JP5513962B2 - 異材接合方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼材とアルミニウム材とのスポット溶接による異材接合方法に関する。
近年、排気ガス等による地球環境問題に対して、自動車などの輸送機の車体の軽量化による燃費の向上が追求されている。また、この軽量化をできるだけ阻害せずに、自動車の車体衝突時の安全性を高めることも追求されている。このため、特に、自動車の車体構造に対し、従来から使用されている鋼材に代わって、より軽量で、エネルギー吸収性にも優れたアルミニウム合金材の適用が増加しつつある。ここで言う、アルミニウム合金材とは、アルミニウム合金の圧延板材、押出材、鍛造材などの総称である。
例えば、自動車のフード、フェンダー、ドア、ルーフ、トランクリッドなどのパネル構造体の、アウタパネル (外板) やインナパネル(内板) 等のパネルには、Al−Mg−Si系のAA乃至JIS6000系 (以下、単に6000系と言う) やAl−Mg系のAA乃至JIS5000系 (以下、単に5000系と言う) などのアルミニウム合金板の使用が検討されている。
また、自動車の車体衝突の安全性を確保するための、バンパ補強材(バンパリインフォースメント、バンパアマチャアとも言う)やドア補強材(ドアガードバー、ドアビームとも言う)などのエネルギー吸収部材あるいは補強材としては、Al−Zn−Mg系のAA乃至JIS7000系 (以下、単に7000系と言う) や前記6000系合金などの、アルミニウム合金押出形材が使用されている。更に、サスペンションアームなどの自動車の足回り部品には、前記6000系合金のアルミニウム合金鍛造材が使用されている。
これらのアルミニウム合金材は、オールアルミニウムの自動車車体で無い限り、通常の自動車の車体では、必然的に、元々汎用されている鋼板や型鋼などの鋼材(鋼部材)と接合して用いられる。したがって、自動車の車体にアルミニウム合金材を使用する場合(鋼材とアルミニウム合金材とを組み合わせた部材)には、これも必然的に、Fe-Al の異材接合(鉄ーアルミの異種金属部材同士の接合)の必要性がある。
しかし、このFe-Al 異材接合を溶接により行う際の問題点として、互いの接合界面における、高硬度で非常に脆いFeとAlとの金属間化合物層(以下、反応層とも言う)の生成がある。このため、見かけ上互いに接合されてはいても、本化合物層の生成が原因となって、溶接によるFe-Al 異材接合では、異材接合体に、十分な接合強度が得られないことが多い。
これを反映して、従来から、これら異材接合体(異種金属部材同士の接合体)の接合には、溶接だけでなく、ボルトやリベット等、あるいは接着剤を併用した接合がなされているが、接合作業の煩雑さや接合コスト上昇等の問題がある。
そこで、従来より、Fe-Al 異材接合の溶接法につき、通常の自動車の車体の接合に汎用されている、効率的なスポット溶接による接合が検討されている。例えば、アルミニウム材と鋼材の間に、アルミニウム−鋼クラッド材をインサートする方法が提案されている。また、鋼材側に融点の低い金属をめっきしたり、インサートしたりする方法が提案されている。更に、アルミニウム材と鋼材の間に絶縁体粒子を挟む方法や、部材に予め凹凸を付ける方法なども提案されている。更に、アルミニウム材の不均一な酸化膜を除去した後、大気中で加熱して均一な酸化膜を形成し、アルミニウム表面の接触抵抗が高められた状態で、アルミニウム−鋼の2層の複層鋼板をインサート材に用いてスポット溶接する方法も提案されている。
一方、鋼材側でも、鋼板の高強度化のために、Si、Mn、Alなどの酸化物を形成しやすい元素を添加すると、母材表面には、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物が生成することが公知である。そして、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物が、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性を阻害することも知られている。更に一方では、鋼板を酸洗などして、これらSi、Mn、Alなどを含む酸化物層の厚さを0.05〜1 μm の範囲とすれば、亜鉛めっきなどの表面被覆と鋼板との密着性および鋼板同士のスポット溶接性が向上されることも知られている(特許文献1参照)。
