JP5513844B2 - タンパク質の翻訳後修飾の検出・定量用プローブ - Google Patents

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Description

本発明は、タンパク質の翻訳後修飾を検出しまた定量するためのプローブに関するものである。より詳細には、本発明は、タンパク質の生体内での翻訳後修飾の有無、並びに翻訳後修飾の程度を測定しまた定量するのに有効なプローブに関する。また本発明は、かかるプローブを用いて、タンパク質の生体内での翻訳後修飾の有無やその程度を測定しまた定量する方法に関する。さらに本発明は、かかるプローブを用いて、タンパク質の生体内での翻訳後修飾に正又は負の影響を与える物質を探索する方法に関する。
生きた細胞中や体内における生体分子の挙動を目で視覚的に見えるようにする技術開発分野のことを「分子イメージング」という。この分子イメージングにおいては、特定の生体イオンや生体分子を捕まえて光を発生する、いわゆるプローブと呼ばれる分子が極めて重要な役割を果たしている。例えば、カルシウムを可視化計測できるFura-2は、1985年に米国のRoger Y. Tsien博士により開発された合成有機蛍光プローブである(非特許文献1)。Fura-2は、カルシウム濃度振動やカルシウム波などに代表されるように、それまでは未知であった生きた細胞内におけるカルシウムの動態を可視化して、我々の生命に対する理解を一変させた。それと同時に、数十万個ないしは数百万個の細胞をすりつぶして生体イオンや脂質、タンパク質などの構成成分を抽出し、それを電気泳動あるいはラジオアイソトープを用いた方法等で分析する、いわゆる従来の破壊分析法だけでは「生命」は理解できない、ということを我々に実感させるに至った。
また、近年では、細胞の生理機能や疾患を理解するうえで重要な細胞内の分子過程を、可視化計測するための蛍光プローブが遺伝子工学的手法により開発されている。例えば、様々なタンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)により生起するタンパク質リン酸化(非特許文献2−5、特許文献1)、種々のセカンドメッセンジャー(非特許文献6−10、特許文献2)、または細胞内のRNA(非特許文献11)などの動態を、可視化計測するための蛍光プローブが開発され、生細胞中での分子イメージングの強力なツールになることが報告されている。
このように、生細胞内で生起する分子過程のイメージング(分子イメージング)に関する研究成果が急速に蓄積する一方で、マウスを中心とした動物個体での分子イメージングのニーズが基礎生命科学・医学研究のみならず、薬物候補物質の評価等、創薬研究においても急増している。しかしながら、生体組織による励起光の透過不良や自家蛍光等の問題が原因で、上述の蛍光プローブを生体の分子イメージングにそのまま用いることができないのが現状である。
そこで、ルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質を用いた生体イメージングが近年注目され始めている。たとえば、非特許文献12では、ホタル由来のルシフェラーゼを発現させた各種ガン細胞をマウスに移植し、そのマウスからのルシフェラーゼに起因する生物発光を指標とすることで、移植したガン細胞の転移または増殖が可視化観察できることが報告されている。また、非特許文献13では、病原菌のマウス体内での感染が上記生物発光を指標とすることで可視化観察できることが報告されている。
このように、ガン細胞の転移や病原菌の感染において、分子イメージングを用いて細胞レベルで可視化することは応用段階にあるものの、生体内でのタンパク質の翻訳後修飾(リン酸化、糖鎖付加、アセチル化、ヒドロキシル化、アミド化、プレニル化等)など、生体内で生起する特定の「分子」過程について分子イメージングにより観察することを可能とする測定法は未だ開発されていない。
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特許第3888974号公報(WO2002/077623) 特許第3878922号公報(特開2004-325253号公報)
本発明は、上記の従来技術における実情に鑑みてなされたものであり、生細胞または動物や植物等の生体内におけるタンパク質の翻訳後の修飾、特にリン酸化を非破壊的に検出または定量するために有用なツールとして、タンパク質の翻訳後修飾検出・定量用プローブを提供することを目的とする。
また本発明は、かかるプローブを用いて、生細胞または動物や植物等の生体内におけるタンパク質の翻訳後の修飾、特にリン酸化を非破壊的に検出または定量する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、タンパク質の生体内での翻訳後修飾、特にリン酸化に影響を与える物質を取得するために有用なスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねていたところ、後述するアミノ酸配列を有するプローブが、上記目的を達成するためのタンパク質の翻訳後修飾検出・定量用プローブとして有用であること、特に生細胞または動物や植物の生体内におけるタンパク質のリン酸化を検出または定量するためのプローブとして有用であることを見出した。また、当該プローブを導入して調製される細胞や非ヒト動物(トランスジェニック動物)は、タンパク質の翻訳後修飾を検出し、定量するうえで有用であるだけでなく、当該翻訳後修飾に正または負の影響を与える物質をスクリーニングするための材料としても有用であることを確認した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を有するものである:
(I)タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量するためのプローブ
(I-1)N末端側から順に下記(1)〜(5)に示すアミノ酸配列を有するプローブ:
(1)キャップタンパク質のアミノ酸配列
(2)N端側にユビキチンリガーゼ認識配列を連結した、修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列、
(3)ユビキチン化されうるリンカー配列
(4)修飾認識配列、および
(5)発色性タンパク質のアミノ酸配列。
(I-2)C末端側に、さらに(6)局在性配列を有することを特徴とする、(I-1)に記載するプローブ。
(II)プローブをコードするポリヌクレオチド
(I-1)または(I-2)に記載するプローブをコードするポリヌクレオチド。
(III)翻訳後修飾を検出または定量するための試薬または試薬キット
(I-1)または(I-2)に記載するプローブまたは(II)に記載するポリヌクレオチドを含む、タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量するための試薬または試薬キット。
(IV)非ヒト動物またはその子孫
(II)に記載するポリヌクレオチドを導入して調製される、(I-1)または(I-2)に記載するプローブを発現する非ヒト動物またはその子孫。
(V)翻訳後修飾を検出または定量する方法
(V-1)(I-1)または(I-2)に記載するプローブを発現する細胞を用いて、当該プローブに起因する発色を測定することを特徴とする、タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量する方法。
(V-2)上記プローブを発現する細胞が、(II)に記載するポリヌクレオチドを細胞内に導入することによって調製されるものである、(V-1)に記載する方法。
(VI) スクリーニング方法
(VI-1)被験物質の存在下で、(I-1)または(I-2)に記載するプローブに起因する発色を測定する工程を有する、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法。
(VI-2)被験物質を、(I-1)または(I-2)に記載するプローブを発現しえる細胞、または(IV)記載の非ヒト動物またはその子孫に導入し、当該プローブに起因する発色を測定する工程を有する、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法。
本発明の翻訳後修飾検出・定量用プローブによれば、前述するように、生細胞または動物や植物等の生体内におけるタンパク質の翻訳後の修飾、特にリン酸化を非破壊的に検出または定量することができる。また、当該プローブをコードするヌクレオチドを用いて当該プローブを発現するように作製したトランスジェニック動物によれば、生体内、特に対象とする生体組織や器官におけるタンパク質の修飾、特にリン酸化を経時的に検出しモニタリングすることができる。
また本発明の翻訳後修飾検出・定量用プローブによれば、生細胞または動物や植物等の生体内におけるタンパク質の翻訳後の修飾、特にリン酸化を制御する物質をハイスループットスクリーニングし、取得することが可能になる。
本発明のプローブを用いたタンパク質の翻訳後修飾による可視化の原理を示す模式図である。 実施例1で設計・作製した、インスリン受容体(IR)によるリン酸化を検出または定量するためのプローブ(IR-Lucus、UbG76V-IR-Lucus、IR-Lucus-Ala)の構造を示す模式図である。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」を、プロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理(+)または未処理(−)した後、抗V5抗体でウェスタンブロッティングを行った結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:MG-132で処理(+)または未処理(−)の「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」の可溶化液について、まず抗V5抗体で免疫沈降を行い、次いで抗ユビキチン(Ub)抗体でウェスタンブロッティングを行った結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:プローブ(IR-Lucus)およびプローブ(UbG76VIR-Lucus)をそれぞれ抗V5抗体でウェスタンブロッティングを行った結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」を、インスリン刺激の前後で可溶化し、抗リン酸化チロシン抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、それぞれプロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理(+)した後、インスリン刺激の前(-)と後(+)で可溶化し、抗V5抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、それぞれインスリンで刺激し、次いでルシフェリンを加えてルシフェラーゼに起因する発光強度を測定した結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:上記においてインスリンの濃度を0〜200nMと変えて測定した結果を示す。 