JP5522112B2 - 燃料電池 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池に関するものであり、広い範囲の運転条件下で高い性能を発揮するカソード触媒層を有する燃料電池に関するものである。
一般的な固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性電解質膜を挟んでアノードとカソードとなる触媒層が配置され、これを挟んでさらに外側にガス拡散層が配置され、さらにその外側にセパレーターが配置された基本構造を単位セルとしている。通常は、必要な出力にあわせて当該単位セルをスタックして電池を構成する。
前記基本構造の燃料電池から電流を取り出すためには、アノードとカソードの両極に配されたセパレーターのガス流路から、カソード側に酸素あるいは空気等の酸化性ガスを、アノード側には水素等の還元性ガスを、ガス拡散層を介して触媒層までそれぞれ供給する。
例えば、水素ガスと酸素ガスを利用する場合、アノードの触媒上で起こる
2 → 2H+ + 2e- (E0=0V)
の化学反応と、カソードの触媒上で起こる
2+4H+ + 4e- → 2H2O(E0=1.23V)
の化学反応のエネルギー差(電位差)を利用して、効率よく電流を取り出すことが燃料電池の開発にあたっての最重要課題である。
特に反応過電圧が大きいカソードでの酸素還元反応では、カソード触媒が多ければ過電圧の影響を小さくできるが、使用される触媒が白金などの高価な金属でありコスト高となる。このために、安価な触媒開発の他に、物質移動を促進し、少ない触媒量でも効率のよい触媒層の構造の工夫が主に検討されてきた。
視点を触媒層の構造に向けられることとなり、物質移動経路が分断されることなく連続して連なるような構造を持つことにより高効率で電流を取り出すことのできる触媒層が検討されるようになってきた。すなわち、セパレーターのガス流路から触媒層内部の触媒まで酸素ガスあるいは水素ガスが移動できるガス拡散経路、アノード触媒上で発生したプロトン(H+)がプロトン伝導性電解質膜を経由してカソードの触媒まで伝達できるプロトン伝導経路、アノード触媒上で発生した電子(e-)がガス拡散層、セパレーター、外部回路を通じてカソード触媒まで伝達できる電子伝導経路をそれぞれ分断されることなく連続して連ならせることが検討されるようになった。
物質移動経路が分断されることなく連続して連なるような構造を持つことにより高効率で電流を取り出すことのできる触媒層を構築するにあたり、電解質材料と炭素材料の配合比が着目されるようになった。
触媒成分、炭素材料、電解質材料で構成される触媒層においては、ガス拡散経路、プロトン伝導経路、電子伝導経路は主にそれぞれ、空孔、電解質材料、炭素材料のネットワークによって形成され、このうち空孔は電解質材料や炭素材料の間隙に形成される。
電解質材料が炭素材料に対して過剰に存在すると、電解質材料が空孔となる間隙を埋めてしまいガスの拡散経路が貧弱な触媒層構造となりガス拡散抵抗が増大するため、十分な特性が得られない傾向にある。
しかし、電解質材料が炭素材料に対して少なすぎると空孔は確保されるが、電解質材料のネットワークが貧弱になりプロトン伝導抵抗が増大し十分な特性が得られない傾向にある。
そこで、電解質材料と炭素材料の配合比が極めて重要なパラメーターと認識されるようになり、電解質材料と炭素材料の配合比を規定することにより高効率で電流を取り出せる触媒層を構築する方法が提案されてきた。
電解質材料としては、パーフルオロスルホン酸ポリマーに代表されるイオン交換樹脂が一般的に用いられているが、湿潤環境下で初めて高いプロトン伝導性を発現し、乾燥環境下ではプロトン導電性が低下する特性を持つことから、効率良く燃料電池を作動させるためには、高分子電解質材料が高い湿潤状態にある方が好ましく、両極に供給するガスと共にできるだけ水蒸気を供給することが好ましいと考えられるようになった。
その一方で、固体高分子形燃料電池に対しては、さらなる効率化、小型化、軽量化が求められるようになった。
以下、触媒層中の炭素材料の質量をCw、電解質材料の質量をPwとおく。
特許文献1では、高温下での運転において、低空気利用率域から高空気利用率域まで広範囲の運転条件下にわたり、膜・電極接合体のドライアップを防止し、良好な発電効率を示す燃料電池の膜・電極接合体を提供することを目的として、触媒層の厚みを5〜20μm、触媒成分担持のためのカーボン粒子(炭素材料)とフッ素系電解質樹脂(電解質材料)の重量比を炭素材料:電解質材料=0.8:1〜20:1に制御された触媒層が開示されている。Cw:Pw=0.8:1〜20:1であるから、触媒層の炭素材料の質量Cwに対する電解質材料の質量Pwの比(Pw/Cw)が0.05(=1/20)〜1.25(=1/0.8)と計算される。