しかし、これらの従来技術では、通常の自動車の車体の接合に汎用されている、効率的なスポット溶接による接合条件では、溶接接合されたFe-Al の異材接合体に、十分な接合強度が得られない。言い換えると、接合強度を得るためのスポット溶接条件が煩雑にならざるを得ず、現実的では無い。
これに対して、特に、自動車車体用として汎用される、6000系アルミニウム合金材などと、引張強度が450MPa以上の高強度鋼板(ハイテン材)との、異材接合体のスポット溶接を意図した技術も種々提案されている。
例えば、特許文献2、3では、板厚を3mm以下に制限した鋼材とアルミニウム合金材とを、鋼材を2枚以上重ね合わせるか、鋼材をアルミニウム合金材間に挟み込んだ形でスポット溶接することが提案されている。特許文献4では、スポット溶接部におけるナゲット面積や界面反応層の厚さを規定して接合強度を向上させることが提案されている。また、特許文献5、6では、溶接界面における、鋼材側とアルミニウム合金材側の、各生成化合物の組成や厚さ、面積などを各々細かく規定して、接合強度を向上させることが提案されている。
これら特許文献2〜6は、共通して、特に6000系アルミニウム合金材と高強度鋼板との異材接合体のスポット溶接を意図し、適用条件などの制約が少なく汎用性に優れ、接合部での脆弱な金属間化合物生成を抑制して、接合強度を向上させることを目的としている。ただ、これら特許文献2〜6は、未だ接合強度などの向上の点で、改良の余地がある。
これに対して、特許文献7〜9では、特定組成の高強度鋼板において、鋼板表面上の既存の酸化物層を一旦除去した上で新たに生成させた外部酸化物層を、特定割合のMn、Si組成の酸化物とし、更に、この鋼材の鋼生地表面からの深さが10μm以下の鋼領域に存在する、Mn、Siを合計量で1at%以上含む内部酸化物の占める割合を規定して、適切なスポット溶接条件下において、異材接合体の高い接合強度を得ることが提案されている。
これらの新たな外部酸化物層を形成させる技術では、新たに生成させたSi、Mnなどを含む外部酸化物層と、鋼生地表面直下の内部酸化物層とによって、スポット溶接時のFe、Alの拡散を抑えて、接合界面における、Al−Fe系の脆い金属間化合物層の過剰生成を抑制する点で有効である。また、この異材接合体の十字引張試験片により測定された剥離強度として、2kN以上の接合強度を得るためにも有効である。
特開2002−294487号公報 特開2007−144473号公報 特開2007−283313号公報 特開2006−167801号公報 特開2006−289452号公報 特開2007−260777号公報 特開2006−336070号公報 特開2009−299138号公報 特開2009−299139号公報
ただ、前記新たな外部酸化物層を形成する技術では、この外部酸化物層の形成のために、それまでの外部酸化物層を一旦除去する新たな酸洗処理や、新たな外部酸化物層を形成するための加熱、焼鈍処理が必要となる。このため、焼鈍により鋼材の強度が低下するなど、鋼材側の性質(特性)への影響が避けがたく、また、新たな外部酸化物層を形成するための工程の付加が、鋼材の製造コストを上昇させる問題もある。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、鋼材側を改善することなく、スポット溶接の側を改善して、高い接合強度を有する接合部を得ることのできる、異材接合方法を提供することにある。
この目的を達成するための本発明の要旨は、鋼材と6000系アルミニウム合金材とをスポット溶接にて異材接合する方法であって、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:15〜25kA、通電時間20〜80msecの条件にて前記スポット溶接を行って、接合界面における反応層のナゲット深さ方向 の平均厚さが0.1〜20μmであるナゲットを一旦形成した上で、更に、この形成されたナゲットに対して、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:4〜10kA、通電時間100〜500msecの条件にて後通電を行うことである。