実施例3で行ったプローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーションの結果を示す。:「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、タンパク質合成阻害剤(cycloheximide)で処理した上で、インスリンによる刺激を行い、次いでルシフェリンを加えてルシフェラーゼに起因する発光強度を測定した結果を示す。 (a)実施例5において、ルシフェリンを当該マウスの腹腔内に注射して、超高感度カメラを設置した暗箱でプローブからのルシフェラーゼの生物発光を可視化計測した結果を示す。(b)(a)で測定したそれぞれの生物発光シグナル(蛍光シグナル)を可視化計測して定量解析した結果を示す。 実施例6で設計・作成した、セリン・スレオニンキナーゼ(Akt)によるリン酸化を検出または定量するためのプローブ(Akt-Lucus)の構造を示す模式図を示す。 プローブ(Akt-Lucus)をCHO細胞で発現させた際の細胞膜における発現状況を示す図である。 プローブ(Akt-Lucus)をCHO細胞で発現させた際のミトコンドリア外膜における発現状況を示す図である。 プローブ(Akt-Lucus)をCHO細胞で発現させた際の細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)における発現状況を示す図である。 プローブ(Akt-Lucus)をCHO細胞で発現させた際の核における発現状況を示す図である。 プローブ(Akt-Lucus)をCHO細胞で発現させた際の細胞質における発現状況を示す図である。 プローブ(Akt-Lucus)を発現する細胞を、上皮成長因子(EGF)で刺激してプローブの基質配列(Akt)を活性化させて各細胞の生物発光(ルシフェラーゼ)を測定した結果を示す。 実施例9で樹立した、CHO-IR細胞にIR-Lucusを安定に発現する細胞(IR-IRLucus安定発現細胞株)を用いて、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質を探索するハイスループットスクリーニングに対するプローブ(IR-Lucus)の有効性を確認した結果を示す。a: 384 well Cell-Culture Microplateに播種した「IR-IRLucus安定発現細胞株」を、0〜2,000nMのインスリンで刺激し、次いでルシフェリンを加えてルシフェラーゼに起因する発光強度を測定し、S/B(Signal/Background)比に換算した結果を示す。b:上記において、「IR-IRLucus安定発現細胞株」を1,536 well Cell-Culture Microplateに播種し測定を行った結果を示す。 a: 384 well Cell-Culture Microplateに播種した「IR-IRLucus安定発現細胞株」を、購入先が異なる3種類のインスリンで刺激し、次いでルシフェリンを加えてルシフェラーゼに起因する発光強度を測定し、S/B(Signal/Background)比に換算した結果を示す。b:上記において、測定した発光強度からZ’ factorを算出した結果を示す。 a: 384 well Cell-Culture Microplateに播種した「IR-IRLucus安定発現細胞株」を、プロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理した後、インスリン未刺激の状態でルシフェリンを加えてルシフェラーゼに起因する発光強度を測定した結果を示す。b: 384 well Cell-Culture Microplateに播種した「IR-IRLucus安定発現細胞株」を、インスリン受容体(IR)キナーゼ阻害剤(AG 1024)で処理することで、インスリン刺激依存的な生物発光シグナルが減弱する割合を阻害率(% of inhibition)で算出した結果を示す。 「IR-IRLucus安定発現細胞株」を20枚の384 well Cell-Culture Microplateに播種し、インスリン刺激依存的な生物発光シグナルのEC50(50% effective concentration)値を各プレートについて算出した結果を示す。
(I)タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量するためのプローブ
本発明のタンパク質の翻訳後修飾を検出または定量するためのプローブ(本明細書では、単に「プローブ」または「翻訳後修飾検出・定量用プローブ」ともいう)は、少なくとも「(1)キャップタンパク質のアミノ酸配列」(以下、単に「(1)キャップ配列」ともいう)、「(2)N端側にユビキチンリガーゼ認識配列を連結した、修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列」(以下、単に「(2)配列」ともいう。またこの配列のうち、「ユビキチンリガーゼ認識配列」を「UbL認識配列」と、また「修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列」を「基質配列」ともいう)、「(3)ユビキチン化されうるリンカー配列」(以下、単に「(3)リンカー配列」ともいう)、「(4)修飾認識配列」、および「(5)発色性タンパク質のアミノ酸配列」(以下、単に「(5)発色配列」ともいう)の5つのドメインを有するものである。
当該プローブは、生体または細胞内におけるタンパク質の翻訳後修飾を可視化し、当該修飾を検出・定量するために有効に使用することができる。
タンパク質の翻訳後修飾(本明細書では、単に「修飾」ともいう)とは、タンパク質の生合成において翻訳されたタンパク質が化学修飾を受けることをいう。翻訳後修飾は大きく、官能基付加、タンパク質またはペプチドの付加(ISG化、SUMO化、ユビキチン化)、アミノ酸の化学的性質の変換(シトリル化または脱アミン、脱アミド)、および構造変換(ジスルフィド化、プロテアーゼ分解)に分類することができる。本発明で対象とする翻訳後修飾は、好ましくはアミノ酸残基に対するペプチド付加または官能基付加である。かかる修飾として具体的には、リン酸化(セリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン酸など)、グルコシル化(セリン、スレオニン、アスパラギン酸など)、アシル化(リシン)、アセチル化(リシン)、ヒドロキシル化(リシン、プロリン)、プレニル化(システイン)、パルミトイル化(システイン)、アルキル化(リシン、アルギニン)、ポリグルタミル化(グルタミン酸)、カルボキシル化(グルタミン酸)、ポリグリシル化(グルタミン酸)、シトルリン化(アルギニン)、スクシンイミド形成(アスパラギン酸)等を挙げることができる。好ましくは、リシン以外のアミノ酸残基に対するペプチド付加または官能基付加であり、特に好ましくはリン酸化を挙げることができる。
図1に、本発明のプローブの構成と修飾による可視化の原理を示す概略模式図を示す。図1中、上のルート(ルート1)は、プローブの「基質配列」が修飾を受けない場合のプローブの生体内または細胞内における挙動を示し、下のルート(ルート2)は、プローブの「基質配列」が修飾を受けた場合のプローブの生体内または細胞内における挙動を示す。
まず、本発明のプローブは、生体内または細胞内の脱ユビキチン化酵素の作用により、まず「(1)キャップ配列」が切断されて脱離するが、プローブの「基質配列」が翻訳後修飾を受けない場合(ルート1)は、上記「(1)キャップ配列」が脱離することでプローブのN末端側に露出した「UbL認識配列」をユビキチンリガーゼが認識する。その結果、プローブの「(3)リンカー配列」のユビキチン化部位に順次ユビキチンが結合しユビキチン化される。次いで、ポリユビキチン化されたプローブは、プロテアソームに認識され、[(5)発色配列」ともども分解されてしまう(プロテアソーム分解)ため、プローブが発色することはない。一方、プローブの「基質配列」が翻訳後修飾を受けた場合(ルート2)は、「基質配列」に「(3)リンカー配列」を介して隣接する「(4)修飾認識配列」がこれを認識し、修飾された基質配列に特異的に結合する。そうすると、当該「基質配列」のN端側に位置する「UbL認識配列」は、「(4)修飾認識配列」に隣接する「(5)発色配列」の立体障害を受けてユビキチンリガーゼに認識されないため、プローブはユビキチン化されず、ポリユビキチンを目印とするプロテアソーム分解を受けない。その結果、当該プローブは、その「(5)発色配列」に基づいて発色する(プローブの修飾が可視化される)。
これから分かるように、プローブ(正確にはプローブの「基質配列」)が修飾されたかどうかは、プローブの発色が検出できるか否かで判断することができる。すなわち、プローブの発色が検出できる場合はプローブが修飾されていると判断され、逆に、プローブの発色が検出できない場合は、プローブが修飾されていないと判断される。また、プローブの発色量は、プローブの存在量、すなわち修飾されたプローブの量と正相関するので、プローブの発色量からタンパク質の修飾の程度を定量することも可能である。
図2および図5aに、本発明のプローブの一態様(実施例1、実施例6)の構成を示す概略模式図を示す。以下、図1、図2および図5aを利用して、本発明のプローブにおける各構成部位を具体的に説明する。但し、本発明のプローブは、これらの図に示す具体的な態様に何ら制限されるものではない。
本発明のプローブにおいて、「(3) ユビキチンリガーゼ認識配列(UbL認識配列)」とは、標的とするタンパク質のリシン残基のアミノ基 にユビキチンのC末端をアミド結合させるために、基質として認識されるアミノ酸もしくはアミノ酸配列を意味する。具体的には、例えばアルギニンまたはアルギニンを含む2以上の複数残基、例えば2〜10残基からなるアミノ酸配列をいう。
