(第1の実施形態)
以下、火花点火式の多気筒ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を具体化した実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の廃熱制御システム(廃熱再利用システム)の概要を示す構成図である。
図1において、エンジン10には、吸気管11と排気管12とが接続されており、吸気管11には気筒内への吸入空気量を調整するためのスロットルバルブ13が設けられている。スロットルバルブ13は、モータ等からなるスロットルアクチュエータ14により電気的に開閉駆動される空気量調整手段である。スロットルアクチュエータ14にはスロットルバルブ13の開度(スロットル開度)を検出するためのスロットルセンサが内蔵されている。
エンジン10は、同エンジン10の各気筒に燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ15と、気筒ごとに設けられた点火プラグ16に点火火花を発生させる点火手段としてのイグナイタ(点火装置)17と、吸排気の各バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整手段としての吸気側バルブ駆動機構18及び排気側バルブ駆動機構19とを備えている。本実施形態では、吸気ポート噴射式エンジンを採用しており、インジェクタ15が吸気ポート近傍に設けられる構成としているが、これに代えて、直噴式エンジンを採用し、インジェクタ15が各気筒のシリンダヘッド等に設けられる構成としてもよい。吸気側及び排気側の各バルブ駆動機構18,19は、エンジン10のクランク軸に対する吸気側及び排気側の各カム軸の進角量を調整するものであり、吸気側バルブ駆動機構18によれば、吸気バルブの開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更され、排気側バルブ駆動機構19によれば、排気バルブの開閉タイミングが進角側又は遅角側に変更される。
また、排気管12には、排気中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ(以下、A/Fセンサという)21が設けられるとともに、その下流側に排気浄化装置としての触媒22が設けられている。触媒22は例えば三元触媒であり、排気が通過する際に排気中の有害成分等を浄化する。また、排気管12において触媒22よりも下流側には、排気に含まれる熱エネルギ(排気熱)を回収する熱回収装置23が設けられている。熱回収装置23は、排気が有する熱をエンジン冷却水に伝えることで回収し、例えば車室内の暖房を実施する場合の熱源として利用されるものとなっている。
また、本システムには、排気の一部をEGRガスとして吸気系に導入するEGR装置(排気再循環装置)が設けられている。すなわち、吸気管11と排気管12との間には、一端が吸気管11のスロットルバルブ下流側に接続され、かつ他端が排気管12の触媒下流側(上流側でも可)に接続されたEGR配管25が設けられ、そのEGR配管25の途中に電磁式のEGR弁26が設けられている。この場合、EGR弁26の開度を調整することで、EGRガス量が増減調整されるようになっている。
次に、エンジン10の冷却系の構成について説明する。
エンジン10のシリンダブロックやシリンダヘッドの内部にはウォータジャケット31が形成されており、このウォータジャケット31に冷却水が循環供給されることでエンジン10の冷却が行われるようになっている。ウォータジャケット31内の冷却水の温度(冷却水温)は水温センサ32により検出される。ウォータジャケット31には冷却水配管等からなる循環経路33が接続されており、その循環経路33には、冷却水を循環させるためのウォータポンプ34が設けられている。ウォータポンプ34は例えばエンジン10の回転に伴い駆動される機械式ポンプであるが、電動式ポンプであってもよい。また、ウォータポンプ34により冷却水量が調整できる構成であってもよい。
循環経路33は、エンジン10(ウォータジャケット31)の出口側において熱回収装置23に向けて延び、熱回収装置23を経由して再びエンジン10に戻るようにして設けられている。循環経路33において熱回収装置23の下流側にはヒータコア35が設けられている。ヒータコア35には、図示しないブロアファンから空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア35又はその付近を通過することで、ヒータコア35からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。
循環経路33はヒータコア35の下流側で二方に分岐され、その一方の循環経路33Aに大気放熱部としてのラジエータ36が設けられている。また、循環経路33の分岐部には、冷却水温度に応じて作動することで冷却水の流路を変更するサーモスタット37が設けられている。したがって、冷却水が低温(サーモスタット作動温度未満)である場合には、ラジエータ36側への冷却水の流入がサーモスタット37により阻止され、冷却水はラジエータ36で放熱されることなく循環経路33内を循環する。例えば、エンジン10の暖機完了前(暖機運転時)にはラジエータ36での冷却水の冷却(放熱)が抑制される。また、冷却水が高温(サーモスタット作動温度以上)になると、ラジエータ36側への冷却水の流入がサーモスタット37により許容され、冷却水はラジエータ36で放熱されつつ循環経路33内を循環する。これにより、エンジン運転状態下において冷却水が適温(例えば80℃程度)で維持される。
本制御システムは、エンジン制御の中枢をなすECU(電子制御装置)40を備えており、そのECU40によりエンジン10の運転に関する各種制御が実施される。すなわち、ECU40は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン運転状態を検出するための運転状態検出手段として、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ41、吸入空気量や吸気管負圧、スロットル開度といったエンジン負荷を検出する負荷センサ42等を備えており、これら各センサ41,42や上述したA/Fセンサ21、水温センサ32等の各検出信号がECU40に適宜入力される。また、ECU40には、車速センサ43の検出信号が入力される他、エンジン10の出力軸に連結された自動変速機44の変速状態を示す検出信号が入力される。さらに、エンジン10と自動変速機44との間に設けられたロックアップ機構45のロックアップ状態を示す検出信号が入力される。
そして、ECU40は、上述した各種センサから各々検出信号を入力し、それらの各種検出信号に基づいてインジェクタ15による燃料噴射制御、イグナイタ17による点火時期制御、バルブ駆動機構18,19によるバルブタイミング制御、スロットルバルブ13(スロットルアクチュエータ14)による空気量制御を実施する。かかる場合、上記の各種制御は、基本的にエンジン10の最高効率(最適燃費)が得られるようにして適合データ等に基づいて実施される。
また、本制御システムでは、エンジン10において燃料の燃焼により生じる燃料燃焼エネルギのうち、熱損失分となる熱エネルギ(運動エネルギ以外のエネルギ)を回収し再利用することで、システム全体としての燃費改善を図るようにしており、都度の熱利用要求とエンジン運転状態とに基づいてエンジン10の廃熱制御を実施する。
特に本実施形態では、暖房等による熱利用要求が発生した場合に、その熱利用要求に応えるべくエンジン運転状態でのエンジン熱効率を意図的に低下させてエンジン廃熱量を増やし、その分、暖房等への廃熱利用を促すようにしている。エンジン熱効率は、燃焼による熱エネルギのうち、どれだけがエンジン出力(有効な仕事)に変換されたかを表す指標であり、エンジン運転効率(エンジン軸効率)とも称される。
