以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.ラインプリンターの構成:
B.インク循環システムの構成:
C.インク循環システムの動作:
D.変形例:
A.ラインプリンターの構成 :
図1は、ラインプリンター1を例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構造を示した説明図である。図示されているように、本実施例のラインプリンター1は、大まかには箱型の外形形状をしており、上面には、モニターパネル2や、ユーザーが操作するための操作パネル3などが設けられている。また、ラインプリンター1の前面には、インクカートリッジを交換するためのカートリッジ交換扉4や、印刷用紙を装填するための給紙扉5が設けられており、更に、向かって右側面には、印刷された印刷用紙が排出される排紙口6が設けられている。
ラインプリンター1の内部には、各種の機能を実行する複数のユニットあるいは部品が搭載されている。先ず、ラインプリンター1のほぼ中央の位置には、印刷用紙にインクを噴射するヘッドユニット30が設けられている。ヘッドユニット30の下方には、ヘッドユニット30にインクを供給するインク供給部60が設けられており、インク供給部60には、インクが充填されたインクカートリッジ62が装着される。尚、本実施例のラインプリンター1では、黒インク(Kインク)、シアンインク(Cインク)、マゼンタインク(Mインク)、イエローインク(Yインク)の4色のインクを印刷に使用することが可能であり、このことに対応して、インク供給部60には、各色のインクが充填された4つのインクカートリッジ62が装着されるようになっている。
図1の紙面上で、ヘッドユニット30の左下の位置には、印刷用紙が装填される給紙カセット10が設けられており、給紙カセット10の右端の上面に接する位置に、給紙ローラー20が設けられている。更に、給紙ローラー20の奥側には給紙モーター22が接続されており、給紙モーター22を駆動して給紙ローラー20を回転させると、給紙カセット10から印刷用紙が1枚ずつ、ヘッドユニット30に向かって搬送されるようになっている。尚、図1では、印刷用紙の搬送経路が太い破線で示されている。
また、図1の紙面上で、ヘッドユニット30の右側の領域は空きスペースとなっており、この空きスペースの下方には、キャップ40や、吸引ポンプ50、廃液タンク52などが設けられている。本実施例のラインプリンター1では、ヘッドユニット30内のインクが、時間の経過などによって性状が劣化した場合には、ヘッドユニット30を右側の空きスペースへ移動させた後に、ヘッドユニット30の底面側にキャップ40を押し当てた状態で吸引ポンプ50を作動させることで、性状の劣化したインクを吸い出すことが可能となっている。また、吸引ポンプ50によって吸い出されたインクは、廃液タンク52に溜められる。
また、モニターパネル2や操作パネル3が設けられている部分の直ぐ下の位置には、ラインプリンター1に電力を供給するための電源ユニット70や、ラインプリンター1の各種の動きを制御する制御ユニット80などが搭載されている。
このような構成を有するラインプリンター1では、次のようにして画像を印刷する。先ず、給紙カセット10に複数枚の印刷用紙を装填すると、印刷用紙は図示しないバネによって押し上げられて、上方に設けられた給紙ローラー20に押し付けられる。給紙ローラー20は、金属製の細長い円柱を長さ方向に半分に割って形成した略半円形断面の細長い部材であり、円周部分に対応する側面はゴム材料によって形成されている。この給紙ローラー20の一端には給紙モーター22が接続されており、給紙モーター22によって駆動されて給紙ローラー20が回転することにより、給紙カセット10から印刷用紙が1枚ずつ、ヘッドユニット30に向かって送り出される。
給紙ローラー20とヘッドユニット30との間には、複数のガイドローラー24が設けられている。ガイドローラー24は、図示しないモーターによって駆動されて回転することにより、印刷用紙をガイドしながら、ヘッドユニット30へと搬送する。
ヘッドユニット30は、印刷用紙の搬送経路上に、印刷用紙を跨ぐような状態で設けられており、ヘッドユニット30の底面側(すなわち、印刷用紙に面する側)には、インクを噴射する複数の噴射ヘッドが設けられている(図2を参照)。また、ヘッドユニット30には、インク供給部60のインクカートリッジ62が図示しない流路を介して接続されており、インクカートリッジ62内に収容されたインクが、ヘッドユニット30の下面側に設けられた複数の噴射ヘッドから噴射される。
