ところで、特許文献1の技術は、偏心を推定ないしは検出する技術であり、相内循環電流を低減して効率を改善することにはならない。従来、偏心が生じても相内循環電流が流れないように各相のコイルを直列接続とする効率改善方法が考えられてきたが、太い導体が必要となって材料コストが増加するとともにコイル巻き作業が難しくなるという弊害が生じていた。また、偏心量を低減し、ばらつきを抑制するためには、偏心調整工程を設け時間をかけて高精度な検査および調整作業を行う必要があった。従来の技術では、偏心に起因する効率低下を抑制しようとすると、結果的に製造コストが増加していた。
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑みてなされたもので、偏心に起因する循環電流の増加を抑制して、効率が高くかつ製造コストが低廉な多相モータを提供することを解決すべき課題とする。
上記課題を解決する請求項1に係る多相モータの発明は、磁石もしくは磁気的異方性を有するロータと、各相の機能単位コイルを周方向に配置して構成したコイル組を複数組有するステータとを備え、各相の全ての前記コイルの一端側を接合して各相給電用端子とし、各相の各コイルの他端側を1個以上の他相のコイルの他端側と接合して相間接合点とした多相モータにおいて、前記コイル組中の少なくとも1個のコイルの他端側は、当該コイル組を構成する他相のコイルの他端側と接合されずに他のコイル組を構成する他相のコイルの他端側と接合されていることを特徴とする。
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記多相モータは三相モータであり、前記コイル組は三相各1個のコイルで構成されており、前記相間接合点は前記コイル組の組数に等しい個数のY結線中性点であり、前記コイル組中の少なくとも1個のコイルの他端側は、当該コイル組を構成する他の2個のコイルの他端側と接合されずに他のコイル組を構成する他二相各1個のコイルの他端側と接合されて前記Y結線中性点とされていることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1において、前記多相モータは三相モータであり、前記コイル組は三相各1個のコイルで構成されており、前記相間接合点は前記コイル組の組数に等しい個数のY結線中性点であり、 それぞれの前記Y結線中性点で接合された3個のコイルが互いに異なる2組または3組のコイル組に分散して配置されていることを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項2または3において、前記コイル組の前記組数が3の倍数でなく、周方向に120°ピッチで配置された互いに異なる相の3個のコイルの各他端側が接合されて前記Y結線中性点とされていることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか一項において、各前記コイルは集中巻コイルであることを特徴とする。
請求項1に係る多相モータの発明では、各相の全てのコイルの一端側を接合して各相給電用端子とし、各相の各コイルの他端側を他相のコイルの他端側と接合して相間接合点としている。このため、全コイルの他端側を接合した共通中性点は存在せず、各相において2個のコイルによる相内閉ループが形成されない。したがって、ロータが偏心して各コイルに鎖交する磁束に偏りが生じ、各コイルに誘起される電圧に差電圧が生じても相内循環電流は流れない。その代わりに、相間接合点で接合された二相各1個のコイルで直列コイル連が構成され、2個以上の直列コイル連すなわち4個以上のコイルにより局所閉ループが形成されて局所循環電流が流れる。このとき、この4個以上のコイルは周方向の異なる位置に配置されており、偏心に起因して誘起される各電圧はそれぞれ異なる。したがって、局所閉ループに電流を流そうとするループ電圧は緩和されて小さくなり、本発明における局所循環電流は共通中性点方式における相内循環電流よりも小さくなる。
