JP5550250B2 - Zn−Sn−Mg系溶射用合金 - Google Patents

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本発明は溶射用合金に関する。
地下埋設物として実用に供せられる金属管は、腐食防止のため、古くからタール系やビチュメン系の塗装が施されている。しかしながら塗装に傷が付いた場合は、傷部から金属管の腐食が進行することとなる。こうした腐食問題を解決するため、金属管素材よりイオン化傾向の大きな金属性被膜を金属管の表面に形成し、イオン化傾向の差異によって犠牲陽極作用を発生せしめ、傷部からの腐食を防止することが広く行われるようになっている。こうした犠牲陽極作用を持つ金属としては、亜鉛が代表的で、メッキや溶射によって被膜形成が行われている。この被膜は、そのまま用いられたり、あるいはさらに上塗り塗装が施されて用いられたりしている。亜鉛はイオン化傾向が高く、例えば鉄系金属と組み合わせて用いられる場合、鉄と亜鉛との電気化学的な電位差が大きいので、塗覆装に多少の傷が生じても犠牲陽極作用が発揮され、傷部での腐食を抑制することが出来る。また、上下水道管路として広く用いられている鋳鉄管の場合には、塗覆装の上からポリエチレンスリーブと呼ばれるポリエチレンシートで覆い、外部環境から遮断することにより、更に防食効果を高めることが行われている。
しかし、亜鉛はイオン化傾向が高いので、犠牲陽極作用を長期的に保持することが難しい。この問題の解決策としては、亜鉛塗着量の増大が有効な手段であるが、その場合は、材料コストのアップだけでなく施工時間が長くなり、生産能率も低下することになる。
また、他の方法として亜鉛−アルミニウム合金を用いる場合もある(特許文献1)。アルミニウムを添加することによりイオン化が緩和され、犠牲陽極作用の保持期間が長期化される。
しかし、アルミニウムは、一部で衛生上の疑問点が提起されており、飲料水の供給管材に適用される材料としては、安全性が確定されていない。たとえば、一方の管の端部に形成された受口の内部に他方の管の端部に形成された挿口が挿入される受挿構造の管継手の部分では、挿口の外面が水道水に接するため、アルミニウムが溶出する可能性がある。
特表平8−505929号公報
本発明は、塗着量の大幅な増大やアルミニウムの使用を行うことなく、こうした課題を解決できるようにすることを目的とする。
この目的を達成するため本発明のZn−Sn−Mg系溶射用合金は、Snが10質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであることを特徴とする。
本発明のZn−Sn−Mg系溶射用合金は、Snが1質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであり、線材であるようにすることができる。
本発明のZn−Sn−Mg系溶射用合金によれば、単なる亜鉛溶射被膜を用いたものに比べて防食性能を格段に向上させることができる。またAlを用いないので、衛生面の問題も生じない。しかも、軟らかいSnを用いているため、容易にZn−Sn−Mg系の線材に加工することができ、このため支障なく溶射材料を形成することができる。
本発明の外面防食管は、鋳鉄管などの鉄系材料で構成された管の表面に、合金溶射被膜を含有した防食層が形成されたものである。
第1の本発明においては、合金溶射被膜は、Snが1質量%を超えるとともに50質量%未満であり、かつ残部がZnであるZn−Sn系合金溶射被膜にて構成されている。このように主体とするZnにSnが加えられたものであることにより、Znだけを用いた溶射被膜に比べて防食性能を向上させることができる。その防食性能は、Zn−15Al(Znが85質量%、Alが15質量%)と同程度とすることができる。Snの含有量が1質量%以下である場合や50質量%以上である場合には、Snを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
またSnを含有することで、白錆すなわちZnの腐食生成物が発生しにくいという利点もある。白錆が発生しやすいと、溶射被膜の上に黒塗装を行った場合に、屋外に保管すると、黒塗装部から白錆が発生し目立ちやすく、このため出荷時に再塗装が必要になってしまうという問題がある。
軟らかい材料であるSnを含有することで、溶射のための材料としてのZn−Sn合金線材を作製しやすいという利点もある。また、ZnとSnだけを含むものであるため、衛生面の問題も生じない。
第2の本発明においては、合金溶射被膜は、Snが1質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであるZn−Sn−Mg系溶射被膜にて構成されている。