図2は、ヘッドユニット30を底面側(印刷用紙に面した側)から見たときの状態を示す説明図である。図示されるように、本実施例のヘッドユニット30の底面には、略矩形形状をした噴射ヘッド102が、6つずつを一組として4組(合計24個)設けられている。また、各組の6つの噴射ヘッド102は、3つずつ二列に並べられるとともに、互いの列の噴射ヘッド102が互い違いとなるように配列されている。更に、各噴射ヘッド102には、インクを噴射する複数の噴射ノズルが列状に設けられている。尚、こうした噴射ノズルが設けられている噴射ヘッド102の下側の面を「ノズル面」と呼ぶことがあるものとする。
このような噴射ヘッド102は、互い違いに配列されることにより、6つの噴射ヘッド102が一体となって1つの噴射ユニット100を構成している。上述したように、本実施例のヘッドユニット30には、24個の噴射ヘッド102が設けられているから、結局、4つの噴射ユニットが設けられており、各噴射ユニット100が、Yインクを噴射する噴射ユニット100y、Mインクを噴射する噴射ユニット100m、Cインクを噴射する噴射ユニット100c、Kインクを噴射する噴射ユニット100kとなっている。
ヘッドユニット30の下方には、ヘッドユニット30の底面に向かい合うようにして、印刷用紙を背面から支持するプラテンが設けられている(図示は省略)。給紙ローラー20およびガイドローラー24によって搬送されてきた印刷用紙はプラテン上を搬送され、この間にヘッドユニット30の底面に設けられた複数の噴射ヘッド102からインクが噴射されて印刷用紙に画像が印刷されていく。こうして画像が印刷された印刷用紙は、ヘッドユニット30の下流側に設けられたガイドローラー24によって進行方向を下方に曲げられた後、廃液タンク52の下側を通って排紙口6からラインプリンター1の外部に排出される。
以上に説明したように、本実施例のラインプリンター1は、複数の噴射ヘッド102によってヘッドユニット30を構成し、ヘッドユニット30の下方を、印刷用紙を通過させることによって画像を印刷しているので、迅速に画像を印刷することが可能である。もっとも、複数の噴射ヘッド102の何れか1つでも気泡が混入すると、その噴射ヘッド102では適切にインクを噴射することができなくなり、その結果、適切に画像を印刷することができなくなる虞がある。そこで、気泡が混入した場合には、ヘッドユニット30をキャップ40の位置まで移動させて、キャップ40に向けてインクを噴射するフラッシング動作や、ヘッドユニット30の下面側にキャップ40を押し付けてインクを吸い出すクリーニング動作を行うことにより、インクと共に気泡を排出することが行われる。しかし、複数の噴射ヘッド102が搭載されているので、気泡が混入する度に、フラッシング動作やクリーニング動作を行っていたのでは、インクの消費量が増大してしまう。そこで、本実施例のラインプリンター1では、以下のようにして、噴射ヘッド102に供給するインクを循環させることにより、インクに混入した気泡を処理して噴射ヘッド102から適切にインクを噴射することを可能にしている。また、インクを循環させるための循環ポンプに過大な負荷がかかることもない。以下では、本実施例のラインプリンター1で採用されているインク循環システムについて説明する。
B.インク循環システムの構成 :
図3は、本実施例のラインプリンター1に採用されたインク循環システムの構成を示した説明図である。尚、図1および図2を用いて前述したように、本実施例のラインプリンター1には、C(シアン)インク、M(マゼンタ)インク、Y(イエロー)インク、K(ブラック)インクの4種類のインクが搭載されており、それらのインクは、インクの種類毎に設けられた噴射ユニット100の噴射ヘッド102に供給されている。そして、インク循環システムは、噴射ユニット100毎にインクを循環させている。もっとも、それぞれのインク循環システムの構成は全く同様であるため、図3では、代表として1つの噴射ユニット100についてのみ表示されている。
図2を用いて前述したように、噴射ユニット100は6つの噴射ヘッド102で構成されており、このことと対応して、図3には6つの噴射ヘッド102が表示されている。これら6つの噴射ヘッド102に対して、インクカートリッジ62内からインクが供給されることになる。インクカートリッジ62内のインクを噴射ヘッド102に供給するための経路は、次のようにして構成されている。先ず、インクカートリッジ62(液体容器)は、インク通路118および切替弁130を介して循環ポンプ104に接続されており、循環ポンプ104からは、インク通路116を介してサブタンク106(液体貯留部)に接続されている。詳細には後述するが、サブタンク106は、噴射ヘッド102に供給されるインクが貯められると共に、インクに混入した気泡を分離する機能を有している。また、サブタンク106には、液面センサ106sが設けられており、サブタンク106に貯められたインクの水位(インク液面の位置)を検出することが可能となっている。尚、液面センサ106sは、インク液面の位置を検出するのではなく、インク液面が所定位置まで低下したことを検出するものであっても良い。あるいは、インク液面の位置を検出する代わりに、インクの水頭による圧力を検出するようにしても良い。
