。
さらに、弁本体40のスリット42は、可撓性弁本体41の頂点を通過する1本の切り込みとして形成されているが、この発明において、スリットは、可撓性弁本体41に形成された前記流路と連通していればよく、例えば、前記頂点で互いに直交する2本の切り込みとして形成されてもよく、前記頂点を通過しない1本又は2本以上の切り込みとして形成されてもよい。
また、弁本体40は、図1〜3に示したように、輸液の流通方向上流側に向かって可撓性弁本体41の頂部が位置するように設けてある。これは次のような理由による。すなわち、輸液チューブ23が保持部60に保持されていない自由状態のとき、重力による輸液の圧力が作用すると弁本体40はこの圧力に基づき縮小方向、つまりスリット42を閉じる方向に付勢されて閉弁状態がより確実に保持されるからである。この作用により、不意のフリーフロー発生をより確実に防止することが可能になる。
さらに、弁本体40は、第4の輸液チューブ24と連結チューブ26とで環状鍔部43が挟持された状態で第3の輸液チューブ23に収納されているが、この発明において、弁の収納方法は特に限定されず、例えば、第3の輸液チューブの内表面に円周方向に一巡する環状突条を設け、この環状突条に弁特に環状鍔部を係止させて収納してもよい。また、収納方法によっては弁の環状鍔部は形成しなくてもよい。
<第2実施形態>
この発明に係る弁装置の第2の実施形態を、図5及び図6を参照して、説明する。この弁装置6は、輸液チューブ20に介装され、具体的には、輸液チューブ20の内部に収容される弁50すなわち棒状の弁本体51及び弁シート部55と、この弁本体51が収容された輸液チューブ20を保持する保持部60とを備えてなり、輸液チューブ20が保持部60に保持されていないときは弁50が閉状態となり、輸液チューブ20が保持部60に保持されているときは弁50が開状態となる。
弁装置6においては、前記弁装置5と基本的に同様に、図5に示すように、弁装置6における弁本体51及び弁シート部55が第3の輸液チューブ23内に収納又は形成され、図6に示すように、保持部60が、第3の輸液チューブ23の外側から第3の輸液チューブ23を挟持可能となるように、支持板9(図1)に設けられている。
この弁装置6は、弁本体40に代えて弁50が採用され、また、連結チューブ26に代えて連結チューブ29が採用されていること以外は、基本的に前記弁装置5と同様である。そこで、前記弁装置5と異なる点を中心に弁装置6について以下に説明する。
第3の輸液チューブ23は、図5に示すように、上流側に配置される第4の輸液チューブ24と、下流側に配置され、第4の輸液チューブ24よりも太径の第5の輸液チューブ25と、第4の輸液チューブ24と第5の輸液チューブ25との間に介装されてこれらを液密に連結すると共に、後述する弁シート部55を有する連結チューブ29とから形成されている。連結チューブ29は、前記輸液チューブ20と同様の可撓性を有する材料又は後述する硬質材料で筒状に形成され、互いに内径及び外径が異なる大径部27及び小径部28、軸心に向かって環状に突出する弁シート部55を有している。すなわち、連結チューブ29は弁シート部55を有していること以外は前記連結チューブ26と基本的に同様である。したがって、連結チューブ29は、図5に示すように、大径部27で第4の輸液チューブ24と接続され、小径部28で第5の輸液チューブ25と接続されて、第4の輸液チューブ24と第5の輸液チューブ25とを液密に接続する。なお、この発明との関係においては、前記第5の輸液チューブ25が、この発明の筒状部に相当する。
連結チューブ29の弁シート部55は、弁50を構成し、図5に示したように大径部27と小径部28との接続部近傍から軸心に向かって環状に突出するように形成されている。この弁シート部55で形成される開口は、後述する棒状弁本体51の棒状部52の外径よりも大きく、かつ、第1の拡径部53及び第2の拡径部54の最大外径よりも小さな直径を有する円形開口部とされている。
弁本体51は、図5に示したように、一方向に延びる棒状部52と、棒状部52における一方の端部に形成され、棒状部52の外径よりも大きな最大外径を有し、先端方向に向かって外径が徐々に減少する半球状体をなす第1の拡径部53と、棒状部52における他方の端部に形成され、棒状部52の外径よりも大きな最大外径を有し、先端方向に向かって外径が徐々に減少する円錐台形状をなす第2の拡径部54とを有している。