この場合も、Znだけを用いた溶射被膜に比べて防食性能を向上させることができる。その防食性能は、Zn−15Al(Znが85質量%、Alが15質量%)と比べて、同等以上とすることができる。
Snの含有量が1質量%以下である場合および、またはMgの含有量が0.01質量%以下である場合には、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。一方、Snの含有量が50質量%以上である場合および、またはMgの含有量が5質量%以上である場合も、同様に、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
Zn−Sn−Mg系合金溶射被膜を形成した場合も、Zn−Sn系合金溶射被膜を形成した場合と同様に、白錆が発生しにくく、線材を作製しやすく、また衛生面の問題もないという利点がある。
第1および第2の本発明の合金溶射被膜には、Ti、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませることができる。すなわち、いずれか一つ、または二つ〜四つを、あわせて含ませることができる。その含有量は、各々が、0.001質量%以上かつ3質量%以下であることが好ましい。
これらを含有させることで、防食性能をより向上させることができる。ただし、各々の含有量が0.001質量%未満である場合は、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。また、各々の含有量が3質量%を超える場合も、同様に、これらを加えることによる実質的な防食性能の向上効果を得ることができない。
これらを含有させることによっても、同様に、白錆が発生しにくく、含有量が微量であるために合金線材を問題なく作製することができ、また衛生面の問題もないという利点がある。
本発明の外面防食管は、防食層が上記した合金溶射被膜を含有するものであるが、この防食層は、合金溶射被膜に加えて、上塗り塗装などの他の被膜が積層されたものであることが特に好ましい。上塗り塗装は、アクリル樹脂系塗料やエポキシ樹脂系塗料によって施すことができる。
次に本発明の外面防食管を製造する方法、すなわち合金溶射被膜の形成方法について説明する。鋳鉄管の表面に合金溶射被膜を形成するためには、公知の溶射方法、すなわちZn−Sn線材、Zn−Sn−Mg線材、あるいはこれらにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を用いて、アーク溶射を行う方法を挙げることができる。あるいは、線材に代えて合金粉末を用いた溶射を行うこともできる。
また、Zn−Sn合金溶射被膜は、Zn−Sn線材、またはこれにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を第1の線材として用いるとともに、Zn線材を第2の線材として用いて、同時にアーク溶射を行うことによって得ることもできる。同様に、Zn−Sn−Mg合金被膜も、Zn−Sn−Mg線材、またはこれにTi、Co、Ni、Pのうち少なくともいずれか一つを含ませた線材を第1の線材として用いるとともに、Zn線材を第2の線材として用いて、同時にアーク溶射を行うことによって得ることもできる。
たとえばZn−25Sn−0.5Mg(Sn:25質量%、Mg:0.5質量%、Zn:残部、以下、同様に表記することがある)の合金溶射被膜を得るために、Zn−25Sn−0.5Mg線材を2本用いて同時にアーク溶射することに代えて、Zn−50Sn−1.0Mg線材とZn線材とを等量ずつ用いて同時にアーク溶射することができる。
このようにすると、防食性能をよりいっそう向上させることができる。またZn−Sn−Mg線材の使用量を半減させることができるため、その調合に要するコストを削減することができる。
このような溶射方法を採用することで、防食性能をよりいっそう向上させることができる理由は、明らかではないが、以下の(a)(b)(c)のそれぞれ、あるいはそれらの相乗効果によるものと考えることができる。
(a)たとえばZn−Sn−Mg合金線材とZn線材とを用いて同時にアーク溶射を行った場合には、それによって形成される溶射被膜中には、Zn−Sn−Mg合金とZnとがそれぞれ分布することになる。このとき、Zn−Sn−Mg合金はZnよりも電位が低いため、これらが犠牲陽極として働く場合には、Zn−Sn−Mg合金が優先的に溶け出す。この溶け出したZn−Sn−Mg合金が被膜の表面に比較的安定した別の被膜を形成することで、それが、残りのZn−Sn−Mg合金とZnとの消耗または溶解を抑制しているためであると考えることができる。
