JP5548070B2 - タマネギの処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、栽培中および収穫後のタマネギに対して行うタマネギの処理方法に関する。
野菜や果物の摂取と健康との関係が、さまざまな疫学的研究によって明らかにされつつある。また、このような研究によって野菜や果物に含有されている抗酸化物質が健康に関与していることも明らかにされつつある。
野菜や果物に含有されている主な抗酸化物質はフラボノイド類である。フラボノイド類とは、ほとんどの植物に含まれているポリフェノール(polyphenol)の代表的な有機化合物群である。タマネギ(Allium cepa L.)は、野菜や果物の中でも群を抜いてフラボノイド類の含有量が高く、中でもケルセチン(quercetin)の含有量の高いことが知られている。ケルセチンは、抗酸化作用、血小板凝集抑制作用等さまざまな機能を有することが知られていることから、健康維持のために有用と考えられる。
しかし、タマネギ等の農作物の含有成分は天候や土壌等に影響され易く、収穫年度により成分の含有量に大きな違いが生じる。タマネギの一例として北海道栗山町産のサラサラレッド(登録商標)を挙げて説明すると、2006年度から2009年度の収穫物における、食用となる鱗茎中のケルセチンまたはこれの配糖体の含有量は、キッコーマン株式会社研究本部による分析値で50〜80mg/100gFW(なお、FWとは乾燥質量を表す。)であり、収穫年度により30mg/100gFW(数十パーセント)の幅があることがわかっている。
このように、収穫年度によってタマネギの鱗茎中のケルセチンまたはこれの配糖体の含有量が大きく異なるため、これらの持つ機能性を期待する製品を提供する上で規格値の設定や機能性の担保が難しい状況にあった。
このような状況下、植物のポリフェノール含有量を高める手法がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、収穫後の植物に特定波長域の紫外線を照射することにより、植物中のポリフェノール含有量を増加させることができる旨が記載されている。なお、特定波長域の紫外線として、波長が240〜320nmの紫外線や300〜400nmの紫外線を用いる旨が記載されている。特許文献1によれば、収穫したパセリやホウレンソウ等のポリフェノール含有量が有意に増加した旨が記載されている。
また、例えば、特許文献2には、収穫後のタマネギの鱗茎を微細化する微細化工程と、前記微細化工程により得られるタマネギ微細化物の中に含まれる糖質を温度が0〜10℃である冷水により除去する糖質除去工程と、前記糖質除去工程で糖質が除去された前記タマネギ微細化物の中の水分を除去する脱水工程と、を含み、前記微細化工程の前にタマネギの鱗茎に対して光照射を行う光照射工程を含むことを特徴とするタマネギ加工食品の製造方法が記載されている。なお、光照射の光源として太陽光を用いる旨が記載されている。特許文献2によれば、高ケルセチン含有量とすることができる旨が記載されている。
植物のポリフェノール含有量を高めるには、5−アミノレブリン酸の施肥も有効である。5−アミノレブリン酸は、動植物の生体内に含まれる天然アミノ酸であり、動物の血液中のヘモグロビンや植物の葉緑素(クロロフィル)の共通前駆体として生物に内在する化合物である。そのため、植物に対して5−アミノレブリン酸を低濃度で与えると葉緑素が多く産生され、結果的に植物の成長が促進されることが知られている。
このような知見のもと、例えば、特許文献3には、収穫前の植物に5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を有効成分とするポリフェノール増量剤が記載されている。特許文献3によれば、ピーマンやなし等の植物の収穫一ヶ月〜210日前から所定の期間、所定の濃度に調整したポリフェノール増量剤を与えたところ、ポリフェノール総量が有意に増加した旨が記載されている。
特開2004−121228号公報 特許第3697524号公報 特開2008−37839号公報
特許文献1のように紫外線を照射したり、特許文献2のように太陽光を照射したりする技術をタマネギの食用となる鱗茎に適用する場合、タマネギの外皮を除去し、鱗茎に直接紫外線や太陽光を照射する必要がある。また、これらの技術は、紫外線や太陽光の照射日数が長いほどポリフェノール含有量が増加することがわかっている。そのため、ポリフェノール含有量を増加させようとすると、外皮を除去した状態のタマネギに対して長期間、紫外線や太陽光を照射することになるが、紫外線や太陽光の長期間の照射はタマネギの品質に影響するおそれがあった。
また、特許文献3のように5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を有効成分とするポリフェノール増量剤を施肥する場合、施肥量が多すぎるとかえってタマネギの成長を妨げるおそれがあった。
このように、紫外線の照射を単独で行う特許文献1や太陽光の照射を単独で行う特許文献2に記載の技術や、5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を有効成分とするポリフェノール増量剤の施肥を単独で行う特許文献3に記載の技術では、タマネギ中のポリフェノールの含有量を増加させるには限界があった。
したがって、特許文献1〜3に記載のいずれの技術によっても、収穫年度によってポリフェノール、中でもケルセチンまたはこれの配糖体の含有量が大きく異なるという状況を十分に解決することができないおそれがあった。そのため、これらの持つ機能性を期待する製品を提供する上で規格値の設定や機能性の担保が難しいという、前記した状況を十分に解決することができないおそれがあった。
