以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図7を参照して、本発明の一実施形態による溶接システム100の構成について説明する。
溶接システム100は、図1に示すように、工場内の床面1などに据え付けられた溶接ロボット10と、溶接電源装置30と、ロボット制御装置50とを備えている。ここで、溶接ロボット10は、溶接ワイヤ21と母材(ワーク)5との間に発生させたアーク放電による熱を利用して溶接を行うためのアーク溶接ロボットである。また、溶接ロボット10は、各々が所定の方向に回動する複数の関節を介して連結されたアーム部11と、アーム部11の先端部に取り付けられた溶接トーチ部12とを備えた多関節型ロボットである。また、溶接ロボット10は、アーム部11の途中に設けられたワイヤ送給装置20を備えており、アーク溶接が行われる際に、ワイヤ送給装置20から所定の速度で繰り出された溶接ワイヤ21が溶接トーチ部12の先端部に供給されるように構成されている。なお、溶接ロボット10は、本発明の「溶接機構」および「アーク溶接ロボット」の一例であり、ロボット制御装置50は、本発明の「制御装置」および「溶接システム用ロボット制御装置」の一例である。
溶接電源装置30は、ロボット制御装置50からある程度離れた場所に設置されている。そして、溶接電源装置30とワイヤ送給装置20とが、ケーブル91により接続されるとともに、溶接電源装置30と溶接トーチ部12とが、ケーブル92により接続されている。溶接電源装置30は、ケーブル91を介してワイヤ送給装置20から繰り出される溶接ワイヤ21の供給速度を制御する機能を有するとともに、ケーブル92を介して溶接トーチ部12および母材5間に所定の大きさの電力(入熱)を供給する機能を有している。
ロボット制御装置50は、図1に示すように、溶接ロボット10および溶接電源装置30の動作制御を行うために設けられている。ロボット制御装置50と溶接ロボット10とは、ケーブル93を介して接続されており、溶接ロボット10は、ロボット制御装置50から送信された動作指令に基づいて所定の動作を行うとともに溶接動作を行うことが可能に構成されている。また、ロボット制御装置50と溶接電源装置30とは、ケーブル94を介して接続されており、溶接電源装置30は、ロボット制御装置50からの制御指令に基づいて所定の動作(ワイヤ送給装置20の制御および溶接ロボット10に対する入熱制御)を行うように構成されている。
溶接システム100では、溶接動作を行う際、ロボット制御装置50から約0V以上約15V以下の電圧値に調整されたアナログ信号がケーブル94を介して溶接電源装置30に送信されるように構成されている。なお、アナログ信号の電圧値の範囲は一例であり、これに限定されるものではない。アナログ信号を受けた溶接電源装置30は、アナログ信号に対応する電流値および電圧値に調整された電力を溶接ロボット10に出力して、溶接ワイヤ21と母材5との間にアーク放電を発生させるように構成されている。また、溶接電源装置30は、溶接動作が行われている最中に、溶接ロボット10に実際に出力されている電力量(入熱)を測定してロボット制御装置50に通信するように構成されている。この場合、溶接ワイヤ21と母材5との間の電圧値およびアーク放電の電流値が計測されて、そのデータがロボット制御装置50にフィードバックされる。なお、ロボット制御装置50からアナログ信号として出力される電圧値は、本発明の「指令値」の一例であり、アナログ信号に対応する電流値または電圧値は、本発明の「エネルギ量の設定値」の一例である。また、アナログ信号に対応する電流値および電圧値に調整されて溶接ロボット10に出力される電力量(入熱)は、本発明の「エネルギ量」の一例である。
また、ロボット制御装置50は、筐体内部に制御機器類(図示せず)が組み込まれた装置本体60と、装置本体60にケーブル95を介して外部接続されるプログラミングペンダント70(以下、「教示装置」という)とを備えている。なお、プログラミングペンダント(教示装置)70は、本発明の「教示装置」の一例である。
装置本体60は、図2に示すように、制御部(CPU)61と、出力部62と、検出部63と、記憶部(RAM)64とを備えている。また、制御部61、出力部62、検出部63および記憶部64は、互いに電気的に接続されることにより、制御信号および制御上のデータを特定の電子部品間で送受信することが可能に構成されている。