(b)被膜中に存在しているZnが物理的な障害となってZn−Sn−Mg合金の溶解を抑制し、またZn−Sn−Mg合金が溶解した場合はその腐食生成物がZnの溶解を抑制しているためであると考えることができる。
(c)本発明者らが観察したところによると、2本のZn−25Sn−0.5Mg線材を使用して得られたZn−25Sn−0.5Mg溶射被膜の気孔率は、約15%であった。これに対し、Zn−50Sn−1.0Mg線材とZn線材とを等量ずつ使用して得られたZn−25Sn−0.5Mg溶射被膜の気孔率は、約12%であった。つまり、後者の方が気孔率が低いことから、防食性能が向上したと考えることができる。気孔率が低くなったのは、Zn−50Sn−1.0Mg線材の方がZn線材よりも軟質であることから、硬さの異なる線材を使用したことが影響しているかも知れない。
本発明の外面防食管を製造する際には、鋳鉄管に合金溶射被膜を形成したうえで、これを合金の共晶温度(198℃)以上かつ融点未満の温度で熱処理することが好ましい。このように熱処理を施すことで、防食性能をより向上させることができる。これは、Zn−Sn合金あるいはZn−Sn−Mg合金の共晶温度を超える温度で熱処理することでSnだけが溶解し、これによって溶射被膜中に生じていた微細な空隙が埋められることになって、鋳鉄管を地中に埋設したときに被膜中に電解質が浸入することを抑制可能となるためであると推定される。
したがって、共晶温度未満の温度で熱処理したのでは、Snが実質的に溶解せず、上記した効果が得られないことになる。反対に熱処理温度が合金溶射被膜の融点以上であると、合金の酸化が進んで本来の防食性能が失われることになる。
熱処理の時間は、特に制限はないが、1秒〜60分であることが好適である。熱処理の時間がこの範囲よりも短いと、処理時間が不足して、必要な熱処理を行うことができなくなる。
上述した上塗り塗装を行う場合は、合金溶射被膜が形成されたあとの施工とする。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例、比較例において、各種物性の評価は、次のようにして行った。
(1)線材への加工性
φ47mm×L350mmの合金塊を作製し、ビッカース硬さ測定することによって、線材への加工性を評価した。また硬さを測定した後の合金塊を鍛造してφ10mmに縮径するようにし、さらにφ1.6mmまで伸線するようにして、その加工性を下記の基準により評価した。
○:φ1.6mmまでの伸線が可能
△:伸線工程で破断が発生
(2)耐食性
下記の要領で耐食試験を行い評価した。すなわち、150mm×70mm×2mmのサンドブラスト鋼板を試験片として用い、これに、φ1.6mmの線材を用いた電気式アーク溶射方法によって、溶射量130g/mで、厚さ20〜30μmの溶射被膜を形成して供試サンプルとした。腐食試験および評価方法は、次の通りとした。
(2−1)
JIS Z2371に規定される塩水噴霧試験を実施し、Zn−Sn合金のみを溶射した場合またはZn−Sn−Mg合金のみを溶射した場合において、熱処理を施していないときの、白錆の発生程度と、赤錆が発生するまでの期間により評価した。白錆の発生程度は、目視にて、下記の基準により評価した。
○:白錆の発生が少ない
△:白錆の発生が中程度
×:白錆の発生が多い
(2−2)
赤錆については、Znのみを溶射し熱処理を施していない場合の塩水噴霧試験における赤錆が発生するまでの期間を「1」として、それとの対比のうえで、Zn−Sn合金のみを溶射した場合またはZn−Sn−Mg合金のみを溶射した場合において、熱処理を施していないときの供試サンプルについて塩水噴霧試験における赤錆が発生するまでの期間を数値で評価した。
(2−3)
Ti、Co、Ni、Pのいずれかを単独で添加し、熱処理を施していないときの、塩水噴霧試験の際に赤錆が発生するまでの期間について評価した。すなわち、これらを添加しないZn−Sn合金のみの場合またはZn−Sn−Mg合金のみの場合において、熱処理を施していないときの赤錆が発生するまでの期間を「1」として、それとの対比のうえで、下記の基準により評価した。
◎:赤錆が発生するまでの期間が1.5倍以上に伸びた
○:赤錆が発生するまでの期間が1.0倍以上1.5倍未満に伸びた
△:赤錆が発生するまでの期間はほぼ同じであった
(2−4)
Ti、Co、Ni、Pを添加せずにZn−Sn合金のみを溶射した場合またはZn−Sn−Mg合金のみを溶射した場合において、熱処理を施したときの、塩水噴霧試験の際に赤錆が発生するまでの期間について評価した。すなわち、供試サンプルについて、30分間の熱処理を施した場合において、熱処理を施さない場合に比べて赤錆が発生するまでの期間が伸びて防食効果が向上したと評価できる熱処理温度の範囲を測定した。