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、タマネギ中のケルセチンまたはこれの配糖体の含有量を増加させることのできるタマネギの処理方法を提供することを課題とする。
本発明者は、収穫前または収穫後の簡単な処理で安定的にケルセチンまたはこれの配糖体の含有量を増加させることができないか鋭意研究した結果、所定の手順でタマネギを処理することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
〔1〕前記課題を解決した本発明に係るタマネギの処理方法は、タマネギに5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を有効成分とする肥料を施肥して栽培した後に収穫した前記タマネギに対して、室温4〜12℃、湿度40〜55%の環境下で紫外線を照射するものであり、前記肥料の施肥量は、当該肥料が葉面処理剤の場合は、前記5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を0.1〜1000ppm含有したものを10アールあたり10〜1000L使用し、当該肥料が土壌処理剤の場合は、前記5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を10アールあたり1〜1000g使用することを特徴とする。
〔2〕本発明においては、前記肥料の施肥は、前記タマネギの収穫の30〜90日前から開始するのが好ましい。
〔3〕本発明においては、前記紫外線の波長範囲が、315〜380nmの範囲であるのが好ましい。
〔4〕本発明においては、前記紫外線の照射期間が、1〜14日間であるのが好ましい
本発明によれば、タマネギ中のケルセチンまたはこれの配糖体の含有量を増加させることのできるタマネギの処理方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ケルセチンまたはこれの配糖体の含有量を増加したタマネギを提供することができる。そのため、本発明によれば、これらの持つ機能性を期待する製品を提供する上で規格値の設定や機能性の担保が容易となる。
ケルセチンまたはこれの配糖体の生合成経路を示す図である。 サンプル1〜4におけるケルセチンまたはこれの配糖体の乾燥質量あたりの含有量(μmol/g(dry))の結果を示すグラフである。
以下、適宜図面を参照して本発明に係るタマネギの処理方法およびこれによって処理されたタマネギの一実施形態について説明する。
本発明の内容について説明する前に、図1を参照して、ケルセチンまたはこれの配糖体(以下、これらを総称して「ケルセチン類」という。)の生合成経路について説明する。
図1に示すように、まず、カルコンシンターゼA(CHS-A)とカルコンシンターゼB(CHS-B)が、4−クマロイルCoA(Coumaroyl-CoA)と3つのマロニルCoA(Malonyl-CoA)からナリンゲニンカルコン(Naringenin chalcone)を合成し、次いで、カルコンイソメラーゼ(CHI)が、ナリンゲニンカルコンからナリンゲニンフラバノン(Naringenin flavanone)を合成する。そして、フラバノン−3−ヒドロキシラーゼ(F3H)が、ナリンゲニンフラバノンからジヒドロケンフェロール(Dihydrokaempferol)を合成し、次いで、フラバノイド−3’−ヒドロキシラーゼ(F3’H)が、ジヒドロケンフェロールからジヒドロケルセチン(Dihydroquercetin)を合成する。
ケルセチン類の生合成経路はここで分岐する。一方の経路は、ジヒドロケルセチンからロイコシアニジンを経由してシアニジン(図1中の化合物A)とその配糖体(図1中の化合物Bと化合物C)を合成し、他方の経路は、ジヒドロケルセチンからケルセチン(図1中の化合物D)を合成し、さらにその配糖体(図1中の化合物Eと化合物F)を合成する。
より詳細に説明すると、一方の経路では、ジヒドロフラボノール−4−レダクターゼ(DFR)がジヒドロケルセチンからロイコシアニジン(Leucocyanidin)を合成する。次いで、アントシアニジンシンターゼ(ANS)がロイコシアニジンから化合物A(シアニジン)を合成し、次いで、フラボノイド−3−O−グルコシルトランフェラーゼ(3GT)がウリジン二リン酸グルコース(図1に図示せず)と化合物Aから化合物B(シアニジン−3−グルコシド)を合成する。そして、アントシアニジン−3−O−グルコシド−6”−O−マロニルトランスフェラーゼ(3MaT)がマロニルCoA(図1に図示せず)と化合物Bから化合物C(シアニジン−3−(6”−マロニルグルコシド))を合成する。
他方の経路では、フラボノールシンターゼ(FLS)が、ジヒドロケルセチンから化合物D(ケルセチン)を合成し、次いで、ケルセチン−4’−O−グルコシルトランスフェラーゼ(Q4’GT)が化合物Dから化合物E(ケルセチン−4’−グルコシド)を合成する。そして、ケルセチン−3−O−グルコシルトランスフェラーゼ(Q3GT)が化合物Eから化合物F(ケルセチン−3,4’−ジグルコシド)を合成する。
次に、本発明に係るタマネギの処理方法の一実施形態について説明する。
本発明に係るタマネギの処理方法は、タマネギに5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩(以下、これらを総称して「5−アミノレブリン酸類」という。)を有効成分とする肥料を施肥して栽培した後に収穫した前記タマネギに対して紫外線を照射する、というものである。
なお、肥料の有効成分である5−アミノレブリン酸類の具体的な構造等については後に詳述する。