本発明者らは、鋼材のアルミニウム合金材との異材接合の際に、スポット溶接によって形成されたナゲットを、更に焼きなまして(焼鈍して)、硬さを低下させれば、異材接合継手としての接合強度を向上させることができるのではと考えた。
このため、先ず、本通電の(第一段の)スポット溶接を行ってナゲットを一旦形成した上で、更に、この形成されたナゲットに対して、特定の条件にて、後通電も称せられる第二段のスポット溶接を行ったところ、異材接合継手の接合強度を向上させることができた。
前記本通電のスポット溶接を行って形成されたナゲットは、溶接加熱後の速い熱伝達(熱拡散)によって、急冷され、非常に硬くなっている。このため、平面視で円形のナゲットの形状の不規則さや不定形さによっては、このナゲットに荷重が付加された場合に、その不規則あるいは不定形な形状部分から脆性的破壊をもたらしやすい、異材接合継手の接合強度が低下しやすいという危険もある。
これに対して、特定の条件にて、前記後通電(第二段のスポット溶接)を行って、形成されたナゲットを焼きなましすれば、このナゲットの延性が増して、このナゲットに荷重が付加された場合に、その不規則あるいは不定形な形状部分でも塑性変形しやすくなる。また、このナゲットの硬さが異材接合継手の接合強度を支配するものではない。したがって、結果的に異材接合継手の接合強度を向上させることができるものと推考される。
本発明によれば、鋼材側を改善することなく、スポット溶接側の後通電の付加(採用)のみによる最小の改善で、高い接合強度を有する接合部を得ることができる。したがって、鋼材側の性質(特性)への影響が無く、鋼材の製造コストを上昇させずに、スポット溶接による高い接合強度を有する接合部を得ることのできる。
(スポット溶接条件)
本発明における、ナゲット形成のための、本通電(第一段の)スポット溶接条件は、鋼材とアルミニウム合金材との、異材接合継手の高い接合強度を得るために設定する。すなわち、スポット溶接において、鋼材側が溶解せずにアルミニウム合金材側のみが溶解するような溶接条件とし、かつ、冶金的接合に必要最小限の厚さのFeとAlの反応層を接合部に適切に形成させるために設定されたものである。
このための、スポット溶接の溶接箇所毎の必要な条件としては、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:15〜25kA、通電時間20〜80msecの条件にて前記スポット溶接する。これらの条件を外れた場合、後述する実施例の通り、スポット溶接が不適切であり、高い接合強度が得られない。なお、フラックスの使用は不要であるが、必要により用いても良い。このような本発明条件のスポット溶接には汎用のスポット溶接装置が使用できる。
ここで、前記冶金的接合に必要かつ最小限のFeとAlの反応層の厚さの目安は、接合界面における反応層のナゲット深さ方向 (鋼材の板厚方向) の平均厚さとして、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは1〜20μmの範囲に制御する。本発明では、後述する後通電により、ナゲットの延性が増すために、接合界面における反応層のナゲット深さ方向の平均厚さが比較的大きくなっても接合強度が得られる、という効果も有する。
鋼材とアルミニウム合金材との溶接接合界面では、反応層として、鋼材側には層状のAl5Fe2系化合物層、アルミニウム材側には粒状または針状のAl3Fe 系化合物とAl19Fe4Si2Mn系化合物とが混在した層を各々有する。これらの脆い反応層のナゲット深さ方向の平均厚さが厚すぎると接合強度は著しく低下する。一方、反応層のナゲット深さ方向の平均厚さが薄すぎると、冶金的接合が不充分となり、十分な接合強度が得られない。したがって、FeとAlの反応層の厚さは、前記した平均厚さの範囲にすることが好ましい。
前記した電極間加圧力、電極間電流、通電時間などのスポット溶接条件を外れた場合、スポット溶接が不適切であり、これらの冶金的接合に必要最小限の厚さのFeとAlの反応層を接合部に適切に形成させることができずに、高い接合強度が得られない。
例えば、前記電極間加圧力が低すぎると、鋼材とアルミニウム合金材との接触点が少ないため、スポット溶接時の界面反応が不均一になり、上記反応層が得られない。一方、前記電極間加圧力が高すぎると、スポット溶接時に溶解部がナゲットから飛散するため、接合強度が不足する。