より詳しくは、エンジンの運転領域ごとに設定されたエンジンの熱効率特性の組み合わせが各々異なる複数の制御モードを設定するとともに、それら制御モードごとに、エンジン制御量を算出するための制御量マップを用意しておく。そして、都度の熱利用要求に応じた要求熱量に基づいて、制御モードの切替を実施するようにしている。制御モードとしては、例えば点火時期制御について3つの制御モードを想定しており、その制御モードには、エンジンの全運転領域にエンジン熱効率(=燃費)が最も良い熱効率特性が設定された第1制御モードと、エンジンの一部の運転領域にそれよりも熱効率が低い熱効率特性が設定された第2,第3制御モードとが含まれている。これら3つの制御モードは、熱効率の観点からすれば、概して第1制御モード→第2制御モード→第3制御モードの順に熱効率が低くなり、廃熱量の観点からすれば、概して第1制御モード→第2制御モード→第3制御モードの順に廃熱量が増加するものとなっている。複数の制御モードとして、2つの制御モード、又は4つ以上の制御モードを設定しておくことも可能である。
なお、熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)手法として、以下のいずれかを適用することができる。
(1)点火時期制御において点火時期を遅角させることにより、熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)。
(2)吸気バルブの開弁時期制御においてその開弁時期を進角側に変更することにより(すなわち吸気早開きにすることにより)、熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)。
(3)排気バルブの開弁時期制御においてその開弁時期を遅角側に変更することにより(すなわち排気遅開きにすることにより)、熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)。
その他、上記の(1)〜(3)の組み合わせにより熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)ことも可能である。
上記のとおり第1〜第3制御モードでは、制御モードごとに熱効率や廃熱量に差が生じるものとなっているが、例えばエンジンの高負荷運転状態では発生熱量が多くなることから、エンジン熱効率が最良になるようにエンジン制御が行われても十分な廃熱量が確保できる。それゆえに、エンジンの高負荷領域では、第2,第3制御モードにおいて敢えて熱効率を低下させる必要がない。そこで、3つの制御モードにおいて、所定の高負荷域ではモード間のエンジン制御量の差異を無くし、実質的には同一制御が実施されるようにしている。
次いで、第1〜第3制御モードについて、所定のエンジン運転領域ごとに定められる熱効率特性の違いを図2を用いて説明する。図2(a)〜(c)ではいずれも横軸がエンジン回転速度(NE)、縦軸がエンジン負荷である。ここでは特に、エンジン運転領域を運転負荷の違いにより低負荷域、中負荷域、高負荷域に分け、これら各負荷域におけるエンジン制御の熱効率特性の違いを説明する。図中のA,B,Cは熱効率の違いを示し、熱効率が高いものから順に「A>B>C」になっている。
なお、図2では、低・中・高負荷域を分割するしきい値がエンジン回転速度にかかわらず一定で示されているが、エンジン回転速度に応じてしきい値を変更すること、すなわちエンジン回転速度に応じて低・中・高負荷域の境界値を変更することも可能である。例えば、高回転側ほど高負荷域を広くする等が可能である。
図2(a)に示すように、第1制御モードでは、エンジンの低・中・高いずれの負荷域でも熱効率特性が「A」として定められ、基本的にいずれの負荷領域でも最高の熱効率でエンジン制御が実施されるようになっている。また、図2(b)に示すように、第2制御モードでは、エンジンの高負荷域では熱効率特性が「A」として定められ、低・中負荷域では熱効率特性が「B」として定められている。これにより、高負荷域では、第1制御モードと同じ熱効率でエンジン制御が実施され、低・中負荷域では、第1制御モードよりも低い熱効率でエンジン制御が実施されるようになっている。換言すれば、第2制御モードでは、低・中負荷域において、第1制御モードよりも廃熱量の増加が図られるようになっている。
さらに、図2(c)に示すように、第3制御モードでは、エンジンの高負荷域では熱効率特性が「A」として定められ、中負荷域では熱効率特性が「B」として定められ、低負荷域では熱効率特性が「C」として定められている。これにより、高負荷域では、第1制御モードと同じ熱効率でエンジン制御が実施され、中負荷域では、第2制御モードと同じ熱効率でエンジン制御が実施され、低負荷域では、第2制御モードよりも低い熱効率でエンジン制御が実施されるようになっている。換言すれば、第3制御モードでは、低・中負荷域において、第1制御モードよりも廃熱量の増加が図られ、特に低負荷域では、第1,第2制御モードのいずれよりも廃熱量の増加が図られるようになっている。
また、図2(a)〜(c)に示す各制御モードの熱効率特性において、高負荷域では、第1〜第3制御モードの熱効率特性が同じであり、中負荷域では、第2,第3制御モードの熱効率特性が同じであるものとなっている。
ところで、エンジンの制御モードを切り替える際には、発生トルクの変動(トルク段差)に伴うショック等が発生し、ドライバビリティが悪化することが懸念される。そこで本実施形態では、熱利用要求の発生時又は解消時に直ちに制御モードの切替を実施するのではなく、同熱利用要求の発生後又は解消後において、都度のエンジン運転状態に基づいて制御モードの切替タイミングを遅延させ、これにより制御モードの切替に伴うドライバビリティの悪化を抑制することとしている。
本実施形態では、図2で説明したとおり第1〜第3制御モードにおいて、制御モードが異なっていても熱効率特性が同じエンジン運転領域が存在していることを利用し、熱効率特性が同じ複数の制御モードが存在するエンジン運転領域で、その熱効率特性が同じ制御モード間でモード切替を実施することとしている。これにより、制御モードの切替を実施しても、実質的には熱効率特性が変更されることがなく同様の制御が継続され、モード切替によるドライバビリティの悪化が抑制される。
具体的には、エンジン運転状態が高負荷域にある場合、第1〜第3制御モードではいずれも熱効率特性が同じであるためどの制御モードに対してもモード切替が許可される。また、エンジン運転状態が中負荷域にある場合には、第2制御モード⇔第3制御モード間でのみモード切替が許可され、エンジン運転状態が低負荷域にある場合にはどの制御モードに対してもモード切替が許可されない。
つまり、高負荷域は、3つの制御モードの熱効率特性が同じになる運転領域であり、どの制御モードに対してもモード切替が許可される許可領域になっている。また、低負荷域は、3つの制御モードの熱効率特性がそれぞれ異なる運転領域であり、どの制御モードに対してもモード切替が許可されない非許可領域になっている。また、中負荷域は、第2制御モード⇔第3制御モード間でのモード切替については許可領域であり、第1制御モード⇔第2,第3制御モード間でのモード切替については非許可領域となっている。
図3は、本実施形態における廃熱制御の概要を示す機能ブロック図である。なお、図3では、エンジン制御として点火時期制御を想定している。図3に示す各機能はECU40により実現される。
図3において、第1制御部M1、第2制御部M2及び第3制御部M3は、上述した第1〜第3制御モードにおけるエンジン制御を各々実施するものであり、エンジン運転状態としてのエンジン回転速度(NE)とエンジン負荷(例えば吸入空気量、吸気管負圧、スロットル開度のいずれか)とに基づいてエンジン制御量としての点火時期IGtを算出する。この場合、第1制御部M1では、図2(a)の熱効率特性に基づいて作成された点火時期マップを用いて点火時期IGtが算出され、第2制御部M2では、図2(b)の熱効率特性に基づいて作成された点火時期マップを用いて点火時期IGtが算出され、第3制御部M3では、図2(c)の熱効率特性に基づいて作成された点火時期マップを用いて点火時期IGtが算出される。