制御部61は、実行可能な動作プログラムと、後述する教示装置70からのコマンド(動作指令)とに基づいて、溶接ロボット10の動作および溶接電源装置30の制御動作を統括する機能を有する。また、出力部62は、溶接動作が行われる際に、制御部61からの制御信号に基づいて、溶接電源装置30に対して前述の所定の範囲(約0V以上約10V以下)の電圧値に調整されたアナログ信号を出力する機能を有している。また、検出部63は、溶接電源装置30によって計測された入熱の実測値(溶接ワイヤ21と母材5との間の電圧値およびアーク放電の電流値)を検出する機能を有している。また、記憶部64は、教示装置70により登録されたコマンド(溶接動作プログラム)や溶接情報などを記憶するために設けられている。
教示装置70は、図3に示すように、ユーザによるキー操作を受け付ける機能を有しており、教示装置70は、溶接ロボット10の動作プログラムおよびアーク溶接に関する溶接情報(溶接速度や溶接軌跡に関する詳細な動作内容)を作成するために設けられている。具体的には、図3に示すように、教示装置70は、筐体71を備えており、筐体71の内部に、表示部72と、使用目的に応じて大小様々なサイズを有する複数の操作キー73とが所定のレイアウトで配置されている。教示装置70では、ユーザが表示部72に表示された操作画面を見ながら溶接ロボット10の動作を指令するコマンドを操作キー73を使用して登録することが可能に構成されている。
ここで、本実施形態では、図2に示すように、装置本体60の記憶部64には、溶接機特性ファイル80が格納されている。ロボット制御装置50では、制御部61が溶接電源装置30に対する制御を行う際に、溶接機特性ファイル80に規定された溶接条件(溶接情報)に則って溶接電源装置30を制御するように構成されている。なお、溶接機特性ファイル80は、本発明の「管理テーブル」の一例である。
以下、溶接機特性ファイル80の構成について詳細に説明する。溶接機特性ファイル80は、電子データの形式で記憶部64に格納されており、ユーザが教示装置70を操作して溶接機特性ファイル80の内容を閲覧したり編集したりすることが可能に構成されている。すなわち、ユーザが教示装置70から所定の操作を行うことにより、教示装置70の表示部72に、溶接機特性ファイル80の内容が図4に示すような表示画面81として表示されるように構成されている。
表示画面81には、溶接動作を行う際にロボット制御装置50から溶接電源装置30に対する制御信号をアナログ出力するための指令値(電圧値)と、この指令値(電圧値)に基づいて溶接電源装置30が溶接ロボット10に対して出力する溶接電流または溶接電圧の設定値との対応関係が表示されるように構成されている。この場合、溶接条件を示す番号欄に「01」から「08」まで行を区切って表示された各々の条件(溶接条件)における指令値(電圧値)と指令値(電圧値)に基づいた溶接電流または溶接電圧の設定値とが明記されている。ここで、溶接電源装置30では、一定の電圧値の下で溶接電流を段階的に切り換えて溶接ロボット10に出力する「電流制御モード」(図4の81aの枠内に表示される部分)と、一定の電流値の下で溶接電圧を段階的に切り換えて溶接ロボット10に出力する「電圧制御モード」(図4の81bの枠内に表示される部分)とが行えるように構成されている。なお、表示画面81では、各々の溶接条件における「指令値(V)」の右隣に「設定値(A)」および「設定値(%)」との名称が表記されているが、「設定値(A)」の欄に表示される数値は、上記した指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の制御上の設定値を示しており、また「設定値(%)」は溶接電圧の制御上の設定値を示している。
表示画面81を参照して、たとえば、番号欄「02」に規定された溶接条件では、「電流制御モード」において、指令値1.35Vのアナログ信号が溶接電源装置30(図1参照)に出力される場合、制御上の出力設定値として、溶接電源装置30から溶接ロボット10(図1参照)に対して62Aの溶接電流が出力される設定内容が規定されている。また、番号欄「02」における「電圧制御モード」では、指令値7.2Vのアナログ信号に対して、その99%(約7.13V)の溶接電圧が制御上出力される設定内容が規定されている。また、表示画面81には、溶接電流・溶接電圧以外の共通する条件として、溶接ワイヤ21の溶接トーチ部12(図1参照)からの「突き出し長」や、「溶着防止処理時間」、「アーク切れ確認時間」、「極性」などのその他の溶接条件も同時に表示されている。したがって、ユーザは、教示装置70(図3参照)に表示される表示画面81を確認することにより、ロボット制御装置50(図1参照)に設定されている現在のアーク溶接に関する諸条件(溶接条件)の設定値を詳細に把握することが可能に構成されている。また、表示画面81には、番号欄が「08」までしか表示されていないが、これ以外の溶接条件が溶接機特性ファイル80に設定されている場合には、画面をスクロールさせて適宜表示させることも可能とされている。