また、サブタンク106の下流側には圧力調整弁150が接続されている。圧力調整弁150の詳細についても後述するが、圧力調整弁150は、下流側(噴射ヘッド102側)の圧力が低下すると自動的に開弁してインクを取り込むことで、噴射ヘッド102に対して常に適切な圧力でインクが供給されるように調整する機能を有している。そして、圧力調整弁150の下流側でインク供給通路110が分岐した後、逆止弁108を介して噴射ヘッド102に接続されている。図3では、サブタンク106から噴射ヘッド102までのインク供給通路110が、太い実線で表示されている。
本実施例のラインプリンター1では、噴射ヘッド102の内部にヘッドヘッドフィルター102fが設けられており、ヘッドヘッドフィルター102fを通って噴射ノズルに供給されるようになっている。このため、たとえインク中に異物が混入していても、異物はヘッドフィルター102fで除去されるので、噴射ノズルを目詰まりさせる虞がない。
噴射ヘッド102内のインクを循環させるための経路は、次のようにして構成されている。先ず、噴射ヘッド102内のフィルター上流室102u(噴射ヘッド102内でヘッドフィルター102fの上流側の部分)には、第1循環口103u(第1液体循環口)が設けられており、第1循環口103uから逆止弁108を介して、インクの循環通路112が接続されている。そして、各噴射ヘッド102のフィルター上流室102uに設けられたそれぞれの第1循環口103uからの循環通路112は合流して、切替弁130に接続されている。また、噴射ヘッド102内のフィルター下流室102d(噴射ヘッド102内でヘッドフィルター102fの下流側の部分)には、第2循環口103d(第2液体循環口)も、逆止弁108を介して、第2循環口103dには、インクの循環通路114が接続されている。そして、各噴射ヘッド102のフィルター下流室102dに設けられたそれぞれの第2循環口103dからの循環通路114も合流して、切替弁130に接続されている。尚、以下では、フィルター上流室102uに接続されている循環通路112を、上流側循環通路112と称し、フィルター下流室102dに接続されている循環通路114を、下流側循環通路114と称して区別することにする。
以上のような構成を有する本実施例のインク循環システムでは、サブタンク106(液体貯留部)に貯められたインクが、圧力調整弁150を介して複数の噴射ヘッド102に供給されるようになっている。このため、噴射ヘッド102でインクが噴射されると、噴射した分のインクがサブタンク106から供給され、その結果、圧力調整弁150から噴射ヘッド102までのインクの圧力は、常に一定圧力に調整されるようになっている。以下では、このような機能を有する圧力調整弁150について説明する。
図4は、圧力調整弁150の詳細な構造を示した説明図である。尚、図4には、圧力調整弁150の中心を通る縦断面をとることによって、圧力調整弁150の内部構造が示されている。本実施例の圧力調整弁150には、噴射ヘッド102に接続された圧力室151と、サブタンク106に接続された圧力室152の2つの圧力室が設けられている。これら2つの圧力室の間を隔てる隔壁には、狭い通路がうがたれており、この通路には、通路とほぼ同じ径の通路軸153が通路内で摺動可能に設けられている。通路軸153の側面には、複数本の通路溝154が設けられており、通路溝154の一端は、圧力室151側に開口するとともに、他端は圧力室152側に開口している。
通路軸153の圧力室151側の端部には、ベース部材155が固定されており、ベース部材155は、通路軸153を取り巻くように設けられた支持バネ156によって、圧力室151の底面側から一定の高さに持ち上げられている。また、ベース部材155は、圧力室151の一側面(図4では上面側)を構成する薄いフィルム膜157のほぼ中央位置に接着されている。
また、通路軸153の圧力室152側の端部には、ゴム製の封止弁158が設けられている。封止弁158は、圧力室152の底面側から封止バネ159によって押し上げられており、通常は、封止弁158の上方に設けられた突出部分が、圧力室152の上面に押し付けられることで、圧力室152側から通路軸153の周囲を密閉するようになっている。