棒状部52は筒体であればよく、中空体でも中実体でもよい。この棒状部52はその軸線方向の長さが、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されたときに、保持部60で押圧される部分に第2の拡径部54が位置される程度の長さを有していればよく、第2の拡径部54の寸法、保持部60の寸法等に応じて適宜設定される。
第1の拡径部53は、弁本体51における一方の端部に連続する底面が弁シート部55における円形開口部の直径よりも大きく第4の輸液チューブ24の内径よりも小さな最大外径を有しており、この底面から先端方向に向かって外径が徐々に減少する半球状体に形成されている。この第1の拡径部53は、図5に示したように、弁シート部55に着座して連結チューブ29の流路を閉塞する。
第2の拡径部54は、保持部60によって第5の輸液チューブ25が押圧されたときにその押圧力を第5の輸液チューブ25における軸線方向の力に変換することのできる側面形状を有している。この例においては、第2の拡径部54は、弁本体51における他方の端部に連続する底面が弁シート部55における円形開口部の直径よりも大きく小径部28の内径よりも小さな最大外径を有しており、この底面から先端方向に向かって外径が徐々に減少する円錐台形状に形成されている。そして、この第2の拡径部54における円錐台形状のテーパ状側面が前記機能を発揮することで、前記したように、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されたときに、第2の拡径部54が、保持部60の押圧によって弁本体51を第3の輸液チューブ23の軸線方向に移動させるようになっている。
この弁本体51は、図5及び図6に示したように、第1の拡径部53と第2の拡径部54との間に、すなわち、棒状部52の周囲に、前記弁シート部55が位置するように、輸液チューブ20内に収納される。したがって、弁シート部55によって弁本体51の移動量が規制される。
このように弁本体51と弁シート部55とで構成される弁50は、図5に示したように、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されていない状態、すなわちその外側から径方向内側向きに押圧されていない自由状態では、第4の輸液チューブ24内に満たされている輸液によって弁シート部55と弁本体51の第1の拡径部53とが当接して係止し、第3の輸液チューブ23の流路が閉塞された閉状態となっている。したがって、第4の輸液チューブ24内の輸液は弁50を通過して第5の輸液チューブ25に流通し又は移送されることはない。一方、この弁50は、図6に示したように、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持された状態、すなわち第3の輸液チューブ23がその外側から径方向内側向きに押圧された状態(押圧状態)では、第2の拡径部54のテーパ状側面によって保持部60による押圧力が軸線方向の力に変換されて第2の拡径部54が前記軸線方向に押圧され、弁本体51を前記軸線方向に移動させ、その結果、弁シート部55と第1の拡径部53との係止状態が解除される。すなわち、弁本体51と弁シート部55で構成される弁50が開状態となる。したがって、第4の輸液チューブ24内の輸液は弁50、換言すると棒状部52と弁シート部55との間隙を通過して第5の輸液チューブ25に流通し又は移送される。
弁本体51及び弁シート部55を備えた連結チューブ29はそれぞれ、適宜製造してもよく、市販品を用いてもよい。弁本体51及び連結チューブ29はそれぞれ、例えば、可撓性を有する材料又は硬質材料を各種成形方法等で所定の形状に成形して製造することができる。弁本体51及び連結チューブ29を形成する材料としては特に限定されず、例えばシリコーン樹脂等が挙げられる。また、硬質材料としては特に限定されず各種樹脂及び各種金属等が挙げられる。
弁装置6における前記保持部60は、弁本体51が収納された第3の輸液チューブ23を挟持して保持することができるように構成されていればよく、例えば前記弁装置5の保持部60と基本的に同様に構成される。
弁装置6は、弁本体51及び弁シート部55が輸液チューブ20の内部に収容又は形成され、保持部60が輸液チューブ20の外部に配置されている。