また溶接機特性ファイル80は、1種類の溶接電源装置30につき1つ(1ファイル)以上記憶部64に格納することが可能であり、さらに複数種類の溶接電源装置のそれぞれについて記憶部64に溶接機特性ファイル80を格納することができる。
また、ユーザが操作キー73(図3参照)を使用することにより、表示画面81を介して溶接機特性ファイル80(図2参照)に設定されている溶接条件を修正(変更)することが可能に構成されている。加えて、本実施形態では、溶接条件の調整(変更)を行う際に、ユーザの手入力による編集作業のみならず、制御部61(図2参照)が実行するアプリケーションプログラムを使用して溶接機特性ファイル80を自動的に設定することが可能であるように構成されている。
具体的には、ユーザが教示装置70を操作することにより、図5に示されるような操作画面82を含むアプリケーションプログラムが起動されるように構成されている。このアプリケーションプログラムは、起動時に記憶部64から読み出される。ロボット制御装置50では、このアプリケーションプログラムが起動している状態で、ユーザが、操作画面82と表示画面81(図4参照)とを同時に表示させるか、または、択一的に切り換えて所定の操作を行うことにより、溶接機特性ファイル80の設定内容が自動的に調整されるように構成されている。
ここで、操作画面82には、「自動調整」ボタン82aと、モニタ画面82bとが設けられている。「自動調整」ボタン82aは、以下に説明する自動調整の際に、ユーザの判断を入力するためのボタンである。また、モニタ画面82bには、ロボット制御装置50に設定されている設定値(出力部62から出力される指令値)と、溶接時に溶接ロボット10に実際に出力されている溶接電流または溶接電圧の実測値とがグラフ化された状態でリアルタイムに表示されるように構成されている。ここで、モニタ画面82bの横軸は時間を表す。また、モニタ画面82bの上方には、所定の溶接条件において現在設定されている指令値(設定値)と、現在(溶接時)の溶接電流または溶接電圧の実測値とが数値データの状態で表示されるように構成されている。また、アプリケーションプログラムを終了するための「終了」ボタン82cが、「自動調整」ボタン82aの下部に設けられている。
このアプリケーションプログラムを使用した溶接機特性ファイル80(図2参照)の自動調整機能は、実際の溶接動作が行われる前に、事前に実行されるように構成されている。すなわち、溶接システム100(図1参照)を構成した状態で、サンプルとなる母材5(図1参照)に対するアーク溶接を試験的に行う際に、この自動調整が行われる。本実施形態では、試験的なアーク溶接が行われる最中に、操作画面82を介してアプリケーションプログラムを実行することにより、検出部63(図2参照)によって検出された溶接電流または溶接電圧の実測値(溶接電源装置30から溶接ロボット10に実際に出力されている入熱の大きさ)に基づいて、溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と指令値に基づいた溶接電流または溶接電圧の設定値との対応関係が自動的に調整(更新)されるように構成されている。なお、以降の説明においては、指令値(電圧値)に基づいた「溶接電流」の設定値に関する自動調整を例にとって説明を進める。
本実施形態では、上記した自動調整が行われる際、検出部63により検出された調整後の溶接電流の実測値が、指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の設定値に対して±1Aの範囲内に収まるように溶接機特性ファイル80における指令値と溶接電流の設定値との対応関係が調整されるように構成されている。この際、検出部63により検出された溶接電流の実測値を溶接電流の設定値に徐々に近づける手法で自動調整がなされるように構成されている。自動調整が完了した結果、現在の溶接条件によって構成された溶接システム100において溶接電源装置30が駆動される際、指令値に基づいた溶接電流の設定値と、実際に母材5と溶接ワイヤ21(図1参照)との間に生じるアーク放電が有する溶接電流値(実測値)とが、±1Aの範囲内で略一致される。
