以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の光電変換装置の断面図である。
この光電変換装置は、基板1と、基板1の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層2と、第1電極層2上に形成された光電変換層3と、光電変換層3上に形成された第2電極層4とを備える。
基板1が光入射と反対側に位置する場合においては、基板1の透光性の有無は問われない一方、基板1が光入射側に位置する場合においては、基板1は、少なくとも一部が透光性を有することが好ましい。透光性基板の材料としては、ガラスがあり、ポリイミド系、ポリビニル系、または、ポリサルファイド系のうちで一定の耐熱性を有する透光性樹脂があり、また、それらの透光性樹脂を積層したもの等がある。また、非透光性基板の材料としては、ステンレスや、非透光性樹脂等がある。
また、上記基板1の表面に、凹凸が形成されていても良く、この場合、凹凸面での光の屈折または散乱等により、光の閉じ込めや、反射防止等の種々の効果を獲得できる。また、基板1の表面に、金属膜、半導体膜、絶縁膜、または、それらの複合膜等を被覆しても良い。基板1の厚さとしては、特に限定されるものではないが、構造を支持できる適当な強度や重量を有する必要があり、例えば、基板1の厚さとして、0.1mm〜40mmを採用できる。
上記第1電極層2の形態としては、光電変換層3と実質的にオーミック接触するように形成されていさえすればどのような形態でも良いが、基板1上に膜状に形成されていることが好ましい。上記第1電極層2に用いられる材料は、導電性を有している材料であれば特に限定はされないが、Mo、Al、Pt、Ti、Fe、Pd等の金属材料を用いたり、その合金を用いたり、また、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、または、Bドープ酸化亜鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性電極材料を用いたりすると好ましい。また、上記第1電極層2は、上述の材料等の単層膜であっても良く、上述の材料等を複数積層した積層膜のいずれであっても良い。
上記第1電極層2が、光の入射側に位置する場合には、第1電極層2は、光電変換に寄与する光の波長域において高い透光性を有していることが好ましい。上記第1電極層2は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等の気相法、ゾルゲル法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スプレー法、スクリーン印刷法等によって、材料となる成分を基板1上に積層することによって形成される。
上述のように、上記基板1が光入射側に位置する場合においては、第1電極層2には光透過率が高いことが求められる。したがって、その場合は、第1電極層2は、櫛形など表面を一様に覆わないグリッド形状の金属電極であるか、光透過率の高い透明導電層であるか、または、それらの要件を組み合わせて形成されることが好ましい。
上記第1電極層2は、その表面上に凹凸を有していることが好ましい。上記第1電極層2の表面に存在する凹凸は、第1電極層2と、その上に形成される光電変換層3との界面において、光電変換装置内に入射してきた光を屈折・散乱させる。その結果、入射光の光路長を長くすることができて光閉じ込め効果を向上させることができ、光電変換層3で利用できる光量を増大させることができる。凹凸の形成方法としては、第1電極層2の表面に対するドライエッチング法、ウェットエッチング法、または、サンドブラストのような機械加工等を用いることができる。
ドライエッチング法としては、Arなどの不活性ガスを用いた物理的エッチングの他に、CF4、SF6などのフッ素系ガス、CCl4、SiCl4などの塩素系ガス、または、メタンガス等を用いた化学的エッチング等がある。また、上記ウェットエッチング法としては、第1電極層2を、酸またはアルカリ溶液中に浸す方法等がある。ここで、ウェットエッチングにおいて使用できる酸溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、蟻酸、過塩素酸等の1種または2種以上の混合物等があり、アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の1種または2種以上の混合物等がる。上述のエッチング法以外の方法として、CVD法等によって第1電極層2の材料自体の結晶成長を制御することによって表面凹凸を自己形成する方法や、ゾルゲル法やスプレー法によって結晶粒形状に依存した表面凹凸を形成する方法がある。
上記光電変換層3は、第1電極層2上に実質的にオーミック接触するように形成される。上記光電変換層3は、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層を含む構造を有している。上記光電変換層3の構造としては、p型半導体層およびn型半導体層を有するpn接合を有する構造や、p型半導体層、真性(i型)半導体層、および、n型半導体層を有するpin接合を有する構造や、半導体層と金属層によるショットキー接合や、MIS構造等の半導体接合を有する構造等がある。
尚、上記i型半導体層は、光電変換機能を損なわない限り、弱いp型または弱いn型の導電型を示すものであっても良い。また、光電変換装置は、光電変換層が2つ以上積層された構造を有していても良く、光電変換装置は、所謂積層型光電変換装置であっても良い。
非特許文献1のp.184には、硫化鉄の禁制帯幅は、アモルファス成分等を含む薄膜の場合には、0.8〜0.9eVの範囲であり、パイライト型の結晶の場合には、0.9〜0.95eVの範囲であると記載されている。
本発明者は、硫化鉄にMgを追加すると、禁制帯幅が0.95〜1.26eVの範囲内の所望の値に制御された半導体層を獲得できることを、光の透過反射測定に基づく(ωα)2プロットを行うことによって発見した。詳細には、硫化鉄にMgを追加すると、禁制帯幅が0.95〜1.26eVの範囲内の所望の値に制御された半導体層を獲得できることを、上記2プロットの適切な範囲から最小二乗法を用いることによって求めた直線におけるx切片より見積もられた光学禁制帯幅の変化から見出した。
ここで、硫化鉄の禁制帯幅は、Mg濃度(Mg/Fe)が0.1原子%〜10原子%の範囲で大きく変化し、その後、飽和する傾向を示すことを見出した。そして、禁制帯幅を小刻みに制御したい場合には、0.1原子%〜10原子%の濃度範囲を用いれば良く、広い禁制帯幅を安定して得たい場合には、10原子%〜45原子%の濃度範囲を用いれば良いことを見出した。尚、硫化鉄中のMg濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)、オージェ電子分光法等公知の元素分析法で評価できる。また、禁制帯幅をさらに大きくさせたい場合には、硫化鉄がパイライト型の結晶構造を有するFeS2を含むようにする。パイライト型の結晶構造を有するFeS2は、Mgを含ませることによる禁制帯幅増加効果が高いからである。
キャリア濃度の制御は応用を考える上で極めて重要である。ここで、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層のキャリア濃度制御技術は、明らかになっていないため、本発明者は、さまざまな元素について実験を行った。そして、次に示すキャリア濃度制御技術を見出した。
すなわち、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層に、さらにI属元素を追加すると、ホールキャリア濃度を増加させることができる。ここで、追加するI属元素としてNaを選択すれば、ホールキャリア濃度を特に増加させることができる。
一方、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層に、さらにIII属元素を追加すると、電子キャリア濃度を増加させることができる。ここで、追加するIII属元素としてAlを選択すれば、電子キャリア濃度を特に増加させることができる。尚、キャリア濃度は、例えばファン・デル・ポーの方法を用いたホール測定により評価することができる。
上記第1実施形態の光電変換装置によれば、硫化鉄におけるMg濃度を適宜調整したり、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層に適切な元素を追加したりすることによって、硫化鉄半導体の禁制帯幅、キャリアタイプおよびキャリア濃度をそれぞれ独立に制御でき、応用に適した半導体層を形成することができる。
光電変換層3の製造方法としては、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スクリーン印刷法等の公知の作製方法を用いることができる。また、上記CVD法としては、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、熱CVD、ホットワイヤーCVD、MOCVD法等が挙げられる。上記作製方法の詳細は、たとえば、非特許文献1またはそれに記載されている引用文献に詳述されているとおりである。
ここで、好ましくは、必要に応じて、硫黄蒸気中または硫化水素雰囲気での硫化処理を行うようにする。硫化処理温度としては、200℃〜600℃が好ましい。硫化処理を行うと、非晶質成分の結晶化を促進させたり、硫化鉄中の硫黄含有率を増加させたり、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合を増加させたりすることができる。
ここで、非晶質成分の割合は、XRD測定を行うことにより見積もることができる。詳細には、被結晶成分検出層におけるXRD測定のピーク強度を、上記被結晶成分検出層を膜厚が同じで十分に結晶化させた層のピーク強度と比較することによって見積もることができる。また、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合は、パイライト構造のFeS2のXRDピーク強度と、それ以外の構造の硫化鉄のXRDピーク強度とを比較することによって見積もることができる。
最後に、上記第2の電極層4を光電変換層3上に形成して、光電変換装置の要部を完成する。詳細には、電極層2と同様の材料および作製方法を使用して、第2の電極層4を、光電変換層3上に実質的にオーミック接触するように形成して、光電変換装置の要部を形成する。
図2は、本発明の他の実施形態の光電変換装置の断面図である。
この光電変換装置は、基板21と、基板21の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層22と、第1電極層22上に形成された光電変換層23と、光電変換層23上に形成された透明電極層24と、透明電極層24の一部の表面領域上に形成されたグリッド電極層25とを備える。上記光電変換層23は、第1電極層22上に形成されたp型半導体層27と、p型半導体層27上に形成されたn型半導体層とで構成される。
第1電極層22は、第1実施形態と同一な方法で基板21上に形成される。上記光電変換層23は、硫化鉄にMgを追加してなる半導体層を含むp型半導体層27と、n型半導体層28とで構成されるpn接合構造を有する。上記p型半導体層27は、第1電極層22上に実質的にオーミック接触するように形成される。上記p型半導体層27を第1電極層22上に形成する方法としては、第1実施形態において、光電変換層3を第1電極層2上に形成した方法と同一の方法を使用することができる。