図5は、圧力調整弁150が噴射ヘッド102にインクを供給する圧力を調整する動作を示した説明図である。前述したように、圧力調整弁150には、インク供給通路110を介してサブタンク106からインクが供給されている(図3を参照)。このとき、圧力調整弁150の圧力室152(サブタンク106側の圧力室)には、サブタンク106内のインクが水頭差によって供給されている。また、圧力室152側に設けられた封止弁158は封止バネ159によって押し付けられているので、通路溝154は封止弁158によって閉鎖された状態となっている。従って、この状態では、圧力室152から通路溝154を介して圧力室151にインクが供給されることはない。
図5(a)に示す状態で、噴射ヘッド102からインクを噴射すると、噴射した分だけのインクが圧力室151から噴射ヘッド102に供給される。その結果、噴射ヘッド102からインクを噴射するに従って、圧力室151内の圧力が低下する。ここで、圧力室151の上面側はフィルム膜157によって構成されているので、圧力室151内の圧力低下に応じてフィルム膜157が引き下げられ、その結果、図5(b)に示されるように、フィルム膜157に設けられたベース部材155および通路軸153が、支持バネ156の反発力に逆らって移動する。すると、通路軸153に押されて封止弁158が開口し、通路軸153に設けられた通路溝154を介して、2つの圧力室(サブタンク106側の圧力室152および噴射ヘッド102側の圧力室151)が連通状態となる。その結果、図5(c)中に太い破線の矢印で示したように、通路溝154を介して、サブタンク106側の圧力室152から、噴射ヘッド102側の圧力室151へとインクが供給される。
こうして圧力室151にインクが供給されると、圧力室151内の圧力が回復するので、フィルム膜157が元の状態に戻り、それと共にベース部材155および通路軸153も元の位置まで復帰する。その結果、図5(a)に示すように、再び封止弁158によって圧力室152側の通路軸153の周囲は密閉されて、圧力室152から圧力室151へのインクの供給が終了する。
以上のように、圧力調整弁150では、通常は封止弁158が閉じているが、圧力室151内のインク量が所定量よりも少なくなることで圧力室151のインクの供給圧力が低下すると、一時的に封止弁158が開口する。これにより、圧力室152からインクが供給され、圧力室151のインク圧力が回復する。結局、噴射ヘッド102から噴射された分だけのインクが供給されて、噴射ヘッド102にインクを供給する圧力が一定に保たれることになる。このように、本実施例のラインプリンター1では、圧力調整弁150を介して噴射ヘッド102にインクを供給することで、複数の噴射ヘッド102に供給されるインク圧力を一定に保つことができ、その結果、複数の噴射ヘッド102の間でのインクの噴射量のバラつきを抑制して高画質な画像を印刷することが可能となっている。
また、図3を用いて前述したように、本実施例のインク循環システムでは、インクカートリッジ62(液体容器)からのインク通路118も、噴射ヘッド102のフィルター上流室102uからの上流側循環通路112も、フィルター下流室102dからの下流側循環通路114も、切替弁130を介して循環ポンプ104に接続されている。そして、切替弁130では、循環ポンプ104に接続する通路を切り替えることによって、インクを循環させる態様を切り替えることが可能となっている。
図6は、本実施例のインク循環システムで採用されている切替弁130の大まかな構造を示した斜視図である。図6(a)には、切替弁130の外観形状が示されており、図6(b)には、一部を破くことによって切替弁130の内部構造が示されている。図6(a)に示されるように、切替弁130は、大まかには、直方体の浅い容器のような形状をしたゴム製の本体ケース132を、開口部が下面側を向くように伏せたような形状となっている。そして、本体ケース132の開口部に向かい合う側の面には、インクカートリッジ62からのインク通路118や、循環ポンプ104に接続されたインク通路116、噴射ヘッド102からの上流側循環通路112、下流側循環通路114が開口している。更に、インク通路118が開口する部分の上方には、本体ケース132の上面に、金属製の押付部材134が接着されている。上流側循環通路112や、下流側循環通路114が開口する部分についても同様に、金属製の押付部材134が、本体ケース132の上面側に接着されている。
また、図6(b)に示されるように、本体ケース132の上面に押付部材134が接着されている箇所の裏面側からは、それぞれインク通路118、上流側循環通路112、下流側循環通路114が開口する部分に向かって、円環状のスカート部136が立設されている。このスカート部136もゴム材料で形成されており、対向する面に開口したインクの通路(インク通路118、上流側循環通路112、下流側循環通路114)の周囲に当接することで、通路を封止することが可能となる。
