JP5517805B2 - 可視光応答型光触媒、水分解光触媒、水素生成デバイス及び水分解方法 - Google Patents

可視光応答型光触媒、水分解光触媒、水素生成デバイス及び水分解方法 Download PDF

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Description

本発明は、可視光応答型光触媒と、それを用いた水分解光触媒、水素生成デバイス及び水分解方法に関する。
従来、光触媒機能を有する固体材料に光を照射し、生成した励起電子とホールとによって、対象物を酸化・還元することにより、例えば、有機物を分解したり、水を水素と酸素とに完全分解したりする反応が知られている。
特に、光触媒による水の完全分解反応は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する反応であるため、太陽光を利用することが出来れば、新たな再生可能エネルギー活用の道が開けることから、注目を浴びている。
水の完全分解が可能となる必須条件は、光触媒の価電子帯が、標準水素電位(SHE)に対する酸素発生電位1.23Vよりも大きく、かつ、伝導帯が水素発生電位0Vよりも小さくなる条件、言い換えれば、光触媒のバンド端位置が、水素発生電位及び酸素発生電位をまたいでいることである。
こうした水分解が可能な光触媒材料として代表的なものに、酸化チタン、タンタルオキシナイトライド、タンタルナイトライドなどがある(例えば、特許文献1乃至3を参照)。
酸化チタンは波長400nm以下の光しか吸収できないのに対し、タンタルオキシナイトライド、タンタルナイトライドは、それぞれ、500nm、620nmまでの波長の光を吸収することが出来る。このことから、タンタルオキシナイトライド及びタンタルナイトライドは、水の完全分解が可能な可視光応答型光触媒として注目されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
タンタルオキシナイトライド及びタンタルナイトライドからなる光触媒が、可視光域の光を吸収でき、さらに水の完全分解が可能な理由は、これらの材料の価電子帯及び伝導帯の電子軌道の位置に由来する。
金属酸化物からなる多くの光触媒は、価電子帯が酸素原子のO2p軌道、伝導帯が金属原子の軌道からなる。酸素原子のO2p軌道は、価電子帯の上端は酸素発生電位である1.23Vよりも大きな値をとるため、酸素発生に対して十分である。しかし、伝導帯下端は水素発生電位よりも小さくなければならないため、水分解が可能となるバンド端位置を満たすためには、バンドギャップエネルギーが大きくなり、可視光域の光吸収が出来ないものが多い。
タンタルオキシナイトライド及びタンタルナイトライドは、酸化チタンの酸素原子が窒素原子に置き換えられて、価電子帯上端を構成する電子軌道がO2p軌道からN2p軌道となることにより、価電子帯上端が酸化チタンの場合と比べて小さくなるため、可視光域の光吸収を可能としつつ、水の完全分解も可能な光触媒と成り得る。
特開2002−233769号公報 特開2002−66333号公報 特開2006−89323号公報
しかしながら、特許文献1に記載されているように、Ta35は、波長620nm以上の光を吸収しないため、太陽光の可視光領域全体にわたって光吸収することができない。そのため、Ta35の太陽光水素変換効率(STH)は、より長波長の光まで吸収できる材料と比較して、同じ量子効率であるならば小さくなってしまう、という課題を有している。ただし、Ta35の場合、既に価電子帯を構成する原子が、完全に酸素原子から窒素原子に置き換わっているために、このままでは可視光化は望めない。
また、特許文献2に記載されているような、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属を含むオキシナイトライドには、たとえばLaTaON2のようにオキシナイトライドでありながらも、Ta35よりも長波長域まで可視光吸収が可能な材料も発見されている。これは、結晶構造がTa35と異なるため、価電子帯や伝導帯のエネルギーが変化し、吸収波長の長波長化がなされたものと類推される。しかし、この場合の結晶構造であるペロブスカイト型構造の場合、比較的多種の原子を含有することが可能であると類推できる一方、多くの化合物がオキシナイトライドとなるために、完全窒化によるナイトライドを合成しない限り、これ以上の長波長化は理論的に難しいという課題がある。