モード切替部M4は、第1〜第3制御部M1〜M3により算出された点火時期IGtのうち、いずれにより実際の点火時期を制御するかを切り替えるものであり、切替判定部M5からの切替指令に基づいて第1〜第3制御部M1〜M3の切替、すなわち制御モードの切替を実施する。このモード切替部M4により切り替えられた(選択された)制御モードでの点火時期指令値がイグナイタに出力され、これにより所望の点火時期で筒内混合気に対する点火が行われる。
切替判定部M5は、暖房要求等の熱利用要求とエンジン負荷とに基づいて切替指令を行うものであり、熱利用要求が発生した後又は同熱利用要求が解消された後に、エンジン負荷情報に基づいて各制御部M1〜M3の切替、すなわち制御モードの切替を指令する。この切替判定部M5により、制御モードの切替に際してエンジン運転状態に基づいて制御モードの切替タイミングが適宜遅延されるようになっている。なお本実施形態では、第1〜第3制御部M1〜M3が「制御手段」に相当し、モード切替部M4及び切替判定部M5が「モード切替手段」に相当する。
熱利用要求には、例えば、暖房要求や触媒暖機要求などが含まれる。暖房要求は、車室内の暖房が行われる場合に発生するものであり、車両搭乗者の操作又は自動空調制御の制御指令に基づき発生する。また、触媒暖機要求は、排気管12の触媒22が低温状態にある場合に発生するものであり、エンジン10の冷間始動時や車両運転途中の一時的な温度低下時に発生する。例えば、エンジン10のアイドルストップ制御(自動停止再始動制御)を実施するシステムでは、アイドルストップ中に触媒温度が低下することが考えられ、かかる場合、エンジン再始動後に触媒暖機要求が発生する。
次に、熱利用要求に応じて制御モードを切り替えるモード切替制御の概要を図4のタイムチャートにより説明する。図4の(a)は熱利用要求が発生した場合を、(b)は熱利用要求が解消した場合を示している。
図4(a)において、タイミングt1以前は第1制御モードであり、かつエンジン運転負荷が低負荷域(例えば、スロットル開度がしきい値TH1未満)にある。そして、その状態下においてタイミングt1で暖房要求等の熱利用要求が発生すると、このt1以降に、第1制御モードから、それよりもエンジン廃熱量が大きい制御モード(第2又は第3制御モード)への切替が実施される。ここでは、第1制御モードから第3制御モードへの切替を想定している。ただし、タイミングt1ではエンジン負荷が低負荷であるため、第1制御モードから他の制御モードへの切替は、熱効率特性が異なる制御モードへの切替、すなわち図2で言えば熱効率特性Aから熱効率特性B又はCへの切替となる。したがって、制御モードの切替に伴うドライバビリティの悪化を回避すべく、タイミングt1では制御モードの切替は実施されない。
その後、例えばアクセル操作によりスロットル開度が増加すると、タイミングt2でエンジン負荷が中負荷(スロットル開度がしきい値TH1以上)になり、さらにタイミングt3でエンジン負荷が高負荷(スロットル開度がしきい値TH2以上)になる。この場合、中負荷域での第1制御モードから他の制御モードへの切替は、やはり熱効率特性が異なる制御モードへの切替(図2では、熱効率特性A→Bへの切替)となるため、タイミングt2での制御モードの切替は実施されない。これに対し、高負荷域での第1制御モードから他の制御モードへの切替は、熱効率特性が同じ制御モードへの切替(図2では、熱効率特性A→Aへの切替)となるため、タイミングt3では第1制御モードから第3制御モードへの切替が実施される。このとき、制御モードの切替タイミング(t3)は、熱利用要求の発生タイミング(t1)に対して遅延されるものとなっている。
切替実施フラグF1は、熱利用要求の発生後における制御モードの切替完了を判定するためのフラグであり、熱利用要求の発生に伴い「1」がセットされ(図4のタイミングt1)、都度の要求熱量を満足する制御モードへのモード切替が完了した時点で「0」にクリアされる(タイミングt3)。
念のため記載しておくと、熱利用要求が発生した時点(タイミングt1)で、エンジン負荷が高負荷であれば、制御モードの切替タイミングが遅延されることなく、直ちに制御モードの切替(第1制御モード→第2,第3制御モードへの切替)が実施される。
熱利用要求の発生タイミングからすれば、制御モードが直ちに切り替えられるのではなく、その切替タイミングが遅延されることになり、タイミングt1〜t3の期間は制御モード切替(エンジン廃熱量の増加)の遅延時間になるが、エンジン運転状態下であればある程度のエンジン廃熱が確保されているため、制御モードの切替が多少遅れたとしても車両搭乗者が不快感を覚えることはないと考えられる。
次に、熱利用要求が解消される場合の制御モードの切替を図4(b)を用いて説明する。なおここでは、第3制御モードから第1制御モードへの切替であって、熱利用要求が解消されるタイミングt11ではエンジン負荷が低負荷である場合を想定している。
タイミングt11で熱利用要求が解消されると、このt11以降に、第3制御モードから、それよりもエンジン廃熱量が小さい制御モードへの切替が実施される。この場合、タイミングt11ではエンジン負荷が低負荷であるため、第3制御モードから他の制御モードへの切替は、熱効率特性が異なる制御モードへの切替(図2では、熱効率特性C→A又はBへの切替)となる。したがって、制御モードの切替に伴うドライバビリティの悪化を回避すべく、タイミングt11では制御モードの切替は実施されない。
その後、例えばアクセル操作によりスロットル開度が増加すると、タイミングt12でエンジン負荷が中負荷(スロットル開度がしきい値TH1以上)になり、さらにタイミングt13でエンジン負荷が高負荷(スロットル開度がしきい値TH2以上)になる。この場合、中負荷域での第3制御モードから第2制御モードへの切替は、熱効率特性が同じ制御モードへの切替(図2では、熱効率特性B→Bへの切替)となるため、タイミングt12では第3制御モードから第2制御モードへの切替が実施される。さらに、高負荷域での第2制御モードから第1制御モードへの切替は、やはり熱効率特性が同じ制御モードへの切替(図2では、熱効率特性A→Aへの切替)となるため、タイミングt13では第2制御モードから第1制御モードへの切替が実施される。このとき、制御モードの切替タイミング(t12,t13)は、熱利用要求の解消タイミング(t11)に対して遅延されるものとなっている。
切替実施フラグF1は、熱利用要求の解消に伴い「1」がセットされ(図4のタイミングt11)、制御モードの切替が完了した時点で「0」にクリアされる(タイミングt13)。
図5は、廃熱制御のための制御モード切替手順を示すフローチャートであり、本処理はECU40により所定周期で繰り返し実行される。
図5において、まずステップS11では、切替実施フラグF1が「0」であるか否かを判定する。そして、F1=0であれば、すなわち熱利用要求の発生後又は解消後から制御モードの切替完了までの期間でなければ、次のステップS12に進み、F1=1であれば、すなわち熱利用要求の発生後又は解消後から制御モードの切替完了までの期間であれば処理をステップS16まで飛ばす。
ステップS12では、熱利用要求(暖房要求や触媒暖機要求など)が発生したタイミング、又は同熱利用要求が解消したタイミングであるか否かを判定し、続くステップS13では、現時点の制御モードでのエンジン制御でその時の要求熱量を満足できるか否かを判定する。このステップS13では、熱利用要求の発生時であれば、現時点の制御モードよりも廃熱量が大きい(熱効率が低い)制御モードへの切替を行う必要があるか否かを判定する。また、熱利用要求の解消時であれば、現時点の制御モードよりも廃熱量が小さい(熱効率が高い)制御モードへの切替を行う必要があるか否かを判定する。