上記n型半導体層28は、p型半導体層27上に形成される。ここで、p型半導体層27の禁制帯幅Eg1と、前記n型半導体層28の禁制帯幅Eg2とが、Eg1<Eg2の関係を有するように、n型半導体層28を、p型半導体層27上に形成する。n型半導体層28は、Eg1<Eg2の関係をみたしているn型半導体層でありさえすれば特に限定されることがないが、代表的なものとして、硫化鉄半導体、ZnまたはMgの酸化物、硫化物、または、水酸化物等がある。p型半導体層27の禁制帯幅Eg1は、光活性層として用いるため応用目的に応じた禁制帯幅を有するように制御されている。ここで、n型半導体層28は、目的の波長帯の光に対して吸収が小さいことが好ましい。Eg1<Eg2の関係をみたしていると、上記目的が果たすことができ、高い光電変換効率を、実現することができる。また、n型半導体層28は、Mgを含んでいることが好ましい。n型半導体層28がMgを含んでいると、n型半導体層28と、硫化鉄にMgを追加してなるp型半導体層27との間で良好な整流特性を獲得できる。
n型半導体層28の作製方法としては、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スクリーン印刷法等の公知の作製方法がある。上記CVD法としては、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、熱CVD、ホットワイヤーCVD、MOCVD法等がある。ここで、必要に応じて、硫黄蒸気中または硫化水素雰囲気での硫化処理を行うことができる。硫化処理温度としては、200〜600℃が好ましい。硫化処理を行うと、硫化鉄半導体の場合は、結晶化率を向上させたり、硫黄の欠損を低減させたりすることができる。また、ZnやMg等の酸化物、硫化物、水酸化物等においては、部分的に硫化することで、硫化物の比率を増加させることができ、禁制帯幅を大きくしたり電気抵抗を大きくしたりすることができる。
また、上記p型半導体層27中のMg濃度は、pn界面で最も高く、かつ、上記界面から離れるに従って低くなることが好ましい。p型半導体層27中のMg濃度の変動が、上記界面から離れるに従って低くなる濃度勾配を有することにより、高い光電変換効率を獲得することができる。尚、デバイス構造におけるMg濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)や、オージェ電子分光法等の公知の元素分析法を用いて、深さ方向を分析することによって評価することができる。また、Mgの濃度勾配を形成する方法としては、例えば、n層またはp/n界面にMgを含ませておき、その後、200〜500℃で加熱処理する方法がある。このようにすると、熱処理条件により濃度勾配を制御することができる。
透明電極層24は、光電変換層23上に実質的にオーミック接触するように形成される。具体的には、第1実施形態において、電極層2について行った説明のうちで透光性を有する場合と同一の材質および作製方法を用いて、光電変換層23上に透明電極層24を作成する。
上記グリッド電極層25は、透明電極層24の一部の表面領域上に形成される。具体的には、第1実施形態において、電極層2について行った材質および作製方法と同一の材質および作製方法を用いて、透明電極層24の一部の表面領域上にグリッド電極層25を作成する。このようにして、光電変換効率の高い光電変換装置を形成する。
図3は、本発明の第1〜第6実施形態の硫化物半導体および比較例1の硫化物半導体の模式断面図である。
また、以下の表1は、本発明の第1〜第6実施形態の硫化物半導体および比較例1の硫化物半導体の化合物の種類および濃度を示す表である。
以下に、図3および表1に基づいて、第1〜6実施形態の硫化物半導体について説明する。
第1〜第6実施形態の硫化物半導体は、厚さが1.1mmのガラス基板31上に、スプレー熱分解法および硫化法を併用して、硫化鉄層32を形成することによって、作製されている。
詳細には、例えば、純水500mlに、塩化鉄(FeCl2)とチオ尿素(NH2CSNH2)とを混入して、塩化鉄(FeCl2)の濃度が、50mmol/lで、かつ、チオ尿素(NH2CSNH2)の濃度が、100mmol/lである溶液を作成する。
次に、作成した溶液に、表1に示された濃度(mmol/l)を有する塩化マグネシウム(MgCl2)をさらに溶解させて、スプレー用の溶液を作製する。次に、ガラス基板31を、ホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱した後、ホットプレート上に上記溶液をスプレー塗布して、薄膜を形成する。
スプレー塗布して形成した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されないことを確かめ、薄膜の主成分がFeSであることを確認する。
次に、ガラス基板31に薄膜を形成してなるサンプルを、硫黄蒸気雰囲気において、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって、硫黄蒸気を発生させて、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後に、XRD測定を行い、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。硫化鉄層32の厚さを、段差膜厚計を用いて測定したところ、700nmであった。このようにして、図3に示す硫化鉄半導体を作製する。
表1に示されている導電型は、ホール測定の結果に基づいて決定されている。ホール測定の条件は以下のとおりである。電極材料としてAlを用い、電極構造はファン・デル・ポーの方法を用いた。測定は(株)東陽テクニカ製のRESITEST8300を用い、磁場最大振幅0.6T、磁場周波数0.1Hz、室温、ドライ窒素雰囲気で行った。また、表1に示されているMg/Fe比は、オージェ電子分光測定の結果に基づいて決定されている。また、Eg(eV)は、光学バンドギャップ(Eg)測定に基づいて決定されている。
ここで、Egは、光の透過率および反射率測定から光吸収係数αを求め、光吸収係数の2乗(ω2α2)を入射光のエネルギーに対してプロットし、そのプロットの適切な範囲から最小二乗法を用いて求めた直線のx切片に基づいて算出された。すなわち、上記x切片から直接遷移バンドギャップを求めるようにした。
また、表1に示された濃度(mmol/l)は、スプレー用溶液を作製するために用いた塩化マグネシウム(MgCl2)の濃度を示している。
表1に示すように、Mgを含ませていない比較例1およびMgを含ませた第1〜第6実施形態のいずれの場合も、キャリアタイプはp型であった。また、第1〜第6実施形態を比較すると、Egは、Mg/Fe比が10%まではMg濃度が増加するに従って急激に増加し、その後、飽和傾向を示している。したがって、硫化鉄にMgを含ませることによって、禁制帯幅を制御できる。
次に、ドーピングをした半導体層について説明する。
本発明の第7および第8実施形態の硫化物半導体は、ドーピングを行った半導体層である。第7および第8実施形態の硫化物半導体も、第1〜第6実施形態と同様に、図3に示す模式断面図を有する。
また、以下の表2は、本発明の第7および第8実施形態の硫化物半導体および比較例1の硫化物半導体の化合物の種類および濃度を表す図である。
以下、図3および表2に基づいて、第7および第8実施形態、および、比較例1の半導体層について説明する。
第7および第8実施形態の硫化鉄半導体は、1.1mmの厚さを有するガラス基板31上に、スプレー熱分解法および硫化法を併用して硫化鉄層32を形成することによって作製されている。
詳細には、第4実施形態で使用したスプレー溶液に、さらに表2に示した導電型に制御するための不純物を含む化合物(p型の場合はNaCl、n型の場合はAlCl3)を溶解させ、スプレー用の溶液を作製する。次に、ガラス基板31を、ホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱した後、ホットプレート上に上記溶液をスプレー塗布して、薄膜を形成する。
スプレー塗布して形成した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されないことを確かめる。このことによって、薄膜の主成分がFeSであることを確認する。
次に、硫黄蒸気雰囲気において、ガラス基板31に薄膜を形成してなるサンプルを、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって、硫黄蒸気を発生させて、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後にXRD測定を行って、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。また、硫化鉄層32の厚さを、段差膜厚計を用いて測定したところ、700nmであった。このようにして、硫化鉄半導体を作製する。
表2に示されている導電型およびキャリア濃度は、ホール測定の結果に基づいて決定されている。ホール測定の条件は以下のとおりである。電極材料としてAlを用い、電極構造はファン・デル・ポーの方法を用いた。測定は(株)東陽テクニカ製のRESITEST8300を用い、磁場最大振幅0.6T、磁場周波数0.1Hz、室温、ドライ窒素雰囲気で行った。また、表2に示されている膜中元素濃度(p型の場合はNa濃度、n型の場合はAl濃度)は、オージェ電子分光測定の結果に基づいて決定されている。
表2に示すように、ドーピングを行っていない比較例1では、キャリアタイプはp型であり、キャリア濃度は1×1017cm−3であった。また、Naを含ませた第7実施形態では、キャリアタイプはp型であり、キャリア濃度は1×1019cm−3であった。
このことから、Mgを含む硫化鉄において、Naを含ませると、ホールキャリア濃度を増加させることができる。また、Alを含ませた第8実施形態では、キャリアタイプはn型であり、キャリア濃度は8×1018cm−3であった。このことから、Mgを含む硫化鉄において、Alを含ませると、電子キャリア濃度を増加させることができる。このように、硫化鉄半導体の禁制帯幅、キャリアタイプおよびキャリア濃度を、それぞれ独立に制御できて、応用に適した半導体層を、獲得することができる。
次に、光電変換装置について説明する。
本発明の第9〜第12実施形態の光電変換素子は、図2に示す断面図を有している。また、表3は、第9〜第12実施形態の光電変換素子が有するn型半導体層の種類、および、それを用いた光電変換装置の光電変換効率を示す表である。
以下、図2および表3に基づいて、第9〜第12実施形態の光電変換装置について説明する。
第9〜第12実施形態の光電変換装置は、基板21と、基板21の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層22と、第1電極層22上に形成された光電変換層23と、光電変換層23上に形成された透明電極層24と、透明電極層24の一部の表面領域上に形成されたグリッド電極層25とを備える。
光電変換層23は、第1電極層22上に形成されたp型半導体層27と、p型半導体層27上に形成されたn型半導体層28により構成される。ここで、第9〜第12実施形態の光電変換装置は、n型半導体層28の材質および作製方法が異なっている点を除いて、同様である。
第9実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。