さらに、コイル組中の少なくとも1個のコイルの他端側は、当該コイル組を構成する他のコイルの他端側と接合されずに他のコイル組を構成する他相のコイルの他端側と接合されている。つまり、従来の組別中性点方式でなく、複数のコイル組にまたがる相間接合点とされている。これは、局所閉ループを形成する4個以上のコイルが従来よりも多数のコイル組に分散し、周方向に離れたばらばらな位置に配置されることを意味している。したがって、偏心に起因して局所閉ループに誘起されるループ電圧は確実に緩和されて一層小さくなり、本発明における局所循環電流は従来の組別中性点方式における局所循環電流と比較しても小さくなる。
また、従来と同様に各相で複数のコイルを並列接続して用いることができ、各コイルの他端側の結線を従来の共通中性点方式や組別中性点方式から変更するだけでよい。したがって、コイルを直列接続する必要がなく、その他のステータ構造の変更も不要である。なおかつ、偏心量を低減するための特別な偏心調整工程も不要であり、製造コストの増加が抑制される。結果として、効率が高くかつ製造コストが低廉な多相モータを提供できる。
請求項2に係る発明では、三相モータにおいて請求項1と同様の循環電流の低減効果および製造コスト増加の抑制効果が生じる。詳述すると、コイル組中の少なくとも1個のコイルの他端側は、当該コイル組を構成する他の2個のコイルの他端側と接合されずに他のコイル組を構成する他二相各1個のコイルの他端側と接合されてY結線中性点とされている。換言すれば、本発明のY結線中性点によれば、局所閉ループを形成する4個のコイルが3組以上のコイル組に分散し、周方向に離れたばらばらな位置に配置される。一方、従来の組別中性点方式では、局所閉ループを形成する4個のコイルが2組のコイル組に配置される。したがって、本発明では、偏心に起因して局所閉ループに誘起されるループ電圧は、組別中性点方式と比較して緩和され小さくなる。このため、本発明における局所循環電流は、従来の共通中性点方式における相内循環電流や組別中性点方式における局所循環電流と比較して小さくなる。
さらに、複数のコイル組に配置された三相各1個のコイルでY結線中性点を構成するために、各コイルの他端側の接合相手を従来の組別中性点方式から変更するだけでよい。つまり、コイルは従来の並列接続のままでステータ構造を変更する必要もなく、特別な偏心調整工程も不要であり、製造コストの増加が抑制される。結果として、効率が高くかつ製造コストが低廉な三相モータを提供できる。
請求項3に係る発明では、前記多相モータは三相モータであり、それぞれのY結線中性点で接合された3個のコイルが互いに異なる2組または3組のコイル組に分散して配置されている。したがって、請求項2と同様、局所閉ループを形成する4個のコイルが3組以上のコイル組に分散し、周方向に離れたばらばらな位置に配置される。これにより、請求項2と同様の効果が生じ、結果として、効率が高くかつ製造コストが低廉な三相モータを提供できる。
なお、請求項2では物理的な配置を示すコイル組を基準としてY結線中性点の結線方式を記載しており、請求項3では電気的な結線を示すY結線中性点を基準として各コイルの配置を記載している。両請求項は類似した技術的特徴を意味しており、作用および効果は同一になる。
請求項4に係る発明では、コイル組の組数が3の倍数でない構成において、周方向に120°ピッチで配置された互いに異なる相の3個のコイルの各他端側が接合されてY結線中性点とされている。局所閉ループを形成する4個のコイルの組み合わせは多数あり、本態様によれば任意の組み合わせにおける4個のコイルを、周方向に離れたばらばらな位置に配置できる。これにより、モータの個体差に依存して偏心する方向が変化しても循環電流の低減効果は確実かつ顕著となり、高い効率を維持できる。なお、コイル組の組数が3の倍数であるとき、周方向に120°ピッチで同相のコイルが配置されるため、本請求項は実施できない。
請求項5に係る発明では、各コイルは集中巻コイルとされている。本発明は、集中巻コイルを有するステータを備える多相モータに実施することができ、効果が顕著となる。
本発明の第1実施形態の三相モータ(多相モータ)の構成およびコイルの結線について、図1〜図3を参考にして説明する。図1は、第1実施形態の三相モータ1の構成を模式的に説明する図であり、軸線AX延長方向からみた平面図ある。三相モータ1は、内周側にロータ2、外周側にステータ3を配置し、軸線AXを中心として概ね軸対称の構造を有している。ロータ2およびステータ3は図略のケースに支持され、設計上は軸線AXを共有し、周方向に一定のギャップ長G1だけ離れて内外に対向している。実際には、両者2、3の相対位置関係が偏心して軸線AXが完全には一致せず、ギャップ長G1の大きさが周方向で変動することが生じ得る。