ステップS12がYESでかつステップS13がNOであれば後続のステップS14に進み、ステップS12がNOであるかステップS13がYESであればそのまま本処理を終了する。
ステップS14では、切替実施フラグF1に「1」をセットする。続くステップS15では、今回の熱利用要求の発生又は解消によりどの制御モードへの切替を実施するかを決定する。このステップS15では、熱利用要求の発生時であれば、現時点の制御モードよりも廃熱量が大きい(熱効率が低い)制御モードを切替先の制御モードとして決定する。また、熱利用要求の解消時であれば、現時点の制御モードよりも廃熱量が小さい(熱効率が高い)制御モードを切替先の制御モードとして決定する。
その後、ステップS16〜S18では、制御モード切替の実施条件が成立するか否かを判定する。具体的には、
・ステップS16では、現時点のエンジン運転状態が、熱効率特性が同じ制御モードへの切替が可能なものであるか否か(モード切替の許可領域あるか非許可領域にあるか)を判定する。
・ステップS17では、燃料カット中又はアイドルストップ中であるか否かを判定する。なお、燃料カットは車両の減速中に実施される。アイドルストップは、アイドルストップ制御において、所定の自動停止条件が成立した場合に実施される。
・ステップS18では、車両走行状態が、制御モード切替に伴うトルク変動が生じても車両搭乗者がそれに気付かない状態であるか否かを判定する。例えば、車両が加速状態、減速状態のいずれかである場合、自動変速機44が変速動作中である場合、ロックアップ機構45がロックアップオフ状態である場合のいずれかであるか否かを判定する。
そして、ステップS16〜S18のいずれかがYESであれば後続のステップS19に進み、ステップS16〜S18が全てNOであればそのまま本処理を終了する。
ステップS19では、ステップS15で決定した切替先制御モードに基づいて制御モードへの切替を実行する。このとき、例えば、図4(b)で説明したように、熱利用要求の解消時における制御モードが「第3制御モード」であり、切替先の制御モードが「第1制御モード」である場合に、一気に第3制御モード→第1制御モードの切替を行うのではなく、第3制御モード→第2制御モード→第1制御モードの順に切替を行うことも可能である。
その後、ステップS20では、ステップS15で決定した切替先制御モードへの切替が完了したか否かを判定し、切替完了であれば、ステップS21に進んで切替実施フラグF1を「0」にクリアする。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
熱効率特性が各々相違する複数の制御モードの切替に際し、その切替タイミングを熱利用要求の発生タイミング又は解消タイミングに対して適宜遅延させるようにした。また、熱利用要求の発生後又は解消後において、都度のエンジン運転状態が所定の許可領域にあれば制御モードの切替を許可し、非許可領域にあれば制御モードの切替を許可しない構成とした。
上記構成によれば、熱効率特性が異なる複数の制御モードを切り替えることにより、都度の熱利用要求に応じたエンジンの廃熱制御を実現することが可能となる。また、その複数の制御モードについて、切替タイミングを熱利用要求の発生タイミング又は解消タイミングに対して遅延させるようにしたため、熱利用要求が発生すると又は同熱利用要求が解消されると直ちにモード切替を実施する構成とは異なり、都度の熱利用要求に応じた制御モードの切替に好都合な状態になるのを待って、そのモード切替を実施することが可能となる。このとき、制御モードの切替を、都度のエンジン運転状態が許可領域及び非許可領域のいずれにあるかに応じて実施する構成としたため、エンジン運転中においてトルク変動の出にくい適切なタイミングで制御モードの切替を実施できる。その結果、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施でき、しかも要求熱量の変更に伴う制御切替時のショック等を低減することができる。これにより、ドライバビリティの改善を図ることができる。
より詳細には、2以上の制御モードの熱効率特性が同じになる運転領域(本実施形態では、高負荷域及び中負荷域)を許可領域とし、同許可領域で、熱効率特性が同じ制御モード間にて該制御モードの切替を実施する構成とした。これにより、制御モードの切替と同時に熱効率特性が変更されることがなく、その切替の前後で熱効率特性が同じになる。したがって、熱効率特性の変更に伴うトルクショックを抑制できる。
上記のとおり2以上の制御モードの熱効率特性が同じになる運転領域で制御モードの切替を実施する構成では、熱利用要求に応じて制御モードを切り替える場合に、その切替前後におけるエンジンの出力差を所定以下に抑えることができる。ゆえに、好適なる制御モードの切替を実現できる。
エンジンの高負荷域では、全ての制御モードについて熱効率特性を同じにしたため、この高負荷域ではいずれの制御モードの切替であってもその変更が許可される。特に、高負荷域はエンジン熱効率が最高効率であり、必要以上にエンジン熱効率を低下させることなく都度の熱利用要求に応えることができる。
熱利用要求の発生後又は解消後において、燃料カット中やアイドルストップ中といったエンジンの燃焼休止時にも制御モードの切替を実施する構成とした。エンジンの燃焼休止時には、エンジンのトルク発生が中断されることから、その前後においてトルク差が生じていても何ら問題は生じない。ゆえに、エンジンの燃焼休止時において好適なる制御モードの切替を実現できる。
また、熱利用要求の発生後又は解消後において、車両の加速・減速状態、自動変速機44の変速動作状態、ロックアップ機構45のロックアップオフ状態のいずれかである場合にも、制御モードの切替を実施する構成とした。これらの各状態では、車両全体としてトルク変動が生じやすい。そのため、これらの各状態下では、制御モード切替に伴うトルク変動が生じても車両搭乗者がそれに気付きにくい。つまり、制御モードの切替時にエンジンのトルク変動が生じたとしてもそれがかき消されることとなる。ゆえに、好適なる制御モードの切替を実現できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、上述した第1の実施形態との相違点を中心に説明する。上記実施形態では、2以上の制御モードの熱効率特性が同じになる運転領域で、熱効率特性が同じ制御モード間にて該制御モードの切替を実施する構成としたが(図2、図5のステップS16参照)、本実施形態ではこの構成を変更する。すなわち、本実施形態において、複数に分割されたエンジン運転領域には、複数の熱効率特性のうち1つの熱効率特性の実行域として定められた第1運転領域と、複数の熱効率特性のうち2以上の熱効率特性の実行域として定められた第2運転領域とが含まれている。そして、それら両運転領域間でエンジン運転状態が移行するタイミングで、熱利用要求に応じて制御モードの切替を実施する。
図6は、横軸をエンジン回転速度(NE)、縦軸をエンジン負荷として、2つのエンジン運転領域を示す図である。ここではエンジン負荷の違いによりエンジン運転領域が高負荷域及び低負荷域に分割されており、高負荷域が第1運転領域に相当し、低負荷域が第2運転領域に相当する。
本実施形態では、エンジンの熱効率特性の組み合わせが各々異なる複数の制御モードとして2つの制御モード(第1,第2制御モード)を想定しており、そのうち第1制御モードではエンジンの全運転領域にエンジン熱効率(=燃費)が最も良い熱効率特性Aが設定され、第2制御モードではエンジンの一部の運転領域に第1制御モードよりも熱効率が低い熱効率特性Bが設定されている。そして、高負荷域を、熱効率特性Aによるエンジン制御が実施される制御実行域とし、低負荷域を、熱効率特性A及び熱効率特性Bによるエンジン制御がそれぞれ実施される制御実行域としている。高負荷域と低負荷域とは隣り合う運転領域として定められている。なお、複数の熱効率特性として3つ以上の熱効率特性を設定する構成、低負荷域(第2運転領域)が3つ以上の熱効率特性の実行域である構成とすることも可能である。