したがって、この母材5(図1参照)と略同様の材料からなる母材を用いて実際の溶接動作を行う際には、ロボット制御装置50からの指令値および溶接電流の設定値の対応関係が事前に調整された調整後の溶接機特性ファイル80に基づいて、出力部62から溶接電源装置30に対して指令値(電圧値)が出力されるように構成されている。つまり、調整済みの溶接機特性ファイル80を用いて溶接動作を行う場合には、溶接電流の設定値と実際の溶接電流(実測値)とが±1Aの範囲内で略一致される状況が実現される。これにより、ユーザは、溶接動作を実行する前に、溶接条件を確認するだけで、溶接後の溶接品質を正確に推し量ることが可能となる。
なお、溶接機特性ファイル80の自動調整が行われる際、検出部63により検出された溶接電流の実測値が、指令値に基づいた溶接電流の設定値に対して上記した所定の範囲(±1A)内に収まらない場合も想定される。本実施形態では、このような場合に、教示装置70の表示部72に、図6に示すような通知画面83が表示されるように構成されている。
通知画面83には、溶接機特性ファイル80における指令値と溶接電流の設定値との対応関係が今回の自動調整において適切に調整できない旨をユーザに通知する「溶接条件の見直しを行ってください」というメッセージが表示されるように構成されている。これにより、ユーザは、現在の指令値では、設定されている溶接電流が実際のアーク放電中に流れないことを認識することができる。したがって、「OK」ボタン83aを押圧した後、図4に示した表示画面81中の「電流制御モード」における「指令値」を別な値(番号欄「01」〜「08」中の別な溶接条件)に変更して、再度、溶接機特性ファイル80の自動調整を行う必要がある。
また、本実施形態では、溶接機特性ファイル80の自動調整が行われる際、指令値と溶接電流の設定値との対応関係が調整される毎に、調整が完了した後の溶接機特性ファイル80を記憶部64に保存するように構成されている。したがって、記憶部64には、調整を行うたびに新しい溶接機特性ファイル80を累積できるようになり、これによって自動調整の履歴情報が残されるように構成されている。
また、本実施形態では、調整済みの溶接機特性ファイル80を保存する際、前回調整が完了して保存された溶接機特性ファイル80と、今回が完了して保存される溶接機特性ファイル80とが比較されるように構成されている。そして、比較した結果に基づいて、教示装置70の表示部72に、図7に示すような通知画面84が表示されるように構成されている。
通知画面84には、前回の溶接機特性ファイル80と今回の溶接機特性ファイル80との差分が所定の範囲よりも大きい旨をユーザに通知する「前回の設定との変化量が大きすぎます。再度、自動調整を行ってください」というメッセージが表示されるように構成されている。これにより、ユーザは、今回の溶接機特性ファイル80が、前回と比較して大きな差異が生じていることを認識することができる。したがって、「OK」ボタン84aを押圧した後、図4に示した表示画面81中の溶接条件を再度確認した上で、再度、溶接機特性ファイル80の自動調整を行う必要があることを認識する。なお、上述の通知画面83および84が表示されない場合は、ユーザは、自動調整が適切に行われたことを認識することになる。
ロボット制御装置50では、上記のように構成されたアプリケーションプログラムが実行されて、溶接機特性ファイル80が事前に調整される。そして、溶接システム100では、自動調整が事前に行われた調整済みの溶接機特性ファイル80を使用して、実際のアーク溶接動作が実行されるように構成されている。
次に、図2〜図11を参照して、溶接機特性ファイル80の自動調整が行われる際の制御部61による制御フローについて説明する。なお、以下の説明では、ユーザが教示装置70を介して溶接機特性ファイル80の自動調整を行う際のロボット制御装置50における制御部61の制御フローについて説明する。
図8に示すように、まず、ステップS1では、制御部61(図2参照)により、溶接機特性ファイル80の自動調整を行うためのアプリケーションプログラムがユーザにより選択されたか否かが判断されるとともに、このアプリケーションプログラムが選択されるまでこの判断が繰り返される。ステップS1において、溶接機特性ファイル80の自動調整を行うためのアプリケーションプログラムが選択されたと判断された場合、ステップS2では、操作画面82(図5参照)が教示装置70の表示部72(図3参照)に表示される。
次に、ステップS3では、制御部61により、ユーザにより所定の溶接条件で溶接を実行する指示が出されたか否かが判断されるとともに、溶接を実行する指示が検出されるまでこの判断が繰り返される。ここで、所定の溶接条件とは、図4に示す「01」から「08」の各番号に示された電力の条件を示している。つまり、ユーザは、操作画面82と溶接機特性ファイル80の内容を示す表示画面81とを適宜切り換えながら、試験的に溶接を行う際の溶接条件を選択して操作画面82から溶接を実行する指示を送信する。以下では、「電流制御モード」において番号欄「04」の溶接条件を選択することにより、溶接電源装置30から100Aの溶接電流(設定値)を出力させる場合の自動調整について説明する。この場合、現時点(調整前)での溶接機特性ファイル80においては、100Aの溶接電流(設定値)は、10Vの指令値(アナログ信号)に対応している。