特許文献2では、プロトンの移動抵抗に起因する過電圧に伴う発電中のセル電圧低下という問題を解決して高効率な固体燃料電池を提供することを目的として、触媒層の触媒担持カーボン粒子中のカーボン粒子(炭素材料)の重量をAとし、陽イオン交換樹脂の合計量(電解質材料)をBとしたとき、0.05A≦B≦4.00Aである固体高分子形燃料電池を開示している。B/A=Pw/Cwであるから、触媒層の炭素材料の質量Cwに対する電解質材料の質量Pwの比(Pw/Cw)が0.05≦Pw/Cw≦4.00と計算される。
特開2008−10173号公報 特開2005−302324号公報
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、低加湿時の運転環境下で必ずしも十分な特性を発揮することができない。これは、特許文献1に開示された触媒層の炭素材料の質量Cwに対する電解質材料の質量Pwの比(Pw/Cw)が0.05〜1.25であり、触媒層を構成する成分の中で一番の吸湿成分である電解質材料の比率が少ないことが原因であると発明者らは考えている。
また、特許文献2に開示された固体高分子形燃料電池も、低加湿時の運転環境下で必ずしも十分な発電特性を発揮することができない。
本発明は、低加湿時の運転環境下でも十分な発電特性を発揮する固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
以下、触媒層中の炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量をC(mg/cm2)、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量をP(mg/cm2)、触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量をM(mg/cm2)とおく。ここにおいて、
w/Cw=P/C
となる。
発明者らは、触媒層の触媒層単位面積当たり、炭素材料の質量Cに対する電解質材料の質量Pの比(P/C)が1.3〜5.0の場合には低加湿時の運転環境下でも十分な発電特性を発揮しうること、さらに、触媒層の触媒層単位面積当たり、炭素材料の質量Cと電解質材料の質量Pの和(P+C)が0.4〜1.5(mg/cm2)にあるときにはその効果が顕著となることを見出した。
即ち、低加湿時の運転環境下でも十分な発電特性を安定的に発揮しうるためには、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)について、
0.4 ≦ C+P ≦ 1.5、
1.3 ≦ P/C < 5.0
であることがより望ましいことを見出した。
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)プロトン伝導性電解質膜を挟んだ一対のアノード触媒層とカソード触媒層を含む燃料電池であって、前記カソード触媒層は少なくとも触媒成分、電解質材料、及び炭素材料を含み、該カソード触媒層における触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量M(mg/cm2)が
0.01≦ M ≦0.5
を満足するとともに、前記電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)について、
0.4 ≦ C+P ≦ 1.5、
1.3 ≦ P/C < 5.0
を満足することを特徴とする燃料電池。
(2)前記炭素材料は、前記触媒成分を担持した炭素材料(以下、「触媒成分担持炭素材料」という。)と、前記触媒成分を担持していない炭素材料(以下、「触媒成分非担持炭素材料」という。)の2種類からなり、前記触媒層は、触媒成分担持炭素材料、及び電解質材料を主成分として凝集してなる触媒凝集相(以下、「第1相」という。)と、触媒成分非担持炭素材料を主成分として凝集してなるガス拡散炭素材料凝集相(以下、「第2相」という。)との2相構造からなり、前記触媒凝集相が連続体であり、第1相が第2相中に分散した構造であることを特徴とする(1)に記載の燃料電池。
本発明の燃料電池は、低加湿運転時においても効率よく電流を取り出すことが出来る燃料電池を供給できるという顕著な効果を奏する。
また、燃料電池システムの運転条件管理、特に水分(湿度)管理が容易となるため、システム制御や運転が簡便となりシステム全体のコストを削減することができるという顕著な効果を奏する。
触媒層の断面図 触媒層の斜視図