前記溶接電流が低すぎたり、溶接時間が短すぎたりしても、スポット溶接時の界面反応が不足して、ナゲットが十分に形成されたとしても、上記反応層とはできないため、やはり接合強度が不足する。
一方、前記溶接電流が高すぎたり、長すぎたりする大電流、長時間のスポット溶接では、界面反応が進みすぎて、却って上記反応層とはできないため、接合強度が不足する。
(後通電条件)
本発明における後通電(第二段のスポット溶接)は、前記本通電でのスポット溶接によって形成されたナゲットを焼きなますためである。すなわち、本発明における後通電は、前記本通電条件でのスポット溶接によって規定される、特定の形成ナゲットの硬度を低下させて、延性を高め、荷重付加の際の塑性変形能を高めるためであって、ナゲットの形成が目的ではない。
このため、本通電のスポット溶接条件よりも緩やかな条件で、本通電のスポット溶接で形成されたナゲットに対して、そのまま本通電のスポット溶接での電極を、鋼材やアルミニウム合金材に対して設置(セット)した状態、あるいは再設置(セット)し直した状態で行う。
但し、本発明における後通電は、通常、高張力鋼板(ハイテン)同士のスポット溶接の際などに用いられる後通電とは異なる。すなわち、通常の後通電は、溶接継手の疲労強度を向上させるために行うものであって、本通電条件でのスポット溶接後の溶接部の冷却(凝固)速度を緩和して、凝固過程での割れの発生を防止しながら、ナゲットを形成させるものである(例えば特開2003−103377号公報など参照)。このため、高張力鋼板同士のスポット溶接の際などに用いられる後通電は、本通電時の溶接部が冷却凝固される前(ナゲット形成前)に後通電するものであり、本発明における後通電とは、その施されるタイミングが大きく異なる。
これに対して、本発明における後通電は、本通電条件でのスポット溶接によって一旦形成されたナゲットに対して行われるものであり、後通電されるナゲットは、既に本通電後に急冷凝固したナゲットが対象となる。アルミニウム合金材の伝熱速度は速く、鋼材とアルミニウム合金材の異材同士のスポット溶接では、本通電後、溶接部は瞬時に急冷凝固され、ナゲットが形成される。この一旦形成されたナゲットに対して本発明における後通電は行われ、一旦急冷凝固によって形成されたナゲットを再加熱する。
前記した本通電後のナゲット形成の速さからして、本通電後に後通電を開始するタイミングは、溶接工程の効率からも、あまり時間差を取る必要はなく、本通電のスポット溶接終了後、時間差なく、直ちに行えば良い。とはいえ、機械的な問題からは1秒〜5秒程度の時間差が必要な場合がある。
この後通電条件は、前記本通電のスポット溶接条件よりも緩やかな条件として、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:4〜10kA、通電時間100〜500msecの範囲とする。
スポット溶接を行って形成されたナゲットは、本通電における加熱後の速い熱伝達(熱拡散)によって、急冷され、非常に硬くなっている。しかし、平面視で円形のナゲットの形状には、どうしても不規則さや不定形さが存在する。このため、このナゲット形状の不規則さや不定形さによっては、自動車の車体構造材としての使用時や車体衝突時に、このナゲットに比較的大きな荷重が付加された場合に、その不規則あるいは不定形な形状部分から、脆性的な破壊をもたらしやすい。
これに対して、特定の条件にて、後通電を行って、形成されたナゲットを焼きなましすれば、このナゲットの延性が増して、このナゲットに前記荷重が付加された場合に、その不規則あるいは不定形な形状部分でも塑性変形しやすくなる。また、このナゲットの硬さは、異材接合継手の接合強度に影響するものの、接合強度を支配するものではない。このため、このナゲットの硬さを、接合強度に影響しない程度に低下させれば、結果的に異材接合継手の接合強度を向上させることができるものと推考される。
前記した電極間加圧力、電極間電流、通電時間などのスポット溶接条件が下限に外れた場合、後通電が不足し、形成されたナゲットを焼きなますことができない。また、前記スポット溶接条件が上限に外れた場合、形成されたナゲットの硬度が低下しすぎて、接合強度を低下させる。また、界面反応が進みすぎて上記反応層とはできないか、溶解部がナゲットから飛散するため、接合強度を低下させることも生じる。
