JP5488157B2 - 空間モードフィルタ - Google Patents

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本発明は、光部品に用いられる空間モードフィルタに関する。
従来、光部品において、特定のモードを取り出すために空間モードフィルタが用いられている。このうち、基本モードを取り出す空間モードフィルタは種々あり、たとえば通常の単一モードファイバは高次モードが伝搬しないため、基本モードのみを取り出す空間モードフィルタであるといえる。
これに対して、高次モードのみを取り出す方法は少なく、たとえば、空間光学系を用いて基本モードの強度分布であるガウス分布を減衰させ、高次モードの強度分布を強調するような空間モードフィルタがあるが、強度分布に重なりがあるため、高次モードのみを完全に分離することは現状困難である。
また、量子通信で空間モードを分離する方法が提案されているが、量子状態が混在している通常の光通信への応用は難しい。
関連する従来技術として、特許文献1に記載の横モード分離装置がある。この装置では、まず二次元に配列した受光素子等で強度分布として受光してから、信号処理技術を用いてモードの分離を行っている。
特許第3855001号公報
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、中継するためには光−電気−光と変換する必要があり、また信号処理のために時間遅延も発生するという問題がある。
一つの導波路において複数の伝搬モードを用いて同時に伝送を行う空間モード多重通信では、簡便に所望の高次モードを分離できるフィルタが必要になる。特に、光ファイバ型の部品は光通信への適合性が高いため、好適であると考えられる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単に所望の高次モードを分離できる空間モードフィルタを提供することを目的とする。
本発明の空間モードフィルタは、中空又は低屈折率媒体からなるコア部と、誘電体からなり前記コア部の周囲に配置されてフォトニックバンドギャップを形成する回折格子を設けたクラッド部とを有し、前記回折格子は、規則的に配置された、自身の長手方向にのびて周囲と屈折率の異なる複数の領域からなる空間モードフィルタにおいて、前記低屈折率媒体は、前記クラッド部の等価屈折率よりも低い屈折率を有し、前記回折格子の格子間隔は前記コア部および前記クラッド部の構造から使用波長域における基本モードおよび高次モードを求め、前記高次モードのみが前記フォトニックバンドギャップ内に位置するように設定されていることを特徴とする。
本発明の空間モードフィルタにおいては、前記クラッド部が前記コア部を略同心状に取り囲むように配置され、フォトニックバンドギャップファイバとして形成されてもよい。
本発明の他の空間モードフィルタは、上記空間モードフィルタであり、第1の範囲の導波モードを有する第1の空間モードフィルタと、上記空間モードフィルタであり、前記第1の範囲と異なる第2の範囲の導波モードを有する第2の空間モードフィルタとを備え、前記第1の空間モードフィルタと前記第2の空間モードフィルタとは、一方の端部から入射された光が前記第1の空間モードフィルタおよび前記第2の空間モードフィルタを通って他方の端部から出射されるように光学的に接続されていることを特徴とする。
本発明の空間モードフィルタによれば、簡単に所望の高次モードを分離できる空間モードフィルタを構成することができる。
本発明の空間モードフィルタである第1実施例のフォトニックバンドギャップファイバにおけるクラッド部の構造を示す模式図である。 設定クラッド部におけるバンドギャップ構造を示すグラフである。 同フォトニックバンドギャップファイバにおけるコア部の形成方法を示す模式図である。 図2の部分拡大図であり、同バンドギャップ構造内における伝搬モードの態様と、これにもとづいた格子間隔の設定例を示すグラフである。 第2実施例のフォトニックバンドギャップファイバにおけるコア部およびその周辺の構造を示す模式図である。 同フォトニックバンドギャップファイバのバンドギャップ構造内における伝搬モードの態様と、これにもとづいた格子間隔の設定例を示すグラフである。 本発明のフォトニックバンドギャップファイバを組み合わせた空間モードフィルタの例を示す模式図である。
以下、本発明の空間モードフィルタについて、実施例を交えつつ、図1から図7を参照して説明する。本明細書では、空間モードフィルタの具体的な一例としてフォトニックバンドギャップファイバを用いて説明するが、その原理はファイバ型でない導波路にも同様に適用可能である。