また、特許文献3に記載されているように、チタンやタンタルなどの金属酸化物に、2価のスズを複合させた酸化物を合成することで、可視光化を促進することが可能である。しかし、2価のスズは不安定であるため、酸化されて4価になるか、還元されて金属になる可能性があり、材料としての安定性の面で課題を有している。
いずれの光触媒においても、吸収波長の長波長化が重要な課題ではあるが、どこまででも長波長化すればよいわけではない。特に水分解を考える際は、水の理論分解電圧1.23Vに相当する光の波長である1008nmよりも吸収波長が大きくなると、水を分解することが理論的にできなくなるという課題を有している。
そこで、本発明は、バンドギャップエネルギーを小さくし、吸収波長が長波長化した可視光応答型光触媒を提供することを目的とする。さらに、本発明は、この可視光応答型光触媒を利用した水分解光触媒、水素生成デバイス及び水分解方法を提供することも目的とする。
本発明は、
組成式:(TaxNb1-x35
(式中、xは、0≦x<1を満たす)で表される金属窒化物であって、光の最大吸収波長が620nm以上1008nm以下の範囲内である、可視光応答型光触媒を提供する。
また、本発明は、上記本発明の可視光応答型光触媒を含む、水分解光触媒も提供する。
また、本発明は、上記本発明の可視光応答型光触媒と、前記可視光応答型光触媒と接触する、水を含む電解液と、前記可視光応答型光触媒と前記電解液とを収容する筐体と、
を備え、前記可視光応答型光触媒への光の照射により、前記水が分解されて水素が生成される、水素生成デバイスも提供する。
また、本発明は、上記本発明の可視光応答型光触媒を、水を含む電解液に接触させて、前記可視光応答型光触媒に光を照射して前記電解液中の水を分解する、水分解方法も提供する。
本発明の可視光応答型光触媒によれば、620nm以上の波長の光を利用して、水や有機物を分解できる。また、本発明の水分解光触媒及び水分解方法によれば、620nm以上の波長の光を利用して水を分解できる。また、本発明の水素生成デバイスによれば、620nm以上の波長の光を利用して水を分解し、水素を生成できる。
(Ta0.92Nb0.0835のシミュレーション結果のグラフを示す図 (TaxNb1-x35の最大吸収波長とTaの比率xとの関係を示したグラフを示す図 (Ta0.9Nb0.125の粉末XRD回折測定の結果を示す図 Ta25をアンモニア雰囲気で焼成した試料の近赤外可視紫外分光測定の結果を示す図 水素生成デバイスの模式図
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<可視光応答型光触媒>
表1は、本発明の可視光応答型光触媒の実施の形態において、組成式が(TaxNb1-x35のTaの比率xを変化させた際の、シミュレーションから求めたバンドギャップエネルギーと、最大吸収波長とを示す。ここでの最大吸収波長は、シミュレーションから求めたバンドギャップエネルギーを元に、Ta35の実測された最大吸収波長である620nmを用い、計算で求めたものである。
Figure 0005517805
シミュレーションは、第一原理による、電子状態計算によって行った。このとき利用したTa35の結晶構造データは、単位格子長がそれぞれ、a軸3.8862Å、b軸10.2118Å、c軸10.2624Åであり、角度がα、β、γともに90℃である斜方晶構造であった。すなわち、本発明の可視光応答型光触媒は、Ta35斜方晶構造におけるTa原子をNb原子に置き換えた構造を有する。ここでは、この結晶格子中には、Ta原子が12個、N原子が20個含まれており、Ta原子を1個ずつNb原子に置き換えることで、13通りの計算を行った。
したがって、Taの比率xは、13通りそれぞれの結晶モデルにおいて、Ta原子の数を12で割ることで求めた。
図1は、上述の方法で計算した結果を元にして、縦軸に電子のエネルギー、横軸にそのエネルギーでの電子状態密度を示したグラフであり、(Ta0.92Nb0.0835のシミュレーション結果を元にしたグラフである。この計算結果では、基底状態での電子の最大エネルギーを0eVと表現するため、このグラフにおける0eVが価電子帯の上端に相当する。図1から、電子状態密度が0eVとなる帯域、すなわちバンドギャップをはさみ、伝導帯に相当するバンドが得られたことから、(Ta0.92Nb0.0835は半導体であると判断した。13通りのいずれの組成においても、同様にバンドギャップが存在したことから、(TaxNb1-x35は半導体であると結論付けた。
表1は、この計算結果から得られた、Taの各比率xに対するバンドギャップエネルギーと、最大吸収波長とを示したものである。バンドギャップエネルギーは、計算から得られたTotal DOSの値のうち、正で最も小さな値をバンドギャップエネルギーとした。