つまり、本発明においては、収穫前の前記した肥料の施肥および栽培という処理と、収穫後の紫外線の照射という処理と、をこの手順で行うことにより、タマネギ中のケルセチン類の含有量を増加させる。なお、ケルセチンの配糖体としては、ケルセチン−4’−グルコシド(Quercetin 4'‐glucoside)、ケルセチン−3,4’−ジグルコシド(Quercetin 3,4'‐diglucoside)、イソラムネチン−4’−グルコシド(Isorhamnetin 4'-glucoside)等が挙げられるが、これらの他にもルチン、クエルシトリン、ヘスペリジン、ナリンギン、タンゲレチン、イソケルシトリン、ケルシメリトリン、アビクラリン、ヒペリン、レイノウトリン、ケルシツロン等も含まれ得る。つまり、配糖体としてケルセチンに結合する糖はグルコースに限定されるものではなく、アピオース、キシロースといった五炭糖やラムノース、ガラクトースといったグルコース以外の六炭糖からなる単糖、ルチノース等の二糖またはそれ以上の多糖であってもよい。なお、本発明におけるケルセチンの配糖体は前記したものに限定されるものではなく、ケルセチンの3位、5位、7位、3’位および4’位の炭素原子に結合しているヒドロキシ基の中から選択される少なくとも一つの基と糖とがO−グリコシド結合したものであれば、本発明でいうところのケルセチンの配糖体に含まれる。
前記したような手順で処理を行うことによる、ケルセチン類の含有量が増加する理由については明らかになっていないが、次のようなものであると考えられる。
まず、タマネギに5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を施肥することにより葉緑素が多く産生されて光合成がより多く行われるようになるので、成長が促進する。成長が促進すると、栽培中にクマロイルCoAやマロニルCoAといったケルセチン類の前駆体等が蓄積する。そして、収穫後に行う紫外線の照射により、図1を参照して説明したケルセチン類の生合成経路におけるいずれかの段階が促進または抑制され、結果として、ケルセチン類の含有量が増加すると考えられる。例えば、ケルセチンとケルセチン−4’−グルコシドの合成が促進され、ケルセチン−3,4’−ジグルコシドの合成が若干抑制されることや、ロイコシアニジンの合成以降の反応が抑制されることが考えられる。
本発明における前記した肥料の施肥量は、紫外線の照射前のタマネギ中に含まれるケルセチンの含有量に影響を与えない程度の量でも後記するように紫外線の照射によりケルセチン類の含有量を十分に増加させることができる。つまり、本発明における前記した肥料の施肥量は、ケルセチン類の含有量の増加量に有意差が認められない程度の量でもよい。換言すると、施肥量を少なくするという観点からはケルセチン類の含有量に有意差が認められないような少ない施肥量とするのが好ましい。なお、前記した肥料の施肥量は、用いるタマネギの品種や栽培時期等により異なることが想定されるため、紫外線の照射前のタマネギ中に含まれるケルセチンの含有量に影響を与えない程度の量については、事前に試験等を行い、適切な施肥量を調べておくのが好ましい。
肥料の施肥量について一例を挙げて説明すると、前記した肥料を葉面処理剤として施肥する場合は、5−アミノレブリン酸類を0.1〜1000ppm含有したものを10アールあたり10〜1000L使用するとよい。5−アミノレブリン酸類の含有量および施肥量がともに前記した範囲内であれば、5−アミノレブリン酸類によって葉緑素を多く産生させることができるので、タマネギの成長を促進させることが可能となる。その結果、収穫後に行う紫外線の照射によってケルセチン類の含有量を十分に増加させることができる。また、5−アミノレブリン酸類の含有量が少なく、施肥量も少ないのでコストダウンを図ることができる。
なお、5−アミノレブリン酸類の含有量が0.1ppm未満であると5−アミノレブリン酸類の含有量が少なすぎるため、収穫後に紫外線を照射してもタマネギ中のケルセチン類の含有量を十分に増加できないおそれがある。
一方、5−アミノレブリン酸類の含有量が1000ppmを超えると、5−アミノレブリン酸類の含有量が多すぎるため、コストアップとなるだけでなく、かえってタマネギの成長を妨げるおそれがある。これは、5−アミノレブリン酸を高濃度で使用するとプロトポルフィリノーゲンIXが蓄積し、細胞質へ漏出した後に細胞質内でプロトポルフィリンとなり、光を受けたプロトポルフィリンの光増感作用で生成された活性酸素によって引き起こされると考えられる。
また、10アールあたりの施肥量が10L未満であると、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料の施肥量が十分でないため、収穫後に紫外線を照射してもタマネギ中のケルセチン類の含有量を十分に増加させることができないおそれがある。
そして、10アールあたりの施肥量が1000Lを超えると、施肥量の増加にともなって施肥に多大な労力を必要とするため、コストアップにつながるだけでなく、5−アミノレブリン酸類の使用量が多くなるため、前記したようにかえってタマネギの成長を妨げるおそれがある。
同様の理由から、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を土壌処理剤として施肥する場合、5−アミノレブリン酸類として、10アールあたり1〜1000g使用するとよい。
また、かかる肥料の施肥頻度は、1〜2週間に一度程度とするのが好ましい。このような施肥頻度であれば、5−アミノレブリン酸類によって葉緑素を多く産生させた状態を長く維持することができるので、長期間、タマネギの成長を促進させることができる。その結果、収穫後に行う紫外線の照射によってケルセチン類の含有量をより確実かつ十分に増加させることができる。
肥料の施肥頻度が1週間に一度よりも多いと、タマネギの成長を促進させる効果が飽和するだけでなく、5−アミノレブリン酸類の使用量が多くなるため、前記したようにかえってタマネギの成長を妨げるおそれがある。また、施肥頻度が多いため施肥に多大な労力を必要とするだけでなく、5−アミノレブリン酸類の使用量が多いためコストアップにつながる。