本発明のプローブにおいて、「修飾されうるポリペプチド」とは、ある設定条件において修飾されるかどうかの被験対象となる任意のポリペプチドをいう。このアミノ酸配列(基質配列)を変更することにより、様々なタンパク質の翻訳後修飾をそれぞれ特異的に検出し、また定量することができるプローブを設計することができる。当該基質配列は、翻訳後修飾を受ける部位を有するものであればよく、その限りにおいてその配列や構造は特に制限されない。なお、「修飾」とは、前述するようにタンパク質の翻訳後修飾を意味する。
好ましくはリシン以外のアミノ酸残基に対するペプチド付加または官能基付加による修飾であり、特に好ましくはリン酸化である。この場合、ポリペプチド上のリン酸化される部位は、基本的にOH基を有している部位であればよく、具体的にはチロシン、セリン、スレオニンまたはアスパラギン酸などの天然アミノ酸部位、および化学修飾によりOH基を導入した部位などを例示することができる。
本発明のプローブにおいて、「(3)リンカー配列」とは、柔軟な部位を有するアミノ酸配列をさす。プローブの「基質配列」が修飾を受けた場合に、それが「(3)リンカー配列」を介して隣接する「(4)修飾認識配列」と結合を形成することができる程度の柔軟性および長さを有するものであれば、その配列および長さの限定はない。また、当該リンカー配列は、「ユビキチン化されうる」部位を備えていることが好ましい、当該「ユビキチン化されうる部位」とは、本発明のプローブを、ユビキチンリガーゼの基質として反応させた場合に、ユビキチンが付加されるアミノ酸または当該アミノ酸を含む配列をさす。好ましくは1個ないし2以上の複数個のリシン残基を含むアミノ酸配列を挙げることができる。ユビキチンは、ユビキチンリガーゼによって基質に含まれる反応性リシン残基のε-アミノ基へ転移されるからである。
「ユビキチン化されうるリンカー配列」の一例として、「SGGTKTGGSCVKRKTGGSS」(下線部はユビキチンが結合するリシン残基、配列番号1:87〜105)や「GKRKAALAONGGGG」(下線部はユビキチンが結合するリシン残基、配列番号2:90〜103)が挙げられる。またリンカー部位は、リン酸化される部位(例えば、チロシン、セリン、またはスレオニン残基)を有さないように設計することが好ましい。
本発明のプローブにおいて「(4)修飾認識配列」とは、プローブ上の基質配列が修飾された場合に、当該基質配列の修飾基に特異的に結合することができるアミノ酸配列をいう。タンパク質の修飾基とその認識配列との組み合わせは、この分野において数多く知られており、例えば以下の組合せを挙げることができる。
(a)リン酸化されたチロシンを含むアミノ酸配列:Src homology 2(SH2)domain(配列番号1:106〜213)
(b)リン酸化されたスレオニンを含むアミノ酸配列:forkhead-associated 2 domain(配列番号2:103〜288)
斯くして本発明の「プローブ」は、かかる「発色性タンパク質」の発色特性に基づいて、吸光分光法、発光分光法、または蛍光分光法などで検出することができ、その結果、マーカーもしくはインジケーターとして機能する。
さらに、本発明のプローブは、「(5)発色配列」のC端側に、種々の局在性配列(SLS:subcellular localization sequence)を有するものであってもよい。このような局在性配列は、特定細胞や細胞内の特定領域、あるいは特定の組織を認識し、本発明のプローブを局在化させることができるものである。すなわち、局在化させたい特定細胞や特定領域に応じて、局在化配列を適宜選択すれば、本発明のプローブを形質膜や内膜に対してのみならず、核の内膜、あるいはミトコンドリアの外膜等の他の細胞小器官膜に対しても局在化ならびに固定化することができる。かかる局在性配列としては、例えば、核外輸送シグナル配列やプレクストリン相同性(PH)ドメイン等の細胞膜結合配列を挙げることができる。より具体的には、細胞膜に結合する局在性配列としては、K-RasやN-Ras等の脂質化配列(Resh, M.D., Cell. Signal.,(1996) 8, 403-412)や膜貫通配列が例示される。また、小胞体膜やゴルジ体膜に結合する局在性配列としては、N-RasのC181S変異体やN-RasのC181変異体-eNOS、ミトコンドリア膜に結合する局在性配列としてはTom20、カベオラに結合する局在性配列としてはcaveolin、ラフトに結合する局在性配列としてはCbpが例示される。また局在性配列として、部位特異的に発現しているタンパク質に対する抗体を使用することもできる。
本発明のプローブは、上記の構成を有し、本発明所望の機能を発揮するものであればよく、その限りにおいてその製造方法は、特に限定されない。全てを化学合成により構築してもよいが、好ましくは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の一般的な遺伝子工学的手法により各アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを調製しそれぞれを連結し、次いで定法の遺伝子組み換え技術により発現産生させる方法を挙げることができる。
(II)プローブをコードするポリヌクレオチド
本発明は、また、前述する翻訳後修飾検出・定量用プローブをコードするポリヌクレオチドを提供する。当該ポリヌクレオチドは、前述する本発明のプローブのアミノ酸配列から定法に従って帰納的に求めることができる。このため、本発明のポリヌクレオチドはその全配列を化学合成により構築してもよいし、またポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の一般的な遺伝子工学的手法により各アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを調製し、それぞれを連結して作成することもできる。
本発明のプローブをコードするポリヌクレオチドは、通常、当該ポリヌクレオチドが細胞内で発現するのに必要な機能性DNA配列に、作動可能に結合された状態で用いられる。ここで、機能性DNA配列としては、本発明のプローブをコードするポリヌクレオチドが、細胞、特に動物細胞または植物細胞において発現するために必要な制御領域や調節エレメントなどを意味し、例えばポリアデニル化シグナル、上流配列ドメイン、プロモーター、エンハンサー、またはターミネーター等を例示することができる。プロモーターとしてはあらゆる動植物発現用プロモーターが使用できるが、例えば、具体的にはSV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス腫瘍後期プロモーター(Ad MLP)、単純ヘルペスプロモーター、CMVプロモーター(例えば、CMV最初期プロモーター、ラウス肉腫(RSV)プロモーター)、ニワトリβアクチ由来CAGプロモーター、ヒトEF-1αプロモーター、ヒトUbCプロモーター、またはANFプロモーターなどを挙げることができる、
また、ここで「作動可能に結合する」とは、プローブをコードするポリヌクレオチドが、上記各種の機能性DNA配列との結合位置及び方向に係わらず、細胞内で発現し得る状態で存在することを意味する。
これらのポリヌクレオチドは、被験者、好ましくはヒトを含む哺乳動物や植物またはそれらの細胞への投与に適した形態を備えていることが好ましい。かかるものとして動物細胞内で発現しえるベクター、例えば遺伝子治療に用いられる発現ベクターを例示することができる。かかる発現ベクターは、他のベヒクル(例えば、リポソームのような脂質ベースの分子、凝集タンパク質、またはトランスポーター分子)などと複合体を形成した状態で使用することもできる。また当該発現ベクターには、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターの場合、プローブをコードするポリヌクレオチドは、前述する機能性DNA配列を作動可能に結合した状態で、ウイルス粒子内に封入された状態で使用される。かかるウイルスベクターとしても当業界で公知のものを任意に使用することができ、例えばアデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、及びポリオーマウイルス等を挙げることができる。
(III)トランスジェニック非ヒト動物
本発明は、また、前述する翻訳後修飾検出・定量用プローブを発現するように構築された非ヒト動物またはその子孫動物(トランスジェニック非ヒト動物)を提供する。
なお、ここで非ヒト動物としては、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウシ、ウマ、サル、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物を挙げることができる。
トランスジェニック非ヒト動物の一態様として、本発明は、全細胞または特定の細胞若しくは器官において本発明のプローブを強制発現させてなる非ヒト動物を挙げることができる。当該非ヒト動物は、細胞中に、プロモーター等の機能的DNAの制御下で本発明のプローブをコードする遺伝子を発現可能な状態で有し、これにより所望細胞中で当該プローブが発現産生してなるトランスジェニック非ヒト動物である。当該トランスジェニック非ヒト動物は、タンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化の組織学的研究やそのメカニズムの解明に有効に使用することができる。また該トランスジェニック非ヒト動物は、スクリーニング動物として、タンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化を誘導若しくは促進する物質、または抑制する物質を探索するために有用であり、斯くして修飾、特にタンパク質のリン酸化が関わる疾患の予防・治療剤の開発に有効に利用することができる。
かかるトランスジェニック非ヒト動物を産生するための方法は、一般的に、米国特許第4873191号公報、Brister et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, p.4438-4442 (1985)、特開2003-55266号公報、並びに「Manipulating the maouse Embryo; A Laboratory Manual」第2版(編集、Hogan, Beddington, Costantimi 及びLong, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1994)に記載されており、本発明もこれに準じて行うことができる。なお、これらの文献の内容は、本明細書で援用されることにより本発明の内容に組み込まれる。典型的な方法として、本発明のプローブをコードするオリグヌクレオチド(発現ベクター)を、マイクロインジェクションによりその動物の受精卵に移入する方法を例示することができる。マイクロインジェクションされた受精卵は、雌性宿主に移植され、導入遺伝子の発現を指標として子孫の中から所望のトランスジェニック非ヒト動物が選抜取得できる。