弁装置6を備えた輸液セット3及び輸液装置1の作用について以下に説明するが、弁装置6を備えた輸液セット4及び輸液装置2も輸液セット3及び輸液装置1と基本的に同様に作用する。輸液装置1を使用するには、図1に示したように、輸液セット3、輸液貯蔵容器10を準備して、これらを所定の位置に配置する。すなわち、準備した輸液貯蔵容器10を例えばスタンド等に吊り下げ、輸液セット3における第1の輸液チューブ21の刺針21Aを輸液貯蔵容器10の被穿刺部11に穿刺する。このとき、第3の輸液チューブ23は保持部60に保持されていないから、図5に示したように、輸液の圧力もしくは重力等によって第1の拡径部53が弁シート部55に押圧されて、弁50が閉状態となっている。したがって、輸液貯蔵容器10内の輸液は弁50よりも下流側への流通が阻止されている。次いで、第3の輸液チューブ23を輸液チューブ固定部31に固定し、さらに弁本体51の第2の拡径部54が位置している第3の輸液チューブ23の下流側を、図6に示したように保持部60に保持させる。このとき、第3の輸液チューブ23は一対の保持片61、61の間に圧入するだけで保持されるから、第3の輸液チューブ23の取付け作業性がよく、従来の輸液セットと比較すると、フリーフロー防止機構の取付け作業性が極めて高い。
第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されると、図6に示したように、第5の輸液チューブ25がその外側から径方向内側向きに押圧され、前記したように第2の拡径部54によって弁本体51が移動して、弁50が開状態となる。また、図7に示したように、前記押圧力による第5の輸液チューブ25の変形に伴い、拡径部54の側方にも流路が確保される。これにより、弁50まで満たされていた輸液が弁50を通過して第5の輸液チューブ25よりも下流側へと移送可能な状態となる
所定のプライミング処理を終了した後、第5の輸液チューブ25の端部を患者に設けられた輸液注入部材例えばカテーテルに接続し、所定の輸液条件に設定された輸液ポンプ30を起動する。そうすると、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されている限り弁50は常に開状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32が間欠的に回転して、輸液が所定の移送量及び移送間隔で移送される。このように、この弁装置6は、第3の輸液チューブ23が保持部60に保持されている限り弁50は常に開状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32の回転に対してタイムラグが生じることなく、輸液を所定の速度で所定量投与することができる。すなわち、この発明に係る弁装置、輸液セット及び輸液装置によれば、輸液装置本来の機能を十分に発揮することができる。
前記のようにして輸液を患者に投与した後に、輸液の投与を停止又は中止するには、輸液ポンプ30を停止して、所望によりクレンメ8を操作し、輸液注入部材から第3の輸液チューブ23を取り外して、第3の輸液チューブ23を含む輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す。次いで、第3の輸液チューブ23を保持部60から取り外すと、図5に示したように、第5の輸液チューブ25がその直径方向からの押圧が解除され、前記したように、輸液の圧力もしくは重力等によって第1の拡径部53が弁シート部55に向け押圧されて着座し、弁50が自動的に閉状態となる。このようにして、弁50によって輸液の移送が遮断され、弁50よりも下流側に輸液が移送されることがない。したがって、輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す前に、輸液ポンプ30の停止、クレンメ8の操作、輸液注入部材からの取り外し操作等をたとえ失念したとしても、第3の輸液チューブ23を保持部60から取り外すと同時に弁50が閉状態になるから、輸液が弁50を超えて第5の輸液チューブ25内に流入することがなく、輸液セット3及び輸液装置1のフリーフローを防止することができる。
また、輸液チューブ25を保持部60に保持する操作により弁50が開状態となるので、輸液ポンプを駆動すればただちに輸液が開始され、したがって緊急を要する輸液処理や輸液流量が小量である場合であっても応答よく輸液を開始させることができる。さらに、準備段階で輸液チューブ25を保持部60で保持する操作を行うまでは弁50は閉じた状態に保たれるので、準備段階での過誤操作によるフリーフローの発生を防ぐ効果も期待できる。
このように、弁50を有する弁装置6によれば、その弁装置6の構成が比較的簡便であるにもかかわらず、輸液装置1の機能を損なうことなく、フリーフローを防止することができる。また、弁装置6は、弁50と保持部60とで構成され、弁50及び保持部60以外にフリーフローを防止するための特別な部材も必要とせず、比較的簡単な構成を有しているから、安価であるうえ、輸液装置1に取付ける際の作業性が極めて高い。