一方、肥料の施肥頻度が2週間に一度よりも少ないと、肥料に含まれる5−アミノレブリン酸類が代謝によって減少し、葉緑素を多く産生させることができなくなる。その結果、タマネギの成長を促進させる効果が得られなくなる。
肥料の施肥は、タマネギの収穫の30〜90日前から開始するのが好ましい。
かかる肥料の施肥をタマネギの収穫の90日前よりも前から開始すると、肥料を施肥する回数が多くなるため施肥に多大な労力が必要となり、5−アミノレブリン酸類の使用量が多くなる結果、コストアップにつながる。
一方、肥料の施肥をタマネギの収穫の30日前よりも後に開始すると、施肥の開始時期が遅く、収穫までの期間が短いため、タマネギの成長を十分に促進させることができないおそれがある。したがって、収穫後に紫外線を照射してもタマネギ中のケルセチン類の含有量を十分に増加できないおそれがある。
なお、市販の5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を使うときは、その用法用量に準じて施肥をすればよいが、当該用法用量よりも濃度を低くして施肥することも可能である。
本発明におけるタマネギの栽培と収穫は、特定の手法に限定されるものではなく、用いるタマネギに適した適宜の手法によって行うことができる。
紫外線の照射は、タマネギの外皮を除去した状態で行うのが好ましい。食用となる鱗茎中のケルセチン類の含有量をより効率的に増加させるためである。
なお、紫外線とは、一般的に波長範囲が1〜400nmである不可視光線の電磁波をいい、本発明においてもこの波長範囲内の紫外線であれば用いることができる。中でも、本発明においては、ケルセチン類の含有量を確実に増加させることができるため、波長範囲が315〜380nm(中心波長352nm)である紫外線(いわゆるUV−A)を用いるのが好ましい。なお、波長範囲が280〜315nmである紫外線(いわゆるUV−B)を用いることも可能である。
紫外線の照射は、前記した紫外線を照射することのできる市販の紫外線ランプ等を用いることで行うことができる。市販の紫外線ランプを用いる場合は、例えば、外皮を除去したタマネギから15cmほど離して照射するようにするとよい。なお、紫外線を照射する期間中は、タマネギ全体にまんべんなく紫外線が照射されるよう、例えば数日ごとに適宜動かして照射するのが好ましい。また、紫外線を照射する条件としては、室温は4〜12℃程度であればよく、湿度はおよそ40〜55%であればよい。
紫外線の照射期間は、1〜14日間とするのが好ましく、例えば12日間程度とするのが好ましい。紫外線の照射期間が1日間よりも短いと、照射期間が短すぎるためケルセチン類の含有量を十分に増加させることができないおそれがある。
一方、紫外線の照射期間が14日間よりも長いと、照射期間が長すぎるためタマネギの品質に影響するおそれがある。
なお、紫外線の照射期間は、照射する紫外線の紫外線量に応じて適宜増減させることができる。例えば、紫外線量が多い場合は紫外線の照射期間を前記した照射期間よりも短くすることが可能であり、紫外線量が少ない場合は紫外線の照射期間を前記した照射期間よりも長くすることが可能である。
紫外線量と紫外線の照射期間は、用いるタマネギにより異なる可能性があるため、事前に実験等を行って最適な紫外線量と紫外線の照射期間とを求めておくのが好ましい。
本発明で用いることのできるタマネギとしては、クロンキスト体系でいえばユリ科に属し、APG植物分類体系でいえばネギ科に属するものであって、鱗茎を食用とすることのできるものであれば、品種や収穫時期等に限定されることはない。したがって、辛味の強い辛タマネギ群および辛味の弱い甘タマネギ群のいずれに属するタマネギであっても用いることができ、外皮の色で分類すれば、赤色種、黄色種、白色種等に分類されるいずれのタマネギであっても用いることができる。また、極早生、早生、中生、晩生のいずれも用いることができ、春まき栽培で収穫したもの、秋まき栽培で収穫したもののいずれであっても用いることができる。さらには、小タマネギ(ペコロスと呼ばれることもある。)やエシャロット(Allium oschaninii)、さらにはタマネギの遺伝子組換体等も用いることができる。
本発明で用いる肥料の有効成分である5−アミノレブリン酸類については、例えば、特許文献1(特開2008−37839号公報)に詳しく説明されている。かかる文献によれば、5−アミノレブリン酸類とは、下記一般式(1)で表される化合物(これの誘導体またはそれらの塩を含む)をいう。

21NCH2COCH2CH2COR3 (1)
ただし、一般式(1)中、R1およびR2は各々独立に、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリール基またはアラルキル基を示し、R3はヒドロキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基またはアミノ基を示す。
1およびR2で示されるアルキル基としては、炭素数1〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基、特に炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
1およびRで示されるアシル基としては、炭素数1〜24、好ましくは炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルカノイル基、アルケニルカルボニル基、アロイル基またはアリールオキシカルボニル基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイル基が好ましい。当該アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、n−プロパノイル基、n−ブタノイル基、n−ペンタノイル基、n−ヘキサノイル基、n−ノナノイル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。