(IV)プローブまたはそれをコードするポリヌクレオチドを含む試薬・試薬キット
前述する本発明のプローブまたはそれをコードするポリヌクレオチドは、タンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化の組織学的研究やそのメカニズムを解明するための試薬として有効に使用することができる。特に本発明のプローブは、生きた細胞内や体内におけるタンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化を、目で視覚的に見えるように設計されていることから、マーカー試薬または分子イメージング試薬として有効に使用することができる。なお、ここでいう本発明のプローブをコードするポリヌクレオチドは、前述するように、当該ポリヌクレオチドが細胞内で発現するのに必要な機能性DNA配列に、作動可能に結合された状態のものであってもよい。
また本発明は、かかるプローブまたはそれをコードするポリヌクレオチドに加えて、発色基質、発色用バッファー、トランスフェクション用試薬などを別個の包装形態で有する試薬キットを提供する。ここで発色基質とは、本発明プローブの発色性タンパク質の基質になるものであり、例えば発色性タンパク質としてルシフェラーゼを使用する場合は、発色基質としてルシフェリンを挙げることができる。
(V)タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量する方法
本発明は、前述する本発明のプローブまたはそれをコードするオリゴヌクレオチド(前述する試薬)を用いて、タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量する方法を提供する。
当該方法は、本発明のプローブを動物細胞または植物細胞内に導入し、当該のプローブの発色量を測定することによって実施することができる。
本発明のプローブを細胞内に導入する方法としては、一般的な遺伝子工学的手法が使用できる。具体的には、本発明のプローブをコードするオリゴヌクレオチドを有する発現ベクターを電気穿孔法、リン酸化カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法により細胞に導入する方法を例示することができる。このようにプローブを細胞内に導入し、プローブを修飾化物質、好ましくはリン酸化物質と共存させることにより、細胞を破壊することなく、タンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化を検出および定量することが可能となる。
なお、上記細胞は、培養細胞であってもいいし、また動物や植物の体内細胞であってもよい。後者の場合、前述するように、本発明のプローブをコードするオリゴヌクレオチドを有する発現ベクターを、マイクロインジェクションによりその動物の受精卵に移入して、当該動物またはその子孫動物の全細胞に本発明のプローブを発現させたものを使用することもできる。
本発明方法によるタンパク質の翻訳後修飾の検出は、本発明のプローブの発色性タンパク質に起因する発色を、その発色特性に基づいて、吸光分光法、発光分光法、または蛍光分光法などを用いて検出することができる。(I)の欄で説明するように、本発明のプローブに基づいて発色が検出される場合は、タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)が生じていることを意味し、逆に本発明のプローブに基づく発色が検出されない場合は、タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)が生じていないことを意味する。また、プローブの発色量は、プローブの存在量、すなわち修飾されたプローブの量と正相関するので、プローブの発色量からタンパク質の修飾の程度を定量することが可能である。
(VI)タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質のスクリーニング方法
本発明は、また、前述する本発明のプローブまたはそれをコードするオリゴヌクレオチド(前述する試薬)を用いて、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法を提供する。ここで対象とする翻訳後修飾への「影響」には、タンパク質の翻訳後修飾に正の影響(修飾誘導、修飾促進)を与える場合と、負の影響(修飾抑制、脱修飾)を与える場合の両方が含まれる。
当該スクリーニングは、プローブを被験物質との共存下におき、プローブに起因する発色量を測定することによって実施することができる。かかるスクリーニング方法の具体的な手法は、探索する目的物質の種類によって大きく3つに分類することができる。例えば、(a)修飾を誘導する物質を探索する場合のスクリーニング方法は、本発明のプローブを被験物質と共存させることによって実施できる。また、(b)修飾を促進または抑制(阻害)する物質を探索する場合のスクリーニング方法は、本発明のプローブの修飾を被験物質の存在下で行うことで実施できる。さらに、(c)脱修飾を誘導する物質を探索するためのスクリーニング方法は、本発明のプローブを修飾した後に、当該修飾されたプローブに被験物質を共存させることで実施することができる。
より具体的には、(a)のスクリーニングは、本発明のプローブを被験物質と共存させた場合と共存させない場合とでプローブの発色量を対比し、被験物質と共存させた場合のプローブの発色量が、共存させない場合のプローブの発色量に比して大きければ(被験物質と共存させた場合にプローブが発色する場合など)、当該被験物質は、タンパク質の翻訳後修飾を誘導する物質として判断することができる。かかる修飾誘導物質としては、例えばリン酸化を誘導するプロテインキナーゼ活性を有する物質が挙げられる。また逆に、被験物質と共存させた場合のプローブの発色量が、共存させない場合のプローブの発色量と同じで変わらなければ、当該被験物質は、タンパク質の翻訳後修飾を誘導しない物質として判断することができる。
また、(b)のスクリーニングは、本発明のプローブの修飾(正確には「基質配列」の修飾)を、被験物質の存在下または非存在下で行った場合に、被験物質の存在下で得られるプローブの発色量が、被験物質の非存在下で得られるプローブの発色量に比して大きければ、当該被験物質は、タンパク質の翻訳後修飾を促進する物質として判断することができる。かかる修飾促進物質としては、例えばリン酸化を促進するプロテインキナーゼ活性化物質を挙げることができる。また逆に、被験物質の存在下で得られるプローブの発色量が、被験物質の非存在下で得られるプローブの発色量に比して小さければ、当該被験物質は、タンパク質の翻訳後修飾を抑制(阻害)する物質として判断することができる。かかる修飾抑制物質としては、例えばリン酸化を抑制(阻害)するプロテインキナーゼ阻害物質を挙げることができる。
さらに、(c)のスクリーニングは、本発明のプローブを修飾(正確には「基質配列」を修飾)した後に、被験物質を共存させる場合と共存させない場合とでプローブの発色量を対比した場合、被験物質と共存させた場合のプローブの発色量が、被験物質と共存させない場合のプローブの発色量に比して小さくなれば、当該被験物質は、脱修飾を誘導するか促進する物質として判断することができる。かかる脱修飾物質としては、例えば脱リン酸化を誘導または促進する物質としてプロテインフォスファターゼあるいは脱リン酸化活性化物質を挙げることができる。
以上のスクリーニング方法において、本発明のプローブは、例えばpH、塩濃度等を調整した溶液中で被験物質と共存させてもよいし、一般的な遺伝子工学的手法により、前述する本発明のプローブをコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入し、細胞内で発現させた状態で被験物質と接触させてもよい。このとき被験物質は、細胞外に存在していても、細胞に取込まれてもよく、さらには予め細胞に遺伝子工学的手法により導入されていてもよい。
ここで被験物質としては、制限はされないが、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、または無機化合物などを挙げることができる。また、被験物質は、細胞中に本来存在する内在性の酵素やレセプター等であってもよい。スクリーニングは、具体的には、これらの被験物質またはこれらを含む組成物(例えば、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物等を含む)をプローブと接触させることにより行うことができる。また、スクリーニングに際して採用される被験物質とプローブとの接触条件は、特に制限されないが、生体内の環境またはこれに準じた条件を用いることができ、これを細胞内で行う場合は、細胞が死滅せず所望の遺伝子を発現できる培養条件を選択することが好ましい。
本発明のプローブを細胞内に導入する方法としては、一般的な遺伝子工学的手法が使用できる。具体的には、本発明のプローブをコードするポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターを電気穿孔法、リン酸化カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の公知の方法により細胞に導入する方法を例示することができる。このようにプローブをコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入し発現させ、被験物質と共存させた場合の当該プローブの発色量を測定することで、細胞を破壊することなく、タンパク質の翻訳後修飾に影響を与える物質を探索することが可能になる。このため、本発明のプローブは、タンパク質の翻訳後修飾、特にリン酸化または脱リン酸化をコントロールする物質のハイスループットスクリーニングを目的とした多細胞分析においても有益である(Science 279, 84-88(1998); Drug Discovery Today 4, 363-369(1999))。