先ず、例えば、1.1mmの板厚を有するガラス基板21上に、500nm厚のPt膜を真空蒸着法によって形成し、その上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて第1電極層22を形成する。次に、第1電極層22上にスプレー熱分解法および硫化法を併用することによって、Mgを含むFeS2パイライトからなるp型半導体層27を形成する。詳細には、Mgを含むp型のFeS2パイライトを作製するに際し、p型用スプレー溶液として、表1の第3実施形態と同じものを用い、第1電極層22が積層されたガラス基板21をホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。
次に、硫黄蒸気雰囲気において500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって硫黄蒸気を発生させ、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。ここで、上記硫化処理後にXRD測定を行って、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。尚。一実験例では、FeS2パイライト膜の膜厚は2μmであった。このようにして、p型半導体層27までを形成する。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、MgおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、表2の第8実施形態と同じ溶液を純水で20倍に希釈したものを用い、p型のFeS2パイライトまで形成した基板を、ホットプレート上、大気中で約100℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。このとき、膜厚が50nmになるようにスプレー回数を調節した後、p型の場合と同様に硫黄蒸気雰囲気において500℃で焼成を行う。ここで、焼成時間を10分間とした。このようにして、電極層22上に形成されたp型半導体層27と、p型半導体層27上に形成されたn型半導体層28とからなる光電変換層23を形成する。ここで、p型半導体層27の禁制帯幅は、作製に用いたスプレー溶液から明らかに第3実施形態に等しくなっている。n型半導体層28の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第1〜第6実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、1.29eVであった。このことから、Eg1<Eg2の関係をみたすようにすることができた。
その後、上記光電変換層23上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて透明導電膜24を形成した後、透明導電膜24上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成してグリッド電極25を形成する。このようにして、図2に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。そして、上記表3に示す結果を得た。
次に、第10実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。第9実施形態と同様にして、p型半導体層27までを形成する。続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、MgおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、表1の第1実施形態と同じ溶液に、AlCl3を100mmol/lとなるように加えた後、純水で20倍に希釈したものを用い、それ以降の工程は、第9実施形態と同様にして、図2に示す光電変換装置を形成する。ここで、第10実施形態における、p型半導体層27の禁制帯幅は作製に用いたスプレー溶液から明らかに第3実施形態に等しくなっている。n型半導体層28の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第1〜6実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、1.10eVであった。したがって、Eg1>Eg2の関係を有している。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表3に、光電変換効率の測定結果を示している。
次に、第11実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。第9実施形態と同様にして、p型半導体層27までを形成する。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のZnOを作製するため再びスプレー塗布を行う。詳細には、酸素欠損を有するn型のZnOを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、純水500mlに、塩化亜鉛(ZnCl2)を混入して、塩化亜鉛(ZnCl2)が、5mmol/lである溶液を作成し、スプレー用の溶液とする。次に、p型のFeS2パイライトまで形成した基板をホットプレート上、大気中で約100℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。このとき、膜厚が200nmになるようにスプレー回数を調節した後、ホットプレート上、大気中で約200℃に加熱して、10分間、乾燥および酸化させる。そして、電極層22上に形成されたp型半導体層27と、p型半導体層27上に形成されたn型半導体層28とからなる光電変換層23を形成する。ここで、上記方法と同様にしてガラス基板上にn型のZnOを作製し、抵抗率および禁制帯幅の測定を行った。抵抗率は、くし型のAg電極を積層したうえで行った結果、2×10−9Ωcmであった。禁制帯幅は、硫化鉄の場合と同様の方法で求めた結果、3.4eVであった。したがって、Eg1<Eg2の関係をみたしている。
その後、上記光電変換層23上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて透明導電膜24を形成した後、透明導電膜24上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成してグリッド電極25を形成する。このようにして、図2に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表3に、光電変換効率の測定結果を示している。
次に、第12実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。第9実施形態と同様にして、p型半導体層27までを形成する。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のZnOを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、Mgを含み酸素欠損を有するn型のZnOを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、純水500mlに、塩化亜鉛(ZnCl2)および塩化マグネシウム(MgCl2)を混入して、塩化亜鉛(ZnCl2)が5mmol/l、塩化マグネシウム(MgCl2)が0.5mmol/lである溶液を作成し、スプレー用の溶液とする。それ以降の工程は、第11実施形態と同様にして、図2に示す光電変換装置を形成する。
ここで、上記方法と同様にしてガラス基板上にn型のZnOを作製し、抵抗率および禁制帯幅の測定を行った。抵抗率は、くし型のAg電極を積層したうえで行った結果、2×10−9Ωcmであった。禁制帯幅は硫化鉄の場合と同様の方法で求めた結果、3.5eVであった。したがって、Eg1<Eg2の関係をみたしている。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表3に、光電変換効率の測定結果を示している。
表3に示すように、第9〜第12実施形態のすべての光電変換装置が、整流性を示し、各光電変換装置の変換効率が、2%を越える高い値になった。このことから、硫化鉄と、Mgを含む硫化鉄半導体を使用すると、良好なpn接合を、構成することができる。
また、p型半導体の禁制帯幅Eg1とn型半導体の禁制帯幅Eg2の関係がEg1>Eg2である第10実施形態と、Eg1<Eg2である第9,11,12実施形態とを比較すると、後者の方が、光電変換効率が高くなっていることがわかる。したがって、禁制帯幅がEg1<Eg2の関係を有していると、より高い光電変換効率を実現することができる。
また、Mgを含ませていないn型ZnO半導体層を用いている第11実施形態と、Mgを含むn型ZnO半導体層を用いている第12実施形態とを比較すると、後者の方が、光電変換効率が高くなっていることがわかる。したがって、n型半導体層がMgを含むと、良好な整流特性が得られ、より高い光電変換効率を実現できる。
尚、上記第9〜12実施形態では、本発明のp型半導体とn型半導体とからなるpn接合を用いて光電変換素子を作製したが、本発明のp型半導体とn型半導体とからなるpn接合を用いてダイオードや、トランジスタ(pnpトランジスタ、npnトランジスタ、pnipトランジスタ)や、pn接合を有するスイッチ(pnpmスイッチ、pnpnスイッチ)等のpn接合素子を作製しても良いことは勿論である。本発明のp型半導体と、n型半導体とからなるpn接合を用いてpn接合素子を作製すると、そのpn接合素子の整流特性を格段に向上させることができて、pn接合素子の素子特性を格段に向上させることができる。
図4は、本発明の一実施形態の光電変換装置の断面図である。
この光電変換装置は、基板101と、基板101の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層102と、第1電極層102上に形成された光電変換層3と、光電変換層103上に形成された第2電極層104とを備える。
基板101が光入射と反対側に位置する場合においては、基板101の透光性の有無は問われない一方、基板101が光入射側に位置する場合においては、基板101は、少なくとも一部が透光性を有することが好ましい。透光性基板の材料としては、ガラスがあり、ポリイミド系、ポリビニル系、または、ポリサルファイド系のうちで一定の耐熱性を有する透光性樹脂があり、また、それらの透光性樹脂を積層したもの等がある。また、非透光性基板の材料としては、ステンレスや、非透光性樹脂等がある。
また、上記基板101の表面に、凹凸が形成されていても良く、この場合、凹凸面での光の屈折または散乱等により、光の閉じ込めや、反射防止等の種々の効果を獲得できる。また、基板101の表面に、金属膜、半導体膜、絶縁膜、または、それらの複合膜等を被覆しても良い。基板1の厚さとしては、特に限定されるものではないが、構造を支持できる適当な強度や重量を有する必要があり、例えば、基板1の厚さとして、0.1mm〜40mmを採用できる。
上記第1電極層102の形態としては、光電変換層103と実質的にオーミック接触するように形成されていさえすればどのような形態でも良いが、基板1上に膜状に形成されていることが好ましい。上記第1電極層102に用いられる材料は、導電性を有している材料であれば特に限定はされないが、Mo、Al、Pt、Ti、Fe、Pd等の金属材料を用いたり、その合金を用いたり、また、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、または、Bドープ酸化亜鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性電極材料を用いたりすると好ましい。また、上記第1電極層2は、上述の材料等の単層膜であっても良く、上述の材料等を複数積層した積層膜のいずれであっても良い。
