JP5549909B2 - 浸炭解析方法及び浸炭解析装置 - Google Patents
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Description
このような浸炭処理によれば、被浸炭処理物の表層が硬化し、被浸炭処理物の表面の耐摩耗性を向上させたりすることができる。
このため、実際の浸炭処理に先立ち、被浸炭処理物への浸炭量を数値解析により計算し、この数値計算の結果から最適な浸炭条件を設定する試みがなされている。
ところが、実際の浸炭処理では、被浸炭処理物の表面の炭素濃度は、炭素固溶限界濃度になっておらず、徐々に炭素固溶限界濃度に向かう。また、炭素固溶限界濃度に向かう速度も、被浸炭処理物の表面の近傍に存在する浸炭ガスの濃度分布(密度)に依存して変化する。さらには浸炭ガスの濃度分布は、処理空間の形状や被浸炭処理物の形状に依存して変化する。
このため、従来の数値解析によれば、被浸炭処理粒の大まかな浸炭量を計算することはできるものの、より実現象に近い浸炭挙動を求めることは難しかった。
例えば、従来の数値解析においては、上述のように被浸炭処理物の表面の炭素濃度を炭素固溶限界濃度であると仮定しているため、炭素固溶限界濃度に至るまでの被浸炭処理物の表面における炭素濃度のムラを求めることができない。
つまり、本発明によれば、予め被浸炭処理物の表面の炭素濃度を炭素固溶限界濃度と仮定せず、流体解析を行うことによって、炭素固溶限界濃度に至るまでにおける被浸炭処理物の表面の炭素濃度が計算される。このため、被浸炭処理物の表面の炭素濃度の分布を、実際に浸炭処理を行った場合に合うように計算することができる。そして、この被浸炭処理物の表面の炭素濃度に応じて炭素流入量が設定されるため、実際に浸炭処理を行った場合に近づけて浸炭量を計算することができる。
したがって、本発明によれば、被浸炭処理物への浸炭量を数値解析によって計算する場合により実現象に近い浸炭量を計算することができる。
浸炭解析装置Sは、図2に示すような浸炭処理を行う処理空間K内に載置された鋼材X(被浸炭処理)に対する浸炭量を数値解析により計算するものであり、パーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータ装置から構成されている。そして、図1に示すように、浸炭解析装置Sは、CPU1と、記憶装置2と、入力装置3と、出力装置4と、通信装置5とを備えている。
そして、CPU1は、記憶装置2に記憶された数値解析プログラムPに基づいて当該制御を行う。
つまり、本実施形態の浸炭解析装置SにおいてCPU1は、本発明の状態量計算装置として機能する。
つまり、本実施形態の浸炭解析装置SにおいてCPU1は、本発明の表面炭素濃度計算手段として機能する。
つまり、本実施形態の浸炭解析装置SにおいてCPU1は、本発明の浸炭量計算手段として機能する。
なお、反応速度係数をα、水素発生量を[H2]、炭素含有化合物の濃度を[CX]とした場合に水素発生量計算式は、下式(1)で示される。また、炭素流入量をd[C]/dtとした場合に上述の第1の炭素流入量計算式は、下式(2)で示される。
なお、第2の炭素流入計算式は、もともと炭素が鋼材Xの内部に拡散して浸透することによって鋼材Xの表面から失われた炭素が補充される際に必要となる炭素流入量を算出する式であり、拡散係数をDs、表面からの位置をxとした場合に、下式(3)で示される。
なお、CPU1は、各領域における浸炭量から、浸炭分布や浸炭重量を算出することもできる。
そして、本実施形態の浸炭解析装置Sにおいて記憶装置2は、図1に示すように、入力データD1と、計算データD2と、上記数値解析プログラムPとを記憶している。
ここで、流入流量は、処理空間に供給する浸炭ガスYの流量である。また、質量分率は、浸炭ガスYを構成する物質の質量の割合である。また、メッシュデータは、処理空間K及び鋼材Xの形状を示すものであり、微小な複数の領域の集まりとして形状を表すものである。また、メッシュデータには、これらの各分割領域同士における物理量のやり取りを規定するための条件等も含まれている。また、初期炭素濃度は、浸炭処理が行われる以前から鋼材Xが含んでいる炭素の濃度である。最大計算時間は、浸炭解析を行う時間を示すものである。