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、図1に示すように、プロトン伝導性電解質膜2を挟んだ一対のアノード触媒層3とカソード触媒層1を含む燃料電池であって、少なくとも、触媒成分、電解質材料、及び炭素材料を含み、前記触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量M(mg/cm2)が0.01以上、かつ、0.5以下を満足するカソード触媒層において、前記カソード触媒層の前記電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)についてそれらの和であるC+Pと比であるP/Cが、C+P(mg/cm2)は0.4以上、かつ、1.5以下を満足し、P/Cが1.3以上、かつ、5.0未満を満足することを特徴とする燃料電池である。
(数値限定理由)
まず、燃料電池に含まれるカソード触媒層の触媒成分Mの範囲について説明する。Mが0.01mg/cm2未満では触媒成分量が少なすぎて実用上十分な特性が得られない場合が多く、0.5mg/cm2超では触媒成分のコストが大きくなり燃料電池システムの値段が極めて高くなる場合が多いため、M(mg/cm2)の範囲を0.01以上0.5以下とした。特性とコストの2つを同時に考慮すると、0.05mg/cm2〜0.3mg/cm2がより好ましい範囲である。
次に、C+Pの範囲について説明する。
触媒成分の担持率(%)(=触媒成分の質量/(触媒成分の質量+担体炭素材料の質量)×100)が一定の場合、触媒層の厚みは、C+Pに依存して変化する。例えば、燃料電池の特性を上げる目的で触媒層単位面積当たりの電解質材料質量Pないしは触媒層単位面積当たりの炭素材料質量Cを増やすと触媒層が厚くなり、反対に触媒層単位面積当たりの電解質材料質量Pないしは触媒層単位面積当たりの炭素材料質量Cを少なくすると触媒層の厚みは薄くなる。
触媒層が厚くなると、カソード触媒層であれば空気などの酸化性ガスが拡散しにくくなったり、生成した水が触媒層中に滞りやすくなり、電流量が低下しやすい傾向を示す。触媒層が薄くなるとカソードであれば大電流を取り出した時に触媒層の空孔が生成した水で閉塞しやすくなり電流量が低下する傾向を示す。
前述のとおり、特許文献2で触媒層の触媒担体カーボンの重量Cwに対する電解質材料の重量Pwの比(Pw/Cw)が0.05≦Pw/Cw≦4.00と計算される。ところが、Pw/Cw即ちP/Cが4.00であったとしても、低加湿運転時においても効率よく電流を取り出すことができなかった。その理由は、触媒層単位面積当たりの電解質材料質量Pと炭素材料質量Cの合計(C+P)が2.0mg/cm2以上となっていることに起因すると発明者らは考察している。
本発明において、低加湿時の運転環境下でも十分な発電特性を安定的に発揮しうるためには、触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)について、C+Pが0.4以上、かつ、1.5以下が必要であることが明らかとなった。C+Pが0.4mg/cm2未満であると得られる触媒層の厚みが薄くなりすぎて、炭素材料と電解質材料の間隙に形成される空孔の触媒層面積当たりの体積が小さくなり、電流密度によっては生成した水によって空孔が埋められやすく、空気の拡散を大きく阻害しやすいため、十分な特性の燃料電池を得ることが出来ない。C+Pが1.5mg/cm2超であると触媒層の厚みが厚くなりすぎて、特に低加湿環境下で発電するときに最も有効に働く膜近傍の触媒成分に空気が拡散しづらくなり十分な特性を得ることが出来ない。C+Pについては、より好ましくは0.5以上、かつ、1.0以下であり、さらに好ましくは0.6以上、かつ、0.8以下である。
さらに、触媒層単位面積当たりの電解質材料質量Pと炭素材料質量Cの比であるP/Cの数値限定について述べる。P/Cが1.3未満であると触媒層を構成する成分の中で一番の吸湿成分である電解質材料の比率が少なくなり、低加湿時の運転環境下で触媒層が乾燥しやすくプロトン伝導抵抗が増大し十分な特性を発揮することが難しい。P/Cが5.0以上であると触媒層中の電解質材料の比率が高くなりすぎて炭素材料と電解質材料の間隙にできる空孔が電解質材料によって閉塞される傾向が強くなり空気の拡散や生成した水の排出性が損なわれ発電特性が低くなる傾向にある。P/Cについては、より好ましくは1.5以上、かつ、4.0未満である。
(炭素材料)