さらに、本発明のスクリーニングは、本発明のプローブを発現するためのポリヌクレオチドを細胞内に導入し、非ヒト動物細胞を個体発生させることによって作成したトランスジェニック非ヒト動物(子孫動物を含む)を用いて行うこともできる。このようなトランスジェニック非ヒト動物は、体細胞中に本発明のプローブを発現可能な状態で保有しているため、細胞または組織中に被験物質を導入し共存させることで、生細胞や組織におけるタンパク質の翻訳後修飾に対する被験物質の影響を調べることができる。斯くして細胞や組織において、タンパク質の翻訳後修飾に対して正の影響(修飾誘導、修飾促進)または負の影響(修飾抑制、脱修飾)を与える物質を探索し取得することができる。
以下、本発明を実験例により説明するが、本発明は、かかる実験例に限定されるものではない。また、以下の実験例において、遺伝子操作、細胞培養等には、特に断りのない限り、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press), Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Willey-Interscience)等に記載された方法を用いた。
下記の実施例では、タンパク質の翻訳後修飾のうち、代表的なリン酸化修飾を例に挙げて、本発明のプローブの構成およびその作用を説明する。タンパク質のリン酸化を検出・定量するための本発明のプローブにおいて、その「修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列」(基質配列)は、当該プローブのキナーゼ選択性を決める重要な領域になる。この基質配列を変更することにより、様々なキナーゼによるリン酸化を特異的に可視化するプローブを開発することができる。
実施例1 タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)を検出または定量するためのプローブ作成(その1)(図2参照)
(1)インスリン受容体によるリン酸化検出・定量用プローブ(IR-Lucus)の設計と作成(図2)
受容体型チロシンキナーゼであるインスリン受容体(IR)による翻訳後修飾(リン酸化)を可視化するためのプローブ(以下、これを「IR-Lucus」ともいう)を作成した。
作成した「IR-Lucus」の構造を示す模式図を図2に、またそのアミノ酸配列を配列番号1に示す。当該「IR-Lucus」は、下記に詳述するように、N末端から順に「(1)キャップタンパク質のアミノ酸配列」(図2中、「Ub」と表示)、「(2)N端領域にユビキチンリガーゼ認識配列を連結した、修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列」、「(3)ユビキチン化されうるリンカー配列」(図2中、(2)と(3)を併せて「Substrate with lnker」と表示)、「(4)修飾認識配列」(図2中、「SH2 domain」と表示)、および「(5)発色性タンパク質のアミノ酸配列」(図2中、「FLuc」と表示)から構成される。
本発明のプローブは、基本的に上記の「(1)キャップタンパク質のアミノ酸配列」(以下、「(1)キャップ配列」という)、「(2)N端領域にユビキチンリガーゼ認識配列を連結した、修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列」(以下、「(2) N端領域にUbL認識配列を連結した基質配列」という)、「(3)ユビキチン化されうるリンカー配列」(以下、「(3)リンカー配列」という)、「(4)修飾認識配列」、および「(5)発色性タンパク質のアミノ酸配列」(以下、「(5)発色配列」という)から構成されるが、ここでは、実施例3でのキャラクタリゼーションに供するために、「(5)発色配列」のC末端側に、5Vエピトープのアミノ酸配列「GKPIPNPLLGLDST」(配列番号1:779〜784)を連結した。これにより、抗5V抗体(クロンテック社)を使用することで、当該プローブの細胞内(生体内)での挙動、ならびに翻訳後修飾(リン酸化)が細胞のどこで、どの程度起こっているかを、測定することができる。
ここで「(1)キャップ配列」として、ユビキチンのアミノ酸配列を使用した。すなわち、図2中、「Ub」として示されている領域は、ユビキチンのアミノ酸配列に相当する領域であって、配列番号1で示すアミノ酸配列において1〜76番目の領域に相当する。
また「(2)N端領域にUbL認識配列を連結した基質配列」として、N端にアルギニン(R)(配列番号1:77)を連結した「GTEEYMKMD」(下線部はリン酸化されるチロシン、配列番号1:78〜86)からなるアミノ酸配列(基質配列)を使用した。アルギニンは、ユビキチンリガーゼが酵素として機能を発揮するときに基質として認識され、当該ユビキチンリガーゼに結合するアミノ酸である。そのうえ、当該アルギニンがN末端に位置する場合、多くの組織に広く分布するユビキチンリガーゼに普遍的に認識される。
「基質配列」として使用する「GTEEYMKMD」は、受容体型チロシンキナーゼであるインスリン受容体(IR)と相互作用することでリン酸化されるタンパク質(インスリン受容体基質タンパク質-1、以下、「IRS-1」という。)の、リン酸化されるアミノ酸(チロシン)を含む領域のアミノ酸配列に相当する。つまり、かかるアミノ酸配列を基質配列として有するプローブは、インスリン受容体(IR)(キナーゼ)の作用を受けることで、上記基質配列中のリン酸化部位(チロシン)がリン酸化されることになる。
また、上記基質配列のC端側に、「(3)リンカー配列」として、「SGGTKTGGSCVKRKTGGSS」(下線部はユビキチンが結合するリシン、配列番号1:87〜105)を用いた。当該リンカー配列は、ユビキチンが結合するように1以上のリシン残基を有するように設計されたアミノ酸配列である。当該アミノ酸配列のリシン残基の側鎖のアミノ基とユビキチンのC末端がアミド結合することで一つめのユビキチンが付加され、さらにそのユビキチン中のリシン残基の側鎖に更に次のユビキチンが付加するというように複数のユビキチンが次々と付加される(ポリユビキチン化)。
また上記リンカー配列のC端側に、「(4)修飾認識配列(リン酸化認識配列)」として、「GSSASDAEWYWGDISREEVNEKLRDTADGTFLVRDASTKMHGDYTLTLRKGGNNKLIKIFHRDGKYGFSDPLTFNSVVELINHYRNESLAQYNPKLDVKLLYPVSGGG」(配列番号1:106〜213)を用いた。当該「(4)修飾認識配列」は、Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)のサブユニットの1つであるp85αのSrc homology 2 domain(SH2 domain)のアミノ酸配列に相当する。かかるSH2 domainは、インスリン受容体基質タンパク質-1(IRS-1)がインスリン受容体(IR)(キナーゼ)の作用でリン酸化されると、当該リン酸化部位を含むアミノ酸配列を認識して当該配列に結合するように機能する。このため、IRの作用によって前述する「基質配列」上のチロシン残基がリン酸化されると、上記「修飾認識配列」はこのリン酸化された「基質配列」を認識してこれと結合することになる。
さらに上記「(4)修飾認識配列」のC端側に、「(5)発色性タンパク質」として、自家蛍光の影響を受けず、生体深部の可視化が可能な生物発光タンパク質であるホタルルシフェラーゼを用いた。そのアミノ酸配列は、配列番号1において、アミノ酸番号216〜635の領域に相当する。かかる生物発光タンパク質により、生体内における当該プローブの修飾(リン酸化)を可視化することができる。
このプローブを用いた生体内での翻訳後修飾(リン酸化)の可視化の原理を、図1を用いて説明する。本発明のプローブの基質配列がリン酸化されない場合は、図1の上のルート(ルート1)を通り、プローブがユビキチン化され、プロテアソームに認識されて分解される結果、発色を呈しない。一方、本発明のプローブの基質配列がリン酸化される場合は、図1の下のルート(ルート2)を通り、プローブは上記のようなユビキチン化を受けないため、結果としてプローブの「(5)発色性タンパク質」に基づいて発色し、結果としてプローブのリン酸化が可視化される。
具体的には、本発明のプローブの基質配列がキナーゼの作用によりリン酸化されない場合(ルート1)は、生体内の脱ユビキチン化酵素の作用により、プローブ(IR-Lucus)から、まず「(1)キャップ配列」に相当するユビキチンのアミノ酸配列が切断されて脱離する。その結果、プローブのN末端側に露出した「UbL認識配列」に相当するアルギニン(R)をユビキチンリガーゼが認識して、それに結合することで、プローブの「(3)リンカー配列」に順次ユビキチンが結合されユビキチン化される。斯くしてポリユビキチン化されたプローブは、ポリユビキチンを目印としてプロテアソームに認識されて分解されてしまい、発色を呈しない。
一方、本発明のプローブの基質配列がキナーゼの作用によりリン酸化されると(ルート2)、当該リン酸化された基質配列は、これに「(3)リンカー配列」を介して連結している「(4) 修飾認識配列」によって認識され、上記リンカー配列がループ状に折れ曲がって当該基質配列と結合する。当該基質配列のN端側に位置する「UbL認識配列」は、「(5)発色性タンパク質」の立体配座の影響をうけ覆い隠されるためユビキチンリガーゼによって認識されず、その結果、プローブはユビキチン化を受けない。このため、当該プローブは、ユビキチンを目印とするプロテアソーム分解を受けないため、その「(5)発色性タンパク質」に基づいて発色する(プローブのリン酸化が可視化される)。
(2)比較用プローブ(UbG76VIR-Lucus、IR-Lucus-Ala)の設計と作成(図2)
上記プローブ(IR-Lucus)のNegative Controlとして、2種類のプローブ(UbG76VIR-Lucus、IR-Lucus-Ala)を作成した。
プローブ(UbG76VIR-Lucus)は、上記プローブ(IR-Lucus)において、「(1)キャップタンパク質」がユビキチンリガーゼ(DUB)によって切断され脱離しないように、配列番号1のアミノ酸配列の76番目のグリシン残基(G)をバリン残基(V)に置換した構造を有するものである。またプローブ(IR-Lucus-Ala)は、上記プローブ(IR-Lucus)において、基質配列がリン酸化修飾を受けないように、当該基質配列のチロシン残基(Y)をアラニン残基(A)に置換した構造を有するものである。
実施例2 IR導入細胞(CHO-IR細胞)およびプローブ導入細胞の調製
(1)IR導入細胞(CHO-IR細胞)の調製
(1-1)IR発現ベクターの構築