ここで、熱利用要求の発生又は解消に伴う要求熱量の増加又は減少時には、ECU40は、高負荷域から低負荷域にエンジン運転状態が移行するタイミング、又は低負荷域から高負荷域にエンジン運転状態が移行するタイミングで、熱利用要求に応じて制御モードの切替を実施する。より詳細には、例えば、第1制御モードにあり、かつ熱利用要求の発生に伴いエンジン廃熱量を増やす場合には、エンジン運転状態が高負荷域から低負荷域に移行するタイミングで制御モードの切替(第1→第2制御モードの切替)を実施する。また、第2制御モードにあり、かつ熱利用要求の解消に伴いエンジン廃熱量を減らす場合には、エンジン運転状態が低負荷域から高負荷域に移行するタイミングで制御モードの切替(第2→第1制御モードの切替)を実施する。
図7は、第1制御モード及び第2制御モードについてエンジン出力と熱量との関係を示す図であり、同図にはエンジン出力が大きいほど熱量が大きくなる関係が示されている。また、第1制御モード(実線)については高負荷域及び低負荷域において最高効率となる特性が示され、第2制御モード(一点鎖線)については低負荷域において第1制御モードよりも低効率となる特性(熱量が大きくなる特性)が示されている。ここで、エンジン運転状態が図のPである場合に、制御モードを第1制御モードから第2制御モードに切り替えることを考えると、本実施形態では、図に矢印で示すとおり一旦高負荷域に入り、その後、低負荷域に戻った際に制御モードの切替が実施される。かかる場合、低負荷域内で第1→第2制御モードの切替を実施すると、熱効率特性が異なる制御モード間でのモード切替となり、トルク変動が生じる。これに対し、高負荷域に対する行き来に合わせて制御モードの切替を実施することによりトルク変動を抑制できる。
なお、第1,第2制御モードで実行される低負荷域では、同低負荷域において高負荷域との境界部付近に、高負荷域に対して連続的に変化するエンジン出力特性が定められている(図の破線囲い部分X)。これにより、制御モードの切替の前後で熱効率特性の変化がほぼ生じないようにすることができ、円滑なる制御モードの切替が可能となる。例えば、低負荷域と高負荷域との境界部では、エンジン運転状態の所定変化に対するエンジン出力の変化量があらかじめ定めた許容値以内になっている。
次に、本実施形態におけるモード切替制御の概要を図8のタイムチャートにより説明する。図8は熱利用要求が発生した場合の概要を示している。
図8において、タイミングt21以前は第1制御モードであり、かつエンジン運転負荷が低負荷域(例えば、スロットル開度がしきい値THa未満)にある。そして、その状態下においてタイミングt21で暖房要求等の熱利用要求が発生すると、このt21以降に、第1制御モードから、それよりもエンジン廃熱量が大きい第2制御モードへの切替が実施される。ただし、タイミングt21ではエンジン運転状態が低負荷域にあり、このタイミングで制御モードの切替を実施するとトルク変動のおそれがあるため、タイミングt21では制御モードの切替は実施されない。
その後、例えばアクセル操作によりスロットル開度が増加すると、タイミングt22でエンジン負荷が高負荷(スロットル開度がしきい値THa以上)になる。高負荷域では、熱効率特性がAのみであるため、そのまま第1制御モードが継続される。そして、タイミングt23でエンジン負荷が高負荷から低負荷に移行すると、第1制御モード→第2制御モードの切替が許可される。このとき、制御モードの切替タイミング(t23)は、熱利用要求の発生タイミング(t21)に対して遅延されるものとなっている。
熱利用要求の発生タイミングからすれば、制御モードが直ちに切り替えられるのではなく、その切替タイミングが遅延されることになり、タイミングt21〜t23の期間は制御モード切替(エンジン廃熱量の増加)の遅延時間になるが、エンジン運転状態下であればある程度のエンジン廃熱が確保されているため、制御モードの切替が多少遅れたとしても車両搭乗者が不快感を覚えることはないと考えられる。
図9は、廃熱制御のための制御モード切替手順を示すフローチャートであり、本処理はECU40により所定周期で繰り返し実行される。図9の処理は、上述した図5の処理に置き換えて実行されるものであり、図5と同じ処理については同じステップ番号を付して説明を簡略化する。
図9において、ステップS11〜S15は図5と同じ処理であり、切替実施フラグF1=0であるか否かの判定(S11)、熱利用要求(暖房要求や触媒暖機要求など)の発生時又は解消時であるか否かの判定(S12)、要求熱量を満足しているかどうかの判定(S13)、切替実施フラグF1のセット(S14)、切替先の制御モードの決定(S15)をそれぞれ実行する。
その後、ステップS22では、今回の制御モードの切替が「第1制御モード→第2制御モード」であるか否かを判定し、YESであればステップS23に進み、NOであればステップS24に進む。このとき、熱利用要求の発生に伴いエンジン廃熱量を増やす場合(第1制御モード→第2制御モードの切替時)には、ステップS22がYESになり、熱利用要求の解消に伴いエンジン廃熱量を減らす場合(第2制御モード→第1制御モードの切替時)には、ステップS22がNOになる。
ステップS23では、今現在のエンジン運転状態が「高負荷域→低負荷域」への移行時であるか否かを判定する。また、ステップS24では、今現在のエンジン運転状態が「低負荷域→高負荷域」への移行時であるか否かを判定する。そして、ステップS23がYES、又はステップS24がYESであれば、後続のステップS19に進み、ステップS23,S24がNOであればそのまま本処理を終了する。
ステップS19,S21は図5と同じ処理であり、切替先の制御モードへの切替(S19)、切替実施フラグF1のクリア(S21)をそれぞれ実行する。
なお、図5で説明したように、燃料カット中又はアイドルストップ中であるか否かの判定(図5のステップS17)や、車両走行状態が、制御モード切替に伴うトルク変動が生じても車両搭乗者がそれに気付かない状態であるか否かの判定(図5のステップS18)を実施し、それらの結果に応じて制御モードの切替を実施する構成としてもよいが、図9では省略している。
以上詳述した第2の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施でき、しかも要求熱量の変更に伴う制御切替時のショック等を低減することができる。これにより、ドライバビリティの改善を図ることができる。
また特に、熱効率特性Aの実行域である高負荷域(第1運転領域)と、熱効率特性A及び熱効率特性Bの実行域である低負荷域(第2運転領域)とについて、高負荷域→低負荷域への移行時、又は低負荷域→高負荷域への移行時に、熱利用要求に応じて制御モードの切替を実施する構成とした。これにより、熱利用要求の発生時又は解消時には、高負荷域と低負荷域との間のエンジン運転状態の移行を待って制御モードの切替が実施される。このとき、熱利用要求に伴う制御モードの切替が、2以上の熱効率特性の実行域である低負荷域内で実施されることはなく、1つの熱効率特性の実行域である高負荷域に対する行き来に合わせて実施される。これにより、制御モードの切替の前後で熱効率特性の変更に伴うトルクの変化がほぼ生じないようにすることができる。この場合、低負荷域を実行域とする2以上の制御モードは、各々熱効率特性の組み合わせが異なるものであり、当該低負荷域内での制御モードの切替時にはトルク変動が生じるのに対し、高負荷域に対する行き来に合わせて制御モードの切替を実施することによりトルク変動を抑制できる。