フォトニックバンドギャップファイバ(以下、「PBF」と称することがある。)とは、コア部が中空ないし低屈折率で透明な媒質からなり、その周囲をクラッド部で同心状(略同心状を含む。)に囲んだ構造のファイバである。PBFにおいては、コア部の屈折率はクラッド部の等価屈折率よりも低く、屈折率差による光の閉じ込め機構は存在しない。PBFで光の閉じ込めを実現するのは、クラッド部の構造により生じるフォトニックバンドギャップ(以下、「PBG」と称することがある。)と呼ばれる現象である。
PBGは、クラッド部内に周期的に配置された、屈折率の異なる複数の領域によって形成される。屈折率の異なる領域としては、空孔のように屈折率が周囲より低いものと、液晶や高屈折率ガラスなど、屈折率が周囲より高いものとがあるが、以下、「低屈折率部」という用語でこの領域を総称する。
低屈折率部はPBFの長手方向に対しては一定の形状を保持している。PBFの横断面内において低屈折率部の格子配置や低屈折率部間の間隔を適当に設定すると、ある波長を中心波長とし、ある程度の帯域を有するPBGがPBFに生成される。その結果、PBGの範囲内の波長の光はPBGの効果でコア部分に閉じ込められ、PBF内を伝搬することが可能となる。
PBFの製造においては、通常の光ファイバと同様に、まず直径数センチメートル(cm)から十数cmの母材を作製し、それを溶融延伸によりファイバ化する。母材の形成方法には細い円筒形の誘電体を束ねるキャピラリー法、誘電体にドリルで削孔するドリル法などがある。良好なPBGを形成するためには、クラッド部の低屈折率部は幾何学的に整列している必要があり、広いバンドギャップを生じる六方最密の格子配列が広く使用される。
図1は第1実施例のPBF1のクラッド部20の構造を、PBF1の延在方向に見た状態を示す模式図である。図1において白い円形に示されているのは、延在方向に延びる空孔21aからなる低屈折率部21であり、黒で示された低屈折率部21間の領域は、誘電体からなる間隙部22である。間隙部22を形成する誘電体としては、例えば石英系ガラスやプラスチック、アルミナ等、使用する波長において透明な任意の媒質を使用する事が可能である。本実施形態では石英ガラスで間隙部22が形成されている。
低屈折率部21は、いわゆる六方最密構造のブラッグ回折格子を形成している。このような構造は上述のドリル法やキャピラリー法等により作製することができる。ドリルであけた孔やガラス管の中に高屈折率のガラスを挿入すると、低屈折率部21の屈折率を高めることができる。また、ファイバ
化後、空孔21a内に液晶やマッチングオイル等の高屈折率の液体を充填することによっても低屈折率部21の屈折率を高めることができる。
低屈折率部21及び間隙部22からなるクラッド部20が、PBF1の径方向において、使用される光の波長に対して5倍以上と十分広い範囲に広がっている場合には、クラッド部20の構造が無限に連続した場合のバンドギャップの計算を行なうことで、作製されるPBFのバンドギャップ構造を計算する事が出来る。
所定のバンドギャップ構造を有する媒質に様々な伝搬ベクトルをもつ光の平面波を入射し、その伝搬定数をグラフ化していくと、ある範囲の伝搬定数を持つ光がその媒質中に存在できない領域が現れる。図2は、当該光が存在できない領域をグラフ化した例を示すものである。
図2のグラフにおいて、横軸はクラッド部20の格子間隔Λであり、縦軸は伝搬定数から換算した有効屈折率neffである。なお、本発明における格子間隔Λとは、図1に示すように、隣接する低屈折率部21(本実施形態においては空孔21a)の中心間距離を意味する。
図2では、図1に示したような形状のクラッド部20を有し、低屈折率部21は空孔21aからなり、間隙部22が石英ガラスからなるクラッド部(以下、図2に示したクラッド部を「設定クラッド部」と称する。)のバンドギャップ構造を示している。設定クラッド部において、格子間隔Λと空孔の径d(図1参照)の比d/Λは0.95に設定されている。使用波長λは1.55マイクロメートル(μm)としている。
設定クラッド部においては、斜線部で示した領域A1が最も広いフォトニックバンドギャップの存在する領域であることが図2からわかる。
本実施例のPBFにおいては、PBG内における基本モードおよび高次モードの各伝搬モードの存在態様を考慮してクラッド部20を適切に設計することにより、所望の高次モードのみを透過する空間モードフィルタとして機能するPBFを実現する。伝搬モードの存在態様は、クラッド部における低屈折率部の径および配置で決まるクラッド部の有効屈折率によって変化するが、コア部の径等によっても変化するため、以下にPBF1におけるコア部の作製手順について説明する。
図3は、本発明のPBF1におけるコア部10の形成方法を示す模式図である。キャピラリー法で作製したPBF1の母材1Aの中心付近において、ガラス管2を複数本除去することにより、中空のコア部10となる空間を形成することができる。キャピラリー法の場合に、キャピラリーとキャピラリーの間に生じる小さな空隙3は、溶融延伸過程でつぶれて消失し、誘電体からなる間隙部22を形成する。PBF1においては、シングルモードファイバとの接続性を考慮し、コア部10の径を10μmに設定している。