インスリン受容体(IR)のcDNAを、膵臓由来のcDNAライブラリーから定法のPCRに従って増幅しクローニングした。クローニングして得られたcDNAをpBLuescript SK(+)(宝酒造社製)にサブクローニングし、得られたPCRフラグメントの塩基配列を、ABI310ジェネティック・アナライザーにより確認した。斯くして、インスリン受容体(IR)をコードするcDNAを、哺乳類の発現ベクターであるpcDNA3.1/V5-HisA(Invitrogen Co.)のHind IIIおよびEcoR I部位にサブクローニングし、これをIR発現ベクターとした。
(1-2)IR導入細胞の調製
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10 %ウシ胎児血清(FCS)(ライフ・テクノロジー社製)を補充したHamのF-12培養液(CHO用培養液)中で、37℃、5 %CO2 下で培養した。得られたCHO細胞を付着細胞用表面処理済み培養皿に播種し、LipofectAMINE2000試薬(ライフ・テクノロジー社製) を用いて、37℃、5 %CO2の条件で、(1-1)で調製したIR発現ベクターを導入し、IR導入細胞(CHO-IR細胞)を調製した。
(2)プローブ導入細胞の調製
(2-1)プローブ発現ベクターの構築
実施例1で作成した各プローブ(IR-Lucus、UbG76VIR-Lucus、IR-Lucus-Ala)をコードするcDNAを、それぞれ哺乳類の発現ベクターであるpcDNA3.1/V5-HisA(Invitrogen Co.)のHind IIIおよびEcoR I部位にサブクローニングし、それぞれIR-Lucus発現ベクター、UbG76VIR-Lucus発現ベクター、およびIR-Lucus-Ala発現ベクターとした。
(2-2)プローブ導入細胞の調製
上記(1)で調製したIR導入細胞(CHO-IR細胞)を、付着細胞用表面処理済み培養皿に播種した。次いでLipofectAMINE2000試薬(ライフ・テクノロジー社製)を用いて、37℃、5%CO2の条件で、当該IR導入細胞(CHO-IR細胞)に、上記(2-1)で調製した各プローブ発現ベクター(IR-Lucus発現ベクター、UbG76VIR-Lucus発現ベクター、およびIR-Lucus-Ala発現ベクター)をそれぞれ導入し、プローブ導入細胞(IR-Lucus導入細胞、UbG76VIR-Lucus導入細胞、およびIR-Lucus-Ala導入細胞)を調製した。当該プローブ導入細胞は、インスリン受容体(IR)(キナーゼ)とプローブ(IR-Lucus、UbG76VIR-Lucus、またはIR-Lucus-Ala)が共発現するCHO細胞(IR-プローブ発現細胞)である。以下、IRとプローブ(IR-Lucus)が共発現するCHO細胞を「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と、IRとプローブ(UbG76VIR-Lucus )が共発現するCHO細胞を「IR-プローブ(UbG76VIR-Lucus )発現細胞」と、またIRとプローブ(IR-Lucus-Ala)が共発現するCHO細胞を、「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」という。
実施例3 プローブ(IR-Lucus)のキャラクタリゼーション
(1)実施例2(2)(2-2)で調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」を、プロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理した後、この細胞を可溶化し、V5エピトープに対する抗V5抗体(クロンテック社製)とHRP標識二次抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。また比較のため、プロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理しない「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」についても可溶化して同様に、抗V5抗体を用いてウェスタンブロッティングに供した。
結果を図3aに示す。MG-132未処理物の結果(レーン:−)からわかるように、プローブ(IR-Lucus)の推定分子量は約89kDaであるが、MG-132処理物では、200kDaを越える高分子量域にもバンドが検出された(レーン:+)。
そこで次に、MG-132で処理した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」の可溶化液について、まず抗V5抗体(クロンテック社製)で免疫沈降を行い、次いで抗ユビキチン(Ub)抗体(クロンテック社製)でウェスタンブロッティングを行った。
結果を図3bに示す。この結果から、上記で200kDaを越える高分子として検出されたバンドは、プローブ(IR-Lucus)が、ポリユビキチン化されたものであると考えられた。
(2)プローブ(IR-Lucus)およびプローブ(UbG76VIR-Lucus)の推定分子量は約89kDaである。しかし、抗V5抗体でウェスタンブロッティングを行った結果、プローブ(IR-Lucus)はプローブ(UbG76VIR-Lucus)より小さい約80kDaの位置で検出された。これは、細胞内の脱ユビキチン化酵素(DUB)により、プローブ(IR-Lucus)は、そのN末端領域のユビキチンに相当するアミノ酸配列が遊離されたことを示唆している(図3c参照)。
(3)プローブ(IR-Lucus) をCHO-IR細胞に導入して調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」の培養液中に100nM インスリンを添加する前後で可溶化し、まず抗V5抗体(クロンテック社製)で免疫沈降を行い、次いで抗リン酸化チロシン抗体(クロンテック社製)でウェスタンブロッティングを行った。その結果を図3dに示す。図3dからわかるように、約80kDaのプローブ(IR-Lucus)はインスリン刺激によって、その基質配列上のチロシン残基がインスリン依存的かつ刺激時間依存的にリン酸化されていることを確認できた(図3d)。
(4)プローブ(IR-Lucus)とプローブ(IR-Lucus-Ala)を、それぞれCHO-IR細胞に導入し調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、それぞれプロテアソーム阻害剤(MG-132)で処理した後、インスリン刺激の前後で可溶化し、抗V5抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。結果を図3eに示す。図3eからわかるように、200kDaを越える高分子として検出されるプローブ(IR-Lucus-Ala)の量は、インスリン刺激(+)しても減少しなかったが、200kDaを越える高分子として検出されるプローブ(IR-Lucus)の量は、インスリン刺激(+)することで減少した。
これは、プローブ(IR-Lucus-Ala)の基質配列はインスリン刺激してもリン酸化されず、ポリユビキチン化が生じているのに対して、プローブ(IR-Lucus)の基質配列は、インスリン刺激によってリン酸化し、その結果、ポリユビキチン化が抑制されていることを意味する(図3e参照)。
(5)次にプローブの生物発光の検討を行った。
プローブ(IR-Lucus)とプローブ(IR-Lucus-Ala)を、それぞれCHO-IR細胞に導入し調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、それぞれ100nMの インスリンで刺激し、次いでプローブの「(5)発光性タンパク質」(ルシフェラーゼ)の基質であるルシフェリンを加えて、発光強度をルミノメーターで測定した。
結果を図3f及び図3gに示す。その結果、IR-Lucus導入細胞(IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞)(図3f中、■で示す)において、経時的にルシフェラーゼの発光強度が上昇することが確認された(図3f)。また「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」において、インスリン濃度依存的に発光強度が上昇することが確認された(図3g中、■で示す)。一方、ネガティブコントロールとして用いた「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」については、インスリン刺激してもルシフェラーゼの発光強度の上昇は確認できなかった(図3f、g中、□で示す)。
(6)さらに、プローブのリン酸化依存的な細胞内寿命について調べた。
プローブ(IR-Lucus)とプローブ(IR-Lucus-Ala)を、それぞれCHO-IR細胞に導入し調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」と「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」を、タンパク質合成阻害剤(cycloheximide)で処理し、更なる新生タンパク質の発現を阻害した上で、インスリンによる刺激を行い、プローブの「(5)発光性タンパク質」(ルシフェラーゼ)の基質であるルシフェリンを加えて、発光強度をルミノメーターで測定した。
その結果、「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」において、インスリン刺激しない(−)と生物発光は時間依存的に低下するものの、インスリン刺激(+)により当該生物発光の時間依存的な低下が抑制された(図3hの左図)。このことから、プローブの細胞内寿命はリン酸化依存的に延長することが示された。一方、ネガティブコントロールとして用いた「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」では、インスリン刺激してもプローブの寿命延長は確認できなかった(図3hの右図)。
以上(1)〜(6)の検討より、本発明のプローブ(IR-Lucus)は、インスリン受容体(キナーゼ)の働きによってリン酸化すること、そして、リン酸化依存的にユビキチン−プロテアソームの分解経路から逃れて、生物発光を生起することが明らかとなった。このことは、このプローブが、キナーゼによるタンパク質修飾(リン酸化)(翻訳後修飾)の検出・定量に有用であることを示している。
実施例4 IR-Lucus導入細胞、あるいはIR-Lucus-Ala導入細胞のマウスへの移植
CHO-IR細胞に、プローブ(IR-Lucus)またはプローブ(IR-Lucus-Ala)を導入して調製した「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」(5×106個)または「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」(5×106 個)を、マウス右背面皮下にそれぞれ移植して一晩放置した後、1.0IU/kgの容量でインスリンを当該マウスの腹腔内に注射した。