触媒担体炭素材料は、一般的に存在する炭素材料であれば特に限定するものではない。特に、本来求められる反応以外の化学反応を起こしたり、凝縮水との接触によって炭素材料を構成する物質が溶出するような材料は好ましくなく、化学的に安定な炭素材料が好ましい。前記炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等やこれらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が使用できる。これらの2種類以上を混合して用いることもできる。
(電解質材料)
電解質材料は、プロトンを伝導する機能を有していれば、特に限定されるものではない。リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等を挙げることができるが、高分子に限定するものではなく、無機系、無機−有機ハイブリッド系等の電解質膜を使用した燃料電池に使用しても差し支えない。
(触媒成分)
触媒成分は、求められる反応が触媒成分上で進行すれば限定するものではない。好ましい触媒成分の例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属、これらの貴金属を2種類以上複合化した貴金属の複合体や合金、コアシェル粒子、貴金属と有機化合物や無機化合物との錯体、遷移金属、遷移金属同士あるいは遷移金属と貴金属との複合体や合金、貴金属や遷移金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。また、これらの2種類以上を複合したもの等も用いることもできる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、前記第1の実施形態の構成要件をすべて含み、さらに低加湿時の運転環境下でも十分な発電特性を安定的に発揮しうる触媒層を有する燃料電池である。
触媒層中に含まれる炭素材料は、触媒成分を担持した触媒担体炭素材料と、触媒成分を担持していない触媒成分非担持炭素材料から構成される。
触媒層は第1相と第2相の2相構造を有する。第1相は、触媒成分を担持した触媒担体炭素材料と電解質材料とを主成分として凝集して形成した触媒凝集相である。第2相は触媒成分非担持炭素材料を主成分として凝集して形成する。第2相は触媒成分非担持炭素材料を主成分とするので、第2相はガスが通過しやすく、従って第2相はガス拡散炭素材料凝集相であるということができる。第1相の触媒凝集相は連続体であり、第2相が第1相の中に分散した構造を形成する。第2相が第1相の中に分散した構造にすると、単に第1相と第2相を平均的に混合した触媒層に比べて飛躍的に特性を向上させることができる。例えば、低加湿特性を向上する目的で触媒層中の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)の比であるP/Cを高めたときでも、第2相であるガス拡散炭素材料凝集相がガス伝達経路として機能するので、生成する水によるガス閉塞が起こりづらく、高い性能を維持することが出来る。
本発明の触媒層構造は、その断面を観察することによって確認することができる。触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に、円相当直径が300nm以上の大きさの第2相が少なくとも1個分散していると本発明の触媒層構造として好ましい。触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に1個未満の場合は、その触媒層はガスの伝達経路が未発達でガスの拡散性が悪く、特に湿潤条件下で安定した性能を発現することはできない。触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に1個未満となるのは、触媒層形成時に各種炭素材料を平均的に混合してしまったか、触媒成分を担持していない炭素材料である触媒成分非担持炭素材料の含有率が低すぎるために少なくとも触媒成分非担持炭素材料が凝集相を形成して分散していないことが考えられる。
より好ましくは、触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に円相当直径が500nm以上の大きさの第2相が少なくとも1個存在することである。このような構造であれば、すくなくとも湿潤条件下で発電性能が不安定になることが抑制されて、安定した発電性能が得られる。