ロータ2は略円筒状であり、図1の紙面表裏方向に薄板環状の電磁鋼板が積層されて形成されている。また、ロータ2の外周側の周方向にN極およびS極が交互に並ぶように、図略の複数の永久磁石が埋め込まれている。永久磁石は、後述するステータ3のコイルU1〜U5、V1〜V5、W1〜W5に交番する磁束を鎖交させる機能を有している。なお、ロータコア形状によっては、永久磁石の埋め込みに代え、着磁により磁気的異方性を付与したロータを用いることもできる。
ステータ3は略円筒状であり、ステータコア31およびコイルU1〜U5、V1〜V5、W1〜W5を有している。ステータコア31は、図1の紙面表裏方向に薄板環状の電磁鋼板が積層されて形成されている。ステータコア31は、半径方向内向きに突出する、図には見えない15個の磁極ティースを有している。各磁極ティースに導線が巻回され、集中巻きの15個のコイルU1〜U5、V1〜V5、W1〜W5が形成されている。各相各1個のコイルは、周方向に隣接配置されてコイル組41〜45が構成されている。
図の例では、U相第1コイルU1の時計回りの方向にW相第1コイルW1およびV相第1コイルV1が隣接配置されて第1コイル組41が構成されている。また、各相第2コイルU2、W2、V2が周方向に隣接配置されて第2コイル組42が構成され、以下同様に、各相第3〜第5コイルU3〜U5、W3〜W5、V3〜V5が順次周方向に隣接配置されて、それぞれ第3〜第5コイル組43〜45が構成されている。第1〜第5コイル組は、順番に時計回りに配置され、第5コイル組45のV相第5コイルV5が第1コイル組41のU相第1コイルU1に隣接し、全体として環状になっている。
図2は、第1実施形態の三相モータ1のコイルの結線を示す結線図であり、(1)はコイル組を基準とした表記方法、(2)は中性点を基準とした表記方法による図である。つまり、図2(1)では環状に配置されているコイルを紙面左右方向に一列に並べて示し、図2(2)では各中性点N1〜N5を中心として接合される3個のコイルを並べて示している。図示されるように、U相の5個全てのコイルU1〜U5の一端側は接合されてU相給電用端子5Uとされている。同様に、V相の5個全てのコイルV1〜V5の一端側も接合されてV相給電用端子5Vとされ、W相の5個全てのコイルW1〜W5の一端側も接合されてW相給電用端子5Wとされている。また、第1コイル組41のW相第1コイルW1の他端側、第3コイル組43のU相第3コイルU3の他端側、および第4コイル組44のV相第4コイルV4の他端側が接合されてY結線の第1中性点N1とされている。
第1中性点N1に接合されている上記W相第1コイルW1、U相第3コイルU3、およびV相第4コイルV4は、図2(1)では間に4個の別コイルがあり、図1では120°ピッチで配置されている。残る12個のコイルについても、120°ピッチで配置される3個のコイルの各他端側がそれぞれ接合されてY結線の第2〜第5中性点N2〜N5とされている。中性点N1〜N5の数は、コイル組41〜45の組数に一致した5点になっている。図から明らかなように、任意のコイル組中の任意の第一相のコイルの他端側は、当該コイル組を構成する第二相および第三相のコイルの他端側と接合されずに、別のコイル組を構成する第二相のコイルの他端側、およびまた別のコイル組を構成する第三相のコイルの他端側と接合されて中性点とされている。換言すれば、各中性点N1〜N5で接合された3個のコイルは、互いに異なる3組のコイル組に分散して配置され、周方向に離れたばらばらな位置に配置されている。
また、コイルの結線は図2に限定されず、例えば図3に示される結線とすることもできる。図3は、第1実施形態を変形した別の三相モータ10におけるコイルの結線を示す結線図であり、コイル組を基準とした表記方法による図である。図3で、第2コイル組42のW相第2コイルW2の他端側、第3コイル組43のU相第3コイルU3の他端側、および第1コイル組41のV相第1コイルV1の他端側が接合されてY結線の第2中性点N2とされている。残る12個のコイルについても、同様に各他端側がそれぞれ接合されてY結線の第1、および第3〜第5中性点N1、N3〜N5とされている。このように、或るコイル組中の中央に配置されたW相コイル、時計回りの次のコイル組中の前側に配置されたU相コイル、および前のコイル組中の後側に配置されたV相コイルの各他端側を接合して中性点としてもよい。この結線でも、各中性点N1〜N5で接合された3個のコイルが互いに異なる3組のコイル組に分散して配置される。