この発明に係る第2実施形態の弁装置には、前記したところに限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、弁50は、弁本体51と弁シート部55とで構成されているが、この発明において、弁は、弁本体及び弁シート部に加えて、弁シート部と第2の拡径部との間に、第1の拡径部を弁シート部に押接させる付勢手段例えばコイルバネ等を備えていてもよい。
また、弁50は、第3の輸液チューブ23に収納されているが、この発明において、弁は、第1の輸液チューブ、第2の輸液チューブに収納されてもよく、また、第2の輸液チューブ(図5においては、第5の輸液チューブ)におけるローラ機構の下流側に収納されてもよい。これらの場合には、弁装置を構成する保持部は、支持板又はポンプの筐体等に設けられる。
さらに、第1の拡径部53は半球状体に形成されているが、この発明において、第1の拡径部は、弁シート部に着座するように形成されていればよく、例えば、傘状、筒状体、半楕円体状、円錐体、角錐体、円錐台体、角錐台体に形成されてもよい。第2の拡径部54は円錐台形状に形成されているが、この発明において、第2の拡径部54は前記機能を有するように形成されていればよく、例えば、ドーム状、傘状、半楕円体状、円錐体、角錐体、円錐台体、角錐台体に形成されてもよい。
<第3参考形態>
この弁装置の第3の参考形態を、図8及び図9を参照して、説明する。この弁装置16は、輸液チューブ20の途中、より詳細には第3の輸液チューブ23の途中に介装されている。ここでは輸液チューブ23の、弁装置16よりも上流側の部分を第4の輸液チューブ24、下流側の部分を第5の輸液チューブ25として表わしている。
弁装置16は、それぞれ第4、第5の輸液チューブ24、25に接続する1対の接続部17と、これらの間に結合された円筒状部18と、円筒状部18に収装された弁本体19からなる。図中60は既述した保持部であり、前記円筒状部18をその側面から保持する1対の保持片61を、例えば支持板(図1参照。)に設けてなる。
前記円筒状部18は、本発明の筒状部に相当するもので、輸液チューブ20と同様の可撓性を有する柔軟な材料で中空円筒状に形成されており、その内外径、肉厚ともに輸液チューブ20よりも大きく設定されている。この円筒状部18と輸液チューブ24、25を接続する1対の接続部17は、輸液チューブ24または25の内径部と嵌合する円筒状の細径部17aと、前記円筒状部18の内径部に嵌合する段付き円筒状の太径部17bを備えている。
前記1対の接続部17の段付きの太径部17bは、前記円筒状部18の両開放端の内側に形成された段付き円筒状の嵌合部18aにそれぞれ密に嵌合し、または接着、溶着等の接合手段を介して、液封性を有するように結合されている。また各接続部17の細径部17aは、輸液チューブ24または25の内径部に密に嵌合し、または接着、溶着等の結合手段を介して、液封性を有するように結合されている。
前記円筒状部18の内径部には、流れ方向の略中間部に位置するように環状溝18bが形成され、この環状溝18bの上下流部のそれぞれから内径側に所定量突出するように環状の上流側リップ部18cと下流側リップ部18dとが延設されている。これら上流側リップ部18cと下流側リップ部18dとが弁シートとして機能し、後述する弁本体19と協働して弁機能を司る。
前記弁本体19は、前記円筒状部18に比較して硬質の材料、例えば硬質プラスチックや金属を材質として形成されている。この弁本体19は、形状としては全体として円盤状をなし、前記上流側リップ部18cと下流側リップ部18dとの間の環状溝18bにその外周部分が全域にわたって嵌合するように形成されている。この弁本体19の外径は、前記環状溝18bの内径よりもやや小さく設定され、保持部60に保持されていない状態、すなわちその外側から径方向内側向きに押圧されていない自由状態で、かつそれぞれの中心が一致した状態(図示状態)において、弁本体19と環状溝18bとの間に環状の隙間Cが生じるように設定されている。また、この弁本体19の下流側の端面には、その基部の外径が下流側リップ部18dの内径部と略等しい寸法を有し、かつ先端部つまり下流側の端部がより細径であるテーパ形状の突出部19aが形成されている。