図7は、切替弁130の詳細な構造を示す断面図である。図示されているように、インク通路118、上流側循環通路112、下流側循環通路114が開口する部分には、コイルバネ134sが設けられている。そして、本体ケース132の裏面側から立設されたスカート部136は、コイルバネ134sによって押し上げられて、先端が開口部分の周囲に当接しないようになっている。更に、本体ケース132の上方にはカム山142a、142b、142cが設けられたカム軸140と、カム軸140を回転させるモーター144とが設けられており、カム軸140を回転させることにより、カム山142a、142b、142cが押付部材134を介して、本体ケース132の上面をコイルバネ134sの反力に抗して押し下げられるようになっている。そして、カム山によって押し下げられたスカート部136は、インクの通路が開口した部分の周囲に当接して、そのインクの通路を封止する。
図7に示した例では、インクカートリッジ62からのインク通路118が開口する部分、および下流側循環通路114が開口する部分では、カム山142cおよびカム山142bによってスカート部136が押し下げられており、その結果として、インク通路118および下流側循環通路114は封止されている。これに対して、上流側循環通路112が開口する部分では、カム山142aによってスカート部136が押し下げられておらず、上流側循環通路112は封止されていない。その結果、図中に太い破線の矢印で表したように、上流側循環通路112とインク通路116とが連通した状態となる。
また、カム軸140を回転させて、カム山142a,142cはスカート部136を押し下げるが、カム山142bはスカート部136を押し下げないようにすれば、下流側循環通路114とインク通路116とを連通させることができる。同様に、カム山142a,142bはスカート部136を押し下げるが、カム山142cはスカート部136を押し下げないようにすれば、インク通路118とインク通路116とを連通させることが可能である。もちろん、カム山142cのみがスカート部136を押し下げて、カム山142b,142aはスカート部136を押し下げないようにすれば、上流側循環通路112および下流側循環通路114をインク通路116と連通させることも可能である。
本実施例の切替弁130は、このようにしてカム軸140を回転させることにより、インク通路116に連通する通路を、インク通路118、上流側循環通路112、下流側循環通路114の中から選択して切り替えることが可能となっている。そして、本実施例のインク循環システムでは、インク通路116に連通する通路を切り替えることで、インクカートリッジ62からサブタンク106にインクを補充したり、また、噴射ヘッド102に供給されたインクを循環させて、インクに混入した気泡を除去したりしながら、噴射ヘッド102から適切にインクを噴射することが可能となっている。以下では、この点について詳しく説明する。
C.インク循環システムの動作 :
図8には、本実施例のインク循環システムが、インクカートリッジ62のインクをサブタンク106に供給する動作が示されている。噴射ヘッド102に供給されるインクの圧力は、圧力調整弁150によって一定に保たれているが、サブタンク106内のインクが不足すると、噴射ヘッド102に必要な分だけのインクを供給することができなくなる。そこで、液面センサ106sで検出されたインク液面が低下すると、インクカートリッジ62からサブタンク106にインクが補充されるようになっている。本実施例のインク循環システムでは、このような場合、以下のようにしてインクの補充を行う。
先ず、切替弁130では、インクカートリッジ62からのインク通路118と、循環ポンプ104に続くインク通路116とを連通させる。図7を用いて前述したように、インク通路118に対応する位置のカム山142cだけは押付部材134を押し下げずに、他の位置のカム山142a,142bは押付部材134を押し下げることで、インク通路118とインク通路116とを連通させることができる。そして、この状態で循環ポンプ104を作動させる。すると、インクカートリッジ62内のインクが循環ポンプ104によって吸い出されて、インク通路116を経由してサブタンク106に供給される。図8には、インクカートリッジ62から吸い出されたインクがサブタンク106に供給される様子が、太い破線の矢印によって表されている。このように、本実施例のインク循環システムでは、サブタンク106に設けられた液面センサ106sにより、サブタンク106内のインク液面が常に所定範囲内に保たれるようになっている。