ステップS3において、制御部61により、溶接を実行する指示が検出されたと判断された場合、ステップS4では、選択された溶接条件における指令値(10Vのアナログ信号)が溶接電源装置30に対して送信される。これにより、溶接電源装置30では、制御上100Aに設定された溶接電流が溶接ロボット10に対して出力された状態で、アーク溶接が実行される。
そして、ステップS5では、制御部61により、溶接電源装置30が実際に出力している溶接電流が検出される。この場合、調整初期の時点では、100Aの設定値に対して実際には溶接電流が70Aしか流れていないとする。
ここで、本実施形態では、ステップS6において、指令値(電圧値)と指令値に基づいた溶接電流の設定値との対応関係を自動的に調整する処理が行われる。具体的には、図10に示す制御フローが制御部61により実行される。
図10に示すように、まず、ステップS21では、現在の指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の設定値と、調整後の溶接電流の実測値とが比較される。調整初期の段階では、設定値が100Aであるのに対して、実測値は約70Aとして検出される。そして、ステップS22において、溶接電流の設定値と溶接電流の実測値との差異が±1Aの範囲内であるか否かが判断される。すなわち、100Aと70Aとでは、その差が±1Aの範囲内ではないので、「No」の判断が下されて、次のステップS23に進む。
ステップS23では、ステップS22での判断における「No」の状態が所定の期間に亘って継続しているか否かが判断される。調整初期の段階では、「No」の判断が下されるとともに、次のステップS24に進む。
そして、ステップS24では、指令値(電圧値)が所定量(たとえば、0.01V)だけ補正されるとともに、ステップS25では、補正された指令値(10.01V)のアナログ信号が溶接電源装置30に送信される。これにより、指令値の補正分に対応して変更(増加)された溶接電流の設定値に基づいて溶接電源装置30から溶接ロボット10に出力される。その後、ステップS26では、溶接が継続されている状態において、溶接電源装置30が実際に出力している溶接電流が制御部61により検出される。そして、ステップS21に戻り、再度、現在の指令値(10.01V)に基づいて新たに定義され直した溶接電流の設定値(100A)と、ステップS26で検出された溶接電流の実測値(たとえば、約75A)とが比較される。
ステップS21〜S26までの処理動作を何度か繰り返した結果、ステップS22において、溶接電流の設定値(100A)と溶接電流の実測値との差が±1Aの範囲内に収まったという判断が下される。たとえば、指令値が10Vから0.01Vずつ増加されて10.5Vまで変更された結果、設定値である100Aと、実測値の100Aとが略一致した状態になった場合である。この場合、この自動調整動作に関する本制御フローを抜けて、図8に示すステップS7に進む。
なお、第1実施形態では、図11に示すように、ステップS21〜S26までの処理動作において、制御部61により、調整初期の指令値10Vに対して徐々に補正値を増加させて補正後の溶接電流の指令値を出力している。たとえば、元の指令値10Vに対して、補正値を0.01V、0.02V、0.03V・・・のように0.01V刻みで直線的に増加させることにより、変更後(調整中)の指令値=元の指令値+補正値=10.01V、10.02V、10.03V・・・のように指令値を変化させる手法を採用している。これにより、指令値に対応するように溶接電流の出力を徐々に増加させた状態で、溶接電流の設定値(100A)と実測値との差が±1A以内に収められるまで繰り返し調整が行われる。指令値を徐々に増加させることにより、溶接ワイヤ21と母材5との間に発生するアーク放電を途切れさせることなく、上記したステップS21〜S26までの一連の自動調整動作を支障なく行わせている。