上記第1電極層2が、光の入射側に位置する場合には、第1電極層102は、光電変換に寄与する光の波長域において高い透光性を有していることが好ましい。上記第1電極層102は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等の気相法、ゾルゲル法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スプレー法、スクリーン印刷法等によって、材料となる成分を基板101上に積層することによって形成される。
上述のように、上記基板1が光入射側に位置する場合においては、第1電極層102には光透過率が高いことが求められる。したがって、その場合は、第1電極層102は、櫛形など表面を一様に覆わないグリッド形状の金属電極であるか、光透過率の高い透明導電層であるか、または、それらの要件を組み合わせて形成されることが好ましい。
上記第1電極層102は、その表面上に凹凸を有していることが好ましい。上記第1電極層102の表面に存在する凹凸は、第1電極層102と、その上に形成される光電変換層103との界面において、光電変換装置内に入射してきた光を屈折・散乱させる。その結果、入射光の光路長を長くすることができて光閉じ込め効果を向上させることができ、光電変換層103で利用できる光量を増大させることができる。凹凸の形成方法としては、第1電極層102の表面に対するドライエッチング法、ウェットエッチング法、または、サンドブラストのような機械加工等を用いることができる。
ドライエッチング法としては、Arなどの不活性ガスを用いた物理的エッチングの他に、CF4、SF6などのフッ素系ガス、CCl4、SiCl4などの塩素系ガス、または、メタンガス等を用いた化学的エッチング等がある。また、上記ウェットエッチング法としては、第1電極層102を、酸またはアルカリ溶液中に浸す方法等がある。ここで、ウェットエッチングにおいて使用できる酸溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、蟻酸、過塩素酸等の1種または2種以上の混合物等があり、アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の1種または2種以上の混合物等がる。上述のエッチング法以外の方法として、CVD法等によって第1電極層2の材料自体の結晶成長を制御することによって表面凹凸を自己形成する方法や、ゾルゲル法やスプレー法によって結晶粒形状に依存した表面凹凸を形成する方法がある。
上記光電変換層103は、第1電極層102上に実質的にオーミック接触するように形成される。上記光電変換層103は、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層を含む構造を有している。上記光電変換層103の構造としては、p型半導体層およびn型半導体層を有するpn接合を有する構造や、p型半導体層、真性(i型)半導体層、および、n型半導体層を有するpin接合を有する構造や、半導体層と金属層によるショットキー接合や、MIS構造等の半導体接合を有する構造等がある。
尚、上記i型半導体層は、光電変換機能を損なわない限り、弱いp型または弱いn型の導電型を示すものであっても良い。また、光電変換装置は、光電変換層が2つ以上積層された構造を有していても良く、光電変換装置は、所謂積層型光電変換装置であっても良い。
非特許文献1のp.184には、硫化鉄の禁制帯幅は、アモルファス成分等を含む薄膜の場合には、0.8〜0.9eVの範囲であり、パイライト型の結晶の場合には、0.9〜0.95eVの範囲であると記載されている。
本発明者は、硫化鉄にZnを追加すると、禁制帯幅が0.95〜1.26eVの範囲内の所望の値に制御された半導体層を獲得できることを、光の透過反射測定に基く(ωα)2プロットを行うことによって発見した。詳細には、硫化鉄にZnを追加すると、禁制帯幅が0.95〜1.26eVの範囲内の所望の値に制御された半導体層を獲得できることを、上記2プロットの適切な範囲から最小二乗法を用いることによって求めた直線におけるx切片より見積もられた光学禁制帯幅の変化から見出した。
ここで、硫化鉄の禁制帯幅は、Zn濃度(Zn/Fe)が0.1原子%〜30原子%の範囲で大きく変化し、その後、飽和する傾向を示すことを見出した。そして、禁制帯幅を小刻みに制御したい場合には、0.1原子%〜30原子%の濃度範囲を用いれば良く、広い禁制帯幅を安定して得たい場合には、30原子%〜45原子%の濃度範囲を用いれば良いことを見出した。尚、硫化鉄中のZn濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)、オージェ電子分光法等公知の元素分析法で評価できる。また、禁制帯幅をさらに大きくさせたい場合には、硫化鉄がパイライト型の結晶構造を有するFeS2を含むようにする。パイライト型の結晶構造を有するFeS2は、Znを含ませることによる禁制帯幅増加効果が高いからである。
キャリア濃度の制御は応用を考える上で極めて重要である。ここで、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層のキャリア濃度制御技術は、明らかになっていないため、本発明者は、さまざまな元素について実験を行った。そして、次に示すキャリア濃度制御技術を見出した。
すなわち、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層に、さらにI属元素を追加すると、ホールキャリア濃度を増加させることができる。ここで、追加するI属元素としてNaを選択すれば、ホールキャリア濃度を特に増加させることができる。
一方、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層に、さらにIII属元素を追加すると、電子キャリア濃度を増加させることができる。ここで、追加するIII属元素としてAlを選択すれば、電子キャリア濃度を特に増加させることができる。尚、キャリア濃度は、例えばファン・デル・ポーの方法を用いたホール測定により評価することができる。
上記一実施形態の光電変換装置によれば、硫化鉄におけるZn濃度を適宜調整したり、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層に適切な元素を追加したりすることによって、硫化鉄半導体の禁制帯幅、キャリアタイプおよびキャリア濃度をそれぞれ独立に制御でき、応用に適した半導体層を形成することができる。
光電変換層3の製造方法としては、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スクリーン印刷法等の公知の作製方法を用いることができる。また、上記CVD法としては、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、熱CVD、ホットワイヤーCVD、MOCVD法等が挙げられる。上記作製方法の詳細は、たとえば、非特許文献1またはそれに記載されている引用文献に詳述されているとおりである。
ここで、好ましくは、必要に応じて、硫黄蒸気中または硫化水素雰囲気での硫化処理を行うようにする。硫化処理温度としては、200℃〜600℃が好ましい。硫化処理を行うと、非晶質成分の結晶化を促進させたり、硫化鉄中の硫黄含有率を増加させたり、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合を増加させたりすることができる。
ここで、非晶質成分の割合は、XRD測定を行うことにより見積もることができる。詳細には、被結晶成分検出層におけるXRD測定のピーク強度を、上記被結晶成分検出層を膜厚が同じで十分に結晶化させた層のピーク強度と比較することによって見積もることができる。また、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合は、パイライト構造のFeS2のXRDピーク強度と、それ以外の構造の硫化鉄のXRDピーク強度とを比較することによって見積もることができる。
最後に、上記第2の電極層104を光電変換層103上に形成して、光電変換装置の要部を完成する。詳細には、電極層2と同様の材料および作製方法を使用して、第2の電極層4を、光電変換層3上に実質的にオーミック接触するように形成して、光電変換装置の要部を形成する。
図5は、本発明の他の実施形態の光電変換装置の断面図である。
この光電変換装置は、基板121と、基板121の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層122と、第1電極層122上に形成された光電変換層123と、光電変換層23上に形成された透明電極層124と、透明電極層124の一部の表面領域上に形成されたグリッド電極層125とを備える。上記光電変換層123は、第1電極層122上に形成されたp型半導体層127と、p型半導体層127上に形成されたn型半導体層とで構成される。
第1電極層122は、上記一実施形態と同一な方法で基板121上に形成される。上記光電変換層123は、硫化鉄にZnを追加してなる半導体層を含むp型半導体層127と、n型半導体層128とで構成されるpn接合構造を有する。上記p型半導体層127は、第1電極層122上に実質的にオーミック接触するように形成される。上記p型半導体層127を第1電極層122上に形成する方法としては、上記一実施形態において、光電変換層103を第1電極層102上に形成した方法と同一の方法を使用することができる。
上記n型半導体層128は、p型半導体層127上に形成される。ここで、p型半導体層127の禁制帯幅Eg1と、前記n型半導体層128の禁制帯幅Eg2とが、Eg1<Eg2の関係を有するように、n型半導体層128を、p型半導体層127上に形成する。n型半導体層128は、Eg1<Eg2の関係をみたしているn型半導体層でありさえすれば特に限定されることがないが、代表的なものとして、硫化鉄半導体、ZnまたはMgの酸化物、硫化物、または、水酸化物等がある。p型半導体層127の禁制帯幅Eg1は、光活性層として用いるため応用目的に応じた禁制帯幅を有するように制御されている。ここで、n型半導体層128は、目的の波長帯の光に対して吸収が小さいことが好ましい。Eg1<Eg2の関係をみたしていると、上記目的が果たすことができ、高い光電変換効率を、実現することができる。また、n型半導体層128は、Znを含んでいることが好ましい。n型半導体層128がZnを含んでいると、n型半導体層128と、硫化鉄にZnを追加してなるp型半導体層127との間で良好な整流特性を獲得できる。
n型半導体層128の作製方法としては、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スクリーン印刷法等の公知の作製方法がある。上記CVD法としては、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、熱CVD、ホットワイヤーCVD、MOCVD法等がある。ここで、必要に応じて、硫黄蒸気中または硫化水素雰囲気での硫化処理を行うことができる。硫化処理温度としては、200〜600℃が好ましい。硫化処理を行うと、硫化鉄半導体の場合は、結晶化率を向上させたり、硫黄の欠損を低減させたりすることができる。また、ZnやMg等の酸化物、硫化物、水酸化物等においては、部分的に硫化することで、硫化物の比率を増加させることができ、禁制帯幅を大きくしたり電気抵抗を大きくしたりすることができる。