エンジンの高負荷域はエンジン熱効率が最高効率であり、必要以上にエンジン熱効率を低下させることなく都度の熱利用要求に応えることができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態との相違点を中心に説明する。上記実施形態では、熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)手法として、(1)点火時期を遅角させる、(2)吸気バルブの開弁時期制御においてその開弁時期を進角側に変更する、(3)排気バルブの開弁時期制御においてその開弁時期を遅角側に変更する、の1つ又は複数を実施する構成としたが、本実施形態ではこの構成を変更する。すなわち、本実施形態では、複数の制御モードの少なくともいずれかにおいて、吸気バルブの開弁期間と排気バルブの開弁期間とがオーバーラップする際のオーバーラップ量を変更するオーバーラップ量制御と、点火時期制御において点火時期を進角させる点火進角制御とを組み合わせて実施することにより、廃熱増加を図る構成となっている。
具体的には、本実施形態では、複数の制御モードとして、上記第2の実施形態における第1制御モードと第2制御モードとが設定されており、そのうち、第2制御モードが、上記のオーバーラップ量制御と点火進角制御とにより廃熱増加を図る構成となっている。つまり、高負荷域を、熱効率特性Aによるエンジン制御が実施される制御実行域とし、低負荷域を、熱効率特性A及び熱効率特性B(オーバーラップ量制御+点火進角制御)によるエンジン制御がそれぞれ実施される制御実行域としている(図6参照)。そして、熱利用要求の発生に伴う要求熱量の増加時には、ECU40は、高負荷域から低負荷域にエンジン運転状態が移行するタイミングで、第1制御モードから第2制御モード(オーバーラップ量制御+点火進角制御)への切替を実施する。また、熱利用要求の解消に伴う要求熱量の減少時には、ECU40は、低負荷域から高負荷域にエンジン運転状態が移行するタイミングで、第2制御モード(オーバーラップ量制御+点火進角制御)から第1制御モードへの切替を実施する。
以下に、本実施形態の第2制御モードについて詳しく説明する。
第2制御モードによるエンジン制御では、廃熱増加に際し、オーバーラップ量を、現在のエンジン動作点に対し増加側に変更し、かつ点火時期を、増加後のオーバーラップ量に対応する最高効率時期(MBT又はその付近)よりも進角側に制御する廃熱制御を実施する。本実施形態では、オーバーラップ量と点火時期の最高効率時期IM1〜IM5及び最進角時期IG1〜IG5との関係が予めROM等に記憶されており、点火時期を最進角時期IG1〜IG5とした場合のエンジン10の燃料消費量が最小となる最高効率オーバーラップ量、すなわち最大オーバーラップ量にオーバーラップ量を制御し、かつ要求熱量に応じて点火時期を最大オーバーラップ量に対応する最高効率時期IM5よりも進角側に制御する。これにより、熱効率の低下(燃費悪化)をできるだけ抑制しつつ所望量のエンジン廃熱を発生させるようにしている。
図10は、第2制御モードによる廃熱制御の概要を説明するための図である。図中のL1〜L5は、それぞれ異なるオーバーラップ量についての点火時期特性を示しており、L1からL5になるにつれてオーバーラップ量が増加していることを示している。本図では、L2を基準オーバーラップ量として、それぞれのオーバーラップ量が10°CAずつ増加側又は減少側のオーバーラップ量になっている。なお、図10では、点火時期について、MBTがノック限界よりも遅角側になるエンジン運転状態を想定している。また、図10において、オーバーラップ量については、排気側バルブ駆動機構19により排気バルブの開弁期間を遅角側又は進角側に変更することで可変にしている。
図10において、L1〜L5は、オーバーラップ量ごとの点火時期とエンジン廃熱量との関係を示している。L1〜L5で示すように、オーバーラップ量ごとに点火時期特性が相違しており、それぞれのオーバーラップ量について、ノック限界又は筒内圧のピーク位置制限により規定される進角限界としての最進角時期IG1〜IG5と、トルク変動を制限すべく規定される遅角限界としての最遅角時期とで挟まれる領域が点火時期の制御範囲となっている。各オーバーラップ量の最進角時期IG1〜IG5について比較すると、オーバーラップ量が大きいほど最進角時期が進角側になっている。
L1〜L4は、点火時期の制御範囲において下に凸の二次曲線で表される。つまり、それぞれの変曲点でエンジン廃熱量が最小となり(熱効率が最大となり)、点火時期を変曲点から進角側、遅角側のいずれに変更しても廃熱量が大きくなっている(熱効率が低下する)。そして、点火時期が変曲点よりも遅角側では、最遅角時期でエンジン廃熱量が最大となり、変曲点よりも進角側では、最進角時期IG1〜IG4でエンジン廃熱量が最大になっている。なお、L5では、最進角時期IG5と最遅角時期との中間位置に変曲点が存在せず、最遅角時期でエンジン廃熱量が最小となり、最進角時期IG5で最大になっている。また、最進角時期IG1〜IG5でのエンジン廃熱量について比較すると、オーバーラップ量が小さいほどエンジン廃熱量が大きくなっている(熱効率が低下する)。
図10では、第1制御モードによるエンジン制御、例えば、オーバーラップ量が基準オーバーラップ量(図中のL2)で制御され、かつ基準オーバーラップ量に対応する最適点火時期(IM2)でエンジン制御が実施されているときに、その時のエンジン運転状態では要求熱量を満たすことができなくなった場合を考える。この場合、エンジンの制御モードを第1制御モードから第2制御モードに切り替え、第2制御モードによるエンジン制御を実施することによりエンジン廃熱量の増加を図る。
具体的には、オーバーラップ量を、図10の一点鎖線にて示すように、制御可能範囲の最大値である最大オーバーラップ量(図中のL5)に変更する。そして、点火時期を、最大オーバーラップ量での点火時期特性L5を利用して、要求熱量に応じて最大オーバーラップ量での最高効率時期IM5よりも進角側に変更する。点火時期について更に説明すれば、最高効率時期で点火時期制御を実施することを前提とした上での第1進角補正量H1と、要求熱量に応じて最高効率時期から進角変化させるための第2進角補正量H2との合計量だけ点火時期を進角側に補正する。
ここで、オーバーラップ量ごとの最進角時期IG1〜IG5でのエンジン廃熱量を比較した場合、図10に示すように、オーバーラップ量が大きいほど、最進角時期IG1〜IG5でのエンジン廃熱量が小さくなっている。そのため、L5に示す点火時期特性を利用してエンジン廃熱量を増加させる(熱効率を低下させる)場合、点火時期が最進角時期IG5によって制限されることにより、要求熱量に見合うエンジン廃熱を発生できないことがあると考えられる。
そこで、本実施形態では、第2制御モードにおいては、オーバーラップ量を最大オーバーラップ量で制御し、かつ点火時期を、最大オーバーラップ量に対応する最高効率時期よりも要求熱量に応じて進角側に変更する上記制御(最大オーバーラップ廃熱制御)に加え、最大オーバーラップ量よりも小さいオーバーラップ量で制御し、かつそのときのオーバーラップ量に対応する最進角時期で点火時期を制御する廃熱制御(最進角廃熱制御)を実施する。そして、第2制御モードの実施中において、最大オーバーラップ廃熱制御により熱利用要求を満たすことができない場合(エンジン廃熱量が不足する場合)、最進角廃熱制御によりエンジン廃熱増加を実施する。つまり、第2制御モードでは、要求熱量の大小に応じて、最大オーバーラップ廃熱制御と最進角廃熱制御とを切り替える。
なお、オーバーラップ量ごとの最進角時期IG1〜IG5での燃料消費量を比較した場合、オーバーラップ量が大きいほど燃料消費量が少なくなり(熱効率が高くなり)、最大オーバーラップ量で燃料消費量が最小となる。したがって、本実施形態では、最大オーバーラップ量が、点火時期を最進角時期とした場合のエンジン10の燃料消費量が最小となる最高効率オーバーラップ量に相当する。