この弁装置16は、その円筒状部18が保持部60に保持されていない状態、すなわちその外側から径方向内側向きに押圧されていない自由状態では、環状溝18bの上下流のリップ部18c、18dと弁本体19の外周部とが嵌合して環状のシール部を形成しているので、第3の輸液チューブ23の流路は閉塞された閉状態となっている。したがって、第4の輸液チューブ24内の輸液は弁装置16を通過して第5の輸液チューブ25側に流通し又は移送されることはない。なお、弁本体19は第4の輸液チューブ24を介して上流側から液圧が作用すると、この液圧に基づき、テーパ形状の突出部19aが下流側リップ部18dの内径部分に付勢されるので互いの中心部が一致するように位置決めされ、すなわち弁本体19は環状溝18bに対して常に中心方向に付勢されるので、前述した環状のシール部が確実に形成されて安定した液封性能が発揮される。
一方、この弁装置16は、その円筒状部18が保持部60に保持された状態、すなわち図9に示したように、円筒状部18がその外側から径方向内側向きに押圧された状態(押圧状態)では、このときの保持片61からの押圧力に基づき、円筒状部18の横断面形状が長円形ないし楕円形に変形することから、弁本体19の外周部とリップ部18c及び18dの内周部との間であって、弁中心に関して対称的な2箇所に流路Sが開口し、この流路Sを介して輸液の流通ないし移送が可能な開弁状態となる。なお、このときリップ部18c、18dの一部も互いに離隔するように変形するので、弁本体19の外周域との間には前記流路S以外にもある程度の隙間が生じて、実質的には流路Sの横断面上の投影面積よりも大きな流路が確保される。
一方、この実施形態のように弁本体19を円筒状部18(筒状部)よりも硬質な材料で形成した構成によると、たとえば保持部60による押圧力が過大であったとしても、硬質の弁本体19により円筒状部18の径方向内側方向への最大変形が規制されるので、円筒状部18が過度に押しつぶされて閉塞してしまうような不都合を回避することができる。
弁装置16における前記保持部60は、弁装置16の円筒状部18を挟持して保持することができるように構成されていればよく、例えば前記弁装置5の保持部60と基本的に同様に構成される。
弁装置16を備えた輸液セット3及び輸液装置1の作用について以下に説明するが、弁装置16を備えた輸液セット4及び輸液装置2も輸液セット3及び輸液装置1と基本的に同様に作用する。輸液装置1を使用するには、図1に示したように、輸液セット3、輸液貯蔵容器10を準備して、これらを所定の位置に配置する。すなわち、準備した輸液貯蔵容器10を例えばスタンド等に吊り下げ、輸液セット3における第1の輸液チューブ21の刺針21Aを輸液貯蔵容器10の被穿刺部11に穿刺する。このとき、弁装置16の円筒状部18は保持部60に保持されていないから、図8に示したように、輸液の圧力によって弁本体19が円筒状部18の環状溝18bの中心部に保持されて閉状態となっている。したがって、輸液貯蔵容器10内の輸液は弁装置16よりも下流側への流通が阻止されている。次いで、第3の輸液チューブ23を輸液チューブ固定部31に固定し、さらに弁本体19が保持されている円筒状部18の中間部分を図9に示したように保持部60に保持させる。このとき、弁装置16ないしその円筒状部18は1対の保持片61、61の間に圧入するだけで保持されるから、輸液チューブ20の取付け作業性がよく、従来の輸液セットと比較すると、フリーフロー防止機構の取付け作業性が極めて高い。
弁装置16が保持部60に保持されると、図9に示したように、円筒状部18がその外側から径方向内側向きに押圧され、前記したように弁本体19の外周2箇所に流路Sが形成されて開弁状態となる。これにより、弁本体19のところまで満たされていた輸液が弁装置16を介して第5の輸液チューブ25よりも下流側へと移送可能な状態となる。
所定のプライミング処理を終了した後、第5の輸液チューブ25の端部を患者に設けられた輸液注入部材例えばカテーテルに接続し、所定の輸液条件に設定された輸液ポンプ30を起動する。そうすると、円筒状部18が保持部60に保持されている限り弁装置16は常に開状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32が回転して、輸液が所定の移送量及び移送間隔で移送される。このように、この弁装置16は、その円筒状部18が保持部60に保持されている限り常に開弁状態となっているから、輸液ポンプ30のローラ機構32の回転に対してタイムラグが生じることなく、輸液を所定の速度で所定量投与することができる。すなわち、この発明に係る弁装置、輸液セット及び輸液装置によれば、輸液装置本来の機能を十分に発揮することができる。