次に、従来の三相モータ91、92におけるコイルの結線について説明する。図4は、従来の共通中性点方式の三相モータ91におけるコイルの結線を示す結線図であり、(1)はコイル組を基準とした表記方法、(2)は中性点を基準とした表記方法による図である。図4において、各相給電用端子5U、5V、5Wは、第1実施形態(図2および図3)と同様であり、中性点側の結線が異なる。すなわち、共通中性点方式では、15個すべてのコイルU1〜U5、V1〜V5、W1〜W5の他端側が一括して接合され共通中性点ncとされている。
また、図5は、従来の組別中性点方式の三相モータ92におけるコイルの結線を示す結線図であり、(1)はコイル組を基準とした表記方法、(2)はY結線中性点を基準とした表記方法による図である。図5において、各相給電用端子5U、5V、5Wは、第1実施形態(図2および図3)と同様であり、中性点側の結線が異なる。すなわち、組別中性点方式では、第1コイル組41を構成するU相第1コイルU1、V相第1コイルV1、およびW相第1コイルW1の各他端側が接合されて第1組別中性点n1とされている。同様に、第2〜第5コイル組42〜45をそれぞれ構成する三相各1個のコイルの各他端側が接合されて第2〜第5組別中性点n2〜n5とされている。
次に、図2のように結線された第1実施形態の三相モータ1の作用について、図4および図5で説明した従来の結線方式の三相モータ91、92と比較して説明する。まず、図6に示される偏心状態を想定する。図6は、ロータ2とステータ3とが相対的に偏心した偏心状態の一例を示す図である。図示されるように、ステータ3を基準としてロータ2は図中の下方向に偏心し、U相第1コイルU1から遠ざかってギャップ長Gmaxが最大となり、V相第3コイルV3に接近してギャップ長Gminが最小となっている。このため、U相第1コイルU1に鎖交する磁束および誘起される電圧は小さく、V相第3コイルV3に鎖交する磁束および誘起される電圧は大きくなる。また、U相第1コイルU1付近のW相第1コイルW1やV相第5コイルV5で誘起電圧は小さくなり、V相第3コイルV3付近のW相第3コイルW3やU相第4コイルU4で誘起電圧は大きくなる。その他のコイルでも、ロータ2とのギャップ長の大小に依存してそれぞれ電圧が誘起される。
ここで、図4に示される共通中性点方式では、並列接続される相内の任意の2コイルにより相内閉ループが形成される。例えば、図4(2)に例示されるように、U相第1コイルU1およびU相第4コイルU4により相内閉ループLP1が形成される。図6の偏心状態においてU相第1コイルU1の誘起電圧E1は小さく、U相第4コイルU4の誘起電圧E4は大きくなる。したがって、両者の差電圧Ed(=E4−E1)により相内閉ループLP1に相内循環電流Ic1が流れる。相内循環電流Ic1は、通常のモータ駆動電流に重畳して電気的損失が増加する。
もちろん、U相第1コイルU1とU相第4コイルU4との間だけでなく、U相第2、第3、第5コイルU2、U3、U5を含めた各相互間でそれぞれ相内循環電流Ic1は流れ得る。相内循環電流Ic1の最大値は、ロータ2が偏心して最も接近したコイルと最も離れたコイルとの相互間で流れる。同様に、V相内およびW相内でも相内循環電流Ic1は流れ得る。なお、偏心が生じていない理想的な状態では、各コイルに誘起される電圧は等しくなり、差電圧がなくなって相内循環電流Ic1は流れない。
また、図5に示される組別中性点方式では、組別中性点で接合された二相各1個のコイルからなる直列コイル連が構成され、2個の直列コイル連すなわち4個のコイルにより二相にまたがる閉ループが形成される。例えば、図5(2)に例示されるように、U相第1コイルU1およびV相第1コイルV1からなる直列コイル連と、U相第3コイルU3およびV相第3コイルV3からなる直列コイル連とにより二相間閉ループLP2が形成される。図6の偏心状態においてU相第1コイルU1の誘起電圧は小さく、V相第1コイルV1の誘起電圧は比較的小さく、U相第3コイルU3の誘起電圧E3は比較的大きく、V相第3コイルV3の誘起電圧は大きくなる。したがって、この4個のコイルU1、V1、U3、V3に誘起される電圧の和がゼロにならず、二相間閉ループLP2内にループ電圧が生じて二相間循環電流Ic2が流れる。二相間循環電流Ic2は、通常のモータ駆動電流に重畳して電気的損失が増加する。