また、サブタンク106から噴射ヘッド102に向けて供給されるインクに、気泡が混入することがある。あるいは、噴射ヘッド102に初めてインクを充填する初期充填を行った場合、噴射ヘッド102までの経路中に気泡が残ってしまうことがある。このような気泡は、インクによって流されて、やがて噴射ヘッド102内に設けられたヘッドフィルター102fに捕捉される。そして、ヘッドフィルター102fが気泡を捕捉した部分では、インクの流れが阻害されるので、噴射ノズルにインクを供給し難くなり、適切にインクを噴射することが困難となる。更に、多くの気泡がヘッドフィルター102fに付着してインクの流れが阻害された状態では、噴射ノズルからインクを噴射すると、ヘッドフィルター102fに大きな負圧がかかって、付着している気泡を噴射ノズル側(フィルター下流室102d側)に引き込むことも起こり得る。そして、フィルター下流室102dに気泡が引き込まれると、その気泡が噴射ノズルの部分に入り込んで、適切にインクを噴射することが困難となる。そこで、こうした事態の発生を回避するために、本実施例のインク循環システムでは、以下のようにして、噴射ヘッド102内のヘッドフィルター102fの上流側(フィルター上流室102u)のインクを循環させている。
図9は、本実施例のインク循環システムがフィルター上流室102uのインクを循環させる動作が示されている。先ず、切替弁130では、フィルター上流室102uからの上流側循環通路112と、循環ポンプ104に続くインク通路116とを連通させる。図7を用いて前述したように、上流側循環通路112に対応する位置のカム山142aは押付部材134を押し下げずに、他の位置のカム山142b,142cは押付部材134を押し下げることで、上流側循環通路112とインク通路116とを連通させる。そして、この状態で循環ポンプ104を作動させることで、フィルター上流室102u内のインクが、逆止弁108および上流側循環通路112を介して循環ポンプ104によって吸い出され、インク通路116を経由してサブタンク106に供給される。図9には、フィルター上流室102uから吸い出されたインクがサブタンク106に戻される様子が、太い破線の矢印によって表されている。
また、こうしてフィルター上流室102uからインクを吸い出すと、圧力調整弁150の下流側の圧力が低下するので、圧力調整弁150が開弁し、サブタンク106からインクが取り込まれて、インク供給通路110および逆止弁108を介してフィルター上流室102uに供給される。図9には、サブタンク106からフィルター上流室102uにインクが供給される様子が、破線の矢印によって表されている。その結果、サブタンク106とフィルター上流室102uとの間でインクが循環することになる。
そしてサブタンク106は、フィルター上流室102uや、インクの通路(インク供給通路110、上流側循環通路112、インク通路116)、圧力調整弁150などに比べて通路断面が大きく、インクの流れが緩やかなので、サブタンク106内では、インクと共に流されてきた気泡が上方へと浮き上がって、インクと気泡とが分離される。従って、気泡が分離されたインクが、圧力調整弁150を介してフィルター上流室102uに供給される。こうして、サブタンク106で気泡を分離しながら、サブタンク106とフィルター上流室102uとの間でインクを循環させることにより、噴射ヘッド102内のヘッドフィルター102fよりも上流側に混入した気泡を全て排除することが可能となる。また、サブタンク106とフィルター上流室102uとの間でインクを循環させるだけで、気泡と共にインクを排出しているわけではないので、インクが無駄になることもない。
もちろん、ヘッドフィルター102fの上流側のインクを循環させるだけでは、ヘッドフィルター102fの下流側に混入した気泡を排除することはできない。そして、ヘッドフィルター102fの下流側に混入した気泡が噴射ノズルの部分に入り込むと、適切にインクを噴射することができなくなる。そこで、本実施例のインク循環システムでは、フィルター下流室102dのインクも循環させることにより、ヘッドフィルター102fの下流側に混入した気泡も排除することが可能となっている。
図10は、本実施例のインク循環システムがフィルター下流室102dのインクを循環させる動作が示されている。フィルター下流室102dのインクを循環させる場合には、フィルター下流室102dからの下流側循環通路114と、循環ポンプ104に続くインク通路116とが連通するように、切替弁130を切り替える。図7を用いて前述したように、下流側循環通路114に対応する位置のカム山142bは押付部材134を押し下げずに、他の位置のカム山142a,142cは押付部材134を押し下げることで、下流側循環通路114とインク通路116とを連通させることができる。そして、この状態で循環ポンプ104を作動させることにより、フィルター下流室102d内のインクが、逆止弁108および下流側循環通路114を介して循環ポンプ104によって吸い出され、インク通路116を経由してサブタンク106に供給される。図10には、フィルター下流室102dから吸い出されたインクがサブタンク106に戻される様子が、太い破線の矢印によって表されている。