1およびR2で示されるアルコキシカルボニル基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基が好ましく、特に炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基が好ましい。当該アルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基等が挙げられる。
1およびR2で示されるアリール基としては、炭素数6〜16のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
1およびR2で示されるアラルキル基としては、炭素数6〜16のアリール基と前記炭素数1〜6のアルキル基とからなる基が好ましく、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
3で示される置換基を有していてもよいアルキルオキシ基としては、例えば置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐鎖の、または環状構造を有する炭素数1〜24のアルキルオキシ基等が挙げられる。このアルキルオキシ基が有していてもよい置換基としては、例えばヒドロキシ基、アルキルオキシ基、フェニル基等が挙げられる。このような置換基を有していてもよいアルキルオキシ基の好ましい例としては、例えば、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、2−メチルブチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、エチルブチルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、2−メチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3−メチルヘプチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、イソノニルオキシ基、1−メチルオクチルオキシ基、エチルヘプチルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、1−メチルノニルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、1,1−ジメチルノニルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、3−フェニルプロピルオキシ基、ヒドロキシエチルオキシ基、エトキシエチルオキシ基等を挙げることができる。このうち炭素数1〜6のアルキルオキシ基がより好ましい。
3で示されるアシルオキシ基としては、炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖のアルカノイルオキシ基が好ましく、特に炭素数1〜6のアルカノイルオキシ基が好ましい。当該アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基等が挙げられる。
3で示されるアルコキシカルボニルオキシ基としては、総炭素数2〜13のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましく、特に総炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基が好ましい。当該アルコキシカルボニルオキシ基としては、メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
3で示されるアリールオキシ基としては、炭素数6〜16のアリールオキシ基が好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。アラルキルオキシ基としては、前記アラルキル基を有するものが好ましく、例えば、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
なお、一般式(1)中、R1およびR2としては水素原子が好ましい。R3としてはヒドロキシ基、アルコキシ基またはアラルキルオキシ基が好ましく、より好ましくはヒドロキシ基または炭素数1〜12、特に炭素数1〜6のアルコキシ基、特にメトキシ基またはヘキシルオキシ基が好ましい。
5−アミノレブリン酸の誘導体としては、例えば、5−アミノレブリン酸メチルエステル、5−アミノレブリン酸エチルエステル、5−アミノレブリン酸プロピルエステル、5−アミノレブリン酸ブチルエステル、5−アミノレブリン酸ペンチルエステル、5−アミノレブリン酸ヘキシルエステル等が挙げられ、特に5−アミノレブリン酸メチルエステルまたは5−アミノレブリン酸ヘキシルエステルが好ましい。
5−アミノレブリン酸またはその誘導体の塩としては、例えば、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。なお、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、メチルリン酸塩、エチルリン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等を挙げることができ、金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。なお、これらの塩は使用時において水溶液または粉体とすることができる。