また、ステップS23において、ステップS21〜S26までの処理動作を何度か繰り返して自動調整を試みたにも拘わらず、ステップS22での判断における「No」の状態が所定の期間(繰り返し回数)以上継続していると判断された場合、ステップS27において、「溶接条件の見直しを行ってください」という内容の通知画面83(図6参照)が表示される。つまり、設定値100Aに対して、指令値を変化させたにも拘わらず、溶接電流の実測値が100±1A以内の値に収束しない場合に、上記の通知画面83が表示される。これにより、溶接機特性ファイル80における指令値と溶接電流の設定値との対応関係が今回の自動調整においては適切に調整できなかった旨がユーザに通知される。ユーザによる「OK」ボタン83a(図6参照)の押圧を検出した後、本制御フローを抜けて、図8に示すステップS2に戻る。この場合、ユーザは、表示画面81(図4参照)を参照して、番号欄「04」とは異なる別な溶接条件(たとえば「05」など)を選択した後、再度、選択された条件下での試験的な溶接を試行する。
ステップS21〜S26までの処理動作の結果、現在の溶接条件「04」での自動調整が正常に行われた場合、ステップS7では、溶接機特性ファイル80を更新するための「自動調整」ボタン82a(図5参照)がユーザにより最終的に押圧されたか否かが判断される。ステップS7において、「終了」ボタン82c(図5参照)が押圧されたと判断された場合、本アプリケーションが終了される。また、ステップS7において、「自動調整」ボタン82aが押圧されたと判断された場合、ステップS8では、制御部61により溶接機特性ファイル80が更新される。この場合、調整後の溶接機特性ファイル80が、調整前の溶接機特性ファイル80とは別なファイル(電子データ)として記憶部64に保存される。ここで、ユーザの判断により既存の溶接機特性ファイル80に調整後のデータを上書きできるようにしてもよい。その後、ステップS9において、溶接機特性ファイル80の更新履歴が記憶部64に存在するか否かが判断される。溶接機特性ファイル80の更新履歴が記憶部64に存在しないと判断された場合には、本アプリケーションが終了される。
また、ステップS9において、溶接機特性ファイル80の更新履歴が記憶部64に既に存在すると判断された場合、図9に示すステップS10において、前回保存されている溶接機特性ファイル80と、今回新たに保存された溶接機特性ファイル80とが制御部61により比較される。そして、ステップS11において、前回保存されている溶接機特性ファイル80に対する今回新たに保存された溶接機特性ファイル80の変化量(溶接条件の変更内容)が所定の範囲内に収まっているか否かが判断される。ステップS11において、前回保存されている溶接機特性ファイル80に対する今回新たに保存された溶接機特性ファイル80の変化量が所定の範囲内に収まっていると判断された場合は、今回の自動調整が適切に行われたと判断されて、本アプリケーションは終了される。
また、ステップS11において、前回保存されている溶接機特性ファイル80に対する今回新たに保存された溶接機特性ファイル80の変化量が所定の範囲内に収まっていないと判断された場合、ステップS12において、「前回の設定との変化量が大きすぎます。再度、自動調整を行ってください」という内容の通知画面84(図7参照)が表示される。これにより、溶接機特性ファイル80の内容が、調整前と調整後とで所定の範囲を越えて大きく変更されている旨がユーザに通知されるので、ユーザは、溶接条件に何らかの大きな変化が生じていることを認識する。これにより、ユーザは、溶接トーチ部12の状態、溶接ワイヤ21の材質、シールドガスの成分、ワイヤ送給装置20における供給速度などの他の溶接条件に関する再確認の必要性や、溶接電源装置30の不具合などの可能性を認識する。
ユーザによる「OK」ボタン84a(図7参照)の押圧を検出した後、ステップS13では、制御部61により、自動調整を行うためのアプリケーションプログラムがユーザにより選択されたか否かが判断される。この間、ユーザは、溶接システム100の全般的な溶接条件の再確認を行う。そして、ステップS13において、再度、ユーザにより自動調整を行うためのアプリケーションプログラムが選択されたと判断された場合、図8に示したステップS2に戻り、上記説明した制御フローが再び実行される。ユーザによる「キャンセル」ボタン84b(図7参照)の押圧が検出されると、再度自動調整を行うことなく本アプリケーションが終了される。このようにして、溶接機特性ファイル80の自動調整を行う際の制御部61の制御フローが実行される。