表1に示した最大吸収波長は、以下のようにして求めた。
Ta35のバンドギャップエネルギーは、UV−Visでの実測値が620nm(=2eV)であった。一方、計算結果から求めた、Ta35のバンドギャップエネルギーは、1.23eVであった。そのため、1.23eVが620nm(=2eV)に相当するものと仮定し、(TaxNb1-x35の、xが1以外のときの、計算結果から求めたバンドギャップエネルギーをもとに、比例計算することで、最大吸収波長を求めた。用いた計算式は、以下の(式1)である。
(式1)
最大吸収波長=(1.23×620)/バンドギャップ
なお、光の波長(nm)とエネルギー(eV)の関係は、
光の波長(nm)=1240/エネルギー(eV)
で表される。
一般に、計算から求めたバンドギャップエネルギーは、実測値よりも小さくなることが、経験的に知られており、今回のシミュレーションにおける計算結果も妥当であると考えられる。
図2は、表1で得られた結果をグラフにしたもので、縦軸が最大吸収波長、横軸がTaの比率xである。ここで、実線は、各点の線形近似から求めた直線式(以下の(式2))で表される。
(式2)
y=−436.66x+1066.1
y:最大吸収波長
x:Taの割合
水の理論電解電位が1.23Vであることから、これを光の波長に換算した1008nm以上の波長の光しか吸収できない光触媒の場合、有機物分解は可能であるが、水分解は不可能である。そのため、本発明の光触媒において、機能を水分解に特化した場合は、1008nm以下の波長の光が吸収できる範囲に限られる。式2を用いると、1008nmに相当するxは、0.13であることから、xの範囲は、0.13<x<1が望ましい。
今回の計算で、Taの比率xの全範囲においてシミュレーションが成立したことから、(TaxNb1-x35は計算化学的に存在することが示された。また、Ta35の斜方晶を崩すことなくバンドギャップエネルギーが小さくなったことから、(TaxNb1-x35は、Ta35の化学的、物理的性質を著しく変化させることがないものと予想される。そのため、本発明の、組成式(TaxNb1-x35で示される可視光応答型光触媒においても、Ta35で示された光触媒としての特性が、示されるものと考えている。
<合成方法>
本発明の可視光応答型光触媒の合成方法の例について説明する。
高純度化学製のTa25及びNb25粉末を、所定のモル比で混合し、1200℃から1300℃にて焼成することで、組成式(TaxNb1-x25で表される、Ta、Nbの酸化物固溶体を合成することができる。
図3に、(Ta0.9Nb0.125の場合の、リガク製XRD回折装置(RINT−2000)にて測定した、粉末XRD回折測定の結果を示す。
測定結果が示すように、Ta25の結晶ピークに類似したピークが検出された。しかし、ピーク位置の角度がわずかにシフトしていることから、結晶構造歪みと単位格子長の変化が生じたと判断し、Ta25にNbが固溶したと判断した。
また、Ta、Nbの金属アルコキシド、例えばTa(OEt)5、Nb(OEt)5を出発材料にし、これらのエタノール希釈溶液を任意のモル比になるように調整し、加水分解することで、Ta、Nbの酸化物固溶体を合成することができる。
こうして作製した、組成式(TaxNb1-x25で表される、Ta、Nbの酸化物固溶体を、アンモニア雰囲気のタンマン管を用いた電気炉にて焼成する。このときの雰囲気は、アンモニアガス100%、または、任意の濃度になるように窒素で希釈したアンモニアガスであり、例えば温度900℃以下にて8時間焼成する。
図4に、アンモニアガス100%雰囲気で、900℃で8時間焼成した、出発原料が高純度化学製Ta25試薬の場合の試料について、日本分光製近赤外可視紫外分光装置(V−670)にて測定した、250nmから1000nmまでの波長の光の吸収特性を示す。なお、試料の焼成は、焼成用アルミナボートに約2gのTa25を入れたものを、タンマン管炉の末端に静置することによって行った。
この測定結果から、およそ620nmに吸収が見られることから、Ta35が生成したものとみなした。500nm付近にも吸収が見られることから、TaONも含有していると考えられる。さらにTa35の割合を増加するには、焼成時間を長くすればよい。
同様の方法で、組成式(TaxNb1-x25で表される、Ta、Nbの酸化物固溶体を焼成することで、(TaxNb1-x35を合成することが可能であると考えられるが、その他に、高温での窒素雰囲気での焼成、CVD、スパッタなど、種々の合成方法が考えられる。