さらに、5−アミノレブリン酸類は、水和物または溶媒和物を形成していてもよく、いずれかを単独でまたは2種以上を適宜組合せて用いることもできる。
以上に説明した5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料は、市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、コスモ誠和アグリカルチャ株式会社製のペンタキープ(登録商標)V等を好適に使用することができる。
以上に説明した本発明に係るタマネギの処理方法によれば、タマネギに5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を施肥して栽培した後に収穫した前記タマネギに対して紫外線を照射するため、ケルセチン類の含有量を増加させることができる。
前記した本発明に係るタマネギの処理方法によって処理された本発明に係るタマネギは、ケルセチン類の含有量が高く、乾燥質量あたりのケルセチン類の含有量は、例えば、17.4μmol/g(dry)を超え、さらには20.5μmol/g(dry)以上にもなる。これは、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を施肥せず、また、紫外線の照射を行わない場合、つまり、何ら特別な処理を行わない場合と比較して1.3倍よりも高い含有量である。そのため、本発明に係るタマネギは、このような高含有量でケルセチン類を含有しているので、ケルセチン類の持つ機能性を期待する製品を提供する上で規格値の設定や機能性の担保が容易となる。
なお、かかる製品の提供は、以上に説明した処理を行ったタマネギをそのまま提供することもできるが、処理を行ったタマネギを、例えば、ジュース、菓子、惣菜、調味料等に加工して提供することもできる。
本発明に係るタマネギが含有しているケルセチン類は、何ら特別な処理を行わない場合と比較してケルセチンの含有量が高く、特にケルセチン−4’−グルコシドの含有量は2倍ほど高くなる。ケルセチンやケルセチン−4’−グルコシドは抗酸化性が高いので、これらの含有量が高くなる分、より高い機能性を有する製品を提供することができる。
また、本発明に係るタマネギが含有している有機酸については、何ら特別な処理を行わない場合と比較してリンゴ酸が多く含まれ、クエン酸が少なくなっている。酸味の閾値は、リンゴ酸が0.0016N(規定度)であり、クエン酸が0.0023Nであるため、若干酸味が強くなる可能性がある。そのため、例えばジュース等に加工したときに、より爽快感のある製品とすることが可能である。
また、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸およびピログルタミン酸を合計した含有量が、何ら特別な処理を行わない場合と比較して1.3倍ほど高くなる。そのため、何ら特別な処理を行わない場合と比較して、エネルギー代謝の促進や腸内環境の改善といった機能性を高めた製品を提供することができる
また、本発明に係るタマネギは、総ポリフェノールの含有量も高く、乾燥質量あたりの総ポリフェノールの含有量は、例えば、9.9mg/g(dry)を超え、さらには11.0mg/g(dry)以上にもなる。そのため、より抗酸化性を高めた製品を提供することができる。
また、本発明に係るタマネギの糖の含有量は、何ら処理を行っていない場合と同程度であるため、タマネギを加熱処理等した場合に得られる甘みが減少せず、従来と同じように調理等することができる。
以上、本発明に係る本発明に係るタマネギの処理方法およびこれによって処理されたタマネギの一実施形態について説明した。
次に、実施例により本発明に係るタマネギの処理方法およびこれによって処理されたタマネギについて具体的に説明する。なお、本発明の内容は、前記した実施形態の説明および後記する実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の内容は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならないことはいうまでもない。
〔1〕材料および試験方法
タマネギは、2009年度に収穫したサラサラレッドを用いた。タマネギの栽培および処理は次のようにして行った。
播種し、育苗したタマネギの収穫一ヶ月前から、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする植物成長剤(ペンタキープV(5−アミノレブリン酸類の濃度は未公開)、コスモ誠和アグリカルチャ株式会社製)を2000倍に希釈して2週間に一度、つまり、合計2回、葉面に散布した。
植物成長剤の散布開始から一ヶ月栽培し、タマネギを収穫した後、外皮を剥き、東芝ライテック株式会社製の近紫外線(UV−A)ランプFL15BLBを2台用いて紫外線の照射を行った。紫外線は、波長範囲が315〜380nm、中心波長が352nmであった。紫外線照射の条件としては、UV−Aランプをタマネギから15cm離して12日間照射し、全体にまんべんなく紫外線が照射されるように4日ごとにタマネギを動かした。なお、紫外線を照射する際の室温は4〜12℃であり、湿度はおよそ40〜55%であった。
本実施例では、前記した処理の種々の段階から下記4つの条件1〜4となるように分け、それぞれの条件で栽培および処理を行ったタマネギを下記に示す個数採取し、後記する試験に供した。条件とタマネギの個数は次のとおりである。
条件1:何ら処理をしない群(12個)
条件2:5−アミノレブリン酸を有効成分とする肥料を施肥する群(12個)
条件3:紫外線を照射する群(7個)
条件4:5−アミノレブリン酸を有効成分とする肥料の施肥後、紫外線を照射する群(9
個)
試験の前処理として次の操作を行った。