触媒層断面観察のための切断面の形成方法は、特に限定しないが、例えば触媒層をカッターナイフやはさみで切断したり、電解質物質のガラス転移温度以下に冷却した触媒層を破断し、その断面を観察する方法などをあげることができる。特に好ましい方法は、クライオミクロトームなどを用いて、液体窒素で冷やされた環境下で触媒層の切断面を形成する方法である。クライオミクロトームを用いて超薄切片を作製し観察する方法も考えられるが、より簡易的にはクライオミクロトームに試料として触媒層をセットし、ダイヤモンドやガラスでできたトリミングナイフを用いて触媒層表面を切削し、生成した切削面を観察する方法である。
観察する方法は、同一視野を二次電子像と反射電子像の両方で観察でき、少なくとも1万倍以上の倍率で観察できる走査型電子顕微鏡が好ましい。二次電子像は触媒層断面の凹凸情報が反映され、炭素材料や電解質材料、気孔の存在が確認できる。高精度の電子顕微鏡を用いれば触媒成分の存在が確認できるが、同視野の反射電子像を観察すると成分の分布情報が反映され、例えば触媒成分に金属が使用されている場合、触媒成分は明るく、触媒成分がないところは暗いコントラストになって像が得られる。本発明の触媒層の二次電子像と反射電子像を比較すると、同視野中で二次電子像中では炭素材料が存在するにもかかわらず、反射電子像中では暗いコントラストになった部分、つまり触媒成分が存在しない炭素材料が認められる。前記部分、即ち、触媒成分を有さない炭素材料部分の外周の円相当直径が300nm以上であると本発明の好ましい形態となる。
上記第2の実施形態の燃料電池の製造方法について説明する。
触媒成分を担持した触媒担体炭素材料と電解質材料とが凝集した触媒インクを調整する。また、触媒を担持しない触媒成分非担持炭素材料が凝集した触媒成分非担持炭素材料インクを調製する。この触媒インクと触媒成分非担持炭素材料インクを混合し、塗布インクを作成すると、塗布インクは、触媒担体炭素材料と電解質材料とを主成分として凝集して形成した触媒凝集相を第1相とし、触媒成分非担持炭素材料を主成分とする第2相の2相構造となり、第2相が第1相の中に分散した構造が形成される。
触媒層中に含有する炭素材料全体を100質量部として、1〜80質量部の炭素材料を触媒成分非担持炭素材料として用い、残りの炭素材料を触媒成分担持炭素材料として用いると、触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に円相当直径が300nm以上の大きさの第2相を少なくとも1個分散させることができ、好ましい2相構造を形成することができる。5〜70質量部の炭素材料を触媒成分非担持炭素材料として用いると、触媒層の断面における10μm×10μmの面積の視野中に円相当直径が500nm以上の大きさの第2相を少なくとも1個存在させることができ、より好ましい。
(白金触媒の調製)
塩化白金酸水溶液中に、触媒担体炭素材料として表面積1280m2/gのカーボンブラックを分散し、50℃に保温し、撹拌しながら過酸化水素水を加え、次いでNa224水溶液を添加して、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を濾過、水洗、乾燥した後に100%H2気流中、300℃で3時間、還元処理を行い、表1に示す10種類の触媒担持率のPt触媒を調製した。
Figure 0005522112
(触媒インクの調製)
Ar雰囲気下で表1の中から選択したPt触媒を容器に取り、これに電解質材料としての20%ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕した。さらに撹拌しながら酢酸ブチルを加え、Pt触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が1質量%となるようにし、Pt触媒(Ptが担持された触媒成分担持炭素材料)とナフィオン(電解質)とが凝集した触媒インクを調製した。
(触媒成分非担持炭素材料インクの調製)
容器に触媒成分非担持炭素材料として表面積83m2/gのカーボンブラックを取り、炭素材料の濃度が4質量%になるように酢酸ブチルを加え、超音波で炭素材料を粉砕し、触媒成分非担持炭素材料が凝集した触媒成分非担持炭素材料インクを調製した。
(塗布インクの作成)
触媒インクと触媒成分非担持炭素材料インクを混合し、必要に応じて酢酸ブチルを加え、白金濃度が0.5質量%の塗布インクを作成した。
(触媒層の作製)
塗布インクをテフロン(登録商標)シートにそれぞれスプレーした後、アルゴン中80℃で10分間、続いてアルゴン中120℃で60分間乾燥し、触媒層を作製した。触媒成分(白金)の触媒層単位面積当たりの質量(以下、触媒成分の目付量)は、作製したテフロン(登録商標)シート上の触媒層を3cm角の正方形に切り取って質量を測定し、その後、触媒層をスクレーパーで剥ぎ取った後のテフロン(登録商標)シート質量を測定し、先の質量との差分から触媒層質量を算出し、触媒インク中の固形分中における触媒成分の割合から計算により求め、狙った目付量になる様にスプレー条件を調節した。