出力装置4は、CPU1から入力される信号を可視化して出力するものであり、ディスプレイ4a及びプリンタ4bを備えている。
通信装置5は、本実施形態の浸炭解析装置Sと外部装置との間においてデータの受け渡しを行うものであり、社内LAN(Local Area Network)等のネットワークNに対して電気的に接続されている。
なお、以下の説明においては、上記入力装置3や通信装置5を介して、既に記憶装置2に入力データD1が入力された状態であるとする。
このように処理空間K全体における浸炭ガスYの状態量を計算することによって、CPU1は、処理空間Kの一部であって鋼材Xとの境界領域における浸炭ガスYの状態量を得る。
なお、ここでは、周知の有限体積法を用いて浸炭ガスYの状態量を計算するため、計算方法の詳細については省略するが、CPU1は、例えば入力データD1のうち流入流量、質量分率、炉内温度、炉内圧力及びメッシュデータを用い、メッシュデータを構成する各分割領域における流体密度、温度、圧力、流速、質量分率、モル分率を計算する。そして、CPU1は、これらの値を計算データD2として記憶装置2に記憶させる。
また、本ステップS1は、本発明の状態量計算工程に相当する。
より詳細には、CPU1は、ステップS1で算出した浸炭ガスYの状態量を示すデータから、上記境界領域の状態量を示すデータを抽出し、この抽出したデータや記憶装置2に予め記憶された初期炭素濃度に基づいて鋼材Xの表面の炭素濃度を計算する。ここで、鋼材Xの表面は、メッシュデータとして複数の分割領域に分かれて定義されており、CPU1は、各分割領域の炭素濃度を計算することによって鋼材Xの表面の全体の炭素濃度を得る。そして、CPU1は、計算により求められた鋼材Xの表面の炭素濃度を計算データD2として記憶装置2に記憶させる。
なお、本ステップS2は、本発明の表面炭素濃度計算工程に相当する。
ここで、CPU1は、ステップS3において炭素濃度を計算した分割領域の各々について、炭素濃度が炭素固溶限界濃度より小さいか否かを判定する。
具体的には、CPU1は、反応速度係数及び水素発生量計算式(1)を用いて単位時間あたりの水素発生量を計算し、この値を計算データD2として記憶装置2に記憶させる(ステップS4)。さらにCPU1は、ステップS4で算出した水素発生量と第1の炭素流入量計算式(2)とに基づいて炭素流入量を計算し、この値を計算データD2として記憶装置2に記憶させる(ステップS5)。
なお、本ステップS4と本ステップS5とを合わせたステップが本発明の浸炭量計算工程に相当する。
なお、本ステップS6は、本発明の浸炭量計算工程に相当する。
より詳細には、CPU1は、ステップS5あるいはステップS6において、鋼材Xの表面を構成する各分割領域に設定された炭素流入量を用いて記憶装置2に予め記憶された拡散方程式を解くことによって、各分割領域からの炭素の拡散量を算出し、鋼材Xの内部を構成する各分割領域における浸炭量を算出する。そして、CPU1は、当該浸炭量を計算データD2として記憶装置2に記憶させる。
この結果、解析時間が最大計算時間に到達している場合には、CPU1は浸炭解析を終了する。一方、解析時間が最大計算時間に到達していない場合には、CPU1は、解析時間を1ステップ進めて再度ステップS1に戻る。
つまり、本実施形態の浸炭解析装置Sによれば、予め鋼材Xの表面の炭素濃度を炭素固溶限界濃度と仮定せず、流体解析を行うことによって、炭素固溶限界濃度に至るまでにおける鋼材Xの表面の炭素濃度が計算される。この計算は、流体解析の性質上、鋼材Xの表面を構成する分割領域ごと計算することができるため、鋼材Xの表面の炭素濃度分布を、実際に浸炭処理を行った場合に合うように計算することができる。そして、鋼材Xの表面の炭素濃度に応じて炭素流入量が設定されるため、実際に浸炭処理を行った場合に近づけて浸炭量を計算することができる。
したがって、本発明によれば、鋼材Xへの浸炭量を実現象に近づけて計算する、すなわち数値解析の精度を向上させることが可能となる。
本実験においては、図4に示す実験装置Aを用いて実験を行った。実験装置Aは、図4に示すように、石英管A1と、加熱炉A2と、マスフローコントローラA3と、真空ポンプA4と、温度計A5と、熱電対A6と、ガス分析計A7(4重極マスフィルタ)とを備えている。