図11に、最大オーバーラップ廃熱制御及び最進角廃熱制御の概要を示す。第2制御モードによるエンジン廃熱制御は、最大オーバーラップ量での点火時期特性を利用して廃熱制御を実施する最大オーバーラップ廃熱制御R1と、オーバーラップ量ごとに規定される最進角時期において廃熱制御を実施する最進角廃熱制御R2とで構成されている。そして、最大オーバーラップ廃熱制御R1でのエンジン廃熱量の最大値と要求熱量とを比較した結果、要求熱量の方が小さいか又は等量の場合に最大オーバーラップ廃熱制御R1を実施し、要求熱量の方が大きい場合に最進角廃熱制御R2を実施する。この最進角廃熱制御R2では、エンジン廃熱量を増加させる場合、要求熱量が大きいほど、オーバーラップ量を減少しかつ点火時期を遅角側に変更する。
図12は、第2制御モードによる廃熱制御を示すフローチャートである。この図12の処理は、上述した図9の処理のステップS22で第1制御モード→第2制御モードの切替時であると判定され、かつステップS23で高負荷→低負荷の移行時と判定された場合に、ECU40により所定周期で繰り返し実行される。
図12において、ステップS31では、熱利用要求に伴い発生させるべきエンジン廃熱量の要求値として要求熱量を算出する。要求熱量は、例えば暖房要求によるものであれば、冷却水温Twや冷却水流量、ブロアファン回転速度、外気混入量、外気温、エアコン設定温度、エアコン噴出し温度等のうちの一つ又は複数のパラメータに基づいて算出する。ステップS32では、その時の要求熱量と、オーバーラップ量最大での最進角時期において発生可能な廃熱量(オーバーラップ最大熱量、図11におけるQM)とを比較する。そして、要求熱量とオーバーラップ最大熱量QMとが等量であるか又は要求熱量の方が小さい場合には、最大オーバーラップ廃熱制御としてステップS33,34の処理を実行し、要求熱量がオーバーラップ最大熱量QMよりも大きい場合には、最進角廃熱制御としてステップS35〜S38の処理を実行する。
すなわち、最大オーバーラップ廃熱制御として、ステップS33では、オーバーラップ量を最大値VMAXに設定する。また、ステップS36では、今現在の点火時期を、オーバーラップ量増加前の最高効率時期からオーバーラップ量増加後の最高効率時期に進角変化させるための進角補正量H1と、増加後のオーバーラップ量で要求熱量に応じて最高効率時期から進角変化させるための進角補正量H2との合計量(H1+H2)だけ進角側に設定する。これにより、図示しない別ルーチンによるバルブタイミング制御によりオーバーラップ量が最大値VMAXに変更され、図示しない別ルーチンによる点火時期制御により点火時期が補正量(H1+H2)だけ進角側に変更される。
ここで、点火時期補正のうち、進角補正量H1については、図13に例示するように、オーバーラップ量の増加側への変更量ΔVOLが多いほど、点火進角量が多くなるよう大きい値に設定される。また、進角補正量H2については、図14に例示するように、今現在のエンジン制御での廃熱量と要求熱量との差ΔQが大きいほど、つまり熱量増加分が大きいほど点火進角量が多くなるよう大きい値に設定される。
また、最進角廃熱制御として、ステップS35では、熱量増加前のオーバーラップ量に対応する最進角時期でのエンジン廃熱量(最進角熱量)と要求熱量とを比較する。そして、最進角熱量よりも要求熱量の方が小さく、最進角熱量で要求熱量を満足できる場合には、ステップS36において、燃費悪化抑制効果を最大限に図るべく、オーバーラップ量を大きくするとともに、ステップS37において、点火時期を、その増加後のオーバーラップ量に対応する最進角時期に設定する。この場合、例えば図15に示すように、増加させるべき熱量(今現在のエンジン廃熱量と要求熱量との差)ΔQが大きいほど、今現在のオーバーラップ量に対する変更量を小さくしている。
一方、最進角熱量よりも要求熱量の方が大きい場合には、ステップS38において、オーバーラップ量を小さくするとともに、ステップS37において、点火時期を、その減少後のオーバーラップ量に対応する最進角時期に設定する。この場合、例えば図16に示すように、増加させるべき熱量ΔQが大きいほど、今現在のオーバーラップ量に対する変更量を大きくしており、これにより、燃費悪化を極力抑制しながら廃熱増加を図る。
最後に、ステップS39では、エンジン出力増補処理を実施する。このエンジン出力増補処理は、上記のとおり廃熱制御が実施された場合においてその廃熱制御により低下したエンジン出力を増補するための処理であり、燃料噴射量の増量補正や空気量(スロットル開度)の増量補正が適宜実施される。そして本処理を終了する。
以上詳述した第3の実施形態においても、上記第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、熱利用要求に応じた廃熱制御を実施でき、しかも要求熱量の変更に伴う制御切替時のショック等を低減することができる。これにより、ドライバビリティの改善を図ることができる。
また特に、複数の制御モードの少なくともいずれかにおいて、オーバーラップ量を増加側に変更し、かつ点火時期を、オーバーラップ量増加後の最高効率時期(MBT又はその付近)よりも進角側に変更することにより熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成としたため、より具体的には、オーバーラップ量と、点火時期の最高効率時期及び最進角時期との関係が予め定められており、点火時期を最進角時期とした場合のエンジン10の燃料消費量が最小となる最高効率オーバーラップ量(最大オーバーラップ量)にオーバーラップ量を制御し、かつ点火時期を、要求熱量に応じて、最大オーバーラップ量での最高効率時期よりも進角側に制御することで、エンジン熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成としたため、燃費悪化を極力抑制しつつ、熱利用要求に即した廃熱制御を実施することができる。
また、オーバーラップ量を最大値とし、かつ点火時期を、要求熱量に応じて、最大オーバーラップ量に対応する最高効率時期よりも進角側に制御する最大オーバーラップ廃熱制御と、最高効率オーバーラップ量よりも小さいオーバーラップ量に該オーバーラップ量を制御し、かつそのときのオーバーラップ量に対応する最進角時期で点火時期を制御する最進角廃熱制御とにより第2制御モードによる廃熱制御を構成し、第2制御モードの実施に際し、最大オーバーラップ廃熱制御による発熱で要求熱量を充足可能な場合には最大オーバーラップ廃熱制御による廃熱制御を実施し、最大オーバーラップ廃熱制御による発熱では要求熱量を充足不可の場合には最進角廃熱制御による廃熱制御を実施する構成としたため、最大オーバーラップ廃熱制御により廃熱制御を最適燃費で実施しつつ、最大オーバーラップ廃熱制御では要求熱量を満たすことができない場合に、最進角廃熱制御により熱効率の低下(燃費性能の低下)を極力抑制しつつ要求熱量を満たすことができる。したがって、最大オーバーラップ廃熱制御と最進角廃熱制御との切り替えによって、燃費悪化抑制と熱利用要求とをバランスよく満たすことができる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
・駆動源としてエンジンと電動機とを有するハイブリッド自動車において、電動機に対するエンジンの出力比率が所定以下である場合に、制御モードの切替を実施する構成としてもよい。図5のフローチャートで言えば、上記条件を、ステップS16〜S18のモード切替実施条件に加えればよい。駆動源としてエンジンと電動機とを有するハイブリッド車では、電動機に対するエンジンの出力比率が低ければ、エンジンのトルク変動が生じたとしてもさほど影響はない。ゆえに、電動機に対するエンジンの出力比率が所定以下である場合であっても、好適なる制御モードの切替を実現できる。