また、上記p型半導体層127中のZn濃度は、pn界面で最も高く、かつ、上記界面から離れるに従って低くなることが好ましい。p型半導体層127中のZn濃度の変動が、上記界面から離れるに従って低くなる濃度勾配を有することにより、高い光電変換効率を獲得することができる。尚、デバイス構造におけるZn濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)や、オージェ電子分光法等の公知の元素分析法を用いて、深さ方向を分析することによって評価することができる。また、Znの濃度勾配を形成する方法としては、例えば、n層またはp/n界面にZnを含ませておき、その後、200〜500℃で加熱処理する方法がある。このようにすると、熱処理条件により濃度勾配を制御することができる。
透明電極層124は、光電変換層123上に実質的にオーミック接触するように形成される。具体的には、上記一実施形態において、電極層102について行った説明のうちで透光性を有する場合と同一の材質および作製方法を用いて、光電変換層123上に透明電極層124を作成する。
上記グリッド電極層125は、透明電極層124の一部の表面領域上に形成される。具体的には、上記一実施形態において、電極層102について行った材質および作製方法と同一の材質および作製方法を用いて、透明電極層124の一部の表面領域上にグリッド電極層125を作成する。このようにして、光電変換効率の高い光電変換装置を形成する。
図6は、本発明の第13〜第18実施形態の硫化物半導体および比較例2の硫化物半導体の模式断面図である。
また、以下の表4は、本発明の第13〜第18実施形態の硫化物半導体および比較例2の硫化物半導体の化合物の種類および濃度を表す図である。
以下に、図6および表4に基づいて、第13〜18実施形態の硫化物半導体について説明する。
第13〜第18実施形態の硫化物半導体は、厚さが1.1mmのガラス基板31上に、スプレー熱分解法および硫化法を併用して、硫化鉄層132を形成することによって、作製されている。
詳細には、例えば、純水500mlに、塩化鉄(FeCl2)とチオ尿素(NH2CSNH2)とを混入して、塩化鉄(FeCl2)の濃度が、50mmol/lで、かつ、チオ尿素(NH2CSNH2)の濃度が、100mmol/lである溶液を作成する。
次に、作成した溶液に、表4に示された濃度(mmol/l)を有する塩化亜鉛(ZnCl2)をさらに溶解させて、スプレー用の溶液を作製する。次に、ガラス基板31を、ホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱した後、ホットプレート上に上記溶液をスプレー塗布して、薄膜を形成する。
スプレー塗布して形成した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されないことを確かめ、薄膜の主成分がFeSであることを確認する。
次に、ガラス基板31に薄膜を形成してなるサンプルを、硫黄蒸気雰囲気において、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって、硫黄蒸気を発生させて、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後に、XRD測定を行い、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。硫化鉄層132の厚さを、段差膜厚計を用いて測定したところ、700nmであった。このようにして、図6に示す硫化鉄半導体を作製する。
表4に示されている導電型は、ホール測定の結果に基づいて決定されている。ホール測定の条件は以下のとおりである。電極材料としてAlを用い、電極構造はファン・デル・ポーの方法を用いた。測定は(株)東陽テクニカ製のRESITEST8300を用い、磁場最大振幅0.6T、磁場周波数0.1Hz、室温、ドライ窒素雰囲気で行った。また、表4に示されているZn/Fe比は、オージェ電子分光測定の結果に基づいて決定されている。また、Eg(eV)は、光学バンドギャップ(Eg)測定に基づいて決定されている。
ここで、Egは、光の透過率および反射率測定から光吸収係数αを求め、光吸収係数の2乗(ω2α2)を入射光のエネルギーに対してプロットし、そのプロットの適切な範囲から最小二乗法を用いて求めた直線のx切片に基づいて算出された。すなわち、上記x切片から直接遷移バンドギャップを求めるようにした。
また、表4に示された濃度(mmol/l)は、スプレー用溶液を作製するために用いた塩化亜鉛(ZnCl2)の濃度を示している。
表4に示すように、Znを含ませていない比較例2およびZnを含ませた第13〜第18実施形態のいずれの場合も、キャリアタイプはp型であった。また、第13〜第18実施形態を比較すると、Egは、Zn/Fe比が30%まではZn濃度が増加するに緩やかに増加し、その後、飽和傾向を示している。したがって、硫化鉄にZnを含ませることによって、禁制帯幅を精密に制御できる。
次に、ドーピングをした半導体層について説明する。
本発明の第19および第20実施形態の硫化物半導体は、ドーピングを行った半導体層である。第18および第20実施形態の硫化物半導体も、第13〜第18実施形態と同様に、図6に示す模式断面図を有する。
また、以下の表5は、本発明の第19および第20実施形態の硫化物半導体および比較例2の硫化物半導体の化合物の種類および濃度を示す表である。
以下、図6および表5に基づいて、第19および第20実施形態、および、比較例2の半導体層について説明する。
第19および第20実施形態の硫化鉄半導体は、1.1mmの厚さを有するガラス基板131上に、スプレー熱分解法および硫化法を併用して硫化鉄層132を形成することによって作製されている。
詳細には、第16実施形態で使用したスプレー溶液に、さらに表5に示した導電型に制御するための不純物を含む化合物(p型の場合はNaCl、n型の場合はAlCl3)を溶解させ、スプレー用の溶液を作製する。次に、ガラス基板31を、ホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱した後、ホットプレート上に上記溶液をスプレー塗布して、薄膜を形成する。
スプレー塗布して形成した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されないことを確かめる。このことによって、薄膜の主成分がFeSであることを確認する。
次に、硫黄蒸気雰囲気において、ガラス基板131に薄膜を形成してなるサンプルを、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって、硫黄蒸気を発生させて、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後にXRD測定を行って、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。また、硫化鉄層132の厚さを、段差膜厚計を用いて測定したところ、700nmであった。このようにして、図6に示す硫化鉄半導体を作製する。
表5に示されている導電型およびキャリア濃度は、ホール測定の結果に基づいて決定されている。ホール測定の条件は以下のとおりである。電極材料としてAlを用い、電極構造はファン・デル・ポーの方法を用いた。測定は(株)東陽テクニカ製のRESITEST8300を用い、磁場最大振幅0.6T、磁場周波数0.1Hz、室温、ドライ窒素雰囲気で行った。また、表5に示されている膜中元素濃度(p型の場合はNa濃度、n型の場合はAl濃度)は、オージェ電子分光測定の結果に基づいて決定されている。
表5に示すように、ドーピングを行っていない比較例2では、キャリアタイプはp型であり、キャリア濃度は1×1017cm−3であった。また、Naを含ませた第19実施形態では、キャリアタイプはp型であり、キャリア濃度は1×1019cm−3であった。
このことから、Znを含む硫化鉄において、Naを含ませると、ホールキャリア濃度を増加させることができる。また、Alを含ませた第20実施形態では、キャリアタイプはn型であり、キャリア濃度は8×1018cm−3であった。このことから、Znを含む硫化鉄において、Alを含ませると、電子キャリア濃度を増加させることができる。このように、硫化鉄半導体の禁制帯幅、キャリアタイプおよびキャリア濃度を、それぞれ独立に制御できて、応用に適した半導体層を、獲得することができる。
次に、光電変換装置について説明する。
本発明の第21〜第24実施形態の光電変換素子は、図5に示す断面図を有している。また、表6は、第21〜第24実施形態の光電変換素子が有するn型半導体層の種類、および、それを用いた光電変換装置の光電変換効率を示す表である。
以下、図5および表6に基づいて、第21〜第24実施形態の光電変換装置について説明する。
第21〜第24実施形態の光電変換装置は、基板121と、基板121の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層122と、第1電極層122上に形成された光電変換層123と、光電変換層123上に形成された透明電極層124と、透明電極層124の一部の表面領域上に形成されたグリッド電極層125とを備える。
光電変換層123は、第1電極層122上に形成されたp型半導体層127と、p型半導体層127上に形成されたn型半導体層128により構成される。ここで、第21〜第24実施形態の光電変換装置は、n型半導体層128の材質および作製方法が異なっている点を除いて、同様である。
第21実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。
先ず、例えば、1.1mmの板厚を有するガラス基板121上に、500nm厚のPt膜を真空蒸着法によって形成し、その上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて第1電極層122を形成する。次に、第1電極層122上にスプレー熱分解法および硫化法を併用することによって、Znを含むFeS2パイライトからなるp型半導体層127を形成する。詳細には、Znを含むp型のFeS2パイライトを作製するに際し、p型用スプレー溶液として、表4の第15実施形態と同じものを用い、第1電極層122が積層されたガラス基板121をホットプレート上かつ大気下で約200℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。
次に、硫黄蒸気雰囲気において500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度150℃で加熱することによって硫黄蒸気を発生させ、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。ここで、上記硫化処理後にXRD測定を行って、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。尚。一実験例では、FeS2パイライト膜の膜厚は2μmであった。このようにして、p型半導体層127までを形成する。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、ZnおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、表4の第20実施形態と同じ溶液を純水で20倍に希釈したものを用い、p型のFeS2パイライトまで形成した基板を、ホットプレート上、大気中で約100℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。このとき、膜厚が50nmになるようにスプレー回数を調節した後、p型の場合と同様に硫黄蒸気雰囲気において500℃で焼成を行う。ここで、焼成時間を10分間とした。このようにして、電極層22上に形成されたp型半導体層127と、p型半導体層127上に形成されたn型半導体層128とからなる光電変換層123を形成する。ここで、p型半導体層127の禁制帯幅は、作製に用いたスプレー溶液から明らかに第15実施形態に等しくなっている。n型半導体層128の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第13〜第18実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、1.29eVであった。このことから、Eg1<Eg2の関係をみたすようにすることができた。