本発明によれば、溶接素材である鋼材側やアルミニウム合金材側を予め改善することなく、スポット溶接側の後通電の付加(採用)のみによる最小の改善で、高い接合強度を有する接合部を得ることができる。したがって、鋼材側の性質(特性)への影響が無く、鋼材の製造コストを上昇させずに、スポット溶接による高い接合強度を有する接合部を得ることができる。
(鋼材の化学成分組成)
本発明が対象とする鋼材の成分組成について以下に説明する。本発明では、好ましくは、Si、Mnなどを含む引張強度が450MPa以上の高強度鋼材(ハイテン)を主たる対象とする。
このため、鋼材の成分組成については、好ましくは、Si、Mnなどを所定量含むことを前提に、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.1〜3.00%、Mn:0.1〜3.00%を各々含有し、好ましくは残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成とする。また、これに加えて、更に、Al:0.002〜0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成としても良い。また、更に、このAlに加えて、あるいはAlの代わりに、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.005〜0.10%、Zr:0.005〜0.10%、Cr:0.05〜3.00%、Mo:0.01〜3.00%、Cu:0.01〜3.00%、Ni:0.01〜3.00%、の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成としても良い。
ここで、鋼材の不純物としてのP、S、Nなどは、鋼材の靱性や延性、あるいは接合強度などの諸特性を低下させるので、P:0.10%以下(0%を含む)、S:0.05%以下(0%を含む)、N:300ppm以下(0%を含む)に、各々規制する。なお、本発明における化学成分の単位(各元素の含有量)は、アルミニウム合金を含めて、すべて質量%である。鋼材の各成分元素の限定理由は以下の通りである。
C:
Cは強度上昇に必要な元素であるが、含有量が0.01%未満では鋼材の強度確保ができず、また0.30%を超えると冷間加工性が低下する。したがって、C含有量は0.01〜0.30%の範囲とする。
Si:
Siは、鋼材の延性を劣化させずに、必要な強度確保が可能な元素としても重要であり、そのためには0.1%以上の含有量が必要である。一方、3.00%を超えて含有すると延性が劣化してくる。したがって、Si含有量は、この理由からも0.1〜3.00%の範囲とする。
Mn:
Mnも、鋼材の強度と靱性を確保するための元素としても必要不可欠で、含有量が0.1%未満ではその効果は得られない。一方、含有量が3.00%を超えると著しく強度が上昇し冷間加工が困難となる。したがって、Mn含有量は、この理由からも0.1〜3.00%の範囲とする。
Al:
Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉するとともに、ブローホールの発生を防止して、鋼の靭性向上の為にも有効な元素である。Al含有量が0.002%未満ではこれらの十分な効果が得られず、一方で、0.1%を超えると、逆に溶接性を劣化させたり、アルミナ系介在物の増加により鋼の靭性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.002〜0.1%の範囲とする。
Nb、Ti、Zr、Cr、Mo、Cu、Niの1種または2種以上:
Nb、Ti、Zr、Cr、Mo、Cu、Niの1種または2種以上の含有は、共通して、鋼の高強度化や高靭性化に寄与する。この内、Ti、Nb、Zrは、鋼中に炭窒化物として析出して強度を高め、鋼のミクロ組織を微細化して強度、靭性等を向上させる。但し、多量に含有させると、靭性を大幅に劣化させる。したがって、これらを選択的に含有させる場合は、Nb:0.005〜0.10%、Ti:0.005〜0.10%、Zr:0.005〜0.10%の各範囲とする。