まず、条件1〜4に係るタマネギの各サンプル(以下、条件1〜4に合わせて「サンプル1〜4」などという。)の外皮を剥き、丸のまま電子レンジで加熱処理した。電子レンジでの加熱処理は、1900Wにて100gあたり15秒間行った。その後、フードプロセッサーでピューレ化し、凍結乾燥した。
そして、凍結乾燥したサンプル1〜4を用いて、乾燥質量あたりのケルセチン類の含有量、総ポリフェノールの含有量、アミノ酸の含有量、有機酸の含有量および糖の含有量を分析した。
各試験の条件および結果は以下のとおりである。
〔2〕ケルセチン類の含有量
凍結乾燥したサンプル1〜4の粉末を0.1g秤量し、70%メタノール30mL中で70℃、1時間の還流を行った。その後、上清20μLをHPLC(High Performance Liquid Chromatography)に注入し、以下のHPLC条件でグラジエント分析を行った。ケルセチン類(ケルセチンまたはこれの配糖体)の乾燥質量あたりの含有量(μmol/g(dry))の結果を図2に示す。
(HPLC条件)
・カラム:C18−UG(4.6mm×150mm、資生堂株式会社製)
・溶離液A:0.2%ギ酸水溶液
・溶離液B:0.2%ギ酸アセトニトリル溶液
・プログラム:溶離液B5%→50%(30分間のリニアグラジエント)
・流速:1mL/min
・検出:UV(350nm)
サンプル1〜4を用いて行った分析の結果、ケルセチン類として主に、アグリコンであるケルセチン(Q)と、その配糖体であるケルセチン−4’−グルコシド(Q4’G)およびケルセチン−3,4’−ジグルコシド(Q3,4’G)と、イソラムネチン−4’−グルコシド(isorhamnetin4’G)が検出された。
図2に示すとおり、サンプル1とサンプル2の乾燥質量あたりの含有量は約13.5μmol/g(dry)であり、サンプル3の乾燥質量あたりの含有量は約17.4μmol/g(dry)(サンプル1と比較して1.3倍)であったのに対し、本発明の要件を満たすサンプル4の乾燥質量あたりの含有量は約20.5μmol/g(dry)であり、サンプル1と比較して約1.53倍の高含有量となった。
また、サンプル1、2、4の関係から、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料の施肥量は、紫外線を照射する前のタマネギに含まれるケルセチン類の含有量に影響を与えない程度の量であっても(サンプル1、2)、つまり、ケルセチン類の含有量の増加量に有意差が認められない程度の量であっても、当該肥料を施肥したタマネギに対して紫外線を照射することで飛躍的にケルセチン類の含有量が高まることがわかった(サンプル4)。
さらに、サンプル1ではケルセチン(Q)が極めて微量であったのに対し、サンプル3、4ではケルセチンの含有量が著しく増加していた。これは、紫外線の照射によってケルセチンの生合成が促進されたためと考えられる。また、紫外線の照射によってサンプル3、4は、ケルセチン−3,4’−ジグルコシド(Q3,4’G)が減少し、ケルセチン−4’−グルコシド(Q4’G)が増加していた。これは、紫外線の照射によってケルセチン−3,4’−ジグルコシドの生合成が抑制されるとともに、ケルセチン−4’−グルコシドの生合成が促進されたためと考えられる。抗酸化性でいえば、抗酸化能の高い順からケルセチン>ケルセチン−4’−グルコシド>ケルセチン−3,4’−ジグルコシドとなるので(Danuta Zielinska et al, “Determination of the Relative Contribution of Quercetin and Its Glucosides to the Antioxidant Capacity of Onion by Cyclic Voltammetry and Spectrophotometric Methods”, J. Agric. Food Chem., 2008, 56 (10), pp 3524-3531)、ケルセチンとケルセチン−4’−グルコシドを多く含むサンプル3、4に対して行った処理は、抗酸化性を期待する製品の規格値の設定や機能性の担保という観点でより好ましい処理であるといえる。なお、体内での吸収性を考えるとアグリコンよりも配糖体の方が優れているので、サンプル4の処理方法は、ケルセチン−4’−グルコシドの含有量が最も高く、かつ、前記した4つのケルセチン類の総含有量が最も高いことから、前記した観点については最も好ましい処理であるといえる。
〔3〕総ポリフェノールの含有量
総ポリフェノールの含有量は、フォーリン・チオカルト法(Folin-Ciocalteau method)に従って分析を行い、没食子酸換算で、タマネギの凍結乾燥粉末中の総ポリフェノール量を算出した。その結果を下記表1に示す。
Figure 0005548070
サンプル1、2、3は、単位質量あたりの総ポリフェノールの含有量が10mg/g(dry)以下であったのに対し、サンプル4は、単位質量あたりの総ポリフェノールの含有量が11.0mg/g(dry)となった。このことからも、サンプル4の処理方法は、抗酸化性を期待する製品の規格値の設定や機能性の担保という観点でより好ましい処理であるといえる。
〔4〕アミノ酸の含有量
凍結乾燥したサンプル1〜4の粉末を100mg秤量し、10mLの蒸留水で室温、30分の抽出を行った後、10%トリクロロ酢酸で2倍量に希釈し、フィルターろ過を行った。そして、生体液中のアミノ酸成分を測定することのできるアミノ酸分析計(日立ハイテクノロジーズ アミノ酸分析計L8900)にて測定した。測定結果を下記表2に示す。なお、表2中の数値の単位はmg/g(dry)、すなわち、単位質量あたりの含有量であり、「nd.」は、検出限界以下であることを示す。
また、Aspはアスパラギン酸であり、Thrはスレオニンであり、Serはセリンであり、Gluはグルタミン酸であり、Glyはグリシンであり、Alaはアラニンであり、Valはバリンであり、Cysはシステインであり、Metはメチオニンであり、Ileはイソロイシンであり、Leuはロイシンであり、Tyrはチロシンであり、Pheはフェニルアラニンであり、Ornはオルニチンであり、Hisはヒスチジンであり、Lysはリシンであり、Argはアルギニンであり、Proはプロリンである。