その後、上記光電変換層123上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて透明導電膜124を形成した後、透明導電膜124上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成してグリッド電極125を形成する。このようにして、図5に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。そして、上記表6に示す結果を得た。
次に、第22実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。第21実施形態と同様にして、p型半導体層127までを形成する。続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、ZnおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、図4の実施例1と同じ溶液に、AlCl3を100mmol/lとなるように加えた後、純水で20倍に希釈したものを用い、それ以降の工程は、第21実施形態と同様にして、図5に示す光電変換装置を形成する。ここで、第22実施形態における、p型半導体層127の禁制帯幅は作製に用いたスプレー溶液から明らかに第15実施形態に等しくなっている。n型半導体層128の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第13〜18実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、1.10eVであった。したがって、Eg1>Eg2の関係を有している。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表6に、光電変換効率の測定結果を示している。
次に、第23実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。第21実施形態と同様にして、p型半導体層127までを形成する。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、ZnおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するのに際し、n型用スプレー溶液として、表4の第13実施形態と同じ溶液に、AlCl3を0.5mmol/lとなるように加えた後、純水で20倍に希釈したものを用い、それ以降の工程は、第21実施形態と同様にして、図5に示す光電変換装置を形成する。ここで、実施例10におけるp型半導体層27の禁制帯幅は、作製に用いたスプレー溶液から明らかに第15実施形態に等しくなっている。n型半導体層128の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第13〜第18実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、1.00eVであった。このことから、Eg1>Eg2の関係が成立している。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表6に、光電変換効率の測定結果を示している。
次に、第23実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。先ず、第21実施形態と同様にして、p型半導体層127までを形成する。続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。詳細には、ZnおよびAlを含むn型のFeS2パイライトを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、表4の第13実施形態と同じ溶液に、AlCl3を0.5mmol/lとなるように加えた後、純水で20倍に希釈したものを用い、それ以降の工程は、第21実施形態と同様にして、図5に示す光電変換装置を形成する。ここで、第22実施形態におけるp型半導体層27の禁制帯幅は、作製に用いたスプレー溶液から明らかに第15実施形態に等しくなっている。n型半導体層28の禁制帯幅は、上記方法と同様にしてガラス基板上にFeS2パイライトを作製し、第13〜第18実施形態と同様にして禁制帯幅の測定を行った結果、0.97eVであった。このことから、Eg1>Eg2の関係が成立している。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表6に、光電変換効率の測定結果を示している。
次に、第24実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。先ず、第21実施形態と同様にして、p型半導体層127までを形成する。続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のZnOを作製するため再びスプレー塗布を行う。詳細には、酸素欠損を有するn型のZnOを作製するに際し、n型用スプレー溶液として、純水500mlに、塩化亜鉛(ZnCl2)を混入して、塩化亜鉛(ZnCl2)が、5mmol/lである溶液を作成し、スプレー用の溶液とする。次に、p型のFeS2パイライトまで形成した基板を、ホットプレート上かつ大気中で約100℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。このとき、膜厚が200nmになるようにスプレー回数を調節した後、ホットプレート上、大気中で約200℃に加熱して、10分間、乾燥および酸化させる。電極層22上に形成されたp型半導体層127と、p型半導体層127上に形成されたn型半導体層128とからなる光電変換層123を形成する。ここで、上記方法と同様にしてガラス基板上にn型のZnOを作製し、抵抗率および禁制帯幅の測定を行った。抵抗率は、くし型のAg電極を積層したうえで行った結果、2×10−9Ωcmであった。また、禁制帯幅は、硫化鉄の場合と同様の方法で求めた結果、3.4eVであった。したがって、Eg1<Eg2の関係をみたしている。
その後、上記光電変換層123上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて透明導電膜124を形成した後、透明導電膜124上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成してグリッド電極125を形成する。このようにして、図5に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換特性を測定した。表6に、光電変換効率の測定結果である。
表6に示すように、第21〜第24実施形態の光電変換装置の全てが、整流性を示し、各光電変換装置の変換効率が、2%を越える高い値になった。このことから、硫化鉄とZnとを含む硫化鉄半導体を使用すると、良好なpn接合を構成することができる。
また、p型半導体の禁制帯幅Eg1とn型半導体の禁制帯幅Eg2の関係がEg1>Eg2である第22および第23実施形態と、Eg1<Eg2である第9および第24実施形態とを比較すると、後者の方が光電変換効率が高くなっている。したがって、禁制帯幅がEg1<Eg2の関係を有していると、より高い光電変換効率を獲得することができる。
また、Znを含有していないn型FeS2パイライト半導体層を用いている第23実施形態と、Znを含有しているn型FeS2パイライト半導体層を用いている第21および第22実施形態とを比較すると、後者の方が光電変換効率が高くなっている。したがって、n型半導体層がZnを含むと良好な整流特性が得られ、より高い光電変換効率を獲得することができる。
また、n型半導体層がZnの酸化物を含んでいる第24実施形態は、n型半導体層がZnの酸化物を含んでいない第21〜第23実施形態と比較して光電変換効率が高くなっている。したがって、n型半導体層がZnの酸化物を含むとより高い光電変換効率を獲得することができる。
尚、上記第21〜24実施形態では、本発明のp型半導体とn型半導体とからなるpn接合を用いて光電変換素子を作製したが、本発明のp型半導体とn型半導体とからなるpn接合を用いてダイオードや、トランジスタ(pnpトランジスタ、npnトランジスタ、pnipトランジスタ)や、pn接合を有するスイッチ(pnpmスイッチ、pnpnスイッチ)等のpn接合素子を作製しても良いことは勿論である。本発明のp型半導体と、n型半導体とからなるpn接合を用いてpn接合素子を作製すると、そのpn接合素子の整流特性を格段に向上させることができて、pn接合素子の素子特性を格段に向上させることができる。
図7は、本発明の一実施形態の光電変換装置の断面図である。
この光電変換装置は、基板201と、基板201の少なくとも一部の表面領域上に形成された第1電極層202と、第1電極層202上に形成された光電変換層203と、光電変換層203上に形成された第2電極層204とを備える。
基板201が光入射と反対側に位置する場合においては、基板201の透光性の有無は問われない一方、基板201が光入射側に位置する場合においては、基板201は、少なくとも一部が透光性を有することが好ましい。透光性基板の材料としては、ガラスがあり、ポリイミド系、ポリビニル系、または、ポリサルファイド系のうちで一定の耐熱性を有する透光性樹脂があり、また、それらの透光性樹脂を積層したもの等がある。また、非透光性基板の材料としては、ステンレスや、非透光性樹脂等がある。
また、上記基板1の表面に、凹凸が形成されていても良く、この場合、凹凸面での光の屈折または散乱等により、光の閉じ込めや、反射防止等の種々の効果を獲得できる。また、基板1の表面に、金属膜、半導体膜、絶縁膜、または、それらの複合膜等を被覆しても良い。基板1の厚さとしては、特に限定されるものではないが、構造を支持できる適当な強度や重量を有する必要があり、例えば、基板1の厚さとして、0.1mm〜40mmを採用できる。
上記第1電極層2の形態としては、光電変換層3と実質的にオーミック接触するように形成されていさえすればどのような形態でも良いが、基板1上に膜状に形成されていることが好ましい。上記第1電極層2に用いられる材料は、導電性を有している材料であれば特に限定はされないが、Mo、Al、Pt、Ti、Fe等の金属材料を用いたり、その合金を用いたり、また、フッ素ドープ酸化錫(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化錫(SnO2:Sb)、錫ドープ酸化インジウム(In2O3:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)、または、Bドープ酸化亜鉛(ZnO:B)等に代表される透明導電性電極材料を用いたりすると好ましい。また、上記第1電極層2は、上述の材料等の単層膜であっても良く、上述の材料等を複数積層した積層膜のいずれであっても良い。