・上記実施形態では、複数の制御モードを実現する構成として、制御モードごとに、エンジン制御量を算出するための制御量マップを用意しておく構成を開示したが、これを変更する。例えば、基本制御量マップを各モード共通にするとともに、その基本制御量に対して、制御モードごとに各々異なる補正を付与する構成であってもよい。本構成によっても、エンジンの熱効率特性が各々異なる複数の制御モードを実現できる。
・エンジンの熱効率特性を異ならせるためのエンジン制御として、エンジンの点火遅角、吸気バルブの早開き、排気バルブの遅開きにより廃熱量を増加させる構成を開示したが、他の構成を採用することも可能である。例えば、ノックに余裕がある領域で点火時期を過進角させることでエンジンの熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成、EGR装置によるEGRガス量(外部EGR量)を増減させることでエンジンの熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成、エンジン吸気流を制御することでエンジンの熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成を用いることも可能である。吸気流制御に関して具体的には、吸気管に設けられるTCV(タンブル制御弁)又はSCV(スワール制御弁)の開度を制御し、それによりエンジン10の廃熱量を調整するとよい。さらに、電動ウォータポンプによる流量制御を行うことでエンジンの熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成を用いることも可能である。
・エンジンの熱効率特性を各々異なるための制御手段として、エンジン制御以外のものを採用してもよい。例えば、自動変速機のシフト制御を実施することによりエンジンの熱効率特性を変更するものであってもよい。この場合、自動変速機のシフト制御として、複数の制御モードが定められているとよい。また、ターボチャージャの過給圧制御によりエンジンの熱効率特性を変更する構成、インタークーラの冷却水の流量制御によりエンジンの熱効率特性を変更する構成とすることも可能である。ディーゼルエンジンを備えるエンジンシステムにも適用可能である。
・制御モードの切替を実施する条件として、外気温や車室温等の温度条件を盛り込むことも可能である。例えば、外気温が所定値以下でありかつ外気温と車室温との差が所定値以下(車室温−外気温≦所定値)であること、目標車室温と実車室温との差が所定値以上(目標車室温−実車室温≧所定値)であること、外気温又は車室温が所定値以下でかつエンジン始動から所定時間以内であることのいずれかが成立する場合に、制御モードの切替を許可する構成とする。こうして温度条件を盛り込むことにより、暖房等の空調を好適に実施し、快適性の向上を図ることができる。
・熱利用要求としては、暖房要求や触媒暖機要求以外に、車載バッテリの昇温要求など、車載部品の昇温要求が含まれる。例えば、車両の走行用モータの電源装置として高電圧バッテリが搭載されている場合において、高電圧バッテリによる電力供給の安定化を図るには当該バッテリを所定温度に保持することが考えられる。かかる場合、夜間や冬季の車両走行時において外気温が低温になると熱利用要求としてバッテリ昇温要求が生じ、そのバッテリ昇温要求に応えるべく、いずれかの制御モードによるエンジン制御等が実施される。
・上記第1の実施形態において、複数の制御モードのうち少なくともいずれかとして、吸気バルブの開弁期間と排気バルブの開弁期間とがオーバーラップする際のオーバーラップ量を変更するオーバーラップ量制御と、点火時期制御において点火時期を進角させる点火進角制御とを実施することにより熱効率を低下させる(廃熱量を増加させる)構成とする。例えば、上記第1の実施形態において、第2,第3制御モードの少なくともいずれかを、上記のオーバーラップ量制御及び点火進角制御を実施するものとしたり、あるいは、上記第3の実施形態における最大オーバーラップ廃熱制御及び最進角廃熱制御により廃熱制御を実施したりする構成とする。こうすることにより、廃熱増加の実施に際し、エンジン熱効率の低下を極力抑制することができ、ひいては燃費悪化を抑制することができる。
・上記第3の実施形態において、点火時期を最高効率時期(MBT又はその付近)よりも進角側に制御する進角余裕があるか否かを判定し、進角余裕があると判定される場合に、第2制御モードにおいて、バルブオーバーラップ量制御+点火進角制御による廃熱制御を実施する。これに対し、進角余裕が存在しないときには、第2制御モードにおいて、オーバーラップ量を増加側に変更し、かつ点火時期を、増加側に変更後のオーバーラップ量での最高効率時期よりも遅角側に変更する。
点火時期がMBTよりも遅角側では、点火時期を遅角側にするほど多くの廃熱量が発生する。また、本発明者らの知見によれば、点火時期がMBTよりも遅角側では、進角側の場合と同様に、オーバーラップ量が多いほど燃費良好になる。したがって、上記構成とすることにより、点火時期の進角余裕がない場合において、エンジン廃熱量を増加させることに伴うエンジン熱効率の低下を極力抑えることができる。
・点火時期をMBTに対して遅角側に変更するよりも進角側に変更した方が、エンジン廃熱量の増加に伴う燃費悪化が抑制される。その点に鑑み、点火時期の進角余裕に応じて廃熱制御を実施する構成において、進角余裕が存在しない場合には廃熱量の増加を実施しない構成としてもよい。換言すれば、熱利用要求があった場合、点火時期の進角余裕が存在する場合に限って第1制御モードから第2制御モードに切り替える構成とする。このときのモード切替は、エンジン運転状態が高負荷域から低負荷域に移行するタイミングで実施する。
・上記第3の実施形態について、第2制御モードにおいて、バルブオーバーラップ量制御+点火進角制御による廃熱制御ではエンジン廃熱量が不足する場合、すなわち点火時期を、それぞれのバルブオーバーラップ量に対応する最進角時期まで変更しても要求熱量に見合うエンジン廃熱量を得ることができない場合に、点火時期をMBTよりも遅角側にして廃熱制御を実施する。このとき、要求熱量を満足できない場合に、オーバーラップ量を増加側に変更し、かつ点火時期を、増加側に変更後のオーバーラップ量での最高効率時期よりも遅角側に変更する。この構成は、点火時期をMBTよりも遅角側にした場合に回収可能なエンジン廃熱量の最大値が、進角側にした場合の最大値よりも大きい場合に有効である。
・上記第3の実施形態において第2制御モードによる廃熱増加を実施する場合、最大オーバーラップ廃熱制御又は最進角廃熱制御により発生熱量を徐々に増加することにより、エンジン廃熱量を熱利用要求に見合う熱量(最終的に発生させるべき熱量)まで増加させる。すなわち、最大オーバーラップ量での点火時期特性(R1)、及び各オーバーラップ量に対応する最進角時期での点火時期特性(R2)を利用して、発熱量を徐々に増加させる。
・上記第3の実施形態における最大オーバーラップ廃熱制御では、オーバーラップ量を最大値VMAXとし、かつ点火時期を最高効率時期よりも進角側に変更することによりエンジン廃熱量を増加させる構成としたが、オーバーラップ量については、熱量増加前よりも増加側の値であれば最大値VMAXよりも小さくてもよい。
・上記第3の実施形態において、第2制御モードでは、最大オーバーラップ廃熱制御及び最進角廃熱制御によってエンジン廃熱量を増加させる構成としたが、最大オーバーラップ廃熱制御及び最進角廃熱制御のいずれかのみを実施することによりエンジン廃熱量を増加させる構成としてもよい。
・図10及び図11では、廃熱制御において、排気側バルブ駆動機構19によって排気バルブの開弁期間を制御することでバルブオーバーラップ量を変更することについて説明したが、バルブ駆動機構18によって吸気バルブの開弁期間を変更することでバルブオーバーラップ量を変更する構成としてもよい。あるいは、バルブ駆動機構18,19によって吸気バルブの開弁期間及び排気バルブの開弁期間を制御することでバルブオーバーラップ量を変更する構成としてもよい。