また、この内、Cr、Mo、Cu、Niは鋼の焼き入れ性を向上させて、強度を向上させる。但し、多量に含有させると、鋼の靭性を大幅に劣化させる。したがって、含有させる場合は、Cr:0.05〜3.00%、Mo:0.01〜3.00%、Cu:0.01〜3.00%、Ni:0.01〜3.00%の範囲とする。
(鋼材の強度)
本発明においては、自動車部材などの用途から、引張強度が450MPa以上の高強度鋼材(ハイテン)を主たる対象とする。これより低強度鋼では、一般に低合金鋼が多く、酸化皮膜がほぼ鉄酸化物であるため、FeとAlの拡散が容易となり、脆い反応層が形成しやすい。また、鋼材の強度が不足するために、スポット溶接時の電極チップによる加圧によって、鋼材の変形が大きくなり、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が異常に促進され、脆い金属間化合物が形成しやすくなる。
(アルミニウム合金材)
本発明で用いるアルミニウム合金材は、Al−Mg−Si系のAA乃至JIS規格における6000系アルミニウム合金材とする。この合金材は、自動車車体の各部用途に応じて、形状を特に限定するものではなく、前記した、汎用されている板材、形材、鍛造材、鋳造材などが適宜選択される。ただ、アルミニウム材の強度についても、上記鋼材の場合と同様に、スポット溶接時の加圧による変形を抑えるために高い方が望ましい。
自動車車体パネル用などとしては、優れたプレス成形性やBH性(ベークハード性)、強度、溶接性、耐食性などの諸特性が要求される。このような要求を満足するために、6000系アルミニウム合金板としての組成は、質量%で、Mg:0.1〜3.0%、Si:0.1〜2.5%、Cu:0.001〜1.0%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなる6000系アルミニウム合金とすることが好ましい。また、BH性をより優れさせるためには、SiとMgとの質量比Si/ Mgが1 以上であるような過剰Si型の6000系アルミニウム合金板とされることが好ましい。
また、前記自動車車体補強材用の押出材などとしては、優れた曲げ圧壊性や耐食性などの諸特性が要求される。このような要求を満足するために、6000系アルミニウム合金押出材の組成は、質量%で、Mg:0.30〜1.0%、Si:0.30〜0.95%、Fe:0.01〜0.40%、Cu:0.001〜0.65%を各々含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg−Si系アルミニウム合金とすることが好ましい。更に、前記した各好ましい組成に加えて、Cr:0.001〜0.2%、Zr:0.001〜0.2%の一種または二種を合計量で0.30%以下、あるいはZn:0.001〜0.25%、Ti:0.001〜0.10%の一種または二種を選択的に含ませても良い。
また、6000系アルミニウム合金材に、鋼材表面上に存在する外部酸化物層を還元、破壊する機能を有する元素としてLiを、上記成分組成に加えて、0.01〜0.5%の範囲で予め含有させても良い。
これ以外のその他の元素は、基本的には不純物であり、AA乃至JIS規格などに沿った各不純物レベルの含有量 (許容量) とする。しかし、リサイクルの観点から、溶解材として、高純度Al地金だけではなく、6000系合金やその他のアルミニウム合金スクラップ材、低純度Al地金などを溶解原料として多量に使用した場合には、不純物元素が混入される可能性が高い。そして、これら不純物元素を例えば検出限界以下に低減すること自体コストアップとなり、ある程度の含有の許容が必要となる。したがって、その他の元素は、各々AA乃至JIS規格などに沿った許容量の範囲での含有を許容する。
上記6000系アルミニウム合金における、各元素の含有意義は以下の通りである。
Si:
SiはMgとともに、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記低温での人工時効処理時に、強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、例えば180MPa以上の必要強度(耐力)を得るための必須の元素である。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎるとプレス成形性や曲げ加工性等の成形性が著しく低下し、更に溶接性も大きく阻害される。