上記第1電極層2が、光の入射側に位置する場合には、第1電極層2は、光電変換に寄与する光の波長域において高い透光性を有していることが好ましい。上記第1電極層2は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法等の気相法、ゾルゲル法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スプレー法、スクリーン印刷法等によって、材料となる成分を基板201上に積層することによって形成される。
上述のように、上記基板1が光入射側に位置する場合においては、第1電極層202には光透過率が高いことが求められる。したがって、その場合は、第1電極層202は、櫛形など表面を一様に覆わないグリッド形状の金属電極であるか、光透過率の高い透明導電層であるか、または、それらの要件を組み合わせて形成されることが好ましい。
上記第1電極層202は、その表面上に凹凸を有していることが好ましい。上記第1電極層202の表面に存在する凹凸は、第1電極層2と、その上に形成される光電変換層203との界面において、光電変換装置内に入射してきた光を屈折・散乱させる。その結果、入射光の光路長を長くすることができて光閉じ込め効果を向上させることができ、光電変換層203で利用できる光量を増大させることができる。凹凸の形成方法としては、第1電極層202の表面に対するドライエッチング法、ウェットエッチング法、または、サンドブラストのような機械加工等を用いることができる。
ドライエッチング法としては、Arなどの不活性ガスを用いた物理的エッチングの他に、CF4、SF6などのフッ素系ガス、CCl4、SiCl4などの塩素系ガス、または、メタンガス等を用いた化学的エッチング等がある。また、上記ウェットエッチング法としては、第1電極層2を、酸またはアルカリ溶液中に浸す方法等がある。ここで、ウェットエッチングにおいて使用できる酸溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、酢酸、蟻酸、過塩素酸等の1種または2種以上の混合物等があり、アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の1種または2種以上の混合物等がる。上述のエッチング法以外の方法として、CVD法等によって第1電極層2の材料自体の結晶成長を制御することによって表面凹凸を自己形成する方法や、ゾルゲル法やスプレー法によって結晶粒形状に依存した表面凹凸を形成する方法がある。
上記光電変換層203は、第1電極層202上に実質的にオーミック接触するように形成される。上記光電変換層203は、硫化鉄にIa族元素を追加してなるp型半導体層を含む構造を有している。上記光電変換層203の構造としては、p型半導体層およびn型半導体層を有するpn接合を有する構造や、さらにp+型半導体層を備えたp+pn層を有する構造や、p型半導体層、真性(i型)半導体層、および、n型半導体層を有するpin接合を有する構造や、p型半導体層のみを有するショットキー接合や、MIS構造等の半導体接合を有する構造等がある。尚、上記i型半導体層は、光電変換機能を損なわない限り、弱いp型または弱いn型の導電型を示すものであっても良い。
また、上記p+型半導体層は、p型半導体層よりも相対的に多くのホールキャリア濃度を有していればよく、p+型半導体層のホールキャリア濃度は、p型半導体層の20倍程度であることが好ましい。また、光電変換装置は、光電変換層が2つ以上積層された構造を有していても良く、光電変換装置は、所謂積層型光電変換装置であっても良い。
硫化鉄にIa族元素を追加すると、再現性に優れる良質なp型導電型半導体層を獲得できる。この理由は、以下のような理由ではないかと推測される。すなわち、X線回折測定の結果より硫化鉄の回折パターン以外の不純物結晶相が観測されなかったこと、および、硫化鉄の回折パターンにおいてピークシフトが観測されたことから、Ia族元素は、硫化鉄の結晶格子中に存在していると推察される。このことから、たとえば、一価のIa族元素が二価の鉄サイトに置換していた場合、Ia族元素がアクセプター化して、p型導電型半導体層が形成される。また、上記硫化鉄がIa族元素を含むと、硫化鉄中の欠陥密度を低減できる。これは、フォトルミネッセンス測定により評価できる。該測定においては、欠陥等を介した再結合過程が存在していると、光を発しない非輻射再結合や、欠陥準位に対応した発光が生じ、バンド間遷移に対応したフォトルミネッセンスのピーク強度が低くなる。このことから、バンド間遷移に対応したフォトルミネッセンスのピーク強度が高くなるに従って、欠陥密度が低くなる。
ここで、硫化鉄がIa族元素を含む場合には、硫化鉄がIa族元素を含まない場合に比べて、バンド間遷移に対応したフォトルミネッセンスのピーク強度が高くなるから、欠陥密度が低減されていると考えられるのである。尚、Ia族元素の中でも、Li、Na、Kは、Fe2+とのイオン半径の差が比較的小さい。硫化鉄が、Li、Na、Kのうちの少なくとも一つを、含む場合には、不純物結晶相の生成を抑制することができて好ましい。
本発明者は、上記Ia族元素がNaである場合において、その濃度が、4×1015cm−3〜2×1020cm−3であると、好ましいことを実験的に見出した。尚、硫化鉄中のIa族元素の種類および濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)、オージェ電子分光法等公知の元素分析法で評価した。
また、硫化鉄がパイライト型の結晶構造を有するFeS2を含む場合には、応用に適した半導体特性が得られることをつきとめた。パイライト型FeS2は、可視光に対して高い光吸収係数(105cm−1以下)を持つことから、太陽電池用材料として有用である。また、パイライト型FeS2は、光ファイバーで最も低損失な1.55μm以下の波長(0.85eV以下のフォトンエネルギー)に近いバンドギャップを有することから、光通信用受発光素子用材料用途で有用である。したがって、硫化鉄が、パイライト型の結晶構造を有するFeS2を有していると、硫化鉄の特性を、上記用途に有用な特性に近づけることができて好ましい。また、硫化鉄がパイライト型の結晶構造を有するFeS2を多く含む場合には、多結晶体であっても比較的高いキャリア移動度(〜100cm2/Vs)を実現できるから、安価なトランジスタ用材料として使用した場合、半導体特性を大きく向上させることができる。
光電変換層203の製造方法としては、MBE法、CVD法、蒸着法、近接昇華法、スパッタ法、ゾルゲル法、スプレー法、CBD(ケミカル・バス・デポジション)法、スクリーン印刷法等の公知の作製方法を用いることができる。また、上記CVD法としては、常圧CVD、減圧CVD、プラズマCVD、熱CVD、ホットワイヤーCVD、MOCVD法等が挙げられる。上記作製方法の詳細は、たとえば、非特許文献1またはそれに記載されている引用文献に詳述されているとおりである。
ここで、好ましくは、必要に応じて、硫黄蒸気中または硫化水素雰囲気での硫化処理を行うようにする。硫化処理温度としては、200℃〜600℃が好ましい。硫化処理を行うと、非晶質成分の結晶化を促進させたり、硫化鉄中の硫黄含有率を増加させたり、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合を増加させたりすることができる。
ここで、非晶質成分の割合は、XRD測定を行うことにより見積もることができる。詳細には、被結晶成分検出層におけるXRD測定のピーク強度を、上記被結晶成分検出層を膜厚が同じで十分に結晶化させた層のピーク強度と比較することによって見積もることができる。また、パイライト型の結晶構造を有するFeS2の割合は、パイライト構造のFeS2のXRDピーク強度と、それ以外の構造の硫化鉄のXRDピーク強度とを比較することによって見積もることができる。
最後に、上記第2の電極層204を光電変換層203上に形成して、光電変換装置の要部を完成する。詳細には、電極層202と同様の材料および作製方法を使用して、第2の電極層204を、光電変換層203上に実質的にオーミック接触するように形成して、光電変換装置の要部を形成する。
図8は、本発明の第25〜32実施形態および比較例3の硫化物半導体の概略断面図である。また、以下に示す表7は、本発明の第25〜32実施形態および比較例3の化合物の種類および濃度を表す表である。
以下、図8および表7に基づいて、第25〜32実施形態のp型半導体層について説明する。
第25〜32実施形態の硫化鉄半導体は、1.1mmの厚さを有するガラス基板221上に、スプレー熱分解法および硫化法を併用して硫化鉄層222を形成することによって、作製されている。
詳細には、例えば、純水500mlに、塩化鉄(FeCl2)とチオ尿素(NH2CSNH2)とを混入して、塩化鉄(FeCl2)が、0.05mol/lで、かつ、チオ尿素(NH2CSNH2)が、0.1mol/lである溶液を作成する。
次に、作成した溶液に、表7に化合物の種類および濃度を表すドーピング元素を含む化合物をさらに溶解させ、スプレー用の溶液を作製する。ここで、溶質が溶けにくい場合には、塩酸を加えると、溶質を溶け易くすることができる。ただし、第25〜31実施形態および比較例3においては、塩酸を加えていない。
次に、ガラス基板221を、ホットプレート上かつ大気下で約300℃に加熱した後、ホットプレート上に表7に詳細が述べられている上記溶液をスプレー塗布して、薄膜を形成する。尚、スプレー塗布して形成した薄膜を、XRD測定した結果、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されなかった。このことから、薄膜の主成分がFeSであることを確認した。
次に、硫黄蒸気雰囲気において、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度200℃未満で加熱することによって硫黄蒸気を発生させて、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後にXRD測定を行って、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。また、一実験例では、硫化鉄層22の厚さを、段差膜厚計を用いて測定したところ、700nmであった。このようにして、図8に示す硫化鉄半導体を作製する。
表7において、導電型およびキャリア濃度は、ホール測定の結果である。ホール測定の条件は以下のとおりである。電極材料としてAlを用い、電極構造はファン・デル・ポーの方法を用いた。測定は(株)東陽テクニカ製のRESITEST8300を用い、磁場最大振幅0.6T、磁場周波数0.1Hz、室温、ドライ窒素雰囲気で行った。また、表7において、Ia族元素濃度は、第25〜28、31、32実施形態では、SIMS測定で測定し、第29および30実施形態では、オージェ電子分光測定で測定した。また、表7において、PL発光強度は、フォトルミネッセンス測定で測定した。尚、PL発光強度を、比較例3のバンド間遷移に対応したフォトルミネッセンスのピーク強度を1とした場合の相対発光強度で表した。フォトルミネッセンス測定は、励起光として出力100mWのArイオンレーザー(514.5nm波長)を用い、検出器としてInGaAs検出器を用い、室温にて測定した。尚、フォトルミネッセンス強度が弱いサンプルの場合は、液体窒素または液体ヘリウムを用いて低温で測定することが好ましい。
表7に示すように、ドーピングを行っていない比較例3ではキャリアタイプはp型であり、キャリア濃度は、1016台であった。また、Ia族元素ドーピングを行った第25〜32実施形態の場合は、キャリアタイプは何れもp型であった。また、Ia族元素ドーピングを行った第25〜32実施形態では、何れも比較例3と比較して高いPL発光強度を示しており、欠陥密度が低減されている。このことから、硫化物半導体に、Ia族元素を含有させると、良質なp型の硫化鉄半導体を形成することができる。