もちろん、この2つの直列コイル連だけでなく、U相給電用端子5UとV相給電用端子5Vとを結ぶ他の3つ直列コイル連を含めた相互間でそれぞれ二相間循環電流Ic2は流れ得る。さらに、U−V相間だけでなくV−W相間およびW−U相間でも、二相間循環電流Ic2は流れ得る。
組別中性点方式における二相間閉ループLP2のインピダンスは、直列接続されるコイル数に概ね比例するので、共通中性点方式における相内閉ループLP1のインピダンスの略2倍となる。一方、組別中性点方式におけるループ電圧は、4個のコイルが多少なりとも周方向に分散していることで緩和され、共通中性点方式における差電圧Edの2倍までには達しない。したがって、組別中性点方式における二相間循環電流Ic2は、共通中性点方式における相内循環電流Ic1よりも小さくなる。
図2の第1実施形態においても、組別中性点方式と同様の直列コイル連が構成され、2個の直列コイル連すなわち4個のコイルにより二相間閉ループが形成される。図2(2)と図5(2)とを比較すればわかるように、第1実施形態の結線は電気的には組別中性点方式と同一であり、二相間閉ループを構成する4個のコイルの配置が異なる。両者を比較するために、図5(2)と同様に、図2(2)中でU相第1コイルU1およびU相第3コイルU3を含むU−V相間の二相間閉ループLP3に注目する。局所閉ループLP3は、U相第1コイルU1、U相第3コイルU3、V相第2コイルV2、およびV相第4コイルV4により形成されている。この、4個のコイルU1、U3、V2、V4は4組のコイル組41〜44に分散し、周方向に離れたばらばらな位置に配置されている。したがって、U相第1コイルU1およびU相第3コイルU3に誘起される電圧の差が大きいときに、コイル組が異なるV相第2コイルV2およびV相第4コイルV4は偏心方向から外れ、誘起される電圧の差が比較的小さくなる。このため、ループ電圧が小さく緩和されて、二相間循環電流Ic3は小さくなる。
一方、図5(2)の組別中性点方式では局所閉ループLP2を構成する4個のコイルU1、V1、U3、V3は、第1および第3コイル組41、43にまとまっている。したがって、U相第1コイルU1およびU相第3コイルU3に誘起される電圧の差が大きいときに、それぞれコイル組が同じV相第1コイルV1およびV相第3コイルV3は偏心方向に近く、誘起される電圧の差が比較的大きくなりがちである。このため、ループ電圧の緩和および二相間循環電流Ic2の低減効果は、第1実施形態ほど顕著にならない。つまり、第1実施形態における二相間循環電流Ic3は、組別中性点方式における二相間循環電流Ic2よりも小さくなる。
上述の定性的な作用は、他の二相間閉ループおよび他の偏心方向でも同様に生じる。したがって、第1実施形態では、二相間閉ループLP3に流れる二相間循環電流Ic3を、共通中性点方式の相内閉ループLP1に流れる相内循環電流Ic1や、組別中性点方式の二相間閉ループLP2に流れる二相間循環電流Ic2よりも小さくできる。
次に、二相間循環電流Ic3の低減効果を定量的にシミュレーションした結果について、図7を参考にして説明する。図7は、第1実施形態の三相モータ1の効果を定量的に説明する図であり、(1)は無負荷時損失のグラフ、(2)は負荷時損失のグラフである。図中の縦軸は損失(比率)であり、各棒グラフは鉄損およびコイルの結線により変化する銅損の比率を示している。
損失のシミュレーションでは、ロータ2およびステータ3が同一の構成でコイルの結線のみが第1実施形態(図2)、共通中性点方式(図4)、および組別中性点方式(図5)と異なる各三相モータ1、91、92を想定し、図6の偏心状態における鉄損および銅損を算定した。図7(1)に示されるように、無負荷時の鉄損の他に偏心による循環電流が流れて銅損が発生する。損失増加分は、共通中性点方式で3.3%、組別中性点方式で2.7%、第1実施形態で0.4%であった。つまり、第1実施形態では偏心に起因する無負荷時の銅損を共通中性点方式の12%に低減できる。