(2−5)
Ti、Co、Ni、Pを添加していない供試サンプルであって、熱処理を施していないものを、30℃の水道水中に浸漬して、赤錆が発生するまでの期間について評価した。すなわちZnのみを溶射した場合の赤錆が発生するまでの期間を「1」として、それとの対比のうえで、供試サンプルについて赤錆が発生するまでの期間を数値で評価した。
(2−6)
Ti、Co、Ni、Pを添加していない供試サンプルであって、熱処理を施していないものを、30℃のpH3の硫酸中に浸漬して、赤錆が発生するまでの期間について評価した。すなわちZnのみを溶射した場合の赤錆が発生するまでの期間を「1」として、それとの対比のうえで、供試サンプルについて赤錆が発生するまでの期間を数値で評価した。
各実施例、比較例の詳細は、下記の通りである。
(実施例1〜6、比較例1〜4)
表1に示す成分組成のZn−Sn合金を試験片に溶射して、実施例1〜6、比較例1〜4の供試サンプルを得た。これらの供試サンプルについての評価結果を表1に示す。なお、比較例3はZnのみを溶射したものであり、比較例4はSnのみを溶射したものである。
Figure 0005550250
なお、実施例1〜6、比較例1〜4において、Ti、Co、Ni、Pを添加して塩水噴霧試験を実施した場合は、Ti、Co、Ni、Pのいずれを単独で添加した場合も、その添加量を変化させたときの赤錆が発生するまでの期間について、すべて同一の評価結果が得られた。そこで、表1では、簡単のために、代表例一つのみを記載した。すなわち、表1は、実施例1〜6、比較例1〜4において、Ti、Co、Ni、Pのいずれについても、その添加量を0.001、0.01、0.1、1、3質量%と変化させたときに、すべて同一の評価結果が得られたことを意味している。
(実施例7〜42、比較例5〜18)
表2に示す成分組成のZn−Sn−Mg合金を試験片に溶射して、実施例7〜42、比較例5〜14の供試サンプルを得た。実施例7〜30の供試サンプルについての評価結果を表2に示し、実施例31〜42、比較例5〜14の供試サンプルについての評価結果を表3に示す。なお、参考のために、表2および表3に比較例3と比較例4を再掲する。
Figure 0005550250
Figure 0005550250
なお、実施例7〜42、比較例5〜18においても、Ti、Co、Ni、Pをそれぞれ単独で添加して塩水噴霧試験を実施した場合に、その添加量を変化させたときの赤錆が発生するまでの期間について、すべて同一の評価結果が得られた。そこで、表2および表3においても、表1と同様にして、簡単のために、代表例一つのみを記載した。すなわち、実施例7〜42、比較例5〜18において、Ti、Co、Ni、Pのいずれを添加した場合も、その添加量を0.001、0.01、0.1、1、3質量%と変化させたときに、表2および表3に示すように、すべて同一の評価結果が得られた。
(実施例43〜53)
表4に示すように、Zn−Sn−Mg線材を第1の線材として用いるとともに、Zn線材を第2の線材として用いて、同時にアーク溶射を行った。その結果を表4に示す。なお、上述の実施例と同様に、実施例43〜53において、Ti、Co、Ni、Pを添加して塩水噴霧試験を実施した場合は、Ti、Co、Ni、Pのいずれを単独で添加した場合も、その添加量を変化させたときの赤錆が発生するまでの期間について、すべて同一の評価結果が得られた。そこで、表4でも、簡単のために、代表例一つのみを記載した。
Figure 0005550250
表1から明らかな通り、Zn−Sn合金を溶射した実施例1〜6について、用いた合金は問題なく伸線可能なものであり、いずれもφ1.6mmの線材を得ることが可能であった。
また実施例1〜6は、白錆の発生が少なく、しかも赤錆が発生するまでの期間も長く、十分な防食性能を有するものであった。Zn−Sn合金であるため、衛生面でも問題のないものであった。赤錆が発生するまでの期間は、公知のZn−15Al合金と同程度に優れたものであった。さらに、Zn−Sn合金にTi、Co、Ni、Pの少なくともいずれかを添加した場合や、溶射後に熱処理した場合は、よりいっそう防食性を向上させることができた。熱処理について、具体的には、溶射被膜を構成する合金の共晶温度である198℃以上かつ合金溶射被膜の融点未満の範囲の温度で熱処理した場合は、30分間の熱処理によって、防食効果を向上させることができた。水道水に浸漬したときの防食性や、硫酸に浸漬したときの防食性も、優れたものであった。