(MEAの作製)
作製した触媒層を用いてMEA(膜電極複合体)を以下の方法で作製した。
ナフィオン膜(デュポン社製NR211)は6cm角の正方形に切り取り、テフロン(登録商標)シート上に塗布された触媒層は、カッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。これらの触媒層をアノードおよびカソードとしてナフィオン膜の中心部にずれが無いようにはさみ、120℃、100kg/cm2で10分間プレスした。室温まで冷却後、アノード、カソード共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深くはがし、アノードおよびカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。次にガス拡散層として市販のカーボンクロス(E−TEK社製LT1200W)を2.5cm角の正方形に切り取り、アノードとカソードにずれが無いようにはさみ、120℃、50kg/cm2で10分間プレスし、MEAを作成した。なお、プレス前の触媒層付テフロン(登録商標)シートの質量とプレス後にはがしたテフロン(登録商標)シートの質量との差から定着した触媒層の質量を求め、触媒層の組成の質量比より触媒成分、炭素材料、電解質材料の各成分の目付量を求めた。
(燃料電池性能評価条件)
作製したMEA(Membrane Electrode Assembly)は、それぞれセルに組み込み燃料電池測定装置にて、燃料電池性能評価を次の手順で行った。ガスは、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ40%と70%となるように大気圧で供給した。セル温度は80℃に設定し、供給する純水素は、加湿器中で65℃に保温された蒸留水でバブリングを行い、改質水素相当の水蒸気を含ませ、空気は加湿器を通さず無加湿でセルに供給した。このような条件でセルにガスを供給した条件下で250mA/cm2に負荷を固定し、固定後120分経過した時のセル端子間電圧を出力電圧として記録した。
表1に示す触媒A〜Jを用い、表2に示す第1群〜第4群の評価を行った。表2において、電解質材料の配合比は、触媒担体炭素材料の目付量1.0に対する質量比であり、触媒成分非担持炭素材料の配合率は、触媒成分を除いた全固形分炭素材料の質量に対する比(質量%)であり、セル端子間電圧の合格電圧は、表1に示すように群毎に異ならせている。本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
Figure 0005522112
[第1群]
表1の触媒Aを用いて、触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量を0.03mg/cm2、触媒成分非担持炭素材料を触媒成分を除いた全固形分質量に対して16%、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量を種々変化させて6種の触媒層を作製し、これらの触媒層をカソード触媒層として性能評価を行った。なお、アノード触媒層には実施例1−3の触媒層を用いた。第1群の場合では、0.550V以上の電圧が得られるものを合格(○)とした。
比較例1−1、実施例1−1〜1−5の結果を表2に記載した。電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)についてそれらの和であるC+Pと比であるP/Cが本発明の範囲に入るものは合格した。
[第2群]
表1の触媒Jを用いて、触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量を0.48mg/cm2、触媒成分非担持炭素材料を触媒成分を除いた全固形分質量に対して2%、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量を種々変化させて6種の触媒層を作製し、これらの触媒層をカソード触媒層として性能評価を行った。なお、アノード触媒層には実施例2−1の触媒層を用いた。第2群の場合では、0.700V以上の電圧が得られるものを合格(○)とした。
比較例2−1、2−2、実施例2−1〜2−4の結果を表2に記載した。電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)についてそれらの和であるC+Pと比であるP/Cが本発明の範囲に入るものは合格した。
[第3群]