通常のシングルモードファイバ(ITU−T G.652)のモードフィールド径は約10μmであるため、例えば、格子間隔Λが3μmの場合は、図3に点線で示す領域B1内に位置する12本のガラス管2を除去してコア部10を形成すると、コア部10の幾何学的な直径(コア部10の径方向の断面形状において、中心を通り最も短い直線の長さ)D1が、ほぼ格子間隔Λの3.3倍となり、コア部10の径をシングルモードファイバのモードフィールド径とほぼ等しくすることができる。このように、コア部10を形成するために母材1Aから除去するガラス管2の数や配置は、格子間隔Λとコア部10の径の設定値にもとづいて適宜増減されて最適化されればよい。
また、コア部10を形成する際、断面形状が3回回転対称性もしくは6回回転対称性を維持するようにガラス管を除去する事でPBF1は偏波依存性のないファイバとなり、逆に2回回転対称もしくは回転対称性を有さないようにガラス管を除去した場合にはPBF1は偏波保持ファイバとなる。
なお、ここではキャピラリー法でPBFを形成する例について説明したが、ドリル法を用いる場合は、母材1Aにおいて領域B1等の内側の誘電体をドリルで切削すればよい。
図4は、図2のうち格子間隔Λが3μm前後の部分を拡大したものである。ここでは、図3で示したように中心のガラス管12本を除去して径が約10μmの中空のコア部10を形成したPBFであるとしてモードを計算し、その有効屈折率を図4に示している。このPBFには、図2および図4に示すように、伝搬モードとして破線L1で示す基底モードであるLP01モードが存在する。さらに、このPBFには、これに加えて高次モードが伝搬モードとして存在し、これが一点鎖線L2で示すLP11モードである。図4に示すように、本例では格子間隔Λが2.87μm から3μmの範囲R1において、使用波長λが1.55μmのときに、LP11モードがPBG内に存在し、LP01モードがPBG内に存在しない条件となる。すなわち、格子間隔Λが範囲R1内の値に設定されている場合に、波長1.55μmの光のLP01モードはPBGによる光閉じ込め効果を得られないため、伝搬モードとはならず、高次モードのLP11モードのみを透過する空間モードフィルタが実現できる。
続いて、本発明の第2実施例のPBFについて、図6および図7を参照して説明する。第2実施例のPBFでは、低屈折率部の屈折率が、周囲よりも高く設定されている。
図5は、本実施例のPBF31の径方向断面を示す拡大図である。クラッド部32の間隙部22は、第1実施例同様、例えば石英ガラスで形成されているが、黒く示した低屈折率部33は、石英ガラスよりも屈折率の高い材料、例えば高屈折率ガラスで形成されている。
PBF31はキャピラリー法で形成することを想定した。石英ガラスからなる中空のガラス管を束ね、図5に破線で示す19本のガラス管2を棒状の石英ガラスで置換し、クラッド部32を形成する中空のガラス管の内腔に高屈折率ガラスを充填して溶融延伸することにより形成するものとした。したがって、コア部34は、間隙部22と同一の材料で形成されており、低屈折率部33よりも低い屈折率を有する。PBF31の設定クラッド部において、格子間隔と低屈折率部33の径との比d/Λは0.5であり、低屈折率部33の屈折率は1.87としている。
図6は、使用波長λ=1.55μmにおけるPBF31の設定クラッド部におけるPBGのシミュレーション結果を示すグラフであり、格子間隔Λが1μm前後の範囲を拡大して示している。
図6に示すように、PBF31は、格子間隔Λが概略1μm以上2μm以下のときにフォトニックバンドギャップファイバとして使用可能である。
上記設定のPBF31のPBGには、第1実施例のPBF1に存在したLP01モードL1およびLP11モードL2に加え、一点鎖線L3で示すLP21モードが存在している。また、より高次のモードも存在するが、図示を省略している。このほか、PBF31にはLP02モードも存在しているが、通常の光ファイバにおいてLP02モードはLP21モードと縮退しているために図示を省略している。
本例においては格子間隔Λを1.2から1.24μmの範囲R2内に設定することにより、LP01モードを透過せず、LP11モードおよびそれより高次のモードを透過する空間モードフィルタとすることができる。また格子間隔Λを1.12から1.2μmの範囲R3内に設定することにより、LP01モードおよびLP11モードを透過せず、LP21モードおよびそれより高次のモードを透過する空間モードフィルタとすることができる。
以上説明したように、本発明の空間モードフィルタであるPBF1およびPBF31によれば、コア部およびクラッド部の基本構成および使用波長を固定した条件下におけるシミュレーション結果にもとづき格子間隔Λを適切に設定することにより、あるモードよりも高次のモードのみが伝搬する空間モードフィルタを容易に実現することができる。その結果、簡単に所望の高次モードを分離できる空間モードフィルタを提供することができる。