また、(TaxNb1-x35の同定方法は、酸化物固溶体である、(TaxNb1-x25のときと同様に、粉末XRD回折測定で得られた結晶ピークが、Ta35と同様のピークで、かつピーク位置の角度が一定の範囲でシフトしているかを確かめることで、同定することが出来る。
<水分解光触媒及び水分解方法>
本発明の光触媒を水分解光触媒として用いて、可視光照射による水分解を行い、水素を発生させる方法について説明する。この場合、本発明の光触媒を水を含む電解液に接触させて、この光触媒に可視光を照射することによって電解液中の水を分解することによって、水素を発生させる。なお、ここで用いる電解液は、水を含んでいればよく、例えば、水を溶媒として電解質を溶解させた溶液であってもよいし、水のみで構成されていてもよい。
ここでは、光触媒としてTa35で行った実験例について説明するが、(TaxNb1-x35についても同様に実験することで、水分解による水素の発生が可能である。
まず、試料であるTa35に、助触媒となる白金を3wt%担持させた。担持方法は、塩化白金酸水溶液中にTa35を0.2g加え、水浴にて徐々に加熱し、乾燥するまで加熱し続けることで行った。
このようにして助触媒である白金を担持させたTa35を、ガラス製のセルにいれ、水と、犠牲剤であるEDTAを加え、攪拌して懸濁し、420nm以下の光をカットした300Wキセノン光源を照射し、発生した水素の量を定量した。
なお、白金を担持せず、犠牲剤のEDTAを硝酸銀に変えて同様の実験をすることで、発生する酸素量についても定量した。
この実験から、Ta35において、水素及び酸素ともに発生できることから、本発明の(TaxNb1-x35においても同様に、水素及び酸素が発生できるものと考えられる。
<水素発生デバイス>
本発明の可視光応答型光触媒を用いた、水素生成デバイスの実施の形態について説明する。
図5は、本実施の形態の水素生成デバイス1の模式図である。水素生成デバイス1は、基板12上に本発明の可視光応答型光触媒11を塗布した光電極13と、白金からなる対極14と、水を含む電解液16と、光透過部を有する筐体15と、を備えている。
水素生成デバイス1において、光電極13と対極14とを外部回路で短絡し、光電極13に光を照射することで、光電極13から酸素が、対極14から水素が発生するが、実際には測定のための電流計と外部バイアスを印加するための電圧計とを兼ね備えたソースメーターを用い、発生した水素量を測定することに変えて、光電流が発生水素量に相当すると仮定して、測定を行った。
本発明の可視光応答型光触媒の代替として、Ta35を用い、ITO薄膜付ガラス上にTa35を塗布し、窒素雰囲気にて400℃にて焼き付けたものを、光電極13として用いた。
外部バイアスを光電極13側が正になるように、電圧を0.5V印加し、光源として、420nm以下の光をカットした100Wキセノンランプを照射した。電解液16には、1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を利用した。その結果、2μA/cm2の光電流を検出した。
なお、ここではTa35を用いたが、これを(TaxNb1-x35に変更することで、本発明の光水素生成デバイスとなる。
本発明の可視光応答型光触媒は、例えば太陽光から水素を生成するデバイス、空質浄化装置等の脱臭デバイス、抗菌膜、防汚膜、超親水性膜、防曇膜、水質浄化デバイス及びCO2と水からのメタノール合成等の、光触媒関連技術に有用である。
1 水素生成デバイス
11 可視光応答型光触媒
12 基板
13 光電極
14 対極
15 筐体
16 電解液

Claims (5)

  1. 組成式:(TaxNb1-x35
    (式中、xは、0.13<x<1を満たす)
    で表される金属窒化物であって、光の最大吸収波長が620nm以上1008nm以下の範囲内である、可視光応答型光触媒。
  2. 前記金属窒化物は、Ta35斜方晶構造におけるTa原子を、Nb原子に置き換えた構造を有する、請求項1に記載の可視光応答型光触媒。
  3. 請求項1又は2に記載の可視光応答型光触媒を含む、水分解光触媒。
  4. 請求項1又は2に記載の可視光応答型光触媒と、
    前記可視光応答型光触媒と接触する、水を含む電解液と、
    前記可視光応答型光触媒と前記電解液とを収容する筐体と、
    を備え、
    前記可視光応答型光触媒への光の照射により、前記水が分解されて水素が生成される、水素生成デバイス。
  5. 請求項1又は2に記載の可視光応答型光触媒を、水を含む電解液に接触させて、前記可視光応答型光触媒に光を照射して前記電解液中の水を分解する、水分解方法。
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