また、フィルター上流室102uからインクを吸い出した場合と同様に、フィルター下流室102dからインクを吸い出した場合にも、圧力調整弁150の下流側の圧力が低下して圧力調整弁150が開弁し、サブタンク106からインクが取り込まれて、インク供給通路110および逆止弁108を介してフィルター下流室102dに供給される。図10には、サブタンク106からフィルター下流室102dにインクが供給される様子が、破線の矢印によって表されている。その結果、サブタンク106とフィルター下流室102dとの間でインクが循環することになる。
こうして、サブタンク106とフィルター下流室102dとの間でインクを循環させることで、サブタンク106で気泡が分離されていき、噴射ヘッド102内のヘッドフィルター102fよりも下流側に混入した気泡を全て排除することが可能となる。もちろん、サブタンク106とフィルター下流室102dとの間でインクを循環させるだけなので、気泡を排出するためにインクが無駄に消費されることもない。
以上に説明したように、本実施例のインク循環システムでは、切替弁130を切り替えて循環ポンプ104を作動させることにより、ヘッドフィルター102fの上流側のインクも、ヘッドフィルター102fの下流側のインクも、サブタンク106との間で循環させることができる(図9および図10を参照のこと)。その結果、ヘッドフィルター102fの上流側あるいは下流側に気泡が混入した場合でも、インクの流れによって気泡をサブタンク106まで導いて、気泡だけをサブタンク106で捕捉することができる。このため、本実施例のラインプリンター1のように、複数の噴射ヘッド102が並列に接続されている場合でも、それぞれの噴射ヘッド102内の気泡を完全に排出させることができる。もちろん、噴射ヘッド102内のインクを循環させているだけなので、気泡を排出するために無駄にインクを消費することもない。また、インクを循環させる際の通路抵抗は、それぞれの噴射ヘッド102間で完全には同じにならないが、インクの循環量が大きく相違するほどの違いはない。従って、何れの噴射ヘッド102についても、混入した気泡を確実に排除することが可能となる。
また、噴射ヘッド102に設けられた噴射ノズルからインクを噴射することで、サブタンク106内のインクが減少した場合には、切替弁130を切り替えて循環ポンプ104を作動させることで、インクカートリッジ62内のインクをサブタンク106に補充することができる(図8を参照のこと)。加えて、サブタンク106からは、圧力調整弁150を介して、それぞれの噴射ヘッド102にインクが供給されるので、各噴射ヘッド102へのインクの供給圧力を一定に保っておくことが可能となる。
そして、切替弁130を用いて、上流側循環通路112、下流側循環通路114、インク通路118を切り替えることにより、噴射ヘッド102内のインクの循環と、インクカートリッジ62からのインクの補充とを、1つの循環ポンプ104を用いて行うことができるので、部品点数が減少し、その結果、故障の可能性や製造時の組み立てミスが減少すると共に、製造コストも抑制することが可能となる。
また、それぞれの噴射ヘッド102には、1つの圧力調整弁150を介してインクが供給されるので、噴射ヘッド102毎に圧力調整弁150を設ける必要がない。このため、圧力調整弁150の動作圧力のバラツキに起因して、噴射ヘッド102間でのインクの供給圧力のバラツキを抑制することができる。加えて、それぞれの噴射ヘッド102で圧力調整弁150を共用することができるので、部品点数が減少して、故障の可能性や製造時の組み立てミスが減少すると共に、製造コストも抑制することが可能となる。
更に、噴射ヘッド102にインクを供給するインク供給通路110にも、噴射ヘッド102のフィルター上流室102uからインクを循環させる上流側循環通路112にも、フィルター下流室102dからインクを循環させる下流側循環通路114にも、それぞれ逆止弁108が設けられている。このため、たとえ噴射ヘッド102の噴射ノズルに負圧を作用させて、噴射ヘッド102内のインクを吸い出す吸引クリーニングを行う場合でも、隣の噴射ヘッド102からインクが逆流して、インクと共に気泡を吸い込んでしまうことがない。