Mg:
Mgも、固溶強化と、塗装焼き付け処理などの前記人工時効処理時に、Siとともに強度向上に寄与する時効析出物を形成して、時効硬化能を発揮し、パネルとして、前記必要耐力を得るための必須の元素である。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎるとプレス成形性や曲げ加工性等の成形性が著しく低下する。
Cu:
Cuは、比較的低温短時間の人工時効処理の条件で、アルミニウム合金材組織の結晶粒内への強度向上に寄与する時効析出物の形成を促進させる効果がある。また、固溶したCuは成形性を向上させる効果もある。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎると耐食性や溶接性を著しく劣化させる。
Fe:
Feは、Mn、Cr、Zrなどと同じ働きをして、分散粒子 (分散相) を生成し、再結晶後の粒界移動を妨げ、結晶粒の粗大化を防止するとともに、結晶粒を微細化させる効果がある。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎると粗大な晶出物を生成しやすくなり、破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。
Zn:
Znは固溶強化にて強度の向上に寄与する他、時効処理に際して、最終製品の時効硬化を著しく促進する効果も有する。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎると、応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、耐食性や耐久性を低下させる。
Ti:
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出材組織を微細な結晶粒とする効果がある。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎると、粗大な晶析出物を形成し、補強材としての前記曲げ圧壊性や耐食性などの要求特性や、押出材の曲げ加工性などを低下させる原因となる。
Cr、Zr:
Cr、Zrの遷移元素は、Mnと同じく、Al−Cr系、Al−Zr系などの金属間化合物からなる分散粒子 (分散相) を生成して、結晶粒の粗大化を防止するために有効である。含有量が不足するとこのような効果が得られず、含有量が多すぎると、粗大な晶析出物を形成し、含有量が多すぎると、補強材としての前記曲げ圧壊性や耐食性などの要求特性や、機械的性質を低下させる。また曲げ加工性などの成形性が低下する。
(鋼材やアルミニウム合金材の厚さ)
鋼材やアルミニウム合金材の溶接される部分の厚さ(板厚など)は、特に限定されず、自動車部材などの適用部材の必要強度や剛性などの設計条件から適宜選択乃至決定される。
但し、自動車部材などを想定すると、実用的には鋼材の(溶接される部分の)厚さtは0.3〜3.0mmから選択される。鋼材の厚さが薄すぎる場合、自動車部材としての必要な強度や剛性を確保できず不適正である。また、それに加えて、例えば、スポット溶接による場合には、その電極チップによる加圧によって、鋼材の変形が大きく、酸化皮膜が容易に破壊されるため、アルミニウムとの反応が促進される。その結果、脆い金属間化合物が形成しやすくなる。一方、鋼材の厚さが厚すぎる場合、スポット溶接接合自体が難しくなる。
また、アルミニウム合金材の(溶接される部分の)厚さtは、同様に自動車部材などを想定すると、0.3〜5.0mmの範囲から選択される。アルミニウム合金材の厚さが薄すぎる場合、自動車部材としての強度が不足して不適切であるのに加え、ナゲット径が得られず、アルミニウム材料表面まで溶融が達しやすくチリができやすいため、高い接合強度が得られない可能性がある。一方、アルミニウム合金材の厚さが厚すぎる場合、前記した鋼材の板厚の場合と同様に、溶接接合自体が難しくなる。
以下、実施例として、表1に示す各成分組成の、板厚が1.2mmである980MPa級ハイテン鋼板と、表2に示す各成分組成の、板厚が1.0mmで0.2%耐力が250MPaの6000系アルミニウム合金板とを重ね合わせ、フラックスを用いずにスポット溶接して、溶接継手(異材接合継手)を製作し、組織や性能を調査、評価した。