実施例5 マウス生体での蛋白質リン酸化の可視化計測
マウスin vivoイメージングの直前に、ルシフェリン(150mg/kg)を当該マウスの腹腔内に注射して、超高感度カメラを設置した暗箱でプローブからのルシフェラーゼの生物発光を1分間可視化計測した。
結果を図4a及びbに示す。図4aに示すように、インスリン注射により「IR-プローブ(IR-Lucus)発現細胞」からの生物発光シグナルが増強することが観察された(図4a)。一方、ネガティブコントロールの「IR-プローブ(IR-Lucus-Ala)発現細胞」からの生物発光シグナルは、インスリン注射によっても増強しなかった(図4a)。図4bは、それぞれの生物発光シグナル(蛍光シグナル)を可視化計測して定量解析した結果を示す。これから、本発明のプローブによれば、生物発光シグナルを定量することでタンパク質の修飾化(リン酸化)を定量することができる。
これらの結果より、本発明のプローブが、生体内(in vivo)でのタンパク質修飾(リン酸化)の可視化計測およびその定量に利用できることが判明した。
実施例6 タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)を検出または定量するためのプローブ作成(その2)(図5参照)
(1)セリン・スレオニンキナーゼによるリン酸化検出・定量用プローブ(Akt-Lucus)の設計と作成(図5a)
細胞死や糖代謝を制御するセリン・スレオニンキナーゼであるAkt による翻訳後修飾(リン酸化)を可視化するためのプローブ(以下、これを「Akt-Lucus」ともいう)を作成した。
作成した「Akt-Lucus」の具体的構成を示す模式図を図5aに、またそのアミノ酸配列を配列番号2に示す。当該「Akt-Lucus」は、下記に詳述するように、N末端から順に「(1)キャップ配列」(図5a中、「Ub」と表示)、「(2)N端領域にUbL認識配列を連結した基質配列」、「(3)リンカー配列」(図2中、(2)と(3)を併せて「Substrate with lnker」と表示)、「(4)修飾認識配列」(図2中、「FHA2 domain」と表示)、および「(5)発色配列」(図2中、「FLuc」と表示)を有している。
本発明のプローブは、基本的に上記の「(1)キャップ配列」、「(2)N端領域にUbL配列を連結した基質配列」、「(3)リンカー配列」、「(4)修飾認識配列」、および「(5)発色配列」から構成されるが、ここでは、プローブを特定の細胞膜に局在化させて、当該部位でのリン酸化の挙動を可視化するために、「(5)発色配列」のC末端に、リンカー配列「GGSGGSGGSGG」(配列番号2:708〜718)を介して、細胞膜の局在化配列(SLS:subcellular localization sequence)(配列番号2:719〜729)を連結した。
なお、上記局在化配列(SLS)として様々な細胞内器官の局在化配列を使用することで、本発明のプローブを特定の細胞内器官に局在化させることができ、その結果、当該部位でのリン酸化の挙動を可視化することができる。かかるプローブによれば、Aktによる翻訳後修飾(リン酸化)が細胞のどこで、どの程度起こっているかを、測定することができる。
この目的で、配列番号2に示すプローブ(Akt-Lucus)の局在化配列(配列番号2:719〜729)に代えて、細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)の局在化配列(QGCMGLPCVVM:配列番号3)(Cell 98, 69-80 (1999))、ミトコンドリア外膜の局在化配列(FNRWFLTGMTVAGVVLLGSLFSRK:配列番号4)(Biochemistry 43, 10930-10943 (2004))、核の局在化配列(DPKKKRKVDPKKKRKVDPKKKRKVEDA:配列番号5)(Anal. Chem. 77, 4751-4758 (2005))、細胞質の局在化配列(LPPLERLTL:配列番号6)(Cell 90, 967-970 (1997))をそれぞれ有するプローブ(Akt-Lucus)を同様に作成した。
なお、当該プローブ(Akt-Lucus)において、「(1)キャップ配列」として、実施例1のプローブ(IR-Lucus)と同様に、ユビキチンのアミノ酸配列を使用した。すなわち、図5a中、「Ub」として示されている領域は、ユビキチンのアミノ酸配列に相当する領域であって、配列番号2で示すアミノ酸配列において1〜76番目の領域に相当する。
また「(2)N端領域にUbL認識配列を連結した基質配列」として、N端にアルギニン(R)(配列番号2:77)を連結した「GRKRDRLGTLGI」(下線部はリン酸化されるスレオニン、配列番号2:78-89)で示されるアミノ酸配列を用いた。当該アミノ酸配列は、セリン・スレオニンキナーゼ(Akt)と相互作用してリン酸化されるタンパク質(基質タンパク質)の、当該リン酸化されるアミノ酸(チロシン)を含む領域のアミノ酸配列に相当する。つまり、かかるアミノ酸配列を基質配列として有するプローブによれば、セリン・スレオニンキナーゼ(Akt)の作用を受けることで、上記基質配列中のリン酸化部位(スレオニン)がリン酸化されることになる。
また、上記基質配列のC端側に、「(3)リンカー配列」として、「GKRKAALAQNGGGG」(下線部はユビキチンが結合するリシン、配列番号2:90〜102)を用いた。当該リンカー配列は、ユビキチンが結合するように1以上のリシン残基を有するように設計されたアミノ酸配列である。当該アミノ酸配列のリシン残基の側鎖のアミノ基とユビキチンのC末端がアミド結合することで一つめのユビキチンが付加され、さらにそのユビキチン中のリシン残基の側鎖に更に次のユビキチンが付加するというように複数のユビキチンが次々と付加される(ポリユビキチン化)。
また上記リンカー配列のC端側に、「(4)修飾認識配列(リン酸化認識配列)」として、「GSGNGRFLTLKPLPDSIIQESLEIQQGVNPFFIGRSEDCNCKIEDNRLSRVHCFIFKKRHAVGKSMYESPAQGLDDIWYCHTGTNVSYLNNNRMIQGTKFLLQDGDEIKIIWDKNNKFVIGFKVEINDTTGLFNEGLGMLQEQRVVLKQTAEEKDLVKKLTQEAAAREAAAREAAAREAAAR」(配列番号2:104〜285)を用いた。当該配列は、前述する基質タンパク質のリン酸化スレオニンを含むアミノ酸配列に結合するforkhead-associated 2 domain(FHA2 domain)のアミノ酸配列に相当する。このため、セリン・スレオニンキナーゼ(Akt)の作用によって前述する「基質配列」上のスレオニンがリン酸化されると、当該「基質配列」は上記「(4)修飾認識配列」と結合することになる。
さらに上記「(4)修飾認識配列」のC端側に、「(5)発色性タンパク質」として、実施例1のプローブ(IR--Lucus)と同様に、ホタルルシフェラーゼを用いた。そのアミノ酸配列は、配列番号2において、アミノ酸番号288〜707の領域に相当する。かかる生物発光タンパク質により、生体内における当該プローブの修飾(リン酸化)を可視化することができる。
実施例7 プローブ(Akt-Lucus)導入細胞の調製
(1)プローブ導入細胞の調製
(1-1)プローブ発現ベクターの構築
実施例6で作成したプローブ(Akt-Lucus)をコードするcDNAを、哺乳類の発現ベクターであるpcDNA3.1/V5-HisA(Invitrogen Co.)のHind IIIおよびEcoR I部位にサブクローニングし、Akt-Lucus発現ベクターとした。
(1-2)プローブ導入細胞の調製
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10 %ウシ胎児血清(FCS)を補充したHamのF-12培養液(CHO用培養液)中で、37℃、5 %CO2 下で培養した。得られたCHO細胞を付着細胞用表面処理済み培養皿に播種し、LipofectAMINE2000試薬(ライフ・テクノロジー社製) を用いて、37℃、5 %CO2の条件で、(1-1)で調製したAkt-Lucus発現ベクターを導入し、プローブ(Akt-Lucus)導入細胞(「プローブ(Akt-Lucus)発現細胞」)を調製した。
実施例8 プローブ(Akt-Lucus)のキャラクタリゼーション
実施例6で調製したプローブ(Akt-Lucus)を用いて、Akt によるタンパク質リン酸化が細胞内のどこで、どの程度起こっているのかを検討した。
実施例7に示す方法で、プローブ(Akt-Lucus)を培養細胞(CHO細胞)で発現させた結果、細胞膜(図5b参照)、ミトコンドリア外膜(図5c参照)、細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)(図5d参照)、核(図5e参照)、細胞質(図5f参照)に、予想通りに局在化していることが明らかとなった。
そこで、プローブ(Akt-Lucus)をそれぞれ発現する細胞を、上皮成長因子(EGF)で刺激することで、その細胞内に発現しているプローブの基質配列(Akt)を活性化させ、それぞれの細胞の生物発光(ルシフェラーゼ)を測定した。その結果、細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)(pm)にプローブ(Akt-Lucus)を局在化させた細胞、および細胞膜(em)にプローブ(Akt-Lucus)を局在化させた細胞(em)において、特に強い生物発光シグナル(ルシフェラーゼ)が計測された(図5g参照)。一方、ミトコンドリア外膜(mit)、細胞質(cyto)、および核内(nuc)にプローブ(Akt-Lucus)を局在化させた細胞においては、生物発光シグナルは微弱であった(図5g参照)。
これらの結果は、Akt はEGFの刺激によって、特に細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)と細胞膜で強く活性化することを示している。また、これらの結果は、本発明のプローブが様々なキナーゼの可視化計測に応用できることを示すと共に、SLSのような、細胞内の様々な細胞内器官への局在化配列を連結したプローブを用いることにより、細胞内での空間情報をも取得できることを示している。
実施例9 CHO-IR細胞にキナーゼ検出・定量用プローブを安定に発現する細胞の樹立