そして、本実験においては、加熱炉A2によって加熱される石英管A1の途中部位に鋼材XとしてSCM420を載置し、マスロフーコントローラA3によって石英管A1に流入する浸炭ガスYの流量を調節し、真空ポンプA4で排気したガスの分析をガス分析計A7で行い、温度計A5で石英管A1の温度を測定し、さらに熱電対A6によって石英管A1内部の温度を測定した。
なお、本実験では、浸炭ガスとしてアセチレンとアルゴンとの混合気体を用いた。また、本実験においては、ガス分析の結果、アセチレン熱分解反応は見られなかった。
この結果からも分かるように、上記実施形態の浸炭解析装置S及び浸炭解析方法による計算結果は、実験結果と良い一致を示すことが分かる。
この結果からも分かるように、上記実施形態の浸炭解析装置S及び浸炭解析方法による計算結果は、実験結果と良い一致を示すことが分かる。
Claims (6)
- 被浸炭処理物への浸炭量を数値解析によって計算する浸炭解析方法であって、
流体解析により前記被浸炭処理物との境界領域における浸炭ガスの状態量を計算する状態量計算工程と、
前記状態量から前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度を計算する表面炭素濃度計算工程と、
前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度に応じた前記被浸炭処理物への炭素流入量を設定し、当該炭素流入量に基づいて前記浸炭量を計算する浸炭量計算工程と
を有し、
解析時間を進めながら解析時間が終了するまで、前記状態量計算工程と、前記表面炭素濃度計算工程と、前記浸炭量計算工程とを繰り返す
ことを特徴とする浸炭解析方法。 - 前記表面炭素濃度計算工程にて計算された前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が炭素固溶限界濃度より小さい場合に、
前記浸炭量計算工程にて、実験により求められる反応速度係数と前記浸炭ガスの濃度とを用いて単位時間当たりの水素発生量を求め、前記水素発生量から前記炭素流入量を算出することを特徴とする請求項1記載の浸炭解析方法。 - 前記表面炭素濃度計算工程にて計算された前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が炭素固溶限界濃度以上である場合に、
前記浸炭量計算工程にて、前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が前記炭素固溶限界濃度であるとして前記炭素流入量を算出することを特徴とする請求項1または2記載の浸炭解析方法。 - 被浸炭処理物への浸炭量を数値解析によって計算する浸炭解析装置であって、
流体解析により前記被浸炭処理物との境界領域における浸炭ガスの状態量を計算する状態量計算手段と、
前記状態量から前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度を計算する表面炭素濃度計算手段と、
前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度に応じた前記被浸炭処理物への炭素流入量を設定し、当該炭素流入量に基づいて前記浸炭量を計算する浸炭量計算手段と
を備え、
解析時間を進めながら解析時間が終了するまで、前記状態量の計算と、前記表面炭素濃度の計算と、前記浸炭量の計算とを繰り返す
ことを特徴とする浸炭解析装置。 - 前記表面炭素濃度計算手段にて計算された前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が炭素固溶限界濃度より小さい場合に、
前記浸炭量計算手段は、実験により求められる反応速度係数と前記浸炭ガスの濃度とを用いて単位時間当たりの水素発生量を求め、前記水素発生量から前記炭素流入量を算出することを特徴とする請求項4記載の浸炭解析装置。 - 前記表面炭素濃度計算手段にて計算された前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が炭素固溶限界濃度以上である場合に、
前記浸炭量計算手段は、前記被浸炭処理物の表面の炭素濃度が前記炭素固溶限界濃度であるとして前記炭素流入量を算出することを特徴とする請求項4または5記載の浸炭解析装置。
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