Figure 0005548070
表2に示すように、紫外線を照射するサンプル3、4は、紫外線を照射しないサンプル1、2と比較して、Thy、Ser、Ala、Val、Tyr、LysおよびArgの含有量が減る傾向にあった。これは、紫外線の照射によって図1に示したケルセチン類の生合成経路におけるいずれかの段階が促進または抑制された結果によるものと推測することができる。なお、5−アミノレブリン酸類を有効成分とする肥料を施肥したサンプル4は、かかる肥料を施肥しないサンプル3と比較してThy、Ser、Ala、Val、Tyr、LysおよびArgの含有量が多いことから、肥料の施肥によってこれらのアミノ酸の生合成が促進されていたと考えられる。
〔5〕有機酸の含有量
凍結乾燥したサンプル1〜4の粉末を100mg秤量し、50%エタノール2mLで室温、10分の抽出を行った後、分画分子量10000MWの限外ろ過膜(日本ミリポア株式会社製)を用いて限外ろ過を行い、限外ろ過して得られた外液をHPLCに注入して以下のHPLC条件で分析した。有機酸の含有量の分析結果を下記表3に示す。なお、表3中の数値の単位はmg/g(dry)、すなわち、単位質量あたりの含有量である。
(HPLC条件)
・カラム:Shodex RSpak C-811(8mm×500mm、昭和電工株式会社製)
・ガードカラム:Shodex RSpak KC-LG(8mm×50mm、昭和電工株式会社製)
・溶離液:3.5mM過塩素酸(流速:0.8mL/min)
・反応液:Shodex ST3-R(有機酸反応試薬、昭和電工株式会社製)(流速:0.8mL/
min)
・検出:430nm
・カラムオーブン:50℃
Figure 0005548070
サンプル1〜4を用いて行った分析の結果、主な有機酸として、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸およびピログルタミン酸が検出された。
表3に示すように、サンプル4はサンプル1〜3と比較してクエン酸が減少し、リンゴ酸が増加する傾向にあった。酸味の閾値は、リンゴ酸が0.0016N(規定度)であり、クエン酸が0.0023Nであるため、サンプル4は、若干酸味が強くなる可能性がある。また、この結果から、例えば、ジュース等に加工したときに爽快感が増す可能性が示唆された。
なお、紫外線を照射したサンプル3、4のピルビン酸の含有量がサンプル1、2と比較して増加していたが、これは、紫外線を照射する際に外皮を剥く作業で可食部(鱗茎)が一部損傷を受けたことが原因であると考えられる。
また、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸およびピログルタミン酸の合計量は、サンプル4が最も多かった。
〔6〕糖の含有量
凍結乾燥したサンプル1〜4の粉末を100mg秤量し、50%エタノール2mLで室温、10分の抽出を行った後、分画分子量10000MWの限外ろ過膜(ミリポア社製)を用いて限外ろ過を行い、限外ろ過して得られた外液をHPLCに注入して以下のHPLC条件で分析した。糖の含有量の分析結果を下記表4に示す。なお、表4中の数値の単位はmg/g(dry)、すなわち、単位質量あたりの含有量である。
(HPLC条件)
分析は、日立高速液体クロマトグラフLaChrom Elite:糖(リン酸-フェニルヒドラジン法)分析システム(日立ハイテクノロジーズ株式会社製)にて行った。
Figure 0005548070
サンプル1〜4を用いて行った分析の結果、主な糖として、フルクトース、グルコースおよびスクロースが検出された。なお、リボース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトースは検出されなかった。
表4に示すように、糖については、サンプル1〜4で違いはみられなかった。よって、本発明に係るタマネギの処理方法を行った場合(サンプル4)であっても、タマネギを加熱処理等した場合に得られる甘みが減少しないことが示唆された。よって、従来のタマネギと同様に調理等して製品化できることが示唆された。

Claims (4)

  1. タマネギに5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を有効成分とする肥料を施肥して栽培した後に収穫した前記タマネギに対して、室温4〜12℃、湿度40〜55%の環境下で紫外線を照射するものであり、
    前記肥料の施肥量は、
    当該肥料が葉面処理剤の場合は、前記5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を0.1〜1000ppm含有したものを10アールあたり10〜1000L使用し、
    当該肥料が土壌処理剤の場合は、前記5−アミノレブリン酸、その誘導体またはそれらの塩を10アールあたり1〜1000g使用する
    ことを特徴とするタマネギの処理方法。
  2. 前記肥料の施肥は、前記タマネギの収穫の30〜90日前から開始することを特徴とする請求項1に記載のタマネギの処理方法。
  3. 前記紫外線の波長範囲が、315〜380nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタマネギの処理方法。
  4. 前記紫外線の照射期間が、1〜14日間であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載のタマネギの処理方法。
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