この鋼板と、表2に示す成分組成のアルミニウム合金板とを、JIS A3137記載の十字引張試験片形状に加工して重ね合わせ、表3に示すa〜nの各条件で本通電のスポット溶接を行い、ナゲットを形成して、異材接合した。ここで、後述する表4に示す剥離強度から評価される通り、表3に示すg〜kは適切なスポット溶接条件であり、a〜f、l〜nは、加圧力、溶接電流、溶接時間のいずれかが適切な範囲から外れる不適切なスポット溶接条件である。
鋼板とアルミニウム合金板とは、共に前記十字引張試験片形状(50mm幅×150mm長さの大きさ)に加工し、互いに重ね合わせた上で、重ね合わせた中央部を幅方向にスポット溶接した。スポット溶接は、共通して、単層整流式抵抗スポット溶接機(容量90KVA)を用い、表3に示す加圧力、溶接電流、溶接時間の各1点当たりの条件にて、10点のスポット溶接を行った。この際、共通して、Cu−Cr合金からなるドーム型の電極を用い、正極をアルミニウム材、負極を鋼材とした。
次いで、この電極をそのまま形成ナゲットにセットした状態で、前記本通電のスポット溶接後、共通して1秒の間(時間差)をおいて、表4に示すスポット溶接条件にて、後通電を、形成ナゲットに対して行った。
(界面反応層の厚さ)
このようにして製作した各異材接合継手の、接合界面における前記反応層のナゲット深さ方向 (鋼材の板厚方向) の平均厚さを測定した。これらの結果も表4に示す。この反応層の平均厚さの測定は、各スポット溶接部の中央にて板厚方向に切断し、樹脂に埋め込んで研磨をし、スポット溶接部全体に渡り0.5mm間隔でのSEM(反射電子像)による観察を行った。前記反応層の厚さが1μm以上の場合は3000倍の視野にて、1μm未満の場合は10000倍の視野にて測定し、各スポット溶接部ごとに平均値を求め、これらを前記10箇所のスポット溶接部で平均化した値を前記反応層の平均厚さとした。
これら製作した各継手を引張り試験機で十字引張試験を行い、剥離強度(最大荷重)を求めた。これらの結果も表5に示す。剥離強度は、A6022アルミニウム合金板同士のスポット溶接接合強度=1.0kNを参考にして、2.0kN以上であれば○、2.0kN未満であれば×とした。
表4から明らかな通り、発明例の異材接合継手は、適切な条件にて、本通電や後通電のスポット溶接がなされている。この結果、発明例の異材接合継手は、通常の鋼板(ハイテン)であっても、形成された界面反応層が、ナゲット深さ方向 (鋼材の板厚方向) の平均厚さとして0.3〜18.2μmの範囲であり、優れた接合強度(剥離強度)を有する。
一方、表4から明らかな通り、比較例の異材接合継手は、本通電や後通電の条件が不適切である。この結果、通常の鋼板(ハイテン)では、形成された界面反応層が前記最適範囲から外れ、異材接合継手は接合強度(剥離強度)が発明例に比して著しく劣っている。
したがって、これらの事実から、異材接合継手の接合強度に対する、本発明のスポット溶接条件の臨界的な意義が裏付けられる。
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本発明によれば、通常の鋼板(ハイテン)であっても、スポット溶接による高い接合強度を有する接合部を得ることのできる、異材接合方法を提供できる。このような異材接合方法は、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等における各種構造部材およびその溶接方法として有用に適用できる。

Claims (1)

  1. 鋼材と6000系アルミニウム合金材とをスポット溶接にて異材接合する方法であって、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:15〜25kA、通電時間20〜80msecの条件にて前記スポット溶接を行って、接合界面における反応層のナゲット深さ方向の平均厚さが0.1〜20μmであるナゲットを一旦形成した上で、更に、この形成されたナゲットに対して、電極間加圧力:2.5〜4.5kN、電極間電流:4〜10kA、通電時間100〜500msecの条件にて後通電を行うことを特徴とする異材接合方法。
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