これに対し比較例1は、Snの配合割合が本発明の範囲を下回っていたため、その分Znの配合割合が高く、したがってそれに対応した白錆の発生が見られた。また、Snの配合割合が本発明の範囲を下回っていたため、SnがZnの溶出を抑制するという働きを発揮しにくく、したがって赤錆が発生するまでの期間も、実施例1〜6に比べると極端に短かった。
比較例2は、反対にSnの配合割合が本発明の範囲を上回っていたが、同様に赤錆が発生するまでの期間が、実施例1〜6に比べて短かった。
比較例3は、Znのみを溶射したものであったため、比較例1よりもさらに白錆の発生が多く、赤錆発生までの期間も短かった。
比較例4は、Snのみを溶射したものであったため、比較例2よりもさらに赤錆が発生するまでの期間が短かった。
表2および表3から明らかな通り、Zn−Sn−Mg合金を溶射した実施例7〜42について、用いた合金は問題なく伸線可能なものであり、いずれもφ1.6mmの線材を得ることが可能であった。
また実施例7〜42は、白錆の発生が少なく、しかも赤錆が発生するまでの期間も長く、十分な防食性能を有するものであった。赤錆が発生するまでの期間は、公知のZn−15Al合金と同程度以上に優れたものであった。さらに、Zn−Sn−Mg合金にTi、Co、Ni、Pの少なくともいずれかを添加した場合や、溶射後に熱処理した場合は、よりいっそう防食性を向上させることができた。熱処理について、具体的には、溶射被膜を構成する合金の共晶温度である198℃以上かつ合金溶射被膜の融点未満の範囲の温度で熱処理した場合は、30分間の熱処理によって、防食効果を向上させることができた。水道水に浸漬したときの防食性や、硫酸に浸漬したときの防食性も、優れたものであった。
これに対し、比較例5は、表3に示すように、Mgの配合割合は問題なかったが、Snの配合割合が本発明の範囲を下回っていたため、その分Znの配合割合が高く、したがってそれに対応した白錆の発生が見られた。また、赤錆が発生するまでの期間も、実施例7〜42に比べると短かった。
比較例6、8、10、12、14、16は、Snの配合割合は問題なかったが、Mgの配合割合が本発明の範囲を下回っていたため、MgがZnの溶出を抑制するという働きを発揮しにくく、したがって実施例7〜12、13〜18、19〜24、25〜30、31〜36、37〜42に比べて赤錆が発生するまでの期間が短かった。
なお、比較例6、8、10、12、14、16は、ZnとSnの配合割合がこれらと同じである実施例1、2、3、4、5、6と比較すると、わずかながらMgが添加されているにもかかわらず、赤錆発生までの期間は却って短くなった。その理由は、明らかではないが、Mgの添加量が微量であったため、これを添加した効果が現れず、逆に劣る結果を導く要因が作用したのではないかと思われる。
比較例7、9、11、13、15、17は、Snの配合割合は問題なかったが、Mgの配合割合が本発明の範囲を上回っていたため、耐食性が極端に低下した。このため、実施例7〜42に比べて、極めて短期間のうちに赤錆が発生した。
比較例18は、Mgの配合割合は問題なかったが、Snの配合割合が本発明の範囲を上回っていたため、赤錆が発生するまでの期間が、実施例7〜42に比べて短かった。
実施例43、44、45、46、47、48、49、50は、実施例7、12、13、18、19、24、25、30と同じ組成の被膜を得るために、Sn量とMg量を倍化させたZn−Sn−Mg線と、Znだけを含んだZn線とを用いたものであった。その結果、実施例43〜50のいずれも、対応する実施例7、12、13、18、19、24、25、30に比べて、水道水浸漬による赤錆発生までの期間と、硫酸浸漬による赤錆発生までの期間が長くなり、防食性能がよりいっそう向上していることが確認された。
実施例51〜53も、実施例43〜50と同様に、水道水浸漬による赤錆発生までの期間と、硫酸浸漬による赤錆発生までの期間とが長く、防食性能に優れたものであった。
なお、表1〜表4には記載していないが、Zn−Sn合金やZn−Sn−Mg合金にTi、Co、Ni、Pの少なくともいずれかを添加し、かつ、溶射後に、溶射被膜を構成する合金の共晶温度である198℃以上かつ合金溶射被膜の融点未満の範囲の温度で熱処理した場合も、よりいっそう防食性を向上させることができた。

Claims (2)

  1. Snが10質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであることを特徴とするZn−Sn−Mg系溶射用合金。
  2. Snが1質量%を超えかつ50質量%未満であり、Mgが0.01質量%を超えかつ5質量%未満であり、残部がZnであり、線材であることを特徴とするZn−Sn−Mg系溶射用合金。
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