表1の触媒A〜Gの7種類の触媒を用いて、触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量を0.08mg/cm2、触媒成分非担持炭素材料を触媒成分を除いた全固形分質量に対して10%、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量を触媒炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量1.0に対する質量比を2.5の触媒層を作製し、これらの触媒層をカソード触媒層として性能評価を行った。なお、アノード触媒層には実施例3−6の触媒層を用いた。第3群の場合では、0.620V以上の電圧が得られるものを合格(○)とした。
比較例3−1,3−2、実施例3−1〜3−5の結果を表2に記載した。電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)についてそれらの和であるC+Pと比であるP/Cが本発明の範囲に入るものは合格した。
[第4群]
表1の触媒F〜Jの5種類の触媒を用いて、触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量を0.24mg/cm2、触媒成分非担持炭素材料を触媒成分を除いた全固形分質量に対して7%、電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量を触媒炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量1.0に対する質量比を3.5の触媒層を作製し、これらの触媒層をカソード触媒層として性能評価を行った。なお、アノード触媒層には実施例4−3の触媒層を用いた。第4群の場合では、0.690V以上の電圧が得られるものを合格(○)とした。
比較例4−1、4−2、実施例4−1〜4−3の結果を表2に記載した。電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)についてそれらの和であるC+Pと比であるP/Cが本発明の範囲に入るものは合格した。
上記第1〜4群の実施例について、触媒層断面のSEM観察を行った。触媒層をカッターナイフで切断し、クライオミクロトームを用いて、液体窒素で冷やされた環境下で触媒層の切断面を形成した。クライオミクロトームに試料として触媒層をセットし、ダイヤモンドでできたトリミングナイフを用いて触媒層表面を切削し、生成した切削面を観察する。走査型電子顕微鏡を用い、同一視野を二次電子像と反射電子像の両方を1万倍の倍率で観察した。触媒層の二次電子像と反射電子像を比較し、同視野中で二次電子像中では炭素材料が存在するにもかかわらず、反射電子像中では暗いコントラストになった部分を、触媒成分が存在しない炭素材料であるとして、第2相と認定した。本発明を適用した実施例については、いずれも、10μm×10μmの面積の視野中に円相当直径が500nm以上の大きさの第2相が1個以上存在した。
1:カソード触媒層
2:電解質膜
3:アノード触媒層
4:触媒層面積

Claims (2)

  1. プロトン伝導性電解質膜を挟んだ一対のアノード触媒層とカソード触媒層を含む燃料電池であって、
    前記カソード触媒層は少なくとも触媒成分、電解質材料、及び炭素材料を含み、該カソード触媒層における触媒成分の触媒層単位面積当たりの質量M(mg/cm2)が
    0.01≦ M ≦0.5
    を満足するとともに、前記電解質材料の触媒層単位面積当たりの質量P(mg/cm2)と前記炭素材料の触媒層単位面積当たりの質量C(mg/cm2)について、
    0.4 ≦ C+P ≦ 1.5、
    1.3 ≦ P/C < 5.0
    を満足することを特徴とする燃料電池。
  2. 前記炭素材料は、前記触媒成分を担持した炭素材料(以下、「触媒成分担持炭素材料」という。)と、前記触媒成分を担持していない炭素材料(以下、「触媒成分非担持炭素材料」という。)の2種類からなり、
    前記触媒層は、触媒成分担持炭素材料及び電解質材料を主成分として凝集してなる触媒凝集相(以下、「第1相」という。)と、触媒成分非担持炭素材料を主成分として凝集してなるガス拡散炭素材料凝集相(以下、「第2相」という。)との2相構造からなり、
    前記第1相が連続体であり、第2相が第1相中に分散した構造であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
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