本実施形態では、上記のように、ロボット制御装置50が、アナログ信号として出力される指令値(電圧値)と、この指令値(電圧値)に基づいて溶接電源装置30が溶接ロボット10に対して出力する溶接電流の設定値との対応関係が規定された溶接機特性ファイル80と、溶接機特性ファイル80に規定された溶接電流の設定値に基づいて溶接電源装置30から溶接ロボット10に出力された溶接電流の実測値を検出する検出部63と、溶接条件の調整を行う際に、検出部63により検出された溶接電流の実測値に基づいて、溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係(溶接条件)を調整する制御部61とを含むことによって、「溶接条件」が事前に調整された溶接機特性ファイル80に基づいて実際の溶接動作を行うことができる。この場合、ユーザは、実際の溶接動作が行われる前に調整済みの溶接機特性ファイル80を参照して、調整された溶接条件の詳細を予め確認することができるので、調整済みの溶接機特性ファイル80を用いて溶接動作が行われる際の溶接品質の良否を、ある程度予測することができる。また、溶接条件の調整が制御部61により自動的に行われるので、ユーザは、指令値や溶接電流の設定値などがロボット制御装置50の仕様を外れて不適切に行われることのない状態に自動的に調整された調整済みの溶接機特性ファイル80を参照することができる。したがって、ユーザは、不適切な溶接条件が排除されて適切に調整された溶接機特性ファイル80を予め参照した後、溶接ロボット10に対して実際の溶接動作を実行させることができる。この結果、安定した溶接品質を確実に得ることができる。
また、本実施形態では、溶接条件(指令値および溶接電流値)を溶接機特性ファイル80を使用して継続的に管理することができるので、使用期間とともに溶接電源装置30の性能が変化(劣化)したり、溶接電源装置30を交換した際に交換前後での機体差(性能差)が生じたり、母材5の種類や溶接ロボット10が有する諸条件(溶接ワイヤ21の材質やシールドガスの成分など)に変更が生じたりした場合であっても、溶接条件毎に調整された電流値によって溶接を行うことができる。つまり、溶接電源装置30や溶接ロボット10などの被制御対象物が有する個体差に応じて、ロボット制御装置50から適切な指令値(電圧値のアナログ信号)を出力させて溶接を行うことができるので、溶接システム100がどのように構成されていても、安定した溶接品質を確実に得ることができる。
また、本実施形態では、溶接条件の調整を行う際に、検出部63により検出された調整後の溶接電流の実測値が、指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の設定値に対して±1Aの範囲内に収まるように溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係が制御部61の指令に基づいて調整されるように構成されている。これにより、指令値に基づいた溶接電流の設定値と、調整後の溶接電流の実測値とを許容された範囲内で略一致させることができる。したがって、実際の溶接を行う際に、ロボット制御装置50から出力された指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の設定値を有するアーク放電によって溶接が行われるので、溶接品質を容易に管理することができる。
また、本実施形態では、検出部63により検出された溶接電流の実測値を指令値に基づいた溶接電流の設定値に徐々に近づけることにより、検出部63により検出された調整後の溶接電流の実測値が、指令値に基づいた溶接電流の設定値に対して±1Aの範囲内に収まるように溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係が制御部61により調整されるように構成されている。これにより、たとえば、溶接電流の設定値を急激に変更して、検出部63により検出された溶接電流の実測値に近づける手法で調整を行う場合とは異なり、溶接電流の設定値を徐々に変更して溶接電流の実測値に近づける分、溶接ワイヤ21と母材5との間のアーク放電を継続させながら、この自動調整を行うことができる。したがって、容易に溶接機特性ファイル80の規定内容を調整することができる。
また、本実施形態では、調整された溶接条件に基づいて溶接を行う際に、指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係が調整された調整後の溶接機特性ファイル80に基づいて、出力部62から溶接電源装置30に対して指令値(電圧値)が出力されるように構成されているので、溶接品質が適切に管理された状態で、実際の溶接を行うことができる。