また、図7(2)に示されるように、負荷時の主損失(鉄損+銅損)の他に、偏心時の循環電流によって発生する損失増加分は、共通中性点方式で2.94%、組別中性点方式で2.67%、第1実施形態で0.76%であった。つまり、第1実施形態では偏心に起因する負荷時の損失増加分を共通中性点方式の26%に低減できる。
さらに、第1実施形態の三相モータ1では、従来と同様に三相各相で複数のコイルを並列接続して用いることができ、各コイルの他端側の結線を従来の共通中性点方式や組別中性点方式から変更するだけでよい。したがって、コイルを直列接続する必要がなく、ステータ3の構造の変更も不要である。なおかつ、偏心量を低減するための特別な偏心調整工程も不要であり、製造コストの増加が抑制される。結果として、効率が高くかつ製造コストが低廉な三相モータ1を提供できる。
次に、各相のコイル数が4個である第2実施形態の三相モータ6の構成およびコイルの結線について、図8および図9を参考にして、第1実施形態と異なる点を主に説明する。図8は、第2実施形態の三相モータ6の構成を模式的に説明する図であり、軸線AX延長方向からみた平面図ある。三相モータ6は、各相のコイル数が4個であることを除いて、概ね第1実施形態と同様の構造を有している。つまり、各相第1〜第4コイルU1〜U4、W1〜W4、V1〜V4が相順にしたがい周方向に隣接配置されて、それぞれ第1〜第4コイル組71〜74が構成され、全体として環状になっている。
図9は、第2実施形態の三相モータ6のコイルの結線を示す結線図であり、コイル組を基準とした表記方法による図である。図示されるように、各相の4個全てのコイルの一端側を接合したU相、V相、およびW給電用端子5U、5V、5Wは第1実施形態と同様である。第1コイル組71のU相第1コイルU1、第2コイル組72のW相第2コイルW2、および第3コイル組73のV相第3コイルV3の各他端側が接合されてY結線の第1中性点N11とされている。
第1中性点N11に接合されている上記U相第1コイルU1、W相第2コイルW2、およびV相第3コイルV3は、間に3個の別コイルがあり、図9では120°ピッチで配置されている。残るコイルについても、120°ピッチで配置される3コイルの各他端側がそれぞれ接合されてY結線の第2〜第4中性点N12〜N14とされている。図から明らかなように、各中性点N11〜N14で接合された3個のコイルは、互いに異なる3組のコイル組に分散して配置され、周方向に離れたばらばらな位置に配置されている。
また、コイルの結線は図9に限定されず、例えば図10や図11に示される結線とすることもできる。図10は、第2実施形態を変形した別の三相モータ60におけるコイルの結線を示す結線図であり、コイル組を基準とした表記方法による図である。図10で、例えば、第2コイル組72のW相第2コイルW2の他端側、第3コイル組73のU相第3コイルU3の他端側、および第1コイル組71のV相第1コイルV1の他端側が接合されてY結線の第2中性点N12とされている。このように、或るコイル組中の中央に配置されたW相コイル、時計回りの次のコイル組中の前側に配置されたU相コイル、および前のコイル組中の後側に配置されたV相コイルの各他端側を接合して各中性点としてもよい。この結線でも、各中性点N11〜N14で接合された3個のコイルが互いに異なる3組のコイル組に分散して配置される。
図11は、第2実施形態を変形したまた別の三相モータ61におけるコイルの結線を示す結線図であり、コイル組を基準とした表記方法による図である。図12で、第1コイル組71のU相第1コイルU1とW相第1コイルW1、および第3コイル組73のV相第3コイルV3の各他端側が接合されてY結線の第1中性点N11とされている。このように、各中性点N11〜N14で接合された3個のコイルが互いに異なる2組のコイル組にまたがって配置されるようにしてもよい。
第2実施形態の三相モータ6、60、61における作用および効果は第1実施形態と同様であり、説明は省略する。図11に示されるように、各中性点N11〜N14で接合された3個のコイルが3組のコイル組でなく2組にまたがって配置された態様でも、偏心時の二相間循環電流は組別中性点方式より小さくなり、効率低下を抑制する効果が生じる。
なお、実施形態で説明したコイルの接続は例であって、他にも様々な結線方法を採用できる。本発明は、その他様々な変形や応用が可能である。