また、第25〜30実施形態は、Ia族元素の種類が等しい一方、Ia族元素の濃度が異なっている。第25〜30実施形態を比較すると、Na濃度が増加するにつれて、ホールキャリア濃度が増加している。ただし、第25および26実施形態では、アクセプターになると考えられるIa族元素をドーピングしているにもかかわらず、比較例3と比べてキャリア濃度が低下している。この原因は明らかではないが、Ia族元素が、Fe欠損サイトをパッシベーションしているためではないかと考えられる。すなわち、比較例3では原子欠損がアクセプターとして働いていると考えられているが、二価のFeが欠損すると2つのホールを供給できるのに対して、一価のIa族元素が欠損を埋めるとホールを1つしか供給できなくなるために、キャリア濃度が低下したのではないかと考えられる。
また、比較例3と、第25〜30実施形態を比較すると、第25〜28実施形態に示すように、PL発光強度は、Ia族元素の増加に伴い緩やかに増加する。さらに、Ia族元素濃度が増加すると、第28〜30実施形態に示すように、PL発光強度が減少する。上記PL発光強度変化から、硫化鉄に含有させるIa族元素の数密度が、4×1015cm−3〜2×1020cm−3の範囲であると、欠陥密度の低い良質なp型半導体を獲得することができる。
したがって、硫化鉄中に含まれるIa族元素の濃度が、4×1015cm−3〜2×1020cm−3の範囲であると、硫化鉄半導体の導電型をp型にすることができ、Ia族元素のドーピング量に応じたキャリア濃度を実現できると同時に、欠陥密度が低減された良質なp型半導体を作成することができる。
尚、本発明のp型半導体を使用して、ダイオードやトランジスタや半導体レーザ素子等の半導体接合素子を形成すると、その半導体接合素子のp型半導体の電子伝導性等の特性を向上させることができるので、その半導体接合素子の素子特性を格段に向上させることができる。
図9は、本発明の第33〜44実施形態の光電変換装置の断面図である。また、表8は、本発明の第33〜44実施形態のスプレー溶液の種類を表す表である。
以下、図9および表8に基づいて、実施例9〜20の光電変換装置について説明する。
第33〜44実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。先ず、例えば、1.1mmの膜厚を有するガラス基板241上に、500nmのPt膜を真空蒸着法によって形成する。このようにして、ガラス基板241上に、電極層242を形成する。次に、電極層242上にスプレー熱分解法および硫化法を併用することによって、FeS2パイライトのpn接合を有する光電変換層243を形成する。その後、光電変換層243上に透明導電膜244を形成した後、透明導電膜244上にグリッド電極245を形成して、光電変換装置を形成する。
詳細には、p型のFeS2パイライトを作製するに際し、p型用スプレー溶液として、表8に示すように、表7の第25〜32実施形態と同じものをそれぞれ用い、電極層242が積層されたガラス基板241をホットプレート上かつ大気下で約300℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。スプレー塗布した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されず、FeSであることを確認する。
次に、硫黄蒸気雰囲気において、500℃で1時間焼成する。このとき、サンプルを加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度200℃未満で加熱することによって硫黄蒸気を発生させ、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後にXRD測定を行い、FeS2パイライトの単相が形成されていることをする。ここで、一実験例では、膜厚は2μmであった。
続いて、p型のFeS2パイライト上にn型のFeS2パイライトを作製するため、再びスプレー塗布を行う。純水500mlに、塩化鉄(FeCl2)とチオ尿素(NH2CSNH2)とを混入して、塩化鉄(FeCl2)が、2.5mmol/lで、かつ、チオ尿素(NH2CSNH2)が、5mmol/lである溶液を作成する。そして、作成した溶液に、表8に示したドーピング元素を含む化合物を指定の濃度でさらに溶解させ、スプレー用の溶液を作製する。尚、溶質が溶けにくい場合には、塩酸を加えると、溶質を溶け易くすることができる。第42実施形態の場合のみ、35%の塩酸0.15mlを加えることにより、水酸化ガリウム(Ga2O3・nH2O)を溶解させた。
p型のFeS2パイライトまで形成した基板を、ホットプレート上かつ大気中で約200℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。このとき、膜厚が50nmになるようにスプレー回数を調節した後、p型の場合と同様に硫黄蒸気雰囲気において500℃で焼成を行う。ここで、焼成時間を10分間とした。このようにして、電極層242上に形成されたp型半導体層247と、p型半導体層247上に形成されたn型半導体層248とからなる光電変換層243を形成する。
その後、上記光電変換層243上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて、透明導電膜244を形成した後、透明導電膜244上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成して、グリッド電極245を形成する。このようにして、図9に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で、光電変換効率を測定した。表8に、光電変換効率の測定結果を示している。
表8に示すように、第33〜44実施形態のすべての光電変換装置が整流性を示し、各光電変換装置の変換効率が、2%を越える高い値になった。このことから、p型半導体として、本発明の硫化鉄半導体を使用すると、良好なpn接合を構成することができる。
また、p型半導体層247の作製条件が同一の第36および41〜44実施形態を比較すると、n型半導体層248のドーパントとしてAl、Ga、および、Inを含んでいない第41,42実施形態の光電変換効率が、n型半導体層48のドーパントとしてAl、Ga、Inのうちの少なくとも一つの元素を含んでいる第36,43,44実施形態の光電変換効率よりも小さくなっている。このことから、n型半導体層248がドーパントとしてAl、Ga、Inのうち少なくとも一つの元素を含むと、光電変換効率を向上させることができる。
尚、第33〜44実施形態では、本発明のp型半導体と、硫化鉄を含むn型半導体とからなるpn接合を用いて光電変換素子を作製したが、本発明のp型半導体と、硫化鉄を含むn型半導体とからなるpn接合構造を用いて、ダイオードや、トランジスタ(pnpトランジスタ、npnトランジスタ、pnipトランジスタ)や、スイッチ(pnpmスイッチ、pnpnスイッチ)等のpn接合素子を作製しても良いことは勿論である。本発明のp型半導体と、硫化鉄を含むn型半導体とからなるpn接合を用いてpn接合素子を作製すると、そのpn接合素子の整流特性を格段に向上させることができて、pn接合素子の素子特定を格段に向上させることができる。
図10は、本発明の第45〜50実施形態の光電変換装置の断面図である。また、表9は、本発明の第45〜50実施形態のスプレー溶液の種類を表す表である。
以下、図10および表9に基づいて、第45〜50実施形態の光電変換装置について説明する。
第45〜50実施形態の光電変換装置を以下のように形成する。先ず、例えば、1.1mmの膜厚を有するガラス基板261上に、500nmのPt膜を真空蒸着法によって形成することによって、電極層262を形成する。次に、電極層262上にスプレー熱分解法および硫化法を併用することによって、FeS2パイライトのp+pn接合を有する光電変換層263を形成する。その後、光電変換層263上に透明導電膜264を形成した後、透明導電膜264上にグリッド電極265を形成して、光電変換装置を形成する。光電変換層263以外の部分については、第34実施形態と同様である。
光電変換層263の形成方法の詳細としては、以下のとおりである。p+型のFeS2パイライトを作製するに際し、p+型用スプレー溶液として、表9に示すように、表8の第27〜32実施形態と同じ溶液を純水で20倍に希釈した溶液をそれぞれ用い、電極層262が積層されたガラス基板261をホットプレート上かつ大気下で約300℃に加熱して、その上に上記溶液をスプレー塗布して薄膜を形成する。スプレー塗布した薄膜を、XRD測定して、鉄の酸化物や水酸化物のピークが観測されないことを確かめて、FeSであることを確認する。
次に、硫黄蒸気雰囲気中で、500℃で20分間焼成する。このとき、サンプルを、加熱するヒーターとは別のヒーターを用いて硫黄を温度200℃未満で加熱することによって硫黄蒸気を発生させ、キャリアガスとして窒素ガスを5l/minの流量で流す。上記硫化処理後にXRD測定を行い、FeS2パイライトの単相が形成されていることを確認する。ここで、一実験例は、膜厚は70nmであった。
続いて、p+型のFeS2パイライト上に、p型およびn型のFeS2パイライトを第34実施形態と同様に順次作製する。このようにして、電極層262上に形成されたp+型半導体層266と、p+型半導体層266上に形成されたp型半導体層267と、p型半導体層267上に形成されたn型半導体層268とからなる光電変換層263を形成する。
その後、上記光電変換層263上に、マグネトロンスパッタ法によりn型のガリウムドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)を700nm堆積させて、透明導電膜264を形成した後、透明導電膜264上に、櫛形の銀(Ag)をマグネトロンスパッタ法により形成して、グリッド電極265を形成する。このようにして、図10に示す光電変換装置を形成する。
本発明者は、このようにして作製した光電変換装置の光電変換効率を調査した。具体的には、このようにして作製した光電変換装置に、AM1.5(100mW/cm2)の光を照射し、セル温度25℃、セル面積1cm2の条件下で光電変換効率を測定した。表9に、光電変換効率の測定結果を示す。
また、このようにして作製した光電変換装置に対してSIMSによるIa族元素濃度の深さ方向分析を行った。この結果、p+型半導体層およびp型化合物半導体層中のIa族元素濃度が、表7に示した各半導体層単独で評価した場合と、略同等の値を示すことを確認した。
表9に示すように、第45〜50実施形態の光電変換装置の全てが整流性を示し、各光電変換装置の変換効率が、3%を越える高い値になった。このことから、p型および/またはp+型半導体として、本発明の硫化鉄半導体を使用すると、良好なp+pn接合を、構成することができる。
また、第34実施形態のpn接合を有する光電変換装置は、p+型とp型のIa族元素濃度が等しい場合のp+pn接合とみなすことができることから、第34実施形態と、第45〜50実施形態を合わせて比較した。そして、第34実施形態と、第45実施形態との比較から、p+型半導体層が、p型半導体層より多くIa族元素濃度を含むと、高い光電変換効率が得られることが示された。また、p+型半導体層中のIa族元素濃度が増加すると、光電変換効率は増加する。また、p+型半導体層中のIa族元素濃度が、p型半導体層の20倍となる第46実施形態の場合に特に急激に増加している。したがって、p+型半導体層中のIa族元素濃度を、p型化合物半導体層中のIa族元素濃度の20倍以上にすると、特に高い光電変換効率を獲得することができる。