また、本実施形態では、溶接条件の調整を行う際に、検出部63により検出された溶接電流の実測値が、指令値(電圧値)に基づいた溶接電流の設定値に対して±1Aの範囲内に収まらないと判断した際に、溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係が調整できない旨の通知画面83を通知するように構成されている。これにより、ユーザは、現在の溶接条件では上記した自動調節が適切に行えていないことを認識することができる。したがって、溶接条件を現在の条件から別な条件に変更した状態で、再度自動調節を行う必要を認識することができる。
また、本実施形態では、溶接条件の調整を行う際に、検出部63により検出された溶接電流の実測値に基づいて調整された溶接機特性ファイル80を記憶部64に記憶するように構成されている。そして、指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係が調整される毎に、調整後の溶接機特性ファイル80を、順次、記憶部64に保存するように構成されている。これにより、溶接条件の調整を行う毎に、溶接機特性ファイル80の履歴が残されるので、ユーザは、前回調整済みであった溶接機特性ファイル80と、今回調整済みとなった溶接機特性ファイル80とを個々に管理することができる。その結果、溶接システム100を長期に亘って容易に維持管理することができる。
また、本実施形態では、溶接条件の調整を行う際に、前回調整されて記憶部64に保存された前回の溶接機特性ファイル80と、今回調整された溶接機特性ファイル80とを比較した結果に基づいて、前回の溶接機特性ファイル80と今回の溶接機特性ファイル80との差分が所定の範囲よりも大きい旨の通知画面84を通知する制御を行うように構成されている。これにより、ユーザは、現在の溶接条件では上記した自動調節が適切に行えていないことを認識することができる。したがって、溶接条件を現在の条件から別な条件に変更した状態で、再度自動調節を行う必要を認識することができる。
また、本実施形態では、ロボット制御装置50には、溶接ロボット10に対して動作を教示するプログラミングペンダント(教示装置)70が設けられており、制御部61は、溶接条件の調整を行う際に、ユーザにより教示装置70を介して入力された命令に基づいて、溶接機特性ファイル80における指令値(電圧値)と溶接電流の設定値との対応関係を調整する制御を行うように構成されている。これにより、溶接機特性ファイル80の調整を、教示装置70を介して容易に行うことができる。
なお、今回開示された実施形態およびその変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態およびその変形例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記実施形態では、「電流制御モード」における溶接機特性ファイル80の自動調整について説明したが、本発明はこれに限られない。すなわち、「電圧制御モード」においても、上記実施形態と同様の手法に基づいて、溶接機特性ファイル80の自動調整を行うことが可能である。この場合、指令値(電圧値)に基づいた溶接電圧の制御上の設定値と、実際に出力される溶接電圧の実測値との差が、±0.5Vの範囲内に収まるように溶接機特性ファイル80における指令値と溶接電圧の設定値との対応関係が自動調整されるのが好ましい。
また、上記実施形態では、自動調整が行われる際に、検出部63により検出された調整後の溶接電流の実測値が、指令値に基づいた溶接電流の設定値に対して±1Aの範囲内に収まるように溶接機特性ファイル80における指令値と溶接電流の設定値との対応関係が調整される例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、±1A以外の範囲内で調整されるように構成されていてもよいし、±5%の範囲内で調整されるように構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、溶接機特性ファイル80の自動調整を行う際に、教示装置70を使用した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロボット制御装置50の装置本体60に設けられた操作パネルなどを直接操作して、溶接機特性ファイル80の自動調整が行われるように構成されていてもよい。
また、上記実施形態では、ロボット制御装置50の装置本体60に設けられた記憶部64に溶接機特性ファイル80および溶接機特性ファイル80の自動調整に関する履歴を保存した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、装置本体60または教示装置70に外部接続されるUSBメモリなどの記憶部に、溶接機特性ファイル80および溶接機特性ファイル80の自動調整に関する履歴を保存するように構成してもよい。