前記のようにして輸液を患者に投与した後に、輸液の投与を停止又は中止するには、輸液ポンプ30を停止して、所望によりクレンメ8を操作し、輸液注入部材から第3の輸液チューブ23を取り外して、第3の輸液チューブ23を含む輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す。次いで弁装置16を保持部60から取り外すと、図8に示したように、円筒状部18がその径方向外側からの押圧が解除され、前記したように、輸液の圧力によって弁本体19が環状溝18bの中心部に付勢されつつ環状溝18b及びその上下流のリップ部18c、18dとの間に環状のシール部を形成して自動的に閉状態となる。このようにして、弁装置16によって輸液の移送が遮断され、弁装置16よりも下流側に輸液が移送されることはない。したがって、輸液セット3を輸液ポンプ30から取り外す前に、輸液ポンプ30の停止、クレンメ8の操作、輸液注入部材からの取り外し操作等をたとえ失念したとしても、円筒状部18を保持部60から取り外すと同時に弁装置16が閉状態になるから、輸液が弁装置16を超えて第5の輸液チューブ25内に流入することがなく、輸液セット3及び輸液装置1のフリーフローを防止することができる。
また、円筒状部18を保持部60に保持する操作により弁装置16が開状態となるので、輸液ポンプを駆動すればただちに輸液が開始され、したがって緊急を要する輸液処理や輸液流量が小量である場合であっても応答よく輸液を開始させることができる。さらに、準備段階で円筒状部18を保持部60で保持する操作を行うまでは弁装置16は閉じた状態に保たれるので、準備段階での過誤操作によるフリーフローの発生を防ぐ効果も期待できる。
このように、弁装置16はその構成が比較的簡便であるにもかかわらず、輸液装置1の機能を損なうことなく、フリーフローを防止することができる。また、弁装置16は、基本的に円筒状部18と弁本体19と保持部60とで構成され、他にフリーフローを防止するための特別な部材も必要とせず、比較的簡単な構成を有しているから、安価であるうえ、輸液装置1に取付ける際の作業性が極めて高い。
この第3の参考形態に係る弁装置は、前記したところに限定されることはなく、種々の変更が可能である。例えば、弁本体19には、自由状態にて環状溝18b及びリップ部18c、18dにて被覆される外周域部分に切欠溝あるいは開口部を形成するようにしてもよく、これにより保持部60による押圧状態での円筒状部18の変形量が少なくても前記切欠溝や開口部により流路を確保して開弁状態を形成することが可能になる。なお、保持部60による押圧状態での円筒状部18の径方向の変形量及び前記流路Sの開口面積は、弁本体19と環状溝18bの間に設定した環状隙間Cの径方向の寸法、または円筒状部18の材質に応じて設定することができる。すなわち、円筒状部18は、まず前記隙間Cの径方向の寸法分だけ内側に変形可能であり、さらに比較的硬質の弁本体19が円筒状部18の柔軟な内壁面に食い込みうる限りにおいてさらに内側に変形可能である。したがって、例えば前記環状隙間Cが無いとしても、円筒状部18をある程度柔軟な材料で形成し、その肉厚をより大きく設定することによっても、前記流路Sを形成するのに十分な変形を与えることが可能である。また、このように環状隙間Cを無くした構成においては、弁本体19は自由状態にて常に環状溝18bの内周面によって保持されるので、弁本体19を中心位置に位置決めをするための突出部19aは無くともよい。
<他の実施形態>
弁装置として3種の形態を示したが、この発明の特徴とするところは、弁本体を収装した筒状部を保持する保持部を備え、保持部の押圧力に基づき、前記筒状部が前記保持部に保持されていないときは閉弁状態となり、前記筒状部が前記保持部に保持されているときは開弁状態となるようにした点にあり、したがってこの作用を奏する限りにおいて弁装置の具体的構成は前述した実施形態のものに限られるものではない。
また、前記実施形態では保持部を他の機器とは別個に設けて独立した操作を可能としているが、これに限らず、この発明において他の機器と連動して弁装置の開閉を制御するような構成とすることも可能である。例えば、輸液ポンプのローラ機構近傍に位置して設けられるチューブ固定機構と保持部とを連動させ、またはチューブ固定機構に保持部を兼ねさせて、チューブセットと同時に弁装置が開弁状態となるように保持部を構成することができる。または、着脱式のステータを持つ輸液ポンプでは、ローラ機構との間にチューブを挟み込んでステータを取り付ける際に、チューブに設けた弁装置をステータの取り付けと同時に押圧して内部の弁本体を開弁させるような構成とすることもできる。このように輸液ポンプへのチューブセットと弁装置の開閉とが連動する構成とすることにより、輸液ポンプからチューブを取り外すと同時に弁装置が閉じることになるので、フリーフローの発生をより確実に防止することができる。