一般に、コア部の径を大きくすると、より高次のモードがPBG内に存在できるようになり、PBG内により多くの伝搬モードが存在するようになる。また、クラッド部において、低屈折率部と、間隙部を構成する誘電体との屈折率差を高めるほどより高次のモードがPBG内に存在できるようになる。したがって、これらの傾向を考慮しつつ、所望の特性を発揮するように本発明の空間モードフィルタを設計すればよい。
光ファイバ構造においては、伝搬モード以外のモードの損失は、通常100db/m以上ときわめて大きいため、上述したようなPBF1やPBF31のような特性を有するPBFを軸線方向の長さにして数センチメートル(cm)程度使用すれば、空間モードフィルタとして問題なく使用することができる。使用するファイバが直線状である場合は、中心軸線に沿ってまっすぐに抜けてくる光が存在するため、PBF1やPBF31のようなファイバを、例えばS字状に屈曲させたり90°以上折り曲げたりすることで漏れ出る不要の低次モードを抑制することができる。
また、光ファイバ構造以外の導波路形状等の場合も、同様に屈曲部等を設ける事により、まっすぐに抜けて漏れ出る光を除去する事ができる。
また、図7に示すように、ある伝搬モード、例えばLP11モード以上の高次モードを透過する導波モードを有する本発明の空間モードフィルタ(第1の空間モードフィルタ)41と、LP11モード以下の高次モードを透過する導波モードを有する本発明の空間モードフィルタ(第2の空間モードフィルタ)42とを光学的に接続し、一方の端部からマルチモードの光を入射すると、空間モードフィルタ41でLP11モードよりも低次のモードが除去され、空間モードフィルタ41でLP11モードよりも高次のモードが除去される結果、他方の端部からは、LP11モードのみが抽出されて取り出される。このように、異なる導波モードを有する本発明の空間モードフィルタを複数組み合わせることにより、所望の次数かつ所望の数の横モードを抽出する空間モードフィルタを自在に構成することができる。
また、本発明の空間モードフィルタは、低次のモードのみを透過するフィルタ、たとえばコア径を拡大した単一モードファイバ等と組み合わせることで、ある次数の横モードのみを抽出するモードフィルタを実現することもできる。
以上、本発明の各実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各実施形態の構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
例えば、上述の各実施例では、低屈折率部の径方向における断面形状が正円のものを示した。通常PBFにおいては、低屈折率部は円形の断面形状を有するため、このような例としたが、これに代えて、楕円や正方形などの他の形状に低屈折率部が形成されてもよい。
1、31 フォトニックバンドギャップファイバ(空間モードフィルタ)
10、34 コア部
20、32 クラッド部
21、33 低屈折率部
41 空間モードフィルタ(第1の空間モードフィルタ)
42 空間モードフィルタ(第2の空間モードフィルタ)

Claims (3)

  1. 中空又は低屈折率媒体からなるコア部と、誘電体からなり前記コア部の周囲に配置されてフォトニックバンドギャップを形成する回折格子を設けたクラッド部とを有し、前記回折格子は、規則的に配置された、自身の長手方向にのびて周囲と屈折率の異なる複数の領域からなる空間モードフィルタにおいて、
    前記低屈折率媒体は、前記クラッド部の等価屈折率よりも低い屈折率を有し、
    前記回折格子の格子間隔は
    前記コア部および前記クラッド部の構造から使用波長域における基本モードおよび高次モードを求め、
    前記高次モードのみが前記フォトニックバンドギャップ内に位置するように設定されていることを特徴とする空間モードフィルタ。
  2. 請求項1に記載の空間モードフィルタにおいて、前記クラッド部は、前記コア部を取り囲むように配置されており、フォトニックバンドギャップファイバとして形成されていることを特徴とする空間モードフィルタ。
  3. 請求項1又は2に記載の空間モードフィルタであり、第1の範囲の導波モードを有する第1の空間モードフィルタと、
    請求項1又は2に記載の空間モードフィルタであり、前記第1の範囲と異なる第2の範囲の導波モードを有する第2の空間モードフィルタと、
    を備え、
    前記第1の空間モードフィルタと前記第2の空間モードフィルタとは、一方の端部から入射された光が前記第1の空間モードフィルタおよび前記第2の空間モードフィルタを通って他方の端部から出射されるように光学的に接続されていることを特徴とする空間モードフィルタ。
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