加えて、本実施例のインク循環システムでは、噴射ヘッド102のヘッドフィルター102fより上流側のインク(すなわち、フィルター上流室102u内のインク)を循環させる循環経路と、ヘッドフィルター102fより下流側のインク(すなわち、フィルター下流室102d内のインク)を循環させる循環経路の2系統の循環経路が設けられており、そして、切替弁130を切り替えることにより、何れか一方の循環経路のみ、インクを循環させることが可能となっている。このように1つの循環経路だけ、インクを循環させることで、循環ポンプ104の容量をむやみに大きくしなくても、噴射ヘッド102内あるいは途中の循環経路内でのインクの流速を十分な値に保って、より完全に気泡を排出することが可能となる。もちろん、切替弁130の切り換えにより、2つの循環経路を同時に循環させれば、インクの流速は低下するものの、噴射ヘッド102内の気泡を一度に排出することが可能となる。
D.変形例 :
上述した実施例では、インク中に混入した異物を除去するためのフィルター(すなわち、ヘッドフィルター102f)が、噴射ヘッド102の内部に設けられているものとして説明した。しかし、インク中の異物を除去するためのフィルターを、圧力調整弁150の上流側(すなわち、サブタンク106と圧力調整弁150との間)に設けるものとしても良い。こうすれば、インクの循環経路が単純になり、その結果、より単純な構成のインク循環システムを構成することが可能となる。以下では、このような変形例のインク循環システムについて説明する。尚、変形例では、上述した本実施例と共通する構成部分については、本実施例と同じ符番を付すことにより、その構成部分についての詳細な説明は省略することとする。
図11は、変形例のインク循環システムの構成を示した説明図である。尚、図1および図2を用いて前述したように、本実施例のラインプリンター1には、C(シアン)インク、M(マゼンタ)インク、Y(イエロー)インク、K(ブラック)インクのインク毎に噴射ユニット100が設けられており、それぞれの噴射ユニット100に、同様なインク循環システムが設けられている。そこで、図11においても、代表として1つの噴射ユニット100についてのみ表示されている。
図11に示されるように、変形例のインク循環システムでは、サブタンク106と圧力調整弁150との間に、インク中の異物を除去する為のタンクタンクフィルター150fが設けられている。また、インク中の異物はこのタンクタンクフィルター150fで除去されてしまうため、噴射ヘッド102内には、ヘッドフィルター102fは設けられていない。このため、変形例では、噴射ヘッド102内がヘッドフィルター102fによって2つに区切られていないので、2つの循環経路を設ける必要がない。すなわち、変形例のインク循環システムは、図3に示した本実施例のインク循環システムの上流側循環通路112と下流側循環通路114とを1つの循環通路112にまとめたような構成となっている。
また、タンクフィルター150fは、サブタンク106と圧力調整弁150との間に設けられているので、タンクフィルター150fとサブタンク106との間のインク供給通路110は短くなっている。従って、たとえタンクフィルター150fの上流側の面に気泡が付着しても、暫く放置しておけば、気泡の浮力によって比較的容易にサブタンク106に移動する。このため、変形例のインク循環システムでは、タンクフィルター150fの上流側のインクを無理に循環させる必要性が乏しいということができる。特に、タンクフィルター150fの上流側の面がサブタンク106に直接面するような位置にタンクフィルター150fを設けておけば、タンクフィルター150fの上流側のインクを循環させる必要は全く無い。
このように変形例のインク循環システムでは、インクの循環経路が単純になるので、インクを循環させる際の通路抵抗を更に抑制することができる。その結果、部品点数が減少するので、故障の可能性や製造時の組み立てミスが減少すると共に、製造コストも抑制することが可能となる。また、変形例のインク循環システムにおいても、それぞれの噴射ヘッド102に対しては圧力調整弁150を介してインクが供給されているので、噴射ヘッド102に供給されるインクの圧力を適切な圧力範囲に保つことができ、その結果、各噴射ヘッド102で適切にインクを噴射することができる。
加えて、変形例のインク循環システムでは、圧力調整弁150の上流側に設けたタンクフィルター150fで、インク中の異物を除去することができる。このため、インク中の異物によって、圧力調整弁150の動作に不調を来すことも無い。その結果、それぞれの噴射ヘッド102に供給されるインクの圧力を、常に安定した圧力範囲に保っておくことが可能となる。
以上、本願発明の実施例について説明したが、本発明は上記に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
例えば、上述した実施例では、切替弁130がカムによって駆動されるものとして説明した。しかし、カムに限らず、例えばソレノイドを用いた電磁的な方法を用いて切替弁130を駆動したり、あるいは空気圧を用いて切替弁130を駆動しても構わない。