IR導入細胞を、10 %ウシ胎児血清(FCS)(HyClone)を補充したHamのF-12培養液(GIBCO)中(CHO用培養液)、37℃ 、5 % CO2 下で培養した。得られたCHO細胞を付着細胞用表面処理済み培養皿に播種し、LipofectAMINE2000試薬(ライフテクノロジー社製) により37℃、5 %CO2 下でIR-Lucus発現ベクターを遺伝子導入した。その後、遺伝子導入した細胞を0.2mg/ml G418および0.2mg/ml Hygromycin B(Invitrogen)で処置し、G418(ナカライテスク)およびHygromycin Bへの耐性に対してIR-Lucusを安定的に発現する細胞を選択するために培養を続け、安定発現細胞株(IR-IRLucus安定発現細胞株)を選択した。
実施例10 ハイスループットスクリーニングに対する本プローブの有効性の確認
本プローブが、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質を探索するハイスループットスクリーニングにおいて、有効に利用できることが実証するために、384 well Cell-Culture Microplate(コーニング社)および1,536 well Cell-Culture Microplate(greiner bio-one社)による検討を行った。
IR-IRLucus安定発現細胞株を(0、250、500、1,000、2,000、4,000、6,000あるいは8,000)cells/wellとなるように、Multidrop Combi(マイクロプレート用試薬ディスペンサー)を用いて、384 well Cell-Culture Microplateには25μl/wellで、1,536 well Cell-Culture Microplateには5μl/wellで細胞を播種した。各プレートを37℃ 、5 % CO2 下で一晩、培養した後、384 well Cell-Culture Microplateにおいては20μl/well、1,536 well Cell-Culture Microplateにおいては4μl/wellの0.01% BSA(bovine serum albumin)を含むF-12培養液にて細胞洗浄を行った。0.01% BSA(bovine serum albumin)を含むF-12培養液にて、37℃ 、5 % CO2 下で2時間、培養した後、384 well Cell-Culture Microplateには5μl/wellで、1,536 well Cell-Culture Microplateには1μl/wellでインスリン溶液(終濃度2,000、500、125、31.25、7.8125、1.953125、0.4882812あるいは0 nM)を添加した。37℃ 、5 % CO2 下で培養後(10、30、60、180、360あるいは1,440分後)、mini-Gene LD-01(マイクロプレート用試薬ディスペンサー)を用いて、384 well Cell-Culture Microplateには25μl/wellで、1,536 well Cell-Culture Microplateには5μl/wellで発光基質溶液としてピッカジーンLT2.0(東洋ビーネット社)を添加した。発光強度は、ViewLux(CCDカメラ搭載マイクロプレートイメージャー)を用いて測定した。
検討した条件の中で、インスリン濃度依存的な発光強度の変化を示す代表的なグラフを示す。384 well Cell-Culture Microplateを用いた場合の最大S/B(signal/background)値(発光強度変化)は約60で、データのバラツキを示す%CV(coefficient of variation)値は約15%であった(図6a参照)。一方、1,536 well plateを用いた場合の最大S/B値は約30、%CV値は約20%を示した(図6b参照)。
さらに、購入先が異なる3種類のインスリン(Invitrogen、Roche Applied Science、ペプチド研究所)を用いて、384 well Cell-Culture Microplateにおける発光強度の変化を確認した。その結果、いずれのインスリンにおいても、発光強度の変化はほぼ同じであった(図7a参照)。また、ハイスループットスクリーニングのクオリティーを評価する指標となる統計的パラメーターであるZ’ factor(Zhang JH, Chung TD, Oldenburg KR. J Biomol Screen. 1999;4(2):67-73.)は、精度良いスクリーニングに必要とされる0.5以上を示すことが確認できた(図7b参照)。
一方、インスリン非存在下において、MG-132(Calbiochem)が発光強度に与える影響を384 well Cell-Culture Microplateを用いて検討した。その結果、MG-132濃度依存的に発光強度が上昇したことから(図8a参照)、本プローブはユビキチン−プロテアソームの分解経路によって厳密に制御されていることが示された。
次に、インスリン存在下(125 nM)において、AG 1024(インスリン受容体(IR)キナーゼ阻害剤、Calbiochem)が発光強度に与える影響を384 well Cell-Culture Microplateを用いて検討した。その結果、AG 1024濃度依存的に発光強度が抑制され、50μM AG 1024存在下で発光強度の上昇は完全に阻害された(図8b参照)。そのIC50 (50% inhibitory concentration)値(50%阻害濃度)は、0.12μMであり、AG 1024のIC50値として報告がある0.1μM(Parrizas M, Gazit A, Levitzki A, Wertheimer E, LeRoith D.Endocrinology. 1997 Apr;138(4):1427-33.)と同等であった。このことは本プローブが、キナーゼによる翻訳後修飾に影響を及ぼす物質を探索するツールとして有用であることを示している。
さらに、20枚の384 well Cell-Culture Microplateを用いてハイスループットスクリーニングへの適応性について検討を行った。その結果、インスリン刺激による発光強度のEC50(50% effective concentration)値(50%効果濃度)は、全プレートを通して安定していた(図9)。また、Z’値の平均は0.58を示したことから、本プローブを用いることで精度良いハイスループットスクリーニングが可能であることが示された。
細胞内キナーゼによるタンパク質のリン酸化は、細胞内のシグナリングにおいて最も重要なステップのひとつであり、細胞の生存、増殖、分化等の過程に深く関わっている。このため、タンパク質のリン酸化や脱リン酸化は、多くの疾患において原因あるいは症状の一環として観察される。すなわち、特定タンパク質のリン酸化を可視的に検出あるいは定量することにより、様々な疾患の早期診断が可能となる。また、タンパク質のリン酸化や脱リン酸化を増強または阻害する物質を探索し取得することにより、これらの疾患に関与する物質や、新規治療薬を開発することが可能になる。本プローブはリン酸化依存的にユビキチン/プロテアソームの分解から免れ発光シグナルを生じることから、これまで生体内に限らず細胞内における検出・定量も非常に煩雑であったタンパク質リン酸化の可視化計測を、容易に行うことが可能となった。
また本プローブは、基質配列とリン酸化認識ドメインの組み合わせを変更することで、様々なキナーゼの活性を定量することが可能であることから、細胞を用いた創薬スクリーニング(Cell-based HTS)およびin vivoイメージングによる薬効評価において非常に強力な創薬ツールになると考えられる。かかるスクリーニングは、前述するように、本発明のプローブを発現する細胞をマイクロプレートに培養し、そこにスクリーニングする対象の被験物質を添加するにより実施することができる。
配列表フリーテキスト
配列番号1は、タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)を検出または定量するためのプローブ(IR-Lucus)のアミノ酸配列;配列番号2は、タンパク質の翻訳後修飾(リン酸化)を検出または定量するためのプローブ(Akt-Lucus)のアミノ酸配列;配列番号3は細胞内膜(小胞体膜・ゴルジ体膜)の局在化配列のアミノ酸配列;配列番号4はミトコンドリア外膜の局在化配列のアミノ酸配列;配列番号5は核の局在化配列のアミノ酸配列;配列番号6は細胞質の局在化配列のアミノ酸配列を、それぞれ示す。

Claims (9)

  1. N末端側から順に下記(1)〜(5)に示すアミノ酸配列を有するプローブ:
    (1)キャップタンパク質のアミノ酸配列
    (2)N端側にユビキチンリガーゼ認識配列を連結した、修飾されうるポリペプチドのアミノ酸配列、
    (3)ユビキチン化されうるリンカー配列
    (4)修飾認識配列、および
    (5)発色性タンパク質のアミノ酸配列。
  2. C末端側に、さらに(6)局在性配列を有することを特徴とする、請求項1に記載するプローブ。
  3. 請求項1または2に記載するプローブをコードするポリヌクレオチド。
  4. 請求項1または2に記載するプローブまたは請求項3に記載するポリヌクレオチドを含む、タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量するための試薬または試薬キット。
  5. 請求項3に記載するポリヌクレオチドを導入して調製される、請求項1または2記載のプローブを発現してなる非ヒト動物またはその子孫。
  6. 請求項1または2に記載するプローブを発現する細胞を用いて、当該プローブに起因する発色を測定することを特徴とする、タンパク質の翻訳後修飾を検出または定量する方法。
  7. 上記プローブを発現する細胞が、請求項3に記載するポリヌクレオチドを細胞内に導入することによって調製されるものである、請求項6に記載する方法。
  8. 被験物質の存在下で、請求項1または2に記載するプローブに起因する発色を測定する工程を有する、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法。
  9. 被験物質を、請求項1若しくは2に記載するプローブを発現しえる細胞または請求項5記載の非ヒト動物またはその子孫に導入し、当該プローブに起因する発色を測定する工程を有する、タンパク質の翻訳後修飾に影響を及ぼす物質をスクリーニングする方法。
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